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特許7383015HFO-1234yf及びプロピレンの共沸組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】HFO-1234yf及びプロピレンの共沸組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20231110BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20231110BHJP
   F25B 45/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 B
F25B1/00 396Z
F25B45/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021518443
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 US2019054181
(87)【国際公開番号】W WO2020072571
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】62/741,261
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マリー イー.コーバン
(72)【発明者】
【氏名】ルーク デイビッド シモーニ
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108504(JP,A)
【文献】特表2012-509392(JP,A)
【文献】特表2012-509380(JP,A)
【文献】特開2016-056374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
C09K 3/00
C09K 3/30
F25B 1/00- 7/00
F25B43/00-49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HEV、MHEV、PHEV、又はEVのヒートポンプシステムにおける冷媒組成物の使用であって、前記冷媒組成物は
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及びプロピレン(R-1270)を含み、
前記組成物は、-30℃から40℃の温度範囲にわたって近共沸性であり、および、前記組成物は、-30℃から10℃までの温度で1.1ケルビン(K)未満の温度勾配を有する、使用
【請求項2】
前記組成物が-30℃~40℃の温度範囲にわたって共沸混合物様である、請求項1に記載の使用
【請求項3】
前記2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンNAL1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以上であり、
前記2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンNAH1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以下である、請求項1に記載の使用
【請求項4】
前記2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンALL1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以上であり、
前記2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンALH1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以下である、請求項1に記載の使用
【請求項5】
前記プロピレン(R-1270)が、前記全冷媒組成物に基づいて最大24重量%の量で存在する、請求項1に記載の使用
【請求項6】
前記プロピレン(R-1270)が、前記全冷媒組成物に基づいて1~10重量%の量で存在する、請求項5に記載の使用
【請求項7】
前記冷媒組成物の熱容量が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)単独の熱容量よりも2.9%~27.5%大きい、請求項1に記載の使用
【請求項8】
前記冷媒組成物の熱容量が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)単独の熱容量よりも2%~22%大きい、請求項1に記載の使用
【請求項9】
請求項1に記載の組成物の熱容量と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の熱容量との比が、同じ温度及び圧力において1.05~1.50である、請求項1に記載の使用
【請求項10】
車両電気システムと組み合わせたHEV、MHEV、PHEV、EVのヒートポンプシステムにおける請求項1に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月4日に出願された米国特許仮出願第62/741261号の利益を主張するものであり、その全容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、HFO-1234yf及びプロピレン(R-290)の共沸及び近共沸組成物を対象とする。
【背景技術】
【0003】
自動車産業は、内燃機関(internal combustion engine、ICE)を使用して推進力を得ることから、電池を使用して推進力を得ることに、アーキテクチャプラットフォームの一新を進めている。このプラットフォームの一新は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車における内燃機関(ICE)の大きさを大幅に制限する、又は場合によっては純電気自動車においてICEを完全に排除する。一部の車両は、依然としてICEを維持しており、ハイブリッド電気車両(hybrid electric vehicle、HEV)又はプラグインハイブリッド電気車両(plug-in hybrids electric vehicle、PHEV)又はマイルドハイブリッド電気車両(mild hybrids electric vehicles、MHEV)として知られている。全電気式自動車及びICEを装備していない自動車は、完全電気自動車(electric vehicle、EV)と呼ばれる。HEV、PHEV、MHEV、及びEVは全て、少なくとも1つの電気モータを使用しており、この電気モータは、通常であればガソリン/ディーゼル駆動車に見られる内燃機関(ICE)によって提供される何らかの形の車両推進力を提供する。
【0004】
電化車両では、車両重量を低減し、それによって電気駆動サイクルを増加させるために、ICEは、典型的には、小型化される(HEV、PHEV、又はMHEV)又は排除される(EV)。ICEの主要機能は、車両推進力を提供することであるが、これはまた、その二次機能として、客室内に必要である熱を提供する。典型的には、周囲条件が10℃以下である場合には、加熱が必要である。非電化車両では、ICEからの過剰な熱が存在し、この熱を捕捉して、客室を暖房するために使用することができる。ICEは、熱くなって熱を発生させるのにある程度時間がかかる場合があるが、-30℃の温度まで十分に機能することに留意されたい。したがって、電化車両におけるICEの小型化又は排除は、ヒートポンプ式流体、すなわち、伝熱流体又は作動流体を使用した、費用効果の高い客室の暖房に対する需要を生み出す。この流体は、加熱及び冷却を必要とする客室及び電池管理の必要性に応じて、加熱及び/又は冷却モードで使用することが可能である。
【0005】
環境圧により、低地球温暖化係数(global warming potential、GWP)が150未満である、より低いGWPの冷媒の方が好まれることから、現在の自動車用冷媒であるR-134a(ハイドロフルオロカーボン又はHFC)は段階的に廃止されつつある。HFO-1234yf(ハイドロフルオロオレフィン)は、低GWPの要件(パパディミトリウ(Pappadimitriou)によるとGWP=4、及びAR5によるとGWP<1)を満たすが、その冷凍容量は低く、典型的には何らかの種類のシステムの変更又は作動流体の変化なしには、低い(-10℃)から非常に低い(-30℃)に至る周囲温度における要件を完全に満たすことができない。
【0006】
同様に、固定型住宅構造及び商業構造の加熱及び冷却もまた、現在使用中の古くからある高GWP冷媒に代わる好適な低GWP冷媒の不足に悩まされている。
【0007】
