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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】ガラスユニット
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20231113BHJP
   E06B 3/677 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C03C27/06 101D
E06B3/677
C03C27/06 101J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019022116
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128318
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】中澤 達洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英美
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/132869(WO,A1)
【文献】国際公開第03/000613(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157520(WO,A1)
【文献】特開2001-180985(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159305(WO,A1)
【文献】特表平11-513015(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0238105(US,A1)
【文献】国際公開第2003/000613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C
E06B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスユニットであって、
第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と所定間隔をおいて対向配置され、前記第1ガラス板との間に内部空間を形成する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板の周縁の隙間を封止する封止材と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される複数のスペーサと、
を備え、
前記内部空間が真空状態となるように減圧されており、
前記第1及び第2ガラス板の厚みが、5.0mm以下であり、
前記内部空間の厚みが、0.2mm以下であり、
前記各スペーサの圧縮強度が、3000MPa以上であり、
前記スペーサのピッチが、15mm以上であり、
前記スペーサの外径が、0.1mm以上0.4mm以下であり、
前記各スペーサの熱伝導率が、3.0W/mK以下であり、
前記ガラスユニットの熱貫流率が、1.3W/(m2 K)以下であり、
前記各スペーサの断面積S(mm2)について、以下の式(1)および式(2)を充足する、ガラスユニット。
R≦(800/π)*S+13 (1)
25*10-4π≦S≦400*10-4π (2)
但し、Rは、あるスペーサに最も距離が近いスペーサ迄の距離(mm)
【請求項2】
全ての前記スペーサの断面積S(mm2)について、前記式(1)及び前記式(2)を充足する、請求項1のガラスユニット。
【請求項3】
前記複数のスペーサは格子状に配列されており、
前記スペーサのピッチのうち、最も短いピッチをPmin(mm)としたとき、以下の式(3)をさらに充足する、請求項1または2に記載のガラスユニット。
min≦(800/π)*S+13 (3)
【請求項4】
ガラスユニットであって、
第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と所定間隔をおいて対向配置され、前記第1ガラス板との間に内部空間を形成する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板の周縁の隙間を封止する封止材と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される複数のスペーサと、
を備え、
前記内部空間が真空状態となるように減圧されており、
前記第1及び第2ガラス板の厚みが、5.0mm以下であり、
前記内部空間の厚みが、0.2mm以下であり、
前記各スペーサの圧縮強度が、3000MPa以上であり、
前記スペーサのピッチが、15mm以上であり、
前記各スペーサの熱伝導率が、3.0W/mK以下であり、
前記ガラスユニットの熱貫流率が、1.3W/(m2 K)以下であり、
前記スペーサのピッチP(mm)、及び前記各スペーサの外径Φ(mm)について、以下の式(4)及び式(5)を充足する、ガラスユニット。
P≦100*Φ+5 (4)
0.1≦Φ≦0.4 (5)
【請求項5】
前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.2mm以上0.4mm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【請求項6】
前記スペーサのピッチP(mm)が、30mm以下である、請求項5に記載のガラスユニット。
【請求項7】
