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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】相当ひずみの導入方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/02 20060101AFI20231113BHJP
   B21C 37/00 20060101ALI20231113BHJP
   B21C 37/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
B21J1/02 Z
B21C37/00 K
B21C37/02 Z
B21C37/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022083846
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2018106726の分割
【原出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2022140432
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2017155222
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29~30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】392019282
【氏名又は名称】長野鍛工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】小田切 吉治
(72)【発明者】
【氏名】瀧沢 陽一
(72)【発明者】
【氏名】湯本 学
(72)【発明者】
【氏名】堀田 善治
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173166(JP,A)
【文献】特開2009-061499(JP,A)
【文献】特開2015-110244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/02
B21C 37/00
B21C 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体の一側半部を収容する第1の挟圧体と他側半部を収容する第2の挟圧体とで前記金属体を挟圧しつつ両挟圧体の分割面に沿って挟圧体の加圧方向と略直交する方向へ挟圧体同士がずれるよう相対的に直線移動させ、前記分割面を含む仮想の境界平面が前記金属体を横断する部位に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、
前記第1及び第2の挟圧体には、前記挟圧体同士がずれる相対的な直線移動に伴う前記金属体からの抗力に抗して前記金属体の収容凹部内での滑りを抑制するための規制壁が設けられていることを特徴とする相当ひずみの導入方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の挟圧体の収容凹部の内面は粗面としていることを特徴とする請求項1に記載の相当ひずみの導入方法。
【請求項3】
前記金属前記直線移動の往復動作よりなる1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する棒状であって、前記境界平面が前記金属体を縦割りに横断するよう前記収容凹部に収容すると共に、
前記金属体に対し複数回の導入工程によって複数の相当ひずみ導入部を導入するにあたり、前記境界平面が横断する前記金属体の部位と、先の導入工程で導入された相当ひずみ導入部とが異なるよう、導入工程の実施前に前記金属体をその軸線周りに位相を違えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の相当ひずみの導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相当ひずみの導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属体に相当ひずみを与えて新たな特性を付与する手法として、HPS(High-Pressure Sliding)法や、HPT(High-Pressure Torsion)法等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えばHPS法では、上下の金型間で金属体を加圧挟持しつつ、加圧方向と略直交する方向に上下の金型を相対的にスライド移動させることにより金属体に相当ひずみを付与する手法である。
【0004】
またHPT法では、上下金型に金属体を収容する凹状の収容部を設け、上下金型間で金属体を加圧狭持しつつ、加圧方向を軸として上下金型を相対的に回転移動させることにより金属体に相当ひずみを付与する手法である。
【0005】
そして、これらHPS法やHPT法によれば、金属体にひずみを多量に導入して高密度な転位を形成することで組織をナノあるいはサブミクロンサイズに微細化し、強度、弾性、延性、剛性等の向上、結晶配向の制御等が実現される。
【0006】
従って、金属体の加工容易性を向上したり、金属体に新たな機能的特性を付与できるなど、様々な特性の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-61499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、HPS法に属する相当ひずみの導入方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る相当ひずみの導入方法では、(1)金属体の一側半部を収容する第1の挟圧体と他側半部を収容する第2の挟圧体とで前記金属体を挟圧しつつ両挟圧体の分割面に沿って挟圧体の加圧方向と略直交する方向へ挟圧体同士がずれるよう相対的に直線移動させ、前記分割面を含む仮想の境界平面が前記金属体を横断する部位に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、前記第1及び第2の挟圧体には、前記挟圧体同士がずれる相対的な直線移動に伴う前記金属体からの抗力に抗して前記金属体の収容凹部内での滑りを抑制するための規制壁が設けられていることとした。
【0016】
この場合、以下の点を特徴としても良い。
(2)前記第1及び第2の挟圧体の収容凹部の内面は粗面としていること。
(3)前記金属前記直線移動の往復動作よりなる1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する棒状であって、前記境界平面が前記金属体を縦割りに横断するよう前記収容凹部に収容すると共に、前記金属体に対し複数回の導入工程によって複数の相当ひずみ導入部を導入するにあたり、前記境界平面が横断する前記金属体の部位と、先の導入工程で導入された相当ひずみ導入部とが異なるよう、導入工程の実施前に前記金属体をその軸線周りに位相を違えること。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る相当ひずみの導入方法では、金属体の一側半部を収容する第1の挟圧体と他側半部を収容する第2の挟圧体とで前記金属体を挟圧しつつ両挟圧体の分割面に沿って挟圧体の加圧方向と略直交する方向へ挟圧体同士がずれるよう相対的に直線移動させ、前記分割面を含む仮想の境界平面が前記金属体を横断する部位に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、前記第1及び第2の挟圧体には、前記挟圧体同士がずれる相対的な直線移動に伴う前記金属体からの抗力に抗して前記金属体の収容凹部内での滑りを抑制するための規制壁が設けられていることとしたため、HPS法に属する相当ひずみの導入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】相当ひずみ導入装置の一例を示した説明図である。
図2】相当ひずみ導入装置の要部断面を示した説明図である。
図3】相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図4】第2のHPS手法における金型及び介在する金属体の形状を示す模式図である。
図5】相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図6】第3のHPS手法における金型及び介在する金属体の形状を示す模式図である。
図7】相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図8】第1のHPT手法におけるアンビル及び介在する金属体の形状を示す模式図である。
図9】本実施形態に係る第1のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図10】本実施形態に係る第1のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図11】本実施形態に係る第1のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図12】本実施形態に係る第1のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図13】本実施形態に係る第1のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図14】本実施形態に係る第1のHPT手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図15】本実施形態に係る第1のHPT手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図16】金属体上に設定された仮想線を示す説明図である。
図17】本実施形態に係る第1のHPT手法に準じた相当ひずみの導入方法に用いるアンビルの構成を示す説明図である。
図18】本実施形態に係る第1のHPT手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図19】本実施形態に係る第2のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成に用いられる金属体の外観を示した説明図である。
図20】本実施形態に係る第2のHPS手法に準じた相当ひずみの導入方法に用いる金型の構成を示す説明図である。
