(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20231110BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20231110BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20231110BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G01S7/03 230
G01S7/02 218
H01Q3/26 Z
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020091849
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】中尾 美裕
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 堅一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩司
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-186973(JP,A)
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】特開2010-071865(JP,A)
【文献】特開2001-183437(JP,A)
【文献】特開2019-070558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0212411(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H01Q 3/26
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標からの受信信号を受信する受信アンテナと、
前記受信信号に基づいて、仮想的なアンテナにより受信した場合の仮想的な受信信号を生成する処理部と、
前記受信信号および前記仮想的な受信信号に基づいて、前記物標の方位を算出する物標方位算出部と、を有し、
前記処理部は、
前記受信信号から
物標の方位を推定する
空間FFT処理もしくはデジタルビームフォーミングを行い、推定した前記方位に基づいた前記仮想的な受信信号を生成するレーダ装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のレーダ装置において、
前記処理部は、
推定した前記方位に基づいて、前記受信信号の位相変換を行うレーダ装置。
【請求項3】
物標からの受信信号を受信する受信アンテナと、
前記受信信号に基づいて、多項式近似または機械学習を用いることで
仮想的なアンテナにより受信した場合の仮想的な受信信号を生成する処理部と、
前記受信信号および前記仮想的な受信信号に基づいて、前記物標の方位を算出する物標方位算出部と、を有し、
前記処理部は、
前記受信信号から物標の方位を推定する角度方位推定処理を行い、推定した前記方位に基づいた前記仮想的な受信信号を生成するレーダ装置。
【請求項4】
請求項
3に記載のレーダ装置において、
前記処理部は、
前記多項式近似または前記機械学習による推定結果と前記受信信号の偏差から、前記物標の方位推定の確度を算出するレーダ装置。
【請求項5】
請求項
3に記載のレーダ装置において、
前記処理部は、
前記受信信号の外側の範囲をゼロ埋めし、
前記受信信号と前記ゼロ埋めした信号との間で重み付けを変更し、
前記多項式近似または前記機械学習を用いることで前記仮想的な受信信号を生成するレーダ装置。
【請求項6】
請求項
3記載のレーダ装置において、
前記受信信号と前記仮想的な受信信号について窓関数による処理を行うレーダ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記物標で反射される送信信号を出力する送信アンテナを有し、
前記受信アンテナは、前記物標で反射した反射波を受信する受信アレーアンテナであるレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転向けに、交差点や駐車場でのフリースペース検知や、高速道路の渋滞末尾の車両検知といったシーンで、高分解能なミリ波レーダが要求される。
【0003】
街中の交差点では、交差点の周囲を横断する歩行者や交差点を横切る車両、渋滞により交差点の向こう側で停車している車両など多くの物標を検知する必要がある。例として、60m幅の交差点の向こう側に停車している車両の車線を検知するためには、角度方位として約3度の分解能が必要である。また、高速道路の渋滞末尾の車両検知では、車両の制動距離により150m以上の遠方から渋滞末尾を検知する必要がある。このとき停車している車両の車線を検知するためには1度以下の分解能が必要となる。
【0004】
高分解能を実現するためには、受信アンテナの端から端までの距離である開口長を長くすることで実現可能であるが、開口長を長くするためにはアンテナ搭載基板のサイズを長くする必要がありコストが高くなることと、サイズにより設置できる場所が限定される欠点が生じる。
【0005】
限定された開口長で、高分解能を実現する方法としてはMUSIC法(Multiple Signal Classification)が知られている。MUSIC法は信号の固有ベクトルと雑音の固有ベクトルの直交性を利用した方法で、アレー受信信号の相関行列を算出した後、固有値展開により波源数推定を行い、角度をスイープさせながら直交性により生じるヌル検出演算を行う。
