(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】微小物体の検出装置、検出システムおよび検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/59 20060101AFI20231113BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20231113BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20231113BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
G01N21/27 A
G01N21/64 Z
G01N1/04 M
(21)【出願番号】P 2022519629
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017454
(87)【国際公開番号】W WO2021225157
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020082483
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】床波 志保
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 力
(72)【発明者】
【氏名】鷲田 浩人
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-137485(JP,A)
【文献】特開2011-062607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316480(US,A1)
【文献】国際公開第2018/159706(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192937(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/077756(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170758(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/74
G01N25/00
G02B21/00
B01J19/00
C12M 1/00
C12M 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に分散した複数の微小物体を集積キットを用いて集積することで、前記液体試料中の前記複数の微小物体を検出する、微小物体の検出装置であって、
前記集積キットは、光を熱に変換する光熱変換領域を有し、前記光熱変換領域上に前記液体試料を保持可能に構成され、
前記検出装置は、
前記集積キットに照射するための光を発する光源部と、
前記集積キットに保持された前記液体試料からの光を検出し、その検出信号を出力する受光器と、
前記検出信号の時間変化に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体の集積量を算出する演算部とを備える、微小物体の検出装置。
【請求項2】
前記検出装置は、前記光熱変換領域への光照射により前記液体試料を加熱することで、光照射位置にバブルを発生させるとともに前記液体試料中に対流を生じさせ、それにより前記バブルの近傍に前記複数の微小物体を集積する、請求項1に記載の微小物体の検出装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記光熱変換領域への光照射開始後の所定期間における前記検出信号の回帰により得られる近似直線の傾きに基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体の集積量を算出する、請求項1または2に記載の微小物体の検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記光熱変換領域への光照射に伴って取得される2回の前記検出信号の強度比に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体の集積量を算出する、請求項1または2に記載の微小物体の検出装置。
【請求項5】
前記複数の微小物体は、励起されると蛍光を発するように構成され、
前記光源部は、
前記集積キットに照射するためのレーザ光を発するレーザ光源と、
前記複数の微小物体を励起するための光を発する蛍光光源とを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の微小物体の検出装置。
【請求項6】
前記レーザ光源と前記蛍光光源とは、一体的に形成されている、請求項5に記載の微小物体の検出装置。
【請求項7】
前記受光器は、前記複数の微小物体から発せられた蛍光のうち前記受光器への取り込みが不要な光をカットするマスクを含む、請求項5または6に記載の微小物体の検出装置。
【請求項8】
前記光源部は、複数の発光領域を有し、前記複数の発光領域から複数のレーザ光線をそれぞれ発するように構成され、
前記検出装置は、
前記集積キットを保持するように構成されたホルダと、
前記複数のレーザ光線を同一の集光点に集光する集光レンズと、
前記ホルダと前記集光レンズとの間の相対的な位置関係を調整する調整機構と、
前記調整機構を制御する制御部とをさらに備え、
前記制御部は
、単一照射モードと多点照射モードとの切り替えが可能に構成され、
前記単一照射モードは、前記集光点が前記光熱変換領域に一致するように前記調整機構を制御する
ことによって単一のレーザ光線を前記光熱変換領域に照射するモードであり、
前記多点照射モードは、前記集光点が前記光熱変換領域から外れるように前記調整機構を制御する
ことによって2以上のレーザ光線を前記光熱変換領域に照射するモードである、請求項1~7のいずれか1項に記載の微小物体の検出装置。
【請求項9】
前記光源部は、垂直共振面発光レーザを含む、請求項8に記載の微小物体の検出装置。
【請求項10】
前記集光レンズは、グレーデッド・インデックス型の光ファイバと、平凸レンズとを含み、
前記光ファイバは、前記複数の発光領域を覆う一方端と、前記平凸レンズの平面側に接合された他方端とを有する、請求項8または9に記載の微小物体の検出装置。
【請求項11】
前記受光器は、シングルピクセル型の光検出器である、請求項1~10のいずれか1項に記載の微小物体の検出装置。
【請求項12】
微小物体の検出システムであって、
光を熱に変換する光熱変換領域を有し、前記光熱変換領域上に液体試料を保持可能に構成された集積キットと、
前記液体試料に分散した複数の微小物体を前記集積キットを用いて集積することで、前記液体試料中の前記複数の微小物体を検出する検出装置とを備え、
前記検出装置は、
前記集積キットに照射するための光を発する光源部と、
前記集積キットに保持された前記液体試料からの光を検出し、その検出信号を出力する受光器と、
前記検出信号の時間変化に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体の集積量を算出する演算部とを含む、微小物体の検出システム。
