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特許7382884モータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231110BHJP
【FI】
H02P27/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020064147
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021164280
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大場 隆志
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-77503(JP,A)
【文献】特開2012-147599(JP,A)
【文献】特開2013-220007(JP,A)
【文献】特開2007-166695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全アームのうち通電パターン毎に異なる一部のアームをオンすることで、ロータを有するモータを通電させるインバータと、
前記インバータの直流側に接続される電流検出器と、
前記全アームを前記ロータの空転中にオフさせる第1期間と前記一部のアームを前記空転中に第1通電パターンでオンさせる第2期間と前記一部のアームを前記空転中に第2通電パターンでオンさせる第3期間とを1周期に含む各相のPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記第2期間に前記電流検出器に流れる第1基準電流と前記第3期間に前記電流検出器に流れる第2基準電流とを検出する電流検出部と、を備える、モータ制御装置。
【請求項2】
前記第2期間と前記第3期間との合計期間は、前記第1期間よりも短い、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流検出部は、
前記インバータが前記ロータを回転させている時に前記電流検出器に流れる第1相の相電流を、前記第1相の前記第1基準電流に応じて補正し、
前記インバータが前記ロータを回転させている時に前記電流検出器に流れる第2相の相電流を、前記第2相の前記第2基準電流に応じて補正する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記PWM信号生成部は、
補正後の前記第1相の相電流を用いて、前記インバータが前記ロータを回転させている時の前記第1相のPWM信号を生成し、
補正後の前記第2相の相電流を用いて、前記インバータが前記ロータを回転させている時の前記第2相のPWM信号を生成する、請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記電流検出部は、
前記第1相の前記第1基準電流と前記第2相の前記第2基準電流から、第3相の第3基準電流を演算し、
前記インバータが前記ロータを回転させている時に前記電流検出器に流れる前記第3相の相電流を、前記第3相の前記第3基準電流に応じて補正する、請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記PWM信号生成部は、
補正後の前記第3相の相電流を用いて、前記インバータが前記ロータを回転させている時の前記第3相のPWM信号を生成する、請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、前記モータと、を備える、モータシステム。
【請求項8】
インバータの全アームのうち通電パターン毎に異なる一部のアームをオンすることで、ロータを有するモータを通電させるモータ制御装置が行うモータ制御方法であって、
前記全アームを前記ロータの空転中にオフさせる第1期間と前記一部のアームを前記空転中に第1通電パターンでオンさせる第2期間と前記一部のアームを前記空転中に第2通電パターンでオンさせる第3期間とを1周期に含む各相のPWM信号を生成し、
前記インバータの直流側に接続される電流検出器に前記第2期間に流れる第1基準電流と前記電流検出器に前記第3期間に流れる第2基準電流とを検出する、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ回路の直流母線に接続される1つのシャント抵抗を用いて、モータを制御するための各相の相電流を検出する1シャント電流検出方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-208071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1シャント電流検出方式でモータを制御する場合、インバータがロータを回転させる前(モータの起動前)に1シャントの電流検出器に流れる電流を検出する場合がある。モータの起動前に検出される電流は、例えば、モータの起動前の故障検出に利用されたり、モータがインバータにより起動しインバータがロータを回転させている時の電流検出や故障検出の精度向上に利用されたりする。
【0005】
しかしながら、インバータがロータを回転させる前にロータが空転しているときに、1シャントの電流検出器に流れる電流を検出すると、空転中のロータに発生する回生ブレーキによってロータの回転が阻害されることがある。空転中のロータの回転が阻害されると、例えば、モータの減速や異音などの意図しない挙動が発生するおそれがある。
【0006】
本開示は、電流検出器に流れる電流を検出することによりロータの空転が阻害されることを軽減可能なモータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施の形態に係るモータ制御装置は、
全アームのうち通電パターン毎に異なる一部のアームをオンすることで、ロータを有するモータを通電させるインバータと、
前記インバータの直流側に接続される電流検出器と、
前記全アームを前記ロータの空転中にオフさせる第1期間と前記一部のアームを前記空転中に第1通電パターンでオンさせる第2期間と前記一部のアームを前記空転中に第2通電パターンでオンさせる第3期間とを1周期に含む各相のPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記第2期間に前記電流検出器に流れる第1基準電流と前記第3期間に前記電流検出器に流れる第2基準電流とを検出する電流検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電流検出器に流れる電流を検出することによりロータの空転が阻害されることを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態1に係るモータシステムの構成例を示す図である。
