(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】リマプロスト含有徐放性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5575 20060101AFI20231113BHJP
A61K 9/22 20060101ALI20231113BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231113BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231113BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20231113BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231113BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K9/22
A61K47/14
A61K47/38
A61K47/40
A61P9/00
A61P43/00 112
(21)【出願番号】P 2022571819
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2021006342
(87)【国際公開番号】W WO2021241941
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0064130
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518254931
【氏名又は名称】ヨンスン ファイン ケミカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヒョン イク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨン シク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ホ ヨン
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0083239(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0029467(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0138104(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0007662(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106822013(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/5575
A61K 9/22
A61K 47/14
A61K 47/38
A61K 47/40
A61P 9/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてリマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上、徐放化剤としてエチルセルロース、第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクス、及び第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む、徐放性製剤。
【請求項2】
徐放化剤としてのエチルセルロースマトリックス中に、リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスが分散されている徐放性顆粒物;及び
第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項3】
前記徐放性顆粒物は、リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させ、徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて形成される、請求項2に記載の徐放性製剤。
【請求項4】
当該徐放性製剤は、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠して形成される、請求項2に記載の徐放性製剤。
【請求項5】
前記有効成分は、徐放性製剤全体100重量%に対して0.001~1重量%の量で含まれる、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項6】
前記ヒドロキシプロピルベータデクスは、徐放性製剤全体100重量%に対して5~30重量%の量で含まれる、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項7】
前記エチルセルロースは、徐放性製剤全体100重量%に対して30~65重量%の量で含まれる、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項8】
前記エチルセルロースの重量平均分子量は65,000~215,000である、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項9】
前記グリセリルベヘネートは、徐放性製剤全体100重量%に対して1~20重量%の量で含まれる、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項10】
