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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/70 20060101AFI20231110BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231110BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20231110BHJP
【FI】
G05F1/70
H02M7/48 R
H02M7/48 M
H02M7/49
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023552563
(86)(22)【出願日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2023010304
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼中 幸太
(72)【発明者】
【氏名】田中 美和子
(72)【発明者】
【氏名】椋木 香帆
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】奥山 涼太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健一
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108967(JP,A)
【文献】国際公開第2015/102060(WO,A1)
【文献】特許第6818191(JP,B1)
【文献】特開2013-251933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 1/70
H02M 7/48
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力系統に接続される電力変換装置であって、
複数のアームを含む電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置とを備え、
各アームは、カスケードに接続された複数の変換器セルを含み、
各変換器セルは、
一対の入出力端子と、
複数の半導体スイッチング素子と、
前記複数の半導体スイッチング素子を介して前記一対の入出力端子に接続された蓄電素子とを含み、
前記制御装置は、
前記交流電力系統の交流電圧の検出値に基づいて正相無効電流指令値を演算する交流電圧制御部と、
前記電力変換器を構成する各変換器セルの前記蓄電素子の電圧の代表値に基づいて正相有効電流指令値を演算する直流電圧制御部と、
前記複数のアーム間での前記蓄電素子の電圧のアンバランスを抑制するために、前記複数のアームのそれぞれのアーム電流指令値を生成する相バランス制御部と、
前記それぞれのアーム電流指令値に基づいて第1の逆相無効電流指令値および第1の逆相有効電流指令値を演算する第1の逆相電流指令値演算部と、
前記正相無効電流指令値、前記正相有効電流指令値、前記第1の逆相無効電流指令値、および前記第1の逆相有効電流指令値に基づいて、前記交流電力系統の交流電流を制御する出力電流制御部とを含み、
前記出力電流制御部は、前記複数のアームをそれぞれ流れるアーム電流の大きさが電流許容最大値以上の場合に、前記アーム電流の大きさが前記電流許容最大値未満の場合に比べて、正相無効電流を制限する、電力変換装置。
【請求項2】
前記出力電流制御部は、前記第1の逆相無効電流指令値および前記第1の逆相有効電流指令値に基づいて第1の逆相電流指令値の大きさを演算し、
前記出力電流制御部は、前記アーム電流の大きさが前記電流許容最大値以上の場合に、前記第1の逆相電流指令値の大きさが大きいほど前記正相無効電流指令値をより制限する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記出力電流制御部は、前記電流許容最大値から前記第1の逆相電流指令値の大きさを減算した値を上限値とし、前記上限値の符号を反転した値を下限値として、前記正相無効電流指令値を制限する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記出力電流制御部は、大きさが制限された前記正相無効電流指令値に前記第1の逆相無効電流指令値を加算することにより、無効電流指令値を演算し、
前記出力電流制御部は、前記交流電力系統の交流電流の検出値に基づく正相無効電流が前記無効電流指令値に追従するように前記正相無効電流を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記交流電力系統の交流電圧に含まれる逆相電圧を補償するように第2の逆相無効電流指令値および第2の逆相有効電流指令値を演算する第2の逆相電流指令値演算部をさらに備え、
前記出力電流制御部は、前記第2の逆相無効電流指令値および前記第2の逆相有効電流指令値にさらに基づいて、前記交流電力系統の交流電流を制御する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記出力電流制御部は、前記第1の逆相無効電流指令値および前記第1の逆相有効電流指令値に基づいて第1の逆相電流指令値の大きさを演算し、前記第2の逆相無効電流指令値および前記第2の逆相有効電流指令値に基づいて第2の逆相電流指令値の大きさを演算し、前記第1の逆相電流指令値の大きさおよび前記第2の逆相電流指令値の大きさの大きい方を逆相電流指令値の最大値として決定し、
前記出力電流制御部は、前記アーム電流の大きさが前記電流許容最大値以上の場合に、前記逆相電流指令値の最大値が大きいほど前記正相無効電流指令値をより制限する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記出力電流制御部は、前記電流許容最大値から前記逆相電流指令値の最大値を減算した値を上限値とし、前記上限値の符号を反転した値を下限値として、前記正相無効電流指令値を制限する、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記出力電流制御部は、大きさが制限された前記正相無効電流指令値に前記第1の逆相無効電流指令値および前記第2の逆相無効電流指令値を加算することにより、無効電流指令値を演算し、
前記出力電流制御部は、前記交流電力系統の交流電流の検出値に基づく正相無効電流が前記無効電流指令値に追従するように前記正相無効電流を制御する、請求項5~7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に設置される大容量の電力変換装置として、複数の単位変換器(以下、「変換器セル」と称する)がカスケードに接続されたモジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)が知られている。各変換器セルは、複数の半導体スイッチング素子と蓄電素子(代表的には、キャパシタ)とを備える。各変換器セルは、半導体スイッチング素子をオンオフさせることにより、キャパシタの両端の電圧及びゼロ電圧を出力する。
【0003】
MMCでは、所望の制御出力を得るために、個々の変換器セルの蓄電素子の電圧(すなわち、キャパシタ電圧)を目標値近辺に維持する必要がある。しかしながら、キャパシタ間の電圧ばらつきにより、相間のキャパシタの電圧が不平衡となる場合がある。相間のキャパシタ電圧が不平衡になると、意図しない循環電流の発生等によってMMCの制御特性が悪化することが懸念される。そのため、この不平衡を抑制するためのキャパシタ電圧の相バランス制御が重要となる。
【0004】
MMCの過負荷状態とは、MMCを構成するいずれかの変換器セルにおいて、キャパシタ電圧が、過電圧保護機能が動作するレベルまで過上昇すること、またはキャパシタ電圧が、低電圧保護機能が動作するレベルまたは過低下することをいう。MMCが過負荷状態になると、上記の保護機能が動作する結果、MMCの動作が停止する虞がある。
