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特許7382974偏光膜、偏光板、および該偏光膜の製造方法
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  • 特許-偏光膜、偏光板、および該偏光膜の製造方法 図1
  • 特許-偏光膜、偏光板、および該偏光膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】偏光膜、偏光板、および該偏光膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231110BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20231110BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/06
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020571252
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004508
(87)【国際公開番号】W WO2020162531
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019021236
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼永 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】濱本 大介
(72)【発明者】
【氏名】上条 卓史
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】川口 聖司
【審判官】河原 正
(56)【参考文献】
【文献】特許第4279944(JP,B2)
【文献】特開2020-16743(JP,A)
【文献】特許第6409142(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成される偏光膜であって、
単体透過率が40.0%以上であり、かつ、偏光度が99.97%以上であり、
配向関数が0.05以上0.25以下であり、
前記配向関数は、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、偏光を測定光として、前記測定光の偏光方向に対し、前記偏光膜の延伸方向を平行および垂直にした状態で全反射減衰分光測定を実施し、得られた吸光度スペクトルの2941cm-1の強度を用いて、下記(式1)に従って算出される、偏光膜:
(式1)f=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
式1中、θは前記延伸方向に対する分子鎖の角度を示し;cは(3cosβ-1)/2を示し;βは、分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度を示し、2941cm-1の振動の場合に90°であり;Dは(I)/(I//)を示し;Iは、得られた吸光度スペクトルにおける、参照ピークとしての3330cm-1の吸収強度に対する2941cm-1の吸収強度であって、(2941cm-1の強度)/(3330cm-1の強度)の値を示し;Iは前記測定光の偏光方向に対し前記偏光膜の延伸方向を垂直に配置した場合の前記Iを示し;I//は前記測定光の偏光方向に対し前記偏光膜の延伸方向を平行に配置した場合の前記Iを示す。
【請求項2】
厚みが8μm以下である、請求項1に記載の偏光膜。
【請求項3】
突き刺し強度が35gf/μm以上である、請求項1または2に記載の偏光膜。
【請求項4】
二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成される偏光膜であって、
単体透過率が40.0%以上であり、かつ、偏光度が99.97%以上であり、
配向関数が0.05以上であり、突き刺し強度が35gf/μm以上であり、
前記配向関数は、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、偏光を測定光として、前記測定光の偏光方向に対し、前記偏光膜の延伸方向を平行および垂直にした状態で全反射減衰分光測定を実施し、得られた吸光度スペクトルの2941cm-1の強度を用いて、下記(式1)に従って算出される、偏光膜:
(式1)f=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
式1中、θは前記延伸方向に対する分子鎖の角度を示し;cは(3cosβ-1)/2を示し;βは、分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度を示し、2941cm-1の振動の場合に90°であり;Dは(I)/(I//)を示し;Iは、得られた吸光度スペクトルにおける、参照ピークとしての3330cm-1の吸収強度に対する2941cm-1の吸収強度であって、(2941cm-1の強度)/(3330cm-1の強度)の値を示し;Iは前記測定光の偏光方向に対し前記偏光膜の延伸方向を垂直に配置した場合の前記Iを示し;I//は前記測定光の偏光方向に対し前記偏光膜の延伸方向を平行に配置した場合の前記Iを示す。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有する、偏光板。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の偏光膜の製造方法であって、
長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および
該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより、幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すこと、を含み、
該空中補助延伸処理および該水中延伸処理の延伸の総倍率が、該積層体の元長に対して3.0倍~4.0倍であり、
該空中補助延伸処理の延伸倍率が、該水中延伸処理の延伸倍率よりも大きい、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜、偏光板、および該偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし、上記のような薄型偏光膜は吸収軸方向に沿って裂けやすい(破れやすい)という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-343521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、吸収軸方向に沿った破断が抑制された偏光膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による偏光膜は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、配向関数が0.30以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、厚みが8μm以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、単体透過率が40.0%以上であり、かつ、偏光度が99.0%以上である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、突き刺し強度が30gf/μm以上である。
本発明の別の実施形態による偏光膜は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、突き刺し強度が30gf/μm以上である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記の偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有する。
