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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】滑り面潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/00 20060101AFI20231113BHJP
   C10M 137/12 20060101ALN20231113BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20231113BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20231113BHJP
   C10M 137/08 20060101ALN20231113BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20231113BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231113BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20231113BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20231113BHJP
【FI】
C10M137/00
C10M137/12
C10M137/02
C10M137/04
C10M137/08
C10M137/10 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:20 Z
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019088919
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2019199601
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】15/983,357
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ノリス
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ランビー
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-043685(JP,A)
【文献】特開昭50-071705(JP,A)
【文献】特開2007-291357(JP,A)
【文献】特開2004-339222(JP,A)
【文献】特開2005-255996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り面潤滑剤組成物であって、
主要量の潤滑基油と、
前記滑り面潤滑剤組成物に0.01~1重量%のヒドロカルビルホスホン酸モノエステルを提供するリン含有摩擦調整剤と、
0.25重量%未満のホスホン酸ジエステルとを含み、
前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルが、モノエステル部分にC1-C4アルキル基を含み、ヒドロカルビル部分に12~30個の炭素原子を含み、か
前記リン含有摩擦調整剤が、前記滑り面潤滑剤組成物に0.01~0.5重量%の亜リン酸水素ジエステルを提供する、滑り面潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記リン含有摩擦調整剤が、0.02:1~10:1の、亜リン酸水素ジエステルに対するヒドロカルビルホスホン酸モノエステルの重量比を有し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤中のホスホン酸形態のリンの量が、前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステル及び前記亜リン酸水素ジエステルによって提供されたリン全体の30~80%である、請求項1に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルが、下記式を有し、
【化1】
式中、R1がC12-C30ヒドロカルビル基であり、R2がメチル又はエチル基である、請求項1に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記亜リン酸水素ジエステルが、下記式を有し、
【化2】
式中、各R3が独立してC1-C30ヒドロカルビル基である、請求項1に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記ホスホン酸ジエステルが、下記式を有し、
【化3】
式中、各R4がC1-C30ヒドロカルビル基であり、そして各R5が独立してC1-C4アルキル基である、請求項1に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項6】
モノアルキル又はジアルキル又はアルケニルリン酸エステル及びアルキル又はアルケニル第一級又は第二級アミンから誘導されたリン酸エステルの1種以上のアミン塩をも含み、及び/又は硫化炭化水素、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、及びそれらの混合物から選択された含硫潤滑剤添加剤をも含み、及び/又は酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルをも含み、及び/又は飽和、一価不飽和又は多価不飽和のC12-C30脂肪酸又は脂肪酸エステルをも含む、請求項1に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルが、下記式を有し、
【化4】
式中、R6がC1-C10の直鎖状若しくは分岐状のカルボン酸基であるか又はC1-C10の直鎖状若しくは分岐状のアルキルアルカノエート基であり、各R7が独立して直鎖状若しくは分岐状のC1-C10のヒドロカルビル基である、請求項6に記載の滑り面潤滑剤組成物。
【請求項8】
滑り面部品を潤滑する方法であって、
前記滑り面部品に潤滑剤組成物を塗布して前記滑り面を動作させることを含み、
前記潤滑剤組成物が、主要量の潤滑基油と、前記滑り面潤滑剤組成物に0.01~1重量%のヒドロカルビルホスホン酸モノエステルを提供するリン含有摩擦調整剤と、0.25重量%未満のホスホン酸ジエステルとを含み、
前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルが、モノエステル部分にC1-C4アルキル基を含み、ヒドロカルビル部分に12~30個の炭素原子を含み、か
前記リン含有摩擦調整剤が、前記滑り面潤滑剤組成物に0.01~0.5重量%の亜リン酸水素ジエステルを提供する、方法。
【請求項9】
前記滑り面潤滑剤組成物が、モノアルキル又はジアルキル又はアルケニルリン酸エステル及びアルキル又はアルケニル第一級又は第二級アミンから誘導されたリン酸エステルの1種以上のアミン塩をも含み、及び/又は硫化炭化水素、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、及びそれらの混合物から選択された含硫潤滑剤添加剤をも含み、及び/又は酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルをも含み、及び/又は飽和、一価不飽和又は多価不飽和のC12-C30脂肪酸又は脂肪酸エステルをも含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記リン含有摩擦調整剤が、0.02:1~10:1の、亜リン酸水素ジエステルに対するヒドロカルビルホスホン酸モノエステルの重量比を有し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤中のホスホン酸形態のリンの量が、前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステル及び前記亜リン酸水素ジエステルによって提供されたリン全体の30~80%である、請求項9に記載の滑り面を潤滑する方法。