自動車車両が修理又は点検される方法により、流体は、低い又は無視できる勾配を有する必要がある。現在、冷媒は、車両A/Cの修理又は点検プロセス中に、特殊な車両点検機械装置によって取り扱われ、それが、冷媒を回収し、全体の汚染物質を除去してある程度の中間的(intermittent)品質水準まで再生処理し、その後修理又は点検が完了した後に冷媒を車両に再充填する。これらの機械装置は、冷媒を回収、再生処理、再充填するため、R/R/R機械装置と呼ばれる。低勾配が好ましく、無視できる勾配が最も好ましいのは、自動車の保守又は修理中の、この現場での冷媒の回収、再生処理及び再充填においてである。現在の車両点検機械装置は、高い勾配又は勾配を有する冷媒を取り扱うように設定されていない。冷媒は、車両修理工場において「現場」で取り扱われるため、冷媒再処理業者で行われることなど、混合冷媒を適正な組成物に再構成する機会はない。高い勾配を有する冷媒は、元の配合組成への「再構成」を必要とする場合があり、そうしないとサイクル性能の損失になる。ヒートポンプ流体は空調流体と同じ方法で取り扱われるので、ヒートポンプ式流体は従来の空調流体と同じ方法で取り扱われる及び/又は使用可能とされることから、低勾配又は勾配なしの要件は、ヒートポンプ式流体にも適用される。このように、自動車用途用の低勾配の又は勾配のない冷媒が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ハイブリッド車、マイルドハイブリッド車、プラグインハイブリッド車及び電気自動車、電化大量輸送、並びに住宅構造及び商業構造の増え続けるニーズを満たす、冷却及び加熱を提供することができる熱管理のための低GWPのヒートポンプ式流体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、客室に空調(A/C)又は加熱を提供する車室の熱管理(熱を車両の一部分から他の部分に熱を伝達する)のためにハイブリッド車、マイルドハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、又は完全電気自動車において使用される、超低GWP(GWPが10GWP以下)、低毒性(ANSI/ASHRAE規格34又はISO規格817によるとクラスA)、かつ低燃焼性(ASHRAE34又はISO817によるとクラス2L)である、環境に優しい冷媒ブレンド組成物に関する。これらの冷媒はまた、客室領域のヒートポンプタイプの加熱及び冷却から利益を得る大量輸送車用途にも使用することができる。大量輸送車用途としては、限定するものではないが、救急車、シャトル、バス、及び列車などの輸送車両を挙げることができる。
【0010】
本発明の組成物は、車両熱管理システムの動作条件にわたって低い温度勾配を示す。本発明の一態様では、冷媒組成物は、近共沸挙動を示す、HFO-1234yfとプロピレンとの混合物を含む。本発明の別の態様では、冷媒組成物は、共沸混合物様(azeotropic-like)挙動を示す、HFO-1234yfとプロピレンとの混合物を含む。
【0011】
本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
【0012】
一実施形態では、本明細書には、冷媒及び伝熱流体として有用な組成物が開示される。本明細書に開示される組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及びプロピレン(R-1270)を含み、当該組成物は近共沸性である。
【0013】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、当該組成物が共沸混合物様である、組成物が更に開示される。
【0014】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンNAL1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以上であり、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンNAH1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以下である、組成物が更に開示される。
【0015】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンALL1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以上であり、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度が、プロピレンALH1の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)濃度以下である、組成物が更に開示される。
【0016】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、プロピレン(R-1270)が、全冷媒組成物に基づいて最大24重量%の量で存在する、組成物が更に開示される。
【0017】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、プロピレン(R-1270)が、全冷媒組成物に基づいて1~20重量%である、組成物が更に開示される。
【0018】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、プロピレン(R-1270)が、全冷媒組成物に基づいて1~10重量%の量で存在する、組成物が更に開示される。
【0019】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、プロピレン(R-1270)が、全冷媒組成物に基づいて1~7重量%の量で存在する、組成物が更に開示される。
【0020】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、当該組成物が-30℃~40℃の温度範囲にわたって近共沸特性を示す、組成物が更に開示される。
【0021】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、冷媒組成物がヒートポンプ流体である、組成物が更に開示される。
【0022】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、冷媒組成物の熱容量が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)単独の熱容量よりも2.9%~27.5%大きい、組成物が更に開示される。
【0023】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、冷媒組成物の熱容量が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)単独の熱容量よりも2%~22%大きい、組成物が更に開示される。
【0024】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、冷媒組成物のGWPが10未満である、組成物が更に開示される。
【0025】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、冷媒組成物が、-30℃から10℃までの温度で1.1ケルビン(K)未満の温度勾配を有する、組成物が更に開示される。
【0026】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、組成物であって、当該組成物の熱容量と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の熱容量との比が、同じ温度及び圧力で1.05~1.50である、組成物が更に開示される。
【0027】
別の実施形態では、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、凝縮器、蒸発器、及び圧縮機を直列構成で備え、当該システムは、動作可能に接続された凝縮器、蒸発器、及び圧縮機の各々を更に備え、前述の実施形態のいずれかによる冷媒組成物は、凝縮器、蒸発器、及び圧縮機の各々を通って循環される、加熱又は冷却システムが開示される。
【0028】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、当該システムが、自動車システム用の空調装置である、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0029】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、当該システムが、固定型冷却システム用の空調装置である、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0030】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、四方弁を更に備える、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0031】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、当該システムが、自動車システム用のヒートポンプである、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0032】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、当該システムが、住宅用加熱又は冷却システム用のヒートポンプである、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0033】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、加熱又は冷却システムであって、温度勾配が1.1ケルビン(K)未満である、加熱又は冷却システムが更に開示される。
