(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】重ね耐火板構造およびロケット着陸台
(51)【国際特許分類】
B64G 5/00 20060101AFI20231113BHJP
【FI】
B64G5/00
(21)【出願番号】P 2022031952
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2022-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐人
(72)【発明者】
【氏名】秋江 辰司
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】野中 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直洋
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10150580(US,B1)
【文献】特開2018-048476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0263187(US,A1)
【文献】特開昭61-197998(JP,A)
【文献】特開平09-278000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部耐火板と、
前記上部耐火板の下方に位置する下部耐火板と、
前記上部耐火板と前記下部耐火板との間に所定距離のすき間を形成するすき間形成部材と、
を備え、
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、下面に取り付けられた底板鋼板を含
み、
前記下部耐火板は、複数の下部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士は所定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする重ね耐火板構造。
【請求項2】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、型枠内に流し込んで打設することで平板状に形成可能な材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の重ね耐火板構造。
【請求項3】
前記上部耐火板は、厚さが100mm以上200mm以下であり、前記すき間形成部材で形成される前記すき間の前記所定距離は50mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の重ね耐火板構造。
【請求項4】
前記底板鋼板の上面には、ずれ止めが取り付けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項5】
前記すき間形成部材は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている複数の形鋼であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項6】
前記すき間形成部材を構成する前記複数の形鋼のうち、一部の形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な一定の方向に相互に所定の間隔を空けて配置され、残りの形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向であって、かつ前記一定の方向とは異なる方向に相互に所定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項5に記載の重ね耐火板構造。
【請求項7】
前記一定の方向と、前記一定の方向とは異なる前記方向とは、略直交する方向であることを特徴とする請求項6に記載の重ね耐火板構造。
【請求項8】
前記上部耐火板は、複数の上部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項9】
前記下部耐火板の下方には、下部スペーサを備えていることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項10】
前記上部耐火板の位置を拘束する拘束部材を備えていることを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項11】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方はキャスタブル耐火物で形成されていることを特徴とする請求項1~
10のいずれかに記載の重ね耐火板構造。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載の重ね耐火板構造を備えることを特徴とするロケット着陸台。
【請求項13】
海上の船舶上に設けられたことを特徴とする請求項
12に記載のロケット着陸台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐火板の構造に関し、詳細には、ロケット着陸台等に好適に使用可能な耐火板構造に関する。また、このような耐火板構造を備えるロケット着陸台に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙ステーションを有効に運用していくためには、人員や物資を宇宙輸送するための補給船が必要である。
【0003】
補給船を宇宙空間に送り出すためにはロケットが必要となるが、ロケットを打ち上げるためには発射台が必要である。また、近年では、補給船を宇宙空間に送り出すために発射したロケットを地上や海上の着陸台に着陸させて再打ち上げすることも行われており、この場合にはロケットを着陸させるための着陸台が必要となる。
