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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】車両速度算出装置及び車両速度算出方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/08 20060101AFI20231110BHJP
   G01P 3/56 20060101ALI20231110BHJP
   G01P 21/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
B60L3/08 F
G01P3/56 A
G01P21/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022560732
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039447
(87)【国際公開番号】W WO2022097534
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020185026
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 和貴
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-249127(JP,A)
【文献】中国実用新案第211809637(CN,U)
【文献】特開2016-125856(JP,A)
【文献】特開平06-030509(JP,A)
【文献】特開2016-137731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/08
G01P 3/56
G01P 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車軸の単位時間当たりの回転数を検出する少なくとも2個の軸速度センサと、
線路とは非接触に前記鉄道車両の速度を検出する非接触式速度センサと、
前記軸速度センサが検出した少なくとも2つの第1の検出値及び前記非接触式速度センサが検出した第2の検出値を受信するセンサ受信部と、
前記鉄道車両の直近の車両速度及び加速度より前記鉄道車両の現時点の推定速度を算出する推定速度算出部と、
前記少なくとも2つの第1の検出値、前記第2の検出値及び前記推定速度に基づいて車両速度を決定する速度決定部と
を備え、
前記速度決定部は、
前記軸速度センサを備える車輪の粘着または非粘着の状態に基づいて、前記少なくとも2つの第1の検出値から算出した少なくとも2つの第1の速度、前記第2の検出値から算出した第2の速度及び前記推定速度から、所要の速度を選択して前記車両速度を決定し、
前記軸速度センサを備える車輪が全て非粘着状態にある場合には、前記第2の速度と前記推定速度との比較を行い、両方の速度差が、前記非接触式速度センサから算出される速度の公差の範囲内であれば、前記第2の速度を前記車両速度に決定し、前記公差の範囲外であれば、前記推定速度を前記車両速度に決定する
ことを特徴とする車両速度算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両速度算出装置であって、
前記速度決定部は、
前記軸速度センサを備える車輪が全て非粘着状態にあり、かつ、当該非粘着状態が所定時間を超える場合には、故障と判断する
ことを特徴とする車両速度算出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両速度算出装置であって、
前記速度決定部は、
前記少なくとも2つの第1の速度、前記第2の速度及び前記推定速度から選択した3つの速度が不一致である場合には、前記軸速度センサまたは前記非接触式速度センサを故障として判断する
ことを特徴とする車両速度算出装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の車両速度算出装置であって、
2個の前記軸速度センサを同一の前記車軸に取り付ける
ことを特徴とする車両速度算出装置。
【請求項5】
鉄道車両の車軸の単位時間当たりの回転数を検出する少なくとも2個の軸速度センサが検出する少なくとも2つの第1の検出値から少なくとも2つの第1の速度を算出し、
