IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DMG森精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-工作機械 図1
  • 特許-工作機械 図2
  • 特許-工作機械 図3
  • 特許-工作機械 図4
  • 特許-工作機械 図5
  • 特許-工作機械 図6
  • 特許-工作機械 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 5/04 20060101AFI20231113BHJP
   B23Q 1/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
B23Q5/04 520Z
B23Q1/00 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022563109
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2022006412
(87)【国際公開番号】W WO2022181441
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021029584
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】山本 一之
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-204990(JP,A)
【文献】特開平04-163872(JP,A)
【文献】特開2009-295519(JP,A)
【文献】特開2013-230058(JP,A)
【文献】特開2019-016055(JP,A)
【文献】特開2007-038396(JP,A)
【文献】特表2010-526991(JP,A)
【文献】特開2009-118184(JP,A)
【文献】特開2012-003523(JP,A)
【文献】特開平03-208112(JP,A)
【文献】特表2007-509764(JP,A)
【文献】特開2020-003391(JP,A)
【文献】特開2014-172151(JP,A)
【文献】特表2015-511176(JP,A)
【文献】特開2016-111453(JP,A)
【文献】特開2020-187679(JP,A)
【文献】特開2016-082668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00
B23Q 5/04
B23Q 11/00 ー 17/24
G05B 19/418
G06F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電機器に対して自動交換可能な複数の接点ピンを有するカメラと、
搬送手段により搬送されてきた前記カメラと接続する際に、前記複数の接点ピンのそれぞれに対応する複数の接点穴を有する給電機器と、
前記給電機器を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、(i)すべての前記接点ピンがそれぞれに対応する前記接点穴に入った後に、前記カメラの接続確認を行い、(ii)前記カメラの接続確認後に、前記カメラとの通信または前記カメラへの電力供給を開始するように前記給電機器の制御を行う、工作機械。
【請求項2】
給電機器に対して自動交換可能な複数の接点を有するカメラと、
搬送手段により搬送されてきた前記カメラと接続する際に、前記複数の接点のそれぞれに対応する複数の接点ピンを有する給電機器と、
前記給電機器を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、(i)すべての前記接点穴にそれぞれに対応する前記接点ピンが入った後に、前記カメラの接続確認を行い、(ii)前記カメラの接続確認後に、前記カメラとの通信または前記カメラへの電力供給を開始するように前記給電機器の制御を行う、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械に着脱可能な工作機械用装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、工具を主軸に取り付けワークを加工する機械、複数の工具をタレットに取り付けワークを回転させて加工する機械、材料をレーザで溶かしながら加工する付加加工の機械、これらを複合的に備えた複合加工機などがある。
【0003】
