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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】肌状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20231110BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61B5/00 M
G01N21/27 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020079264
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021171473
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】沖山 夏子
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-033944(JP,A)
【文献】特開平09-149903(JP,A)
【文献】特開2015-188665(JP,A)
【文献】特開2012-032174(JP,A)
【文献】特開2015-135659(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0182323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肌に対し光を照射する工程であって、非対象領域を挟んで離間する対象領域のそれぞれの一部または全部を少なくとも含む照射領域に光を同時照射する、光照射工程と、
前記光照射工程で照射された光の反射光を撮像して画像データを取得する、画像データ取得工程と、
前記画像データを用いて前記反射光の強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、肌状態評価工程と、
を含む、肌状態評価方法。
【請求項2】
前記光照射工程では、前記対象領域が互いに重複しない複数の離間パターンのそれぞれで、被験者の肌に光を照射し、
前記画像データ取得工程では、前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記画像データを取得し、
前記肌状態評価工程では、前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記画像データを用いて前記強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、
請求項1に記載の肌状態評価方法。
【請求項3】
前記肌状態評価工程では、前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記画像データを用いて統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて前記強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、
請求項2に記載の肌状態評価方法。
【請求項4】
前記肌状態評価工程では、
前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記画像データを用いて、単位領域ごとに、前記複数の離間パターンのそれぞれにおける前記反射光の強度の最大値を抽出し、当該抽出した最大値を組み合わせることで、前記統合評価データを生成する、
または、前記画像データのうちの前記対象領域に対応する画像データを前記複数の離間パターンのそれぞれにおいて抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせることで、前記統合評価データを生成する、
請求項3に記載の肌状態評価方法。
【請求項5】
前記複数の離間パターンのそれぞれに対応する前記対象領域は、互いに相補的である、
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の肌状態評価方法。
【請求項6】
前記複数の離間パターンのそれぞれを構成する前記対象領域は、いずれも複数の矩形領域で構成され、
前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記複数の矩形領域は、いずれも、正方形かつ同一の面積であり、
前記複数の離間パターンのそれぞれにおいて、前記矩形領域の間隔が、いずれも、前記矩形領域の一辺長の2倍である、
請求項5に記載の肌状態評価方法。
【請求項7】
前記光照射工程では、
前記複数の離間パターンのそれぞれにおいて、前記対象領域の並び方向に向かって当該対象領域よりも相似的に大きい前記照射領域に対して光を照射し、
前記肌状態評価工程では、
前記複数の離間パターンのそれぞれに係る前記画像データを用いて、単位領域ごとに、前記複数の離間パターンのそれぞれにおける前記反射光の強度の最大値を抽出し、当該抽出した最大値を組み合わせることで、統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて前記強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、
または、前記画像データのうちの前記対象領域に対応する画像データを前記複数の離間パターンのそれぞれにおいて抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせることで、前記統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて前記強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、
請求項5又は6に記載の肌状態評価方法。
【請求項8】
前記複数の離間パターンのそれぞれに対応する前記対象領域は、同一の面積である、
請求項2乃至7のいずれか一項に記載の肌状態評価方法。
【請求項9】
前記光照射工程では、偏光板を通して光を前記対象領域に向けて照射し、
前記画像データ取得工程では、前記光照射工程で用いられた偏光板と透過軸が直交する偏光板を通して前記反射光を撮像して前記画像データを取得する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の肌状態評価方法。
【請求項10】
被験者の肌に対し光を照射するものであって、非対象領域を挟んで離間する対象領域のそれぞれの一部または全部を少なくとも含む照射領域に光を同時照射する、光照射部と、
前記光照射部から照射された光の反射光を撮像して画像データを取得する、画像データ取得部と、
