(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】負イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/08 20060101AFI20231110BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20231110BHJP
H05H 1/48 20060101ALI20231110BHJP
H01J 27/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
H01J37/08
C23C14/32 Z
H05H1/48
H01J27/02
(21)【出願番号】P 2020056491
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
(72)【発明者】
【氏名】酒見 俊之
(72)【発明者】
【氏名】前原 誠
(72)【発明者】
【氏名】木下 公男
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】古林 寛
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-50952(JP,A)
【文献】特開2016-178257(JP,A)
【文献】特開2012-178285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0177834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
C23C 14/00
H05H 1/00
H01J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内においてラジカルを生成するラジカル供給源と、
前記対象物を配置させると共に、前記ラジカル供給源から供給される前記ラジカルを用いてマグネトロン放電を行う放電部と、を備え、
前記放電部は、前記マグネトロン放電によって前記対象物に照射する前記負イオンを生成する、負イオン生成装置。
【請求項2】
前記放電部は、磁場を形成する磁場形成部を備え、
前記磁場形成部は、前記対象物を載置する載置面に沿った方向の前記磁場を形成する、請求項1に記載の負イオン生成装置。
【請求項3】
前記ラジカル供給源は、前記チャンバ内においてプラズマを生成するプラズマ生成部を有する、請求項1又は2に記載された負イオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負イオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負イオン生成装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この負イオン生成装置は、チャンバ内へ負イオンの原料となるガスを供給するガス供給部と、チャンバ内において、プラズマを生成することで負イオンを生成する負イオン生成部と、を備えている。負イオン生成部は、プラズマによってチャンバ内で負イオンを生成することで、当該負イオンを対象物へ照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、対象物に対して負イオンを照射する技術として、上述のような負イオン生成装置とは異なる方法にて、負イオンを照射することが求められていた。
【0005】
そこで本発明は、新たな方法にて対象物に負イオンを照射することができる負イオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る負イオン生成装置は、負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、内部で負イオンの生成が行われるチャンバと、チャンバ内においてラジカルを生成するラジカル供給源と、対象物を配置させると共に、ラジカル供給源から供給されるラジカルを用いてマグネトロン放電を行う放電部と、を備え、放電部は、マグネトロン放電によって対象物に照射する負イオンを生成する。
【0007】
本発明に係る負イオン生成装置は、チャンバ内においてラジカルを生成するラジカル供給源を備えている。従って、ラジカル供給源は、対象物の近くにラジカルを供給することができる。これに対し、放電部は、対象物を配置させると共に、ラジカル供給源から供給されるラジカルを用いてマグネトロン放電を行う。従って、放電部は、対象物の付近でマグネトロン放電を行うことによって、対象物に照射する負イオンを生成することができる。そのため、当該負イオンは、対象物に照射される。以上より、新たな方法にて対象物に負イオンを照射することができる。
【0008】
放電部は、磁場を形成する磁場形成部を備え、磁場形成部は、対象物を載置する載置面に沿った方向の磁場を形成してよい。これにより、対象物付近において、放電部がマグネトロン放電を行う(磁場と電場で放電するため)。
【0009】
ラジカル供給源は、チャンバ内においてプラズマを生成するプラズマ生成部を有してよい。これにより、ラジカル供給源が、プラズマを用いて効率良くラジカルを供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新たな方法にて対象物に負イオンを照射することができる負イオン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】変形例に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
