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特許7383260グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物、その製造方法、該付加物を含む分散剤及び該分散剤を含む分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物、その製造方法、該付加物を含む分散剤及び該分散剤を含む分散液
(51)【国際特許分類】
   C08H 7/00 20110101AFI20231113BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231113BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C08H7/00
C08K3/013
C08L97/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020045300
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147409
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 依里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 史帆
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】焼田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】三村 大輔
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196613(JP,A)
【文献】特開2017-197517(JP,A)
【文献】特開2020-26459(JP,A)
【文献】特開2011-240224(JP,A)
【文献】国際公開第2021/066166(WO,A1)
【文献】特開2020-29482(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08H 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物。
【請求項2】
フェノール性水酸基の含有量が、1g当たり1.0mmol未満である、請求項1に記載のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物。
【請求項3】
リグニン含有質量に対するグリコール鎖の含有質量の比が、0.4~4.0である、請求項1または2に記載のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含む分散剤。
【請求項5】
更に溶剤を含む、請求項4に記載の分散剤。
【請求項6】
前記溶剤が、(ポリ)アルキレングリコール溶剤および/またはジメチルアセトアミド溶剤である、請求項5に記載の分散剤。
【請求項7】
請求項4~6いずれか一項に記載の分散剤、被分散物質及び溶媒を含む分散液。
【請求項8】
前記被分散物質がセラミック顔料、無機顔料であり、前記溶媒が水、水可溶性有機溶媒、水と1種以上の水可溶性有機溶媒との混合溶媒、2種以上の水可溶性有機溶媒の混合溶媒、芳香族系有機溶媒、及び1種以上の芳香族系有機溶媒と1種以上の水可溶性有機溶媒からなる群から選択される、請求項7に記載の分散液。
【請求項9】
アルカリ存在下、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させる工程を含む、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質リグニン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマス資源として木材由来のリグニンが注目されている。木材からの抽出の方法の違いにより、リグノスルホン酸(塩)、クラフトリグニン等が産業上広く利用されている(「工業リグニン」)。
【0003】
リグノスルホン酸(塩)は、亜硫酸法と呼ばれる化学パルプ化法(亜硫酸/亜硫酸カルシウムなどによる高温高圧反応)の廃液から得られる代表的な水溶性リグニンであり、コンクリート混和剤、分散剤、イオン交換樹脂などとして広く使用されている。
【0004】
クラフトリグニンは、クラフト法と呼ばれる化学パルプ化法(水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどによる高温高圧反応)により得られるリグニンであり、一般にアルカリ可溶で、有機溶剤へのある程度の溶解性も有している。
【0005】
しかし、これらの工業リグニンも、水及び有機溶剤双方への相溶性は十分とはいえなかった。また、クラフトリグニンのようにチオール基を有するリグニンでは臭気を有するとの問題もあった。
【0006】
そこで、アシル化やエチレンオキシドを付加して変性することにより、リグニンの有機溶剤への相溶性、水溶性を改善する試みが検討されている(特許文献1~3参照)。また、近年、ポリアルキレングリコール(典型的にはポリエチレングリコール)を用いて木材からより安全、容易にリグニン成分を抽出して得られた改質リグニン(いわゆるグリコールリグニン)が注目され(非特許文献1~2参照)、該グリコールリグニンの新規用途の開発が盛んである(特許文献4~5)。しかし、グリコールリグニンも水及び有機溶剤双方への相溶性は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-196613号公報
