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特許7382937強化された接着剤及びそれを用いた接着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】強化された接着剤及びそれを用いた接着方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20231110BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20231110BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20231110BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20231110BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20231110BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20231110BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/08
C09J7/21
C09J163/00
B29B11/16
F16B11/00 A
B32B7/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020534511
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018066147
(87)【国際公開番号】W WO2019126111
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】62/608,733
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マカダムス, レナード
(72)【発明者】
【氏名】コーリ, ダリップ ケー.
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532963(JP,A)
【文献】特表2013-503249(JP,A)
【文献】特開2016-153476(JP,A)
【文献】特開2006-198920(JP,A)
【文献】特表2017-510683(JP,A)
【文献】特表2003-518177(JP,A)
【文献】国際公開第2017/083631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/00
C09J 11/08
C09J 7/21
C09J 163/00
B29B 11/16
F16B 11/00
B32B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材間の硬化性接着剤層を用いて第1の基材を第2の基材に接合すること;及び
(b)前記接着剤層を25℃より高い温度で硬化して接着された構造体を形成すること;
を含む接着方法であって、
前記接着剤層が硬化性マトリックス樹脂の中に埋め込まれた繊維ベールを含み、前記硬化性マトリックス樹脂が、1種以上の熱硬化性樹脂と少なくとも1種の硬化剤を含み、前記繊維ベールが、室温(20℃~25℃)で固相であるポリマーバインダーを含み、前記ポリマーバインダーが、ポリアミド11(「PA11」)とポリアミド12(「PA12」)とのコポリマーであり、前記ポリマーバインダーが硬化中に前記マトリックス樹脂の中に溶解する、接着方法。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーが前記繊維ベール全体に分散されている粒子の形態である、請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
PA11対PA12の比が20:80~80:20である、請求項1又は2に記載の接着方法。
【請求項4】
前記繊維ベールが、主に交絡されたランダムに配向しているポリマー繊維を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項5】
前記繊維ベールが織布又は編マットである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項6】
