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特許7382866緊張材定着具と、これを用いてスラブに圧縮力を付与する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】緊張材定着具と、これを用いてスラブに圧縮力を付与する方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/08 20060101AFI20231110BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20231110BHJP
   E04B 1/06 20060101ALI20231110BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20231110BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20231110BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
E04C5/08
E04C5/12
E04B1/06
E04G21/12 104C
E01D19/12
E01D1/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020047412
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147829
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】狩野 武
(72)【発明者】
【氏名】野並 優二
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-125355(JP,A)
【文献】特開2008-266960(JP,A)
【文献】特開2016-017269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/08
E04C 5/12
E04B 1/06
E04G 21/12
E01D 19/12
E01D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の緊張材が定着される第1のプレートと、
前記第1の緊張材と平行に延びる第2の緊張材が定着され、前記第1のプレートに対して前記第1及び第2の緊張材と直交する方向にずれて配置された第2のプレートと、
前記第1のプレートと前記第2のプレートとを連結し、前記第1及び第2の緊張材に対して斜めに延びる少なくとも一つの連結部材と、を有する緊張材定着具。
【請求項2】
前記第1のプレートを貫通し前記第1の緊張材が挿通される第1の貫通孔と、前記第2のプレートを貫通し前記第2の緊張材が挿通される第2の貫通孔と、を有し、前記第1の貫通孔は前記第1のプレートの中心に設けられ、前記第2の貫通孔は前記第2のプレートの中心に設けられている、請求項1に記載の緊張材定着具。
【請求項3】
前記第1のプレートの前記第2のプレートと対向する面に前記第1の貫通孔と同軸に取り付けられ、前記第1の緊張材を覆うシースを保持する第1の円筒部と、
前記第2のプレートの前記第1のプレートと対向する面に前記第2の貫通孔と同軸に取り付けられ、前記第2の緊張材を覆うシースを保持する第2の円筒部と、を有する、請求項2に記載の緊張材定着具。
【請求項4】
前記第1のプレートの前記第2のプレートと対向する面の反対面に設けられ、前記第1の貫通孔を挿通する前記第1の緊張材を定着させる第1の定着グリップと、
前記第2のプレートの前記第1のプレートと対向する面の反対面に設けられ、前記第2の貫通孔を挿通する前記第2の緊張材を定着させる第2の定着グリップと、を有する、請求項2または3に記載の緊張材定着具。
【請求項5】
前記少なくとも一つの連結部材は複数の連結部材であり、前記複数の連結部材は前記第1のプレートと前記第2のプレートの互いに対向する面の縁部に連結されている、請求項1からのいずれか1項に記載の緊張材定着具。
【請求項6】
前記第1のプレートと前記第2のプレートは前記第1及び第2の緊張材の延びる方向からみて少なくとも一部が重なっている、請求項1からのいずれか1項に記載の緊張材定着具。
【請求項7】
前記第1のプレートと前記第2のプレートは前記第1及び第2の緊張材の延びる方向と直交している、請求項1からのいずれか1項に記載の緊張材定着具。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の2つの緊張材定着具を用いて、複数のスラブからなるスラブブロックに圧縮力を付与する方法であって、