前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.1mm以上0.3mm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【請求項8】
前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.2mm以上0.3mm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【請求項9】
前記各スペーサの圧縮強度が、4000MPa以上である、請求項8に記載のガラスユニット。
【請求項10】
前記スペーサのピッチP(mm)が、20mm以上である、請求項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【請求項11】
前記各スペーサは、炭素成分を含有しない材料で形成されている、請求項1から10のいずれかに記載のガラスユニット。
【請求項12】
前記各スペーサの破壊靱性値KICは、1.0MPa・m1/2以上である、請求項1から11のいずれかに記載のガラスユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物等の窓ガラスには、複層ガラスで形成されたガラスユニットが多く採用されている。ガラスユニットは、2以上のガラス板の間に内部空間を形成したものであり、これによって、室内の断熱性を高めることを目的としている。このようなガラスユニットは複数の種類があり、断熱効果をさらに高めるため、内部空間を真空状態に減圧したガラスユニットが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/136152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなガラスユニットは、断熱性能のみならず、強度、遮音についても、検討が必要である。しかしながら、従来のガラスユニットは、そのような検討が十分ではなく、さらなる改良が要望されていた。本発明は、この問題を解決するためになされたのであり、断熱性能のみならず、強度及び遮音性能を向上することができる、ガラスユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と所定間隔をおいて対向配置され、前記第1ガラス板との間に内部空間を形成する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板の周縁の隙間を封止する封止材と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される複数のスペーサと、
を備え、
前記内部空間が真空状態となるように減圧されており、
前記第1及び第2ガラス板の厚みが、5.0mm以下であり、
前記各スペーサの断面積S(mm2)について、以下の式(1)および式(2)を充足する、ガラスユニット。
R≦(800/π)*S+13 (1)
25*10-4π≦S≦400*10-4π (2)
但し、Rは、あるスペーサに最も距離が近いスペーサ迄の距離
【0006】
項2.全ての前記スペーサの断面積S(mm2)について、前記式(1)及び前記式(2)を充足する、項1のガラスユニット。
【0007】
項3.前記複数のスペーサは格子状に配列されており、
前記スペーサのピッチのうち、最も短いピッチをPmin(mm)としたとき、以下の式(3)をさらに充足する、項1または2に記載のガラスユニット。
min≦(800/π)*S+13 (3)
【0008】
項4.第1ガラス板と、
前記第1ガラス板と所定間隔をおいて対向配置され、前記第1ガラス板との間に内部空間を形成する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板の周縁の隙間を封止する封止材と、
前記第1ガラス板と第2ガラス板との間に配置される複数のスペーサと、
を備え、
前記内部空間が真空状態となるように減圧されているか、あるいは前記内部空間に所定のガスが注入されており、
前記第1及び第2ガラス板の厚みが、5.0mm以下であり、
前記スペーサのピッチP(mm)、及び前記各スペーサの外径Φ(mm)について、以下の式(4)及び式(5)を充足する、ガラスユニット。
P≦100*Φ+5 (4)
0.1≦Φ≦0.4 (5)
【0009】
項5.前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.2mm以上0.4mm以下である、項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【0010】
項6.前記スペーサのピッチP(mm)が、30mm以下であり、
前記各スペーサの圧縮強度が、3000MPa以上である、項5に記載のガラスユニット。
【0011】
項7.前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.1mm以上0.3mm以下である、項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【0012】
項8.前記各スペーサの外径Φ(mm)が、0.2mm以上0.3mm以下である、項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【0013】
項9.前記各スペーサの圧縮強度が、4000MPa以上である、項8に記載のガラスユニット。
【0014】
項10.前記各スペーサの熱伝導率が、3.0W/mK以下である、項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【0015】
