(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】ガソリンパティキュレートフィルター
(51)【国際特許分類】
F01N 3/022 20060101AFI20231110BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231110BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20231110BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
F01N3/022 Z
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/035 A ZAB
F01N3/28 Q
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022153317
(22)【出願日】2022-09-27
(62)【分割の表示】P 2019534145の分割
【原出願日】2017-12-22
【審査請求日】2022-10-20
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クロウズ, ルーシー
(72)【発明者】
【氏名】ハワード, マイケル アンソニー
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0363019(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0266461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/022
B01D 53/94
F01N 3/035
F01N 3/28
B01D 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて使用するためのパティキュレートフィルターであって、入口側と出口側とを有し、少なくとも入口側が合成灰で装填される、パティキュレートフィルターであって、合成灰は、5μm未満のD90を有し、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、セリウムジルコニウム(混合)酸化物、酸化ジルコニウム、酸化セリウム及びアルミナ水和物のうちの1種類以上を含み、白金族金属含有触媒材料、硫黄酸化物、燐、マグネシウム、マンガン、及び鉛を含まない、パティキュレートフィルター。
【請求項2】
ウォールフローフィルターである、請求項1に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項3】
1g/L~50g/Lの合成灰を含む、請求項2に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項4】
5g/L~40g/Lの合成灰を含む、請求項2に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項5】
10g/L~35g/Lの合成灰を含む、請求項2に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項6】
15g/L~35g/Lの合成灰を含む、請求項2に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項7】
20g/L~30g/Lの合成灰を含む、請求項2に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項8】
フィルターが、複数の孔を備えた多孔性本体を備え、複数の孔の少なくとも一部分の中に1種類以上の触媒ウオッシュコートを更に含み、1種類以上のウオッシュコートがTWCウオッシュコートを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項9】
封入されていない、請求項1から8のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項10】