図21】本実施形態に係る第2のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図22】本実施形態に係る第2のHPS手法に準じた他の例に係る相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図23】本実施形態に係る第3のHPS手法に準じた相当ひずみ導入部の形成過程を示した説明図である。
図24】実験例1に係る金属体の加工過程を示す説明図である。
図25】実験例1に係る金属体の加工過程を示す説明図である。
図26】実験例1に係る結果を示す説明図である。
図27】実験例2に係る実験方法を示した説明図である。
図28】実験例2に係る結果を示す説明図である。
図29】実験例2に係る結果を示す説明図である。
図30】実験例2に係る結果を示す説明図である。
図31】実験例3に係る結果を示す説明図である。
図32】実験例3に係る結果を示す説明図である。
図33】実験例3に係る結果を示す説明図である。
図34】実験例3に係る結果を示す説明図である。
図35】実験例3に係る結果を示す説明図である。
図36】本実施形態に係る面性状変化方法の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、金属体を介在させた一対の挟圧体の相対的な平行動作に伴って、第1の挟圧体に追従する金属体の一側と第2の挟圧体に追従する金属体の他側との間に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、装置を大型化することなく、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を可能とする相当ひずみの導入方法を提供するものである。
【0022】
また本発明は、金属体の一部を把持する第1の把持体と残部を把持する第2の把持体との相対的な対向移動に伴って、前記第1及び第2の把持体の境界域に存する金属体に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、装置を大型化することなく、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を可能とする相当ひずみの導入方法について提供するものでもある。
【0023】
ここで金属体の素材は特に限定されるものではなく、あらゆる金属材料を採用することが可能である。中でも、アルミニウム合金やマグネシウム合金、チタン合金、ニッケル基合金などの金属材料を加工対象とし、超塑性を発現させることもできる。
【0024】
特に、INCONEL718(INCONELは登録商標)などの耐熱合金材料は、耐熱性、耐蝕性、耐酸化性などの高温特性に優れており、原子力産業や産業用タービン、航空機のジェットエンジン、過給機部品など様々な分野において利用価値の高い材料である反面、難加工性材料の材料でもあることから他の金属材料に比して加工が難しく、生産性向上やコスト低減が困難という側面も有しているが、この点、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法によれば、相当ひずみの付与装置の大型化を抑制しつつも、同相当ひずみ付与装置の1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し相当ひずみの導入が可能となるため、難加工性材料の加工性を向上できるのは勿論のこと、大量生産性に優れ、生産性向上やコスト低減を図ることが可能となる点で極めて有利である。
【0025】
また、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法において、金属体に相当ひずみ導入部を形成する導入工程は、金属体を介在させた一対の挟圧体の相対的な平行動作によって成されたり、金属体の一部を把持する第1の把持体と残部を把持する第2の把持体との相対的な対向移動によって成されるものである。
【0026】
この挟圧体の相対的な平行動作や対向移動は特に限定されるものではないが、例えば、本発明者らがこれまでに検討した様々な相当ひずみの導入手法に準ずるものを採用することができる。
【0027】
ここで、本発明の理解に供するため、まずは、挟圧体の相対的な平行動作や、把持体の相対的な対向動作について幾つかの代表例を示しつつ説明する。
【0028】
HPS法に属する手法の一つとして、図1及び図2に示すような方法(以下、便宜上、第1のHSP手法と称する。)が挙げられる。図1は、第1のHSP手法により金属体に相当ひずみ導入部を形成するための相当ひずみ導入装置の構成概要を示した説明図であり、図2はその要部断面を示した説明図である。
【0029】
図1に示すように、相当ひずみ導入装置10は、第1の挟圧体に相当する第1金型11、第2の挟圧体に相当する第2金型12、上アンビル13、下アンビル14、ベッド15、スライド16、駆動装置としての第1油圧装置17、スライド装置としての第2油圧装置18を備えている。なお図1では、これら油圧装置の駆動を制御する制御部や本体フレームなどの付帯構成については、構造や動作の理解を容易とするために省略している。
【0030】
第1油圧装置17は、本体フレームに固定されたシリンダ部17aと、シリンダ部17aに対して伸縮自在に構成されたピストン部17bとを有している。ピストン部17bは、シリンダ部17aに対して加圧方向D3に進退可能に構成されており、ピストン部17bの先端にはスライド16が固定されている。
【0031】
スライド16の下面には、金型固定用の固定凹部16aが形成されており、固定凹部16aに上アンビル13が固定される。図1に示す例では、上アンビル13の基部を固定凹部16aに埋設状態で固定されており、上アンビル13はスライド16から下アンビル14に向けて突出した状態になっている。上アンビル13の下面の条溝には、第1金型11が入れ子状に固定されている。
【0032】
スライド16の下面は、下アンビル14を固定されたベッド15の上面に対向配置されている。
【0033】
ベッド15の上面には、金型固定用の固定凹部15aが形成されており、固定凹部15aに下アンビル14が固定される。図1に示す例では、下アンビル14の基部が固定凹部15aに埋設状態で固定されており、下アンビル14の金型部についてはベッド15から上アンビル13に向けて突出した状態となっている。下アンビル14の上面の条溝には、第2金型12が入れ子状に嵌合されており、長さ方向D1(条溝の延びる方向)に沿って摺動可能になっている。すなわち、第2金型12の摺動移動は下アンビル14の条溝によって案内される。
【0034】
また、第2金型12は、第2油圧装置18によって第1金型11に対して相対的に長さ方向D1にスライド移動するように駆動される。
【0035】
第2油圧装置18は、シリンダ部18aと、このシリンダ部18aから伸縮自在のピストン部18bとを有しており、ピストン部18bの先端には第2金型12を押すための押棒18cが設けてある。ピストン部18bは、長さ方向D1に伸縮する。第2油圧装置18のピストン部18bを長さ方向D1に伸縮して押棒18cを駆動すると、押棒18cが第2金型12に当接して第2金型12を第1金型11に対してスライド移動させる。
【0036】
また、第1金型11は、第2金型12との対向面を高摩擦面としている。同様に、第2金型12も、第1金型11との対向面を高摩擦面としている。
【0037】
以上のように構成された相当ひずみ導入装置10によれば、第1油圧装置17のピストン部17bを加圧方向D3へ進出してスライド16を駆動すると、図2に示すように、上アンビル13が下アンビル14に近づく方向に駆動されることで第1金型11が第2金型12に近づいて、加工対象として介在させた板状の金属体Mの挟圧が行われる。
【0038】
次いで、この挟圧状態を維持したまま、第2油圧装置18のピストン部18bを加圧方向D1へ進出して第2金型12を駆動する(図2において紙面手前方向に移動させる)。
【0039】
すると、この動作によって図3(a)に示すように、第1金型11(第1の挟圧体)に追従する金属体Mの上面側Mu(一側)と、第2金型12(第2の挟圧体)に追従する金属体Mの下面側Md(他側)との間には金属体Mに相当ひずみが導入され、図3(b)にて斜め格子の網掛けで示すように肉厚内部に相当ひずみ導入部Sが形成されることとなる。なお、この動作は第2油圧装置18と反対側に第3油圧装置を配置し、往復加工によって相当ひずみの導入を加速させても良い。
【0040】
また、HPS法に属する手法の別例として、図4に示すような方法(以下、便宜上、第2のHPS手法と称する。)が挙げられる。図4は、第2のHPS手法に係る相当ひずみ導入装置における金型及び介在させた金属体の形状を示す模式図である。
【0041】
図4に示すように、第2のHPS手法においても、第1の挟圧体に相当する第1金型21と第2の挟圧体に相当する第2金型22との間に金属体Mを介在させて挟圧しつつ相当ひずみ導入部を形成するのであるが、第2金型22と対向する第1金型21の下面には金属体Mの上半部と略同形状の第1凹部21aが形成され、また、第1金型21と対向する第2金型22の上面には金属体Mの下半部と略同形状の第2凹部22aが形成されており、金属体Mは、第1金型21と第2金型22とを近接させた際に、第1凹部21aと第2凹部22aとによって形成される収容空間23内に収容される。
【0042】
すなわち、前述の第1のHPS手法と同様、加圧方向に進退する第1油圧装置や長さ又は幅方向に進退する第2油圧装置等を用い、図5(a)に示すように第1金型21及び第2金型22を第1油圧装置等によって近接させて収容空間23に介在させた金属体Mを挟圧し、図5(b)に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により第1金型21又は第2金型22(図5(b)においては第2金型22)を平行動作させる。
【0043】
すると、この動作によって、第1金型21(第1の挟圧体)に追従する金属体Mの上半部(一側)と、第2金型22(第2の挟圧体)に追従する金属体Mの下半部(他側)との間、第1金型21と第2金型22との境界面に位置する金属体Mの内部、換言すれば、第1金型21と第2金型22との分割面を含む仮想の境界平面が横断する金属体Mの部位に相当ひずみが導入されて、網掛けで示すように金属体Mに対して縦割り方向へ相当ひずみ導入部Sが形成される。
【0044】
このような第2のHPS手法は、例えば棒状の金属体に対して相当ひずみ導入部Sを形成するに際し極めて有用である。
【0045】
特に、図5(b)において示すように、第1金型21及び第2金型22には、相対的な移動(ここでは、金属体Mの対向する一対の底面-底面方向への第1金型21や第2金型22の相対的な移動)に伴う金属体Mからの抗力に抗して金属体Mの第1凹部21aや第2凹部22a内での滑りを抑制するための規制壁24a~24dが設けられており、金属体Mに対しせん断力を効率的に作用させて、相当ひずみが効果的に導入された相当ひずみ導入部Sの形成を可能としている。