【0004】
発射台には、ロケット発射時の燃焼ガスを浴びる部位があり、また、着陸台には、ロケット着陸時の逆噴射の燃焼ガスを浴びる部位がある。これらの部位は極めて高い高温と高温ガス流体に耐えられることが必要であり、例えば、特許文献1には、ロケット発射台の偏向板構造として、コンクリート製基板上にグラウトにより多数のセラミック製ライニングブロックが相隣り合って被覆敷設されている偏向板構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年開発が進んでいる高性能ロケットエンジン(液体水素/液体酸素エンジン)は、従来のエンジンよりも燃焼ガスの温度が高く(3600℃程度に達すると言われている。)なっており、より高性能な耐火板が求められてきているが、本発明者は、従来のエンジンよりも高温の燃焼ガスを浴びる耐火板は、損傷を全く受けないようにすることは困難と考え、損傷を受けた部位のみを容易に補修または交換できるように耐火板構造を構成することが重要ではないかと考えた。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の偏向板構造では、セラミック製ライニングブロックがコンクリート製基板上にグラウトにより取り付けられており、部分的にセラミック製ライニングブロックを容易に補修または交換することは困難である。
【0008】
また、ロケットエンジンの燃焼ガスを浴びる際には耐火板には冷却水をかけるが、燃焼ガスを浴びた冷却水は急激に水蒸気になるため、その際の急激な圧力上昇により耐火板を損傷させる可能性があると本発明者は考えた。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、部分的に補修または交換をすることを容易に行うことができ、かつ、燃焼ガスを浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造およびロケット着陸台を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような重ね耐火板構造およびロケット着陸台である。
【0011】
即ち、本発明に係る重ね耐火板構造の一態様は、上部耐火板と、前記上部耐火板の下方に位置する下部耐火板と、前記上部耐火板と前記下部耐火板との間に所定距離のすき間を形成するすき間形成部材と、を備えることを特徴とする重ね耐火板構造である。
【0012】
本願において、本発明および本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造ならびにその構成部材に関し、上方や下方等の上下を観念する文言の解釈については、上部耐火板が上、下部耐火板が下となるように、本発明および本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造を水平面上に載置した状態を基準として解釈するものとする。これらのことは、本願の他の箇所の記載においても同様とする。
【0013】
前記上部耐火板は各部位が同一の組成の材料で構成されており、また、前記下部耐火板も各部位が同一の組成の材料で構成されている、ように構成されていてもよい。
【0014】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、型枠内に流し込んで打設することで平板状に形成可能な材料で構成されていてもよい。
【0015】
前記上部耐火板は、厚さが100mm以上200mm以下であり、前記すき間形成部材で形成される前記すき間の前記所定距離は50mm以上100mm以下である、ように構成されていてもよい。
【0016】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、下面に取り付けられた底板鋼板を含んでいてもよい。
【0017】
前記底板鋼板の上面には、ずれ止めが取り付けられていてもよい。
【0018】
前記すき間形成部材は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている複数の形鋼であってもよい。
【0019】
ここで、「前記上部耐火板の下面に取り付けられ」とは、前記上部耐火板の下面に直接的に取り付けられている場合だけでなく、他の部材を介して前記上部耐火板の下面に間接的に取り付けられている場合も含む。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0020】
前記すき間形成部材を構成する前記複数の形鋼のうち、一部の形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な一定の方向に相互に所定の間隔を空けて配置され、残りの形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向であって、かつ前記一定の方向とは異なる方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている、ように構成してもよい。
【0021】
前記一定の方向と、前記一定の方向とは異なる前記方向とは、略直交する方向であってもよい。
【0022】
前記形鋼の上面には、前記上部耐火板の内部に埋め込まれているずれ止めが取り付けられていてもよい。
【0023】
前記上部耐火板は、複数の上部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されている、ように構成してもよい。
【0024】
ここで、前記上部耐火板について「面内方向」とは、前記上部耐火板が板状体として面的に広がる方向のことであり、通常の場合、前記上部耐火板の上面および下面と平行な方向である。本願の他の箇所の同様の記載についても同様である。
【0025】