前記画像データを用いて前記反射光の強度斑を評価するための評価用データを生成する、肌状態評価部と、
を含む、肌状態評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌状態の評価方法および肌状態の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の肌を撮像し、撮像した画像を用いて肌状態を客観的に評価する種々の手法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被験者の肌を撮像し、撮像した画像に係る単位画素間の色差と明暗が平均的に分布するかどうかを示すばらつき指数を算出し、当該算出したばらつき指数を用いて、被験者の肌状態を評価することが記載されている。
特許文献2には、被験者の肌に照射位置をスイープさせながら線状または点状の光を照射し、照射位置ごとに当該肌を撮像し、照射位置ごとに当該照射位置から所定距離だけ離れた肌領域の画像の集合からなる画像データを用いて、被験者の肌状態を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-187879号公報
【文献】特開2014-33944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、肌の撮像時に受光される反射光には、当該肌の外からの入射光が当該肌の内部を通って戻ってきた内部光が含まれ、内部光の広がりは、当該内部光に係る入射光が入射した肌領域の肌状態に依存する(詳細は、図4を用いて後述)。そのため、撮像された画像を用いて反射光の強度斑を評価することで、肌状態が評価可能となる。
【0006】
特許文献1では、肌の撮像時に、肌領域の全体に光が入射する。そのため、一の単位肌領域に係る肌状態に関わらず、当該一の単位肌領域への入射光に係る内部光が、当該一の単位肌領域に隣接する単位肌領域に回り込んでしまい、被験者の肌状態を評価する精度が低くなる虞がある。
また、特許文献2では、肌の撮像時に、肌領域のうちの連続する一部の肌領域に光が入射する。そのため、当該連続する一部の肌領域に、他の肌領域からの入射光に係る内部光が回り込まない。しかし、特許文献2の評価方法では、肌の撮像時に、当該連続する一部の肌領域を随時変えながら画像を取得する必要があり、測定に時間がかかる上、広範囲で起伏に富んだ領域を測ることができず、被験者の肌状態を評価する精度が低くなる虞がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも高精度で肌状態を評価可能な肌状態の評価方法および肌状態の評価装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被験者の肌に対し光を照射する工程であって、非対象領域を挟んで離間する対象領域のそれぞれの一部または全部を少なくとも含む照射領域に光を同時照射する、光照射工程と、前記光照射工程で照射された光の反射光を撮像して画像データを取得する、画像データ取得工程と、前記画像データを用いて前記反射光の強度斑を評価することにより、前記被験者の肌状態を評価する、肌状態評価工程と、を含む、肌状態の評価方法に関する。
【0009】
また、本発明は、被験者の肌に対し光を照射するものであって、非対象領域を挟んで離間する対象領域に向けて光を同時照射する、光照射部と、前記光照射部から照射された光の反射光を撮像して画像データを取得する、画像データ取得部と、前記画像データを用いて前記反射光の強度斑を評価するための評価用データを生成する、肌状態評価部と、を含む、肌状態の評価装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも高精度で肌状態を評価可能な肌状態の評価方法および肌状態の評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る肌状態の評価方法のフローである。
図2図2は、本実施形態に係る肌状態の評価方法における評価対象領域を構成するパターン領域の配置を模式的に示す図である。
図3図3は、本実施形態に係る肌状態の評価フローにおける照射領域の遷移を模式的に示す図である。
図4図4(a)および図4(b)は、内部光の広がりおよび反射光の強度分布を模式的に示す図であり、図4(a)は、塗布された化粧料が薄い場合を示し、図4(b)は、塗布された化粧料が厚い場合を示している。
図5図5(a)および図5(b)は、離間する照射領域に光が同時照射される場合における内部光の広がりおよび反射光の強度を模式的に示す図であり、図5(a)は、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みが異なる場合を示し、図5(b)は、離間する照射領域に形成された化粧膜がいずれも薄い場合を示している。
図6図6は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも大きくする変形例における照射領域の遷移を模式的に示す図である。
図7図7は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも小さくする変形例における照射領域の遷移を模式的に示す図である。
図8図8(a)~図8(c)は、単位パターン領域の並び方向に沿った画素値の変化を示す図であり、図8(a)は、本実施形態における統合評価データに係る画素値の変化を、図8(b)は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも大きくする変形例における統合評価データに係る画素値の変化を、図8(c)は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも小さくする変形例における統合評価データに係る画素値の変化を示す図である。
図9図9は、肌状態の評価装置を説明するための模式図である。
図10図10(a)は、実施例1における検証パターンに係るパラメータを示す図であり、図10(b)は、実施例1における検証パターンに係るパラメータを整理した表である。
図11図11(a)~図11(d)は、実施例1の検証パターンに係る評価で生成した統合評価データを画像化したものであり、図11(a)は、パターン1、図11(b)は、パターン2、図11(c)は、パターン3、図11(d)は、パターン4に係る肌状態の評価で生成した統合評価データを画像化したものを示す図である。
図12図12は、実施例2における化粧仕上がりの評価結果を整理した表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態の例(以降、本実施形態と称する)について説明する。なお、以下に挙げる実施形態は、本発明の技術思想を例示して説明するものであり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0013】
