(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】アミロスフェロイド(ASPD)の代替物となりうるアミロイドβタンパク質(Aβ)の架橋体、及びASPDの分析
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20231110BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231110BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231110BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231110BHJP
G01N 33/547 20060101ALI20231110BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20231110BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G01N33/531 A
G01N33/50 F ZNA
G01N33/53 D
G01N33/543 511D
G01N33/547
C07K14/47
C07K16/18
(21)【出願番号】P 2021558415
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020042938
(87)【国際公開番号】W WO2021100744
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2019209136
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】星 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 由江
(72)【発明者】
【氏名】町田 清隆
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179646(WO,A1)
【文献】特開2008-291025(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057664(WO,A1)
【文献】特表2008-531635(JP,A)
【文献】特表2019-518196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0246191(US,A1)
【文献】国際公開第99/041279(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
(1)不溶性担体に結合している、アミロスフェロイド(ASPD)に結合可能な抗体(第一抗体)に、ASPDを含有している可能性がある生体由来試料を接触させて、ASPDが含有されている場合に第一抗体にASPDを結合させる工程;及び
(2)工程(1)で第一抗体に結合したASPDに、抗ASPDモノクローナル抗体(第二抗体)を反応させる工程
を含み、
第一抗体が、ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2、又は、モノクローナル抗体BAN50aであり、
第二抗体が、マウスモノクローナル抗ASPD抗体mASD3又はその標識化抗体である、ASPDの分析方法。
【請求項2】
さらに、下記の工程:
(3)工程(2)でASPDに結合した第二抗体に、レポーターが連結した抗マウス抗体を反応させる工程、又は、工程(2)でASPDに結合した第二抗体の標識に、レポーターが連結した前記標識の結合パートナーを反応させる工程
を含む、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
ASPDの標準物質として、ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質を使用し、
前記物質は、アミロイドβタンパク質(Aβ)が架橋剤によって架橋された物質であり、
前記架橋剤は、両端の反応末端がNHSエステルである架橋剤であって、前記架橋剤は、スペーサーアーム長が
21Å以上
36Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のオキシエチレン基(-CH
2CH
2O-)及び/又はオキシプロピレン基(-CH
2CH
2CH
2O-)を有する架橋剤である、請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記架橋剤は、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)、スルホエチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)、ビス(スクシンイミジル)ペンタ(エチレングリコール)、及びビス(スクシンイミジル)ノナ(エチレングリコールからなる群から選択される、請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
請求項3
又は4に記載の分析方法に使用するための、ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質であって、
アミロイドβタンパク質(Aβ)が架橋剤によって架橋された物質であり、
前記架橋剤は、両端の反応末端がNHSエステルである架橋剤であって、前記架橋剤は、スペーサーアーム長が
21Å以上
36Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のオキシエチレン基(-CH
2CH
2O-)及び/又はオキシプロピレン基(-CH
2CH
2CH
2O-)を有する架橋剤である、物質。
【請求項6】
前記架橋剤は、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)、スルホエチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)、ビス(スクシンイミジル)ペンタ(エチレングリコール)、及びビス(スクシンイミジル)ノナ(エチレングリコール
)からなる群から選択される、請求項
5に記載の物質。
【請求項7】
請求項
5又は6に記載の物質と、請求項1で規定された第1抗体と請求項1で規定された第2抗体とを含む、請求項3
又は4に記載の分析方法に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミロイドβタンパク質(Aβ)の架橋体、アミロスフェロイド(ASPD)の代替物となりうるAβ架橋体(cross-linked Aβ)、及びASPDの分析に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロスフェロイド(amylospheroids(ASPD))は、アミロイドβタンパク質(Aβ)が約30個集まった直径約10~15nmの球状のAβ集合体であって、アルツハイマー病の神経細胞死が起きるうえで重要な役割を果たすと考えられる構造体である。
【0003】
ASPDは、強い神経毒性を示すin vitroで合成されたAβ集合体(すなわち、合成ASPD)として単離された(非特許文献1)。この合成ASPDに対する特異的な抗体が作製され(特許文献1及び2)、この抗体を用い、アルツハイマー病のヒト患者の脳から、実際に、生体内で形成されたASPD(すなわち、ネイティブASPD)が単離された(非特許文献1)。
【0004】
ネイティブASPD及び合成ASPDは、同様に、成熟神経細胞に対して選択的に細胞死を誘発する。この神経細胞死におけるASPDのターゲットが、神経の生存と機能に極めて重要な役割を果たしているシナプスタンパク質「Na+,K+-ATPaseポンプのα3サブユニット(以下、NAKα3)」であることが発見され、ASPDの結合によりNAKα3の機能が低下し、神経細胞が過剰に興奮することで神経細胞が死に至ることが明らかにされた(特許文献3、非特許文献2)。
【0005】
アルツハイマー病における臨床症状と最も相関するのが神経細胞の脱落である。神経細胞脱落が認められるアルツハイマー病患者の大脳皮質におけるネイティブASPD量は、アルツハイマー病の重症度に相関して増加し、そして、神経細胞脱落があまり認められないアルツハイマー病患者の小脳におけるネイティブASPD量は微量しか存在しないことが明らかとなった(非特許文献3)。したがってアミロスフェロイドは、アルツハイマー病が発症する不可逆的段階において重要な役割を果たすと考えられる。さらに、ネイティブASPDは、レビー小体型認知症患者の脳からも検出されており(非特許文献3)、レビー小体型認知症においてもASPDはその発症において重要な役割を果たすと考えられる。