【請求項11】
前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルが、下記式を有し、
【化5】
式中、R1がC12-C30ヒドロカルビル基であり、R2がメチル又はエチル基である、請求項8に記載の滑り面を潤滑する方法。
【請求項12】
前記亜リン酸水素ジエステルが、下記式を有し、
【化6】
式中、各R3が独立してC1-C30ヒドロカルビル基である、請求項9に記載の滑り面を潤滑する方法。
【請求項13】
前記ホスホン酸ジエステルが、下記式を有し、
【化7】
式中、R4がC1-C30ヒドロカルビル基であり、そして各R5が独立してC1-C4アルキル基である、請求項9に記載の滑り面を潤滑する方法。
【請求項14】
前記酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルが、下記式を有し、
【化8】
式中、R6がC1-C10の直鎖状若しくは分岐状のカルボン酸基であるか又はC1-C10の直鎖状若しくは分岐状のアルキルアルカノエート基であり、各R7が独立して直鎖状若しくは分岐状のC1-C10のヒドロカルビル基である、請求項9に記載の滑り面を潤滑する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑添加剤、及びこのような添加剤の、潤滑油組成物特に滑り面用途のための潤滑油組成物における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り面は、典型的にはワークピースに対する工具の正確な位置決めと移動を確実にするために製造機械において使用される機械的インターフェースである。滑り面は、金属加工産業における工作機械のような様々な機械において一般的に見られる一方、油圧プレス、射出成形機、トランスファーライン及び機械の一部分の別部分に対する非常に正確な直線運動が必要な他の機械においても見られる。従来の流体力学的滑り面は、互いに滑り合う2つの平行な表面を含み、この恒常な滑りを考慮して、潤滑剤が表面の間に周期的に塗布される。作業中、使用された滑り面潤滑剤は、滑り面から流出するか又は漏出することが多い。その結果として、新しい潤滑剤が定期的に塗布される。
【0003】
切削又は研削作業を行う製造機械では、ワークピースに対して切削又は研削工具を位置決めするのを助けるために滑り面がしばしば使用される。これらの作業では、多くの場合に水性エマルジョンである金属加工流体(MWF)は、切削又は研削点にスプレーされる。MWFは、典型的には、通常機械の下に配置されたサンプ又は下部タンク内に取られ、次いで機械を通して再使用又は再循環される。恒常な機械作業中、サンプ液全体は、シフトごとに数回再循環される。MWFの一回の装填の寿命は、しばしば数ヶ月である。
【0004】
滑り面潤滑剤が滑り面から流出するか又は漏出することが多いため、このような滑り面潤滑剤は、サンプに含まれるMWFに行き着くことがある。この潤滑剤の一部は、MWFエマルジョン中に同伴されるようになるか、あるいはより高密度の水性MWFエマルジョン上に一層の浮上油を形成する。MWF内の滑り面潤滑剤の混入が過度になると、MWFは、性能に関して劣化する傾向があり、最終的にはサンプを空にし、清掃し、かつ新しいMWFを補給しなければならない。MWFを変更することは、新材料、廃棄物及び機械の停止時間の点から、かなりのコストがかかる。
【0005】
滑り面潤滑剤を配合する時、摩擦性能、及び潤滑剤がMWFから分離する性能の両方は重要な要素である。したがって、滑り面部品の間に良好な摩擦性能を提供し、かつ様々なMWFからの迅速な分離性を示す滑り面潤滑剤は望ましい。しかしながら、従来の滑り面潤滑剤は、良好な摩擦性能と良好なMWF分離性との間がトレードオフ状態であることはよく知られている。高い摩擦性能を提供するように配合された従来の滑り面潤滑剤は、残念ながら、分離性が低下している(逆も同様)。従来の滑り面潤滑剤は、良好な摩擦性能、良好なMWF分離性のいずれか1つを提供するか、又は両方の特徴について平凡である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、ダルムシュタットリグ(Darmstadt Rig)上で測定された摩擦係数のグラフである。
図2図2は、ダルムシュタットリグ上で測定された摩擦係数の別のグラフである。
図3図3は、ダルムシュタットリグ上で測定された摩擦係数の別のグラフである。
図4図4は、ダルムシュタットリグ上で測定された摩擦係数の別のグラフである。
図5図5は、本明細書において摩擦係数を測定するために使用されるダルムシュタットリグの例示的な概略図である。
図6図6は、例示的な冷却剤の分離性評定尺度を示す画像である。
【発明の概要】
【0007】
一態様又は実施形態では、良好な摩擦性能及び金属加工流体からの良好な分離性を同時に示す滑り面潤滑剤組成物が本明細書に記載されている。いくつかの手法では、前記滑り面潤滑剤組成物は、主要量の潤滑基油と、前記滑り面潤滑剤組成物に約0.01~約1重量%のヒドロカルビルホスホン酸モノエステルを提供するリン含有摩擦調整剤と、を含み、前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルは、モノエステル部分にC-Cアルキル基を含み、ヒドロカルビル部分に12~30個の炭素原子を含む。いくつかの手法では、前記滑り面潤滑剤組成物は、(モノエステルの代わりに)同量のホスホン酸ジエステルを含む滑り面潤滑剤組成物よりも低い摩擦係数も有し、そして約2未満の、金属加工流体からの平均1時間のSKC分離性も有する。
【0008】
他の態様又は実施形態では、前段落の滑り面潤滑剤組成物は、個別に又はそれらの任意の組合わせで、1つ又は複数の任意の特徴と組み合わせてもよい。これらの特徴としては、前記リン含有摩擦調整剤は、前記滑り面潤滑剤組成物に約0.01~約0.5重量%の亜リン酸水素ジエステルをも提供し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤は、約0.02:1~約10:1の、亜リン酸水素ジエステルに対するヒドロカルビルホスホン酸モノエステルの重量比を有し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤中のホスホン酸形態のリンの量は、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステル及び亜リン酸水素ジエステルによって提供されたリン全体の約30~約80%であり、及び/又は前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルは、下記式を有し、
【0009】
【化1】
【0010】
式中、RはC12-C30ヒドロカルビル基であり、Rはメチル又はエチル基であり、及び/又は前記亜リン酸水素ジエステルは、下記式を有し、
【0011】
【化2】
【0012】
式中、各Rは独立してC-C30ヒドロカルビル基であり、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤は、約0.25重量%未満のホスホン酸ジエステルをも含み、及び/又は前記ホスホン酸ジエステルは、下記式を有し、
【0013】
【化3】
【0014】
式中、各RはC-C30ヒドロカルビル基であり、各Rは独立してC-Cアルキル基であり、及び/又は前記滑り面潤滑剤組成物は、モノアルキル又はジアルキル又はアルケニルリン酸エステル及びアルキル又はアルケニル第一級又は第二級アミンから誘導されたリン酸エステルの1種以上のアミン塩をも含み、及び/又は硫化炭化水素、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、及びそれらの混合物から選択された含硫潤滑剤添加剤をも含み、及び/又は酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルをも含み、及び/又は前記酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルは、下記式を有し、
