(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231113BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231113BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20231113BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20231113BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20231113BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2019039765
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165219(JP,A)
【文献】特開2017-094797(JP,A)
【文献】特開2017-159833(JP,A)
【文献】特開2007-055452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 111/00
B62D 113/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、
前記モータトルクの目標値となる目標トルクを演算する目標トルク演算部を備え、前記目標トルクに応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御する操舵制御装置において、
前記目標トルク演算部は、
検出される車速に基づいて車速基礎軸力を演算する車速基礎軸力演算部と、
検出される前記車速以外の他の状態量に基づいて他状態量基礎軸力を演算する他状態量基礎軸力演算部と、
前記車速基礎軸力と前記他状態量基礎軸力とを個別に設定される配分比率で合算した配分軸力を演算する配分軸力演算部とを備え、
前記配分軸力に基づいて前記目標トルクを演算するものであって、
前記配分軸力演算部は、前記車速に異常がある場合には、該車速に異常がない場合に比べ、
前記配分軸力に対する前記他状態量基礎軸力の寄与率が相対的に大きくなるように、前記車速基礎軸力の配分比率を小さくする操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力演算部は、前記車速に異常がある場合には、前記車速基礎軸力の配分比率をゼロにする操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、
前記車速基礎軸力は、路面情報を含まない角度軸力及び前記路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能なものを含む車両状態量軸力の少なくとも一方の軸力であり、
前記他状態量基礎軸力は、前記路面情報を含む路面軸力である操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記操舵装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離した構造を有するものであり、
前記モータは、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力として前記モータトルクを付与する操舵側モータであり、
前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算するものである操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式のものがある。こうした操舵装置では、転舵輪が受ける路面反力等が機械的にはステアリングホイールに伝達されない。そこで、同形式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置には、ステアリングホイールに対して路面反力等を考慮した操舵反力を操舵側アクチュエータによって付与することで、路面情報を運転者に伝えるものがある。
【0003】
例えば特許文献1には、転舵輪が連結される転舵軸に作用する軸力に着目し、複数種の軸力を個別に設定される配分比率で合算した配分軸力に基づいて操舵反力を演算する操舵制御装置が開示されている。こうした各種の軸力として、同文献には、ステアリングホイールの操舵角及び車速に基づく角度軸力や、転舵側アクチュエータの駆動源である転舵側モータの駆動電流に基づく電流軸力等が例示されており、これらを配分した配分軸力に基づいて操舵反力を演算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/061567号
【文献】特開2016-144974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転舵輪の転舵角と転舵軸に実際に作用する軸力との関係は、例えば
図5に示すグラフのように表され、車速に応じて変化する。すなわち、
図5(a)に示すように、車速が車両の停車状態を示す場合には、転舵角に対する軸力の変化割合である勾配が小さく、かつ主として転舵輪と路面との間の摩擦を示すヒステリシス成分が大きい関係となる。一方、
図5(b)に示すように、車速が中高速程度で走行している状態を示す場合には、軸力の勾配が大きく、かつヒステリシス成分が小さい関係となる。
【0006】
したがって、例えば上記特許文献1のように角度軸力を演算する場合、操舵角またこれに関連する値のみでは適切な角度軸力を演算することはできず、操舵角に加えて車速を考慮する必要がある。そのため、例えば車速を検出するためのセンサに異常が生じた場合等、検出される車速が誤った値になると、角度軸力が実際に作用する軸力から乖離することがある。そして、当該角度軸力を配分した配分軸力も実際に作用する軸力から乖離するおそれがある。
【0007】