本発明の別の局面によれば、上記の偏光膜の製造方法が提供される。この製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること;および、該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより、幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すこと;を含む。該空中補助延伸処理および該水中延伸処理の延伸の総倍率は、該積層体の元長に対して3.0倍~4.5倍であり;該空中補助延伸処理の延伸倍率は、該水中延伸処理の延伸倍率よりも大きい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、配向関数を0.30以下とすることにより、あるいは、突き刺し強度を30gf/μm以上とすることにより、吸収軸方向に沿った破断が抑制された偏光膜を実現することができる。従来、このように配向関数が小さい偏光膜では許容可能な光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を得るのが困難であったところ、本発明によれば、このように小さい配向関数と許容可能な光学特性とを両立することができる。さらに、本発明によれば、このように大きな突き刺し強度と許容可能な光学特性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
図2】加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光膜
本発明の実施形態による偏光膜は、二色性物質(代表的には、ヨウ素、二色性染料)を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成され、配向関数が0.30以下である。このような構成であれば、偏光膜が吸収軸方向に沿って裂ける(破れる)ことを顕著に抑制することができる。その結果、屈曲性に非常に優れた偏光膜(結果として、偏光板)が得られ得る。このような偏光膜(結果として、偏光板)は、好ましくは湾曲した画像表示装置、より好ましくは折り曲げ可能な画像表示装置、さらに好ましくは折り畳み可能な画像表示装置に適用され得る。配向関数は、例えば0.25以下であり、好ましくは0.22以下であり、より好ましくは0.20以下であり、さらに好ましくは0.18以下であり、特に好ましくは0.15以下である。配向関数の下限は、例えば、0.05であり得る。配向関数が小さすぎると、許容可能な単体透過率および/または偏光度が得られない場合がある。
【0010】
配向関数(f)は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により求められる。具体的には、測定光の偏光方向に対し、偏光膜の延伸方向を平行および垂直にした状態で測定を実施し、得られた吸光度スペクトルの2941cm-1の強度を用いて、下記式に従って算出される。ここで、強度Iは、3330cm-1を参照ピークとして、2941cm-1/3330cm-1の値である。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、偏光膜中のPVAの主鎖(-CH-)の振動に起因する吸収であると考えられている。
f=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
ただし、
c=(3cosβ-1)/2 で, 2941cm-1 の振動の場合は、β=90°である。
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
D=(I)/(I//) (この場合、PVA分子が配向するほどDが大きくなる)
:測定光の偏光方向と偏光膜の延伸方向が垂直の場合の吸収強度
// :測定光の偏光方向と偏光膜の延伸方向が平行の場合の吸収強度
【0011】
偏光膜の厚みは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下であり、特に好ましくは3μm以下であり、とりわけ好ましくは2μm以下である。偏光膜の厚みの下限は、例えば1μmであり得る。偏光膜の厚みは、1つの実施形態においては2μm~6μm、別の実施形態においては2μm~4μm、さらに別の実施形態においては2μm~3μm、さらに別の実施形態においては5.5μm~7.5μm、さらに別の実施形態においては6μm~7.2μmであってもよい。偏光膜の厚みをこのように非常に薄くすることにより、熱収縮を非常に小さくすることができる。このような構成が、吸収軸方向の破断の抑制にも寄与し得ると推察される。
【0012】
偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上であり、より好ましくは41.0%以上である。単体透過率の上限は、例えば49.0%であり得る。偏光膜の単体透過率は、1つの実施形態においては40.0%~45.0%である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.0%以上であり、より好ましくは99.4%以上である。偏光度の上限は、例えば99.999%であり得る。偏光膜の偏光度は、1つの実施形態においては99.0%~99.99%である。本発明によれば、上記のように配向関数が非常に小さいにもかかわらず、このような実用上許容可能な単体透過率および偏光度を実現することができる。これは、後述する製造方法に起因するものと推察される。なお、単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0013】
偏光膜の突き刺し強度は、30gf/μm以上であり、好ましくは35gf/μm以上であり、より好ましくは40gf/μm以上であり、さらに好ましくは45gf/μm以上であり、特に好ましくは50gf/μm以上である。突き刺し強度の上限は、例えば80gf/μmであり得る。偏光膜の突き刺し強度をこのような範囲とすることにより、偏光膜が吸収軸方向に沿って裂けることを顕著に抑制することができる。その結果、屈曲性に非常に優れた偏光膜(結果として、偏光板)が得られ得る。突き刺し強度は、所定の強さで偏光膜を突き刺した時の偏光膜の割れ耐性を示す。突き刺し強度は、例えば、圧縮試験機に所定のニードルを装着し、当該ニードルを所定速度で偏光膜に突き刺したときに偏光膜が割れる強度(破断強度)として表され得る。なお、単位から明らかなとおり、突き刺し強度は、偏光膜の単位厚み(1μm)あたりの突き刺し強度を意味する。
【0014】
偏光膜は、上記のとおり、ヨウ素を含むPVA系樹脂フィルムで構成される。好ましくは、PVA系樹脂フィルム(実質的には、偏光膜)を構成するPVA系樹脂は、アセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。このような構成であれば、所望の突き刺し強度を有する偏光膜が得られ得る。アセトアセチル変性されたPVA系樹脂の配合量は、PVA系樹脂全体を100重量%としたときに、好ましくは5重量%~20重量%であり、より好ましくは8重量%~12重量%である。配合量がこのような範囲であれば、突き刺し強度をより好適な範囲とすることができる。
【0015】
偏光膜は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。積層体を用いて得られる偏光膜の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光膜とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含む。本発明の実施形態においては、延伸の総倍率は、例えば3.0倍~4.5倍であり、通常に比べて顕著に小さい。このような延伸の総倍率であっても、ハロゲン化物の添加および乾燥収縮処理との組み合わせにより、許容可能な光学特性を有する偏光膜を得ることができる。さらに、本発明の実施形態においては、空中補助延伸の延伸倍率がホウ酸水中延伸の延伸倍率よりも大きい。このような構成とすることにより、延伸の総倍率が小さくても許容可能な光学特性を有する偏光膜を得ることができる。加えて、積層体は、好ましくは長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。1つの実施形態においては、偏光膜の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光膜の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光膜の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光膜の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。偏光膜の製造方法の詳細については、C項で後述する。
【0016】
B.偏光板
