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特許7383254硫黄活物質含有電極組成物、並びにこれを用いた電極および電池
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  • 特許-硫黄活物質含有電極組成物、並びにこれを用いた電極および電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】硫黄活物質含有電極組成物、並びにこれを用いた電極および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20231113BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231113BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231113BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231113BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231113BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20231113BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20231113BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20231113BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M10/0562
C01B32/186
C01B32/15
C01B32/194
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019127116
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2020140950
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019031805
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】光山 知宏
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 正浩
(72)【発明者】
【氏名】京谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅納
(72)【発明者】
【氏名】野村 啓太
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086196(WO,A1)
【文献】特開2014-199809(JP,A)
【文献】特開2015-164889(JP,A)
【文献】特開2013-143298(JP,A)
【文献】特開2014-017240(JP,A)
【文献】特開2014-035915(JP,A)
【文献】特許第6314382(JP,B2)
【文献】特開2018-088420(JP,A)
【文献】特開2017-183113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/38
H01M 4/62
H01M 4/36
H01M 10/0562
C01B 32/186
C01B 32/15
C01B 32/194
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む電極活物質と、
X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークが観測されないか、または、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が5°以上であり、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であるカーボンメソスポンジを含む導電助剤と、
を含む、硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項2】
前記X線回折スペクトルにおける炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が1.2~3.2°の範囲である、請求項1に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項3】
前記カーボンメソスポンジについて、ラマン分光法によって1590cm-1付近で計測されるGバンドのピーク強度(G)に対する、2670cm-1付近で計測されるG’バンドのピーク強度(G’)の比(G’/G)が、0.6以上である、請求項1または2に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項4】
前記カーボンメソスポンジのBET比表面積が2300~2600m/gである、請求項1~3のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項5】
前記カーボンメソスポンジの全細孔容積が4.0cm /g超である、請求項1~4のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項6】
前記カーボンメソスポンジの全細孔容積が5.3cm /g以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項7】
前記カーボンメソスポンジにおけるメソ孔の細孔容積が、前記カーボンメソスポンジにおけるミクロ孔の細孔容積よりも大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物
【請求項8】
固体電解質をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項9】
前記電極活物質と、前記カーボンメソスポンジと、前記固体電解質との複合粒子を含み、前記複合粒子の平均二次粒子径が50μm以下である、請求項に記載の硫黄活物質含有電極組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の硫黄活物質含有電極組成物を含む、電極。
【請求項11】
請求項10に記載の電極を含む、電池。
【請求項12】
全固体電池である、請求項11に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄活物質含有電極組成物、並びにこれを用いた電極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウムイオン二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。正極活物質として硫黄単体(S)や硫化物系材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、その有望な候補である。
【0006】
硫黄を含む電極活物質を全固体電池に用いる技術として、例えば特許文献1には、薄膜硫黄被覆導電性カーボンが開示されている。この材料は、ファーネスブラック、活性炭およびアセチレンブラックからなる群から選択され、所定のBET比表面積を有する導電性カーボンの表面を、所定の膜厚を有する硫黄膜で被覆したものである。特許文献1によれば、この薄膜硫黄被覆導電性カーボンを全固体電池の正極合剤として用いることで、硫黄の持つ優れた物性を最大限に活かし、優れた放電容量とレート特性を達成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-17240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されている薄膜硫黄被覆導電性カーボンを用いた場合であっても、十分なレート特性が達成されない場合があることが判明した。
【0009】