【0006】
特許文献1は、カトリ・ラオ積により仮想的に受信アンテナ数を増やす方式であり、アレー受信信号による相関行列を生成後、行列の非重複要素により拡張信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MUSIC法は、角度スイープによるヌル検出のため高い分解能が得られる一方で計算負荷が重いことが欠点としてあげられる。汎用的なDSP(Digital Signal Processor)を用いた場合には、50ミリ秒のフレームレートに対して20ターゲット程度の検出に留まることが見込まれるため、街中の交差点といったターゲットが多いシーンでは、高分解能処理が追い付かない可能性がある。
【0009】
特許文献1では、アレー受信信号による相関行列を生成後、行列の非重複要素により拡張信号を生成するが、物標間の相関によって物標の方位検出に誤差が生じる。この誤差を抑圧するために、特許文献1では、拡張信号の生成と方位推定を、探索範囲を狭めながら繰り返し処理を行うことで課題を回避している。しかし、1つの物標に対してでも、拡張信号の生成と方位推定をループ処理として繰り返し実行する必要があり、ループ処理の収束によっては計算負荷が非常に重くなる懸念がある。
【0010】
本発明の目的は、計算負荷を低減し、高分解能処理を可能とするレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一例としては、物標からの受信信号を受信する受信アンテナと、前記受信信号に基づいて、仮想的なアンテナにより受信した場合の仮想的な受信信号を生成する処理部と、前記受信信号および前記仮想的な受信信号に基づいて、前記物標の方位を算出する物標方位算出部と、を有し、前記処理部は、前記受信信号から物標の方位を推定する空間FFT処理もしくはデジタルビームフォーミングを行い、推定した前記方位に基づいた前記仮想的な受信信号を生成するレーダ装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、計算負荷を低減し、高分解能処理を可能とするレーダ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1におけるレーダ装置のブロック構成図である。
【
図2】受信アレーアンテナおよび仮想アンテナによる、ある角度方位からの受信信号をイメージした図である。
【
図3】受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
【
図4】受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
【
図5】受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
【
図6】受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
【
図7】受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
【
図8】受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
【
図9】疑似的にゼロを配置することで多項式近似の発散を防ぐことをイメージした図である。
【
図10】受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
【
図11】受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
【
図12】実施例2におけるレーダ装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1におけるレーダ装置のブロック構成図である。レーダ装置は、アレーアンテナ/アナログ部とデジタル部で構成される。
【0016】
アレーアンテナ/アナログ部では、送信アンテナ(101)から送信信号を出力する。ここで、送信信号はシンセサイザ(103)を使い、周波数を時間で線形遷移させたチャープ信号がよく用いられる。送信された送信信号は、ターゲットである物標で反射し、その反射波の一部が受信アレーアンテナ(102)に戻って受信される。受信アレーアンテナ(102)は複数のアンテナ素子から構成される。
【0017】
受信アレーアンテナ(102)で受信した信号は、周波数変換器であるミキサ(104)により、ミリ波の受信信号を、低い周波数の信号に変換するダウンコンバートがなされる。このとき、ミキサ(104)のローカル信号として、シンセサイザ(103)の信号を用いる。このことで、送信信号と受信信号の時間差、すなわちターゲットである物標の距離に応じた周波数がミキサ(104)から出力される。ミキサ(104)の出力信号はA/Dコンバータ(105)でデジタル信号に変換されデジタル部に伝送される。
【0018】
デジタル部では、受信アレーアンテナ(102)を構成する各アンテナ素子で受信した受信信号に対して、時間/周波数FFT処理部(106)が時間/周波数FFTの処理を行う。ここで、FFTは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を表す。デジタル部を構成する各ブロックの処理は、マイコンなどのCPUが、記録装置に記録したプログラムを読み出してソフトウエアとして実行されるようにしてもよいし、回路などの専用のハードウエアで実行されるようにしてもよい。