前記繊維ベールが、約2~約150gsmの目付を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項7】
前記繊維ベールがポリマー繊維又はガラス繊維を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項8】
前記ポリマー繊維が、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項7に記載の接着方法。
【請求項9】
前記ベールの前記繊維が、0.1~100ミクロン、又は1.0~50ミクロンの範囲の直径を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項10】
硬化が、100°F~400°F(38℃~204℃)、又は250°F~350°F(121℃~177℃)の範囲の温度で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項11】
前記接着剤層の前記硬化性マトリックス樹脂が、1種以上のエポキシ樹脂と少なくとも1種のアミン硬化剤とを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項12】
前記硬化性マトリックス樹脂が、熱可塑性及びエラストマー系ポリマー、コアシェルゴム(CSR)粒子などのポリマー粒子、並びにそれらの組み合わせから選択される強化材料を更に含む、請求項11に記載の接着方法。
【請求項13】
前記第1の基材が、金属基材、複合基材、及びハニカム構造体から選択され、前記第2の基材が、金属基材、複合基材、及びハニカム構造体から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項14】
(a)の前記第1及び第2の基材が、硬化性マトリックス樹脂の中に埋め込まれた強化繊維を含む複合基材である、請求項13に記載の接着方法。
【請求項15】
前記複合基材が、プリプレグ、又は積み重ね構成に配置された複数のプリプレグを含むプリプレグレイアップであり、各プリプレグが、熱硬化性樹脂組成物で含浸した連続的な一方向繊維を含む、請求項13に記載の接着方法。
【請求項16】
硬化性マトリックス樹脂の中に埋め込まれた繊維ベールを含む接着剤フィルムであって、
前記硬化性マトリックス樹脂が1種以上のエポキシ樹脂と少なくとも1種の硬化剤とを含み、
前記繊維ベールが、ランダムに配置されたポリマー繊維又はガラス繊維を含み、
前記繊維ベールがポリマーバインダーを担持し、前記ポリマーバインダーが室温(20℃~25℃)で固相であり、
前記ポリマーバインダーが、ポリアミド11(「PA11」)とポリアミド12(「PA12」)とのコポリマーであり且つ動的機械分析により決定される350°F未満(<177℃)又は250°F未満(<121℃)のガラス転移温度を有する、
接着剤フィルム。
【請求項17】
前記硬化性マトリックス樹脂が、1種以上のポリエポキシドと、アミン硬化剤と、反応性官能基を有する又は有さないポリアリールスルホン;コアシェルゴム(CSR)粒子;エラストマー系ポリマー(カルボキシル末端ブタジエンニトリルポリマー(CTBN)、及びアミン末端ブタジエンアクリロニトリル(ATBN)エラストマーを含む);及びそれらの組み合わせから選択される強化材料と、を含む、請求項16に記載の接着剤フィルム。
【請求項18】
前記硬化性マトリックス樹脂が、1種以上のポリエポキシドと、アミン硬化剤と、触媒の存在下でエポキシ樹脂とビスフェノールAを反応させることにより形成される予備反応生成物と、コアシェルゴム(CSR)粒子と、ポリアリールスルホンとを含む、請求項16に記載の接着剤フィルム。
【請求項19】
互いに接合された2つの基材と、前記基材間に挟まれている接着剤フィルムとを含む接着された構造体であって、
前記基材のうちの少なくとも1つが金属基材であり、
接着剤層が、1種以上の熱硬化性樹脂と少なくとも1種の硬化剤とを含む硬化性マトリックス樹脂の中に埋め込まれている繊維ベールを含み、
前記繊維ベールが、交絡されたランダムに配向しているポリマー繊維又はガラス繊維を含み、
前記繊維ベールがポリマーバインダーを担持し、前記ポリマーバインダーが、室温(20℃~25℃)で固相であり、ポリアミド11(「PA11」)とポリアミド12(「PA12」)とのコポリマーであり、且つ動的機械分析により決定される350°F未満(<177℃)又は250°F未満(<121℃)のガラス転移温度を有する、
接着された構造体。
【請求項20】
前記2つの基材が金属基材である、請求項19に記載の接着された構造体。
