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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】クロミア含有キャスタブル耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20231110BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20231110BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/16 R
F27D1/00 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022094088
(22)【出願日】2022-06-10
【審査請求日】2022-06-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】小柳 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】茂田 純一
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199449(JP,A)
【文献】特開2022-054940(JP,A)
【文献】特開2020-001992(JP,A)
【文献】特開2001-158671(JP,A)
【文献】特開昭55-054519(JP,A)
【文献】特開昭56-073673(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108892519(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/16
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ及び/又はムライトを主成分とし、
30質量%のCr23を含有し、
SiO2固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されていること、
を特徴とするキャスタブル耐火物。
【請求項2】
セメントの含有量が2質量%以下であること、
を特徴とする請求項に記載のキャスタブル耐火物。
【請求項3】
ZrO2を含有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物。
【請求項4】
前記Cr23の原料として、酸化クロム、電融クロミア、焼成クロミア、クロミアを含む電融原料、クロミアを含む焼成原料及びクロム鉱のうちの少なくとも一つを使用すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物。
【請求項5】
110℃で24時間乾燥後の状態において、組織内に直径が10~100nmの気孔が連続してなる網目状構造が形成されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物。
【請求項6】
試験温度を1500℃、試験時間を10時間とする回転侵食試験後のキャスタブル耐火物を粉砕し、篩にかけて粒度を4mm以下としたものを評価試料とし、
20gの前記評価試料を200mlの蒸留水に浸漬させ、1時間ごとに撹拌しながら24時間経過した溶液から25mlの評価溶液を採取し、
前記評価溶液を遠心分離機で分離し、上澄み液に対してICP測定して得られる六価クロム溶出量が0.1mg/l以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理炉の内張り用耐火物等として使用することができるキャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロミア(Cr)を含有する耐火物は、溶融ガラスやスラグに対して耐食性に優れていることから、鉄鋼用、非鉄金属用及びセメント焼成用等の耐火材として広範囲に使用されている。特に、灰、汚泥及びごみ等を溶融する廃棄物処理炉ではスラグによる浸食を受けることから、クロミア系のキャスタブルが使用される傾向にある。
【0003】