パティキュレートフィルターの入口側が出口側の上流に配置される、請求項1から9のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルターを備えた排気処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパティキュレートフィルターに関するものであり、具体的には、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて使用するためのパティキュレートフィルターに関するものである。本パティキュレートフィルターは、低い背圧と高いフレッシュろ過効率との有利な組合せを提供する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンは、粒子と共に炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物を含有する燃焼排気流を生成する。三元転換触媒組成物を用いてガスを処理することが知られており、また、スートフィルタなどのパティキュレートトラップ内の粒子を回収することが知られている。
【0003】
ガソリンエンジンによって発生される粒子は、ディーゼル希薄燃焼エンジンによって発生される粒子とは対照的に、より微細となりかつ低濃度になりがちである。これは、ガソリンエンジンと比較して、ディーゼルエンジンの燃焼条件が異なることに起因している。例えば、ガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンよりも高い温度で稼働する。また、結果として生じる炭化水素組成物は、ディーゼルエンジンと比較して、ガソリンエンジンの排出物においては異なっている。
【0004】
相手先商標製造会社(OEM)、すなわち、車両製造会社は、ガソリンパティキュレートフィルター(GPF)が高いフレッシュろ過効率と低い背圧を有することを要求している。しかしながら、ガソリンエンジンからのエンジン出力粒子質量はほとんど存在しないため、スートケークは試験前の後処理システムの事前調整の間に発生されない。このスートケークは、ディーゼルパティキュレートフィルターの高いろ過効率に少なくとも部分的に寄与しており、またディーゼルエンジンでは、有効なスートケークが10km~20kmの走行で形成され得る。この効果は一般にガソリンエンジンでは達成可能ではないため、目標のフレッシュろ過効率は、より高度なウオッシュコート装填を用いることによって満たされ、これによってその部分にまたがる圧力降下が増大する。
【0005】
この検討事項は、OEMにおけるエンドオブライン試験の要件を満たすために、新規な部品にのみ当てはまる。車両が走行距離を積み重ねるごとに、GPFは、灰、すなわち燃焼副産物の蓄積によってそのろ過効率を向上させる。
【0006】
したがって、GPFの寿命のうちの大部分にわたって、GPFはろ過効率のためにオーバーエンジニアリングされており、また、GPFは、その寿命の大部分にわたって必要となるよりも高い圧力降下を有し、エンジンの潜在的性能特性を低下させる。
【0007】
WO2014162140(A1)は、1種類以上の触媒毒を含み、火花点火式の内燃機関から排出されたパティキュレートマターをろ過するための触媒式フィルターに関するものであり、このフィルターは、ある基材全長を有し、入口表面と出口表面とを有する多孔質基材を備え、入口表面は、第1の平均孔径の孔を備えた多孔質構造によって出口表面から分離され、多孔質基材は、複数の固体粒子を含んだウオッシュコートでコーティングされ、ウオッシュコーティングされた多孔質基材の多孔質構造は、第2の平均孔径の孔を備え、第2の平均孔径は第1の平均孔径よりも小さく、本ウオッシュコートは、多孔質基材上で、基材全長よりも短い第1の基材長の入口表面を備えた第1のゾーン、および基材全長よりも短い第2の基材長の出口表面を備えた第2のゾーンとして軸方向に配置され、第1のゾーンにおける基材長と第2のゾーンにおける基材長との合計は100%未満であり、少なくとも第2のゾーンのウオッシュコートは、高表面積酸化物上で支持された1種類以上の貴金属と、酸素蓄積成分とを含んだ三元触媒ウオッシュコートであり、(i)ウオッシュコートの比表面積は第1のゾーン>第2のゾーン、または、(ii)ウオッシュコート装填量とウオッシュコートの比表面積の両方が第1のゾーン>第2のゾーンである。
【0008】
改善されたパティキュレートフィルターを提供し、かつ/もしくは、従来技術に関連する問題のうちの少なくとも一部に取り組むこと、または少なくとも、それらに対する商業的に有用な代替形態を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて使用するためのパティキュレートフィルターであって、入口側と出口側とを有し、少なくとも入口側が合成灰で装填されるパティキュレートフィルターが提供される。
【0010】
本発明について、これらからさらに説明することにする。以下では、本発明の種々の態様がより詳細に定義される。そのように定義された各態様は、そうでないと明確に示されていない限り、任意の他の態様と組み合わされてよい。具体的に言えば、好ましいものまたは有利なものとして示された任意の特徴が、好ましいものまたは有利なものとして示された任意の他の特徴と組み合わされてよい。