近年、加工だけではなく、工作機械にカメラを取り付け、ワークを観察するなど工作機械で実行できる機能が増えている。これらの機能を実現するために、工作機械に着脱可能な工作機械用装置の開発が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6656707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、工作機械に着脱可能な工作機械用装置として工作機械用カメラが開示されている。特許文献1においては、工作機械の工具を取り付ける取付部に、電力供給を行う電源がないため、工作機械用カメラ内にバッテリを内蔵している。そのため、工作機械用カメラが大型化しやすい。
【0006】
また、観察よりも緻密な計測を行うためには、1回の撮像データを大きくする対応や、撮像回数を増やす対応が考えられる。しかし、計測を行うための十分な撮像条件を満たすためには、カメラを長時間駆動する必要があり、そのために大容量のバッテリを搭載する必要がある。このような観点からも工作機械用カメラの小型化は難しい。
【0007】
また、バッテリ方式が適さない理由として、連続的な自動運転を想定すると、有限のバッテリの残量量を管理しなければならないことがあげられる。時として使用したいときにバッテリ切れが発生する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、請求項に記載の装置等を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工作機械用カメラなどの工作機械に着脱可能な工作機械用装置の小型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】工作機械に着脱可能な工作機械用装置の一例の斜視図である。
図2】第1コネクタと第2コネクタの連結の様子を示す斜視図である。
図3】工作機械用装置(一例として受電装置(PD:Powered Device))の断面図である。
図4】工作システムの全体構成図である。
図5】PD検証が成功する場合のタイムシーケンス図である。
図6】PoE(Power Over Ethernet)の起動シーケンス図である。
図7】PD検証が失敗する場合のタイムシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して実施形態に係る工作機械に着脱可能な工作機械用装置および工作機械について説明する。以下の説明では、同一の構成について、同一の符号を付して説明する。
【0012】
≪工作機械≫
本実施形態では、NC(Numerical Control)プログラムに基づいて加工を行う過程で、NCプログラムに基づいて工具を交換する際に、次に使う工具を工具交換装置(ATC(Automatic Train Control))によって、自動的に工作機械の取付部(例えば、工具主軸、タレット、ツールマガジンのポット)に工具を取り付けできる工作機械を用いて説明する。
【0013】
本実施形態では、工作機械に着脱可能な工作機械用装置を、工具交換装置によって自動的に工作機械の取付部に着脱できる構成となっている。本実施形態の工作機械は、一例であり、上述の構成に限定されるものではない。
【0014】
≪工作機械用装置≫
工作機械に着脱可能な工作機械用装置は、例えば、受電装置、カメラ(又は撮像部)、タッチプローブ、レーザスキャナ、アングルヘッド、アングルヘッド付き工具、電動工具、機能付き工具、超音波発生装置、レーザ発振装置などがある。
もちろん、本実施形態における工作機械の取付部には、ドリルなどの一般的な工作機械用の工具も取り付け可能である。
【0015】
(受電装置 工作機械用装置の一例)
工作機械用装置の一例である受電装置は、電力で駆動される装置内モジュールを有する。装置内モジュールは、例えば、カメラ、温度センサや圧電センサなど各種センサ、レーザ発振器やミリ波発振器のような発振器などの電気部品がある。また、装置内モジュールの別の例としては、アクチュエーターやモーターのような機械部品がある。さらに、装置内モジュールの例としては、LSI(Large Scale Integration)やCPU(Central Processing Unit)などの回路でもよい。装置内モジュールは、図1図3に関連して後述するように、第2コネクタからの電力が給電されるための配線(ケーブル)と接続され、給電された電力によって所定の機能が駆動される機能部の例である。装置内モジュールは、図5および図6に関連して説明するように、所定のネゴシエーションを経て給電機器から供給される電力をもとに動作する。