【0015】
【化4】
【0016】
式中、RはC-C10の直鎖状若しくは分岐状のカルボン酸基であるか又はC-C10の直鎖状若しくは分岐状のアルキルアルカノエート基であり、各Rは独立して直鎖状若しくは分岐状のC-C10のヒドロカルビル基であり、及び/又は前記滑り面潤滑剤組成物は、飽和、一価不飽和又は多価不飽和のC12-C30脂肪酸又は脂肪酸エステルをも含むことが挙げられる。
【0017】
別の態様では、本開示はまた、(モノエステルの代わりに)同量のホスホン酸ジエステルを含む滑り面潤滑剤組成物よりも低い摩擦係数及び約2未満の、金属加工流体からの平均1時間のSKC分離性をも同時に達成するために、前の2段落のいずれかの潤滑油組成物の使用を提供する。
【0018】
更に別の態様では、本開示は、滑り面部品を潤滑する方法を提供する。一手法又は実施形態では、前記方法は、滑り面部品に潤滑剤組成物を塗布して滑り面を動作させることを含む。前記潤滑剤組成物は、主要量の潤滑基油と、前記滑り面潤滑剤組成物に約0.01~約1重量%のヒドロカルビルホスホン酸モノエステルを提供するリン含有摩擦調整剤と、を含み、前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルは、モノエステル部分にC-Cアルキル基を含み、ヒドロカルビル部分に12~30個の炭素原子を含む。前記方法のいくつかの手法では、前記滑り面潤滑剤組成物は、(モノエステルの代わりに)同量のホスホン酸ジエステルを含む滑り面潤滑剤組成物よりも低い摩擦係数を有し、そして約2未満の、金属加工流体からの平均1時間のSKC分離性も有する。
【0019】
他の態様又は実施形態では、前段落の前記方法は、個別に又はそれらの任意の組合わせで、1つ又は複数の任意の特徴と組み合わせてもよい。これらの特徴としては、前記リン含有摩擦調整剤は、前記滑り面潤滑剤組成物に約0.01~約0.5重量%の亜リン酸水素ジエステルをも提供し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤は、約0.02:1~約10:1の、亜リン酸水素ジエステルに対するヒドロカルビルホスホン酸モノエステルの重量比を有し、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤中のホスホン酸形態のリンの量は、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステル及び亜リン酸水素ジエステルによって提供されたリン全体の約30~約80%であり、及び/又は前記ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルは、下記式を有し、
【0020】
【化5】
【0021】
式中、RはC12-C30ヒドロカルビル基であり、Rはメチル又はエチル基であり、及び/又は前記亜リン酸水素ジエステルは、下記式を有し、
【0022】
【化6】
【0023】
式中、各Rは独立してC-C30ヒドロカルビル基であり、及び/又は前記リン含有摩擦調整剤は、約0.25重量%未満のホスホン酸ジエステルをも含み、及び/又は前記ホスホン酸ジエステルは、下記式を有し、
【0024】
【化7】
【0025】
式中、各RはC-C30ヒドロカルビル基であり、各Rは独立してC-Cアルキル基であり、及び/又は前記滑り面潤滑剤組成物は、モノアルキル又はジアルキル又はアルケニルリン酸エステル及びアルキル又はアルケニル第一級又は第二級アミンから誘導されたリン酸エステルの1種以上のアミン塩をも含み、及び/又は硫化炭化水素、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、及びそれらの混合物から選択された含硫潤滑剤添加剤をも含み、及び/又は酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルをも含み、及び/又は前記酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルは、下記式を有し、
【0026】
【化8】
【0027】
式中、RはC-C10の直鎖状若しくは分岐状のカルボン酸基であるか又はC-C10の直鎖状若しくは分岐状のアルキルアルカノエート基であり、各Rは独立して直鎖状若しくは分岐状のC-C10のヒドロカルビル基であり、及び/又は前記滑り面潤滑剤組成物は、飽和、一価不飽和又は多価不飽和のC12-C30脂肪酸又は脂肪酸エステルをも含むことが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、潤滑油組成物に関し、特に滑り面用途のための潤滑油組成物、滑り面潤滑剤のための添加剤組成物、及び潤滑油組成物で滑り面のような機械部品を潤滑する方法に関する。一態様では、本明細書の潤滑油組成物は、良好な摩擦性能と金属加工流体(MWF)からの良好な分離性の両方を同時に提供する組成物を有する。別の態様では、本明細書の潤滑油組成物は、これらの二重の利点を達成するのに有効な量及び比率で、選択されたリン含有摩擦調整剤又は添加剤を含む。例えば、潤滑油組成物は、任意に亜リン酸ジエステルと組み合わせて選択されたホスホン酸モノエステルを含む。いくつかの手法では、潤滑油組成物はまた、選択された少量のホスホン酸ジエステル添加剤を含まないか、あるいはそれを含む。この独特の組合わせのリン添加剤及びこのようなリン添加剤の添加量により、滑り面潤滑剤組成物が優れた摩擦性能を提供すると同時に、従来の潤滑剤と比較してMWFからの迅速な分離を提供することができることが発見された。
【0029】
本明細書で使用される場合、摩擦性能は、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、実施例においてより十分に説明されている滑り面潤滑及び摩擦試験、Ingram、M.及びNorris、P.ら、第10回 燃料と潤滑剤に関する国際シンポジウム、2016文書ID-070の文書に記載されるように、ダルムシュタットリグを用いて評価されるような動的摩擦係数又は単に摩擦係数に関する動的摩擦を指す。
【0030】
金属加工流体からの分離性は、SKC Gleittechnik株式会社(ドイツ)から入手可能なSKC冷却剤分離性試験を用いて測定される。この試験は、滑り面潤滑剤の様々な金属加工流体からの分離性を測定するための最もよく知られている工業試験方法である。この試験では、潤滑剤のアリコートを個々に12種の異なるMWFと混合し、1時間、24時間及び7日後に分離性の程度を測定する(典型的には約2mlの冷却剤及び約8mlの潤滑油組成物)。相対的分離は、1が完全分離を指して6が分離なし(又は完全乳化)を指すという評点によって表される。約1又は約2の12個の分離性評価の平均評点が許容できると考えられ、そして本明細書の独特の滑り面潤滑剤は、一般に1時間後に、約2以下、そしていくつかの手法では約2未満の平均SKC分離性の結果を与える。本明細書の図6は、SKC試験法による1~6の間の各評定レベルに対する分離差を示す。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「炭化水素可溶性」は、反応性金属化合物と炭化水素材料との反応又は錯化によって、化合物が炭化水素材料中に実質的に懸濁又は溶解していることを意味する。本明細書で使用される場合、「炭化水素」は、炭素、水素、及び/又は酸素を様々な組合わせで含む膨大な数の化合物のいずれかを意味する。
【0032】
