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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】磁気センサ及び磁気検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20231110BHJP
   G01R 33/07 20060101ALI20231110BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20231110BHJP
   H01L 23/50 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G01R33/02 U
G01R33/07
G01R33/09
H01L23/50 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020032144
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021135196
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上村 紘崇
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 敦史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴博
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-134083(JP,A)
【文献】特開2018-189609(JP,A)
【文献】特開2018-112537(JP,A)
【文献】特開2017-111097(JP,A)
【文献】特開2013-096789(JP,A)
【文献】特表2017-510056(JP,A)
【文献】特表2013-513104(JP,A)
【文献】特開平04-331373(JP,A)
【文献】特開2011-112510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
H01L 23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、
前記半導体装置を支持する導電性基体と、を有し、
前記導電性基体は、平板状であって、
平面視した場合に、前記磁気検出素子と重なる位置に配置され、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させる第1の領域と、
前記第1の領域と離間して配置され、前記被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第2の磁界を発生させる第2の領域と、を備え
前記第1の領域と前記第2の領域との間に、切欠き及びスリットの少なくともいずれかが設けられており、前記第1の領域の面積が前記第2の領域の面積よりも狭いことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記磁気検出素子が指向性を有し、
前記磁気検出素子の位置から、前記磁気検出素子の最も感度が大きい感磁方向に前記第1の領域が配置されており、
前記磁気検出素子の位置から、前記感磁方向には前記第2の領域が配置されていないことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気検出素子は、ホール素子、磁気抵抗素子、及び磁気インピーダンス素子のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
平面視した場合に、前記第1の領域において前記磁気検出素子と重なる位置に貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記導電性基体を平面視した場合に、前記導電性基体の形状が線対称であり、かつ前記線対称の対称軸上に前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記導電性基体を平面視した場合に、前記導電性基体の形状が点対称であり、かつ前記点対称の中心点上に前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項7】
磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、
前記半導体装置を支持する導電性基体と、を有し、
前記導電性基体は、平板状であって、
平面視した場合に、前記磁気検出素子と重なる位置に配置されている第1の領域と、
前記第1の領域と離間して配置されている第2の領域と、
を備え、前記第1の領域と前記第2の領域との間に、切欠き及びスリットの少なくともいずれかが設けられており、前記第1の領域の面積が前記第2の領域の面積よりも狭い磁気センサによる磁気検出方法であって、
前記第1の領域において、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させ、