【0016】
受電装置を使用する場合に、電力で駆動される装置内モジュールに電力を供給する必要がある。受電装置がカメラを有する場合、カメラは、イメージセンサ(例えば、CMOS(Complementary MOS))とCMOS制御用の電気回路などを装置内モジュールとして有する。つまり、カメラ内のCMOSと電気回路とは、外部から供給される電力に基づいて動作する。外部から供給される電力は、イーサネットの配線で利用されるケーブルを通じてデータと電力とを伝送する技術(PoE技術)を用いて供給されることが好ましい。そのため、受電装置は、電力線と通信線とを分けるモジュールを有する。カメラでの撮像は、前述のケーブルから伝送されてきた撮像の動作指示を電気回路であるCPUが受け、CPUからイメージセンサであるCMOSへ電荷伝送制御信号を送信することで行う。撮像された画像データは、前述のケーブルを介して工作機械用装置の外部(例えば、工作機械内のNC装置や工作機械外の別の装置)に送信される。
【0017】
工作機械に着脱可能な工作機械用装置に上述のPoE技術を用いることにより、後述するバッテリ内臓型の工作機械用装置やワイヤレス給電方式の工作機械用装置よりも装置を小型化することが可能になる。工作機械用装置は、大きくなると、工作機械内で干渉が起きる可能性が高くなるため、小型化できるのであれば、小型化することが好ましい。
【0018】
また、工作機械に着脱可能な工作機械用装置に上述のPoE(Power Over Ethernet)技術(有線であるケーブルを介してデータ通信を行う)を用いることにより、後述する無線通信よりも通信が安定する。
【0019】
(工作機械用装置の参考構成(バッテリ方式、ワイヤレス方式、無線通信方式)
以下で、他の構成との違いについて述べる。
まず、工作機械用装置の内部にバッテリを設けて、バッテリを蓄電しておくことによって電力を供給する方式について述べる。このようなバッテリ内蔵方式であれば、工作機械と工作機械用装置との間に電気的な接点を設ける必要がない。ただし、バッテリを内蔵するために、工作機械用装置自体が大型になる。また、バッテリが切れると動作しないため、工作機械用装置の運転時間に制限がある。バッテリ内蔵方式の場合、小型化と高性能化の両立は難しい。
【0020】
次に、電磁誘導を利用してワイヤレスで給電を行う方式について述べる。ワイヤレス給電方式であれば、工作機械と工作機械用装置との間に電力供給のための機械接点を設ける必要がない。ただし、工作機械と工作機械用装置との双方にコイルを設ける必要があり、十分な電力を得るためにはコイルの専有体積が大きくなり、工作機械用装置が大きくなる恐れがある。
【0021】
さらに、Wi-Fi(登録商標)による無線通信方式について述べる。Wi-Fiは、無線LANの例である。Wi-Fiでは、工作機械用機械と通信する装置との間で無線での通信路確立までの時間がかかってしまう。また、他のWi-Fi機器との混信を起こす恐れや障害物による電波への影響もある。更に、電波の混雑などで送受信が待たされることもあり、外部から工作機械用装置を操作する場合の通信のリアルタイム性が低下する。
【0022】
以上の説明のように、工作機械と工作機械用装置とをPoE技術を用いて接続することにより、工作機械用装置の小型化が可能になる。
これらを踏まえ、以下では、工作機械と工作機械用装置とをPoE技術を用いて接続する例を工作機械用装置の一例である受電装置を用いて説明する。
【0023】
[実施形態]
図1は、工作機械の取り付け部に取り付けられる工作機械用装置の一例である受電装置(PD:Powered Device)10の斜視図である。
本実施形態では、工作機械の例としてマシニングセンタについて説明する。受電装置10は、マシニングセンタの主軸20に装着され、使用される。主軸20は、受電装置10やその他の工具が装着される取付部の例である。なお、工作機械は、ターニングセンタでもよい。その場合には、受電装置10は、タレットに装着され、使用される。タレットは、受電装置10やその他の工具が装着される取付部の例である。
【0024】