使用される場合、用語「ヒドロカルビル」は、分子の残余物に直接結合した炭素原子を有し、主に炭化水素特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例としては、(1)炭化水素置換基、すなわち脂肪族(アルキル又はアルケニルなど)、脂環式(シクロアルキル、シクロアルケニルなど)置換基、並びに芳香族-、脂肪族-及び脂環式-置換芳香族置換基、並びに環が分子の別の部分によって完成する(2種の置換基が共に脂環式ラジカルを形成する、など)環状置換基、(2)置換炭化水素置換基、すなわち本明細書の説明の文脈において、主に炭化水素置換基(ハロ(特にクロロ及びフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、及びスルホキシなど)を変更しない非炭化水素基を含有する置換基、(3)ヘテロ置換基、すなわち本明細書の文脈において、主に炭化水素の特性を有するが、そうでなければ炭素原子で構成される環又は鎖中に炭素以外を含有する置換基が挙げられる。ヘテロ原子は、硫黄、酸素及び窒素を含み、そしてピリジル、フリル、チエニル及びイミダゾリルのような置換基を包含する。一般的に、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子ごとに2個以下、好ましくは1個以下の非炭化水素置換基が存在し、典型的には、ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基が存在しない。「ヒドロカルビル基」は、分子の残余物の部分に直接結合した炭素原子を有する基を指してもよく、各ヒドロカルビル基は、炭化水素置換基から独立して選択され、そして置換された炭化水素置換基は、ハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、スルホキシ基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、硫黄、酸素及び窒素の1種以上を含み、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子ごとに存在する。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「主要量」は、組成物の全重量に対して50重量%以上、例えば約80~約99.5重量%、他の手法では約90~約99.5重量%、更なる手法では約50~約99.5重量%の量を意味すると理解される。また、本明細書で使用される場合、用語「少量」は、組成物の全重量に対して50重量%未満の量を意味すると理解される。
【0034】
本開示の目的のために、化学元素は、CAS版の化学・物理学ハンドブック75版の元素の周期表に従って特定され、有機化学の一般原則は、これらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、「Organic Chemistry」、Thomas Sorrell、University Science Books、Sausolito:1999年、及び「March’s Advanced Organic Chemistry」、5th Ed.、Ed.:Smith、M.B. and March、J.、John Wiley & Sons、New York:2001年に記載されている。
【0035】
より詳細に言えば、本開示の潤滑油組成物は、選択された無金属のリン含有化合物を提供する添加剤を含む。1つの手法では、無金属のリン含有化合物は、高い摩擦性能と速い1時間のSKC分離性の両方を同時に達成するのに有効な量及びその相対比率で亜リン酸ジエステルと任意に組み合わせられたホスホン酸モノエステルを含む。リン含有添加剤はまた、選択された量のホスホン酸ジエステルを含んでもよいが、摩擦及び分離性の二重の利点を維持するために、この任意の添加剤の低い添加量が望ましい。他の手法では、潤滑油組成物は、ホスホン酸ジエステルを含まない(約0.05重量%未満など、他の手法では約0.01重量%未満、更なる他の手法ではなし)。
【0036】
ホスホン酸モノエステル。
本明細書の潤滑油組成物は、ホスホン酸モノエステル、特にヒドロカルビルホスホン酸モノエステルで処理されるか又はそれらを含む。いくつかの手法では、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルは以下の式Iを有する。
【0037】
【化9】
【0038】
式中、R、ヒドロカルビル部分は、直鎖状若しくは分岐状のC12-C30ヒドロカルビル鎖であり、R、モノエステル部分は、直鎖状若しくは分岐状のC-Cアルキル基である。別の手法では、Rはメチル又はエチル基である。本明細書に記載されたヒドロカルビルホスホン酸モノエステルのようなホスホン酸モノエステルの量は、潤滑油組成物の全重量に基づいて、約0.01~約1重量%、他の手法では約0.01~約0.7重量%、更なる手法では約0.05~約0.5重量%、更なる手法では約0.01~約0.4重量%、他の手法では約0.01~約0.2重量%、約0.01~約0.1重量%、約0.01~約0.05重量%、又は約0.01~約0.03重量%である。
【0039】
適切なホスホン酸はまた、第一級アルキル基が1~4個の炭素原子を含み、リン原子に結合した非環式ヒドロカルビル基が12~30個の炭素原子を含み、いくつかの手法ではアセチレン性不飽和のない直鎖状ヒドロカルビル基である第一級アルキル非環式ヒドロカルビルホスホン酸エステルを含む。他の手法では、非環式ヒドロカルビル基は、12~24個の炭素原子を含み、更なる手法では12~20個の炭素原子を含む。
【0040】
例示的なホスホン酸化合物としては、メチルヒドロカルビルホスホン酸、エチルヒドロカルビルホスホン酸、プロピルヒドロカルビルホスホン酸、ブチルヒドロカルビルホスホン酸、イソブチルヒドロカルビルホスホン酸が挙げられ、それぞれの場合に、ヒドロカルビル基は、直鎖状であり、飽和するか又は各二重結合が好ましくは内部二重結合である1種以上のオレフィン二重結合を含有することが好ましい。他の適切な化合物は、リン原子に結合したヒドロカルビル基が16~20個の炭素原子又は18~20個の炭素原子を含むものを含む。特に好適なホスホン酸モノエステル化合物は、エチルオクタデシルホスホン酸又はメチルオクタデシルホスホン酸であってもよい。適切なホスホン酸モノエステルの他の例としては、メチルトリアコンチルホスホン酸、メチルトリアコテニルホスホン酸、メチルエイコシルホスホン酸、メチルヘキサデシルホスホン酸、メチルヘキサデセニルホスホン酸、メチルテトラコンテニルホスホン酸、メチルヘキサコンチルホスホン酸、メチルドデシルホスホン酸、メチルドデセニルホスホン酸、エチルトリアコンチルホスホン酸、エチルトリアコテニルホスホン酸、エチルエイコシルホスホン酸、エチルヘキサデシルホスホン酸、エチルヘキサデセニルホスホン酸、エチルテトラコンテニルホスホン酸、エチルヘキサコンチルホスホン酸、エチルドデシルホスホン酸、エチルドデセニルホスホン酸などの化合物、及びそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0041】
亜リン酸ジエステル
本明細書の潤滑油組成物はまた、亜リン酸ジエステル、特に上記のヒドロカルビルホスホン酸モノエステルと組み合わせた亜リン酸水素ジエステルを含んでもよい。いくつかの手法では、亜リン酸ジエステルは、以下の式IIを有する。
【0042】
【化10】
【0043】
式中、各Rは独立してC-C30のヒドロカルビル鎖から選択される。組成物中に含まれている場合、本明細書に記載された亜リン酸水素ジエステルのような亜リン酸ジエステルの量は、潤滑油組成物の全重量に基づいて、約0.01~約0.5重量%、他の手法では約0.01~約0.2重量%、更なる手法では約0.1~約0.2重量%、更なる手法では約0.01~約0.2重量%である。
【0044】
いくつかの手法では、亜リン酸は、ジアルキル又はジアルケニルハイドロゲンホスファイトエステルであってもよい。亜リン酸のアルキル又はアルケニル基は、独立して1~約30個の炭素原子、他の手法では約10~約24個の炭素原子、更なる手法では約10~約20個の炭素原子を含有してよい。ジメチル、ジエチル、ジプロピル、ジブチル、ジペンチル及びジヘキシルホスファイトの低級なジアルキルホスファイト及びジオレイル、ジセチルの高級なアルケニルホスファイト、並びにジステアリルホスファイトを含む低級から高級なジアルキル/ジアルケニルホスファイトのような多数のジアルキル又はジアルケニルホスファイトは適している。アルコールの混合物から製造された混合アルキル/アルケニルホスファイトも本組成物に有用である。アルコールの混合物の例としては、エチルアルコールとブチルアルコール、プロピルアルコールとペンチルアルコール、及びメチルアルコールとペンチルアルコールが挙げられる。上記の亜リン酸の混合物も組成物中に含んでもよい。特に有用な亜リン酸は、亜リン酸水素ジオレイルである。