図2】複数のPWM信号の波形と、これらのPWM信号の一周期当たりのキャリアの波形と、各相の相電圧指令の波形とを例示する図である。
図3】通電時の各アームのスイッチング状態の一例を示す図である。
図4】非通電時の各アームのスイッチング状態の一例を示す図である。
図5】いずれもデューティ比が50%の各相のPWM信号に従ってインバータの全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器に流れる各相のオフセット電流を例示するタイミングチャートである。
図6】いずれかのデューティ比が50%とは異なる各相のPWM信号に従ってインバータがロータを回転させている時に図5と同じ一部のアームをオンさせることで電流検出器に流れる各相の相電流を例示するタイミングチャートである。
図7】インバータがロータを回転させる前に電流検出器に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の一比較例を示す図である。
図8】非通電区間で下アームが全てオン状態の場合を示す図である。
図9】非通電区間で上アームが全てオン状態の場合を示す図である。
図10】非通電区間で上下アームが全てオフ状態の場合を示す図である。
図11】インバータがロータを回転させる前に電流検出器に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の第1例を示す図である。
図12】いずれもデューティ比が50%の各相のPWM信号に従ってインバータの全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器に流れるU相電流の電流波形の一例を示す拡大図である。
図13】インバータがロータを回転させる前に電流検出器に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の第2例を示す図である。
図14】負のU相電流"-Iu"が電流検出器に流れるスイッチング状態を示す図である。
図15】正のU相電流"+Iu"が電流検出器に流れるスイッチング状態を示す図である。
図16】ロータの空転時のPWM信号の10周期におけるU相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。
図17図16に示す点線枠で囲まれた部分の拡大図である。
図18】U相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。
図19】W相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態に係るモータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本開示の実施の形態1に係るモータシステム1-1の構成例を示す図である。図1に示されるモータシステム1-1は、モータ4の回転動作を制御する。モータシステム1-1が搭載される機器は、例えば、コピー機、パーソナルコンピュータ、冷蔵庫、ポンプ等であるが、当該機器は、これらに限られない。モータシステム1-1は、モータ4と、モータ制御装置100-1とを少なくとも備える。
【0012】
モータ4は、複数のコイルを有する永久磁石同期モータである。モータ4は、例えば、U相コイルとV相コイルとW相コイルとを含む3相コイルを有する。モータ4の具体例として、3相のブラシレス直流モータなどが挙げられる。モータ4は、少なくとも一つの永久磁石が配置されるロータと、そのロータの軸回りに配置されるステータとを有する。モータ4は、ロータの磁石の角度位置(磁極位置)を検出する位置センサを使用しないセンサレス型のモータである。モータ4は、例えば、送風用のファンを回すファンモータである。
【0013】
モータ制御装置100-1は、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を3相のPWM信号を含む通電パターンに従いオンオフ(ON、OFF)制御することで、直流を3相交流に変換するインバータを介してモータを駆動する。モータ制御装置100-1は、インバータ23、電流検出部27、電流検出タイミング調整部34、駆動回路33、通電パターン生成部35、キャリア発生部37、及びクロック発生部36を備える。
【0014】
インバータ23は、直流電源21から供給される直流を複数のスイッチング素子のスイッチングによって3相交流に変換し、3相交流の駆動電流をモータ4に流すことによって、モータ4のロータを回転させる回路である。インバータ23は、通電パターン生成部35によって生成される複数の通電パターン(より具体的には、通電パターン生成部35内のPWM信号生成部32によって生成される3相のPWM信号)に基づいて、モータ4を駆動する。PWMとは、Pulse Width Modulation(パルス幅変調)を意味する。
【0015】
インバータ23は、3相ブリッジ接続された複数のアームUp,Vp,Wp,Un,Vn,Wnを有する。上アームUp,Vp,Wpは、それぞれ、直流電源21の正極側に正側母線22aを介して接続されるハイサイドスイッチング素子である。下アームUn,Vn,Wnは、それぞれ、直流電源21の負極側(具体的には、グランド側)に接続されるローサイドスイッチング素子である。複数のアームUp,Vp,Wp,Un,Vn,Wnは、それぞれ、上述の通電パターンに含まれるPWM信号に基づいて駆動回路33から供給される複数の駆動信号のうち、対応する駆動信号に従って、オン又はオフとなる。以下では、複数のアームUp,Vp,Wp,Un,Vn,Wnを、特に区別しない場合には、単にアームと称する場合がある。
【0016】
U相上アームUpとU相下アームUnとの接続点は、モータ4のU相コイルの一端に接続される。V相上アームVpとV相下アームVnとの接続点は、モータ4のV相コイルの一端に接続される。W相上アームWpとW相下アームWnとの接続点は、モータ4のW相コイルの一端に接続される。U相コイルとV相コイルとW相コイルとのそれぞれの他端は、互いに接続されている。
【0017】
アームの具体例として、Nチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが挙げられる。しかしながら、アームは、これらに限られない。
【0018】