項11.前記スペーサのピッチP(mm)が、20mm以上である、項1から4のいずれかに記載のガラスユニット。
【0016】
項12.前記各スペーサは、炭素成分を含有しない材料で形成されている、項1から11のいずれかに記載のガラスユニット。
【0017】
項13.前記各スペーサの破壊靱性KICは、1.0MPa・m1/2以上である、項1から12のいずれかに記載のガラスユニット。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るガラスユニットによれば、ガラス板の割れをさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るガラスユニットの一例を示す平面図である。
図2図1の断面図である。
図3】接着剤が配置されたカバーの例を示す平面図である。
図4】ガラスユニットの割れ防止のためのスペーサの外径とピッチとの関係を示したグラフである。
図5A】直径が0.1mmのガラス製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図5B】直径が0.2mmのガラス製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図5C】直径が0.4mmのガラス製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図6A】直径が0.1mmのジルコニア製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図6B】直径が0.2mmのジルコニア製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図6C】直径が0.4mmのジルコニア製のスペーサを用いたときの遮音性能を示すグラフである。
図7図1のガラスユニットの製造工程を示す概略断面図である。
図8】保護プレートの平面図である。
図9】スペーサの直径と圧縮強度との関係を示すグラフである。
図10】ピッチが20mmのときのスペーサの直径と熱貫流率との関係を示すグラフである。
図11】ピッチが15mmのときのスペーサの直径と熱貫流率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.ガラスユニットの概要>
以下、本発明に係るガラスユニットの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係るガラスユニットの平面図、図2図1の断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係るガラスユニットは、矩形状の2つのガラス板、つまり第1ガラス板1及び第2ガラス板2を有している。本実施形態においては、図2中の下側に示される第2ガラス板2が、第1ガラス板1よりもやや大きく形成されている。両ガラス板1,2の間には、複数のスペーサ3が配置され、これらスペーサ3によって、両ガラス板1,2の間に所定間隔の隙間が形成される。また、両ガラス板1,2の周縁の隙間は、封止材4によって封止されており、これによって、両ガラス板1,2の間には、密閉されて真空状態にされた内部空間100が形成される。さらに、第1ガラス板1には貫通孔11が形成されており、この貫通孔11を塞ぐ板状のカバー5が設けられている。このカバー5は、接着剤6を介して第1ガラス板1に固定されている。以下、各部材について説明する。
【0021】
<2.第1ガラス板及び第2ガラス板>
第1ガラス板1及び第2ガラス板2を構成する材料は、特には限定されず、公知のガラス板を用いることができる。用途に応じて、例えば、型板ガラス、表面処理により光拡散機能を備えたすりガラス、網入りガラス、線入ガラス板、強化ガラス、倍強化ガラス、低反射ガラス、高透過ガラス板、セラミックガラス板、熱線や紫外線吸収機能を備えた特殊ガラス、又は、これらの組み合わせなど種々のガラス板を用いることができる。第1ガラス板1及び第2ガラス板2の厚みは、特には限定されないが、例えば、0.3~5mmであることが好ましく、2~5mmであることがさらに好ましく、3~5mmであることがさらに好ましい。特に、3mm以上であれば、流通量が多いことから、コスト的なメリットが生じるため、好ましい。
【0022】
第1ガラス板1の端部には、上述した貫通孔11が形成されている。この貫通孔11は、内部空間100側に配置される小径部111と、この小径部111と連続し外部に開放する大径部112とで構成されている。小径部111及び大径部112は、同軸の円筒状に形成されており、大径部112の内径が小径部211よりも大きくなっている。そのため、大径部112と小径部111の間には、外部を向く環状の段113が形成されている。
【0023】
小径部111の内径は、例えば、1.0~3.0mmとすることができる。一方、大径部112の内径は、小径部111よりも大きく、5~15mmとすることができる。5mm以上とすることで、それに併せて小径部111を確保できるため、後述するように、内部空間100を真空状態にするときの空気の排出を効率的に行うことができる。また、後述するように、接着剤6を載せる段113のスペースを確保することができ、これによって接着剤6が溶融前に小径部111を塞ぐのを防止することができる。一方、15mm以内とすることで、貫通孔11を目立たなくすることができる。
【0024】
また、大径部112と小径部111の径の差は、例えば、3~20mmとすることができる。径の差を3mm以上とすることで、後述するように、接着剤6を配置するスペースを適切に確保することができる。また、径の差が大きすぎると見栄えが悪くなるため、20mmを上限とすることが好ましい。