前記第2の領域において、前記被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第2の磁界を発生させる、ことを特徴とする磁気検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ及び磁気検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホール素子などの指向性を有する磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置(半導体チップ)を、導電性のリードフレームで支持してこれらを覆うように樹脂封止されている磁気センサが数多く開発されている。
【0003】
このような構造の磁気センサでは、被測定磁界の強さや印加方向が変化する場合、リードフレームでは被測定磁界の強さや変化速度に応じた大きさで被測定磁界を打ち消す方向の磁界を発生させる渦電流が生じるため、被測定磁界に対する過渡応答特性が悪化するという問題がある。
これに対し、例えば、磁気検出素子の近傍にリードフレームが存在しないように、リードフレームに切欠きを設けている構造を有する磁気センサが開示されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-544149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一つの側面では、被測定磁界に対する過渡応答特性を向上させることができる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの実施形態では、磁気センサは、
磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、
前記半導体装置を支持する導電性基体と、を有し、
前記導電性基体は、
前記磁気検出素子の近傍に配置され、前記被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させる第1の領域と、
前記第1の領域と離間して配置され、前記被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、前記第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界を発生させる第2の領域と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、被測定磁界に対する過渡応答特性を向上させることができる磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過上面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過側面図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいてダイパッドで生じる渦電流の流れを示す説明図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいて第1の領域で発生する磁界を示す透過側面図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいて第2の領域で発生する磁界を示す透過側面図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいてダイパッドの各領域で生じた渦電流による磁界を示す説明図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る磁気センサの解析モデルを示す説明図である。
図9図9は、従来の磁気センサの解析モデルを示す説明図である。
図10図10は、図8及び図9で示した各解析モデルによる過渡応答特性の算出結果を示すグラフである。
図11図11は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過側面図である。
図12図12は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいて半導体チップを薄くして低背化した際の透過側面図である。
図13図13は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいて半導体チップを低背化した際の磁気検出素子に印加される磁界を示す説明図である。
図14図14は、第1の実施形態に係る磁気センサの変形例1を示す透過上面図である。
図15図15は、第1の実施形態に係る磁気センサの変形例2を示す透過上面図である。
図16図16は、第2の実施形態に係る磁気センサを示す透過上面図である。
図17図17は、第2の実施形態に係る磁気センサの透過側面図である。
図18図18は、図17のA-A断面において生ずる渦電流密度の算出結果を示すグラフである。
図19図19は、図17のA-A断面において生ずる渦電流による磁界の算出結果を示すグラフである。
図20図20は、第2の実施形態に係る磁気センサの変形例1を示す透過上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る磁気センサは、磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、半導体装置を支持する導電性基体と、を有する。この導電性基体は、磁気検出素子の近傍に配置され、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させる第1の領域と、第1の領域と離間して配置され、被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界を発生させる第2の領域と、を備える。