【発明の詳細な説明】
【発明を実施するための形態】
【0001】
エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂からなる構造用接着剤は、自動車や航空機の車体部品などの厳しい機械的要件が要求される構造部品の製造における構造接着に従来使用されてきた。そのような構造用接着剤は、金属と複合構造体の両方を接合するために、高剪断強度、高耐衝撃性、靭性、及び他の機械的性能特性を有することが望まれる。更に、航空宇宙用途の構造用接着剤は、過酷な環境条件に耐える耐久性を有していなければならない。
【0002】
いくつかの従来の接着剤組成物は、増加した強度と改善された靭性を有する接着された構造体をもたらすことができるものの、例えばガラス転移温度(T)の低下又は吸湿特性の増加などの組成物の他の物理的特性に不利益があることが多い。また、靭性の増加はそれに付随して強度の低下を引き起こし、逆もまた同様であることがしばしば見出されている。このようなことから、接着剤の強度と靭性の両方を同時に向上させることは困難なことが多い。
【0003】
接着された構造体の機械的特性に影響を与えるために、接着剤組成物への熱可塑性及びエラストマー系の強化剤の配合がしばしば行われる。エポキシ系接着剤組成物を強化する従来の方法としては、(1)エポキシ樹脂への可溶性熱可塑性強化剤の添加、(2)エポキシ樹脂への相溶性エラストマー系ポリマーの添加、(3)エポキシ樹脂への強化ゴム微粒子の分散、が挙げられる。全ての場合において、確実に適切にブレンド、分散、又は反応させるために、加熱時間及び反応時間を含む混合条件の注意すべき考慮事項を油断なく監視する必要がある。そのため、コストを付加して生産速度を低下させる製造上の制約が存在する。加えて、強化剤の添加は樹脂組成物の粘度特性及びレオロジー特性に影響を与えるため、エポキシ樹脂組成物に配合できる強化剤の量は制限される。
【0004】
更に、熱可塑性ポリマー及び他の強化剤の添加は、一般的に熱硬化性樹脂の延性及び耐衝撃性を改善することが知られているものの、得られる構造用接着剤へのそのような強化剤の添加の全体としての効果は必ずしも有益ではない。ほとんどの場合、接着剤の靭性の増加はごくわずかであり、高温における機械的特性及び環境劣化に対する耐性の低下が発生することが多い。
【0005】
したがって、熱硬化性構造用接着剤組成物に強化剤を配合する方法であって、強化剤が接着剤フィルムの製造後に接着剤組成物に添加され、その結果、問題なく樹脂フィルムの取り扱い及び処理が行われる方法を提供することは有益であろう。
【0006】
本開示は、繊維ベールが埋め込まれた熱硬化性接着剤層を使用して2つの構造部品を接合するための接着方法を含む。繊維ベールはポリマーバインダーを担持し、ポリマーバインダーは室温(20℃~25℃)で固相であり、接着剤組成物の硬化温度のすぐ下の温度で軟化及び溶解することができる。
【0007】
バインダー含有ベール
一実施形態では、ベールのポリマーバインダーは、75°F~500°F(24℃~260℃)、好ましくは100°F~400°F(37.7℃~204.4℃)、又は150°F~350°F(65.5℃~176.7℃)の範囲の温度で、流体相への少なくとも部分的な相転移をすることができる。一般的に、ポリマーバインダーの相転移は、室温と、硬化性接着剤組成物のゲル化及び/又は合一の実質的な開始温度との間で生じるはずである。接着剤組成物が硬化すると、ポリマーバインダーは溶解し、接着剤層の熱硬化性マトリックスの中に流れ込む。いくつかの実施形態では、ポリマーバインダーは、熱硬化性マトリックスの中に完全に溶解する。
【0008】
バインダーは、ベール繊維の外表面に分布している、及び/又はベール構造体全体に分散している。バインダーは、例えばベール構造体全体に分散されているバインダー粒子として、粒子形態でベール上に存在していてもよい。
【0009】
