(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】ヘッドレストステーと芯材との結合構造およびヘッドレスト
(51)【国際特許分類】
B60N 2/80 20180101AFI20231113BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20231113BHJP
B68G 7/06 20060101ALI20231113BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20231113BHJP
B29C 44/12 20060101ALI20231113BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20231113BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20231113BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
B60N2/80
A47C7/38
B68G7/06 A
B29C44/00 A
B29C44/12
B29C39/10
B29K105:04
B29L31:58
(21)【出願番号】P 2021000051
(22)【出願日】2021-01-04
【審査請求日】2023-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396008934
【氏名又は名称】松本工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 満雄
(72)【発明者】
【氏名】栗山 穣成
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0164730(US,A1)
【文献】特開2010-269089(JP,A)
【文献】特開2005-178196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/80 - 2/897
A47C 7/38
B29C 39/10
B29C 44/00
B29C 44/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡プラスチック製の芯材の一面に、
断面が大略U字形状の嵌挿溝を設け、この嵌挿溝にヘッドレストステーの上端部を嵌挿したヘッドレストステーと芯材との結合構造において、
前記嵌挿溝には、その長さ方向の中間部にて複数位置に、その嵌挿溝形成壁から凹んだ凹部を設け、これらの凹部の底壁に弾性変形片をそれぞれ植設するとともに、これらの弾性変形片を、嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で設けられるフック形状の頭部と、前記凹部の底壁から起立して頭部を支持する胴部とで構成し、前記胴部は対応する嵌挿溝形成壁側に向かって傾斜させることにより、嵌挿溝に嵌挿された前記ヘッドレストステーの上端部をこの弾性変形片の弾性力により嵌挿溝の奧方に押し込む構成としたヘッドレストステーと芯材との結合構造。
【請求項2】
前記嵌挿溝は、
平面視して、平行な左右一対の脚部嵌挿用溝部と、これらの脚部嵌挿用溝部の上端同士を連通するブリッジ部嵌挿用溝部とからなり、これらの左右一対の脚部嵌挿用溝部およびブリッジ部嵌挿用溝部は、その長さ方向の中間位置のそれぞれに前記弾性変形片が設けられている請求項1に記載のヘッドレストステーと芯材との結合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のヘッドレストステーと芯材との結合構造を、袋状の表皮に包含して発泡合成樹脂製のクッション体で包み込み固定することにより、前記表皮から前記ヘッドレストステーの両脚部が平行に突出したヘッドレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストに関して、それ用のヘッドレストステーと芯材との結合構造およびヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(乗り物)の座席のシートバックの上部には、着座乗員の頭部を保護するため、着座乗員の頭部が当たる枕部を本体としたヘッドレスト(頭部後傾抑止装置)が設けられている。このヘッドレストは、平行な左右一対の脚部の上端同士を、直接、または所定形状のブリッジ部を介して連結したヘッドレストステーを有しており、ヘッドレストステーの上端部には、発泡プラスチック製の芯材が結合されている。