【0006】
ネイティブASPDと等価であると考えられる合成ASPDは、Aβを含む液体をゆっくり撹拌することにより製造されうる(非特許文献1、特許文献4)。
また、ネイティブASPDと等価であると考えられる細胞分泌型ASPD様構造体は、例えば、所定のAPPタンパク質を発現するCHO細胞から分泌させることができ、該CHO細胞の培養上清から得ることができる(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2006/016644
【文献】WO2009/057664
【文献】WO2013/099806
【文献】WO2013/094614
【文献】WO2017/179646
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hoshi et al., Spherical aggregates of β-amyloid (amylospheroid) show high neurotoxicity and activate tau protein kinase I/glycogen synthase kinase-3β, PNAS May 27, 2003 vol. 100 no. 11 6370-6375
【文献】Ohnishi et al., Na, K-ATPase α3 is a death target of Alzheimer patient amyloid-β assembly, PNAS August 11, 2015 vol. 112 no. 32 E4465-E4474
【文献】Noguchi et al., Isolation and characterization of patient-derived, toxic, high mass amyloid beta-protein (Abeta) assembly from Alzheimer disease brains, J Biol Chem. 2009 Nov 20;284(47):32895-905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、アミロスフェロイド(ASPD)はアルツハイマー病やレビー小体型認知症において重要な役割を果たす。ASPDが関与する疾病の予防、診断、治療等において、対象(患者)の生体試料中のASPDを分析する必要性が高まっている。
また、ASPDを標的とする治療薬が開発された際には、そのコンパニオン診断のためにASPDの分析が必要となる。
【0010】
物質を分析(測定を含む)する場合、通常、標準物質(スタンダード)が必要である。標準物質は、例えば、キャリブレーションや検量線の作成に使用される。ネイティブASPD、合成ASPD、及び細胞分泌型ASPD様構造体は、ASPDの分析の標準物質として使用できる。
一方で、診断キットの標準物質としては、安定した製造が可能で、保管安定性に優れ、製造コストが低いことが望まれる。ネイティブASPD、合成ASPD、及び細胞分泌型ASPD様構造体は、ASPDを分析するためのキットの標準物質としては、製造の容易性、保管安定性、製造コストなどの観点から問題がある。
そこで、本開示は、一態様において、ASPDの代替物となりうる物質、又は、ASPDの分析においてASPDの標準物質となりうる物質を提供する。
【0011】
また、本開示は、その他の一態様において、生体試料、例えば、血液や脳脊髄液中のASPDを分析できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、一態様において、ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質であって、Aβが架橋剤によって架橋された物質であり、前記架橋剤は、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のオキシエチレン基(-CH2CH2O-)及び/又はオキシプロピレン基(-CH2CH2CH2O-)を有する架橋剤である物質に関する。
本開示は、その他の態様において、Aβの架橋体であって、Aβが、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を有する架橋剤によって架橋されている架橋体に関する。
【0013】
本開示は、その他の態様において、下記の工程:
(1)不溶性担体に結合している、ASPDに結合可能な抗体(第一抗体)に、ASPDを含有している可能性がある生体由来試料を接触させて、ASPDが含有されている場合に第一抗体にASPDを結合させる工程;及び
(2)工程(1)で第一抗体に結合したASPDに、抗ASPDモノクローナル抗体(第二抗体)を反応させる工程
を含み、
第一抗体が、ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2、又は、モノクローナル抗体BAN50aであり、第二抗体が、抗ASPDモノクローナル抗体mASD3又はその標識化抗体である、ASPDの分析方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、一態様において、ASPDの代替物となりうる物質、又は、ASPDの分析においてASPDの標準物質となりうる物質を提供できる。
また、本開示によれば、その他の一態様において、生体試料、例えば、血液や脳脊髄液中のASPDを分析できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、Aβ架橋体1~3のSDSPAGEを行った結果の一例である。
【
図2】
図2は、ASPDのCLEIAの一実施形態[抗ASPDポリクローナル抗体/mASD3]を説明する概略図である。
【
図3】
図3は、ASPDのCLEIAにおける反応性を、ASPDとAβ架橋体1~3で比較した結果を示すグラフの一例である。
【
図4】
図4は、市販のAβオリゴマーELISA、及び、ASPDのCLEIAにおける反応性を、Aβ架橋体1、ASPD、及びAβ1-16ダイマーで比較した結果を示すグラフの一例である。
【
図5】
図5は、Aβ架橋体1の免役原性を確認した結果の一例であって、Aβ架橋体1で免疫されたウサギの血清が固相化された合成ASPDに反応することを示す結果である。
【
図6】
図6は、ASPDを添加したヒトCSFの希釈サンプル(希釈率1倍、1/2、1/4、及び1/8)のASPDのCLEIAによる測定値をプロットした結果のグラフの一例である。
【
図7】
図7は、ASPDを添加したヒト血漿の希釈サンプル(希釈率1倍、1/2、1/4、1/8、及び1/16)のASPDのCLEIAによる測定値をプロットした結果のグラフの一例である。
【
図8】
図8は、ASPDのCLEIAの一実施形態[huASD2/mASD3]を説明する概略図である。
【
図9】
図9は、ASPDのCLEIA[huASD2/mASD3]で独立した4つのASPD含有サンプルを測定した結果のグラフの一例である。
【
図10】
図10は、ASPDのCLEIAの一実施形態[huASD2/ビオチン化mASD3]を説明する概略図である。
【
図11】
図11は、ASPDのCLEIA[huASD2/ビオチン化mASD3]でASPD含有サンプルを測定した結果のグラフの一例である。
【
図12】
図12は、ASPDのCLEIA[huASD2/ビオチン化mASD3]システムと、[BAN50/ビオチン化BAN50]システムで、ASPDとMAP16を検出した結果のグラフの一例である。
【
図13】
図13は、さまざまな[第一抗体/第二抗体]の組み合わせで、ヒト血漿サンプル(希釈率1/4)とバッファーサンプルの結果を比較した結果の一例である。
【
図14】
図14は、アルツハイマー病(AD)と診断された患者の血漿サンプル10例と、健常者の血漿サンプル10例に対して、ASPDのCLEIA[huASD2/ビオチン化mASD3]を行った結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、一態様において、所定の架橋剤で架橋したAβの架橋体が、ASPDに特異的な抗体に対してASPDと同様の反応性を示すという知見に基づく。
本開示は、その他の態様において、所定の抗体の組み合わせにより、生体試料内のASPDを効率的に分析できるという知見に基づく。
【0017】
本開示において、単にASPDという場合には、ネイティブASPD、合成ASPD、及び細胞分泌型ASPD様構造体を含みうる。
【0018】
