(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】骨スクリュー用の新規のねじの設計
(51)【国際特許分類】
A61B 17/68 20060101AFI20231113BHJP
【FI】
A61B17/68
(21)【出願番号】P 2021566162
(86)(22)【出願日】2020-05-09
(86)【国際出願番号】 CN2020089350
(87)【国際公開番号】W WO2020224657
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-01-07
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505134165
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ホンコン
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF HONG KONG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】フォン,シャオレン
(72)【発明者】
【氏名】レオン,フランキー カ リィ
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-057743(JP,A)
【文献】特表2012-500030(JP,A)
【文献】米国特許第06402515(US,B1)
【文献】米国特許第04324550(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0157425(US,A1)
【文献】特開2006-136728(JP,A)
【文献】特開2015-186649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/58
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の骨と係合するためのインプラント装置であって、
前記インプラント装置は、遠位端と、近位端と、前記遠位端と前記近位端との間に延びる中央シャフトと、長手方向の中心軸とを含み、
前記インプラント装置は、
前記中央シャフトの周りに円周方向に延び、前記インプラント装置の前記遠位端からその前記近位端に向かう方向に延びるらせん状のねじ部分と、
前記インプラント装置の前記中央シャフトに隣接し、前記らせん状のねじ部分の基部にあるルートと、
を更に含み、
前記らせん状のねじ部分は、前縁及び後縁を含み、前記前縁と前記後縁との両方は、前記中央シャフトから少なくとも半径方向外向きに延び、それらの間の前記ねじ部分を規定し、それらの間に、前記インプラント装置の前記長手方向の中心軸の方向において、前記ねじ部分の前記ルートが規定され、
前記前縁と前記後縁との間に配置されたねじ山部を有し、
前記ねじ山部は、前記ねじ部分の半径方向外側の部分を形成し、前記ねじ山部は、前記ねじ部分で半径方向に配置された対象者の骨との当接及び係合をするための係合面を提供し、
前記前縁は、前記インプラント装置の前記遠位端側にあり、前記後縁は、前記インプラント装置の前記近位端側にあり、
前記前縁の部分は、前記ねじ部分の前記ルートの最も遠位の部分よりも更に前記インプラント装置の前記遠位端に向かう方向に延び、前記ルートの最も近位の部分から前記前縁の最も遠位の部分までの長手方向の距離は、前記ルートの長手方向の長さよりも大きく、これによって、前記前縁の前記部分が、前記中央シャフトと前記前縁との間のくぼみを形成し、
前記中央シャフトと前記前縁との間の前記くぼみを形成する前記前縁の前記部分は、前記くぼみ内に配置された対象者の骨組織との当接及び係合を提供し、
前記後縁は、前記ルートの最も近位の部分から半径方向外向きの方向に、前記遠位端に向かって延び、
前記ねじ部分の前記前縁は、対象者の骨組織との当接及び係合をするための第1のファセットと第2のファセットとを含み、
前記第1のファセットは、実質的に平面の表面を有し、前記中央シャフトにおける前記ルートの部分の遠位側から、前記ねじ山部に向かって、実質的に半径方向外向きに延び、
前記第2のファセットは、実質的に平面の表面を有し、前記ねじ部分の前記ルートと前記第1のファセットとの間に配置され、前記中央シャフトから半径方向外向きに延び、前記第1のファセットに向かって、前記インプラント装置の前記長手方向の中心軸に実質的に垂直に延びている、
インプラント装置。
【請求項2】
前記ねじ山部は、前記インプラント装置の前記長手方向の中心軸と平行であり、実質的な平面である表面を有して前記係合面を提供する、
請求項1に記載のインプラント装置。
【請求項3】
前記ねじ山部は、外向きに湾曲した外面を有して前記係合面を提供する、
請求項1に記載のインプラント装置。
【請求項4】
前記ねじ山部は、前記インプラント装置の長手方向の中心軸の方向において、前記ルートの部分よりも長い長手方向の長さを有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項5】
前記第1のファセットの前記平面の表面と前記長手方向の中心軸との間に95度から150度の範囲内の傾斜角を有する、
請求項1に記載のインプラント装置。
【請求項6】
前記傾斜角は、
前記第1のファセットの前記平面の表面と前記長手方向の中心軸との間の100度から130度の範囲内にある、
請求項5に記載のインプラント装置。
【請求項7】
前記傾斜角は、
前記第1のファセットの前記平面の表面と前記長手方向の中心軸との間の120度である、
請求項5又は6に記載のインプラント装置。
【請求項8】
前記ねじ部分の前記後縁は、対象者の骨組織との当接及び係合をするための第3のファセットを含み、
第3のファセットは実質的に平面であり、前記中央シャフトにおける前記ルートの部分の近位側から延び、前記中央シャフトに対して傾斜して前記ねじ山部に向かって延びている、
請求項1から7のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項9】
前記くぼみは、前記インプラント装置と前記インプラント装置が埋め込まれている隣接する骨とが、前記インプラント装置の第1の側において互いに向かって押し付け、前記ねじ部分の前記前縁の少なくとも一部が、前記インプラント装置の反対側の前記くぼみ内に配置された骨に対して押し付けるように、サイズ設計及び成形されている、
請求項1から8のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項10】
前記ねじ部分は、一定の断面積及び幾何形状を有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項11】
前記ねじ部分は、可変の断面積及び幾何形状を有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項12】
前記ねじ部分は、一定のねじ山ピッチを有する、
請求項1から11のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項13】
前記ねじ部分は、可変のねじ山ピッチを有する、
請求項1から11のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項14】
前記インプラント装置は、金属又は金属合金材料により形成されている、
請求項1から13のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項15】
前記金属又は金属合金材料は、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金を含む一群から選択される、
請求項14に記載のインプラント装置。
【請求項16】
前記インプラント装置は、ポリマー材料又はポリマーベースの材料により形成されている、
請求項1から13のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項17】
前記ポリマー材料又はポリマーベースの材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である、
請求項16に記載のインプラント装置。
【請求項18】