【
図4】変形例に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
【
図5】プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。
【
図6】変形例に係る負イオン生成装置の基板周辺の構造を示す概略拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。なお、説明の便宜上、
図1には、XYZ座標系を示す。X軸方向は、対象物である基板の厚さ方向である。Y軸方向及びZ軸方向は、X軸方向と直交すると共に互いに直交する方向である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の負イオン生成装置1は、チャンバ2、対象物配置部3、ラジカル供給源4、ガス供給部6、回路部7、電圧印加部8、及び制御部50を備えている。
【0015】
チャンバ2は、基板11(対象物)を収納し負イオンの照射処理を行うための部材である。チャンバ2は、内部で負イオンの生成が行われる部材である。チャンバ2は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0016】
チャンバ2は、X軸方向に対向する一対の壁部2a,2bと、Y軸方向に対向する一対の壁部2c,2dと、Z軸方向に対向する一対の壁部(不図示)と、を備える。なお、X軸方向の負側に壁部2aが配置され、正側に壁部2bが配置される。Y軸方向の負側に壁部2cが配置され、正側に壁部2dが配置される。また、チャンバ2は、壁部2bをY軸方法の負側へ延長させた壁部2eと、壁部2cからY軸方向の負側へ延びる壁部2fと、壁部2e,2fのY軸方向の負側の端部同士を接続する壁部2gと、を備える。
【0017】
チャンバ2は、プラズマPを生成するためのプラズマ室RM1と、基板11に対する負イオンの照射を行う照射室RM2と、を備えている。照射室RM2は、壁部2a~2dに囲まれる空間によって形成される。プラズマ室RM1は、照射室RM2のX軸方向の正側の端部において、Y軸方向の負側へ延びる空間によって形成される。具体的に、プラズマ室RM1は、壁部2e~2gに囲まれる空間によって形成される。
【0018】
対象物配置部3は、負イオンの照射対象物となる基板11を配置させる。対象物配置部3は、チャンバ2の壁部2aに設けられる。対象物配置部3は、載置部材12と、接続部材13と、を備える。載置部材12及び接続部材13は、導電性の材料によって構成される。載置部材12は、載置面12aに基板11を載置するための部材である。載置部材12は、壁部2aに取り付けられて、チャンバ2の内部空間内に配置される。載置面12aは、X軸方向と直交するように広がる平面である。これにより、基板11は、X軸方向と直交するように、ZY平面と平行となるように、載置面12a上に載置される。接続部材13は、載置部材12と電圧印加部8とを電気的に接続する部材である。接続部材13は、壁部2aを貫通してチャンバ2外まで延びている。なお,接続部材13の位置関係は、ラジカル供給源4であるプラズマガン14と陽極16に干渉しない位置で、プラズマ室RM1以外であれば、どのような位置関係が採用されても良い。
【0019】
負イオン照射の対称となる基板11として、例えば、基材の表面にITO、IWO、ZnO、Ga2O3、AlN、GaN、SiONなどの膜を形成したものが採用される。基材として、例えばガラス基板、プラスチック基板やSi、Al2O3、GaAsなどの半導体基板など板状部材が採用される。
【0020】
続いて、ラジカル供給源4の構成について詳細に説明する。ラジカル供給源4は、チャンバ2内において、プラズマP及び電子を生成し、これによって負イオン及びラジカル(不対電子を有する原子、分子)等を生成する。ラジカル供給源4は、プラズマガン14(プラズマ生成部)と、陽極16と、を有している。
【0021】
プラズマガン14は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分がチャンバ2の壁部2eに設けられて、チャンバ2の内部空間に接続されている。プラズマガン14は、チャンバ2のプラズマ室RM1内でプラズマPを生成する。プラズマガン14において生成されたプラズマPは、プラズマ口からチャンバ2のプラズマ室RM1の内部空間へビーム状に出射される。これにより、チャンバ2のプラズマ室RM1の内部空間にプラズマPが生成される。
【0022】
陽極16は、プラズマガンからのプラズマPを所望の位置へ導く機構である。陽極16は、プラズマPを誘導するための電磁石もしくは磁石を有する機構である。陽極16は、チャンバの壁部2f設けられて、プラズマガン14とX軸方向に向かい合う位置に配置されている。これにより、プラズマPは、プラズマガン14から出射されてX軸方向の負側へ向かいながらチャンバ2のプラズマ室RM1の内部空間で広がった後、収束しながら陽極16へ導かれる。なお、プラズマガン14と陽極16との位置関係は、上述のものに限定されず、ラジカルを生成することができる限り、どのような位置関係が採用されてもよい。
【0023】
ガス供給部6は、チャンバ2の外部に配置されている。ガス供給部6は、壁部2dに形成されたガス供給口26を通し、チャンバ2内へガスを供給する。ガス供給口26は、ラジカル供給源4と対象物配置部3との間に形成される。ただし、ガス供給口26の位置は、特に限定されない。ガス供給部6は、ラジカル及び負イオンの原料となるガスを供給する。ガスとして、例えば、O-などの負イオンの原料となるO2、NH-などの窒化物の負イオンの原料となるNH2、NH4、その他、C-やSi-などの負イオンの原料となるC2H6、SiH4などが採用される。つまり、電子親和力が正である原料が採用されると言える。なお、ガスは、放電を安定されるキャリアガスとしてArなどの希ガスも含む。