大韓民国薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によって水にて50rpmで溶出試験をしたとき、有効成分が1時間で20~40%、2時間で45~65%、4時間で60~80%、8時間で80%以上溶出される放出プロファイルを示す、請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項11】
(i)リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させて結合液を得るステップ;
(ii)前記結合液を徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて徐放性顆粒物を収得するステップ;及び
(iii)前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠するステップを含む、徐放性製剤の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(i)で溶媒は水である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、リマプロスト含有徐放性製剤に係り、より詳しくは、リマプロストの安定性を向上させることができるだけでなく、1日2回の投薬療法でもリマプロストの薬物濃度を適切に維持して持続的な治療効果を示し得るリマプロスト含有徐放性製剤に関する。
【0002】
〔背景技術〕
下記化学式1で表されるリマプロスト(limaprost)((E)-7-[(1R,2R,3R)-3-ヒドロキシ-2-[(3S,5S)-(E)-3-ヒドロキシ-5-メチル-1-ノネニル]-5-オキソシクロペンチル]-2-ヘプタン酸)は、プロスタグランジンE1誘導体であって末梢循環障害の予防または治療剤として用いられ、薬物適応症には閉塞性血栓血管炎(バージャー病)、腰部脊椎管狭窄症などがある。
【0003】
【0004】
下記化学式2で表されるリマプロストアルファデクス(limaprost alfadex)は、リマプロストがα-シクロデキストリンで包接された化合物である。
【0005】
【0006】
リマプロストは、主にリマプロストアルファデクス形態を用いて経口用製剤として剤形化される。市販中の経口用製剤は、リマプロストアルファデクス166.67μg(リマプロストとして5μg)の用量で1日3回経口投与される速放性製剤であって、商標名として東亜オパルモン(東亜ST)、リマモン錠(韓米薬品)、オパスト錠(ヨンジン薬品)などが承認されている。
【0007】
リマプロスト及びリマプロストアルファデクスは、常温以上の温度条件や少量の酸、塩基または水分の存在下で相対的に不安定であるため取り扱いが難しいという問題点がある。これにより、リマプロストまたはリマプロストアルファデクスを含有する製剤の研究は、主に薬物の安定性の改善に集中されてきていた。
【0008】
大韓民国登録特許第10-1504862号には、リマプロストアルファデクスと、錠剤全体100重量%に対して30~99重量%のβ-シクロデキストリンの混合物を含有する安定性が向上した錠剤が開示されている。しかし、当該錠剤は、1日3回経口投与される速放性製剤であって投薬時は血中濃度が高くなったのち、短い半減期のため時間が経つにつれて血中濃度が急速に減少して患者が薬物に早く刺激され、感受性が低下する副作用を示すことがある。また、当該錠剤は、凍結乾燥方法を用いて製造されることで製造工程が複雑であり且つコストの側面で効率的ではない。
【0009】
したがって、リマプロストの安定性を向上させることができるだけでなく、患者の服薬順応度と服用便宜性を向上させるために1日2回の投薬療法でもリマプロストの薬物濃度を適切に維持して持続的な治療効果を示すことができる徐放性製剤の開発が要求される。
【0010】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は、リマプロストの安定性を向上させることができるだけでなく、1日2回の投薬療法でもリマプロストの薬物濃度を適切に維持して持続的な治療効果を示すことができるリマプロスト含有徐放性製剤を提供することである。
【0011】
〔課題を解決するための手段〕
一方で、本発明は、有効成分としてリマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上、徐放化剤としてエチルセルロース、第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクス、及び第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む徐放性製剤を提供する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、徐放化剤としてのエチルセルロースマトリックス中に、リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスが分散されている徐放性顆粒物;及び
第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記徐放性顆粒物は、リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させ、徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて形成されてよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記徐放性製剤は、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠して形成されてよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記有効成分は、徐放性製剤全体100重量%に対して0.001~1重量%の量で含まれてよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記ヒドロキシプロピルベータデクスは、徐放性製剤全体100重量%に対して5~30重量%の量で含まれてよい。