【0019】
周波数FFT処理を行うことで距離分布、時間FFT処理を行うことで速度分布を把握することができ、時間/周波数の2次元FFT処理を行えば、距離と速度の2軸での分布を把握することができる。
【0020】
ターゲットとする距離と速度を決定すれば、所定の距離/速度での受信アレーアンテナ(102)を構成する各アンテナ素子の受信信号についての振幅と位相の複素情報(201)を把握することができる。
【0021】
図2は、実施例1における受信アレーアンテナ(102)および仮想アンテナによる、ある角度方位からの受信信号をイメージした図である。
受信アレーアンテナ(102)における各アンテナ素子には、物標の角度方位(203)からの受信信号について、時間/周波数FFT処理部(106)が複素情報(201)x1、x2、x3、x4、x5を生成する。受信信号の電磁波は波長(204)である。各アンテナ素子で受信する信号には、物標の角度方位が正面から斜めにある場合には位相差が生じる。本実施例では仮想アンテナ(205)により仮想的な受信信号を生成する。
図2では実アンテナ素子からなる受信アレーアンテナ(102)の右側に仮想アンテナ(205)が配置されているが、左側に配置するようにしてもよい。
【0022】
複素情報(201)は、電磁波の到来方向すなわち物標の角度方位(203)と電磁波の波長(204)と受信アレーアンテナ(102)の配置により決まる。複素情報(201)は、受信アレーを構成する受信アンテナ素子の間で規則的に変化する。この複素情報(201)の規則的な変化により物標の角度方位(203)をもとめることができる。
【0023】
高分解能なレーダ装置を実現するためには、受信アレーアンテナ(102)の端から端の距離である開口長(202)を長くすることで実現が可能である。車載向けレーダでは、車両のバンパー内部やヘッドライト内部などに設置することが多く、設置スペースが限られており開口長(202)を長くとることが難しい。限られた開口長で高分解能を出すためのアルゴリズムとしてMUSIC法がよく知られているが、比較的計算負荷が重く、短時間で複数物標を処理する必要がある自動運転システムなどでは課題となる。
【0024】
計算負荷が軽い高分解能を実現するためには、複素情報(201)の規則的な変化を用いて、開口長(202)の外側に仮想的に拡張された仮想アンテナ(205)の複素情報を、なるべく簡単な計算により推定できればよい。簡単な計算の例としては、複素情報(201)について多項式近似を行い、仮想アンテナ(205)を推定する方法や学習器を用いた方法が挙げられる。
【0025】
具体的には、実数部の多項式近似処理部(301)と虚数部の多項式近似処理部(302)が複素情報(201)を実数部と虚数部に分離した上で、
図3のように横軸をアンテナ位置(303)、縦軸を実数値(304)もしくは虚数値(305)としてプロットを実施する。
【0026】
図3は、受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
図3では、縦軸に実数値もしくは虚数値を示し、横軸にはアンテナ位置を示す。
【0027】
図3では、5つのアンテナ素子のアンテナ位置における複素情報(201)を円でプロット(306)している。このプロットした複素情報に対して多項式近似曲線(307)を開口長(202)の外側まで描くことで仮想的なアンテナ位置の複素情報を推定する。
【0028】
図3では、開口長(202)の約2.5倍の範囲まで拡張している。ここで多項式近似はプロットした複素情報(201)から拡張範囲を推定する方法の一例であり、別の推定方法として方位が既知のデータにより、機械学習により学習させた学習器を用いて拡張範囲を推定することも可能である。
【0029】
図4は、受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。さらに説明すると、
図4は、複素情報(201)を、空間FFT処理することで算出した物標角度方位スペクトル(401)と、多項式近似曲線(307)により拡張した仮想的な複素情報を用いて、空間FFTの処理をした物標角度方位スペクトル(402)を示す図である。縦軸は受信する電磁波について電力レベル(dB)であり、横軸は正面を0度とした角度方位(deg.)を示す。
【0030】
図4は、正面から+0.8度と-0.8度の位置に、それぞれ物標が存在した場合のシミュレーション結果であり、多項式近似曲線で開口長を2.5倍に拡張したことで分解能が改善され2つの物標が分離して検知できていることがわかる。
【0031】
図3および
図4では、+/-0.8度という正面に近い物標検知を例としたが、正面から離れた角度になると隣接するアンテナ間の複素情報(201)の偏差が大きくなり多項式近似や学習器による拡張範囲の推定が困難になる。
【0032】
図5は、受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
図5では、縦軸に実数値もしくは虚数値を示し、横軸にはアンテナ位置を示す。また
図5は、正面から離れた方位に物標が存在した場合の例を示す図である。
図3の場合と異なり、隣接した複素情報(201)の偏差が大きいためプロット(306)の間の変化が大きくなり、多項式近似曲線(307)がうまくプロット(306)にフィットしていないことがわかる。
【0033】
この課題に対する解決策としては、近似曲線や学習器による拡張を行う前に、実アンテナの複素情報(201)を、