【0010】
なお、導電性基体の領域が離間するとは、一の領域において生じた渦電流が別の領域に流れ込まない程度に独立した領域を形成していることを意味する。
また、第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界とは、磁気検出素子が配置されている位置において第1の磁界の影響を抑制する磁界を意味する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る磁気センサは、以下の知見に基づくものである。
【0012】
リードフレームに被測定磁界が印加されると、被測定磁界の強さや変化速度に応じて渦電流が生じる。そして、リードフレームで生じた渦電流は、被測定磁界の印加方向とは逆の方向に磁界を発生させる。
この点、特許文献1に記載されている従来の磁気センサは、リードフレームが中央に位置する切欠きで2つに分断されており、切欠きの上方にはホール素子が配置されている。このため、切欠きの下方から被測定磁界が磁界センサ全体に印加される場合には、この磁気センサでは、切欠きを通り抜ける被測定磁界自体についてはリードフレームで渦電流を生じることがないため、精度良く検出することができる。
しかしながら、切欠きで分断されたリードフレームに被測定磁界が印加されると、分断されたリードフレームでそれぞれ生じた渦電流による磁界が被測定磁界に対し強め合う方向で磁気検出素子にそれぞれ加えられてしまうため、磁気センサの出力にオーバーシュートが発生しやすくなり、過渡応答特性が悪化してしまうという問題があった。なお、詳細については、後述する図8図10で示す各解析モデルによる過渡応答特性の算出結果を参照しながら説明する。
【0013】
そこで、本発明の一実施形態に係る磁気センサは、磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置を支持する導電性基体に、第1の領域と、第2の領域と、を備えている。第1の領域は、磁気検出素子の近傍に配置され、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させる。第2の領域は、第1の領域と離間して配置され、被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界を発生させる。
これにより、本発明の一実施形態に係る磁気センサは、被測定磁界が印加されると、第1の領域において被測定磁界の向きとは逆の向きに発生する第1の磁界を、第2の領域で発生させる第2の磁界で打ち消すようにするため、過渡応答特性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係る磁気検出方法は、磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、半導体装置を支持する導電性基体と、を有し、導電性基体は、磁気検出素子の近傍に配置されている第1の領域と、第1の領域と離間して配置されている第2の領域と、を備えている磁気センサによる磁気検出方法であって、第1の領域において、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させ、第2の領域において、被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界を発生させる。
これにより、本発明の一実施形態に係る磁気検出方法は、本発明の一実施形態に係る磁気センサと同様に、被測定磁界に対する過渡応答特性を向上させることができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る磁気検出方法は、本発明の一実施形態に係る磁気センサにより好適に行うことができることから、以下では、本発明の一実施形態に係る磁気検出方法については、本発明の一実施形態に係る磁気センサの動作に沿って説明する。
【0016】
次に、本発明の磁気センサの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施形態において例示される各構成要素の寸法、材質、形状、当該各構成要素の相対配置などは、本発明が適用される装置の構成、各種条件等により適宜変更されてもよい。
【0017】
各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
また、図面において、X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交する。X方向と、当該X方向の反対の方向(-X方向)とを含む方向を「X軸方向」といい、Y方向と、当該Y方向の反対の方向(-Y方向)とを含む方向を「Y軸方向」といい、Z方向と、当該Z方向の反対の方向(-Z方向)とを含む方向を「Z軸方向」(高さ方向、厚さ方向)という。
さらに、X軸方向及びY軸方向を含む平面を「XY面」といい、X軸方向及びZ軸方向を含む平面を「XZ面」といい、Y軸方向及びZ軸方向を含む平面を「YZ面」という。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過斜視図である。