そこで本発明は、硫黄を含む電極活物質を電池の正極活物質として用いた場合に、当該電池のレート特性をよりいっそう向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、所定のX線回折パターンを示す多孔質炭素材料を、導電助剤として用いて硫黄を含む電極活物質とともに正極合剤に含ませることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一形態によれば、硫黄を含む電極活物質と、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークが観測されないか、または、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が5°以上であり、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下である多孔質炭素材料を含む導電助剤とを含む、硫黄活物質含有電極組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記所定の導電助剤(多孔質炭素材料)の有する高い比表面積、優れた電子伝導性および高い柔軟性(弾性)といった物性に起因して、電極に含まれる硫黄系電極活物質の特性を十分に活かすことができる。その結果、硫黄を含む電極活物質を電池の正極活物質として用いた場合に、当該電池のレート特性をよりいっそう向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態である双極型全固体リチウムイオン二次電池を模式的に表した断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアルミナ鋳型炭素材料を表す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る双極型二次電池(扁平なリチウムイオン二次電池)の外観を表した斜視図である
図4】製造例1-1において鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料、および、熱処理後に得られた多孔質炭素材料(1-1)の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
図5】製造例1-1において鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料、および、熱処理後に得られた多孔質炭素材料(1-1)の細孔径分布を示すグラフである。
図6】製造例1-1で得られた多孔質炭素材料(1-1)のXRD測定の結果を示すXRDパターンである。
図7A】製造例1-1で得られた多孔質炭素材料(1-1)のTEM写真である。
図7B】製造例1-1で得られた多孔質炭素材料(1-1)のTEM写真である。
図8】製造例1-1で得られた多孔質炭素材料(1-1)に圧縮力を負荷する前後における窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
図9】製造例1-2で得られた多孔質炭素材料(1-2)の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
図10】製造例2-1で得られた多孔質炭素材料(2-1)のXRD測定の結果を示すXRDパターンである。
図11】実施例2-1~実施例2-3で得られた複合粒子をSEMで観察した写真(倍率:1000倍、5000倍および20000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。以下では、二次電池の一形態である、双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて、また、正極活物質が「硫黄を含む電極活物質である」場合を例に挙げて本発明を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
本発明の一形態は、硫黄を含む電極活物質と、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークが観測されないか、または、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が5°以上であり、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下である多孔質炭素材料を含む導電助剤とを含む、硫黄活物質含有電極組成物である。本形態に係る硫黄活物質含有電極組成物によれば、上記所定の導電助剤(多孔質炭素材料)の有する高い比表面積、優れた電子伝導性および高い柔軟性(弾性)といった物性に起因して、電極に含まれる硫黄系電極活物質の特性を十分に活かすことができる。その結果、硫黄を含む電極活物質を電池の正極活物質として用いた場合に、当該電池のレート特性をよりいっそう向上させることが可能となる。
【0016】
<双極型二次電池>
図1は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。図1に示す双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。なお、図1に示す双極型二次電池10において、例えば正極活物質層15または負極活物質層13は、本形態に係る硫黄活物質含有電極組成物から形成されている。
【0017】
図1に示すように、本形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。ただし、本発明の技術的範囲は図1に示すような双極型二次電池に限定されず、複数の単電池層が電気的に直列に積層されてなる結果として同様の直列接続構造を有する電池であってもよい。
【0018】
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
【0019】
さらに、図1に示す双極型二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
【0020】
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0021】
以下、上述した双極型二次電池の主な構成要素について説明する。
【0022】
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0023】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0024】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0025】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0026】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0027】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0028】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0029】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
【0030】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12、SiO等が挙げられる。さらに、金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等の金属単体や、TiSi、LaNiSn等の合金が挙げられる。また、負極活物質として、Liを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Li含有合金が挙げられる。Li含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。
【0031】
場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0032】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0033】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0035】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0036】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
【0037】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0038】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0039】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0040】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0041】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0042】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0043】
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0044】
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0045】
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0046】