なお、このような問題は、角度軸力を演算する場合に限らず、例えば車両の横方向に作用する横力で示される車両状態量軸力等、車速を考慮する必要がある軸力を演算する場合には、同様に生じ得る。また、例えば特許文献2に記載されるように、モータを駆動源とするアシスト機構により操舵機構にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置を制御対象とする操舵制御装置でも、転舵軸に作用する軸力に基づいてアシスト力の目標値を決めるものでは、同様に生じ得る。
【0008】
本発明の目的は、配分軸力が実際に作用する軸力から乖離することを抑制できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、前記モータトルクの目標値となる目標トルクを演算する目標トルク演算部を備え、前記目標トルクに応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御するものにおいて、前記目標トルク演算部は、検出される車速に基づいて車速基礎軸力を演算する車速基礎軸力演算部と、検出される前記車速以外の他の状態量に基づいて他状態量基礎軸力を演算する他状態量基礎軸力演算部と、前記車速基礎軸力と前記他状態量基礎軸力とを個別に設定される配分比率で合算した配分軸力を演算する配分軸力演算部とを備え、前記配分軸力に基づいて前記目標トルクを演算するものであって、前記配分軸力演算部は、前記車速に異常がある場合には、該車速に異常がない場合に比べ、前記車速基礎軸力の配分比率を小さくする。
【0010】
上記構成によれば、車速に異常がある場合に、当該車速に基づいて演算される車速基礎軸力の配分比率が小さくなるため、配分軸力に対する車速基礎軸力の影響、換言すると寄与率が小さくなる。これにより、車速に異常がある場合に、配分軸力が実際に作用する軸力から乖離することを抑制できる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力演算部は、前記車速に異常がある場合には、前記車速基礎軸力の配分比率をゼロにすることが好ましい。
上記構成によれば、車速に異常がある場合に、当該車速に基づいて演算される車速基礎軸力の配分比率がゼロになるため、配分軸力に対する車速基礎軸力の影響が好適に小さくなる。これにより、車速に異常がある場合に、配分軸力が実際に作用する軸力から乖離することを好適に抑制できる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記車速基礎軸力は、路面情報を含まない角度軸力及び前記路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能なものを含む車両状態量軸力の少なくとも一方の軸力であり、前記他状態量基礎軸力は、前記路面情報を含む路面軸力である構成を採用できる。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離した構造を有するものであり、前記モータは、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力として前記モータトルクを付与する操舵側モータであり、前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算するものである構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配分軸力が実際に作用する軸力から乖離することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】第1実施形態の目標反力トルク演算部のブロック図。
【
図4】第2実施形態の目標反力トルク演算部のブロック図。
【
図5】(a)は停車状態を示す車速における軸力と転舵角との関係を示すグラフ、(b)は中高速走行状態を示す車速における軸力と転舵角との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置2はステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵部4と、運転者による操舵部4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵部6とを備えている。
【0017】
操舵部4は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に操舵に抗する力である操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、操舵側モータ13の回転を減速してステアリングシャフト11に伝達する操舵側減速機14とを備えている。つまり、操舵側モータ13は、そのモータトルクを操舵反力として付与する。なお、本実施形態の操舵側モータ13には、例えば三相のブラシレスモータが採用されている。
【0018】
転舵部6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵軸としてのラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22からなるラックアンドピニオン機構24とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛合することにより構成されている。つまり、ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0019】
また、転舵部6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達し、変換機構34にてラック軸22の往復動に変換することで転舵部6に転舵力を付与する。つまり、転舵側モータ32は、そのモータトルクを転舵力として付与する。なお、本実施形態の転舵側モータ32には、例えば三相のブラシレスモータが採用され、伝達機構33には、例えばベルト機構が採用され、変換機構34には、例えばボールネジ機構が採用されている。
【0020】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。つまり、操舵装置2では、操舵側アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0021】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の制御が実行される。