受電装置10は、主軸20に接合し回転するシャンク11と、主軸20に固定される固定ユニット13と、カメラを内蔵しシャンク11と一体に回転するカメラユニット15と、固定ユニット13に設けられた第2コネクタ14を有する。工作機械の主軸20には、第1コネクタ24が設置されている。第2コネクタ14と第1コネクタ24は、向かい合う位置にある。受電装置10が主軸20に装着された状態で、第2コネクタ14と第1コネクタ24が連結するようになっている。工作機械に設けられる本実施形態の給電機器(PSE:Power Sourcing Equipment)22は、主軸20と給電モジュール221と第1コネクタ24とを有する。給電モジュール221は、主軸20と接する位置に取り付けられる。第1コネクタ24は、給電モジュール221に取り付けられる。本実施形態の受電装置10は、PoE対応の装置であり、第1コネクタ24と第2コネクタ14を介して電力の供給やデータ通信が行われる。そのため、受電装置10には、第1コネクタ24から第2コネクタ14を介して伝送されてきた電気を電力と通信とに分けて伝送するためのPoEモジュール(受電モジュール)が設けられている。第1コネクタ24と第2コネクタ14は、ともに電力端子および通信端子の機能を備える。固定ユニット13は、第2コネクタ14を有し、主軸20(取付部の例)に取り付けられた際に、第2コネクタ14が第1コネクタ24と接続し、主軸20(取付部の例)に固定される固定部の例である。ここでいう主軸20は、回転部位と非回転部位とを含む装置を指す。固定ユニット13は、非回転部位に固定されて回転しない。
【0025】
図2は、コネクタの連結の様子を示す斜視図である。
工作機械側の第1コネクタ24も示している。第2コネクタ14と第1コネクタ24は、たとえばEthernet用のコネクタで、スプリングコネクタを用いている。また、スプリングコネクタと同様の機能を有する接点コネクタを用いて、後述する機構を実現してもよい。接点パーツは、この例に限定されない。
【0026】
本実施形態の第2コネクタ14は、8本の接点ピンを備えたオスのコネクタである(図2)。第1コネクタ24は、8個の接点穴を備えたメスのコネクタである。受電装置10が工具交換装置によって主軸20に近づけられるとき、第2コネクタ14と第1コネクタ24は、各接点ピンが各接点穴にはまるように接近する。受電装置10が主軸20に装着されると、第2コネクタ14と第1コネクタ24は連結する。ここでは、8ピンのコネクタの例を示すが、9以上のピン数のコネクタを用いてもよいし、7以下のピン数のコネクタを用いてもよい。Ethernet通信及びPoEは、最低限4線で実現可能であるので、4以上のピン数のコネクタを採用することができる。たとえば、4ピンのコネクタを用いてもよい。
【0027】
工作機械側の第1コネクタ24がメスのコネクタであれば、金屑などの異物が引っ掛かりにくいという面がある。ただし、オスとメスの関係が逆でもよい。つまり、第2コネクタ14が、8個の接点穴を備えたメスのコネクタであり、第1コネクタ24が、8本の接点ピンを備えたオスのコネクタであってもよい。接点ピンと接点穴は、電力端子と通信端子の機能を備える。
【0028】
第2コネクタ14の脇にある円筒形の受電装置10の位置決め部16は、工作機械側の円柱空洞にはまり、装着時のガイドの役割を果たし、受電装置10を固定させる。なお、受電装置10のシャンク11とカメラユニット15とは、主軸20の回転動力により回転することが可能である。一方で、位置決め部16を有する固定ユニット13は、主軸20に固定されており回転しない。
【0029】
図3は、工作機械用装置の一例である受電装置10の断面図である。
本実施形態の受電装置10は、多様な受電装置の一形態である。本実施形態の受電装置10は、シャンク11、固定ユニット13およびカメラユニット15を含む。固定ユニット13のベアリング17は、シャンク11を回転可能な状態で支持する。シャンク11は、カメラユニット15と接合しており、カメラユニット15はシャンク11と一体に回転する。固定ユニット13のベアリング18は、カメラユニット15を回転可能な状態で支持する。本実施形態の受電装置10には、電気回路エリア28が設けられている。本実施形態では、第2コネクタ14と電気回路エリア28である回路基板とが、Ethernetのケーブル26によってつながっている。Ethernetのケーブル26は、給電された電力によって所定の機能が駆動される機能部と第2コネクタ14とを接続する配線の例である。ケーブル26による配線の一部に、回転機構(スリップリング)などのように回転に対応する接点を挟んでもよい。あるいは、スピンドル(渦巻のケーブル格納部)を設けて回転に対処してもよい。電気回路エリア28には、受電回路や電力駆動装置を制御するための駆動制御用の電気回路などが含まれていてもよい。また、電気回路エリア28には、CPUやLSIなどが実装されていてもよい。さらに、電気回路エリア28は、1箇所ではなく複数箇所設けられていてもよい。なお、受電回路は、受電した電力を電力駆動装置や駆動制御用の電気回路などに供給する。
【0030】