【0046】
なお、規制壁24a及び規制壁24dは、第2金型22が第1金型21に対して相対的に白抜き実線で示す矢印U1の方向に移動させた場合に金属体Mからの抗力に抗する規制壁として機能するものであり、規制壁24b及び規制壁24cは、白抜き破線で示す矢印U2の方向に移動させた場合に金属体Mからの抗力に抗する規制壁として機能するものである。
【0047】
すなわち、図5(a)に示す棒状(ここでは円柱状)の金属体Mに対し、矢印U1の方向に相対移動させた図5(b)に示す状態に変形させて相当ひずみ導入部Sを形成した後に、矢印U2の方向に相対移動させることで、図5(a)に示した元の形状と略同形状の状態に戻しても良い。勿論、形状を元の状態に戻す必要が無い場合には、必要に応じて規制壁の数を減らしても良い。
【0048】
また、第1凹部21a及び第2凹部22aの内表面は、粗面とするのが好ましい。特に、金属体MがINCONEL718などニッケル基超合金の如き高強度難加工材である場合をはじめ種々の金属材料に対し、400%以上の伸びを示すような超塑性や、100%以上400%未満の伸びを示すような性質(以下、準超塑性と称する。)を発現可能な程度に結晶粒の微細化を行う際に有用である。
【0049】
第1凹部21aや第2凹部22aの内表面における粗面の度合いは、加工対象となる金属体Mによって適宜設定することが可能であるが、概ねRz=25μm~60μm、好ましくはRz=25μm~45μmとするのが望ましい。このような構成とすることにより、金属体Mに対して効果的に相当ひずみの導入を行うことができる。
【0050】
また、第1及び第2の金型21,22による金属体Mに対する挟圧力は、その金属体Mの素材によって適宜設定可能であるが、概ね1.0GPa~10GPa、好ましくは1.5GPa~4GPaとすることができる。この挟圧力は、上述の超塑性や準超塑性を発現可能な程度に結晶粒の微細化を行う場合、本来であれば最低でも4GPa程度必要であることと比較すると、相当に加重が低減されている。これは、規制壁24a~24dや各凹部21a,22aの内表面に形成した粗面による効果の一つである。
【0051】
このように、第2のHPS手法は、金属体M、特に棒状の金属体Mに対して相当ひずみ導入部Sを形成するにあたり、極めて有用な方法であると言える。
【0052】
また、HPS法に属する手法の更なる別例として、図6に示すような方法(以下、便宜上、第3のHPS手法と称する。)が挙げられる。図6は、第3のHPS手法に係る相当ひずみ導入装置における金型及び介在する金属体の形状を示す模式図である。
【0053】
図6に示すように、第3のHPS手法では、第1の把持体に相当する第1金型25と第2の把持体に相当する第2金型26及び第3金型27とを備えており、第1~第3金型25
,26,27には、一体的につなぎ合わせると金属体Mの外形形状と略同形状の収容空間28を構成する凹部や孔部がそれぞれ設けられている。
【0054】
具体的には、第1金型25には金属体Mの中程の一部を把持可能に形成された第1孔部25aが、第2金型26には金属体Mの残部一端側を把持可能に形成された第2孔部26aが、第3金型27には金属体Mの残部他端側を把持可能に形成された第3孔部27aが、それぞれ備えられている。
【0055】
そして、各金型25~27をつなぎ合わせることでそれぞれの孔部25a~27aにより形成される収容空間28に金属体Mを介在させて挟圧しつつ相当ひずみ導入部を形成する。
【0056】
すなわち、前述の第1のHPS手法と同様、加圧方向に進退する第1油圧装置や金属体Mを横断する方向に進退する第2油圧装置等を用い、図7(a)に示すように第1金型25を介しつつ第2金型26及び第3金型27を第1油圧装置等によって近接させて収容空間28に介在させた金属体Mを挟圧し、図7(b)に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により第1金型21を第2金型26及び第3金型27に対し、図7(b)の右に矢印で示す如く相対的に対向移動させる。
【0057】
すると、この動作によって、第1金型25(第1の把持体)に追従する金属体Mの中途部(一部)と第2金型26(第2の把持体)に追従する金属体Mの左部(残部一端側)との境界域、及び、第1金型25(第1の把持体)に追従する金属体Mの中途部(一部)と第3金型27(第2の把持体)に追従する金属体Mの右部(残部他端側)との境界域に存する金属体Mの内部に相当ひずみが導入されて、網掛けで示すような相当ひずみ導入部Sが形成される。
【0058】
次に、HPT法に属する手法について引き続き例示する。HPT法の一つとして、図8に示すような方法(以下、便宜上、第1のHPT手法と称する。)が挙げられる。図8は、第1のHPT手法に係る相当ひずみ導入装置における金型及び介在する金属体の形状を示す模式図である。
【0059】
第1のHPT手法に係る相当ひずみ導入装置は、図8(a)に示すように、対向させて配置したそれぞれ第1の挟圧体及び第2の挟圧体に相当する横断面略円形状の2つのアンビル(上アンビル31,下アンビル32)を備えている。2つのアンビル31,32の成形面33,34にはディスク状に形成された金属体Mの直径と略同一の直径を有する円形状の凹部33a,34aを形成しており、円形状の凹部33a,34a間でディスク状の金属体Mを狭圧することができる。2つのアンビル31,32の少なくとも一方には、支持基台を介して図示しない押圧手段が接続されており、2つのアンビル31,32の円形状の凹部33a,34a間に狭圧したディスク状の金属体Mに対して、金属体Mの厚み方向に数GPaの圧力を加えることができる。2つのアンビル31,32の少なくとも一方には、支持基台を介し、図示しない回転手段が接続されており、2つのアンビル31,32の円形状の凹部33a,34aの中心を回転軸とし、一方のアンビルを他方のアンビルに対して回転させることで相対的な平行動作を行わせる。
【0060】
このような構成を有する相当ひずみ導入装置を用いて、2つのアンビル31,32の円形状の凹部33a,34a間でディスク状の金属体Mを数GPa、例えば6GPa程度の圧力で挟圧しながら、一方のアンビルを他方のアンビルに対して相対的に回転させる。
【0061】
すると、この動作によって図8(b)に示すように、上アンビル31(第1の挟圧体)に追従する金属体Mの上面側Mu(一側)と、下アンビル32(第2の挟圧体)に追従する金属体Mの下面側Md(他側)との間には金属体Mに相当ひずみが導入され、図8(c)にて網掛けで示すように肉厚内部に相当ひずみ導入部Sが形成されることとなる。
【0062】
ここまで、第1~第3のHPS手法や、第1のHPT手法を例に挙げつつ説明してきたが、第1のHPS手法や第1のHPT手法では、より大きな金属体Mを対象として相当ひずみの導入工程を行うためには、より大きな挟圧体で処理を行う必要があり、相当ひずみ導入装置自体を大型化する必要がある。
【0063】
また、第2及び第3のHPS手法では、金属体Mの一部に相当ひずみ導入部Sを形成するにとどまり、全体的に相当ひずみ導入部Sを形成するのは困難であった。
【0064】
すなわち、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな厚みや広がりなど、大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことは困難であった。
【0065】
そこで、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法では、その特徴的な構成の一つとして、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、挟圧体による金属体上の挟圧位置を移動して、金属体の所定の部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うこととしている。
【0066】
また、金属体の一部を把持する第1の把持体と残部を把持する第2の把持体との相対的な対向移動に伴って、第1及び第2の把持体の境界域に存する金属体に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、境界域に対する金属体の相対位置を移動して、金属体の所定の部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うことにも特徴を有している。
【0067】
特に前者によれば、前述の第1及び第2のHPS手法や第1のHPT手法に準じ、更に汎用性が高くより拡張された相当ひずみの導入方法とすることができ、金属体のより広い範囲に渡って相当ひずみ導入部の形成を行うことが可能となる。
【0068】
また後者においても、前述の第3のHPS手法に準じ、同様に、更に汎用性が高くより拡張された相当ひずみの導入方法とすることができ、金属体のより広い範囲に渡って相当ひずみ導入部の形成を行うことが可能となる。
【0069】
従来の手法に比してより拡張されたこれら本実施形態に係る相当ひずみの導入方法は、以下に述べるより具体的な例として解釈することもできる。
【0070】
図9は、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第1のHPS手法に準じた導入工程により応用した例を示す説明図である。なお、以下に説明する応用例において、図9中の凡例の如く、挟圧体による金属体M上での挟圧位置は濃い網掛けで示し、相当ひずみが導入された部位(相当ひずみ導入部S)は斜め格子の網掛けで示す。
【0071】
図9(a)に示すように、金属体Mは、導入工程が行われることにより表面から裏面に至る厚み方向へは相当ひずみ導入部Sを形成可能であるものの、挟圧体による挟圧面積よりも広い面積を有しており、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部Sよりも大きな体積を有する金属体である。
【0072】
そこでまず、任意の位置P1にて導入工程を行って相当ひずみ導入部Sを形成し、次いで金属体Mを移動させ、図9(b)に示す任意の位置P2を挟圧体による挟圧位置として導入工程を行う。また、更に金属体Mを移動させて図9(c)に示す任意の位置P3を挟圧位置として導入工程を行っても良い。
【0073】
このように、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法によれば、これまで加工可能な金属体Mの大きさが挟圧体にて挟持可能な範囲の大きさに限られていたのに対し、金属体M上の挟圧位置を移動して金属体Mの所定部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うこととしたため、装置を大型化することなく、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことができる。