ベールのポリマーバインダーは、熱可塑性若しくはエラストマー系のポリマー、又は熱可塑性材料とエラストマー系材料とのハイブリッド混合物由来であってもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーバインダーは、比較的低いガラス転移温度、例えば動的機械分析により測定される350°F未満(<176.7℃)又は250°F未満(<121℃)のガラス転移温度を有する、アモルファス又は半結晶性熱可塑性ポリマーを含む。本開示との関係において、ガラス転移温度は、ポリマーが硬質のガラス状材料から軟質のゴム状材料へと転移する温度領域として定義される。適切な熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリアリールスルホン(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホンを含む)、これらのコポリマー及び組み合わせが挙げられる。一実施形態では、熱可塑性バインダーは、2種の異なるポリアミドのコポリマー、例えばポリアミド11とポリアミド12とのコポリマー(「PA11/PA12」)である。ポリアミド11対ポリアミド12の比は、例えば20:80から80:20まで変動し得る。ベール中の熱可塑性バインダーは、接着された構造体の接着強度を向上させる強化剤として機能することが見出された。
【0010】
一実施形態では、ベールは、交絡されたランダムに配向しているポリマー繊維から構成される。繊維は細断されていても連続していてもよい。ポリマーバインダーは、その製造中にベールの中に組み込まれてもよい。他の実施形態では、ベールは織布又は編マットである。ベールの中又は上のバインダーの量は、ベールの総重量を基準として最大約10重量%、いくつかの実施形態では約1重量%~約5重量%であってもよい。不織ベールの場合、ベール中のポリマーバインダーの量は、繊維を一体に保持し、ベールの完全性を維持するのに十分な量である。
【0011】
ベールの繊維は、約0.1~100ミクロン、いくつかの実施形態では、1.0~50ミクロンの範囲の直径を有し得る。ベールは、1平方メートル当たり約2~約150グラム(gsm)、いくつかの実施形態では4~20gsmの目付を有し得る。ベールの繊維組成は、ポリエステル、ポリアミド(又はナイロン)、ガラス、ポリイミド、ガラス転移温度が低く(例えば30℃~120℃)エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂にその硬化中に溶解できる他の適切な熱可塑性材料、及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0012】
本明細書に開示の不織ベールは、一例として、従来のウェットレイドプロセスによって製造されてもよい。ウェットレイドプロセスにおいては、細断繊維は、バインダーと、任意選択により、界面活性剤、粘度調整剤、脱泡剤、濾水剤及び/又は他の化学薬剤などの添加剤とを含有していてもよい水性スラリー中に分散される。特定の添加剤は、ウェットレイド製造プロセスの間に水中の繊維の安定な分散体を達成するように選択される。細断繊維がスラリー中に導入されると、繊維が分散されるようにスラリーは激しく撹拌される。次いで繊維及び粒子を含有するスラリーが移動スクリーン上に堆積され、そこで水のかなりの部分が取り除かれてシートが形成される。その後、真空及び/又は熱風乾燥によってシートから液体が除去されてもよい。このようなウェットレイドプロセスは、典型的には、繊維及び/又は重量の均一な分布が望ましい時に使用される。
【0013】
編地又は織布の場合、バインダーは、上述した接着された構造体の接着強度を改善するために、例えばコーティング又は噴霧によって、乾燥粉末又はバインダー溶液として、その製造後に布地に塗布することができる。
【0014】
ポリマーバインダーは強化材料として機能し、接着剤組成物に混合されるのではなく別途ベールに塗布されるため、接着剤組成物の粘度は影響を受けない。そのため、樹脂フィルムの形成に必要とされるレオロジーも影響を受けない。結果として、強化剤を接着剤組成物の他の成分と混合することにより、別の実行可能な方法よりも得られる接着剤フィルムに多量の強化材料を組み込むことができる。
【0015】
接着剤組成物
上述したバインダー含有ベールは、1種以上の熱硬化性樹脂、硬化剤、及び/又は触媒、並びに任意選択的な強化剤、導電性添加剤、改質剤、及び充填剤を含有する熱硬化性接着剤組成物に埋め込まれる。熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド、シアン酸エステル、フェノールなどが挙げられる。
【0016】