<本実施形態に係る肌状態の評価方法の概要>
本実施形態に係る肌状態の評価方法は、被験者の肌に、非対象領域を挟んで離間する対象領域(後述する照射対象の単位パターン領域)のそれぞれの一部または全部を少なくとも含む照射領域に光を同時照射する、光照射工程と、光照射工程で照射された光の反射光を撮像して画像データを取得する、画像データ取得工程と、画像データ取得工程で取得された画像データを用いて反射光の強度斑を評価することにより、被験者の肌状態を評価する、肌状態評価工程と、を含むものである。
【0014】
まず、照射した光の照射対象内部での回り込み距離は、肌状態によって変化するので、反射光の肌内部での回り込み距離の違いを画像化することができれば、肌状態を画像として明白に示すことができる。そのため前記画像を使って反射光の強度斑を評価することで、肌状態の評価が容易になる。特に、本実施形態では、後述するパターン照射により、照射光、反射光の角度の影響を除いた形で肌状態を評価すること等により、従来よりも高精度な肌状態の評価を実現している。なお、これらの原理の詳細は後述する。
【0015】
反射光の強度斑の評価とは、反射光の強度斑を定量的に評価することを指す。具体的な評価の方法は限定されないが、反射光の強度斑を定量的に評価する方法としては、例えば、取得された画像データから算出される分布値を用いて反射光の強度斑を評価する方法や、取得された画像データを可視化した画像に対する専門家による官能評価が挙げられる。ここで、分布値とは、画像データ内における反射光強度の均一性(または不均一性)を示す値であり、分散値には、標準偏差、分散、またはこれらの値を用いて演算される値等を利用することができる。
【0016】
肌状態とは、化粧料が塗布された肌の見た目の状態、または素肌の見た目の状態を指す。化粧料が塗布された見た目の状態としては、例えば、化粧料の塗布斑が挙げられる。化粧料とは、肌表面の状態を良好に保つため、あるいは肌表面の美観を増すことを目的としてヒトの皮膚に塗布されるもの全般を指す。なお、これらの化粧料は、まず、肌表面上に置かれ、その後に厚さが薄く、かつ均一になるように塗り広げられる。そのため、化粧料は、塗布される肌表面の起伏や水分量、塗布方法によって塗布斑が生じる。また、化粧料の塗布斑は、皮脂や汗等による化粧料の凝集や摩擦による剥離等の塗布後の要因によっても生じる。
また、素肌の見た目の状態としては、例えば、毛穴の汚れ、シミ、そばかす等の色斑や、毛穴やしわ等の肌表面の凹凸斑、テカリの原因とされる皮脂の量、発赤や炎症などの血行斑が挙げられる。
【0017】
反射光の強度斑を評価することによる肌状態の評価とは、反射光の強度斑の評価結果を用いて肌状態の良し悪しを定量的に評価することを指す。具体的な評価方法は限定されないが、例えば、反射光の強度斑と肌状態の良し悪しとに相関関係があることに起因し反射光の強度斑の評価結果自体を肌状態の評価としてもよい。
また、反射光の強度斑の評価結果と被験者の年齢とに基づいて、被験者の年齢に応じて肌状態の良し悪しを定量的に評価する等、反射光の強度斑の評価結果を用いて肌状態を評価してもよい。
【0018】
照射領域とは、光が照射される領域を指し、当該領域は、非対象領域を挟んで離間する対象領域と一致する領域であってもよいし、各対象領域の一部のみで構成される領域であってもよいし、さらには、各対象領域の全部を含みかつ非対象領域の一部を含む領域であってもよい。そのため、非対象領域とは、一部に光が照射される領域があってもよい。以降の説明では、対象領域と非対称領域を総称して、評価対象領域と称する場合がある。なお、詳細は後述するが、対象領域および非対称領域は、強度斑を評価する際の画像データの加工方法によっては、仮想的な領域であってもよい。
【0019】
同時照射とは、撮像時に複数の領域で構成される照射領域のすべてに光が同時に照射されることを指し、これらの照射領域に個別に光が照射されることを含まない。なお、光照射工程において照射される光には、可視光に限らず、紫外線や赤外線を採用してもよい。
【0020】
<本実施形態>
以下、図1を用いて、本実施形態に係る肌状態の評価方法を説明する。なお、当該説明を行うにあたっては、必要に応じて図2および図3を参照する。図1は、本実施形態に係る肌状態の評価方法のフローである。図2は、本実施形態に係る肌状態の評価方法における評価対象領域を構成するパターン領域の配置を模式的に示す図であり、図3は、本実施形態に係る肌状態の評価フローにおける照射領域の遷移を模式的に示す図である。
【0021】
図1に示す通り、本実施形態に係る肌状態の評価方法の最初のステップS101では、評価対象領域のうちの領域Aへの光照射および反射光の撮影(撮像)を行い、領域Aへの光照射時における画像データを取得する。
ステップS102では、評価対象領域のうちの領域Bへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Bへの光照射時における画像データを取得する。
ステップS103では、評価対象領域のうちの領域Cへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Cへの光照射時における画像データを取得する。
ステップS109では、評価対象領域のうちの領域Iへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Iへの光照射時における画像データを取得する。
なお、ステップS104~ステップS108の図示は省略するが、ステップS104では、評価対象領域のうちの領域Dへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Dへの光照射時における画像データを取得し、ステップS105では、評価対象領域のうちの領域Eへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Eへの光照射時における画像データを取得し、ステップS106では、評価対象領域のうちの領域Fへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Fへの光照射時における画像データを取得し、ステップS107では、評価対象領域のうちの領域Gへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Gへの光照射時における画像データを取得し、ステップS108では、評価対象領域のうちの領域Hへの光照射および反射光の撮影を行い、領域Hへの光照射時における画像データを取得する。
なお、以降の説明では、領域A、領域B、領域C、領域D、領域E、領域F、領域G、領域H、および領域I(以下、領域A~領域Iと表記する場合がある)のそれぞれを単位パターン領域と称し、単位パターン領域を総称してパターン領域と称する場合がある。
