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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】電動機温度予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20231113BHJP
【FI】
H02P29/62
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018006094
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2019126204
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神吉 勲
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】八木 敬太
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の設置個所における周囲温度θを計測する周囲温度計測工程と、
電動機温度θを計測する電動機温度計測工程と、
前記電動機の運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づき負荷率δを求める負荷率演算工程と、
前記電動機の学習運転を行い、発熱係数Qと熱時定数Tとを取得する学習運転工程と、
該学習運転工程で取得された発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求める予測曲線演算工程と
を有し、
前記電動機の微小時間Δtにおける温度変化Δθは、発熱係数Q、熱時定数T、電動機温度θ、周囲温度θに基づいて
Δθ={Q-1/T(θ-θ)}Δt
=Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
で求められ、前記発熱係数Qは、予め設定された始動係数α及び固有発熱係数Qと、前記負荷率演算工程で求められた負荷率δとに基づいて
Q=α・δ・Q
と表されることから、
Δθ={α・δ・Q-1/T(θ-θ)}Δt
=α・δ・Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
となり、
前記学習運転工程において、発熱係数Qを取得すると共に、前記周囲温度計測工程で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計測工程で計測された電動機温度θとを含む複数のデータから熱時定数Tを取得し、
前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I=0[%]
P/P=0[%]
である場合、電動機は停止していると判定され、負荷率δは
δ=0
とされて、停止時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=0
となり、停止時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I≧110[%]
P/P≧110[%]
である場合、電動機は始動時であると判定され、負荷率δは
δ=1
と設定され、始動時の始動係数αは2又は3
と設定され、始動時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=α・Q
となり、始動時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I<110[%]
P/P<110[%]
である場合、電動機は運転時(定格範囲内)であると判定され、始動係数αは
α=1
と設定され、運転時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=δ・Q
となり、運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づく負荷率δと固有発熱係数Qとから求められて、運転時における熱時定数Tは始動時と略等しくなるため、
T=T(但し、T>T)
と設定される電動機温度予測方法。
【請求項2】
電動機の設置個所における周囲温度θを計測する周囲温度計と、
電動機温度θを計測する電動機温度計と、
前記電動機の運転時における電流値I又は電力値Pを計測する計測器と、
該計測器で計測された電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づき負荷率δを求め、前記電動機の学習運転を行った際、発熱係数Qと熱時定数Tとを取得し、該発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求める演算装置と
を備え、
前記電動機の微小時間Δtにおける温度変化Δθは、発熱係数Q、熱時定数T、電動機温度θ、周囲温度θに基づいて
Δθ={Q-1/T(θ-θ)}Δt
=Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
で求められ、前記発熱係数Qは、予め設定された始動係数α及び固有発熱係数Qと、前記負荷率δとに基づいて
Q=α・δ・Q
と表されることから、
Δθ={α・δ・Q-1/T(θ-θ)}Δt
=α・δ・Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
となり、