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記エチルセルロースは、徐放性製剤全体100重量%に対して30~65重量%の量で含まれてよい。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記エチルセルロースの重量平均分子量は、65,000~215,000であってよい。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記グリセリルベヘネートは、徐放性製剤全体100重量%に対して1~20重量%の量で含まれてよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、大韓民国薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によって水にて50rpmで溶出試験をしたとき、有効成分が1時間で20~40%、2時間で45~65%、4時間で60~80%、8時間で80%以上溶出される放出プロファイルを示してよい。
【0021】
他方で、本発明は、
(i)リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させて結合液を得るステップ;
(ii)前記結合液を徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて徐放性顆粒物を収得するステップ;及び
(iii)前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠するステップを含む徐放性製剤の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記ステップ(i)で溶媒は水であってよい。
【0023】
〔発明の効果〕
本発明に係るリマプロスト含有徐放性製剤は、リマプロストを8時間以上持続的に遅延放出させることができ、1日2回の投薬療法でもリマプロストの薬物濃度を適切に維持して持続的な治療効果を示すことができる。したがって、本発明に係る徐放性製剤は、患者の服薬順応度と服用便宜性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明に係るリマプロスト含有徐放性製剤は、リマプロストの温度及び/または水分安定性を改善させることができ、またより効率的且つ経済的に製造が可能であるという利点がある。
【0025】
〔図面の簡単な説明〕
[
図1]実施例8~9及び比較例5の徐放性製剤の水での溶出パターンを示すグラフである。
【0026】
[
図2]実施例9のリマプロスト含有徐放性製剤(試験薬)と東亜STの東亜オパルモン錠(対照薬)の動物を用いた薬物動態学的評価結果を示すグラフである。
【0027】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0028】
本発明の一実施形態は、有効成分としてリマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上、徐放化剤としてエチルセルロース、第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクス、及び第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む徐放性製剤に関する。
【0029】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、徐放化剤としてのエチルセルロースマトリックス中に、リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスが分散されている徐放性顆粒物;及び
第2安定化剤としてグリセリルベヘネートを含む。
【0030】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、徐放化剤としてのエチルセルロースマトリックス中に、有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを分散させて徐放性顆粒物を形成し、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠することにより、リマプロストを8時間以上持続的に遅延放出させることができるだけでなく、温度及び/または水分に対する安定性を改善させることができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記徐放性顆粒物は、有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させ、徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて形成されてよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、リマプロストは、有効成分として、閉塞性血栓血管炎(バージャー病)または腰部脊椎管狭窄症の治療、またはこれらの疾患の症状改善に用いられる薬物である。
【0033】
前記リマプロストは、遊離塩基、薬学的に許容可能な塩、ラセミ体、エナンチオマー、同質異像体、水和物、溶媒和物、包接化合物などの形態で用いられてよい。前記薬学的に許容可能な塩としては、塩酸塩、臭素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩;及びマレイン酸塩、フマル酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸の塩が挙げられる。前記包接化合物としては、リマプロストアルファデクスが挙げられる。好ましくは、リマプロスト遊離塩基またはリマプロストアルファデクスを用いてよい。
