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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】アーク光検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20231110BHJP
   G01R 31/50 20200101ALI20231110BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20231110BHJP
   G01N 21/67 20060101ALI20231110BHJP
   H02B 3/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/50
G01R31/00
G01N21/67 A
H02B3/00 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019226043
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021096095
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳准
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 岳
(72)【発明者】
【氏名】岩本 啓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸夫
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-038235(JP,A)
【文献】特開2013-072835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/50
G01R 31/00
G01N 21/67
H02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象部位からの入射光を異なる二つの波長帯域の光に分離して抽出する波長抽出部と、
前記波長抽出部により抽出した二つの波長帯域の光を受光素子により二つの受光信号にそれぞれ変換する光検出部と、
前記光検出部から出力された二つの受光信号を処理して前記入射光がアーク光であるか外乱光であるかを判別する信号処理部と、
を備え、
前記信号処理部は、
前記二つの受光信号の強度に基づいて第1の判定信号を生成する第1の電流判定部と、前記二つの受光信号の強度の比率または差と少なくとも一つの受光信号の強度とに基づいて第2の判定信号を生成する第2の電流判定部と、を有し、前記第1の判定信号と前記第2の判定信号とを用いた論理演算により、前記入射光がアーク光であることを判別してアーク光検出信号を生成することを特徴とするアーク光検出装置。
【請求項2】
請求項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の電流判定部は、前記二つの受光信号の一方の第1の受光信号が第1の閾値を超え、かつ、前記二つの受光信号の他方の第2の受光信号が第2の閾値を超えた時に、前記第1の判定信号を生成することを特徴とするアーク光検出装置。
【請求項3】
請求項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の電流判定部は、前記二つの受光信号の一方の第1の受光信号の強度が第1の閾値を超えるか、または、前記二つの受光信号の他方の第2の受光信号の強度が第2の閾値を超えた時に、前記第1の判定信号を生成することを特徴とするアーク光検出装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載したアーク光検出装置において、
前記第2の電流判定部は、前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率または差が第3の閾値を超え、かつ、前記第1の受光信号または前記第2の受光信号の強度のうち何れか一方が第4の閾値を超えたときに、前記第2の判定信号を生成することを特徴とするアーク光検出装置。
【請求項5】
請求項2から4の何れか1項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の閾値が外乱光による前記第1の受光信号の強度より大きく、かつ、前記第2の閾値が外乱光による前記第2の受光信号の強度よりも大きいことを特徴とするアーク光検出装置。
【請求項6】
請求項2から5の何れか1項に記載したアーク光検出装置において、
