(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】第四級モノアンモニウム官能基、酸性官能基およびホウ素官能基を含む化合物、ならびにその潤滑剤添加物としての使用
(51)【国際特許分類】
C10M 159/12 20060101AFI20231110BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20231110BHJP
C10M 129/54 20060101ALN20231110BHJP
C10M 133/06 20060101ALN20231110BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20231110BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20231110BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20231110BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20231110BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
C10M159/12
C10M139/00 A
C10M129/54
C10M133/06
C10N30:04
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:26
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2020566616
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2019064068
(87)【国際公開番号】W WO2019229173
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505036674
【氏名又は名称】トータルエナジーズ マーケティング サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】ドイヤン・ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ロギュ・ド・フュルサ・イザベル
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0007693(US,A1)
【文献】特開平3-63282(JP,A)
【文献】特開平9-68824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0030369(US,A1)
【文献】特表2008-507607(JP,A)
【文献】国際公開第2018/011058(WO,A1)
【文献】米国特許第03239463(US,A)
【文献】特表2014-508847(JP,A)
【文献】特開2008-74947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の化合物:
・下記式(IA)のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸、
【化1】
(式中、
Rは、1~50個の炭素原子を含む、ヒドロカル
ビル基を表し、
aは1を表す)
・ホウ酸、ホウ酸錯体、三酸化二ホウ素、ホウ酸トリアルキル(ここで、アルキル基は、独立して、1~4個の炭素原子を含む)、C
1-C
12アルキルボロン酸、C
1-C
12ジアルキルホウ酸、C
6-C
12アリールホウ酸、C
6-C
12ジアリールホウ酸、C
7-C
12アラルキルホウ酸、C
7-C
12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択されるホウ素化合物、および
・下記式(IV):
【化2】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
X
-は対イオンを表す)
に対応する第四級アンモニウム塩、
の反応に起因する反応生成物であって、潤滑剤組成物に用いるための反応生成物。
【請求項2】
請求項1に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、独立して、2~6個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
【請求項3】
請求項
1に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、独立して、14~22個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
【請求項4】
請求項3に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂に由来する、反応生成物。
【請求項5】
請求項4に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は獣脂油に由来する、反応生成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の反応生成物であって、Rは、1~50個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる、反応生成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の反応生成物であって、Rは12~40個の炭素原子を含む、反応生成物。
【請求項8】
請求項7に記載の反応生成物であって、Rは18~30個の炭素原子を含む、反応生成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の反応生成物であって、ホウ素化合物はホウ酸である、反応生成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の反応生成物であって、モル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:ホウ素化合物)が10:1~1:5である、反応生成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の反応生成物であって、モル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:第四級アンモニウム塩)が10:1~1:5である、反応生成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の反応生成物であって、モル比(ホウ素化合物:第四級アンモニウム成分)が10:1~1:10である、反応生成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の反応生成物、または請求項13に記載の潤滑剤組成物の使用であって、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジンを潤滑するための使用。
【請求項15】
2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジンを潤滑するための請求項1~12のいずれか一項に記載の反応生成物。
【請求項16】
2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジンを潤滑するための請求項13に記載の潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性の有機化合物、ホウ素化合物および1つの第四級アンモニウム官能基を含む成分の反応生成物に関する。さらに、本発明は、この反応生成物を含む潤滑剤組成物、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤の主要な機能のうちの1つは摩擦を減少させることである。しかしながら、潤滑油は、効果的に使用されるために、付加的な特性を必要とする場合が多い。例えば、船舶ディーゼルエンジンなどの大きなディーゼルエンジン中で使用される潤滑剤は、特別な配慮を要求する運転条件においてしばしば用いられる。
【0003】
低速の2ストロークのクロスヘッドエンジン中で使用される船舶用オイルとしては、2つのタイプがある。一方はシリンダーピストンアセンブリの潤滑を保証するシリンダー油であり、他方はシリンダーピストンアセンブリ以外の全ての可動部の潤滑を保証するシステム油である。シリンダーピストンアセンブリ内では、酸性ガスを含む燃焼残留物が潤滑油に接している。
【0004】
酸性ガスは重油(fuel oil)の燃焼から形成され;酸性ガスは、主に硫黄酸化物(SO2、SO3)であり、これらは、発生後、燃焼ガス中および/または油中に存在する水分と接触して加水分解される。この加水分解により亜硫酸(HSO3)または硫酸(H2SO4)が生成される。
【0005】
ピストンライナーの表面を保護し、かつ過度の腐食摩耗を回避するために、これらの酸を中和しなければならないが、潤滑剤に含まれる塩基性サイトとの反応によって一般に行われる。
【0006】