このように、受電装置10が主軸20に装着され、受電装置10の第2コネクタ14が工作機械の第1コネクタ24と連結・接続すると、これらのコネクタを介して給電機器22から受電装置10へ電力が供給され、給電機器22と受電装置10の間で通信が行われるようになる。給電機器22と受電装置10の処理動作は、EthernetのPoE技術を用いることが好ましい。
【0031】
図4は、工作システムの全体構成図の一例である。
工作システムは、上述の工作機械90と受電装置10とを含む。工作機械90は、主軸20、工具交換装置50、PLC(Programmable Logic Controller)60、洗浄部70およびNC装置80を備える。制御装置40と電源30は、工作機械90の内部に設けられてもよいし、工作機械90の外部に設けられてもよい。
【0032】
(受電装置10と給電機器22)
EthernetのPoEの規格のとおり、受電装置10は、給電機器22から電力供給を受ける。本実施形態の給電機器22は、第1コネクタ24および主軸20を含む。もちろん、この構成に限定されるものではない。例えば、ターニングセンタの場合は、給電機器22は、第1コネクタ24とタレットとを含む構成になる。給電機器22と受電装置10は、Ethernetの通信機能も備える。給電機器22は、後述するように起動シーケンスにおいて、受電装置10を検出する機能を有する。
【0033】
(NC装置80)
工作機械90のNC装置80は、NCプログラムを実行し、NCプログラムで指定されたコードに従って工作機械90の加工部を動作させる。NC装置80が、NCプログラムに含まれる洗浄のコードを実行する場合には、PLC60に洗浄の指令を出す。また、NC装置80が、NCプログラムに含まれる工具交換のコードを実行する場合には、PLC60に工具交換の指令を出す。PLC60が洗浄の指令を受けると、その指令に従って洗浄部70を制御して、工作機械90の内部を洗浄させる。また、PLC60が工具交換の指令を受けると、その指令に従って工具交換装置50を制御して、工具交換装置50のツールマガジンに格納されている工具と主軸20に装着されている工具を交換させる。
【0034】
(制御装置40)
制御装置40(図4)は、給電機器22内の給電モジュール221を起動させるほか、起動シーケンスにおけるPD検出(受電装置10がPoEに対応した装置であるとの応答反応など)の成否に応じた制御も行う。給電モジュール221は、主軸20に取り付けられる。給電モジュール221として、PoEスイッチまたはPoEインジェクターなどを用いてもよい。第1コネクタ24は、図1に示すように給電モジュール221に取り付けられてもよいし、図4に示すように主軸20に取り付けられてもよい。
制御装置40は、工作機械90に備え付けられるコンピュータを内蔵する操作盤であってもよいし、操作盤以外のコンピュータであってもよい。
制御装置40の働きによって、給電機器22と受電装置10の間のネゴシエーションが行われ、工作システムにおける給電環境と通信環境が整えられる。ネゴシエーションでは、給電機器22がPoE対応の受電装置10であることを確認し、確認が取れれば電力供給と通信が開始される。給電機器22は、電源30から得られる電力を受電装置10へ送る。また、給電機器22と受電装置10は、OSI参照モデルの物理層とデータリンク層を確立させる。
【0035】
制御装置40は、データリンク層より上位のネットワーク層、トランスポート層およびセッション層の機能を実装してもよい。制御装置40は、さらにプレゼンテーション層およびアプリケーション層の機能を実装してもよい。これにより、制御装置40のアプリケーションが、給電機器22を介して、受電装置10の駆動制御用の電気回路とアプリケーション層の通信を行うようにしてもよい。換言して、制御装置40のアプリケーションと受電装置10とによって実現される機能を受電装置ITサービスと位置付ければ、制御装置40は、受電装置ITサービスのマスターとして動作し、受電装置10は受電装置ITサービスのエージェントとして動作することになる。
【0036】
本実施形態では、受電装置10を主軸20(取付部)に装着するタイミングで、給電機器22(給電モジュール221)を起動させる必要がある。このため、制御装置40は、受電装置10を主軸20に取り付ける指令を取得する必要がある。本実施形態の制御装置40は、NC装置80あるいはPLC60からNCプログラムの工具交換に関連する指令コードを取得する処理を行う。本実施形態の受電装置10は、他の工具と同様に、主軸20に着脱することができるシャンク11を備える形態であり、工具交換の指令コード(M6)を用いて主軸20に取り付けることができる。
【0037】