前記インプラント装置は、骨スクリューである、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項19】
前記インプラント装置は、整形外科用固定スクリューである、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項20】
前記インプラント装置は、椎弓根スクリューデバイスである、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項21】
前記インプラント装置は、ダイナミックヒップスクリューの大腿骨頭係合要素である、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項22】
前記インプラント装置は、骨縫合アンカーである、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項23】
前記インプラント装置は、整形外科用インプラント補綴デバイスである、
請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置。
【請求項24】
請求項1から17のいずれか1項に記載の前記インプラント装置の1つ又は複数を含むキット。
【請求項25】
前記インプラント装置の1つ又は複数は骨スクリューである、
請求項24に記載のキット。
【請求項26】
1つ又は複数の骨折固定装置を更に含む、
請求項24又は25に記載のキット。
【請求項27】
骨の第1の部分を骨の第2の部分に対して固定するためのシステムであって、前記システムは、請求項1から17のいずれか1項に記載のインプラント装置の2つ以上及び架橋部材を有し、
第1のインプラント装置は、前記骨の第1の部分と係合可能であり、第2のインプラント装置は、前記骨の第2の部分と係合可能であり、
前記インプラント装置は、遠位端が骨の前記部分と係合可能であり、近位端が前記架橋部材と係合可能である、
システム。
【請求項28】
前記インプラント装置の1つ又は複数は、椎弓根スクリューであり、
前記架橋部材はロッドであり、
前記システムは脊椎固定システムである、
請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記システムは外傷固定システムである、
請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
スクリューシャフトと、近位のスクリューヘッドと、遠位のスクリュー先端と、ねじと、を備える骨スクリューであって、
前記ねじは、前記スクリュー先端側にある前縁と前記スクリューヘッド側にある後縁とを含み、前記前縁と前記後縁との両方は、前記スクリューシャフトから少なくとも半径方向外向きに延び、それらの間のねじ部分を規定し、それらの間に、前記骨スクリューの長手方向の中心軸の方向において、前記ねじ部分のルートが規定され、
前記前縁の部分は、前記ねじ部分の前記ルートの最も遠位の部分よりも更に前記スクリュー先端に向かう方向に延び、前記ルートの最も近位の部分から前記前縁の最も遠位の部分までの長手方向の距離は、前記ルートの長手方向の長さよりも大きく、これによって、前記スクリュー先端に面するアンダーカット構造が構成され、
前記前縁と前記後縁との間にフラットなねじ縁が構成され、
前記ねじ部分の前記前縁は、対象者の骨組織との当接及び係合をするための第1のファセットと第2のファセットとを含み、
前記第1のファセットは、実質的に平面の表面を有し、前記スクリューシャフトにおける前記ルートの部分の遠位側から、前記フラットなねじ縁に向かって、実質的に半径方向外向きに延び、
前記第2のファセットは、実質的に平面の表面を有し、前記ルートと前記第1のファセットとの間に配置され、前記スクリューシャフトから半径方向外向きに延び、前記第1のファセットに向かって、前記骨スクリューの前記長手方向の中心軸に実質的に垂直に延びている、
骨スクリュー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨組織と係合するための骨インプラント装置に関する。より具体的には、本発明は、骨組織内でその緩みを低減するための骨インプラント装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
骨インプラント装置は、通常、固定及び係合のために使用され、通常、骨材料内で係合及び固定をするためのねじ付き係合部分を含む。
【0003】
このような骨インプラント装置は、整形外科及び整形外科手術の分野において多く利用されており、例えば、骨折を減らすため、又は骨折した骨を固定するため、例えば、骨プレートなどの他の骨折又は外傷ハードウェアを安定化及び固定をするため、又は関節形成術の分野でプロテーゼなどのインプラントを固定するために、単独で使用することができる。
【0004】
知られているように、骨と係合するため、及び骨内で固定するためのねじ付き係合部分を含む他の骨インプラント装置には、椎弓根スクリュー、縫合糸アンカー、及び他の固定タイプのデバイスなどの装置が含まれる。
【0005】
また、骨インプラント装置、並びに留め具及び固定タイプのデバイスの分野において知られているように、上記のものを含み、これらは通常、骨組織と係合するためのねじ部分を含む。骨の生体力学的及び生物学的特性、並びにそのようなデバイスの存在及び骨への負荷に応じた骨の生理学的反応に関連する多くの課題が存在している。
【0006】
これらの課題は、骨への係合と固定の完全性、及び骨内でのそのようなデバイスの固定性を潜在的に低下させる可能性がある。
【0007】
例として、骨スクリュー、骨釘、及び骨プレートなどの骨の留め具は、生理学的メカニズムを通じて周囲の組織の完全性を弱める又は傷つける結果を生じさせる可能性がある。当該生理学的メカニズムは、応力遮蔽として知られており、局所的な負荷がないために生じた、固定要素又はインプラントに隣接する骨の再吸収によって発生する。
【0008】
固定要素に隣接する骨組織のそのような局所的な変化により、固定要素又はインプラントは、機械的な係合及び固定装置の譲歩(compromise)を更に生じる場合がある。無菌性緩みと呼ばれる別のメカニズムによって、整形外科用インプラントと骨組織との間の適合及び係合が損なわれ、結果的に、時間の経過とともにデバイスが緩むこととなる。
【0009】
そして、これは更に、機械システム又はデバイスの緩み、更には壊滅的な故障を引き起こす可能性があり、これは、場合によっては、隣接する骨組織を押して圧縮するデバイスによって、骨組織を悪化させる可能性がある。
【0010】
また、結果として、進行的な「カットアウト(cut out)」として知られているものを含む更なる問題が生じる可能性がある。この場合、デバイスと骨の間の相対的な動きにより、デバイスが徐々に骨に入り込み、最終的にデバイスが皮質(cortex)を完全に突き破る。
【0011】
知られているように、そのようなデバイスに関連するこれらの生体力学的問題は、多くの場合は、骨の生成、及び骨の再形成プロセスによる生物学的な変化に関連しており、それによって悪化することがある。
【0012】
また知られているように、一般的な骨の生物学的な変化は、骨の再形成プロセスの不均衡による骨量及び構造強度の喪失であって、すなわち、骨量減少症として知られる状態、又はそのより極端な形態の骨粗鬆症への進行である。
【0013】
21世紀には世界的に平均寿命が伸び、他には健康で健常であるが骨粗鬆症による痛み及び衰弱性の骨折に苦しむ高齢者が増えている。
【0014】
対象者の股関節、肩、脊椎は、より大きな耐荷重性の骨の内部の海綿骨又は「海綿状」組織の含有量が比較的高いため、特にこれらの部位の骨折がよくある。
【0015】
骨粗鬆症に苦しむ対象者において、これらの骨は、対象者の海綿状骨組織内に多数の空洞及び嚢胞を発達させることが多く、それによって、構造強度が損なわれ、骨折の可能性及び高い骨折率に繋がることがある。
【0016】
整形外科の分野では、このような骨折の対象者に対する一般的な治療法は、治癒過程において、骨片を元の又は適切な解剖学的位置に固定するために使用される金属棒又はスクリューの埋め込みによって外科的固定することである。
【0017】
人体の中で、全ての骨組織、特に骨粗鬆症、変性障害、骨ストックの低下などの状態によって既に弱くなっている骨組織は、インプラント、固定装置、骨アンカーなどを含む医療装置の移動(migration)及び緩みによって引き起こされる合併症の影響を受けやすくなっている。