【0025】
また、大径部112の深さ、つまり軸方向の長さは、例えば、0.5~1.5mmとすることができる。
【0026】
第2ガラス板2は、第1ガラス板1と同じ材料で形成することができる。上述したように、第2ガラス板2は、第1ガラス板1よりもやや大きく、その周縁において、第1ガラス板1からはみ出した部分に、上述した封止材4が配置され、この封止材4によって、両ガラス板1,2の周縁の隙間が封止される。
【0027】
また、各ガラス板1,2は、化学強化、風冷強化などの強化を施したガラス板であってもよい。特に、第2ガラス板2には、貫通孔が形成されていないため、後述する封止材や接着剤の加熱工程において強化の程度が低下するのを防止することができるため、強化を施してもよい。風冷強化は、コストの観点から化学強化よりも有利であるものの、後述する封止材4や接着剤6の加熱工程で強化の程度が低下するおそれがある。これに対して、化学強化は,加熱工程においても、強化の程度が低下するのを抑制することができる。
【0028】
<3.カバー及び接着剤>
カバー5は、円板状に形成されており、その外径は、第1ガラス板1の貫通孔11の大径部112のよりも小さく、小径部111よりも大きくなっている。したがって、カバー5は、大径部112と小径部111との間の段113に配置されるようになっている。後述するように、減圧工程においては、カバー5と貫通孔11の間から空気を吸引するため、カバー5の外周面と大径部112の内周面との間には、隙間が必要である。そのため、カバー5は、大径部112の内径よりも0.2~1.5mm小さい外径とすることが好ましい。
【0029】
また、カバー5の厚みは、大径部112の深さよりも小さくされており、例えば、大径部112の深さとカバー5の厚みとの差が0.4~0.7mmであることが好ましい。後述するように、カバー5の表面は、第1ガラス板1の表面と概ね同一平面上に配置されるため、大径部112の深さとカバー5の厚みとの差が、上述した接着剤6の厚みとなる。したがって、例えば、この差が0.4mmよりも小さいと、接着剤6の厚みが小さくなるため、接着強度が低下するおそれがある。一方、この差が0.7mmより大きいと、接着剤6の厚みが大きくなるが、そのようにすると、後述するように接着剤6を溶融させるための熱が接着剤6に均一に伝達されず、接着強度が低下するおそれがある。また、カバー5の厚み、あるいは第1ガラス板1の厚みが薄くなり、割れが生じる可能性がある。
【0030】
カバー5を構成する材料は、非通気性で、接着剤6及び封止材4を溶融する際の加熱温度よりも高い融点を有していれば、特には限定されないが、第1ガラス板1と同じ熱膨張率を有する材料で形成されていることが好ましく、特に、第1ガラス板1と同じ材料であることが好ましい。これにより、カバー5と接着剤6との熱膨張の差、及び第1ガラス板1と接着剤6との熱膨張の差を同じにすることができ、後述する製造工程において、第1ガラス板1やカバー5が割れるのを防止することができる。
【0031】
接着剤6は、カバー5を第1ガラス板1に接着できるのであれば、特には限定されないが、例えば、低融点ガラス、金属半田を含有したものを用いることができる。低融点ガラスは、例えば、鉛系、リン酸スズ系、ビスマス系、またはバナジウム系を採用することができる。低融点ガラスには、添加剤としてフィラーなどを含有することができる。また、これらは結晶性または非結晶性のいずれであってもよい。非結晶性の低融点ガラスは、後述するように減圧工程において発泡するが、流動性がよいため、カバー5を固定しやすい。一方、結晶性の低融点ガラスは、減圧工程において発泡しがたいため、封止性能が高いが、流動性が低いおそれがある。
【0032】
また、接着剤6は後述するように、溶融した後、冷却して固化するが、固化したときの接着剤6の収縮により第1ガラス板1が割れるのを防止するため、例えば、室温から300℃まで温度を上昇させたときに、第1ガラス板1の熱膨張率と接着剤6の熱膨張率との差が、20×10-7mm/℃以下であることが好ましい。なお、上記のように接着剤6にガラスが含有されていると、接着対象となる第1ガラス板1と同質になるため、熱膨張率の差を特に小さくすることができる。これにより、例えば、接着剤6を加熱して固定する場合には、第1ガラス板1との熱膨張率の差が小さいため、割れを抑制することができる。
【0033】
接着剤6の厚みは、最終製品となったときに、大径部112の深さとカバー5の厚みとの差となるようにしておく。後述するように、接着剤6は、加熱して溶融し、その後、冷却して固化させる。そのため、接着剤6の加熱前の厚みは、加熱後よりも大きくすることができる。また、接着剤6が加熱され溶融するときに、例えば、空気が進入することで接着剤6が膨張する場合もある。このような場合は、接着剤6の加熱前の厚みは、加熱後よりも小さくすることができる。
【0034】
また、接着剤6は、貫通孔11の段113に直接配置してもよいが、予めカバー5に取り付け、そのカバー5を貫通孔11に取り付けてもよい。この場合、接着剤6は、仮焼成によりカバー5に固定することができる。例えば、接着剤6として、ビスマス系の低融点ガラスを用いる場合には、420~460℃程度で、仮焼成することができる。あるいは、インクジェットなどの印刷によってカバー5に取り付けることもできる。印刷による場合には、接着剤6の厚みは、例えば、0.2mm以下とすることができる。
【0035】
接着剤6の形状は、貫通孔11の段113に配置されるような位置、形状に形成されていればよいが、特に環状に形成することが好ましい。但し、後述するように、減圧工程での空気の通路を確保するため、不連続な環状、例えば、図3に示すように、C字状(a)、複数の円弧を間隔をおいて組み合わせたもの(b)、放射状に配置したもの(c)など、少なくとも一つの隙間を有するように形成されることが好ましい。