前記演算装置において、前記学習運転時に、発熱係数Qを取得すると共に、前記周囲温度計で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計で計測された電動機温度θとを含む複数のデータから熱時定数Tを取得し、
前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I=0[%]
P/P=0[%]
である場合、電動機は停止していると判定され、負荷率δは
δ=0
とされて、停止時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=0
となり、停止時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I≧110[%]
P/P≧110[%]
である場合、電動機は始動時であると判定され、負荷率δは
δ=1
と設定され、始動時の始動係数αは2又は3
と設定され、始動時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=α・Q
となり、始動時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I<110[%]
P/P<110[%]
である場合、電動機は運転時(定格範囲内)であると判定され、始動係数αは
α=1
と設定され、運転時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=δ・Q
となり、運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づく負荷率δと固有発熱係数Qとから求められて、運転時における熱時定数Tは始動時と略等しくなるため、
T=T(但し、T>T)
と設定される電動機温度予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機温度予測方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、石炭火力発電所において、石炭を搬送するベルトコンベヤの場合、石炭に金属片等の異物が混入していることが検知されると、一旦、ベルトコンベヤの運転を停止し、金属片等の異物を除去した後、ベルトコンベヤの運転を再開することが行われる。
【0003】
このため、前記ベルトコンベヤに用いられる電動機は、始動、運転、停止、再始動が繰り返し行われる。
【0004】
前記電動機は、特に始動時の発熱が大きく、運転、停止、再始動を繰り返していると熱が蓄積するため、停止後、電動機を再始動するまでの待機時間をある程度設ける必要がある。
【0005】
従来、前記電動機を再始動するまでの停止時間は、ある程度余裕を持って最も長く掛かると思われる時間に設定されている。
【0006】
尚、電動機の停止時間を演算する装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-191537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のように、電動機を再始動するまでの停止時間を想定される最長の時間に設定するのでは、運転できない時間が必要以上に長引いて全体の運転に支障を来たす虞があり、改善が望まれていた。
【0009】
又、特許文献1に開示されている装置では、予め設定された電動機の運転時の熱時定数と停止時の熱時定数と許容始動回数とを単に使用しているだけであるため、時々刻々変化する電動機の周囲温度や負荷状態に対応することが困難となっていた。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、電動機の周囲温度や負荷状態に応じて停止時間を必要最小限に抑えることができ、再始動可能な時間を高精度に把握し得る電動機温度予測方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の電動機温度予測方法は、電動機の設置個所における周囲温度θを計測する周囲温度計測工程と、
電動機温度θを計測する電動機温度計測工程と、
前記電動機の運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づき負荷率δを求める負荷率演算工程と、
前記電動機の学習運転を行い、発熱係数Qと熱時定数Tとを取得する学習運転工程と、
該学習運転工程で取得された発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求める予測曲線演算工程と
を有し、
前記電動機の微小時間Δtにおける温度変化Δθは、発熱係数Q、熱時定数T、電動機温度θ、周囲温度θに基づいて
Δθ={Q-1/T(θ-θ)}Δt
=Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
で求められ、前記発熱係数Qは、予め設定された始動係数α及び固有発熱係数Qと、前記負荷率演算工程で求められた負荷率δとに基づいて
Q=α・δ・Q
と表されることから、
Δθ={α・δ・Q-1/T(θ-θ)}Δt
=α・δ・Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
となり、
前記学習運転工程において、発熱係数Qを取得すると共に、前記周囲温度計測工程で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計測工程で計測された電動機温度θとを含む複数のデータから熱時定数Tを取得し、