しかしながら、クロミアを比較的多く含む緻密質キャスタブル耐火物は、耐食性に優れる一方で、耐スポーリング性や耐爆裂性に劣るという問題を有している。これに対して、例えば、特許文献1(特開平6-293570号公報)において、「粒度調整を施したアルミナ質原料またはアルミナ質原料とジルコン質原料との混合物30~85重量%、粒子径が1mm~1μmのクロミア粗角7~50重量%、粒子径が45μm以下の耐火性微粉末3~20重量%、粒子径が100~1μmのアルミナセメント0.5~10重量%、および適宜量の分散剤からなり、トータルSiO含量を6重量%以下としたことを特徴とするアルミナ・クロミア質キャスタブル耐火物」が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のアルミナ・クロミア質キャスタブル耐火物においては、粒子径が1mm~1μmのクロミア粗角を使用することで、クロミアの添加量を比較的低く抑えても耐食性向上作用が効果的に得られ、しかも耐熱衝撃性や施工性が低下することのないアルミナ・クロミア質キャスタブル耐火物が得られる、とされている。
【0005】
また、クロミアを含有する耐火物は使用条件によってはスラグ中のアルカリ成分、アルカリ土類成分の作用によって使用後耐火物中に六価クロムが生成する場合があり、有害な六価クロムが環境に漏出しないよう処置を講ずる必要があるなど、環境への負荷が増大するという課題がある。これに対して、例えば、特許文献2(特開2016-190779号公報)において、「クロミア含有耐火物において酸化バナジウムの含有量が0.5質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする耐火物」が提案されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の耐火物においては、クロミアおよびアルミナを含有する耐火物において酸化バナジウムを添加することによって、高温下で溶融状態にあるスラグに接触したときの溶解速度を低減させることができ、かつ六価クロムの生成を抑制することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-293570号公報
【文献】特開2016-190779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のアルミナ・クロミア質キャスタブル耐火物においては耐熱衝撃性や施工性を損なうことなく耐食性が向上しているものの、近年では省エネルギーや炉の操業時間延長に対する要求が高くなっており、より優れた耐爆裂性及び耐スポーリング性や、キャスタブルの乾燥時間の短縮が切望されている。また、上記特許文献1に記載のアルミナ・クロミア質キャスタブル耐火物においては六価クロムの生成抑制については全く考慮されていない。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の耐火物においては酸化バナジウムの添加によって六価クロムの生成が抑制されているが、耐爆裂性、耐スポーリング性及びキャスタブルの乾燥時間短縮の観点からの検討はなされていない。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、優れた耐爆裂性、耐スポーリング、耐熱性及び耐食性を有することに加えて、短時間で乾燥させることができ、更に、六価クロムの生成が抑制されるキャスタブル耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、クロミアを含むキャスタブル耐火物の組成等について鋭意研究を重ねた結果、混練に使用する液体に適量のSiO固形分を含有するシリカゾルを使用すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
アルミナ及び/又はムライトを主成分とし、
3~85質量%のCrを含有し、
SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されていること、
を特徴とするキャスタブル耐火物、を提供する。
【0013】
キャスタブル耐火物の各原料をSiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練することで、乾燥後に得られる組織内に微細な連続した網目状の気孔が形成される。当該気孔の形成によって、極めて効果的にキャスタブル耐火物の耐爆裂性が改善し、耐スポーリング性が向上する。シリカゾルのSiO固形分を30質量%以上とすることでこれらの効果を発現させることができ、40質量%以下とすることで過剰な気孔の形成による強度低下等を抑制することができる。
【0014】
加えて、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルの添加に起因する連続した網目状気孔の形成により、キャスタブル耐火物の乾燥時間が短縮され、当該乾燥に必要なエネルギー消費量を低減することができる。
【0015】
また、本発明のキャスタブル耐火物は3~85質量%のクロミア(Cr)を含有しており、優れた耐食性を有している。より好ましいCrの含有量は3~30質量%であり、Crの含有量を30質量%以下とすることで、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルを用いて混練する場合であっても、容易に良好な混合状態を得ることができる。
