(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】加工方法、工作機械、切削工具及び切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20231110BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20231110BHJP
B23Q 1/52 20060101ALI20231110BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20231110BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20231110BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20231110BHJP
B23C 5/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
B23B1/00 N
B23B19/02 E
B23Q1/52
B23Q17/22 Z
B23Q17/09 H
B23B27/00 A
B23C5/02
(21)【出願番号】P 2022086411
(22)【出願日】2022-05-26
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】星 良夫
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123552(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087496(WO,A1)
【文献】特表2020-536749(JP,A)
【文献】特開2007-319986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00
B23B19/02
B23B27/00
B23B51/02
B23C 5/02
B23Q 1/52
B23Q17/22
B23Q17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象と切削工具とを相対移動させて切削加工する工作機械であって、
前記加工対象、又は、前記切削工具の少なくとも何れか一方の姿勢を変更する姿勢変更装置と、
第1曲線部と、前記第1曲線部に連続して形成され、前記第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、前記第1曲線部と前記第2曲線部とを接続する接続部と、を有する切削部を備える前記切削工具が、前記接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めして切削加工するように、前記姿勢変更装置を作動させる制御装置と、
を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記姿勢変更装置は、前記切削工具を取り付ける主軸、又は、前記加工対象を取り付ける加工対象取付部の少なくとも何れか一方に配置される、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記接続部の位置を検出することができる位置検出手段をさらに備える、
請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
切削加工時の負荷を検出することができる負荷検出手段をさらに備える、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項5】
上面と、下面と、側面と、を有する板状に形成され、切削加工において切削工具に固定するための被固定部を備える、切削インサートであって、
前記側面に沿って形成された第1曲線部と、前記第1曲線部に連続して形成され、前記第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、前記第1曲線部の一方の端部と前記第2曲線部とを接続する接続部と、前記第1曲線部の他方の端部の側に形成された横切れ刃と、を有するコーナ部を備え、
前記接続部が切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置するように位置決めをして切削加工し、前記上面又は前記下面の側から見て、前記第1曲線部の曲率中心と前記第2曲線部の曲率中心とを結ぶ線と前記横切れ刃とがなす角度が横切れ刃角となることを特徴とする切削インサート。
【請求項6】
前記コーナ部は、前記第1曲線部の他方の端部において連続して形成され、前記第2曲線部と同じ形状の第3曲線部を有する、
請求項5に記載の切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法、工作機械、切削工具及び切削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工の仕上げ用工具としてサライ刃付きチップやワイパーチップ等がよく知られているが、これらを使用した場合には、加工対象、すなわち被削材との接触部分が広くなるため発熱しやすくなる。そこで、例えば、ISO標準チップを使用して、そのノーズ部の接触部分内で加工することが考えられるが、切削抵抗を低減し、かつ、発熱を抑制する一方で表面粗さの悪化を招く可能性がある。
【0003】