【0074】
また、図9に示した相当ひずみの導入方法は、金属体M上において相当ひずみ導入部Sを形成したい複数の位置がそれぞれ離れている場合、一例としては、ニッケル基合金などの難加工性金属である金属体M上においてそれぞれ離れた複数の部位に鍛造成形加工を施したい場合、二次元方向への自由度を持って標的部位の結晶微細化を惹起させ、超塑性を付与して加工を行うことが可能となる。
【0075】
また、導入工程を施す複数の標的部位は、離隔した位置である必要はない。図10(a)に示すように、まず任意の位置P1へ導入工程を行って相当ひずみ導入部Sを形成した後、図10(b)に示す如く位置P1に近接する位置P2を標的部位として導入工程を行うようにしても良いし、図10(c)にて示す位置P2と位置P3の関係のように相当ひずみ導入部Sと標的領域との一部(場合によっては全部)が重畳するように導入工程を行っても良い。
【0076】
このような構成とすることにより、先に形成した相当ひずみ導入部Sと連続する相当ひずみ導入部Sを形成することができ、相当ひずみ導入部Sを形成したい金属体M上の領域が1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部Sよりも大きい場合であっても、隙間無く相当ひずみ導入部Sの形成を行うことが可能となる。
【0077】
なお、図9図10に示す例では、複数箇所に相当ひずみ導入部Sを形成するにあたり、挟圧位置を固定したまま金属体Mを動かすことで金属体M上の挟圧位置の変更を行ったが、これに限定されるものではない。加工対象となる金属体Mよりも、挟圧体を備える相当ひずみ導入装置の方が一般的には移動困難とは思われるものの、場合によっては移動装置を備えるなどして、加工対象となる金属体Mを固定したまま挟圧体による挟持位置を変更しても良いし、双方動かすようにしても良い。
【0078】
すなわち、金属体M上の挟圧位置の移動は、挟圧体と金属体Mとの位置関係が相対的に変化できれば良い。なお、以下の説明で参照する図では、金属体Mと挟圧体との位置関係に関し、専ら相対的な位置関係のみを示すこととする。
【0079】
本実施形態に係る相当ひずみの導入方法を実施するにあたり、金属体M上には、導入工程が行われる標的部位を結ぶように仮想線を設定しても良い。この仮想線は実際に金属体M上に描線されることを妨げるものではないが、描線の有無に拘わらず、導入工程が行われる標的部位を結ぶ線と解するべきである。
【0080】
そして、この仮想線に沿って導入工程を連続的又は断続的に繰り返し、一次元方向、すなわち、仮想線に沿った一方向に相当ひずみ導入部Sを形成するようにしても良い。
【0081】
図面を参照しながら説明すると、図11(a)において金属体M上には、一点鎖線で示す直線状の仮想線Lが設定されている。a-1に示すように、まず仮想線Lの一端である位置P1を挟圧位置として導入工程を施すと、次にa-2に示す挟圧位置P2は仮想線Lに沿った位置としている。
【0082】
このように仮想線Lに沿って導入工程を行うことにより、金属体M上に存在する複数の標的部位に対して堅実な相当ひずみ導入部Sの形成を行うことが可能となる。
【0083】
また、a-2において位置P1と位置P2との関係は近接する位置としたが、a-3において位置P3で示すように重畳する位置であったり、位置P1~P3のように連続的な位置ではなく、a-4において位置P4で示すように離隔した位置、すなわち断続的な位置に相当ひずみ導入部Sを形成しても良い。
【0084】
また、仮想線は必ずしも直線状である必要はなく、導入工程が行われる標的位置に応じた曲線状であっても良い。
【0085】
すなわち、図11(b)において金属体M上には、一点鎖線で示す曲線状の仮想線Lが設定されており、b-1に示すように、まず仮想線Lの一端である位置P1を挟圧位置として導入工程を施し、次にb-2に示す挟圧位置P2は仮想線Lに沿った位置P1と近接する位置としているが、仮想線Lが曲線であるため、位置P2は位置P1の長辺に隣接するものの、短辺は不揃いとなっている。
【0086】
このように曲線状の仮想線Lに沿って導入工程を行うことにより、金属体M上に存在する複数の標的部位に対し、更なる自由度を持って相当ひずみ導入部Sの形成を行うことが可能となる。
【0087】
また、a-3やa-4と同様、b-3において位置P3で示すように重畳する位置であったり、b-4において位置P4で示すように離隔する位置に断続的に導入工程を行って相当ひずみ導入部Sを形成しても良い。
【0088】
また、仮想線は、金属体M上において必ずしも1本である必要はなく、複数本設定しても良い。
【0089】
図11(b)において示した曲線状の仮想線を設定すると、直線状の仮想線を設定した場合に比して、紙面左右方向へ変位しながら相当ひずみ導入部Sを形成できる分、より自由度が高い相当ひずみの導入方法であると言えるが、曲線状の仮想線を設定した場合でも、挟圧体の左右幅を超えて相当ひずみ導入部Sを形成することは困難である。
【0090】
これに対し、金属体M上に複数の仮想線を設定することとすれば、金属体Mのより広範囲について二次元的な広がりを持って加工を施すことが可能となる。
【0091】
図面を参照しつつ説明すると、図12において金属体M上には、一点鎖線で示す2本の直線状の仮想線L1及びL2が設定されている。図12(a)に示すように、まず仮想線L1の一端である位置P1を挟圧位置として導入工程を施し、仮想線L1に沿いながら図12(b)に示すように挟圧位置を位置P2として挟圧体により導入工程を施す。
【0092】
このような処理を仮想線L1に沿って繰り返し、図12(c)にて位置P3で示す他端まで行うと、次に、図12(d)で示すように、仮想線L2の一端となる位置P4から再び仮想線L2に沿って導入工程を繰り返し行う。
【0093】
このように、金属体M上に設定された複数の仮想線に沿って導入工程を行うことで、金属体Mのより広範囲について二次元的な広がりを持って加工を施すことができる。
【0094】
また、金属体M上に複数の仮想線を設定した場合、所定の仮想線上における導入工程の処理を終えてから他の仮想線上での導入工程へ移す必要はなく、仮想線を違えながら相当ひずみ導入部Sを形成しても良い。
【0095】
具体的には、図13(a)に示すように、2本の直線状の仮想線L1及びL2が設定された金属体Mに対し、まず、仮想線L1の一端である位置P1を挟圧位置として導入工程を施した後、図13(b)に示すように標的部位を仮想線L2上の位置P2に違えて導入工程を行い、図13(c)に示すように再び標的部位を仮想線L1上の位置P3に違えて導入工程を行う。
【0096】
このような千鳥状の動作を繰り返し行うことによっても、図13(d)に示すように金属体Mのより広範囲について二次元的な広がりを持って加工を施すことができる。なお、図12及び図13にて示した例は、いずれも先に形成された相当ひずみ導入部Sと挟圧位置とは隣接させて導入工程を行うこととしているが、前述の如く重畳させたり離隔させても良いのは言うまでもない。
【0097】
このように、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法は、挟圧体の相対的な平行動作が直線的な第1のHPS手法に準じた導入工程に照らせば上述した例として解釈されるが、前述の第1のHPT手法に準じた導入工程により応用することも可能である。
【0098】
図14は、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第1のHPT手法に準じた導入工程により応用した例を示す説明図である。
【0099】
第1のHPT手法に準じた導入工程を行う場合であっても、先の第1のHPS手法に準じた導入工程と同様に、これまで加工可能な金属体Mの大きさが挟圧体にて挟持可能な範囲の大きさに限られていたのに対し、金属体M上の挟圧位置を移動して金属体Mの所定部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うことで、装置を大型化することなく、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことが可能である。
【0100】
すなわち、図14(a)に示すように、挟圧位置P1が先に形成された相当ひずみ導入部Sである位置P2や位置P3から離隔した位置とすることや、図14(b)に示すように、挟圧位置P1や先に相当ひずみ導入部Sを形成した位置P2,P3を隣接又は重畳したり、図14(c)に示すように直線状の仮想線Lに沿って挟圧位置P1や相当ひずみ導入部Sが形成された位置P2~P4を隣接又は重畳させたり、図14(d)に示すように曲線状の仮想線Lに沿って導入工程を複数回行ったり、図14(e)に示すように複数の仮想線L1,L2に沿って導入工程を行うようにしても良い。
【0101】
また、図15(a)に示すように、3本の直線状の仮想線L1~L3が設定された金属体Mに対し、まず、仮想線L1の一端である位置P1を挟圧位置として導入工程を施した後、図15(b)に示すように標的部位を仮想線L2上の位置P2に違えて導入工程を行い、次いで図15(c)に示すように標的部位を仮想線L3上の位置P3に違えて導入工程を行い、図15(d)に示すように再び標的部位を仮想線L1上の位置P4に違えて導入工程を行うようにしても良い。このような千鳥状の動作を繰り返し行うことによっても、図15(e)に示すように金属体Mのより広範囲について二次元的な広がりを持って加工を施すことができる。
【0102】
また、第1のHPT手法に準じた導入工程を行う場合、図16に示すように金属体M上に同心円状の仮想線を設定しても良い。この場合、前述の複数本の仮想線を設定して導入工程を行った例の如く、1本の仮想線に対し複数回の導入工程を施すことによっても相当ひずみ導入部Sを金属体Mに対して形成することが可能であるが、ここでは、また異なった相当ひずみ導入部Sの形成例について説明する。
【0103】
同心円状に設定した仮想線L1~L3に沿って相当ひずみ導入部Sを形成するに際し、本実施例では図17に示す第1~第3の3つのアンビルを使用して導入工程を行う。
【0104】
図17(a)に示す第1アンビル40は、仮想線L1に沿った導入工程を行うに際し挟圧体として機能するものであり、上アンビル41及び下アンビル42には金属体M上に設定された仮想線L1よりも大径で、且つ仮想線L1に沿った直径を有する円形状の成形面43,44が形成されている。
【0105】
また、図17(b)に示す第2アンビル45は、仮想線L2に沿った導入工程を行うに際し挟圧体として機能するものであり、上アンビル46及び下アンビル47には仮想線L2よりも大径で且つ仮想線L2に沿った直径の円形領域から第1アンビル40の成形面43,44の円形領域に相当する部分が凹部50,51により除かれたリング状の成形面48
,49が形成されている。
【0106】
