(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】平型電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/08 20060101AFI20231113BHJP
【FI】
H01B7/08
(21)【出願番号】P 2021168197
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】白井 瑞木
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-161310(JP,U)
【文献】特開2021-68592(JP,A)
【文献】特開2001-6773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置された断面積が略同じとされた複数本の導体と、
前記複数本の導体が並列配置される幅方向と直交する厚み方向の一方と他方とのそれぞれに、前記複数本の導体に積層されて設けられた樹脂フィルムと、
前記複数本の導体上を前記樹脂フィルムごと覆う絶縁体と、を備え、
前記樹脂フィルムは、ヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上である
ことを特徴とする平型電線。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、ヤング率が5GPa以下、且つ、フィルム厚が300μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の平型電線。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは、前記幅方向の長さが、1本の導体の外径×(複数本の導体本数-1)以上、1本の導体の外径×複数本の導体本数以下とされている
ことを特徴とする請求項1に記載の平型電線。
【請求項4】
並列配置された断面積が略同じとされた複数本の導体と前記複数本の導体を被覆する絶縁体とを備えた平型電線の製造方法であって、
前記複数本の導体が並列配置される幅方向と直交する厚み方向の一方と他方とのそれぞれに、前記複数本の導体に積層してヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上の樹脂フィルムを配置する第1工程と、
前記第1工程にて前記樹脂フィルムが配置された前記複数本の導体の周囲に、絶縁性の熱収縮チューブを配置して熱収縮させることで、又は、加熱により軟化した絶縁樹脂を押出被覆することで、絶縁体を形成する第2工程と、
を有する平型電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平型電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数本の導体を並列配置して絶縁体を被覆した平型電線が知られている。このような平型電線は、車両への配索時等にエッジワイズ曲げを行った場合、平型電線の側方から力が加わることとなり、幅方向に沿って整列していた導体は平型電線の厚み方向にズレ(導体並列崩れ)てしまう傾向にある。
【0003】
そこで、エッジワイズ曲げ時等において導体並列崩れを抑制する平型電線が提案されている(例えば特許文献1参照)。この平型電線は、複数本の導体を異なるサイズの撚線によって構成することで導体側への絶縁体の食い込みを増加させ、導体並列崩れを抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の平型電線については、複数本の導体のサイズが異なることから、同じサイズの導体を並列配置した場合と比較して、厚みや幅が大きくなる傾向がある。さらに、導体サイズが異なることから、端末の皮むき性が決して良いとはいえない。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、導体サイズが異なることによる皮むき性の悪化や大型化を防止しつつも、導体並列崩れを抑制することができる平型電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る平型電線は、並列配置された断面積が略同じとされた複数本の導体と、前記複数本の導体が並列配置される幅方向と直交する厚み方向の一方と他方とのそれぞれに、前記複数本の導体に積層されて設けられた樹脂フィルムと、前記複数本の導体上を前記樹脂フィルムごと覆う絶縁体と、を備え、前記樹脂フィルムは、ヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上である。
【0008】