前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I=0[%]
P/P=0[%]
である場合、電動機は停止していると判定され、負荷率δは
δ=0
とされて、停止時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=0
となり、停止時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I≧110[%]
P/P≧110[%]
である場合、電動機は始動時であると判定され、負荷率δは
δ=1
と設定され、始動時の始動係数αは2又は3
と設定され、始動時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
α・Q
となり、始動時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I<110[%]
P/P<110[%]
である場合、電動機は運転時(定格範囲内)であると判定され、始動係数αは
α=1
と設定され、運転時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=δ・Q
となり、運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づく負荷率δと固有発熱係数Qとから求められて、運転時における熱時定数Tは始動時と略等しくなるため、
T=T(但し、T>T)
と設定されるようにすることができる。
【0013】
一方、本発明の電動機温度予測装置は、電動機の設置個所における周囲温度θを計測する周囲温度計と、
電動機温度θを計測する電動機温度計と、
前記電動機の運転時における電流値I又は電力値Pを計測する計測器と、
該計測器で計測された電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づき負荷率δを求め、前記電動機の学習運転を行った際、発熱係数Qと熱時定数Tとを取得し、該発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求める演算装置と
を備え、
前記電動機の微小時間Δtにおける温度変化Δθは、発熱係数Q、熱時定数T、電動機温度θ、周囲温度θに基づいて
Δθ={Q-1/T(θ-θ)}Δt
=Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
で求められ、前記発熱係数Qは、予め設定された始動係数α及び固有発熱係数Qと、前記負荷率δとに基づいて
Q=α・δ・Q
と表されることから、
Δθ={α・δ・Q-1/T(θ-θ)}Δt
=α・δ・Q・Δt-{1/T(θ-θ)}・Δt
となり、
前記演算装置において、前記学習運転時に、発熱係数Qを取得すると共に、前記周囲温度計で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計で計測された電動機温度θとを含む複数のデータから熱時定数Tを取得し、
前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I=0[%]
P/P=0[%]
である場合、電動機は停止していると判定され、負荷率δは
δ=0
とされて、停止時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=0
となり、停止時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I≧110[%]
P/P≧110[%]
である場合、電動機は始動時であると判定され、負荷率δは
δ=1
と設定され、始動時の始動係数αは2又は3
と設定され、始動時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=α・Q
となり、始動時における熱時定数Tは
T=T
と設定され、
I/I<110[%]
P/P<110[%]
である場合、電動機は運転時(定格範囲内)であると判定され、始動係数αは
α=1
と設定され、運転時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=δ・Q
となり、運転時における電流値Iの定格電流値Iに対する比率I/I又は電力値Pの定格電力値Pに対する比率P/Pに基づく負荷率δと固有発熱係数Qとから求められて、運転時における熱時定数Tは始動時と略等しくなるため、
T=T(但し、T>T)
と設定されるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電動機温度予測方法及び装置によれば、電動機の周囲温度や負荷状態に応じて停止時間を必要最小限に抑えることができ、再始動可能な時間を高精度に把握し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の電動機温度予測方法及び装置の実施例を示すシステム構成図である。
図2】本発明の電動機温度予測方法及び装置の実施例を示すフローチャートである。
図3】本発明の電動機温度予測方法及び装置の実施例における発熱係数Qと熱時定数Tとの振り分けの仕方を示すフローチャートである。
図4】本発明の電動機温度予測方法及び装置の実施例における電動機温度θの予測曲線を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1図4は本発明の電動機温度予測方法及び装置の実施例である。
【0019】