ASPDに特異的な抗体としては、一又は複数の実施形態において、WO2006/016644及びWO2009/057664に開示されるポリクローナル抗ASPD抗体及びモノクローナル抗ASPD抗体が挙げられ、さらなる一又は複数の実施形態において、ウサギポリクローナル抗ASPD抗体(rpASD1、rpASD2及びrpASD3)、マウスモノクローナル抗ASPD抗体(mASD1、mASD2及びmASD3)、ハムスターモノクローナル抗ASPD抗体(haASD1、haASD2、haASD3、haASD4及びhaASD5)、並びに、ヒト化モノクローナル抗ASPD抗体(huASD2)等が挙げられる。
【0019】
[アミロイドβタンパク質]
Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の一部に相当する配列からなるタンパク質で、生体内でβセレクターゼ及びγセレクターゼによってAPPから切り出されるペプチドの配列を有するタンパク質である。
本開示において、単にAβというときは、Aβ38(Aβ1-38)、Aβ39(Aβ1-39)、Aβ40(Aβ1-40)、Aβ41(Aβ1-41)、Aβ42(Aβ1-42)、Aβ43(Aβ1-43)、又はこれらの全部若しくは一部を指し得る。
本開示において、単にAβというときは、ヒトAβ及び非ヒト哺乳類Aβを含みうる。
ヒトAPPとしては、一又は複数の実施形態において、hAPP770、hAPP751、及びhAPP695などのスプライシングバリアントが挙げられる。hAPP770(NCBIアクセッション番号NP_000475(VERSION NP#000475.1 GI:4502167)が挙げられるが、これに限定されない。
ヒトAβのN末端のアミノ酸(Aβの1番目のアミノ酸)は、hAPP770の672番目のアミノ酸D(アスパラギン酸)に相当する。
【0020】
本開示において、単にAβというときは、野生型及び変異型のAβを含みうる。
変異型Aβとしては、一又は複数の実施形態において、変異型APPから切り出されるペプチドの配列を有するものが挙げられる。変異型APPとしては、家族性アルツハイマー病に連鎖する変異が挙げられ、例えば、Swedish変異、Leuven変異、Icelandic変異、London変異、Iranian変異、Austrian変異、German変異、French変異、Florida変異、Iberian変異、Australian変異、Belgian変異、Flemish変異、Icelandic変異、British変異、Tottori変異、Italian変異、Arctic変異、Osaka変異、Iowa変異、Dutch変異などが挙げられる。その他の変異としては、修飾アミノ酸、非天然アミノ酸、D-アミノ酸等への変異を含みうる。修飾アミノ酸としては、一又は複数の実施形態において、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、チオール基修飾、水酸基修飾、糖化修飾、PEG化修飾等が挙げられる。
【0021】
[Aβ架橋体]
本開示は、一態様において、所定の架橋体でAβが架橋されたAβ架橋体に関する。Aβについては、上述のとおりである。
【0022】
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤は、一又は複数の実施形態において、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤である。スペーサーアーム長とは、架橋剤の分子スパン(結合分子間の距離)をいう。架橋体のスペーサーアーム長は、市販の架橋体のカタログや製品説明書に記載されており、当業者であれば適宜選択し入手できる。
スペーサーアーム長としては、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性をASPDに近づける観点から、4Å以上であって、7Å以上が好ましく、10Å以上が好ましく、13Å以上がより好ましく、14Å以上がより好ましく、15Å以上がより好ましく、16Å以上がさらに好ましく、17Å以上がさらに好ましく、18Å以上がさらに好ましく、19Å以上がさらに好ましく、20Å以上がさらに好ましく、21Å以上がさらに好ましい。
スペーサーアーム長としては、一又は複数の実施形態において、同様の観点から、50Å以下であって、45Å以下が好ましく、40Å以下がより好ましく、36Å以下がさらに好ましく、33Å以下がさらに好ましく、30Å以下がさらに好ましく、27Å以下がさらに好ましく、24Å以下がさらに好ましい。
【0023】
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤は、一又は複数の実施形態において、スペーサーアームとして1以上13以下のオキシエチレン基(-CH2CH2O-、EO基)及び/又はオキシプロピレン基(-CH2CH2CH2O-、PO基)を有する架橋剤である。スペーサーアームとは、架橋剤の反応性末端間の骨格又は基をいう。
スペーサーアームにおけるEO基及びPO基の合計の数としては、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性をASPDに近づける観点から、1以上であって、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。
スペーサーアームにおけるEO基及びPO基の合計の数としては、一又は複数の実施形態において、同様の観点から、13以下であって、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下がさらに好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0024】
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤の架橋標的は、一又は複数の実施形態において、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、非選択などが挙げられる。
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤の反応末端は、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性をASPDに近づける観点から、アミノ基間を架橋する反応末端が好ましく、NHSエステル又はイミドエステルが挙げられる。
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤は、開裂性があってもよく、なくてもよい。安定性の観点からは、開裂性はないことが好ましい。
【0025】
本開示に係るAβ架橋体に用いる架橋剤は、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性をASPDに近づける観点から、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート) (EGS、スペーサーアーム長16.1Å)、スルホEGS(スペーサーアーム長16.1Å)、ビス(スクシンイミジル)ペンタ(エチレングリコール) (BS(PEG)5、スペーサーアーム長21.7Å)、ビス(スクシンイミジル)ノナ(エチレングリコール) (BS(PEG)9、スペーサーアーム長35.8Å)が好ましく、BS(PEG)5、及びBS(PEG)9がより好ましく、BS(PEG)5がさらに好ましい。
【0026】
本開示に係るAβ架橋体に用いるAβは、ASPDに特異的な抗体に対する反応性をASPDに近づける観点から、Aβ38、Aβ39、Aβ40、Aβ41又はAβ42が挙げられ、Aβ40又はAβ42が好ましく、Aβ42がより好ましい。
【0027】
本開示に係るAβ架橋体の分子量は、一又は複数の実施形態において、10-20%SDSPAGEで分析される分子量として、100kDaを超え、又は、114kDaを超える。
【0028】
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDの細胞毒性、すなわち、機能的に成熟した神経細胞に選択的に細胞死を誘発する特性が、ASPDと同等であってもよく、或いは、ASPDよりも弱毒性であってもよく、或いは、細胞毒性を有していなくてもよく、或いは、ASPDと比べて毒性が高くてもよい。本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDよりも弱毒性であってもよく、或いは、細胞毒性を有していない。
【0029】
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性が、ASPD以外のAβ凝集体の反応性に比べて、ASPDの反応性に近く、より好ましくは、ASPDと同等な反応性である。
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質である。
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体に対する反応性の観点から、ASPDの代替物となりうる。
【0030】