【0022】
操舵制御装置1には、ステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ41が接続されている。なお、トルクセンサ41は、ステアリングシャフト11における操舵側減速機14との連結部分よりもステアリングホイール3側に設けられており、トーションバー42の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。また、操舵制御装置1には、操舵部4の操舵量を示す検出値として操舵側モータ13の回転角θsを360°の範囲内の相対角で検出する操舵側回転センサ43、及び転舵部6の転舵量を示す検出値として転舵側モータ32の回転角θtを相対角で検出する転舵側回転センサ44が接続されている。なお、上記操舵トルクTh及び回転角θs,θtは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0023】
さらに、操舵制御装置1は、その外部に設けられた制動制御装置45と通信可能に接続されている。制動制御装置45は、図示しないブレーキ装置の作動を制御するものであり、車両本体の車速Vbを演算する。具体的には、制動制御装置45には、転舵輪5を図示しないドライブシャフトを介して回転可能に支持するハブユニット46に設けられた左前輪センサ47l及び右前輪センサ47rが接続されている。左前輪センサ47lは、左前輪である転舵輪5の車輪速度Vflを検出し、右前輪センサ47rは、右前輪である転舵輪5の車輪速度Vfrを検出する。また、制動制御装置45には、図示しない左後輪の車輪速度Vrlを検出する左後輪センサ48l、及び図示しない右後輪の車輪速度Vrrを検出する右後輪センサ48rが接続されている。そして、本実施形態の制動制御装置45は、各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの平均を車速Vbとして演算する。
【0024】
また、制動制御装置45は、検出する車速Vbが異常であるか否かの判定を行う。一例として、制動制御装置45は、車速Vbを検出するための左前輪センサ47l、右前輪センサ47r、左後輪センサ48l及び右後輪センサ48rから出力される車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrが取り得ない値となった場合や、前回値からの変化量が予め設定される閾値を超える場合等に車速Vbが異常であると判定する。そして、制動制御装置45は、車速Vbが異常であるか否かの判定結果を示す車速状態信号Sveを演算する。
【0025】
このように演算された車速Vb及び車速状態信号Sveは、操舵制御装置1に出力される。そして、操舵制御装置1は、これら各センサ及び制動制御装置45から入力される各状態量に基づいて、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0026】
以下、操舵制御装置1の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側制御部51と、操舵側モータ制御信号Msに基づいて操舵側モータ13に駆動電力を供給する操舵側駆動回路52とを備えている。操舵側制御部51には、操舵側駆動回路52と操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れる操舵側モータ13の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する電流センサ54が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ54をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0027】
また、操舵制御装置1は、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側制御部56と、転舵側モータ制御信号Mtに基づいて転舵側モータ32に駆動電力を供給する転舵側駆動回路57とを備えている。転舵側制御部56には、転舵側駆動回路57と転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線58を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtを検出する電流センサ59が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線58及び各相の電流センサ59をそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態の操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。また、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtは、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0028】
そして、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtを操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57に出力することにより、車載電源Bから操舵側モータ13及び転舵側モータ32に駆動電力をそれぞれ供給する。これにより、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0029】
先ず、操舵側制御部51の構成について説明する。
操舵側制御部51は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、操舵側モータ制御信号Msを生成する。操舵側制御部51には、上記操舵トルクTh、車速Vb、車速状態信号Sve、回転角θs、各相電流値Ius,Ivs,Iws、後述するピニオン軸21の回転角である転舵対応角θp及び転舵側モータ32の駆動電流であるq軸電流値Iqtが入力される。そして、操舵側制御部51は、これら各状態量に基づいて操舵側モータ制御信号Msを生成して出力する。