油の中和能力は、塩基度を特徴とするBN(アルカリ価)によって測定される。BNはASTM D-2896基準によって測定され、油のグラム当たりの水酸化カリウムのミリグラム(「KOHのmg/g」または「BNポイント」とも呼ばれる)に相当するものとして表現される。燃料に含まれ、燃焼および加水分解によって硫酸に変換される硫黄をすべて中和することを可能とするために、BNという基準の尺度を利用することにより、使用される重油の硫黄分に対して、シリンダー油の塩基度を調節することが可能になる。
【0007】
したがって、重油の硫黄分が高いほど、船舶用オイルのBNを高くする必要がある。このため、市場では5~140mgKOH/gにわたる様々なBNを有する船舶用オイルが存在する。中性清浄剤および/または不溶性金属塩(特に金属炭酸塩)により過塩基性となった清浄剤により、このような塩基度がもたらされる。清浄剤(主として陰イオンタイプの清浄剤)は、例えばサリチル酸塩の金属セッケン、石炭酸塩の金属セッケン、スルホン酸塩の金属セッケン、カルボン酸塩の金属セッケンなどであり、これらはミセルを形成し、ミセルでは不溶性金属塩の粒子状物質が懸濁状態で維持される。通常の中性清浄剤は、典型的に清浄剤1グラム当たりKOH150mgより小さいBNを本質的に有する。そして通常の過塩基性清浄剤は、標準で清浄剤1グラム当たりKOH150~700mgのBNを本質的に有する。所望のBNレベルに応じて潤滑剤中のそれらの質量百分率が固定される。
【0008】
環境問題の影響により、所定の地域(特に沿岸地域)では、船で使用される重油中の硫黄のレベルを制限するよう要求されている。それにより、IMO(国際海事機関)によって発行されたMARPOL条約附属書VI(船からの大気汚染の防止のための規則)が、2005年5月に施行された。これにより、重質油(heavy fuel oil)の硫黄分4.5%w/wをグローバルキャップとし、また、硫黄酸化物の排出規制海域(SECA(硫黄エミッションコントロール・エリア)と呼ばれる)が設定されている。これらの地域に入る船は、最大硫黄分1.5%w/wの重油を使用しなければならず、または、指定された値に従うために硫黄酸化物(SOx)排出を制限する他の代替処理を使用しなければならない。表記w/wは、それが含まれている重油または潤滑剤組成物の全重量に対する化合物の重量パーセントを示す。
【0009】
近年、MEPC(海洋環境保護委員会)は2008年4月に会合し、MARPOL条約附属書VIの修正案を承認した。これらの提案を下記の表中で要約する。それらは、2012年から世界全体での最大含有量が4.5%w/wから3.5%w/wに低減されることにより、最大硫黄分に対する制限が厳格化されるシナリオを示す。SECA(硫黄エミッションコントロール・エリア)は、2010年から、最大許容硫黄分が1.5%w/wから1.0%w/wへさらに低減されるECA(エミッションコントロール・エリア)になり、またNOxと粒子状物質の含量に関係する新しい制限が追加されている。
【0010】
【0011】
大陸間ルートを航海する船は、地域の環境上の制約に応じて異なる重質油を既に使用しており、それにより運転費用を最適化することが可能となる。この状況は、重油の最大許容硫黄分の最終レベルに関係なく継続するだろう。したがって、現在建造中の大多数のコンテナ船は、一方では高い硫黄分を有する「外洋」重油のために、また、他方では0.1%w/w以下の硫黄分を有する「SECA」重油のために利用される燃料庫タンクを備える。これらの2つのカテゴリーの重油間の切り替えでは、エンジンの運転条件を適応させること(特に適切なシリンダー潤滑剤の利用)が必要となる。
【0012】
現在、高い硫黄分(3.5%w/w以下)を有する重油が存在する場合には、約70以下のBNを有する船舶用潤滑剤が使用される。低い硫黄分(0.1%w/w)を有する重油が存在する場合には、約40以下のBNを有する船舶用潤滑剤が使用される。これらの2つのケースでは、船舶用潤滑剤の中性および/または過塩基性清浄剤によって提供される塩基性サイトが必要な濃度に到達しているために、十分な中和能力が達成される。しかし、重油のタイプを変更する毎に潤滑剤を変更することが必要である。
【0013】
さらに、これらの潤滑剤の各々には以下の観測に起因する使用上の制限が存在する。すなわち、低い硫黄分(0.1%w/w)を有する重油の存在下、一定の潤滑レベルにおいて高BNシリンダー潤滑剤を使用すると、塩基性サイトが著しく過剰になり(高BN)、未使用の過塩基性清浄剤(不溶性金属塩を含む)のミセルが不安定化するリスクをはらんでいる。この不安定化により、主としてピストンクラウン上に、不溶性金属塩(例えば炭酸カルシウム)のデポジットが形成され、最終的にライナー研磨タイプの過度の摩耗のリスクへ繋がる可能性がある。さらに、低BNシリンダー潤滑剤の使用は、高い硫黄分を有する重油の存在下では全体の中和能力の観点から十分でないため、腐食の重大なリスクを引き起こす可能性がある。
【0014】
したがって、低速2ストロークエンジンのシリンダー潤滑を最適化するに当たっては、重油およびエンジンの運転条件に適したBNを有する潤滑剤を選択する必要がある。この最適化により、エンジン運転の融通性が低減し、あるタイプの潤滑剤から別のタイプの潤滑剤へ切り替えを行う条件を決定する際には、乗組員側に高度な技術的専門知識が要求される。
【0015】
実際に、船舶エンジン(特に2ストローク船舶エンジン)の運転条件は、基準がますます厳しくなっている。従って、直接エンジン(特にエンジンの高温部、例えばセグメント-ピストン-ポンプアセンブリなど)に接する潤滑剤は、高温に対する耐性を保証し、それにより、エンジンの高温部中でのデポジットの形成を低減または防止する。また、燃料の燃焼中に生成される硫酸をより高度に中和することも保証する。
【0016】
高硫黄燃料だけでなく低硫黄燃料の双方において使用することができ、硫酸を良好に中和する能力を有しつつ、優れた耐熱性を維持、すなわちエンジンの高温部におけるデポジット形成のリスクを低減することができる、船舶用清浄剤についての要望がある。
【0017】
さらに、高硫黄燃料だけでなく低硫黄燃料の双方において使用することができるBN(特に70以下のBN)を有し、硫酸を良好に中和する能力を有しつつ、優れた耐熱性を維持、すなわちエンジンの高温部におけるデポジット形成のリスクを低減することができる、船舶用潤滑剤についての要望がある。
【0018】
時間経過(特に使用中に)に対する粘度増加のリスクがないか、またはわずかである、船舶エンジン用(2ストローク船舶エンジン用を含む)の潤滑剤があることが望ましい。
【0019】
本発明の目的は、前述の欠点をすべてまたは部分的に克服する潤滑剤添加剤を提供することである。本発明の別の目的は、潤滑剤組成物内での処方を実施するのが容易な潤滑剤添加剤を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、前述の欠点をすべてまたは部分的に克服する潤滑剤組成物を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、処方を実施するのが容易な潤滑剤組成物を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、船舶エンジン(特に、低硫黄燃料および高硫黄燃料の両方と使用される2ストローク船舶エンジン)を潤滑する方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、船舶エンジン(特に、極低硫黄の燃料と使用される2ストローク船舶エンジン)を潤滑する方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、船舶エンジン(特に2ストローク船舶エンジン)の高温部中のデポジットの形成を低減する方法を提供することである。
【0025】
特許文献1(米国特許出願公開第2015/0299606号明細書)は、酸性有機化合物と、ホウ素化合物と、ポリアミン(ポリエチレンイミンなど)と、任意にアルコキシ化アミンおよび/またはアルコキシ化アミドとの反応生成物を含む潤滑油の中で使用することができる、金属フリー清浄添加剤および酸化防止添加剤を開示する。
【0026】
特許文献2(米国特許出願公開第2005/172543号明細書)は、酸性有機化合物とホウ素化合物と塩基性有機化合物との反応生成物を含む組成物、および潤滑剤と炭化水素燃料用の清浄添加剤としてのその使用を開示する。
【0027】
特許文献3(欧州特許第3072951号明細書)は、潤滑油組成物で使用される清浄剤組成物を開示し、前記清浄剤は下記を含む:
- 過塩基性化スルホン酸カルシウムおよび、
- 下記化合物の反応生成物を含む金属フリー低灰分清浄剤:
- 酸性有機化合物、
- ホウ素化合物および、
- 1つ以上のアミンを含むアミン成分。
【0028】
特許文献4(米国特許出願公開第2016/0281014号明細書)は、過塩基性化スルホン酸カルシウムおよび低灰分清浄剤を含み、低灰分清浄剤は金属フリーで、アルキル化サリチル酸などの酸性有機化合物、ホウ素化合物およびアミン成分の反応生成物を含む、潤滑油清浄剤組成物を開示する。
【0029】
特許文献5(欧州特許第1783134号明細書)は、内燃機関に適用される潤滑油用途の中~高TBN清浄分散添加剤の調製方法を開示する。これらの添加剤は過塩基性化アルキルヒドロキシ安息香酸アルカリ金属塩からなる。そのような添加剤は、潤滑油に対する溶解度が低く、このため、4ストロークの低速エンジン中で主として使用される。
【0030】