また、図17(c)に示す第3アンビル52は、仮想線L3に沿った導入工程を行うに際し挟圧体として機能するものであり、上アンビル53及び下アンビル54には、仮想線L3よりも大径で且つ仮想線L3に沿った直径の円形領域から第1アンビル40の成形面43,44の円形領域、及び第2アンビル45の成形面48,49のリング状領域に相当する部分が凹部55,56により除かれたリング状の成形面57,58が形成されている。
【0107】
なお、図8を参照して説明した第1のHPT手法にて使用する上下アンビル31,32は、それぞれの成形面33,34に凹部33a,34aを形成し、この凹部33a,34aの周縁壁にて金属体Mを拘束しつつ相当ひずみの導入を行っていたが、上記第1~第3アンビル40,45,52は成形面に拘束壁を備えていない点で特徴的である。すなわち、成形面に拘束壁を備えずフラットな状態とすることで、遂次加工を可能としており、金属体を拘束壁によって拘束することなく挟圧する点で先の第1のHPT手法にて示した上下アンビル31,32と異なっている。また、ここでフラットとは必ずしも平面である必要はなく、第1~第3アンビル40,45,52の上下アンビル間において平行な曲面や不定形面であっても良い。
【0108】
なお、対になる各金型等は、対向面の互いに対向する部位、例えば成形面に、高摩擦面と、同高摩擦面の縁部に沿って近接して形成された低摩擦面と、を有することとし、金属体Mに対し高摩擦面にてしっかりとグリップさせつつ、低摩擦面であえてスリップさせ圧潰伸長を抑制するようにしても良い。また、更なる特徴として、以下の点を備えつつ本実施形態に係る相当ひずみの導入方法が実施されても良い。
・搬送距離を高摩擦面の搬送方向における幅員以下とすること。
・対になる一方の金型等の高摩擦面と他方の金型等の高摩擦面は互いに平行な略平坦面にすること。
・対になる一方の金型等の低摩擦面と他方の金型等の低摩擦面は、高摩擦面から離れるほど互いに遠ざかる漸次離間構造を有すること。
・高摩擦面を頂部平坦面とする丘陵形状とすること。
【0109】
これらの構成は、第1のHPT手法のみならず、他の手法においても適用することができる。また、これらの具体的な一例としては、例えば特願2016-026443を挙げることができる。
【0110】
そして、図18(a)の左図に示すように、相当ひずみ導入装置に装着された第1アンビル40の上下アンビル41,42間に、仮想線L1の中心軸と第1アンビル40の回転軸とが同軸状態となるよう金属体Mを介在させて挟圧し、中図に示すように相対的な回転動作を行うことで、右図に示すように仮想線L1に沿った相当ひずみ導入部S1を形成する。
【0111】
次に、金属体M上の挟圧位置を仮想線L1から仮想線L2へ移動させるに際し、相当ひずみ導入装置の挟圧体を第2アンビル45とした上で、図18(b)の左図に示すように、上下アンビル46,47間に、仮想線L2の中心軸と第2アンビル45の回転軸とが同軸状態となるよう金属体Mを介在させて挟圧し、中図に示すように相対的な回転動作を行うことで、右図に示すように仮想線L2に沿った相当ひずみ導入部S2を形成する。
【0112】
そして、金属体M上の挟圧位置を仮想線L2から仮想線L3へ移動させるに際し、相当ひずみ導入装置の挟圧体を第3アンビル52とした上で、図18(c)の左図に示すように、上下アンビル53,54間に、仮想線L3の中心軸と第3アンビル52の回転軸とが同軸状態となるよう金属体Mを介在させて挟圧し、中図に示すように相対的な回転動作を行うことで、右図に示すように仮想線L3に沿った相当ひずみ導入部S3を形成する。
【0113】
このように金属体M上に同心円状に設定された仮想線L1~L3に沿って導入工程を行うことで、図18(c)の右図に示すように相当ひずみ導入部S1~S3よりなる相当ひずみ導入部Sを、金属体Mのより広範囲について二次元的な広がりを持って加工を施すことができる。なお、先に形成した相当ひずみ導入部S1に対する相当ひずみ導入部S2を形成する際の狭圧位置や、相当ひずみ導入部S2に対する相当ひずみ導入部S3を形成する際の挟圧位置は、図18においていずれも隣接する位置としたが、前述の如く重畳させたり離隔させても良いのはいうまでもない。
【0114】
次に、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第2のHPS手法に準じた導入工程により応用した例について説明する。
【0115】
先述した第2のHPS手法においては、図5を参照しつつ説明したように、例えば円柱状の金属体Mに対して加工を施す場合、金属体Mの上半部と下半部の境界部分1箇所でしか相当ひずみ導入部Sを形成することができず、金属体Mの一部に相当ひずみ導入部Sを形成するにとどまり、全体的に相当ひずみ導入部Sを形成するのは困難であった。
【0116】
この点、第2のHPS手法に準じた導入工程により本実施形態に係る相当ひずみの導入方法を実施することで、金属体Mの全体に相当ひずみ導入部Sを形成することが可能となる。
【0117】
図19は、本実施例において加工対象の一例として使用する金属体Mを示した説明図であり、この金属体Mは、先の第2のHPS手法で加工対象とした金属体と略同形状のものである。
【0118】
本実施例において金属体Mは、図19に示すように厚み方向について、実際は一体形状であるが、概念的に分割して捉えられる。ここでは金属体Mについて、厚み方向にそれぞれ平行な層状の第1部位60a~第6部位60fに概念的に分割される。なお、この分割数は特に限定されるものではなく、ここでは金属体Mの厚み方向全体について相当ひずみ導入部Sを形成するため、各部位の境界部に導入工程を行った際に形成される相当ひずみ導入部Sの範囲が互いに隣接又は重複する分割数として6分割を例示しているが、金属体Mの全体ではなく、任意かつ複数の境界部に相当ひずみ導入部Sを形成するのであれば、その必要な境界部に対応した分割数及び分割位置とすれば良い。
【0119】
また、図20は、本実施例において使用する金型の構成を示した分解斜視図である。導入工程を行うにあたり使用される金型は、ここでは一例として図20に示す分割金型61を使用する。分割金型61は、第1金型62~第6金型67を備えている。
【0120】
第1金型62は、やや厚手に形成した矩形板状の金型基板62aの下面に、金属体Mの第1部位60aと略同形状とした収容凹部62bが形成されている。
【0121】
金型基板62aの隅部近傍4箇所には、金型基板62aの上下を貫通する調整桿挿通孔62cが穿設されており、同調整桿挿通孔62cには、それぞれ境界位置上部調整桿68が挿通されている。
【0122】
また、各境界位置上部調整桿68には、それぞれストッパ69が装着されており、各境界位置上部調整桿68の挿入深さを任意の位置で金型基板62aの上面に対し固定可能としている。
【0123】
第6金型67は、第1金型62を上下反転させた略同形状に構成しており、金型基板67aの上面には、金属体Mの第6部位60fと略同形状とした収容凹部67bが形成されている。また、隅部近傍4箇所には、金型基板67aの上下を貫通する調整桿挿通孔67cが穿設され、調整桿挿通孔67cにはそれぞれ金型基板67aの下面に係止可能とするストッパ69を備えた境界位置下部調整桿70が挿通されている。
【0124】
第2金型63~第5金型66は、第1金型62と第6金型67との間に配置される金型であり、矩形板状とした金型基板62a~67aを備え、各隅部には境界位置上部調整桿68又は境界位置下部調整桿70を挿通させるための挿通孔62c~67cが穿設されている。
【0125】
また、第2金型63~第5金型66には、金属体Mの各部位形状に対応した収容孔部63b~66bが穿設されている。第2金型63の収容孔部63bは、金属体Mの第2部位60bと略同形状であり、第3金型64の収容孔部64bは第3部位60cと、第4金型65の収容孔部65bは第4部位60dと、第5金型66の収容孔部66bは第5部位60eと略同形状の孔部としている。すなわち、これら第2金型63~第5金型66の収容孔部63b~66bは、第1金型62と第6金型67の収容凹部62b,67bと共に、金属体Mを収容する収容空間を構成する。
【0126】
このような構成を備える分割金型61は、第1金型62~第6金型67を積層した状態で、各境界位置上部調整桿68及び各境界位置下部調整桿70の深さ位置を調整することにより、境界位置を挟圧方向へ変更することができる。
【0127】
例えば、各境界位置上部調整桿68を第2金型63の挿通孔63cの中途位置まで挿入する一方、各境界位置下部調整桿70を第3金型64の挿通孔64cの中途位置まで挿入すれば、第1金型62及び第2金型63が一方の挟圧体としての上部金型として機能し、第3金型64~第6金型67が他方の挟圧体としての下部金型として機能することとなる。なお、本実施例を説明する上で便宜上、例えば上部金型が第1金型62であり下部金型が第2金型63~第6金型67で構成される場合の両金型間の境界を第1境界と称し、また例えば、上部金型が第1金型62~第4金型65であり下部金型が第5金型66及び第6金型67で構成される場合の両金型間の境界を第4境界のように称する。
【0128】
そして、この分割金型61を用い、第2のHPS手法に準じた導入工程により本実施形態に係る相当ひずみの導入方法を実施するにあたっては、まず、図21(a)の左図に示すように、金属体Mを分割金型61内の収容空間内に収容すると共に、各境界位置上部調整桿68を第1金型62の調整桿挿通孔62cの中途位置まで挿入する一方、各境界位置下部調整桿70を第2金型63の挿通孔63cの中途位置まで挿入した状態として第1境界を境とする上部金型及び下部金型を構成する。
【0129】
次いで、前述した第1のHPS手法と同様、加圧方向に進退する第1油圧装置や長さ又は幅方向に進退する第2油圧装置等を用い、上部金型及び下部金型を第1油圧装置等によって近接させて収容空間に介在させた金属体Mを挟圧し、図21(a)の中図に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により上部金型又は下部金型を平行動作させる。
【0130】
すると、この動作によって、上部金型(第1の挟圧体)に追従する金属体Mの第1部位60a(一側)と、下部金型(第2の挟圧体)に追従する金属体Mの第2部位60b~第6部位60f(他側)との間、すなわち、第1境界に位置する金属体Mの内部に相当ひずみが導入されて、図21(a)の中図及び右図にて濃い網掛けで示すような相当ひずみ導入部S1が形成される。
【0131】
ここで一旦、図21(a)の左図の状態に上部金型と下部金型の相対位置を戻し、次に図21(b)の左図に示すように、各境界位置上部調整桿68を第2金型63の挿通孔63cの中途位置まで挿入する一方、各境界位置下部調整桿70を第3金型64の挿通孔64cの中途位置まで挿入した状態として第2境界を境とする上部金型及び下部金型を構成する。すなわち、上部金型と下部金型の境界位置を挟圧方向へ変化させる。