また、「面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されている」とは、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士のすき間が実質的にない状態を意味しており、物理的なすき間が零であることを意味しているわけではない。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0026】
前記下部耐火板は、複数の下部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士は所定の間隔を空けて配置されている、ように構成してもよい。
【0027】
ここで、前記下部耐火板について「面内方向」とは、前記下部耐火板が板状体として面的に広がる方向のことであり、通常の場合、前記下部耐火板の上面および下面と平行な方向である。本願の他の箇所の同様の記載についても同様である。
【0028】
前記下部耐火板の下方には、下部スペーサを備えていてもよい。
【0029】
前記上部耐火板の位置を拘束する拘束部材を備えていてもよい。
【0030】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方はキャスタブル耐火物で形成されていてもよい。
【0031】
本発明に係るロケット着陸台の一態様は、前記重ね耐火板構造を備えることを特徴とするロケット着陸台である。
【0032】
前記ロケット着陸台は、海上の船舶上に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、部分的に補修または交換をすることを容易に行うことができ、かつ、燃焼ガスを浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造およびロケット着陸台を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造10を上方から見た平面図
【
図2】重ね耐火
板構造10の鉛直断面図(
図1のII-II線断面図)
【
図4】上部耐火
板20の水平断面図(
図2のIV-IV線断面図)
【
図5】上部耐火
板20の鉛直断面図(
図4のV-V線断面図)
【
図7】下部耐火
板30の水平断面図(
図2のVII-VII線断面図)
【
図8】下部耐火
板30の鉛直断面図(
図7のVIII-VIII線断面図)
【
図9】ロケット着陸施設100に着陸台として重ね耐火
板構造10を設置した状況を模式的に示す鉛直断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。この説明では、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10をロケットの着陸台に用いる場合を念頭に置いて説明
をするが、本発明に係る重ね耐火板構造の適用対象が、ロケットの着陸台に限定されるわけではない。
【0036】
(1)本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造の構成および作用効果
図1は、本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造10を上方から見た平面図であり、
図2は、重ね耐火
板構造10の鉛直断面図(
図1のII-II線断面図)であり、
図3は、
図2のIII部を拡大した拡大鉛直断面図であり、
図4は、上部耐火
板20の水平断面図(
図2のIV-IV線断面図)であり、
図5は、上部耐火
板20の鉛直断面図(
図4のV-V線断面図)であり、
図6は、
図3のVI部を拡大した拡大鉛直断面図であり、
図7は、下部耐火
板30の水平断面図(
図2のVII-VII線断面図)であり、
図8は、下部耐火
板30の鉛直断面図(
図7のVIII-VIII線断面図)であり、
図9は、ロケット着陸施設100に着陸台として重ね耐火
板構造10を設置した状況を模式的に示す鉛直断面図である。なお、図示の都合上、
図1では、上部耐火
板20よりも下方の部位については、下部耐火
板30の輪郭のみ隠れ線(破線)で表示しており、
図2、
図3、
図5、
図8の鉛直断面図では、端面以外の部位で背景にある輪郭線は破線で記載している。また、
図4では、
板間スペーサ24についてはウェブのみを描いており、
図7では、下部スペーサ34についてはウェブのみを描いている。また、
図6の拡大鉛直断面図では、面内方向に隣り合う上部耐火
板ブロック20A同士を面内方向に少し間隔を空けた状態を描いている。
【0037】
本第1実施形態に係る重ね耐火板構造10は、上部耐火板20と、下部耐火板30と、板間スペーサ24と、下部スペーサ34とを有してなり、上部耐火板20を下部耐火板30が板間スペーサ24を介して下方から支持する2段構成の耐火板構造になっている。
【0038】
上部耐火板20は、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受け止める役割を有し、上部耐火板20は、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受け止める。上部耐火板20は、上部耐火板20を下方から支持するための剛性を備える下部耐火板30により下方から支持されるため、着陸後のロケット102の重量の支持は主に下部耐火板30によりなされる。
【0039】
上部耐火板20は、複数の上部耐火板ブロック20Aに分割されて構成されている。上部耐火板ブロック20Aの下面には、上部耐火板ブロック20Aの大きさに合わせた上部底板鋼板22がそれぞれ取り付けられており、上部耐火板ブロック20Aの一部を構成している。上部底板鋼板22の厚さは3~12mm程度である。この上部底板鋼板22は、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10の使用条件によっては、設けることを省略してもよい。また、上部耐火板ブロック20Aの下面側の角部には角部保護鋼材20Bが取り付けられている。角部保護鋼材20Bとしては、例えばL形鋼を用いることができる。