一般的なヘッドレストの製造によれば、このヘッドレストステーの上端部を、袋状の表皮の開口より芯材を押し込むように表皮の内部空間に挿入し、この状態のまま、表皮に発泡プラスチック材料を注入してクッション体を成形することにより、ヘッドレストを得ていた。
【0003】
ところで、従来、ヘッドレストステーの上端部と芯材との結合構造として、例えば、特許文献1の「ヘッドレストの製造方法」に開示されたものなどが知られている。これは、芯材の下端部に配設された左右一対の剛体である規制突起を介して、ヘッドレストステーの両脚部の左右方向への移動を規制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のヘッドレストステーと芯材との結合構造では、芯材の下端部に配設された左右一対の規制突起(剛体)を介して、各脚部の左右方向への移動を規制するのみであった。そのため、ヘッドレストステーと芯材との前後方向の結合力は小さく、上述したように芯材付きのヘッドレストステーの上端部を、この芯材を開口に押し込むように表皮内へ挿入する際には、芯材がヘッドレストステーから離脱するおそれがあった。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、発泡プラスチック製の芯材の一面に、ヘッドレストステーの上端部が嵌挿される嵌挿溝を形成するとともに、この嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で弾性変形片を設け、この弾性変形片によりヘッドレストステーの一対の脚部の上端部を嵌挿溝の奥方へ押し込むようにすれば、上述した課題はすべて解消されることを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
すなわち、この発明は、ヘッドレストステーの上端部と芯材との前後左右方向の結合力を高めることができ、その結果、ヘッドレストの製造に際して、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部を、支障なく表皮に挿入可能であるとともに、製造されたヘッドレストの品質の安定化が図れるヘッドレストステーと芯材との結合構造およびヘッドレストを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、発泡プラスチック製の芯材の一面に、断面が大略U字形状の嵌挿溝を設け、この嵌挿溝にヘッドレストステーの上端部を嵌挿したヘッドレストステーと芯材との結合構造において、前記嵌挿溝には、その長さ方向の中間部にて複数位置に、その嵌挿溝形成壁から凹んだ凹部を設け、これらの凹部の底壁に弾性変形片をそれぞれ植設するとともに、これらの弾性変形片を、嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で設けられるフック形状の頭部と、前記凹部の底壁から起立して頭部を支持する胴部とで構成し、前記胴部は対応する嵌挿溝形成壁側に向かって傾斜させることにより、嵌挿溝に嵌挿された前記ヘッドレストステーの上端部をこの弾性変形片の弾性力により嵌挿溝の奧方に押し込む構成としたヘッドレストステーと芯材との結合構造である。
【0009】
ここでいう"左右方向"とは、ヘッドレストを座席のシートバックに装着した状態を基準とし、その状態での左右方向(シートバックの幅方向、車幅方向)をいう。また、ここでの"前後方向"とは、この状態での前後方向(シートバックの前後方向、車長方向)をいう。
ヘッドレストが装着される座席を搭載した乗り物の種類は限定されない。例えば、自動車、電車、汽車、飛行機、船舶などを採用することができる。