電流検出器24は、インバータ23の直流側に接続され、インバータ23の直流側に流れる電流の電流値に対応する検出信号Sdを出力する。図1に示される電流検出器24は、負側母線22bに流れる電流の電流値に対応する検出信号Sdを発生させる。電流検出器24は、例えば、負側母線22bに配置される電流検出素子であり、より具体的には、負側母線22bに挿入されるシャント抵抗である。シャント抵抗等の電流検出素子は、自身に流れる電流の電流値に対応する電圧信号を検出信号Sdとして発生する。
【0019】
電流検出部27は、通電パターン生成部35によって生成される複数の通電パターン(より具体的には、3相のPWM信号)に基づいて、検出信号Sdを取得することによって、モータ4に流れるU,V,W各相の相電流Iu,Iv,Iwを検出する。より詳細には、電流検出部27は、複数の通電パターン(より具体的には、3相のPWM信号)に同期する取得タイミングで検出信号Sdを取得することによって、モータ4に流れるU,V,W各相の相電流Iu,Iv,Iwを検出する。検出信号Sdの取得タイミングは、電流検出タイミング調整部34により設定される。
【0020】
例えば、電流検出部27は、電流検出器24で発生するアナログ電圧の検出信号Sdを、電流検出タイミング調整部34により設定される取得タイミングでAD(Analog to Digital)変換器に取り込む。当該AD変換器は、電流検出部27に設けられている。そして、電流検出部27は、取り込んだアナログの検出信号Sdをデジタルの検出信号SdにAD変換し、AD変換後のデジタルの検出信号Sdをデジタル処理することによって、モータ4のU,V,W各相の相電流Iu,Iv,Iwを検出する。電流検出部27により検出された各相の相電流Iu,Iv,Iwの検出値は、通電パターン生成部35に供給される。
【0021】
クロック発生部36は、内蔵する発振回路により所定周波数のクロックを生成し、生成したクロックをキャリア発生部37へ出力する回路である。なお、クロック発生部36は、例えば、モータ制御装置100-1の電源が投入されると同時に、動作を開始する。
【0022】
キャリア発生部37は、クロック発生部36により生成されるクロックに基づいて、キャリアCを生成する。キャリアCは、レベルが周期的に増減する搬送波信号である。
【0023】
通電パターン生成部35は、インバータ23を通電させるパターン(インバータ23の通電パターン)を生成する。インバータ23の通電パターンは、モータ4を通電させるパターン(モータ4の通電パターン)と言い換えてもよい。インバータ23の通電パターンには、インバータ23を通電させる3相のPWM信号が含まれる。通電パターン生成部35は、電流検出部27により検出されるモータ4の相電流Iu,Iv,Iwの検出値に基づいて、モータ4が回転するようにインバータ23を通電させる3相のPWM信号を生成するPWM信号生成部32を有する。
【0024】
通電パターン生成部35は、インバータ23の通電パターンをベクトル制御により生成する場合、ベクトル制御部30を更に有する。なお、本実施の形態においてはベクトル制御によってインバータの通電パターンを生成しているが、これに限らず、vf制御等を用いて各相の相電圧を求めてもよい。
【0025】
ベクトル制御部30は、外部からモータ4の回転速度指令ωrefが与えられると、モータ4の回転速度の測定値又は推定値と、回転速度指令ωrefとの差分に基づいて、トルク電流指令Iqrefと励磁電流指令Idrefを生成する。ベクトル制御部30は、モータ4のU,V,W各相の相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、ロータ位置θを用いたベクトル制御演算により、トルク電流Iq及び励磁電流Idを算出する。ベクトル制御部30は、トルク電流指令Iqrefとトルク電流Iqとの差分に対して例えばPI制御演算を行い、電圧指令Vqを生成する。ベクトル制御部30は、励磁電流指令Idrefと励磁電流Idとの差分に対して例えばPI制御演算を行い、電圧指令Vdを生成する。ベクトル制御部30は、電圧指令Vq,Vdを上記のロータ位置θを用いてU,V,W各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。ロータ位置θは、モータ4のロータの磁極位置を表す。
【0026】
PWM信号生成部32は、ベクトル制御部30により生成される相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を、キャリア発生部37により生成されるキャリアCのレベルと比較することによって、3相のPWM信号を含む通電パターンを生成する。PWM信号生成部32は、上アーム駆動用の3相のPWM信号を反転させた下アーム駆動用のPWM信号も生成し、必要に応じてデッドタイムを付加した後、生成したPWM信号を含む通電パターンを駆動回路33に出力する。
【0027】
駆動回路33は、与えられたPWM信号を含む通電パターンに従い、インバータ23に含まれる6つのアームUp,Vp,Wp,Un,Vn,Wnをスイッチングさせる駆動信号を出力する。これにより、3相交流の駆動電流がモータ4に供給され、モータ4のロータが回転する。
【0028】
電流検出タイミング調整部34は、キャリア発生部37から供給されるキャリアCと、PWM信号生成部32により生成されるPWM信号を含む通電パターンとに基づいて、電流検出部27がキャリアCの1周期内で3つ相の相電流のうちのいずれかの相の相電流を検出するための取得タイミングを決定する。
【0029】
電流検出部27は、電流検出タイミング調整部34により決定される複数の取得タイミングで検出信号Sdを取得することによって、相電流Iu,Iv,Iwを検出する。電流検出部27は、一つの電流検出器24から複数の相電流を検出する方式(いわゆる、1シャント電流検出方式)で、相電流Iu,Iv,Iwを検出する。
【0030】
ところで、センサレス型の永久磁石同期電動機が停止しているときにロータの磁極位置(初期位置)を推定する方法として、インダクティブセンシングと呼ばれる手法がある。インダクティブセンシングとは、永久磁石同期モータのロータ磁石の磁極位置をインダクタンスのロータ位置依存性を利用して検出する手法である。この位置検出手法は、モータの誘起電圧を使用しないため、モータのロータが停止又は極低速の状態でもロータ磁石の磁極位置を検出できる。ロータが極低速の状態とは、モータ制御装置が誘起電圧を検出できない程度にロータが低速で回転している状態をいう。本明細書では、説明の便宜上、"ロータが停止又は極低速の状態"を、単に、"ロータの停止状態"という。
【0031】