前記スラブブロックの両側にそれぞれ前記緊張材定着具を設けることと、
前記スラブブロックを挿通する緊張材を前記2つの緊張材定着具の間に設けることと、
前記緊張材を緊張させ、前記2つの緊張材定着具によって前記緊張材の緊張した状態を保持することと、を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張材定着具と、これを用いてスラブに圧縮力を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の路面を構成するスラブには圧縮力(プレストレス)が付与されることがある。スラブは橋軸方向に分割施工され、圧縮力は複数のスラブからなるスラブブロック毎に付与される。この目的で、スラブブロックの両端近傍に緊張材定着具を設け、スラブブロックに挿通された緊張材(PC鋼材)を緊張させ、両側の緊張材定着具に定着させる工法がとられることがある。特許文献1には、互いに隣接するスラブブロックに挿通される2本の緊張材をそれぞれ定着する2つの定着部を一体化した緊張材定着具が開示されている。緊張材定着具は、内部に緊張材が挿通されるとともに緊張材が定着される2つの定着部と、緊張材の延びる方向に間隔をあけて配置され、2つの定着部を連結する2枚のリブと、を有している。この緊張材定着具は2本の緊張材の軸芯が一致していない場合に、緊張材の張力を相互に伝達することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-125355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された緊張材定着具の2枚のリブは、2つの定着部を連結するため、比較的大きな寸法を有している。2枚のリブで挟まれた空間に充填されるコンクリートは両側から2枚のリブで圧縮されるため、強い圧縮力を受ける。緊張材定着具はこの圧縮力の一部を負担する。しかし、コンクリートの強い圧縮力は主に緊張材が定着される部位の近傍に生じるため、緊張材定着具はリブの大きな寸法にも拘わらず、圧縮力を効果的に負担する構成となっていない。
【0005】
本発明は、コンパクトな構成で、コンクリートに印加される圧縮力の一部を効果的に負担することのできる緊張材定着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の緊張材定着具は、第1の緊張材が定着される第1のプレートと、第1の緊張材と平行に延びる第2の緊張材が定着され、第1のプレートに対して第1及び第2の緊張材と直交する方向にずれて配置された第2のプレートと、第1のプレートと第2のプレートとを連結し、第1及び第2の緊張材に対して斜めに延びる少なくとも一つの連結部材と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンパクトな構成で、コンクリートに印加される圧縮力の一部を効果的に負担することのできる緊張材定着具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】橋梁のスラブを示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る緊張材定着具の斜視図である。
図3図2に示す緊張材定着具の6面図である。
図4図2に示す連結部材の断面図である。
図5図2に示す緊張材定着具の効果を示す模式図である。
図6】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
図7】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
図8】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
図9】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
図10】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
図11】スラブに圧縮力を付与する工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の緊張材定着具と、これを用いてスラブに圧縮力を付与する方法の実施形態を説明する。以下の説明および図面において、第1及び第2の緊張材PC1,PC2が延びる方向をX方向、X方向と直交し、スラブの厚さ方向と平行な方向をZ方向、X方向及びZ方向と直交し、スラブの厚さ方向と平行な方向をY方向とする。本実施形態は、橋梁の路面を構成するスラブ(床版)、特に鋼橋のRC床版の取り換え工事に用いられるPCスラブを対象とするため、X方向は橋軸方向、Y方向は橋幅方向に一致する。また、本実施形態はこのようなPCスラブの緊張材定着具を対象とするが、本発明は2本の緊張材の互いに隣接する端部を定着するあらゆる緊張材定着具に適用できる。