【請求項13】
前記集積キットは、
前記光熱変換領域が配置された第1面と、
前記第1面との間に前記液体試料を挟み込む第2面と、
前記第1面と前記第2面との間の距離を固定するためのスペーサとをさらに含む、請求項12に記載の微小物体の検出システム。
【請求項14】
液体試料に分散した複数の微小物体を集積キットを用いて集積することで、前記液体試料中の前記複数の微小物体を検出する、微小物体の検出方法であって、
前記集積キットは、光を熱に変換する光熱変換領域を有し、前記光熱変換領域上に前記液体試料を保持可能に構成され、
前記検出方法は、
前記集積キットに光を照射するステップと、
前記集積キットに保持された前記液体試料からの光を受光器により検出するステップと、
前記受光器からの検出信号の時間変化に基づいて、前記液体試料中における前記複数の微小物体の集積量を算出するステップとを含む、微小物体の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小物体の検出装置、検出システムおよび検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体に分散した複数の微小物体(微粒子、細胞または微生物など)を集積するための技術が提案されている。たとえば国際公開第2017/195872号(特許文献1)および国際公開第2018/159706号(特許文献2)は、液体に分散した複数の微小物体を光照射により集積する技術を開示する。光を熱に変換する光熱変換領域に光を照射すると、光照射位置の近傍の液体が局所的に加熱される。これにより、マイクロバブルが発生するとともに液体中に対流が生じる。そうすると、複数の微小物体が対流に乗ってマイクロバブルに向けて運ばれて光照射位置の近傍に集積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/195872号
【文献】国際公開第2018/159706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体に分散した複数の微小物体を光照射により集積するに留まらず、複数の微小物体が集積したかどうかを検出することが望ましい。特に、複数の微小物体がどの程度集積されたかを定量的に求めることが望ましい。
【0005】
本開示は、かかる課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、液体に分散した複数の微小物体を集積し、その集積量を求めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のある局面に従う微小物体の検出装置は、液体試料に分散した複数の微小物体を集積キットを用いて集積することで、液体試料中の複数の微小物体を検出する。集積キットは、光を熱に変換する光熱変換領域を有し、光熱変換領域上に液体試料を保持可能に構成されている。検出装置は、光源部と、受光器と、演算部とを備える。光源部は、集積キットに照射するための光を発する。受光器は、集積キットに保持された液体試料からの光を検出し、その検出信号を出力する。演算部は、検出信号の時間変化に基づいて、液体試料中における複数の微小物体の集積量を算出する。
【0007】
(2)検出装置は、光熱変換領域への光照射により液体試料を加熱することで、光照射位置にバブルを発生させるとともに液体試料中に対流を生じさせ、それによりバブルの近傍に複数の微小物体を集積する。
【0008】
(3)演算部は、光熱変換領域への光照射開始後の所定期間における検出信号の回帰により得られる近似直線の傾きに基づいて、液体試料中における複数の微小物体の集積量を算出する。
【0009】
(4)演算部は、光熱変換領域への光照射に伴って取得される2回の検出信号の強度比に基づいて、液体試料中における複数の微小物体の集積量を算出する。
【0010】
(5)複数の微小物体は、励起されると蛍光を発するように構成されている。光源部は、集積キットに照射するためのレーザ光を発するレーザ光源と、複数の微小物体を励起するための光を発する蛍光光源とを含む。
【0011】
(6)レーザ光源と蛍光光源とは、一体的に形成されている。
(7)受光器は、複数の微小物体から発せられた蛍光のうち受光器への取り込みが不要な光をカットするマスクを含む。
【0012】
(8)レーザ光源は、複数の発光領域を有し、複数の発光領域から複数のレーザ光線をそれぞれ発するように構成されている。検出装置は、集積キットを保持するように構成されたホルダと、複数のレーザ光線を同一の集光点に集光する集光レンズと、ホルダと集光レンズとの間の相対的な位置関係を調整する調整機構と、調整機構を制御する制御部とをさらに備える。制御部は、各々が複数のレーザ光線のうちの少なくとも一部を光熱変換領域に照射するモードである単一照射モードと多点照射モードとの切り替えが可能に構成されている。単一照射モードは、集光点が光熱変換領域に一致するように調整機構を制御するモードである。多点照射モードは、集光点が光熱変換領域から外れるように調整機構を制御するモードである。
【0013】
(9)レーザ光源は、垂直共振面発光レーザを含む。
(10)集光レンズは、グレーデッド・インデックス型の光ファイバと、平凸レンズとを含む。光ファイバは、複数の発光領域を覆う一方端と、平凸レンズの平面側に接合された他方端とを有する。
【0014】
(11)受光器は、シングルピクセル型の光検出器である。
(12)本開示のある局面に従う微小物体の検出システムは、集積キットと、検出装置とを備える。集積キットは、光を熱に変換する光熱変換領域を有し、光熱変換領域上に液体試料を保持可能に構成されている。検出装置は、液体試料に分散した複数の微小物体を集積キットを用いて集積することで、液体試料中の複数の微小物体を検出する。検出装置は、光源部と、受光器と、演算部とを含む。光源部は、集積キットに照射するための光を発する。受光器は、集積キットに保持された液体試料からの光を検出し、その検出信号を出力する。演算部は、検出信号の時間変化に基づいて、液体試料中における複数の微小物体の集積量を算出する。
【0015】
(13)集積キットは、光熱変換領域が配置された第1面と、第1面との間に液体試料を挟み込む第2面と、第1面と第2面との間の距離を固定するためのスペーサとをさらに含む。
【0016】
(14)本開示のさらに他の局面に従う検出方法は、液体に分散した複数の微小物体を集積キットを用いて集積することで、液体中の複数の微小物体を検出する。集積キットは、光を熱に変換する光熱変換領域を有し、光熱変換領域上に液体を滴下可能に構成されている。検出方法は、第1~第3のステップを含む。第1のステップは、集積キットに光を照射するステップである。第2のステップは、集積キットに保持された液体試料からの光を受光器により検出するステップである。第3のステップは、受光器からの検出信号の時間変化に基づいて、液体試料中における複数の微小物体の集積量を算出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、液体に分散した複数の微小物体を集積し、その集積量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1に係る微小物体の検出システムの全体構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】レーザモジュールの構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿うレーザモジュールの断面図である。