【0132】
そして、上部金型及び下部金型を第1油圧装置等によって近接させて収容空間に介在させた金属体Mを挟圧し、図21(b)の中図に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により上部金型又は下部金型を平行動作させると、上部金型(第1の挟圧体)に追従する金属体Mの第1部位60a及び第2部位60b(一側)と、下部金型(第2の挟圧体)に追従する金属体Mの第3部位60c~第6部位60f(他側)との間、すなわち、第2境界に位置する金属体Mの内部に相当ひずみが導入されて、図21(b)の中図及び右図にて濃い網掛けで示すような相当ひずみ導入部S2が形成される。
【0133】
同様に、この後も境界位置を第3境界、第4境界と挟圧方向へ変化させながら導入工程を行い、それぞれ相当ひずみ導入部S3及びS4を形成する。
【0134】
このようにして、図21(c)の左図に示すように、第5境界を境とする上部金型と下部金型とを構成し、図21(c)の中図に示すように導入工程を実施して相当ひずみ導入部S5を形成し、金型の相対位置を元に戻すことで、金属体Mの全体に相当ひずみ導入部Sを形成することができる。付言するならば、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな厚み(大きな体積)を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことができる。
【0135】
次に、第2のHPS手法に準じた導入工程の他の例について説明する。本他の例では、前述の第2のHPS手法に準じた導入工程の例と同様に、棒状の金属体Mについて複数箇所に亘り導入工程を行って、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体Mに対し相当ひずみ導入部Sを形成するものであるが、導入工程を行う毎に当該棒状の金属体Mの軸線周りに金属体Mを所定角度ずつ位相を違えながら行う点で構成を異にしている。
【0136】
具体的には、まず、図4にて示した第1金型21及び第2金型22を用い、図5に示すように金属体Mを挟圧しつつ第1金型21及び第2金型22の分割面に沿って金型を所定方向へ相対的に移動させ、図22(a)に示すように、第1金型21と第2金型22との分割面を含む仮想の境界平面が横断する金属体Mの部位に相当ひずみ導入部S1を形成し、金属体Mが元の形状となるよう両金型21,22の相対位置を戻す。
【0137】
次いで、一旦金型を開くなどして、図22(b)に示すように金属体Mを軸線周りに所定角度回転させ、境界平面が横断する金属体Mの部位が相当ひずみ導入部S1とは異なるよう位相を変化させて両金型を閉じる。
【0138】
この状態で2度目の導入工程を行うと、図22(c)に示すように、新たな相当ひずみ導入部S2が形成される。
【0139】
このような作業を3度目(図22(d))、4度目(図22(e))と所定の回数に亘り繰り返し行うことで、図22(f)に示すように、金属体Mの略全体に亘り相当ひずみ導入部を形成することができる。付言するならば、本他の例によっても、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな厚み(大きな体積)を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことができる。
【0140】
次に、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第3のHPS手法に準じた導入工程により応用した例について説明する。
【0141】
先述した第3のHPS手法においては、図6及び図7を参照しつつ説明したように、例えば円柱状の金属体Mに対して加工を施す場合、金属体Mの一部に相当ひずみ導入部Sを形成するにとどまり、金属体Mの伸延方向(長手方向)への広がりを持って相当ひずみ導入部Sを形成するのは困難であった。
【0142】
この点、第3のHPS手法に準じた導入工程により本実施形態に係る相当ひずみの導入方法を実施することで、金属体Mの長手方向へ広い範囲に亘り連続又は断続的に相当ひずみ導入部Sを形成することが可能となる。
【0143】
図23は、本実施例において加工対象の一例として使用する金属体Mを示した説明図であり、この金属体Mは、先の第3のHPS手法で加工対象とした金属体よりもより長い形状のものである。
【0144】
また、先に説明した第3のHPS手法と同様、本実施例においても、第1の把持体に相当する第1金型71と第2の把持体に相当する第2金型72及び第3金型73とを備えるのであるが、図23にて示すように、第1~第3金型71,72,73には、一体的につなぎ合わせるとこれら金型を貫通する金属体Mの外形形状と略同形状の収容空間28を構成する孔部がそれぞれ設けられている。
【0145】
具体的には、第1金型71には金属体Mの所定の一部を把持可能に形成された第1孔部71aが、第2金型72には金属体Mの残部一端側を把持可能に形成された第2孔部72aが、第3金型73には金属体Mの残部他端側を把持可能に形成された第3孔部73aが、それぞれ備えられている。
【0146】
そして、各金型71~73をつなぎ合わせることでそれぞれの孔部71a~73aにより形成される収容空間74に金属体Mを挿通し介在させて挟圧しつつ相当ひずみ導入部を形成する。
【0147】
すなわち、前述の第3のHPS手法と同様、加圧方向に進退する第1油圧装置や金属体Mを横断する方向に進退する第2油圧装置、また第2金型72や第3金型73を挿通するMを滑り無くしっかりと把持する把持機構(図示せず)を駆動させるための油圧装置等を用い、図23(a)に示すように金属体Mを把持した第2金型72及び第3金型73を第1油圧装置等によって第1金型71に近接させて収容空間74に介在させた金属体Mを挟圧し、図23(b)に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により第1金型71を第2金型72及び第3金型73に対し相対的に対向移動させる。
【0148】
すると、この動作によって、第1金型71(第1の把持体)に追従する金属体Mの所定の一部と第2金型72(第2の把持体)に追従する金属体Mの左部(残部一端側)との境界域、及び、第1金型71(第1の把持体)に追従する金属体Mの所定の一部と第3金型73(第2の把持体)に追従する金属体Mの右部(残部他端側)との境界域に存する金属体Mの内部に相当ひずみが導入されて、網掛けで示すような相当ひずみ導入部S1a,S1bが形成される。
【0149】
ここで一旦、図23(a)の状態(金属体Mが直線状となる状態)に第1金型71と第2金型72及び第3金型73との相対位置を戻し、図23(c)に示すように、第2金型72及び第3金型73による金属体Mの挟圧方向で所定の向き(ここでは、黒矢印で示す紙面左方向)へ金属体Mと境界域との相対的な位置を所定距離だけ移動させる。
【0150】
そして再び、金属体Mを把持した第2金型72及び第3金型73を第1金型71に近接させて金属体Mを挟圧し、図23(d)に示すように、挟圧状態を維持したまま第2油圧装置等により第1金型71を第2金型72及び第3金型73に対し相対的に対向移動させて相当ひずみ導入部S2a,S2bを形成する。
【0151】
このように、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体Mに対して上述の動作及び導入工程を繰り返し、境界域に対する金属体Mの相対位置を移動して、金属体Mの所定の部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うことで、金属体Mの長手方向へ広い範囲に亘り連続又は断続的に相当ひずみ導入部Sを形成することができる。
【0152】
次に、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、実験例を参照しながらより具体的に説明する。
〔実験例1〕
本実験例では、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第1のHPS手法に準じた導入工程により応用した例を示す。
【0153】
図24に示すように、長さ190mm×幅100mm×厚さ1mmに形成されたINCONEL718製の板材を金属体Mとし、室温条件下において相当ひずみ導入部Sの形成領域を離隔させたり、一部を重畳させながら10回に亘り導入工程を行った。導入工程における挟圧体による挟圧力は4GPa、平行動作スピードは1mm/sec、平行動作距離は1パス目及び2パス目が5mm、3パス目~10パス目までは10mmとし、室温にて加工した。その結果を図24に示す。なお、図24の1&2パス目に記載された破線は導入工程が行われる仮想線を示しており、各パスは、仮想線を違えながら千鳥状に行った。
【0154】
図24からも分かるように、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法によれば、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する板材に対し、金型による挟圧位置を移動して板材の所定部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うことで、板材の広い範囲に亘り相当ひずみ導入部を形成できることが示された。
【0155】
次に、同じくINCONEL718製の板材を金属体Mとし、平行動作距離を違えた場合における加工後の板材の伸び率について検討を行った。具体的には、図25(a)に示すように、板材に対して7回に亘り導入工程を施した。図25(a)において交差する網掛け部分は、2パス目と3パス目、4パス目と5パス目、6パス目と7パス目の間で重畳して導入工程が施された部位を示しており、太い破線は仮想線を示している。
【0156】
また、導入工程はいずれのパスも、挟圧体による挟圧力は4GPa、平行動作スピードは1mm/sec、室温にて行ったが、平行動作距離は、1パス目~3パス目は5mm、4パス目及び5パス目は10mm、6パス目及び7パス目は15mmとした。実際に加工された板材の状態を図25(b)に示し、同加工後の板材から試験サンプルが採取された後の板材の状態を図25(c)に示す。
【0157】
試験サンプルは、平行動作距離をそれぞれ5mm、10mm、15mmとした2パス目、4パス目、6パス目の重畳させていない領域(以下、右側領域という。)と、3パス目、5パス目、7パス目の重畳させていない領域(以下、左側領域という。)と、平行動作距離をそれぞれ5mm、10mm、15mmとしつつ2パス目及び3パス目、4パス目及び5パス目、6パス目及び7パス目の間で重畳して導入工程が施された領域(以下、重畳領域という。)とより採取した。
【0158】
