(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231113BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20231113BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20231113BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/70 A
H01M50/548 101
C01B25/45 T
(21)【出願番号】P 2019064689
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】川村 知栄
(72)【発明者】
【氏名】関口 正史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
(72)【発明者】
【氏名】富沢 祥江
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/135790(WO,A1)
【文献】特開2007-080812(JP,A)
【文献】特開2011-216235(JP,A)
【文献】特開2009-033101(JP,A)
【文献】特開2015-011864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 4/13
H01M 4/70
H01M 50/548,101
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩系の固体電解質を主成分とする固体電解質層と、電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、対向する2端面に積層された複数の前記電極が交互に露出するように形成された積層チップと、
前記2端面に設けられた1対の外部電極と、を備え、
前記積層チップにおいて、前記2端面が対向する第1方向の長さをLとし、前記第1方向および前記積層チップにおける積層方向に直交する第2方向の幅をWとした場合に、L/Wが0.20以上0.60以下であり、
前記積層チップの積層方向における厚さをTとする場合に、(L+W)/Tは15.0以上30.0以下であることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記電極は、電極活物質を含む2つの電極層によって、集電体層が挟まれた構造を有し、
前記集電体層は、10μm以下の平均厚さを有することを特徴とする
請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層は、10μm以下の平均厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が様々な分野で利用されている。電解液を用いた二次電池には、電解液の漏液等の問題がある。そこで、固体電解質を備え、他の構成要素も固体で構成した全固体電池の開発が行われている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-231796号公報
【文献】特開2011-216235号公報
【文献】特開2017-183052号公報
【文献】特開2015-220106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池の容量密度を高めるには、集電体層を薄くして全固体電池を低背化することが好ましい。しかしながら、集電体層を薄くすると、集電体層の断面積が小さくなるため、集電効率が低下するおそれがある。また、コスト削減のために、導電率の低い物質を集電体や電極層の導電助剤に用いる場合や、集電体を用いない設計とした場合に、電気抵抗が増して応答性(レート特性)が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、良好なレート特性を得ることができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、リン酸塩系の固体電解質を主成分とする固体電解質層と、電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、対向する2端面に積層された複数の前記電極が交互に露出するように形成された積層チップと、前記2端面に設けられた1対の外部電極と、を備え、前記積層チップにおいて、前記2端面が対向する第1方向の長さをLとし、前記第1方向および前記積層チップにおける積層方向に直交する第2方向の幅をWとした場合に、L/Wが0.2以上1.1以下であることを特徴とする。
【0007】
上記全固体電池において、前記積層チップの積層方向における厚さをTとする場合に、(L+W)/Tは3以上85以下としてもよい。
【0008】
上記全固体電池において、前記電極は、電極活物質を含む2つの電極層によって、集電体層が挟まれた構造を有し、前記集電体層は、10μm以下の厚さを有していてもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記固体電解質層は、10μm以下の厚さを有していてもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好なレート特性を得ることができる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
【
図2】実施形態に係る全固体電池の模式的断面図である。
【
図3】(a)および(b)は全固体電池の外観斜視図である。
【
図4】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【
図6】実施例1~11および比較例1,2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池100は、第1電極10と第2電極20とによって、リン酸塩系の固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1電極10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されており、第1電極層11および第1集電体層12が積層された構造を有し、固体電解質層30側に第1電極層11を備える。第2電極20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されており、第2電極層21および第2集電体層22が積層された構造を有し、固体電解質層30側に第2電極層21を備える。
【0015】
全固体電池100を二次電池として用いる場合には、第1電極10および第2電極20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1電極10を正極として用い、第2電極20を負極として用いるものとする。