【0036】
<4.封止材>
封止材4は、接着剤6と同様の材料を用いることができる。例えば、封止材4として、非結晶性の低融点ガラスを用いると、流動性が高いため、両ガラス板1,2の隙間に封止材4を流し込みやすく、好ましい。この場合、封止性能を向上するため、封止材4が、第1ガラス板1の端面から、例えば、2~7mm入り込むことが好ましい。上限は7mm入り込む。
【0037】
上記のように封止材4としては、低融点ガラスまたは金属半田を用いることができるが、後述する製造工程を採用する場合には、接着剤6の融点が、封止材4の融点よりも高いことが必要である。例えば、接着剤6及び封止材4がともに、同種の低融点ガラスである場合には、低融点ガラスの量や添加物であるフィラーなどの量を調整することで、接着剤6の融点を封止材4の融点よりも高くすることができる。
【0038】
この観点から、例えば、封止材4として低融点ガラスを用いる場合には、接着剤6として、低融点ガラスよりも融点の低い金属半田を用いることはできない。その一方で、封止材4及び接着剤6として、ともに金属半田を用いることもできるが、上述したように、接着剤6の融点が高くなるように調整しておくことが必要である。
【0039】
<5.スペーサ>
ガラスユニットの内部空間100は、真空状態になるため、これを挟む両ガラス板1,2は互いに吸引され、内部空間に向かって撓むおそれがある。そして、この撓みによってガラス板1,2に割れが生じるおそれがある。例えば、ガラス板1,2同士が接触すると、特に割れが生じるおそれがある。これを防止するため、両ガラス板1,2の間にはスペーサ3が配置され、両ガラス板1,2の間の距離を一定に保つ。
【0040】
スペーサ3は、円柱状に形成されているが、これ以外にも、多角柱状に形成することもできる。但し、断面が円形であれば、旋盤での加工が可能であるため、好ましい。旋盤での加工は精度が高いからである。スペーサ3を形成するための材料は、例えば、コーディエライト、ムライト、ジルコニアなどのセラミックス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)など樹脂、ガラス等、種々の材料で形成することができ、特には限定されない。但し、炭素成分を含有しない材料を用いることが好ましい。これは、スペーサ3が炭素成分を含有していると、経時変化によりスペーサ3から内部空間100へ気体が放出されるおそれがあり、これによって真空状態を維持できないおそれがあることによる。また、気体の放出によりガラスユニットの熱貫流率が上昇し、断熱性能が低下するおそれもある。
【0041】
このほか、スペーサ3は、ヤング率の大きい材料で形成することが好ましい。これは、スペーサは、ガラス板1,2を支持する役割が必要であるところ、支持する時の応力により、スペーサ3の収縮量が小さい方が、ガラス板1,2を強固に支持できるからである。この観点から、スペーサ3は、コーディエライト、ムライト、ジルコニアなどのセラミックスで形成することが好ましい。
【0042】
上記のように、スペーサ3は、両ガラス板1,2の間に挟まれるため、ある程度の強度が必要である。この観点から、スペーサ3の圧縮強度は、スペーサ3のピッチPにもよるが、200MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましく、3000MPa以上であることがさらに好ましく、4000MPa以上であることが特に好ましい。
【0043】
また、スペーサ3として、例えば、脆性材料であるジルコニアなどを用いる場合には、破壊靱性値KICが1.0MPa・m1/2以上の材料であることが好ましい。破壊靱性値は、セラミック及びガラスについては、JIS R1607に基づいて測定され、金属については、JIS G0564に基づいて測定され、樹脂については、ISO 13586に基づいて測定される。
【0044】
上記のように、本実施形態に係るスペーサ3は、セラミックス、樹脂、またはガラスのいずれかの材料が用いられるが、これは熱伝導率の低い材料を用いるためである。これに対して、例えば、金属のように熱伝導率の高い材料でスペーサ3を形成すると、スペーサ3を通じて熱が伝導するおそれがあり、これによって、ガラスユニットの断熱性が損なわれるおそれがある。そこで、スペーサ3の熱伝導率は、15W/mK以下であることが好ましく、10W/mK以下であることがより好ましく、5.0W/mK以下であることがさらに好ましく、3.0W/mK以下であることが特に好ましい。なお、セラミックスの熱伝導率は概ね2.0~5.0W/mKであり、樹脂の熱伝導率は概ね1.0W/mK以下であり、ガラスの熱伝導率は概ね0.5~1.5W/mKである。
【0045】
また、ガラスユニットの断熱性を向上するため、ガラスユニットの熱貫流率Uは、1.2W/(m2 K)以下であることが好ましく、1.0W/(m2 K)以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、熱貫流率Uは、熱貫流抵抗Rの逆数であり、熱貫流抵抗Rは、以下の式(A)のように表される。
【数1】
he:室外側熱伝達率
hg:ガラス体の熱伝達率
hi:室内側熱伝達率
【0047】
スペーサ3の配置方法は特には限定されないが、格子状に配置されることが好ましい。なお、以下では、特に断りのない限り、複数のスペーサ3は格子状に配置され、円柱状に形成されているものとする。
【0048】