【
図4】
図2のIV-IV線に沿うレーザモジュールの断面図である。
【
図6】ハニカム基板の構成を模式的に示す図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿うハニカム基板の断面図である。
【
図8】単一照射モードと多点照射モードとの切替手法を説明するための図である。
【
図9】単一照射モードにおける微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。
【
図10】多点照射モードにおける微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。
【
図11】実施の形態1における微小物体の集積方法を示すフローチャートである。
【
図12】受光器からの検出信号の時間変化の一例を示す図である。
【
図13】レーザ光線の照射停止時におけるサンプルの透過像である。
【
図14】3種類のサンプルを用いた場合の受光器8からの検出信号を比較するための図である。
【
図15】3種類のサンプルにおける樹脂ビーズの集積結果を示す画像である。
【
図16】樹脂ビーズの個数と検出信号の減衰率との間の関係を示す図である。
【
図17】実施の形態1の変形例における微小物体の集積方法を示すフローチャートである。
【
図18】実施の形態2に係る微小物体の検出システムの構成の特徴を説明するための図である。
【
図19】レーザ光線の照射停止時における各サンプルの蛍光像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0020】
<用語の定義>
本開示において、「ナノメートルオーダー」には、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。「マイクロメートルオーダー」には、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。したがって、「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲」には、1nmから1000μmまでの範囲が含まれる。「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲」は、典型的には数nm~数百μmの範囲を示し、好ましくは100nm~100μmの範囲を示し、より好ましくは1μm~数十μmの範囲を示し得る。
【0021】
本開示において、「微小物体」との用語は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する物体を意味する。微小物体の形状は特に限定されず、たとえば球形、楕円球形、ロッド形(棹形)である。微小物体が楕円球形の場合、楕円球の長軸方向の長さおよび短軸方向の長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がロッド形の場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。
【0022】
微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズ、PM(Particulate Matter)などが挙げられる。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介して基材(樹脂ビーズ等)の表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する樹脂からなる粒子である。「PM」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する粒子状物質である。PMの例としては、PM2.5、SPM(Suspended Particulate Matter)などが挙げられる。
【0023】
微小物体は生体由来の物質(生体物質)であってもよい。より具体的には、微小物体は、細胞、微生物(細菌、真菌等)、生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類等)、抗原(アレルゲン等)およびウイルスを含み得る。
【0024】
本開示において、「ハニカム状」との用語は、複数の正六角形が2次元方向に六方格子状(ハチの巣状)に配列された形状を意味する。複数の正六角形の各々には細孔が形成される。複数の細孔がハニカム状に配列された構造を有する構造体を「ハニカム構造体」と称する。各細孔は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲の開口を有する孔である。細孔は、貫通孔であってもよく非貫通孔であってもよい。また、細孔の形状は特に限定されず、円柱形、角柱形、真球形を除く球形(たとえば半球形または半楕円球形)等の任意の形状を含み得る。
【0025】
本開示において、「マイクロバブル」との用語は、マイクロメートルオーダーの気泡を意味する。
【0026】
本開示において、「光を透過する」あるいは「光透過性を有する」とは、物質に吸収されずに物質を通過する光の強度がゼロより大きい現象または性質を意味する。光の透過は光の散乱(前方散乱)を含む。光の波長領域は、紫外領域、可視領域、および近赤外領域のいずれかの領域、これら3つの領域のうちの2つの領域にまたがる領域、3つの領域のすべての領域にまたがる領域のいずれもよい。光の透過率の範囲の下限はゼロよりも大きければよく、特に限定されない。なお、透過率の範囲の上限は100%である。
【0027】
以下では、x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。なお、z方向上方を上方と略し、z方向下方を下方と略す場合がある。
【0028】
[実施の形態1]
<検出システムの全体構成>
図1は、実施の形態1に係る微小物体の検出システムの全体構成を概略的に示すブロック図である。検出システム100は、検出装置1と、集積キット10とを備える。検出装置1は、液体に分散した複数の微小物体を集積キット10を用いて集積することで、液体中の複数の微小物体を検出する。
図1では集積キット10が1つだけ図示されているが、必要に応じて複数の集積キット10が準備され、検出装置1に順に取り付けられる。
【0029】
検出装置1は、光源ステージ2と、調整機構3と、レーザモジュール4と、ドライバ5と、サンプルホルダ6と、フィルタ7と、受光器8と、コントローラ9とを備える。
【0030】
光源ステージ2にはレーザモジュール4が設置されている。光源ステージ2は、たとえばXYZ軸ステージであって、x方向、y方向およびz方向に移動可能に構成されている。
【0031】
調整機構3は、コントローラ9からの指令に応じて、光源ステージ2のx方向、y方向およびz方向の位置を調整することが可能に構成されている。以下に説明する例では、光源ステージ2の高さ(z方向の位置)を調整することにより、光源ステージ2上に設置されたレーザモジュール4と、集積キット10との間の相対的な位置関係が調整される。ただし、調整機構3の構成は、レーザモジュール4と集積キット10との間の相対的な位置関係を調整可能であれば特に限定されるものではない。調整機構3は、固定されたレーザモジュール4に対して集積キット10の位置を調整してもよいし、集積キット10およびレーザモジュール4の両方の位置を調整してもよい。