非特許文献1(Rashi Gusain et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2014, 6, p.15318-15328)は、ビス(イミダゾリウム)およびビス(アンモニウム)-ジ(ビス(サリチラト)ボレート)イオン液体、ならびにそれらの潤滑剤添加剤としての使用を開示する。
【0031】
非特許文献2(Rashi Gusain et al., RSC Adv., 2015, 5, p.25287-25294)は、オルトホウ酸イオン液体、特にビス(マンデラト)ボレートおよびビス(サリチラト)ボレート、ならびにそれらの潤滑剤添加剤としての使用を開示する。
【0032】
特許文献6(国際公開第2012/128714号)は、鉄および非鉄材料用のホウ素系イオン液体をベースとする潤滑剤を開示する。
【0033】
特許文献7(国際公開第2016/138248号)は、潤滑剤添加剤として四面体イオン性ホウ酸塩化合物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【文献】米国特許出願公開第2015/0299606号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/172543号明細書
【文献】欧州特許第3072951号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0281014号明細書
【文献】欧州特許第1783134号明細書
【文献】国際公開第2012/128714号
【文献】国際公開第2016/138248号
【非特許文献】
【0035】
【文献】Rashi Gusain et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2014, 6, p.15318-15328
【文献】Rashi Gusain et al., RSC Adv., 2015, 5, p.25287-25294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
これらの文献のいずれにも、本明細書で定義される、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸、ホウ素化合物、および第四級アンモニウムの反応生成物を開示していない。
【0037】
アルキル化サリチル酸、ホウ素化合物およびアミン成分を組み合わせる添加剤は、良好な耐腐食性および耐摩耗性を提供する。しかしながら、それらの化合物のうちのいくつかについては、潤滑油中の添加剤の量を増加させると、中和する間に油粘度が増加するため、結果として潤滑性能が低下する。他の化合物は、油粘度が増加するのを制御する点では満足できるものの、洗浄能力に対する点ではそれほど満足できない。また、他の化合物は、洗浄能力の点では満足できるが、中和する間での油粘度増加の点ではそれほど満足できない。
【0038】
したがって、効果的な耐腐食性および耐摩耗性を同時に提供し、潤滑性能を向上させるために使用時の良好なレオロジー性を提供し、かつ高洗浄能力を提供してデポジットの形成を回避する、潤滑剤添加剤が求められている。
【0039】
本発明の反応生成物は改善された洗浄力および酸化安定性を有利に提供する。さらに、反応生成物は、潤滑油に優れた洗浄力および清浄性をもたらし、使用中の油のレオロジー性を劣化させない。反応生成物は、優れた耐腐食性および耐摩耗性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、少なくとも以下の化合物の反応生成物に関する:
・下記式(I)のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸、
【化1】
式中、
Rは、1~50個の炭素原子を含み、任意に1個以上のヘテロ原子を含むヒドロカルビル基を表し、
aは1を表し、
・ホウ素化合物、および
・第四級アンモニウム塩。
【0041】
本発明はまた、前記反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物についても包含する。
【0042】
本発明はまた、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストローク船舶エンジン)を潤滑するための生成物または潤滑剤組成物の使用についても包含する。
【0043】
本発明によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸は、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸から選ばれる。
【0044】
さらにより好ましい実施形態によれば、ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸化合物は、下記式(IA)に対応する:
【化2】
式(IA)中、aは1を表す。
【0045】
好ましい実施形態によれば、ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸錯体、三酸化二ホウ素(boric oxide)、ホウ酸トリアルキル(ここで、アルキル基は、独立して、1~4個の炭素原子を含む)、C1-C12アルキルボロン酸、C1-C12ジアルキルホウ酸、C6-C12アリールホウ酸、C6-C12ジアリールホウ酸、C7-C12アラルキルホウ酸、C7-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択され、有利には、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0046】
好ましい実施形態によれば、第四級アンモニウム塩は、C1-C40アルキル基またはC1-C40アルケニル基から選択される4つのヒドロカルビル基を含む。
【0047】
好ましい実施形態によれば、第四級アンモニウム塩は、下記式(IV)に対応する:
【化3】
式中、
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
X
-は対イオンである。
X
-は用途に適合する対イオンであり得る。
X
-はハロゲンから選択されてもよく、例えば、Cl
-であってもよい。
【0048】
好ましい実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~30個の炭素原子、好ましくは1~22個の炭素原子、より好ましくは1~18個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0049】
例えば、第1の変形例によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、2~6個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0050】
より好ましい実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂(例えば、獣脂油、ココナッツ油およびパーム油など)、好ましくは獣脂油に由来する。
【0051】
好ましくは、この実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、14~22個の炭素原子、好ましくは14~18個の炭素原子、より好ましくは16~18個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0052】
好ましい実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は同一である。
【0053】
好ましい実施形態によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸とホウ素化合物とのモル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:ホウ素化合物)は約10:1~約1:5である。
【0054】
好ましい実施形態によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸と第四級アンモニウム塩とのモル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:第四級アンモニウム塩)は約10:1~約1:5である。
【0055】
好ましい実施形態によれば、ホウ素化合物と第四級アンモニウム成分とのモル比(ホウ素化合物:第四級アンモニウム成分)は約10:1~1:10である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
1つ以上の特性を記載される「本質的に~からなる」との用語は、明示的にリストされた成分または工程に加えて、本発明の製法または材料に、本発明の性質および特性に実質的に影響しない成分または工程が含まれ得ることを意味する。
【0057】
「XとYの間に含まれる」との表現は、特に明示されない限り、境界を含んでいる。この表現は、記載された範囲がXとYの値、およびXからYまでのすべての値を含むことを意味する。
【0058】
定量値Vを記載される「約」との用語は、値V±10%に対応する。
【0059】