ところで、ガラスユニットの内部空間100は、真空状態になるため、これを挟む両ガラス板1,2は互いに吸引され、内部空間に向かって撓むおそれがある。そして、この撓みによってガラス板1,2に割れが生じるおそれがある。これを防止するため、両ガラス板1,2の間にはスペーサ3が配置される。この点について、本発明者が検討したところによると、スペーサ3の外径Φと格子状に配置されたスペーサ3のピッチPとの関係は、図4に示す線Zよりも低い範囲とすることが必要であることが分かった。すなわち、線Zよりも上の範囲では、ガラスユニットに割れが生じることが分かった。したがって、スペーサの外径Φ(mm)とスペーサ3のピッチP(mm)とは、図4の線Lで示す以下の式(B)を充足する必要があることが分かった。
P≦100*Φ+5 (B)
【0049】
なお、図4の検討において用いたガラスユニットでは、両ガラス板1,2の厚みを3.0mm、内部空間100の厚みを0.2mmとしている。したがって、例えば、ガラス板1,2の厚みが5mmであれば、式(B)を充足する限りはガラス板1,2が破損するのを防止することができる。
【0050】
また、本実施形態において、スペーサ3の外径Φは、以下の式(C)、さらに好ましくは式(D)を充足する。
0.1≦Φ≦0.4 (C)
0.2≦Φ≦0.3 (D)
【0051】
これは、後述するように、スペーサ3の直径が大きくなりすぎると、ガラス板1,2との接触面積が大きくなり、ガラスユニットの断熱性能が低下するからである。一方、スペーサ3の直径が小さくなりすぎると、後述するように、ガラスユニットの遮音性能が低下するからである。
【0052】
また、スペーサ3のピッチは、上記式(B)、及び式(C)または式(D)により、15mm以上45mm以下であることが好ましく、25mm以上35mm以下であることがさらに好ましい。これは次の観点からである。スペーサ3のピッチが大きすぎると、ガラス板が撓んで接触し、ガラス板1,2の割れが生じるおそれがあることによる。そして、ガラス板の割れが防止できれば、ガラス板1,2の強度を下げることができるため、ガラス板1,2の薄板化を図ることができる。一方、スペーサのピッチが大きいと、配置すべきスペーサの数が少なくなるため、コストを低減できるとともに、外観性状が向上する。
【0053】
また、本発明者の検討により、スペーサ3のピッチPを大きくすると、遮音性能が低下することが分かった。図5A図5Cは、厚みが3mmのフロートガラスの間に、高さ0.2mmのガラス製のスペーサを格子状に配置したときの遮音性能を示している。スペーサのピッチは、20mm,40mm,60mm,80mmとした(図5Aのみ80mmのピッチを省略)。また、図5A図5Cにおいて、スペーサの直径は、それぞれ、0.1mm,0.2mm,0.4mmとした。
【0054】
同様に、図6A図6Cは、厚みが3mmのフロートガラスの間に、高さ0.2mmのジルコニア製のスペーサを格子状に配置したときの遮音性能を示している。スペーサのピッチは、20mm,40mm,60mm,80mmとした(図6Aのみ80mmのピッチを省略)。また、図6A図6Cにおいて、スペーサの直径は、それぞれ、0.1mm,0.2mm,0.4mmとした。
【0055】
図5A図5Cにおける矢印は、ピッチが60mmのときの遮音性能を示しているが、スペーサ3の直径が大きくなるほど、遮音性能が高くなっていることが分かる。図6A図6Cの矢印に示すように、この傾向は材料が変わっても同様である。また、ピッチが小さくなるほど、遮音性能は高くなっている。したがって、スペーサ3の直径は、上記のように、0.1mm以上であることが好ましく、スペーサ3のピッチは、上記のように、45mm以下であることが好ましい。
【0056】
スペーサ3の高さは、例えば、0.1~2.0mmとすることができ、0.1~0.5mmであることがさらに好ましい。スペーサ3の高さは、両ガラス板1,2の距離、つまり内部空間100の厚みとなる。
【0057】
<6.ガラスユニットの製造方法>
次に、ガラスユニットの製造方法について説明する。まず、図7に示すような構造を組み立てる。すなわち、上記のような貫通孔11が形成された第1ガラス板1と、第2ガラス板2とを準備する。次に、第2ガラス板2上に複数のスペーサ3を配置した後、その上に第1ガラス板1を配置する。なお、スペーサ3は、上記のように、単に第2ガラス板2上に配置するだけでもよいし、接着剤によって第2ガラス板2上に固定することもできる。
【0058】
また、両ガラス板1,2の周縁の隙間を塞ぐように、第2ガラス板2の周縁に封止用材料40を配置する。これは、溶融、固化する前の封止材4である。
【0059】
また、上述したように、カバー5の一方の面にC字状の接着剤6を仮焼成等により取り付けておく。そして、このカバー5を第1ガラス板1の貫通孔11に取り付ける。このとき、接着剤6が、貫通孔11の段113に配置されるようにする。続いて、カバー5の上に、貫通孔11の大径部112よりも大きい円板状の保護プレート7を配置し、さらにに、この保護プレート7上に、錘8を配置する。これにより、保護プレート7を介して、錘8によってカバー5が段113に押圧される。
【0060】
このとき、接着剤6は仮焼成され固化しているため、押し潰されることはなく、接着剤6によって、カバー5と段113の間には隙間が形成されている。また、保護プレート7の下面には、図8に示すように、十字状の溝71が形成されている。そのため、ガラスユニットの内部空間100と外部とは、貫通孔11の小径部111、接着剤6の不連続部分、大径部112とカバー5との隙間、及び保護プレート7の溝71を介して、空気が流通するようになっている。
【0061】
保護プレート7は、後述するように、熱を通す必要があるため、赤外線の吸収量が少なく、加熱したときの膨張率が低く材料で形成することが好ましい。例えば、石英ガラス、あるいはカバー5やガラス板1,2と同じ材料を用いることができる。なお、保護プレート7は、後述するヒータ-92による輻射熱で接着剤6を加熱することを阻害しない材質であればよく、透明のほか、不透明であってもよい。