【0005】
電力系統の安定化のために設置される無効電力補償装置は、系統事故時の場合においても無効電力出力を継続することが要求される。MMCによって構成された無効電力補償装置においても、系統事故時にMMCが過負荷状態になることを防止して無効電力出力を継続する必要がある。
【0006】
たとえば、特許文献1(国際公開第2022/085101号)は、過電圧または過電流によってMMC方式の無効電力補償装置が保護停止することを防止するための構成を開示する。具体的にこの文献に開示された無効電力補償装置の「変換器制御部は、交流電圧検出部と出カリミット部とを備える。交流電圧検出部は、電力変換器が接続されている交流電力系統の電圧情報を検出する。出カリミット部は、交流電圧検出部が検出する電圧情報に基づいて、電力変換器の出力無効電力の制限の要否を判断し、出力無効電力の制限が必要な場合、電力変換器の出力無効電力を制限する」(特許文献1の要約を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2022/085101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された無効電力補償装置は、系統事故により系統電圧の不平衡率が高くなった場合には、過電圧、過電流によるMMCの保護停止を有効に防止し得る。しかしながら、系統電圧の不平衡率が低い場合にMMCが過負荷運転状態になったとしても、出力無効電力は制限されない。このため、過電圧保護または低電圧保護が機能してMMCが運転停止になる場合があり得る。
【0009】
本開示は、上記の問題点を考慮したものであり、その目的の一つは、過負荷状態に起因した過電圧および低電圧によって自装置が保護停止することを確実に防止可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態の電力変換装置は、交流電力系統に接続され、複数のアームを含む電力変換器と、電力変換器を制御する制御装置とを備える。各アームは、カスケードに接続された複数の変換器セルを含む。各変換器セルは、一対の入出力端子と、複数の半導体スイッチング素子と、複数の半導体スイッチング素子を介して一対の入出力端子に接続された蓄電素子とを含む。制御装置は、交流電圧制御部と、直流電圧制御部と、相バランス制御部と、第1の逆相電流指令値演算部と、出力電流制御部とを含む。交流電圧制御部は、交流電力系統の交流電圧の検出値に基づいて正相無効電流指令値を演算する。直流電圧制御部は、電力変換器を構成する各変換器セルの蓄電素子の電圧の代表値に基づいて正相有効電流指令値を演算する。相バランス制御部は、複数のアーム間での蓄電素子の電圧のアンバランスを抑制するために、複数のアームのそれぞれのアーム電流指令値を生成する。第1の逆相電流指令値演算部は、それぞれのアーム電流指令値に基づいて第1の逆相無効電流指令値および第1の逆相有効電流指令値を演算する。出力電流制御部は、正相無効電流指令値、正相有効電流指令値、第1の逆相無効電流指令値、および第1の逆相有効電流指令値に基づいて、交流電力系統の交流電流を制御する。出力電流制御部は、複数のアームをそれぞれ流れるアーム電流の大きさが電流許容最大値以上の場合に、アーム電流の大きさが電流許容最大値未満の場合に比べて、正相無効電流を制限する。
【発明の効果】
【0011】
上記の実施形態によれば、アーム電流の大きさが電流許容最大値以上の場合に正相無効電流指令値の大きさを制限することによって、過負荷状態に起因した過電圧および低電圧によって自装置が保護停止することを確実に防止可能な電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1による電力変換装置の概略構成図である。
図2】ハーフブリッジ型の変換器セルの構成を示す回路図である。
図3】フルブリッジ型の変換器セルの構成を示す回路図である。
図4図1の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図5図4の直流電圧制御部の構成例を示すブロック図である。
図6図4の相バランス制御部の構成例を示すブロック図である。
図7図4の逆相電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。
図8図4の循環電流制御部の構成例を示すブロック図である。
図9図4の交流電圧制御部の構成例を示すブロック図である。
図10図4の出力電流制御部の構成例を示すブロック図である。
図11】実施の形態2の電力変換装置における制御装置の構成例を示すブロック図である。
図12図11に示す逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。
図13図11の出力電流制御部の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。なお、以下の説明では、無効電力補償装置を例に挙げて説明するが、本開示のMMC型の電力変換装置はHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)にも適用可能である。
【0014】
実施の形態1.
[三相デルタ結線MMC型の電力変換装置の概略構成]
図1は、実施の形態1による電力変換装置1の概略構成図である。電力変換装置1は、デルタ結線カスケード方式の三相MMC型の電力変換器2と、その制御装置3とを備える。
【0015】
電力変換器2は、変圧器4と、三相の交流ラインUL,VL,WLとを含む。変圧器4の一次巻き線は交流電力系統12のU相、V相、W相の送電線にそれぞれ接続される。変圧器4の二次巻き線は、交流ラインUL,VL,WLの第一端子にそれぞれ接続される。
【0016】
電力変換器2は、交流電力系統12に対して、変圧器4を介して無効電力を注入または吸収する無効電力補償装置として機能する。具体的には、交流電力系統12の三相交流電圧(以下、「系統電圧」ともいう)が低くなった場合には、電力変換器2は、系統電圧を上げるように交流電力系統12に無効電力を注入する。一方、系統電圧が高くなった場合には、電力変換器2は、系統電圧を下げるように交流電力系統12から無効電力を吸収する。すなわち、電力変換器2は、交流電力系統12に対して、系統電圧と直交する電流を注入または吸収することで、無効電力を補償できる。
【0017】
電力変換器2は、アームA1~A3をさらに含む。アームA1は、U相の交流ラインULの第二端子とV相の交流ラインVLの第二端子との間に接続される。アームA2は、V相の交流ラインVLの第二端子とW相の交流ラインWLの第二端子との間に接続される。アームA3はW相の交流ラインWLの第二端子とU相交流ラインULの第二端子との間に接続される。すなわち、アームA1~A3はデルタ結線で接続されている。
【0018】
なお、アームA1~A3は、スター結線で接続されていてもよい。この場合、アームA1は、U相の交流ラインULの第二端子と共通の中性点との間に接続される。アームA2は、V相の交流ラインVLの第二端子と上記の共通の中性点との間に接続される。アームA3は、W相の交流ラインWLの第二端子と上記の共通の中性点との間に接続される。
【0019】
アームA1~A3の各々は、リアクトル5とN個(Nは2以上の整数)の変換器セル6とを有する。したがって、電力変換器2は合計3N個の変換器セル6を有している。図1の例では、N=3の場合が例示的に示されている。N個の変換器セル6は互いに直列接続されている。リアクトル5はデルタ結線内を流れる循環電流を抑制するために、各アーム(A1~A3)においてN個の変換器セル6と直列に接続される。
【0020】
複数の変換器セル6の各々は、制御装置3からの制御信号に従って双方向の電力変換を行なう。変換器セル6の構成例については、図2および図3を参照して後述する。
【0021】
電力変換装置1は、さらに、各アーム(A1~A3)に配置されたアーム電流検出部13と、交流電力系統12に配置された交流電流検出部14および交流電圧検出部15とを備える。