小電流のアーク光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率が、外乱光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率よりも大きくなる前記アーク光の波長、または、小電流のアーク光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との差が、外乱光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との差よりも大きくなる前記アーク光の波長、を境界として、当該波長未満の帯域と当該波長以上の帯域とによって前記二つの波長帯域を構成したことを特徴とするアーク光検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば受配電盤等の電力設備の内部における短絡事故等により発生するアーク光を、その波長に基づいて検出するアーク光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
受配電盤等の電力設備の内部で短絡事故が起こると、数[kA]から大きいものでは100[kA]以上の電流が流れ、短絡点ではアーク(アークプラズマ)が発生する。このアークは、例えば20,000[℃]以上もの高温に達し、周囲の部材を溶融させる。
この種の短絡事故が起こった場合は、温度上昇のほか急激な圧力上昇も伴い、受配電盤内部や周囲に甚大な被害を及ぼす。このため、受配電盤内部でアーク故障が発生した場合の対策は重要である。
【0003】
従来、アークへの対策としては、短絡電流を検出して遮断器により事故点の電圧を遮断する内部アーク保護装置が利用されている。しかしながら、従来の内部アーク保護装置では、短絡電流を検出するまでに比較的長い動作時間を要するため、アーク故障からの被害を抑えるための十分な性能を有しているとは言えない。そこで、近年の内部アーク保護装置では、例えば受配電盤内でのアークによる発光、いわゆるアーク光を捉え、これに遮断器の動作を連動させることでアークによる被害の低減が図られている。
つまり、近年の内部アーク保護装置は、アーク光の検出から遮断器が始動するまでの動
作時間を数[msec]にて実現し、前述した従来方法による短絡電流検出から遮断器が始動するまでの数十[msec]等の動作時間と比べて、遙かに短い動作時間を実現している。
【0004】
しかしながら、アークの検出に当たり、光を発するものはアークとは限らないため、アーク光を太陽光や照明等の他の光(外乱光)と判別して検出する必要がある。
このため、例えば特許文献1,2には、アーク光を外乱光と判別して検出する各種の従来技術が開示されている。
【0005】
図6は、特許文献1に記載されたアーク閃光検出システムの構成図である。このアーク閃光検出システムでは、光源101からの光を、光ファイバケーブル102及び光結合器103を介して複数個所に配置された回析格子ファイバセンサ104,104,…,104に送り、各ファイバセンサ104,104,…104からの反射光を、光結合器103及び光スプリッタ105を介して電気信号に変換し、複数のプロセッサ106,106,…,106に送信する。
ここで、回析格子ファイバセンサ104,104,…,104は、それぞれの配置位置における温度や音、光等の各種の特性に応じて異なる波長の反射光を発生するため、プロセッサ106,106,…,106が各反射光に基づく電気信号から前記各種の特性を組み合わせて信号処理を行い、アーク光の有無や発生位置を検出してアーク光検出信号を生成している。
【0006】
また、図7は、特許文献2に記載された内部アーク保護装置の構成図である。この内部アーク保護装置では、配電盤200内部の複数箇所に光ファイバセンサ201,201,…,201を配置し、これらによる検出光を波長フィルタ202,203、フォトカプラ、アンプ等を介してコンパレータ204に入力して異なる波長成分の強度差を求め、更に、この強度差をコンパレータ205に入力して閾値と比較することにより、アーク300による光を外乱光と判別してアーク光検出信号を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5571782号公報(請求項1、[0028]、図8等)
【文献】特開2018-38235号公報([0034]~[0048]、図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載された従来技術では、各種の物理量や様々な位置の光を検出するために複数の光ファイバセンサが必要であり、装置が大型化するという問題がある。
また、アーク光は電流が大きくなるほどその強度が増大し、小電流と大電流とではアーク光の量にも大きな差があるので、アーク光を検出するための受光素子の出力電圧も電流の大小によって大きく異なる。このため、小電流によるアーク光を感度良く検出するためには出力電圧を所定の信号レベルに増幅する必要があるが、その増幅処理のもとでは、大電流によるアーク光が発生した場合に広範囲の波長帯域で信号レベルが飽和してしまい、閾値と比較する際に十分な強度差を得ることが困難になって検出不良の原因となる。