【0030】
詳しくは、操舵側制御部51は、回転角θsに基づいてステアリングホイール3の操舵角θhを演算する操舵角演算部61と、操舵反力の目標値となる目標トルクとしての目標反力トルクTs*を演算する目標トルク演算部としての目標反力トルク演算部62と、操舵側モータ制御信号Msを演算する操舵側モータ制御信号演算部63とを備えている。
【0031】
操舵角演算部61には、操舵側モータ13の回転角θsが入力される。操舵角演算部61は、回転角θsを、例えばステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む絶対角に換算して取得する。そして、操舵角演算部61は、絶対角に換算された回転角に操舵側減速機14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する。このように演算された操舵角θhは、転舵側制御部56に出力される。
【0032】
目標反力トルク演算部62には、操舵トルクTh、車速Vb、車速状態信号Sve、転舵対応角θp及びq軸電流値Iqtが入力される。目標反力トルク演算部62は、後述するようにこれらの状態量に基づいて目標反力トルクTs*を演算し、操舵側モータ制御信号演算部63に出力する。
【0033】
操舵側モータ制御信号演算部63には、目標反力トルクTs*に加え、回転角θs及び相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。本実施形態の操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqs*を演算する。目標電流値Ids*,Iqs*は、dq座標系におけるd軸上の目標電流値及びq軸上の目標電流値をそれぞれ示す。具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Ids*は、基本的にゼロに設定される。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、dq座標系における電流フィードバック演算を実行することにより、上記操舵側駆動回路52に出力する操舵側モータ制御信号Msを生成する。なお、以下では、フィードバックという文言を「F/B」と記すことがある。
【0034】
具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、回転角θsに基づいて相電流値Ius,Ivs,Iwsをdq座標上に写像することにより、dq座標系における操舵側モータ13の実電流値であるd軸電流値Ids及びq軸電流値Iqsを演算する。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、d軸電流値Idsをd軸目標電流値Ids*に追従させるべく、またq軸電流値Iqsをq軸目標電流値Iqs*に追従させるべく、d軸及びq軸上の各電流偏差に基づいて目標電圧値を演算し、該目標電圧値に基づくデューティ比を有する操舵側モータ制御信号Msを生成する。
【0035】
このように演算された操舵側モータ制御信号Msは、操舵側駆動回路52に出力される。これにより、操舵側モータ13には、操舵側駆動回路52から操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。そして、操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に示される操舵反力をステアリングホイール3に付与する。
【0036】
次に、転舵側制御部56の構成について説明する。
転舵側制御部56は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、転舵側モータ制御信号Mtを生成する。転舵側制御部56には、上記回転角θt、操舵角θh、及び転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。そして、転舵側制御部56は、これら各状態量に基づいて転舵側モータ制御信号Mtを生成して出力する。
【0037】
詳しくは、転舵側制御部56は、回転角θtに基づいてピニオン軸21の回転角である転舵対応角θpを演算する転舵対応角演算部71と、上記転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する目標転舵トルク演算部72と、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側モータ制御信号演算部73とを備えている。
【0038】
転舵対応角演算部71には、転舵側モータ32の回転角θtが入力される。転舵対応角演算部71は、入力される回転角θtを、例えば車両が直進する中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、絶対角に換算して取得する。そして、転舵対応角演算部71は、絶対角に換算された回転角に伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算して転舵対応角θpを演算する。つまり、転舵対応角θpは、ピニオン軸21がステアリングシャフト11に連結されていると仮定した場合におけるステアリングホイール3の操舵角θhに相当する。このように演算された転舵対応角θpは、目標反力トルク演算部62及び目標転舵トルク演算部72に出力される。
【0039】
目標転舵トルク演算部72には、操舵角θh及び転舵対応角θpが入力される。目標転舵トルク演算部72は、転舵対応角θpの目標となる目標転舵対応角θp*を演算する目標転舵対応角演算部74と、転舵対応角θpを目標転舵対応角θp*に追従させる角度F/B演算を実行することにより目標転舵トルクTt*を演算する転舵角F/B制御部75とを備えている。
【0040】