得られた試験サンプルの伸び率について測定した結果を図26に示す。図26からも分かるように、同じ試験条件下における未加工の板材の伸び率が35%程度であるところ、重畳させていない左側領域及び右側領域のいずれにおいても、未加工の板材を超える伸び率を示しており、板材に対し2次元方向への広がりをもって相当ひずみが導入されていることが示唆された。
【0159】
また、平行移動距離との関係については、5mmの場合約60%程度の伸び率であったところ、10mmでは約240%となり、更には15mmにおいて優に400%を超える超塑性の発現が見られた。なお、左側領域と右側領域の顕著な差異は見られなかった。
【0160】
また、重畳領域においては、平行移動距離が10mmの場合であっても、15mmの場合と略同等の伸び率が見られ超塑性が発現していることが確認された。図26の下図は、6パス目と7パス目の間で重畳して導入工程が施された部位より採取された試験サンプルの試験後の状態を示している。
【0161】
これらのことから、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法を実施することにより、相当ひずみ付与装置の1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、相当ひずみ導入装置の大型化を伴うことなく、相当ひずみの導入が可能であることが示された。
【0162】
また、難加工性材料の加工性を向上することができ、大量生産性やコスト低減を図ることが可能となる点で極めて有利であると考えられた。
【0163】
〔実験例2〕
本実験例では、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第1のHPT手法に準じた導入工程により応用した例、特に、図18等を参照しつつ説明した同心円状に仮想線を設定した場合の相当ひずみの導入方法の例を示す。
【0164】
直径80mm、厚さ1mmに形成されたINCONEL718製の板材を金属体Mとし、室温条件下において、例えば図17(a)及び図17(b)に示したような直径の異なる成形面をそれぞれ備えた2つのアンビルを用いて導入工程を行った。実験条件の詳細を図27に示す。
【0165】
アンビルは、直径35mmの円形状の成形面を備えた第1アンビルと、第1のアンビルの成形面に相当する部分が凹部によって除かれた直径50mmののリング状の成形面を備えた第2アンビルを用いた。挟圧力は4GPa、平行動作としての回転動作における回動量は第1アンビルは128度、第2アンビルは18度、回動の速さは0.2rpm、温度は室温にて導入工程を行った。
【0166】
また本実験例では、加工後の板材より採取したサンプルについて、引張試験と硬度試験に供した。各サンプルの採取位置及び試験条件は図27に示す通りである。
【0167】
図28に加工前の板材と加工後の板材の状態を示す。なお、加工前の板材に示す太破線は、導入工程を行うにあたり予め設定された仮想線を示している。また、加工後の板材は、第1アンビル及び第2アンビルでの加工をそれぞれ別個の板材に対して使用した状態を示しているが、同一の板材に対して加工可能であることも既に実際に行って確認している。
【0168】
図28からも分かるように、実際は同一の板材に加工を施すことで、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法によれば、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する板材に対し、金型による挟圧位置を移動して板材の所定部位へ複数箇所に亘り導入工程を行うことで、板材の広い範囲に亘り相当ひずみ導入部を形成できることが示された。
【0169】
次に、硬度試験の結果を図29に示す。図29は相当ひずみと硬度の関係を示したグラフである。図29からも分かるように、第1アンビル及び第2アンビルのいずれによる導入工程においても、相当ひずみに応じて硬度上昇していることが確認された。
【0170】
次に、高温引張試験の結果を図30に示す。図30の左図は高温引張試験に供したサンプルの試験後の状態を示しており、右図はサンプルの公称応力と伸び率との関係を示したグラフである。図30からも分かるように、第1又は第2のアンビルを用いて導入工程が行われた領域では高い伸び率が確認された。特に、第1アンビルにて加工した半径5mmの部位から得られたサンプルでは僅かに及ばなかったものの、その他の領域から採取されたサンプルは、いずれも400%を超える伸び率を示し、超塑性が見られた。また中でも、第2アンビルは18度しか回転していないにも拘わらず、超塑性が見られたのは極めて興味深い結果である。
【0171】
〔実験例3〕
本実験例では、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法に関し、第2のHPT手法に準じた導入工程により応用した例、特に、図5を参照しつつ説明した例や、図22等を参照しつつ説明した金属体Mを回転させつつ相当ひずみの導入を行う例について、1回分の導入工程による金属体Mに対する相当ひずみの入り方について検討を行った。
【0172】
実験に供した試料は、φ10×80mmの丸棒材であり、長尺方向に二分割し、片側の断面に格子模様を罫書き、瞬間接着剤を用いて元の丸棒に接着したものを使用した。また、試料は、A1050(純アルミニウム)製の丸棒材と、INCONEL718製の丸棒材との2種類を使用した。なお、以下の説明において、A1050製の試料をA1050グリッド試料と称し、INCONEL718製の試料をINCONEL718グリッド試料と称する。
【0173】
図31(a)に、導入工程に供したA1050グリッド試料の変形状況を示し、図31(b)にA1050グリッド試料における格子のゆがみを示す。なお、図31(b)では、格子のゆがみが目視判別し易いように、一部の罫書線をマーカにて強調表示している。
【0174】
図31(a)に示すように、挟圧力1GPa、スライド量10mm、金型内面の表面粗さRz=30で導入工程の往路動作のみ行ったA1050グリッド試料は、外観的に観察すると上半部と下半部とが相対的にずれた状態となっていた。また、この時の試料内部は、図31(b)の上図に示すように、縦横へ直角に交わるよう罫書かれていた格子模様が斜め方向に変形しており、相当ひずみが効果的に導入されていることが示唆された。
【0175】
また、同様の条件で、導入工程の往復動作を行ったA1050グリッド試料は、図31(b)の下図に示すように、左右が概ね対称の太鼓模様に戻されていることが確認された。
【0176】
ところで、内面を粗面とした金型により導入工程を行った場合、内面に金属体が強い挟圧力で圧着させられて粗面に密着した状態となるため、金型凹部から金属体を取出すにあたり離型性の問題が生じる場合がある。
【0177】
そこで次に、離型性の改善を図るべく、金型内面に離型用樹脂シートを装着し、内面に形成した粗面が実質的に機能しない状態として導入工程を同様に行った。離型用樹脂シートを装着しない場合と装着した場合とのサンプルの違いを図32に示す。
【0178】
A1050グリッド試料に対し往路動作のみの導入工程を行った結果、図32の上サンプルに示すように、粗面が機能するよう離型用樹脂シートを装着しなかったサンプルは、先の試験結果と同様に内部グリッドが歪み、相当ひずみが効果的に導入されていることが分かる。
【0179】
その一方、驚いたことに、粗面を実質的に機能させない状態で導入工程を行ったサンプルは、外観形状自体は粗面を機能させたサンプルと同様の形状を呈していたものの、内部グリッドに歪みは殆ど見られない結果となった。
【0180】
このことから、金型凹部内面の粗面の無効化又は粗面形成しないことで、本試験の課題であった離型性については改善されることが示唆されたが、第2のHPT手法に準じた導入工程の他の例により応用した場合、本来の目的である相当ひずみの導入に際し、粗面が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0181】
また、試験結果の図示は割愛するが、面粗さがそれぞれ異なる金型凹部内面の金型を用いて検討を行ったところ、同内面の面粗さは概ねRz=25μm~60μm、好ましくはRz=25μm~45μmで良好な結果が得られることが示された。なお、この面粗さは、他のHPS手法やHPT手法においても採用可能であるが、少なくとも他のHPS手法やHPT手法において当該面粗さが必須の構成であることを示唆する結果ではないことに留意すべきである。
【0182】
次に、INCONEL718グリッド試料に対し、挟圧力4GPa、スライド量10mm、金型内面の表面粗さRz=30で導入工程を行った際のサンプルの状態を図33に示す。図33において上サンプルは導入工程の往路動作のみ行ったものであり、下サンプルは往復動作を行ったものである。
【0183】
図33の上図からも分かるように、A1050グリッド試料と同様、INCONEL718グリッド試料においても、外観的に上半部と下半部とが相対的にずれた状態に変形しており、また、この時の試料内部は格子模様が斜め方向に変形しており、相当ひずみが効果的に導入されていることが示唆された。
【0184】
また、同様の条件で、導入工程の往復動作を行った場合、図33の下図に示すように、左右が概ね対称の太鼓模様に戻されていることが確認された。
【0185】
次に、図33の上図に示したINCONEL718グリッド試料について、グリッドの変形に基づいてコンピュータ上で解析を行うことにより、サンプルの各部における硬度と相当ひずみについて確認を行った。その結果を図34に示す。
【0186】
図34中において、(a)はグリッドの変形を状態を示した図であり、(b)は硬度のコンター図、(c)は相当ひずみのコンター図である。図34に示すように、ひずみは厚み方向中心に集中し、若干斜めにひずみが印加されていることが分かる。また、図34(b)に示す硬度と、図34(c)に示す相当ひずみには相関が見られ、超塑性の発現の目安である硬度500HVに到達している部位の存在が確認された。
【0187】
次に、挟圧力の違いによる影響について確認を行った。A1050グリッド試料に対し、挟圧力を0.8GPa、1GPa、1.5GPaにそれぞれ違え、スライド量10mm、金型内面の表面粗さRz=30で往路のみの導入工程を施した際のサンプルの状態について確認を行った。
【0188】
その結果、図35(a)~図35(c)に示すように、挟圧力が大きいほどひずみは導入されることが示された。また、図35(c)に示すように、1.5GPaの挟圧力を加えた場合には、図33の上図にて示した4GPaの結果と同等レベルのひずみが導入されることが示された。
【0189】