【0010】
図1は橋梁のスラブを示す平面図である。スラブSは鋼桁(図示せず)上に設置される。スラブSは運搬や製作性を考慮して、X方向に所定の寸法で分割され、6つのスラブSが一つのスラブブロックを構成している。以下、互いに隣接する2つのスラブブロックを第1のスラブブロックSB1、第2のスラブブロックSB2という。また、第1のスラブブロックSB1に第2のスラブブロックSB2と反対側で隣接するスラブブロックを先行スラブブロックSB0、第2のスラブブロックSB2に第1のスラブブロックSB1と反対側で隣接するスラブブロックを後行スラブブロックSB3という。スラブブロックは、先行スラブブロックSB0、第1のスラブブロックSB1、第2のスラブブロックSB2、後行スラブブロックSB3の順に施工される。隣接するスラブSの間にはループ筋などの継手(図示せず)が設けられ、間詰めコンクリートCO(一部のみ図示)が充填されている。これによって、互いに隣接するスラブSが構造的に一体化される。
【0011】
各スラブブロックの6つのスラブSには、Y方向に一定の間隔で、X方向に延びる複数の緊張材(PC鋼材)が挿通されている。第1のスラブブロックSB1に挿通される緊張材を第1の緊張材PC1、第2のスラブブロックSB2に挿通される緊張材を第2の緊張材PC2、先行スラブブロックSB0に挿通される緊張材を先行緊張材PC0、後行スラブブロックSB3に挿通される緊張材を後行緊張材PC3という。第1の緊張材PC1と第2の緊張材PC2と先行緊張材PC0と後行緊張材PC3はZ方向に同じレベルに配置され、X方向に互いに平行に延びているが、X方向に隣接する緊張材同士はY方向に互いにずれて配置されている。第1のスラブブロックSB1の第2のスラブブロックSB2と隣接する周縁部の近傍には第1の緊張材定着具A1が設けられている。第2のスラブブロックSB2の後行スラブブロックSB3と隣接する周縁部の近傍には第2の緊張材定着具A2が設けられている。先行スラブブロックSB0の第1のスラブブロックSB1と隣接する周縁部の近傍には先行緊張材定着具A0が設けられている。先行緊張材定着具A0は先行緊張材PC0の端部と第1の緊張材PC1の端部とを定着させ、第1の緊張材定着具A1は第1の緊張材PC1の端部と第2の緊張材PC2の端部とを定着させ、第2の緊張材定着具A2は第2の緊張材PC2の端部と後行緊張材PC3の端部とを定着させる。先行緊張材PC0、第1の緊張材PC1、第2の緊張材PC2、後行緊張材PC3はそれぞれ緊張され、これによって、先行スラブブロックSB0、第1のスラブブロックSB1、第2のスラブブロックSB2、後行スラブブロックSB3にそれぞれ圧縮力(プレストレス)が付与される。
【0012】
各緊張材定着具はすべて同じ構成を有しているので、ここでは第1の緊張材定着具A1(以下、単に緊張材定着具1という)について説明する。図2は緊張材定着具1の斜視図、図3は緊張材定着具1の6面図を示している。図3(a)は緊張材定着具1の上面図、図3(b)は緊張材定着具1の左側面図、図3(c)は緊張材定着具1の正面図、図3(d)は緊張材定着具1の右側面図、図3(e)は緊張材定着具1の下面図、図3(f)は緊張材定着具1の背面図である。
【0013】
緊張材定着具1は、第1の緊張材PC1が定着される第1のプレート2Aと、第2の緊張材PC2が定着される第2のプレート2Bと、第1のプレート2Aと第2のプレート2Bとを連結する少なくとも一つの連結部材3と、を有している。第1のプレート2Aは第1の緊張材PC1の張力を受ける反力プレートとして、第2のプレート2Bは第2の緊張材PC2の張力を受ける反力プレートとして機能する。第1のプレート2Aと第2のプレート2BはX方向と直交するY-Z面と平行に設けられ、且つX方向に互いに離隔している。第1のプレート2Aは、第2のプレート2Bと対向する第1の内側面21Aと、第1の内側面21Aの反対面である第1の外側面22Aと、を有している。第2のプレート2Bは、第1のプレート2Aと対向する第2の内側面21Bと、第2の内側面21Bの反対面である第2の外側面22Bと、を有している。第1のプレート2Aと第2のプレート2BはX方向からみて矩形のプレートであり、それぞれの中心に第1の緊張材PC1が挿通される第1の貫通孔23Aと、第2の緊張材PC2が挿通される第2の貫通孔23Bとを備えている。第1及び第2のプレート2A,2Bの形状は矩形に限定されないが、中心に貫通孔があり、貫通孔を中心に点対称となっている限り六角形、八角形、円形等でもよい。第1のプレート2Aと第2のプレート2Bは第1の緊張材PC1と第2の緊張材PC2の緊張力をコンクリートに伝達するため、円形は特に好ましい形状である。第1及び第2のプレート2A,2Bは、三角形、五角形など、貫通孔を中心とした回転対称の形状であってもよい。第1及び第2のプレート2A,2Bは鉄などの金属、高強度プラスチック、FRPなど剛性の高い材料で形成されている。