【0034】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、ヒートポンプシステムにおける前述の実施形態のいずれかによる冷媒組成物の使用が更に開示される。
【0035】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、HEV、MHEV、PHEV、又はEVヒートポンプシステムにおける前述の実施形態のいずれかによる冷媒組成物の使用が更に開示される。
【0036】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、車両電気システムと組み合わせたHEV、MHEV、PHEV、EVヒートポンプシステムにおける前述の実施形態のいずれかによる冷媒組成物の使用が更に開示される。
【0037】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、前述の実施形態のいずれかによる組成物を自動車加熱又は冷却システムに供給することを含む、冷媒組成物を自動車システムに充填する方法が更に開示される。
【0038】
別の実施形態では、本明細書には、冷媒組成物からの全体の汚染物質を改善するための方法であって、第1の冷媒組成物を提供する工程であって、第1の冷媒組成物が、近共沸性ではなく、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)と、エタン(R-170)又はプロパン(R-290)のうちの少なくとも一方と、を含む工程と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、エタン(R-170)又はプロパン(R-290)のうちの少なくとも1つを第1の冷媒組成物に提供して、第2の冷媒組成物を形成する工程であって、第2の冷媒組成物が近共沸性である工程と、を含む、方法が開示される。
【0039】
前述の実施形態のいずれかによると、本明細書には、方法であって、第2の冷媒組成物が、従来の現場での自動回収、再生処理、再充填設備を使用することなく、第1の冷媒組成物から形成される、方法が更に開示される。
【0040】
本発明の他の特徴及び利点は、例として本発明の原理を例示する好ましい実施形態の以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】一実施形態による、HFO-1234yfとプロピレンとのブレンドの蒸気/液体平衡特性を示す。
図2】一実施形態による、HFO-1234yfとプロピレンとのブレンドの蒸気/液体平衡特性を示す。
図3】一実施形態による、可逆的冷却又は加熱ループシステムである。
図4】一実施形態による、可逆的冷却又は加熱ループシステムである。
図5】一実施形態による、可逆的冷却又は加熱ループシステムである。
図6】一実施形態による、可逆的冷却又は加熱ループシステムである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
本明細書で使用するとき、伝熱組成物という用語は、熱源からヒートシンクまで熱を運ぶために使用される組成物を意味する。
【0043】
熱源は、熱を加える、伝達する、移動させる又は除去することが望ましい任意の空間、場所、物又は物体として定義される。本実施形態における熱源の例は、空調を必要とする車両の車室である。
【0044】
ヒートシンクは、熱を吸収することができる任意の空間、場所、物又は物体として定義される。本実施形態におけるヒートシンクの一例は、暖房を必要とする車両の車室である。
【0045】
伝熱システムは、特定の場所に加熱効果又は冷却効果をもたらすために使用されるシステム(又は機器)である。本発明の伝熱システムは、客室の冷暖房を提供する可逆的加熱又は冷却システムを意味する。場合によっては、このシステムは、ヒートポンプシステム、可逆的加熱ループ、又は可逆的冷却ループと呼ばれる。
【0046】
伝熱流体は、少なくとも1つの冷媒と、潤滑剤、安定剤及び火炎抑制剤からなる群から選択される少なくとも1つの部材とを含む。
【0047】
冷凍容量(システムにとってどちらが好ましい必要条件であるかに応じて、冷却容量又は加熱容量とも呼ばれる)は、循環している冷媒1キログラム当たりの蒸発器内の冷媒のエンタルピーの変化、又は蒸発器から出る冷媒蒸気の単位体積当たりの蒸発器内の冷媒によって除去される熱(体積容量)を定義する用語である。冷凍容量は、冷却又は加熱を生み出すための冷媒又は伝熱流体組成物の能力の尺度である。したがって、その容量が高くなるほど、生み出される冷却又は加熱が大きくなる。冷却速度は、蒸発器内の冷媒によって除去される単位時間当たりの熱を指す。加熱速度は、蒸発器内の冷媒によって除去される単位時間当たりの熱を指す。
【0048】
性能係数(Coefficient of performance、COP)は、除去された熱量を、そのサイクルを運転するのに必要であったエネルギー入力で割ったものである。COPが高いほど、冷媒又は伝熱流体のエネルギー効率が高くなる。COPは、特定の組の内部温度及び外部温度での冷凍設備又は空調設備の効率評価であるエネルギー効率比(EER)と直接関連がある。
【0049】
過冷却は、所与の圧力で液体の飽和点を下回るまでの、その液体の温度低下を指す。液体の飽和点は、蒸気が完全に液体に凝結する温度である。過冷却は、所与の圧力で液体を冷却し続けより低温の液体にする。飽和温度を下回る温度(又は沸点温度)まで液体を冷却することで、正味の冷凍容量を増大させることができる。それにより、過冷却は、システムの冷凍容量及びエネルギー効率を改善する。過冷却量は、飽和温度(度)を下回る冷却量である。
【0050】
過熱は、所与の圧力で蒸気の飽和点を上回るまでの、その蒸気の温度上昇を指す。蒸気の飽和点は、液体が蒸気に完全に蒸発する温度である。過熱は、所定の圧力で蒸気を加熱し続けより高温の蒸気にする。飽和温度(又は露点温度)を上回るまで蒸気を加熱することで、正味の冷凍容量を増大させることができる。それにより、過熱は、システムの冷凍容量及びエネルギー効率を改善する。過熱量は、飽和温度(度)を上回る加熱量である。
【0051】
温度勾配(単に「勾配」と呼ばれることもある)は、任意の過冷却又は過熱を除く、冷媒システムの熱交換器(蒸発器又は凝縮器)内の冷媒による相変化プロセスの開始温度と終了温度との間の差異の絶対値である。この用語は、近共沸組成物又は非共沸組成物の、凝縮又は蒸発について説明するために使用され得る。空調システム又はヒートポンプシステムの温度勾配を指す場合、蒸発器内の温度勾配と凝縮器内の温度勾配との平均である平均温度勾配を提供することが一般的である。勾配は、ブレンド冷媒、すなわち少なくとも2つの構成成分から構成される冷媒に適用可能である。
【0052】
本明細書で使用するとき、低勾配という用語は、対象となる動作範囲にわたって3ケルビン(K)未満として理解されたい。いくつかの実施形態では、勾配は、対象となる動作範囲にわたって2.5K未満(than)、又は更には対象となる動作範囲にわたって0.75K未満であってもよい。
【0053】
共沸組成物とは、単一の物質として挙動する2種以上の物質の定沸点混合物を意味する。共沸組成物の特性を決定する1つの方法は、液体の部分的蒸発又は蒸留によって得られた蒸気が、蒸発又は蒸留させた液体(すなわち、組成変化を伴わない混合蒸留物/還流物)と同じ組成を有することである。定沸点組成物は、共沸であると特徴付けられるが、その理由は、同一化合物の非共沸混合物と比較して、最高沸点又は最低沸点のいずれかを示すためである。共沸組成物は、動作中に空調システム又は加熱システム内で分画化することはない。更に、共沸組成物は、空調システム又は加熱システムからの漏出時に分画化することはない。
【0054】
本明細書で使用するとき、「近共沸組成物」という用語は、特定の温度での組成物の沸点圧力(「bubble point pressure、BP」)と露点圧力(「dew point pressure、DP」)との差が、沸点圧力に対して5%以下(すなわち[(BP-VP)/BP]×100≦5)である組成物を意味するものとして理解されたい。
【0055】