図1において、10は電動機を示し、本実施例の電動機温度予測装置は、周囲温度計20と、電動機温度計30と、計測器40と、演算装置50と、表示装置60とを備えている。
【0020】
前記周囲温度計20は、電動機10の設置個所における周囲温度θを計測するようになっている。
【0021】
前記電動機温度計30は、電動機温度θを計測するようになっている。
【0022】
前記計測器40は、電流計又は電力計であり、前記電動機10の電流値I又は電力値Pを計測するようになっている。
【0023】
前記演算装置50は、前記計測器40で計測された電流値I又は電力値Pに基づき負荷率δを求め、前記電動機10の学習運転を行った際、前記周囲温度計20で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計30で計測された電動機温度θと、前記負荷率δと、予め設定された電動機10の始動係数α及び固有発熱係数Qとに基づき発熱係数Qと熱時定数Tとを取得し、該発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求めるようになっている。
【0024】
前記表示装置60は、前記演算装置50で求められた電動機温度θの予測曲線を表示するようになっている(図4参照)。
【0025】
前記電動機10の学習運転時には、下記の理論式が用いられる。即ち、前記電動機10の微小時間Δtにおける温度変化Δθは、
[数1]
Δθ={Q-1/T(θ-θ)}Δt
で求められる。ここで、[数1]式における発熱係数Qは、
[数2]
Q=α・δ・Q
と表されるため、[数1]式は、
[数3]
Δθ={α・δ・Q-1/T(θ-θ)}Δt
となる。
【0026】
前記始動係数α及び固有発熱係数Qは予め設定される数値で、前記負荷率δは電流値I又は電力値Pに基づいて求められるため、前記電動機10の学習運転時に、複数のデータを計測して上記の理論式に代入した連立方程式を解くことにより、発熱係数Qと熱時定数Tとを取得することができる。
【0027】
又、本実施例の電動機温度予測方法は、図2に示す如く、周囲温度計測工程(ステップS10)と、電動機温度計測工程(ステップS20)と、負荷率演算工程(ステップS30)と、学習運転工程(ステップS40)と、予測曲線演算工程(ステップS50)とを有している。
【0028】
前記周囲温度計測工程は、電動機10の設置個所における周囲温度θを計測する工程である。
【0029】
前記電動機温度計測工程は、電動機温度θを計測する工程である。
【0030】
前記負荷率演算工程は、前記電動機10の電流値I又は電力値Pに基づき負荷率δを求める工程である。
【0031】
前記学習運転工程は、前記電動機10の学習運転を行い、前記周囲温度計測工程で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計測工程で計測された電動機温度θと、前記負荷率演算工程で求められた負荷率δと、予め設定された電動機10の始動係数α及び固有発熱係数Qとに基づき発熱係数Qと熱時定数Tとを取得する工程である。
【0032】
前記予測曲線演算工程は、前記学習運転工程で取得された発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を求める工程である。
【0033】
尚、前記予測曲線演算工程で求められた電動機温度θの予測曲線は、表示装置60(図1参照)に、例えば、図4に示す如く、表示され、図2のフローチャートにおいて、更新時間が経過したか否かの判定(ステップS60参照)で更新時間が経過したと判定された後、運転終了であるか否かの判定(ステップS70参照)で運転終了でなければ、前記予測曲線演算工程に戻って新たに電動機温度θの予測曲線が求められるようになっている。前記更新時間は、例えば、1分程度に設定することができるが、1分に限定されるものではなく、必要に応じて変更すれば良い。
【0034】
前記演算装置50において、前記電動機10の学習運転(学習運転工程)時、前記発熱係数Qと熱時定数Tはそれぞれ、図3に示す如く、前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率に基づき停止時と始動時と運転時とに分けて取得されるようになっている。これは、電動機10の運転状態の遷移(停止・始動・運転)に応じて異なる発熱係数Qと熱時定数Tを選定する必要があるためである。
【0035】
因みに、前記熱時定数Tは、温度変化に対する応答性の度合い即ち電動機10がある温度から別のある温度まで変化するのに要する時間を表す定数であって、電動機10の停止時と運転時(始動時)で変化し、停止時における熱時定数Tは運転時(始動時)における熱時定数Tより大きくなる。これは、電動機10の停止時には冷却ファン(図示せず)が停止しており、電動機10の運転時(始動時)には冷却ファンが駆動されるためである。例えば、電動機10が周囲温度θより高い温度で停止されると冷却ファンも停止するため、温度は緩やかに低下し冷えるのに時間が掛かるのに対し、電動機10が周囲温度θより高い温度の状態からそのまま運転が継続されると冷却ファンも回っているため、停止時より温度が速く低下し冷える時間が短くなる。
【0036】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0037】
電動機10の設置個所における周囲温度θは周囲温度計20で計測され(図2のステップS10の周囲温度計測工程参照)、電動機温度θは電動機温度計30で計測され(図2のステップS20の電動機温度計測工程参照)、前記電動機10の電流値I又は電力値Pは計測器40で計測され、演算装置50へ入力され、前記演算装置50において、計測器40で計測された電流値I又は電力値Pに基づき負荷率δが求められる(図2のステップS30の負荷率演算工程参照)。