【0022】
図2に示す通り、評価対象領域は、正方形かつ同一面積の領域A~領域Iが一定の順序で配置されて構成される。より具体的には、評価対象領域は、上段に領域A、領域B、領域C、中段に領域D、領域E、領域F、下段に領域G、領域H、領域Iで構成されるパターン領域の一サイクルが、上下および左右の方向に連続的に配置される。
そのため、領域A~領域Iのそれぞれは、評価対象領域内で上下および左右のいずれの方向にも二つの単位パターン領域を挟んで配置される。そして、ステップS101~ステップS109が実行されることにより、照射領域(図3においてハッチングが施された領域)は、図3に示す順序で遷移し、当該照射領域のそれぞれは、各単位パターン領域と一致する。
特に、領域A~領域Iは、互いに重複しない領域であり、これにより、単位パターン領域の配置を効率化している。
【0023】
ステップS110では、取得した画像データのそれぞれに対してリニア変換を行い、当該画像データを構成する画素値が光量(光の強度)と比例関係になるように、当該画素値を補正する。
ステップS111では、ホワイトバランスおよび照度補正を行う。
なお、これらの補正は必要に応じて行えばよく、例えば、元々、画像データを取得するカメラが出力する画像の特性として画素値が光量と比例している場合には、リニア変換を行わなくてよい。また、各画像データの明るさが充分揃っている場合には、ホワイトバランス及び照度補正を画像データごとに行う必要はなく、後述のステップ112の後で統合評価データに対してこれらの補正を行うようにしてもよい。
【0024】
ステップS112では、上述の補正を行った画像データから、共通する画素ごとの画素値の最大値を抽出し、当該抽出した最大値の組み合わせで構成される統合評価データを生成する。
なお、当該方法で統合評価データを生成する場合には、当該統合評価データを生成するにあたり、各画像データがいずれの単位パターン領域に対応する画像データであるかを識別する必要がない。そのため、本実施形態では、各単位パターン領域が仮想的な領域であってもよい。
【0025】
ステップS113では、生成した統合評価データにおける標準偏差を算出する。なお、算出した標準偏差を画素値の平均値で除する等、標準偏差に対して所定の演算を行ってもよい。さらに、取得される画像がRGBの各画素を持つカラー画像の場合には、当該算出される標準偏差として、RGBの各標準偏差の重み付き平均を用いてもよいし、特定の画素(例えば、G)の標準偏差を用いてもよい。
ステップS114では、算出した標準偏差を用いて反射光の強度斑を評価することにより、肌状態を評価する。
【0026】
このように、本実施形態に係る肌状態の評価方法では、二つの単位パターン領域を挟んで離間する単位パターン領域に光を同時照射し、その際の反射光を撮像して画像データを取得する。そして、取得した画像データから統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データから算出される標準偏差を用いて反射光の強度斑を評価することにより、肌状態を評価する。
なお、統合評価データは、取得した画像データごとの照射対象である単位パターン領域に対応する画像データを抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせたものとしてもよい。このようにした場合であっても、統合評価データから算出される標準偏差を用いて反射光の強度斑を評価することができる。この場合に、各単位パターン領域は、仮想的な領域ではなく、識別された領域とする必要がある。
また、統合評価データを画像化し、当該画像化した画像の目視により肌状態を評価することもできる。
【0027】
特に、本実施形態では、複数の単位パターン領域が互いに相補的である。これによれば、単位パターン領域の配置をより効率的にすることができるとともに、単位パターン領域の組み合わせにより、いずれの面方向においても連続的な評価対象領域を構成することができる。
【0028】
なお、複数の単位パターン領域を互いに相補的にするにあたり、パターン領域を構成する各単位パターン領域の配置は本実施形態の内容に限られない。例えば、パターン領域が、2×2(上下方向に2個、左右方向に2個)の計4個の単位パターン領域で構成されてもよいし、1×2(上下方向に1個、左右方向に2個)または2×1(上下方向に2個、左右方向に1個)の計2個の単位パターン領域で構成されてもよい。ここで、上下方向または左右方向に1個とは、各方向に単位パターンを構成する領域が連続的に存在することを指す。
ただし、パターン領域が計4個の単位パターン領域で構成される場合には、当該パターン領域が計2個の単位パターン領域で構成される場合と比較して、単位パターン領域が配置される数が多い方向(上下方向または左右方向)におけるパターン照射の効果度が高くなる。ここで、パターン照射とは、離間する照射領域(本実施形態では、単位パターン領域)へ光を同時照射することであり、パターン照射による効果の詳細は後述する。
また、本実施形態のように、パターン領域の各並び方向が2以上の単位パターン領域で構成される場合には、当該各並び方向を合成した方向(本実施形態では、斜め方向)に対してパターン照射による効果を得ることができる。
【0029】
また、各単位パターン領域の形状および面積についても、特に限定はされない。ただし、本実施形態のように、各単位パターン領域を同一面積とすることで、各単位パターン領域の並び方向によらず、後述するパターン照射の効果をより確実に奏するようにすることができる。
【0030】
<肌状態と反射光の強度斑との関係性>
次に、図4(a)および図4(b)を用いて、肌状態と反射光の強度との関係性を説明する。図4(a)および図4(b)は、内部光の広がりおよび反射光の強度分布を模式的に示す図であり、図4(a)は、塗布された化粧料が薄い場合を示し、図4(b)は、塗布された化粧料が厚い場合を示している。
【0031】
まず、図4(a)および図4(b)に示す通り、肌の或る照射領域に光が照射された場合、照射された光の一部は表面から内部に侵入し、内部での散乱によって光の回り込みが発生する。そして、光の回り込みの距離は、表面から内部に侵入した光(以下、内部光と称する場合がある)の内部での散乱が強くなるほど短くなる傾向にある。また、化粧料を塗布することで形成される化粧膜は、ヒトの皮膚よりも内部光の散乱が強い。
そのため、照射領域に形成された化粧膜の厚さが薄い場合には、図4(a)に示すように、内部光が大きく広がり、内部光を含む反射光が大きく広がる。その結果、照射領域における反射光の強度は小さくなる。
一方、照射領域に形成された化粧膜の厚さが厚い場合には、図4(b)に示すように、内部光の広がりが小さく、化粧膜が薄い場合と比較して内部光を含む反射光の広がりが小さくなる。その結果、照射領域における反射光の強度が大きくなる。