【0045】
いくつかの手法では、本明細書の潤滑油組成物は、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルと亜リン酸水素ジエステルとの混合物を有するリン含有添加剤を含み、これらの化合物は前の段落に記載されている。これらの実施形態では、組成物は、約0.01~約1重量%のヒドロカルビルホスホン酸モノエステル及び約0.01~約0.5重量%の亜リン酸水素ジエステル(又は各化合物について上記の他の範囲)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、これら2種の成分の混合物を含むリン含有添加剤は、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルと亜リン酸水素ジエステルとの重量比が約0.02:1~約10:1であって、他の手法では約0.03:1~約7.5:1であって、更なる手法では約0.04:1~約5:1であってもよい。他の実施形態では、2種のリン含有成分の混合物を含むリン含有添加剤は、ホスホン酸の形態のリンを提供し、またホスホン酸の形態のリンの量は、ヒドロカルビルホスホン酸モノエステルと亜リン酸水素ジエステルの組合わせにより提供されたリン全体の約30~約80%である。
【0046】
ホスホン酸ジエステル
任意に、本明細書の潤滑油組成物は、少量のホスホン酸ジエステルを更に含んでもよい。含まれる場合、組成物は、約0.25重量%未満、他の手法では約0.2重量%未満、更なる手法では約0.15%未満、更なる手法では約0.1%以下のホスホン酸ジエステルを含んでもよく、更に他の手法ではホスホン酸ジエステルを含まない。いくつかの手法では、ホスホン酸ジエステルは、以下の式IIIを有する。
【0047】
【化11】
【0048】
式中、各RはC-C30ヒドロカルビル鎖であり、各Rは独立してC-C10のアルキル基であり、好ましくはC-Cアルキル基である。
【0049】
使用される場合、適切なホスホン酸ジエステルは、O,O-ジ-(第一級アルキル)非環式ヒドロカルビルホスホン酸を含んでもよく、その中に一次アルキル基は同一であるか又は異なり、かつ各々が独立して1~4個の炭素原子を含み、またリン原子に結合した非環式ヒドロカルビル基は、12~30個の炭素原子を含み得て、かつアセチレン性不飽和のない直鎖状ヒドロカルビル基である。例示的な化合物としては、O,O-ジメチルヒドロカルビルホスホン酸、O,O-ジエチルヒドロカルビルホスホン酸、O,O-ジプロピルヒドロカルビルホスホン酸、O,O-ジブチルヒドロカルビルホスホン酸、O,O-ジイソブチルヒドロカルビルホスホン酸、及び類似の化合物が挙げられ、これらの化合物中の2種のアルキル基、例えばO-エチル-O-メチルヒドロカルビルホスホン酸、O-ブチル-O-プロピルヒドロカルビルホスホン酸及びO-ブチル-O-イソブチルヒドロカルビルホスホン酸は異なり、それぞれの場合にヒドロカルビル基は、直鎖状で飽和しているか又は各二重結合が好ましくは内部二重結合である1個以上のオレフィン性二重結合を含む。適切な化合物としては、双方のO,O-アルキル基が互いに同一である化合物が挙げられる。他の適切な化合物としては、リン原子に結合したヒドロカルビル基が16~20個の炭素原子を含む化合物が挙げられる。特に適切なヒドロカルビルホスホン酸ジエステルは、オクタデシルホスホン酸ジメチルである。適切なホスホン酸ジエステルの他の例としては、ジメチルトリアコンチルホスホン酸、ジメチルトリアコテニルホスホン酸、ジメチルエイコシルホスホン酸、ジメチルヘキサデシルホスホン酸、ジメチルヘキサデセニルホスホン酸、ジメチルテトラコンテニルホスホン酸、ジメチルヘキサコンチルホスホン酸、ジメチルドデシルホスホン酸、ジメチルドデセニルホスホン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本明細書の潤滑油組成物は、オクタデシルホスホン酸ジメチルを全く含まない。
【0050】
基油
本開示の滑り面潤滑組成物はまた、潤滑粘度の1種以上の基油を含んでもよい。いくつかの手法では、組成物は、主要量の基油、例えば約85~約99.5重量%、他の手法では約90~約99.5重量%の基油を含む。基油は、典型的には100℃で約2.5~約25cSt、好ましくは約2.5~約21cStの粘度を有する。
【0051】
本明細書に記載された組成物を配合するのに使用するのに適した基油は、任意の合成油又は天然油又はそれらの混合物から選択してよい。合成基油は、ジカルボン酸、ポリグリコール及びアルコールのアルキルエステル、ポリブテンを含むポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、ポリシリコーンオイル、並びに末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって修飾されたアルキレンオキシドポリマー、インターポリマー、コポリマー及びそれらの誘導体を含む。
【0052】
天然基油としては、動物油及び植物油(ひまし油、ラード油など)、液状鉱油、及びパラフィン系、ナフテン系及び混合パラフィン-ナフテン系の水素化精製、溶媒処理又は酸処理された鉱物潤滑油が挙げられる。石炭又は頁岩由来の潤滑粘度の油もまた、有用な基油である。
【0053】
追加の潤滑添加剤:本開示の滑り面潤滑剤組成物はまた、特定の用途に必要な場合に追加の添加剤を含んでもよい。例えば、追加の添加剤は、酸化防止剤、キャリア流体、金属不活性化剤、腐食防止剤、殺生物剤、帯電防止剤、抗乳化剤、摩擦調整剤、界面活性剤、流動点降下剤、粘度調整剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘着剤及びそれらの混合物を含んでもよい。
【0054】
極圧剤/摩耗防止剤。
有機酸ホスホン酸の油溶性アミン塩は、場合によっては極圧剤及び/又は摩耗防止剤として本開示の流体に使用するための任意の種類の補助リン含有添加剤である。前述の化合物のいずれかの硫黄含有類似体も使用することができるが、あまり好ましくない。適切な例は、リン酸アミン摩耗防止剤/極圧剤であってもよく、リン酸ヘキシル、ジトリデシルアミンであってもよい。
【0055】
いくつかの手法又は実施形態では、極圧剤及び/又は摩耗防止添加剤はまた、リン酸エステルの1種以上のアミン塩を含んでもよい。いくつかの手法では、リン酸エステルのアミン塩は、モノ又はジ-アルキル又はアルケニルリン酸エステル及びアルキル又はアルケニル第一級又は第二級アミンから誘導されてもよい。モノ又はジ-アルキル又はアルケニルリン酸エステルは、C-C20炭素鎖、いくつかの手法ではC-C18炭素鎖を含んでもよい。アルケニル第一級又は第二級アミンは、C-C20アルキル又はアルケニルアミンのようなC-C20アルキル又はアルケニルアミンであってもよい。リン酸エステルの1種の適切なアミン塩は、リン酸ヘキシル、ジ-トリデシルアミンであってもよい。使用される場合、潤滑油組成物は、約0.08~約0.8重量%のリン含有摩耗防止剤を含んでもよい。他の手法では、本明細書の潤滑油組成物は、約0.08~約0.5重量%を含んでもよい。
【0056】
酸化防止剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は、例えば、硫黄含有潤滑添加剤を含む。その例としては、硫化炭化水素、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、多硫化ジアルキル、多硫化ジアリールリン、リン硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミンなど)、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、又はそれらの混合物が挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独で又は組み合わせて使用されてよい。
【0057】