線路とは非接触に前記鉄道車両の速度を検出する非接触式速度センサが検出した第2の検出値から第2の速度を算出し、
前記鉄道車両の直近の車両速度及び加速度より、前記鉄道車両の現時点の推定速度を算出する速度算出ステップと、
前記軸速度センサを備える車輪の粘着または非粘着の状態に基づいて、前記少なくとも2つの第1の速度、前記第2の速度及び前記推定速度から、所要の速度を選択して前記鉄道車両の車両速度を決定する車両速度決定ステップと
を有し、
前記車両速度決定ステップは、
前記軸速度センサを備える車輪が全て非粘着状態にある場合に、前記第2の速度と前記推定速度との比較を行い、両方の速度差が、前記非接触式速度センサから算出される速度の公差の範囲内であれば、前記第2の速度を前記車両速度に決定し、前記公差の範囲外であれば、前記推定速度を前記車両速度に決定する
ことを特徴とする車両速度算出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の車両速度算出方法であって、
前記軸速度センサを備える車輪が全て非粘着状態にあり、かつ、当該非粘着状態が所定時間を超える場合には、故障と判断する故障判断ステップを
更に有する車両速度算出方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の車両速度算出方法であって、
前記車両速度決定ステップは、
前記少なくとも2つの第1の速度、前記第2の速度及び前記推定速度から選択した3つの速度が不一致である場合には、前記軸速度センサまたは前記非接触式速度センサを故障として判断する
ことを特徴とする車両速度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行速度を算出するための車両速度算出装置及び車両速度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行速度を検出する方法としては、一般的に軸速度センサが用いられている。軸速度センサは、車両の車軸に設置し、車軸の回転数に応じた速度パルスを発生させることができ、この速度パルスと車輪径とを用いることで走行速度を算出する。
【0003】
また、軸速度センサは、安価かつ高精度であるが、一方で、車軸の回転数より走行速度を算出するため、車輪が空転または滑走などの非粘着状態に陥った場合には、正確な車両速度を算出することが困難となる。
【0004】
そのため、近年では、ドップラー効果を利用したドップラー速度センサ、測位衛星を利用したGNSS(Global Navigation Satellite System)、などの非接触式速度センサの利用が進んでいる。この非接触式速度センサは、車輪の粘着状態に左右されないが,一方で、軸速度センサに比べて精度やコスト面において不利となる場合が多い。そこで、非接触式速度センサと軸速度センサとを組み合わせて用いる場合が多い。
【0005】
また、軸速度センサや非接触式速度センサが故障した場合には、その故障を確実に検出する必要がある。
【0006】
そこで、先行技術として、特許文献1には、軸速度センサから求めた走行距離とGNSSによって求めた走行距離とを比較し、その差が大きくなった場合に、故障や空転または滑走が発生したと判定する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、ミリ波センサによって求めた列車速度と、軸速度センサからの速度パルスに基づいて求めた列車速度とを比較し、その差が一定値を超えた場合に、故障が発生したと判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-234978号公報
【文献】特開2017-163623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉄道車両の速度算出装置が故障した場合、故障した車両を停止させることは勿論のこと、故障した車両が走行している線区全体に大きな影響を与えてしまうことになる。