【0014】
第1のプレート2Aの第1の内側面21Aに第1の円筒部24Aが、第2のプレート2Bの第2の内側面21Bに第2の円筒部24Bが取り付けられている。第1の円筒部24Aは第1の貫通孔23Aと同軸に取り付けられ、第1の緊張材PC1を覆う第1のシースT1を保持する。第2の円筒部24Bは第2の貫通孔23Bと同軸に取り付けられ、第2の緊張材PC2を覆う第2のシースT2を保持する。シースはコンクリート打設時に形状を維持することができる限り、どのような材料も使用できるが、本実施形態ではポリエチレンを用いている。第1及び第2の円筒部24A,24Bの外径はシースT1,T2の内径より若干小さくされ、第1及び第2の円筒部24A,24Bの内径は第1及び第2の緊張材PC1,PC2の外径より若干大きくされている。第1及び第2の円筒部24A,24Bと第1及び第2の緊張材PC1,PC2との間のギャップ、及び第1及び第2の円筒部24A,24Bと第1及び第2のシースT1,T2との間のギャップはグラウト材が充填されるため、グラウト材が流動可能な大きさとされている。第1及び第2のプレート2A,2Bと第1及び第2の円筒部24A,24Bは同じ材料で作成されている。本実施形態ではこれらは鉄などの金属からなり、第1及び第2の円筒部24A,24Bはそれぞれ第1及び第2のプレート2A,2Bに溶接で固定されている。第1及び第2のプレート2A,2Bと第1及び第2の円筒部24A,24Bは鋳造で作成することもできる。
【0015】
第2のプレート2Bは第1のプレート2Aに対してY方向にずれて配置されている。より具体的には、第2のプレート2Bの第2の貫通孔23Bの中心は第1のプレート2Aの第1の貫通孔23Aの中心に対してY方向にずれて配置されている。第1のプレート2Aと第2のプレート2BはZ方向に同じ位置に設けられているが、第1の緊張材PC1と第2の緊張材PC2がZ方向にずれている場合、それに応じてZ方向にずれていてもよい。すなわち、第2のプレート2Bは第1のプレート2Aに対して第1及び第2の緊張材PC1,PC2と直交する方向にずれていればよい。
【0016】
本実施形態では、4つの連結部材3が設けられている。4つの連結部材3は第1のプレート2Aの第1の内側面21Aの縁部、好ましくは第1の内側面21Aの4つの角部と、第2のプレート2Bの第2の内側面21Bの縁部、好ましくは第2の内側面21Bの対応する4つの角部と、に連結されている。この結果、連結部材3は第1及び第2の緊張材PC1,PC2に対して斜めに、すなわち、X方向から傾斜した方向に延びている。
【0017】
図4には、図3(c)のA-A線に沿った連結部材3の断面図を示している。図中の破線はA-A線を含む断面における複数の連結部材3を包絡する最小の矩形を示している。図4(a)は本実施形態の連結部材3の断面を示している。連結部材3の断面は正方形である。連結部材3の断面は図4(b)に示す円形でもよく、図4(c)に示す長方形でもよい。図4(d)に示すように、長方形断面を有する2つの連結部材3を設けてもよい。なお、連結部材3の第1及び第2のプレート2A,2Bとの接合部(接触面)は、図4に対して上下方向に引き伸ばされた形状となる。
【0018】
図5(a)は、コンクリートに印加される圧縮力を概念的に示している。第1のプレート2Aは第1の緊張材PC1の緊張力によって右向きの力を受け、第1のプレート2Aはその右側の領域Aのコンクリートを圧縮する。第2のプレート2Bは第2の緊張材PC2の緊張力によって左向きの力を受け、第2のプレート2Bはその左側の領域Bのコンクリートを圧縮する。領域Aと領域Bは第1及び第2のプレート2A,2Bを基底として概ね45度でコーン状に広がる領域である。領域Aと領域Bの重複する領域Cは、第1のプレート2Aがコンクリートを圧縮する領域と第2のプレート2Bがコンクリートを圧縮する領域とが主に重なる領域であり、第1の緊張材PC1と第2の緊張材PC2の張力を相互に伝達し得る領域である。領域CはY方向に歪んだ平行四辺形であるため、第1のプレート2Aと第2のプレート2Bとの間の力の伝達は、全体的には斜め方向に行われる。この力の一部は連結部材3でも伝達される。本実施形態では、連結部材3はこの力の伝達方向に沿って配置される。このため、連結部材3は第1のプレート2Aと第2のプレート2Bとの間の力を、軸力としてより効率的に伝達することが可能となる。また、第1のプレート2Aと第2のプレート2BはX方向からみて少なくとも一部が重なっている。これによっても、第1のプレート2Aと第2のプレート2Bとの間に生じる力を効率的に伝達することが可能となる。連結部材3は必ずしも第1のプレート2Aと第2のプレート2Bの縁部に設ける必要はなく、領域Cの内部を平行四辺形の斜めの辺C1,C2と概ね平行に延びていればよい。なお、領域Cの内外のコンクリートの連続性を確保するため、領域Cの少なくとも2面は領域Cの内外で連通していることが好ましい。