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
【0047】
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0048】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0049】
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
[正極活物質層]
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質を含む。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiSおよびFeSがより好ましく、硫黄単体(S)が特に好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0051】
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質に加えて、硫黄を含まない正極活物質をさらに含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
【0052】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0053】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0054】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0055】
正極活物質層は、上述した「硫黄を含む正極活物質」に加えて、所定の導電助剤をも必須に含有する。当該所定の導電助剤は多孔質炭素材料であり、当該多孔質炭素材料は、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークが観測されないか、または、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が5°以上であり、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下である点に特徴を有するものである。
【0056】
ここで、上記所定の多孔質炭素材料の基本骨格は、グラフェンである。炭素材料の耐酸化性を向上させるためには、耐酸化性の低いエッジ面よりも、耐酸化性が高いベーサル面を露出させることが有効である。また、導電性を高めるためには、グラフェンのサイズを大きくすることが考えられる。ただし、グラフェンの積層数を多くすると比表面積が低下してしまう。このような観点から、本発明者らは、1枚のグラフェンのサイズが大きく、積層数の少ない多孔質炭素材料を設計することを検討した。そしてその結果として、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅と(10)面に由来するピークの半値幅とが所定の値に制御された構成を有する多孔質炭素材料に到達した(特開2015-164889号公報)。
【0057】
粉末X線回折ピークの線幅から結晶子の大きさを知る方法として、下記のシェラーの式が知られている。
【0058】
【数1】
【0059】
式中、Lは結晶子の大きさであり、Kは形状因子(定数)であり、λはX線の波長であり、βは半値幅であり、θはブラッグ角(回折角2θの1/2)である。ある特定のピークを比較する場合、θがほぼ一定値であり、Kおよびλは定数であるため結晶子の大きさLは半値幅βの大きさに反比例する。
【0060】
そのため、グラフェンの積層構造に由来する炭素(002)面のピークの半値幅W(002)が大きいほど、積層方向の結晶子の大きさが小さく、グラフェンの積層数が少ないといえる。さらに、多孔質炭素材料が積層のない単層のグラフェンから構成される場合は、炭素(002)面に由来する回折ピークは現れない。また、積層構造の存在割合が単層のグラフェンに対して小さい場合も、炭素(002)面に由来する回折ピークが観察されない可能性があるものと考えられる。そして、単層グラフェンの面内回折に由来する炭素(10)面のピークの半値幅W(10)が小さいほど、面方向の結晶子が大きく、1層のグラフェンのサイズが大きいといえる。
【0061】
本発明に係る多孔質炭素材料は、W(002)が5°以上であり、W(10)が3.2°以下である。
【0062】
一般に、炭素材料の結晶性が低いほど、W(002)およびW(10)のいずれもが大きくなる傾向にある。このため、特許文献1に記載されているような各種のカーボンブラックや活性炭などの炭素材料では、グラフェンの積層数を少なくすると、グラフェンのサイズも小さくなってしまい、グラフェンの積層数が少なく、かつ、1層のグラフェンのサイズが大きい構造を得ることは容易ではない。
【0063】
具体的には、W(002)が5°よりも小さいとグラフェンの積層数が十分に低減されず、比表面積を高めることが難しく、W(10)が3.2°よりも大きいと、グラフェンのサイズが十分ではないため耐酸化性や導電性を高めることが難しい。好ましくは、W(002)は6°以上である。
【0064】
本発明の作用効果をよりいっそう発現させるためには、本形態に係る多孔質炭素材料のW(01)は1.2~3.2°であることが好ましい。
【0065】
なお、本明細書中、W(002)(°)およびW(10)(°)は、後述の実施例に記載の方法で求められる値を用いるものとする。
【0066】
また、本発明の作用効果をよりいっそう発現させるためには、本形態に係る多孔質炭素材料は、ラマン分光法によって1588cm-1付近で計測されるGバンドのピーク強度(G)に対する、2650cm-1以上2675cm-1以下で計測されるG’バンドのピーク強度(G’)の比(G’/G)が、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。
【0067】
黒鉛のラマン散乱スペクトルにおいては、グラフェンの積層に由来するGバンドが1590cm-1付近に、積層数の少ないグラフェンの存在に由来するG’バンドが2670cm-1付近に観察される。そして、Gバンドのピーク強度(G)に対する、G’バンドのピーク強度(G’)との比(G’/G)は、約0.5である。これに対して、単層グラフェンのラマン散乱スペクトルにおいては、G’/Gが、約4になることが知られている。積層数が増加すると、G’/Gは低下し、4層以上で黒鉛とほぼ同じスペクトルになる(Nano Lett.,2006,6,2667-2673、Physics Reporets,2009,473,51-87)。したがって、G’/Gの値は、単層グラフェンの存在の指標となる。G’/Gの値が4に近くなるほど、積層が少なく、ベーサル面が発達した、単層グラフェンに近い構造であるか、または、炭素材料中に含まれる単層グラフェンの割合が大きいと考えられる。
【0068】
G’/Gの値が0.6以上であれば、積層数が十分に低減されたグラフェンシートに起因する高導電率、高耐酸化性、および高比面積が効果的に達成されうる。より好ましくは、G’/Gの値は、0.7以上である。G’/Gの値の上限値は特に制限されないが、4以下であることが好ましい。
【0069】
また、G’/Gの値が0.6以上である炭素材料においては、BET比表面積が、800~2600m/gであることが好ましい。上記範囲であれば、ベーサル面が発達した単層グラフェンが存在することによる効果がより一層顕著に得られうる。
【0070】
なお、本明細書中、G’/Gの値は、後述の実施例に記載の方法で求められる値を用いるものとする。
【0071】
さらに、グラフェンのG’バンドは、高配向性グラファイト(HOPG)のG’バンドよりも低波数側にシフトし、ピークの半値幅が狭い。そのため、本形態に係る炭素材料は、好ましくは、ラマン散乱スペクトルにおけるG’バンドが高配向性グラファイト(HOPG)のG’バンドよりも低波数側にシフトする。このような構成であれば、単層グラフェンに近い構造を有していると考えられ、発明の効果がより顕著に得られうる。
【0072】
以下、図面を参照しながら、本発明の多孔質炭素材料の一実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施形態のみに制限されない。
【0073】
<多孔質炭素材料>
本形態において用いられる多孔質炭素材料は、従来の炭素材料における比表面積と耐腐食性とのトレードオフの関係を越えて、高い比表面積と高い耐腐食性とを両立するものである。
【0074】
ここで、多孔質炭素材料の耐腐食性は、電気化学的腐食の起点となりうるグラフェンシートのエッジ(端部)の量に依存しており、エッジが少ないほど耐腐食性が高くなる。エッジの量はグラフェンシートの網面サイズに依存し、網面サイズが大きいほどエッジの量は少なくなる。すなわち、網面サイズが大きいほど炭素の耐腐食性は高くなる。本発明者らは、エッジや欠陥の少ないグラフェンシートが数層以下、好ましくは1~2層、特には1層の積層数で構成される、高結晶かつ高比表面積の多孔質炭素材料を設計し、合成を行った。
【0075】