特許文献1には、ノーズ部の形状を、横切り刃に接するノーズ部と前切り刃に接するノーズ部の2部分に分割し、かつ、横切り刃に接するノーズ部の曲率半径よりも前切り刃に接するノーズ部の曲率半径を大きくし、2個のノーズ部の曲率中心を結ぶ直線が横切り刃と平行になる切削工具が開示されている。しかしながら、横切れ刃と平行にするためには前切れ刃に接するノーズ部を長くする必要があるため、例えば、ISO標準チップにこのようなノーズ部を形成することが困難になる場合がある。
【0004】
また、特許文献2には、タレット軸の先端に取り付けられた切削工具を加工面に対して常に同じ刃先位置、すなわち同じ切削角度で切削できる切削工機が開示されている。しかしながら、切削抵抗の増加を抑制できたとしても表面粗さの悪化を招く場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭55-165701号公報
【文献】実開2002-254273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑み、切削抵抗の増加を抑制すると共に表面粗さを好適にすることができる加工方法、工作機械、切削工具及び切削インサートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、加工対象と切削工具を相対移動させて切削加工する加工方法であって、第1曲線部と、第1曲線部に連続して形成され、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、第1曲線部と第2曲線部とを接続する接続部と、を有する切削部を備えた切削工具を用いて、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めして切削加工することを特徴とする加工方法が提供される。
【0008】
また、本発明の一の態様によれば、加工対象と切削工具とを相対移動させて切削加工する工作機械であって、加工対象、又は、切削工具の少なくとも何れか一方の姿勢を変更する姿勢変更装置と、第1曲線部と、第1曲線部に連続して形成され、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、第1曲線部と第2曲線部とを接続する接続部と、を有する切削部を備える切削工具が、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めして切削加工するように、姿勢変更装置を作動させる制御装置と、を備えることを特徴とする工作機械が提供される。
【0009】
さらに、本発明の一の態様によれば、切削加工に用いられる切削工具であって、一方の端部において工作機械に取り付けられるシャンク部を有する基部と、基部の他方の端部に取り付けられる工具部と、工具部に配置され、第1曲線部と、第1曲線部に連続して形成され、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、第1曲線部と第2曲線部とを接続し工具部の先端に位置する接続部と、を有する切削部と、を備えることを特徴とする切削工具が提供される。
【0010】
また、本発明の一の態様によれば、上面と、下面と、側面と、を有する板状に形成され、切削加工において切削工具に固定するための被固定部を備える、切削インサートであって、側面に沿って形成された第1曲線部と、第1曲線部に連続して形成され、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部と、第1曲線部の一方の端部と第2曲線部とを接続する接続部と、第1曲線部の他方の端部の側に形成された横切れ刃と、を有するコーナ部を備え、接続部が切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置するように位置決めをして切削加工し、上面又は下面の側から見て、第1曲線部の曲率中心と第2曲線部の曲率中心とを結ぶ線と横切れ刃とがなす角度が横切れ刃角となることを特徴とする切削インサートが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一の態様に係る加工方法によると、第1曲線部によって加工対象を加工した後に、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部によって加工することで、加工面のカスプ高さを低くすることができる。このため、加工後の加工対象の表面粗さを好適にすることができる。また、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めする、すなわち、接続部が加工対象の加工面に接するように位置決めして切削加工することによって、切削工具と加工対象の加工面との接触部分が広くなることを抑制することができる。このため、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0012】
本発明の一の態様に係る工作機械によると、第1曲線部によって加工対象を加工した後に、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部によって加工することで、加工面のカスプ高さを低くすることができる。このため、加工後の加工対象の表面粗さを好適にすることができる。また、工作機械は、姿勢変更装置と、これを制御するための制御装置とを備える。このため、制御装置が姿勢変更装置を作動することによって、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めする、すなわち、接続部が加工対象の加工面に接するように加工対象、又は、切削工具の少なくとも何れか一方の姿勢を変更することができる。これによって、切削工具と加工対象の加工面との接触部分が広くなることを抑制することができるため、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0013】