【0016】
固体電解質層30は、リン酸塩系固体電解質であれば特に限定されるものではないが、例えば、NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質を用いることができる。NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、第1電極層11および第2電極層21に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系材料が好ましい。例えば、第1電極層11および第2電極層21にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。第1電極層11および第2電極層21にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0017】
第1電極層11および第2電極層21のうち、少なくとも、正極として用いられる第1電極層11は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2電極層21も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0018】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPO4などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1電極層11においては、正極活物質として作用する。例えば、第1電極層11にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2電極層21にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2電極層21においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0020】
第1電極層11および第2電極層21の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1電極層11および第2電極層21が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1電極層11および第2電極層21には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1電極層11および第2電極層21には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極層が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1電極層11および第2電極層21に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0021】
第1電極層11および第2電極層21のうち第2電極層21に、負極活物質として公知である物質をさらに含有させてもよい。一方の電解層だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極層は負極として作用し、他方の電極層が正極として作用することが明確になる。一方の電極層だけに負極活物質を含有させる場合には、当該一方の電極層は第2電極層21であることが好ましい。なお、両方の電極層に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0022】
第1電極層11および第2電極層21の作製においては、これら活物質に加えて、酸化物系固体電解質材料や、カーボンや金属といった導電性材料(導電助剤)などをさらに添加してもよい。これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで電極層用ペーストを得ることができる。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。
【0023】
第1集電体層12および第2集電体層22は、導電性材料として、Pdを含んでいる。Pdは、焼成によって各層を焼結させる過程において、酸化されにくくかつ各種材料と反応を生じにくい。また、Pdは、金属のなかではセラミックスとの高い密着性を有している。したがって、第1電極層11と第1集電体層12との高い密着性が得られ、第2電極層21と第2集電体層22との高い密着性が得られる。以上のことから、第1集電体層12および第2集電体層22がPdを含むことで、全固体電池100が良好な性能を発揮することができる。導電助剤と同様に、Cや、Ni、Cu、Feやこれらを含む合金も第1集電体層12および第2集電体層22に使用することができる。
【0024】
図2は、複数の電池単位が積層された全固体電池100aの模式的断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60と、積層チップ60の第1端面に設けられた第1外部電極40aと、当該第1端面と対向する第2端面に設けられた第2外部電極40bとを備える。
【0025】
積層チップ60の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。第1外部電極40aおよび第2外部電極40bは、積層チップ60の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、第1外部電極40aと第2外部電極40bとは、互いに離間している。
【0026】
以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲、同一の厚み範囲、および同一の粒度分布範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0027】
全固体電池100aにおいては、複数の第1集電体層12と複数の第2集電体層22とが、交互に積層されている。複数の第1集電体層12の端縁は、積層チップ60の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の第2集電体層22の端縁は、積層チップ60の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。
【0028】
第1集電体層12上には、第1電極層11が積層されている。第1電極層11上には、固体電解質層30が積層されている。固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。固体電解質層30上には、第2電極層21が積層されている。第2電極層21上には、第2集電体層22が積層されている。第2集電体層22上には、別の第2電極層21が積層されている。当該第2電極層21上には、別の固体電解質層30が積層されている。当該固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。当該固体電解質層30上には、第1電極層11が積層されている。全固体電池100aにおいては、これらの積層単位が繰り返されている。それにより、全固体電池100aは、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0029】