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPD分析又はそのキットの標準物質となりうる。
本開示において、ASPDの分析は、一又は複数の実施形態において、ASPDの検出、測定、定量、及びそれらを利用するスクリーニングを含みうる。
本開示に係るAβ架橋体が標準物質として使用されるASPD分析としては、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体を使用する免疫測定法を利用した分析が挙げられ、より具体的には、ASPDに特異的な抗体を使用する酵素免疫測定法、化学発光・酵素免疫測定法が挙げられ、より具体的には、ASPDに特異的な抗体を使用するEnzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)やChemiluminescent Enzyme immunoassay(CLEIA)などが挙げられる。
一又は複数の実施形態において、本開示に係るAβ架橋体は、ASPD分析において検量線の作成に使用されうる。その他の一又は複数の実施形態において、本開示に係るAβ架橋体は、ASPD分析においてポジティブコントロールとして使用されうる。
【0031】
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDの蓄積を伴う疾病の診断におけるASPD分析の標準物質となりうる。ASPDの蓄積を伴う疾病としては、一又は複数の実施形態において、アルツハイマー病、及びレビー小体型認知症などが挙げられる。
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断におけるASPD分析又はそのキットの標準物質となりうる。本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断薬の一成分となりうる。
【0032】
よって、本開示は、その他の態様において、本開示に係るAβ架橋体を標準物質として含むASPD分析キットに関する。本態様に係るASPD分析キットは、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体を使用する免疫測定法に必要な試薬を含む。前記試薬としては、一又は複数の実施形態において、ASPDに特異的な抗体が挙げられる。
本態様に係るASPD分析キットは、一又は複数の実施形態において、ASPDの蓄積を伴う疾病の診断のためのASPD分析キット、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断のためのASPD分析キット、又は、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断薬である。
ASPDを標的とした治療薬としては、一又は複数の実施形態において、ASPDの蓄積を伴う疾病の予防、改善、及び/又は治療のための医薬組成物が挙げられる。
【0033】
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、免疫原性を有し、本開示に係るAβ架橋体に対する抗体の産生を誘導しうる。
また、本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、免疫原性を有し、ASPDに対する抗体の産生を誘導しうる。
よって、本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、ASPDに対する抗体を誘導できる観点から、ASPDの代替物となりうる。
【0034】
ASPDを、ASPDの蓄積を伴う疾病に対して能動ワクチンとして使用することはすでに開示されている(例えば、WO2017/179646)。
本開示に係るAβ架橋体はASPDの代替物となりうることから、本開示に係るAβ架橋体も、能動ワクチンとして使用でき、また、ワクチンの製造に使用できる。
【0035】
よって、本開示は、一態様において、本開示に係るAβ架橋体を有効成分とする医薬組成物に関する。本開示に係る医薬組成物の一又は複数の実施形態として、本開示に係るAβ架橋体を含むワクチンが挙げられる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、薬学的に許容される腑形剤及び/又はアジュバントを含んでもよい。
【0036】
本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、ASPDの蓄積を伴う疾病の予防、改善、及び/又は治療のために使用されうる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症の予防、改善、及び/又は治療のために使用されうる。
本開示に係る医薬組成物及びワクチンは、一又は複数の実施形態において、ASPDの蓄積を伴う疾病を罹患するおそれのある対象、罹患したおそれのある対象、又は、罹患した対象に投与されうる。本開示に係る医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症を罹患するおそれのある対象、罹患したおそれのある対象、又は、罹患した対象に投与されうる。該対象としては、哺乳類、ヒト、ヒト以外の哺乳類が挙げられる。
【0037】
本開示に係る医薬組成物及びワクチンをASPD、ASPDの蓄積を伴う疾病、又は、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症に対する免疫を対象に獲得させる一又は複数の実施形態について説明する。本開示に係る医薬組成物及びワクチンの投与法は、一又は複数の実施形態において、筋内、腹腔内、皮内若しくは皮下への注射、又は、口道、消化管、気道、尿生殖路への経粘膜投与が含まれうる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンにおけるAβ架橋体の投与量としては、投与対象に著しい副作用を及ぼすことなく免疫防御応答を誘発する量が挙げられる。本開示に係る医薬組成物及びワクチンの投与量は、一又は複数の実施形態において、細胞分泌型ASPD様構造体を0.01μg~10mg、0.1μg~1000μg、1μg~100μg、5μg~50μg、又は5μg~25μgの範囲で含むことになると量と見込まれる。初期投与に続いて、十分な間を置いて1回又は数回のブースター投与をしてもよい。
【0038】
したがって、本開示は一態様において、ASPDの蓄積を伴う疾病(例えば、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症)の予防、改善、及び/又は治療の方法であって、本開示に係るAβ架橋体又は本開示に係る医薬組成物若しくはワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
本開示は、その他の態様において、ASPDそれ自体に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、本開示に係るAβ架橋体又は本開示に係る医薬組成物若しくはワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
本開示は、さらにその他の態様において、ASPDの蓄積を伴う疾病に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、本開示に係るAβ架橋体又は本開示に係る医薬組成物若しくはワクチンを対象に投与することを含む方法に関する。
【0039】
また、本開示は、一態様において、本開示に係るAβ架橋体と、腑形剤及び/又はアジュバントとを組合せることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法に関する。
本開示は、その他の態様において、本開示に係るAβ架橋体を有効成分とする医薬組成物、又は、本開示に係るAβ架橋体を有するワクチンの製造方法であって、後述する製造方法により本開示に係るAβ架橋体を製造する工程を含む製造方法に関する。
【0040】
[Aβ架橋体の製造方法]
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、Aβが水性溶媒に溶解したAβ水溶液に、架橋剤を添加して架橋反応をさせることで得ることができる。
Aβは、ペプチド合成により調製してもよく、組み換え技術で生産してもよい。
添加する架橋剤の量は、一又は複数の実施形態において、Aβに対しモル換算で、10倍以上、20倍以上、又は30倍以上である。添加する架橋剤の量は、一又は複数の実施形態において、モル換算で、200倍以下、100倍以下、又は75倍以下である。
架橋反応後の架橋体は、さらに、限外ろ過に供してもよい。保持液又はフィルター残渣の回収液中に本開示に係るAβ架橋体を得ることができる。