【0032】
レーザモジュール4は、たとえば半導体レーザモジュールである。本実施の形態においてレーザモジュール4から発せられるレーザ光線Lの波長は、近赤外域に含まれ、たとえば850nmである。レーザモジュール4の構成については
図2~
図4にて詳細に説明する。図示しないが、レーザモジュール4には、レーザモジュール4を冷却するための冷却装置(ペルチェ素子など)が設けられていてもよい。なお、レーザモジュール4は、本開示に係る「レーザ光源」の一例である。
【0033】
ドライバ5は、コントローラ9からの指令に従って、レーザモジュール4を駆動するための電流を供給する。
【0034】
サンプルホルダ6は集積キット10を保持する。前述のように、サンプルホルダ6も光源ステージ2と同様にXYZ軸ステージであってもよい。集積キット10はサンプルSPを含有する。集積キット10の構成については
図5~
図7にて説明する。
【0035】
フィルタ7は、たとえばND(Neutral Density)フィルタである。フィルタ7は、レーザモジュール4からサンプルSPに照射され、サンプルSPを透過したレーザ光線Lの強度を低下させる。フィルタ7は、レーザ光線Lの出力(レーザ出力)に応じて適宜設けられる。レーザ出力によってはフィルタ7は省略され得る。
【0036】
受光器8は、フィルタ7により強度を低下させたレーザ光線Lを検出し、その検出信号をコントローラ9に出力する。本実施の形態において、受光器8は、シングルピクセル型の光検出器(シングルチャネル検出器)である。具体的には、受光器8は、PINフォトダイオードまたはAPD(Avalanche photodiode)などのフォトダイオードである。ただし、フォトダイオードに代えて、たとえば光電管または光電子増倍管を用いてもよい。
【0037】
また、受光器8がシングルピクセル型であることは必須ではない。受光器8は、マルチピクセル型の光検出器(マルチチャネル検出器)であってもよい。具体的には、受光器8は、CCD(Charged-Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサなどであってもよい。
【0038】
コントローラ9は、たとえばマイクロコンピュータである。コントローラ9は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリと、入出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。コントローラ9は、検出システム100を構成する各機器(調整機構3およびドライバ5)を制御する。また、コントローラ9は、受光器8からの検出信号に基づいて、サンプルSPにおける微小物体の集積量を算出する。この算出手法については後述する。
【0039】
<レーザモジュールの構成>
図2は、レーザモジュール4の構成を概略的に示す図である。レーザモジュール4は、光源ステージ2上に設置されるとともに、サンプルホルダ6の下方に配置されている。サンプルホルダ6には集積キット10が設置されている。レーザモジュール4から上方に向けて発せられたレーザ光線Lは、サンプルホルダ6上の集積キット10に照射される。
【0040】
図3は、
図2のIII-III線に沿うレーザモジュール4の断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿うレーザモジュール4の断面図である。
図3および
図4を参照して、レーザモジュール4は、基板41と、面発光素子42と、接合部材43と、光導波路44と、レンズ45とを含む。
【0041】
基板41は、絶縁材料からなる平板であって、たとえばプリント配線基板またはセラミック基板である。基板41の表面には面発光素子42が実装されている。基板41の裏面には電極411の一部が形成されている。電極411は、たとえばワイヤボンディングにより面発光素子42に電気的に接続されている。面発光素子42には、ドライバ5(
図1参照)から電極411を介して駆動電流が供給される。
【0042】
面発光素子42はアレイ型垂直共振器面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)である。
図4に示すように、面発光素子42は、複数(この例では30個)の発光領域421と、電極パッド422とを有する。複数の発光領域421はアレイ状に配列されている。すべての発光領域421は同時に発光し、各々がレーザ光線Lを発する。発せられた複数のレーザ光線Lは、面発光素子42の表面に垂直な方向(z方向)に出射される。なお、
図4中の数値は各構成要素の寸法(単位:μm)を表している。
【0043】
接合部材43は、たとえば接着剤であって、面発光素子42上に光導波路44を接合する。接合部材43は、面発光素子42から発せられる光(この例では近赤外光)に対して透明な材料からなる。
【0044】
光導波路44は、面発光素子42から発せられた複数のレーザ光線Lを集光する。光導波路44の材料は、面発光素子42から発せられる光に対して透明な材料であり、たとえば樹脂またはガラスである。光導波路44は、コア441と、クラッド442とを含む。
【0045】
コア441は円柱形状を有する。コア441の入射端(本開示に係る「一方端」に相当)は、面発光素子42から発せられたすべてのレーザ光線Lが入射されるように、すべての発光領域421を覆うように形成されている。クラッド442は円筒形状を有する。クラッド442は、コア441の側面を覆うように形成されている。
【0046】
レンズ45は、平凸レンズであって、平面および凸面を有する。レンズ45の平面は、光導波路44の出射端(本開示に係る「他方端」に相当)に接合されている。レンズ45の凸面は、レーザモジュール4のレーザ出射部位からの光の出射方向に突出している。
【0047】
以上のように構成されたレーザモジュール4におけるレーザ光線Lの伝搬経路について説明する。光導波路44は、グレーデッド・インデックス(GI:Graded Index)型の光ファイバである。そのため、光導波路44のコア441の屈折率は、コア441の径方向中心で最も高く、径方向外側に向かうに従って滑らかに低くなる。コア441の内部を伝搬するレーザ光線Lには、伝搬距離が互いに異なる複数のモードが存在する。低次モードの光はコア中心を進み、高次モードの光はコア中心から外れて進む。低次モードの光の伝搬距離は短いものの、低次モードの光の伝搬速度はコア中心の屈折率の高さに起因して相対的に遅い。それとは逆に、高次モードの光では、伝搬距離が長い一方で伝搬速度が相対的に速い。コア441の屈折率分布は、モード間の伝搬時間の差が十分に短くなるように設計されている。
【0048】
このような屈折率分布を有するコア441の内部を伝搬する複数のレーザ光線Lは、節Pと腹Qとを形成する。なお、レーザ光線Lの波長に応じて節Pおよび腹Qの位置は変化し得る。レーザ光線Lの進行方向に関し、光導波路44の長さは、光導波路44の出射端が節Pから腹Qまでの途中に位置しないように(言い換えると、