【0034】
前記リマプロストの含量(遊離塩基基準)は、0.005mg~0.03mgの範囲で用いられてよく、0.005mg~0.015mgの範囲が好ましい。特に、1日2回の投薬のためには、1錠当たり0.0075mg~0.015mg、例えば、0.015mgの量で含まれてよい。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記有効成分は、徐放性製剤全体100重量%に対して0.001~1重量%の量で含まれてよい。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記ヒドロキシプロピルベータデクスは、第1安定化剤としての有効成分とともに結合液及び練合物に含まれて有効成分を1次的に安定化させる役割をする。
【0037】
前記ヒドロキシプロピルベータデクスは、徐放性製剤全体100重量%に対して5~30重量%、好ましくは、10~25重量%の量で含まれてよい。前記ヒドロキシプロピルベータデクスが5重量%未満の量で含まれると安定性改善の効果が微々たるものになることがあり、30重量%超の量で含まれると顆粒の製造が難しくなることがある。
【0038】
前記溶媒は、水、例えば、精製水であってよい。前記溶媒として水を用いることで服用安全性を確保することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、前記エチルセルロースは、リマプロストの遅延放出のための徐放化剤としての役割をする。
【0040】
前記エチルセルロースの重量平均分子量は、65,000~215,000、好ましくは、65,000~120,000であってよい。前記エチルセルロースの重量平均分子量が65,000未満であると粘度が低くて徐放化効果が低下することがあり、215,000超であると粘度が高くて徐放化効果が過度に増加して溶出率の調節が難しくなることがある。
【0041】
前記エチルセルロースは、徐放性製剤全体100重量%に対して30~65重量%、好ましくは、40~55重量%の量で含まれてよい。前記エチルセルロースが30重量%未満の量で含まれると徐放化効果が微々たるものになることがあり、65重量%超の量で含まれると徐放化効果が過度であって溶出率調節が難しくなることがある。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記徐放性製剤は、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠して錠剤の形態で形成されてよい。
【0043】
本発明の一実施形態において、前記グリセリルベヘネートは、第2安定化剤であって、徐放性顆粒物中で1次的に安定化された有効成分を2次的に安定化させる役割をする。
【0044】
前記グリセリルベヘネートは、徐放性製剤全体100重量%に対して1~20重量%、好ましくは、1~15重量%の量で含まれてよい。前記グリセリルベヘネートが1重量%未満の量で含まれると安定性向上効果が微々たるものになることがあり、20重量%超の量で含まれると徐放化効果を発現して溶出率に影響を与えることがある。
【0045】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含んでよい。
【0046】
前記薬剤学的に許容可能な添加剤としては、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤などが挙げられる。
【0047】
前記希釈剤は、打錠の容易性を向上させ且つ徐放性製剤の形態を維持する役割をする。前記希釈剤としては、マンニトール、微結晶セルロース、ベータデクス、乳糖、ブドウ糖などを単独でまたは2種以上混合して用いてよく、特に、マンニトール、微結晶セルロースまたはその混合物を用いてよい。
【0048】
前記希釈剤は、徐放性製剤全体100重量%に対して40重量%以下、例えば、10~40重量%の量で含まれてよい。前記希釈剤が40重量%超の量で含まれると相対的に徐放化剤の添加割合が低くなって徐放化効果が低下することがある。
【0049】
前記結合剤は、徐放性製剤の結合力を増大させる役割をする。前記結合剤としては、ポビドン;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、アルギン酸塩、アラビアガムなどのガム類;澱粉、前糊化澱粉、スクロースなどの糖類;またはこれらの混合物などを用いてよく、特にポビドンを用いてよい。
【0050】
前記結合剤は、徐放性製剤全体100重量%に対して1~10重量%、好ましくは、1~5重量%の量で含まれてよい。前記結合剤が1重量%未満の量で含まれると顆粒形成が難しくなることがあり、10重量%超の量で含まれると顆粒の密度が高くなることがある。
【0051】
前記滑沢剤は、粉粒体の流動性を向上させて打錠機の下部であるダイ(die)への充填性を増加させ、且つ粉粒体相互間及び粉粒体と打錠機の上部であるパンチ(punch)―ダイ(die)間の摩擦を低減させて錠剤の圧縮及び放出を容易にする役割をする。
【0052】
前記滑沢剤としては、硬化ヒマシ油、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどを用いてよく、特に硬化ヒマシ油を用いてよい。
【0053】
前記滑沢剤は、徐放性製剤全体100重量%に対して0.5~10重量%の量で含まれてよい。前記滑沢剤が0.5重量%未満の量で含まれると打錠が難しくなることがあり、10重量%超の量で含まれると製剤の崩壊が遅延して溶出率を低下させることがある。
【0054】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、大韓民国薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によって水にて50rpmで溶出試験をしたとき、有効成分が1時間で20~40%、2時間で45~65%、4時間で60~80%、8時間で80%以上溶出される放出プロファイルを示してよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、上述した放出プロファイルを示すことにより、1日2回の投薬だけでも持続的な治療効果を示すことができる(実験例4、