【0024】
回路部7は、可変電源30と、第1の配線31と、第2の配線32と、抵抗器R1~R3と、スイッチSW1と、を有している。可変電源30は、接地電位にあるチャンバ2を挟んで、負電圧をプラズマガン14の陰極21に、正電圧を陽極16に印加する。これにより、可変電源30は、プラズマガン14の陰極21と陽極16との間に電位差を発生させる。第1の配線31は、プラズマガン14の陰極21を、可変電源30の負電位側と電気的に接続している。第2の配線32は、陽極16を、可変電源30の正電位側と電気的に接続している。抵抗器R1は、第1の中間電極22と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R2は、第2の中間電極23と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R3は、チャンバ2と可変電源30との間において直列接続されている。スイッチSW1は、制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。スイッチSW1は、プラズマPを生成するときはOFF状態とされる。一方、スイッチSW1は、プラズマPを停止するときはON状態とされる。
【0025】
電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する。電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する電源36と、電源36と対象物配置部3とを接続する第3の配線37と、第3の配線37に設けられたスイッチSW2とを有している。電源36は、バイアス電圧として、正の電圧を印加する。第3の配線37は、一端が電源36の正電位側に接続されていると共に、他端が接続部材13に接続されている。これにより、第3の配線37は、電源36と基板11とを、接続部材13及び載置部材12を介して電気的に接続する。スイッチSW2は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW2は、負イオン生成時に所定のタイミングでON状態とされる。スイッチSW2がON状態とされると、接続部材13と電源36の正電位側とが互いに電気的に接続され、接続部材13にバイアス電圧が印加される。一方、スイッチSW2は、所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。スイッチSW2がOFF状態とされると、接続部材13と電源36とが互いに電気的に切断され、接続部材13にはバイアス電圧が印加されず、接続部材13は浮遊状態となる。接続部材13が浮遊状態となると、例えばプラズマON時に基板11に流れ込む粒子は正負がバランスして最小限となる。
【0026】
制御部50は、負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0027】
制御部50は、チャンバ2の外部に配置されている。また、制御部50は、ガス供給部6によるガス供給を制御するガス供給制御部51と、ラジカル供給源4によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部8によるバイアス電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。制御部50は、プラズマPの生成と停止を繰り返す間欠運転を行うように、制御を行う。
【0028】
プラズマ制御部52の制御により、スイッチSW1がOFF状態とされているとき、プラズマガン14からのプラズマPがチャンバ2内に出射されるため、チャンバ2内にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。これにより、プラズマ室RM1でラジカルが生成され、照射室RM2へ供給される。
【0029】
ここで、負イオン生成装置1は、磁場を形成する磁場形成部80を備える。磁場形成部80は、壁部2c,2dのX軸方向の負側の端部の位置にて、チャンバ2を挟むように、Y軸方向の正側と負側にそれぞれ設けられた磁場発生装置81を備えている。磁場形成部80は、載置部材12の載置面12aに沿った方向の磁場を形成する。すなわち、磁場形成部80は、基板11の被照射面11aに沿った方向の磁場を形成する。載置面12a及び被照射面11aに沿った方向とは、これらの面と略平行な方向を意味する。ここでは、磁場発生装置81が発生する磁束Bが、Y軸方向と略平行に延びている。
【0030】
磁場形成部80、対象物配置部3、及び電圧印加部8の組み合わせに係る構成は、マグネトロンを行う放電部90として機能することができる。放電部90は、ラジカル供給源4から供給されるラジカルを用いてマグネトロン放電を行うことができる機構である。これにより、放電部90は、マグネトロン放電によって、基板11に照射する負イオンを生成することができる。
【0031】
具体的に、磁場形成部80は、基板11の被照射面11aに対して略平行な磁場を印加できる。すなわち、被照射面11a(及び載置面12a)の位置にて、被照射面11aに略平行な磁場が形成されている。そして、電圧印加部8は、基板11の被照射面11aに対して垂直なバイアス電圧を印加できる。すると、放電部90は、被照射面11a付近の位置において「E×B」のマグネトロン放電を行うことができる。また、ラジカル供給源4は、高密度のプラズマPから大量のラジカルを供給することができる。これにより、基底状態のガスなどとは異なり、放電を行い易くなり、プラズマ照射による改質が可能となる。このようなマグネトロン放電により、陽極となる基板11には、新たに生成された負イオン及び電子が照射される。