本発明に係る平型電線の製造方法は、並列配置された断面積が略同じとされた複数本の導体と前記複数本の導体を被覆する絶縁体とを備えた平型電線の製造方法であって、前記複数本の導体が並列配置される幅方向と直交する厚み方向の一方と他方とのそれぞれに、前記複数本の導体に積層してヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上の樹脂フィルムを配置する第1工程と、前記第1工程にて前記樹脂フィルムが配置された前記複数本の導体の周囲に、絶縁性の熱収縮チューブを配置して熱収縮させることで、又は、加熱により軟化した絶縁樹脂を押出被覆することで、絶縁体を形成する第2工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導体サイズが異なることによる皮むき性の悪化や大型化を防止しつつも、導体並列崩れを抑制することができる平型電線及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る平型電線を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る平型電線の作用の詳細を示す第1の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る平型電線の作用の詳細を示す第2の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る平型電線の作用の詳細を示す第3の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る平型電線の作用の詳細を示す第4の断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る平型電線の第1の製造方法を示す工程図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る平型電線の第2の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る平型電線を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る平型電線1は、複数本の導体10と、樹脂フィルム20と、絶縁体30とを備えて構成されている。
【0013】
複数本の導体10は、電力や信号等を伝送するための長尺な導電性の線条体であって、例えば銅やアルミニウム等の金属、これら金属の合金、又は、それらに金属メッキが施されたもの等によって構成されている。これら複数本の導体10は、
図1に示す例において単線であるが、これに限らず、複数本の素線を撚り合わせた撚線であってもよい。このような複数本の導体10は、断面積が略同じとされており(導体サイズが同じとされており)、互いに並列配置されている。
【0014】
樹脂フィルム20は、
図1に示す断面(平型電線1の長手方向に直交する断面)において複数本の導体10が並列配置される幅方向と直交する方向を厚み方向とした場合に、複数本の導体10の厚み方向の一方と他方とのそれぞれに積層配置されるものである。この樹脂フィルム20は、絶縁性の樹脂によって構成されており、例えばポリエチレンテレフタレートによって構成されている。
【0015】
絶縁体30は、複数本の導体10上を樹脂フィルム20ごと覆うものであって、例えばPP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)及びPVC(Poly Vinyl Cloride)等によって構成されている。この絶縁体30は、複数本の導体10の周囲に配置された熱収縮チューブを熱収縮させることで構成してもよいし、押出被覆によって構成してもよい。
【0016】
なお、
図1に示すように、隣りあう導体10同士と樹脂フィルム20とによって囲まれる領域(例えば符号Aにて示す領域)は絶縁体30が充填されておらず、空隙となっている。
【0017】
ここで、一般的な平型電線は、車両への配索時等にエッジワイズ曲げを行った場合に幅外側から幅内側に力が加わることとなり、導体が厚み方向にズレる導体並列崩れを起こしてしまうことがある。
【0018】
しかし、本実施形態に係る平型電線1は、複数本の導体10の上下に樹脂フィルム20が積層されている。このため、導体10が上下にズレようとしても、これを抑えることができる。
【0019】
特に、本実施形態に係る樹脂フィルム20は、ヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上とされている。ヤング率が2GPa以上であるため樹脂フィルム20が一定以上の硬さを有して導体並列崩れの抑制効果を好適に発揮することができる。また、フィルム厚が200μm以上であるため樹脂フィルム20が或る程度の厚みを有して導体並列崩れの抑制効果を好適に発揮することができる。