図2の構造において、2層の第1電極層11によって1層の第1集電体層12が挟まれた構造は、1つの電極としても機能する。また、2層の第2電極層21によって1層の第2集電体層22が挟まれた構造も、1つの電極として機能する。この場合、積層チップ60は、固体電解質層30と、電極と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、対向する2端面に複数の電極が交互に露出するように形成された構造を有していると言える。
【0030】
図3(a)は、全固体電池100aの外観の一例を表す外観斜視図である。
図3(a)で例示するように、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向する方向における積層チップ60の長さを、長さLと称する。積層チップ60における積層方向の厚さを、厚さTと称する。積層チップ60の2側面の対向方向における幅を、幅Wと称する。幅Wは、長さLおよび厚さTに対して直交する。
【0031】
全固体電池100aでは、長さLの方向において第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向しているため、集電方向は、長さLの方向となる。
図3(a)の例では、長さLが大きいため、集電に要する集電距離が長くなってしまう。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22を薄層化しようとするか、第1集電体層12および第2集電体層22を無くそうとすると、集電方向における電気抵抗が大幅に増加するおそれがある。また、
図3(a)の例では、幅Wが小さいため、長さLの方向に直交する面において、第1電極層11、第1集電体層12、第2電極層21および第2集電体層22の断面積が小さくなっている。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22を薄層化しようとするか、第1集電体層12および第2集電体層22を無くそうとすると、集電方向における電気抵抗が大幅に増加するおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態においては、
図3(b)で例示するように、長さLを小さくして幅Wを大きくする。長さLを小さくすると、集電距離が短くなる。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22を薄層化しようとしても、第1集電体層12および第2集電体層を無くそうとしても、集電方向における電気抵抗の増加を抑制することができる。また、幅Wを大きくすると、長さLの方向に直交する面において、第1電極層11、第1集電体層12、第2電極層21および第2集電体層22の断面積が大きくなる。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22を薄層化しようとしても、第1集電体層12および第2集電体層を無くそうとしても、集電方向における電気抵抗の増加を抑制することができる。以上のことから、本実施形態によれば、全固体電池100aの容量密度を高めようとしても、電気抵抗の増加が抑制されて応答性が確保され、良好なレート特性を得ることができる。また、同じ容量を実現するための厚さを抑えられるため、焼結安定性が増して、クラック、デラミネーション等の発生が抑えられる。さらに、幅Wが大きくなると第1外部電極40aおよび第2外部電極40bが長くなるため、全固体電池100aが薄くなっても、高強度が得られる。
【0033】
長さLを十分に小さくして幅Wを十分に大きくするためには、L/W比に上限を設けることが好ましい。本実施形態では、L/W比を1.1以下とする。長さLを十分に小さくして幅Wを十分に大きくする観点から、L/W比は、1.0以下であることが好ましい。
【0034】
一方、L/W比を小さくし過ぎると、対向する第1外部電極40aと第2外部電極40bとが近付き過ぎてショートするといった不具合が生じるおそれがある。そこで、L/W比に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、L/W比を0.2以上とすることが好ましく、0.5以上とすることがより好ましい。
【0035】
全固体電池100aの高容量密度化の観点から、第1集電体層12および第2集電体層22は薄いほど好ましい。例えば、第1集電体層12および第2集電体層22の平均厚さは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。一方、第1集電体層12および第2集電体層22が薄すぎると、焼成後に集電体が途切れて(連続性が低下)膜形状が保てなくなったり、焼成時に電極内に取り込まれて、集電体として存在できなくなるといった不具合が生じるおそれがある。そこで、第1集電体層12および第2集電体層22の平均厚さに下限を設けることが好ましい。例えば、第1集電体層12および第2集電体層22の平均厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。
【0036】
全固体電池100aの高容量密度化の観点から、固体電解質層30は薄いほど好ましい。例えば、固体電解質層30の平均厚さは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。一方、固体電解質層30が薄すぎると、ショートといった不具合が生じるおそれがある。そこで、固体電解質層30の平均厚さに下限を設けることが好ましい。例えば、固体電解質層30の平均厚さは、0.5μm以上であることが好ましい。
【0037】
(L+W)/Tが小さ過ぎると、チップサイズ(投影面積)に対して、厚みが大きくなるため、脱脂時、焼成時等にデラミネーションが起こりやすい。そこで、(L+W)/Tに下限を設けることが好ましい。例えば、(L+W)/Tは、3以上であることが好ましい。(L+W)/Tが大き過ぎると、厚みが小さくなるため、LとWとを逆転しても強度が不足するおそれがある。そこで、そこで、(L+W)/Tに上限を設けることが好ましい。例えば、(L+W)/Tは、85以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましい。
【0038】
続いて、全固体電池100aの製造方法について説明する。
図4は、全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0039】