【0032】
なお、負イオン及び電子は、磁束Bの周りを旋回するような挙動を示す。このとき、電子は小さい径で磁束Bの周りを旋回するのに対し、負イオンは大きい径で磁束Bの周りを旋回する。そのため、磁場形成部80の磁場を調整しておくことで、大きく旋回する負イオンは、なるべく基板11に当たるようにしつつ、小さく旋回する電子はなるべく基板11に当たらないようにしてよい。これにより、電子よりも負イオンが基板11に照射され易くなる。また、磁場形成部80は、電子照射量を抑制するため、
図5に示す様なプラズマPの間欠制御を行うことなく、プラズマPを連続的に発生させてもよくなる。
【0033】
次に、本実施形態に係る負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
【0034】
本実施形態に係る負イオン生成装置1は、チャンバ2内においてラジカルを生成するラジカル供給源4を備えている。従って、ラジカル供給源4は、基板11の近くにラジカルを供給することができる。これに対し、放電部90は、基板11を配置させると共に、ラジカル供給源4から供給されるラジカルを用いてマグネトロン放電を行う。従って、放電部90は、基板11の付近でマグネトロン放電を行うことによって、基板11に照射する負イオンを生成することができる。そのため、当該負イオンは、基板11に照射される。以上より、新たな方法にて基板11に負イオンを照射することができる。
【0035】
放電部90は、磁場を形成する磁場形成部80を備え、磁場形成部80は、基板11を載置する載置面12aに沿った方向の磁場を形成してよい。これにより、基板11付近において、放電部90がマグネトロン放電を行う。
【0036】
ラジカル供給源4は、チャンバ2内においてプラズマPを生成するプラズマガン14を有してよい。これにより、ラジカル供給源4が、プラズマPを用いて効率良くラジカルを供給することができる。
【0037】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、
図2に示す負イオン生成装置1の構成を採用してもよい。
図2に示す構成では、開口率調整機構60は、チャンバ2内においてラジカル供給源4と対象物配置部3との間に配置された、プラズマPを抑制する開口率調整部材61A,61B(部材)を有する。開口率調整部材61A,61Bは、ラジカル等の供給物PMの通過を許容する。
【0039】
開口率調整部材61A,61Bは、それぞれ貫通部を有する板状部材である。開口率調整部材61A,61Bは、照射方向と直交するように、すなわちYZ平面と平行に広がるように配置される。また、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向に互いに対向するように配置される。ここでは、開口率調整部材61Aが照射方向における上流側に配置され、開口率調整部材61Bが照射方向における下流側に配置される。61Bまた、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向から見て、互いの貫通部をずらすように配置させることで、開口率を事前に調整しておくことができる。
【0040】
図3を参照して、開口率調整部材61A,61Bの一例について説明する。
図3(a)は、開口率調整部材61Aと開口率調整部材61Bとが重なっている様子を照射方向における上流側から見た概略図である。
図3(b)は、開口率調整部材61Aを取り除いて、開口率調整部材61Bのみを照射方向における上流側から見た概略図である。
図3(a)に示すように、開口率調整部材61Aは、所定のパターンで分布する円形の貫通部62Aを有している。また、
図3(b)に示すように、開口率調整部材61Bは、所定のパターンで分布する円形の貫通部62Bを有している。貫通部62Aと貫通部62Bとは、照射方向から見て、互いにずれるように配置されている。従って、開口率調整部材61Aの貫通部62Aは、開口率調整部材61Bの板部(貫通部62B以外の部分)で塞がれた状態となる。
【0041】
上述のように、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向から見たときに、開口部分が存在しないような構成となっている。従って、プラズマPからの電荷を持った粒子は開口率調整部材61A,61Bの組み合わせによって遮断される。その一方、開口率調整部材61A,61Bは照射方向に互いに隙間をあけて離間している。従って、開口率調整部材61A,61BよりもプラズマP側の空間SP1(
図2参照)と、開口率調整部材61A,61Bよりも基板11側の空間SP2(
図2参照)とは、貫通部62A、隙間、及び貫通部62Bを介して、空間的には連通されている。そのため、空間SP1からの供給物PMは、部材間での反射などを繰り返すことで、空間SP2へ進入することができる。これにより、供給物PMであるラジカルは、開口率調整部材61A,61Bの通過を許容されて、空間SP2に到達し、放電部90においてマグネトロン放電を行う。従って、放電部90は、基板11の付近でマグネトロン放電を行うことによって、基板11に照射する負イオンを生成することができる。そのため、当該負イオンは、基板11に照射される。
【0042】