本明細書で使用するとき、「共沸混合物様組成物」という用語は、特定の温度での組成物の沸点圧力(「BP」)と露点圧力(「DP」)との差が、沸点圧力に対して3%以下(すなわち[(BP-VP)/BP]×100≦3)である組成物を意味するものとして理解されたい。
【0056】
本明細書で使用するとき、「第1の近共沸低HFO-1234yf組成物(NAL1)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の近共沸挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最低濃度を意味するものとして理解されたい。
【0057】
本明細書で使用するとき、「第1の近共沸高HFO-1234yf組成物(NAH1)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の近共沸挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最高濃度を意味するものとして理解されたい。
【0058】
本明細書で使用するとき、「第1の共沸混合物様低HFO-1234yf組成物(ALL1)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の共沸混合物様挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最低濃度を意味するものとして理解されたい。
【0059】
本明細書で使用するとき、「第1の共沸混合物様高HFO-1234yf組成物(ALH1)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の共沸混合物様挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最高濃度を意味するものとして理解されたい。
【0060】
本明細書で使用するとき、「第2の近共沸低HFO-1234yf組成物(NAL2)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の近共沸挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最低濃度を意味するものとして理解されたい。
【0061】
本明細書で使用するとき、「第2の近共沸高HFO-1234yf組成物(NAH2)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の近共沸挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最高濃度を意味するものとして理解されたい。
【0062】
本明細書で使用するとき、「第2の共沸混合物様低HFO-1234yf組成物(ALL2)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の共沸混合物様挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最低濃度を意味するものとして理解されたい。
【0063】
本明細書で使用するとき、「第2の共沸混合物様高HFO-1234yf組成物(ALH2)」という用語は、HFO-1234yf/プロピレン混合物の共沸混合物様挙動を示す組成範囲のHFO-1234yfの最高濃度を意味するものとして理解されたい。
【0064】
本明細書で使用するとき、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という用語、又はこれらの他の任意の変化形は、非排他的な包含を網羅することを意図する。例えば、列挙する要素を含む、組成物、プロセス、方法、物品、若しくは機器は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されない他の要素、又はそのような組成物、プロセス、方法、物品、若しくは機器などに伴われる他の要素を包含し得る。更に、明示的にこれに反する記載がない限り、「又は」は、包括的な「又は」を指し、排他的な「又は」を指すものではない。例えば、条件A又はBは、以下、すなわち、Aが真であり(又は存在し)かつBが偽である(又は存在しない)、Aが偽であり(又は存在しない)かつBが真である(又は存在する)、並びにA及びBの両方が真である(又は存在する)のいずれか1つにより満たされる。
【0065】
移行句「からなる」は、特定されていないいかなる要素、工程、又は成分も除外する。特許請求の範囲における場合には、材料に通常付随する不純物を除き、このような語句は、列挙された材料以外の材料の包含を特許請求項から締め出すものである。語句「からなる」がプリアンブルの直後ではなく請求項の本文の節内で現れる場合、この語句はその節の中に示される要素のみを限定するものであり、他の要素が特許請求の範囲全体から除外されるわけではない。
【0066】
移行句「から本質的になる」は、文字どおり開示されているものに加えて、材料、工程、特徴、成分、又は要素を含む、組成物、方法を定義するために使用されるが、ただし、これらの追加的に含まれる材料、工程、特徴、成分、又は要素は、請求される発明の基本的及び新規の特徴(複数可)、特に本発明のプロセスのいずれかの所望の結果を達成するための行動様式に実質的に影響を及ぼす。用語「から本質的になる」は、「含む」と「からなる」との間の中間の意味をもつ。
【0067】
出願人らが、発明又はその一部を、「含む」などの非限定的な用語で定義していた場合、(特に明記しない限り)その記載は、用語「から本質的になる」又は「からなる」を使用する発明も含むと解釈すべきであることが容易に理解されるべきであろう。
【0068】
また、「a」又は「an」の使用は、本明細書に記載された要素及び成分を記述するために用いられる。これは、単に便宜上なされるものであり、及び本発明の範囲の一般的な意味を与えるためのものである。この記載は、1つ又は少なくとも1つを含むものと解釈されるべきであり、単数形は、別の意味を有することが明白でない限り、複数形も含む。
【0069】
冷媒ブレンド(クラスA2、GWP<10及び0 ODP)
地球温暖化係数(GWP)は、1キログラムの二酸化炭素の排出と比較して、1キログラムの特定の温室効果ガスの大気排出に起因する相対的な地球温暖化への関与を推定するための指数である。GWPは、様々な対象期間について計算することができ、所与のガスの大気寿命の影響を示す。100年間の対象期間のGWPは、一般に、業界で参照される値であり、本明細書で使用されるものとする。流体混合物又は冷媒混合物については、各成分に関する個々のGWPに基づいて加重平均を計算することができる。国連気候変動政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Control、IPCC)は、公式評価報告書(assessment report、AR)において、冷媒GWPのためのベッティング値を提供している。第4次評価報告書はAR4として表され、第5次評価報告書はA5として表される。規制主体(Regulating bodes)は、現在、正式な法制化の目的でAR4を使用している。
【0070】
オゾン破壊係数(Ozone-depletion potential、ODP)は、物質によって生じるオゾン破壊の程度を指す数値である。ODPは、化学物質がオゾンに及ぼす影響を、同様の質量のR-11、つまりフルオロトリクロロメタンによる影響と比較した比率である。R-11は、クロロフルオロカーボン(CFC)の種類であり、そのため、オゾン層破壊に寄与する塩素を有する。更に、CFC-11のODPが1.0と定義される。他のCFC及びハイドロフルオロクロロカーボン(HCFC)は、0.01~1.0の範囲のODPを有する。本明細書に記載の炭化水素(HC)及びハイドロフルオロオレフィン(HFO)は、オゾン破壊及び枯渇に寄与することが知られている種である塩素、臭素又はヨウ素を含有しないため、ODPは0であるある。炭化水素(HC)もまた、定義上、塩素、臭素、又はヨウ素を同様に含有しないため、ODPを有しない。
【0071】
冷媒ブレンド組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)などの少なくとも1つのハイドロフルオロオレフィン、及びプロピレン(R-1270)などの少なくとも1つの炭化水素を含む。
【0072】
不飽和ハイドロフルオロオレフィン(HFO)冷媒成分はまた非常に低いGWPを有し、全てのHFO成分は10未満のGWPを有する。炭化水素(HC)冷媒成分は、プロピレンを含む。HC成分もまた、非常に低いGWPを有する。例えば、プロピレンのGWPは2である。
【0073】
したがって、最終ブレンドは、0のODP及び超低GWP、又は10未満のGWPを有する。以下に示す表1は、国連気候変動政府間パネル(IPCC)が2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及びこれらの様々な組み合わせに対して実施した第4次及び第5次評価によるタイプ、ODP、及びGWPを示す要約表である。