【0018】
骨組織内におけるデバイスの移動は、骨折部位の不安定性、インプラントの無菌性緩み、インプラント及び固定デバイス、並びに関連するハードウェアへの応力の増加を引き起こす可能性がある。また、これらの全ては、倦怠感や障害を引き起こす可能性があり、骨アンカーの場合、不安定性、潜在的な緩み、引き抜き、及びその他の合併症を引き起こす可能性がある。また、これらは全て、全体的な筋骨格の健康、骨組織の完全性、及び骨の安定性を低下させる。
【0019】
知られているように、対象者の骨ストック内のデバイスの存在は、応力遮蔽による骨の再吸収などのメカニズムを通じて、骨の弱体化に寄与するか、又はそれを引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、従来技術に関連する少なくともいくつかの欠点を克服するか、又は少なくとも部分的に改善するインプラント装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の態様では、本発明は、対象者の骨と係合するためのインプラント装置を提供し、前記インプラント装置は、遠位端と、近位端と、それらの間に延びる中央シャフトと、長手方向の中心軸とを備える。
【0022】
前記インプラント装置は、前記中央シャフトの周りに円周方向に延び、前記インプラント装置の前記遠位端からその前記近位端に向かう方向に延びるらせん状のねじ部分と、前記インプラント装置の前記中央シャフトに隣接し、前記らせん状のねじ部分の基部にあるルート(root)と、を更に含み、
前記らせん状のねじ部分は、前縁と後縁とを含み、前記前縁と前記後縁との両方は、前記中央シャフトから少なくとも半径方向外向きに延び、それらの間の前記ねじ部分を規定し、それらの間に、前記インプラント装置の前記長手方向の中心軸の方向において、前記ねじ部分の前記ルートが規定され、
前記前縁は、少なくともインプラント装置の遠位端に向かう方向を向いており、前記後縁は、少なくともインプラント装置の近位端に向かう方向を向いており、
前記前縁の部分は、前記ねじ部分の前記ルートの最も遠位の部分よりも更に前記インプラント装置の前記遠位端に向かう方向に延在し、前記ルートの最も近位の部分から前記前縁の最も遠位の部分までの長手方向の距離は、前記ルートの長手方向の長さよりも大きく、これによって、前記前縁の前記部分が、前記中央シャフトと前記前縁との間のくぼみを形成し、
前記中央シャフトと前記前縁との間の前記くぼみを形成する前記前縁の前記部分は、前記くぼみ内に配置された対象者の骨組織との当接及び係合を提供し、
前記後縁は、前記ルートの最も近位の部分から半径方向外向きの方向に、前記遠位端に向かって延び、ねじ山部が前記前縁と前記後縁との間に配置され、前記ねじ山部は、前記ねじ部分の半径方向外側の部分を形成し、前記ねじ山部は、前記ねじ部分から半径方向に配置された対象者の骨との当接及び係合をするための係合面を提供する。
ねじ山部は、インプラント装置の長手方向の中心軸と平行であり、実質的に平面である表面を有して前記係合面を提供するか、又は外向きに湾曲した外面を有して前記係合面を提供する。
ねじ山部は、後縁の少なくとも一部を形成することができる。
前縁の部分は、ねじ部分のルートの最も遠位の部分よりも更にインプラントの遠位端に向かう方向に延び、ルートの最も近位の部分から前記前縁の最も遠位の部分までの長手方向の距離は、前記ルートの長手方向の長さよりも大きく、これによって、前記前縁の前記部分が、前記中央シャフトと前記前縁との間のくぼみを形成し、中央シャフトと前縁との間の前記くぼみを形成する前記前縁の部分は、前記くぼみ内に配置された対象者の骨組織との当接及び係合を提供し、
後縁は、ルートの最も近位の部分から半径方向外向きの方向に、そして遠位端に向かって延び、
ねじ山部が前縁と後縁との間に配置され、前記ねじ山部は、ねじ部分の半径方向外側の部分を形成し、前記ねじ山部は、前記ねじ部分から半径方向に配置された対象者の骨との当接及び係合をするための係合面を提供する。ねじ山部は、インプラント装置の長手方向の中心軸と平行であり、実質的に平面である表面を有して前記係合面を提供するか、又は外向きに湾曲した外面を有して前記係合面を提供する。ねじ山部は、後縁の少なくとも一部を形成することができる。
【0023】
前縁によって形成されたくぼみは、ねじ部分に隣接して半径方向に配置された骨と係合すると、前縁に隣接する前記骨に生じる応力の分布、及び前記前縁に隣接する骨における応力集中の低減を提供するように、サイズ設計及び成形されている。
【0024】
前記ねじ山部の係合面は、ねじ部分に隣接して半径方向に配置された骨と係合すると、前記係合面に沿ってねじ山部に隣接する前記骨に生じる応力の分布を提供し、前記係合面は、前記ねじ山部に隣接する骨への応力集中の低減を提供する。
【0025】
ねじ山部は、インプラント装置の長手方向の中心軸の方向において、ルートの部分よりも長い長手方向の長さを有することができる。
【0026】
ねじ部分の前縁は、対象者の骨組織と当接及び係合をするための第1のファセット(facet)を含んでもよい。
【0027】
第1のファセットは、実質的に平面の表面を有し、中央シャフトにおけるルートの部分の遠位側から実質的に半径方向の外向きに延び、ねじ山部に向かって延びて、前記平面の表面と長手方向の中心軸と間に95度から150度の範囲内の傾斜角を有する。傾斜角は、前記平面の表面と長手方向の中心軸との間に100度から130度の範囲内にあってもよい。傾斜角は、前記平面の表面と長手方向の中心軸との間に約120度であってもよい。
【0028】
前縁は、第2のファセットを更に含むことができ、第2のファセットは、ねじのルートと第1のファセットとの間に配置され、実質的に平面の表面を有する。
【0029】
第2のファセットは、第1のファセットに向かって半径方向の外向きに延びることができ、前記第2のファセットは、中央シャフトから、インプラント装置の長手方向の中心軸に実質的に垂直に延びている。
【0030】
ねじ部分の後縁は、対象者の骨組織と当接及び係合をするため第3のファセットを含むことができる。第3のファセットは実質的に平面であり、中央シャフトにおけるルートの部分の近位側から延び、中央シャフトに対して傾斜してねじ山部に向かって延びている。
【0031】
ねじ山部の係合面は、少なくとも部分的に前縁によって提供されてもよく、ねじ山部の係合面は、少なくとも部分的に後縁によって提供されてもよい。
【0032】
くぼみは、インプラント装置とインプラント装置が埋め込まれている隣接する骨とが、インプラント装置の第1の側において互いに向かって押し付け、ねじ部分の前縁の少なくとも一部が、インプラント装置の反対側のくぼみ内に配置された骨に対して押し付けるように、サイズ設計及び成形されている。
【0033】
ねじ部分は、一定の断面積及び幾何形状を有してもよく、又は、ねじ部分は、可変の断面積及び幾何形状を有してもよい。
【0034】
ねじ部分は、一定のねじ山ピッチを有してもよく、又は、ねじ部分は、可変のねじ山ピッチを有してもよい。
【0035】
インプラント装置は、金属又は金属合金材料により形成することができる。金属又は金属合金材料は、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金などを含む一群から選択することができる。
【0036】
インプラント装置は、ポリマー材料又はポリマーベースの材料により形成することができる。ポリマー材料又はポリマーベースの材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であってもよい。
【0037】
インプラント装置は、骨スクリュー、整形外科用固定スクリュー、椎弓根スクリューデバイス、ダイナミックヒップスクリューの大腿骨頭係合要素、骨縫合アンカー、又は整形外科用インプラント補綴デバイス(implant prosthesis device)であってもよい。
【0038】
第2の態様では、本発明は、第1の態様によるインプラント装置の1つ又は複数を含むキットを提供する。
【0039】
インプラント装置の1つ又は複数は、骨スクリューであってもよい。キットは、1つ又は複数の骨折固定装置を含んでもよい。
【0040】