【0038】
先ず、前記電動機10の学習運転が行われる(図2のステップS40の学習運転工程参照)。前記電動機10の学習運転時には、前記周囲温度計20で計測された周囲温度θと、前記電動機温度計30で計測された電動機温度θと、前記負荷率δと、予め設定された電動機10の始動係数α及び固有発熱係数Qとに基づき発熱係数Qと熱時定数Tとが取得される。前記電動機10の学習運転時には、想定されるさまざまな運転が行われ、複数のデータが計測されて[数1]式に代入され、連立方程式を解くことにより、発熱係数Qと熱時定数Tとが取得される。
【0039】
前記発熱係数Qと熱時定数Tはそれぞれ、図3に示す如く、前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率に基づき停止時と始動時と運転時とに分けて取得される。
【0040】
前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I=0[%]
P/P=0[%]
である場合、電動機10は停止していると判定され、負荷率δは
δ=0
とされて、停止時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=0
となり、停止時における熱時定数Tは
T=T
と設定される。
【0041】
又、前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I≧110[%]
P/P≧110[%]
である場合、電動機10は始動時であると判定され、負荷率δは
δ=1
と設定され、始動時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=α・Q
となり、始動時における熱時定数Tは
T=T
と設定される。尚、始動時の始動係数αは、例えば、2や3といった数値として設定される。
【0042】
更に又、前記電流値Iの定格電流値Iに対する比率又は前記電力値Pの定格電力値Pに対する比率が
I/I<110[%]
P/P<110[%]
である場合、電動機10は運転時(定格範囲内)であると判定され、始動係数αは
α=1
と設定され、運転時における発熱係数Qは
Q=α・δ・Q
=δ・Q
となり、運転時における熱時定数Tは始動時と略等しくなるため、
T=T
と設定される。
【0043】
そして、前記発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線が求められる(図2のステップS50の予測曲線演算工程参照)。
【0044】
前記演算装置50で求められた電動機温度θの予測曲線は表示装置60に表示され、図2のフローチャートにおいて、予め設定された更新時間が経過したか否かの判定が行われ(ステップS60参照)、更新時間が経過していると判断されると、その時点で運転終了であるか否かの判定が行われ(ステップS70参照)、運転終了でなければ、前記ステップS50の予測曲線演算工程に戻って新たに電動機温度θの予測曲線が求められる。
【0045】
前記表示装置60に表示される電動機温度θの予測曲線は、例えば、図4に示すようなものとなる。即ち、始動開始から電動機温度θが上昇し、始動完了後は、冷却ファンも回っているため、温度上昇勾配が徐々に緩やかとなる。ある時点(例えば、始動開始からおよそ50分経過した時点)で電動機10を停止し、直後に再始動すると、電動機温度θが停止時の温度(図4の例ではおよそ70[℃])から上昇し、最高許容温度(例えば、95[℃])に到達するものの、冷却ファンの作動で電動機温度θは低下していく。その後、ある時点(例えば、始動開始から90分経過した時点)で電動機10を停止すると、冷却ファンも停止するため、電動機温度θは運転時より緩やかな勾配で次第に低下していく。ここで、例えば、始動開始から停止・再始動を経ておよそ65分経過後の時点(電動機温度θはおよそ76[℃])で仮に電動機10を停止し、直後に再始動すると、電動機温度θが最高許容温度を超えて100[℃]近くまで上昇してしまうことが判る。これにより、オペレータは、電動機温度θの予測曲線から停止・再始動できる時間を精度良く把握することが可能となる。
【0046】
この結果、本実施例の場合、従来のように、電動機10を再始動するまでの停止時間を想定される最長の時間に設定するのとは異なり、運転できない時間が必要以上に長引くようなことが避けられ、全体の運転が効率良く行われる。
【0047】
又、特許文献1に開示されている装置のように、予め設定された電動機10の運転時の熱時定数と停止時の熱時定数と許容始動回数とを単に使用しているだけではなく、本実施例では、学習運転で取得された発熱係数Q及び熱時定数Tと、現時点での周囲温度θ、電動機温度θ及び負荷率δとに基づき通常運転時における電動機温度θの予測曲線を予測曲線演算工程で求めているため、時々刻々変化する電動機10の周囲温度や負荷状態を考慮した精度の高い対応が可能となる。
【0048】
こうして、電動機10の周囲温度や負荷状態に応じて停止時間を必要最小限に抑えることができ、再始動可能な時間を高精度に把握し得る。
【0049】
尚、本発明の電動機温度予測方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 電動機
20 周囲温度計
30 電動機温度計
40 計測器
50 演算装置
60 表示装置
図1
図2
図3
図4