制御装置40は、制御部の例であって、給電機器22から受電装置10への電力の給電を制御する。具体的には、制御装置40は、受電装置10が給電機器22に取り付けられ、第1コネクタ24と第2コネクタ14とが接続した後に、給電機器22から受電装置10に第1電力(図6に関連して後述する微弱電力)を給電し、受電装置10の第1電力に対する応答を検出し、検出された応答に基づいて、第1電力よりも大きい第2電力(図6に関連して後述する受電装置10が必要とする電力)を受電装置10に給電する制御を行う。
【0038】
また、制御装置40は、受電装置10を装着するときの起動シーケンスでPD検出が失敗すると異物挟み込みを検知して、切屑などの異物を除去するための洗浄を行い、受電装置10を再装着するように制御する。つまり、制御装置40は、コネクタ間の異物挟み込みによるリカバリー動作を制御する役割を有していてもよい。そのため、制御装置40は、PLC60に対して洗浄指示と工具交換指示を出すことがある。なお、制御装置40から洗浄指示と工具交換指示を受けた場合のPLC60の動作は、NC装置80から洗浄指示と工具交換指示を受けた場合の動作と同様である。
【0039】
図5は、PD検証が成功する場合のタイムシーケンス図である。
図5のPD検証前の動作)
NC装置80が、工具交換装置50のツールマガジンに格納されている受電装置10を工具待機位置に移動させる工具選択指令(T××、「××」:工具番号)を、PLC60へ送ると、PLC60は工具交換装置50を制御して、受電装置10を工具待機位置に移動させる。ここでは、工具選択指令は、使用する工具を予め工具番号を関連付けて登録しておくが、その工具番号を入力し実行することを工具選択指令としている。このステップでは、受電装置10に工具番号(T番号)が付加されているものとする。例えば、受電装置10をマガジンに格納する際に、作業者は、受電装置10をT001として登録しNC装置80内に、受電装置10とT001との対応関係を記憶させておく。また、本実施形態の受電装置10は、マシニングセンタで主軸20に着脱できる工具と同様のシャンク形状を有する。このため、作業者は、工具と同様の指令を用いて、工具と同様に受電装置10を取り扱うことができる。
【0040】
図5のPD検証のシーケンス)
NC装置80が工具交換指令(例えば、M06、NCプログラムのM06をNC装置80が解読しPLC60用に変換した指令)をPLC60へ送ると、PLC60は工具交換装置50を制御して、主軸20に装着されている工具と工具待機位置にある受電装置10を交換させる(S10)。なお、本実施形態は、加工後にカメラを有する受電装置10で撮像するため、工具と交換する説明であるが、主軸20に何も取り付けられていなければ、受電装置10を主軸20に取り付けるだけの動作になる。
【0041】
このとき、制御装置40は、工具選択指令と工具交換指令のセットをトラップする。制御装置40は、工具交換指令の前の工具選択指令で受電装置10が指定されているか否かを判定する。受電装置10以外の工具等が指定されている場合には、給電モジュール221の起動処理を行わない。受電装置10以外の工具等が装着されるからである。受電装置10が指定されている場合、つまり装着対象として受電装置10を検出した場合には、給電機器22(給電モジュール221)を起動する(S14)。
【0042】
工具交換装置50は、工具交換動作で、受電装置10を主軸20に装着する(S16)。このとき、第2コネクタ14が第1コネクタ24に連結・接続する。つまり、第2コネクタ14の8本の接点ピンが、第1コネクタ24のそれぞれの接点穴に入って、第1コネクタ24が第2コネクタ14にはまる。
【0043】
給電機器22は、起動シーケンスにおいて受電装置10の検出動作を行う(S18)。IEEE802.3af,802.3atで、給電機器22が、検出モードとして、25Kオームの直流インピーダンスを検出し、受電装置10がPoE対応の受電装置10であるかを確認する。PoEにおける安全性を確保するためである。検出モードについては、図6に関連して後述する。
【0044】
給電機器22と受電装置10との間で、PD検出などの起動シーケンスが正常に進行して初期化が成功すると(S20)、給電機器22は、成功通知を制御装置40へ送信する(S22)。起動シーケンスでは、IEEE802.3af,802.3atのPoEネゴシエーションを終了した後に、IEEE802.3のEthernetネゴシエーションを行う。Ethernetネゴシエーションでは、工作機械90側のPHY(OSI階層モデルの物理層を実装する通信回路)と受電装置10側のPHYとの間で、リンクパルス等を用いた通信速度や通信モードのネゴシエーションを自動的に行う。これにより、OSI階層モデルの物理層とデータリンク層が確立される。そのあと、MAC(Media Access Control)コントローラによるトランスポート層の整備を行い、IP通信および上位プロトコル通信が可能になる。