【0074】
ブレンドの場合、GWPは、下記式(1)に示されるように、ブレンド中の各成分(1-n)の量(例えば、重量%)を考慮して、ブレンド中の個々のGWP値の加重平均として計算することができる。
【0075】
式(1):GWPブレンド=量1(成分1のGWP)+量2(成分2のGWP)+量n(成分nのGWP)
【0076】
【表1】
【0077】
HFO-1234yf及びR-1270の対象となるいくつかのブレンドについて得られたGWPについては後述する。R-1270とのブレンドは、得られるブレンドがASHRAEクラス2可燃性要件を満たすように、23.8重量%に限定された。HFO-1234yf及びR-1270は共に超低GWPであるため、最大23.8重量%のR-1270を含有するブレンドは、IPCC AR4に基づいて5未満の最終GWPを有し、IPCC AR5に基づいてGWP2よりも更に低いGWPを有する。
【0078】
冷媒潤滑剤
本発明の冷媒又は伝熱組成物は、潤滑剤と混合され、本発明の「完全な作動流体組成物」として使用することができる。本発明の伝熱流体又は作動流体、及び潤滑剤を含有する本発明の冷媒組成物は、安定剤、漏れ検出物質、他の有益な添加剤などの公知の添加剤を含有してもよい。得られる化合物の可燃性レベルに潤滑剤が影響を与えることも可能である。
【0079】
この組成物のために選択された潤滑油は、好ましくは、潤滑油が蒸発装置からコンプレッサに戻り得ることを確実にするために、車両のA/C冷媒中で十分な可溶性を有する。更に、潤滑油が冷たい蒸発装置内を通過することができるように、潤滑油は好ましくは低温で相対的に低い粘度を有する。好ましい一実施形態では、潤滑油とA/C冷媒とは、幅広い温度範囲にわたって混和性である。
【0080】
好ましい潤滑剤は、1つ以上のポリオールエステル型潤滑剤(POE)であってもよい。本明細書で使用するとき、ポリオールエステルは、約3~20個のヒドロキシル基を有するジオール又はポリオールと、約1~24個の炭素原子を有する脂肪酸とのエステルを含有する化合物を含み、好ましくは、ポリオールとして使用される。基油として使用することができるエステル。(参照により本明細書に組み込まれる、欧州特許条約第153条(4)に従って公開された欧州特許出願公開である欧州特許公開第2 727 980(A1)号)。ここで、ジオールの例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0081】
上記ポリオールの例としては、多価アルコール、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの二量体から二十量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトール-グリセリン縮合体、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなど;多糖類、例えば、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなど;これらの部分的エーテル化生成物及びメチルグルコシドなどが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードアルコール、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、又はジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)が、ポリオールとして好ましい。
【0082】
脂肪酸の炭素数は特に限定されないが、一般に、1~24個の炭素原子を有する脂肪酸が使用される。1~24個の炭素原子を有する脂肪酸では、潤滑特性の観点から、3個以上の炭素原子を有する脂肪酸が好ましく、4個以上の炭素原子を有する脂肪酸がより好ましく、5個以上の炭素原子を有する脂肪酸が更により好ましく、10個以上の炭素原子を有する脂肪酸が最も好ましい。更に、冷媒との適合性の観点から、18個以下の炭素原子を有する脂肪酸が好ましく、12個以下の炭素原子を有する脂肪酸がより好ましく、9個以下の炭素原子を有する脂肪酸が更により好ましい。
【0083】
更に、脂肪酸は、直鎖脂肪酸及び分枝鎖脂肪酸のいずれであってもよく、脂肪酸は、潤滑特性の観点からは直鎖脂肪酸が好ましく、一方、加水分解安定性の観点からは分枝鎖脂肪酸が好ましい。更に、脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。具体的には、上記脂肪酸の例としては、直鎖又は分枝鎖脂肪酸、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸など;カルボン酸基が4級炭素原子に結合したいわゆるネオ酸などが挙げられる。より具体的には、その好ましい例としては、吉草酸(n-ペンタン酸)、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、エナント酸(n-ヘプタン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、ペラルゴン酸(n-ノナン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデカン酸)、イソペンタン酸(3-メチルブタン酸)、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸などが挙げられる。ところで、ポリオールエステルは、ポリオールのヒドロキシル基が完全にエステル化されることなく残存する部分エステル、全てのヒドロキシル基がエステル化されている完全エステル、又は部分エステルと完全エステルとの混合物あってもよく、完全エステルが好ましい。
【0084】
ポリオールエステルにおいて、より優れた加水分解安定性の観点から、ヒンダードアルコール、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)などのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、又はペンタエリスリトールのエステルが更により好ましく、冷媒との特に優れた適合性及び加水分解安定性の観点から、ペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0085】
ポリオールエステルの好ましい具体例としては、ネオペンチルグリコールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;及び、ペンタエリスリトールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。ちなみに、2種以上の脂肪酸とのエステルは、1種の脂肪酸とポリオールとの2種以上のエステルの混合物、及びその2種以上の混合脂肪酸とポリオールとのエステルであってもよく、特に、混合脂肪酸とポリオールとのエステルは、低温特性及び冷媒との適合性において優れている。
【0086】
好ましい実施形態では、潤滑油は約-35℃~約100℃の温度、より好ましくは約-30℃~約40℃の範囲内で、更により具体的には-25℃~40℃で、冷媒に溶解する。別の実施形態では、潤滑剤を圧縮機内に維持しようとする試みは優先ではないので、高温不溶性は好ましくない。
【0087】
電化自動車の空調用途のために使用される潤滑剤は、75~110cSt、理想的には約80cSt~100cSt、最も具体的には85cst~95cStの動粘度(ASTM D445に準拠して40℃で測定)を有してもよい。しかしながら、本発明を限定するものではないが、電化車両のA/C圧縮機のニーズに応じて、他の潤滑剤粘度が使用されていてもよいことに留意すべきである。
【0088】
潤滑油の加水分解を抑制するためには、電気式車両の加熱/冷却システム内の水分濃度を制御する必要がある。したがって、本実施形態における潤滑剤は、典型的には100重量ppm未満の低水分を有する必要がある。
【0089】
冷媒安定剤
HFC系冷媒は、二重結合の存在により、熱不安定性になりがちであり、極端な使用、取り扱い又は保管状況下で分解する場合がある。したがって、HFC系冷媒に安定剤を添加することが有利であり得る。安定剤としては、特に、ニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾール又はベンゾトリアゾールなどのアゾール、トコフェロール、ヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどのフェノール化合物、n-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのエポキシド(場合により、フッ素化若しくはペルフッ素化アルキルエポキシド又はアルケニル若しくは芳香族エポキシド)、テルペン、例えばd-リモネン又はα及びβ-ピネンなど、ホスファイト、リン酸塩、ホスホン酸塩、チオール及びラクトンが挙げられる。
【0090】