第3の態様では、本発明は、骨の第1の部分を骨の第2の部分に対して固定するためのシステムを提供し、前記システムは、第1の態様によるインプラント装置の2つ以上及び架橋部材を有し、第1のインプラント装置は骨の第1の部分と係合可能であり、第2のインプラント装置は骨の第2の部分と係合可能であり、インプラント装置は、遠位端が骨の前記部分と係合可能であり、近位端が前記架橋部材と係合可能である。
【0041】
インプラント装置の1つ又は複数は椎弓根スクリューであり、架橋部材はロッドであってもよく、システムは脊椎固定システムである。ロッドは、調整可能であって、骨の第1の部分と骨の第2の部分との相対的調整可能な動きを提供することができる。システムは、外傷固定システムであってもよい。
【0042】
上記記載の発明についてより正確な理解が得られるようにするために、添付の図面に示す具体的な実施形態を参照することにより、上記で簡単に説明した本発明についてより具体的に説明する。
【0043】
示される図面は、原寸に比例して作成されていない場合がある。図面又は以下の説明における寸法への参照は、開示される実施形態に具体的対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1a】従来技術による例示的な骨スクリューの側面図である。
【
図1b】
図1aの従来技術の骨スクリューの一部の拡大側面断面図である。
【
図1d】本発明に係るインプラント装置のスクリューねじの第1の実施形態の一部の例示的な側面図である。
【
図1e】本発明に係るインプラント装置のスクリューねじの第2の実施形態の一部の例示的な側面図である。
【
図2a】典型的な鋸歯状ねじ(buttress thread)を有する従来技術の骨スクリューに隣接する骨材料に生じたフォンミーゼス応力(Von Mises stresses)を示すグラフである。
【
図2b】本発明に係る
図1dのねじ設計を用いた骨スクリューに隣接する骨材料に生じたフォンミーゼス応力を示すグラフである。
【
図3a】骨インプラント装置の生体力学的テストで利用される動的圧縮プレートの写真である。
【
図3b】典型的な鋸歯状ねじを有する従来技術の骨スクリューの写真である。
【
図3c】
図3bに示す骨スクリューの典型的な鋸歯状ねじのねじプロファイルを示す図である。
【
図3d】本発明に係る骨スクリューの写真であって、その中、骨スクリューがアンダーカットねじを示している。
【
図3e】
図3dに示す骨スクリューのアンダーカットねじのねじプロファイルの例示的な実施形態を示す図である。
【
図4a】典型的な鋸歯状ねじ又は本発明に係るアンダーカットねじが骨材料に挿入され、そこに荷重が加えられた骨スクリューの概略図である。
【
図4b】隣接する骨材料への荷重伝達特性を評価するための、骨スクリューとその隣接する骨材料の3次元有限要素解析(FEA)モデルを示す図である。
【
図4c】荷重の適用に応じて、骨スクリューに隣接する骨材料に加えられる応力を示す有限要素解析(FEA)シミュレーション結果の例を示す図である。
【
図4d】荷重の適用に応じて、骨スクリューに加えられる応力を示す有限要素解析(FEA)シミュレーション結果の例を示す図である。
【
図5a】
図3bの骨スクリューに隣接する骨材料に生じたフォンミーゼス応力(Von Mises stresses)を示す有限要素解析(FEA)の結果を示す図である。
【
図5b】
図3dの骨スクリューに隣接する骨材料に生じたフォンミーゼス応力を示す有限要素解析(FEA)の結果を示す図である。
【
図5c】
図3bの骨スクリューに生じたフォンミーゼス応力を示す有限要素解析(FEA)の結果を示す図である。
【
図5d】
図3dの骨スクリューに生じたフォンミーゼス応力を示す有限要素解析(FEA)の結果を示す図である。
【
図6a】
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューに隣接する骨材料に生じた最大のフォンミーゼス応力の比較を示す棒グラフである。
【
図6b】
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューによって損傷した骨の量の比較を示す棒グラフである。
【
図7a】引っ張り力に応じて
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューにおける変位の比較を評価する実験装置を示す図である。
【
図7b】
図7aに示す実験装置を利用して適用された変位制御を示すグラフである。
【
図8a】押す力に応じて
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューにおける変位の比較を評価する実験装置を示す図である。
【
図8b】
図8aに示す実験装置を利用して適用された変位制御を示すグラフである。
【
図9a】頭尾力(craniocaudal force)に応じて
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューにおける変位の比較を評価する実験装置を示す図である。
【
図9b】
図9aに示す実験装置を利用して適用された変位制御を示すグラフである。
【
図10a】捻り力に応じて
図3bと
図3dとに示す2本の骨スクリューにおける変位の比較を評価する実験装置を示す図である。
【
図10b】
図10aに示す実験装置を利用して適用された変位制御を示すグラフである。
【
図11】
図7a及び
図7bで示した変位実験の力対変位量の結果を示すグラフである。
【
図12】
図8a及び
図8bで示した変位実験の力対変位量の結果を示すグラフである。
【
図13a】
図9a及び
図9bで示した変位実験の力対変位量の結果を示すグラフである。
【
図13b】
図9a及び
図9bで示した変位実験のサイクル対変位量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明者らは、従来技術の骨インプラント装置の欠点を特定し、従来技術における課題を特定したうえ、従来技術における課題を克服する骨インプラント装置を提供した。
【0046】
(本発明の背景説明)
本発明は、整形外科用骨スクリュー、及び他の整形外科用インプラント装置の安全性及び有効性を改善するのに有用な新しいねじの設計である。
【0047】
本発明の新規のねじの設計は、スクリュー周囲の骨組織内の応力集中ゾーンの形成を低減することによってその結果を達成する。
【0048】
本発明は、あらゆる種類の骨スクリュー、特に、従来の圧縮スクリュー、固定スクリュー、及び椎弓根スクリュー(現在整形外科手術で最も一般的に使用される3つのスクリュー)の安全性及び有効性を改善するために使用することができる。
【0049】
現在既存の骨スクリュー及び固定要素は、外科的移植の後、例えば、患者の体重が以前に骨折した骨に加えられた場合に、容易に緩むことがよくあるのが見出されている。
【0050】
本発明者らが見出したように、スクリューの緩みは、骨スクリューの固定の失敗の非常に一般的な形態であり、失敗率が最大20%であり、患者の年齢とともに重症度が増すことが示されている。
【0051】
本発明者らによって、骨組織の過負荷が骨インプラント装置のスクリューの緩み及び無菌性緩みに寄与する主な要因として特定された。これは、ねじの形及び/又は幾何形状、特にスクリューのスクリューねじプロファイルが、周囲の骨組織に過度の応力集中の領域を形成するときに発生することが判明した。
【0052】
示されているように、過度の応力集中は骨組織に損傷を与え、骨が体内の細胞に再吸収される原因となる可能性がある。スクリューの周り又は隣接しているあまりにも多くの骨組織が再吸収されると、スクリューは通常緩くなり、スクリューが骨内の適切な位置に留まらなくなり、場合によっては、スクリューの変形や損傷につながる可能性がある。
【0053】
本発明者らによって特定されたように、鋸歯状ねじを有する骨スクリュータイプのインプラント装置は、いくつかの生体力学的欠点が生じる。これらの欠点は、
(1)インプラント装置の第1側の骨に隣接するねじ部分での過度の骨負荷と、
(2)インプラント装置の第2側のへの不十分な骨負荷と、
(3)インプラント装置の第2側における骨とインプラントとの境界面の分離と、
を含む。
【0054】
過度の局所的な骨負荷は、骨材料の粉砕により局所的な骨の損傷を引き起こす可能性がある。
【0055】
不十分な骨負荷による応力遮蔽は、骨に対する機械生物学的な影響により骨の再吸収を引き起こす。
【0056】