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100は、偏光膜10と、偏光膜10の一方の側に配置された第1の保護層20と、偏光膜10の他方の側に配置された第2の保護層30とを有する。偏光膜10は、上記A項で説明した本発明の偏光膜である。第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。なお、上記のとおり、第1の保護層および第2の保護層のうち一方は、上記の偏光膜の製造に用いられる樹脂基材であってもよい。
【0017】
第1および第2の保護層は、偏光膜の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0018】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネルとは反対側に配置される保護層(外側保護層)の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm~80μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0019】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)の厚みは、好ましくは5μm~200μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。1つの実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば110nm~150nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx-ny)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
【0020】
C.偏光膜の製造方法
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%以上である。このような製造方法によれば、上記A項で説明した偏光膜を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および単位吸光度)を有する偏光膜を得ることができる。
【0021】
C-1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0022】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0023】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは、2μm~30μm、さらに好ましくは2μm~20μmである。延伸前のPVA系樹脂層の厚みをこのように非常に薄くし、かつ、後述するように総延伸倍率を小さくすることにより、配向関数が非常に小さいにもかかわらず許容可能な単体透過率および偏光度を有する偏光膜を得ることができる。
【0024】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0025】
C-1-1.熱可塑性樹脂基材
熱可塑性樹脂基材としては、任意の適切な熱可塑性樹脂フィルムが採用され得る。熱可塑性樹脂基材の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0026】
C-1-2.塗布液
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0027】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0028】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。上記のとおり、PVA系樹脂は、好ましくはアセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。
【0029】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0030】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0031】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光膜が白濁する場合がある。
【0032】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。
【0033】
C-2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0034】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定されうる。自由端延伸の場合、 幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0035】
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0036】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは1.0倍~4.0倍であり、より好ましくは1.5倍~3.5倍であり、さらに好ましくは2.0倍~3.0倍である。空中補助延伸の延伸倍率がこのような範囲であれば、水中延伸と組み合わせた場合に延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができ、所望の配向関数を実現することができる。その結果、吸収軸方向に沿った破断が抑制された偏光膜を得ることができる。さらに、上記のとおり、空中補助延伸の延伸倍率はホウ酸水中延伸の延伸倍率よりも大きい。このような構成とすることにより、延伸の総倍率が小さくても許容可能な光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0037】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0038】
C-3.不溶化処理、染色処理および架橋処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質(代表的には、ヨウ素)で染色することにより行う。必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理、染色処理および架橋処理の詳細については、例えば特開2012-73580号公報(上記)に記載されている。
【0039】
C-4.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0040】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸の総倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0041】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0042】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0043】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0044】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0045】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.0倍~3.0倍であり、より好ましくは1.0倍~2.0倍であり、さらに好ましくは1.0倍~1.5倍である。水中延伸における延伸倍率がこのような範囲であれば、延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができ、所望の配向関数を実現することができる。その結果、吸収軸方向に沿った破断が抑制された偏光膜を得ることができる。延伸の総倍率(空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の延伸倍率の合計)は、上記のとおり、積層体の元長に対して、例えば3.0倍~4.5倍であり、好ましくは3.0倍~4.0倍であり、より好ましくは3.0倍~3.5倍である。塗布液へのハロゲン化物の添加、空中補助延伸および水中延伸の延伸倍率の調整、および乾燥収縮処理を適切に組み合わせることにより、このような延伸の総倍率であっても許容可能な光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0046】