図1に示すように、磁気センサ100は、リードフレーム110と、ホールIC(Integrated Circuit)120と、封止樹脂130とを有する。
【0019】
リードフレーム110は、中央に配置されているダイパッド111と、ダイパッド111の周りに配置されている複数のリード112と、を備えている。このリードフレーム110は、厚みが130μm程度のCu合金の薄板をプレス加工などしたものである。
導電性基体としてのダイパッド111は、ホールIC120を導電性接着剤140で固着させて支持するため、ホールIC120を固着させる箇所は平板状である。
【0020】
ホールIC120は、厚みが150μmの半導体基板上に、磁気検出素子としてのホール素子121が表面の中央近傍に形成されているチップ状の半導体装置である。ホールIC120は、ホール素子121を動作させるための回路を備えており、ホール素子121により検出した被測定磁界の強さに応じた電圧を出力する。
また、ホールIC120には、複数のボンディングパッドが表面に形成されている。この複数のボンディングパッドは、ワイヤーボンディングによりAuワイヤー150を介して複数のリード112と電気的にそれぞれ接続されている。
【0021】
封止樹脂130は、具体的には絶縁性のエポキシ樹脂などであり、ダイパッド111、リード112の一部、ホールIC120、及びAuワイヤー150を覆うように硬化されている。また、封止樹脂130に覆われていないリード112の部分は、アウターリードとして磁気センサ100の電源端子、GND端子、出力端子、機能切換え端子などとして用いられる。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過上面図である。図2では、主にダイパッド111と、ホールIC120の表面に配置されているホール素子121との位置関係を示す。図2中破線は、ダイパッド111に搭載されたホールIC120の輪郭を示す。
図2に示すように、ダイパッド111は、2つの切欠きにより、中央の第1の領域111aとその両端の第2の領域111b,111cとに離間され分断されている。また、第1の領域111aの面積は、第2の領域111b,111cの面積よりも狭い。
ホールIC120は、ホール素子121が第1の領域111aの中央に位置するように搭載される。つまり、ダイパッド111は、平面視した場合に、ダイパッド111の形状が線対称であり、かつ線対称の対称軸上にホール素子121が配置されている。
【0023】
図3は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過側面図であり、図2で示したダイパッド111及びホールIC120を+Y軸方向に向かって見たときの図である。
図3に示すように、第1の領域111aの中央の+Z軸方向にホール素子121が位置するように、ホールIC120がダイパッド111の上に搭載されている。また、ホール素子121の検出感度が最も高い方向である感磁方向sは、+Z軸方向である。すなわち、ホール素子121が指向性を有し、ホール素子121の位置から、ホール素子121の最も感度が大きい感磁方向に第1の領域111aが配置されており、ホール素子121の位置から、感磁方向には第2の領域111b,111cが配置されていない。
ここで、ダイパッド111及びホールIC120に対し+Z軸方向に被測定磁界Hが一様に印加されたとすると、ダイパッド111の第1の領域111a及び第2の領域111b,111cには、図4のように渦電流が生じる。
【0024】
図4は、第1の実施形態に係る磁気センサにおいてダイパッドで生じる渦電流の流れを示す説明図である。
図4に示すように、+Z軸方向に被測定磁界Hが一様に印加されると、中央の第1の領域111aには、その幅W1に応じた大きさの渦電流iが生じ、渦電流iによる磁界が-Z軸方向に発生する。また、その両側の第2の領域111b,111cには、その幅W2に応じた大きさの渦電流i,iがそれぞれ生じ、渦電流i,iによる磁界が-Z軸方向にそれぞれ発生する。
なお、第1の領域111a及び第2の領域111b,111cは、2つの切欠きにより離間されているため、各領域で生じた渦電流がそれぞれ流れ込まないようになっている。
【0025】
すると、図5に示すように、第1の領域111aで生じた渦電流iにより、第1の磁界hがホール素子121に-Z軸方向で印加される。また、図6に示すように、第2の領域111b,111cでそれぞれ生じた渦電流i,iにより、渦電流i,iの磁界に沿った方向にそれぞれ磁界h,hが発生し、その合成磁界である第2の磁界h+hがホール素子121に+Z軸方向で印加される。
なお、第1の領域111aの面積が第2の領域111b,111cの面積よりも狭いため、第1の領域111aによる渦電流iによる磁界よりも、第2の領域111b,111cによる合成磁界のほうが強くなるが、ホール素子121との位置関係によりホール素子121の位置においては磁界の強さを同等にしやすく、打ち消すことを容易にすることができる。
また、本実施形態では、磁気検出素子がホール素子121であるため、ホール素子121の設置位置において、第1の磁界hのZ軸方向成分を第2の磁界h+hのZ軸方向成分で打ち消すようにすれば足りる。また、磁気検出素子が指向性のないものであれば、磁気検出素子の位置において、第1の磁界hに対して逆の向きで同じ強さの第2の磁界h+hにより打ち消すようにする。