【0045】
この段階で、受電装置10に電力を提供するとともに、制御装置40と受電装置10の間でデータ伝送を行うための通信環境が整う(S24)。制御装置40と受電装置10の間をつなぐケーブル26は、ツイストペアケーブルと同等の品質を有し、IPプロトコルの通信が可能である。4組の通信路が確保されるため、使用するコネクタとケーブル26の周波数特性が良好であれば、1Gbpsを超えるEthernetリンクを構成することも可能となる。また、71W程度の給電が可能になる。
【0046】
そして、制御装置40が受電装置10を制御して所定工程を実施する。受電装置10を使用した所定工程を終えると、次の工具と交換する。
【0047】
NC装置80が、マガジンに格納されている次の工具を工具待機位置に移動させる工具選択指令(T××、「××」:工具番号)を、PLC60へ送ると、PLC60は次の工具を工具待機位置に移動させる。
【0048】
続いて、NC装置80が工具交換指令(例えば、M06、NCプログラムのM06をNC装置80が解読しPLC60用に変換した指令)をPLC60へ送ると、PLC60は工具交換装置50に工具交換指令を送る(S26)。
【0049】
このとき、制御装置40は、工具交換指令をトラップする。受電装置10が主軸20に装着されている状態で、工具交換指令を検出した場合には(S28)、給電機器22(給電モジュール221)を停止させる(S30)。この工具交換指令は、受電装置10を給電機器22から取り外す指令に相当する。これにより、給電機器22は通電を止めて、受電装置10への電力供給を終える。つまり、給電機器22から受電装置10への第2電力(図6に関連して後述する受電装置10が必要とする電力)が止められる。
【0050】
工具交換装置50は、工具交換動作として、受電装置10を主軸20から外す(S32)。このとき、第2コネクタ14が第1コネクタ24から分離される。つまり、第2コネクタ14の8本の接点ピンが、第1コネクタ24のそれぞれの接点穴から抜けて、第1コネクタ24が第2コネクタ14から離れる。つまり、給電を止めた後に、第1コネクタ24と第2コネクタ14との接続が解消される。電力供給が行われていないので、接点開放によるスパークなどは発生しにくくなる。なお、Ethernetの一般的な用途では、運用途中でコネクタを引き抜くようなことはしない。したがって、コネクタを抜く前にPoEによる給電を止めるというシーケンスは規定されていない。
【0051】
図6は、PoEの起動シーケンス図である。
給電機器22は、接続した相手デバイスが受電装置10でない場合には、電力を送らない(給電をしない)。受電装置10以外のデバイスを故障させないようにするためである。
【0052】
具体的には、制御装置40の制御に基づき、給電機器22は、受電装置10が給電機器22に取り付けられ、第1コネクタ24と第2コネクタ14とが接続した後に、起動時に流す微弱電力(第1電力の例)によるネゴシエーションによって、受電装置10を検出する(PD検出)。制御装置40の制御に基づき、最初に、給電機器22が2.8~10Vの電圧を印加して、25kオームの検出用抵抗器を内蔵する受電装置10の有無を識別する。この時流れる電流は、1mA以下である。制御装置40の制御に基づき、給電機器22は、相手デバイスがPoE対応の受電装置10であることがわかった後で、20.5Vの電圧を印加して、受電装置10が必要とする電力を計る。
【0053】
制御装置40の制御に基づき、給電機器22は、受電装置10が必要とする電力が検出された後に、必要な電力(第2電力の例)を受電装置10に供給する。図5においては、給電電圧を44Vや57Vに設定し、給電が行われる。また、図5の形態において、給電は15Wから100Wの範囲内で行われ、受電は12Wから72Wの範囲内で行われる。
【0054】
電力供給前の検出動作は、PSE PI detection mode electrical requirementsで規定されているとおり、検出に用いられる最大電圧は30Vに制限され、最大電流は5mAに制限される。したがって、切屑などによってショートが生じても、電力量が150mW以下であるので発熱などが生じる可能性は低い。
【0055】