本実施の形態1に係るモータ制御装置100-1は、インダクティブセンシングによって、モータのロータの停止状態での磁極位置である初期位置θsを推定する初期位置推定部38を備える。通電パターン生成部35は、初期位置推定部38により推定された初期位置θsを用いて、モータ4のロータを回転させるPWM信号を含む通電パターンを駆動回路33に出力する。ベクトル制御部30は、初期位置推定部38により推定された初期位置θsをロータ位置θの初期値として用いて、電圧指令Vq,Vdを相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。なお、本開示において、初期位置θsは一例として30度の幅を持った値となる。このような場合、初期位置θsに基づき定めた所定の値を用いて、モータ4の制御が行われる。
【0032】
図2は、複数のPWM信号U,V,Wの波形と、これらのPWM信号の一周期当たりのキャリアCの波形と、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の波形とを例示する図である。
【0033】
PWM信号生成部32は、各相の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*とキャリアCのレベルとの大小関係に基づいて、複数のPWM信号U,V,Wを生成する。
【0034】
PWM信号Uは、U相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子を駆動するためのPWM信号である。この例では、PWM信号Uがローレベルのとき、U相の下アームのスイッチング素子がオン(U相の上アームのスイッチング素子がオフ)となり、PWM信号Uがハイレベルのとき、U相の下アームのスイッチング素子がオフ(U相の上アームのスイッチング素子がオン)となる。PWM信号Uのレベルの変化に対して、U相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子は相補的にオンオフ動作する。
【0035】
PWM信号Vは、V相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子を駆動するためのPWM信号である。この例では、PWM信号Vがローレベルのとき、V相の下アームのスイッチング素子がオン(V相の上アームのスイッチング素子がオフ)となり、PWM信号Vがハイレベルのとき、V相の下アームのスイッチング素子がオフ(V相の上アームのスイッチング素子がオン)となる。PWM信号Vのレベルの変化に対して、V相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子は相補的にオンオフ動作する。
【0036】
PWM信号Wは、W相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子を駆動するためのPWM信号である。この例では、PWM信号Wがローレベルのとき、W相の下アームのスイッチング素子がオン(W相の上アームのスイッチング素子がオフ)となり、PWM信号Wがハイレベルのとき、W相の下アームのスイッチング素子がオフ(W相の上アームのスイッチング素子がオン)となる。PWM信号Wのレベルの変化に対して、W相の上下アームを構成する2つのスイッチング素子は相補的にオンオフ動作する。
【0037】
なお、図2では、上下アームの短絡防止のためのデッドタイムの図示が省略されている。また、図2では、PWM信号がハイレベルのとき、そのPWM信号に対応する相の上アームがオン、PWM信号がローレベルのとき、そのPWM信号に対応する相の下アームがオンと定義している。しかしながら、PWM信号の論理レベルと各アームのオンオフとの関係は、回路構成等を考慮して、反対に定義されてもよい。
【0038】
複数のPWM信号U,V,Wのそれぞれの1周期Tpwmは、キャリアCの周期(キャリア周波数の逆数)に相当する。変化点(t1~t6)は、PWM信号の論理レベルが遷移するタイミングを表す。
【0039】
PWM信号生成部32は、図2に示すように、各相で共通の一つのキャリアCを用いて、各相のPWM信号を生成してもよい。位相tbを中心とする左右対称の三角波をキャリアCとしているため、各相のPWM信号の波形生成の回路構成を簡素化できる。キャリアCのカウンタは、位相taまでダウンカウント中であり、位相taから位相tbまでアップカウント中であり、位相tbからダウンカウント中である。このように、カウントアップ期間とカウントダウン期間とが繰り返される。なお、PWM信号生成部32は、各相のそれぞれに対応する複数のキャリアCを用いて各相のPWM信号を生成してもよいし、他の公知の方法で、各相のPWM信号を生成してもよい。
【0040】
図2は、第1電流検出タイミングTm1が通電期間T21に設定され、第2電流検出タイミングTm2が通電期間T22に設定される場合を例示する。なお、第1電流検出タイミングTm1及び第2電流検出タイミングTm2が設定される通電期間は、これらの期間に限られない。
【0041】
インバータ23がPWM変調された3相交流を出力している状態では、電流検出部27は、上アームUp,Vp,Wpに対する通電パターンに応じて、特定の相の電流を検出できる。あるいは、インバータ23がPWM変調された3相交流を出力している状態では、電流検出部27は、下アームUn,Vn,Wnに対する通電パターンに応じて、特定の相の電流を検出してもよい。
【0042】
例えば図2のように、通電時間T21において、電流検出器24の両端に発生する電圧の電圧値は、モータ4のU相端子から流出する正のU相電流"+Iu"の電流値に対応する。通電時間T21は、t4からt5までの時間である。通電時間T21は、下アームUn及び上アームVp,Wpがオン且つ残りの3つのアームがオフの状態の期間に相当する。したがって、電流検出部27は、通電時間T21内の第1電流検出タイミングTm1で検出信号Sdを取得することによって、モータ4のU相端子から流出する正のU相電流"+Iu"の電流値を検出できる。
【0043】
電流検出タイミング調整部34は、PWM信号の内の1相が他の2相と異なる論理レベルに遷移する時(例えば、U相のPWM信号がV相及びW相と同じハイレベルから、V相及びW相と異なるローレベルに遷移するタイミング:t4)から所定の遅延時間td経過時に第1電流検出タイミングTm1を設定する。このとき、電流検出タイミング調整部34は、通電時間T21内に、第1電流検出タイミングTm1を設定する。
【0044】