(グリーンシート作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、固体電解質層30を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製することができる。得られた粉末を乾式粉砕することで、所望の粒子径に調整することができる。
【0040】
次に、得られた粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の粒子径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混錬機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、グリーンシートを作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0041】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の第1電極層11および第2電極層21の作製用の電極層用ペーストを作製する。例えば、導電助剤、活物質、固体電解質材料、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで電極層用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金や各種カーボン材料などをさらに用いてもよい。第1電極層11と第2電極層21とで組成が異なる場合には、それぞれの電極層用ペーストを個別に作製すればよい。
【0042】
(集電体用ペースト作製工程)
次に、上述の第1集電体層12および第2集電体層22の作製用の集電体用ペーストを作製する。例えば、Pdの粉末、カーボンブラック、板状グラファイトカーボン、バインダ、分散剤、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、集電体用ペーストを得ることができる。
【0043】
(積層工程)
図5で例示するように、グリーンシート51の一面に、電極層用ペースト52を印刷し、さらに集電体用ペースト53を印刷し、さらに電極層用ペースト52を印刷する。グリーンシート51上で電極層用ペースト52および集電体用ペースト53が印刷されていない領域には、逆パターン54を印刷する。逆パターン54として、グリーンシート51と同様のものを用いることができる。印刷後の複数のグリーンシート51を、交互にずらして積層し、積層体を得る。この場合、当該積層体において、2端面に交互に、電極層用ペースト52および集電体用ペースト53のペアが露出するように、積層体を得る。
【0044】
(焼成工程)
次に、得られた積層体を焼成する。焼成の条件は酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。以上の工程により、積層チップ60が生成される。
【0045】
(外部電極形成工程)
その後、積層チップ60の2端面に金属ペーストを塗布し、焼き付ける。それにより、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成することができる。あるいは、積層チップ60を、2端面に接する上面、下面、2側面で、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが離間して露出できるような専用の冶具にセットし、スパッタにより電極を形成してもよい。形成した電極にめっき処理を施すことで、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施形態に従って全固体電池を作製し、特性について調べた。
【0047】
(実施例1)
Co3O4、Li2CO3、リン酸2水素アンモニウム、Al2O3、GeO2を混合し、固体電解質材料粉末としてCoを所定量含むLi1.3Al0.3Ge1.7(PO4)3を固相合成法により作製した。得られた粉末を5mmφのZrO2ボールで、乾式粉砕(遊星ボールミルで400rpmの回転速度で30min)を行い、D90%粒子径を5μm以下とした。さらに、湿式粉砕(分散媒:イオン交換水またはエタノール)にて、ビーズ径を1.5mmφでD90%粒子径を3μmとなるまで粉砕を進め、さらに、ビーズ径を1mmφでD50%粒子径を0.3μmとなるまで粉砕を進め、D50%粒子径=0.3μm、D90%粒子径=2μmの固体電解質スラリを作製した。得られたスラリに、バインダを添加して固体電解質ペーストを得て、0.6μmのグリーンシートを作製した。LiCoPO4、Coを所定量含むLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を上記同様に固相合成法にて合成し、湿式混合、分散処理してスラリを作製し、バインダとPdペーストとを添加して電極層用ペーストを作製した。
【0048】
グリーンシート上に、所定のパターンのスクリーンを用いて、電極層用ペーストを厚さ2μmで印刷し、さらに集電体層用ペーストとしてPdペーストを0.7μmで印刷し、更に電極層用ペーストを2μmで印刷した。印刷後のシートを、左右に電極が引き出されるようにずらして11枚重ね、30μmの平均厚みになるようにグリーンシートを重ねたものをカバー層として上下に貼り付け、熱加圧プレスにより圧着し、ダイサーにて積層体を所定のサイズにカットした。
【0049】
カットしたチップ100個を300℃以上500℃以下で熱処理して脱脂し、900℃以下で熱処理して焼結させ焼結体を作製した。熱処理後の長さL、幅W、厚さTは、0.3mm、1.5mm、0.1mmとなり、L/W比=0.2、(L+W)/T=18.0であった。焼結体の断面をSEMで観察し、各層の厚みを計測したところ、集電体層の平均厚みは0.5μm、固体電解質層の平均厚みは0.5μmであった。
【0050】
(実施例2)
実施例2では、長さL、幅W、厚さTは、0.3mm、0.28mm、0.1mmとなり、L/W比=1.07、(L+W)/T=5.8であった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、印刷後のシートの積層数を3層とし、20μmのカバー層を上下に貼り付けて焼成した。長さL、幅W、厚さTは、0.5mm、1mm、0.05mmとなり、L/W比=0.50、(L+W)/T=30.0であった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0052】
(実施例4)
実施例4では、長さL、幅W、厚さTは、0.5mm、1mm、0.1mmとなり、L/W比=0.50、(L+W)/T=15.0であった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0053】
(実施例5)
実施例5では、固体電解質のシート厚みを6μm、集電体層の印刷厚みを6μmとした。長さL、幅W、厚さTは、0.5mm、1mm、0.2mmとなり、L/W比=0.50、(L+W)/T=7.5であった。また、集電体層と固体電解質層の平均厚みは5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0054】