【0011】
パティキュレートフィルターは典型的には、多孔質基材から形成される。多孔質基材は、例えば、コーディエライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ムライト、リチア輝石、アルミナ-シリカ-マグネシア、ケイ酸ジルコニウム、および/またはチタン酸アルミニウム、典型的にはコーディエライトもしくは炭化ケイ素などのセラミック材料を含み得る。多孔質基材は、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて一般的に使用されているタイプの多孔質基材であってよい。
【0012】
多孔質基材は、通常のハニカム構造を呈し得る。フィルターは、従来の「スルーフローフィルター」の形態を取り得る。代替的に、フィルターは、従来の「ウォールフローフィルター(WFF)」の形態を取り得る。そのようなフィルターは、当該技術分野において知られている。
【0013】
パティキュレートフィルターは、好ましくはウォールフローフィルターである。ウォールフローフィルターは、多孔質材料から形成されたウォールに排気ガス(パティキュレートマターを含む)の流れを強制的に通すことによって機能する。
【0014】
ウォールフローフィルターは通常、長手方向を間に規定する第1の面と第2の面とを有している。使用の際、第1の面と第2の面の一方は、排気ガスの入口面となり、もう一方は、処理された排気ガスの出口面となる。従来のウォールフローフィルターは、長手方向に延びる第1および第2の複数のチャネルを有している。第1の複数のチャネルは、第1の面においては開放され、第2の面においては閉鎖されている。第2の複数のチャネルは、第2の面においては開放され、第1の面においては閉鎖されている。チャネルは好ましくは、チャネル間に一定の壁厚を設けるために、互いに平行である。結果として、複数のチャネルのうちの1つに進入するガスは、チャネルウォールを通じて他の複数のチャネルへと拡散せずにはモノリスを去ることができない。チャネルは、チャネルの開放端部へのシーラント材料の導入によって閉鎖される。好ましくは、第1の複数のチャネルの数は第2の複数のチャネルの数に等しく、各チャネル数は、モノリスの全体にわたって一様に分布している。好ましくは、長手方向に対して直交する平面内で、ウォールフローフィルターは、平方インチ当たり100~500、好ましくは200~400のチャネルを有する。例えば、第1の面上において、開放した第1のチャネルおよび閉鎖した第2のチャネルの密度は、200~400チャネル/平方インチである。チャネルは、長方形、正方形、円形、長円形、三角形、六角形、または他の多角形形状をなす断面を有し得る。
【0015】
合成灰を構成する物質は通常、装填の時点では本質的に触媒性ではない。具体的に言えば、他の触媒種の非存在下では、この物質は通常、触媒効果を持たない。換言すれば、例えば、未燃焼炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素含有種、スート、金属など、処理されるべき排出物に含まれた種との反応を触媒しない。言うまでもなく、合成灰は、フィルターに装填された他の種、例えば触媒性ウオッシュコートと組み合わされると、少なくとも部分的な触媒効果をもたらし得る。しかしながら、合成灰は通常、フィルターの典型的な動作条件下ではそれ自体で触媒効果をもたらすことができない。
【0016】
しかしながら、特定の好ましい合成灰成分、例えばセリアまたはセリア-ジルコニア混合酸化物は、表面間接触によるスート燃焼に対して、少なくとも触媒活性を有している。それでもなお、先の段落における定義は、とりわけ、合成灰を、燃料燃焼触媒(FBC)配合物の使用によって生成されたものと区別することを目的としており、ここで、特定の有機金属化合物は、金属ナフテンなどを含むものであり、あるいは、例えば、Cu、Fe、PtまたはCeの1種類以上の非常に細かい金属酸化物粒子のエンジン燃料へのコロイド分散を含むものである。燃焼プロセスの間、触媒は、スートマトリックスに取り込まれ、次いでフィルター上に収集される。このアプローチは、固体触媒スートのO2との接触を改善し得、また乾式のスート燃焼の温度を低減し得る(R.M.Heckら、Catalytic Air Pollution Control-Commercial Technology、3rd Edition (2009)、pp.259~260および273;ならびに「Filters Using Fuel Borne Catalysts」、Paul Richards、Revision 2014.12、DieselNet Technology Guide(購読者はhttps://www.dieselnet.com/tech/dpf_fbc.phpから入手可能))。