【0040】
面内方向に隣り合う上部耐火
板ブロック20A同士はすき間なく密接して配置されており、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104が下方に漏れ出ないようにしている。本実施形態では、耐火性を有する材料で形成された平
板状のブロック体である上部耐火
板ブロック20Aが9つ面内方向にすき間なく連結されて構成されており、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受け止める。
図6に示すように、角部保護鋼材20Bの側面と上部耐火
板20の側面とは段差のない鉛直面になっており、面内方向に隣り合う上部耐火
板ブロック20A同士はすき間なく密接して配置できるようになっている。
【0041】
上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)の厚さは、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受け止める観点や取り扱い性(特に交換時の取り扱い性)の観点から、標準的には100~200mm程度である。また、取り扱い性(特に交換時の取り扱い性)の観点や作製上の容易さの観点から、上部耐火板ブロック20Aの面内方向の大きさ
は標準的には1000~2000mm程度である。
【0042】
重ね耐火板構造10をロケット102の着陸台に用いた場合、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104は重ね耐火板構造10の上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)が直接受け止めるため、上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)には高い耐熱性が要求される。上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)の材質は、必要な耐火性能等を発現できるものであれば特には限定されず、必要な耐火性能等に応じて、具体的には例えば、アルミナ、マグネシア、酸化クロム、ジルコニア等を上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)に用いることができる。ブロック体として上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)を作製する際の取り扱い性がよく、また、補修時の施工性がよく、さらにコスト的な面から、上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)の材質としてはキャスタブル耐火物(耐火性の大きな軽量骨材にアルミナセメントを配合したもの)を好適に用いることができる。
【0043】
上部耐火板20は、単一の材料で構成されている。ここで言う単一の材料とは、上部耐火板20の各部位が同一の組成の材料で構成されていることを意味し、複数種の耐火材料を混合してなる材料を除外する趣旨ではない。上部耐火板20は、単一の材料で構成されているため、損傷したときの補修も、当該単一の材料を用いて行うことができ、複数の材料や部材を用いる必要がなく、容易に行うことができる。例えば、上部耐火板20をキャスタブル耐火物で形成した場合、損傷個所(例えばロケット102の逆噴射燃焼ガス104により削り取られた箇所)をキャスタブル耐火物で補修すればよい。キャスタブル耐火物による補修では、損傷個所(削り取られた箇所等)にキャスタブル耐火物を詰め込んで削り取られた箇所等にキャスタブル耐火物を充填することで補修を行うことができる。なお、安全性が確認できれば、最初に上部耐火板20を形成する際に使用した耐火材料とは異なる耐火材料で補修することも可能である。
【0044】
また、上部耐火板20は、面内方向にすき間なく密接して配置した複数の上部耐火板ブロック20Aで構成されているので、損傷の程度が大きい上部耐火板ブロック20Aについては、補修をするのではなく、交換することで損傷に対する対応を行うこともできる。
【0045】
上部耐火板20を交換するコストを下げる観点から、上部耐火板20は安価に作製できる材料で構成されていることが好ましく、より好ましくは鋼材の型枠内に流し込んで打設することで平板状に形成可能な材料、つまり前述したキャスタブル耐火物(耐火性の大きな軽量骨材にアルミナセメントを配合したもの)で構成されていることが好ましい。それにより上部耐火板20の作製が容易となり、上部耐火板20の交換のコストを下げることができる。
【0046】
上部耐火板20の上部耐火板ブロック20Aの下面には、前述したように上部底板鋼板22が取り付けられていて上部耐火板ブロック20Aの一部を構成しているが、本実施形態に係る重ね耐火板構造10をロケット102の着陸台に用いる場合、着陸時の逆噴射燃焼ガス104に対応するために水を吹きかけるので、水および水蒸気の逃げ道とするために、上部底板鋼板22には所定の間隔で直径20mm程度の貫通孔を設けておくことが好ましい。貫通孔は、100~200mm程度のピッチで設けるのが標準的である。上部底板鋼板22に貫通孔を設ける場合、貫通孔の大きさやピッチ、形状は、重ね耐火板構造10を使用する条件によって適宜に設定すればよい。また、上部底板鋼板22に貫通孔を設けることは必須ではなく、重ね耐火板構造10を使用する条件によっては設けなくてもよい。なお、上部耐火板20をキャスタブル耐火物で形成する場合、上部底板鋼板22を型枠として用いることもできる。