以上のことから、化粧料が塗布された肌に対し光を照射し、照射領域での反射光の強度斑を評価することにより、化粧膜の厚さの斑、すなわち、化粧料の塗布斑を評価することができる。
【0032】
なお、内部光の広がりの違いは、他の肌状態の違いによっても生じる。
例えば、色斑の原因とされる毛穴の汚れ、シミ、そばかす等は、光を吸収する。そのため、これらの要因が多い、またはこれらの要因の程度が大きいほど、光の回り込み距離が短くなり、反射光の強度斑が大きくなる。
【0033】
また、毛穴やしわ等の肌表面の凹凸斑や、テカリの原因とされる皮脂は、表面で反射する光の強度の皮膚面に対する角度依存性に影響を与える。そのため、これらの要因が多い、またはこれらの要因の程度が大きいと、光源、カメラ、対象面の位置関係及び対象面の向きによって得られる結果が大きく変わってしまう。
そのため、反射光の強度を評価するにあたっては、表面で反射した光(以下、表面反射光と称する場合がある)を取り除くことが好ましく、例えば光源側とカメラ側にそれぞれ偏光板を設置し、偏光の向きを互いに直角にするなどの方法で表面反射光を除くことが好ましい。さらには内部光強度についても角度依存性が存在し、より高精度な評価のためにはこの影響も考慮する必要があるが、これについては後述する方法で対象の形状を得ることで達成できる。
【0034】
<パターン照射の意義>
まず、パターン照射を行うことは、当該パターン照射に係る単位パターン領域を構成する照射領域に順次光を照射する場合と比べ、測定時間が圧倒的に短縮され、測定対象の動きの影響を圧倒的に低減することができる。そのため、従来よりも高精度な肌状態の評価の実現に寄与する。なお、この効果は、単位パターン領域を順次変えてパターン照射を行う場合により顕著となる。
さらに、パターン照射を行うことは、肌状態を評価する際の評価対象の表面形状に係る影響を補正することにも寄与する。以下、具体的に説明する。
【0035】
図4の説明では入射光も反射光も対象面に対して垂直に描いているが、一般に光源からの光は対象面に対し斜めにも入射し、カメラで撮影する光も対象面に対して斜め方向に反射してきたものもある。それらの光が対象面に対してどの程度の角度になるのかは、撮影装置の配置に加えて対象面の表面形状によっても決まり、対象面の表面形状は被写体によっても異なる(例えば、顏の形状は人ごとに異なる)。そして、入射、反射の角度によって反射光量は変わるので、肌状態を評価する上でこのような対象面の表面形状に係る影響を補正することは非常に重要である。
これに対しては、対象面の表面形状に係る影響を補正するために、別途何らかの形状測定機を用いることも考えられるが、その測定を行う間に被写体が動いてしまう危険や、求めた形状と得られた画像データとどのように対応付けるかといった問題もあり、導入には大きな困難を伴う。一方で、上述のパターン照射により取得された画像データは、それ自体に対象面の表面形状に係る情報を内包している。例えば、本実施形態におけるパターン照射では、格子状に並んだ矩形の単位パターン領域を投影し、略同位置で撮像しているため、垂直に近いかたちで照射光が入射する対象面の表面領域では矩形の間隔は広くなり、対象面の表面に対して入射する照射光の角度が垂直から離れるほど矩形の間隔は狭くなる。
そのため、パターン照射により取得された画像データを用いることで、当該画像データに含まれる対象面の表面形状に係る情報から対象面の表面形状を推定することができる。そして、推定した対象面の表面形状を用いて、取得した画像データから照射光や反射光の対象面に対する角度の影響を除くことが可能になる。これにより、従来よりも高精度な肌状態の評価を実現できる。
また、単位パターン領域ごとに取得した一連の画像データの情報を組み合わせることで対象面の表面形状の推定精度を向上させることもできる。例えば、画像上の各点について、取得した一連の画像データの内のどの画像データで画素値が最大値になるのかを調べれば、当該点がいずれの画像データに属するかが正確に分かるので、各矩形領域のカメラから見た時の表面形状をより正確に知ることができる。そして、対象面の表面形状を推定する際にその情報を使うことができる。
【0036】
また、図5(a)および図5(b)に示すように、パターン照射を行うことで、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みが異なる場合、すなわち、化粧料の塗布斑がある場合には、これらの照射領域における反射光の強度差を強調することができる。なお、図5(a)および図5(b)は、離間する照射領域に光が同時照射される場合における内部光の広がりおよび反射光の強度を模式的に示す図であり、図5(a)は、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みが異なる場合を示し、図5(b)は、離間する照射領域に形成された化粧膜がいずれも薄い場合を示している。
具体的には、図5(a)の左側の図に示す通り、形成された化粧膜が薄い左側の照射領域から内部に侵入した内部光は、光の回り込み距離が長く、形成された化粧膜が厚い右側の照射領域からも出射される。そのため、当該右側の照射領域における反射光の強度が、図4(b)における反射光の強度よりも高くなる。また、形成された化粧膜が厚い右側の照射領域から内部に侵入した内部光は、光の回り込み距離が短く、形成された化粧膜が薄い左側の照射領域からは出射されない。そのため、当該左側の照射領域における反射光の強度が、図4(a)における反射光の強度と同等となる。すなわち、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みが異なる場合、すなわち、化粧料の塗布斑がある場合には、パターン照射によりこれらの照射領域における反射光の強度差が強調される。
一方、図5(b)の左側の図に示す通り、形成された化粧膜が薄い左側の照射領域から内部に侵入した内部光は、光の回り込み距離が長く、形成された化粧膜が薄い右側の照射領域からも出射される。そのため、当該右側の照射領域における反射光の強度が、図4(a)における反射光の強度よりも高くなる。また、形成された化粧膜が薄い右側の照射領域から内部に侵入した内部光も、光の回り込み距離が長く、形成された化粧膜が薄い左側の照射領域から出射される。そのため、当該左側の照射領域における反射光の強度は、当該右側の照射領域と同様に、図4(a)における反射光の強度よりも高くなる。すなわち、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みがいずれも薄い場合には、これらの照射領域における反射光の強度差は強調されない。