【0016】
また、本発明のキャスタブル耐火物はSiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されていることから、キャスタブル耐火物中に分散したSiO固形分によって、Crから六価クロムを生成させるアルカリ及びアルカリ土類をトラップすることができる。その結果、極めて効果的に六価クロムの生成を抑制することができる。
【0017】
また、本発明のキャスタブル耐火物においては、セメントの含有量が2質量%以下であること、が好ましい。セメントの含有量を2質量%以下とすることで、キャスタブル耐火物の耐熱性を改善させることができ、耐食性も向上させることができる。
【0018】
また、本発明のキャスタブル耐火物においては、ZrOを含有すること、が好ましい。キャスタブル耐火物にZrOを添加することで、キャスタブル耐火物の耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明のキャスタブル耐火物においては、前記Crの原料として、酸化クロム、電融クロミア、焼成クロミア、クロミアを含む電融原料、クロミアを含む焼成原料及びクロム鉱のうちの少なくとも一つを使用すること、が好ましい。これらの原料を使用することで、簡便かつ効率的にキャスタブル耐火物に所望の量のCrを添加することができる。
【0020】
また、本発明のキャスタブル耐火物においては、110℃で24時間乾燥後の状態において、組織内に直径が10~100nmの気孔が連続してなる網目状構造が形成されること、が好ましい。連続した網目状構造を構成する気孔の直径を10nm以上とすることで、キャスタブル耐火物の耐爆裂性及び耐スポーリング性の改善効果、キャスタブル耐火物の乾燥時間の短縮効果を十分に発現することができる。一方で、当該気孔の直径を100nm以下とすることで、キャスタブル耐火物の強度低下を抑制することができる。
【0021】
更に、本発明のキャスタブル耐火物においては、
試験温度を1500℃、試験時間を10時間とする回転侵食試験後のキャスタブル耐火物を粉砕し、篩にかけて粒度を4mm以下としたものを評価試料とし、
20gの前記評価試料を200mlの蒸留水に浸漬させ、1時間ごとに撹拌しながら24時間経過した溶液から25mlの評価溶液を採取し、
前記評価溶液を遠心分離機で分離し、上澄み液に対してICP測定して得られる六価クロム溶出量が0.1mg/l以下であること、が好ましい。
当該測定におけるキャスタブル耐火物からの六価クロム溶出量が0.1mg/l以下であれば、六価クロムによる環境負荷増大の影響を殆ど考慮する必要がない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた耐爆裂性、耐スポーリング、耐熱性及び耐食性を有することに加えて、短時間で乾燥させることができ、更に、六価クロムの生成が抑制されるキャスタブル耐火物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のキャスタブル耐火物の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0024】
本発明のキャスタブル耐火物は、アルミナ及び/又はムライトを主成分とし、3~85質量%のCrを含有し、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されているものである。以下、主成分と各添加成分及びキャスタブル耐火物の特性について詳細に説明する。
【0025】
(1)主成分(耐火性骨材)
主成分はアルミナ及び/又はムライトであり、どちらか一方のみを使用してもよく、両方を使用してもよい。主成分の含有量は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、キャスタブル耐火物に求められる特性に応じて適宜調整すればよいが、70~90質量%とすることが好ましい。
【0026】
(1-1)アルミナ
本発明のキャスタブル耐火物の主成分として、適当に粒度調整を施したアルミナ原料を用いることができる。アルミナ原料の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のアルミナ原料を用いることができる。
【0027】
アルミナ原料には、例えば、電融アルミナ、電融ムライト、焼結アルミナ、合成ムライト、ボーキサイト、シリマナイト、バン土頁岩等の高アルミナ質原料を用いることができる。
【0028】
(1-2)ムライト