【0047】
また、上部底板鋼板22の上面にずれ止め部材(図示せず)を取り付け、該ずれ止め部
材を上部耐火板20の内部に埋め込んで設置することにより、上部耐火板20と上部底板鋼板22との一体化の程度を向上させて、上部耐火板20の耐荷力を向上させることもできる。このようにした場合、上部耐火板20の厚さを一定の程度薄くしても必要な耐荷力を得ることが可能となる。
【0048】
板間スペーサ24は、上部耐火板20と下部耐火板30との間に配置されており、上部耐火板20と下部耐火板30との間に所定の距離のすき間を形成して、水や水蒸気の逃げ道をつくる役割を有する。したがって、板間スペーサ24はすき間形成部材であると言える。上部耐火板20と下部耐火板30との間を、十分な量の水や水蒸気が通過できるようにするために、上部耐火板20と下部耐火板30との間のすき間の大きさは標準的には50~100mm程度にする。したがって、板間スペーサ24の上下方向の高さは、標準的には50~100mm程度である。また、板間スペーサ24により、上部耐火板20と下部耐火板30との間に前記したようなすき間を設けることで、上部耐火板20が損傷した場合の交換作業を容易に行いやすくなる。
【0049】
板間スペーサ24としては、高さ50~100mm程度の形鋼を通常用い、具体的には例えば高さ50~100mm程度のL形鋼や溝形鋼を用いる。本実施形態に係る重ね耐火
板構造10においては、
図2、
図3、
図5に示すように、
板間スペーサ24としてL形鋼を用いている。
【0050】
図4では、L形鋼である
板間スペーサ24のウェブを破線で示しているが、
図2~
図5に示すように、本実施形態では、
板間スペーサ24は、上部底板鋼板22の面内方向の端部の下面に略正方形の4辺に沿って溶接で取り付けられているとともに、上部底板鋼板22の面内方向中央部(略正方形を4つの略正方形に分割する位置)の下面にお互いに直交するように溶接で取り付けられている。
【0051】
板間スペーサ24は、上部耐火板20の一方の側の面(上部底板鋼板22の下面)に接して相互に所定の間隔を空けて配置されており、前述したように、上部耐火板20と下部耐火板30との間に所定の距離のすき間を形成して、上部耐火板20(上部耐火板ブロック20A)の下方に冷却水および水蒸気の逃げ道をつくる役割を有している。したがって、板間スペーサ24のウェブには、冷却水および水蒸気の逃げ道となり得るような貫通孔を設けておくのがよい。また、板間スペーサ24は、前述したような上部底板鋼板22の下面の位置に溶接で取り付けられていて、上部底板鋼板22を補強しており、上部底板鋼板22を補強することを通して上部耐火板20全体を補強している。板間スペーサ24の上面にずれ止め部材(図示せず)を取り付け、該ずれ止め部材を上部耐火板20の内部に埋め込んで設置することにより、上部耐火板20と板間スペーサ24との一体化の程度を向上させて、板間スペーサ24による補強効果をさらに向上させるようにしてもよい。
【0052】
前述したように、面内方向に隣り合う上部耐火
板ブロック20A同士はすき間なく密接して配置されているが、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受けた時等でも、位置がずれないようにするため、
図6に示すように、面内方向に隣り合う
板間スペーサ24の一方のウェブに凸部24Xが設けられ、他方のウェブには貫通孔24Yが設けられており、凸部24Xが貫通孔24Yに勘合するようになっている。
【0053】
また、面内方向に隣り合う上部耐火板ブロック20A同士が相互にずれないようにするだけでなく、9つの上部耐火板ブロック20Aが組み合わされて構成された上部耐火板20の全体が浮き上がらないようにするために、図示せぬ索(ワイヤーロープ)を板間スペーサ24のウェブに取り付け、この索(ワイヤーロープ)を外部の固定物に固定するようにして、上部耐火板20の全体の位置を拘束するようにしてもよい。
【0054】
下部耐火板30は、上部耐火板20を下方から支持する役割を有しており、上部耐火板20を下方から支持するための剛性を備える。重ね耐火板構造10を例えばロケット102の着陸台に用いた場合、ロケット102の重量が重ね耐火板構造10の上部耐火板20に直接的に加わるため、上部耐火板20を下方から強力に支持することが必要になる。この場合、下部耐火板30にはかなり大きな剛性が要求されるため、下部耐火板30の厚さは厚くなっており、また、下部耐火板30の下方に配置される下部スペーサ34にはH形鋼を用いている。
【0055】
下部耐火板30は、耐火性を有する材料で形成された平板状のブロック体である下部耐火板ブロック30Aが4つ面内方向に連結されて構成されており、上部耐火板20を下方から支持する役割を有する。前記したように、重ね耐火板構造10を例えばロケット102の着陸台に用いるためには、下部耐火板30にはかなり大きな剛性が必要となる。このため、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の厚さは厚くなっており、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の厚さは標準的には200~300mm程度である。また、取り扱い性の観点および作製上の容易さの観点から、下部耐火板ブロック30Aの面内方向の大きさは標準的には2000~3000mm程度である。
【0056】
下部耐火板30を構成している各下部耐火板ブロック30Aの下面には、下部耐火板ブロック30Aの大きさに合わせた下部底板鋼板32がそれぞれ取り付けられている。下部底板鋼板32の厚さは3~12mm程度である。この下部底板鋼板32は、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10の使用条件によっては、設けることを省略してもよい。また、下部耐火板ブロック30Aの下面側の角部には角部保護鋼材30Bが取り付けられている。角部保護鋼材30Bとしては、例えばL形鋼を用いることができる。