図3に示すように、光導波路44の出射端が腹Qから節Pまでの途中に位置するか、あるいは光導波路44の出射端が腹Qと一致するように)定められている。その結果、光導波路44を伝搬した複数のレーザ光線Lは、光導波路44の出射端から集光傾向で出射される。出射された複数のレーザ光線Lは、さらにレンズ45により集光されて同一の集光点Fを形成する。
【0049】
<集積キットの構成>
図5は、集積キット10の斜視図である。集積キット10は、ハニカム基板101と、カバー基板102と、スペーサ103とを含む。
【0050】
ハニカム基板101は、レーザ光線Lの照射により熱を発生させるように構成されている。また、ハニカム基板101は、光透過性を有する材料により形成されている。ハニカム基板101の構成については
図6および
図7にて説明する。
【0051】
ハニカム基板101の上面にはサンプルSPが保持(滴下)されている。サンプルSPは、微小物体が分散した液体である。この液体(分散媒)の種類は特に限定されるものではないが、この例では超純水である。
【0052】
カバー基板102は、サンプルSPの上方に配置されている。つまり、ハニカム基板101とカバー基板102とは、サンプルSPを上下から挟み込むように設けられている。カバー基板102は、ハニカム基板101と同様に、光透過性を有する材料(たとえばガラス、透明樹脂)により形成されている。本実施の形態ではカバーガラスがカバー基板102として用いられる。なお、ハニカム基板(の上面)が本開示に係る「第1面」に相当する。カバー基板102(の下面)が本開示に係る「第2面」に相当する。
【0053】
スペーサ103は、ハニカム基板101上に設けられ、カバー基板102を支持する。スペーサ103は、ハニカム基板101とカバー基板102との間の距離を規定値に固定するために設けられる。そのため、スペーサ103には厚みが管理された材料(たとえば両面テープ)を用いることが望ましい。複数の集積キット10を準備した場合に、スペーサ103を設けることで、レーザ光線LがサンプルSP内を通過する距離(光路長)が共通の値となる。これにより、サンプルSPを透過したレーザ光線Lの強度ばらつきを低減する(言い換えると、すべての集積キット10の測定条件を揃える)ことが可能になる。
【0054】
なお、スペーサ103は、ハニカム基板101およびカバー基板102のうちの一方と一体形成されていてもよい。また、ハニカム基板101およびカバー基板102の形状は、平板形状に限定されるものではない。ハニカム基板101およびカバー基板102は、サンプルSPを保持するための内部空間が形成された容器の一部であってもよい。
【0055】
図6は、ハニカム基板101の構成を模式的に示す図である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿うハニカム基板101の断面図である。
図6および
図7ではサンプルSPの図示を省略している。
図6を参照して、ハニカム基板101は、基板104と、ハニカム高分子膜105と、薄膜106とを含む。
【0056】
基板104は、薄膜106によるレーザ光線Lの光熱変換(後述)に影響を与えない材料により形成されている。そのような材料としては透明樹脂、ガラスなどが挙げられる。本実施の形態では透明樹脂が基板104として用いられる。
【0057】
ハニカム高分子膜105は、ハニカム構造体が基板104上に配置された高分子膜である。ハニカム高分子膜105の材料には、有機溶媒(疎水性溶媒)に溶解可能な高分子が用いられる。本実施の形態ではポリスチレンがハニカム高分子膜105の基質として用いられる。この基質には、親水基および疎水基の両方を有する微量の両親媒性ポリマーが添加されている。
【0058】
薄膜106は、ハニカム高分子膜105上に形成されている。薄膜106は、レーザモジュール4からのレーザ光線Lを吸収し、光エネルギーを熱エネルギーに変換する。薄膜106の材料は、レーザ光線Lの波長域(この例では近赤外域)における光熱変換効率が高い材料であることが好ましい。本実施の形態では、膜厚がナノメートルオーダー(具体的には、たとえば40nm~50nm)の金薄膜が薄膜106として形成されている。金薄膜は、スパッタまたは無電解メッキなどの公知の手法を用いて形成できる。なお、薄膜106は、基板104全面に形成されていなくてもよく、基板104の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0059】
薄膜106が金薄膜である場合、金薄膜表面の自由電子は表面プラズモンを形成し、レーザ光線Lによって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金薄膜は熱を発生する。以下では、この効果を「光発熱効果」とも称する。
【0060】
薄膜106の材料は金に限定されるものではなく、光発熱効果を生じ得る金以外の金属元素(たとえば銀)または金属ナノ粒子集積構造体(たとえば金ナノ粒子もしくは銀ナノ粒子を用いた構造体)などであってもよい。あるいは、薄膜106の材料は、レーザ光線Lの波長域の光吸収率が高い金属以外の材料であってもよい。そのような材料としては、黒体に近い材料(たとえばカーボンナノチューブ黒体)が挙げられる。薄膜106の厚みは、レーザ出力ならびに薄膜106の材料の吸収波長域および光熱変換効率を考慮して、設計的または実験的に決定される。薄膜106が形成された領域は、本開示に係る「光熱変換領域」に相当する。
【0061】
薄膜106は、ハニカム高分子膜105の構造を反映してハニカム構造を有する。そのため、
図7に示すように、薄膜106には、複数の微小物体が捕捉される複数の細孔107と、各々が複数の細孔107のうちの隣接する細孔間を互いに隔てる複数の隔壁108とが形成されている(ハニカム基板101の詳細な構成については特許文献2参照)。薄膜106は、複数の細孔107と、複数の隔壁108の上部とのうちの少なくとも一部を覆うように設けられている。
【0062】
<単一照射モードと多点照射モード>
図2および
図3を再び参照して、以下では、レーザ光線Lの出射方向(z方向)に沿ってレーザモジュール4の先端(レンズ45の凸面)から集積キット10の上面までの距離を「照射距離D」と呼ぶ。
図1にて説明したように、調整機構3は、光源ステージ2のz方向の位置をコントローラ9からの指令に応じて調整可能に構成されている。したがって、コントローラ9は、調整機構3を制御することによって照射距離Dを任意の値に設定できる。
【0063】
実施の形態1に係る検出システム100は、照射距離Dの設定により、「単一照射モード」と「多点照射モード」との切り替えが可能に構成されている。単一照射モードとは、単一のレーザ光線LをサンプルSPに照射する制御モードである。多点照射モードとは、多数(2以上)のレーザ光線LをサンプルSPに照射する制御モードである。
【0064】
図8は、単一照射モードと多点照射モードとの切替手法を説明するための図である。
図2および
図8を参照して、レーザモジュール4の先端から上方に出射された複数のレーザ光線Lは、レンズ45近傍では別々であるが、それよりも上方で互いに交わって集光点Fを形成する。そして、複数のレーザ光線Lは、集光点Fよりもさらに上方では再び別々に分かれる。
【0065】
集光点Fの位置が集積キット10の上面と一致するようにコントローラ9が照射距離Dを設定すると、集積キット10には単一のレーザ光線Lが照射されることとなる。すなわち、集積キット10への単一照射が実現される(単一照射モード)。
【0066】