「アルキル基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状であり得る飽和炭化水素鎖を意味する。
【0060】
「アルケニル基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状であり得、少なくとも1つの不飽和結合(好ましくは炭素-炭素二重結合)を含む炭化水素鎖を意味する。
【0061】
「アリール基」は芳香族炭化水素官能基を意味する。この官能基は単環または多環であり得る。アリール基の例としては、フェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンおよびテトラセンが挙げられる。
【0062】
「アラルキル基」は、アルキル鎖置換基を含む芳香族炭化水素官能基(好ましくは単環式)を意味する。
【0063】
「ヒドロカルビル基」は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選択された化合物またはこの化合物のフラグメントを意味し、ヒドロカルビル基はヘテロ原子を含み得る。
【0064】
[ヒドロキシ安息香酸]
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物は少なくとも1つの安息香酸フラグメントを含む分子であり、芳香環は少なくとも1つの水酸基を有し、1つのアルキル置換基、アルケニル置換基、アリール置換基またはアラルキル置換基を有する。ヒドロカルビル置換基およびヒドロキシ基は、酸性官能基に対して、オルト、メタまたはパラ位であってもよく、および互いに、オルト、メタまたはパラ位であってもよい。ヒドロカルビル置換基は1~50個の炭素原子を含むことができる。
【0065】
本発明によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物は、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸およびその混合物を含んでいる。
【0066】
本発明によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物は、下記式(I)に対応する:
【化4】
式中、
Rは1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表し、Rは1個以上のヘテロ原子を含むことができ、
aは1を表す。
【0067】
式(I)中のヒドロカルビル基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基およびアラルキル基を意味し、1個以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0068】
式(I)の中のヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
【0069】
R中のヘテロ原子はO、N、Sから選ぶことができる。例えば、それらは次の1つ以上として存在していてもよい:-OH置換基、-NH2置換基、もしくは-SH置換基、または-O-ブリッジ、-NH-ブリッジ、-N=ブリッジもしくは-S-ブリッジ。
【0070】
好ましくは、Rはヘテロ原子を含まない。
【0071】
好ましくは、Rはアルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
【0072】
好ましくは、Rは、1~50個の炭素原子を有する、アルキル基またはアルケニル基を表す。
【0073】
好ましくは、Rは、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基、および分岐鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0074】
さらにより好ましくは、Rは1~50個の炭素原子を有する直鎖状アルキルを表す。
【0075】
好ましくは、Rは12~40個の炭素原子を含み、さらにより好ましくは、Rは18~30個の炭素原子を含む。
【0076】
サリチル酸は、市販され、式(I)の分子を調製するための出発物質として使用することができる。
【0077】
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸は、特許文献5(欧州特許第1783134号明細書)に開示された方法によって調製することができる。
【0078】
好ましくは、式(I)中、-OHおよび-COOHはフェニル環上のオルト位にあり、式(I)の分子は下記式(IA)のサリチル酸誘導体である:
【化5】
式中、Rとaは式(I)と同じ定義であり、これらの好ましい変形例も、式(I)と同じである。
【0079】
ヒドロカルビル置換サリチル酸は、商品名RD-225およびS-220としてChemtura社から、商品名OLOA 16300、OLOA 16301およびOLOA 16305としてOronite社から、または商品名M7101、M7102、M7121およびM7125としてInfineum社から市販されている。
【0080】
[ホウ素化合物]
ホウ素化合物は、ホウ酸、ヒドロカルビルボロン酸、ホウ酸エステルおよびヒドロカルビルボロン酸エステル、三酸化二ホウ素、ホウ酸錯体から選ばれる。
【0081】
ホウ素化合物は、例えば、以下の化合物から選ぶことができる:ホウ酸、三酸化二ホウ素、ホウ酸錯体、ホウ酸トリアルキル(ここで、アルキル基は、独立して、1~4個の炭素原子を含む)、C1-C12アルキルボロン酸、C1-C12ジアルキルホウ酸、C6-C12アリールホウ酸、C6-C12ジアリールホウ酸、C7-C12アラルキルホウ酸、C7-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体。
【0082】
アルキル基とアルコキシ基は直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
【0083】
ホウ酸錯体は1つ以上のアルコール官能基を含む分子との錯体である。
【0084】
好ましくは、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0085】
[第四級アンモニウム成分]
第四級アンモニウム成分は、4つのヒドロカルビル基によって置換された1個の窒素原子のみを含む化合物から選ばれる。
【0086】
好ましくは、第四級アンモニウム成分は、4つのC1-C40アルキル基またはC1-C40アルケニル基によって置換された1個の窒素原子のみを含む化合物から選ばれる。
【0087】
この変形例によれば、第四級アンモニウム成分は、下記式(IV)の化合物から好ましく選ばれる:
【化6】
式中、
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
X
-は用途に適合する対イオンを表す。より特に、Xは反応条件に適合していなければならず、この反応を妨げてはならない。例えば、X
-はCl
-であり得る。
【0088】
式(IV)中の「ヒドロカルビル基」は、好ましくは、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよい、アルキル基およびアルケニル基を意味する。
【0089】
R1、R2、R3およびR4は、好ましくは、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基、および分岐鎖状アルケニル基から選ばれる。さらにより好ましくは、R1、R2、R3およびR4は、、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0090】
第1の実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~8個の炭素原子、好ましくは2~6個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0091】
好ましい変形例によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、14~22個の炭素原子、好ましくは14~18個の炭素原子、より好ましくは16~18個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
【0092】
R1、R2、R3およびR4基は異なっていてもよいが、材料をより経済的に製造する観点から、一実施形態では、それらは同じである。それらが同じかどうかに関係なく、R1、R2、R3およびR4は、独立して、好ましくは化学原料由来、または天然物(例えば、天然油や油脂)由来である。特に、天然物が使用される場合、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、異なる鎖長を有する、アルキル基およびアルケニル基の混合であってもよい。好ましくは、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂、例えば、獣脂油、菜種油、ひまわり油、大豆油、亜麻油、オリーブオイル、パーム油、ヒマシ油、木油、コーン油、かぼちゃ油、グレープシードオイル、ホホバ油、ごま油、くるみ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、シアバターノキ油、マカダミア油、綿実油、アルファルファ油、ライ麦油、サフラワー油、落花生油、ココナッツ油およびコプラ油、およびそれらの混合物などに由来する。