本形態において導電助剤として用いられる多孔質炭素材料は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、炭素のみからなる、実質的に炭素からなる、の双方を含む概念であり、炭素以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素からなる」とは、全体の80重量%以上、好ましくは全体の95重量%以上、より好ましくは全体の98重量%以上(上限:100重量%)が炭素から構成されることを意味する。
【0076】
また、前記多孔質炭素材料の粉末の大きさは、特に限定されない。ただし、触媒担体として用いる場合は、触媒金属の担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点から、前記多孔質炭素材料の粉末の平均粒径(平均二次粒子径)は、好ましくは5nm~10μmであり、より好ましくは100nm~5μmであり、さらに好ましくは500nm~3μmである。「多孔質炭素材料の粉末の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒径」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0077】
本形態において用いられる多孔質炭素材料のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは、250m/g以上であり、より好ましくは500m/g以上であり、特に好ましくは800m/g以上である。前記多孔質炭素材料のBET比表面積が250m/g以上であれば、電池用電極を形成するための電極組成物に導電助剤として添加されたときに優れた性能を発揮しうる。前記多孔質炭素材料のBET比表面積は大きいほど好ましいが、実質的に、2600m/g以下であり、好ましくは2500m/g以下である。前記多孔質炭素材料のBET比表面積は、窒素吸脱着等温線の測定結果からBET法で求めることができる。
【0078】
本形態において用いられる多孔質炭素材料は、細孔を有し、上記の規定を満たすものであれば特に制限はない。好ましくは、エッジや欠陥の少ないグラフェンシートが数層以下、好ましくは1~2層、特には1層の積層数で構成される構造であることが好ましい。このような構造の炭素材料としては、アルミナナノ粒子を鋳型として用いて調製された、アルミナ鋳型炭素材料であることが好ましい。アルミナ鋳型炭素材料は、鋳型であるアルミナナノ粒子の形態を反映した空孔を有する多孔質炭素材料であり、好ましくは、メソ孔を有する多孔質炭素材料である。なお、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)では、直径2nm以下の細孔をミクロ孔、直径2~50nmの細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義している。メソ孔を有する材料を総称してメソポーラス材料と称している。
【0079】
図2に、アルミナ鋳型炭素材料の一例を模式的に示す。アルミナ鋳型炭素材料1は、アルミナナノ粒子2を鋳型として得られた多孔質炭素材料である。より詳細には、アルミナ鋳型炭素材料1の作製には、まず、図2(b)に示すように、アルミナナノ粒子2の表面を炭素層3で被覆する(炭素被覆アルミナナノ粒子4)。その後にアルミナナノ粒子2のみを除去することによって、アルミナ鋳型炭素材料1が得られる(図2(c))。アルミナ鋳型炭素材料1は、鋳型として用いたアルミナナノ粒子2の構造的特徴が反映された、メソ孔7を有する。
【0080】
本形態に係るアルミナ鋳型炭素材料は、好ましくは、メソ孔7の形状に沿って三次元的に連続したグラフェンシートから構成され、前記グラフェンシートの積層数が数層以下である多孔質炭素材料(シェル状グラフェン積層体)であり、特に好ましくは、欠陥のない単層のグラフェンのみから構成される多孔質炭素材料である。グラフェンシートの積層数を数層以下、特には1層とすることで、多孔質炭素材料のBET比表面積を十分に向上させることができる。好ましくは、鋳型のBET比表面積と炭素の被覆量から求められる平均積層数が10以下(多孔質炭素材料のBET比表面積が263m/g以上に相当)であり、より好ましくは5以下(525m/g以上に相当)である。なお、グラフェンシートの機械的強度を十分に強くし、鋳型を除去した後にグラフェンシートの構造が崩れて凝集し比表面積の低下につながることを抑制する観点から、鋳型のBET比表面積と炭素の被覆量から求められる平均積層数が1以上であることが好ましい。また、メソ孔7の形状に沿って欠陥やエッジの少ないグラフェンシートが均一に三次元的に形成された構造を有することが好ましく、このような構成とすることで、多孔質炭素材料の電気化学的酸化などに対する耐久性が向上しうる。
【0081】
本形態において用いられる多孔質炭素材料は、平均細孔径が、例えば、0.5~10nmであり、好ましくは0.7~8nmである。平均細孔径が上記範囲であれば、空孔の形状に沿って数層以下(例えば5層以下、好ましくは1~2層)のグラフェンシートが積層された構造の多孔質炭素材料(シェル状グラフェン積層体)が容易に得られうる。平均細孔径は後述の実施例に記載の方法で求めることができる。
【0082】
本形態において用いられる多孔質炭素材料の全細孔容積は、好ましくは0.5cm/g以上であり、好ましくは0.9cm/g以上であり、さらに好ましくは2.5cm/g以上であり、いっそう好ましくは2.6cm/g以上であり、特に好ましくは2.7cm/g以上であり、最も好ましくは2.8cm/g以上である。このような値であれば、高い比表面積が得られ、レート特性の向上に寄与しうる硫黄活物質含有電極組成物が提供されうる。一方、全細孔容積は、好ましくは5.0cm/g以下であり、さらに好ましくは4.0cm/g以下である。このような値であれば、十分な機械的強度が得られうる。また、メソ孔の占める容積は、例えば0.8cm/g以上であり、好ましくは1.0cm/g以上、より好ましくは1.3cm/g以上である。メソ孔の占める容積が0.8cm/g以上、特には1.0cm/g以上であれば、物質移動の点で好ましい。
【0083】
多孔質炭素材料の全細孔容積は、窒素吸脱着等温線測定を行い、相対圧力(P/P)が0.96の吸着量から求めることができる。また、ミクロ孔の容積はDR法で求めることができ、全細孔容積とミクロ孔の容積との差からメソ細孔の占める容積を求めることができる。
【0084】
<多孔質炭素材料の製造方法>
本形態において用いられる多孔質炭素材料であるカーボンメソスポンジ(CMS)、アルミナナノ粒子を鋳型とし、前記鋳型上に炭素層を被覆して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を調製する第1工程と、前記鋳型を溶解除去して多孔質炭素材料を得る第2工程と、を有する方法によって製造することができる。このような方法を用いることで、カーボンメソスポンジ(CMS)と称される多孔質炭素材料が得られる。また、このようにして得られたCMSに対して約1800℃程度の温度での熱処理を施すことで、エッジや欠陥の少ないグラフェンシートが数層以下、好ましくは1~2層、特には1層の積層数で構成される、高結晶かつ高比表面積の多孔質炭素材料(グラフェンメソスポンジ(GMS))を容易に得ることができる。そして、高い酸化耐性と高い比表面積を両立する炭素材料を得ることができる。なお、第1工程において鋳型として用いられるアルミナナノ粒子として5~30nmの平均粒径を有するものを用いることで、得られる多孔質炭素材料の全細孔容積を上述した好ましい範囲に制御することが可能である。
【0085】
高い比表面積を有するグラフェンシートを得るためには、単にグラフェンを大量合成するだけでは不十分である。これは、グラフェンがファンデルワールス力により積層してしまうためである。積層してしまうことを防ぐために、グラフェンシートに三次元的な構造を持たせることが必要になる。しかしながら、グラフェンの調製方法として、機械的剥離や酸化グラフェンの還元のような方法を採用した場合は、三次元的な構造を持たせることは難しい。これに対し、上述した方法によれば、鋳型としてのアルミナナノ粒子上にグラフェンを形成し、鋳型を除去することで、効率的にカーボンメソスポンジ(CMS)やシェル状グラフェン多孔体であるGMS;(グラフェンメソスポンジ)を作製することができる。
【0086】
以上、正極活物質層に必須に含まれる導電助剤である所定の多孔質炭素材料の具体的な構成およびその製造方法について詳細に説明したが、正極活物質層は、その他の導電助剤のほか、上述した負極活物質層と同様に、必要に応じて、固体電解質、バインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。特に、正極活物質層(およびこれを構成する硫黄活物質含有電極組成物)が固体電解質をさらに含むと、活物質層におけるイオン伝導性がよりいっそう向上し、電池のレート特性の向上に寄与しうるため、好ましい。なお、これらの材料の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0087】