硫化されて硫化オレフィンを形成してもよい好適なオレフィンの例は、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン又はこれらの混合物を含む。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン又はこれらの混合物、並びにこれらの二量体、三量体、及び四量体が特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンのディールス・アルダー付加物及びブチルアクリレートなどの不飽和エステルであってもよい。
【0058】
別の種類の硫化オレフィンには、硫化脂肪酸及びそのエステルが含まれる。脂肪酸は、しばしば、植物油又は動物油から得られ、典型的には約4~約30個の炭素原子を含有し、他の方法において、12~22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びこれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、ステアリン酸、又はこれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナッツ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、又はこれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/又はエステルは、α-オレフィンなどのオレフィンと混合してもよい。
【0059】
使用される場合、本明細書に記載されるような硫化炭化水素は、本明細書の潤滑油組成物中に約0.08~約0.25重量%で提供される。他の手法では、フェノール系及びアミン系酸化防止剤は、使用される場合、組成物中に約0.05~約0.5重量%で含まれる。
【0060】
硫黄含有リン酸エステル
他の手法又は態様では、本発明の滑り面潤滑剤は、酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルも含んでもよい。いくつかの手法では、酸性チオリン酸又はチオリン酸エステルは、下式を有する。
【0061】
【化12】
【0062】
式中、RはC-C10の直鎖状若しくは分岐状のカルボン酸基であるか又はC-C10の直鎖状若しくは分岐状のアルキルアルカノエート基であり、各Rは独立して直鎖状若しくは分岐状のC-C10のヒドロカルビル基である。例示的なチオリン酸は、商品名Irgalube 353及び/又はIrgalube 63で入手可能である。使用される場合、酸性チオリン酸及び/又はチオリン酸エステルの例示的な量は、潤滑剤の約0.01~約0.05重量%であってもよい。
【0063】
他の手法では、潤滑組成物はまた、少なくとも1種の硫黄含有リン酸エステルを含んでもよい。硫黄含有リン酸エステルは、1つ以上の硫黄対リン結合を有する。一実施形態では、硫黄含有リン酸エステルは、酸性チオリン酸、チオリン酸エステル、チオリン酸又はそれらの塩と呼ばれる。チオリン酸エステルは、ジチオリン酸エステルであってもよい。チオリン酸エステルはまた、一般的にジチオリン酸とも呼ばれる。
【0064】
摩擦調整剤成分
適切な摩擦調整剤は、使用される場合、下記一般式に従って、無金属のアミン含有摩擦調整剤であり得る。
【0065】
【化13】
【0066】
式中、Rは約10~約30個の炭素原子を含有するアルキル又はアルケニル基であり、Rは約2~約4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基である。特に適切な無金属のアミン含有摩擦調整剤は、商品名UNAMINE Oでニュージャージー州アレンデールのLonza社から入手可能な2-(2-ヘプタデカ-1-エニル-4,5-ジヒドロイミダゾール-1-イル)エタノールのようなヒドロキシアルキルアルケニルグリオキサリジンであってもよい。使用される場合、潤滑剤組成物中の無金属のアミン含有摩擦調整剤の量は、潤滑剤組成物の全重量に基づいて、約0.01~約1.0重量%の範囲であってもよい。
【0067】
前述の無金属のアミン含有摩擦調整剤に加えて、本開示の組成物は、追加の摩擦調整剤を含んでもよい。グリセリドは、単独で又は他の摩擦調整剤と組み合わせて使用されてもよい。適切なグリセリドは、式のグリセリドを含み得る。
【0068】
【化14】
【0069】
式中、各R10はH及びC(O)R’からなる群から独立して選択され、式中R’は3~23個の炭素原子を有する飽和又は不飽和アルキル基であってもよい。使用されてもよいグリセリドの例としては、グリセロールモノラウレート、グリセロールモノミリステート、グリセロールモノパルミテート、グリセロールモノステアレート、並びにココナッツ酸、牛脂肪酸、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸から誘導されたモノグリセリドが挙げられる。典型的な市販のモノグリセリドは、相当量の対応するジグリセリド及びトリグリセリドを含有する。モノグリセリド対ジグリセリドの任意の比率を使用することができるが、利用可能な部位の30~70%が遊離ヒドロキシル基を含有する(すなわち、上式によって表されるグリセリドの全R基の30~70%は水素である)ことが好ましい。好ましいグリセリドは、一般的にオレイン酸から誘導されたモノ、ジ及びトリグリセリドと、グリセロールとの混合物である、グリセロールモノオレエートである。適切な市販のグリセリドは、一般的に約50%~60%の遊離ヒドロキシル基を含有してよいグリセロールモノオレエートを含む。
【0070】
腐食防止剤
更なる手法又は実施形態では、本開示の滑り面潤滑剤組成物は、飽和、一不飽和又は多価不飽和のC12-C30脂肪酸又は脂肪酸エステルも含んでもよい。いくつかの手法では、本明細書の化合物は、同時に摩擦調整剤及び/又は腐食防止剤として機能してもよい。使用される場合、潤滑剤組成物は、約0.005~約0.1重量%の脂肪酸又は脂肪酸エステルを含んでもよい。
【0071】
他の実施形態では、銅腐食防止剤は、組成物中に含めるのに適する他の種類の添加剤を構成してもよい。このような化合物は、チアゾール、トリアゾール及びチアジアゾールを含む。このような化合物の例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(ヒドロカルビルチオ)-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-ビス(ヒドロカルビルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。適切な化合物は、その多くが商品として入手可能な1,3,4-チアジアゾール、及びトリルトリアゾールのようなトリアゾールと2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールのような1,3,5-チアジアゾールとの組合わせも含む。1,3,4-チアジアゾールは、一般的にヒドラジンと二硫化炭素から既知の方法により合成される。例えば、米国特許第2,765,289号、第2,749,311号、第2,760,933号、第2,850,453号、第2,910,439号、第3,663,561号及び第3,840,549号を参照する。
【0072】
防錆剤又は腐食防止剤は、本開示の実施形態で使用するための他の種類の防止剤添加剤である。このような物質は、モノカルボン酸及びポリカルボン酸を含む。適切なモノカルボン酸の例は、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸である。適切なポリカルボン酸は、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸のような酸から製造される二量体及び三量体酸を含む。別の有用な種類の防錆剤は、例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸無水物、テトラデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸無水物などのアルケニルコハク酸及びアルケニルコハク酸無水物の腐食防止剤を含んでもよい。アルケニル基中に8~24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールのようなアルコールとの半エステルも有用である。他の適切な防錆剤又は腐食防止剤は、エーテルアミン、酸性リン酸、アミン、エトキシル化アミン、エトキシル化フェノール、エトキシル化アルコールのようなポリエトキシル化化合物、イミダゾリン、アミノコハク酸又はその誘導体などを含む。これらの種類の材料は、商品として入手可能である。このような防錆剤又は腐食防止剤の混合物を使用することができる。本明細書に記載された滑り面配合物中の腐食防止剤の量は、配合物の全重量に基づいて、約0.01~約2.0重量%の範囲であってもよい。