【0022】
アーム電流検出部13は、アームA1に流れる電流Iuv、アームA2に流れる電流Ivw、およびアームA3に流れる電流Iwuを検出する。交流電流検出部14は、交流電力系統12のU相交流電流Iu、V相交流電流Iv、およびW相交流電流Iwを検出する。交流電圧検出部15は、交流電力系統12のU相交流電圧Vu、V相交流電圧Vv、およびW相交流電圧Vwを検出する。検出されたこれらの電流および電圧を表す信号は、制御装置3に入力される。
【0023】
[変換器セル6の構成例]
以下、図2および図3を参照して変換器セル6の構成例について説明する。図2ではハーフブリッジ型の構成例を示し、図3ではフルブリッジ型の構成例を示す。変換器セル6の構成として、図2および図3以外の構成であっても構わない。
【0024】
図2は、ハーフブリッジ型の変換器セル6の構成を示す回路図である。図2の変換器セル6は、2つの半導体スイッチング素子8p,8nを直列接続して形成した直列体と、整流素子9p,9n(典型的にはダイオード)と、蓄電素子7(典型的にはキャパシタ)と、電圧検出部11と、入出力端子P1,P2とを備える。
【0025】
整流素子9p,9nは、半導体スイッチング素子8p,8nと逆並列に(すなわち、並列かつ逆バイアス方向に)接続される。半導体スイッチング素子8pおよび8nの直列体と蓄電素子7とは並列接続される。電圧検出部11は、蓄電素子7の両端間の電圧Vcap(キャパシタ電圧Vcapとも称する)を検出する。
【0026】
半導体スイッチング素子8p,8nの直列体と、整流素子9p,9nとによってハーフブリッジ回路10Hが構成される。半導体スイッチング素子8nの両端子は、入出力端子P1,P2とそれぞれ接続される。したがって、蓄電素子7は、ハーフブリッジ回路10Hを介して入出力端子P1,P2に接続される。
【0027】
変換器セル6は、半導体スイッチング素子8p,8nのスイッチング動作により、蓄電素子7の電圧Vcapまたはゼロ電圧を、入出力端子P1およびP2の間に出力する。半導体スイッチング素子8pがオン、かつ半導体スイッチング素子8nがオフとなったときに、変換器セル6からは、蓄電素子7の電圧Vcapが出力される。半導体スイッチング素子8pがオフ、かつ半導体スイッチング素子8nがオンとなったときに、変換器セル6は、ゼロ電圧を出力する。
【0028】
なお、半導体スイッチング素子8pの両端子が、入出力端子P1,P2とそれぞれ接続されていてもよい。この場合も、半導体スイッチング素子8p,8nのオンオフ動作により、変換器セル6は、入出力端子P1,P2から蓄電素子7の電圧Vcapおよびゼロ電圧を出力する。
【0029】
図3は、フルブリッジ型の変換器セル6の構成を示す回路図である。図3の変換器セル6は、2つの半導体スイッチング素子8p1,8n1を直列接続して形成された第1の直列体と、2つ半導体スイッチング素子8p2,8n2を直列接続して形成された第2の直列体と、整流素子9p1,9n1,9p2,9n2と、蓄電素子7と、電圧検出部11と、入出力端子P1,P2とを備える。
【0030】
第1の直列体と、第2の直列体と、蓄電素子7とが並列接続される。整流素子9p1,9n1は、半導体スイッチング素子8p1,8n1とそれぞれ逆並列に接続される。整流素子9p2,9n2は、半導体スイッチング素子8p2,8n2とそれぞれ逆並列に接続される。半導体スイッチング素子8p1,8n1,8p2,8n2および整流素子9p1,9n1,9p2,9n2によってフルブリッジ回路10Fが構成される。電圧検出部11は、蓄電素子7の両端間の電圧Vcapを検出する。
【0031】
半導体スイッチング素子8p1および半導体スイッチング素子8n1の中点は、入出力端子P1と接続される。同様に、半導体スイッチング素子8p2および半導体スイッチング素子8n2の中点は、入出力端子P2と接続される。したがって、蓄電素子7は、フルブリッジ回路10Fを介して入出力端子P1,P2に接続される。変換器セル6は、半導体スイッチング素子8p1,8n1,8p2,8n2のスイッチング動作により、蓄電素子7の電圧Vcapもしくは-Vcapまたはゼロ電圧を、入出力端子P1,P2の間に出力する。
【0032】
図2および図3において、半導体スイッチング素子8p,8n,8p1,8n1,8p2,8n2は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、GCT(Gate Commutated Turn-off)サイリスタなどの自己消弧型の半導体スイッチング素子によって構成される。
【0033】
なお、以下の説明において、半導体スイッチング素子を総称する場合または任意の一つを示す場合に、半導体スイッチング素子8と記載する。また、整流素子を総称する場合または任意の一つを示す場合に、整流素子9と記載する。
【0034】
図1に示されるように、変換器セル6はカスケード接続されている。したがって、図2および図3の各々において、入出力端子P1は、隣接する一方の変換器セル6の入出力端子P2又は対応する一方の交流ラインの第二端子に接続される。入出力端子P2は、隣接する他方の変換器セル6の入出力端子P1又は対応する他方の交流ラインの第二端子に接続される。
【0035】
[制御装置の概略構成]
図4は、図1の制御装置3の概略構成を示すブロック図である。図4に示すように、制御装置3は、直流電圧制御部20と、相バランス制御部21と、逆相電流指令値演算部22と、循環電流制御部23と、交流電圧制御部24と、出力電流制御部25と、電圧指令値演算部26と、ゲート信号生成部27とを備える。これらの構成要素のより詳細な構成および動作について以下、順に説明する。
【0036】
なお、制御装置3は、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)および少なくとも1つのメモリを含む少なくとも1つのコンピュータに基づいて構成できる。もしくは、制御装置3の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路を用いて構成することも可能である。
【0037】
[直流電圧制御部20]
図5は、図4の直流電圧制御部20の構成例を示すブロック図である。図5を参照して、直流電圧制御部20は、全電圧代表値演算部31と、減算器32と、制御器33とを備える。直流電圧制御部20には、変換器セル6ごとに電圧検出部11で検出された全て(ここでは3N個)の変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapと、直流全電圧指令値Vdc*とが入力される。
【0038】
全電圧代表値演算部31は、全変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapから全キャパシタ電圧Vcapを代表する全電圧代表値Vdc_pを演算する。全電圧代表値Vdc_pは、全変換器セル6のうちの少なくとも一部のキャパシタ電圧の平均値であってもよいし、中央値であってもよく、全ての変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの大きさを反映するものであれば、特に限定されない。
【0039】
減算器32は、直流全電圧指令値Vdc*から、全電圧代表値演算部31によって演算された全電圧代表値Vdc_pを減算することにより偏差ΔVdcを演算する。
【0040】
制御器33は、減算器32によって算出された偏差ΔVdcをゼロにするためのフィードバック制御演算を実行することにより、正相有効電流指令値Iq*を生成する。制御器33は、比例演算(P)および積分演算(I)の実行結果を加算するPI制御器であってもよいし、その他の制御器であってもよい。
【0041】
なお、本開示では、電圧ベクトルの方向をq軸とし、有効電力成分をq軸成分で表し、無効電力成分をd軸成分で表す。
【0042】
[相バランス制御部21]
図6は、図4の相バランス制御部21の構成例を示すブロック図である。図6を参照して、相バランス制御部21は、電圧演算部51と、減算器52~57と、制御器58~60と、乗算器61~63とを備える。