本発明の一の態様に係る切削工具によると、工具部に配置された切削部の第1曲線部によって加工対象を加工した後に、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部によって加工することで、加工対象の加工面のカスプ高さを低くすることができる。このため、加工後の加工対象の表面粗さを好適にすることができる。また、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めする、すなわち、接続部が加工対象の加工面に接するように位置決めして切削加工することによって、切削工具と加工対象の加工面との接触部分が広くなることを抑制することができる。このため、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0014】
本発明の一の態様に係る切削インサートによると、コーナ部の第1曲線部によって加工対象を加工した後に、第1曲線部よりも曲率の小さい第2曲線部によって加工することで、加工対象の加工面のカスプ高さを低くすることができる。このため、加工後の加工対象の表面粗さを好適にすることができる。また、接続部を切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めする、すなわち、接続部が加工対象の加工面に接するように位置決めして切削加工することによって、切削工具と加工対象の加工面との接触部分が広くなることを抑制することができる。このため、切削抵抗の増加を抑制することができる。さらに、第1曲線部の曲率中心と第2曲線部の曲率中心とを結ぶ線と横切れ刃とがなす角度を横切れ刃角とすることができるため、第1曲線部及び第2曲線部の長さ寸法及び曲率半径を設定する自由度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る工作機械の側面図を示す。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る切削工具の側面図を示す。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る切削インサートの斜視図を示す。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るコーナ部の平面図を示す。
【
図5】
図5は、工作機械による旋削加工の説明図を示す。
【
図6】
図6は、切削インサートによる切削加工の説明図を示す。
【
図7】
図7は、工作機械が姿勢変更することによるテーパ旋削加工の説明図を示す。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る切削工具の側面図を示す。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係るコーナ部の側面図を示す。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る工作機械による旋削加工の説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る加工方法、工作機械、切削工具及び切削インサートを説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0017】
(第1実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1には、第1実施形態に係る工作機械の側面図を示す。本実施形態に係る工作機械10は、切削工具11と回転する加工対象としてのワークWとを相対移動方向としての送り方向DRに沿って相対移動させて旋削加工するための工作機械10である。工作機械10は、工場の床面に固定された基台としてのベッド12を備える。また、工作機械10は、ベッド12の上方側における左右方向、すなわち、Y軸方向の左側(
図1における左側)に配置され、取付けられたワークWを回転させる加工対象取付部としてのワーク主軸16と、ベッド12のY軸方向右側(
図1における右側)の上面に立設し、固定されたコラム14と、を備える。
【0018】
コラム14の前面側、すなわちY軸方向左側には、切削工具11をY軸方向及びZ軸方向に沿って移動させるためのサドル18が配置されている。これによって、切削工具11とワーク主軸16とを送り方向DRであるX軸方向及びZ軸方向に沿って相対移動させることができる。また、工作機械10は、切削工具11とワーク主軸16とを送り方向DRであるY軸方向に沿って相対移動させるためのY軸送り装置(図示省略)を備える。
【0019】
サドル18の前面側、すなわちY軸方向左側には、X軸方向に沿って延在する回転軸20aを有する姿勢変更装置20が配置されており、回転軸20aには、切削工具11を取り付けるための工具主軸22が連結されている。姿勢変更装置20は、これに連結された工具主軸22を回転軸20a回りに回動可能に構成されている。このため、工具主軸22に取り付けられた切削工具11をY軸方向及びZ軸方向に対して傾斜させることができる。これによって、切削工具11が切削加工時にワークWと当接する部分、すなわち後述する接続部40b(
図3参照)の位置を調整することができる。なお、姿勢変更装置20は、サドル18との間に、回転軸20aと直交しY軸に平行である別の回転軸をさらに備えていてもよい。これによって、切削工具主軸22の姿勢をより自由に変更することができる。
【0020】