【0009】
そこで、本発明の解決課題は、装置の構成を簡略化すると共に、小電流から大電流に至る広範囲の故障電流により発生するアーク光を、外乱光と判別しつつ確実に検出可能とした高信頼性のアーク光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項に係る発明は、検査対象部位からの入射光を異なる二つの波長帯域の光に分離して抽出する波長抽出部と、
前記波長抽出部により抽出した二つの波長帯域の光を受光素子により二つの受光信号にそれぞれ変換する光検出部と、
前記光検出部から出力された二つの受光信号を処理して前記入射光がアーク光であるか外乱光であるかを判別する信号処理部と、
を備え、
前記信号処理部は、
前記二つの受光信号の強度に基づいて第1の判定信号を生成する第1の電流判定部と、前記二つの受光信号の強度の比率または差と少なくとも一つの受光信号の強度とに基づいて第2の判定信号を生成する第2の電流判定部と、を有し、前記第1の判定信号と前記第2の判定信号とを用いた論理演算により、前記入射光がアーク光であることを判別してアーク光検出信号を生成することを特徴とする。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の電流判定部は、前記二つの受光信号の一方の第1の受光信号が第1の閾値を超え、かつ、前記二つの受光信号の他方の第2の受光信号が第2の閾値を超えた時に、前記第1の判定信号を生成することを特徴とする。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の電流判定部は、前記二つの受光信号の一方の第1の受光信号の強度が第1の閾値を超えるか、または、前記二つの受光信号の他方の第2の受光信号の強度が第2の閾値を超えた時に、前記第1の判定信号を生成することを特徴とする。
【0014】
請求項に係る発明は、請求項2または3に記載したアーク光検出装置において、
前記第2の電流判定部は、前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率または差が第3の閾値を超え、かつ、前記第1の受光信号または前記第2の受光信号の強度のうち何れか一方が第4の閾値を超えたときに、前記第2の判定信号を生成することを特徴とする。
【0015】
請求項に係る発明は、請求項2から4の何れか1項に記載したアーク光検出装置において、
前記第1の閾値が外乱光による前記第1の受光信号の強度より大きく、かつ、前記第2の閾値が外乱光による前記第2の受光信号の強度よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項2から5の何れか1項に記載したアーク光検出装置において、
小電流のアーク光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率が、外乱光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との比率よりも大きくなる前記アーク光の波長、または、小電流のアーク光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との差が、外乱光による前記第1の受光信号の強度と前記第2の受光信号の強度との差よりも大きくなる前記アーク光の波長、を境界として、当該波長未満の帯域と当該波長以上の帯域とによって前記二つの波長帯域を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、検査対象部位から集光した光を複数の波長帯域に分離して受光信号に変換し、これらの受光信号に対して信号処理部が閾値判定等の処理を行う。これにより、装置全体の構成を簡略化して製造コストの低減を図ることができ、小電流から大電流に至る広範囲の故障電流によって発生するアーク光を、カメラフラッシュ等の外乱光と判別しながら高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るアーク光検出装置の構成図である。
図2】アーク光(小電流)、アーク光(大電流)及び外乱光(カメラフラッシュ)について、スペクトルを測定した結果の一例を示す図である。
図3】アーク光(小電流)、アーク光(大電流)及び外乱光(カメラフラッシュ)について、信号強度の一例を示す図である。
図4】アーク光(小電流)、アーク光(大電流)及び外乱光(カメラフラッシュ)について、図1の割算部により演算した信号強度の比率の一例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態(図5(a))及びその変形例(図5(b))に係るアーク光検出装置の主要部を示す構成図である。
図6】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