また、例えば図2のように、通電時間T22において、電流検出器24の両端に発生する電圧の電圧値は、モータ4のW相端子から流入する負のW相電流"-Iw"の電流値に対応する。通電時間T22は、t5からt6までの時間である。通電時間T22は、下アームUn,Vn及び上アームWpがオン且つ残りの3つのアームがオフの状態の期間に相当する。したがって、電流検出部27は、通電時間T22内の第2電流検出タイミングTm2で検出信号Sdを取得することによって、モータ4のW相端子から流入する負のW相電流"-Iw"の電流値を検出できる。
【0045】
電流検出タイミング調整部34は、PWM信号の内の1相が他の2相と異なる論理レベルに遷移する時(例えば、V相のPWM信号がW相と同じハイレベルから、U相と同じローレベルに遷移したことで、W相がU相及びV相と異なる論理レベルとなるタイミング:t5)から、所定の遅延時間td経過時に、第2電流検出タイミングTm2を設定する。このとき、電流検出タイミング調整部34は、通電時間T22内に、第2電流検出タイミングTm2を設定する。
【0046】
同様に、電流検出部27は、他の相電流の電流値も検出できる。
【0047】
このように、3相のPWM信号を含む通電パターンに応じて相電流Iu,Iv,Iwのうち、2相の相電流を順次検出して記憶すれば、3相分の電流を時分割で検出することが可能となる。3相の相電流の総和が零であることから(iu+iv+iw=0)、電流検出部27は、3相の相電流うち2相の相電流を検出できれば、残り1相の相電流も検出できる。
【0048】
図3は、通電時の各アームのスイッチング状態の一例を示す図である。図4は、非通電時の各アームのスイッチング状態の一例を示す図である。図3に示すように、上アームUp及び下アームVn,Wnがオン且つ残りの3つのアームがオフの状態の通電期間では、電流検出部27は、モータ4のU相端子から流入する負のU相電流"-Iu"の電流値を検出できる。一方、図4に示すように、全ての上アームUp,Vp,Wpがオン且つ全ての下アームUn,Vn,Wnがオフの状態では、電流が電流検出器24に流れないため、電流検出部27は、各相の相電流を検出できない。全ての上アームUp,Vp,Wpがオフ且つ全ての下アームUn,Vn,Wnがオンの状態でも、電流が電流検出器24に流れないため、電流検出部27は、各相の相電流を検出できない。
【0049】
このように、1シャント電流検出方式では、通電区間(通電時間)を設けなければ、各相の相電流を検出できない。1シャント電流検出方式では、一つの通電時間で検出できる相電流は1相分だけであるので、PWM信号の1周期の間に少なくとも2つの通電時間を設けて(図2参照)、式(iu+iv+iw=0)に基づいて3相の相電流を区別して検出する。しかしながら、各相の相電流を区別して検出するために通電時間を設けると、電流検出器24に流れる電流は増幅されてしまうので、電流検出部27は、電流検出器24に流れる電流が零のときに各相の相電流の検出値に含まれる検出誤差をそれぞれ測定できない。
【0050】
そこで、モータが停止中の時、いずれもデューティ比が同一値の各相のPWM信号に従ってインバータ23の全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器24に流れる各相の電流をオフセット電流と定義する場合がある。この場合、電流検出部27は、いずれもデューティ比が同一値の各相のPWM信号に従ってインバータ23の全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器24に流れる各相のオフセット電流の電流値をオフセット電流値(検出誤差)として検出する。
【0051】
図5は、一例としていずれもデューティ比が50%の場合の各相のPWM信号に従ってインバータ23の全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器24に流れる各相のオフセット電流を例示するタイミングチャートである。図6は、いずれかのデューティ比が50%とは異なる各相のPWM信号に従ってインバータ23がロータを回転させている時に図5と同じ一部のアームをオンさせることで電流検出器24に流れる各相の相電流を例示するタイミングチャートである。
【0052】
図5において、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させる前(モータ4の起動前)に、PWM信号の1周期ごとに少なくとも2回の電流検出を行うことで、3相のオフセット電流の各々の電流値を検出する。電流検出部27は、検出した各々の電流値を3相のオフセット電流値としてメモリに記憶する。図5は、電流検出部27が正のU相電流"Iu"と負のW相電流"-Iw"の各々のオフセット電流値を検出し、それらの検出結果から残りのV相電流のオフセット電流値を検出(演算)し、検出した3相のオフセット電流値をメモリに記憶する場合を例示する。3相のオフセット電流値がメモリに記憶された後、モータ4がインバータ23により起動し、インバータ23がロータを回転させる。
【0053】
図6において、電流検出部27は、いずれかのデューティ比が50%とは異なる各相のPWM信号に従ってインバータ23がロータを回転させている時に、PWM信号の1周期ごとに図5と同じ通電パターンで少なくとも2回の電流検出を行うことで、3相の相電流の各々の電流値を検出する。電流検出部27は、PWM信号の1周期ごとに検出される3相の相電流の各々の電流値から、メモリに事前に記憶した3相のオフセット電流値を、PWM信号の1周期ごとに差し引くことで、3相の相電流Iu,Iv,Iwのそれぞれの電流検出値を演算する。これにより、3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値から検出誤差が除去される。PWM信号生成部32は、検出誤差が除去された3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値に基づいて、インバータ23がロータを回転させている時の3相のPWM信号を生成することで、モータ4の回転をインバータ23により高精度に制御できる。
【0054】
ところが、インバータ23がロータを3相の交流電流で回転させていない状態でも、ロータは、風などの外乱により空転していることがある。特に、摩擦抵抗が比較的小さいファンなどの回転体を回転させるロータは、空転しやすい。インバータ23がロータを3相の交流電流で回転させる前にロータが空転しているときに、電流検出器24に流れる電流を検出すると、空転中のロータに発生する回生ブレーキによってロータの回転が阻害されることがある。空転中のロータの回転が阻害されると、例えば、モータ4の減速や異音などの意図しない挙動が発生するおそれがある。
【0055】