【0020】
さらに、本実施形態に係る樹脂フィルム20は、ヤング率が5GPa以下、且つ、フィルム厚が300μm以下であることが好ましい。ヤング率が5GPaを超えたり、フィルム厚が300μmを超えたりすると樹脂フィルム20が必要以上に硬くなる可能性があり、樹脂フィルム20の存在によって平型電線1の柔軟性が必要以上に損なわれる可能性があるためである。
【0021】
加えて、本実施形態に係る樹脂フィルム20の幅方向の長さは、1本の導体10の外径×(複数本の導体本数-1)以上とされることが好ましい。すなわち、
図1に示す例において複数本の導体10は6本であることから、樹脂フィルム20の幅方向の長さは、1本の導体10の外径×5以上とされることが好ましい。樹脂フィルム20の長さが1本の導体10の外径×(複数本の導体本数-1)未満となってしまうと、導体並列崩れの抑制が不充分となってしまうためである。
【0022】
また、本実施形態に係る樹脂フィルム20の幅方向の長さは、1本の導体10の外径×複数本の導体本数以下とされることが好ましい。すなわち、
図1に示す例において複数本の導体10は6本であることから、樹脂フィルム20の幅方向の長さは、1本の導体10の外径×6以下とされることが好ましい。樹脂フィルム20の長さが1本の導体10の外径×複数本の導体本数を超えてしまうと、意図しない空隙が形成されてしまい、両端側の導体10が外側に移動したり電線幅が大きくなってしまうためである。
【0023】
さらに、樹脂フィルム20は、表面又は裏面の少なくとも一方に、接着剤又は粘着剤が設けられていてもよい。これにより、樹脂フィルム20が複数本の導体10又は絶縁体30の少なくとも一方に固定状態とできるためである。すなわち、例えば樹脂フィルム20が幅方向にズレてしまって一部の導体10の上下に樹脂フィルム20が存在せず導体並列崩れの抑制が不充分となってしまうことを防止することができるためである。特に、樹脂フィルム20は、絶縁体30側の面に接着剤又は粘着剤が設けられていることが好ましい。樹脂フィルム20の導体10側の面に接着剤又は粘着剤が設けられていると、皮むき性の低下を招く可能性があるためである。
【0024】
次に、
図2~
図5を参照して、本実施形態に係る平型電線1の作用の詳細を説明する。
図2~
図5は、本発明の実施形態に係る平型電線の作用の詳細を示す断面図である。
【0025】
まず、例えば車両への配索時等において平型電線1がエッジワイズ曲げされたとする。この場合、
図2に示すように、複数本の導体10には、幅方向の外側から内側に向けて力が作用することとなる。そして、例えば、内側に作用する力によって特定の導体10aに対して厚み方向にズレようとする力F1が作用したとする。しかし、本実施形態に係る平型電線1は、厚み方向の上下それぞれに樹脂フィルム20を備えるため、特定の導体10aが厚み方向にズレようとする力F1に対向する力F2を発生させることができ、導体並列崩れを抑制することとなる。
【0026】
なお、樹脂フィルム20の絶縁体30側の面に接着剤又は粘着剤が設けられている場合、
図2に示すように、幅方向の外側から内側に向けて力が作用すると、絶縁体30と共に樹脂フィルム20が厚み方向(上下方向)に移動して、導体並列崩れを抑制することができなくなる可能性がある。しかし、本実施形態に係る樹脂フィルム20(ヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上)は、ヤング率やフィルム厚が適切化されており、幅方向の外側から内側に向けて作用する力程度であれば、このような移動を防止することができる。
【0027】
さらに、
図1及び
図2に示すように、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×(複数本の導体本数-1)以上とされている場合、両端側の導体10bのズレを抑制することができる。すなわち、
図3に示すように、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×(複数本の導体本数-1)未満であると、両端側の導体10bの中心位置Oの上下には樹脂フィルム20が存在しないこととなる。このため、例えば幅方向の外側から内側に向けて力が作用した場合、両端側の導体10bが厚み方向にズレようとする力F3に対向する力を発生させ難く、両端側の導体10bのズレを抑制することが困難となる。しかし、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×(複数本の導体本数-1)以上とされている場合、両端側の導体10bが厚み方向にズレようとする力F3に対向する力を発生させることができ、両端側の導体10bのズレを抑制することができる。
【0028】
また、
図1及び