座席の種類、形状およびサイズも、シートバックにヘッドレストを有するものであれば任意である。
このヘッドレストは、ヘッドレストステーを骨格とした枕部を本体としている。枕部は、外装材となる袋状の表皮内に、ヘッドレストステーのうち、芯材が結合された上端部を挿入して保持し、その後、この表皮の内部空間で、芯材より軟質の発泡合成樹脂材料を充填発泡することにより、クッション体を内部成形したものである。よって、枕部の下端からは、ヘッドレストステーの両脚部が平行に突出している。
【0010】
ヘッドレストステーの素材は、ヘッドレストステーとしての要求強度を満たせば限定されない。例えば、ステーンレス、アルミニウム合金などの各種の金属を採用することができる。このヘッドレストステーは菅体(パイプ)でも、中実体でもよい。
ヘッドレストステーの形状(特に、これの先端部の形状)は任意である。例えば、略逆U字形状、略A字形状(穴空き形状)、鳥居形状などを採用することができる。その他、正面視して略逆U字形状で、側面視して逆J字形状のものでもよい。
両脚部は、少なくとも枕部から突出する下部が互いに平行状態であればよい。
【0011】
芯材の素材としては、各種の発泡プラスチック、特に各種の硬質発泡プラスチックを採用することができる。例えば、ビーズ法発泡ポリプロピレン(EPP:Expanded Polypropylene)などでもよい。
芯材の形状は任意である。例えば、平面視して矩形状、台形状などでもよい。
ここでいう"芯材の一面"とは、芯材の露出面であれば任意である。具体的には、ヘッドレストを座席のシートバックに装着した状態を基準として、そのときの芯材の後面でも、芯材の左面または右面でもよい。
【0012】
嵌挿溝の形状は、対応するヘッドレストステーの上端部の形状により適宜変更される。例えば、ヘッドレストステーの上端部が略逆U字形状であれば、嵌挿溝の形状(芯材の一面(嵌挿溝)と正対視したときの形状)も略逆U字形状となる。また、ヘッドレストステーの上端部が略A字形状(穴空き形状)であれば、嵌挿溝の形状も略A字形状となる。
嵌挿溝の断面形状は、ヘッドレストステーを嵌入できる大略U字形状である。
"断面大略U字形状"とは、嵌挿溝の長さ方向に直交する断面形状が、U字形状またはそれに類似した形状であることをいう。
【0013】
前記嵌挿溝には、その長さ方向の中間部にて複数位置に、その嵌挿溝形成壁から凹んだ凹部を設けてある。そして、これらの凹部の底壁に弾性変形片をそれぞれ植設する。
これらの弾性変形片を、嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で設けられるフック形状の頭部と、前記凹部の底壁から起立して頭部を支持する胴部とで構成している。この場合、前記胴部は対応する嵌挿溝形成壁側に向かって傾斜させている。
ここでいう「嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で弾性変形片の頭部が設けられ、」とは、弾性変形片の頭部が嵌挿溝の開口の上から被さるように、芯材に設けられていることを意味する。
このような弾性変形片により、ヘッドレストステーの一対の脚部の上端部が嵌挿溝の奥方へ押し込まれる。すなわち、芯材の嵌挿溝に嵌挿されたヘッドレストステーに対して、弾性力(ばね力)に抗して引張された弾性変形片の一部が上方から被せられ、その弾性変形片の弾性力により、ヘッドレストステーの上端部をこの嵌挿溝の奥深くへと押し込まれる。
弾性変形片は、芯材と同一素材で、この芯材と一体的に成形された発泡プラスチック製の部材である。
弾性変形片の形状は、その一部が嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で設けられれた、フック状(かぎ爪状)の頭部と、前記凹部の底壁から起立して頭部を支持する胴部とを備えている。