【0057】
また、重ね耐火板構造10を例えばロケットの着陸台に用いた場合、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104は重ね耐火板構造10の上部耐火板20が直接受け止めるため、下部耐火板30は、直接的にはロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受けることはないが、上部耐火板20を通過した熱を受けるため、下部耐火板30も耐熱性が要求される。また、ロケット102着陸時の逆噴射燃焼ガス104を受けて上部耐火板20に貫通孔が生じた場合でも安全性を確保できるようにする観点からも、下部耐火板30には耐熱性が要求される。
【0058】
図1および
図3に示すように、面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士は所定のすき間(例えば100mm程度のすき間)を空けて配置しているが、面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士は、下部スペーサ34を介して連結されている。面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士の間に設けられた所定のすき間は、冷却水および水蒸気の逃げ道となり、また、下部耐火
板30全体の軽量化に寄与する。
【0059】
下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の材質は、必要な耐火性能等を発現できるものであれば特には限定されず、必要な耐火性能等に応じて、具体的には例えば、アルミナ、マグネシア、酸化クロム、ジルコニア等を下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)に用いることができる。ブロック体として下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)を作製する際の取り扱い性がよく、また、補修時の施工性がよく、さらにコスト的な面から、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)を構成する素材としてはキャスタブル耐火物(耐火性の大きな軽量骨材にアルミナセメントを配合したもの)を好適に用いることができる。
【0060】
下部耐火板30は、単一の材料で構成されている。ここで言う単一の材料とは、下部耐火板30の各部位が同一の組成の材料で構成されていることを意味し、複数種の耐火材料を混合してなる材料を除外する趣旨ではない。下部耐火板30は、単一の材料で構成され
ているため、損傷したときの補修も、当該単一の材料を用いて行うことができ、複数の材料や部材を用いる必要がなく、容易に行うことができる。例えば、下部耐火板30をキャスタブル耐火物で形成した場合、損傷個所(例えばロケット102の逆噴射燃焼ガス104により削り取られた箇所)をキャスタブル耐火物で補修すればよい。キャスタブル耐火物による補修では、損傷個所(削り取られた箇所等)にキャスタブル耐火物を詰め込んで削り取られた箇所等にキャスタブル耐火物を充填することで補修を行うことができる。なお、安全性が確認できれば、最初に下部耐火板30を形成する際に使用した耐火材料とは異なる耐火材料で補修することも可能である。
【0061】
また、下部耐火板30は、面内方向に配置した複数の下部耐火板ブロック30Aで構成されているので、損傷の程度が大きい下部耐火板ブロック30Aについては、補修をするのではなく、交換することで損傷に対する対応を行うこともできる。
【0062】
下部耐火板30の下面には、前述したように下部底板鋼板32を取り付けているが、本実施形態に係る重ね耐火板構造10をロケット102の着陸台に用いる場合、着陸時の逆噴射の炎に対応するために水を吹きかけるので、水および水蒸気の逃げ道とするために、下部底板鋼板32には所定の間隔で直径20mm程度の貫通孔を設けておくことが好ましい。貫通孔は、100~200mm程度のピッチで設けるのが標準的である。下部底板鋼板32に貫通孔を設ける場合、貫通孔の大きさやピッチ、形状は、重ね耐火板構造10を使用する条件によって適宜に設定すればよい。また、下部底板鋼板32に貫通孔を設けることは必須ではなく、重ね耐火板構造10を使用する条件によっては設けなくてもよい。なお、下部耐火板30をキャスタブル耐火物で形成する場合、下部底板鋼板32を型枠として用いることもできる。
【0063】
また、各下部耐火板ブロック30Aの下部底板鋼板32の上面の面内方向中央部(略正方形を4つの略正方形に分割する位置)にずれ止めを兼ねた補強鋼材32A(L形鋼)を溶接で取り付け、補強鋼材32Aを下部耐火板30の内部に埋め込んで設置している。これより、下部底板鋼板32を補強するとともに下部耐火板30と下部底板鋼板32との一体化の程度を向上させている。このようにした場合、下部耐火板30の厚さを一定の程度薄くしても必要な耐荷力を得ることが可能となる。
【0064】
下部スペーサ34は、下部耐火板30の下方に配置されており、水や水蒸気の逃げ道をつくる役割を有する。下部耐火板30の下方を、十分な量の水や水蒸気が通過できるようにするために、下部耐火板30の下方のすき間の大きさは標準的には100mm程度にする。したがって、下部スペーサ34の上下方向の高さは、標準的には100mm程度である。
【0065】
下部耐火
板30の厚さは前述したように標準的には200~300mm程度と厚く、また、重ね耐火
板構造10を例えばロケットの着陸台に用いた場合、ロケットの重量を支える必要があるため、下部スペーサ34としては、高さ100mm程度の鋼材を通常用い、具体的には例えば高さ100mm程度のH形鋼等を用いる。本実施形態に係る重ね耐火