なお、図示は省略するが、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みがいずれも厚い場合には、一方の照射領域から侵入した内部光が他方の照射領域から出射されない。そのため、当該場合には、離間する照射領域に形成された化粧膜の厚みがいずれも薄い場合と同様に、離間する照射領域における反射光の強度差は変化しない。
このように、パターン照射は、これらの照射領域における反射光の強度差(反射光の強度斑)を強調することにも寄与する。
なお、上述の原理に係る説明では、肌状態の例として化粧料の塗布斑を挙げたが、当該原理に係る現象は、上述の他の肌状態のいずれにおいても生じる。
また、図示は省略するが、パターン照射は、照射領域の間における反射光の強度を強調することにも寄与する。これは、離間する照射領域のそれぞれから回り込む内部光が非対象領域から出射することに起因する。
したがって、このような観点においては、統合評価データを、上述の補正を行った画像データから、共通する画素ごとの画素値の最小値を抽出し、当該抽出した最小値の組み合わせで構成されるものとしてもよい。さらに言えば、統合評価データを、取得した画像データごとに照射対象ではない単位パターン領域(非対象領域)に対応する画像データを抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせたものとしてもよい。
【0037】
<照射領域の変形例>
上述の本実施形態では、光が照射される照射領域と照射対象の単位パターン領域とを一致させていたが、これに限らない。以下、図6図8を用いて、照射領域と照射対象の単位パターン領域との関係性に係る変形例を説明する。図6は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも大きくする変形例における照射領域の遷移を、図7は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも小さくする変形例における照射領域の遷移を模式的に示す図である。図8(a)~図8(c)は、単位パターン領域の並び方向に沿った画素値の変化を示す図であり、図8(a)は、本実施形態における統合評価データに係る画素値の変化を、図8(b)は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも大きくする変形例における統合評価データに係る画素値の変化を、図8(c)は、照射領域を照射対象の単位パターン領域よりも小さくする変形例における統合評価データに係る画素値の変化を示す図である。
【0038】
図6に示す通り、照射領域を単位パターン領域よりも大きくする変形例では、評価対象領域は、本実施形態と同様に、正方形かつ同一面積の領域A~領域Iが一定の順序で配置されて構成される。そして、例えば、領域Aに向けて光を同時照射する際には、領域Aよりも大きい領域Aeを照射領域とし、当該照射領域に光が同時照射される。これは領域B以降も同様である。すなわち、当該変形例では、単位パターン領域へ光を同時照射するにあたり、照射領域を、当該同時照射に係る照射対象の単にパターン領域の並び方向に向かって相似的に大きい領域(領域Ae、領域Be、領域Ce、・・・、領域Ieであり、以下、領域Ae~領域Ieと表記する場合がある)としている。単位パターン領域の並び方向に向かって相似的に大きいとは、単位パターン領域の並び方向が複数ある場合には、これらの方向のそれぞれに対して相似的に大きいことを指し、当該並び方向が一つである場合には、当該一つの方向に対して相似的に大きいことを指す。例えば、図6のように、単位パターン領域の並び方向が互いに対して垂直な2つの方向である場合には、当該場合における照射領域は、単位パターン領域に対して相似形で大きい領域となる。
【0039】
図7に示す通り、照射領域を単位パターン領域よりも小さくする変形例では、評価対象領域は、本実施形態と同様に、正方形かつ同一面積の領域A~領域Iが一定の順序で配置されて構成される。そして、例えば、領域Aに向けて光を同時照射する際には、領域Aよりも小さい領域Arを照射領域とし、当該照射領域に光が同時照射される。これは領域B以降も同様である。すなわち、当該変形例では、単位パターン領域へ光を同時照射するにあたり、照射領域を、当該同時照射に係る照射対象の単位パターン領域の並び方向に向かって相似的に小さい領域(領域Ar、領域Br、領域Cr、・・・、領域Irであり、以下、領域Ar~領域Irと表記する場合がある)としている。単位パターン領域の並び方向に向かって相似的に小さいとは、単位パターン領域の並び方向が複数ある場合には、これらの方向のそれぞれに対して相似的に小さいことを指し、当該並び方向が一つである場合には、当該一つの方向に対して相似的に小さいことを指す。例えば、図6のように、単位パターン領域の並び方向が互いに対して垂直な2つの方向である場合には、当該場合における照射領域は、単位パターン領域に対して相似形で小さい領域となる。
【0040】
このように、単位パターン領域へ向けて光を同時照射するにあたり、照射領域を、当該同時照射に係る照射対象の単位パターン領域の並び方向に向かって相対的に大きい領域、または当該並び方向に向かって相対的に小さい領域としてもよい。
このようにすれば、肌状態に関わらず生じる、統合評価データにおける単位パターン領域の境界付近の画素値の変化を緩やかにし、当該画素値の変化が、統合評価データから算出される標準偏差に与える影響を小さくすることができる。また、このようにすることで、画像化した統合評価データの目視により肌状態を評価する際にも、単位パターン領域の境界付近で画像が暗くなり過ぎない、または明るくなり過ぎないようにすることができる。そして、これらの作用は、いずれも、統合評価データを用いた肌状態を評価に係る精度を高めることに寄与する。
【0041】
画素値の変化をより具体的に見ると、図8(a)に示す通り、照射領域と照射対象の単位パターン領域とを一致させる本実施形態の場合には、画素値の最大値で構成される統合評価データに係る画素値の変化(図8(a)におけるmaxで示される想像線)、および画素値の最小値で構成される統合評価データに係る画素値の変化(図8(a)におけるminで示される想像線)が、単位パターン領域の境界付近で急激に変化していることが分かる。
【0042】
一方、図8(b)に示す通り、照射領域を単位パターン領域よりも大きくする上述の変形例では、画素値の最大値で構成される統合評価データに係る画素値の変化(図8(b)におけるmaxで示される想像線)が、単位パターン領域の境界付近で、図8(a)におけるmaxに係る画素値の変化よりも緩やかになっていることが分かる。