弾性変形片の芯材における形成位置、換言すれば凹部の形成位置は嵌挿溝の長さ方向の中間部であって、嵌挿溝の長さ方向での複数位置とされる。例えば、芯材の嵌挿溝形成壁(奥部形成壁や開口部形成壁など)から突出するように形成してもよい。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記嵌挿溝は、平面視して、平行な左右一対の脚部嵌挿用溝部と、これらの脚部嵌挿用溝部の上端同士を連通するブリッジ部嵌挿用溝部とからなり、これらの左右一対の脚部嵌挿用溝部およびブリッジ部嵌挿用溝部は、その長さ方向の中間位置のそれぞれに前記弾性変形片が設けられている請求項1に記載のヘッドレストステーと芯材との結合構造である。
【0015】
左側の脚部嵌挿用溝部とは、ヘッドレストステーの左側の脚部の上端部が嵌挿される、嵌挿溝の左側の直線状の溝部分である。
右側の脚部嵌挿用溝部とは、ヘッドレストステーの右側の脚部の上端部が嵌挿される、嵌挿溝の右側の直線状の溝部分である。
また、ブリッジ部嵌挿用溝部とは、ヘッドレストステーのブリッジ部が嵌挿される、嵌挿溝の横梁状の溝部分である。
弾性変形片は、左側の脚部嵌挿用溝部の開口付近と、左側の脚部嵌挿用溝部の開口付近と、ブリッジ部嵌挿用溝部の開口付近の少なくとも3箇所にそれぞれ配置されている。
ここでいう"嵌挿溝の開口付近"とは、嵌挿溝の開口部(開口端を含む)だけでなく、この開口端の直上近くの領域を含む。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のヘッドレストステーと芯材との結合構造を、袋状の表皮に包含して発泡合成樹脂製のクッション体で包み込み固定することにより、前記表皮から前記ヘッドレストステーの両脚部が平行に突出したヘッドレストである。
【0017】
表皮とは、ヘッドレストの本体である枕部の外装材となる袋である。
表皮の素材は任意である。例えば、各種の布帛(織布、不織布、編布)、各種の皮革(天然皮革、合成皮革)などでもよい。
表皮における開口の形成位置は、例えば、表皮の下部(底部)などである。
表皮に形成された開口のサイズは、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部を挿入可能であれば任意である。ただし、この開口サイズは可能な限り小さい方が、例えば、クッション体の発泡成形材料(発砲合成樹脂材料)を表皮内に注入(または射出)し、これを充填発泡させてクッション体を作製する際に、この開口からの充填材料の漏出が少なくなるために好ましい。
【0018】
クッション体(弾性体、緩衝体)の素材は限定されない。例えば、芯材の素材より軟質の各種の発泡合成樹脂(例えば、ポリウレタン樹脂)などを採用することができる。
クッション体は、例えば、ブリッジ部が配された表皮の内部空間に発泡合成樹脂材料を注入または射出して設けることができる。その他、あらかじめ設けたクッション体を、ブリッジ部が収納された表皮の中に詰め込んでもよい。また、ブリッジ部の外周面へのクッション体の接着、または紐などによるブリッジ部への締結でもよい。
【0019】
なお、このヘッドレストの製造では、以下の工程を経る。平行な左右一対の脚部を有するヘッドレストステーを準備する工程と、該ヘッドレストステーの上端部が嵌挿される断面大略U字形状の嵌挿溝が一面に形成されて、該嵌挿溝の開口に対してオーバーハング状態で、前記ヘッドレストステーの上端部を前記嵌挿溝の奥方へ押し込む弾性変形片が設けられた発泡プラスチック製の芯材を準備する工程と、前記嵌挿溝に、前記ヘッドレストステーの上端部を、前記各弾性変形片の先端を押し広げるように嵌挿させて、前記芯材に前記ヘッドレストステーを結合させる工程と、前記芯材に前記ヘッドレストステーを結合させた後、この結合構造部を表皮内に保持した状態で、該表皮内で発泡合成樹脂材料を充填発泡させることで、前記表皮内にクッション体を成形する工程とを備える。前記弾性変形片は、前記芯材と同一素材で一体成形されたものである。
【0020】
(1)ヘッドレストステーの準備工程:
ヘッドレストステーの作製方法は限定されない。例えば、1本の鋼管をベンディングマシンより所定形状に湾曲する方法などでヘッドレストステーが作製される。その他、ヘッドレストステーを複数の部分ステーに分割して作製し、その後、これらを所定の連結方法(例えば、溶接、嵌着など)によって連結してもよい。
【0021】
(2)芯材の準備工程:
芯材の成形方法は限定されない。例えば、射出成形法、注型法、加圧成形法などを採用することができる。この芯材の成形時に、弾性変形片が同一素材で一体的に成形される。