1分子あたり複数のエポキシド官能基を有する多官能性エポキシ樹脂(又はポリエポキシド)が特に適している。ポリエポキシドは、飽和、不飽和、環状、又は非環状の、脂肪族、芳香族、又は複素環式のポリエポキシド化合物であってもよい。適切なポリエポキシドの例としては、アルカリの存在下でのエピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンとポリフェノールとの反応によって調製されるポリグリシジルエーテルが挙げられる。したがって、適切なポリフェノールは、例えば、レゾルシノール、ピロカテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、フッ素4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールZ(4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール)、及び1,5-ヒドロキシナフタレンである。ポリグリシジルエーテルのベースとしての他の適切なポリフェノールは、ノボラック樹脂タイプのフェノールとホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドとの公知の縮合生成物である。
【0017】
二官能性エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールAのジグリシジル(digylcidyl)エーテルに基づく材料(例えばHexionのEpon(商標)828(液体エポキシ樹脂)、Dow Chemical Co.から供給されるDER 331、D.E.R.661(固体エポキシ樹脂)、及びHuntsman Advanced Materialsから供給されるTactix 123及びAraldite(登録商標)184)が挙げられる。三官能性エポキシ樹脂の例としては、アミノフェノールのトリグリシジルエーテル、例えばHuntsman Advanced Materialsによって供給されるAraldite(登録商標)MY 0510、MY 0500、MY 0600、MY 0610が挙げられる。四官能性エポキシ樹脂の例としては、メチレンジアニリンのテトラグリシジルエーテル(例えばHuntsman Advanced Materialsにより供給されるAraldite(登録商標)MY 9655)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例えばHuntsman Advanced Materialsにより供給されるAraldite(登録商標)MY-721、MY-720、725、MY 9663、9634、9655)、JSI Co.,Ltd.のEJ-190、及びCVC Chemical,Inc.のERISYS GE-60が挙げられる。
【0018】
適切な硬化剤としては、例えば、グアニジン(置換グアニジンを含む)、尿素(置換尿素を含む)、メラミン樹脂、グアナミン、アミン(一級及び二級アミン、脂肪族及び芳香族アミンを含む)、アミド、無水物、及びそれらの混合物が挙げられる。特に好適なものは、160°F(71℃)より高い、好ましくは200°F(又は93℃)より高い、例えば350°F(176℃)より高い温度で活性化することができるアミン系潜在性硬化剤である。適切なアミン系潜在性硬化剤の例としては、ジシアンジアミド(DICY)、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン、及びそれらの誘導体が挙げられる。特に好適なアミン系潜在性硬化剤は、ジシアンジアミド(DICY)である。
【0019】
エポキシ樹脂とアミン系硬化剤との間の硬化反応を促進するために、硬化促進剤がアミン系潜在性硬化剤と併用されてもよい。適切な硬化促進剤としては、アルキル及びアリール置換尿素(芳香族又は脂環式ジメチル尿素を含む)、トルエンジアミン又はメチレンジアニリンに基づくビス尿素を挙げることができる。ビス尿素の例は、2,4-トルエンビス(ジメチル尿素)である。一例として、ジシアンジアミド(DICY)は、硬化促進剤としての置換ビス尿素と組み合わせて使用されてもよい。
【0020】
強化剤としては、熱可塑性又はエラストマー系ポリマー、及びポリマー粒子(コアシェルゴム(CSR)粒子等)を挙げることができる。適切な熱可塑性ポリマーとしては、反応性官能基を有する又は有さないポリアリールスルホンが挙げられる。官能基を有するポリアリールスルホンの例としては、例えば、末端アミン官能基を有するポリエーテルスルホン-ポリエーテルエーテルスルホン(PES-PEES)コポリマーが挙げられる。適切なエラストマー系ポリマーとしては、カルボキシル末端ブタジエンニトリルポリマー(CTBN)及びアミン末端ブタジエンアクリロニトリル(ATBN)エラストマーが挙げられる。
【0021】