具体的には、目標転舵対応角演算部74には、操舵角θhが入力される。そして、目標転舵対応角演算部74は、操舵角θhに基づいて目標転舵対応角θp*を演算する。一例として、目標転舵対応角演算部74は、目標転舵対応角θp*を操舵角θhと同一の角度とする。つまり、本実施形態の操舵制御装置では、操舵角θhと転舵対応角θpとの比である舵角比を1:1の比率で一定とする。転舵角F/B制御部75には、減算器76において目標転舵対応角θp*から転舵対応角θpを差し引いた角度偏差Δθpが入力される。そして、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTt*として演算する。このように演算された目標転舵トルクTt*は、転舵側モータ制御信号演算部73に出力される。
【0041】
転舵側モータ制御信号演算部73には、目標転舵トルクTt*に加え、回転角θt及び相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqt*を演算する。具体的には、転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqt*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Idt*は、基本的にゼロに設定される。そして、転舵側モータ制御信号演算部73は、操舵側モータ制御信号演算部63と同様に、dq座標系における電流F/B演算を実行することにより、上記転舵側駆動回路57に出力する転舵側モータ制御信号Mtを生成する。なお、転舵側モータ制御信号Mtを生成する過程で演算したq軸電流値Iqtは、上記目標反力トルク演算部62に出力される。
【0042】
このように演算された転舵側モータ制御信号Mtは、転舵側駆動回路57に出力される。これにより、転舵側モータ32には、転舵側駆動回路57から転舵側モータ制御信号Mtに応じた駆動電力が供給される。そして、転舵側モータ32は、目標転舵トルクTt*に示される転舵力を転舵輪5に付与する。
【0043】
次に、目標反力トルク演算部62について説明する。
図3に示すように、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵方向にステアリングホイール3を回転させる力である入力トルク基礎成分Tbを演算する入力トルク基礎成分演算部81を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵によるステアリングホイール3の回転に抗する力、すなわち転舵輪5からラック軸22に作用する軸力である反力成分Firを演算する反力成分演算部82を備えている。
【0044】
詳しくは、入力トルク基礎成分演算部81には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部81は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分Tbを演算する。このように演算された入力トルク基礎成分Tbは、減算器83に出力される。
【0045】
反力成分演算部82には、車速Vb、車速状態信号Sve、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt及び転舵対応角θpが入力される。反力成分演算部82は、後述するようにこれらの状態量に基づいて、ラック軸22に作用する軸力に応じた反力成分Firを演算する。なお、反力成分Firは、ラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。このように演算された反力成分Firは、減算器83に出力される。
【0046】
そして、目標反力トルク演算部62は、減算器83において入力トルク基礎成分Tbから反力成分Firを減算した値を目標反力トルクTs*として演算する。このように演算された目標反力トルクTs*は、操舵側モータ制御信号演算部63に出力される。つまり、目標反力トルク演算部62は、演算上の軸力である反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*を演算している。そのため、操舵側モータ13が付与する操舵反力は、基本的には運転者の操舵に抗する力であるが、演算上の軸力とラック軸22に作用する実際の軸力との偏差によっては、運転者の操舵を補助する力にもなり得るものである。
【0047】
次に、反力成分演算部82について説明する。
反力成分演算部82は、角度軸力Fibを演算する角度軸力演算部91と、電流軸力Ferを演算する電流軸力演算部92とを備えている。なお、角度軸力Fib及び電流軸力Ferは、トルクの次元(N・m)で演算される。また、反力成分演算部82は、転舵輪5に対して路面から加えられる軸力、すなわち路面から伝達される路面情報が反映されるように、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを個別に設定される配分比率で合算した配分軸力を反力成分Firとして演算する配分軸力演算部93を備えている。
【0048】
詳しくは、角度軸力演算部91には、転舵対応角θp及び車速Vbが入力される。角度軸力演算部91は、転舵輪5に作用する軸力、すなわち転舵輪5に伝達される伝達力を転舵対応角θp及び車速Vbに基づいて演算する。角度軸力Fibは、任意に設定されるモデルにおける軸力の理想値であって、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報を含まない軸力である。具体的には、角度軸力演算部91は、転舵対応角θpの絶対値が大きくなるほど、角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部91は、車速Vbが大きくなるにつれて角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。したがって、本実施形態では、角度軸力Fibが車速Vbに基づいて演算される車速基礎軸力に相当し、角度軸力演算部91が車速基礎軸力演算部に相当する。このように演算された角度軸力Fibは、配分軸力演算部93に出力される。
【0049】