図1における第1の空間FFT処理部(107)にて空間FFT処理を行う。この第1の角度方位推定の処理により、物標からの受信信号から、物標のおおまかな角度方位を事前に推定することができる。ここで、第1の角度方位推定処理として空間FFT処理を実行したのは、軽量な処理で角度方位が推定できるためである。第1の角度方位推定の処理として、第1の空間FFT処理部(107)の代わりに、デジタルビームフォーミングにより角度方位を推定してもよい。
【0034】
次に、第1の位相変換処理部(108)が、複素情報(201)を推定方位に位相変換する。この位相変換は、単純な位相回転処理で、この変換で推定方位が疑似的に正面となる。この位相変換により、
図5で記した隣接するプロット(306)の偏差は抑圧されることになる。
【0035】
図6は、受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。さらに説明すると、
図6は、
図5における実数部と虚数部のプロット(306)を合わせた複素情報を、第1の空間FFT処理部(107)にて空間FFT処理をして得られる物標角度方位スペクトル(601)である。
図6の縦軸は電力レベル(dB)を示し、横軸は正面を0度とした角度方位(deg.)を示す。
【0036】
物標角度方位スペクトルのピーク(602)はこの場合は約3度であり、
図1の第1の位相変換処理部(108)では、この角度方位3度を0度に変換する位相回転処理を行う。
【0037】
図1における第1の位相変換処理部(108)による位相変換の後は、先に述べたように、実数部の多項式近似処理部(301)と虚数部の多項式近似処理部(302)が、それぞれ、位相変換された実数部の多項式近似の処理と、位相変換された虚数の多項式近似の処理を行う。次に外挿/内挿処理部(109)と外挿/内挿処理部(112)が、それぞれ、多項式近似曲線(307)にもとづき仮想アンテナ位置での実数部の複素情報と、仮想アンテナ位置での虚数部の複素情報を算出する。
【0038】
図7は、受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
図7では、縦軸に実数値もしくは虚数値を示し、横軸にはアンテナ位置を示す。さらに説明すると、
図7は、
図6の角度方位3度の推定結果から複素情報(201)を0度に位相変換した後に実数部と虚数部にわけて多項式近似した結果である。
【0039】
第1の位相変換処理部(108)による位相変換をしたことで、
図5では変化が大きかったプロット(306)が抑圧されて、
図7の多項式近似曲線(307)はプロット(306)とうまく一致していることがわかる。
【0040】
ここで、実数部の多項式近似処理部(301)と虚数部の多項式近似処理部(302)において、多項式近似曲線(307)とプロット(306)した複素情報の偏差を、仮想アンテナにおける確度として算出し、算出した確度を利用することも可能である。
【0041】
この確度の利用例としては、確度が悪い場合には、仮想アンテナを利用せずに実アンテナのみで方位推定するように切替を行うようにできる。別の利用例としては、確度をセンサ間フュージョン処理といった後段の処理に与えることで誤検知を効率よく抑圧できる可能性がある。多項式近似曲線の代わりに、機械学習による推定結果と複素情報の偏差から、仮想アンテナにおける確度とすることも可能である。
【0042】
図7では、
図3と同様に開口長(202)の2.5倍の範囲まで多項式近似曲線(307)を拡張している。
図3や
図7では、高分解能を得るためにアンテナ配置の外側へ拡張する外挿処理を行っているが、アンテナ配置によっては角度方位の虚像を抑圧する対策として、アンテナ間の複素情報を推定する内挿処理を行うことも容易に可能である。
【0043】
この外挿および内挿処理は、
図1の外挿/内挿処理部(109)にて実行される。第2の位相変換処理部(110)において、外挿/内挿処理で算出した複素情報は、元の方位に位相変換される。その位相変換した後、第2の空間FFT処理部(111)が、受信信号および仮想的な受信信号に基づいて、空間FFT処理をし、第2の角度方位推定処理を実行する。第2の空間FFT処理部(111)は、物標(ターゲット)の角度方位、物標までの距離、物標の速度などの位置情報をレーダ出力として出力する。
【0044】
空間FFT処理に代わりデジタルビームフォーミングでもよい。空間FFT処理もしくはデジタルビームフォーミングといった第2の角度方位推定処理により、高分解能で正確な物標の角度方位を算出する。
【0045】
図8は、受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
図8の縦軸は電力レベル(dB)を示し、横軸は正面を0度とした角度方位(deg.)を示す。さらに説明すると、
図8は、角度方位2.2度と3.8度の位置に物標が存在する場合の空間FFT処理後の角度方位スペクトルの例である。角度方位3度の位置に1つのピークをもつ物標角度方位スペクトル(601)は、
図5における、実アンテナの複素情報すなわち実数部と虚数部のプロット(306)を空間FFT処理した結果である。
【0046】
角度方位0度付近に1つのピークをもつ物標角度方位スペクトル(802)は、
図5における、多項式近似曲線(307)により拡張した仮想的な複素情報を空間FFT処理した結果であり、大きく本来の物標位置から異なることがわかる。
【0047】
方位角度2.2度と3.8度の位置に2つのピークをもつ物標角度方位スペクトル(803)は、