【0017】
また、FBCから誘導された触媒を含むフィルターは、本発明のフィルターがそのフレッシュな状態において、すなわち、製造されたとき、例えば封入されていないとき、FBC誘導の触媒成分を含んでいないことから区別され得る。また、FBCはスート粒子の構造内に存在し、すなわちスート粒子との密接な混合をなすのに対し、本発明の合成灰は、スート粒子と合成灰との表面間接触によってのみスートと接触することからも区別され得る。
【0018】
合成灰は、好ましくは、白金族金属含有触媒材料を含まない。これにより、パティキュレートフィルターの原材料のコストが低減され得る。白金族金属には、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムが含まれる。
【0019】
合成灰は通常、フィルターの典型的な動作温度、例えば300℃以下、または500℃以下、または700℃以下、さらには800℃以下ではフィルターの材料(例えば、コーディエライト、炭化ケイ素など)とは反応しない。また合成灰は通常、フィルターに含まれ得る他の種、例えば触媒ウオッシュコート(例えば、従来の「三元触媒」、TWCを含んだ触媒ウオッシュコート)と、そのような温度では反応しない。
【0020】
合成灰は、燃焼プロセスから直接的に形成されない。例えば、合成灰は、排気処理システムによって処理されるべき排気の成分、例えばガソリンなどの燃料の燃焼の生成物ではない。
【0021】
合成灰は、非合成灰に存在する1種類以上の種を含み得る。合成灰は通常、炭素質種、例えばスートを実質的に含まない。
【0022】
少なくともパティキュレートフィルターの入口側が、合成灰で装填される。合成灰はまた、フィルターの出口側および/またはフィルター内部にも装填され得る。装填は、「オンウォール」装填または「インウォール」装填として特徴付けられ得る。前者は、フィルターの表面上における合成灰の形成を特徴とする。後者は、多孔質材料の孔の中への合成灰の侵入を特徴とする。通常、実質的にすべての合成灰が「オンウォール」で装填される。対照的に、三元触媒(TWC)などの触媒も存在する場合、通常は実質的にすべての触媒が「インウォール」で装填される。合成灰を「オンウォール」で装填することは、例えば、合成灰が適用されるウオッシュコートスラリーの流動学的特性を改善することによって達成され得る。
【0023】
合成灰は、例えば、合成灰がパティキュレートフィルターの中へと「吹き込まれる」ことによって装填されるとき、充填層の形態で装填され得る。そのような充填層は通常は多孔質であり、また通常はガス透過性である。代替的に、合成灰は、多孔質コーティング、例えばウオッシュコートスラリーとして適用される(すなわち、ウオッシュコートスラリーから誘導される)コーティングの形態をなしてもよい。
【0024】
驚くべきことに、ガソリンエンジンの排気処理システムに組み込まれたとき、パティキュレートフィルターは、時と共に、高いフレッシュろ過効率と低減された背圧の増大との組合せを呈することが判明した。理論に束縛されるものではないが、合成灰は、長い運転距離の後、例えば500kmの後、または10000kmもしくは20000kmの後に形成されるスートケークと同様の方式で機能すると見なされる(一定の運転距離の後に形成されるスートケークは、言うまでもなく、とりわけ、使用された燃料、ガソリンエンジン、および運転条件に依存する)。換言すれば、合成灰は、排出物に含まれているパティキュレートマターを捕捉するように働き、それによって高度なろ過効率をもたらす。有利にも、この高度なろ過効率は、生産ラインから出されたフレッシュなパティキュレートフィルターによって示され、すなわち、パティキュレートフィルターは、OEMにおけるエンドオブライン性能試験に合格するより高い能力を有する。
【0025】
上記で議論したように、従来のガソリンパティキュレートフィルターにおいて、高度なフレッシュろ過効率は通常、高いウオッシュコート装填レベルを用いることによってもたらされる。本発明のパティキュレートフィルターは、高いウオッシュコート装填レベルを用いる必要なく、高度なフレッシュろ過効率をもたらし得るので、経時的なフィルターの背圧の増大が低減され得る。さらに、必要とされるウオッシュコートがより少ないことにより、パティキュレートフィルターの原材料コストが削減され得る。
【0026】