なお、以下の説明では、姿勢変更装置20は、切削工具11を取り付ける工具主軸22と連結されているとして説明するが、これに限らず、ワークを取り付けるワーク主軸と連結されてもよく、工具主軸及びワーク主軸の両方とそれぞれ連結されてもよい。
【0021】
図2に示されるように、工具主軸22(
図1参照)に取り付けられた切削工具11は、一方の端部、すなわち工具主軸22側の端部においてこれに取り付けられるシャンク部24を有する基部23と、基部23の他方の端部、すなわち工具主軸22と反対側の端部に取り付けられた工具部26と、を有する。工具部26は、基部23に取り付けられる工具取付部26bと、工具取付部26bに連結された棒形状の軸部26aと、を有する。軸部26aの先端部には、ワークWを切削加工するための切削部としての切削インサート28がねじ固定で取り付けられている。なお、ここでは、切削工具11の切削部として切削インサート28がねじ固定で取り付けられているとして説明するが、これに限らず、切削部は、軸部と一体、又は、銀ロウ付け等の他の態様で取り付けられてもよい。
【0022】
図1に示されるように、工作機械10は、姿勢変更装置20と電気的に接続された制御装置30を備える。制御装置30は、姿勢変更装置20を作動させることによって、これに連結された工具主軸22の回動、すなわち切削工具11の姿勢を変えることができる。また、工作機械10は、切削工具11、ワーク主軸16及び制御装置30と電気的に接続され、切削加工時における切削工具11の負荷を検出することができる負荷検出手段32を有する。
【0023】
負荷検出手段32は、例えば、ワーク主軸16に配置され、ワークWを回転させる図示しないモータと電気的に接続されており、モータのトルク又は電流値を検出可能に構成されている。このため、制御装置30は、負荷検出手段32によって検出されたトルク又は電流値が所定の閾値を超えて、ワーク主軸16の負荷が高いと判断される場合には、切削インサート28の位置が適切でないと推定し、姿勢変更装置20、サドル18及びY軸送り装置を作動させて、切削工具11の姿勢を変更する。これによって、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0024】
なお、以下において、負荷検出手段32は、ワーク主軸16に配置されたモータのトルク又は電流値を検出するものとして説明するが、これに限らない。負荷検出手段は、例えば、切削工具を回転させる場合には、切削工具を回転させるためのモータのトルク又は電流値を検出するように構成されてもよく、ワーク主軸及び切削工具の両方を回転させる場合には、これらの両方にそれぞれ配置されたモータのトルク又は電流値を検出するように構成されてもよい。
【0025】
工作機械10のワーク主軸16側には、切削インサート28、具体的には、接続部40bの位置を検出することができる位置検出手段34が配置されている。位置検出手段34は、例えば、カメラ等の撮像手段や位置センサ等によって工作機械10における接続部40bの位置を検出することができる。これによって、切削工具11及び切削インサート28の製造誤差やこれらの取付け誤差等も考慮した上で、実際の接続部40bの位置を正しく把握することができる。なお、これに限らず、工作機械は、例えば、工具データ管理部において切削工具及び切削インサートの寸法情報を記録、管理しておき、この寸法情報に基づいて接続部の位置を検出してもよい。
【0026】
図3には、切削インサート28の斜視図を示す。ここでは、切削インサート28は、上面28aと、下面28bと、上面28aの外周と下面28bの外周とを接続する側面28cと、を有する三角板状に形成されている。このため、切削インサート28は、3箇所にコーナ部40を有する。なお、これに限らず、切削インサートは、例えば、矩形板、多角形板状に形成されて4箇所以上のコーナ部を有してもよい。また、切削インサート28の中央部には、切削工具11の軸部26aに固定するための被固定部としての穴42が形成されている。なお、ここでは、切削インサート28は切削工具11の軸部26aのねじ穴にねじ部品で固定されているものとして説明するが、これに限らず、切削インサートは、軸部に形成されたクランプ爪で上面や一方の側面を押圧し、下面や他方の側面を座面とすることによって軸部に固定されてもよい。
【0027】
図4には、切削インサート28のコーナ部40を示す。コーナ部40は、側面28cに沿って形成された第1曲線部40aと、第1曲線部40aに連続して形成され、第1曲線部40aよりも曲率の小さい第2曲線部40cと、第1曲線部40aの一方の端部と第2曲線部40cとを接続する接続部40bと、を有する。また、コーナ部40は、第1曲線部40aの接続部とは反対側の端部において上面28a又は下面28bの側からの平面視で直線状に形成された、横切れ刃44を有する。また、第2曲線部40cの接続部40bと反対側の端部に連続するように、前切れ刃46が直線状に形成されている。
【0028】
コーナ部40の寸法は、次のようにして設定される。はじめに、加工用途に応じて、前切れ刃角α、刃先角β、第1曲線部40aの曲率半径R1、第2曲線部40cの曲率半径R2を決定する。つぎに、第2曲線部40cの長さ寸法並びに第2曲線部40cと前切れ刃46との接点を決定する。最後に、第2曲線部40cの長さ寸法から第2曲線部40cの端点、すなわち、第1曲線部40aと第2曲線部40cとの接続部40bが定まる。接続部40bにおいて第2曲線部40cに引いた垂線と第2曲線部40cよりも曲率半径が短い第1曲線部40aの曲率半径R1とによって第1曲線部40aの曲率中心C1が定まる。これによって、連続した第1曲線部40aと第2曲線部40cとを組み合わせた複合ノーズを有するコーナ部40を形成することができる。このようにして設定された第1曲線部40a及び第2曲線部40cの寸法とコーナ部40の処理長さXとは、以下の関係を満たす。