【0026】
本実施形態では、図7に示すように、被測定磁界Hが印加されると、ホール素子121の位置において、第1の領域111aで被測定磁界Hの向きとは逆の向きに発生する第1の磁界hを、第2の領域111b,111cで発生させる第2の磁界h+hで打ち消すようにするため、過渡応答特性を向上させることができる。
また、ダイパッド111を平面視した場合に、ダイパッド111の形状が線対称であり、かつその線対称の対称軸上にホール素子121の中心が位置するように配置されていると、第1の磁界hがホール素子121に対し-Z軸方向成分のみとなり、合成磁界である第2の磁界h+hがホール素子121に対し+Z軸方向成分のみとなる。このため、ホール素子121の位置において、第1の磁界hを第2の磁界h+hで打ち消すようにする設計が容易になる点で有利である。
【0027】
なお、第1の磁界を打ち消す強さに第2の磁界の強さを調整する方法としては、例えば、各領域の面積や厚さ、第1の領域と第2の領域との距離などを市販されている数値シミュレーションなどで求めた結果に基づき調整する方法が挙げられる。
【0028】
[数値シミュレーション]
次に、有限要素法を用いた数値シミュレーションで算出した結果について、図8図10を参照しながら説明する。
【0029】
図8は、第1の実施形態に係る磁気センサの解析モデルを示す説明図であり、実施例としてのダイパッドの解析モデルを示す。
ダイパッドの解析モデルとしては、平面視した外形が2つの切欠きを設けた長方形であり、各寸法を以下のようにそれぞれ設定し、厚みを130μm、体積抵抗率を0.023μΩmとした。
L :1,700μm(ダイパッドにおける一辺の寸法)
L1: 200μm(第1の領域と第2の領域とを接続する部分の幅)
W :2,150μm(ダイパッドにおける別の一辺の寸法)
W1: 300μm(第1の領域に該当する部分の一辺の寸法)
W2: 675μm(第2の領域に該当する各部分の一辺の寸法)
W3: 250μm(第1の領域と第2の領域との間隙の寸法)
なお、磁界の強さを算出するプローブ位置(ホール素子が配置される位置に該当)をダイパッドの中心の表面から150μm上方に設定した。
【0030】
図9は、従来の磁気センサの解析モデルを示す説明図であり、比較例としての解析モデルを示す。
比較例としての解析モデルは、実施例において、第1の領域と第2の領域とを接続する部分を残して第1の領域に該当する部分を除去した以外は、実施例と同様の解析モデルである。このため、第2の領域に該当する各部分間の間隙の寸法であるW4は、次式、W-W2×2、で求めることができ、800μmである。
【0031】
図10は、図8及び図9で示した解析モデルを用いた過渡応答特性の算出結果を示すグラフであり、縦軸がホール素子の位置における磁界の強さ(任意単位、Arbitrary Unit:a.u.)であり、横軸が時間(μsec)である。図10では、各解析モデルに印加する被測定磁界を破線で、実施例の算出結果を太線で、比較例の算出結果を細線で示す。なお、被測定磁界の印加方向は、+Z軸方向とした。
【0032】
図10に示すように、実施例におけるプローブ位置での磁界の強さは、直流磁界の被測定磁界の立ち上がり時間である1μsec以降でオーバーシュートが比較的小さくなっており、被測定磁界に追随していることがわかる。
これは、図7で示したように、第2の磁界h+hで第1の磁界hを打ち消すようにすることにより、被測定磁界Hに対する過渡応答特性を向上させることができたと考えられる。
【0033】
図10に戻り、比較例におけるプローブ位置での磁界の強さは、1μsec以降で大きいオーバーシュートが発生しており、被測定磁界に追随していないことがわかる。
これは、図7において第2の磁界h+hのみが発生し、この第2の磁界h+hが被測定磁界Hに対し強め合う方向で重畳してしまうため、出力にオーバーシュートが発生し、被測定磁界Hに対する過渡応答特性が悪化したと考えられる。
【0034】
[低背化対応について]
次に、磁気センサが、導体に流れる電流を検出する電流検出器として用いられる場合を考える。このような場合には、磁気センサは、導体を覆う円柱状の開磁路コアの間隙に入れ込まれ、導体に電流が流れることにより発生する磁界を測定して電流検出器として機能させる。このため、開磁路コアの間隙は狭いほうが磁束の漏れが少なくなり、電流により発生する磁界をより正確に測定できることから、磁気センサは低背であることが求められている。
この点についても、特許文献1に記載されている従来の磁気センサでは、低背にするために半導体チップを薄くすると、半導体チップの表面に形成されているホール素子がリードフレームに近づいてしまい、渦電流により発生する磁界を最も感度が大きい方向で検出してしまうため、オーバーシュートが更に増大してしまうという問題があった。具体的に、以下にように説明する。
【0035】
図11は、第1の実施形態に係る磁気センサを示す透過側面図であり、図1を+X軸方向に向かって見たときの図である。
図11に示すようにホールIC120の厚さをtとすると、低背化のためにホールIC120の厚さをバックグラインド量など調整してt/2に薄くすると、図12に示すようになる。このとき、図13に示すように、第1の磁界hは、ホール素子121が第1の領域111aに近づくため、ホールIC120の厚さがtのときよりも強くなる。また、第2の磁界h+hは、ホール素子121が第2の領域111b,111cに近づくと、ホールIC120の厚さがtのときよりも、磁界h,hの+Z軸方向成分がそれぞれ大きくなるため強くなる。