【0043】
相バランス制御部21は、電圧検出部11で検出された全ての変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの検出値の入力を受ける。相バランス制御部21は、全キャパシタ電圧Vcapの検出値に基づいて、各相間で変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapを均衡化するためのアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*を生成する。
【0044】
具体的に、電圧演算部51は、全ての変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの検出値から、全電圧代表値Vdc_p、UV相電圧代表値Vdc_uv、VW相電圧代表値Vdc_vw、およびWU相電圧代表値Vdc_wuを演算する。
【0045】
ここで、全電圧代表値は、Vdc_pは、全ての変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの代表値である。UV相電圧代表値Vdc_uvは、アームA1を構成する変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの代表値である。VW相電圧代表値Vdc_vwは、アームA2を構成する変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの代表値である。WU相電圧代表値Vdc_wuは、アームA3を構成する変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの代表値である。これらの代表値は、たとえば、該当する変換器セル6の少なくとも一部のキャパシタ電圧Vcapの平均値または中央値など、該当する変換器セル6のキャパシタ電圧Vcapの大きさを反映するものであれば、特に限定されない。
【0046】
減算器52は、全電圧代表値Vdc_pとUV相電圧代表値Vdc_uvとの偏差ΔVuvを求める。減算器53は、全電圧代表値Vdc_pとVW相電圧代表値Vdc_vwとの偏差ΔVvwを求める。減算器54は、全電圧代表値Vdc_pとWU相電圧代表値Vdc_wuとの偏差ΔVwuを求める。
【0047】
減算器55は、偏差ΔVuvから、直流電圧指令値Vdc*と全電圧代表値Vdc_pとの偏差ΔVdcを減算する。減算器56は、偏差ΔVvwから偏差ΔVdcを減算する。減算器57は、偏差ΔVwuから偏差ΔVdcを減算する。これにより、偏差ΔVuv,ΔVvw,ΔVwuの各々から、各相の共通成分である零相成分が除去される。
【0048】
制御器58は、減算器55によって算出された偏差ΔVuv-ΔVdcをゼロにするためのフィードバック制御演算を実行する。制御器58は、PI制御器であってもよいし、その他の制御器であってもよい。同様に、制御器59は、減算器56によって算出された偏差ΔVvw-ΔVdcをゼロにするためのフィードバック制御演算を実行する。制御器60は、減算器57によって算出された偏差ΔVwu-ΔVdcをゼロにするためのフィードバック制御演算を実行する。制御器59,60についても、PI制御器であってもよいし、その他の制御器であってもよい。
【0049】
乗算器61は、制御器58の出力とアーム電圧Vuvとを乗算して、UV相アーム電流指令値Iuv*を求める。乗算器62は、制御器59の出力とアーム電圧Vvwとを乗算して、VW相アーム電流指令値Ivw*を求める。乗算器63は、制御器60の出力とアーム電圧Vwuとを乗算して、WU相アーム電流指令値Iwu*を求める。相バランス制御部21は、以上によって生成されたアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*を逆相電流指令値演算部22に出力する。
【0050】
「逆相電流指令値演算部22]
図7は、図4の逆相電流指令値演算部22の構成例を示すブロック図である。図7を参照して、逆相電流指令値演算部22は、加算器65と、定数乗算器66と、減算器67~69と、三相/二相座標変換部70と、フィルタ71,72と、減算器73,74とを備える。
【0051】
逆相電流指令値演算部22は相バランス制御部21から出力されたアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*に含まれる逆相電流成分を抽出することにより、逆相電流指令値Idn*,Iqn*を生成する。以下、逆相電流指令値演算部22の各構成要素の動作について説明する。
【0052】
加算器65は、アーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*を加算する。定数乗算器66は、加算器65の加算結果を1/3倍することにより、循環電流指令値Iz*を求める。
【0053】
減算器67は、UV相アーム電流指令値Iuv*から循環電流指令値Iz*を減算した偏差ΔIuv*を求める。減算器68は、VW相アーム電流指令値Ivw*から循環電流指令値Iz*を減算した偏差ΔIvw*を求める。減算器69は、WU相アーム電流指令値Iwu*から循環電流指令値Iz*を減算した偏差ΔIwu*を求める。これにより、アーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*から、正相成分および逆相成分が抽出される。
【0054】
三相/二相座標変換部70は、抽出した正相成分および逆相成分(すなわち、偏差ΔIuv*,ΔIvw*,ΔIwu*)を、正相座標系で三相/二相変換する。すなわち、三相/二相座標変換部70は、偏差ΔIuv*,ΔIvw*,ΔIwu*に対して、UVW座標からαβ座標に三相/二相変換し、さらに、基準位相θを用いてαβ座標から正相dq座標に回転座標変換する。
【0055】
ここで、基準位相θは、系統電圧に同期する位相θであり、PLL回路(位相同期回路)(不図示)によって系統電圧Vu,Vv.Vwの検出値から抽出される。上記の三相/二相変換および回転座標変換の各変換行列は、後述する式(4A),(4B)の変換行列と同様である。
【0056】
フィルタ71,72は、三相/二相座標変換部70の出力から正相成分を抽出する。具体的には、フィルタ71,72は、フィルタへの入力値から逆相成分を除き、正相成分を抽出するように構成される。正相座標系では、正相成分は直流成分となり、逆相成分は基本波周波数の2倍周波数成分(2f)となる。よって、フィルタ71,72には、一次遅れ、2f移動平均、および2fのノッチフィルタ等が用いられる。
【0057】
減算器73は、三相/二相座標変換部70から出力されたq軸成分からフィルタ71の出力(すなわち、正相成分)を減算することにより、逆相有効電流指令値Iqn*を生成する。減算器74は、三相/二相座標変換部70から出力されたd軸成分からフィルタ72の出力(すなわち、正相成分)を減算することにより、逆相無効電流指令値Idn*を生成する。逆相電流指令値演算部22は、以上によって生成された逆相電流指令値Iqn*,Idn*を出力電流制御部25へ出力し、循環電流指令値Iz*を循環電流制御部23に出力する。
【0058】
[循環電流制御部23]
図8は、図4の循環電流制御部23の構成例を示すブロック図である。図8に示すように、循環電流制御部23は、加算器81と、定数乗算器82と、減算器83と、制御器84とを備える。以下、これらの構成要素の動作を説明する。
【0059】
加算器81は、アーム電流検出部13によって検出されたアーム電流値Iuv、Ivw、Iwuを加算する。定数乗算器82は、加算器81の出力を3分の1倍することにより、循環電流Izを演算する。
【0060】
減算器83は、循環電流指令値Iz*と循環電流Izとの偏差ΔIzを演算する。制御器84は、この偏差ΔIzをゼロにするため、すなわち、循環電流Izを循環電流指令値Iz*に追従させるための制御演算を実行して、零相電圧指令値Vz*を生成する。制御器84は、PI制御器であってもよいし、その他の制御器であってもよい。