また、本発明のキャスタブル耐火物の主成分としては、適当に粒度調整を施したムライト原料を用いることもできる。ムライト原料の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のムライト原料を用いることができる。
【0029】
ムライト原料には、例えば、電融ムライトや焼結ムライトを用いることができる。ここで、ムライト原料の粒径は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、200μm以下の微粉とすることで焼結が促進され、熱膨張が抑制されることで耐熱衝撃性の改善効果を高めることができる。
【0030】
(2)必須の添加成分
(2-1)クロミア(Cr):3~85質量%
3~85質量%のCrを含有することで、キャスタブル耐火物にCaO-SiO系のスラグに対する優れた耐食性を付与することができる。より好ましいCrの含有量は3質量%以上50質量%未満であり、最も好ましいCrの含有量は3~30質量%である。Crの含有量を30質量%以下とすることで、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルを用いて混練する場合であっても、容易に良好な混合状態を得ることができる。
【0031】
Crの原料としては、酸化クロム、電融クロミア、焼成クロミア、クロミアを含む電融原料、クロミアを含む焼成原料及びクロム鉱のうちの少なくとも一つを使用すること、が好ましい。これらの原料を使用することで、簡便かつ効率的にキャスタブル耐火物に所望の量のCrを添加することができる。
【0032】
(2-2)SiO固形分
本発明のキャスタブル耐火物においては、各原料を混練するためにSiO固形分が30~40質量%のシリカゾルを用いるため、最終的に得られるキャスタブル耐火物には当該シリカゾルに起因する微量のSiO固形分が含まれる。SiO固形分の含有量はシリカゾルのSiO固形分濃度やシリカゾルの添加量に依存するが、2~5質量%となることが好ましい。なお、シリカゾルのSiO固形分濃度を40質量%、シリカゾルの添加量を7質量%とすると、キャスタブル耐火物に含まれるSiO固形分の含有量は約2.8質量%となる。
【0033】
キャスタブル耐火物に含まれるSiO固形分は混練に用いるシリカゾルのSiO固形分濃度及び使用量に依存するが、キャスタブル耐火物の各原料をSiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練することで、乾燥後に得られる組織内に微細な連続した網目状の気孔が形成される。
【0034】
従って、クロミアを含有するキャスタブル耐火物において、このような特徴を有する網目状の気孔を観察することによって、キャスタブル耐火物の各原料をSiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練したと見做すこともできる。当該気孔を確認する方法は特に限定されず、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡等を用いて観察すればよい。
【0035】
(3)任意の添加成分
(3-1)セメント原料
本発明のキャスタブル耐火物には、結合剤として、アルミナセメントを添加することができる。アルミナセメントとしては、一般に市販されているものが使用でき、添加量は1~5質量%とすることが好ましい。セメントの含有量が1質量%未満ではキャスタブル耐火物の強度を向上させる効果に乏しく、5質量%以上の場合はCaO成分過多により、耐食性低下の原因となる。セメント含有量の上限値は2質量%以下とすることがより好ましい。セメントの含有量を2質量%以下とすることで、キャスタブル耐火物の耐熱性を改善させることができ、耐食性も向上させることができる。
【0036】
(3-2)ジルコニア(ZrO)微粉末
キャスタブル耐火物にZrOを添加することで、キャスタブル耐火物の耐熱衝撃性を向上させることができる。ZrO微粉末には粒径1mm以下のジルコニア原料を用いることが好ましく、含有量は1~10質量%とすることが好ましい。
【0037】
(3-3)耐火性超微粉末
キャスタブル耐火物には、シリカフラワーや粘度等の超微粉原料を添加してもよい。粒径が10μm以下の超微粉原料を使用することで流動性が向上し、緻密な施工体を得ることができる。耐火性超微粉末の含有量は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、キャスタブル耐火物に求められる流動性等に応じて適宜調整すればよい。
【0038】
(4)キャスタブル耐火物の特性
SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルでキャスタブル耐火物の各原料が混練されていることから、乾燥後に得られるキャスタブル耐火物の組織内には微細な連続した網目状の気孔が形成される。当該気孔の形成によって、極めて効果的にキャスタブル耐火物の耐爆裂性が改善しており、耐スポーリング性も向上している。
【0039】
例えば、本発明のキャスタブル耐火物においては、110℃で24時間乾燥後の状態において、組織内に直径が10~100nmの気孔が連続してなる網目状構造が形成される。連続した網目状構造を構成する気孔の直径が10nm以上となっていることで、キャスタブル耐火物の耐爆裂性及び耐スポーリング性の改善効果、キャスタブル耐火物の乾燥時間の短縮効果が十分に発現されている。一方で、当該気孔の直径を100nm以下となっており、キャスタブル耐火物の強度低下が抑制されている。
【0040】
加えて、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルに起因する連続した網目状気孔の形成により、キャスタブル耐火物の乾燥時間が短縮され、当該乾燥に必要なエネルギー消費量を低減することができる。
【0041】
また、本発明のキャスタブル耐火物はSiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されていることから、キャスタブル耐火物中に分散したSiO固形分によって、Crから六価クロムを生成させるアルカリ及びアルカリ土類がトラップされる。その結果、極めて効果的に六価クロムの生成が抑制される。
【0042】
例えば、試験温度を1500℃、試験時間を10時間とする回転侵食試験後のキャスタブル耐火物を粉砕し、篩にかけて粒度を4mm以下としたものを評価試料とし、20gの前記評価試料を200mlの蒸留水に浸漬させ、1時間ごとに撹拌しながら24時間経過した溶液から25mlの評価溶液を採取し、前記評価溶液を遠心分離機で分離し、上澄み液に対してICP測定した場合、得られる六価クロム溶出量は0.1mg/l以下となる。当該測定におけるキャスタブル耐火物からの六価クロム溶出量が0.1mg/l以下であれば、六価クロムによる環境負荷増大の影響を殆ど考慮する必要がない。環境省が示している一般排水基準において、六価クロム(六価クロム化合物)の許容限度は0.5mg/lとなっており、「0.1mg/l以下」は十分に低い値である。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0044】
≪実施例≫
表1に実施例1~実施例6として示す割合で原料を調製し、全体の7質量%となるようにシリカゾルを添加してダルトンミキサーで3分間混練し、40mm×40 mm×160 mmの金枠に流し込み成形した。24時間自然養生し、金枠から脱枠し、110℃の電気炉で24時間乾燥し、本発明の実施例であるキャスタブル耐火物を得た。
【0045】
また、表1には原料の特徴として、クロミア(Cr)の含有量(質量%)、クロミア(Cr)原料の種類、セメントの含有量(質量%)を示している。なお、表1において、「クロミア含有量」は、酸化クロム単体として添加された場合は、当該添加量がそのまま「酸化クロム含有量」となり、電融クロミアとして添加された場合は、酸化クロムの正味の含有量を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
[評価]
得られた各キャスタブル耐火物について、成形性、耐爆裂性、耐スポーリング性、耐食性及び六価クロムの溶出量を評価した。
【0048】
(1)成形性
シリカゾルまたは水を添加し混練したサンプルをビニール袋に入れ、硬化するまでの時間より、キャスタブル耐火物の成形性を評価した。硬化時間は、練りを指で押しても全く動かなくなるまでの時間とした。硬化時間が1時間以上のサンプルを〇、1時間未満のサンプルを×として、得られた結果を表1に示す。
【0049】
(2)耐爆裂性
シリカゾルまたは水を添加し混練したサンプルを紙コップに流し込み、24時間自然養生した。養生後のサンプルを紙コップから取り出し、任意の温度に保温した電気炉に入れ、15分間加熱し、爆裂の有無を確認した。ここで、1300℃においても爆裂が認められなかった場合、「爆裂なし」とした。得られた結果(爆裂が認められた場合はその温度)を表1に示す。
【0050】
(3)耐熱スポーリング性
耐熱スポーリング性の評価はJIS R2657に基づく水冷法によって行った。温度条件は1500℃とし、最大10回の加熱冷却を行った。試験片の加熱面(114×65mm)の面積の1/2以上が剥落した場合は×、10回以内に剥落は見られたものの加熱面の1/2以上が剥落しなかった場合は△、最後まで剥落しなかった場合は〇として、得られた結果を表1に示す。
【0051】
(4)耐食性