図3(a)(b)では、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造は、照射方向から見て、開口部が存在していなかった。しかし、供給物PMの通過量を増やすために、開口部が形成されてもよい。具体的には、
図3(b)に示すように、貫通部62A(仮想線)と貫通部62Bとを一部重ねることで、開口部OP(ハッチングで示す領域)を形成してよい。また、開口部OPの大きさは、開口率調整部材61Aと開口率調整部材61Bとのずれ量を調整することで、制御可能である。このように、開口率調整部材61A,61Bは、互いのずれ量を調整することで、開口率を調整することができる。
【0043】
ここで、開口率調整部材61A,61Bの開口率について説明する。当該開口率は、照射方向から見たときの基準領域の面積を100%とした時の、当該基準領域内に形成された開口部OPの面積の合計の割合である。ここで、基準領域とは、
図2において「E1」で示す、基板11と重なる部分の領域としてよい。あるいは、基板11が載せられていない状態では、載置部材12と重なる部分の領域を基準領域としてよい。
図3(a)に示す例では、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造は、開口部OPを有していないため、開口率は0%となる。開口率調整部材61A,61Bのずれ量を調整したり、貫通部62A,62Bの大きさを調整して開口部OPを大きくすることで開口率が大きくなってゆく。なお、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造では、貫通部62A,62Bを完全に重ね合わせたときが、開口率の上限値となる。すなわち、貫通部62A,62Bを完全に重ね合わせても、基準領域E1は、開口率調整部材61Aの貫通部62A以外の部分の板部により塞がれる。従って、開口率の上限値は、100%以下となっている。ただし、場面によっては、基準領域E1から開口率調整部材61A,61B自体を取り除くことで、開口率を100%としてもよい。
【0044】
また、開口率調整部材の枚数が1枚でも良い。この場合、
図6(a)に示す様に基板11の上部を覆う一枚の板200で塞ぐ構造が採用される。当該構造では、板200の外側から供給物PMを回り込ませて照射する。
図6(a)の構造では、基準領域E1を基準としたときの開口率は0%となる。しかし、供給物PMが回り込む開口部の大きさは大きく、仮に当該開口部を基準領域E1と照らし合わせた場合、開口部の大きさは、開口率100%に相当する大きさとなってもよい。このような構成では、チャンバ2の断面積に対しての開口部の割合を調整する。電子の照射を許容する場合は、
図5に示すようなプラズマPの間欠制御を行うことなく、プラズマPを連続的に発生させてもよい。
【0045】
例えば、
図3に示す形態では、貫通部の大きさが基板11に比べて小さかった。ただし、開口率調整部材201,202の貫通部は、
図6(b)に示すように大きく形成されてもよい。例えば、貫通部の大きさは、「基板11のサイズ/2」の大きさなどとなってもよい。この場合、開口率調整部材201,202の重ね合わせ態様を調整することで、分布斑を抑制する。
【0046】
なお、開口率調整部材の形状は特に限定されるものではない。例えば、
図3(c)(d)に示すように、櫛歯状の貫通部64A,64Bを有する開口率調整部材63A,63Bを採用してもよい。開口率調整部材63A,63Bの貫通部64A,64Bのずれ量を調整することで、
図3(c)に示すように、開口率を0%としてもよく、
図3(d)に示すように、開口率を大きくしてもよい。なお、平板の入れ子構造を採用してもよい。また、
図3に示す例以外でも、様々な貫通部の形状が採用されてもよい。また、開口率調整部材の枚数も更に増やしてもよい。様々な組み合わせを採用することで、開口率調整部材の組み合わせに係る構造は、開口率を0%から100%まで調整可能であってよい。
【0047】
また、例えば、
図4に示す負イオン生成装置1の構成を採用してもよい。
図1に示す例では、照射室RM2はプラズマ室RM1よりもX軸方向の負側に広がっていた。ラジカル供給源4と基板11との間には段差が設けられており、基板11がプラズマPに対してX軸方向の負側にずれた位置に配置されていた。これに対し、
図4に示す負イオン生成装置1では、プラズマ室RM1と照射室RM2とのX軸方向の大きさが等しく、ラジカル供給源4と基板11との間には段差が設けられていない。磁場発生装置181によって、基板11に対して略平行な磁場が形成される。
【0048】
例えば、上記実施形態では、プラズマガン14を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン14は、チャンバ2内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
【0049】
また、上記実施形態では、プラズマガン14とプラズマPを導く陽極16の組がチャンバ2内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一箇所に対して、複数のプラズマガン14からプラズマPを供給してもよい。
【0050】
また、上述の実施形態では、ラジカル供給源として、プラズマPを用いてラジカルを生成するものが採用された。これに代えて、ラジカル供給源として、他の方法によってラジカルを生成するものを採用してよい。
【符号の説明】
【0051】
1…負イオン生成装置、2…チャンバ、4…ラジカル供給源、14…プラズマガン(プラズマ生成部)、80…磁場形成部、90…放電部。