規範的であることを望むものではないが、ブレンドは、使用されるシステムの要件に応じて安定剤を含んでも含まなくてもよい。冷媒ブレンドが安定剤を含む場合、冷媒ブレンドは、上記に列挙した安定剤のいずれか、最も好ましくはトコフェロール、又はd-リモネンを、0.01重量%から最大1重量%までの任意の量で含み得る。
【0091】
冷媒ブレンドの可燃性
可燃性は、発火する及び/又は炎を伝播する、組成物の能力を意味するために使用される用語である。冷媒及び他の伝熱組成物又は作動流体について、燃焼下限濃度(lower flammability limit、「LFL」)とは、ASTM(American Society of Testing and Materials、米国材料検査協会)E681に定められている試験条件下で、組成物の均質混合物及び空気を通して炎を伝播することができる空気中における伝熱組成物の最低濃度である。燃焼上限濃度(upper flammability limit、「UFL」)とは、同じ試験条件下で、組成物の均質混合物及び空気を通して炎を伝播することができる、空気中における伝熱組成物の最高濃度である。
【0092】
ASHRAEANSI/ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers、米国暖房冷凍空調学会)により(クラス1、火炎伝播なし)として分類されるためには、冷媒は、液相及び気相の両方において配合されたときにASTM E681の条件を満たすのみならず、漏出時に生じる液相及び気相の両方において非可燃性である必要がある。
【0093】
冷媒がANSI/ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)によって低燃焼性(クラス2L)として分類されるために、冷媒は、1)140°F(60℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときに火炎伝播を示す、2)0.0062lb/ft(0.10kg/m3)を超えるLFLを有する、3)73.4°F(23.0℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときの最大燃焼速度は3.9インチ/秒(10cm/秒)以下である、及び、4)8169Btu/lb(19,000kJ/kg)未満の燃焼熱を有する。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)は、ANSI/ASHRAE規格34クラス2Lの可燃性評価を有する。
【0094】
冷媒がANSI/ASHRAE規格34によってクラス2として分類されるために、冷媒は、1)140°F(60℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときに火炎伝播を示す、2)0.0062lb/ft(0.10kg/m)を超えるLFLを有する、及び、3)8169Btu/lb(19,000kJ/kg)未満の燃焼熱を有する。
【0095】
冷媒がANSI/ASHRAE規格34によってクラス3として分類されるために、冷媒は、1)140°F(60℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときに火炎伝播を示す、2)0.0062lb/ft(0.10kg/m)未満のLFLを有する、又は、3)8169Btu/lb(19,000kJ/kg)を超える燃焼熱を有する。
【0096】
HFO成分及びHC成分が正しい比率で一緒にブレンドされると、得られるブレンドは、ANSI/ASHRAE規格34及びISO817で定義されているようにクラス2の可燃性を有する。クラス2の可燃性は、クラス3の可燃性よりも本質的に可燃性が低く(すなわち、燃焼熱つまりHOCの値によって例示されるように、低エネルギー放出)であり、自動車の加熱/冷却システムで管理することができる。
【0097】
ASHRAE規格34は、化学量論的反応にとって十分な酸素を有する1モルの冷媒の完全燃焼に基づいて平衡化された化学量論的方程式を用いて、冷媒ブレンドの燃焼熱を計算する方法を提供する。
【0098】
下記の表から、ASHRAE規格34セクション6.1.3.6に提供される燃焼計算の熱に基づいて、0.1重量%~23.8重量%のプロピレンをHFO-1234yfと組み合わせ、それでもなおASHRAEのクラス2の可燃性の燃焼要件(HOC<19KJ/kg)を満たすことが可能であることがわかる。
【0099】
【表2】
【0100】
HFO成分及びHC成分が更により正確な比率で一緒にブレンドされると、得られるブレンドは、ANSI/ASHRAE規格34及びISO817で定義されているようにクラス2Lの可燃性を有する。クラス2Lの可燃性は、クラス3の可燃性よりも本質的にはるかに可燃性が低く(すなわち、燃焼熱つまりHOCの値によって例示されるように、低エネルギー放出である)、自動車の加熱/冷却システムで管理することができる。
【0101】
【表3】
【0102】
HFO成分とHC成分とをブレンドし、得られたブレンドがANSI/ASHRAE規格34及びISO817で定義されているようにクラス2Lの可燃性を有するように火炎抑制剤を添加することも可能である。クラス2Lの可燃性は、クラス3の可燃性よりも本質的にはるかに可燃性が低く(すなわち、燃焼熱つまりHOCの値によって例示されるように、低エネルギー放出である)、自動車の加熱/冷却システムで管理することができる。この例は、冷媒ブレンドの特性が影響を受けず、得られたブレンドがクラス2Lの可燃性であるように、CF3I又は他の既知の火炎抑制剤を添加することである。得られるブレンドがクラス1であり、かつ火炎伝播を示さないように、可燃性を低減するのに十分な火炎抑制剤を添加することも可能である。
【0103】
これらの成分の毒性はまた、WEEL又は同様の毒物学に関するタイプの委員会によっても検討され、400ppm超の毒性値を有することが見出され、したがって、ANSI/ASHRAE規格34及びISO817によってクラスA又は低毒性レベルとして分類されている。
【0104】
本発明の組成物は、温度範囲にわたって共沸混合物様及び/又は近共沸特性であり、熱管理システムにおいて望ましく用いられる。共沸混合物様及び/又は近共沸組成物は、冷凍又は空調システムなどの熱管理システムにおいて使用される場合、低い温度勾配を示す。いくつかの実施形態では、組成物は、所望の蒸発器の動作温度及び凝縮器の動作温度の両方において共沸混合物様及び/又は近共沸特性を示す。
【0105】
HFO-1234yfとプロピレンとの混合物は、温度及び圧力に応じて、1つ又は2つ以上の濃度範囲にわたって共沸混合物様及び/又は近共沸特性を示し得る。いくつかの実施形態では、HFO-1234yf及びプロピレンの冷媒組成物は、プロピレンNAL1からプロピレンNAH1までの濃度範囲にわたって近共沸特性を示し得る。いくつかの実施形態では、HFO-1234yf及びプロピレンの冷媒組成物は、プロピレンNAL2からプロピレンNAH2までの濃度範囲にわたって共沸混合物様及び/又は近共沸特性を示し得る。いくつかの実施形態では、プロピレンNAL1からプロピレンNAH1までと、プロピレンNAL2からプロピレンNAH2までとは、範囲が重複する。
【0106】
近共沸特性を示す本発明の組成物は、プロピレンNAL1に対応するHFO-1234yf濃度と、プロピレンNAH1に対応するHFO-1234yf濃度との間の、HFO-1234yf/プロピレン組成物の一部としてのHFO-1234yf濃度を有し得ることも理解されたい。同様に、プロピレンNAL2に関連する組成物、プロピレンNAH2に関連する組成物、及びプロピレンNAL2とプロピレンNAH2との間のHFO-1234yf濃度を有する近共沸性を示す組成物は、上記のとおりであってもよい。
【0107】
いくつかの実施形態では、HFO-1234yf及びプロピレンの冷媒組成物は、プロピレンALL1からプロピレンALH1までの濃度範囲にわたって共沸混合物様特性を示し得る。いくつかの実施形態では、HFO-1234yf及びプロピレンの冷媒組成物は、プロピレンALL2からプロピレンALH2までの濃度範囲にわたって共沸混合物様及び/又は近共沸特性を示し得る。いくつかの実施形態では、プロピレンALL1からプロピレンALH1までと、プロピレンALL2からプロピレンALH2までとは、範囲が重複する。
【0108】
近共沸特性を示す本発明の組成物は、プロピレンAAL1に対応するHFO-1234yf濃度と、プロピレンAAH1に対応するHFO-1234yf濃度との間の、HFO-1234yf/プロピレン組成物の一部としてのHFO-1234yf濃度を有し得ることも理解されたい。同様に、プロピレンAAL2に関連する組成物、プロピレンAAH2に関連する組成物、及びプロピレンAAL2とプロピレンAAH2との間のHFO-1234yf濃度を有する近共沸性を示す組成物は、上記のとおりであってもよい。
【0109】