【0093】
好ましくは、R1、R2、R3およびR4は獣脂油、ココナッツ油およびパーム油に由来する。好ましくは、R1、R2、R3およびR4基は、獣脂油から得られた脂肪族基を表し、対応する脂肪-アルキル(アルキレン)第四級アンモニウム塩の混合物が形成される。
【0094】
R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂に由来し、つまり、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂から得られる脂肪酸の還元によって得られる混合脂肪族鎖に相当する。
【0095】
ある変形例によれば、水素化されたR1、R2、R3およびR4基を使用することは有利であり得る。しかしながら、ある原料については、水素化後でさえ、所定量の不飽和結合は残っていてもよい。または、原料のR1、R2、R3およびR4基は不飽和である。また、R1、R2、R3およびR4のうちの1つが完全に飽和であり、1つが不飽和である式(IV)の化合物は、本発明で使用することができる生成物である。式(IV)の化合物は、商品名Arquad(登録商標)およびEthoquad(登録商標)としてAkzo社から市販されている。
【0096】
[反応生成物]
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物、および第四級アンモニウム成分の反応は、任意の適切な方法で達成することができる。
【0097】
例えば、前記反応は、最初に、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物およびホウ素化合物を、所望の比率、および適切な溶媒の存在下において組み合わせることにより行うことができる。
【0098】
適切な溶媒は、例えば、ナフサ、ならびに水およびアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)のような極性溶媒である。
【0099】
好ましくは、反応は、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物とホウ素化合物とのモル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物:ホウ素化合物)が約15:1~約1:5、好ましくは5:1~1:2、より好ましくは4:1~1:1で行う。最も好ましい比は約2:1である。
【0100】
十分な時間の後、ホウ素化合物が溶解する。その後、第四級アンモニウム成分が、混合物に徐々に加えられて中和が行われ、所望の反応生成物が形成される。
【0101】
好ましくは、第四級アンモニウム成分は、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物と第四級アンモニウム成分とのモル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物:第四級アンモニウム成分)が約15:1~約1:5、好ましくは5:1~1:2、より好ましくは4:1~1:1であるような量で加える。最も好ましい比は約2:1である。
【0102】
好ましくは、第四級アンモニウム成分は、ホウ素化合物と第四級アンモニウム成分とのモル比(ホウ素化合物:第四級アンモニウム成分)が約10:1~1:10、好ましくは5:1~1:5、さらにより好ましくは2:1~1:2であるような量で加える。最も好ましい比は約1:1である。
【0103】
反応は、約20℃~約100℃、例えば、約50℃~約75℃の温度で、一般に約0.5~5時間、より好ましくは1~4時間、反応媒体を維持することにより有利に行うことができる。
【0104】
反応終了後、溶媒を反応媒体から蒸発させてもよく、好ましくは真空下での蒸留によって溶媒を蒸発させる。または、溶媒はそのまま反応生成物に混合された状態で残っていてもよい。
【0105】
粘度をコントロールするために必要に応じて希釈油を加えることができ、特に蒸留による溶媒の除去中に加えてもよい。
【0106】
この反応に起因する生成物は、化合物の複合混合物(complex mixture of compounds)を含み得る。1つ以上の特定の成分を分離するために、反応生成混合物(反応生成物の混合物)を分離する必要はない。従って、本発明の潤滑油組成物では、反応生成混合物をそのまま使用することができる。
【0107】
反応は、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物および第四級アンモニウム成分に加えて他の反応物質を用いて達成し得る。
【0108】
しかしながら、本発明によれば、好ましくは、反応生成物は、少なくとも1種のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、少なくとも1種のホウ素化合物および少なくとも1種の第四級アンモニウム成分から本質的になる、反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因する。
【0109】
さらにより好ましくは、反応生成物は、少なくとも1種のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、少なくとも1種のホウ素化合物および少なくとも1種の第四級アンモニウム成分からなる、反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因する。
【0110】
[潤滑剤組成物]
本発明はまた、潤滑油(または潤滑剤)組成物中の添加剤として上記に開示された反応生成物の使用に関する。さらに本発明はまた、前記添加剤を含む潤滑剤組成物に関する。
【0111】
好ましくは、潤滑剤組成物は以下を含む:
・ 60~99.9%の少なくとも1種の基油、
・ 0.1~20%の、少なくとも1種の反応生成物であって、前記反応生成物は少なくとも上述のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物および第四級アンモニウム成分の反応生成物であり、
これらのパーセントは組成物の全重量に対する重量パーセントによって定義されている。
【0112】
さらにより好ましくは、潤滑剤組成物は以下を含む:
・ 60~99.9%の少なくとも1種の基油、
・ 0.1~15%の、少なくとも1種の反応生成物であって、前記反応生成物は少なくとも上述のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物および第四級アンモニウム成分の反応生成物であり、
これらのパーセントは組成物の全重量に対する重量パーセントによって定義されている。
【0113】
[基油]
一般に、本発明による潤滑油組成物は、第1の成分として、「基油」と呼ばれる潤滑性粘度を有する油を含む。使用される基油は、以下の用途のうちのいかなる潤滑油組成物を処方するために使用される、現在公知または将来発見される潤滑性粘度を有する任意の油であってもよい。例えば、エンジン油、船舶シリンダー油、油圧作動油などの機能性流体、ギヤ油、トランスミッション流体(例えばオートマティックトランスミッション流体)、タービン潤滑剤、トランクピストンエンジン油、圧縮機潤滑剤、金属加工潤滑剤、および他の潤滑油、およびグリース組成物。
【0114】
好ましくは、本発明による潤滑剤組成物は、船舶エンジン潤滑油組成物であり、好ましくは2ストローク船舶エンジン潤滑油組成物である。
【0115】
一般に、本発明において潤滑剤組成物を処方するために使用される「基油」と呼ばれる油は、鉱物油、合成油、または植物由来の油、さらにこれらの混合物であってもよい。一般に使用される鉱物油または合成油は、以下に要約されるAPI分類の中で定義されるグループの1つに属する:
【0116】
【0117】
グループ1のこれらの鉱油は、選択されたナフテン系原油またはパラフィン系原油を蒸留した後、これらの留分の精製工程(溶剤抽出、溶剤脱ろうもしくは触媒脱ろう、水素化処理または水素添加など)によって得られてもよい。
【0118】
グループ2および3の油は、より厳格な精製工程(例えば水素化処理、水素化分解、水素添加および触媒脱ろうの組み合わせ)によって得られる。グループ4および5の合成基油は、例えばポリアルファオレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、アルキルベンゼンを含んでいる。
【0119】
これらの基油は、単独でまたは混合物として使用されてもよい。鉱油は合成油と組み合わせてもよい。
【0120】
本発明の潤滑剤組成物は、SAEJ300分類による、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50またはSAE-60の粘度等級を有する。
【0121】
等級20の油は100℃での動粘度5.6~9.3mm2/sを有している。
等級30の油は100℃での動粘度9.3~12.5mm2/sを有している。
等級40の油は100℃での動粘度12.5~16.3mm2/sを有している。
等級50の油は100℃での動粘度16.3~21.9mm2/sを有している。
等級60の油は100℃での動粘度21.9~26.1mm2/sを有している。
【0122】
好ましくは、第1の態様および第2の態様による潤滑剤組成物は、シリンダー潤滑剤である。
【0123】