【0019】
図5(b)は、特許文献1に記載された緊張材定着具101を模式的に示している。緊張材PC1,PC2が挿通される中空円筒部からなる2つの定着部102A,102Bと、2つの定着部102A,102Bを連結する2枚のリブ103A,103Bと、が設けられている。このため、大型のリブが必要となっている。また、コンクリートの圧縮力は緊張材の定着部の近傍(例えば領域P1)で最大となり、そこから離れた部位(例えば領域P2)ではそれほど大きくない。つまり、緊張材定着具101はコンクリートの圧縮力を、領域P1では効率的に負担するが、領域P2では効率的に負担するとはいえない。本実施形態はいわば、特許文献1に記載された緊張材定着具101において、領域P2のリブ(図中にハッチングで示す)を削除し、残ったリブ同士を斜めの連結部材3で連結したものである。また、第1及び第2の緊張材PC1,PC2は第1及び第2のプレート2A,2Bの中心を通るため、緊張材の緊張力を効率的にコンクリートに伝達することができる。これによって、第1及び第2のプレート2A,2Bの面積を必要最小限とすることができる。さらに、第1及び第2の円筒部24A,24Bは第1及び第2のシースT1,T2を保持できる最小限の長さがあればよく、第1のプレート2Aと第2のプレート2Bの両者に連結されている必要はない。以上の理由から、本実施形態では緊張材定着具1の小型化、簡素化が実現される。
【0020】
コンクリートにかかる圧縮力は、第1のプレート2Aと第2のプレート2Bの形状や大きさを変えることで容易に調整することができる。第1のプレート2Aと第2のプレート2Bは埋込金物などに使われる鋼製プレートと同等品でよいため、汎用品を用いることができ、形状の調整が容易である。コンクリートにかかる圧縮力は、連結部材3の数や断面を変えることでも容易に調整することができる。一般的には、連結部材3の総断面積が増加すればその分、コンクリートにかかる圧縮力を軽減することができる。
【0021】
さらに、コンクリートにかかる曲げモーメントは、連結部材3の断面2次モーメントを変えることで容易に調整することができる。図5から理解されるように、緊張材定着具1にはZ軸周りの回転モーメントが作用する。図4において寸法aに対する寸法bの比b/aを大きくすることで、連結部材3の中心軸(図5におけるX’軸)を中心とした断面2次モーメントが増えるため、Z軸周りの回転モーメントに対する曲げ剛性が増加する。これによってコンクリートにかかる曲げモーメントを低減することができる。一方、寸法aと寸法bの積abを一定とすれば、軸方向の剛性は不変であるので、コンクリートにかかる圧縮力(軸力)はほぼ一定とすることができる。このように、コンクリートの応力度は緊張材定着具1の形状によって容易に調整可能であり、しかも緊張材定着具1の形状は極めて単純であるから、このような調整を容易に行うことができる。
【0022】
次に、図6~11を参照して、以上説明した緊張材定着具1を用いてスラブSに圧縮力を付与する方法を説明する。以下の説明で、第1及び第2のシースT1,T2は、スラブS毎及び間詰めコンクリートCO毎に形成されるシースをX方向につなげたものである。第1のスラブブロックSB1のうち、最後に施工されるスラブS、すなわち第2のスラブブロックSB2と隣接するスラブSを第1のスラブS1と呼ぶ。第2のスラブブロックSB2のうち、最後に施工されるスラブS、すなわち後行スラブブロックSB3と隣接するスラブSを第2のスラブS2と呼ぶ。図1において、先行スラブブロックSB0と先行緊張材定着具A0は施工済みであるとする。図6,7,10は図1のA部拡大図であり、図8,9,11は図1のB部拡大図である。
【0023】
まず、第1のスラブブロックSB1を施工する。第1のスラブブロックSB1を構成する各スラブSは前述のようにX方向に所定の間隔をおいて配置され、それらの間に間詰めコンクリートCOが充填される。各スラブSと間詰めコンクリートCOには第1の緊張材PC1用の第1のシースT1が埋め込まれており、第1のシースT1は第1のスラブブロックSB1をX方向にほぼ貫通している。
【0024】