このため、磁気センサ100は、低背化のためにホールIC120を薄くしても、第1の磁界h及び第2の磁界h+hがともに強くなるため、第1の磁界hを第2の磁界h+hで打ち消すことは、リードフレームの寸法の調整などにより容易に行うことができる。
【0036】
一方、特許文献1に記載されている従来の磁気センサでは、ホールIC120の厚さをt/2にすると、強まった第2の磁界h+hのみが発生するため、ホールIC120の厚さがtのときよりも大きいオーバーシュートが発生し、被測定磁界Hに対する過渡応答特性が更に悪化してしまう。さらに、過渡応答特性の悪化を回避するために、図9で示した各部分間の間隙の寸法であるW4を広くすると、リードフレームの剛性や、半導体基板とリードフレームの接着面積の減少により信頼性を低下させてしまう。
したがって、磁気センサ100は、低背化のためにホールIC120を薄くしても、過渡応答特性が更に悪化してしまう、あるいはこれを回避するために信頼性を低下させてしまう従来の磁気センサとは異なり、信頼性を低下させることなく過渡応答特性を向上させることができる。
【0037】
(第1の実施形態の変形例1)
図14は、第1の実施形態に係る磁気センサの変形例1を示す透過上面図である。
図14に示すように、この変形例1における平面視したときのダイパッド113は、形状を2つの切欠きの向きを揃えたものではなく、2つの切欠きの向きを揃えないようにして、第1の領域113aと、第2の領域113b,113cとを分離させている。すなわち、ダイパッド111を平面視した場合に、ダイパッド111の形状が点対称であり、かつその点対称の中心点上にホール素子121の中心が位置するように配置されていると、上記の実施形態と同様に、第1の磁界hがホール素子121に対し-Z軸方向成分のみとなり、合成磁界である第2の磁界h+hがホール素子121に対し+Z軸方向成分のみとなる。このため、ホール素子121の位置において、第1の磁界hを第2の磁界h+hで打ち消すようにする設計が容易になる点で有利である。
【0038】
(第1の実施形態の変形例2)
図15は、第1の実施形態に係る磁気センサの変形例2を示す透過上面図である。
平面視したときのダイパッドの形状としては、線対称でないものでもよく、例えば、図15に示すように、ホール素子121がホールIC120の中心から+X軸方向側に偏った位置にする場合を考える。このような場合には、ダイパッド115は、1つの切欠きで第1の領域115aと第2の領域115bとに離間し、ホールIC120が第1の領域115aの中心に位置するようにホールIC120をダイパッド115に搭載する。このとき、被測定磁界が+Z軸方向に印加されると、ホール素子121の位置において、第1の領域115aで発生した被測定磁界の向きとは逆の向きに発生する第1の磁界を、1つの第2の領域115bで発生した第2の磁界で打ち消すことができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、仮にダイパッドに対しホールICの搭載位置がばらつくとホール素子の位置がばらつき、その位置における第1の磁界及び第2の磁界の強さが変化してしまうため、第1の磁界を精度良く打ち消すことが困難になる場合がある。
そこで、第2の実施形態では、図16及び図17に示すように、第1の実施形態において、ダイパッド116の第1の領域116aにおいてホール素子121から最も近い箇所を含むように貫通孔Pを設けるようにした。
これにより、貫通孔Pを設けた箇所で渦電流密度を0にすることができるため、渦電流により発生する磁界の強度のピークを抑制して平坦にすることができる。
【0040】
したがって、第2の実施形態の磁気センサは、ホール素子の近傍の第1の領域に貫通孔を設けることにより、第1の領域で渦電流により発生する磁界の強度分布のピークを平坦にすることができる。このため、第2の実施形態の磁気センサは、ダイパッドに対しホールICを搭載する位置にばらつきがあっても、ホール素子が受ける渦電流による磁界の変化が大きくならないため、過渡応答特性がばらつきにくくすることができる。
具体的には、以下のように数値シミュレーションの結果を用いて説明する。
【0041】
図18は、図17のA-A線の第1の領域において生ずる渦電流密度の算出結果を示すグラフであり、2次元の有限要素法を用いた数値シミュレーションによるものである。また、図18は、縦軸が渦電流密度(任意単位、Arbitrary Unit:a.u.)であり、横軸が第1の領域の中心を0としたX軸方向の位置(μm)である。図18では、第2の実施形態に係る図17のダイパッドを用いた解析モデルでの算出結果を太線で示し、比較のための第1の実施形態に係る図3に示したダイパッドを用いた解析モデルでの算出結果を細線で示す。なお、第1の領域の幅はいずれも-300μmから+300μmとし、第2の実施形態でダイパッドに設ける貫通孔の幅は-200μmから+200μmとした。
【0042】