好ましい実施形態では、CSR粒子は、非エラストマー系ポリマー材料から構成される硬質シェルで囲まれた、例えばジエンのホモポリマー又はコポリマー(より具体的には、ブタジエン又はイソプレンのホモポリマー、ブタジエン又はイソプレンと1種以上のエチレン性不飽和モノマー(ビニル芳香族モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリレート等)とのコポリマー)から構成される、エラストマー状又はゴム状の特性を有する軟質コアを有する。シェルは、(メタ)アクリレート(例えばメチルメタクリレート)、ビニル芳香族モノマー(例えばスチレン)、シアン化ビニル(例えばアクリロニトリル)、不飽和酸及び無水物(例えばアクリル酸)、(メタ)アクリルアミドなどの、適切な高いガラス転移温度を有する1種以上のモノマーのポリマー又はコポリマーから構成することができる。
【0022】
好ましくは、CSR粒子は、比較的サイズが小さく、好ましくは粒子サイズは300nm以下である。例えば、CSRの粒子サイズは、約30nm~約300nmであってもよい。いくつかの実施形態では、粒子サイズは50~100nmの範囲である。他の実施形態では、粒子サイズは150nm~300nmの範囲内である。粒子サイズは、例えばMalvern Zetasizer 2000を使用して、動的光散乱により決定することができる。
【0023】
CSR粒子の例としては、MX 120、MX 125、及びMX 156などのKane Ace(登録商標)の商標で市販されているものが挙げられる(全て液体ビスフェノールAエポキシの中に分散している25重量%のCSR粒子を含む)。
【0024】
いくつかの実施形態では、強化剤は、ビスフェノール-エポキシ反応のためのトリフェニルホスフィン(TPP)などの触媒の存在下で、ビスフェノールAなどのビスフェノールをエポキシ樹脂と反応させることによって形成される予備反応又は反応の生成物である。反応混合物は、CSR粒子及び/又は熱可塑性ポリマーを更に含んでいてもよい。予備反応に適した熱可塑性ポリマーとしては、アミン末端基を有するポリエーテルスルホン(PES)及びPES-PEESコポリマーが挙げられる。
【0025】
接着剤組成物中の強化剤の量は、組成物の総重量を基準として最大約40重量%、いくつかの実施形態では5重量%~20重量%であってもよい。
【0026】
樹脂組成物の流れを制御し、その中の凝集を防止するために、レオロジー調整剤として粒子状の無機充填剤(例えば粉末)も接着剤組成物の中に添加されてもよい。適切な無機充填剤としては、限定するものではないが、フュームドシリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、アルミナ、粉砕又は沈降チョーク、石英粉末、酸化亜鉛、酸化カルシウム、及び二酸化チタンが挙げられる。接着剤の色を調整するために、着色染料又は顔料も接着剤組成物に添加されてもよい。
【0027】
接着に使用される接着剤層は、接着剤組成物の成分を混ぜ合わせ、従来のフィルムコーティング技術を使用して剥離紙上で組成物から樹脂フィルムを形成することによって作製することができる。接着剤層は、0.02psf~0.15psf(又は100gsm~700gsm)のフィルム重量を有し得る。その後、バインダーを含むベールは、フィルムが軟化/溶融状態にある間に、ベールが埋め込まれるまで樹脂フィルムの中に押し込まれる。或いは、ベールは、一緒にプレスされる2枚の樹脂フィルムの間に挟まれる。埋め込まれたベールは、接着剤層の担体として機能し、接着された表面間の接着部の厚さの制御に役立つ。
【0028】
接着方法
本開示の接着方法は、上述した硬化性接着剤層を使用して2つの基材を接合し、その後硬化することを含む。接着剤層は、接合された基材の間に挟まれる。一緒に接着される基材は、金属対金属、金属対複合材料、複合材料対複合材料、複合材料対ハニカム構造体であってよい。この文脈における複合基材とは、マトリックス材料を含浸した又は染み込ませた強化繊維から構成された繊維強化ポリマー複合材料を指す。
【0029】
複合構造体の接着には、(1)一体成形、(2)同時接着、及び(3)二次接着が含まれる。
【0030】
「一体成形」は、硬化と接着を同時に行うことにより未硬化の複合部品を接合することを含み、複合部品は接着剤と一緒に硬化され、その結果化学的に接着される。しかしながら、未硬化のプリプレグの接着にこの技術を利用して複雑な形状の大きな構造部品を製造することは困難である。例えばプリプレグなどの未硬化の複合材料は、粘着性があり(つまり触るとべとつく)、自立に必要な剛性が不足している。そのため、未硬化の複合材料は取り扱いが困難である。例えば、複雑な三次元形状を有する工具で未硬化の複合材料を組み立てて接着することは困難である。