【0022】
(3)ヘッドレストステーの上端部と芯材との結合工程:
ここでは、芯材の嵌挿溝に、ヘッドレストステーの上端部を、各弾性変形片の先端を押し広げるようにして嵌挿させる。
【0023】
(4)クッション体成形工程:
クッション体の成形時には、表皮内に、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部(芯材の結合構造部)を挿入し、この状態を保持して、表皮内に発泡合成樹脂材料を入れて充填発泡させる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載のヘッドレストステーと芯材との結合構造によれば、発泡プラスチック製の芯材の一面に、ヘッドレストステーの上端部が嵌挿される嵌挿溝を形成するとともに、この嵌挿溝の開口に対して、オーバーハング状態で弾性変形片が設けられている。
そのため、芯材の嵌挿溝にヘッドレストステーを嵌挿した際には、弾性力(ばね力)に抗して引張された弾性変形片の一部が、上方からヘッドレストステーの上端部に被せられる。その結果、弾性変形片の弾性力の作用によって、ヘッドレストステーの上端部が嵌挿溝の奥深くへと押し込められる。
【0025】
これにより、ヘッドレストステーの上端部と芯材との前後左右方向の結合力が高められ、ヘッドレストの製造に際して、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部を、支障なく表皮に挿入することができるとともに、製造されたヘッドレストの品質の安定化(品質の向上)も図れる。
なお、従来のヘッドレストステーと芯材との結合構造では、芯材の下端部に配設された左右一対の規制突起(剛体)を介して、各脚部の左右方向への移動を規制するのみであった。そのため、ヘッドレストステーと芯材との前後方向の結合力は小さく、芯材付きのヘッドレストステーの上端部を、この芯材を袋開口に押し込む際には、芯材がヘッドレストステーから離脱するおそれがあったが、本発明はこれを解消するものである。
【0026】
特に、請求項2に記載によれば、ヘッドレストステーとして、両脚部の上端同士をブリッジ部により連結した略逆U字形状のものを採用する一方、芯材の嵌挿溝として、左右一対の脚部嵌挿用溝部とブリッジ部嵌挿用溝部とからなる逆U字形状のものを採用した。また、弾性変形片を、両脚部嵌挿用溝部の各開口付近とブリッジ部嵌挿用溝部の開口付近とに三角配置した。
その結果、ヘッドレストステーの上端部と芯材との嵌挿溝を介した結合力をさらに高めることができる。
【0027】
また、請求項3に記載のヘッドレストによれば、請求項1または請求項2のヘッドレストステーと芯材との結合構造を、表皮に包含して発泡合成樹脂製のクッション体で包み込み固定するように構成したため、ヘッドレストステーの上端部と芯材との前後左右方向の結合力が高められる。
これにより、ヘッドレストの製造時に、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部を、支障なく表皮に挿入できるとともに、製造されたヘッドレストの品質の安定化も図ることができる。
【0028】
さらに、ヘッドレストの製造方法によれば、あらかじめ、平行な左右一対の脚部を有したヘッドレストステーを準備する一方、開口に対してオーバーハング状態で弾性変形片が配された嵌挿溝を一面に有する発泡プラスチック製の芯材を成形する。このとき、弾性変形片は、芯材と同一素材により成形される。
その後、この嵌挿溝には、その開口端から、ヘッドレストステーの上端部を、各弾性変形片の先端を押し広げるように嵌挿することで、芯材にヘッドレストステーが結合される。
【0029】
次に、この結合構造部を表皮内に保持した状態で、表皮内に発泡合成樹脂材料を入れて充填発泡させることにより、この表皮内で、芯材とヘッドレストステーとの結合構造部と一体化したクッション体を成形する。こうして、ヘッドレストが製造される。