【文献】特開平6-306090号公報
【文献】特開2015-10051号公報
【文献】特開2017-197517号公報
【文献】特開2017-105991号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Takata et al, BioResources 11(2), 4446-4458 (2016)
【文献】T.T.Nge et al, ACS Sustainable Chem. Eng. 2018, 6, 7841-7848
【文献】横山 外3名,工業化学雑誌,1969,第72巻,第1号,p.353-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本願発明の課題は、水への相溶性、少なくとも一種の水溶性有機溶媒への相溶性及び少なくとも一種の非水溶性有機溶媒(たとえば芳香族系有機溶剤)への相溶性を有する、より好ましくは更に無機物質等の被分散物質の溶媒中における分散性能の良好な新規のリグニン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物である。
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含む分散剤である。
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様の分散剤、被分散物質及び溶媒を含む分散液である。
本発明の第四の態様は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させる工程を含む、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、水ヘの相溶性、少なくとも一種の水溶性有機溶媒への相溶性及び少なくとも一種の非水溶性有機溶媒(たとえば芳香族系有機溶剤)への相溶性を有するため、無機及び有機顔料、農薬、油田掘削用汚泥等の被分散体の分散性を向上することのできる分散剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.本発明の第一の態様]
本発明の第一の態様は、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物である。
【0013】
(1-1)
(i)
原料であるグリコールリグニンとは、リグノセルロースをグリコール溶媒により酸触媒存在下、加溶媒分解して得られる改質リグニンである(特許文献4、非特許文献1~2参照)。
ここで、リグノセルロースとは、木本ないし草本系バイオマスの主体であり、セルロースやヘミセルロースといった多糖性ポリマーとフェノール性ポリマーであるリグニンとから構成されている。リグノセルロースの種類としては、スギ、モミ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹;稲藁、穀物、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等を含む。化学構造の均一な材料を得る観点からは針葉樹由来の木材が好ましい。また、リグノセルロースとしては、木本片ないし草本片、木本チップないし草本チップ、木本粉末ないし草本粉末といった種々の形態のものを用いることができるが、粉末形態であることが好ましい。
【0014】
(ii)
リグノセルロースからグリコールリグニンへの具体的な製造方法については、特許文献4(同文献図1参照)、非特許文献1(同文献図1参照)非特許文献2(Experimental Section参照)に開示される方法などにより製造できる。
たとえば、リグノセルロースであるスギ木粉を、グリコール(たとえばポリエチレングリコール200)を溶媒として、酸触媒(たとえば所定触媒量の硫酸;触媒量としては好ましくは0.1~2.0質量%、より好ましくは0.2~1.0質量%)存在下に、加熱処理(たとえば、120~180℃、より好ましくは130~140℃の温度で、0.5~4時間、より好ましくは1~3時間、更に好ましくは1~1.5時間)する。
その後、中和工程(たとえば、所定濃度の水酸化ナトリウム溶液、好ましくはpH10.5以上に調製)を経て、パルプ残渣画分(主成分:セルロース、ヘミセルロース)を分離し、可溶性画分を得る。次いで、当該可溶性画分を酸性に戻して(たとえば、所定濃度の硫酸)、生じる沈殿を常法により分離・洗浄・乾燥することでグリコールリグニンを得ることができる。
加溶媒分解に用いられる蒸解溶媒としてのグリコールとしては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を用いることができ、ポリエチレングリコール中の少なくとも1のエチレンオキシ基がプロピレンオキシ基に置き換わっていてもよく、ポリプロピレングリコール中の少なくとも1のプロピレンオキシ基がエチレンオキシ基に置き換わっていてもよい。
用いる蒸解溶媒が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の重合体の場合、得られるグリコールリグニンの熱溶融性に応じて、これら重合体の分子量を選択することができる。たとえばポリエチレングリコールを選択する場合、重量平均分子量100~2000、より好ましくは重量平均分子量200~600のポリエチレングリコールを用いることができる。
蒸解溶媒としてのグリコールの使用量としては、リグノセルロース1質量部に対して、好ましくは2~10質量部、より好ましくは3~6質量部用いることができる、