第1のスラブS1は、以下の手順で作成する。図6に示すように、まず、第1の緊張材定着具A1と第1及び第2のシースT1,T2を所定の位置に配置する。第1の緊張材定着具A1は、第1のプレート2Aが第2のスラブブロックSB2側に位置するように配置する。第1の円筒部24Aに第1のシースT1をかぶせ、第1の円筒部24Aと第1のシースT1との間のギャップに、グラウト材を充填する。同様に、第2の円筒部24Bに第2のシースT2をかぶせ、第2の円筒部24Bと第2のシースT2との間のギャップに、グラウト材を充填する。第2のプレート2Bの第2の外面に隣接して定着キャップ4を配置する。次に、型枠と鉄筋を配置し、コンクリートを打設する。定着キャップ4の内部は空洞となっている。第1のスラブS1の第2のスラブブロックSB2側の端面には第1の定着グリップ5Aの設置と第1の緊張材PC1を緊張させる作業のため、切欠き6を設けておく。第1の緊張材定着具A1の第1のプレート2Aの第1の外側面22Aは切欠き6に露出している。以上の工程によって、第1の緊張材定着具A1が固定された(埋め込まれた)第1のスラブS1が作成される。
【0025】
次に、図7に示すように、第1の緊張材PC1を第1の緊張材定着具A1から第1のシースT1に通す。第1の緊張材PC1の先端を、後述する手順で、先行スラブブロックSB0の先行緊張材定着具A0に定着する。次に、第1の緊張材PC1の切欠き6に第1の定着グリップ5Aを配置する。第1の定着グリップ5Aは、くさび受け51と、くさび受け51に嵌合するくさび52とを有している。くさび受け51は第1のプレート2Aの第1の外側面22Aに向かって縮径するテーパ状の内部空間を有している。くさび52は周方向に数個のピースに分割され、これらのピースを組み合わせたときに第1のプレート2Aの第1の外側面22Aに向かって縮径するテーパ状の形状をなしている。ピースの間には、グラウト材の充填流路となるギャップ(図示せず)が設けられている。第1の緊張材PC1を油圧ジャッキ(図示せず)によって矢印の方向に緊張しながら、くさび52をくさび受け51に押し込み、緊張した状態の第1の緊張材PC1を第1のプレート2Aに定着させる。これによって、第1のスラブブロックSB1に圧縮力が付与される。
【0026】
次に、図8に示すように、第1のスラブS1と同様の手順で第2のスラブS2を作成する。すなわち、まず、第2の緊張材定着具A2と、第2のシースT2と、後行緊張材PC3を覆う第3のシースT3と、を所定の位置に配置する。第2の緊張材定着具A2は、第1のプレート2Aが後行スラブブロックSB3側に位置するように配置する。第1の円筒部24Aに第2のシースT2をかぶせ、第1の円筒部24Aと第2のシースT2との間のギャップに、グラウト材を充填する。同様に、第2の円筒部24Bに第3のシースT3をかぶせ、第2の円筒部24Bと第3のシースT3との間のギャップに、グラウト材を充填する。第2のプレート2Bの第2の外側面22Bに隣接して定着キャップ4を配置する。次に、型枠と鉄筋を配置し、コンクリートを打設する。定着キャップ4の内部は空洞となっている。第2のスラブS2の後行スラブブロックSB3側の端面には第2の定着グリップ5Bの設置と第2の緊張材PC2を緊張させる作業のため、切欠き6を設けておく。第2の緊張材定着具A2の第1のプレート2Aの第1の外側面22Aは切欠き6に露出している。以上の工程によって、第2の緊張材定着具A2が固定された(埋め込まれた)第2のスラブS2が作成される。
【0027】
次に、図9に示すように、第2の緊張材PC2を第2の緊張材定着具A2から第2のシースT2に通す。第2の緊張材PC2の先端は第1の緊張材定着具A1を通ってその先まで延びている。次に、図10に示すように、第2の緊張材PC2の先端を定着する。定着キャップ4の内部に第2のグリップを配置する。くさび52の中央部に第2の緊張材PC2を通し、くさび52をくさび受け51に対して押し込み、ばね53でくさび52を押し付けて固定する。次に、図11に示すように、第1の緊張材PC1と同様にして、第2の緊張材PC2を矢印の方向に緊張させる。これによって、第2のスラブブロックSB2に圧縮力が付与される。その後、図10,11に示すように、第2のシースT2と定着キャップ4にグラウト材Gを充填する。以上の作業を順次繰り返すことで、図1に示す橋梁のスラブが完成する。
【符号の説明】
【0028】
1 緊張材定着具
2A 第1のプレート
2B 第2のプレート
3 連結部材
5A 第1の定着グリップ
5B 第2の定着グリップ
23A 第1の貫通孔
23B 第2の貫通孔
24A 第1の円筒部
24B 第2の円筒部
PC1 第1の緊張材
PC2 第2の緊張材
S1 第1のスラブ
S2 第2のスラブ
T1~T3 シース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11