これに対し、集光点Fの位置が集積キット10の上面よりも下方になるようにコントローラ9が照射距離Dを設定すると、集積キット10には複数のレーザ光線Lが照射されることとなる。すなわち、集積キット10への多点照射が実現される(多点照射モード)。なお、この例では図示しないが、集光点Fの位置が集積キット10の上面よりも上方になるようにコントローラ9が照射距離Dを設定することで多点照射を実現してもよい。
【0067】
また、多点照射モードにおいて、集積キット10の上面の位置での複数のレーザ光線L間の間隔を「スポット間隔」と呼ぶ。スポット間隔は、集積キット10の上面の位置が集光点Fよりも上方に向かうに従って広くなる。したがって、コントローラ9は、調整機構3の制御により照射距離Dを調整することで、スポット間隔を所望の値に設定することも可能である。
【0068】
<集積メカニズム>
図9は、単一照射モードにおける微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。レーザ光線Lの照射を開始すると、レーザスポットでの薄膜106の光発熱効果により、レーザスポット近傍が局所的に加熱される。その結果、レーザスポット近傍のサンプルSPの分散媒が沸騰してレーザスポットにマイクロバブルMBが発生する。マイクロバブルMBは時間の経過とともに成長する。
【0069】
レーザスポットに近いほど分散媒の温度は高くなる。つまり、光照射により分散媒中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して、分散媒中に規則的な熱対流(浮力対流)が定常的に発生する。単一照射時に発生する熱対流の方向は、参照符号HCを付して示すように、一旦マイクロバブルMBに向かい、その後、マイクロバブルMBから遠ざかる方向である。
【0070】
このように熱対流が生じる理由は以下のように説明することができる。マイクロバブルMBが生じた領域の上方に存在する分散媒が加熱により相対的に希薄となり浮力によって上昇する。それとともに、マイクロバブルMBの水平方向に存在する相対的に低温の分散媒がマイクロバブルMBに向けて流入する。
【0071】
微小物体Xは、熱対流に乗ってマイクロバブルMBに向けて運ばれることによってレーザスポット近傍に集積される。より詳細には、マイクロバブルMBと薄膜106との間には、対流の流速がほぼゼロとなる領域(よどみ領域)が生じるところ、熱対流に乗って運ばれてきた微小物体Xは、よどみ領域に滞留して集積される。その後、レーザ光線Lの照射を停止すると、熱対流は弱まり、やがて止まる。
【0072】
図10は、多点照射モードにおける微小物体Xの集積メカニズムを説明するための図である。ただし、
図10では紙面が煩雑になるのを避けるため、2本のレーザ光線Lのみが図示されている。
【0073】
多点照射モードにおいては、多数のレーザスポットの各々の近傍にマイクロバブルMBが発生する。ただし、スポット間隔によっては、隣接するマイクロバブルMB同士が成長の過程で融合し得る。そのため、多点照射モードでは、最大でレーザスポットの数と同数のマイクロバブルMBが残る。多点照射モードにおいても単一照射モードと同様に微小物体Xが熱対流により運ばれ、各マイクロバブルMBのよどみ領域に滞留して集積される。
【0074】
本発明者らが得た知見によれば、多点照射モードでは、隣接するマイクロバブルMBの間隙に向けて速い対流が生じる。この対流の影響により、隣接するマイクロバブルMBの間に生じるよどみ領域に多くの微小物体Xが集積される。その結果、単一照射モードと多点照射モードとの間でレーザ出力などの光照射条件を揃えた場合、多点照射モードの方が微小物体Xの集積量が多くなり得る。
【0075】
<集積フロー>
図11は、実施の形態1における微小物体の集積方法を示すフローチャートである。このフローチャートにおけるステップS104以降の各ステップは、基本的にはコントローラ9によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がコントローラ9内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。なお、コントローラ9は、本開示に係る「演算部」および「制御部」の両方に相当する。ただし、本開示に係る「演算部」と「制御部」とは別々の機器であってもよい。
【0076】
ステップS101において、微小物体が分散した液体であるサンプルSPが準備される。準備されたサンプルSPは集積キット10に導入される(ステップS102)。より具体的には、所定量のサンプルSPがハニカム基板101上に滴下される。そして、そのサンプルSPの上からカバー基板102が設置される。このようにして測定準備が整えられた集積キット10はサンプルホルダ6上に設置される(ステップS103)。
【0077】
ステップS104において、コントローラ9は、ユーザ操作に基づき、単一照射モードおよび多点照射モードのうちのいずれか一方の制御モードを選択する。多点照射モードが選択された場合、スポット間隔についてもユーザが設定可能とすることができる。
【0078】
適切な光源ステージ2の位置および高さ(照射距離D)が制御モード(単一照射モードまたは多点照射モード)毎に予め決められている。コントローラ9は、選択された制御モードに応じて調整機構3を制御することで光源ステージ2の位置を調整する(ステップS105)。なお、すべてのレーザ光線Lが集光する集光点Fの鉛直方向の位置は、レーザモジュール4の仕様(レーザ光線Lの波長、ならびに、光導波路44およびレンズ45の形状等)から既知である。よって、コントローラ9は、光源ステージ2の高さを初期高さから適宜調整することで、照射距離Dを所望の値に設定できる。
【0079】
ステップS106において、コントローラ9は、レーザ光線Lの照射を開始するようにドライバ5を制御する。コントローラ9は、集積キット10へのレーザ光線Lの照射を規定時間だけ継続する(ステップS107)。規定時間は、典型的には数十秒~数分程度であり、ユーザが設定できる。この光照射に伴って微小物体が集積される。規定時間の光照射後に、コントローラ9は、集積キット10へのレーザ光線Lの照射を停止するようにドライバ5を制御する(ステップS108)。
【0080】
ステップS106~S108の実行中、コントローラ9は、レーザ光線Lの検出信号を受光器8から連続的または断続的に取得する。ステップS109において、コントローラ9は、検出信号の時間変化に基づいて、レーザ光線Lの照射により集積された微小物体の量(集積量)を算出する。この算出手法については後述する。これにより、一連の処理が終了する。
【0081】
<集積量算出>
続いて、微小物体を集積し、その集積量を算出した結果について、実際の測定結果を基に説明する。ここでは微小物体の例示的形態として樹脂ビーズが採用される。樹脂ビーズの材料はポリスチレンである。ただし、樹脂ビーズの材料はこれに限定されるものではなく、アクリル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等であってもよい。
【0082】
図12は、受光器8からの検出信号の時間変化の一例を示す図である。
図12および後述する
図14において、横軸は経過時間を表す。縦軸は、受光器8からの検出信号の強度を表す。
【0083】
図12に示す測定例では、サンプルSPにおける樹脂ビーズの濃度は1.01×10