【0015】
(iii)
原料であるグリコールリグニンの化学構造については、非特許文献2の図2(Scheme 2)を参照することができる。これによれば、酸触媒下での加溶媒分解中に、リグノセルロース中のリグニンのベンジル位水酸基部位が、グリコール溶媒由来のグリコール鎖[たとえば、(ポリ)エチレングリコール鎖]により置換される。その他、縮合(再重合)反応や、転移反応による新しい部分構造の形成も生じることが指摘されている。
すなわち、リグニンには、フェノール性水酸基、ベンジル位水酸基、及びその他の水酸基が含まれているところ(たとえば非特許文献3の表5参照)、グリコールリグニンは、リグニン基本骨格中のベンジル位水酸基がグリコール鎖により置換された基本構造を有していることになる。
ここでいうグリコール鎖とは、グリコール溶媒に直接由来するグリコール鎖のみならず、更に2分子以上のグリコール溶媒の重縮合により鎖長延長されたグリコール鎖を含んでいてもよい。また、(ポリ)アルキレングリコール鎖とは、モノアルキレングリコール、あるいはジアルキレングリコ―ル等のポリアルキレングリコールからなるグリコールの一方の末端水酸基が、リグニン骨格とエーテル結合したグリコール鎖のことを指す。
【0016】
(1-2)
(i)
本態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、前記(1-1)で説明したグリコールリグニンの水酸基にアルキレンオキシドが付加された構造を有する改質リグニンである。アルキレンオキシドは主にグリコールリグニンのフェノール性水酸基に付加するものと考えられる。すなわち、本態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、ベンジル位にグリコールリグニン原料由来のグリコール鎖が置換されていると共に、更にフェノール性水酸基にアルキレンオキシド由来のグリコール鎖[すなわち(ポリ)アルキレングリコール鎖]を有するものと考えられる。グリコールリグニン原料由来のグリコール鎖は、アルキレンオキシドにより更に鎖長延長されていてもよい。
【0017】
(ii)
このグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、アルカリ存在下に、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを反応させることにより製造される。詳しくは後記3.の本発明の第四の態様で説明するが、アルキレンオキシドとしては、たとえば炭素数2~18、より好ましくは炭素数2~8のアルキレンオキシドを用いることができる。より具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド(たとえば1,2-エポキシプロパン)、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、オクチレンオキシド等の脂環式エポキシド;スチレンオキシド、1,1-ジフェニルエチレノキシド等の芳香族エポキシドなどを例示できる。
分散剤の用途に用いる観点からは、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド(1,2-ブチレンオキシドまたは2,3-ブチレンオキシド)が好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
【0018】
(iii)
本態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物のフェノール性水酸基量は、アルキレンオキシドによる改質の程度を示す一指標となりうるが、溶媒への相溶性を向上させる観点からは、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物1g当たり1.0mmol未満が好ましく、0.5mmol未満がより好ましく、0.3mmol未満が更に好ましい。
ここで、フェノール性水酸基量の測定はイオン化示差スペクトル法に基づいて行うことができる。
【0019】
(iv)
また、単位リグニン含有率(1質量%)当たりのグリコール鎖含有率(質量%)の比は、リグニンに導入されたグリコール鎖の量を示す一つの指標となるが、0.4~4.0が好ましく、0.8~3.5がより好ましく、1.5~3.0が更に好ましい。この値を調節することで、分散剤用途などに、被分散物質との関係で、最適なHLBを調製することができる。
ここで、リグニン含有率(質量%)は、[280nmの UV 吸収に基づくリグニン量(UVリグニン法)]の方法によって得られた値(UVリグニン率)である。
また、グリコール鎖含有率(質量%)は、100質量%から前記リグニン含有率(質量%)と溶剤含有率(質量%)との合計(質量%)を差し引いて得た値である。
ここで、溶剤含有率(質量%)とは、本願発明品であるグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物中に任意選択的に含まれていてもよい溶剤の含有率であり、たとえば、グリコールリグニンをアルキレンオキシド付加する際に、反応試薬として用いたアルキレンオキシドに由来する(ポリ)アルキレングリコール溶剤の含有率(質量%)や、反応溶媒として用いた溶剤(たとえばジメチルアセトアミドなど)などの含有率(質量%)を合算した値である。
そして、(ポリ)アルキレングリコール溶剤含有量は、Weibull法によって測定することができる。ここで、(ポリ)アルキレングリコールとはモノアルキレングリコール及びジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールを包含する概念として用いている。