ここで、本発明に係る多孔質炭素材料からなる導電助剤を、電極活物質(硫黄活物質)および固体電解質と含む硫黄活物質含有電極組成物においては、電極活物質(硫黄活物質)と、多孔質炭素材料と、固体電解質とが複合粒子の形態で含まれていることが好ましい。また、この場合において、当該複合粒子の平均粒径(平均二次粒子径)は、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。下限値について特に制限はないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。このような平均粒径を有する複合粒子が含まれることにより、レート特性に特に優れた電池が提供されうる。このような複合粒子を形成するには、当該複合粒子の構成成分である電極活物質(硫黄活物質)、多孔質炭素材料および固体電解質の混合物に対し、遊星ボールミル装置のような混合・攪拌装置を用い、適切な条件(回転数、処理時間)を設定してメカニカルミリング処理を施せばよい。
【0088】
[固体電解質層]
本形態に係る双極型二次電池の固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0089】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0090】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0091】
固体電解質層の厚さは、目的とする双極型二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0092】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0093】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0094】
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0095】
本形態の双極型二次電池は、複数の単電池層が直列に接続された構成を有することにより、高レートでの出力特性に優れるものである。したがって、本形態の双極型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0096】
図3は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0097】
図3に示すように、扁平な双極型二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図3に示す双極型二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、固体電解質層17を介して複数積層されたものである。
【0098】
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0099】
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0100】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0101】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0102】
組電池に対して本発明に係る充電方法を実施する際には、例えば組電池を構成する個々の電池(単セル)のそれぞれの交流インピーダンスを測定しながら充電処理を実行することができる。このような構成とすることで、個々の電池(単セル)のそれぞれにおける電析の発生を別々にモニタリングしながら充電処理を行うことができる。
【0103】
[車両]
本形態の非水電解質二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0104】
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0105】
車両に搭載された電池(組電池)に対して本発明に係る充電方法を実施することで、例えば急速充電時のように金属リチウムの電析が発生しやすい充電条件下において充電処理を施す場合であっても、金属リチウムの電析の発生を高精度に検出しつつ、電池の容量を十分に利用することが可能となるという利点がある。
【0106】
なお、上記の説明では、双極型全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明が適用可能な二次電池の種類は特に制限されず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型の全固体電池や、従来公知の任意の双極型または非双極型(並列積層型)の非水電解質二次電池(電解液を用いる電池)にも適用可能である。
【実施例
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0108】
[多孔質炭素材料の製造例]
<製造例1-1:多孔質炭素材料(1-1)の調製>
(1)CVD法による炭素被覆したアルミナナノ粒子の調製
アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m/g)と、スペーサーとしての石英砂(仙台和光純薬社製)とを、重量比3:10(アルミナナノ粒子:石英砂)で混合した。この際、石英砂は、1M塩酸に12時間浸け、マッフル炉で、空気中で800℃で2時間加熱し、180μm間隔のふるいにかけたものを使用した。上記で調製したアルミナナノ粒子と石英砂との混合物を反応管(内径57mm)に入れ、メタンを炭素源とするCVD(メタンCVD)を行った。
【0109】
メタンCVDは、Nガスの流量を400ml/分に調節した条件下で、アルミナナノ粒子を10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで加熱し、900℃で30分間保持した。その後、キャリアガスとしてNガスを使用し、キャリアガスとメタンとの合計量に対して20体積%のメタンを反応管に導入し、900℃で4時間、化学気相成長(CVD)処理を行った。この際、メタンガスの流量を80ml/分、Nガスの流量を320ml/分に調節した。その後、メタンガスの導入を停止し、Nガスの流量を400ml/分に調節した条件下で、900℃で30分間保持した後、冷却して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を得た。
【0110】
(2)鋳型の溶解除去
次いで、上記で得られた炭素被覆したアルミナナノ粒子について、鋳型の除去を行った。
【0111】
炭素被覆したアルミナナノ粒子の鋳型除去には、フッ化水素(HF)を用いた。テフロン(登録商標)製のビーカーに、炭素被覆したアルミナナノ粒子と、濃度46質量%のHF水溶液を入れ、テフロン(登録商標)製の撹拌子で攪拌しながら、室温にて6時間保持した。その後、自然冷却した。サンプルは濾過によって回収し、150℃、6時間の真空加熱乾燥で乾燥させ、多孔質炭素材料を得た。この段階で得られた多孔質炭素材料をカーボンメソスポンジ(CMS)と称する。
【0112】
(3)多孔質炭素材料の熱処理
上記(2)で得られた多孔質炭素材料を砕き、破片を数個集めて黒鉛製の容器に入れ、高温炉にセットした。高温部をオイルポンプで10Paまで減圧し、微量のArを流しながら熱処理を行って、本製造例の多孔質炭素材料(1-1)を得た。なお、熱処理条件としては、はじめに室温から1800℃まで120分間かけて昇温した。そして、1800℃で60分間熱処理して、その後、室温まで自然冷却した。このようにして得られた多孔質炭素材料(1-1)は、1800℃と高温での熱処理によって上記CMSの水素終端エッジが融合され、より連続性の高い三次元グラフェン骨格が形成されたものであり、これをグラフェンメソスポンジ(GMS)と称する。
【0113】
(多孔質炭素材料のキャラクタリゼーション)
・窒素吸脱着等温線測定
窒素吸脱着等温線測定は、高精度自動ガス/蒸気吸着量測定装置(日本ベル株式会社製:BEL SORP MAX)を用いて、-196℃の温度で測定した。試料は測定前に150℃で6時間真空加熱乾燥した。試料のBET比表面積は、BET法を用いて、0.1<P/P<0.30の相対圧の範囲で測定した窒素吸着等温線より多点法で求めた。細孔径分布はBJH法によって求めた。平均細孔径dはシリンダー状細孔を仮定し、BET比表面積Sと全細孔容積Vより、d=4V/Sにより求めた。
・透過電子顕微鏡(TEM)観察
透過型電子顕微鏡(TEM)観察は、日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡JEM-2010を用い、加速電圧200kVにて観察した。観察時は加速電圧200kVに設定した。TEM観察に際しては、試料にエタノールを少量加えてから超音波処理(45kHz、30分)することで懸濁させ、懸濁液をマイクログリッド(応研商事:Cu150Pグリッド、カーボン補強済み、グリッドピッチ150μm)に微量滴下し、真空下50℃で2時間乾燥し、TEM観察用試料とした。