耐食性は回転ドラム侵食試験によって評価した。試験方法は次のとおりである。試験片をドラム内部に内張りし、酸素-プロパンバーナーを使用して1500℃で行った。侵食剤は、溶融スラグ(スラグの塩基度はCaO/SiO=0.56)を投入した。1時間毎にスラグを交換しながら10時間保持した後、試料を稼働面に垂直な方向に切断し、損耗量を8点測定して平均損耗量を出した。平均損耗量は実施例1の侵食量を100とする指数で表示した。得られた結果を表1に示す。指数が小さいほど耐食性に優れることを示している。
【0052】
(5)六価クロム溶出量
耐食性試験後の試料を粉砕し、篩に掛けて粒度を4.0mm以下に調整した。その後、粉砕した試料20gをビーカーに入れ、蒸留水200mlを注いで1時間毎に撹拌し、24時間浸漬させた。その後、試料が浸漬した溶液から25mlを採取し、遠心分離機で液体と固体を分離し、上澄み液をICP装置で測定して六価クロムの濃度を測定した。得られた結果を表1に示す。実施例1における六価クロムの溶出量が0.03mg/Lであり、その他の実施例における溶出量は実施例1を100とする指標で表示した。
【0053】
≪比較例≫
表1に比較例1~比較例4として示す割合で原料を調整したこと以外は実施例と同様にして、キャスタブル耐火物を得た。なお、比較例4では水を添加してダルトンミキサーで3分間混練した。また、実施例と同様にして、各キャスタブル耐火物の成形性、耐爆裂性、耐スポーリング性、耐食性及び六価クロムの溶出量を評価した。得られた結果を表1に示す。なお、比較例3は成形性に乏しく、良好なキャスタブル耐火物が得られなかったことから、各種評価を行うことができなかった。
【0054】
添加したセメント原料はpHが上昇するにつれ、水和核を析出し、硬化が促進される。シリカゾルはpHが9~10.5の液体であり、混練物の液相部はアルカリ性になっている。比較例3はセメント原料の量が多いため、水和核を多く析出しやすく、硬化が促進され、硬化時間が早まり、良好な成形性を得ることができなかった。これに対し、比較例4はセメント原料の添加量が5質量%であるが、水で混練しているため、成形することができた。
【0055】
本発明のキャスタブル耐火物は全て良好な成形性を有していることに加え、良好な耐爆裂性を示している。SiO固形分が30質量%であるシリカゾルで混練した実施例3では1300℃未満では爆裂が認められず、SiO固形分が40質量%であるシリカゾルで混練したその他の実施例では1300℃に達しても爆裂が発生しなかった。これに対し、SiO固形分が20質量%であるシリカゾルで混練した比較例2では1200℃で爆裂が生じ、SiO固形分を含有していない場合(比較例4)では1000℃で爆裂が認められた。
【0056】
また、本発明のキャスタブル耐火物においては、全ての場合で耐スポーリング性の評価が〇となっている。これに対し、SiO固形分が20質量%であるシリカゾルで混練した比較例2では△、SiO固形分を含有していない場合(比較例4)では×の評価となっている。
【0057】
各キャスタブル耐火物の耐食性は基本的にクロミア量に対応しており、クロミア量の増加に伴って耐食性評価の指数が小さな値を示している。ここで、3質量%以上のクロミアを含有する本発明のキャスタブル耐火物は良好な耐食性を示しているが、クロミア含有量が1質量%の比較例1では侵食量が大幅に増加していることが分かる。
【0058】
六価クロムの溶出量はクロミアの含有量とシリカゾルのSiO固形分含有量に対応しており、クロミア含有量の増加及びSiO固形分含有量の低下に伴って増加している。ここで、実施例3は比較的大量(30質量%)のクロミアを含有しているが、混練に用いたシリカゾルのSiO固形分含有量が40質量%であることから、六価クロム溶出量の評価指数が150に留まっている。これに対し、SiO固形分を含有していない場合(比較例4)では、クロミア含有量が10質量%であるにもかかわらず、六価クロム溶出量の評価指数が6000と顕著に大きな値となっている。
【0059】
以上の結果より、キャスタブル耐火物に優れた耐爆裂性、耐スポーリング、耐熱性、耐食性及び成形性を付与すること加えて、六価クロムの生成を抑制するためには、適量のCrを含有させると共に、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練することが極めて重要であることが分かる。
【要約】
【課題】優れた耐爆裂性、耐スポーリング、耐熱性及び耐食性を有することに加えて、短時間で乾燥させることができ、更に、六価クロムの生成が抑制されるキャスタブル耐火物を提供する。
【解決手段】アルミナ及び/又はムライトを主成分とし、3~85質量%のCrを含有し、SiO固形分が30~40質量%であるシリカゾルで混練されていること、を特徴とするキャスタブル耐火物。Crの含有量は3~30質量%であることが好ましい。
【選択図】なし