【0020】
(v)
本態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の分子量は、例えば分散剤用途に用いるのに好適な範囲として、重量平均分子量として、好ましくは1000~20万、より好ましくは1000~10万、更に好ましくは5000~10万である。
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、較正曲線作成用標準物質としてポリエチレンオキシドを用いた較正曲線より求めた値である。
【0021】
[2.本発明の第二及び第三の態様]
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含む分散剤である。
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様の分散剤、被分散物質及び溶媒を含む分散液である。
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物は、各種高付加価値材料の原料としての利用が期待できるが、特に分散剤用途、中でもカーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン等の無機物質、あるいは有機顔料等の有機物質を水あるいは有機溶媒へ分散させる分散剤として有用である。
【0022】
(2-1)
本発明の第二の態様のグリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を含む分散剤には、分散助剤の観点から、更に任意選択的に溶剤が含まれていてもよい。
かかる溶剤としては、グリコールリグニンをアルキレンオキシド付加する際の副生成物であるアルキレンオキシド由来の(ポリ)アルキレングリコール溶剤でもよい。また、グリコールリグニンをアルキレンオキシド付加する際の反応溶媒に由来する溶媒(たとえばジメチルアセトアミドなど)でもよい。(ポリ)アルキレングリコール溶剤及び/又はジメチルアセトアミド溶剤が含まれていてもよい。
ここで、(ポリ)アルキレングリコールとはモノアルキレングリコール及びジアルキレングリコール等のポリアルキレングリコールを包含する概念として用いている。
【0023】
(2-2)
本発明の第三の態様の分散液では、各種の無機物質あるいは有機物質を被分散物質として用いることができる。
かかる被分散物質としての無機物質としては、セラミック顔料や無機顔料などを例示できる。より具体的には、酸化チタン、アルミナ、チタン酸塩、ジルコニア、窒化珪素、炭化ケイ素、窒化硼素、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、カオリン、ベントナイト、サチンホワイト、亜鉛華、ベンガラ、フェライト、酸化マグネシウム、タルク、ホワイトカーボン、セメント、石膏、カーボンブラック、珪酸塩の1種または2種以上の併用を挙げることができる。この中でも、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンを好適に使用できる。
かかる被分散物質としての有機物質としては、有機顔料として用いることのできる、イソインドリノン、イソインドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジケトビロロビロール、ペレリン、アントラキノン、キナクリドン、ジオキサジン、フタロシアニンを例示できる。
被分散物質の分散液中における含有量は、その用途に依存するが、一般的には0.1~99質量%である。
【0024】
(2-3)
本発明の第三の態様の分散液に用いられる溶媒としては、水、水可溶性有機溶媒、水と1種以上の水可溶性有機溶媒との混合溶媒、2種以上の水可溶性有機溶媒の混合溶媒、芳香族系有機溶媒、1種以上の芳香族系有機溶媒と1種以上の水可溶性有機溶媒との混合溶媒など、比較的広範囲の種類の溶媒を挙げることができる。
水可溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、エチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリ(アルキレン)グリコール、ポリビニルアルコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミドなどを例示できる。
芳香族系有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを例示できる。
【0025】
(2-4)
グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の分散液への添加量は、被分散物質の種類及び量、溶媒の種類、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の具体的構造などにより左右されるが、一般的には被分散物質の固形分に対して、好ましくは0.005~30質量%、より好ましくは0.005~20質量%、更に好ましくは0.005~10質量%、更に好ましくは0.005~5質量%、更に好ましくは0.005~2質量%である。
【0026】
(2-5)
分散液には必要に応じて補助成分を含んでいてもよい。
たとえば、塗料等に使用する場合、乾性油や液体合成樹脂等の液体被膜形成成分;天然樹脂、加工樹脂、固体合成樹脂等の固体塗膜形成成分、可塑剤、硬化剤、追加の顔料分散剤、乳化剤、増粘剤、皮張防止材、殺虫殺菌剤などを例示できる。