限外ろ過フィルターの分子量カットオフ値(MWCO)としては、一又は複数の実施形態において、30kDa、50kDa、又は100kDaが挙げられる。
本開示に係るAβ架橋体は、一又は複数の実施形態において、実施例の記載の方法で製造できる。
【0041】
したがって、本開示は、以下の実施形態に関しうる;
[A1] Aβが、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤によって架橋されている、Aβ架橋体。
[A2] Aβが、スペーサーアームとして1以上13以下のEO基及び/又はPO基を有する架橋剤によって架橋されている、Aβ架橋体。
[A3] Aβが、Aβ38、Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、又はAβ43である、[A1]又は[A2]に記載のAβ架橋体。
[A4] 架橋剤が、アミノ基間を架橋する反応末端を有する架橋剤である、[A1]から[A3]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A5] 10-20%SDSPAGEで分析される分子量が100kDaを超える、[A1]から[A4]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A6] ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質である、[A1]から[A5]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A7] ASPD分析の標準物質である、[A1]から[A6]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A8] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断におけるASPD分析の標準物質である、[A1]から[A7]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A9] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断におけるASPD分析の標準物質である、[A1]から[A8]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[A10] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断薬の一成分である、[A1]から[A9]のいずれかに記載のAβ架橋体。
[B1] ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B2] ASPDに特異的な抗体に対するASPDの代替物としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B3] ASPD分析の標準物質としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B4] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断における、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B5] 前記診断が、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断である[B4]に記載の使用。
[B6] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断におけるASPD分析の標準物質としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B7] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[B6]に記載のAβ架橋体の使用。
[B8] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断におけるASPD分析の標準物質としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[B9] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断薬の一成分としての、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[C1] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を標準物質として含む、ASPD分析キット。
[C2] さらに、ASPDに特異的な抗体を含む、[C1]に記載のASPD分析キット。
[C3]ASPDの蓄積を伴う疾病の診断のための、[C1]又は[C2]に記載のASPD分析キット。
[C4] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[C3]に記載のASPD分析キット。
[C5]ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断のための、[C1]から[C4]のいずれかに記載のASPD分析キット。
[C6] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を標準物質として含む、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断薬。
[C7] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を標準物質として使用することを含む、ASPD分析方法。
[C8] ASPDに特異的な抗体を用いて免疫分析することを含む、[C7]に記載のASPD分析方法。
[C9] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断のための、[C7]又は[C8]に記載のASPD分析方法。
[C10] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[C9]に記載のASPD分析方法。
[C11] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断のための、[C7]から[C10]のいずれかに記載のASPD分析方法。
[C12] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断方法であって、[C7]から[C11]のいずれかに記載のASPD分析方法を行うことを含む、診断方法。
[C13] ASPDを標的とした治療薬が、ASPDの蓄積を伴う疾病の予防、改善、及び/又は治療のための医薬組成物である、[C12]に記載の診断方法。
[C14] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[C13]に記載の診断方法。
[D1] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を有効成分とする医薬組成物。
[D2] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を含むワクチン。
[D3] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の能動ワクチンとしての使用。
[D4] ワクチン製造における[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体の使用。
[D5] ワクチンは、ASPDの蓄積を伴う疾病に対するワクチンである、[D2]に記載のワクチン、又は、[D3]若しくは[D4]に記載の使用。
[D6] ASPDの蓄積を伴う疾病の予防、改善、及び/又は治療の方法であって、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体、[D1]に記載の医薬組成物、又は、[D2]に記載のワクチンを対象に投与することを含む、方法。
[D7] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[D6]に記載の方法。
[D8] ASPDに対する免疫を対象に獲得させる方法であって、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体、[D1]に記載の医薬組成物、又は、[D2]に記載のワクチンを対象に投与することを含む、方法。