図7の多項式近似曲線(307)により拡張した仮想的な複素情報を空間FFT処理した結果であり、総じていえば
図1に記した構成による処理結果だといえる。正面とは異なる角度方位で高分解能を実現している。
【0048】
実施例1によれば、高分解能処理の計算負荷を軽減するとともに、雑音耐性が強化され検知距離を延伸する効果が得られる。
【実施例2】
【0049】
次に、実施例2について説明する。実施例1と同じ内容については、説明は省略する。
【0050】
図8の物標角度方位スペクトル(803)では、角度方位1度や5度付近にサイドローブがあり、検知閾値の設定によっては雑音環境下で誤検知となる可能性がある。サイドローブの抑圧には、第2の空間FFT処理部(111)の前の処理で窓関数処理部(1201)が窓関数処理を実行すればよい。つまり、第2の位相変換処理部(110)において、外挿/内挿処理で算出した複素情報に基づいて、受信信号と仮想的な受信信号について窓関数処理を実行すればよい。ただし、窓関数処理部(1201)が窓関数処理を行った場合には、角度方位スペクトルがなまり、分解能が劣化する。
【0051】
分解能の改善には、
図2に示した仮想アンテナ(205)の領域を広げればよく、これは、
図3や
図7の多項式近似曲線による拡張範囲を広げることと同義である。この場合、基準となるプロット(306)から遠く離れた範囲を推定するため、正解から大きく外れた推定を行う恐れがある。
【0052】
図9は、疑似的にゼロを配置することで多項式近似の発散を防ぐことをイメージした図である。
図9では、縦軸に実数値を示し、横軸にはアンテナ位置を示す。正解から大きく外れないための工夫として、
図9のように、複素情報のプロット(306)の外側に、ゼロ値で疑似的なプロット(901)を配置する。このことで、プロット(306)から離れた多項式近似曲線(902)が極端に大きく外れることが回避でき、多項式近似曲線(903)のような現実的な曲線となる。
【0053】
ここで、疑似的なプロット(901)を置いたことによって、多項式近似曲線(903)の信憑性が懸念として生じる。疑似的なプロット(901)の影響を抑えるためには、多項式近似の際に複素情報のプロット(306)を重視して、疑似的なプロット(901)を軽視するように、受信信号についての複素情報のプロット(306)と疑似的なプロット(901)との間で重み付きを変更した多項式近似を実行すればよい。この場合、複素情報のプロット(306)を重ね書きした上で多項式近似曲線(903)を求めるのと同じ処理になる。
【0054】
図10は、受信アレーアンテナの受信信号における振幅/位相情報を実数/虚数部にわけてプロットし、多項式近似したときのイメージ図である。
図10では、縦軸に実数値もしくは虚数値を示し、横軸にはアンテナ位置を示す。さらに説明すると、
図10には、複素情報のプロット(306)の外側にゼロ値を疑似的にプロットし、重み付きでプロット(306)を重視した場合の多項式近似曲線(903)を示す。
【0055】
重み付きとしては100:1で行っており、多項式近似曲線の拡張範囲としては開口長の約20倍である。多項式近似曲線(903)は、開口長から離れた範囲でも発散することはなく、プロット(306)へのフィッティングも良好であり、正解に近いと推測できる。
【0056】
図11は、受信アレーアンテナの受信信号を空間方向に処理することで得られる角度方位スペクトルである。
図1の縦軸は電力レベル(dB)を示し、横軸は正面を0度とした角度方位(deg.)を示す。さらに説明すると、
図11には、
図4と同じく複素情報(201)を空間FFT処理することで算出した物標角度方位スペクトル(401)と、
図10で記した多項式近似曲線(903)により開口長の約20倍に拡張した仮想的な複素情報を用いて空間FFT処理した物標角度方位スペクトル(1101)を示す。
【0057】
図11は、物標が正面から+0.8度と-0.8度の位置にそれぞれ存在した場合のシミュレーション結果であり、物標角度方位スペクトル(1101)のサイドローブの抑圧と急峻なスペクトルより、雑音に強く非常に高分解能な特性が得られていることがわかる。
【0058】
図12は、実施例2におけるレーダ装置のブロック構成図である。
図12には、
図9と
図10と
図11を用いて説明した処理内容の全体構成を記載している。実施例1で説明した
図1に対して追加される機能ブロックとしては、
図9にて説明した、ゼロ埋めと重み付き処理部(1202)と窓関数処理部(1201)がある。
【0059】
第1の空間FFT処理部(107)にて事前に検出した推定角度方位が複数ある場合には、検出した各推定角度方位に対して第1の位相変換処理部(108)から第2の空間FFT処理部(111)による処理を、検出数に応じて繰り返しループ処理をするように繰り返しループ処理部(1203)が処理すればよい。
【0060】
実施例2によれば、角度方位スペクトルのサイドローブの抑圧と急峻なスペクトルより、雑音に強く非常に高分解能な特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
101 送信アンテナ
102 受信アレーアンテナ
106 時間/周波数FFT処理部
107 第1の空間FFT処理部
108 第1の位相変換処理部
109、112 外挿/内挿処理部
110 第2の位相変換処理部
111 第2の空間FFT処理部
203 物標の角度方位
205 仮想アンテナ
301 実数部の多項式近似処理部
302 虚数部の多項式近似処理部
1201 窓関数処理部
1202 ゼロ埋めと重み付き処理部