・炭素担持量の測定(熱重量分析)
島津示差熱・熱重量同時測定装置(DTG-60/60H)で熱重量分析を行った。試料を合成空気流通下(50cc/分)で10℃/分で100℃まで昇温し、30分間保持し、次いで5℃/分で800℃まで昇温して1時間保持し、-10℃/分で100℃まで冷却して30分間保持した。800℃までの加熱の前後の100℃で保持した際の平均質量の差から炭素担持量を求めた。
・X線回折測定(XRD)
X線回折測定は、シリコン無反射板にサンプルを載せ、島津製作所社製X線回折装置XRD-6100を用いて行った。線源はCu-Kα、電圧40kV、電流30mAで行った。
・ラマン分光測定
ラマン散乱スペクトル測定は、日本分光株式会社製レーザーラマン分光光度計NRS-3300FLを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。ピーク強度(高さ)はベースラインを引き、バックグラウンドの影響を取り除いた上で求めた。
【0114】
【表1】
【0115】
(鋳型上の炭素層の平均積層数)
上記(1)のメタンCVD終了後の炭素被覆したアルミナナノ粒子について、TG測定で炭素担持量を求めたところ、アルミナナノ粒子とこれを被覆している炭素との合計重量100重量%に対して平均18重量%であった。
【0116】
また、窒素吸脱着等温線測定から、上記(1)の熱処理したアルミナのBET比表面積を求め、この値と上記でTG測定により求めた炭素担持量の値から、炭素層の平均積層数を約1.2と見積もった。
【0117】
なお、炭素層の平均積層数N(層)は、
N=W/(S×g)
で求められる。ここで、Wは炭素担持量であり、アルミナの重量に対する炭素の重量の割合(0.30)である。Sはアルミナの比表面積であり、gは、グラフェンシート1枚の単位面積当たりの重量(0.000761g/m)である。
【0118】
(多孔質炭素材料のBET比表面積と細孔分布)
図4に、上記(2)の鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料、および、上記(3)の熱処理後に得られた多孔質炭素材料(1-1)の窒素吸脱着等温線を示す。
【0119】
図4のように、鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料のBET比表面積は、1500m/gであり、鋳型除去する前の230m/gより増大した。
【0120】
上記(3)の熱処理後に得られた多孔質炭素材料(1-1)は、BET比表面積が1690m/gであり、図5の細孔径分布に示されるように、平均細孔径4.7nmのメソ孔を有していることが確認された。
【0121】
(多孔質炭素材料のXRD測定)
図6に、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)のXRD測定の結果を示す。図6に示すように、上記(2)の鋳型除去後には、アルミナに由来するピークが消失することが確認された。また、炭素の(002)面に由来するピーク(2θ=25°付近)、(10)面に由来するピーク(2θ=44°付近)、および(110)面に由来するピークが観測された。このうち、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)においては、炭素の(002)面に由来するピークの強度が小さく、ほとんど積層していないと考えられる。また、炭素(10)面のピークははっきりと確認できたことから、結晶性の良い炭素網面が形成されていることが示唆された。なお、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)において、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅W(002)および炭素の(10)面に由来するピークの半値幅の値は、それぞれ7.30°および2.50°であった。
【0122】
(多孔質炭素材料のTEM測定)
図7Aおよび図7Bに、本製造例で得られた、上記(3)の熱処理工程を行った後の多孔質炭素材料(1-1)のTEM写真を示す。図7Aおよび図7Bは、同時に作製した試料の、別々の部分を撮影した写真である。図7Aに示すように、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)は、1~2層のグラフェンシートから構成されるシェル構造を有していることがわかる。
【0123】
また、図7Bの左に示す写真から、直径10nm程度の粒子の集合体が確認でき、1800℃の熱処理後にもシェル状構造が保たれることがわかった。高倍率の写真(右)では、輪郭のはっきりした炭素網面が確認できた。積層数は多いところで平均1~3であり、ほぼ均一にCVDによる炭素被覆がなされたと考えられる。単層グラフェンと思われる構造も多くの場所で観察された(矢印)。したがって、1800℃の熱処理を行うことで、シェル状構造は保ったままで構成する炭素の結晶性を高めることができたといえる。
【0124】
すなわち、本製造例で調製された炭素材料は、比較的高いBET比表面積を有しており、1~2層の均一なグラフェンシートから構成されるシェル構造を有しているといえる。これは、メタンを炭素源としたCVD処理を行うことによって炭素の析出がより均一に進行したことによると考えられる。加えて、900℃とより高い温度でCVDを行うことで、炭素の構造が安定化し、鋳型除去後も高比表面積を維持できたためであると考えられる。また、アルミナナノ粒子をペレットに成形せずに鋳型として用いたことによって、鋳型の比表面積の低下を抑制でき、その結果高い比表面積の炭素材料が得られたものと考えられる。
【0125】
(多孔質炭素材料のラマン測定)
さらに、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)のラマン散乱スペクトルを測定したところ、1590cm-1付近に、グラフェンシートの骨格振動に由来するピーク(Gバンド)が現れた。また、1355cm-1付近に、グラフェンシートの欠陥構造に由来するピーク(Dバンド)が現れた。なお、欠陥構造とは、グラフェンの端であるエッジサイトやダングリングボンド、グラフェンの湾曲部であり、低規則性炭素には多く含まれるが、結晶性の高い黒鉛にはほとんど含まれない。このため、黒鉛や単層グラフェンではDバンドは観測されない。
【0126】
さらに、高波数側のピークに着目すると、2670cm-1付近に、G’バンドが確認された。G’バンドは、sp混成軌道を持つグラフェン状の構造に由来し、欠陥がなくとも結晶性が良ければ観測可能である。ここで、単層グラフェンのラマン散乱スペクトルにおいては、HOPGと比較して、G’/Gが大きく、G’バンドの位置が低波数側にシフトする。本製造例で得られた多孔質炭素材料のGバンドのピーク強度Gに対するG’バンドのピーク強度G’の比G’/Gは、0.97であった。このように、本製造例で得られた多孔質炭素材料ではG’/Gが0.6以上であり、G’バンドの位置がHOPGと比較して低波数側にシフトしたことから、単層グラフェンの存在が示唆された。
【0127】
(多孔質炭素材料の弾性測定)
本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)の弾性を、従来公知の炭素材料であるデンカブラック(DB;デンカ株式会社製)およびアルカリ賦活活性炭(関西熱化学株式会社製、MSC-30)と比較した。
【0128】
具体的には、各炭素材料をそれぞれ、圧縮力を負荷できる金属製ジグに入れ、500MPaの圧縮力の負荷-解除を10回繰り返した。そして、その前後において、上記と同様の手法により、-196℃での窒素吸脱着等温線測定を行った。結果を図8に示す。
【0129】
図8に示すように、デンカブラック(DB)や活性炭では、圧縮力負荷からの復元後の窒素吸脱着等温線が変化した。このことから、圧縮力の負荷によってこれらの炭素材料における構造が破壊されていることが示唆される。これに対し、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1-1)については、圧縮力の負荷からの復元後であっても初期状態からの窒素吸脱着等温線の変化は確認されなかった。このことから、本製造例で得られた多孔質炭素材料(1)の構造は圧縮力の負荷によっても維持されていることがわかる。すなわち、本発明に係る多孔質炭素材料は、炭素材料として高い弾性を有し、優れた柔軟性を発揮しうる材料であるといえる。なお、上記多孔質炭素材料(1-1)の体積弾性率を測定したところ、0.79GPaという値が確認された。
【0130】
<製造例1-2:多孔質炭素材料(1-2)の調製>
メタンCVDにおける化学気相成長(CVD)処理の時間を4時間から8時間に変更したこと以外は、上述した製造例1-1と同様の手法により、多孔質炭素材料(1-2)を調製した。
【0131】
(多孔質炭素材料のキャラクタリゼーション)
・窒素吸脱着等温線測定