そのため、速度算出装置を構成する機器の冗長化を行うことによって速度算出装置の信頼性の向上を図るとするならば、非接触式速度センサは高価であるため、複数個の使用による冗長化はコスト的な観点より容易には実現できないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明に係る車両速度算出装置の代表的な一つは、鉄道車両の車軸の単位時間あたりの回転数を検出する少なくとも2個の軸速度センサと、線路とは非接触に鉄道車両の速度を検出する非接触式速度センサと、軸速度センサが検出した少なくとも2つの第1の検出値及び非接触式速度センサが検出した第2の検出値を受信するセンサ受信部と、鉄道車両の直近の車両速度及び加速度より鉄道車両の現時点の推定速度を算出する推定速度算出部と、少なくとも2つの第1の検出値、第2の検出値及び推定速度に基づいて車両速度を決定する速度決定部とを備え、速度決定部は、軸速度センサを備える車輪の粘着または非粘着の状態に基づいて、少なくとも2つの第1の検出値から算出した少なくとも2つの第1の速度、第2の検出値から算出した第2の速度及び推定速度から、所要の速度を選択して車両速度を決定し、軸速度センサを備える車輪が全て非粘着状態にある場合には、第2の速度と推定速度との比較を行い、両方の速度差が、非接触式速度センサから算出される速度の公差の範囲内であれば、第2の速度を車両速度に決定し、前記公差の範囲外であれば、推定速度を車両速度に決定するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、的確な車両速度の検出が可能であり、また、コストの増加を抑えながら一つの速度センサが故障しても動作継続が可能な車両速度算出装置を構築できることになる。
前記した以外の課題、構成及び効果は、以下に記す「発明を実施するための形態」における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る車両速度算出装置の基本構成を示す図である。
図2】本発明の実施例2に係る車両速度算出装置の基本構成を示す図である。
図3】速度算出器が実行処理する車両速度算出のフローチャートを示す図である。
図4】一定の加速度で減速する様子を模式的に示す図である。
図5】軸速度センサを車軸に取り付けた両方の車輪が共に粘着状態を保った場合の速度算出結果を示す図である。
図6】軸速度センサを車軸に取り付けた一方の車輪のみが非粘着時の場合の速度算出結果を示す図である。
図7】軸速度センサを車軸に取り付けた両方の車輪が共に非粘着状態時の速度算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1及び2について、図面を用いて説明する。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係る車両速度算出装置の基本構成を示す図である。
実施例1に係る車両速度算出装置の基本構成は、車両(1-1)に搭載された、車軸(1-2)と(1-4)の単位時間あたりの回転数を検出する2つの軸速度センサ(1-3)と(1-5)、車軸(1-2)や(1-4)の回転数を用いずに線路とは非接触に車両(1-1)の速度を検出する非接触式速度センサ(1-6)、及び、軸速度センサ(1-3)と(1-5)の出力及び非接触式速度センサ(1-6)の出力から車両速度を算出する速度算出器(1-7)、から構成される。
【0015】
速度算出器(1-7)は、軸速度センサ(1-3)と(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)からの検出値を受信し、センサ毎の速度を算出するセンサ受信部(1-8)、直近の車両速度より現在の推定速度を算出する推定速度算出部(1-9)、及び、センサ受信部(1-8)と推定速度算出部(1-9)とから得た速度情報を基に、車両速度を決定する速度決定部(1-10)、から構成される。
【0016】
非接触式速度センサ(1-6)は、一般的には、ドップラーセンサ、ミリ波センサ、加速度センサまたはGNSSを利用したものなどが使用される。
【0017】
ここで、一般的に、車軸(1-2)と(1-4)の回転数を直接検出できる軸速度センサ(1-3)と(1-5)の方が、非接触式速度センサ(1-6)より速度検出の精度は高い。ただし、車輪(1-11)や(1-12)が空転や滑走などの非粘着状態になった場合、車両速度と車軸(1-2)や(1-4)の回転数とに大きな乖離が生じるため、軸速度センサ(1-3)と(1-5)から算出される速度と実際の車両速度とにも乖離ができてしまう。一方、非接触式速度センサ(1-6)は、測定精度としては軸速度センサ(1-3)と(1-5)に劣るものの、前記したように、車輪(1-11)や(1-12)の状態に依存しない車両速度を検出することができる。