図1)。
【0056】
さらに、本発明の一実施形態に係る徐放性製剤は、加速条件(40℃/75%RH)下で2週間開放保管した後のリマプロストの含量維持率が50%以上であり、且つAlu-Alu包装での加速試験(40℃/75%RH)で類縁物質の発生率を低減させることができ、温度及び/または水分に対する安定性に優れる(実験例1~3、表5~8)。
【0057】
本発明の一実施形態は徐放性製剤の製造方法に関し、本発明の製造方法は、
(i)リマプロスト及びリマプロストアルファデクスからなる群より選択される一つ以上の有効成分と第1安定化剤としてヒドロキシプロピルベータデクスを溶媒に溶解させて結合液を得るステップ;
(ii)前記結合液を徐放化剤としてのエチルセルロースと第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスとの混合物に練り合わせて徐放性顆粒物を収得するステップ;及び
(iii)前記徐放性顆粒物を第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートとともに打錠するステップを含む。
【0058】
本発明の一実施形態において、前記ステップ(i)は、徐放性顆粒物を形成するための有効成分含有結合液を得るステップである。
【0059】
前記ステップ(i)で結合剤をさらに用いてよい。
【0060】
前記有効成分、第1安定化剤、溶媒、及び結合剤に関する詳細な説明は、前記徐放性製剤に関連して上述した説明と同様である。
【0061】
本発明の一実施形態において、前記ステップ(ii)は、前記有効成分含有結合液を徐放化剤と第1安定化剤との混合物に練り合わせて徐放性顆粒物を収得するステップである。
【0062】
前記ステップ(ii)は、高速撹拌型混合機(high speed mixer)を用いて行ってよい。
【0063】
本発明の一実施形態において、前記ステップ(iii)は、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤とともに打錠するステップであって、通常の打錠方法を用いて行ってよい。
【0064】
前記ステップ(iii)において、顆粒物とともに薬剤学的に許容可能な添加剤、例えば、滑沢剤をさらに用いてよい。
【0065】
本発明の一実施形態に係る徐放性製剤の製造方法は、上述したようにリマプロストと第1安定化剤を含有する結合液を徐放化剤と第1安定化剤との混合物に練り合わせて徐放性顆粒物を形成した後、前記徐放性顆粒物を第2安定化剤とともに打錠する湿式顆粒化及び打錠工程を通じて、リマプロストの遅延放出が可能であるとともに温度及び/または水分に対する安定性も改善された徐放性製剤をより簡単且つ効率的に製造することができる。
【0066】
以下、実施例、比較例及び実験例によって本発明をより具体的に説明することにする。なお、これらの実施例、比較例及び実験例は、単に本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらに限定されないことは当業者にとって自明である。
【0067】
実施例1及び比較例1~3:シクロデキストリンの種類によるリマプロスト徐放性製剤の製造
下記表1の組成にて下記方法に従いリマプロスト徐放性製剤を製造した(単位:重量%)。
【0068】
リマプロストアルファデクス包接化合物を、結合剤としてのポビドン及び第1安定化剤としてのベータデクス、ヒドロキシプロピルベータデクスまたはガンマデックスとともに精製水に溶かして結合液を製造した後、前記結合液を高速撹拌型混合機(high speed mixer)内に投入して希釈剤、第1安定化剤及び徐放化剤の混合物に練り合わせることで湿式顆粒物を得た。得られた湿式顆粒物を、流動層乾燥機を用いて50℃で乾燥した後、第2安定化剤及び滑沢剤を添加して打錠した。
【0069】
【0070】
実施例2~4:ヒドロキシプロピルベータデクスの含量によるリマプロスト徐放性製剤の製造
下記表2の組成にて前記実施例1と同様な方法に従いヒドロキシプロピルベータデクスの含量を異にしてリマプロスト徐放性製剤を製造した(単位:重量%)。
【0071】
【0072】
実施例5~7及び比較例4:グリセリルベヘネートの含量によるリマプロスト徐放性製剤の製造
下記表3の組成にて前記実施例1と同様な方法に従いグリセリルベヘネートの含量を異にしてリマプロスト徐放性製剤を製造した(単位:重量%)。
【0073】
【0074】
実施例8~9及び比較例5:エチルセルロースの含量によるリマプロスト徐放性製剤の製造
下記表4の組成にて前記実施例1と同様な方法に従いエチルセルロースの含量を異にしてリマプロスト徐放性製剤を製造した(単位:重量%)。
【0075】
【0076】
実験例1:シクロデキストリンの種類による安定性試験
第1安定化剤としてのシクロデキストリンの種類による安定性試験のために、実施例1及び比較例1~3の徐放性製剤をそれぞれ加速条件(40℃/75%RH)下で開放保管した後のリマプロストの含量維持率を分析した。
【0077】
リマプロスト含量分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。HPLCはAgilent 1200シリーズ、カラムはC18(5μm、4.6×150mm)を用い、移動相は0.02Mリン酸二水素カリウム緩衝液/アセトニトリル/イソプロパノール(50/25/10)にて調製し、215nmでUV検出器を用いて検出した。
【0078】
その結果を下記表5に表した。
【0079】
【0080】
前記表5から、ヒドロキシプロピルベータデクスを添加した実施例1が顕著に優れる安定化効果を示し、ベータデクスまたはガンマデックスを添加した比較例1及び比較例2と、安定化剤を添加していない比較例3は安定性に劣ることが分かる。