図7】特許文献2に記載された従来技術の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態に係るアーク光検出装置1の構成図である。
図1において、アーク光検出装置1は、例えば受配電盤の内部等の検査対象部位で発生したアークを検出するために設置されており、アーク光2を集める集光レンズ6と、集光レンズ6に接続された光ファイバケーブル7と、特定の複数の波長帯域の光を抽出する波長抽出部3と、抽出した各波長帯域の光を電気信号に変換する光検出部4と、光検出部4の出力信号からアーク発生の有無を判別し、アーク光検出信号を生成する信号処理部(判定部)5と、から構成されている。
【0020】
波長抽出部3において、光ファイバケーブル7から導入されたアーク光2はスプリッタ3cにより分離され、光学フィルタ3a,3bにより二つの波長帯域の光が抽出されて光検出部4内の第1,第2の受光素子4a,4bにそれぞれ送られる。第1,第2の受光素子4a,4bは、フォトダイオードや光電子増倍管(PMT)等、各種の部品によって構成されており、入射した光を電流、電圧に変換して適宜、増幅等を行い、受光強度に応じた大きさの電気信号に変換して信号処理部5に出力する。
【0021】
信号処理部5は、第1,第2の受光素子4a,4bの出力信号に対して、閾値判定等の処理を行い、カメラフラッシュ等の外乱光と判別しながらアーク光を検出してアーク光検出信号を生成する。このアーク光検出信号は、例えば、アーク発生の原因となった電流を遮断する遮断器を動作させ、あるいは、検査対象部位を流れる電流の制御方法の変更やアーク発生の原因を解析するために用いられる。
【0022】
次に、信号処理部5の構成について詳細に説明する。
信号処理部5は、第1,第2の受光素子4a,4bの出力信号が入力される第1の電流判定部10及び第2の電流判定部11と、これらの電流判定部10,11の出力信号(それぞれ、第1,第2の判定信号という)の論理和を求めるオアゲート12と、からなる。
【0023】
第1の電流判定部10は、第1の受光素子4aの出力信号(以下、第1の受光信号という)が第1の閾値(上限値)を超え、かつ、第2の受光素子4bの出力信号(以下、第2の受光信号という)が第2の閾値(上限値)を超えた時に、第1の判定信号として「High」レベルの信号を出力するアンドゲート10aを備えている。
また、第2の電流判定部11は、第1の受光信号と第2の受光信号との比率(第1の受光信号/第2の受光信号)、すなわちスペクトル比を算出する割算部11aを備え、このスペクトル比が第3の閾値を超え、かつ、第2の受光信号が第4の閾値(下限値)を超えた時に、第2の判定信号として「High」レベルの信号を出力するアンドゲート11bを備えている。
そして、上記アンドゲート10a,11bから出力される第1,第2の判定信号が前記オアゲート12に入力されている。
【0024】
通常、電力設備内の短絡事故等によって発生するアーク光は、短絡点の材質に応じた特有のスペクトルを持つ。特に、受配電盤内部において、短絡点となる部位には銅が使用されていることが多いため、アーク光の波長成分としては銅に起因したスペクトルが支配的となり、電流が大きいほど光強度も大きくなる。
【0025】
ここで、図2は、数[kA]の小電流によるアーク光、数十[kA]以上の大電流によるアーク光、及び、カメラフラッシュによる外乱光について、スペクトルを測定した結果の一例を示している。
図2から明らかなように、小電流によるアーク光は主に波長が550[nm]以下から紫外領域にかけて強い光強度を有し、550[nm]以上の領域では光強度が比較的小さい。また、大電流によるアーク光は、小電流によるアーク光を感度良く検出する増幅処理の元では、ほぼ300[nm]~600[nm]の波長領域で光強度が飽和状態となる。一方、強い光を発する外乱光として代表的なカメラフラッシュは、可視光領域の全体にわたって連続的な光強度を持つ。
全波長帯域の光量で比較すると、小電流によるアーク光はカメラフラッシュより小さい場合があり、誤検出を防ぐためにカメラフラッシュの強度以上に閾値を設定すると小電流のアーク光を検出できなくなる場合も生じる。
【0026】
上記の点から、本実施形態では、アーク光及び外乱光のスペクトルの違いに着目して両者を判別することとした。
この場合、小電流または大電流によるアーク光のみが存在する紫外領域(400[nm]以下)の波長を選択的に抽出して検出する方法も考えられるが、通常、紫外領域の光を扱う光学部品は高価である。例えば、紫外領域では光ファイバケーブルの材質にシリカ等が用いられているが、シリカ製のものは可視光用の一般的なプラスチック製ファイバケーブルに比べて高価であり、また、曲げ許容半径が大きいため、ケーブルの引き回し等の配置上の自由度が低く、装置全体が大型化しやすいという問題が生じる。
そこで、本実施形態においては、400[nm]以上の可視光領域から近赤外領域の光を扱うことで、光学部品ひいては装置全体の低コスト化を図り、配置の自由度や柔軟性を高めている。
【0027】
次に、本実施形態の動作を説明する。