【0031】
「同時接着」は、接着結合によって予備硬化された複合部品を未硬化の複合部品に接合することを含み、接着剤及び未硬化の複合部品は、接着中に硬化される。予備硬化された複合材料は、通常、接着結合の前に追加の表面処理工程を要する。
【0032】
「二次接着」は、接着結合によって予備硬化された複合部品を一体に接合することであり、接着剤のみが硬化される。この接着方法は、典型的には、接着表面で事前に硬化された各複合部品の表面処理を要する。
【0033】
複合基材
接着される複合基材としては、プリプレグ又はプリプレグレイアップ(航空宇宙複合構造体の製造のために使用されるものなど)が挙げられる。本明細書で使用される「プリプレグ」という用語は、硬化性マトリックス樹脂で含浸された強化繊維の層を指す。用語「含浸」は、繊維を樹脂で部分的に又は完全に封入するために硬化性マトリックス樹脂材料を強化繊維に導入することを意味する。複合基材中のマトリックス樹脂は、未硬化又は部分的に硬化の状態であってもよい。本明細書で使用される「プリプレグレイアップ」という用語は、積み重ね構成でレイアップされた複数のプリプレグプライを指す。一例として、レイアップのプリプレグプライの数は、2~100プライ、又は10~50プライであってもよい。プリプレグプライのレイアップは、手作業行ってもよく、或いは自動テープ積層(ATL)などの自動プロセスで行ってもよい。
【0034】
レイアップ内のプリプレグは、互いに対して選択された配向に配置されていてもよい。例えば、プリプレグのレイアップは、一方向繊維を有するプリプレグプライを含んでいてもよく、各プリプレグ内の一方向繊維は、長さなどのレイアップの最大寸法に対して例えば0°、45°、又は90°などの選択された角度θに配向していてもよい。
【0035】
熱硬化性複合基材では、マトリックス材料は、1種以上の熱硬化性樹脂、硬化剤、及び任意選択的な添加剤(触媒、レオロジー調整剤、無機若しくは有機充填剤、熱可塑性若しくはエラストマー系強化剤、安定剤、顔料/染料、難燃剤、反応性希釈剤、及び硬化前後の樹脂マトリックスの特性を変更する当業者に周知の他の添加剤等)を含む。
【0036】
熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド、シアン酸エステル、フェノール、ベンゾオキサジン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。接着剤組成物について上述した多官能性エポキシ樹脂(又はポリエポキシド)が特に適している。熱硬化性樹脂の硬化剤は、接着剤組成物について上述したとおりである。
【0037】
強化剤としては、熱可塑性及びエラストマー系ポリマー、ポリマー粒子(CSR粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子等)、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0038】
通常、複合基材中の強化繊維は、細断繊維、連続繊維、フィラメント、トウ、束、シート、プライ、及びそれらの組み合わせの形をとることができる。連続繊維は、更に、一方向(一方向に整列)、多方向(異なる方向に整列)、不織の、織られた、編まれた、縫われた、巻かれた、及び網状の構成、並びにスワールマット、フェルトマット、及びチョップドマット構造のうちのいずれかが採用されていてもよい。繊維材料としては、限定するものではないが、ガラス(電気つまりE-ガラスなど)、炭素、グラファイト、アラミド、ポリアミド、高弾性率ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾオキサゾール(PBO)、ホウ素、石英、玄武岩、セラミック、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
専門用語
本開示における、本明細書で使用される「硬化する(cure)」及び「硬化(curing)」という用語には、ベース成分の混合、高温での加熱、紫外線及び放射への暴露によって引き起こされるモノマー又はオリゴマーの重合及び/又は架橋が包含される。本明細書で使用される「完全に硬化した」は、100%の硬化度を意味する。本明細書で使用される「部分的に硬化した」は、100%未満の硬化度を意味する。
【0040】