図18に示すように、貫通孔が設けられていない図3のダイパッドでは、X軸が-300μmの位置では渦電流密度が負の値であり、+300μmの位置では渦電流密度が正の値である。これは、-300μmの位置における渦電流の向きは、+300μmの位置における渦電流の向きと逆向きとなっていることを示している。-300μmの位置から+300μmの位置までの間は渦電流密度が線形に高くなっていることがわかる。
貫通孔が設けられている図17のダイパッドでは、貫通孔が設けられているところ、即ち-200μmの位置から+200μmの位置までの間は渦電流密度が0になっていることがわかる。
【0043】
図19は、図17のA-A線の第1の領域において生ずる渦電流による磁界の算出結果を示すグラフであり、図18における縦軸の「渦電流密度」を「渦電流による磁界の強さ」にして算出した結果である。図19では、図18と同様に、第2の実施形態に係る図17のダイパッドを用いた解析モデルでの算出結果を太線で示し、比較のための第1の実施形態に係る図3に示したダイパッドを用いた解析モデルでの算出結果を細線で示す。また、第2の実施形態でダイパッドに設ける貫通孔の設定値も図18と同様とした。
【0044】
図19に示すように、貫通孔が設けられていない図3のダイパッドよりも、貫通孔が設けられている図17のダイパッドのほうが、X軸が0μm近傍の位置で渦電流による磁界が弱くなることがわかる。これは、図18で示したように、図17のダイパッドでは、-200μmの位置から+200μmの位置までの貫通孔が設けられているところは渦電流密度が0になっているためであると考えられる。このため、貫通孔が設けられていない図3のダイパッドよりも、貫通孔が設けられている図17のダイパッドのほうが、0μm近傍の位置で磁界の変化が抑えられており平坦な特性となっていることがわかる。
【0045】
したがって、図18及び図19に示したように、ダイパッドに貫通孔を設けた箇所で渦電流密度を0にすることができるため、渦電流により発生する磁界の強度のピークを抑制して平坦にすることができる。これにより、第2の実施形態の磁気センサは、ダイパッドにホールICを搭載する位置にばらつきがあっても渦電流による磁界の変化を抑制でき、過渡応答特性がばらつきにくくなる。
【0046】
(第2の実施形態の変形例1)
図20は、第2の実施形態に係る磁気センサの変形例1を示す透過上面図である。
図20で示すダイパッド117は、図14で示した第1の実施形態に係る磁気センサの変形例1のダイパッド113に貫通孔Pを設けたものである。
【0047】
なお、第2の実施形態の各例では第1の領域に設ける貫通孔の形状を長方形としたが、これに限ることはない。また、貫通孔の構造及び大きさについても、目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る磁気センサは、磁気検出素子が表面に形成されている半導体装置と、半導体装置を支持する導電性基体と、を有し、導電性基体は、磁気検出素子の近傍に配置され、被測定磁界が印加されると生じる第1の渦電流により、第1の磁界を発生させる第1の領域と、第1の領域と離間して配置され、被測定磁界が印加されると生じる第2の渦電流により、第1の磁界を打ち消す強さの第2の磁界を発生させる第2の領域と、を備える。
これにより、本発明の一実施形態に係る磁気センサは、被測定磁界に対する過渡応答特性を向上させることができる。
【0049】
なお、上記の各実施形態では、磁気検出素子としてホール素子を用いたが、これに限ることなく、例えば、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス素子などとしてもよく、全方位の磁気を検出できる素子などとしてもよい。ホールICの厚みやダイパッドの厚みとしては、上記の各実施形態に限ることなく、適宜選択することができる。
また、上記の各実施形態では、第1の領域と第2の領域とを離間するために導電性基体であるダイパッドに一端側から切欠きを設けたが、これに限ることはない。各領域間の渦電流の流れを制御できるように、例えば、両端側からの切欠きや、1又は2以上のスリット(平面視において細長くみえる貫通孔)、溝、貫通していない穴などを設けてもよく、完全に分離させてもよい。
さらに、上記の各実施形態では、ダイパッドの材質をCu合金として説明したが、磁界を印加すると渦電流が生じる材質であれば、これに限ることはない。
またさらに、上記の各実施形態では、平面視したときにホールICが第1の領域の中心に位置するようにホールICをダイパッドに搭載するようにしたが、ホールICの位置における渦電流による磁界を打ち消すことができれば、これに限ることはない。つまり、上記の各実施形態に限らず、導電性基体の第1の領域及び第2の領域の形状、構造、大きさ及び材質を適宜選択し、磁気検出素子の位置における渦電流による磁界を打ち消すことができればよい。
【符号の説明】
【0050】
100 磁気センサ
110 リードフレーム
111,113~118 ダイパッド(導電性基体)
111a 第1の領域
111b,111c 第2の領域
112 リード
120 ホールIC(半導体装置)
121 ホール素子(磁気検出素子)
130 封止樹脂
140 導電性接着剤
150 Auワイヤー
(第1の領域で生じる)渦電流
,i (第2の領域で生じる)渦電流
H 被測定磁界
第1の磁界
渦電流iにより発生した磁界
渦電流iにより発生した磁界
+h 第2の磁界
P 貫通孔
s 感磁方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20