集中的に及び別々に、隣接する骨への過度な負荷と不十分な負荷との両方が、周囲の骨組織への有害な影響を悪化させる可能性がある。その結果、
無菌性緩みと、
骨を介したインプラントの移動と、
インプラント/骨の固定又はメンテナンスシステムの失敗と、
骨材料及びインプラント装置の壊滅的な故障と、
が発生する。
【0057】
これは、骨組織において望ましくない骨量減少に繋がる可能性があり、上述したように、応力遮蔽及び関連する不調の機械生物学的な影響による骨材料の再吸収により、インプラントの無菌性緩みを引き起こす可能性がある。
【0058】
上記の観察的な現象を提供するために利用されるFEAモデルは単一の静的荷重を示し、当業者に知られているように、FEAモデリングは、生体機械的システム、インプラント、及び骨に対する有用な分析ツールである。
【0059】
本発明者らによって特定された整形外科分野で一般的に使用されている鋸歯状ねじを有するような固定装置の観察的な欠陥は、臨床的骨/インプラント環境の実証を提供すると考えられる。
【0060】
(本発明の紹介)
本発明者らが留意したように、従前は、骨スクリューねじ及び整形外科用インプラントを設計するエンジニアは、一般に、骨を不活性な機械的基質として扱い、骨の生物学的な活性の機械的特性について十分に注意していなかった。
【0061】
本発明者らは、インプラント装置のスクリューねじが、骨組織がねじの側面に押し付けられるか又は付勢されるときに生じた荷重集中に特に関連し、これが脊椎インプラントなどの応用において非常に一般的であることに留意した。
【0062】
本発明は、スクリュー又はインプラントの周囲及びそれに隣接する骨組織における過度な負荷及び応力の領域の形成を防止又は少なくとも改善することにより、骨の機械生物学的なより良い理解を骨インプラント装置のスクリューねじの設計に組み込むことを目的とする。
【0063】
本発明者らは、骨応力を低減させる革新的なスクリューねじの設計を提示することにより、先行技術の課題に取り組む。
【0064】
本発明は、整形外科分野に適用可能な新規のスクリューねじの設計に関するものであり、これは、新製品を提供するための様々なインプラントタイプのデバイスに組み込むことができる。
【0065】
本発明の新規且つ独創的な発明関連要素の態様は、
図1d以降を参照して説明される革新的な「逆アンダーカットバーブ」形状を利用するスクリューねじの設計に関連し、これにより、本発明によるスクリューねじを具現化したインプラント装置の軸方向の引き抜き強度が向上するとともに、横方向の移動抵抗(migration resistance)を提供する。本開示は、示されるように、比較及び例示の目的で、本発明に係るねじを具体化したスクリュータイプの装置と典型的及び標準的な鋸歯状ねじのスクリュー装置との比較が含まれる。
【0066】
図1a、
図1b、及び
図1cを参照すれば、典型的な整形外科用鋸歯状ねじを有するインプラント装置10が示されている。インプラント装置10は、骨折又は断片化した骨を固定するために使用される従来技術の骨スクリューであって、骨接合又は骨治癒が行われている間、断片化又は骨折した骨を正しい解剖学的位置に整復(reduced)するようにすることができる。
【0067】
図1bに示されるように、インプラント装置10は、骨組織に挿入するための遠位端100と、外科医によって操作又は操縦される近位端200と、近位から遠位への方向に延びる中央長手方向軸300とを含む。インプラント装置10は、インプラント装置10の中央シャフト13の周りのらせん経路をたどる鋸歯状のプロファイルを有するらせん状のねじ11からなるねじ部分12を更に含む。
【0068】
インプラント装置10は、生体適合性及び耐食性の金属合金、好ましくはステンレス鋼、チタン、又はコバルトクロム合金により形成することができる。或いは、インプラント装置10は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの整形外科用インプラント及び用途に適した生体適合性の剛性又は半剛性のポリマー材料により形成することができる。
【0069】
更に、インプラント装置10はまた、シリカ又はヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)ベースのセラミック材料などの整形外科用インプラントに適した生体適合性の剛性又は半剛性のセラミック材料により形成されてもよい。
【0070】
図1bを参照すると、インプラント装置10の一部の断面図が示されている。ねじ部分12は、近位ファセット16と、ねじ山15と、遠位ファセット14とを含む。
【0071】
インプラント装置10の近位端200は、更なるデバイス90、例えば、骨プレート、髄内釘、又は他の部材に恒久的又は取り外し可能に取り付けることができる。デバイス90は、それを通って延びる1つ又は複数の孔91を有してもよい。
【0072】
図1cに示すように、先ずインプラント装置10の遠位端100を1つの孔91に通し、インプラント装置10を骨組織17内に前進させることによって、近位端200が更なるデバイス90と係合するまで、例えば、孔91の対応するねじ又は傾斜面と噛み合う200のねじ又は傾斜面を通るように、インプラント装置10は、固定デバイス90に取り付けることができる。
【0073】
図1dを参照すると、本発明に係るインプラント装置100dのスクリューねじの例示的な第1の実施形態の一部の側面図が示されている。図示のように、本発明のインプラント装置100dは、対象者の骨と係合するためのものである。
【0074】
インプラント装置100dは、遠位端102d又は「先端」と、近位端104d又は「ヘッド」と、遠位端102d又は「先端」と近位端104d又は「ヘッド」との間で延びる中央シャフト106dと、を含み、且つ長手中心軸108dを有する。
【0075】
インプラント装置100dは更に、中央シャフト106dの周りに円周方向に延在し、インプラント装置100dの遠位端102dから、その近位端104dに向かう方向に延びるらせん状のねじ部分110dと、インプラント装置100dの中央シャフト106dに隣接し、らせん状のねじ部分110dの基部にあるルート112dと、を含む。
【0076】
らせん状のねじ部分110dは、以下のように特徴付けられている、すなわち、
‐‐ねじ面の一部である前縁114dと後縁116dとがあり、これらの両方は、中央シャフト106dから少なくとも半径方向外向きに延在し、その間のねじ部分110dを規定する。
‐‐ねじ部分110dのルート112dは、インプラント装置100dの長手方向中心軸108dの方向において、その間で規定される。
‐‐前縁114dは、少なくともインプラント装置100dの遠位端108dに向かう方向に面しており、後縁116dは、少なくとも、インプラント装置100dの近位端104dに向かう方向に面している。
‐‐前縁114dの一部は、インプラント装置100dの遠位端108dに向かう方向に延び、ねじ部110dのルート112dの最も遠位の部分よりも更に延びて、遠位端108d又は「先端」に面する「アンダーカット構造」を形成する。
【0077】
理解されるように、ルート112dの最も近位の部分から前縁114dの最も遠位の部分までの長手方向の距離は、ルート112dの長手方向の長さよりも大きく、これによって、前縁114dのこの部分が、中央シャフト106dと前縁114dとの間にくぼみ又は「アンダーカット構造」を形成する。
【0078】
中央シャフトと前縁114dとの間のくぼみを形成する前縁114dの部分は、くぼみ内に配置された対象者の骨組織との当接及び係合を提供する。
【0079】
ねじ部分110dは、前縁102dと後縁104dとの間に配置されたねじ山部118dを更に含み、ねじ山部118dは、ねじ部分110dの半径方向外向き部分を形成する。ねじ山部118dは、ねじ部110dから放射状に配置された対象者の骨と当接して係合するための係合面119dを提供する。
【0080】
本実施形態では、ねじ部分110dの前縁114dは、対象者の骨組織と当接して係合するための第1のファセット113dを含む。第1のファセット113dは、実質的に平面の表面を有し、中央シャフト106dにおけるルートの遠位側から実質的に半径方向外向きに延在し、ねじ山部118dに向かって延びている。
【0081】