窒素吸脱着等温線測定は、高精度自動ガス/蒸気吸着量測定装置(日本ベル株式会社製:BEL SORP MAX)を用いて、-196℃の温度で測定した。試料は測定前に150℃で6時間真空加熱乾燥した。このようにして得られた窒素吸脱着等温線のグラフを図9に示す。
・炭素担持量の測定(熱重量分析)
島津示差熱・熱重量同時測定装置(DTG-60/60H)で熱重量分析を行った。試料を合成空気流通下(50cc/分)で10℃/分で100℃まで昇温し、30分間保持し、次いで5℃/分で800℃まで昇温して1時間保持し、-10℃/分で100℃まで冷却して30分間保持した。800℃までの加熱の前後の100℃で保持した際の平均質量の差から炭素担持量を求めた。その結果、炭素被覆したアルミナナノ粒子には全体重量に対し重量あたり35重量%だけ炭素が被覆されていることを確認した。
【0132】
<製造例2-1:多孔質炭素材料(2-1)の調製>
上述した製造例1-1と同様の手法により、アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m/g)を鋳型として用いて多孔質炭素材料(2-1)を調製した。なお、本製造例では、メタンCVDを実施する際の条件を調節することにより、炭素被覆したアルミナナノ粒子における炭素担持量を平均16重量%とした。また、これに対応する炭素層の平均積層数は約1.0と見積もられた。
【0133】
(多孔質炭素材料の各種物性の測定)
鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料(2-1)のBET比表面積は、1700m/gであった。また、ミクロ孔の細孔容積は0.7cm/gであり、メソ孔の細孔容積は2.1cm/gであり、全細孔容積は2.8cm/gであった。さらに、XRD測定を行ったところ、図6と同様に、鋳型除去後には、アルミナに由来するピークが消失することが確認された(図10に示す「GMS」)。図10に示すように、炭素の(002)面に由来するピーク(2θ=25°付近)の強度は小さくブロードであり、炭素の(10)面に由来するピーク(2θ=44°付近)の半値幅は3.2°以下であった。そして、ラマン測定の結果、Gバンドのピーク強度(G)に対するG’バンドのピーク強度(G’)の比(G’/G)の値は0.6以上であることも確認された。
【0134】
<製造例2-2:多孔質炭素材料(2-2)の調製>
上述した製造例1-1と同様の手法により、アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM100、結晶相:θ-アルミナ、平均粒径:14nm、比表面積:120m/g)を鋳型として用いて多孔質炭素材料(2-2)を調製した。なお、本製造例では、「(3)多孔質炭素材料の熱処理」の工程を実施しなかった。このため、本製造例において得られた多孔質炭素材料(2-2)は、カーボンメソスポンジ(CMS)である。また、本製造例では、メタンCVDを実施する際の条件を調節することにより、炭素被覆したアルミナナノ粒子における炭素担持量を平均13重量%とした。また、これに対応する炭素層の平均積層数は約1.5と見積もられた。
【0135】
(多孔質炭素材料の各種物性の測定)
鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料(2-2)のBET比表面積は、1500m/gであった。また、ミクロ孔の細孔容積は2.4cm/gであり、メソ孔の細孔容積は1.6cm/gであり、全細孔容積は4.0cm/gであった。さらに、XRD測定を行ったところ、図6と同様に、鋳型除去後には、アルミナに由来するピークが消失することが確認された(図10に示す「CMS」)。図10に示すように、炭素の(002)面に由来するピーク(2θ=25°付近)の強度は小さくブロードであり、炭素の(10)面に由来するピーク(2θ=44°付近)の半値幅は3.2°以下であった。そして、ラマン測定の結果、Gバンドのピーク強度(G)に対するG’バンドのピーク強度(G’)の比(G’/G)の値は0.6以上であることも確認された。
【0136】
<製造例2-3:多孔質炭素材料(2-3)の調製>
上述した製造例2-2と同様の手法により、アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM100、結晶相:θ-アルミナ、平均粒径:14nm、比表面積:120m/g)を鋳型として用いて多孔質炭素材料(2-3)を調製した。このため、本製造例において得られた多孔質炭素材料(2-3)もまた、カーボンメソスポンジ(CMS)である。また、本製造例では、メタンCVDを実施する際の条件を調節することにより、炭素被覆したアルミナナノ粒子における炭素担持量を平均8.8重量%とした。また、これに対応する炭素層の平均積層数は約2.0と見積もられた。
【0137】
(多孔質炭素材料の各種物性の測定)
鋳型除去を行った後の多孔質炭素材料(2-3)のBET比表面積は、2300m/gであった。また、ミクロ孔の細孔容積は0.8cm/gであり、メソ孔の細孔容積は4.5cm/gであり、全細孔容積は5.3cm/gであった。さらに、XRD測定を行ったところ、図6と同様に、鋳型除去後には、アルミナに由来するピークが消失することが確認された。また、炭素の(002)面に由来するピーク(2θ=25°付近)の強度は小さくブロードであり、炭素の(10)面に由来するピーク(2θ=44°付近)の半値幅は3.2°以下であった。そして、ラマン測定の結果、Gバンドのピーク強度(G)に対するG’バンドのピーク強度(G’)の比(G’/G)の値は0.6以上であることも確認された。
【0138】
[リチウムイオン二次電池の製造例]
<実施例1-1>
(硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)の調製)
固体電解質であるLiPS 40質量部と、正極活物質である硫黄単体(S)50質量部と、導電助剤である上記製造例1-1で得られた多孔質炭素材料(1-1)10質量部と、をグローブボックス内で秤量し、遊星ボールミル装置(フリッチュ・ジャパン製、P-6)のジルコニア製粉砕ポット(45mL)に投入した。そして、20300質量部のジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)を投入し、その後280rpmで8時間、粉砕処理を実施して、硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)を調製した。得られた硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)中で正極活物質(硫黄単体)と導電助剤(多孔質炭素材料)と固体電解質とは複合粒子を形成しており、その平均粒径(平均二次粒子径)を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定したところ、15μmであった。
【0139】
(電池の作製)
上記で作製した硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)と、対極であるLi-In電極とを対向させ、この間に固体電解質層を介在させることで、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0140】
具体的には、固体電解質(アルジロダイト型硫化物固体電解質)を100mgで秤量し、PET管内に秤量した固体電解質を入れ、表面を平滑にならした上で、締結治具に580MPaで加圧し、固体電解質ペレットを作製した。作製された固体電解質ペレットの表面積は0.817cm(ペレットの径φ=1.02cm)であった。また、電解質層の厚みを作製前後の厚み変化から計測したところ、600μmであった。
【0141】
その後、締結治具を抜き、ペレット両面に正極合剤および対極Li-In電極をそれぞれ配置して全固体電池評価セル(宝泉株式会社製)にて100MPaで締結を行うことにより、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。なお、正極合剤の目付量は9.6mg/cmとした。また、負極に用いたLi-In電極はLi金属箔(直径8mm、厚さ200μm、本城金属株式会社製)とIn金属箔(直径9mm、厚さ300μm、ニラコ株式会社製)との積層体であり、In金属箔が固体電解質層側に位置するようにLi-In電極を配置して用いた。
【0142】
<実施例1-2>
硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)に含まれる導電助剤として、多孔質炭素材料(1-1)に代えて上記製造例1-2で得られた多孔質炭素材料(1-2)10質量部を用いたこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0143】
<比較例1-1>
硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)に含まれる導電助剤として、多孔質炭素材料(1-1)に代えてケッチェンブラック(登録商標)(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、EC600JD)10質量部を用いたこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0144】