図7は、インバータがロータを回転させる前に電流検出器に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の一比較例を示し、各相のPWM信号のデューティ比がいずれも50%の場合を例示する。各相のPWM信号の波形によって、回生電流が流れる期間(回生区間)と回生電流が流れない期間(非回生区間)が発生する。図7に示す非通電区間が、回生区間に相当する。回生区間(非通電区間)では、上下どちらかのアームが全てオン状態になっている。
【0056】
図8は、非通電区間で下アームが全てオン状態の場合を示す図であり、図7の両側の非通電区間におけるスイッチング状態を示す。図9は、非通電区間で上アームが全てオン状態の場合を示す図であり、図7の両側の非通電区間に挟まれる中間の非通電区間におけるスイッチング状態を示す。風などの外力によりモータ4のロータが空転すると、ロータの空転によってモータ4の各相のコイルに誘起電圧が発生する。これらの誘起電圧によって、図8,9に示すように、図7に示す非通電区間では、モータ4からインバータ23への回生電流が発生し、空転中のロータに回生ブレーキがかかる。空転中のロータの回転が回生ブレーキによって阻害されると、例えば、モータの減速や異音などの意図しない挙動が発生するおそれがある。
【0057】
<ロータの空転時の電流検出方法1>
本開示における"ロータの空転時の電流検出方法1"では、PWM信号生成部32は、非通電区間で回生電流が流れないように、図10に示すように、インバータ23の全アームをオフ状態に設定する各相のPWM信号を生成する。これにより、ロータが空転していても、非通電区間ではインバータ23の全アームがオフ状態になっているので、モータ4からインバータ23に流れる回生電流が理論的には発生しない。したがって、空転中のロータに発生する回生ブレーキによってロータの回転が阻害されることが軽減され、例えば、モータ4の減速や異音などの意図しない挙動が発生する可能性を低減できる。
【0058】
図11は、インバータがロータを回転させる前に電流検出器に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の第1例を示す図である。インバータ23は、全アームのうち通電パターン毎に異なる一部のアームをオンすることで、ロータを有するモータ4を通電させる。PWM信号生成部32は、全アームをロータの空転中にオフさせる第1期間と一部のアームをロータの空転中に第1通電パターンでオンさせる第2期間と一部のアームをロータの空転中に第2通電パターンでオンさせる第3期間とを1周期に含む各相のPWM信号を生成する。これにより、図11に示すような各アームのスイッチング状態が得られる。
【0059】
図11に示す例において、全アームがオフ状態になっている非通電区間T1は、第1期間の一例であり、一部のアームが第1通電パターンでオン状態になっている電流検出区間の前半区間T2は、第2期間の一例であり、一部のアームが第2通電パターンでオン状態になっている電流検出区間の後半区間T3は、第3期間の一例である。
【0060】
電流検出区間の前半区間T2(第2期間の一例)では、下アームUn及び上アームVp,Wpが第1通電パターンでオン状態になっているので、モータ4のU相端子から流出する正のU相電流"+Iu"が電流検出器24に流れる。電流検出区間の後半区間T3(第3期間の一例)では、下アームUn,Vn及び上アームWpが第2通電パターンでオン状態になっているので、モータ4のW相端子から流入する負のW相電流"-Iw"が電流検出器24に流れる。電流検出部27は、前半区間T2に電流検出器24に流れる第1基準電流(この例では、正のU相電流"+Iu")と後半区間T3に電流検出器24に流れる第2基準電流(この例では、負のW相電流"-Iw")とを検出する。
【0061】
このように、電流検出方法1によれば、非通電区間T1では、全アームがオフ状態になっているので、回生ブレーキを発生させる不要なトルクの発生が抑制される。よって、インバータ23がロータを3相の交流電流で回転させる前にロータが空転しているときに、電流検出部27が電流検出器24に流れる電流を電流検出区間に検出しても、全アームがオフ状態の非通電区間T1が存在するので、ロータの空転が阻害されにくい。
【0062】
図11に示す例では、第2期間と第3期間との合計期間の一例である電流検出区間は、第1期間の一例である非通電区間よりも短く設定されている。非通電区間では、回生ブレーキ状態は遮断されていることから、回生ブレーキを発生させる不要なトルクの発生が抑制される。一方、電流検出区間は非通電区間よりも短いので、電流検出区間内の通電時間には微小な電流しか流れない。よって、インバータ23がロータを3相の交流電流で回転させる前にロータが空転しているときに、電流検出部27が電流検出器24に流れる電流を電流検出区間に検出しても、空転中のロータの回転が阻害されることが軽減される。その結果、例えば、モータ4の減速や異音などの意図しない挙動の発生を抑制できる。
【0063】
例えば、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第1相の相電流を、第2期間に検出された第1相の第1基準電流に応じて補正してもよい。同様に、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第2相の相電流を、第2期間に検出された第2相の第2基準電流に応じて補正してもよい。例えば、第1相はU相、第2相はW相であるが、他の組み合わせでもよい。1周期のうちの第1期間では電流検出器24に電流が流れないので、第2期間に電流検出器24に流れる第1基準電流と第3期間に電流検出器24に流れる第2基準電流とを、上述のオフセット電流のような2相の基準電流として扱うことができる。
【0064】
電流検出部27は、例えば、第2期間に検出された第1相の第1基準電流と第3期間に検出された第2相の第2基準電流から、3相の相電流の総和が零であることを利用して、ロータの空転中に電流検出器24に流れる第3相の第3基準電流を検出(演算)してもよい。第3相の第3電基準流も、上述のオフセット電流のような1相の基準電流として扱うことができる。第3相は、例えばV相である。電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第3相の相電流を、検出(演算)された第3相の第3基準電流に応じて補正してもよい。
【0065】