C-5.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは4%~6%である。
【0047】
図2は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0048】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0049】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0050】
C-6.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。厚み算出に用いた計算波長範囲は400nm~500nmで、屈折率は1.53とした。
(2)配向関数
実施例および比較例で得られた偏光膜について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「Frontier」)を用い、偏光された赤外光を測定光として、偏光膜表面の全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定を行った。偏光膜を密着させる結晶子はゲルマニウムを用い、測定光の入射角は45°入射とした。配向関数の算出は以下の手順で行った。入射させる偏光された赤外光(測定光) は、ゲルマニウム結晶のサンプルを密着させる面に平行に振動する偏光 (s偏光)とし、測定光の偏光方向に対し、偏光膜の延伸方向を垂直(⊥)および平行(//) に配置した状態で各々の吸光度スペクトルを測定した。得られた吸光度スペクトルから、(3330cm-1 強度)を参照とした(2941cm-1 強度)I を算出した。I は、測定光の偏光方向に対し偏光膜の延伸方向を垂直(⊥)に配置した場合に得られる吸光度スペクトルから得られる (2941cm-1 強度)/(3330cm-1 強度)である。また、I// は、測定光の偏光方向に対し偏光膜の延伸方向を平行(//)に配置した場合に得られる吸光度スペクトルから得られる (2941cm-1 強度)/(3330cm-1 強度)である。ここで、(2941cm-1強度)は、吸光度スペクトルのボトムである、2770cm-1と2990cm-1をベースラインとしたときの2941cm-1の吸光度であり、(3330cm-1 強度)は、2990cm-1と3650cm-1をベースラインとしたときの3330cm-1の吸光度である。得られたIおよびI// を用い、式1に従って配向関数fを算出した。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、偏光膜中のPVAの主鎖(-CH-)の振動起因の吸収といわれている。また、3330cm-1のピークは、PVAの水酸基の振動起因の吸収といわれている。
(式1)f=(3<cos2θ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cosβ-1)/2
で、上記のように2941cm-1を用いた場合、β=90°⇒f=-2×(1-D)/(2D+1)である。
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
D=(I)/(I//
:測定光の偏光方向と偏光膜の延伸方向が垂直の場合の吸収強度
//:測定光の偏光方向と偏光膜の延伸方向が平行の場合の吸収強度
(3)単体透過率および偏光度
実施例および比較例に用いた偏光膜/熱可塑性樹脂基材の積層体から偏光膜を剥離し、当該偏光膜について、紫外可視分光光度計(日本分光社製「V-7100」)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、分光光度計は、大塚電子社製「LPF-200」などでも同等の測定をすることが可能であり、いずれの分光光度計を用いた場合であっても同等の測定結果が得られることが確認されている。
(4)破断強度
実施例および比較例に用いた偏光膜/熱可塑性樹脂基材の積層体から偏光膜を剥離し、ニードルを装着した圧縮試験機(カトーテック社製、 製品名「NDG5」ニードル貫通力測定仕様)に載置し、室温(23℃±3℃)環境下、突き刺し速度0.33cm/秒で突き刺し、偏光膜が割れたときの強度を破断強度(突き刺し強度)とした。評価値は試料片10個の破断強度を測定し、その平均値を用いた。なお、ニードルは、先端径1mmφ、0.5Rのものを用いた。測定する偏光膜については、直径約11mmの円形の開口部を有する治具を偏光膜の両面から挟んで固定し、開口部の中央にニードルを突き刺して試験を行った。単位厚み当たりの破断強度を破れにくさの指標とし、以下の基準で評価した。
○:破断強度が30gf/μmを超える
×:破断強度が30gf/μm以下
【0052】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m)を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が41.6%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温62℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%、ヨウ化カリウム5.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が3.0倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理:水中延伸処理における延伸倍率は1.25倍)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み7.1μmの偏光膜を形成した。
【0053】
得られた偏光膜について、配向関数、単体透過率、偏光度および破断強度を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
水中延伸処理の延伸倍率を1.45倍として総延伸倍率を3.5倍としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み6.6μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
水中延伸処理の延伸倍率を1.67倍として総延伸倍率を4.0倍としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み6.1μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0056】
参考例4
水中延伸処理の延伸倍率を1.87倍として総延伸倍率を4.5倍としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み5.6μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
水中延伸処理の延伸倍率を2.4倍として総延伸倍率を5.5倍としたこと、および、延伸浴の液温を70℃としたこと以外は実施例1と同様にして、厚み5.0μmの偏光膜を作製した。なお、得られた偏光膜における幅残存率は48%(幅方向の収縮率は52%)であった。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
幅残存率を43%(幅方向の収縮率を57%)としたこと以外は比較例1と同様にして、厚み5.5μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
厚み30μmのPVA系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により総延伸倍率が6.0倍になるようにして長尺方向に一軸延伸しながら、同時に膨潤、染色、架橋および洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。得られた偏光子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光膜は、実用的に許容可能な単体透過率および偏光度を有するとともに、吸収軸方向に沿った破断強度が非常に大きい。このような破断強度は、偏光膜が吸収軸方向に沿って裂けにくいことを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の偏光膜および偏光板は、液晶表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0063】
10 偏光膜
20 第1の保護層
30 第2の保護層
100 偏光板
図1
図2