【0062】
錘8は、カバー5を塞がないように、保護プレート7の周縁部を押圧するような形状とすることができ、例えば、ドーナツ型に形成したものとすることができる。但し、錘8は、上述した空気の流路を確保するような形状とする必要がある。すなわち、保護プレート7の溝71が外部に開放されるような構造にする必要がある。
【0063】
このように、保護プレート7と錘8を配置した後、これらを覆うようにカップ状の閉鎖部材9を第1ガラス板1の上面に取り付ける。これにより、貫通孔11を含む閉鎖部材9で囲まれた空間が密閉される。また、この閉鎖部材9の上部には、開口91が形成されており、この開口91は真空ポンプ(図示省略)に接続され、内部空間100の減圧を行うようになっている。さらに、閉鎖部材9の内部において、保護プレート7の上方には、タングステン等のヒーター92が設けられており、このヒーター92によって、接着剤6が加熱されるようになっている。
【0064】
こうして、閉鎖部材9が取り付けられた後、これらを加熱炉(図示省略)に配置し、加熱を行う。まず、封止用材料40の融点以上に加熱を行い、封止用材料40を溶融する。溶融した封止用材料40は、両ガラス板1,2の周縁の隙間に入り込む。封止用材料40として、例えば、ビスマス系低融点ガラスを用いる場合には、470℃程度に加熱する。その後、加熱炉の温度を、例えば、380~460℃程度まで低下し、封止用材料40を固化していく。このときの加熱温度は、接着剤6の融点よりも低いため、接着剤6は溶融しない。したがって、上述した空気の流路は確保されている。なお、封止用材料40を加熱する手段は、特には限定されず、輻射加熱、レーザによる加熱、誘導加熱等を採用することができる。特に、封止用材料40が金属である場合には、誘導加熱を採用することができる。
【0065】
続いて、真空ポンプを駆動し、減圧を行う。すなわち、上述した空気の流路を通じて、内部空間100の減圧が行われる。内部空間100の圧力が、例えば、1.33Pa以下となれば、遮熱性能を担保することができるので、真空状態と見なすことができる。
【0066】
この減圧工程によって、両ガラス板1,2が互いに近接する方向に力が作用し、封止用材料40も同時に押しつぶされる。これにより、封止用材料40内部の空隙を消失させることができるため、封止材4を介した気体のリークを防止することができる。したがって、減圧は、封止用材料40が完全に固化する前の温度で開始することが好ましく、これを考慮して上述した封止用材料を固化するための温度(上記の例では380~460℃)を決定することができる。例えば、封止用材料40の融点よりも50~150℃低い温度になったときに、減圧を行うことができる。なお、封止用材料40が、例えば、金属ハンダを用いる場合には、上述の380~460℃によらず封止用材料40を固化させていくことができる。
【0067】
これに続いて、ヒーター72を駆動し、接着剤6を加熱する。接着剤6が、例えば、ビスマス系の低融点ガラスにより形成されている場合には、ヒーター72により、接着剤6の温度が500℃程度になるようにする。これにより、接着剤6が溶融し、錘8による押圧も手伝って、接着剤6が押し潰されていく。その結果、C字状の接着剤6が環状に変形し、カバー5と接着剤6により、貫通孔11の小径部111が気密に密閉される。こうして、内部空間100の真空状態が維持される。その後、ヒーター72の駆動を停止し、全体を徐冷すると、封止用材料40が完全に固化し、封止材4として両ガラス板1,2の周縁の隙間を封止する。以上の工程により、ガラスユニットが完成する。なお、接着剤6が加熱できれば、上述したヒーター72以外の装置を用いてもよい。
【0068】
<7.特徴>
上記のように、本発明者は、式(B)を充足することにより、ガラスユニットの割れを防止できることを見出した。また、式(C)または式(D)を充足することにより、ガラスユニットの遮音性能及び断熱性能を向上できることを見出した。
【0069】
<8.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は、適宜、組み合わせ可能である。
【0070】
<8-1>
上記実施形態では、スペーサ3の外径ΦとピッチPを特定することで、ガラスユニットの割れを防止しているが、例えば、スペーサ3が円柱以外の形状であり、また格子状以外の配置も含む場合には、これに代わって、スペーサ3の断面積S(mm2)を用いることができる。この場合、上記式(B)及び式(D)に代わって、以下の式(E)及び式(F)を用いることができる。これら式(E)及び式(F)は、図4のグラフに基づいている。なお、Rは、あるスペーサ3に最も距離が近いスペーサ迄の距離である。但し、全てのスペーサについて、以下の式E(E)及び式(F)を充足することが好ましい。
R≦(800/π)*S+13 (E)
25*10-4π≦S≦400*10-4π (F)
【0071】
また、スペーサのピッチPについては、上記実施形態で示したとおり、0.15mm以上0.45mmとし、且つ上記(E)及び式(F)が充足されればよい。これにより、上記実施形態と同様に、ガラスユニットの割れを防止し、さらに、ガラスユニットの遮音性能及び断熱性能を向上することきができる。
【0072】
<8-2>
上記実施形態では、スペーサ3が格子状に配置されているが、ピッチが一様でない場合には、式(E)に代えて、以下の式(G)を用いることができる。ここで、Pmin(mm)とは、スペーサのピッチのうち、最も短いピッチを示している。
min≦(800/π)*S+13 (G)