これらの結果から、第2のHPT手法に準じた導入工程の他の例の応用においては、素材がINCONEL718である場合、挟圧力は概ね1.0GPa以上、好ましくは1.5GPa以上、更に好ましくは2GPa以上が適当であるものと考えられた。この結果は、例えば第1のHPT手法によりINCONEL718製の板材の加工を行う際に、大凡4GPa程度の挟圧力を要することを勘案すると、2GPa程の加重低減が図れることが示された。また、挟圧力の上限は特に限定されるものではないが、金型の強度等を勘案すると、概ね10GPa以下、好ましくは6GPa以下、例えば4GPa以下が適当であるものと考えられた。併せて、素材として試験に供したINCONEL718は、高強度難加工材であるニッケル基超合金であり、このような高強度難加工材に対応可能な挟圧力や面粗度等の数値範囲は、他の金属材料を素材とした加工においても適用可能であることが示唆された。
【0190】
〔面性状変化方法〕
次に、上述してきた各HPS手法や各HPT手法により加工が施された金属体の面性状を所望の面性状に変化させるための技術について説明する。
【0191】
これまで説明してきた各HPS手法や各HPT手法は、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有するか否かに拘わらず、金属体を介在させた一対の挟圧体の相対的な平行動作に伴って、第1の挟圧体に追従する金属体の一側と第2の挟圧体に追従する金属体の他側との間に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備える点で共通するものである。
【0192】
また、金属体を挟圧する第1及び第2の挟圧体は、それぞれ金属体との接触面、すなわち挟圧面を粗面化する態様が考えられる。
【0193】
ただ、先に第2のHPT手法に準じた導入工程の他の例を代表例として述べたように、粗面が形成された金型により導入工程を行った場合、強い挟圧力で圧着させられて粗面に密着した状態となるため、金属体に粗面が転写されることとなる。
【0194】
この粗面が転写された金属体の表面部分(以下、転写面ともいう。)は、金属体を製品として利用するに際し、製品としての機能や意匠に影響を及ぼさない場合は特に問題とはならないが、何らかの影響を及ぼす場合には転写面を滑面化したり、変形させるなど所望の面性状に整える必要がある場合も考えられる。
【0195】
しかしながら、各HPS手法や各HPT手法で導入工程が施された金属体は、微細化により硬度が著しく上昇しており、例えば、元来難加工性材料として知られるINCONEL718の如きニッケル基超合金にあっては、転写面を所望の面性状に整えるのは一般に容易ではない。
【0196】
そこでここでは、上述してきた各HPS手法や各HPT手法により相当ひずみの導入工程が行われた金属材料表面の転写面について、その面性状を所定の面性状に変化させるための方法について説明する。
【0197】
特に、本実施形態に係る面性状変化方法の特徴としては、所望する面性状の押型面を備えた押型体に圧接させて金属材料表面の面性状、すなわち転写面を所望する面性状とするにあたり、各HPS手法や各HPT手法にて行われた相当ひずみの導入工程に由来して微細化された結晶粒の微細化度合いに応じ、金属材料の伸びが増加する温度と圧接力とひずみ速度とを備える伸び増加条件下で行う面性状変化工程を有する点で特徴的である。
【0198】
この面性状変化工程は、少なくとも金属材料の伸びが増加する温度と圧接力とひずみ速度とを備える伸び増加条件下で行われるものであるが、この伸び増加条件は面性状を変化させる対象である金属体の素材や結晶粒の微細化度合いに応じて適宜設定することができる。
【0199】
すなわち、伸び増加条件は、温度と圧接力とひずみ速度をその要素とするものであるが、所定の加工条件における温度、圧接力、ひずみ速度に対し、温度は高く、圧接力は大きく、ひずみ速度は小さくすることで、当該所定の加工条件で金属体の加工を行う場合に比して金属体の伸びを増加傾向とすることが可能である。
【0200】
面性状変化工程を行うにあたり、金属体の伸びは特に限定されるものではなく、常温の状態における伸びよりも大きな伸びを示す状態であればその加工性を改善することが可能であるが、例えば先に言及した準超塑性を発現可能な条件下であったり、更には200%を越える伸びを示す準超塑性を発現可能な伸び増加条件下で行われるのが好ましい。
【0201】
このような構成とすることにより、上述してきた各HPS手法や各HPT手法によって獲得した結晶粒の微細化に由来する金属体の性質を利用して、転写面を所望の面性状に整えることができる。
【0202】
また、金属体の伸びが400%を越える伸びを示す伸び増加条件下、すなわち、超塑性発現条件下で行われるのが更に好ましい。
【0203】
このような構成とすることにより、転写面の面性状を、所望の面性状が象られている押し型面により忠実に整えることができる。
【0204】
なお、面性状変化工程は、先に言及した伸び増加条件の下、転写面部分の金属体が押型面に追従しつつ変形可能であれば、金属材料に対して単独で行っても良いし、他の加工工程と同時に行っても良い。
【0205】
例えば、単独で面性状変化工程を行う例としては、転写面を有する板状の金属材料の面性状を整えるに際し、熱間圧延ローラのローラ面を押し型面として、押し型体としての熱間圧延ローラを伸び増加条件下にて転写面に圧接させて所望の面性状とする場合が挙げられる。
【0206】
また、他の加工工程と同時に面性状変化工程を行う例としては、転写面を有する円盤状の金属材料を所謂カップ成型する場合が挙げられる。
【0207】
具体的には、カップ成形を伸び増加条件下にて行うことで、成形工程と面性状変化工程とが同時に行われることとなり、製品成形しつつその面性状を所望の面性状に変化させることが可能となる。
【0208】
以下、本実施形態に係る面性状変化方法に関する試験例について説明する。なお本試験例では、面性状変化工程を単独で行う場合よりも技術的に困難な他の工程と同時に行う例、特にカップ成形の例について言及することとし、比較的容易な単独で行う例、例えば熱間圧延ローラによる例についてはその実施例を割愛するが、カップ成形可能であれば当然に熱間圧延ローラにより面性状の改変は当然に可能である。また、使用する金属材料は、第1のHPS手法により得た板状の金属体を使用するが、本実施形態に係る面性状変化方法は、各HPS手法や各HPT手法で微細化されたその金属体における結晶粒の状態に由来するものであり、各HPS手法や各HPT手法の別を問うものではない。
【0209】
長さ100mm×幅100mm×厚み1mmのINCONEL718製の板材を加工対象の金属体とし、図1図3及び図11に示す第1のHPT手法によって金属体に対し相当ひずみの導入工程を行った。
【0210】
次いで、得られた金属体から直径62mmの円形状に切り出しを行い、本実施形態に係る面性状変化方法に供するための円盤金属体を得た。同金属体には、挟圧面に粗面が形成された挟圧体による挟圧で転写された転写面が形成されていた。同転写面の表面粗さは、測定の結果Rz=31であった。また、円盤金属体を切り出した金属体から各種試験用サンプルを採取し、各種試験に供した結果、硬さは500HV超、結晶粒径は0.2μm以下であり、これらの事項から円盤金属体が超塑性を発現する温度は800℃以上、ひずみ速度は2×10-2/s-1以下であり、超塑性を発現させた際に成形に必要な応力は約0.2GPa以上であることが予測された。
【0211】
次に、カップ成形を行うことで、成形加工と同時に面性状変化工程を行った。具体的には、図36(a)に示すカップ成形装置80の上部ダイ80aと下部ダイ80bとの間に円盤金属体81を配置し、図36(b)に示すように上下のダイ80a,80bで挟圧力を加えつつ、上部ダイ80aを押型体とし、同上部ダイ80aの下面を押型面として、圧接された金属体の表面の面性状を滑面化した。なお、前述した伸び増加条件を満たすべく、配置した円盤金属体81は予め800℃に加熱しており、挟圧力及びひずみ速度はそれぞれ0.2GPa以下、2×10-2/s-1以下となるようカップ成形装置80に設定した。また、押型面となる上部ダイ80aの下面の表面粗さはRz=6.3以下(▽▽▽, Ra=1.6以下)とした。
【0212】
その結果、図36(c)に示すような形状のカップ成形体82が得られた。
【0213】
次に、カップ成形体82の内底面82aについて、円盤金属体81に形成されていた転写面が滑面化されたか否かについて確認を行った。
【0214】
その結果、表面粗さはRa=1.1μmであり、Rzでは大凡4~5μmに相当すると考えられることから、内底面82aが十分に滑面化されたことが示された。特に、この加工後のRa=1.1μm(Rz=4~5μm)という表面粗さは、金属加工の分野において表面仕上げの度合いを示す三角記号で「▽▽:切削仕上」よりも滑面化された表面状態であることから、一般的な金属加工レベルにおいて十分実用に耐えうる表面性状の改変が可能であることが示された。
【0215】
このように、本実施形態に係る面性状変化方法によれば、各HPS手法や各HPT手法により加工が施された金属体に形成された転写面に対し、所望する面性状の押型面を備えた押型体に圧接させて転写面の面性状を所望する面性状とするにあたり、各HPS手法や各HPT手法に由来して微細化された結晶粒の微細化度合いに応じた金属体の伸びが増加する温度と圧接力とひずみ速度とを備える伸び増加条件下で行う面性状変化工程を施すことにより、転写面の面性状を所定(所望)の面性状に変化させることができる。
【0216】
上述してきたように、本実施形態に係る相当ひずみの導入方法によれば、金属体を介在させた一対の挟圧体の相対的な平行動作に伴って、第1の挟圧体に追従する金属体の一側と第2の挟圧体に追従する金属体の他側との間に相当ひずみ導入部を形成する導入工程を備えた相当ひずみの導入方法であって、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する前記金属体に対し、前記挟圧体による前記金属体上の挟圧位置を移動して、前記金属体の所定の部位へ複数箇所に亘り前記導入工程を行うこととしたため、相当ひずみ導入装置の大型化等を伴うことなく、1度の導入工程で形成される相当ひずみ導入部よりも大きな体積を有する金属体に対し、より広範囲に亘って相当ひずみの導入を行うことができる。
【0217】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0218】
例えば、相当ひずみ導入装置に備えられる挟圧体は一対に限定されるものではなく、複数対備えるようにしても良いのは勿論である。
【符号の説明】
【0219】
10 相当ひずみ導入装置
11,21,25 第1金型
12,22,26 第2金型
27 第3金型
13,31 上アンビル
14,32 下アンビル
23,28 収容空間
40 第1アンビル
45 第2アンビル
52 第3アンビル
61 分割金型
L 仮想線
M 金属体
S 相当ひずみ導入部
図1
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