なお、図示は省略するが、当該変形例において、画素値の最小値で構成される統合評価データを生成した場合、当該統合評価データに係る画素値の単位パターン領域の境界付近での変化は、画素値の最大値で構成される統合評価データに係る画素値の当該境界付近での変化よりも大きくなる。そのため、当該変形例では、画素値の最大値で構成される統合評価データを採用することが好ましい。同様に、当該変形例では、取得した画像ごとの照射対象ではないパターンに対応する画像データを組み合わせた統合評価データを用いるよりも、取得した画像データごとに照射対象である単位パターン領域に対応する画像データを組み合わせた統合評価データを用いることが好ましい。
したがって、当該変形例は、光照射工程(ステップS101~ステップS109)では、複数の離間パターンのそれぞれにおいて、対象領域(照射対象の単位パターン領域)の並び方向に向かって当該対象領域よりも相似的に大きい照射領域(領域Ae~領域Ieのいずれか)に対して光を照射し、肌状態評価工程(ステップS110~S114)では、複数の離間パターンのそれぞれに係る画像データを用いて、単位領域(共通する画素)ごとに、複数の離間パターンのそれぞれにおける反射光の強度の最大値(画素値の最大値)を抽出し、当該抽出した最大値を組み合わせることで、統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて強度斑を評価することにより、被験者の肌状態を評価する、または、画像データのうちの対象領域に対応する画像データを複数の離間パターンのそれぞれにおいて抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせることで、統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて強度斑を評価することにより、被験者の肌状態を評価する、と換言できる。
ただし、照射領域を単位パターン領域よりも大きくする変形例においては、パターン領域が3×3の単位パターン領域で構成される場合や4×4の単位パターン領域で構成される場合等、すなわち、パターン領域の一サイクル内で単位パターン領域の並び方向の少なくとも一つに3つ以上の単位パターン領域が含まれる場合には、照射領域の重なり方向における一辺の長さ等の条件によっては、全ての点について、少なくとも一つのパターンでは非対象領域となるようにすることができる。その場合には、画素値の最小値を取って統合評価データを生成する際にも、当該統合評価データにおける単位パターン領域の境界付近の画素値の変化を緩やかにし、当該画素値の変化が、統合評価データから算出される標準偏差に与える影響を小さくすることができる。
【0043】
なお、対象領域の並び方向に向かって当該対象領域よりも相似的に大きい照射領域を採用する際、隣り合う照射領域同士の仮想的な重なりの程度は、照射領域の重なり方向における一辺の長さに対する当該方向における重なり長さの割合(以下、単に、重複割合と称する場合がある)で示される。そして、肌状態を評価に係る精度を高めるにあたり、パターン領域が、本実施形態のように、3×3(上下方向に3個、左右方向に3個)の計9個の単位パターン領域で構成される場合には、重複割合を、10%以上50%以下、より好ましくは、20%以上40%以下とすることが好ましい。同様に、パターン領域が、2×2(上下方向に2個、左右方向に2個)の計4個の単位パターン領域で構成される場合には、重複割合を、10%以上60%以下、より好ましくは、30%以上50%以下とすることが好ましい。さらに、パターン領域が、1×2(上下方向に1個(連続)、左右方向に2個)または2×1(上下方向に2個、左右方向に1個(連続))の計2個の単位パターン領域で構成される場合には、重複割合を、10%以上60%以下、より好ましくは、30%以上50%以下とすることが好ましい。なお、これらの数値範囲は、各照射領域が同一形状かつ同一面積であることを前提としている。
【0044】
同様に、図8(c)に示す通り、照射領域を単位パターン領域よりも小さくする上述の変形例では、画素値の最小値で構成される統合評価データに係る画素値の変化(図8(c)におけるminで示される想像線)が、単位パターン領域の境界付近で、図8(a)におけるminに係る画素値の変化よりも緩やかになっていることが分かる。
なお、図示は省略するが、当該変形例において、画素値の最大値で構成される統合評価データを生成した場合、当該統合評価データに係る画素値の単位パターン領域の境界付近での変化は、画素値の最小値で構成される統合評価データに係る画素値の当該境界付近での変化よりも大きくなる。そのため、当該変形例では、画素値の最小値で構成される統合評価データを採用することが好ましい。同様に、当該変形例では、取得した画像ごとの照射対象であるパターンに対応する画像データを組み合わせた統合評価データを用いるよりも、取得した画像データごとに照射対象ではない単位パターン領域に対応する画像データを組み合わせた統合評価データを用いることが好ましい。
したがって、当該変形例は、光照射工程(ステップS101~ステップS109)では、複数の離間パターンのそれぞれにおいて、対象領域(照射対象の単位パターン領域)の並び方向に向かって当該対象領域よりも相似的に小さい照射領域(領域Ar~領域Irのいずれか)に対して光を照射し、肌状態評価工程(ステップS110~S114)では、複数の離間パターンのそれぞれに係る画像データを用いて、単位領域(共通する画素)ごとに、複数の離間パターンのそれぞれにおける反射光の強度の最小値(画素値の最小値)を抽出し、当該抽出した最小値を組み合わせることで、統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて強度斑を評価することにより、被験者の肌状態を評価する、または、画像データのうちの非対象領域に対応する画像データを複数の離間パターンのそれぞれにおいて抽出し、当該抽出した画像データを組み合わせることで、統合評価データを生成し、当該生成した統合評価データを用いて強度斑を評価することにより、被験者の肌状態を評価する、と換言できる。
【0045】
<肌状態の評価装置>
次に、以上説明した肌状態の評価方法で使用される肌状態の評価装置1を説明する。図9は、肌状態の評価装置1を説明するための模式図である。
評価装置1は、非対象領域を挟んで離間する対象領域のそれぞれに光を同時照射する光照射部に相当するプロジェクター10と、レンズ21を通して反射光を撮像し画像データを取得する画像データ取得部に相当するカメラ20と、カメラ20によって取得された画像データを用いて反射光の強度斑を評価するための評価用データを生成する肌状態評価部に相当する画像処理装置30と、を備えている。
また、評価装置1は、プロジェクター10と被験者Sの皮膚40との間に偏光板50aを、皮膚40とレンズ21との間に偏光板50bを、備えている。偏光板50aと偏光板50bとは、透過軸が互いに直交するものとしている。これにより、偏光板50bで表面反射光を除き、内部光をレンズ21に導くように構成している。
さらに、評価装置1は、皮膚40を固定するために被験者Sが顎を乗せる台41を備えている。台41には、台41に固定されて上方に延び、被験者Sの額付近に当接する支持台42が設けられている。