示される第1のファセット113dは、実質的に平面の表面を有し、中央シャフト106dにおけるルート112dの遠位側から実質的に半径方向外向きに延在し、ねじ山部118dに向かって延び、第1のファセット113dの平面と長手中心軸108dとの間に、95度から165度の傾斜角が形成されている。
【0082】
他の実施形態では、傾斜角は、100度から130度、又は約120度であってもよい。
【0083】
また示されたように、前縁114dは、第2のファセット111dを更に含み、第2のファセット114dは、ねじ部分110dのルート112dと第1のファセット113dとの間に配置され、実質的に平坦な表面を有する。
【0084】
本実施形態では、第2のファセット111dは、第1のファセット113に向かって半径方向外向きに延びて、第2のファセット111dは、インプラント装置100dの長手方向中心軸108に実質的に垂直なシャフト部分106dから延びている。
【0085】
理解されるように、前縁114dによって提供されるくぼみ又は「アンダーカット」は、本実施形態では、第1のファセット113d及び第2のファセット111dによって提供されている。
【0086】
しかしながら、当業者によって理解されるように、他の又は代替の実施形態では、くぼみは、1つ、2つ、3つ以上のファセットを有する前縁によって提供され、又は、1つのファセットによって提供され、これらのファセットは、必ずしも平坦である必要もなく、他の実施形態においては湾曲していてもよい。
【0087】
後縁116dは、ルート112dの最も近位の部分から半径方向外向きの方向に、遠位端108dに向かう方向に延びる。後縁116dは、本実施形態ではファセット表面117dによって提供され、ファセット表面117dは、インプラント装置100dの長手方向軸108dに対して90度よりも大きい角度を有する。
【0088】
図1dに示す実施形態では、本発明のスクリューねじの設計は、3つの重要な特徴を有する。第1の特徴は、近位端又は「スクリューヘッド」に面するねじ面が、スクリューシャフトの長手軸108に対して90度よりも大きい角度を有することである。第2の特徴は、ねじ山部118dとしての平坦なねじ端bを有することである。第3の特徴は、遠位端又は「スクリュー先端」に面するアンダーカット構造を有することである。
【0089】
本発明のそのような特徴は、骨組織のインプラント装置を提供し、これによって、上述したような本発明者によって特定された先行技術の問題を克服するか、少なくとも改善することができる。
【0090】
留意すべきことは、
(1)前縁114dによって形成されたくぼみは、ねじ部分119dに隣接して放射状に配置された骨と係合するようにサイズ設計及び成形され、くぼみは、前縁114dに隣接する前記骨に生じる応力の分布を提供し、前記前縁に隣接する骨における応力集中を低減することを提供すること、及び
(2)前記ねじ山部118dの係合面119dは、ねじ部110dに隣接して放射状に配置された骨と係合すると、前記係合面119dに沿ってねじ山部118dに隣接する前記骨に生じる応力の分布を提供し、係合面119dは、前記ねじ山部に隣接する骨における応力集中を低減することを提供することである。
【0091】
理解されるように、本発明の実施形態では、ねじ山部118dは、インプラント装置100dの長手方向中心軸108dの方向において、ルートの部分112dの長手方向の長さよりも長い長手方向の長さを有することができる。
【0092】
上記は、応力集中の低減に役に立つ。これは、上述したように、骨組織へのインプラントの固定の完全性に貢献し、また、インプラントに隣接する骨組織への適切な負荷を維持することにより、インプラント装置の緩み、移動、及び失敗を減少し、これにより、応力遮蔽及び不利な骨の再形成を減少させる。
【0093】
また、本発明者らによって特定されたように、整形外科用インプラントで使用される従来の鋸歯状ねじは、ヒトの骨のために特別に設計されていないため、容易に緩むことがよく発生する。
【0094】
従って、本発明者らは、患者又は対象者が鋸歯状ねじの設計を有するようなスクリューに重量負荷を与える場合、骨の重量負荷部分に集中する非常に高い応力が生じ、一方で、骨の反対側の部分には応力が生じず、これらの両方とも骨の喪失及びスクリュー周りの再吸収を引き起こす可能性があることを発見した。
【0095】
本発明によって提供されるくぼみは、インプラント装置及び当該装置が埋め込まれている隣接する骨について、インプラントの第1の側において互いに向かって促し、ねじ部分の前縁の少なくとも一部は、インプラント装置の反対側のくぼみ内に配置された骨に対して押し付けるようにサイズ設計及び成形される。
【0096】
このようにして、本発明は、ねじ部分に隣接するインプラント装置の片側への過剰な応力を軽減することによって骨量減少を低減させ、一方、インプラント装置の反対側において、ねじに対する骨組織の負荷を提供することで、応力遮蔽とその結果としての骨量減少を低減する。
【0097】
当業者によって理解されるように、記載されたようなスクリューねじを具体化するインプラント装置は、多くの整形外科関連の応用に適用可能である。このような応用には、例えば、少なくとも骨スクリュー、整形外科用固定スクリュー、椎弓根スクリュー装置、動的ヒップスクリューの大腿骨頭係合要素、骨縫合アンカー、又は整形外科用インプラント補綴デバイスを含むことができる。次に、
図1eを参照すれば、本発明に係るインプラント装置100eのスクリューねじの例示的な第2の実施形態の一部の側面図が示されている。
【0098】
本実施形態では、インプラント装置100eの特徴は、一般に、
図1dの特徴と同等であって、この場合も、インプラント装置100eは、遠位端102eと、近位端104eと、遠位端102eと近位端104eとの間に延びる中央シャフト106eとを含み、長手方向の中心軸108dを有する。
【0099】
インプラント装置100eは更に、中央シャフト106eの周りで円周方向に延在し、インプラント装置100eの遠位端102eからその近位端104eに向かう方向に延びるらせん状のねじ部分110eと、インプラント装置100eの中央シャフト106eに隣接するらせん状のねじ部分110eの基部にあるルート112eとを含む。
【0100】
同様に、
図1dを参照して説明したように、らせん状のねじ部分110eは、以下のように特徴付けられている、すなわち、
‐‐ねじ面の一部である前縁114eと後縁116eとがあり、これらの両方は、中央シャフト106eから少なくとも半径方向外向きに延在し、その間のねじ部分110eを規定する。
‐‐ねじ部分110eのルート112eは、インプラント装置100eの長手方向中心軸108eの方向において、その間で規定される。
‐‐前縁114eは、少なくともインプラント装置100eの遠位端108eに向かう方向に面しており、後縁116eは、少なくとも、インプラント装置100eの近位端104eに向かう方向に面している。
‐‐前縁114eの一部は、インプラント装置100eの遠位端108eに向かう方向に延び、ねじ部110eのルート112eの最も遠位の部分よりも更に延びて、遠位端108eに面する「アンダーカット構造」を形成する。
‐‐ねじ部分110eは、前縁102eと後縁104eとの間に配置されたねじ山部118eを更に含み、ねじ山部118eは、ねじ部分110eの半径方向外向き部分を形成し、ねじ山部118eは、ねじ部分110eから放射状に配置された対象者の骨と隣接及び係合をするための係合面119eを提供する。
【0101】
また、留意すべきことは、
(1)前縁114eによって形成されたくぼみは、ねじ部分119eに隣接して放射状に配置された骨と係合するようにサイズ設計及び成形され、くぼみは、前縁114eに隣接する前記骨に生じる応力の分布を提供し、前記前縁に隣接する骨における応力集中を低減することを提供することと、
(2)前記ねじ山部118eの係合面119eは、ねじ部110eに隣接して放射状に配置された骨と係合すると、前記係合面119eに沿ってねじ山部118eに隣接する前記骨に生じる応力の分布を提供し、係合面119eは、前記ねじ山部に隣接する骨における応力集中を低減することを提供することと、
(3)本発明によって提供されるくぼみは、インプラント装置100e及びデバイスが埋め込まれている隣接する骨について、インプラント装置100eの第1の側において互いに向かって促し、ねじ部分110eの前縁114eの少なくとも一部は、インプラント装置100eの反対側のくぼみ内に配置された骨に対して押し付けるようにサイズ設計及び成形されることと、である。
【0102】