【0018】
次に、速度算出器(1-7)による車両速度の算出方法を説明する。
図3は、速度算出器(1-7)が実行処理する車両速度算出のフローチャートを示す図である。以下、このフローチャートに沿って、各ステップの処理内容を説明する。
【0019】
ステップ(3-1)にて、センサ受信部(1-8)は、軸速度センサ(1-3)と(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)からの各入力値を基に、センサ毎に車両速度を算出する。
【0020】
例えば、軸速度センサとして、車軸が一回転当たりN個のパルスを出力するタイプを使用する場合、計測時間t[s]当たりn個のパルスを受信したとすると、車輪(1-11)や(1-12)の半径をr[m]として、車両速度は、(2π・r・n)/(N・t)[m/s]で算出することができる。
【0021】
一方、非接触式速度センサとしては、このセンサが直接移動速度を報告するタイプや、GNSSのように計測時点での座標点を報告するタイプがある。座標点を報告するタイプの場合、ある短い時間内に移動した距離は直線運動と考えられ、座標点の移動分より算出でき、移動距離を移動時間で除算すれば速度を算出できる。
【0022】
ここで、センサ毎の車両速度の算出は、センサ受信部(1-8)による処理としたが、これに限定されるものではなく、センサ受信部(1-8)はセンサ毎の検出値を受信しそのまま速度決定部(1-10)に出力し、速度決定部(1-10)で、センサ毎の検出値からセンサ毎の車両速度を算出する態様の構成としてもよい。
【0023】
ステップ(3-2)にて、速度決定部(1-10)は、センサ受信部(1-8)よりセンサ毎の車両速度を、また、推定速度算出部(1-9)より推定速度を受信する。ここで、推定速度は、直近の車両速度に基づき予測された速度である。例えば、一定間隔Δtごとに車両速度を算出している場合、このΔtが、車両の速度変化に対し十分短ければ、車両は等加速度運動していると考えることができる。前々回算出された車両速度をv1、前回算出された車両速度をv2とすると、列車の加速度aは(v2-v1)/Δtと考えられ、今回の推定速度v3は、単純に、v2+{(v2-v1)/Δt}Δt=v2+(v2-v1)=2v2-v1と考えることができる。
【0024】
ステップ(3-3)にて、速度決定部(1-10)は、軸速度センサ(1-3)や(1-5)が設置された車輪(1-11)や(1-12)の状態が、粘着状態にあるか、非粘着状態(空転/滑走の状態)であるかを判断する。
【0025】
ここで、空転/滑走の状態判断は、例えば、ある時間内の軸速度センサの速度変化より加速度を求め、一定値以上の加速度を検知したら空転状態、一定値以上の減速度を検知したら滑走状態、にあると判断するなどが考えられる。また、ブレーキを直接制御しているBCU(ブレーキコントロールユニット)や駆動装置などの外部装置より、空転/滑走の状態を得るようにしてもよい。
【0026】
ステップ(3-3)における判断結果により、以下の3通り((a)~(c))に場合分けされる。
(a)軸速度センサ(1-3)と(1-5)が設置された全ての車輪(1-11)と(1-12)が粘着状態(2つ共に粘着状態)にあると判断された場合
ステップ(3-4A)にて、速度決定部(1-10)は、2つの軸速度センサ(1-3)と(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)から算出した各々の速度を比較する。各センサ相互の速度差が所定の規定値を超えた場合、それらセンサから得た値を車両速度の算出には使用しない。この所定の規定値は、車輪径の公差を含めた軸速度センサから算出される速度の公差と、非接触式速度センサから算出される速度の公差とを足した値に設定するなどの方法が考えられる。
【0027】
ステップ(3-4A)における比較結果により、2つ以上のセンサからの車両速度の速度差が所定の規定値の範囲内に収まっている(すなわち、一致している)場合、ステップ(3-5)にて、一致しているセンサからの値の内のどれかを優先して車両速度とする。図3では、使用しているセンサの内で一番精度の良い軸速度を優先して車両速度とする方法として、括弧書きで「(軸速度優先)」としている。ただし、この方法に限定されるものではなく、安全を考慮し一番速い速度を優先して車両速度とする方法などを用いもよい。
【0028】