【0027】
[3.本発明の第四の態様]
本発明の第四の態様は、グリコールリグニンにアルキレンオキシドを付加させる工程を含む、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物の製造方法である。
【0028】
(3-1)
まず原料であるグリコールリグニンについては、前記(1-1)で説明したように、特許文献4、非特許文献1あるいは非特許文献2に開示の方法を参照して調製することができる。
これにより、主にベンジル位水酸基が、蒸解溶媒として用いたグリコール由来のグリコール鎖によって置換された改質リグニンである、グリコールリグニンを得ることができる。
【0029】
(3-2)
グリコールリグニンのアルキレンオキシド付加は、特許文献1あるいは特許文献2に開示される方法に準じて行うことができる。これにより、グリコールリグニンのフェノール性水酸基に更に、アルキレンオキシド由来のグリコール鎖を含む、グリコールリグニンアルキレンオキシド付加物を得ることができる。
より具体的には以下の通りである。
【0030】
(i)
まず、グリコールリグニンの溶液ないしスラリーを調製する。用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、あるいは水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が好適に用いられる。
用いる溶媒としては、水、あるいは水に可溶で、ある程度の沸点(100~400℃)を有する極性溶媒(ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなど)を好適に用いることができる。
用いるアルカリの量は、グリコールリグニンの質量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0031】
(ii)
次いで、得られたグリコールリグニンのアルカリ溶液をアルキレンオキシドと反応させる。
アルキレンオキシドの付加反応は、オートクレーブ中、好ましくは50~200℃、より好ましくは70~180℃、更に好ましくは100~160℃であり;溶媒の沸点に近い温度(沸点から50~20℃低い温度)で行うことが好ましい。
反応時間は、好ましくは2~20時間、より好ましくは3~15時間である。
また、反応系の雰囲気は、空気雰囲気でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とするのが好ましい。
アルキレンオキシドの添加量は、目的とする用途に応じて、グリコールリグニンに対してどの程度の量のグリコール鎖を導入すべきかに依存するが、一般的にはグリコールリグニン100質量部に対して1~500質量部が好ましく、1~400質量部が更に好ましい。
アルキレンオキシドの添加方法は、一度に添加しても、2回以上に分けて添加しても、少量ずつ連続滴下により添加してもよい。
【実施例
【0032】
[作製例1] グリコールリグニンの調製(比較品付加物1)
以下の方法で、重量平均分子量400のポリエチレングリコールにより変性されたリグニン(以下、単に「グリコールリグニン」という)を製造した。
すなわち、市販の重量平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.68質量部(PEG400 100質量部に対して、0.3質量部)を、反応容器に入れて撹拌した。
次いで、絶乾スギ木粉46質量部を、反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。
次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。
次いで、得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。
次いで、得られた溶液成分に、硫酸を添加し、pHを1.8に調製した。これにより、グリコールリグニンの懸濁液を得た。
その後、グリコールリグニンを遠心分離により回収した。続いてグリコールリグニンを水に懸濁させて撹拌しながら洗浄を行った後、遠心分離により回収し、乾燥させた。
得られたグリコールリグニン(比較品付加物1)の1g当たりのフェノール性水酸基モル量(mmol)、リグニン含有率L(質量%)、グリコール鎖含有率G(質量%)、及び残存溶剤含有率A+E(質量%)などを表2に示す。
なお、比較品付加物1には、反応に用いたポリエチレングリコール等に由来する残存溶剤は実質的には含まれていない(表2参照)。
【0033】
[作製例2] グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(発明品付加物A)の調製
内容量300mlの撹拌機と温度調節機を備えたオートクレーブに、作製例1で得られたグリコールリグニン(比較品付加物1)30g、ジメチルアセトアミド30g、水酸化ナトリウム0.3gを仕込み、容器内の空気を除くため窒素置換(0.1MPa⇔0.5MPa)を5回行った。窒素置換後、オートクレーブを加熱して105℃で120分間脱水し、グリコールリグニンを水酸化ナトリウム処理した。その後、130~140℃でエチレンオキシド30gを6.5時間かけて断続的にオートクレーブ内に導入し反応させた。その後、反応温度130~140℃で13時間反応させた。反応終了後、温度を室温まで下げ、粗生成物89g(収率:99.8%)を得た。
得られたグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(発明品付加物A)の1g当たりのフェノール性水酸基モル量(mmol)、リグニン含有率L(質量%)、グリコール鎖含有率G(質量%)、及び溶剤含有率A+E(質量%)などを表1に示す。
ここにいう溶剤含有率A+E(質量%)とは、反応に用いたエチレンオキシドに由来する(ポリ)エチレングリコール溶剤の含有率Eと、反応溶媒として用いたジメチルアセトアミドの含有率Aとの合計含有率である。
そして、前記「グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(発明品付加物A)の1g当たり」にいう1gは、このような溶剤[(ポリ)エチレングリコール及びジメチルアセトアミド]をも含めた質量であるが、表1中の括弧内にはこのような溶剤を除いた、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の1g当たりの換算データも示した(表1の*2参照)。
【0034】
[作製例3~5] グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(発明品付加物B~D)の調製
添加するエチレンオキシドの質量(EO)と用いたグリコールリグニンの質量(GL)との比であるEO/GLを2/1、3/1及び4/1にそれぞれ置き換えた以外は、作製例2と同様にして、発明品付加物B、C及びDをそれぞれ調製した。
得られた発明品付加物(発明品付加物B~D)1g当たりのフェノール性水酸基モル量(mmol)、リグニン含有率L(質量%)、グリコ―ル鎖含有率G(質量%)、及び溶剤含有率A+E(重量%)などを表1に示す。
ここで、溶剤含有率A+E(質量%)とは、反応に用いたエチレンオキシドに由来する(ポリ)エチレングリコールの含有率Eと、反応溶媒として用いたジメチルアセトアミドの含有率Aとの合計含有率である。そして、前記「グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(発明品付加物B~D)1g当たり」にいう1gは、このような溶剤[(ポリ)エチレングリコール及びジメチルアセトアミド]をも含めた質量であるが、表1中の括弧内にはこのような溶剤を除いた、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の1g当たりの換算データも示した(表1の*2参照)。
【0035】
[作製例6] ソーダリグニンエチレンオキシド付加物の調製(比較品付加物2)
作製例2にいう「作製例1で得られたグリコールリグニン30g」を、「ソーダリグニン30g」に置き換えた以外は、作製例2と同様にして、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物(比較品付加物2)を調製した。ここで、ソーダリグニンとは、スギのソーダアントラキノン蒸解により調製されたリグニンである。
得られたソーダリグニンエチレンオキシド付加物(比較品付加物2)の1g当たりのフェノール性水酸基モル量(mmol)、リグニン含有率L(質量%)、グリコール鎖含有率G(質量%)、及び溶剤含有率A+E(質量%)などを表2に示す。
ここにいう溶剤含有率A+E(質量%)とは、反応に用いたエチレンオキシドに由来する(ポリ)エチレングリコールの含有率Eと、反応溶媒として用いたジメチルホルムアミドの含有率Aとの合計含有率である。そして、前記「ソーダリグニンエチレンオキシド付加物(比較品付加物2)の1g当たり」にいう1gは、このような溶剤[(ポリ)エチレングリコール及びジメチルアセトアミド]をも含めた質量であるが、表2中の括弧内にはこのような溶剤を除いた、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物の1g当たりの換算データも示した(表2の*11参照)。
【0036】
【表1】

*1:調製に用いたグリコールリグニン(GL)とエチレンオキシド(EO)との質量比である。
*2:発明品付加物1g(溶剤含む)当たりのフェノール性水酸基のモル量(mmol)である。測定は、イオン化示差スペクトル法による。もっとも括弧内の数値は溶剤を除き、グリコールリグニンエチレンオキシド付加物(GL・EO付加物)1g当たりに換算した場合のフェノール性水酸基量である。
*3:発明品付加物(溶剤含む)中のリグニン骨格(グリコール鎖除く)の含有質量百分率。測定は、(UVリグニン法)による。
*4:UVリグニン率L(質量%、*3参照)と溶剤含有率(質量%、*9参照)との合計量を、100から引算して得られた値である。
*5: 発明品付加物(溶剤含む)中のグリコールリグニンエチレンオキシド付加物(GL・EO付加物)の含有率である。グリコール鎖含有率G(*4参照)とUVリグニン率L(*3参照)とを合計して得られた値である。
*6:グリコール鎖含有率G(*4参照)をUVリグニン率L(*3参照)で割り算して得られた値である。
*7:発明品付加物(溶剤含む)中の反応溶媒由来のジメチルアセトアミドの含有率である。180℃、1時間加熱後の不揮発分より算出。
*8:発明品付加物(溶剤含む)中のエチレンオキシド由来の(ポリ)エチレングリコール溶剤の含有率である。測定は、(Weibull法)による。
*9:ジメチルアセトアミド溶剤含有率A(*7参照)と(ポリ)エチレングリコール溶剤含有率E(*8参照)との合計含有率である。
【0037】
【表2】

*10:調製に用いられたソーダリグニンとエチレンオキシドとの質量比である。
*11:比較品付加物1g(溶剤含む)当たりのフェノール性水酸基のモル量(mmol)である。測定は、イオン化示差スペクトル法による。もっとも括弧内の数値は溶剤を除き、リグニンのエチレンオキシド付加物1g当たりに換算した場合のフェノール性水酸基量である。