その結果、ヘッドレストステーの上端部と芯材との前後左右方向の結合力が高められ、このヘッドレストの製造に際して、芯材が結合されたヘッドレストステーの上端部を、支障なく表皮に挿入できるとともに、製造されたヘッドレストの品質の安定化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明の実施例1に係るヘッドレストステーと芯材との
結合構造を示す斜視図である。
【
図2】この発明の実施例1に係るヘッドレストの縦断面図である。
【
図3】この発明の実施例1に係るヘッドレストステーと芯材との
結合構造を示す縦断面斜視図である。
【
図4】この発明の実施例1に係るヘッドレストの一部を構成する芯材の斜視図である。
【
図5】この発明の実施例1に係るヘッドレストの一部を構成する芯材の別方向からの斜視図である。
【
図6】この発明の実施例1に係るヘッドレスト
についての製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】この発明の実施例1に係るヘッドレスト
についての製造方法のうち、クッション体の成形工程を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の実施例を、図面を参照して具体的に説明する。ここでは、説明の都合上、X1方向を前方向、X2方向を後方向、Y1方向を右方向、Y2方向を左方向、Z1方向を上方向、Z2方向を下方向とする。
【実施例】
【0032】
図2において、10はこの発明の実施例1に係るヘッドレストで、このヘッドレスト10は、図示しない自動車(乗り物)の座席のシートバックの上部に装着されて、着座乗員の頭部が当たる枕部11を本体とした頭部後傾抑止装置である。
ヘッドレスト10は、骨格となる縦長なヘッドレストステー12と、ヘッドレストステー12の上端部に結合される芯材13と、枕部11の外装材を構成して、芯材13が結合されたヘッドレストステー12の上端部が収納される袋状の表皮14と、このヘッドレストステー12の上端部を収納した表皮14内に充填されるクッション体15とを有している。この枕部11の下面からは、ヘッドレストステー12の一部を構成する平行な左右一対の脚部16の下部が、それぞれ突出している。
【0033】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
図1および
図3に示すように、ヘッドレストステー12は、1本の長尺な鋼管を、正面視して略逆U字形状で、側面視して略段差状に湾曲させた部材である。
ヘッドレストステー12は、このような形状を実現させるため、長尺で平行な左右一対の脚部16の中間部が、それぞれX1方向へ逆ハの字状に屈曲されている。両脚部16は、図示しない座席のシートバックに内蔵されたフレームに、2本のステー保持具を介して、上下方向にスライド自在に支持されるものである。
【0034】
両脚部16の下部は、各ステー保持具にスライド自在に支持可能なように、Z1-Z2方向に延びるとともに、Y1-Y2方向へ平行に離間している。また、各脚部16の下部の上端部分のうち、互いに対峙する内側面には、Z1-Z2方向に所定数のノッチ16aが形成されている。このノッチ16aには、図示しない各ステー保持具が有する掛止爪が掛止される。
さらに、両脚部16の先端同士は、Y1-Y2方向に延びたブリッジ部17によりそれぞれ一体的に連結されている。そのため、ヘッドレストステー12の先端部は、左側の脚部16の先端部と、右側の脚部16の先端部と、ブリッジ部17とを、略逆U字形状に連結したものとなっている。
【0035】
図1~
図5に示すように、芯材13はビーズ法発泡ポリプロピレン(EPP:Expanded Polypropylene)製で、芯材13としての要求強度を満たした厚肉な発泡プラスチック体である。
芯材13の形状は、後面と正対してY1-Y2方向へ長い略矩形状で、かつ側面視して略砲弾形状のものである。
芯材13のX2側(後側)の面には、ヘッドレストステー12の上端部が嵌挿される断面大略U字形状の嵌挿溝18が形成されている。
【0036】
この嵌挿溝18は、Z1-Z2方向に延びる互いに平行な左右一対の脚部嵌挿用溝部19と、これらの脚部嵌挿用溝部19の上端同士を連通するY1-Y2方向に延びるブリッジ部嵌挿用溝部20とからなる、逆U字形状のものである。