[D9] ASPDの蓄積を伴う疾病に対する免疫を対象に獲得させる方法であって、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体、[D1]に記載の医薬組成物、又は、[D2]に記載のワクチンを対象に投与することを含む、方法。
[D10] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[D9]に記載の方法。
[D11] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体と、薬学的に許容される腑形剤とを組み合わせることを含む、医薬組成物又はワクチンの製造方法。
【0042】
[ASPDの分析方法]
本開示は、一態様において、下記の工程(1)及び(2)を含むASPDの分析方法(以下、「本開示に係るASPD分析方法」ともいう)に関する。
(1)不溶性担体に結合している、ASPDに結合可能な抗体(第1抗体)に、ASPDを含有している可能性がある生体由来試料を接触させて、ASPDが含有されている場合に第1抗体にASPDを結合させる工程。
(2)工程(1)で第1抗体に結合したASPDに、抗ASPDモノクローナル抗体(第2抗体)を反応させる工程。
ここで、第1抗体が、ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2、又は、モノクローナル抗体BAN50aであり、
第2抗体が、マウスモノクローナル抗ASPD抗体mASD3又はその標識化抗体である。
【0043】
本開示に係るASPD分析方法は、免疫測定法の原理を利用する方法であって、一又は複数の実施形態において、ELISAなどの酵素免疫測定法、CLEIAなどの化学発光酵素免疫測定法である。
【0044】
不溶性担体に結合させる第1抗体としては、一又は複数の実施形態において、血液、血漿成分、脳脊髄液又はそれらの希釈液を試料とした場合の検出感度を向上させる観点からhuASD2、又は、BAN50aが好ましい。
huASD2は、WO2009/057664に記載されるものであり、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列の重鎖可変領域及び、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の軽鎖可変領域を有するヒト化モノクローナル抗ASPD抗体である。
配列番号1:EVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYFMSWVRQAPGKGLEWVGGIEIKSYFYATYYFGSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLKTEDTAVYYCTTNREVGGLDNWGQGTLVTVSS
配列番号2:QSVLTQPSSLSASPGASASLTCTLRSGISVGGKNIYWYQQKPGSPPQYLLKYSSYSNKQLGPGVPSRFSGSKDASANAGILLISGLQSEDEADYYCSIHESNAYVFGGGTKLTVLGR
huASD2は、例えば、ASD2RHApG1D200(特許生物寄託センター受託番号:FERM BP-11040)ASD2RLApLN100(特許生物寄託センター受託番号:FERM BP-11041)を公知の動物細胞にコトランスフェクトし、発現させることにより得ることができる。
なお、一又は複数の実施形態において、本開示におけるhuASD2は、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の重鎖可変領域及び、配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列の軽鎖可変領域を有する抗ASPD抗体で代用できる。
配列番号3:EVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYFMSWVRQAPGKGLEWVXGIEIKSYFYATYYFGSVKGRFTISRDDSKNTXYLQMNSLKTEDTAVYYCTXNREVGGLDNWGQGTLVTVSS
配列番号4:QXVLTQPXSLSASPGASASLTCTLRSGISVGGKNIYWYQQKPGSPPQXXLXYSSYSNKQLGPGVPSRFSGSKDXSANAXILLISGLQSEDEADYYCSIHESNAYVFGGGTKLTVLG
(配列番号3において、第49位のXは、G又はAであり、第81のXは、L又はVであり、第100位のXは、T又はRである。配列番号4において、第2位のXは、S又はAであり、第8位のXは、S又はAであり、第48位のXは、Y又はFであり、第49位のXは、L又はFであり、第51位のXは、K又はF又はRであり、第74位のXは、A又はTであり、第79位のXは、G又はAである。)
本開示において、BAN50aは、国際公開WO94-17197号パンフレットに記載された、AβのN末端領域を特異的に認識する公知のモノクローナル抗体である。BAN50aは市販のものを使用でき、あるいは、特許生物寄託センターハイブリドーマBAN50(受託番号FERM BP4163)を用いて、公知の方法により製造することができる。
第2抗体は、一又は複数の実施形態において、検出感度を向上させる観点から、mASD3の標識化抗体が挙げられる。標識化としては、一又は複数の実施形態において、ビオチン化が挙げられる。
【0045】
本開示に係るASPD分析方法における不溶性担体としては、一又は複数の実施形態において、ビーズや、マルチウェルプレートなどの固相物が挙げられる。
ASPDを含有している可能性がある生体由来試料としては、一又は複数の実施形態として血液、血漿、及び脳脊髄液、ならびにそれらの希釈物が挙げられる。
本開示に係るASPD分析方法は、一又は複数の実施形態において、工程(1)の前に生体由来試料を調製する工程(0)を含んでもよい。この試料調製工程(0)は、一又は複数の実施形態において、血液、血漿、及び脳脊髄液などの生体試料を適当な溶媒又はバッファーに希釈することを含む。また、この試料調製工程(0)は、一又は複数の実施形態において、前記溶媒又はバッファーは、分析を妨げない範囲で、界面活性剤やその他の薬剤を含んでもよい。
【0046】
本開示に係るASPD分析方法は、一又は複数の実施形態において、さらに下記の工程(3)を含んでいてもよい。
(3)工程(2)でASPDに結合した第2抗体に、レポーターが連結した抗マウス抗体を反応させる工程、又は、工程(2)でASPDに結合した第2抗体の標識に、レポーターが連結した前記標識の結合パートナーを反応させる工程。
レポーターとしては、一又は複数の実施形態において、化学発光や生物発光を利用する物質、蛍光タンパク質などが挙げられ、検出感度を向上させる観点からは化学発光や生物発光を利用する物質が好ましい。
化学発光や生物発光を利用する物質としては、一又は複数の実施形態において、生物発光酵素やその改変体などの酵素が挙げられる。
前記酵素としては、一又は複数の実施形態において、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、及び、アルカリフォスファターゼなどが挙げられる。
前記結合パートナーとしては、一又は複数の実施形態において、標識がビオチンである場合、ストレプトアビジン等が挙げられる。
発光の測定は、一又は複数の実施形態において、ルミノメーターやマルチプレートリーダーで行うことができる。
【0047】
本開示に係るASPD分析方法は、一又は複数の実施形態において、本開示に係るAβ架橋体を標準物質として使用してもよい。
【0048】
したがって、本開示は、以下の実施形態に関しうる;
[E1] 下記の工程(1)及び(2)を含むASPDの分析方法。
工程(1)不溶性担体に結合している、ASPDに結合可能な抗体(第1抗体)に、ASPDを含有している可能性がある生体由来試料を接触させて、ASPDが含有されている場合に第1抗体にASPDを結合させる工程。
工程(2)工程(1)で第1抗体に結合したASPDに、抗ASPDモノクローナル抗体(第2抗体)を反応させる工程。
ここで、第1抗体が、ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2、又は、モノクローナル抗体BAN50aであり、
第2抗体が、マウスモノクローナル抗ASPD抗体mASD3又はその標識化抗体である。
[E2] 免疫測定法の原理を利用する方法である、[E1]に記載の分析方法。
[E3] 免疫測定法の原理を利用する方法が、ELISA又はCLEIAである、[E2]に記載の分析方法。
[E4] 生体由来試料が、血液、血漿成分、脳脊髄液又はそれらの希釈液である、[E1]から[E3]のいずれかに記載の分析方法。
[E5] 工程(1)の前に生体由来試料を調製する工程(0)を含む、[E1]から[E4]のいずれかに記載の分析方法。
[E6] 試料調製工程(0)は血液、血漿、及び脳脊髄液からなる群から選択される生体試料を溶媒又はバッファーに希釈することを含む、[E5]に記載の分析方法。