a=(R2-R1)×sinα (1)
b=R1/sinβ (2)
c=[R2-{(R2-R1)×cosα}]/tanβ (3)
X=a+b+c (4)
【0029】
ここで、一般的な切削インサート28の場合、第2曲線部40cの曲率半径R2は、10mm以下に設定することが好適である。なお、これに限らず、ワークの寸法や加工目的に応じて第2曲線部の曲率半径を10mm以上に設定してもよい。
【0030】
切削インサート28は、接続部40bが切削工具11の軸方向の先端に位置するように軸部26aに取り付けられる。これによって、接続部40bが切削加工時の送り方向DRと直交する切り込み方向の先端に位置するように、すなわち接続部40bがワークWの加工面MSに当接するように位置決めをして切削加工することができる。また、このように軸部26aに取り付けられた切削インサート28の前切れ刃角αは、所期の前切れ刃角αに設定することができる。さらに、接続部40bが切削加工時の送り方向DRと直交する切り込み方向の先端に位置するように、すなわち、接続部40bがワークWの加工面MSに当接することによって、第1曲線部40aの曲率中心C1と第2曲線部40cの曲率中心C2とをつなぐ直線はワークWの加工面MSに対して垂直になると共に、第1曲線部40aの曲率中心C1と第2曲線部40cの曲率中心C2とを結ぶ直線と横切れ刃44とがなす角度γが横切れ刃角γとなる。
【0031】
本実施形態に係る加工方法、工作機械10、切削工具11及び切削インサート28を用いた切削加工の説明を通じて、これらの作用効果を以下に説明する。
【0032】
図5には、切削工具11を用いて旋削加工する様子を示し、
図6には、接続部40bをワークWの加工面MS上に当接させたコーナ部40を用いて切削加工することによってワークWの除去量が増加することを示す。
図6には、このように位置決めされた切削インサート28が、ワークWが1回転するごとに長さFzだけ送り方向DRに沿って移動する前後のコーナ部40を1点鎖線(前)と実線(後)とで示す。このとき、切削インサート28のコーナ部40は、接触範囲CR1内において切り込み深さtだけワークWを切削する。このとき、カスプ高さRzの取り残し部RPが生じる。
【0033】
図6には、比較のために、第1曲線部40aだけで形成された単一ノーズを有する単一コーナ部SGを示す。単一コーナ部SGは、接触範囲CR2内において切り込み深さtだけワークWを切削する。このとき、生じる取り残し部分は、部分APだけ増加する。これらの比較から、複合ノーズを有する切削インサート28のコーナ部40によって切削量が増加し、取り残し部RPのカスプ高さRzが低くなるため、表面粗さが向上する、すなわち表面が粗くなることを抑制することがわかる。
【0034】
図7には、工作機械が姿勢変更してテーパ旋削加工する様子を示す。このように、テーパ旋削加工する場合であっても、制御装置30は姿勢変更装置20を作動させることによって、切削工具11の姿勢を変更することができる。このため、
図4に示すように、接続部40bが切削加工時の送り方向DRと直交する切り込み方向の先端に位置するように、すなわち、接続部40bがワークWの加工面MSに当接するように位置決めをして切削加工することができる。
【0035】
本実施形態に係る切削工具11を備えた工作機械10によると、工具部26に配置された切削インサート28の第1曲線部40aによってワークWを切削加工した後に、第1曲線部40aよりも曲率の小さい第2曲線部40cによって切削加工することで、ワークWの加工面MSのカスプ高さRzを低くすることができる。このため、加工後のワークWの表面粗さを好適にすることができる。また、接続部40bを切削加工時の送り方向DRと直交する切り込み方向の先端に位置決めをする、すなわち、接続部40bがワークWの加工面MSに接するように位置決めして切削加工することによって、切削工具11とワークWの加工面MSとの接触部分が広くなることを抑制することができる。このため、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る工作機械10によれば、制御装置30と負荷検出手段32とを備える。このため、制御装置30は、負荷検出手段32によって検出されたトルク又は電流値が所定の閾値を超えて、ワーク主軸16の負荷が高いと判断される場合には、切削インサート28の位置が適切でないと推定し、姿勢変更装置20、サドル18及びY軸送り装置を作動させて、切削工具11の姿勢を変更する。これによって、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0037】
さらに、本実施形態に係る工作機械10によれば、そのワーク主軸16側に、切削インサート28の接続部40bの位置を検出することができる、例えば、カメラ等の撮像手段や位置センサ等によって構成された位置検出手段34を備える。このため、位置検出手段34は、工作機械10における接続部40bの位置を検出することができる。これによって、切削工具11及び切削インサート28の製造誤差やこれらの取付け誤差等も考慮した上で、実際の接続部40bの位置を正しく把握することができる。
【0038】
本実施形態に係る切削インサート28によれば、第1曲線部40aの曲率中心C1と第2曲線部40cの曲率中心C2とを結ぶ線と横切れ刃44とがなす角度を横切れ刃角γとすることができる。このため、第1曲線部40a及び第2曲線部40cの長さ寸法及び曲率半径R1、R2を設定する自由度を高くすることができる。