【0061】
[交流電圧制御部24]
図9は、図4の交流電圧制御部24の構成例を示すブロック図である。図9に示すように、交流電圧制御部24は、正相電圧検出部91と、減算器92と、制御器93とを備える。交流電圧制御部24には、電力変換装置1の電圧指令値Vref(すなわち、電圧実効値の指令値)と、交流電圧検出部15によって検出された系統電圧Vu,Vv,Vwの検出値が入力される。
【0062】
正相電圧検出部91は、交流電圧検出部15によって検出された系統電圧Vu,Vv,Vwより正相電圧Vsを算出する。交流電力系統12はU相、V相、W相の三相からなり、瞬時電圧をVu、Vv、Vwとすると、正相電圧検出部91は次式(1)に基づいて正相電圧Vsを算出する。
【0063】
【数1】
【0064】
減算器92は、電圧指令値Vrefから正相電圧検出部91で算出された正相電圧Vsを減算することにより、偏差ΔVを算出し、算出した偏差ΔVを制御器93へ入力する。制御器93は、入力された偏差ΔVをゼロにするためのフィードバック制御演算を実行することにより、正相無効電流指令値Id*を演算する。制御器93は、たとえばPI制御器で構成されていてもよいし、その他の制御器で構成されていてもよい。
【0065】
[出力電流制御部25]
図10は、図4の出力電流制御部25の構成例を示すブロック図である。図10を参照して、出力電流制御部25は、逆相電流指令の大きさ演算部101、正相無効電流制限部102、制御器103、三相/二相座標変換部104、電流制限判定部106、加算部107a,107b、減算部108a,108b、および乗算部109を備える。以下、これらの構成要素の動作について順に説明する。
【0066】
逆相電流指令の大きさ演算部101には、逆相電流指令値演算部22より出力された相バランス用の逆相無効電流指令値Idn*および逆相有効電流指令値Iqn*が入力される。大きさ演算部101は、これらの値に基づいて、次式(2)に従って逆相電流指令値の大きさInmagを演算する。
【0067】
【数2】
【0068】
電流制限判定部106には、アーム電流検出部13で検出したアーム電流Iuv,Ivw,Iwuと電流許容最大値Imaxとが入力される。電流制限判定部106は、まず、アーム電流Iuv,Ivw,Iwuのそれぞれの大きさを表す実効値Iuvmag,Ivwmag,Iwumagを演算する。なお、実効値に代えてその他の大きさを表す指標であってもよい。
【0069】
具体的に、アーム電流Iuvの実効値Iuvmagは、アーム電流Iuvを2乗した値を交流系統周波数の2倍周波数の移動平均フィルタでフィルタリングし、2倍して平方根をとることにより算出される。同様に、アーム電流Ivwの実効値Ivwmagは、アーム電流Ivwを2乗した値を交流系統周波数の2倍周波数の移動平均フィルタでフィルタリングし、2倍して平方根をとることにより算出される。アーム電流Iwuの実効値Iwumagは、アーム電流Iwuを2乗した値を交流系統周波数の2倍周波数の移動平均フィルタでフィルタリングし、2倍して平方根をとることにより算出される。
【0070】
さらに、電流制限判定部106は、上記で演算された各アーム電流の実効値の最大値Imagmaxを決定する。電流制限判定部106は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax以上の場合に電流制限フラグlimitflgを1に設定する。一方、電流制限判定部106は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax未満の場合に電流制限フラグlimitflgを0に設定する。
【0071】
乗算部109は、逆相電流指令値の大きさInmagに電流制限フラグlimitflgを乗算することにより、電流制限量Ilimitを演算する。乗算部109は、算出した電流制限量Ilimitを正相無効電流制限部102に出力する。
【0072】
正相無効電流制限部102には、正相無効電流指令値Id*と、電流許容最大値Imaxと、電流制限量Ilimitとが入力される。正相無効電流制限部102は、電流許容最大値Imaxおよび電流制限量Ilimitに基づいて、正相無効電流指令の上限値Uplmtを次式(3A)に従って演算し、正相無効電流指令の下限値Lowlmtを式(3B)に従って演算する。すなわち、上限値Uplmtは、電流許容最大値Imaxから電流制限量Ilimit(電流制限フラグlimitflgが1の場合、逆相電流指令値の大きさInmagに等しい)を減算した値である。下限値Lowlmtは、上限値Uplmtの符号を反転した値である。
【0073】
【数3】
【0074】
正相無効電流制限部102は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax以上の場合、すなわち、いずれかの相のアーム電流の実効値が電流許容最大値Imax以上の場合に、逆相電流指令値の大きさInmagに応じた下限値Lowlmtから上限値Uplmtの範囲内に正相無効電流指令値Id*を制限する。正相無効電流制限部102は、制限された正相無効電流指令値Idl*を出力する。
【0075】
一方、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax未満の場合、すなわち、いずれの相のアーム電流の実効値も電流許容最大値Imax未満の場合に、電流制限量Ilimitは0になる。この場合、正相無効電流指令の下限値Lowlmtは-Imaxになり、正相無効電流指令の上限値UplmtはImaxになる。したがって、正相無効電流制限部102は、正相無効電流指令値Id*を-ImaxからImaxの範囲に制限し、制限された正相無効電流指令値Idl*を出力する。
【0076】
加算部107aは、正相無効電流指令値Idl*と逆相無効電流指令値Idn*とを加算することにより、無効電流指令値Id2*を生成する。加算部107bは、正相有効電流指令値Iq*と、逆相有効電流指令値Iqn*とを加算することにより、有効電流指令値Iq2*を生成する。
【0077】
三相/二相座標変換部104は、出力電流Iu,Iv,Iwを正相座標系で三相/二相変換した正相無効電流Id、正相有効電流Iqを演算する。すなわち、三相/二相座標変換部104は、出力電流Iu,Iv,Iwに対して次式(4A)に従ってUVW座標からαβ座標の出力電流Iα,Iβに三相/二相変換する。三相/二相座標変換部104は、さらに、基準位相θを用いて次式(4B)に従ってαβ座標の出力電流Iα,Iβから正相dq座標に回転座標変換する。ここで、基準位相θは、系統電圧に同期する位相θである。
【0078】
【数4】
【0079】
減算部108aは、無効電流指令値Id2*と、三相/二相座標変換部104から出力された正相無効電流Idとの誤差ΔIdを演算する。減算部108bは、有効電流指令値Iq2*と、三相/二相座標変換部104から出力された正相有効電流Iqとの誤差ΔIqを演算する。
【0080】
制御器103は、減算部108a,108bによって演算された誤差ΔId、ΔIqがゼロとなるよう、すなわち、正相無効電流Idおよび正相有効電流Iqを電流指令値Id2*およびIq2*にそれぞれ追従させるためのフィードバック制御演算を実行する。この結果、制御器103は、無効電流制御用の出力電圧指令値Vd*および有効電力制御用の出力電圧指令値Vq*を生成して出力する。制御器103は、たとえばPI制御器で構成されていてもよいし、その他の制御器で構成されていてもよい。
【0081】
このように出力電流制御部25は、いずれかの相のアーム電流の実効値の大きさが電流許容最大値Imax以上になった場合に、逆相電流指令値の大きさに応じて正相無効電流指令値を制限することにより、逆相電流を優先して流すように電力変換器2を制御する。これにより、電力変換器が過負荷状態になることを防止するとともに、電力変換器の各相電圧のバランスをとることができる。
【0082】
[電圧指令値演算部26]