2ストロークディーゼル船舶エンジン用のシリンダー油は粘度等級SAE-40~SAE-60を有しており、一般に好ましくは、100℃での動粘度16.3~21.9mm2/sである等級SAE-50を有している。典型的には、2ストローク船舶ディーゼルエンジン用のシリンダー潤滑剤の従来の処方は、等級SAE-40~SAE-60であり、好ましくはSAE-50(SAEJ300分類による)であるとともに、船舶エンジンでの使用に適した、鉱物由来および/または合成由来の潤滑基油(例えばAPIグループ1クラス)を少なくとも50重量%含む。それらの粘度指数(VI)は80~120であり、硫黄分は0.03%を超えており、飽和物含量は90%未満である。
【0124】
2ストロークディーゼル船舶エンジン用のシステム油は、粘度等級SAE-20~SAE-40を有しており、一般に好ましくは、100℃での動粘度9.3~12.5mm2/sである等級SAE-30を有している。
【0125】
これらの粘度は、添加剤と、例えば、ニュートラルソルベント(例えば150NS、500NSまたは600NS)基油およびブライトストックなどのグループ1の鉱物基油を含む基油との混合により得てもよい。添加剤との混合物として、選択されたSAE等級に適合する粘度を有する鉱物基油、合成基油または植物由来の基油のいかなる他の組み合わせも使用されてもよい。
【0126】
本発明の潤滑剤組成物中の基油の量は、潤滑剤組成物の全重量に対して、30重量%~90重量%、好ましくは40重量%~90重量%、より好ましくは50重量%~90重量%である。
【0127】
本発明の一実施態様では、潤滑剤組成物は、ASTM D-2896によって定められるアルカリ価(BN)が、1グラムの潤滑剤組成物当たり多くとも50ミリグラムの水酸化カリウム、好ましくは多くとも40ミリグラムの水酸化カリウム、有利には多くとも30ミリグラムの水酸化カリウムであり、特に1グラムの潤滑剤組成物当たり10~40ミリグラムの水酸化カリウム、好ましくは15~40ミリグラムの水酸化カリウムである。
【0128】
本発明の別の実施態様では、潤滑剤組成物は、ASTM D-2896によって定められるアルカリ価(BN)が、少なくとも50、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも70、有利には70~100である。
【0129】
[添加剤]
上記基油の全体または一部分を、組成物の高温下および低温下の両方での粘度を増加させることが可能な、1つ以上の増粘剤により、または粘度指数(VI)を向上する添加剤により、置き換えることが任意に可能である。
【0130】
本発明の潤滑剤組成物は、特に当業者によって頻繁に使用されるものの中から選択される、少なくとも1種の任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0131】
一実施形態では、潤滑剤組成物は、中性清浄剤、過塩基性清浄剤、耐摩耗剤、油溶性脂肪アミン、ポリマー、分散剤、消泡剤またはこれらの混合物の中から選ばれた任意の添加剤をさらに含む。
【0132】
清浄剤は、親油性の炭化水素長鎖および親水性の頭部を含む典型的に陰イオンの化合物であり、付随する陽イオンは、典型的にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属陽イオンである。清浄剤は、カルボン酸、スルホン酸、サリチル酸、ナフテン酸および石炭酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(特に好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム)から好ましくは選ばれる。これらの金属塩は、清浄剤のアニオン基に対して、ほぼ化学量論的な量で金属を含んでいてもよい。この場合、ある程度塩基性に寄与する場合であっても、非過塩基性清浄剤または「中性」清浄剤と称する。これらの「中性」清浄剤は、典型的には、清浄剤1g当たり、150mgKOH/g未満、100mgKOH/g未満、または80mgKOH/g未満の、ASTM D2896によって測定されたBNを有している。この種のいわゆる中性清浄剤は、部分的に潤滑剤組成物のBNに寄与してもよい。例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(例えばカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム)の、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、石炭酸塩、ナフテン酸塩などの中性清浄剤が使用される。金属が過剰量(清浄剤のアニオン基に対する化学量論的な量より大きな量)である場合、これらはいわゆる過塩基性清浄剤である。過塩基性清浄剤のBNは高く、例えば、清浄剤1g当たり、150mgKOH/g超え、典型的に200~700mgKOH/g、好ましくは250~450mgKOH/gである。過塩基性清浄剤の特徴を提供する過剰の金属は、油の中で不溶性金属塩、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩(好ましくは炭酸塩)の形態である。1つの過塩基性清浄剤では、これらの不溶性塩の金属は、油溶性清浄剤の金属と、同じであってもよく、異なっていてもよい。金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから好ましくは選ばれる。過塩基性清浄剤は、不溶性金属塩からなるミセルの形態であり、油中の可溶性金属塩の形態をしている清浄剤によって潤滑剤組成物中に懸濁状態で維持されている。これらのミセルは1種以上の清浄剤によって安定させられている、1種以上の不溶性金属塩を含んでいてもよい。単一種の清浄剤-可溶性金属塩を含む過塩基性清浄剤は、後者の清浄剤の疎水性鎖の性質によって一般に命名される。したがって、清浄剤が、石炭酸塩、サリチル酸塩、スルホン酸塩、またはナフテン酸塩である場合、過塩基性清浄剤は、それぞれ、石炭酸塩タイプ、サリチル酸塩タイプ、スルホン酸塩タイプ、またはナフテン酸塩タイプと呼ばれる。ミセルが、疎水性鎖の性質によって互いに異なる複数のタイプの清浄剤を含む場合、過塩基性清浄剤は混合タイプと呼ばれる。過塩基性清浄剤および中性清浄剤は、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、石炭酸塩、およびこれらのタイプの清浄剤の少なくとも2つを組み合わせる混合清浄剤から選ばれてもよい。過塩基性清浄剤および中性清浄剤は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム(好ましくはカルシウムまたはマグネシウム)から選ばれた金属を含む化合物を含んでいる。過塩基性清浄剤は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩(好ましくは炭酸カルシウム)の群から選ばれた金属不溶性塩により、過塩基性であってもよい。潤滑剤組成物は、上で定義した、少なくとも1種の過塩基性清浄剤および少なくとも中性清浄剤を含んでいてもよい。
【0133】
ポリマーは、典型的に2000~50000ダルトン(Mn)の低分子量ポリマーである。ポリマーは、PIB(2000ダルトン~)、ポリアクリレートまたはポリメタクリレート(30000ダルトン~)、オレフィン共重合体、オレフィンとα-オレフィンとの共重合体、EPDM、ポリブテン、高分子量ポリα-オレフィン(100℃での粘度>150)、水素化スチレン-オレフィン共重合体または非水素化スチレン-オレフィン共重合体の中から選択される。
【0134】
耐摩耗剤は、摩擦表面上で吸着されて保護膜を形成することによって、摩擦から表面を保護する。最も一般に使用されるものは亜鉛ジチオホスフェートまたはDTPZnである。さらに、このカテゴリーでは、様々なリン化合物、硫黄化合物、窒素化合物、塩素化合物およびホウ素化合物が挙げられる。種々様々の耐摩耗剤があるが、最も広く使用される種類は、金属アルキルチオホスフェート(特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェートまたはDTPZn)のような硫黄リン添加剤である。好ましい化合物は、式Zn(SP(S)(OR1)(OR2))2(式中、R1とR2はアルキル基であり、好ましくは1~18個の炭素原子を有するアルキル基)である。DTPZnは、潤滑剤組成物の全重量に対して約0.1~2重量%のレベルで典型的に存在する。アミンホスフェート、硫化オレフィンを含むポリスルフィドも広く使用される耐摩耗剤である。また、潤滑剤組成物中では、任意に窒素および硫黄タイプの耐摩耗極圧添加剤が存在していてもよく、そのような耐摩耗極圧添加剤としては、例えば金属ジチオカルバメート(特にモリブデンジチオカルバメート)が挙げられる。グリセリンエステルも、耐摩耗剤である。モノオレイン酸エステル、ジオレイン酸エステルおよびトリオレイン酸エステル、モノパルミチン酸エステルならびにモノミリスチン酸エステルも使用されてもよい。一実施形態では、耐摩耗剤の含有量は、潤滑剤組成物の全重量に対して0.01~6重量%、好ましくは0.1~4重量%であってもよい。
【0135】