集光レンズ6により捕捉され、光ファイバケーブル7を介して波長抽出部3に導入された光は、スプリッタ3cによりほぼ同じ光量レベルで分割され、これらの光は光学フィルタ3a,3bを通過して二つの特定の波長帯域に分割される。
ここで、第1の受光素子4aの前段に配置される光学フィルタ3aには、例えば525[nm]以下の波長の光を通過させるフィルタを用い、第2の受光素子4bの前段に配置される光学フィルタ3bには、525[nm]を超える波長の光を通過させるフィルタを用いる。これにより、第1,第2の受光素子4a,4bからは、各波長帯域に応じた強度の第1,第2の受光信号がそれぞれ出力されることとなる。
【0028】
信号処理部5において、第1の電流判定部10では、第1の受光信号が第1の閾値(上限値)を超え、かつ、第2の受光信号が第2の閾値(上限値)を超えた場合に、大電流によるアーク光が発生したと判断してアンドゲート10aから「High」レベルの信号(第1の判定信号)を出力する。すなわち、波長抽出部3に入射した光のうち、波長が525[nm]以下の光の強度が第1の閾値を超え、かつ、525[nm]を超える光の強度が第2の閾値を超えていることを検出する。
【0029】
また、第2の電流判定部11では、割算部11aにより第1,第2の受光信号の比率を算出し、この信号比率がスペクトル比に相当する第3の閾値を超えた場合に、アンドゲート11bの一方の入力端に向けて「High」レベルの信号(第2の判定信号)を出力する。
更に、光がほとんど検出されない場合には、第1,第2の受光信号は主に各素子の暗電流や回路に起因した不規則な信号(ノイズ)となり、割算部11aによる演算結果が不安定な値となる。特に、第1の受光素子4aと第2の受光素子4bとの関係で、分母に当たる第2の受光信号が小さくなった場合は、アーク光が存在しないにもかかわらず割算結果が過大となり、誤検出を生じる恐れがある。
そこで、第2の受光信号に対して下限判定用の第4の閾値(下限値)を予め設定しておき、第2の受光信号がこの第4の閾値を上回り、かつ、割算部11aによる演算結果が第3の閾値を上回った場合に、小電流によるアーク光が発生したと判断してアンドゲート11bから「High」レベルの信号を出力させる。
図示されていないが、第1の受光信号を下限判定用の第4の閾値と比較してその結果をアンドゲート11bに入力してもよい。
【0030】
オアゲート12には第1の判定信号と第2の判定信号とが入力されているので、大電流によるアーク光が発生した場合、または、小電流によるアーク光が発生した場合の何れについても、オアゲート12からアーク光検出信号を出力させることができる。
なお、集光レンズ6にカメラフラッシュ等の外乱光が入射した場合、前述の図2に示した如く、外乱光は400[nm]を超える波長帯域で広く分布しているが、アーク光は525[nm]以下の領域と525[nm]を超える領域とでは光強度が顕著に異なるため、第1~第3の閾値を適宜設定すれば、外乱光を大電流または小電流によるアーク光として誤検出するのを防止することが可能である。
なお、第1の受光信号の波長帯域と第2の受光信号の波長帯域との境界となる波長(例えば、前記の525[nm])を決定するに当たっては、小電流のアーク光による第1の受光信号の強度と第2の受光信号の強度との比率が、外乱光による第1の受光信号の強度と第2の受光信号の強度との比率よりも大きくなるアーク光の波長、または、小電流のアーク光による第1の受光信号の強度と第2の受光信号の強度との差が、外乱光による第1の受光信号の強度と第2の受光信号の強度との差よりも大きくなるようなアーク光の波長を選択することが望ましく、その波長を境界として、当該波長未満の帯域と当該波長以上の帯域とによって上記二つの波長帯域を構成すればよい。
【0031】
次に、具体例を挙げて、本実施形態によるアーク光検出動作につき説明する。
この具体例は、集光レンズ6に1[kA]程度の小電流のアーク光、40[kA]程度の大電流のアーク光、及び、強い外乱光であるカメラフラッシュを入射させた場合のものである。
【0032】
前述したように、アーク光は、受配電設備の健全状態における定格電流レベルの数[kA]の電流から、低インピーダンスで短絡事故が起こった場合のように、大きいものでは100[kA]以上の電流が流れた場合に発生する。
このため、図2に示した小電流によるアーク光を高感度で検出できるように閾値を設定すると、大電流によるアーク光ではほとんどの波長帯域で信号強度が飽和してしまい、第1の受光信号と第2の受光信号との差が小さくなる。この場合、割算部11aによる演算結果が小さくなり、図4の信号比から明らかなように、大電流によるアーク光と外乱光との判別が困難になる。
【0033】
そこで、第1の受光信号及び第2の受光信号が外乱光による光強度を超えた状態を判断する上限値として、第1の閾値及び第2の閾値をそれぞれ設定し、図3に示すように、第1の受光信号の強度が第1の閾値を超え、かつ、第2の受光信号の強度が第2の閾値を超えた場合に、大電流によるアーク光が検出されたと判断する。