その後、ステップ(3-6)にて、ステップ(3-5)で算出された車両速度は推定速度算出部(1-9)に渡され、推定速度算出部(1-9)は、次回の速度演算のための推定速度を算出する。なお、推定速度算出部(1-9)によるこの推定速度の算出は、ステップ(3-6)に限定されるものではなく、ステップ(3-2)より前に、前回算出した車両速度を使用して算出する方法でもよい。
【0029】
(b)軸速度センサ(1-3)と(1-5)が設置されているどちらか片方の車輪1(1-11)もしくは車輪2(1-12)が粘着状態で、残る片方が非粘着状態と判断された場合
ステップ(3-4B)にて、速度決定部(1-10)は、粘着している側の軸速度センサ及び非接触式速度センサ(1-6)から各々算出した速度と推定速度とを比較する。比較に供する一方のセンサの速度と推定速度との速度差が、所定の規定値を超えた場合、そのセンサの値は車両速度の算出には使用しない。
【0030】
ステップ(3-4B)における比較により、2つのセンサからの車両速度の速度差が所定の規定値の範囲内に収まっている(すなわち、一致している)場合、ステップ(3-5)にて、一致しているセンサからの値の内のどれかを優先して車両速度とする。この時、推定速度の値は使用せずに、前述の(a)と同様に、使用しているセンサの内で一番精度の良いものを優先して車両速度とする方法や、安全を考慮し一番速い速度を優先して車両速度とする方法などを用いる。
【0031】
(c)軸速度センサ(1-3)と(1-5)が設置されている車輪(1-11)と(1-12)が共に非粘着状態と判断された場合
ステップ(3-4C)にて、速度決定部(1-10)は、両方の車輪(1-11)と(1-12)が非粘着状態(空転/滑走の状態)を継続している時間が、規定時間内であるか否かを調べる。
【0032】
これに関しては、車輪の非粘着状態は、通常一過性の状態であり、長時間続くことは正常な状態とは言えず、両方の車輪(1-11)と(1-12)が非粘着状態になると、軸速度センサ(1-3)と(1-5)が共に使用不可能となる。そのため、非接触式速度センサ(1-6)及び推定速度のみの使用となり、長時間の使用は精度的に好ましくないので、非粘着状態が規定時間外である場合には、ステップ(3-9)へ進む。
【0033】
なお、前記した規定時間は、非粘着状態になり得る最大時間などが考えられるが、この規定時間は、ブレーキ力や重量などの車両特性により決められることになる。また、一定値ではなく、加速時や減速時などにより規定時間を変化させてもよい。
非粘着状態が規定時間内の場合には、ステップ(3-7)へ進む。
【0034】
ステップ(3-7)にて、速度決定部(1-10)は、非接触式速度センサ(1-6)から算出した速度と推定速度とを比較する。この比較により、速度決定部(1-10)は、非接触式速度センサ(1-6)から算出した速度と推定速度との速度差が、非接触式速度センサ(1-6)から算出される速度の公差の範囲内に収まっている場合には、ステップ(3-5)にて、非接触式速度センサ(1-6)からの値を車両速度とする。他方、この公差の範囲外である場合には(非接触式速度センサ(1-6)の故障などが想定される)、ステップ(3-8)にて、速度決定部(1-10)は、推定速度を車両速度とする。
【0035】
また、以上の説明で、ステップ(3-4A)とステップ(3-4B)で、3つのセンサから算出した速度についてその相互の速度値が共に一致しなかった場合、及び、ステップ(3-4C)で、両方の車輪(1-11)と(1-12)が非粘着状態(空転/滑走の状態)である時間が規定時間外の場合、ステップ(3-9)にて、速度決定部(1-10)は、故障と判断し、システムを停止するなどの処置を講じる。
【0036】
次に、図4から図7を使用して、本発明による車両速度の算出結果について説明する。図4から図7では、横軸は車両位置、縦軸は車両速度、を示している。
図4は、ある一定速度で走行中の車両(1-1)がブレーキをかけ、一定の加速度で減速する様子を模式的に示す図である。
【0037】
次に、図5から図7は、図4で示す車両(1-1)の速度に対して、本発明により算出した結果を示す図である。前述のとおり、車両が走行中にブレーキをかけた場合、その車輪(1-11)と(1-12)は滑走する可能性がある。
【0038】
図5は、ブレーキをかけ車両(1-1)が減速を開始してから停止するまでに、軸速度センサ(1-3)を車軸(1-2)に取り付けた車輪(1-11)と軸速度センサ(1-5)を車軸(1-4)に取り付けた車輪(1-12)とが、共に粘着状態を保った場合の算出結果を示す図である。