[E7] さらに、下記の工程(3)を含む、[E1]から[E6]のいずれかに記載の分析方法。
工程(3)工程(2)でASPDに結合した第2抗体に、レポーターが連結した抗マウス抗体を反応させる工程、又は、工程(2)でASPDに結合した第2抗体の標識に、レポーターが連結した前記標識の結合パートナーを反応させる工程。
[E8] ASPDの標準物質として後記[1]に記載の物質を使用する、[E1]から[E7]のいずれかに記載の分析方法。
[E9] [A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を標準物質として使用することを含む、[E1]から[E7]のいずれかに記載の分析方法。
[E10] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断のための、[E1]から[E9]のいずれかに記載の分析方法。
[E11] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[E10]に記載の分析方法。
[E12] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断のための、[E1]から[E11]のいずれかに記載の分析方法。
[E13] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断方法であって、[E1]から[E12]のいずれかに記載の分析方法を行うことを含む、診断方法。
[E14] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[E13]に記載の診断方法。
[E15] ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断方法であって、[E1]から[E12]のいずれかに記載の分析方法を行うことを含む、診断方法。
[E16] ASPDを標的とした治療薬が、ASPDの蓄積を伴う疾病の予防、改善、及び/又は治療のための医薬組成物である、[E15]に記載の診断方法。
[E17] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[E16]に記載の診断方法。
[F1] ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2又はモノクローナル抗体BAN50a(第1抗体)と、マウスモノクローナル抗ASPD抗体mASD3又はその標識化抗体(第2抗体)とを含む、ASPD分析キット。
[F2] さらに、[A1]から[A10]のいずれかに記載のAβ架橋体を含む、[F1]に記載のASPD分析キット。
[F3] [E1]から[E12]のいずれかに記載の分析方法又は[E13]から[E17]のいずれかに記載の診断方法のための、[F1]又は[F2]に記載のASPD分析キット。
【0049】
本開示は、以下の実施形態に関しうる;
[1] ASPDに特異的な抗体に対してASPDと競合する物質であって、Aβが架橋剤によって架橋された物質であり、前記架橋剤は、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のEO基及び/又はPO基を有する架橋剤である、物質。
[2] Aβの架橋体であって、Aβが、スペーサーアーム長が4Å以上50Å以下である架橋剤、又は、スペーサーアームとして1以上13以下のEO基及び/又はPO基を有する架橋剤によって架橋されている架橋体。
[3] [1]に記載の物質又は[2]に記載の架橋体と、抗ASPD抗体とを含む、ASPDを分析するためのキット。
[4] ASPD分析における、[1]に記載の物質又は[2]に記載の架橋体の標準物質としての使用。
[5] ASPDの蓄積を伴う疾病の診断における、[1]に記載の物質又は[2]に記載の架橋体の標準物質としての使用。
[6] 前記診断が、ASPDを標的とした治療薬のコンパニオン診断である、[5]に記載の使用。
[7] ASPDの蓄積を伴う疾病が、アルツハイマー病及び/又はレビー小体型認知症である、[5]又は[6]に記載の使用。
[8] 下記の工程:
(1)不溶性担体に結合している、ASPDに結合可能な抗体(第1抗体)に、ASPDを含有している可能性がある生体由来試料を接触させて、ASPDが含有されている場合に第1抗体にASPDを結合させる工程;及び
(2)工程(1)で第1抗体に結合したASPDに、抗ASPDモノクローナル抗体(第2抗体)を反応させる工程
を含み、
第1抗体が、ヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2、又は、モノクローナル抗体BAN50aであり、
第2抗体が、マウスモノクローナル抗ASPD抗体mASD3又はその標識化抗体である、ASPDの分析方法。
[9] さらに、下記の工程:
(3)工程(2)でASPDに結合した第2抗体に、レポーターが連結した抗マウス抗体を反応させる工程、又は、工程(2)でASPDに結合した第2抗体の標識に、レポーターが連結した前記標識の結合パートナーを反応させる工程
を含む、[8]に記載の分析方法。
[10] ASPDの標準物質として[1]に記載の物質又は[2]に記載の架橋体を使用する、[8]又は[9]に記載の分析方法。
【0050】
以下に、実施例を用いて本発明の一又は複数の実施形態をさらに説明する。
【実施例】
【0051】
以下の実施例において、Aβ架橋体及びASPDの濃度は、特に言及がない場合、Aβモノマー換算である。
【0052】
1.Aβ架橋体の調製
下記のAβ架橋体1-3を調製した。
Aβ架橋体1:Aβ42、架橋剤は、BS(PEG)5
Aβ架橋体2:Aβ42、架橋剤は、BS(PEG)9
Aβ架橋体3:Aβ42、架橋剤は、DFDNB
使用した架橋剤は、以下の通り。
BS(PEG)5:Bis(succinimidyl) penta(ethylene glycol)
(スペーサーアーム長:21.7Å)
BS(PEG)9:Bis(succinimidyl) nona(ethylene glycol)
(スペーサーアーム長:35.8Å)
DFDNB:1,5-difluoro-2,4-dinitorobenzene
(スペーサーアーム長:3.0Å)
【0053】
【0054】
Aβ架橋体のプロトコール
Aβ42 0.56mgを120μL DMSOで溶解(1mM)
↓
10μLを90μL PBS(-)に添加後25℃、15分静置(Aβとして100μM、0.046667mgに相当)
↓
架橋試薬BS(PEG)5,BS(PEG)9,又はDFDNBを50倍モル添加後、25℃、30分静置
↓
Tris-HCl pH8.0を添加(終濃度50mM)、25℃、30分静置
↓
MWCO50Kの限外ろ過フィルターでフィルター処理して、高分子画分を得る
PBS(-)300μL洗浄x3
メンブレン残渣を50μLのPBS(-)で回収
↓
BCA法で濃度測定
【0055】
2.Aβ架橋体のSDSPAGE
得られたAβ架橋体1~3を用いてSDSPAGE(10-20%Gel)を行い、架橋されていることを確認した。その結果の一例を
図1に示す。
図1に示す通り、Aβ架橋体1~3は、それぞれ、高分子化しており、分子量は100kDa以上であると認められた。
【0056】
3.Aβ架橋体のASPD CLEIA反応性
得られたAβ架橋体1~3のASPD CLEIA反応性を確認した。
使用したASPD CLEIAは、
図2に示すシステムであり、固相に固定化した抗ASPDポリクローナル抗体(第一抗体)、検出側のマウス抗ASPDモノクローナル抗体mASD3(第二抗体)、及び抗マウスIgG-HRPを使用するシステムである。mASD3は、WO2006/016644及びWO2009/057664に記載されるモノクローナル抗体であって、ハイブリドーマは特許生物寄託センターに寄託されている(寄託番号は、FERM BP-10394)。HRPは、ホースラディッシュペルオキシダーゼを表す。
Aβ架橋体1~3を被検体としたASPD CLEIA[抗ASPDポリクローナル抗体/mASD3]の反応性を、ASPDを被検体とした時と比べた結果の一例を
図3に示す。
図3に示す通り、Aβ架橋体1及び2は、Aβ架橋体3に比べてASPDの反応性に近かった。なかでも、Aβ架橋体1は、ASPDと同等の反応性を示した。
【0057】
Aβ架橋体の反応性比較(続き)
次に、AβのN末端を特異的に認識するモノクローナル抗体82E1を使用する市販のAβオリゴマー測定キットを用いてAβ架橋体の反応性を比較した。
被検体として、Aβ架橋体1、ASPD、及びAβ1-16ダイマーを使用した。
また、ASPD CLEIA[抗ASPDポリクローナル抗体/mASD3]におけるAβ架橋体1、ASPD、及びAβ1-16ダイマーの反応性を比較した。
その結果の一例を