例えば、第1相の第1基準電流の値を第1基準電流値とし、第2相の第2基準電流の値を第2基準電流値とし、第3相の第3基準電流の値を第3基準電流値とする。電流検出部27は、第2期間に第1基準電流値を検出し、第3期間に第2基準電流値を検出し、それらの検出結果から残りの第3基準電流値を検出(演算)し、検出した3相の基準電流値をメモリに記憶する。3相の基準電流値がメモリに記憶された後、モータ4がインバータ23により起動し、インバータ23がロータを回転させる。
【0066】
電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に、PWM信号の1周期ごとに図11と同じ通電パターンで少なくとも2回の電流検出を行うことで、3相の相電流の各々の電流値を検出する。電流検出部27は、PWM信号の1周期ごとに検出される3相の相電流の各々の電流値から、メモリに事前に記憶した3相の基準電流値を、PWM信号の1周期ごとに差し引くことで、3相の相電流Iu,Iv,Iwのそれぞれの電流検出値を演算する。これにより、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる各相の相電流を、各相の基準電流に応じて補正することになるので、3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値から検出誤差が除去される。PWM信号生成部32は、検出誤差が除去された補正後の3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値を用いて、インバータ23がロータを回転させている時の3相のPWM信号を生成することで、モータ4の回転をインバータ23により高精度に制御できる。
【0067】
なお、上記以外の方法として、例えば、PWM機能を用いず、汎用ポート機能を使用して、ポートからオン/オフ信号を出力するだけで、図10の状態を作り出してもよい。
【0068】
<ロータの空転時の電流検出方法2>
次に、本開示における"ロータの空転時の電流検出方法2"について説明する。
【0069】
図12は、一例としていずれもデューティ比が50%の各相のPWM信号に従ってインバータの全アームのうち一部のアームをオンさせることで電流検出器24に流れるU相電流の電流波形の一例を示す拡大図である。図12において、上段の波形は、ロータの停止時を示し、下段の波形は、ロータの空転時を示す。図12は、PWM信号が約16周期分の波形を例示する。両波形は、ほぼ変化なく上下にずれており、この上下のずれは、ロータの空転によってモータ4の各相のコイルに発生する誘起電圧に起因する。
【0070】
図13は、インバータがロータを回転させる前に電流検出器24に流れる電流の電流値を検出するときのPWM信号の波形の第2例を示す図である。インバータ23は、全アームのうち通電パターン毎に異なる一部のアームをオンすることで、ロータを有するモータ4を通電させる。PWM信号生成部32は、一部のアームをロータの空転中に第1通電パターンでオンさせる第1区間と一部のアームをロータの空転中に第2通電パターンでオンさせる第2区間と全ての上アーム又は全ての下アームをロータの空転中に第3通電パターンでオンさせる第3区間とを含む第1周期区間とを有する各相のPWM信号を、いずれも同一値のデューティ比で生成する。これにより、図13に示すような各アームのスイッチング状態が得られる。
【0071】
図13に示す例において、一部のアームが第1通電パターンでオン状態になっている第1電流検出区間P1(検出1回目のタイミングを含む期間)は、第1区間の一例であり、一部のアームが第2通電パターンでオン状態になっている第2電流検出区間P2(検出2回目のタイミングを含む期間)は、第2区間の一例である。全ての上アームがオン状態且つ全ての下アームがオフ状態になっている非通電区間P3は、第3区間の一例である。この例では、第3区間は、第1区間と第2区間との間に存在する。
【0072】
第1電流検出区間P1(第1区間の一例)では、上アームUp及び下アームVn,Wnが第1通電パターンでオン状態になっているので、モータ4のU相端子から流入する負のU相電流"-Iu"が電流検出器24に流れる(図14参照)。第2電流検出区間P2(第2区間の一例)では、下アームUn及び上アームVp,Wpが第2通電パターンでオン状態になっているので、モータ4のU相端子から流出する正のU相電流"+Iu"が電流検出器24に流れる(図15参照)。電流検出部27は、第1区間に電流検出器24に流れる第1相の第1電流値と第2区間に電流検出器24に流れる第1相の第2電流値とを検出する。この例では、第1電流値は、負のU相電流"-Iu(=Iv+Iw)"の電流値であり、第2電流値は、正のU相電流"+Iu"の電流値である。
【0073】
電流検出方法2では、電流検出部27は、PWM信号の1周期内において検出される第1相の相電流が対となることを利用し、第1相の第1電流値と第1相の第2電流値との和の半分と零との差分を誘起電圧による影響分として検出する。そして、電流検出部27は、検出した誘起電圧による影響分を、1回目又は2回目の検出タイミングで検出された第1電流値又は第2電流値から差し引くことで、第1相のオフセット電流値を演算する。電流検出部27は、第1相以外の第2相又は第3相についても、同様の手法で、ロータの空転中でもオフセット電流値を演算することができる。
【0074】
図16は、ロータの空転時のPWM信号の10周期(例えば、400μs)におけるU相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。図17は、図16に示す点線枠で囲まれた部分の拡大図であり、ロータ空転時のPWM信号の1周期(例えば、40μs)におけるU相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。U相は、第1相の一例である。
【0075】
電流検出部27は、第1区間の検出1回目に電流検出器24に流れるU相の第1電流値(-Iu+e)と第2区間の検出2回目に電流検出器24に流れるU相の第2電流値(Iu+e)との和の半分を算出することで、誘起電圧による影響成分eを導出できる。図16,17に示す例では、電流検出部27は、検出2回目のU相の第2電流値(Iu+e)から影響成分eを差し引くことで、U相オフセット電流値Iuを算出できる。
【0076】
このように、電流検出方法2によれば、PWM信号の1周期の時間で、U相オフセット電流値を算出できる。つまり、ロータの空転中でもU相オフセット電流値を短時間で算出できるので、ロータの空転が阻害されにくい。その結果、例えば、モータ4の減速や異音などの意図しない挙動の発生を抑制できる。
【0077】