【0039】
図5では、減速開始(5-1)から車両停止(5-2)までに、車輪(1-11)と(1-12)とは滑走または空転を行わないため、速度算出器(1-7)は、精度の良い軸速度センサ(1-3)と(1-5)の値を基にした速度を、車両速度と算出している。この場合に、仮に、軸速度センサ1(1-3)、軸速度センサ2(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)の3つの内の一つが故障したとしても、残りの2つが正常に機能しているため、図3に示すフローチャートの流れは変わらず、機能及び精度を保つことができる。
【0040】
図6は、ブレーキをかけ車両(1-1)が減速を開始してから停止するまでに、軸速度センサ(1-3)と(1-5)を備える車輪(1-11)と(1-12)のどちらか一つが滑走または空転し非粘着状態となり、残りは粘着状態を保った場合の算出結果を示す図である。
【0041】
図6では、減速開始(6-1)から車両停止(6-4)までの間に、軸速度センサ1(1-3)が取り付けられている車輪1(1-11)が地点(6-2)から地点(6-3)の区間で滑走している状態となる。そのため、地点(6-2)から地点(6-3)の区間において、図6の一点鎖線で示すように、軸速度センサ1(1-3)から得られた速度は、大きく蛇行した値を示している。図3に示すフローチャートでいうと、ステップ(3-4B)にて、軸速度センサ1(1-3)から得られる速度は車両速度算出から外される。
【0042】
一方で、車輪2(1-12)は粘着状態を保っているため、図6の二点鎖線で示すように(図中では実線とほぼ同様の特性)、軸速度センサ2(1-5)から得られる速度は蛇行することがない。
【0043】
また、図6の破線で示すように、非接触式速度センサ(1-6)から得られる速度は車輪の粘着/非粘着状態に左右されることが無いため、軸速度センサ2(1-5)から得られる速度と大差なく計測できる。そのため、速度算出器(1-7)は、非接触式速度センサ(1-6)より高精度な軸速度センサ2(1-5)の値を基にした速度を車両速度とする(図3のステップ(3-5))。
【0044】
ここで、もし、軸速度センサ1(1-3)、軸速度センサ2(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)の3つのうち一つが故障した場合について説明する。
・軸速度センサ1(1-3)が故障した場合、図3のステップ(3-3)にて非粘着状態の車輪に設置された軸速度センサ(ここでは、軸速度センサ1(1-3))は速度算出の入力条件から外されているため、図3のフローチャートの流れは変わらず、機能及び精度を保つことができる。
【0045】
・車輪が粘着状態下の軸速度センサ2(1-5)が故障した場合、軸速度センサ2(1-5)から算出した車両速度は、図3のステップ(3-4B)にて、非接触式速度センサ(1-6)より算出された速度とは比較不一致となり、また、推定速度とも比較不一致となるため、車両速度にはなり得ない。よって、非接触式速度センサ(1-6)の値が車両速度として判断される。
【0046】
・非接触式速度センサ(1-6)が故障した場合、非接触式速度センサ(1-6)から算出した車両速度は、図3のステップ(3-4B)にて、軸速度センサ2(1-5)より算出された速度とは比較不一致となり、また、推定速度とも比較不一致になる。しかし、軸速度センサ2(1-5)と推定速度との範囲比較は一致するため、機能及び精度を保つことができる。
【0047】
また、車輪(1-11)と(1-12)が粘着状態にある区間、図6の地点(6-1)から地点(6-2)の区間及び地点(6-3)から地点(6-4)のに区間の説明は、図5を使った前述の説明と同一である。
【0048】
図7は、ブレーキをかけ車両(1-1)が減速を開始してから停止するまでに、軸速度センサ(1-3)と(1-5)を備える車輪(1-11)と(1-12)の両方共に滑走または空転した場合(非粘着状態)の算出結果を示す図である。
【0049】
図7では、減速開始(7-1)から車両停止(7-6)までの間に、車輪1(1-11)が地点(7-2)から地点(7-4)の区間で、車輪2(1-12)が地点(7-3)から地点(7-5)の区間で、それぞれ滑走している状態となる。このうち、地点(7-3)から地点(7-4)の区間では、車輪1(1-11)と車輪2(1-12)とが共に滑走している。この区間では、図7の一点鎖線及び二点鎖線が示すように、軸速度センサ1(1-3)及び軸速度センサ2(1-5)から得られた速度は、大きく蛇行した値を示す。