【0073】
抗乳化剤
少量の抗乳化成分を使用してもよい。好ましい抗乳化成分は、EP 330,522に記載されている。このような抗乳化成分は、アルキレンオキシドをビス-エポキシドと多価アルコールとを反応させることによって得られる付加物と反応させることによって得られる。抗乳化剤は、0.1質量%の活性成分を超えないレベルで使用されるべきである。0.001~0.05質量%の活性成分の処理量が便利である。
【0074】
流動点降下剤
潤滑油流動性向上剤としても知られる流動点降下剤は、流体が流動するか又は注ぐことができる最低温度を下げる。このような添加剤はよく知られている。流体の低温流動性を改善するこれらの添加剤の典型的なものは、C-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレート、ポリスチレンコハク酸エステルなどである。
【0075】
粘着剤
粘着剤(TA)は、潤滑油に高温及び低温での操作性を付与するように機能する。使用されるTAは、その唯一の機能を有しても、又は多機能であってもよい。
【0076】
適切なTAは、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンと高級なα-オレフィンとのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリル酸エステルとのインターポリマー、及びスチレン/イソプレンと、スチレン/ブタジエンとイソプレン/ブタジエンとの部分水素化コポリマー、並びにブタジエンとイソプレンとイソプレン/ジビニルベンゼンの部分水素化ホモポリマーである。
【0077】
添加剤は、通常、それがその所望の機能を提供することを可能にする量で基油に混合される。潤滑剤配合物に使用される場合の添加剤の代表的な有効量は、以下の表1に列挙されている。記載されているすべての値は、重量%活性成分として記載されている。これらの値は、単に例示的な範囲として提供されており、実施形態を限定することを決して意図するものではない。
【0078】
【表1】
【0079】
上記の議論は本明細書の潤滑油組成物中の様々な例示的な追加の添加剤を特定の機能カテゴリーの下に記載しているが、添加剤はそのようなカテゴリーの特記された機能に限定されないことを理解されたい。多くの添加剤は多機能性であり、かつ潤滑剤内で同時に1種又は複数の機能を果たすことができ、又は油中で使用される添加量又は添加剤パッケージ配合物に応じて異なる機能性を提供することができる。したがって、上記の説明は、説明された構成要素の機能に限定することを意図していない。添加剤は、潤滑油組成物又は基油に直接添加さてもよい。しかしながら、一実施形態では、添加剤は、添加剤濃縮物を形成するように鉱物油、合成油、ナフサ、アルキル化(C10-C13アルキルなど)ベンゼン、トルエン又はキシレンのような実質的に不活性で通常液状の有機希釈剤で希釈されてもよい。表1中の上記量は、いかなる希釈油も含まない。
【0080】
本開示及びその多くの利点のよりよい理解は、下記実施例で明らかにされ得る。下記実施例は、範囲又は意図のいずれにおいても例示的なものであり、それを限定するものではない。当業者であれば、これらの実施例に記載される成分、方法、ステップ及び装置の変形を使用することができることを容易に理解するであろう。特記されないか又は考察の文脈から明らかでない限り、本開示の実施例及び他の場所に記載されるすべてのパーセンテージ、比率及び部は重量によるものである。
【実施例1】
【0081】
本開示と一致する潤滑油組成物に対して、SKC分離性試験に従って、様々な金属加工流体からの分離性を評価した。この試験手順は、要求に応じてドイツのSKC gleittechnik GmbH社(ドイツ、レーデンタール、D-96469、私書箱1420)から利用可能である。
【0082】
下記表2の本発明及び比較例の潤滑油組成物に対して、SKC分離性に基づいて金属加工流体からの分離性を評価した。結果を表3に提供する。一般的に、約2以下の全12MWFの1時間平均SKC分離性が望まれ、そして数が少ないほどより良好である。以下の試料A~Gにおいて、潤滑油組成物は、メチルオクタデシルホスホン酸(MOP、Afton Chemical社製)、オクタデシルホスホン酸ジメチル(DMOP、Afton Chemical社製)又はジオレイルハイドロジェンホスファイト(Duraphos AP 240L、Rhodia社製)を、基油(グループ1 鉱油、イソ68(Exxon Mobil社製))であるその他の添加剤と残余物の同じ混合物と組み合わせて含む。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3A】
【0085】
【表3B】
【0086】
表3A及び3B中、試験流体は、約8mlの潤滑剤中の約2mlの選択された試験流体の分離性を評価することによって、下記の表4に示されるようにSKC分離性試験に従う。次いで混合物を1500rpmで1分間撹拌し、そして1時間、1日及び7日目に目視検査した。表3A及び3Bの分離性評点は、SKC分離性試験に従って報告され、そしてX、Y、Zのフォーマットの評点を含み、表中、Xは1時間の評点、Yは24時間の評点であり、そしてZは7日間の評点である。評点は、図6に示すような分離尺度に基づき、表中、1は完全分離を表し、2は部分分離を表し、3は油と中間相との分離を表し、4は油、中間体及びエマルジョン相を表し、5は中間相及びエマルジョン相を表し、そして6はすべての中間相を表す。図6中、0は油を表し、zは中間混合物を表し、そしてeはエマルジョンを表す。平均評点は、表3Bに示すように、1時間及び24時間の評価について試験されたすべての流体の平均値を含む。表3Bに示すように、本発明の試料A及びGは、良好な分離性評点を有し、そして下記の実施例3に更に示されるように、優れた摩擦性能も有した。以下の実施例3に示されるように、比較例の試料は良好な分離性評点を示したかもしれないが、これらの試料はまた良好な摩擦性能を有さず及び/又は良好な摩擦を達成するためにより高い添加量を必要とした。
【0087】
【表4】
【実施例2】
【0088】
漸増レベルのオクタデシルホスホン酸ジメチル(DMOP)を含む潤滑油の更なる評価を行った。潤滑油試料H~Jは、漸増レベルのオクタデシルホスホン酸ジメチルを有する以外、実施例1の同じ基油を有する同様のレベルの添加剤を含んでいた。表6A及び6Bに示されるように、オクタデシルホスホン酸ジメチルのレベルを増加させることは、SKC分離性にとって逆効果である。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6A】
【0091】
【表6B】
【実施例3】
【0092】
実施例1の表2からの潤滑剤試料A~Gに対して、滑り面潤滑及び摩擦試験、Ingram M.及びNorris、P.ら、第10回 燃料と潤滑剤に関する国際シンポジウム、2016、書類ID-070に記載されるようなダルムシュタット試験法を用いて動的摩擦性能に関して摩擦係数を更に評価した。
【0093】
一般的には、Afton Chemical社で入手可能な、例示的なダルムシュタットリグの図を図5に示す。リグは、平面研削盤の滑り面構成に基づく。リードスクリューを含む試験用リグのベッドは、研削盤からのものであり、テーブルに適用される荷重の範囲は、リグが多くの流体力学的滑り面に関連する表面圧力を再現することを可能にする実際の機械を代表するものである。滑りテーブルは、工作機械の通常の作業速度と移行速度を含む0.01mm/分~3000mm/分の低速で動作する。駆動キャリッジは、滑りテーブルが4つの滑り素子上の案内路に沿って滑ると共に、親ネジによって駆動されるリニアローラ軸受上を案内路に沿って転動する。滑りテーブルは、ロードセルによって駆動キャリッジに接続されている。ロードセルは、アンプに接続され、かつ摩擦係数とスティックスリップのわずかな変動を測定することができる。