本実施形態において、前縁114eは単一のファセット111eを有し、ファセット111eは、実質的に平面の表面を有し、中央シャフト106eにおけるルート112eの遠位側から実質的に半径方向外向きに延び、ねじ山部118eに向かって延びる。
【0103】
示されるファセット111eは、実質的に平面の表面を有し、中央シャフト106eにおけるルート112eの遠位側から実質的に半径方向外向きに延在し、ねじ山部118dに向かって延び、ファセット111eの平面と長手中心軸108eとの間に、95度から165度の傾斜角(角度α)が形成されている。他の実施形態では、傾斜角は、100度から130度、又は約120度であってもよい。
【0104】
後縁116eは、ルート112eの最も近位の部分から半径方向外向きの方向に、遠位端108eに向かう方向に延びる。後縁116dは、本実施形態ではファセット表面117eによって提供され、ファセット表面117eは、インプラント装置100eの長手方向軸108eに対して90度よりも大きい角度βを有する。
図2aと
図2bとは、
図1bに示す鋸歯状ねじ又は
図1dのアンダーカットねじのいずれかを備えた骨スクリューを、250Nの荷重を加えて骨材料に挿入した場合の、FEAモデルの解析結果を示している。
【0105】
FEAシミュレーションは、骨接合又は骨治癒が行われている間、断片化又は骨折した骨を正しい解剖学的位置に整復するようにすることができるように、断片化又は骨折した骨を固定するために使用されるタイプのモデルインプラント装置を含む。FEAシミュレーションは、ソフトウェアABAQUS(6.13/CAE、Simulia、Providence、USA)を使用して実施された。使用したシミュレートされたインプラント材料は、ヤング係数200GPa、ポアソン比0.3が適用されたステンレス鋼であった。シミュレートされた骨組織は、ヤング係数260MPa、ポアソン比0.29が適用された健康なヒトの海綿骨を代表するものであった。
【0106】
図2aは、典型的な鋸歯状ねじを有する骨スクリューに隣接する骨材料に生じるフォンミーゼス応力を示している。
図2aに示すように、荷重によって促されると、シミュレートされた骨組織は、シミュレートされた荷重が発生する方向に主に面しているインプラントの側面に隣接する領域が、モデル化されたねじ部分及び中央シャフトの隣接部分に対して圧縮される。このように圧縮されているため、応力集中は、シミュレートされた骨組織部分内の大きさで示され、最大で5.283MPaであった。
【0107】
ただし、反対側、すなわち、シミュレートされた荷重が発生する方向に面していない側の骨材料に生じる応力は非常に小さく、ほとんど無視できる程度であった。
【0108】
骨の重量を支える部分に集中して高い応力が生じることと、骨の反対側の部分に応力が生じないことの両方が、骨の喪失及びねじの周りの再吸収を引き起こすことができ、骨ストックの損失、インプラントサポートの喪失、無菌性緩み、インプラントの移動、骨不全を引き起こす過度の応力、インプラントの失敗、固定システムの完全性の喪失等、前述した問題を引き起こすことに留意すべきである。これら多くの場合、機械的臨床的合併症に繋がる。
【0109】
ここで、本発明に係る骨スクリューのモデルを示す
図2bを参照する。
図2bは、本発明のアンダーカットねじを有する骨スクリューに隣接する骨材料に生じるフォンミーゼス応力を示している。
【0110】
図示のように、
図2aと同様に、荷重によって促されると、シミュレートされた骨組織は、シミュレートされた荷重が発生する方向に主に面しているインプラントの側面に隣接する領域が、モデル化されたねじ部分及び中央シャフトの隣接部分に対して圧縮される。
【0111】
このように圧縮されているため、シミュレートされた骨組織部分の応力集中は最大で3.768MPaであって、鋸歯状ねじの応力集中より約28%低くなっている。
【0112】
また、ねじに隣接する骨材料の反対側、すなわち、シミュレートされた荷重が発生する方向に面していない側も示され、十分な量の応力が骨材料内に生じており、
図2aに示すような無視できるものではない。
【0113】
理解されるように、従来技術のスクリューねじのモデルにより、(a)スクリュー装置の第1の側の隣接する骨に過剰な応力、及び(b)スクリュー装置の反対側の隣接する骨に不十分な応力が提供されたことは、明確に示されている。
【0114】
それに対して、本発明は、(a)スクリュー装置の第1の側の過度の応力を低減するとともに、(b)スクリュー装置の反対側の隣接する骨に応力を提供し、これによって、応力遮蔽を低減する。
【0115】
また、本発明者らによって特定されるように、整形外科用インプラントで使用される従来の鋸歯状ねじは、そのようなねじがヒトの骨のために特別に設計されていないため、容易に緩むことがよくある。
【0116】
このように、先行技術の問題として、本発明者らによって上記のように特定されたように、鋸歯状ねじの設計において、骨の重量を支える部分に集中する非常に高い応力が生じており、一方、骨の反対側の部分には応力が生じておらず、この両方が骨量の減少及びねじの周りの再吸収を引き起こすことが分かった。
【0117】
図2a及び2bに示すように、本発明により提供されたくぼみ、及びねじ山の特徴は、隣接する骨組織への荷重のより均一な分散を提供し、従来技術の鋸歯状ねじが有する特定された問題を取り除く。
【0118】
図3bを参照すると、骨接合又は骨治癒が行われている間、断片化又は骨折した骨を正しい解剖学的位置に整復するようにすることができるように、断片化又は骨折した骨を固定するために使用される従来技術の典型的な骨スクリュー310が示されている。
【0119】
従来技術の骨スクリュー310は、骨スクリュー310の中央経路の周りのらせん状経路をたどる鋸歯状プロファイル315を有するらせん状のねじを備えるねじ部分を含む。
【0120】
骨スクリュー310の鋸歯状プロファイル315は
図3cに示され、鋸歯状ねじ315のねじ部分は、少なくとも遠位端に向かう方向に向いている前縁と、ねじ山と、少なくとも近位端に向かう方向に向いている後縁とを含む。従来技術の鋸歯状ねじのプロファイル315には、アンダーカットファセットは含まれていない。
【0121】
図3dは、本発明による骨スクリュー320を示している。従来技術のものと同様に、骨スクリュー220は、骨スクリュー320の中央経路の周りのらせん状経路をたどるねじ部分を含む。しかしながら、従来技術の骨スクリュー310とは異なり、本発明の骨スクリュー320は、
図3eに示すように、アンダーカットねじプロファイル325を含む。
【0122】
本設計のアンダーカットねじ325は、
図1dに示すように、少なくとも遠位端に向かう方向に面している前縁と、平坦な上部ファセットと、アンダーカット構造を有することにより、従来技術の鋸歯状ねじのプロファイル315とは異なる。
【0123】
次に、
図4aを参照する。
図4aは、機械的シミュレーションソフトウェアを使用して構築された3次元有限要素解析(FEA)モデルの、負荷をかける前の初期条件を示している。当該機械的シミュレーションソフトウェアは、骨インプラント装置410などの整形外科用インプラントに隣接する骨組織に加えられる応力をシミュレートするために使用されたものである。
【0124】
この図では、典型的な鋸歯状ねじを有する骨インプラント装置の生体力学的特性と、本発明のアンダーカットねじを有するデバイスとの比較が示されている。
【0125】
骨スクリューに隣接する骨材料に加えられた応力を示す有限要素解析(FEA)シミュレーション結果の例を
図4cに示し、骨スクリュー内の応力の例を
図4dに示している。
【0126】
図5aは、
図4a及び
図4bを参照したFEAモデルの解析結果を示し、
図3bに示すように、典型的な鋸歯状ねじを有する骨スクリューに隣接する骨材料に生じるフォンミーゼス応力を示している。
【0127】
図5aに示すように、負荷によって促されると、インプラントの側面に隣接するシミュレートされた骨組織の領域は、モデル化されたねじ部分及び中央シャフトの隣接部分に対して圧縮される。
【0128】
このように圧縮されているため、応力集中は、シミュレートされた骨組織部分内の大きさで示され、最大で10.8MPaであった。
【0129】
臨床応用において、骨部分の実際の同等物が高い応力集中に晒されると、望ましくない機械生物学的影響、例えば、骨組織修復活動の崩壊、壊死、骨再吸収などの形で骨組織の損傷に繋がる可能性がある。