電流軸力演算部92には、転舵側モータ32のq軸電流値Iqtが入力される。電流軸力演算部92は、転舵輪5に作用する軸力をq軸電流値Iqtに基づいて演算する。電流軸力Ferは、転舵輪5に作用する軸力の推定値であって、路面情報を含む路面軸力の一である。具体的には、電流軸力演算部92は、転舵側モータ32によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪5に対して路面から加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、q軸電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Ferの絶対値が大きくなるように演算する。したがって、本実施形態では、電流軸力Ferが車速Vb以外の他の状態量に基づいて演算される他状態量基礎軸力に相当し、電流軸力演算部92が他状態量基礎軸力演算部に相当する。このように演算された電流軸力Ferは、配分軸力演算部93に出力される。
【0050】
配分軸力演算部93には、角度軸力Fib及び電流軸力Ferに加え、車速状態信号Sveが入力される。配分軸力演算部93には、角度軸力Fibの配分比率を示す角度配分ゲインGib、及び電流軸力Ferの配分比率を示す電流配分ゲインGerが、実験結果等に基づいて予め設定されている。そして、配分軸力演算部93は、角度軸力Fibに角度配分ゲインGibを乗算した値、及び電流軸力Ferに電流配分ゲインGerを乗算した値を足し合わせることにより、配分軸力からなる反力成分Firを演算する。
【0051】
ここで、本実施形態の配分軸力演算部93は、車速状態信号Sveに示される判定結果に応じて角度配分ゲインGibを異なる値に変更する。詳しくは、配分軸力演算部93は、車速状態信号Sveが車速Vbに異常があることを示す場合には、角度配分ゲインGibをゼロにする。これにより、取得した車速Vbに異常がある場合には、反力成分Firに対する角度軸力Fibの寄与率が好適に小さくなり、電流軸力Ferの寄与率が相対的に大きくなる。
【0052】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)配分軸力演算部93は、車速状態信号Sveが車速Vbに異常があることを示す場合に、角度軸力Fibの配分比率を示す角度配分ゲインGibをゼロにする。そのため、車速Vbに異常がある場合に、配分軸力である反力成分Firに対する角度軸力Fibの影響、換言すると寄与率が好適に小さくなる。これにより、車速Vbに異常がある場合に、配分軸力が実際に作用する軸力から乖離することを好適に抑制できる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
図4に示すように、本実施形態の反力成分演算部82には、車速Vb、車速状態信号Sve、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt及び転舵対応角θpに加え、横加速度センサ101により検出される横加速度LA、及びヨーレートセンサ102により検出されるヨーレートγが入力される。また、本実施形態の反力成分演算部82は、車両状態量軸力Fyrを演算する車両状態量軸力演算部103を備えている。なお、車両状態量軸力Fyrは、トルクの次元(N・m)で演算される。
【0055】
車両状態量軸力演算部103には、車速Vb、ヨーレートγ及び横加速度LAが入力される。車両状態量軸力演算部103は、下記(1)式にヨーレートγ及び横加速度LAを入力することにより演算される横力Fyを車両状態量軸力Fyrとして演算する。車両状態量軸力Fyrは、転舵輪5に作用する軸力を該転舵輪5に作用する横力Fyであると近似的にみなした推定値であって、車両の横方向への挙動の変化を引き起こさない路面情報は含まず、車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能な路面情報を含む軸力である。
【0056】
Fy=Kla×LA+Kγ×γ’…(1)
なお、「γ’」は、ヨーレートγの微分値を示し、「Kla」及び「Kγ」は、試験等により予め設定された係数を示し、車速Vbに応じて可変設定されている。したがって、本実施形態では、車両状態量軸力Fyrが車速Vbに基づいて演算される車速基礎軸力に相当し、車両状態量軸力演算部103が車速基礎軸力演算部に相当する。
【0057】
本実施形態の配分軸力演算部93には、角度軸力Fib、電流軸力Fer及び車速状態信号Sveに加え、車両状態量軸力Fyrが入力される。配分軸力演算部93には、角度配分ゲインGib及び電流配分ゲインGerに加え、車両状態量軸力Fyrの配分比率を示す車両状態量配分ゲインGyrが実験結果等に基づいて予め設定されている。そして、配分軸力演算部93は、角度軸力Fibに角度配分ゲインGibを乗算した値、電流軸力Ferに電流配分ゲインGerを乗算した値、及び車両状態量軸力Fyrに車両状態量配分ゲインGyrを乗算した値を足し合わせることにより、配分軸力からなる反力成分Firを演算する。
【0058】
ここで、配分軸力演算部93は、角度配分ゲインGibと同様に、車速状態信号Sveに示される判定結果に応じて車両状態量配分ゲインGyrを異なる値に変更する。詳しくは、配分軸力演算部93は、車速状態信号Sveが車速Vbに異常があることを示す場合には、車両状態量配分ゲインGyrをゼロにする。これにより、取得した車速Vbに異常がある場合には、反力成分Firに対する角度軸力Fib及び車両状態量軸力Fyrの寄与率が好適に小さくなり、電流軸力Ferの寄与率が相対的に大きくなる。
【0059】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)の作用及び効果と同様の作用及び効果を奏する。
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・上記各実施形態では、各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの平均値を車速Vbとして用いたが、これに限らず、例えば各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrのうちの二番目と三番目に速い車輪速度の平均を用いてもよく、車速Vbの演算方法は適宜変更可能である。また、車輪速度を用いず、例えば車両の前後加速度を積分することにより得られる値を車速Vbとしてもよい。さらに、例えばGPS(Global Positioning System)用の人工衛星からの測位信号を受信し、当該受信される測位信号に基づく時間あたりの車両の位置変化から推定される推定車速を車速Vbとして用いてもよい。