【0073】
<8-3>
上記実施形態では、第1ガラス板1に貫通孔11を形成し、内部空間100を真空状態にした後、カバー5を固定しているが、内部空間100を真空状態にできるのであれば、貫通孔11を塞ぐ方法は特には限定されない。例えば、貫通孔11に接着剤で、樹脂やガラス製のパイプを固定し、このパイプを介して空気の吸引を行った後、パイプを溶融して貫通孔11を閉じることができる。また、カバー5やパイプは、第1ガラス板1の表面から多少であれば、突出していてもよい。
【0074】
<8-4>
上記実施形態では、第2ガラス板2を第1ガラス板1よりも大きくしているが、同じ形状であってもよい。この場合、封止材4は、両ガラス板1,2の周縁の隙間に充填される。
【0075】
<8-5>
上記のようにガラスユニットを製造した後、第1ガラス板1上に、中間膜、第3ガラス板をこの順で配置し、公知のオートクレーブによりこれらを固定することで、第1ガラス板1、中間膜、及び第3ガラス板による合わせガラスを形成することもできる。中間膜は、合わせガラスで用いられる公知の樹脂フィルムを用いることができ、第3ガラス板は、第1ガラス板1と同様のガラス板を用いることができる。
【0076】
上記のように、カバー5が第1ガラス板1の表面と略同一平面上にあれば、カバー5が邪魔にならず、中間膜及び第3ガラス板を積層することができる。よって、上記のように強化が施された第1ガラス板1を用いる以外に、合わせガラスを形成することで、本発明に係るガラスユニットを安全ガラスとすることができる。
【0077】
<8-6>
第1ガラス板1及び第2ガラス板2の少なくとも一方に、公知のLow-E膜を積層することもできる。
【0078】
<8-7>
本発明のガラスユニットは、断熱性能や遮熱性能が要求される建物の窓ガラスのほか、装置(例えば、冷蔵庫などの装置)の外面に装着されるカバーガラスとして用いることができる。また、第1ガラス板1及び第2ガラス板2のいずれを、装着される装置、建物などの外側を向くように配置してもよいが、貫通孔11が形成された第1ガラス板1は、第2ガラス板2と比べて強度が低いため、第2ガラス板2を外側に向けることが好ましい。
【実施例
【0079】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0080】
<1.スペーサが受ける圧縮の検討>
以下、スペーサが両ガラス板から受ける圧縮について検討する。第1及び第2ガラス板として厚みが3mmのフロートガラスを用い、内部空間の厚みを0.2mmとしたときの、スペーサの外径とスペーサに要求される圧縮強度の関係を、異なるピッチごとに、シミュレーションによった検討した。結果は、図9に示すとおりである。
【0081】
図9によれば、スペーサの外径が小さくなるほど、必要とされる圧縮強度が高くなっている。また、スペーサのピッチが大きくなるほど、必要とされる圧縮強度が高くなっている。したがって、図9からすると、例えば、スペーサの外径が0.2mm、ピッチが30mmのときには、必要とされる圧縮強度が3000MPaであるので、スペーサのピッチPが30mm以下、外径φが0.2~0.4mmのときは、スペーサの圧縮強度が3000MPa以上であれば、スペーサが両ガラス板から受ける圧縮に耐えうることが分かった。同様に、例えば、スペーサの外径が0.2mm、ピッチが35mmのときには、必要とされる圧縮強度が4000MPaであるので、スペーサのピッチPが35mm以下、外径φが0.2~0.4mmのときは、スペーサの圧縮強度が4000MPa以上であれば、スペーサが両ガラス板から受ける圧縮に耐えうることが分かった。
【0082】
<2.スペーサと断熱性能との関係の検討>
上記実施形態で示したように、スペーサの熱伝導率が高と、スペーサを伝って熱が漏れる恐れがあり、これによって、ガラスユニットの熱貫流率が高くなる恐れがある。そこで、スペーサの熱伝導率と熱貫流率との関係をシミュレーションにより検討した。
【0083】
まず、第1及び第2ガラス板として厚みが3mmのソーダライムガラスを用い、内部空間の厚みを0.2mmとした。また、スペーサのピッチPが20mmのとき、スペーサの外径φと熱貫流率Uとの関係を、異なる熱伝導率(0.2,0.6,1,2,3,5,15W/mK)のスペーサを用いてシミュレーションにより算出した。同様に、スペーサのピッチPが15mmのときについてもシミュレーションを行った。熱貫流率Uを算出するにあたっては、室内外の温度差を50℃、室内外の湿度が50%とした。結果は、図10(スペーサのピッチ20mm)及び図11(スペーサのピッチ15mm)に示すとおりである。
【0084】
図10に示すように、スペーサのピッチPが20mmである場合には、スペーサの外径φが0.1~0.4mmの範囲において、スペーサの熱伝導率が15W/mK以下であれば、熱貫流率Uは、1.2W/(m2 K)以下となった。すなわち、高い断熱性能を奏した。特に、スペーサの外径Φが小さくなるほど、熱貫流率Uが低くなることが分かった。一方、図11に示すように、スペーサのピッチPが15mmである場合、スペーサの外径φが0.1~0.4mmの範囲において、熱貫流率Uを1.3W/(m2 K)以下にするためには、スペーサの熱伝導率を3W/mK以下にする必要があることが分かった。したがって、スペーサの熱伝導率が3W/mK以下であれば、スペーサのピッチが15mm以上で、且つスペーサの外径が0.1~0.4mmのいずれの範囲でも、貫流率Uを1.3W/(m2 K)以下にできることが分かった。
【符号の説明】
【0085】
1 第1ガラス板
2 第2ガラス板
3 スペーサ
4 封止材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11