図18は、U相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。図19は、W相オフセット電流値を演算する処理の一例を示す波形図である。図19に示されるように、W相オフセット電流値(又は、V相オフセット電流値)も、U相オフセット電流値と同様に算出できる。
【0078】
図18は、PWM信号生成部32が第1周期区間を有する各相のPWM信号をいずれも50%のデューティ比で生成する場合を例示する。PWM信号生成部32は、一部のアームをロータの空転中に第1通電パターンでオンさせる第1区間Q1と一部のアームをロータの空転中に第2通電パターンでオンさせる第2区間Q2と全ての上アーム又は全ての下アームをロータの空転中に第3通電パターンでオンさせる第3区間Q3とを含む第1周期区間を有する各相のPWM信号を生成する。図18に示す例では、第1周期区間は、検出1回目のタイミングを含む第1区間Q1と検出2回目のタイミングを含む第2区間Q2と全ての上アームをオンさせる第3区間Q3とを含む。電流検出部27は、第1区間Q1に電流検出器24に流れる第1相の第1電流値と第2区間Q2に電流検出器24に流れる第1相の第2電流値との和の半分を、第1電流値又は第2電流値から差し引く。この例では、電流検出部27は、第2電流値から差し引くことで、第1相のオフセット電流値を演算する。図18は、第1相がU相の場合を例示する。
【0079】
図19は、PWM信号生成部32が第2周期区間を有する各相のPWM信号をいずれも50%のデューティ比で生成する場合を例示する。PWM信号生成部32は、一部のアームをロータの空転中に第4通電パターンでオンさせる第4区間Q4と一部のアームをロータの空転中に第5通電パターンでオンさせる第5区間Q5と全ての上アーム又は全ての下アームをロータの空転中に第6通電パターンでオンさせる第6区間Q6とを含む第2周期区間を有する各相のPWM信号を生成する。図19に示す例では、第2周期区間は、検出1回目のタイミングを含む第4区間Q4と検出2回目のタイミングを含む第5区間Q5と全ての上アームをオンさせる第6区間Q6とを含む。電流検出部27は、第4区間Q4に電流検出器24に流れる第2相の第3電流値と第5区間Q5に電流検出器24に流れる第2相の第4電流値との和の半分を、第3電流値又は第4電流値から差し引く。この例では、電流検出部27は、第4電流値から差し引くことで、第2相のオフセット電流値を演算する。図19は、第2相がW相の場合を例示する。なお、第2周期区間は、第1周期区間に隣接する区間でもよいし、第1周期区間との間に一又は複数の周期区間を挟んだ区間でもよいし、第1周期区間と同じ区間でもよい。
【0080】
例えば、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第1相の相電流の電流値を、第1相のオフセット電流値に応じて補正してもよい。同様に、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第2相の相電流の電流値を、第2相のオフセット電流値に応じて補正してもよい。例えば、第1相はU相、第2相はW相であるが、他の組み合わせでもよい。
【0081】
電流検出部27は、例えば、第1相のオフセット電流値と第2相のオフセット電流値から、3相の相電流の総和が零であることを利用して、第3相のオフセット電流値を検出(演算)してもよい。第3相は、例えばV相である。電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる第3相の相電流を、検出(演算)された第3相のオフセット電流値に応じて補正してもよい。
【0082】
例えば、電流検出部27は、第1相のオフセット電流値を演算し、第2相のオフセット電流値を演算し、それらの演算結果から残りの第3相のオフセット電流値を演算し、演算した3相のオフセット電流値をメモリに記憶する。3相のオフセット電流値がメモリに記憶された後、モータ4がインバータ23により起動し、インバータ23がロータを回転させる。
【0083】
電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に、少なくとも2回の電流検出を行うことで、3相の相電流の各々の電流値を検出する。電流検出部27は、PWM信号の1周期ごとに検出される3相の相電流の各々の電流値から、メモリに事前に記憶した3相のオフセット電流値を、PWM信号の1周期ごとに差し引くことで、3相の相電流Iu,Iv,Iwのそれぞれの電流検出値を演算する。これにより、電流検出部27は、インバータ23がロータを回転させている時に電流検出器24に流れる各相の相電流を、各相のオフセット電流値に応じて補正することになるので、3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値から検出誤差が除去される。PWM信号生成部32は、検出誤差が除去された補正後の3相の相電流Iu,Iv,Iwの各々の電流検出値を用いて、インバータ23がロータを回転させている時の3相のPWM信号を生成することで、モータ4の回転をインバータ23により高精度に制御できる。
【0084】
なお、電流検出部27、通電パターン生成部35、電流検出タイミング調整部34、初期位置推定部38の各機能は、不図示の記憶装置に読み出し可能に記憶されるプログラムによってCPU(Central Processing Unit)が動作することにより実現される。例えば、これらの各機能は、CPUを含むマイクロコンピュータにおけるハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。
【0085】
以上、モータ制御装置、モータシステム及びモータ制御方法を実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0086】
例えば、インバータの直流側に流れる電流の電流値に対応する検出信号を出力する電流検出器は、正側母線に流れる電流の電流値に対応する検出信号を出力するものでもよい。また、電流検出器は、CT(Current Transformer)等のセンサでもよい。
【符号の説明】
【0087】
1-1 モータシステム
4 モータ
21 直流電源
22a 正側母線
22b 負側母線
23 インバータ
24 電流検出器
27 電流検出部
30 ベクトル制御部
32 PWM信号生成部
33 駆動回路
34 電流検出タイミング調整部
35 通電パターン生成部
36 クロック発生部
37 キャリア発生部
38 初期位置推定部
100-1 モータ制御装置
Up,Vp,Wp,Un,Vn,Wn アーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19