板構造10においては、
図2、
図3、
図8に示すように、下部スペーサ34としてH形鋼を用いている。
【0066】
図7では、H形鋼である下部スペーサ34のウェブを破線で示しているが、
図2、
図3、
図7、
図8に示すように、本実施形態では、下部スペーサ34は、下部底板鋼板32の下面に略正方形の各4辺から一辺の長さの4分の1程度内側に入った位置に溶接で取り付けられており、井形になるように溶接で取り付けられている。
【0067】
下部スペーサ34は、下部耐火板30の一方の側の面(下面)に接して相互に所定の間
隔を空けて配置されており、前述したように、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の下方に冷却水および水蒸気の逃げ道をつくる役割を有している。また、下部スペーサ34は、前述したような下部底板鋼板32の下面の位置に溶接で取り付けられていて、下部底板鋼板32を補強しており、下部底板鋼板32を補強することを通して下部耐火板30全体を補強している。また、下部スペーサ34の上面にずれ止め部材(図示せず)を取り付け、該ずれ止め部材を下部耐火板30の内部に埋め込んで設置することにより、下部耐火板30と下部スペーサ34との一体化の程度を向上させて、下部スペーサ34による補強効果をさらに向上させるようにしてもよい。
【0068】
前述したように、面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士は所定のすき間(例えば100mm程度のすき間)を空けて配置されているが、面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士は、
図2、
図3、
図7、
図8に示すように、下部スペーサ34を介して連結されており、下部スペーサ34は、面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士を連結する役割も有する。面内方向に隣り合うように配置された下部耐火
板ブロック30Aの下方にそれぞれ取り付けられた下部スペーサ34同士は、
図3に示すように、H形鋼である下部スペーサ34のウェブ同士を架け渡すようにそれらのウェブにボルト34Yで取り付けられた添接板34Xを介して連結されている。面内方向に隣り合う下部耐火
板ブロック30A同士の間に設けられた所定のすき間は、下部耐火
板30全体の軽量化に寄与し、また、冷却水および水蒸気の逃げ道となる。
【0069】
なお、下部スペーサ34は、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の下方に冷却水および水蒸気の逃げ道をつくる役割を有しているが、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10の使用条件によっては、下部耐火板30(下部耐火板ブロック30A)の下方に冷却水および水蒸気の逃げ道をつくることは必須ではなく、使用条件によっては、下部スペーサ34は省略することが可能である。ただし、下部スペーサ34を省略する場合は、下部耐火板ブロック30A同士を面内方向に他の手段で連結することが必要である。
【0070】
(2)重ね耐火板構造10の着陸台への適用
本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、前述したように、下部耐火板30の上に上部耐火板20が載置された2段構成の耐火板構造になっており、上部耐火板20と下部耐火板30との間に、冷却水および水蒸気の逃げ道が設けられた耐火板構造であり、燃焼ガスを浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造であり、耐火性能に優れる。また、厚さの厚い下部耐火板30の下には、それを下方から支持する一定の高さを有する下部スペーサ34を備えており、ロケット102の荷重を支えることができる十分な剛性を備えている。
【0071】
このため、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、ロケット着陸施設100においてロケット102の着陸台として好適に使用可能である。
【0072】
また、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、上部耐火板ブロック20Aおよび下部耐火板ブロック30Aの厚さおよび面内方向の大きさを適宜に変更でき、また面内方向に配置するそれらの数も適宜に調整することができるので、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10をロケット102の着陸台に用いる場合、対象とするロケット102に応じて、その着陸台を適切な規模の耐火構造にすることができ、全体の重量も抑えることができる。このため、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10を用いた着陸台は、台船等の海上の船舶にも容易に搭載することが可能である。したがって、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、海上のロケットの着陸台としても好適に使用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…重ね耐火板構造
20…上部耐火板
20A…上部耐火板ブロック
20B、30B…角部保護鋼材
22…上部底板鋼板
24…板間スペーサ
24X…凸部
24Y…貫通孔
30…下部耐火板
30A…下部耐火板ブロック
32…下部底板鋼板
32A…補強鋼材
34…下部スペーサ
34X…添接板
34Y…ボルト
100…ロケット着陸施設
102…ロケット
104…逆噴射燃焼ガス