両脚部嵌挿用溝部19の内側形成壁19aのうち、その長さ方向の中間部と、ブリッジ部嵌挿用溝部20の内側形成壁20aのうち、その長さ方向の中間部とには、対応する溝部の長さ方向へ長い矩形凹部21がそれぞれ形成されている。
【0037】
また、各矩形凹部21の奥側形成壁(X1側の壁)21aには、嵌挿溝18の開口に対して、オーバーハング状態で3本の弾性変形片22が配設されている。各弾性変形片22は、嵌挿溝18の開口付近にフック状の頭部22aが配されて、ヘッドレストステー12の上端部を嵌挿溝18の奥方へ押し込むものである。これらの弾性変形片22は、各々芯材13と同一素材で、対応する矩形凹部21の奥側形成壁21aに一体的に植設されている。
各弾性変形片22は、対応する矩形凹部21の奥面からフック状の頭部22aの下端までの長さが、ヘッドレストステー12の直径より短い。これらの弾性変形片22は、先端に向かうほど、徐々に対応する外側形成壁19b、20bの方向へ傾斜している。
【0038】
また、両脚部嵌挿用溝部19の内側形成壁19aおよび外側形成壁19bには、嵌挿されたヘッドレストステー12の上端部を位置決めするため、断面円弧状の凹み19cがそれぞれ形成されている。また、各弾性変形片22の胴部にも、同様の機能を有する凹み22bがそれぞれ形成されている。
【0039】
図2に示すように、表皮14は、薄肉な合成皮革を袋状に縫製したものである。表皮14の下部(底布の部分)には、芯材13とヘッドレストステー12の上端部との結合構造部23を袋内に挿入するとき、芯材13を圧縮しなければ通せないサイズの、Y1-Y2方向に長い開口部14aが形成されている。
クッション体15は、発泡ウレタン(発泡合成樹脂)製の緩衝体である。
【0040】
次に、
図6のフローシートを参照して、ヘッドレスト10の製造方法を説明する。
あらかじめ、平行な左右一対の脚部16とブリッジ部17とを有したヘッドレストステー12を準備する(ヘッドレストステーの準備工程)。具体的には、1本の鋼管をベンディングマシンにより正面視して略逆U字形状で、側面視して略段差状に湾曲させて、ヘッドレストステー12を作製する。
また、X2側の面に嵌挿溝18が形成された芯材13を準備する(芯材の準備工程)。具体的には、図示しない射出成形金型内に、ビーズ法発泡ポリプロピレン材料(射出成形材料)を射出する。これにより、断面大略U字形状で、かつ芯材13のX2側の面と正対視して略逆U字形状の嵌挿溝18の各辺の中間部に、フック状の弾性変形片22が1つずつ配された芯材13を射出成形する。
【0041】
その後、芯材13の嵌挿溝18に、ヘッドレストステー12の上端部を、各弾性変形片22の先端を押し広げるようにして嵌挿する。これにより、芯材13とヘッドレストステー12の上端部との結合構造部23が得られる(ヘッドレストステーの上端部と芯材との結合工程)。
各弾性変形片22は、先端に向かうほど、徐々に対応する外側形成壁19b、20bの方向へ傾斜している。そのため、ヘッドレストステー12の上端部を、各弾性変形片22の先端を押し広げるように嵌挿溝18に嵌挿したとき、各弾性変形片22の対応する外側形成壁19b、20b方向への弾性力(ばね力)の作用によって、ヘッドレストステー12の上端部が対応する外側形成壁19b、20bに押圧される。その結果、ヘッドレストステー12の上端部と芯材13との左右方向(ただし、ブリッジ部17側の弾性変形片22の場合には上下方向)の結合力が高められる。
【0042】
一方、ヘッドレストステー12の先端部を嵌挿溝18に嵌挿した際には、各フック状の頭部22aが、ヘッドレストステー12の上端部のX1側の端部に、それぞれオーバーハング状態で掛止される。
このとき、各矩形凹部21の奥面から各弾性変形片22の頭部22aの下端までの長さが、ヘッドレストステー12の直径より短いため、ヘッドレストステー12の嵌挿時、各弾性変形片22の一部(主に胴部)は、弾性力(ばね力)に抗して引っ張られ、上方からヘッドレストステー12の上端部に被せられる。その結果、各弾性変形片22にはX1方向へ縮もうとする力が作用し、ヘッドレストステー12の上端部は嵌挿溝18の奥方へ押し込まれて、ヘッドレストステー12の上端部と芯材13との、前後方向の結合力が高められる。