分散剤は、潤滑剤組成物の処方の中で使用される有名な添加剤であり、特に、船舶分野で適用される。分散剤の主要な役割は、粒子状物質を懸濁状態で維持することであり、前記粒子状物質は潤滑剤に最初から存在するか、またはエンジンでの使用中に潤滑剤に生じる。それらは立体障害として作用することによって凝集を防ぐ。さらに、分散剤は中和反応に対する相乗効果を有していてもよい。潤滑剤添加剤として使用される分散剤は、典型的に比較的長い炭化水素鎖(一般に50~400個の炭素原子を含む)とともに、極性基を含んでいる。極性基は典型的には少なくとも1つの窒素元素、酸素元素またはリン元素を含んでいる。コハク酸から誘導される化合物は、潤滑剤添加剤中の分散剤として特に有用である。また、特に無水コハク酸とアミンとの縮合によって得られるスクシンイミド、無水コハク酸とアルコールまたは多価アルコールとの縮合によって得られるコハク酸エステルも使用される。その後、これらの化合物は硫黄含有化合物、酸素含有化合物、ホルムアルデヒド、カルボン酸およびホウ素含有化合物、または亜鉛含有化合物を含む様々な化合物により処理されて、例えば、ホウ素化スクシンイミド、または亜鉛ブロックスクシンイミドを製造することができる。さらに、アルキル基で置換されたフェノール、ホルムアルデヒド、および第一級または第二級アミンの重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も、潤滑剤中で分散剤として使用される化合物である。本発明の一実施形態では、分散性の含有量は、潤滑剤組成物の全重量に対して、0.1重量%以上、好ましくは0.5~2重量%、有利には1~1.5重量%であってもよい。PIBスクシンイミド群(例えば、ホウ素化または亜鉛ブロックされたPIBスクシンイミド)から選択された分散剤を使用することが可能である。
【0136】
他の任意の添加剤は、消泡剤(例えばポリジメチルシロキサン、ポリアクリレートなどの極性ポリマー)から選ばれてもよい。さらに、それらは、酸化防止剤および/または防錆剤(例えば有機金属の清浄剤、チアジアゾール)から選ばれてもよい。これらの添加剤は当業者に公知である。これらの添加剤は、潤滑剤組成物の全重量に対して0.1~5重量%の含有量で一般に存在する。
【0137】
一実施形態では、本発明による潤滑剤組成物はさらに油溶性脂肪アミンを含んでもよい。
【0138】
脂肪アミンは下記一般式(VI)である:
R’1-[(NR’2)-R’3]n-NR’4R’5(VI)
式中、
・ R’1は、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも12個の炭素原子、および任意に窒素、硫黄または酸素の中から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む炭化水素基を表し、
・ R’2、R’4およびR’5は、独立して、水素原子、または飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、任意に窒素、硫黄または酸素の中から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む炭化水素基を表し、
・ R’3は、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも1個の炭素原子、および任意に窒素、硫黄または酸素の中から選択される少なくとも1個のヘテロ原子(好ましくは酸素)を含む炭化水素基を表し、
・ nは1以上の整数であり、好ましくは1~10、より好ましくは1~6の整数であり、特に1、2または3の中から選択される。
【0139】
好ましくは、脂肪アミンは一般式(VI)であり、式中:
・ R’1は、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、12~22個の炭素原子(好ましくは14~22個の炭素原子)、および任意に窒素、硫黄または酸素の中から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む炭化水素基を表し、および/または
・ R’2、R’4およびR’5は、独立して、水素原子;飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、12~22個の炭素原子(好ましくは14~22個の炭素原子、より好ましくは16~22個の炭素原子)を含む炭化水素基;(R’6-O)p-H[式中、R’6は、飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも2個の炭素原子(好ましくは2~6個の炭素原子、より好ましくは2~4個の炭素原子)を含む炭化水素基を表し、pは1以上(好ましくは1~6、より好ましくは1~4)であり];(R’7N)p-H2[式中、R’7は、飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも2個の炭素原子(好ましくは2~6個の炭素原子、より好ましくは2~4個の炭素原子)を含む炭化水素基を表し、pは1以上(好ましくは1~6、より好ましくは1~4)であり]を表し;および/または
・ R’3は、飽和または不飽和の、直鎖または分岐鎖の、2~6個の炭素原子(好ましくは2~4個の炭素原子)を含むアルキル基を表す。
【0140】
一実施形態では、一般式(VI)の脂肪アミンは、潤滑剤組成物の全重量に対して0.5~10重量%、好ましくは0.5~8重量%含まれる。
【0141】
本発明の潤滑剤組成物において、上記に定義された任意の添加剤は、個別の添加剤として潤滑剤組成物に組み入れることができ、特に基油中に個別に添加することにより組み入れることができる。しかしながら、さらに、任意の添加剤は、船舶用潤滑剤組成物用の添加剤の濃縮物に組み入れてもよい。
【0142】
[船舶用潤滑剤を製造する方法]
本発明の開示は、上記に開示された船舶用潤滑剤を製造する方法を提供し、前記方法は、基油と、上記に定義された、少なくともヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物、および第四級アンモニウム成分の反応生成物とを混合する工程を含む。
【0143】
[エンジンを潤滑するための使用]
本発明は、さらにエンジン(好ましくは船舶エンジン)を潤滑するための、上記に定義された、少なくともヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物、および第四級アンモニウム成分の反応生成物の使用に関する。具体的には、本発明は、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストローク船舶エンジン)を潤滑にするための、上記に定義された、少なくともヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物、および第四級アンモニウム成分の反応生成物の使用に関する。
【0144】
特に、上記に定義された、少なくともヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物、ホウ素化合物、および第四級アンモニウム成分の反応生成物は、2ストロークエンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストロークエンジン)を潤滑にするために、潤滑剤組成物中で、シリンダー油またはシステム油として使用するのに適している。
【0145】
本発明は、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストローク船舶エンジン)を潤滑にするための方法を包含し、前記方法は、上記に開示された船舶用潤滑剤を、前述の船舶エンジンへ適用する工程を含む。特に、潤滑剤は、典型的にパルス潤滑システムによって、またはインジェクターからピストンリングパック上に潤滑剤をスプレーすることによって、2ストロークエンジンを潤滑するためにシリンダーウォールに適用される。本発明に係る潤滑剤組成物をシリンダーウォールに適用すると、腐食保護を増強するとともに、エンジン清浄度を向上することが観察されている。
【実施例】
【0146】
[I-材料と方法]
- サリチル酸はシグマアルドリッチから購入した。
- ホウ酸はシグマアルドリッチから購入した。
- 塩化テトラn-ブチルアンモニウムはシグマアルドリッチから購入した。
- 基油1:グループI鉱油または密度895~915kg/m3のブライトストック。
- 基油2:グループI鉱油、特に600NSと称され、ASTM D7279によって測定された40℃の粘度が120cStのもの。
- 消泡剤を含む清浄剤パッケージ。
【0147】
[II-C18H37サリチル酸の合成]
C18H37サリチル酸は以下の手順によって調製された:サリチル酸(50.0g)を、触媒量のメタンスルホン酸(0.3当量)とともに1-オクタデセンと組み合わせ、130℃で8時間加熱した。
【0148】
[III-潤滑剤組成物の調製]
[III-A 化合物例]
(実施例1)
IIで調製したC
18H
37サリチル酸78.12g(200mmol)およびホウ酸6.18g(100mmol)の混合物を、外界温度で、水/メタノール(1/1)50mLの中で撹拌して懸濁した。この混合物に、下記式の第四級アンモニウム塩(64.87g/100mmol)の40%水溶液を滴下して加え、混合物を得た。
【化7】
得られた混合物の溶媒を真空下で取り除き、得られた生成物をi-プロパノールで再結晶により精製した。得られた生成物は、白色固体であり、下記式A
1を有する。
【化8】
【0149】