【0039】
以上のことから、本実施形態に係る加工方法、工作機械10、切削工具11及び切削インサート28によって、切削抵抗の増加を抑制すると共にワークWの加工面MSの表面粗さを好適にすることができる。
【0040】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る切削工具としてのフライス工具60について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0041】
図8には、切削インサート28が複数取り付けられたフライス工具60を示す。フライス工具60の工具部62は、基部23に取り付けられる工具取付部62bと、工具取付部62bに連結された円柱状の軸部62aと、を有する。軸部62aの先端部には、これと一体で形成された切削部としての切削インサート28が、軸部62aの周方向に沿って等間隔で配置されている。
【0042】
本実施形態に係るフライス工具60によると、
図6及び
図8に示すように、工具部62に配置された切削インサート28の第1曲線部40aによってワークWをフライス加工した後に、第1曲線部40aよりも曲率の小さい第2曲線部40cによってフライス加工することで、ワークWの加工面MSのカスプ高さRzを低くすることができる。このため、加工後のワークWの表面粗さを好適にすることができる。また、接続部40bがワークWの加工面MSに接するように位置決めして切削加工することによって、切削工具11とワークWの加工面MSとの接触部分が広くなることを抑制することができる。このため、切削抵抗の増加を抑制することができる。
【0043】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態に係る切削部としての切削インサート70について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
図9には、切削インサート70のコーナ部72を示す。コーナ部72は、第1曲線部72aと、第1曲線部72aに連続して形成され、第1曲線部72aよりも曲率の小さい第2曲線部72cと、第1曲線部72aの前切れ刃46側の端部と第2曲線部72cとを接続する接続部72bと、を有する。また、コーナ部72は、第1曲線部72aの横切れ刃44側に、第2曲線部72cと同じ曲率半径R2及び長さ寸法の第3曲線部72dと、第1曲線部72aと第3曲線部72dとを接続する接続部72bとを有する。
【0045】
コーナ部72の寸法は、次のようにして設定される。はじめに、加工用途に応じて、前切れ刃角α、刃先角β、第1曲線部72aの曲率半径R1、第2曲線部72c及び第3曲線部72dの曲率半径R2を決定する。つぎに、第2曲線部72c及び第3曲線部72dの長さ寸法並びに第2曲線部72cと前切れ刃46との接点及び第3曲線部72dと横切れ刃44との接点を決定する。最後に、第2曲線部72c及び第3曲線部72dの長さ寸法から第2曲線部72c及び第3曲線部72dの端点、すなわち、第1曲線部72aとの接続部72bが定まる。接続部72bにおいて第2曲線部72c又は第3曲線部72dに引いた垂線と第1曲線部72aの曲率半径R1とによって第1曲線部72aの曲率中心C1が定まる。これによって、連続した第1曲線部72a、第2曲線部72c及び第3曲線部72dの3つのノーズを組み合わせたコーナ部72を形成することができる。
【0046】
図10には、複数の送り方向DRで切削加工を行う様子を示す。図中に示されるように、複数の切削工具11に取り付けられた切削インサート70の姿勢は、加工位置によって異なる。本実施形態に係る切削インサート70によれば、第2曲線部72c及び第3曲線部72dは、第1曲線部72aに対して対称に形成されている。このため、各切削インサート70の右勝手、左勝手を個別に管理する必要が無く、1種類の切削インサート70によって各方向の切削加工を行うことができる。これによって、送り方向に応じて各切削インサート70を取り替える必要がなく、効率的に切削加工をすることができる。
【0047】
以上、加工方法、工作機械10、切削工具11及び切削インサート28の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0048】
10 工作機械
11 切削工具
16 ワーク主軸(加工対象取付部)
20 姿勢変更装置
23 基部
24 シャンク部
26 工具部
28 切削インサート(切削部)
28a 上面
28b 下面
28c 側面
30 制御装置
32 負荷検出手段
34 位置検出手段
40 コーナ部
40a 第1曲線部
40b 接続部
40c 第2曲線部
42 穴(被固定部)
44 横切れ刃
60 フライス工具(切削工具)
62 工具部
70 切削インサート(切削部)
72 コーナ部
72a 第1曲線部
72b 接続部
72c 第2曲線部
72d 第3曲線部
C1 第1曲線部の曲率中心
C2 第2曲線部の曲率中心
DR 送り方向(相対移動方向)
W ワーク(加工対象)
【要約】
【課題】切削抵抗の増加を抑制すると共に表面粗さを好適にすることができる加工方法、工作機械、切削工具及び切削インサートを提供する。
【解決手段】ワークWと切削工具11を相対移動させて切削加工する加工方法において、第1曲線部40aと、第1曲線部40aに連続して形成され、第1曲線部40aよりも曲率の小さい第2曲線部40cと、第1曲線部40aと第2曲線部40cとを接続する接続部40bと、を有する切削インサート28を備えた切削工具11を用いて、接続部40bを切削加工時の相対移動方向と直交する切り込み方向の先端に位置決めして切削加工することを特徴とする。
【選択図】
図3