*12:比較品付加物(溶剤含む)中のリグニン骨格(グリコール鎖除く)の含有質量百分率。測定は、UVリグニン法による。
*13:UVリグニン率L(質量%、*12参照)と溶剤含有率(質量%、*18参照)との合計量を、100から引算して得られた値である。
*14: 比較品付加物(溶剤含む)中のリグニン誘導体(エチレンオキシド付加物)の含有率である。グリコール鎖含有率G(*13参照)とUVリグニン率L(*12参照)とを合計して得られた値である。
*15:グリコール鎖含有率G(*13参照)をUVリグニン率L(*12参照)で割り算して得られた値である。
*16:比較品付加物(溶剤含む)中の反応溶媒由来のジメチルアセトアミドの含有率である。180℃、1時間加熱後の不揮発分より算出。
*17:比較品付加物(溶剤含む)中のエチレンオキシド由来の(ポリ)エチレングリコール溶剤の含有率である。測定は、(Weibull法)による。
*18:ジメチルアセトアミド溶剤含有率A(*16参照)と(ポリ)エチレングリコール溶剤含有率E(*17参照)との合計含有率である。
【0038】
[溶解性試験例]
前記作製例で得られた発明品付加物A~D、比較品付加物1~2のそれぞれ3gを、イオン交換水3gまたはトルエン(富士フィルム和光純薬製特級)3gに室温で溶解するかどうか評価した。
評価基準は以下の通りである。
すなわち、20ccのスクリュー管瓶の溶媒にリグニンサンプル添加後、20秒間、手でスクリュー管瓶を振盪する。振盪後、1分間静置し、未溶解分が目視では観察できない場合が〇、目視で明らかに添加量より少ない量の未溶解分が残っている場合は△、目視では添加量より少なくなったかどうか明確に判別できない場合が×とした。
結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

*19:グリコール鎖含量G(重量%、*4*13参照)をUVリグニン率L(重量%、*3*12参照)で割り算して得られた値である。
【0040】
(考察)
出発原料に相当するグリコールリグニンである比較品付加物1では、イオン交換水及びトルエンいずれについても溶解性は十分ではなかったが、比較品付加物1を更に、種々の量のエチレンオキシドにより改質した発明品付加物A~Dでは、イオン交換水及びトルエンいずれについても溶解性が改善した。
また、改質に用いたエチレンオキシドの重量がグリコールリグニン(比較品付加物1)の重量に対して2以上用いた発明品付加物B~Dでは、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物である比較品付加物2と同等以上の溶解性を示した。
比較品付加物2のG/L比(グリコール鎖含有率/UVリグニン率)は3.11であるのに対して、発明品付加物B~DではG/L比(グリコール鎖含有率/UVリグニン率)は1.69~2.81であり、グリコール鎖による改質の程度が比較的低いにも拘らず、ソーダリグニンエチレンオキシド付加物である比較品付加物2と同等以上の溶解性を示したことは注目に値する。
【0041】
[分散性試験例1]
100mLのメスシリンダーに酸化チタンTIPAQUE(登録商標)CR-90(平均粒径0.25μm、含水アルミナ/シリカ表面処理品)を0.5g、イオン交換水を100g、分散剤としての各種改質リグニン(発明品付加物A~D、比較品付加物1~2)0.01gを仕込み、室温で50回振盪させた後、6時間静置後に室温にて外観を目視観察した。
分散性を以下の基準で評価した。
すなわち、目視観察により、酸化チタンの分離が観察されず分散状態を維持している場合が〇、酸化チタンの一部分離が観察された場合を△、酸化チタンが完全に分離した場合を×とした。
結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

*20:グリコール鎖含量G(重量%、*4*13参照)をUVリグニン率L(重量%、*3*12参照)で割り算して得られた値である。
*21:Aldrich製 試薬No.471054 リグニンスルホン酸カルシウム塩
*22:分散剤を添加しない比較品。
【0043】
(考察)
G/L比(グリコール鎖含有率/UVリグニン率)が、所定量範囲であることにより、酸化チタンの水への良好な分散を行うことができることができた。
【0044】
[分散性試験例2]
100mLのメスシリンダーに酸化チタンTIPAQUE(登録商標)CR-90(平均粒径0.25μm、含水アルミナ/シリカ表面処理品)を0.5g、トルエンを100g、分散剤としての各種改質リグニン(発明品付加物A~D、比較品付加物1~2)0.02gを仕込み、室温で50回振盪させた後、6時間静置後に室温にて外観を目視観察した。
分散性を以下の基準で評価した。
すなわち、目視観察により、酸化チタンの分離が観察されず分散状態を維持している場合が〇、酸化チタンの一部分離が観察された場合を△、酸化チタンが完全に分離した場合を×とした。
結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

*23:グリコール鎖含量G(重量%、*4*13参照)をUVリグニン率L(重量%、*3*12参照)で割り算して得られた値である。
*24:Aldrich製 試薬No.471054 リグニンスルホン酸カルシウム塩
*25:分散剤を添加しない比較品。
【0046】
(考察)
G/L比(グリコール鎖含有率/UVリグニン率)が、所定量範囲であることにより、酸化チタンのトルエンへの良好な分散を行うことができた。