(実施例6)
実施例6では、固体電解質のシート厚みを11μmとし、集電体層の印刷厚みを11μmとし、カバー層の厚みを50μmとして、印刷後のシートを18層積層した。長さL、幅W、厚さTは、0.5mm、1mm、0.5mmとなり、L/W比=0.50、(L+W)/T=3.0であった。また、集電体層と固体電解質層の平均厚みは10μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0055】
(実施例7)
固体電解質のシート厚みを6μmとし、集電体層の印刷厚みを1.5μmとし、電極層の印刷厚みを6μmとし、カバー層の厚みを100μmとして、印刷後のシートを51層積層した。長さL、幅W、厚さTは、10mm、50mm、1mmとなり、L/W比=0.20、(L+W)/T=60.0であった。また、集電体層の平均厚みは、1μmであり、固体電解質層の平均厚みは5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0056】
(実施例8)
固体電解質のシート厚みを6μmとし、集電体層の印刷厚みを6μmとし、電極層の印刷厚みを6μmとし、カバー層の厚みを100μmとして、印刷後のシートを41層積層した。長さL、幅W、厚さTは、30mm、50mm、1mmとなり、L/W比=0.60、(L+W)/T=80.0であった。また、集電体層と固体電解質層の平均厚みは5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0057】
(実施例9)
固体電解質のシート厚みを6μmとし、集電体層の印刷厚みを6μmとし、電極層の印刷厚みを6μmとし、カバー層の厚みを100μmとして、印刷後のシートを41層積層した。長さL、幅W、厚さTは、40mm、40mm、1mmとなり、L/W比=1.00、(L+W)/T=80.0であった。また、集電体層と固体電解質層の平均厚みは5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0058】
(実施例10)
集電体と導電助剤の材料をカーボンブラックとした。長さL、幅W、厚さTは、0.3mm、1.5mm、0.1mmとなり、L/W比=0.20、(L+W)/T=18.0であった。また、集電体層および固体電解質層の平均厚みは0.5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0059】
(実施例11)
導電助剤の材料をカーボンブラックとして、電極厚みを4.6μmとして1回だけ印刷し、集電体を作製しなかった。長さL、幅W、厚さTは、0.3mm、1.5mm、0.1mmとなり、L/W比=0.20、(L+W)/T=18.0であった。また、固体電解質層の平均厚みは0.5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0060】
(比較例1)
長さL、幅W、厚さTは、1mm、0.7mm、0.1mmとなり、L/W比=1.43、(L+W)/T=17.0であった。また、集電体層および固体電解質層の平均厚みは0.5μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0061】
(比較例2)
固体電解質のシート厚みを7μmとし、集電体層の印刷厚みを12μmとし、電極層の印刷厚みを2μmとし、カバー層の厚みを30μmとして、印刷後のシートを31層積層した。長さL、幅W、厚さTは、1mm、0.85mm、0.7mmとなり、L/W比=1.18、(L+W)/T=2.6であった。また、集電体層の平均厚みは、11μmであり、固体電解質層の平均厚みは6μmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0062】
(分析)
実施例1~11および比較例1,2の焼結体について、レート特性を測定した。まず、焼結体において電極層が露出する2端面に銀ペーストを塗布して1対の外部電極を形成した。次に、25℃、2.5V-0Vの電圧範囲で0.2Cと1Cとにおいて充放電を行い、得られた放電容量の比率(1C放電容量/0.2C放電容量)をレート特性として測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、実施例1~11のいずれにおいても、レート特性は65%以上となった。これは、L/W比を0.20以上1.1以下としたことで、集電に関する電気抵抗が抑制されたからであると考えられる。これに対して、比較例1,2では、いずれもレート特性が65%未満となった。これは、L/W比が1.1を上回ったために、十分に電気抵抗を下げることができなかったからであると考えられる。
【0063】
次に、実施例1~5,10,11および比較例1について、焼結体の圧子押し込みによる3点曲げ試験を行い、抗折強度の測定を行った。得られた抗折強度が、長さLと幅Wとが入れ替わった基準チップの抗折強度に対して何倍となったかを測定した。例えば、実施例1では、長さLを1.5mm、幅Wを0.3mmとしたものを基準チップとした。実施例1~5,10,11のいずれにおいても、基準チップの抗折強度に対して1倍以上の抗折強度が得られた。これは、L/W比を1.1以下としたことで幅Wが十分に大きくなり、外部電極が長くなったからであると考えられる。一方、比較例1では、基準チップの抗折強度に対して抗折強度が1倍未満となった。これは、L/W比が1.1を超えたことで、幅Wが十分に大きくならず、外部電極が短くなったからであると考えられる。なお、実施例6~9では、基準チップに対する比率を測定しなかったが、実装には問題無い抗折強度を有していた。
【0064】
なお、実施例1~11のいずれにおいても、100個のサンプルにおけるクラックまたはデラミネーションが発生した発生率が低くなった。これは、実施例では、L/Wが1.1以下でありかつ(L+W)/Tが0.3以上85以下であったために、サンプルが厚すぎず、焼成安定性が保たれデラミネーションが抑制され、サンプルの強度も高く、クラックの発生も抑制されたからであると考えられる。一方、比較例1,2では、100個のサンプルにおけるクラックまたはデラミネーションが発生した発生率が高くなった。これは、比較例1では、L/Wが1.1を上回り、サンプルの強度が低下しこれに応じてクラックの発生率が若干高くなったからであると考えられる。比較例2では、サンプルの厚みが大きくなったことで、焼成が不安定となりデラミネーションの発生率が高くなったからであると考えられる。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 第1電極
11 第1電極層
12 第1集電体層
20 第2電極
21 第2電極層
22 第2集電体層
30 固体電解質層
40a 第1外部電極
40b 第2外部電極
51 グリーンシート
52 電極層用ペースト
53 集電体用ペースト
54 逆パターン
60 積層チップ
100 全固体電池