再び図4を参照して、電圧指令値演算部26は、出力電流制御部25が出力したd軸上の電圧指令値Vd*およびq軸上の電圧指令値Vq*を受け、電圧指令値Vd*,Vq*に対して二相/三相変更を行うことにより、各相(U相、V相、W相)の交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を求める。二相/三相変換は、三相/二相変換の逆変換として構成することができる。すなわち、電圧指令値演算部26は、dq座標をαβ座標に変換し、次にαβ座標を三相座標に変換する。
【0083】
電圧指令値演算部26は、求めた各相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に、循環電流制御部23から出力された零相電圧指令値Vz*を加算することにより、各相の出力電圧指令値Vuo*,Vvo*,Vwo*を演算する。
【0084】
[ゲート信号生成部27]
図4を参照して、ゲート信号生成部27は、電圧指令値演算部26から出力された各相の出力電圧指令値Vuo*,Vvo*,Vwo*に従うPWM(Pulse Width Modulation)制御によって、各アームの各変換器セル6の各半導体スイッチング素子8をオンオフ制御するためのゲート信号Gを生成する。ゲート信号生成部27からのゲート信号Gは、それぞれの変換器セル6の各半導体スイッチング素子8へ入力される。
【0085】
[実施の形態1のまとめと効果]
以上のとおり、実施の形態1の電力変換装置1の制御装置3において、交流電圧制御部24は、交流電力系統12の交流電圧Vu,Vv,Vwの検出値に基づいて正相無効電流指令値Id*を演算する。直流電圧制御部20は、電力変換器2を構成する各変換器セル6の蓄電素子7の電圧の代表値Vdc_pに基づいて正相有効電流指令値Iq*を演算する。相バランス制御部21は、複数のアームA1~A3間での蓄電素子7の電圧のアンバランスを抑制するために、複数のアームA1~A3のそれぞれのアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*を生成する。逆相電流指令値演算部22は、それぞれのアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*に基づいて第1の逆相無効電流指令値Idn*および第1の逆相有効電流指令値Iqn*を演算する。出力電流制御部25は、正相無効電流指令値Id*、正相有効電流指令値Iq*、第1の逆相無効電流指令値Idn*、および第1の逆相有効電流指令値Iqn*に基づいて、交流電力系統12の交流電流Iu,Iv,Iwを制御する。ここで、出力電流制御部25は、複数のアームA1~A3をそれぞれ流れるアーム電流の実効値の大きさIuvmag,Ivwmag,Iwumagが電流許容最大値Imax以上の場合に、アーム電流の実効値の大きさが電流許容最大値未満の場合に比べて、正相無効電流指令値Id*を制限する。この結果、正相無効電流(Id)が制限される。
【0086】
具体的には、出力電流制御部25は、第1の逆相無効電流指令値Idn*および第1の逆相有効電流指令値Iqn*に基づいて第1の逆相電流指令値の大きさInmagを演算する。出力電流制御部25は、アーム電流の実効値の大きさが電流許容最大値以上の場合に、第1の逆相電流指令値の大きさInmagが大きいほど正相無効電流指令値Id*をより制限する。一例として、出力電流制御部25は、電流許容最大値Imaxから第1の逆相電流指令値の大きさInmagを減算した値を上限値Uplmtとし、上限値Uplmtの符号を反転した値を下限値Lowlmtとして、正相無効電流指令値Id*を制限する。
【0087】
ここで、出力電流制御部25は、大きさが制限された正相無効電流指令値Idl*に第1の逆相無効電流指令値Idn*を加算することにより、無効電流指令値Id2*を演算する。出力電流制御部25は、交流電力系統12の交流電流Iu,Iv,Iwの検出値に基づく正相無効電流Idが無効電流指令値Id2*に追従するように正相無効電流Idを制御する。
【0088】
以上のように、実施の形態1の電力変換装置1において制御装置3は、いずれかの相のアーム電流の実効値の大きさIuvmag,Ivwmag,Iwumagが電流許容最大値Imax以上になった場合に、相バランス用の逆相電流指令値の大きさInmagに応じて正相無効電流指令値Id*を制限することにより、逆相電流を優先して流すように電力変換器2を制御する。これにより、MMC型の電力変換器2が過負荷状態になることを防止するとともに、電力変換器2の各相のキャパシタ電圧Vcapのバランスをとることができるので、電力変換器2の運転継続性を高めることができる。
【0089】
実施の形態2.
実施の形態1では、相バランス用の逆相電流指令値の大きさに応じて正相無効電流指令値を制限する例を示した。実施の形態2では、実施の形態1の制御に、系統電圧の不平衡を緩和するために逆相電圧を補償する制御を追加した例について説明する。
【0090】
概略的に、実施の形態2の電力変換装置は、交流電力系統の不平衡成分(逆相電圧)を抽出し、抽出した逆相電圧を補償するための電流を交流電力系統に流すことにより、系統電圧の不平衡を緩和する。ここで注意すべき点は、電力系統の逆相電圧の増加によりその補償電流の大きさが増えるほど、MMCのキャパシタ電圧の相間のバランスが崩れやすくなる点である。特に逆相電圧が大きくなる系統事故時において、キャパシタ電圧の相間のアンバランスが顕著になる。
【0091】
そこで、本実施の形態の制御装置は、交流電力系統の交流電圧の不平衡の程度に関係する評価値を閾値と比較することにより不平衡が小さいと判定される状態が一定時間以上継続している場合に、逆相電圧補償を実行する。これにより、キャパシタ電圧が相間でアンバランスにならないようにしながら、逆相電圧補償によって系統電圧を安定化できる。
【0092】
[電力変換装置の概略構成]
図11は、実施の形態2の電力変換装置における制御装置3Aの構成例を示すブロック図である。
【0093】
図11の制御装置3Aは、逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28をさらに備える点で図4の制御装置3と異なる。さらに、図11の制御装置3Aにおいて、出力電流制御部25Aの動作が図4の出力電流制御部25の動作と異なる。以下、図12および図13を参照して実施の形態1と異なる上記の点を主に説明し、実施の形態1と共通する部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0094】
なお、逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28は、交流電力系統の交流電圧の不平衡が小さいと判定される状態が一定時間以上継続している場合に動作する。逆相電流指令値演算部28は、交流電力系統の交流電圧の不平衡が大きいと判定される場合には動作しない。
[逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28]
図12は、図11に示す逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28の構成例を示すブロック図である。逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28は、正相座標変換部130と、逆相座標変換部131と、フィルタ(filter)132~135と、比較器136,137と、論理積回路138と、オンディレイ(On Delay)回路139と、減算器140,141と、乗算器142,143と、制御器144,145と、座標変換部146とを備える。以下、図12を参照して、逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28の各構成要素の動作について説明する。
【0095】
正相座標変換部130は、交流電圧検出部15で検出した系統電圧Vu,Vv、Vwの入力を受ける。正相座標変換部130は、式(5A)にてUVW座標からαβ座標に、系統電圧Vu,Vv、Vwの検出値を三相/二相変換(UVW/αβ変換)する。正相座標変換部130は、三相/二相変換により得られたαβ座標の系統電圧Vα、Vβを式(5B)に代入して、交流系統電圧の基準位相θによってαβ座標からdq座標に回転座標変換(αβ/dq変換)する。これにより、正相電圧Vdp,Vqpが得られる。