切屑などの異物がコネクタ間に挟み込まれている場合、接点同士をつないで短絡電流(Short circuit current)が検出されることがある。また、接点同士が接触できていなければ、開路電圧(Open circuit voltage)が検出される。これらの場合、給電機器22は、電力供給を行わない。また、受電装置10の機能が正常に立ち上がらずタイムアウトになった場合にも、給電機器22は、継続的な電力供給を行わない。
【0056】
図7は、PD検証が失敗する場合のタイムシーケンス図である。
S40~S48までの動作は、図5に示したS10~S18の場合と同様である。
【0057】
起動シーケンスで異常が発生して初期化が失敗すると(S50)、給電機器22は、失敗通知を制御装置40へ送信する(S52)。失敗の例として、上述のように短絡電流を検出し、または開路電圧を検出する。あるいは、タイムアウトを検出する場合もある。
【0058】
制御装置40は、上述の失敗通知を受信することによって異物挟み込みを検知して、洗浄指示と再装着指示をPLC60に送信する(S54)。PLC60が洗浄指示を受信すると、洗浄部70を制御して第1コネクタ24と第2コネクタ14を洗浄させる。具体的には、コネクタの連結位置およびその付近に対して、洗浄液(たとえば、クーラントや水)を噴きかける。あるいは、コネクタの連結位置およびその付近に対して、エアーを吹きかける。これらの噴射によって、切屑などの異物を除去する。
【0059】
制御装置40は、洗浄部70に洗浄させながら、工具交換装置50を制御して、受電装置10をツールマガジンに戻す。具体的には、工具番号として00を付加した工具選択指令(T××、「××」:工具番号)をPLC60へ送り、続いて、工具交換指令をPLC60へ送る。これにより、PLC60は工具交換装置50を制御して、主軸20に装着されている受電装置10をツールマガジンに戻し、主軸20には何も装着されていない状態にする。このようにして、受電装置10が外されるときに、コネクタの連結位置およびその付近に対して、洗浄液を噴きかけたり、エアーを吹きかけたりして、切屑などの異物を除去する。
【0060】
その後、制御装置40は、再び工具交換指令をPLC60へ送り、PLC60は工具交換装置50を制御して、ツールマガジンに戻された受電装置10を主軸20に再装着させる。
【0061】
再装着した後に、S18の場合と同様に、PSE22は、起動シーケンスにおいて受電装置10の検出動作を行う(S62)。異物が除去されれば、S20の場合と同様に、初期化が成功する(S64)。S66以降の動作は、図5に示したS22~S32の場合と同様である。
【0062】
以上のように、工作機械90において、工作機械用装置の一例である受電装置10と他の装置との間で電力伝達および相互通信を行うことができる。このため、工作機械用装置は、自身でバッテリを内蔵する必要がなく、小型化できる。
【0063】
また、小型化以外にも、PoEの機構を使った切屑挟み込み検知を行い、工作機械90内のユースに適合する接点環境を提供することが可能になる。さらに、給電機器22に対する工具交換の事前指示によって電力切断を行う機構(または給電停止処理)を設けることにより、工作機械90で安全に工作機械用装置を用いることが可能になる。
【0064】
[変形例]
これまで説明してきた形態だけでなく、各種変形例があるので、別の形態でもいい点に関して例示する。
まず、IP通信に限定されない。EtherCATやPorfinetなどのフィールドバスも含めて、IEEE802.3環境を使うすべての通信(ツイストペア通信路を使う通信)を利用できる。
【0065】
受電装置10を再装着するときに、外した受電装置10をツールマガジンまで戻さずに、途中で待機させ、待機場所から再装着させるようにしてもよい。
【0066】
ワークを取り付け可能な取付部(例えば、ワーク主軸)に工作機械用装置を取り付けるようにしてもよい。この取付部と、第1コネクタ24と、給電モジュール221との関係は、工具を取り付け可能な取付部(例えば、主軸20)の場合と同様である。
【0067】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記実施形態および上記変形例を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。
【0068】
本開示の工作機械90やその他の装置は、機械要素の他、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、及びプログラムとの協働などによって、実現される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7