図2に示すように、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×複数本の導体本数以下とされている場合、意図しない空隙が形成されてしまい、両端側の導体10が外側に移動したり電線幅が大きくなってしまうことを抑制することができる。すなわち、
図4に示すように、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×複数本の導体本数を超えると、両端側の導体10bの幅外側には絶縁体30が充填されていない空隙Sが形成され易くなる。これにより、両端側の導体10bは、幅外側方向に移動し易くなり、導体がズレでしまうこととなる。さらに、樹脂フィルム20が幅方向に長いことから、平型電線1の電線幅が大きくなってしまう。しかし、樹脂フィルム20の幅方向の長さが1本の導体10の外径×複数本の導体本数以下とされている場合、両端側の導体10が外側に移動したり電線幅が大きくなってしまうことを抑制することができる。
【0029】
加えて、樹脂フィルム20のヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上とされている場合、導体並列崩れの抑制効果をより好適に発揮することができる。ここで、ヤング率が2GPa未満となったり、フィルム厚が200μm未満となったりすると、樹脂フィルム20が柔らかくなり過ぎてしまう。この結果、
図5に示すように、特定の導体10aに対して厚み方向にズレようとする力F1が発生した場合に、樹脂フィルム20によって対抗する力F4が小さくなってしまい、導体並列崩れの抑制効果が好適に発揮されなくなる可能性がある。しかし、樹脂フィルム20のヤング率が2GPa以上、且つ、フィルム厚が200μm以上とされている場合、導体並列崩れの抑制効果をより好適に発揮することができる。
【0030】
さらに、本実施形態において樹脂フィルム20のヤング率が5GP以下、且つ、フィルム厚が300μm以下とされる場合、樹脂フィルム20が硬くなり過ぎたり、厚くなり過ぎたりすることがない。このため、樹脂フィルム20の存在によって平型電線1の柔軟性が必要以上の損なわれる可能性を低減させることができる。
【0031】
また、本実施形態において樹脂フィルム20の表面又は裏面の少なくとも一方に、接着剤又は粘着剤が設けられている場合には、樹脂フィルム20と複数本の導体10又は絶縁体30の少なくとも一方とを固定状態とすることができる。このため、例えば樹脂フィルム20が幅方向にズレてしまって一部の導体10の上下に樹脂フィルム20が存在せず導体並列崩れの抑制が不充分となってしまうことを防止することができる。
【0032】
次に本実施形態に係る平型電線1の製造方法を説明する。
図6は、本実施形態に係る平型電線1の第1の製造方法を示す工程図である。
【0033】
図6に示すように、まず断面積が略同じとされた複数本の導体10が並列に配置される。次いで、複数本の導体10の厚み方向の一方と他方とのそれぞれに樹脂フィルム20が積層配置される(第1工程)。ここで、樹脂フィルム20の複数本の導体10側の面に接着剤や粘着剤が形成されていれば、積層配置された樹脂フィルム20の位置が安定すると共に、並列配置される導体10同士をつなぎ止める役割も果たす。
【0034】
その後、樹脂フィルム20が積層配置された複数本の導体10の端部から熱収縮チューブTが挿通させられる。その後、熱収縮チューブTが加熱されて収縮することで絶縁体30が形成される(第2工程)。この際、樹脂フィルム20が若干溶けだして、
図1に示した空隙(領域A等)に樹脂フィルム20の一部が入り込む。これにより、複数本の導体10は樹脂フィルム20によってよりホールドされるような形となって、より一層導体並列崩れの抑制効果が高まることとなる。
【0035】
図7は、本実施形態に係る平型電線1の第2の製造方法を示す工程図である。
図7に示すように、まず、複数の第1リールR1のそれぞれに、同じ断面積の導体10が巻かれており、2つの第2リールR2のそれぞれに、同じ樹脂フィルム20が巻かれているとする。
【0036】
複数の第1リールR1それぞれは回転することで導体10を供給する。この供給により複数本の導体10が並列配置されていく。次いで、第2リールR2それぞれは、回転することで樹脂フィルム20を供給する。ここで、供給される樹脂フィルム20は、並列配置される複数本の導体10の厚み方向の一方及び他方のそれぞれに積層される(第1工程)。なお、樹脂フィルム20の複数本の導体10側の面に接着剤や粘着剤が形成されていれば、積層配置された樹脂フィルム20の位置が安定すると共に、並列配置される導体10同士をつなぎ止める役割も果たす。
【0037】