灰は「合成的」であるため、その配合物は、パティキュレートフィルターの材料と、またはフィルター上に装填された触媒配合物と反応することが可能な種を実質的に含まないように制御され得る。このことは、例えば、エンジンオイル潤滑剤または燃料由来の添加物(同様に上記で議論した)、および/または、ガソリン排出物システムにおいて用いられる通常の触媒に毒作用を及ぼし得る種を通常は含むスートケークからの通常の集積した灰とは対照的である。したがって、パティキュレートフィルターが触媒を装填されると、パティキュレートフィルターは、高度な触媒性能と共に、高いろ過効率と背圧の増大の低減との組合せを経時的にもたらし得る。灰は「合成的」であるため、フィルターにおける位置、装填レベル、および粒径を制御し、それによって、フィルターのフレッシュろ過および背圧特性を微調整することが可能である。
【0027】
合成灰は好ましくは、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、セリウムジルコニウム(混合)酸化物、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよびアルミナ水和物のうちの1種以上、より好ましくは、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよび酸化ジルコニウムのうちの1種類以上を含む。従来の動作温度において、そのような種は通常、従来のガソリンパティキュレートフィルターを構成する材料とは反応しない。従来の動作温度において、そのような種は通常、ガソリンパティキュレートフィルター、例えばTWC上に通常は装填される触媒と反応しない。さらに、スートケークとは異なり、合成灰は、通常の動作の間に「燃え尽きる」ことはない。したがって、パティキュレートフィルターのろ過効率は通常、パティキュレートフィルターの寿命の全体を通じて実質的に一定である。アルミナ水和物を含んだ合成灰の場合、アルミナ水和物は通常、その場で、すなわち、パティキュレートフィルターの動作条件下で、アルミナへと変化する。合成灰がアルミナ水和物を含むパティキュレートフィルターを提供するために、任意のか焼するステップが、アルミナ水和物を装填するのに先立って実行されることが必要となる。好ましい実施形態では、合成灰は、酸化アルミニウムおよび/または酸化セリウムジルコニウムおよび/または酸化セリウムを含まない。
【0028】
合成灰は好ましくは、触媒被毒材料を含まない。パティキュレートフィルターが、例えばTWC組成物などの触媒組成物を充填される場合、このことは、パティキュレートフィルターの触媒性能の著しい低下を回避するように働き得る。
【0029】
この点で、合成灰は好ましくは、硫黄酸化物、燐、マグネシウム、マンガン、および鉛を実質的に含まない。そのような種は、ガソリンパティキュレートフィルターにおいて一般的に用いられる触媒に毒作用を及ぼすことが知られている。
【0030】
フィルターは好ましくは、1g/L~50g/L、より好ましくは5g/L~40g/L、さらにより好ましくは10g/L~35g/L、さらにより好ましくは15g/L~35g/L、さらにより好ましくは20g/L~30g/Lの合成灰を含む。これらよりも低いレベルの合成灰は、適切なフレッシュろ過効率をもたらし得ない。これらよりも高いレベルは、生産コストを増大させることがあり、また使用中のフィルターの背圧を増大させ得る。
【0031】
フィルターは好ましくは、複数の孔を備えた多孔質本体を備え、またさらに、複数の孔の少なくとも一部分の中に1種類以上の触媒ウオッシュコートを備える。1種類以上の触媒ウオッシュコートを用いることは、例えば、未燃焼炭化水素、一酸化炭素および/または窒素酸化物など、ガソリン排気ガスの成分を処理するように働き得る。従来のガソリンパティキュレートフィルターと比較すると、本発明のパティキュレートフィルターは、より低いレベルの、例えば、1g/in3未満、または0.7g/in3未満、または0.5g/in3未満、または0.3g/in3未満、または0.05g/in3~0.9g/in3、または0.1g/in3~0.6g/in3のウオッシュコート(例えば、TWCウオッシュコート)を含み得る。これは、高いフレッシュろ過効率を達成するために、高いウオッシュコート装填に依存する必要がないことによるものである。一酸化炭素および炭化水素を酸化させ、さらには窒素酸化物(NOx)を低減するように十分な触媒活性を提供するために、ウオッシュコート(例えば、TWCウオッシュコート)は好ましくは、0.05g/in3以上、または0.1g/in3以上の量で存在する。触媒ウオッシュコートは通常、複数の孔の実質的に全体にわたって分布している。
【0032】
1種類以上のウオッシュコートは好ましくは、TWCウオッシュコートを含む。そのようなウオッシュコートは、当該技術分野において知られており、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて特に効果的である。
【0033】