(比較例2)
サリチル酸78.12g(200mmol)およびホウ酸6.18g(100mmol)の混合物を、外界温度で、水/メタノール(1/1)50mLの中で撹拌して懸濁した。この混合物に、下記式の第四級アンモニウム塩(64.87g/100mmol)の40%水溶液を滴下して加え、混合物を得た。
【化9】
得られた混合物の溶媒を真空下で取り除き、得られた生成物をi-プロパノールで再結晶により精製した。得られた生成物は、白色固体であり、A
2と称した。
【0150】
(比較例3)
成分は、Tetrameen(登録商標)2HBTの商品名でAkzoから市販されているアミンA3からなる(国際公開第2017/148816号の実施例2aで開示した手順によって調製することができる)。
【0151】
[III-B 組成物例]
(実施例C1)
潤滑剤組成物C1は、表1に記載の成分を混合することによって調製される。表1に開示されたパーセンテージは、重量パーセントである。
【0152】
【0153】
(比較例C2)
実施例2の分子A2は基油に不溶である。この化合物を含む潤滑剤組成物を調製することはできなかった。
【0154】
(比較例C3)
潤滑剤組成物C3は、表2に記載の成分を混合することによって調製される。表2に開示されたパーセンテージは、重量パーセントである。
【0155】
【0156】
[IV-試験と結果]
(連続ECBT)
組成物C1およびC3の熱的特性は、使用油(aged oil)に対する連続的なECBT試験によって測定された。ここで所定の条件の下で生成したデポジットの量(mg)が測定される。この量が小さいほど、熱的特性は良好である。
【0157】
この試験により、潤滑剤組成物がエンジンの高温部(特に、ピストンのトップ)に注入される場合の、船舶用潤滑剤の熱的安定性と洗浄力の双方をシミュレートすることが可能となる。この試験は3つの異なるフェーズからなる。
【0158】
第1フェーズは310℃の温度で行われた。
【0159】
このテストは、ピストンと形状が似ているアルミニウム製ビーカーを利用する。これらのビーカーは、約60℃の制御温度で維持されたガラス製のコンテナ中に置かれる。潤滑剤が、金属ブラシを備えたコンテナ中に入れられ、金属ブラシが部分的に潤滑剤中に沈められる。このブラシを1000rpmの速度で回転させ、ビーカーの内表面に潤滑剤を散布する。ビーカーは、熱電対によって調節された電気抵抗ヒーターによって310℃の温度で維持される。
【0160】
この第1フェーズは、12時間続き、潤滑剤の放射が試験の間継続された。
【0161】
第2フェーズは、95%硫酸による潤滑剤組成物の50BNポイントの中性化からなり、船舶エンジン中で使用される潤滑剤組成物の実際の条件に近づけて、組成物の中性化現象をシミュレートする。
【0162】
第3フェーズは、270℃の温度で実行された以外は第1フェーズと同一である。このフェーズにより、ピストン-セグメントアセンブリでのデポジット形成をシミュレートすることが可能となる。結果はビーカー上で測定されたデポジットの重量(mg)により得られる。
【0163】
表3に結果を示す。
【0164】
【0165】
これらの結果は、本発明による組成物により、高温デポジットの形成を著しく低減することができ、その結果潤滑剤組成物の耐熱性が向上することを示している。
【0166】
(サイクルECBT(ECBTストップアンドゴーとも称される))
上記と同じ種類の試験(連続ECBTを参照)がサイクル条件下で行われる。
【0167】
この試験は、ピストンリングベルト領域での潤滑剤の挙動を反映する。ストップ段階の持続時間がゴー段階の持続時間の3倍であるサイクルシークエンスに従って、試験製品をビーカーに飛散させる。270℃~340℃の試験温度が選択され、試験時間は1時間である。試験の最後では、ビーカーの冷却は、潤滑剤の飛散をさせることなく、自然に行われる。この潤滑剤の飛散がワニスの形成の大きな原因となる。ストップアンドゴー試験の最終結果は、J. P. ROMAN, MARINE PROPULSION CONFERENCE 2000 - AMSTERDAM - 29-30 MARCH 2000, p.3-4, Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France - The relevance of laboratory tests in simulating field performanceに記載の方法に従い、目視評価に基づく。
【0168】
その方法を以下に示す:ワニスの色および表面被覆率の両方に基づく映像査定(videoquotation)が行われる。査定は、0~100ポイントのスケールである。少なくとも3つの温度における各組成物の性質を示す曲線がグラフに描かれる。曲線が評価指標のレベル50を超える時、その対応する温度が記録される。
【0169】
この試験の結果が表4に示される。
【0170】
【0171】
これらの結果は、本発明による組成物が潤滑剤組成物の熱安定性を著しく増加させることを示している。
なお、本発明は実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
少なくとも以下の化合物:
・下記式(I)のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸、
【化10】
(式中、
Rは、1~50個の炭素原子を含み、任意に1個以上のヘテロ原子を含む、ヒドロカルビル基を表し、
aは1を表す)
・ホウ素化合物、および
・第四級アンモニウム塩、
の反応に起因する反応生成物。
[態様2]
態様1に記載の反応生成物であって、前記第四級アンモニウム塩が下記式(IV):
【化11】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
X
-
は対イオンを表す)
に対応する、反応生成物。
[態様3]
態様1または2に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、独立して、2~6個の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
[態様4]
態様1または2に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、独立して、14~22個の炭素原子(好ましくは14~18個の炭素原子、より好ましくは16~18個の炭素原子)を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
[態様5]
態様4に記載の反応生成物であって、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂(獣脂油、ココナッツ油およびパーム油など、好ましくは獣脂油)に由来する、反応生成物。
[態様6]
態様1~5のいずれか一つに記載の反応生成物であって、Rは、1~50個の炭素原子を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる、反応生成物。
[態様7]
態様1~6のいずれか一つに記載の反応生成物であって、Rは12~40個の炭素原子を含む、反応生成物。
[態様8]
態様7に記載の反応生成物であって、Rは18~30個の炭素原子を含む、反応生成物。
[態様9]
態様1~8のいずれか一つに記載の反応生成物であって、前記ヒドロキシ安息香酸が下記式(IA):
【化12】
に対応する、反応生成物。
[態様10]
態様1~9のいずれか一つに記載の反応生成物であって、ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸錯体、三酸化二ホウ素、ホウ酸トリアルキル(ここで、アルキル基は、独立して、1~4個の炭素原子を含む)、C
1
-C
12
アルキルボロン酸、C
1
-C
12
ジアルキルホウ酸、C
6
-C
12
アリールホウ酸、C
6
-C
12
ジアリールホウ酸、C
7
-C
12
アラルキルホウ酸、C
7
-C
12
ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択される(有利には、ホウ素化合物はホウ酸である)、反応生成物。
[態様11]
態様1~10のいずれか一つに記載の反応生成物であって、モル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:ホウ素化合物)が約10:1~約1:5である、反応生成物。
[態様12]
態様1~11のいずれか一つに記載の反応生成物であって、モル比(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸:第四級アンモニウム塩)が約10:1~約1:5である、反応生成物。
[態様13]
態様1~12のいずれか一つに記載の反応生成物であって、モル比(ホウ素化合物:第四級アンモニウム成分)が約10:1~1:10である、反応生成物。
[態様14]
態様1~13のいずれか一つに記載の反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物。
[態様15]
態様1~13のいずれか一つに記載の反応生成物、または態様14に記載の潤滑剤組成物の使用であって、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストローク船舶エンジン)を潤滑するための使用。