その後、樹脂フィルム20が積層配置された複数本の導体10が絶縁押出機IEに供給される。絶縁押出機IEは、加熱により軟化した絶縁樹脂を押出被覆して、樹脂フィルム20が積層配置された複数本の導体10の周囲に絶縁体30を形成する(第2工程)。なお、この工程において加熱軟化された絶縁樹脂からの熱により樹脂フィルム20が若干溶けだして、
図1に示した空隙(領域A等)に樹脂フィルム20の一部が入り込む。
【0038】
次に、絶縁体30が加熱状態である平型電線1が冷却機Cに供給されて冷却される。その後、冷却された平型電線1が第3リールR3によって引き取られていく。
【0039】
このようにして、本実施形態に係る平型電線1によれば、複数本の導体10は断面積が略同じとされているため、導体サイズが異なることによる皮むき性の悪化や大型化を防止することができる。また、複数本の導体10の厚み方向の一方と他方とに積層されて設けられた樹脂フィルム20を備えている。このため、エッジワイズ曲げを行ったときに幅外側から幅内側に力が加わって導体10が厚み方向にズレようとしても、樹脂フィルム20がこれを抑えることとなる。特に、樹脂フィルム20がヤング率が2GPa以上であるため、複数本の導体10が導体並列崩れを起こそうとした段階において、これに好適に対抗することができる。また、樹脂フィルム20のフィルム厚が200μm以上であるため、樹脂フィルム20が薄すぎて導体並列崩れに対抗できなくなってしまう事態を防止することができる。従って、導体サイズが異なることによる皮むき性の悪化や大型化を防止しつつも、導体並列崩れを抑制することができる。
【0040】
また、樹脂フィルム20のヤング率が5GPa以下でありフィルム厚が300μm以下であるため、樹脂フィルム20の存在によって電線の柔軟性が必要以上に損なわれてしまう事態を防止することができる。
【0041】
また、樹脂フィルム20は、幅方向の長さが、1本の導体の外径×(複数本の導体本数-1)以上、1本の導体の外径×複数本の導体本数以下の長さとされている。このため、複数本の導体10の全てを覆うように上下に樹脂フィルム20を配置できると共に、過剰な長さで上下を覆うことが防止されている。これにより、樹脂フィルム20の長さが足りずに例えば端の導体10bが導体並列崩れを起こしてしまったり、樹脂フィルム20が長すぎて複数本の導体10の両端側に絶縁体30が存在しない空隙Sが生じ空隙Sの存在により導体並列崩れを起こしてしまったりする可能性を低減することができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係る平型電線1の製造方法によれば、樹脂フィルム20が配置された複数本の導体10の周囲に、絶縁性の熱収縮チューブTを配置して熱収縮させることで、又は、加熱により軟化した絶縁樹脂を押出被覆することで、絶縁体30を形成する。このため、熱収縮チューブTを熱収縮させる際の加熱、又は、加熱により軟化した絶縁樹脂の熱によって、樹脂フィルム20の一部が溶けだして複数本の導体10の間の空隙(例えば領域A)に入り込む。これにより、樹脂フィルム20と複数本の導体10との密着力を高めて複数本の導体10をホールドし、導体並列崩れを抑制する効果を高めることができる。
【0043】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0044】
例えば、本実施形態においては、樹脂フィルム20が複数本の導体10と同様に長尺に構成され、1枚の長尺の樹脂フィルム20が複数本の導体10の厚み方向の上下のそれぞれに設けられる構成を想定している。しかし、これに限らず、例えば樹脂フィルム20はやや短めに形成されており、複数本の導体10の長手方向に沿って短めの樹脂フィルム20を複数枚敷き詰めるようにして、複数本の導体10の長手方向に亘り全域に積層されるようになっていてもよい。このように、短めの樹脂フィルム20を用いることでフラットワイズ曲げの際に、曲げ外側となる樹脂フィルム20が過度に引っ張られて破れてしまう等の事態を防止し易くすることができるためである。
【0045】
加えて、短めの樹脂フィルム20を複数枚長手方向に敷き詰める場合には、樹脂フィルム20同士に間隔が設けられていてもよい。すなわち、短めの樹脂フィルム20が長手方向に沿って断続的に設けられていてもよい。断続的に設けられていたとしても、樹脂フィルム20が設けられる箇所において導体並列崩れを抑制することができるためである。特に予めエッジワイズ曲げされる箇所が分かっている場合には、その箇所にスポット的に樹脂フィルム20を設けるようにしてもよい。
【0046】
また、樹脂フィルム20の導体10側の面には金属箔が設けられていてもよい。特に、金属箔上に接着剤又は粘着剤が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 :平型電線
10 :複数本の導体
20 :樹脂フィルム
30 :絶縁体
T :熱収縮チューブ