【0046】
プロジェクター10は、非対象領域を挟んで離間する対象領域のそれぞれに光を同時照射することが可能なものであれば、プロジェクターに限らず、種々のデバイスを採用できる。
また、カメラ20によって取得される画像データは、フルカラーの画像データであってもよいし、グレースケールの画像データであってもよい。
また、画像処理装置30は、CPU(Central Processor Unit)やメモリ等を有するパーソナルコンピュータを使用して実現することができる。画像処理装置30によって生成される評価用データとは、反射光の強度斑を評価可能とするデータであれば、いずれのデータを採用してもよい。例えば、上述の統合評価データや、取得された画像データを構成する画素値のうちの所定範囲の画素値を当該所定範囲内の所定の画素値に変換して平滑化しかつ当該所定範囲を下回るまたは上回る画素値を維持したデータを、評価用データに採用にしてもよい。また、カメラ20によって取得された画像データを単に可視化したものや、取得された画像データの任意に区切った領域ごとに、当該領域を、当該領域における画素値の斑の度合いに応じて色付けしたデータを、評価用データに採用してもよい。
【0047】
以下に実施例を挙げ、上述の本実施形態および変形例における肌状態の評価方法の有効性を検証する。ただし、以下の実施例の記載は、上述の内容に何ら限定を加えるものではない。
【実施例1】
【0048】
実施例1では、ファンデーションの塗布後に、ファンデーションが塗布された領域の一部(図11(a)において破線で囲んだ部分)を擦った肌表面に対し、上述の実施形態または変形例に係る肌状態の評価方法を実行し、その妥当性を検証した。なお、実施例1では、単位、周期長、重なり、および繰り返し数の組み合わせが異なる複数のパターンを採用している。ここで、図10(a)に示す通り、単位とは、上述の照射領域の一辺の長さであり、重なりとは、照射領域が重なる長さであり、繰り返し数とは、同時照射が行われる回数である。また、周期長とは、「(単位-重なり)×繰り返し数」との数式で導出される長さである。なお、図10(a)における図示は省略しているが、実施例1では、図10(a)に示す左右方向のサイクルと同一のサイクルが上下方向にも続いている。
具体的には、実施例1では、図10(b)に示す通り、単位、周期長、重なり、および繰り返し数の組み合わせが異なる検証パターンとして、単位=3、周期長=6、重なり=0、繰り返し数=2であるパターン1(重複割合=0%)、単位=3、周期長=6、重なり=1、繰り返し数=3であるパターン2(重複割合=約33%)、単位=4、周期長=9、重なり=1、繰り返し数=3であるパターン3(重複割合=25%)、および単位=4、周期長=6、重なり=2、繰り返し数=3であるパターン4(重複割合=50%)の計4パターンを採用している。なお、実施例1では、光の照射には、プロジェクター(日本電気株式会社製NP-M403H、本実施例における評価対象面上での解像度:5.7pixel/mm)を採用し、画像データの取得には、カメラ(株式会社ニコン製D500、本実施例における評価対象面上での解像度:27.6pixel/mm)を採用している。図10(b)に示す数値の単位は、いずれも、当該プロジェクターの評価対象面上での解像度から導出されるピクセル(pixel)である。さらに、実施例1では、プロジェクターおよびカメラのそれぞれに、透過軸が互いに直交する偏光板を設けている。
【0049】
次に、図11(a)~図11(d)は、上述の4つの検証パターンに係る評価で生成した統合評価データ(画素値の最大値で構成されたもの)を画像化したものであり、図11(a)は、パターン1、図11(b)は、パターン2、図11(c)は、パターン3、図11(d)は、パターン4に係る肌状態の評価で生成した統合評価データを画像化したものを示す図である。
まず、図11(a)~図11(d)に示される通り、パターン1~パターン4は、いずれも、擦られてファンデーションの一部が薄くなっている部分とそうでない部分とのコントラストの差が顕著になっている。これにより、離間する照射領域への光の同時照射により反射光の強度斑が強調されることが確認された。
【0050】
また、図11(b)に係る画像は、図11(a)に係る画像と比較して、照射領域の境界が目立たなくなり、かつファンデーションが塗布された肌表面のコントラストが大きくなっている。そして、図11(a)に係るパターン1は、重なりが0である一方、図11(b)に係るパターン2は、重なりが存在する。これにより、照射領域に重なりを持たせることの有効性が確認された。
【0051】
さらに、図11(c)に係る画像は、図11(b)に係る画像と比較して、コントラストは大きくなっているが、照射領域の境界が目立っている。さらに、図11(d)は、図11(c)と比較して、照射領域の境界が目立たなくなっているが、コントラストが小さくなっている。よって、重複割合は、10%以上50%以下、より好ましくは、20%以上40%以下とすることの妥当性が確認された。
【実施例2】
【0052】
実施例2では、頬の表面に、ファンデーションの種類、塗布方法を変えながら質の異なる化粧仕上がりを用意し、各化粧仕上がりについて、専門評価者による化粧肌の目視による評価、本方法の結果画像に対する目視による評価、および変動係数の算出を行った。ここで、本方法とは、本実施形態に係る肌状態の評価方法を指し、結果画像とは、当該評価方法において生成された統合評価データを画像化したものである。また、変動係数とは、生成された統合評価データのうちの頬領域における画素値の標準偏差を当該画素値の平均値で除したものである。なお、実施例2で使用する各装置は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
図12に示す通り、実施例2における化粧仕上がりには、化粧仕上がりA、化粧仕上がりB、および化粧仕上がりCがあり、専門評価者による化粧肌の目視による評価では、この順に良好な結果となった。ここで、良好な結果とは、ファンデーションの塗布斑がなく綺麗に塗れていることを言う。
結果画像に対する目視については、化粧仕上がりA、化粧仕上がりB、化粧仕上がりCの順に良好な結果となった。さらに、変動係数についても、化粧仕上がりA、化粧仕上がりB、化粧仕上がりCの順に値が大きくなる結果となった。
これにより、本実施形態に係る肌状態の評価方法における統合評価データを用いた肌状態の評価の妥当性が確認された。
【符号の説明】
【0054】
1 評価装置
10 プロジェクター
20 カメラ
21 レンズ
30 画像処理装置
40 皮膚
41 台
42 支持台
50a、50b 偏光板
S 被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12