【0096】
【数5】
【0097】
逆相座標変換部131は、系統電圧Vu,Vv、Vwの検出値の入力を受ける。逆相座標変換部131は、式(5A)にてUVW座標からαβ座標に、系統電圧Vu,Vv、Vwの検出値を三相/二相変換(UVW/αβ変換)する。逆相座標変換部131は、三相/二相変換により得られたαβ座標の系統電圧Vα、Vβを式(6)に代入して、交流系統電圧の基準位相の逆位相-θによってαβ座標からdq座標に回転座標変換(αβ/dq変換)する。これにより、逆相電圧Vdn,Vqnが得られる。
【0098】
【数6】
【0099】
上記の演算によって得られた正相電圧Vdp,Vqpおよび逆相電圧Vdn,Vqnは、2f(fは系統周波数)の周波数成分をもつ。このため、フィルタ132~135によって2f成分が除去される。
【0100】
比較器136は、2fの周波数成分がフィルタ132,133で除去された正相電圧Vdp,Vqpを用いて式(7)により正相電圧の大きさ|Vp|を演算する。比較器136は、得られた正相電圧の大きさ|Vp|と第1の閾値Vth1とを比較し、正相電圧の大きさ|Vp|が第1の閾値Vth1以上の場合に1を出力する。比較器136は、正相電圧の大きさ|Vp|が第1の閾値Vth1未満の場合に0を出力する。なお、比較器136では、系統電圧が定常状態の値であるか否かを判定することを想定しているため、第1の閾値Vth1は、たとえば、0.9pu以上の値である。
【0101】
【数7】
【0102】
一方、比較器137は、2fの周波数成分がフィルタ134,135で除去された逆相電圧Vdn,Vqnを用いて式(8)により逆相電圧の大きさ|Vn|を演算する。比較器137は、得られた逆相電圧の大きさ|Vn|と第2の閾値Vth2とを比較し、逆相電圧の大きさ|Vn|が第2の閾値Vth2以下の場合に1を出力する。比較器137は、逆相電圧の大きさ|Vn|が第2の閾値Vth2より大きい場合に0を出力する。なお、比較器137では、系統電圧が定常状態の値であるか否かを判定することを想定しているため、第2の閾値Vth2は、たとえば、0.05pu以下の値である。
【0103】
【数8】
【0104】
比較器136,137の比較結果は論理積回路138へ入力される。比較器136,137から論理積回路138へ入力される値が共に1となった状態で、オンディレイ回路139に設定された時間が経過した場合に、逆相電圧補償のオン/オフ切り替えフラグNegAvrOnに1が入る。オンディレイ回路139に設定される時間は、瞬時的に系統不平衡状態になる場合に逆相電圧補償が有効化されるのを避けるため、たとえば、0.1[s]以上の値に設定される。
【0105】
上記の構成により、系統電圧が正常な状態が一定時間継続した場合に、逆相電圧制御のON/OFF切り替えフラグNegAvrOnが1となり、逆相電圧補償が有効になる。一方、系統事故時などのように系統電圧の不平衡が大きい場合には、即座に逆相電圧補償が無効になる。
【0106】
減算器140は、電力系統の逆相電圧補償用の逆相電圧指令値Vdnc*(典型的には、0に等しい)と逆相電圧Vdnとの差分を演算する。乗算器142は、この差分の演算結果にフラグNegAvrOnの値を乗算する。したがって、フラグNegAvrOnが1の場合に、制御器144は、差分の演算結果をゼロにするため、すなわち、逆相電圧Vdnを逆相電圧指令値Vdnc*(=0)に追従させるための制御演算を実行することにより、逆相電圧補償電流Idn1を生成する。制御器144として、PI制御器を用いてもよいし、その他の制御器を用いてもよい。
【0107】
同様に減算器141は、電力系統の逆相電圧補償用の逆相電圧指令値Vqnc*(典型的には、0に等しい)と逆相電圧Vqnとの差分を演算する。乗算器143は、この差分の演算結果にフラグNegAvrOnの値を乗算する。したがって、NegAvrOnが1の場合に、PI制御器145は、差分の演算結果をゼロにするため、すなわち、逆相電圧Vqnを逆相電圧指令値Vqnc*(=0)に追従させるための制御演算を実行することにより、逆相電圧補償電流Iqn1を生成する。なお、制御器145は、PI制御器であってもよいし、その他の制御器であってもよい。上記のように逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28では逆相dq軸上で逆相電圧制御が実行される。
【0108】
座標変換部(逆相dq/正相dq)146は、式(9)で表されるように、交流系統電圧の基準位相θの2倍(すなわち、2θ)を用いた回転座標変換により、逆相電圧補償電流Idn1、Iqn1を逆相dq軸上から正相dq軸上に座標変換する。座標変換部146は、この座標変換により、逆相電圧補償用の逆相無効電流指令値Idnavr*および逆相有効電流指令値Iqnavr*を生成して出力電流制御部25Aへ出力する。
【0109】
【数9】
【0110】
[出力電流制御部25A]
図13は、図11の出力電流制御部25Aの構成例を示すブロック図である。図13に示すように、出力電流制御部25Aは、逆相電流指令の最大値演算部110、正相無効電流制限部102、制御器103、三相/二相座標変換部104、電流制限判定部106、加算部107a,107b、減算部108a,108b、および乗算部109を備える。
【0111】
図13の出力電流制御部25Aは、逆相電流指令の大きさ演算部101に代えて逆相電流指令の最大値演算部110を備える点で図10の出力電流制御部25と異なる。
【0112】
具体的に、逆相電流指令の最大値演算部110には、逆相電流指令値演算部22より出力された相バランス用の逆相無効電流指令値Idn*および逆相有効電流指令値Iqn*と、逆相電圧補償用の逆相電流指令値演算部28から出力された逆相無効電流指令値Idnavr*および逆相有効電流指令値Iqnavr*とが入力される。
【0113】
最大値演算部110は、実施の形態1で説明した式(2)により逆相電流指令値の大きさInmagを演算する。さらに、最大値演算部110は、式(10)により逆相電圧補償用の逆相電流指令値の大きさInavrmagを演算する。
【0114】
【数10】
【0115】
最大値演算部110は、相バランス用の逆相電流指令値の大きさInmagと逆相電圧補償用の逆相電流指令値の大きさInavrmagとのうち、大きい方を逆相電流指令値の最大値Inmaxとして乗算部109に出力する。
【0116】
図10を参照して説明したように、電流制限判定部106には、アーム電流検出部13で検出したアーム電流Iuv,Ivw,Iwuと電流許容最大値Imaxとが入力される。電流制限判定部106は、アーム電流Iuv,Ivw,Iwuのそれぞれの実効値Iuvmag,Ivwmag,Iwumagを演算し、演算した各アーム電流の実効値の最大値Imagmaxを決定する。そして、電流制限判定部106は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax以上の場合に電流制限フラグlimitflgを1に設定する。一方、電流制限判定部106は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax未満の場合に電流制限フラグlimitflgを0に設定する。
【0117】
乗算部109は、逆相電流指令値の最大値Inmaxに電流制限フラグlimitflgを乗算することにより、電流制限量Ilimitを演算する。乗算部109は、算出した電流制限量Ilimitを正相無効電流制限部102に出力する。
【0118】