量に関連して用いられる修飾語「約」は、表記の値を含み、文脈によって決められる意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連した誤差の程度を包含する)。例えば、「約」に続く数は、その列挙されている数プラスマイナス列挙されている数の0.1%~1%を意味することができる。本明細書で使用される接尾語「(s)」は、それが修飾する用語の単数形及び複数形の両方を包含し、それによってその用語の1つ若しくは複数を包含する(例えば、金属(metal(s))は、1つ若しくは複数の金属を包含する)ことを意図する。本明細書に開示される範囲は、端点及びその範囲の全ての中間値を含み、例えば、「1%~10%」は、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%等を包含する。
【実施例
【0041】
以下の実施例は、本開示の特定の態様を例示するために提供される。全ての事例において、強化剤と硬化剤とを含有する、250°F(121℃)で硬化可能なエポキシを主体とするフィルム接着剤を使用した。また、接着性能に対する布地の完全な効果を評価するために支持担体を変化させた。
【0042】
実施例1
エポキシを主体とするフィルム接着剤は、予め分散されているナノサイズのビスフェノールA 25重量部を含むビスフェノールAのジグリシジルエーテル125重量部と、ポリエーテルスルホン6.5重量部と、トリフェニルホスフィン0.1重量部と、アミン末端PES-PEESコポリマー5重量部と、シアノグアニジン4重量部と、メチレンジフェニルビス(ジメチル尿素)2重量部と含有する樹脂配合物を調製することによって形成した。
【0043】
樹脂配合物を140°Fで剥離紙にコーティングし、0.06psf(300gsm)のフィルム重量を有する接着剤フィルムを形成した。ポリアミドバインダーを含むポリアミド(PA11)ベールを、ベールが埋め込まれるまで真空下で接着剤フィルムの中に押し込んだ。ベール中のバインダーの量は5重量%未満であった。ポリアミドバインダーは60℃(140°F)のTを有していた。異なる接着剤フィルムを形成するために、4gsm、10gsm、及び20gsmの異なる目付のポリアミドベールを使用した。
【0044】
比較のために、バインダーを含むポリアミドベールをガラスベール(目付6gsm)に置き換えて、「対照」接着剤フィルムを形成した。
【0045】
ベールが埋め込まれた各接着剤フィルムを2枚のアルミニウムパネルの間に挟み、得られたラミネートを、40psiで90分間、3°F/分で250°Fまで硬化した。
【0046】
接着されたパネルの接着性能試験のために、以下の試験方法を使用した:広域重ねせん断(WALS)試験はASTM D3165に従って行い、金属-金属(M-M)剥離試験はASTM D3167に従って行った。
【0047】
表1は、重ねせん断強度試験及び剥離強度試験後の金属-金属接着の試験結果を示す。
【0048】
【0049】
表1に示すように、ポリアミドバインダーを含むベール布地では、対照のベールに比べて、大幅に改善された高温接着強度特性が得られた。接着強度の増加は、通常実験的に観察されるような剥離強度の低下を伴わなかった。高温/湿潤性能も、ポリアミドバインダーを含むベールを使用すると対照と比較して改善され、バインダーを含むベールの有効性が実証された。
【0050】
実施例2
バインダー含有ポリアミドベールを含む接着剤フィルムを、実施例1に開示の通りに作製した。CYCOM 5320-1テーププリプレグを、80psiで2時間、3°F/分で350°Fまで加熱することにより、ポリエステル剥離層と共に予備硬化した。硬化したプリプレグを2枚のパネルに切断して接着した。剥離層を取り除いて、粗い接着可能な表面を得た。2枚のプリプレグパネルを接着剤フィルムを使用して一体に接着し、実施例1に記載の通りに硬化を行った。得られた接着されたラミネートを「ラミネートA」と名付けた。
【0051】
比較のために、同じ樹脂組成物を含む接着剤フィルムを使用するが、スチレンアクリルバインダーを含む異なる20gsmのポリアミドベールを使用して、同じ方法で別の接着されたラミネートを作製した。得られた接着されたラミネートを「比較ラミネート」と名付けた。
【0052】
表2は、重ねせん断強度試験後の接着されたラミネートの試験結果を示す。
【0053】
【0054】
表2のデータは、同じバインダーを含まないベールを含む接着されたラミネートと比較した、ポリアミドバインダーを含むベールが存在する場合の接着された複合ラミネートの接着強度の改善を示している。特に、ラミネートAの高温重ねせん断強度は、比較ラミネートと比較して大幅に向上した。