【0061】
・上記各実施形態において、操舵制御装置1が各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrr等に基づいて車速Vbを演算してもよい。
・上記各実施形態において、入力トルク基礎成分演算部81が、例えば操舵トルクTh及び車速Vbに基づいて入力トルク基礎成分Tbを演算するようにしてもよい。この場合、例えば入力トルク基礎成分演算部81は、車速Vbが小さくなるほど、より大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分Tbを演算する。また、入力トルク基礎成分演算部81は、車速Vbに異常が有る旨の車速状態信号Sveが入力される場合には、車速Vbが予め設定された所定速度であるとして、操舵トルクThに応じた入力トルク基礎成分Tbを演算することが好ましい。なお、所定速度は、例えば操舵トルクThの変化によって入力トルク基礎成分Tbが過大又は過小な値とならないような速度に設定される。
【0062】
・上記各実施形態では、車速Vbに異常がある場合には、角度配分ゲインGibをゼロにしたが、これに限らず、車速Vbに異常のない場合に比べて小さくなれば、角度配分ゲインGibをゼロよりも大きな値に設定してもよい。このように構成しても、配分軸力である反力成分Firに対する角度軸力Fibの影響が小さくなり、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが異常な大きさになることを抑制できる。同様に、上記第2実施形態において、車速Vbに異常のない場合に比べて小さくなれば、車速Vbに異常がある場合に車両状態量配分ゲインGyrをゼロよりも大きな値に設定してもよい。
【0063】
・上記各実施形態では、角度軸力Fibを配分して反力成分Firとなる配分軸力を演算したが、これに限らず、例えば車両状態量軸力Fyr及び電流軸力Ferを個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算してもよい。
【0064】
・上記各実施形態では、路面軸力である電流軸力Ferを配分して反力成分Firとなる配分軸力を演算したが、他の路面軸力を配分してもよい。他の路面軸力としては、例えばラック軸22に作用する軸力を検出する軸力センサの検出値に基づく軸力や、ハブユニット46により検出されるタイヤ力に基づく軸力がある。なお、複数の路面軸力を個別に設定された配分比率で合算する構成では、車速Vbに異常がある場合に、これらの路面軸力のうち、特定の路面軸力の配分比率を示す配分ゲインの値を、車速Vbに異常のない場合に比べて大きくしてもよい。
【0065】
・上記各実施形態において、反力成分演算部82が配分軸力に、他の反力を加味した値を反力成分Firとして演算してもよい。こうした他の反力として、例えばステアリングホイール3の操舵角の絶対値が舵角閾値に近づく場合に、更なる切り込み操舵が行われるのに抗する反力であるエンド反力を採用することができる。なお、舵角閾値としては、例えばラックエンド25がラックハウジング23に当接することでラック軸22の軸方向移動が規制される機械的なラックエンド位置よりも中立位置側に設定される仮想ラックエンド位置での転舵対応角θpを用いることができる。
【0066】
・上記各実施形態では、電流軸力Ferをq軸電流値Iqtに基づいて演算したが、これに限らず、例えばq軸目標電流値Iqt*に基づいて演算してもよい。
・上記各実施形態では、角度軸力Fibを転舵対応角θpに基づいて演算したが、これに限らず、例えば目標転舵対応角θp*や操舵角θhに基づいて演算してもよく、また操舵トルクTh等、他のパラメータを加味する等、他の方法で演算してもよい。
【0067】
・上記各実施形態では、制御対象となる操舵装置2を、操舵部4と転舵部6との間の動力伝達が分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵部4と転舵部6との間の動力伝達を分離可能な構造の操舵装置を制御対象としてもよい。
【0068】
・上記各実施形態では、ステアバイワイヤ式の操舵装置2を制御対象としたが、これに限らず、ステアリングホイール3の操作に基づいて転舵輪5を転舵させる操舵機構を有し、ステアリング操作を補助するためのアシスト力としてモータトルクを付与する電動パワーステアリング装置を制御対象としてもよい。なお、こうした操舵装置では、アシスト力として付与されるモータトルクにより、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。また、この場合、操舵制御装置は、アシスト力の目標値となる目標アシストトルクを、車速基礎軸力と他状態量基礎軸力とを個別に設定される配分比率で合算した配分軸力に基づいて演算する。
【0069】
次に、上記各実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記路面軸力は、前記転舵輪を転舵させる力である転舵力として前記モータトルクを付与する前記モータに供給される駆動電流に関連する値に基づいて演算される電流軸力である操舵制御装置。
【符号の説明】
【0070】
1…操舵制御装置、2…操舵装置、3…ステアリングホイール、4…操舵部、5…転舵輪、6…転舵部、11…ステアリングシャフト、13…操舵側モータ、32…転舵側モータ、51…操舵側制御部、62…目標反力トルク演算部、82…反力成分演算部、91…角度軸力演算部、92…電流軸力演算部、93…配分軸力演算部、103…車両状態量軸力演算部、Fyr…車両状態量軸力、Fer…電流軸力、Fib…角度軸力、Fir…反力成分、Ger…電流配分ゲイン、Gib…角度配分ゲイン、Gyr…車両状態量配分ゲイン、Sve…車速状態信号、Th…操舵トルク、Ts*…目標反力トルク、Vb…車速。