【0050】
従って、図3のステップ(3-3)にて、両方の軸速度センサからの値は車両速度算出から外される。他方、非接触式速度センサ(1-6)から得られる速度は、車輪の粘着/非粘着状態に左右されることが無いため、速度算出器(1-7)はこの値を車両速度とする。
【0051】
ここで、もし、軸速度センサ1(1-3)、軸速度センサ2(1-5)及び非接触式速度センサ(1-6)の3つのうち一つが故障した場合について説明する。
・軸速度センサ1(1-3)もしくは軸速度センサ2(1-5)が故障した場合、図3のステップ(3-3)にて、非粘着状態の車輪に設置された軸速度センサは速度算出の入力条件から外されているため、図3のフローチャートの流れは変わらず、機能及び精度を保つことができる。
【0052】
・非接触式速度センサ(1-6)が故障した場合、車輪1(1-11)及び車輪2(1-12)の両方が滑走している時間が規定時間内である場合、速度決定部(1-10)は、推定速度を車両速度とする。また、両方が滑走している時間が規定時間外である場合、速度決定部(1-10)は、故障と判断し、システムを停止するなどの処置を講じる。
【0053】
また、車輪(1-11)と(1-12)が粘着状態にある区間、図7の地点(7-1)から地点(7-2)の区間及び地点(7-5)から地点(7-6)の区間の説明は、図5を使った前述の説明と同一である。
【0054】
さらに、車輪1(1-11)もしくは車輪2(1-12)のどちら一方が滑走し、残る片方の車輪が粘着状態を保っている状態の区間、地点(7-2)から地点(7-3)の区間及び地点(7-4)から地点(7-5)の区間の説明は、図6を使った前述の説明と同一である。
【0055】
以上、実施例1に係る車両速度算出装置を用いた車両速度算出については、車軸に設ける軸速度センサが2個の場合を想定して説明したが、この場合に限定されるものではなく、2個より多い複数個であってもよい。ただし、軸速度センサの数を増やせば、車輪が非粘着状態となるリスクをより小さくできるが、車両艤装やメンテナンスを含めたコストの増大や多数決から最終的な車両速度を決定するための処理態様が複雑化することを伴うことになる。
【実施例2】
【0056】
本発明に係る実施例2は、2個の軸速度センサを同一の車軸に取り付けて使用する場合の例である。
図2は、本発明の実施例2に係る車両速度算出装置の基本構成を示す図である。軸速度センサ1(2-3)と軸速度センサ2(2-4)とを、同じ車軸(2-2)に取り付けて構成している点が、実施例1と異なる点である。
【0057】
軸速度センサ1(2-3)と軸速度センサ2(2-4)とを同じ車軸(2-2)に取り付ける形態は、製造側で複数のセンサをパッケージ化することが可能で、車両艤装にかかるコストやメンテナンス性に優れる。
【0058】
一方、図1に示す実施例1のように、異なる車軸にそれぞれ軸速度センサを取り付けた場合は、軸速度センサを空間的に離れた位置に設置するため、飛び石などによる共通要因による故障を防ぐことができる。また、二つの車輪(1-11)と(1-12)とが非粘着状態に陥らない限り、軸速度センサを使用することができ、検出精度を保つことができる。
【0059】
なお、実施例2による処理内容自体は、先の実施例1と同じになるが、軸速度センサ1(2-3)と軸速度センサ2(2-4)とが同じ車軸(2-2)に取り付けられているため、図3のステップ(3-3)からステップ(3-4B)側に分岐する場合は発生しないことになる。
【0060】
以上、本発明の2つの実施例について説明したが、本発明は、前述した2つの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1-1,2-1 車両、1-2 車軸1、1-3,2-3 軸速度センサ1、1-4 車軸2、1-5,2-4 軸速度センサ2、1-6,2-5 非接触式速度センサ、1-7,2-6 速度算出器、1-8,2-7 センサ受信部、1-9,2-8 推定速度算出部、1-10,2-9 速度決定部、1-11 車輪1、1-12 車輪2、2-2 車軸、2-10 車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7