8[particles/mL]であった。樹脂ビーズの直径は1.0μmであった。なお、この樹脂ビーズには蛍光色素は含まれていない。サンプルSPの液量は20μLであった。サンプルSPに照射されるレーザ光線Lの出力(レーザ出力)は180mWであった。レーザ光線Lの照射時間を180秒とした。
【0084】
図12を参照して、レーザ出力が安定するのにレーザ光線Lの照射を開始してから30秒間程度の時間を要した。レーザ出力の安定化後、検出信号の強度は時間の経過とともに次第に減少した。180秒間の照射時点では、検出信号の強度は略一定であった。
【0085】
図13は、レーザ光線Lの照射停止時におけるサンプルSPの透過像である。この画像は、図示しない撮影機器(イメージセンサ)を用いてサンプルSPを下方から撮影することで取得したものである。
図13に示すように、レーザ光線Lの照射箇所(レーザスポット)の周囲に微小物体X(樹脂ビーズ)の集積が確認された。
【0086】
図14は、3種類のサンプルSPを用いた場合の受光器8からの検出信号を比較するための図である。この例では、樹脂ビーズを含まない超純水のみのサンプルと、樹脂ビーズの濃度が1.01×10
8[particles/mL]のサンプルと、樹脂ビーズの濃度が1.01×10
9[particles/mL]のサンプルとを準備した。これらのサンプルを順に、「超純水サンプル」、「低濃度サンプル」および「高濃度サンプル」と呼ぶ。いずれのサンプルにおいても液量は20μLであった。レーザ光線Lの出力(レーザ出力)は180mWであった。レーザ光線Lの照射時間を180秒とした。
【0087】
図14を参照して、超純水サンプルでは、検出信号の強度は、ほぼ一定値であった。低濃度サンプルでは、検出信号の強度が時間の経過とともにわずかに低下した。高濃度サンプルでは、低濃度サンプルと比べて、時間経過に伴い検出信号の強度が、より顕著に低下した。
【0088】
レーザ光線Lの照射開始時刻を基準として50秒から150秒までの期間について、各サンプルの検出信号の時間関数(検出信号の減少レート)を最小二乗法により線形回帰し、近似直線の傾きを算出した。その結果、超純水サンプルにおける近似直線の傾きは、-1.68であった。低濃度サンプルにおける近似直線の傾きは、-2.18であった。高濃度サンプルにおける近似直線の傾きは、-11.04であった。なお、これらの値は、サンプル毎に3回実施した測定結果の平均値である。
【0089】
このように、受光器8から取得される検出信号の減衰の様子を追跡することにより、サンプルSPに含有される樹脂ビーズの濃度を定量的に算出できる。具体的には、樹脂ビーズの濃度と近似直線の傾きとの間の相関関係を事前に実験的に求める。そして、その相関関係をテーブルまたはマップ等としてまとめ、コントローラ9のメモリに格納しておく。これにより、受光器8からの検出信号から近似直線の傾きを算出し、近似直線の傾きから樹脂ビーズの濃度を算出することが可能になる。
【0090】
図15は、3種類のサンプルSPにおける樹脂ビーズの集積結果を示す画像である。
図15において、低濃度サンプルでは、マイクロバブルMBの中央部分に生じるよどみ領域に樹脂ビーズ(微小物体X)が集積している様子を確認できた。高濃度サンプルでは、よどみ領域に加えて、マイクロバブルMBの周囲にも多数の樹脂ビーズが集積している様子を確認できた。マイクロバブルMBの周囲への樹脂ビーズの集積が、検出信号が大きく減衰した要因であると考えられる。
【0091】
以上のように、実施の形態1においては、微小物体が分散したサンプルSPへのレーザ光線Lの照射により微小物体が集積される。この集積中に、サンプルSPを透過したレーザ光線Lの検出信号(透過量)の推移が受光器8を用いて取得される。実施の形態1では、レーザ光線Lの検出信号の減少レート(近似直線の傾き)と微小物体の集積量との間の相関関係が予め求められている。したがって、実施の形態1によれば、レーザ光線Lを液体中の微小物体を集積するのに用いつつ、レーザ光線Lの検出信号の減少レートを算出することで、微小物体の集積量を求めることができる。
【0092】
レーザ光線Lの検出信号の絶対値は、必ずしも微小物体の集積量を表さない。このことは
図14に示した測定結果において、たとえば低濃度サンプルにおけるレーザ光線Lの強度が超純水サンプルにおけるレーザ光線Lの強度よりも大きいことから理解されるであろう。これは、レーザ光線Lの強度の絶対値には、光照射により生成されるマイクロバブルMBのサイズの違いなど、様々な要因が影響し得るためと考えられる。実施の形態1によれば、検出信号の絶対値ではなく検出信号の減少レート(すなわち検出信号の時間変化)を用いることにより、微小物体の集積量を定量的に評価することが可能になる。
【0093】
[実施の形態1の変形例]
図15にて説明した例ではレーザ光線Lの検出信号の減少レートを使用したが、微小物体の集積量の算出に使用可能なパラメータはこれに限定されない。以下では、レーザ光線Lの照射前および照射後における検出信号の強度比(より具体的には減衰率)を使用する例について説明する。
【0094】
図16は、樹脂ビーズの個数と検出信号の減衰率との間の関係を示す図である。
図16において、横軸は樹脂ビーズの個数を対数目盛で表す。縦軸は、受光器8からの検出信号の減衰率を表す。
【0095】
検出信号の減衰率は下記式(1)に従って算出され得る。式(1)では、レーザ光線Lの照射開始時(時刻0秒)における検出信号の強度をRX1と記載し、レーザ光線Lの照射終了時(時刻180秒)における検出信号の強度をRX2と記載している。式(1)から理解されるように、検出信号の減衰率は、レーザ光の照射開始後に取得された2回の検出信号の強度比の一例(より広義には検出信号の時間変化の一例)である。
【0096】
減衰率=100×(1-RX2/RX1) ・・・(1)
図16より、樹脂ビーズの個数(濃度であってもよい)と検出信号の減衰率との間の相関関係を片対数グラフ上にプロットした場合、高い直線性を示すことが分かる。このような直線性を有する相関関係を事前に求め、コントローラ9のメモリに格納しておく。これにより、検出信号の減衰率から樹脂ビーズの個数を算出できる。
【0097】
図17は、実施の形態1の変形例における微小物体の集積方法を示すフローチャートである。このフローチャートにおけるステップS201~S205の処理は、実施の形態1における対応する処理(
図11参照)と同様であるため、説明は繰り返さない。
【0098】
コントローラ9は、S204にて選択された制御モードに応じて、光源ステージ2の位置を調整するように調整機構3を制御する(ステップS205)。そして、S206において、コントローラ9は、微小物体の集積前における透過光の強度を測定するための微弱なレーザ光線LをサンプルSPに照射するように、ドライバ5を制御する。すなわち、コントローラ9は、検出信号の強度RX1を取得する。このときのレーザ出力は、微小物体の集積用のレーザ出力と比べて、たとえば1~2桁程度(あるいはそれ以上)小さな値に設定できる。一例として、微小物体の集積用のレーザ出力が180mWであるのに対し、透過光の強度測定用のレーザ出力は3mWに設定できる。
【0099】
続くステップS207~S209において、コントローラ9は、微小物体を集積するためのレーザ光線LをサンプルSPに照射するように、ドライバ5を制御する。これらの処理は、実施の形態1におけるS106~S108の処理と同様である。