<比較例1-2>
硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)に含まれる導電助剤として、多孔質炭素材料(1-1)に代えてアルカリ賦活活性炭(関西熱化学株式会社製、MSC-30)10質量部を用いたこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0145】
[リチウムイオン二次電池の特性評価]
上記の各実施例および比較例において作製した各リチウムイオン二次電池について、以下の充放電試験条件に従って、レート特性の評価(異なるレートでの充電容量および放電容量の測定)を行った。
【0146】
(充放電試験条件)
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.5V→2.5V(定電流・定電圧モード)
[放電過程]2.5V→0.5V(定電流・定電圧モード)
3)恒温槽:PFU-3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:300K(27℃)。
【0147】
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程をいう)では、定電流・定電圧モードとし、所定の定電流にて0.5Vから2.5Vまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程をいう)では、定電流・定電圧モードとし、所定の定電流にて2.5Vから0.5Vまで放電した。この際、定電流で充放電を行う際のレートを、1/30C、1/20Cおよび1/12Cのそれぞれで行うことにより、レート特性の評価を行った。結果を下記の表2に示す。なお、表2に示す充電容量および放電容量の値は、各実施例または比較例におけるレート値が1/30Cのときの測定値(容量)を100とした場合の相対値である。
【0148】
【表2】
【0149】
表2に示す結果から、本発明に係る所定の物性を有する多孔質炭素材料を導電助剤として正極合剤に配合した実施例1-1および実施例1-2では、従来公知の他の炭素材料を導電助剤として用いた比較例1-1および比較例1-2と比べて、高レート条件下においても充放電容量が高い割合で維持された。すなわち、本発明によれば、硫黄を含む電極活物質を電池の正極活物質として用いた場合に、当該電池のレート特性をよりいっそう向上させることが可能となることが示された。なお、本発明に係る所定の物性を有する多孔質炭素材料は、高い比表面積を有するとともに優れた電子伝導性を有し、かつ、高い柔軟性(弾性)を備えたものである。このことから、充放電時における膨張収縮が大きく、しかも絶縁性である硫黄を含む活物質を含有する電極および電池において、優れた導電助剤として機能し、レート特性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0150】
<実施例2-1>
(硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)の調製)
正極活物質である硫黄単体(S)50質量部と、導電助剤である上記製造例2-1で得られた多孔質炭素材料(2-1)10質量部と、をグローブボックス内で秤量し、耐圧・耐熱容器(オートクレーブ)に密閉した後、加熱炉で170度にて6時間保持することで硫黄-炭素複合体を得た。これに固体電解質であるLiPS 40質量部を室温・グローブボックス内で添加し、遊星ボールミル装置(フリッチュ・ジャパン製、P-6)のジルコニア製粉砕ポット(45mL)に投入した。そして、20300質量部のジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)を投入し、その後280rpmで8時間、粉砕処理を実施して、硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)を調製した。得られた硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)中で正極活物質(硫黄単体)と導電助剤(多孔質炭素材料)と固体電解質とは複合粒子を形成しており、その平均粒径(平均二次粒子径)を走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、15μmであった(図11下段)。なお、図11は、実施例2-1~実施例2-3で得られた複合粒子をSEMで観察した写真(倍率:1000倍、5000倍および20000倍)である。
【0151】
(電池の作製)
上記で作製した硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)を用い、締結治具の加圧力を580MPaから400MPaに変更したこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0152】
<実施例2-2>
多孔質炭素材料(2-1)に代えて、上記製造例(2-2)で得られた多孔質炭素材料(2-2)を用いたこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。なお、本実施例において得られた硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)中で正極活物質(硫黄単体)と導電助剤(多孔質炭素材料)と固体電解質とは複合粒子を形成しており、その平均粒径(平均二次粒子径)を走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、15μmであった(図11中段)。
【0153】
<実施例2-3>
多孔質炭素材料(2-1)に代えて、上記製造例(2-3)で得られた多孔質炭素材料(2-3)を用いたこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。なお、本実施例において得られた硫黄活物質含有電極組成物(正極合剤)中で正極活物質(硫黄単体)と導電助剤(多孔質炭素材料)と固体電解質とは複合粒子を形成しており、その平均粒径(平均二次粒子径)を走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、15μmであった(図11上段)。
【0154】
<比較例2-1>
多孔質炭素材料(2-1)に代えて、アルカリ賦活活性炭(関西熱化学株式会社製、MSC-30)を用いたこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0155】
[リチウムイオン二次電池の特性評価]
上記の各実施例および比較例において作製した各リチウムイオン二次電池について、上述したのと同様の充放電試験条件に従って、レート特性の評価(異なるレートでの充電容量の測定)を行った。この際、評価温度を300K(27℃)から353K(80℃)に変更した。また、定電流で充放電を行う際のレートを、0.2C、0.5C、1Cおよび2Cのそれぞれで行うことにより、レート特性の評価を行った。結果を下記の表3に示す。なお、表3に示す充電容量の値は、各実施例または比較例におけるレート値が0.2Cのときの測定値(容量)を100とした場合の相対値である。
【0156】
【表3】
【0157】
表3に示す結果から、本発明に係る所定の物性を有する多孔質炭素材料を導電助剤として正極合剤に配合した実施例2-1~実施例2-3では、従来公知の他の炭素材料を導電助剤として用いた比較例2-1と比べて、高レート条件下においても充電容量が高い割合で維持された。すなわち、本発明によれば、硫黄を含む電極活物質を電池の正極活物質として用いた場合に、当該電池のレート特性をよりいっそう向上させることが可能となることが示された。なお、本発明に係る所定の物性を有する多孔質炭素材料は、高い比表面積を有するとともに優れた電子伝導性を有し、かつ、高い柔軟性(弾性)を備えたものである。このことから、充放電時における膨張収縮が大きく、しかも絶縁性である硫黄を含む活物質を含有する電極および電池において、優れた導電助剤として機能し、レート特性の向上に寄与しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0158】
1 アルミナ鋳型炭素材料、
2 アルミナナノ粒子、
3 炭素層、
4 炭素被覆アルミナナノ粒子、
7 メソ孔、
10、50 双極型二次電池、
11 集電体、
11a 正極側の最外層集電体、
11b 負極側の最外層集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
23 双極型電極、
25 正極集電板(正極タブ)、
27 負極集電板(負極タブ)、
29、52 ラミネートフィルム、
58 正極タブ、
59 負極タブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11