一実施形態では、パティキュレートフィルターは封入される。代替的な実施形態では、フィルターは封入されない。「封入される」とは、パティキュレートフィルターが、排気処理システムに組み込むためのハウジングの中に組み込まれていることを意味する。「封入されない」とは、パティキュレートフィルターが、排気処理システムに組み込むためのハウジングにまだ組み込まれていないが、合成灰を装填されていることを意味する。典型的な封入プロセスにおいて、パティキュレートフィルターは、金属ハウジングの中に組み込まれる前に、典型的にはセラミック繊維またはアルミナ繊維から形成された支持マットにスリーブで結合される。パティキュレートフィルターを金属ハウジングの中に組み込む方法には、例えば、「クラムシェル」、「スタッフィング」および「ターニケット」技法が含まれる。そのような技法は当該技術分野において知られている。
【0034】
さらなる態様では、本明細書で説明されるパティキュレートフィルターを備えた排気処理システムが提供され、パティキュレートフィルターの入口側は出口側の上流に配置される。入口側が出口側の上流に配置されることは、ガソリンエンジンからの排出物が、出口側を経てフィルターを抜け出す前に、入口側を経てパティキュレートフィルターに進入することを意味する。パティキュレートフィルターは通常、排気処理システムに組み込まれる前に封入される。
【0035】
さらなる態様では、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて使用するためのパティキュレートフィルターを生産する方法であって、
出口側と入口側とを有するフィルターを設けることと、
少なくとも入口側に合成灰を装填することと、を含む方法が提供される。
【0036】
本方法に従って生産されるパティキュレートフィルターは、本明細書で説明したパティキュレートフィルターであってよい。すなわち、第1の態様のすべての特徴が、本明細書で説明したさらなる態様と自在に組み合わされ得る。
【0037】
合成灰は、気体懸濁の形態で入口側と接触され得る。代替的に、合成灰は、液体懸濁、例えばウオッシュコートの形態で入口側と接触され得る。
【0038】
好ましくは、合成灰は、「乾式装填され」、すなわち、液体の担体を用いずに装填される。そのような乾式装填の結果として、フィルター内の合成灰の分布は、使用中にパティキュレートフィルター上に装填される非合成灰の分布をより密接に模倣したものとなる。したがって、フィルターのフレッシュろ過効率は、長距離の運転後に生じるフィルターのろ過効率をより密接に模倣し得る。
【0039】
装填されると、合成灰は充填層の形態を取り得る。例えば、パティキュレートフィルターがウォールフローフィルターである場合、合成灰は、入口側において開放した複数のチャネルのウォールに対して充填層の形態を取り得る。充填層は、入口側において開放したチャネル内で、チャネルを閉鎖するシーラント材料に対して、すなわち、入口チャネルの出口端部に向かって形成され得る。充填層は通常は多孔質であり、また通常はガス透過性であり、孔は、ガソリン排出物、例えばスート内のパティキュレートマターを捕捉するようなサイズをなしている。充填層の孔は通常、パティキュレートフィルターの多孔質基材の孔よりも小さい。代替的にあるいは追加的に、充填層は、多孔質基材のウォールよりも多孔性が高くてもよい(すなわち、長い経路長を設けることによって高レベルのろ過をもたらし得る)。充填層は、入口側において開放した複数のチャネルのウォールに沿って延び得る。充填層は、レイヤーまたはメンブレン、例えば連続的なレイヤーまたはメンブレンの形態を取り得る。充填層は、複数のチャネルのウォールの全長に沿って、あるいはウォールの長さの一部のみに沿って延び得る。充填層である代わりに、合成灰は、多孔質コーティング、例えばウオッシュコートスラリーとして適用される(すなわち、ウオッシュコートスラリーから誘導される)コーティングの形態をなしてもよい。多孔質コーティングは、上記で議論した充填層と同様の方式で、ウォールフローフィルター内に配置され得る。
【0040】
本方法は、合成灰が装填されるフィルターをか焼することをさらに含み得る。合成灰が装填されるフィルターをか焼するための技法は当該技術分野において知られており、そのような技法の例については上記で言及されている。
【0041】
合成灰は、パティキュレートの形態で装填され得る。パティキュレートは、例えば、10μm未満、または5μm未満のD90を有し得るが、他の粒径分布も採用され得る。合成灰は好ましくは、1μm未満のD90を有するパティキュレートの形態で装填される。そのような粒子分布は、相当な量の合成灰が多孔質基材の孔に進入するのを防止するのを支援し得る。誤解を避けるために言えば、D90の測定値は、Malvern Mastersizer 2000を使用したレーザー回折粒径分析によって得られたものであり、このレーザー回折粒径分析は、ボリュームベースの技法であり(すなわち、D90はDv90(またはD(v、0.90)))、数学的なミー理論モデルを適用して粒径分布を決定するものである。D90測定のための合成灰のサンプルを、35ワットで30秒間にわたる界面活性剤なしの蒸留水中の音波処理によって調製した。