本発明の一態様を図1に示す。図1の例では、0℃におけるR-1234yf/プロピレンの沸点圧力に基づく沸点圧力と露点圧力との間のパーセント偏差が示されている。この系は、約0℃の温度において、R-1234yfが0であるプロピレンNAL1(610)から、R-1234yfが約60.4重量%であるプロピレンNAH1(650)まで、及び100重量%~39.6重量%のプロピレンでは、近共沸混合物である。この系はまた、約0℃の温度において、R-1234yfが約98.4重量%であるプロピレンNAL2(660)から、R-1234yfが100重量%であるプロピレンNAH2(640)まで、及び約1.6重量%~0重量%のプロピレンは、近共沸性である。
【0110】
この系は、約0℃の温度において、R-1234yfが0であるプロピレンALL1(615)から、R-1234yfが約54.2重量%であるプロピレンALH1(620)まで、及び100重量%~約45.8重量%のプロピレンでは、共沸混合物様である。この系は、約0℃の温度において、R-1234yfが約99.1であるプロピレンALL2(630)から、R-1234yfが100重量%であるプロピレンALH2(645)まで、及び約0.9重量%~0重量%のプロピレンでは、共沸混合物様である。
【0111】
本発明の別の態様を図2に示す。図2の例では、40℃におけるR-1234yf/プロピレンの沸点圧力に基づく沸点圧力と露点圧力との間のパーセント偏差が示されている。この系は、約40℃の温度において、R-1234yfが0であるプロピレンNAL1(610)から、R-1234yfが約72.3重量%であるプロピレンNAH1(650)まで、及び100重量%~27.7重量%のプロピレンでは、近共沸混合物である。この系はまた、約40℃の温度において、R-1234yfが約96.4重量%であるプロピレンNAL2(660)から、R-1234yfが100重量%であるプロピレンNAH2(640)まで、及び約3.6重量%~0重量%のプロピレンは、近共沸混合物である。
【0112】
この系は、約40℃の温度において、R-1234yfが0であるプロピレンALL1(615)から、R-1234yfが約64.4重量%であるプロピレンALH1(620)まで、及び100重量%~約35.6重量%のプロピレンでは、共沸混合物様である。この系は、約40℃の温度において、R-1234yfが約98.2であるプロピレンALL2(630)から、R-1234yfが100重量%であるプロピレンALH2(645)まで、及び約1.8重量%~0重量%のプロピレンでは、共沸混合物様である。
【0113】
この系は、少なくとも0~40℃の温度範囲にわたって、R-1234yfが約21.5重量%~26.1重量%の範囲及びプロピレンが約78.5重量%~約73.9重量%の範囲である共沸混合物として。
【0114】
実施形態において、冷媒ブレンドは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及びプロピレン(R-290)を含む。いくつかの実施形態では、冷媒ブレンドは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及びプロピレン(R-290)からなり得る。いくつかの実施形態では、冷媒ブレンドは、1重量%のプロピレン~10重量%のプロピレンの範囲のブレンドを含み得る。より具体的には、ブレンドは、5重量%~10重量%のプロピレン、更により具体的には5重量%~7重量%のプロピレンを含有してもよい。
【0115】
HFO-1234yfは空調冷媒として使用され得るが、その能力は、ヒートポンプ式流体として、すなわち冷却及び加熱モードで又は可逆サイクルシステムにおいて機能する能力に制限される。したがって、本明細書に記載される冷媒は、加熱動作範囲においてHFO-1234yfを超える改善された容量を特段に提供し、下限加熱範囲能力をHFO-1234yfを超えて-30℃まで拡大し、極めて低いGWP及び低乃至軽度の可燃性を有する一方で、低い又はほとんど無視できる勾配を特段に示す。したがって、これらの冷媒は、電化車両用途、特に、HEV、PHEV、MHEV、EV、及びこれらの特性を下限加熱範囲にわたって必要とする大量輸送車両において最も有用である。また、いずれのヒートポンプ式流体も、空調範囲内で、すなわち最大40℃で良好に機能して、HFO-1234yfと比べて増加した容量を提供する必要があることに留意されたい。したがって、本明細書に記載の冷媒ブレンドは、所定の温度の範囲にわたって、特に-30℃から最大+40℃にわたって良好に機能し、ヒートポンプシステムにおいて使用されているサイクルに応じて加熱及び/又は冷却を提供することができる。
【0116】
冷媒ブレンドは、様々な加熱及び冷却システムにおいて使用され得る。図3の実施形態では、冷凍ループ110を有する冷凍システム100は、第1の熱交換器120、圧力調節器130、第2の熱交換器140、圧縮機150、及び四方弁160を備える。第1及び第2の熱交換器は、空気/冷媒タイプである。第1の熱交換器120は、ループ110の冷媒及びファンによって生成された空気流を通過させる。この同じ空気流の全て又は一部はまた、熱交換器及び外部冷却回路、例えばエンジン(図3には図示せず)を通過してもよい。同様に、第2の熱交換器140は、ファンによって生成された空気流を通過させる。この空気流の全て又は一部はまた、別の外部冷却回路(図3には図示せず)を通過してもよい。空気が流れる方向は、ループ110の動作モード及び外部冷却回路の要件に依存する。したがって、エンジンの場合、エンジンがアイドル状態であり、ループ110がヒートポンプモードにあるとき、空気は、エンジン冷却回路の熱交換器によって加熱された後、熱交換器120上に吹き付けられて、ループ110の流体の蒸発を加速させ、こうしてこのループの性能を改善することができる。冷却回路の熱交換器は、エンジンに入る空気の加熱又はこのエンジンによって生成されたエネルギーを生産的に使用することなどのエンジンの要件に応じて、弁によって起動され得る。
【0117】
冷凍モードでは、圧縮機150によって移動し始めた冷媒は、弁160を経由し、凝縮器として作用する、つまり熱エネルギーを外部に引き渡す熱交換器120を通過した後、圧力調節器130を通過し、次に、蒸発器として作用することにより自動車両の車室内部に吹き込まれることが意図される空気流を冷却する熱交換器140を通過する。
【0118】
ヒートポンプモードでは、弁160を用いて冷媒の流れの方向を反転させる。熱交換器140は凝縮器として作用し、熱交換器120は蒸発器として作用する。次いで、熱交換器140を使用して、自動車両の車室に向けられた空気流を加熱することができる。
【0119】
図4の実施形態では、冷凍ループ210を有する冷凍システム200は、第1の熱交換器220、圧力調節器230、第2の熱交換器240、圧縮機250、四方弁260、及び分岐270備え、分岐270は、冷凍モードにおける流体の流れ方向を考慮する場合には、一方では、熱交換器220の出口に取り付けられ、他方では、熱交換器240の出口に取り付けられる。この分岐は熱交換器280を備え、エンジン及び圧力調節器280に入れることが意図される空気流又は排気ガス流は、熱交換器280を通過する。第1及び第2の熱交換器220、240は、空気/冷媒タイプである。第1の熱交換器220は、ループ210からの冷媒及びファンによって生成された空気流を通過させる。この同じ空気流の全て又は一部は、エンジン冷却回路(図4には図示せず)の熱交換器も通過する。同様に、第2の熱交換器240は、ファンによって運ばれた空気流を通過させる。この空気流の全て又は一部は、エンジン冷却回路(図4には図示せず)の熱交換器も通過する。空気が流れる方向は、ループ210の動作モード及びエンジンの要件に依存する。例として、燃焼エンジンがアイドル状態であり、ループ210がヒートポンプモードにあるとき、空気は、エンジン冷却回路の熱交換器によって加熱された後、熱交換器220上に吹き付けられて、ループ210の流体の蒸発を加速させ、このループの性能を改善することができる。冷却回路の熱交換器は、エンジンに入る空気の加熱又はこのエンジンによって生成されたエネルギーを生産的に使用することなどのエンジンの要件に応じて、弁によって起動され得る。
【0120】
熱交換器280はまた、これが冷凍モードであるのか、ヒートポンプモードであるかにかかわらず、エネルギー要件に従って起動されてもよい。遮断弁290は、分岐270上に設置されて、この分岐を起動又は停止させることができる。
【0121】
ファンによって運ばれた空気流は、熱交換器280を通過する。この同じ空気流は、エンジン冷却回路の別の熱交換器を通過し、また排気ガス回路内に配置された他の熱交換器を通過して、エンジン空気入口又はハイブリッドモーターカーの場合には電池を通過し得る。
【0122】
図5の実施形態では、冷凍ループ310を有する冷凍システム300は、第1の熱交換器320、圧力調節器330、第2の熱交換器340、圧縮機350、及び四方弁360を備える。第1及び第2の熱交換器320、340は、空気/冷媒タイプである。熱交換器320及び340が動作する方法は、図6に示される第1の実施形態と同じである。2つの流体/液体熱交換器370及び380は、冷凍ループ回路310及びエンジン冷却回路の両方、又は二次グリコール水回路に設置される。中間気体流体(空気)を経由せずに流体/液体熱交換器を設置することは、空気/流体熱交換器と比べて熱交換の改善に寄与する。