図4に示す。
図4に示すとおり、ASPD CLEIAと同様に、市販のAβオリゴマー測定キットにおいても、Aβ架橋体1は、ASPDと同等の反応性を示した。
82E1を使用する市販のAβオリゴマー測定キットでは、Aβ架橋体1及びASPDは、Aβ1-16ダイマーと比較して著しく反応性が弱かった。
反対に、ASPD CLEIAにおいては、Aβ1-16ダイマーの反応性は、Aβ架橋体1及びASPDと比べて著しく反応性が弱かった。
また、ASPD CLEIAは、Aβ架橋体1及びASPDに対して特性が高い検出感度を有していることが認められた。
【0058】
4.Aβ架橋体の免疫原性
ウサギ(ニュージーランドホワイト)に、フロイントアジュバント(FCA、初回)、不完全フロイントアジュバント(FIA、5回)のアジュバンドとともにAβ架橋体1の免疫(100μg/回)を6回行い、その後、全採血を行い、血清中の抗体のAβ架橋体1及び合成ASPDに対する反応性の評価を行った。その結果の一例を
図5に示す。
図5において、「pre血清」は、免疫前の血清のAβ架橋体1固相化プレートに対する反応性を示し、「固相化Aβ架橋体」は、得られた血清のAβ架橋体1固相化プレートに対する反応性を示し、「固相化合成ASPD」は、得られた血清の合成ASPD固相化プレートに対する反応性を示し、「control」は、得られた血清のF12タンパク質固相化プレートに対する反応性を示し、「Empty」は、得られた血清の空プレートに対する反応性を示す。
図5の結果から、Aβ架橋体1は、免疫原性があり、ASPDに反応する抗体を誘導できることが示された。
【0059】
5.脳脊髄液(CSF)中のASPDの測定
ASPD CLEIAシステム[抗ASPDポリクローナル抗体/mASD3]で、ヒトCSF検体中のASPDの測定を行った。具体的には以下のフローで行った。
(1)CSFに既知濃度ASPDを添加し、検体希釈液で希釈(1~16倍希釈)。
(2)一次反応:ウサギ抗ASPDポリクローナル抗体を固定化したマルチウェルプレートに100μL/ウェルで添加し、25℃60分静置。
洗浄×3
(3)二次反応:mASD3(1μg/ml)を100μL/ウェルで添加し、25℃60分静置。
洗浄×3
(4)三次反応:抗マウスIgG-HRP(1/20000)を100μL/ウェルで添加し、25℃60分静置。
洗浄×3
(5)測定:HRPの化学発光基質(商品名:SuperSignal pico、ThermoFisher社製)を100μL/ウェルで添加し、プレートリーダー(商品名:infinite M200pro、TECAN社製)で発光を測定。
測定用のスタンダードには、Aβ凝集体1又は細胞分泌型ASPD様構造体(WO2017/179646)を用いた。
検体希釈液には、3%BSA in PBS(-) 0.05%防腐剤(商品名:プロクリン、シグマアルドリッチ社製)を用いた。
洗浄液には、PBS(-) 0.05% Tween20を用いた。
【0060】
ヒトCSF(Age84/Caucasian/M)に既知濃度ASPDを添加し(高濃度H:108pM、中濃度M:54pM、低濃度L:27.5pM、なしN:0pM)、4倍希釈して定量した結果の一例を下記表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示すように、ほぼ100%の回収率があった。なお、ヒトCSF(Age66/Caucasian/M)及びヒトCSF(Age69/Caucasian/M)を使用した場合も同様の結果が得られた。
次に、ヒトCSFにASPDをスパイクしたサンプルを検体希釈液で2倍、4倍、8倍に希釈し、希釈率が1倍、1/2、1/4、及び1/8であるサンプルを測定した結果を
図6に示す。
図6に示すように、希釈サンプルの結果をプロットした結果、希釈直線性が得られた。
【0063】
6.ヒト血漿中のASPDの測定
ASPD CLEIA[抗ASPDポリクローナル抗体/mASD3]で、ヒト血漿検体中のASPDの測定を行った。具体的には以下のフローで行った。
(1)ヒト血漿に既知濃度ASPDを添加し、検体希釈液で希釈(1~16倍希釈)。
(2)一次反応:ウサギ抗ASPDポリクローナル抗体を固定化したマルチウェルプレートに100μL/ウェルで添加し、25℃60分振とう。
洗浄×3
(3)二次反応:mASD3(1μg/ml)を100μL/ウェルで添加し、25℃60分振とう。
洗浄×3
(4)三次反応:抗マウスIgG-HRP(1/20000)を100μL/ウェルで添加し、25℃60分振とう。
洗浄×3
(5)測定:HRPの化学発光基質(商品名:SuperSignal pico、ThermoFisher社製)を100μL/ウェルで添加し、プレートリーダー(商品名:infinite M200pro、TECAN社製)で発光を測定。
測定用のスタンダードには、Aβ凝集体1又は細胞分泌型ASPD様構造体(WO2017/179646)を用いた。
検体希釈液には、3%BSA in PBS(-) 0.05%防腐剤(商品名:プロクリン、シグマアルドリッチ社製)を用いた。
洗浄液には、PBS(-) 0.05% Tween20を用いた。
【0064】
ヒト血漿(Age29/Caucasian/F)に既知濃度ASPDを添加し、3%BSA PBS(-)で4倍希釈して定量した結果の一例を下記表2に示す。
【0065】
【0066】
表2に示すように、ヒトCSFに変えてヒト血漿を用いてもASPDを測定できた。しかし、回収率が半分程度であった。血漿成分の影響であると考えられる。
次に、ヒト血漿にASPDをスパイクしたサンプルを検体希釈液で2倍、4倍、8倍、16倍に希釈し、希釈率が1倍、1/2、1/4、1/8、及び1/16であるサンプルを測定した結果を
図7に示す。
図7に示すように、希釈サンプルの結果をプロットした結果、希釈直線性が得られた。しかし、バッファーに比べて傾きが1/2になった。血漿成分の影響であると考えられる。
なお、ヒト血漿試料における回収率への影響は、試料の希釈率を1/16とすると解消できた。
【0067】
7.ASPD CLEIA[huASD2/mASD3]
固相に固定化する抗体としてヒト化抗ASPDモノクローナル抗体huASD2を使用し、マウス抗ASPDモノクローナル抗体mASD3、及び抗マウスIgG-HRPを使用したASPD CLEIAでASPDを測定した(
図8)。
huASD2はWO2009/057664に記載されるものである。
その結果の一例を
図9に示す。
図9に示すとおり、4回の独立したASPD測定を実施したところ、ほぼ同じ発光値が得られた。
【0068】
8.ASPD CLEIA[huASD2/ビオチン化mASD3]
ASPDの検出感度を向上させるため、mASD3抗体をビオチン化し、ストレプトアビジン(SA)が結合したHRPを使用するシステムを構築した(
図10)。
huASD2/ビオチン化mASD3システムでASPDを測定したところ、huASD2/mASD3のシステムに比べて検出感度が向上した(
図11)。
また、huASD2/ビオチン化mASD3システムは、ASPDに対する特性が高く、Aβ1-10が16分子結合したマルチ抗原ペプチド(MAP16、富士フィルム和光社製)をほとんど検出しなかった(
図12)。一方、コントロールとしてBAN50/ビオチン化BAN50システム(高分子アミロイドβオリゴマーELISAキット、富士フィルム和光社製)で測定したところ、同システムは、MAP16を感度よく検出したが、ASPDをほとんど検出できなかった(
図12)。
【0069】
9.血漿の影響を低減できる抗体の組み合わせ
固定化する第一抗体と、検出側の第二抗体の組み合わせの中から、血漿の影響を低減できる組み合わせを見出した。
下記の[第一抗体/第二抗体]の組み合わせでASPD CEILAのシステムを構築し、血漿試料中のASPDを測定した。
[第一抗体/第二抗体]の組み合わせとしては、[huASD2/ビオチン化mASD3]、[mASD3/ビオチン化mASD3]、[82E1/ビオチン化mASD3]、[BAN50a/ビオチン化mASD3]、及び[6E10/ビオチン化mASD3]を採用した。サンプルとしては、ASPDを含有する希釈率1/4の血漿サンプルを準備し、バッファーサンプルと比較した。
その結果の一例を
図13に示す。
図13に示す通り、[BAN50a/ビオチン化mASD3]の組み合わせの場合に、血漿成分の影響をもっとも効果的に回避できることが確認された。
【0070】
10.AD患者の血液試料を用いた測定
アルツハイマー病(AD)と診断された患者の血漿サンプル10例(○)と、健常者の血漿サンプル10例(△)に対して、[huASD2/ビオチン化mASD3]の組み合わせでASPD CLEIAを行った。その結果、AD患者の4例についてASPDが検出された。その結果を
図14に示す。
以上のこれら結果から、ASPD CLEIAによって血液中のASPDを測定することが可能であることが示された。
【配列表】