【0094】
リグの双方の滑り面は、スチール製(硬化及び研磨済み)であり、寸法が125×53×2400mmである。4つの滑り素子を研削し、トルクレンチを用いて滑りキャリッジに均一に固定した。それらは、それぞれ200×50mmであり、サイズがフライス盤と同様である。滑り素子は、潤滑剤供給を含む。潤滑剤は、小さな貯蔵容器から滑り素子内の切欠きを通して接点に重力で供給される。平行面を確保するために、滑り面は、100mm/分の速度で約1~2週間で割れる。ベルトで親ネジを駆動するために2つのモーターがある。モーター1は、高速域(25~3000mm/分)に使用され、ギアボックスを介して親ネジに接続されたモーター2は、低速及び静的摩擦測定に使用され、0.01~25mm/分の速度を達成する。工作機械の滑り面上の表面圧力は、一般的に10~50MPaの範囲内にあることが見出されている。本明細書の実施例の場合のように、市販の滑り面は、室温で運転し、油及び滑り面の温度は約18~23℃である。
【0095】
試験面(案内路及び滑り素子)を、圧縮空気銃で乾燥する前に洗浄した。油貯蔵容器と油供給ラインも洗浄した。次に、滑りキャリッジをクレーンの助けを借りて試験台上に下ろして潤滑接触を形成する。ロードセルを、10kgの重りを使って較正し、次いで2つのキャリッジの間に取り付けた。その後、油を小さな貯蔵容器に追加し、重りをキャリッジに追加した。次いで、滑り素子を100mm/分で10分間滑らせながら慣らし運転段階を実施した。次いで、摩擦係数を、降順で3000~0.01mm/分の間の別々の滑り速度で測定した。滑り面のトラバースの双方の方向について測定された力測標の平均をとることによって平均摩擦係数を計算した。
【0096】
試験手順の更なる詳細は、上記のジャーナル記事-Marc Ingram及びPaul Norrisによる滑り潤滑及び摩擦試験に詳述されている。ダルムシュタットリグ摩擦試験の結果を図1~3に示す。これらの図に示すように、メチルオクタデシルホスホン酸の処理量が低い試料Aは、試料Aの本発明のホスホン酸モノエステルと比較して油中の同じ処理量のホスホン酸ジエステルを有する試料Bと匹敵する実質的により良い(すなわちより低い)摩擦係数を有した。比較例の試料Cが本発明の試料Aと同様の摩擦性能を有したが、試料Cはホスホン酸ジエステルの処理量がはるかに高く、そして実施例1に示すように、試料CがSKC分離性が低いが、試料Aは優れたSKC分離性をも有した。更に、実施例1に示すように、オクタデシルホスホン酸ジメチルとジオレイルホスフィットとの混合物である試料Fは、良好な摩擦性能を示すが、最悪のSKC分離性評点を有した。
【0097】
以下の表6Cにも示すように、0.1、1、10、100、1000及び2000mm/分の滑り速度でのダルムシュタットリグからの試料A~Gの摩擦係数である。一般的に、本発明の試料Aは、比較例の試料Bよりも動的摩擦係数が約6~約25%改善されることを示している。
【0098】
【表6C】
【実施例4】
【0099】
実施例1及び3の手順により記載されるように、更なる追加の滑り面潤滑剤試料に対してSKC分離性及びダルムシュタット摩擦係数を評価した。潤滑剤試料を表7に示し、対応するSKC分離性評点を表8A及び8Bに示す。試料K、L、及びNは、混合したグループI及びグループIIIの基油を使用した。試料Mは、グループIの基油を使用した。ダルマシュタット摩擦の結果を以下の図4及び表9に示す。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8A】
【0102】
【表8B】
【0103】
【表9】
【0104】
図4は、本発明の試料K及びLが最低の摩擦及び最低の平均1時間SKC分離性評点を有することを示す、試料K~Nのダルムシュタットリグ摩擦データを示す。試料Nは、良好な分離性評点を有していたかもしれないが、図4に示すように最悪の摩擦係数を有するため、本明細書の本発明の試料のように摩擦及び分離性の二重の利点を達成することができなかった。
【0105】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮及び本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される時、「a」及び/又は「an」は、1つ又は2つ以上を指すことがある。他に指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などのような特性を表すすべての数字は、「約」という語が存在するか否かにかかわらず、すべての場合において「約」という語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。最低限でも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁の数字を考慮し、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。広範囲の開示を記載する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。いかなる数値も、しかしながら、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、一定の誤差を本質的に含有する。
【0106】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基、又はパラメータは、単独で、又は本明細書に開示される各々及びすべての他の成分、化合物、置換基、若しくはパラメータのうちの1つ以上との組合わせでの使用について開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0107】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効桁の数字を有する開示範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることを更に理解されたい。よって、例えば、1~4の範囲は、1、2、3、及び4の値の、並びにそのような値のいずれかの範囲の明確な開示として解釈されるべきである。
【0108】
本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されると解釈されるべきであることを更に理解されたい。よって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限と、又は各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、又は各範囲の各上限を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって誘導されるすべての範囲の開示として解釈されるべきである。すなわち、広い範囲内の終点値の間の任意の範囲も本明細書において考察されることもまた理解される。したがって、1~4の範囲は、1~3、1~2、2~4、2~3などの範囲をも意味する。
【0109】
更に、本明細書又は実施例において開示される成分、化合物、置換基、又はパラメータの特定量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、よって、本出願の他の個所で開示される同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲又は特定量/値のいずれかの他の下限又は上限と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲を形成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6