【0123】
図6の実施形態では、冷凍ループ410を有する冷凍システム400は、第1の一連の熱交換器420及び430、圧力調節器440、第2の一連の熱交換器450及び460、圧縮機470、並びに四方弁480を備える。冷媒モードでの流体の循環を考慮したときに、分岐490は、一方では、熱交換器420の出口に、他方では、熱交換器460の出口に取り付けられている。この分岐は熱交換器500を備え、燃焼エンジン及び圧力調節器510に入れることが意図される空気流又は排気ガス流は、この熱交換器500を通過する。この分岐が動作する方法は、図7に示される第2の実施形態と同じである。
【0124】
熱交換器420、450は、空気/冷媒タイプであり、熱交換器430、460は液体/冷媒タイプである。これらの熱交換器が稼働する方法は、図5に示される第3の実施形態と同じである。
【実施例
【0125】
ヒートポンプシステムの熱力学モデリングの比較
加熱モード:プロピレン
熱力学モデリングプログラム、熱サイクル3.0を使用して、HFO-1234yfと比較して、HFO-1234yf/プロピレンに対しブレンドの予想される性能をモデル化した。加熱モードで使用したモデル条件は以下のとおりであり、熱交換器#2は10℃刻みで変化させた。
【0126】
【表4】
【0127】
HFO-1234yf/1重量%~10重量%の範囲のプロピレンについてのモデリングの結果。
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】
【0132】
【表9】
【0133】
モデリングの結果は、HFO-1234yfと、1重量%~10重量%のR-1270とのブレンドが、未希釈のHFO-1234yfに勝る有意な利点をもたらすことを示している。-30℃の周囲温度では、HFO-1234yf単独では良好に機能しない。圧縮機入口圧力は大気圧以下であり、圧縮機に空気が引き込まれる(表4)。したがって、HFO-1234yfは何らかの類のシステム再設計を行わない限り、-20℃までのヒートポンプ流体としての使用に限定される。しかしながら、1重量%のR-1270(プロピレン)であっても、得られるブレンドの性能を大幅に改善させ、HFO-1234yf(99重量%)/R-1270(1重量%)は、-30℃までの温度で動作することが可能である。したがって、HFO-1234yf/R-1270の本発明のブレンドは、少なくとも10℃の差分で加熱範囲を広げる。
【0134】
HFO-1234yfと、1重量%~10重量%のR-1270(プロピレン)とのブレンドはまた、改善された加熱容量に関して、未希釈のHFO-1234yfに勝る有意な利点をもたらす。モデリングの結果は、1重量%のR-1270であっても、2.9%を超える熱容量の改善を有し、最大10%のプロピレンは、相対熱容量を最大27.5%まで有意に改善することができることを示している。本発明のブレンドの改善された加熱容量は、新しい流体を容易に使用して、客室に適切な暖房を提供することができることを示す。加えて、得られる本発明のブレンドは、概して、ヒートポンプ動作範囲にわたって、未希釈のHFO-2134yfと比較して、同様の又は低減された圧縮機吐出比を有する。
【0135】
モデリングは、HFO-1234yfと、1重量%~5重量%のR-1270(プロピレン)とのブレンドが、-30℃~+10℃の加熱範囲において同様のCOP又はエネルギー性能を有することを示している。HFO-1234yfと、5重量%超~最大10重量%のR-1270(プロピレン)とのブレンドは、加熱範囲において適切なCOPを有する。
【0136】
加えて、1重量%~10重量%のR-1270(プロピレン)を含有するブレンドはまた、所望の加熱範囲(すなわち、-30℃から最大10℃)にわたって、ほとんど無視できる勾配を示す。したがって、R-1270ブレンドは、極めて好都合な勾配を有し、加熱範囲全体にわたって無制限に近共沸ブレンドとして有用であり得る。
【0137】
したがって、本明細書に記載のHFO-1234yf/R-1270冷媒ブレンドは、-30℃~+10℃の範囲の加熱動作範囲において、HFO-1234yfを2.9%~27%超える改善された容量を特段に提供し、少なくとも10℃の差分で下限加熱範囲能力を、HFO-1234yfを超えて広げ、極めて低いGWP(10未満)及び低乃至軽度の可燃性(クラス2~クラス2L)を有する一方で、点検のための加熱範囲にわたってほとんど無視できる勾配も特段に示す。
【0138】
HFO-1234yf及びR-1270の全てのブレンドが望ましいが、ヒートポンプ流体に有利な可燃性を有する好ましいブレンドは、99重量%のHFO-1234yf~76.2重量%のHFO-1234yf及び1重量%のR-1270~23.8重量%のR-1270であり、より好ましいブレンドは、99重量%のHFO-1234yf~90重量%のHFO-1234yf及び1重量%~10重量%のR-1270であり、最も好ましいブレンドは、99%のHFO-1234yf~93重量%のHFO-1234yf及び1重量%のR-1270~7重量%のR-1270である。
【0139】
ヒートポンプシステムの熱力学モデリングの比較
冷却モード:プロピレン
熱力学モデリングプログラム、熱サイクル3.0を使用して、HFO-1234yf/プロピレンと比較して、HFO-1234yfに対してブレンドの予想される性能をモデル化した。冷却モードで使用したモデル条件は以下のとおりであり、熱交換器#2は10℃刻みで変化させた。
【0140】
【表10】
【0141】
【表11】
【0142】
【表12】
【0143】
【表13】
【0144】
任意のヒートポンプ流体が有力な候補となるとなるためには、冷却モードでも良好に機能する必要がある。すなわち、より高い周囲温度において、適切な冷却を提供する必要がある。モデリングの結果は、HFO-1234yfと、1重量%~10重量%のR-1270とのブレンドが、20℃から最大40℃までの周囲の冷却範囲において、未希釈のHFO-1234yfに勝る有意な利点をもたらすことを示している。
【0145】
HFO-1234yfと、1重量%~10重量%のR-1270(プロピレン)とのブレンドはまた、改善された冷却容量に関して、未希釈のHFO-1234yfに勝る有意な利点をもたらす。モデリングの結果は、1重量%のR-1270であっても、2%を超える熱容量の改善を有し、最大10%のプロピレンは、相対冷却容量を最大22%まで有意に改善することができることを示している。本発明のブレンドの改善された冷却容量は、新しい流体を容易に使用して、客室に適切な冷房(空調)を提供することができることを示す。加えて、得られる本発明のブレンドは、概して、冷却動作範囲にわたって、未希釈のHFO-2134yfと比較して、同様の圧縮機吐出比を有する。
【0146】
モデリングは、HFO-1234yfと、1重量%~10重量%のR-1270(プロピレン)とのブレンドが、+20℃~+40℃の冷却範囲において同様のCOP又はエネルギー性能を有することを示している。
【0147】
加えて、1重量%~10重量%のR-1270(プロピレン)を含有するブレンドはまた、所望の冷却範囲(すなわち、+20℃~+40℃)にわたって、無視できる勾配を示す。したがって、本発明のブレンドは、ほとんどあらゆる周囲環境に供することができる。
【0148】
したがって、本明細書に記載のHFO-1234yf/R-1270冷媒ブレンドは、+20℃~+40℃の範囲の冷却動作範囲において、HFO-1234yfを2%~22%超える改善された容量を特段に提供し、極めて低いGWP(10未満)及び低乃至軽度の可燃性(クラス2~クラス2L)を有する一方で、全ヒートポンプ動作温度に対してほとんど無視できる勾配も特段に示す。
【0149】
HFO-1234yf及びR-1270の全てのブレンドが望ましいが、ヒートポンプ(すなわち加熱又は冷却モードで動作する)流体に有利な可燃性を有する好ましいブレンドは、99重量%のHFO-1234yf~78重量%のHFO-1234yf及び1重量%のR-1270~22重量%のR-1270であり、より好ましいブレンドは、99重量%のHFO-1234yf~80重量%のHFO-1234yf及び1重量%~20重量%のR-1270であり、最も好ましいブレンドは、99重量%のHFO-1234yf~90重量%のHFO-1234yf及び1重量%のR-1270~10重量%のR-1270である。
【0150】
本発明を好ましい実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができ、その要素の代わりに同等物を使用することができることが理解されるであろう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲内に含まれる全ての実施形態を含むことが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6