以上のことから、実施例1では、ヘッドレストステー12の上端部と芯材13との前後左右方向(全方向)の結合力を高めることができる。
【0043】
その後、芯材13とヘッドレストステー12の上端部との結合構造部23を、表皮14の下部に形成された開口部14aから表皮14内に押し込む。このとき、表皮14の開口部14aは、芯材13を圧縮しなければ通せない程度のサイズである。しかしながら、ヘッドレストステー12の上端部と芯材13とは、前後左右方向(全方向)の結合力が高められているため、この結合構造部23を、ヘッドレストステー12の上端部から芯材13が離脱することなく表皮14に挿入することができる。
なお、従来のヘッドレストステーの上端部と芯材との結合構造では、芯材の下端部に配設された左右一対の規制突起(剛体)を介して、各脚部の左右方向への移動を規制するのみであった。そのため、ヘッドレストステーと芯材との前後方向の結合力は小さく、芯材付きのヘッドレストステーの上端部を、この芯材を袋開口に押し込む際には、芯材がヘッドレストステーの上端部から離脱するおそれがあったが、実施例1ではこれが解消されている。
【0044】
その後、
図7に示すように、成形金型24にセットされた表皮14内に、芯材13とヘッドレストステー12の上端部との結合構造部23を保持した状態で、開口部14aから表皮14内に注入ノズル25を差し込み、表皮14内に発泡ウレタン材料aを注入して充填発泡させる。これにより、この表皮14内で、芯材13とヘッドレストステー12の上端部と一体化したクッション体15が成形されて、枕部11が作製される(クッション体成形工程)。
以上により、品質が安定し、かつ安全性も高いヘッドレスト10を製造することができる。
こうして製造されたヘッドレスト10は、枕部11の下部から突出した2本の脚部16を、図示しない自動車用座席のシートバックに内蔵されたフレームに、2本のステー保持具を介して、Z1-Z2方向へスライド自在にそれぞれ差し込むことにより使用される。
【0045】
実施例1のヘッドレスト10では、このようにヘッドレストステー12として、両脚部16の上端同士をブリッジ部17により連結した略逆U字形状のものを採用する一方、嵌挿溝18として、左右一対の脚部嵌挿用溝部19とブリッジ部嵌挿用溝部20とからなる逆U字形状のものを採用するとともに、3つの弾性変形片22を、両脚部嵌挿用溝部19の各開口付近とブリッジ部嵌挿用溝部20の開口付近とに三角配置するようにした。そのため、ヘッドレストステー12の上端部と芯材13との嵌挿溝18を介した結合力を、さらに高めることができる。
【0046】
特に、ここでは略逆U字形状の嵌挿溝18のうち、両脚部嵌挿用溝部19とブリッジ部嵌挿用溝部20の各長さ方向の中間部に、弾性変形片22を1つずつ配するようにしたため、上述した長さ方向の中間部とは異なる箇所に各弾性変形片22を配した場合に比べて、ヘッドレストステー12と芯材13との結合構造部23の結合力(特に、車両追突時に発生した衝撃力に対する結合構造部23の壊れにくさ)を高めることができる。
なお、各弾性変形片22の先端は、嵌挿溝18へのヘッドレストステー12の上端部の嵌挿時に、嵌挿溝18の開口端の位置、または、それよりX1側の近傍位置に配してもよい。その理由は、
図7に示すクッション体成形工程において、表皮14内に注入された発泡ウレタン材料aが芯材13のX2側の面に沿って流れ落ちるとき、各弾性変形片22の先端部が発泡ウレタン材料aの流れを阻害する障害物とならず、その結果、得られたクッション体15内に、これを原因としたボイドが発生しないためである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、乗り物の座席のシートバックに取り付けられるヘッドレストステー、これを利用したヘッドレストについての技術として有用である。
【符号の説明】
【0048】
10 ヘッドレスト
12 ヘッドレストステー
13 芯材
14 表皮
15 クッション体
16 脚部
17 ブリッジ部
18 嵌挿溝
19 脚部嵌挿用溝部
20 ブリッジ部嵌挿用溝部
22 弾性変形片
23 結合構造部
a 発泡ウレタン材料(発砲合成樹脂材料)