【0130】
図5bは、
図4a及び
図4bに示すように、アンダーカットねじを有する骨スクリューモデルに負荷をかけた後の状態を示している。
図5aに示す結果と同様に、負荷によって促されると、インプラントの側面に隣接するシミュレートされた骨組織の領域は、モデル化されたねじ部分及び中央シャフトの隣接部分に対して圧縮される。
【0131】
ただし、シミュレートされた骨組織部分の応力集中は、大きさが最大で6.5MPaであって、
図5aに示す結果よりもはるかに低かった。
【0132】
また、このモデルでは、各ねじ山での応力集中の分布がより均一であることも示されている。このような許容可能な生理学的範囲内で骨組織を晒すことは、骨組織に損傷を与える応力の閾値よりも小さく、ウォルフの法則により、機械生物学的刺激を通じて骨の健康を維持することができる。
【0133】
臨床応用において、負荷に面する側と反対側との両方の周りの骨組織全体への応力の分布は、骨の健康及び強度に刺激を与えながら、骨に整形外科用インプラントをしっかりと固定するのに役立つことができる。
【0134】
図5cは、
図3bの鋸歯状ねじを有する骨スクリューに生じるフォンミーゼス応力を示し、
図5dは、
図3dに示すアンダーカットねじを有する骨スクリューに生じるフォンミーゼス応力を示している。図示のように、アンダーカットねじを有する骨スクリューは、鋸歯状ねじを有する骨スクリューよりも、ねじ本体の全体に亘って均一な応力分散を示し、これによって、最終的に局所的な損傷、及び更にその破損に繋がる可能性のあるねじの特定の箇所に応力が集中することを回避する。
【0135】
図6aは、
図3bと
図3dに示された2つの骨スクリューに隣接する骨材料に生じる最大のフォンミーゼス応力の比較を示す棒グラフである。本発明のアンダーカットねじを使用すると、骨スクリューに隣接する骨材料に生じる最大のフォンミーゼス応力はわずか約6.5MPAであり、これは典型的な鋸歯状ねじによって生じる最大のフォンミーゼス応力の値よりも約38%低かったことが示されている。
【0136】
典型的な鋸歯状ねじを備える従来技術の骨スクリューを使用すると、骨スクリューに隣接する骨材料に生じる最大のフォンミーゼス応力は10.5MPAに達した。
【0137】
図6bは、
図3b及び
図3dに示された2つの骨スクリューによる損傷した骨の体積の比較を示す棒グラフである。鋸歯状ねじによる損傷した骨の体積は約120mm
3であったに対し、アンダーカットネジによる損傷した骨の体積は約110mm
3であった。
【0138】
FEAの結果において、本発明の骨スクリューのアンダーカットねじは、テーパねじに隣接する骨材料により少ない応力を生じることができ、したがって、骨へのより少ない損傷を与えることが示されている。
【0139】
図7aは、
図3b及び
図3dに示された従来技術と本発明との2つの骨スクリューが、引っ張り力に応じた変位の比較を評価する実験装置を示す図である。
【0140】
各スクリューは独自の個別のブロックに挿入される。ブロックは、ASTM F-1839-08に準拠した密度0.32g/ccの固体硬質ポリウレタンフォームブロック(Sawbones Type 10, Vashon, Washington, USA)であった。
【0141】
各スクリューは、鋼製アーマチュアによってスクリューの近位端に加えられる引っ張り力によって、
図7bに示すグラフに表示されたように、毎分5mmの変位速度で対応するブロックから引き離された。力は、ブロックの上方のロードセルによって測定された。
【0142】
別の生体力学的テストでは、
図3b及び
図3dに示された従来技術と本発明との骨スクリューの両方に引っ張り力を加えた。このような実験装置を
図8aに示している。このテストでは、各スクリューを独自の個別のブロックに挿入し、穴を表面に垂直に向ける。
【0143】
次に、各スクリューは、鋼製アーマチュアによる油圧プレスによってネジの遠位端と近位端との両方に同時に均等に加えられた力によって、
図8bに示すグラフに表示されたように、毎分5mmの変位速度で対応するブロックに押し込まれた。力は、ブロックの下方のロードセルによって測定された。
【0144】
図9aは、
図3b及び
図3dに示された従来技術と本発明との2つの骨スクリューに頭尾方向の力を加えるための更なる実験装置を示し、加えられた力に応じた変位がそれぞれ記録された。
【0145】
この生体力学的テストでは、穴を表面に垂直に向けて、同じタイプの2つのスクリューを1つのブロックに挿入した。次に、ブロックは、100-200Nから始まり、100サイクルごとに50Nずつ増加する頭尾方向の力で、スクリューに対し垂直な方向に押し込んだ。加えられた力制御のグラフ表示を
図9bに示している。
【0146】
別の生体力学的テストは、
図3b及び
図3dに示す2つのスクリュー及びブロックにねじり力を加えるものである。実験装置は
図10aに示している。
図9aのテストと同様に、穴を表面に垂直に向けて、同じタイプの2つのスクリューを1つのブロックに挿入した。
【0147】
鋼製アーマチュアによって、プラス又はマイナス1Nmから始まり、100サイクルごとに0.1Nm増加するトルクが、ブロックに加えられた。加えられた力制御のグラフ表示を
図10bに示している。
【0148】
図11を参照すると、鋸歯状ねじとアンダーカットねじとを備えた2つの骨スクリューが、
図7a及び
図7bに示す引っ張り力が加えられたときの力対変位量のグラフを示している。
【0149】
図示のように、同じ大きさの力が加えられたとき、アンダーカットねじを備えた骨スクリューは、鋸歯状ねじを備えたものよりも変位量が少ない。立ち上がる前の2つの曲線の勾配を比較すると、アンダーカットねじは、鋸歯状ねじよりも勾配が急であり、アンダーカットねじを備えた骨スクリューはより高い剛性を示し、これによって、加えられた力による変形抵抗に対する高い抵抗を示している。
【0150】
また、
図11に示すように、アンダーカットねじの最大立ち上がりが225Nをわずかに超えているに対し、鋸歯状ねじの最大立ち上がりが約200Nにとどまり、アンダーカットねじは、鋸歯状ねじよりも最大立ち上がりが大きいことが示されている。これは、アンダーカットねじが、変形が弾性から非弾性に切り替わる限界に達するまで、より大きな応力に耐えることができたことを示している。
【0151】
図12を参照すると、鋸歯状ねじとアンダーカットねじとを備えた2つの骨スクリューが、押す力に応じた変位曲線が示されている。
【0152】
この場合も、アンダーカットねじは鋸歯状ねじよりも、立ち上がる前の傾斜が急であることがグラフから分かる。これは、アンダーカットねじを備えた骨スクリューの剛性が高く、押す力による弾性変形に対する高い抵抗を示している。また、アンダーカットねじは、鋸歯状ねじよりも最大立ち上がりが大きいことが示されている。これは、アンダーカットねじは、変形が弾性から非弾性に切り替わる限界に達するまで、より大きな応力に耐えることができたことを示している。
【0153】
図13a及び
図13bは、
図9a及び
図9bで説明した変位実験の結果をグラフで表したものである。ブロックとそれに挿入された骨スクリューには、100-200Nから始まり、100サイクルごとに50Nずつ増加する頭尾方向の力が加えられた。
【0154】
図13aの力対変位量のグラフを参照すると、同じ大きさの力が2つのスクリューに加えられた場合、アンダーカットねじの骨スクリューは鋸歯状ねじの場合よりも変位量が少ないことが示されている。また、
図13bには、同じサイクルの場合、アンダーカットねじの変位量が鋸歯状ねじよりも少ないことが示されている。更に、力のサイクルの数の増加につれ、2つの骨スクリュー間の変位量の差も増加したことに留意されたい。
【0155】
図14aは、
図10a及び
図10bで説明した変位実験のトルク対角変位量の結果をグラフで表したものである。図示のように、アンダーカットねじを備えた骨スクリューに同じ角変位量をもたらすには、より大きなトルクが必要であった。これは、アンダーカットねじが鋸歯状ねじよりもねじり安定性が高く、アンダーカットねじがトルク負荷に対してより大きな抵抗を示したことが示されている。
【0156】
同様に、
図14bに示すように、両方のねじが同じサイクルにある場合、アンダーカットねじはより少ない角変位量を示している。2つのねじ間の角変位量の差は、サイクルの数の増加につれ増加した。