なお、図3には、外乱光(カメラフラッシュ)が入射した場合の第1,第2の受光信号強度、及び、小電流によるアーク光が入射した場合の第1,第2の受光信号強度も併せて例示してある。
【0034】
前述したように、大電流によるアーク光と外乱光とは光強度が顕著に異なるため、第1,第2の閾値を図示するような適宜な値に設定することで、アンドゲート10aから「High」レベルまたは「Low」レベルの信号を出力させ、これによって大電流によるアーク光と外乱光とを判別することができる。
ここで、図3では、第1の閾値と第2の閾値とを同じ値としているが、外乱光の信号強度の最大値よりも大きい範囲内であれば、第1の閾値と第2の閾値とを異なる値に設定しても良い。
第1の閾値及び第2の閾値を設定するに当たっては、集光レンズ6にカメラフラッシュや太陽光等の外乱光が入射したときの第1,第2の受光信号の強度を予め予測しておき、これらの受光信号強度の最大値より大きい値に第1の閾値及び第2の閾値を設定する等の方法が有効である。
【0035】
また、信号強度が飽和しないような小電流によるアーク光については、図3に示す如く、第1,第2の受光信号の強度差が大きいため、割算部11aにより演算される強度比率も図4のように大きくなる。
従って、第3の閾値を適切に設定すれば、小電流によるアーク光を外乱光と誤検出する心配もない。
なお、図示されていないが、割算部11aに代えて、第1の受光信号と第2の受光信号との差を求める差演算部を設け、両受光信号の強度差を第3の閾値と比較するようにしても良い。
【0036】
次いで、図5(a)は本発明の第2実施形態に係るアーク光検出装置の主要部を示す構成図であり、図5(b)はその変形例を示している。これらの図において、図1と同一の部分には同一の符号を付してあり、以下では図1と異なる部分を中心に説明する。
【0037】
図5(a)に示す第2実施形態では、信号処理部5Cの構成が図1の信号処理部5と異なっている。すなわち、図5(a)の信号処理部5Cにおける第1の電流判定部10Cは、第1の受光信号が第1の閾値を超えるか、または、第2の受光信号が第2の閾値を超えた場合に「High」レベルの信号を第1の判定信号として出力するオアゲート10bを備え、この第1の判定信号がオアゲート12の一方の入力端子に加えられている。なお、第2の電流判定部11の構成は図1と同様である。
更に、信号処理部5Cの前段の光検出部4の構成も図1と同様であり、第1,第2の受光素子4a,4bにより、例えば波長が525[nm]以下の領域の光と525[nm]を超える領域の光とをそれぞれ受光して電気信号に変換する。
【0038】
この第2実施形態においては、第1の電流判定部10Cのオアゲート10bから、第2の受光信号が第2の閾値を超えた場合に「High」レベルの信号(大電流判定信号)が出力されるほか、第1の受光信号が第1の閾値を超えた場合にも「High」レベルの信号(小電流判定信号)が出力される。また、第2の電流判定部11からは、図1と同様に小電流によるアーク光の発生時に「High」レベルの信号が出力される。
このため、オアゲート12から、大電流または小電流によるアーク光検出信号を出力させることができる。
【0039】
また、第1の電流判定部10Cにおける第1,第2の閾値をそれぞれ適宜な値に設定すれば、第1の電流判定部10Cから大電流によるアーク光のみの判別信号を出力させることができると共に、第2の電流判定部11によって小電流によるアーク光のみを判別し、結果として、オアゲート12からは外乱光を除いた大電流または小電流によるアーク光検出信号を出力させることができる。
【0040】
なお、図3に示したように、第1の電流判定部10Cにおける第1の閾値、第2の閾値が等しい場合には、図5(b)の信号処理部5Dに示すように第1の電流判定部10Dを構成すれば、実質的に図5(a)と同様の構成となる。すなわち、第1,第2の受光信号の何れかが第1の閾値を超えた場合に第1の電流判定部10Dから「High」レベルの信号を出力させ、第2の電流判定部11の出力信号と共にオアゲート12に入力すれば良い。
【0041】
以上説明したように、各実施形態によれば、比較的簡単な構成により、小電流から大電流に至る広範囲の故障電流に起因したアーク光を外乱光と判別しながら検出することができ、信頼性の高いアーク光検出装置を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1:アーク光検出装置
2:アーク光
3:波長抽出部
3a,3b:光学フィルタ
4:光検出部
4a:第1の受光素子
4b:第2の受光素子
5,5C,5D:信号処理部(判定部)
6:集光レンズ
7:光ファイバケーブル
10,10C,10D:第1の電流判定部
10a,11b:アンドゲート
10b,12:オアゲート
11:第2の電流判定部
11a:割算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7