【0081】
実験例2:ヒドロキシプロピルベータデクスの含量による安定性試験
第1安定化剤としてのヒドロキシプロピルベータデクスの含量による安定性試験のために、実施例2~4の徐放性製剤及び2種の市販製剤を加速条件(40℃/75%RH)下で開放保管した後のリマプロストの含量維持率を分析した。リマプロスト含量分析は、前記実験例1に記載の方法と同様にして行った。
【0082】
その結果を下記表6に表した。
【0083】
【0084】
前記表6から、ヒドロキシプロピルベータデクスの含量の増加に伴い、錠剤の熱と水分に対する安定性が向上することが分かる。
【0085】
追加的に、最も安定性が向上した結果を示した実施例4と市販製剤1のAlu-Alu包装での加速試験(40℃/75%RH)を行い、リマプロストの主な類縁物質である下記化学式aの11-デオキシ体の変化率をUPLCを用いて測定した。
【0086】
【0087】
その結果を下記表7に表した。
【0088】
【0089】
前記表7から、実施例4が市販製剤1よりも類縁物質の11-デオキシの変化率が少なく安定性により優れていることを確認することができた。
【0090】
実験例3:グリセリルベヘネートの含量による安定性試験
第2安定化剤としてのグリセリルベヘネートの含量による安定性試験のために、実施例5~7及び比較例4の徐放性製剤を加速条件(40℃/75%RH)下で開放保管した後のリマプロストの含量維持率を分析した。リマプロスト含量分析は、前記実験例1に記載の方法と同様にして行った。
【0091】
その結果を下記表8に表した。
【0092】
【0093】
前記表8から、グリセリルベヘネートの含量の増加に伴い、錠剤の熱と水分に対する安定性が向上することが分かる。
【0094】
実験例4:エチルセルロースの含量による溶出率試験
徐放化剤としてのエチルセルロースの含量による溶出率変化を調べるために、実施例8~9及び比較例5の徐放性製剤の水での溶出試験を行った。
【0095】
溶出試験は大韓民国薬局方溶出試験第2法(パドル法)によって行い、溶出液900ml(水)、パドル回転速度50rpm、温度37±0.5℃の条件で行った。試験開始から1時間経過、2時間経過、4時間経過、及び8時間経過後に0.45μmフィルタにてろ過し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析した。
【0096】
【0097】
図1から、徐放化剤としてのエチルセルロースの含量の増加に伴い経時的な溶出率の増加幅が減少し、徐放化剤としてのエチルセルロースを含有していない場合は徐放性が示されないことが分かる。
【0098】
実験例5:ビーグル犬(Beagle dog)を用いた薬物動態学的評価
前記実施例9を試験薬とし、東亜STの東亜オパルモン錠(リマプロストα-シクロデキストリン包接化合物)を対照薬として、ビーグル犬での薬物動態学試験を下記のように行った。
【0099】
健康なビーグル犬の合計12匹をそれぞれ6匹ずつ2群に分け、薬物経口投与にて交差実験を行った。正確な評価のために薬物投薬の12時間前から禁食をさせた後に動物実験を行った。試験薬と対照薬のそれぞれ6錠を水20~30mLとともに経口投与した。投薬してから所定の時間間隔で静脈血を採血し、採血して直ちに遠心分離して血漿を採取した後に冷凍保管した。血漿中のリマプロストの分析は液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)を用いて定量分析した。定量分析結果に基づいて計算された血中濃度から最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(Tmax)を求め、これを通じて投与した薬物の血中濃度と時間との関係を示したグラフ(AUCt)を求めた。薬物動態学的評価は、市販製剤(対照薬)及び徐放性製剤(試験薬)で計算された薬物動態学的パラメータ(Cmax、Tmax、AUCt)に基づいて最終的に評価した。
【0100】
【0101】
図2から、対照薬と試験薬の最高血中濃度(Cmax)はそれぞれ9.89pg/mL及び13.26pg/mLを示し、最高血中濃度到達時間(Tmax)はそれぞれ0.6hr及び0.74hrを示し、対照薬及び試験薬のAUCtはそれぞれ15.38hr.pg/mL及び29.02hr.pg/mLを示すことが分かる。
【0102】
薬物動態学的評価の結果、対照薬と試験薬の1日3回の投与と1日2回の投与に換算した場合の試験薬と対照薬の、AUCtの比率は1.26程度であり、Cmaxの比率は1.34でほぼ近似値であって類似した結果を示しており、Tmaxの場合、試験薬が対照薬よりも0.14hr増加したことを確認することができた。これを通じて、本発明に係る製剤において薬物放出が遅延することが分かり、薬物が投与後8時間まで検出されることで徐放性を示すことが確認された。
【0103】
以上、本発明の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者にとってこのような具体的な記述は単に好適な具現例を挙げたものにすぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。当業者であれば前記内容に基づいて本発明の範疇内で種々の応用及び変形を行うことが可能であろう。
【0104】
したがって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とその等価物によって定義されるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】実施例8~9及び比較例5の徐放性製剤の水での溶出パターンを示すグラフである。
【
図2】実施例9のリマプロスト含有徐放性製剤(試験薬)と東亜STの東亜オパルモン錠(対照薬)の動物を用いた薬物動態学的評価結果を示すグラフである。