【0100】
S210において、コントローラ9は、微小物体の集積後における透過光の強度を測定するための微弱なレーザ光線LをサンプルSPに照射するように、ドライバ5を制御する。すなわち、コントローラ9は、検出信号の強度RX2を取得する。微小物体の集積後における透過光の強度測定用のレーザ出力は、微小物体の集積前における透過光の強度測定用のレーザ出力と等しい値に設定することが望ましい。これにより、一連の処理が終了する。
【0101】
このフローチャートでは、微小物体を集積するためのレーザ光線Lと、透過光の強度を測定するためのレーザ光線Lとが別々である例について説明した。しかし、透過光の強度を測定するためのレーザ光線Lの照射を省略し、微小物体を集積するためのレーザ光線Lの透過光の強度を微小物体の集積前と集積後とに測定してもよい。
【0102】
以上のように、本変形例においては、サンプルSPを透過したレーザ光線Lの検出信号について、微小物体の集積開始前の強度RX1と集積終了後の強度RX2との強度比(減衰率)が取得される。本変形例では、レーザ光線Lの検出信号の減衰率(式(1)参照)と微小物体の集積量との間の相関関係が予め求められている。したがって、本変形例によれば、レーザ光線Lを液体中の微小物体を集積するのに用いつつ、レーザ光線Lの検出信号の減衰率を算出することで、微小物体の集積量を求めることができる。
【0103】
なお、2回の検出信号の取得タイミング(透過光の強度の測定タイミング)は、微小物体の集積前および集積後に限定されず、微小物体の集積中であってもよい。たとえば、1回目を微小物体の集積前に測定し、2回目を微小物体の集積中(たとえば終了直前)に測定してもよい。また、1回目も2回目も微小物体の集積中(たとえば開始直後および終了直前)に測定してもよい。あるいは、1回目を微小物体の集積中(たとえば開始直後)に測定し、2回目を微小物体の集積後に測定してもよい。このように、光照射に伴って任意のタイミングで取得される2回の検出信号の強度比を算出すればよい。
【0104】
[実施の形態2]
一般に、微生物等の生体試料を観察する際には蛍光イメージング法が広く用いられている。実施の形態2においては、実施の形態1(または、その変形例)にて説明したような微小物体の集積量の定量評価手法を蛍光イメージング法と組み合わせる例について説明する。この測定例では、蛍光ビーズを微小物体として用いた。この蛍光ビーズは、YG(Yellow Green)の蛍光色素を含む。蛍光ビーズの材料はポリスチレンであった。蛍光ビーズの直径は1.0μmであった。なお、微小物体は、蛍光色素により染色された微生物(細菌等)であってもよい。
【0105】
図18は、実施の形態2に係る微小物体の検出システムの構成の特徴を説明するための図である。実施の形態2に係る微小物体の検出装置は、レーザモジュール4に加えて蛍光光源49をさらに備える点、および、マスク81をさらに備える点において、実施の形態1に係る微小物体の検出装置1の構成(
図1~
図4参照)と異なる。この場合、レーザモジュール4および蛍光光源49が本開示に係る「光源部」に相当する。実施の形態2に係る微小物体の検出装置のそれ以外の構成は、検出装置1の対応する構成と同等であるため、説明は繰り返さない。
【0106】
蛍光光源49は、レーザモジュール4とともに光源ステージ2上に設置されている。蛍光光源49は、蛍光ビーズ内の蛍光色素を励起するための励起光L0(たとえば青色の波長の光)を発する。励起光L0の照射により蛍光ビーズから蛍光(たとえば緑色の波長の光)が発せられる。この測定で使用した蛍光ビーズに関しては、励起光L0の極大波長は441nmであり、蛍光の極大波長は486nmであった。この例では、蛍光光源49はLED(Light Emitting Diode)であるが、水銀ランプなどの他の種類の光源であってもよい。
【0107】
なお、レーザモジュール4と蛍光光源49とが一体的に形成されていてもよい。より具体的には、レーザモジュール4が、蛍光ビーズを集積するための光源と、蛍光色素を励起するための光源とを兼ねていてもよい。つまり、レーザモジュール4が、蛍光色素の励起光L0(たとえば、近赤外光に代えて青色光)を発するとともに、その励起光L0により薄膜106の光発熱効果を生じさせてもよい。そうすることで、レーザモジュール4からの光を、液体中の微小物体の集積と、検出信号の時間変化に基づく微小物体の集積量の算出と、蛍光像の撮影とに共通して用いることができる。
【0108】
マスク81は、受光器8の下面に設けられている。マスク81は、蛍光ビーズから発せられた蛍光のうち受光器8への取り込みが不要な光(迷光)をカットする。これにより、蛍光に対する受光器8の感度が向上する。
【0109】
なお、この例では蛍光像を撮影するため、受光器8はマルチピクセル型の光検出器(CCDまたはCMOSイメージセンサなど)である。しかし、蛍光像は、蛍光ビーズの集積の様子を確認するために用いられ、蛍光ビーズの集積量の算出には用いられない。したがって、実施の形態2においてもシングルピクセル型の受光器8(フォトダイオードなど)を採用可能である。
【0110】
この測定例でも3種類のサンプルSPを準備した。第1のサンプルは、蛍光ビーズの個数が2.02×104個のサンプルであった。第2のサンプルは、蛍光ビーズの個数が2.02×105個のサンプルであった。第3のサンプルは、蛍光ビーズの個数が2.02×106個のサンプルであった。以下、これらの第1~第3のサンプルを順に「基準サンプル」、「濃度10倍サンプル」および「濃度100倍サンプル」と呼ぶ。いずれのサンプルにおいても液量は20μLであった。レーザ光線Lの出力(レーザ出力)は180mWであった。レーザ光線Lの照射時間を180秒とした。
【0111】
図19は、レーザ光線Lの照射停止時における各サンプルの蛍光像を示す図である。図中、破線で示す正方形領域が受光器8による測光領域(マスク81が設けられていない領域)である。中央に実線で示す円形領域がレーザ光線Lの照射領域(レーザスポット)である。
【0112】
図19より、蛍光ビーズの濃度が高くなるに従って、蛍光ビーズの集積を表す輝点の数(集積された蛍光ビーズの面積)が増加することが分かる。そのため、蛍光ビーズの濃度が高くなるに従って検出信号の強度が増強される。よって、実施の形態2においても実施の形態1と同様に、検出信号の変化(検出信号の増加レート)から近似直線の傾きを算出し、近似直線の傾きから蛍光ビーズの濃度を算出できる。また、実施の形態1の変形例と同様に、検出信号の変化に伴う検出信号の強度比(減衰率など)から蛍光ビーズの濃度を算出することも可能である。
【0113】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
1 検出装置、2 光源ステージ、3 調整機構、4 レーザモジュール、5 ドライバ、6 サンプルホルダ、7 フィルタ、8 受光器、81 マスク、9 コントローラ、10 集積キット、100 検出システム、101 ハニカム基板、102 カバー基板、103 スペーサ、104 基板、105 ハニカム高分子膜、106 薄膜、107 細孔、108 隔壁、41 基板、411 電極、42 面発光素子、421 発光領域、422 電極パッド、441 コア、442 クラッド、43 接合部材、44 光導波路、45 レンズ、49 蛍光光源、X 微小物体、SP サンプル。