【0042】
好ましい実施形態では、少なくとも入口側に合成灰を装填することは、
入口側を合成灰と接触させることと、
入口側から出口側へのガス流および/または出口側からの減圧を供給し、合成灰をフィルターに対して圧縮することと、を含む。
【0043】
入口側は好ましくは、気体懸濁(すなわち、入口側に向かって合成灰を吹き付けることによって)または液体懸濁(例えば、ウオッシュコート)のいずれかの形態をなす合成灰と接触される。
【0044】
本方法は、装填された合成灰をか焼することをさらに含み得る。か焼することは、結果として得られるパティキュレートフィルターの背圧を低減し得る。
【0045】
さらなる態様において、本発明は、ガソリンエンジンの排気処理システムにおいて使用するためのフィルターのフレッシュろ過効率を向上させるための、合成灰装填の使用を提供する。
【0046】
ここで、本発明について、以下の非限定的な図を参照して説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1A】本発明の実施形態によるパティキュレートフィルター1を概略的に示す斜視図である。
【
図1B】
図1Aに示すパティキュレートフィルター1のA-A線の断面図である。
【
図2】ガソリンエンジン用の排気処理システムの概略図である。
【
図3】本発明の実施形態によるパティキュレートフィルターのX線画像である。
【
図4】本発明の実施形態によるパティキュレートフィルターおよび従来技術のパティキュレートフィルターの背圧特性のプロットである。
【
図5】本発明の実施形態によるパティキュレートフィルターおよび従来技術のパティキュレートフィルターのろ過効率のプロットである。
【
図6】本発明の実施形態によるパティキュレートフィルターと比較のためのフィルターIIIおよびフィルターIVのX線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の実施形態によるパティキュレートフィルター1が
図1Aおよび
図1Bに示されている。この実施形態では、パティキュレートフィルターはウォールフローフィルターである。このウォールフローフィルターは、フィルター1の長手方向(
図1Aに両矢印「a」によって示される)において互いに平行に配置された多数のチャネルを含んでいる。これらの多数のチャネルは、第1のサブセットのチャネル5と第2のサブセットのチャネル10とを含んでいる。
【0049】
これらのチャネルは、第2のサブセットのチャネル10が第1のサブセットのチャネル5よりも幅狭となるように描かれている。しかしながら、これらのチャネルは代替的に、実質的に同じ大きさであってもよい。
【0050】
第1のサブセットのチャネル5は、ウォールフローモノリス1の第1の末端面15上の末端部分において開口しており、また第2の末端面25上の末端部分においてシーリング材料20でシールされている。
【0051】
他方で、第2のサブセットのチャネル10は、ウォールフローモノリス1の第2の末端面25上の末端部分において開口しており、第1の末端面15上の末端部分においてシーリング材料20でシールされている。
【0052】
フィルター1は、チャネルウォール35の孔内に触媒材料を設けられてもよい。モノリス1のチャネルウォール35内に支持された触媒は、排気ガスを処理するための触媒として機能する。
【0053】
合成灰50が、第1のサブセットのチャネル5内に位置し、第2の面25上の末端部分においてシーリング材料20に対して充填される。合成灰の充填層は、チャネルウォール35に沿ってシーリング材料から延びる。
【0054】
したがって、パティキュレートフィルターが排気システムにおいて用いられるとき、第1のサブセットのチャネル5に導入される排気ガスG(
図1Bにおいて、「G」は排気ガスを示し、矢印は排気ガスの流動方向を示す)は、合成灰50、およびチャネル5aとチャネル10aおよび10bの間に挿入されたチャネルウォール35を通過し、次いでモノリス1から流出する。したがって、排気ガス中のパティキュレートマターは合成灰50によって捕捉される。
【0055】
図2に示す排気処理システム100の実施形態では、排気ガス110の流れは、パティキュレートフィルター1を通じて進行する。排気ガス110は、ガソリンエンジン115からダクティング120を通じて排出システム125へと進行する。
【0056】