図10を参照して説明したように、正相無効電流制限部102には、正相無効電流指令値Id*と、電流許容最大値Imaxと、電流制限量Ilimitとが入力される。正相無効電流制限部102は、電流許容最大値Imaxおよび電流制限量Ilimitに基づいて、正相無効電流指令の上限値Uplmtを前述の式(3A)に従って演算し、正相無効電流指令の下限値Lowlmtを前述の式(3B)に従って演算する。すなわち、上限値Uplmtは、電流許容最大値Imaxから電流制限量Ilimit(電流制限フラグlimitflgが1の場合、逆相電流指令値の最大値Inmaxに等しい)を減算した値である。下限値Lowlmtは、上限値Uplmtの符号を反転した値である。
【0119】
正相無効電流制限部102は、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax以上の場合に、逆相電流指令値の最大値Inmaxに応じた下限値Lowlmtから上限値Uplmtの範囲内に正相無効電流指令値Id*を制限する。一方、アーム電流の実効値の最大値Imagmaxが電流許容最大値Imax未満の場合に、電流制限量Ilimitは0になる。この場合、正相無効電流制限部102は、正相無効電流指令値Id*を-ImaxからImaxの範囲に制限する。正相無効電流制限部102は、制限された正相無効電流指令値Idl*を加算部107aに出力する。
【0120】
加算部107aは、正相無効電流指令値Idl*と、相バランス用の逆相無効電流指令値Idn*と、逆相電圧補償用の逆相無効電流指令値Idnavr*とを加算することにより、無効電流指令値Id2*を生成する。加算部107bは、正相有効電流指令値Iq*と、相バランス用の逆相有効電流指令値Iqn*と、逆相電圧補償用の逆相有効電流指令値Iqnavr*とを加算することにより、有効電流指令値Iq2*を生成する。
【0121】
図10で説明したように、三相/二相座標変換部104は、出力電流Iu,Iv,Iwを正相座標系で三相/二相変換した正相無効電流Id、正相有効電流Iqを演算する。減算部108aは、無効電流指令値Id2*と、三相/二相座標変換部104から出力された正相無効電流Idとの誤差ΔIdを演算する。減算部108bは、有効電流指令値Iq2*と、三相/二相座標変換部104から出力された正相有効電流Iqとの誤差ΔIqを演算する。
【0122】
図10で説明したように、制御器103は、減算部108a,108bによって演算された誤差ΔId、ΔIqがゼロとなるよう、すなわち、正相無効電流Idおよび正相有効電流Iqを電流指令値Id2*およびIq2*にそれぞれ追従させるためのフィードバック制御演算を実行する。この結果、制御器103は、無効電流制御用の出力電圧指令値Vd*および有効電力制御用の出力電圧指令値Vq*を生成して出力する。
【0123】
[実施の形態2のまとめと効果]
上記のとおり実施の形態2の電力変換装置の制御装置3Aは、第2の逆相電流指令値演算部28をさらに備える。第2の逆相電流指令値演算部28は、交流電力系統12の交流電圧Vu,Vv,Vwに含まれる逆相電圧Vdn,Vqnを補償するように第2の逆相無効電流指令値Idnavr*および第2の逆相有効電流指令値Iqnavr*を演算する。出力電流制御部25Aは、第2の逆相無効電流指令値Idnavr*および第2の逆相有効電流指令値Iqnavr*にさらに基づいて、交流電力系統12の交流電流Iu,Iv,Iwを制御する。
【0124】
具体的に、出力電流制御部25Aは、第1の逆相無効電流指令値Idn*および第1の逆相有効電流指令値Iqn*に基づいて第1の逆相電流指令値の大きさInmagを演算し、第2の逆相無効電流指令値Idnavr*および第2の逆相有効電流指令値Iqnavr*に基づいて第2の逆相電流指令値の大きさInavrmagを演算する。出力電流制御部25Aは、第1の逆相電流指令値の大きさInmagおよび第2の逆相電流指令値の大きさInavrmagの大きい方を逆相電流指令値の最大値Inmaxとして決定する。出力電流制御部25Aは、アーム電流の実効値の大きさIuvmag,Ivwmag,Iwumagが電流許容最大値Imax以上の場合に、逆相電流指令値の最大値Inmaxが大きいほど正相無効電流指令値Id*をより制限する。一例として、出力電流制御部25Aは、電流許容最大値Imaxから逆相電流指令値の最大値Inmaxを減算した値を上限値Uplmtとし、上限値Uplmtの符号を反転した値を下限値Lowlmtとして、正相無効電流指令値Id*を制限する。
【0125】
ここで、出力電流制御部25Aは、大きさが制限された正相無効電流指令値Idl*に第1の逆相無効電流指令値Idn*および第2の逆相無効電流指令値Idnavr*を加算することにより、無効電流指令値Id2*を演算する。出力電流制御部25Aは、交流電力系統12の交流電流Iu,Iv,Iwの検出値に基づく正相無効電流Idが無効電流指令値Id2*に追従するように正相無効電流Idを制御する。
【0126】
以上のように、実施の形態2の電力変換装置において制御装置3Aは、いずれかの相のアーム電流の実効値の大きさIuvmag,Ivwmag,Iwumagが電流許容最大値Imax以上になった場合に、逆相電圧補償用および相バランス用の逆相電流指令値の最大値Inmaxに応じて正相無効電流指令値Id*を制限することにより、逆相電流を優先して流すように電力変換器2を制御する。これにより、電力変換器2が過負荷になることを防止し、キャパシタ電圧Vcapが相間でアンバランスにならないようにしながら、系統電圧の不平衡を緩和できるので、電力変換器2の運転継続性を高めることができる。
【0127】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本開示の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形または省略したりすることが可能である。また、上記の各実施の形態ではデルタ結線MMC型の電力変換装置の例を示したが、スター結線MMC型の電力変換装置およびダブルスター結線MMC型の電力変換装置にも本開示を適用できる。
【0128】
この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 電力変換装置、2 電力変換器、3,3A 制御装置、4 変圧器、5 リアクトル、6 変換器セル、7 蓄電素子、8 半導体スイッチング素子、9 整流素子、10F フルブリッジ回路、10H ハーフブリッジ回路、11 電圧検出部、12 交流電力系統、13 アーム電流検出部、14 交流電流検出部、15 交流電圧検出部、20 直流電圧制御部、21 相バランス制御部、22,28 逆相電流指令値演算部、23 循環電流制御部、24 交流電圧制御部、25,25A 出力電流制御部、26 電圧指令値演算部、27 ゲート信号生成部、31 全電圧代表値演算部、33,58~60,84,93,103,144,145 制御器、51 電圧演算部、70,104 三相/二相座標変換部、71,72,132~135 フィルタ、91 正相電圧検出部、101 逆相電圧指令の大きさ演算部、102 正相無効電流制限部、106 電流制限判定部、110 逆相電流指令の最大値演算部、130 正相座標変換部、131 逆相座標変換部、136,137 比較器、138 論理積回路、139 オンディレイ回路、146 座標変換部、A1,A2,A3 アーム、P1,P2 入出力端子。
【要約】
MMC型の電力変換装置の制御装置(3)において、交流電圧制御部(24)は、交流電力系統の交流電圧の検出値に基づいて正相無効電流指令値(Id*)を演算する。直流電圧制御部(20)は、電力変換器を構成する各変換器セルの蓄電素子の電圧の代表値に基づいて正相有効電流指令値(Iq*)を演算する。逆相電流指令値演算部(22)は、複数のアーム間での蓄電素子の電圧のアンバランスを抑制するための逆相電流指令値(Idn*,Iqn*)を演算する。出力電流制御部(25)は、正相無効電流指令値(Id*)、正相有効電流指令値(Iq*)、および逆相電流指令値(Idn*,Iqn*)に基づいて、交流電力系統の交流電流を制御する。出力電流制御部(25)は、複数のアームをそれぞれ流れるアーム電流の大きさが電流許容最大値以上の場合に、正相無効電流(Id)を制限する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13