パティキュレートフィルターは本明細書では単一の構成要素として記述されていることに留意されたい。それにもかかわらず、排気処理システムを形成するとき、使用されるフィルターは、複数のチャネルを互いに接着することによって、あるいは本明細書に記述するように複数のより小さなフィルターを互いに接着することによって形成されてもよい。そのような技術は、当該技術分野において周知であり、また排気処理システムの好適なケーシングおよび構成も同様である。
【0057】
触媒のウォールフローモノリスについて、以下の非限定な例と関連させてこれからさらに説明することにする。
【0058】
例1:
フィルターI:市販されている多孔率300/8、65%の無コートコーディエライトウォールフローフィルターの入口側にZnO粉末を装填することによってパティキュレートフィルターを調製した。このZnO粉末を、コーティングされるフィルターの入口の上の支持メッシュ上に置き、空気の流れを、入口側からウォールフローフィルターを通じて出口側の外へと方向付け、それによって、ZnO粉末を、メッシュを通じてフィルターの中へと引き込み、ZnO粉末を入口チャネルのシーリングプラグに対して圧縮した。約45gのZnO粉末をフィルターに装填し、約25g/Lの装填レベルを得た。
【0059】
フィルターII:第2のパティキュレートフィルターを、フィルターIと同様にして、ただしZnOの代わりにDisperal(登録商標)粉末(高純度の分散性アルミナ水和物)を用いて調製した。
【0060】
フィルターIII(比較):市販されている多孔率300/8、65%の無コートコーディエライトウォールフローフィルターにTWCウオッシュコート(0.4g/in3ウオッシュコート装填、30g/ft3 PGM、(0:27:3、Pt/Pd/Rh))を入口および出口側からコーティングすることによって、別のパティキュレートフィルターを調製した。
【0061】
フィルターIV:まずフィルターIIIにおいて、市販されている多孔率300/8、65%の無コートコーディエライトウォールフローフィルターにTWCウオッシュコート(0.4g/in3ウオッシュコート装填、30g/ft3 PGM(0:27:3、Pt/Pd/Rh))を入口および出口側からコーティングし、500℃でか焼した後に、フィルターIおよびIIと同様にして調製されたコーティング済みフィルターの入口側に45gのDisperal(登録商標)を装填することによって、別のパティキュレートフィルターを調製した。
【0062】
フィルターIおよびIIのX線画像が、入口側を画像の上部にして
図3に示されている[上部:フィルターII(Disperal(登録商標));下部:フィルターI(ZnO)]。暗色のバンドは、フィルターの上部および下部におけるプラグAを示している。フィルターの下部にあるさらなる暗色の陰影は、チャネルの末端プラグに対して圧縮された合成灰Bに対応している。500℃でのか焼の前および後に、パティキュレートフィルターの背圧特性について調べ、その結果が、合成灰を含有しないウォールフローフィルターの結果と共に
図4に示されている(上部から下部の各曲線:Disperal(登録商標)、か焼なし(フィルターII);Disperal(登録商標)、か焼(フィルターIIC);ZnO、か焼なし(フィルターI);ZnOか焼(フィルターIC);無コート(破線))。合成灰を装填されたフィルターは、特にか焼の後、合成灰が装填されていないフィルターに類似した背圧特性を示していることが分かる。
【0063】
フィルターIおよび合成灰が装填されていない無コートパティキュレートフィルターのフレッシュろ過効率を、第1の位置にTWCを用いて測定し(400/4 CPSIを有する1L容積の基材および21g/ft
3(0:18:3、Pt/Pd/Rh)を用いた触媒コーティング)(Euro 5準拠の2Lガソリン直接噴射エンジン;NEDC試験;PNエンジン出力=1.28×10
12)、その結果を
図5に示す。ZnO装填パティキュレートフィルター(右側)のフレッシュろ過効率は91%であるのに対し、合成灰のないパティキュレートフィルターは73%のフレッシュろ過効率を示したことが分かる。これらの結果が示すこととして、本発明のパティキュレートフィルターは、高いフレッシュろ過と低い背圧の有利な組合せをもたらしている。
【0064】
図3と同様に、フィルターIIIおよびIVのX線画像が、入口側を画像の上部にして
図6に示されている(上部:比較用のフィルターIII;下部:フィルターIV)。
【0065】
本発明の好ましい実施形態について本明細書で詳細に説明してきたが、本発明または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、それらの実施形態に対して変形がなされ得ることが当業者には理解されよう。
【0066】
誤解を避けるために、本明細書で引用されたすべての文書の全容が参照によって本明細書に組み込まれる。