(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびその製造方法、圧電薄膜共振器、フィルタ並びにマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231113BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20231113BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H3/02 B
(21)【出願番号】P 2019140932
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】矢神 義之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 龍一
(72)【発明者】
【氏名】川上 博士
(72)【発明者】
【氏名】折戸 悟士
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 航
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0225683(US,A1)
【文献】特開2014-171218(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073899(WO,A1)
【文献】特開2019-075736(JP,A)
【文献】特開2007-181185(JP,A)
【文献】特開2015-99988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1下部電極と、前記第1下部電極上に設けられた第1圧電膜と、前記第1圧電膜上に設けられ前記第1圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1下部電極と対向して第1共振領域を形成する第1上部電極と、前記第1共振領域の一部である第1中央領域に設けられておらず、前記第1中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第1共振領域の外周に沿って前記第1中央領域を囲むように、前記第1下部電極と前記第1上部電極との間に挿入された第1挿入膜と、前記第1挿入膜との間に前記第1圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第1中央領域の少なくとも一部および前記第1挿入膜が設けられた領域における前記第1挿入膜と前記第1上部電極との間に挿入された第2挿入膜と、を備える第1圧電薄膜共振器と、
前記基板上に設けられた第2下部電極と、前記第2下部電極上に設けられた第2圧電膜と、前記第2圧電膜上に設けられ前記第2圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第2下部電極と対向して第2共振領域を形成する第2上部電極と、前記第2共振領域の一部である第2中央領域に設けられておらず、前記第2中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第2共振領域の外周に沿って前記第2中央領域を囲むように、前記第2下部電極と前記第2上部電極との間に挿入された第3挿入膜と、前記第3挿入膜との間に前記第2圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第2中央領域の少なくとも一部および前記第3挿入膜が設けられた領域における前記第3挿入膜と前記第2下部電極との間に挿入された第4挿入膜と、を備える第2圧電薄膜共振器と、
を備え
、
前記第1挿入膜の膜厚と前記第4挿入膜の膜厚とは略等しく、前記第1挿入膜の材料と前記第4挿入膜の材料は略同じであり、
前記第2挿入膜の膜厚と前記第3挿入膜の膜厚とは略等しく、前記第2挿入膜の材料と前記第3挿入膜の材料は略同じであり、
前記第1挿入膜と前記第2挿入膜との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第3挿入膜と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第1挿入膜と前記第2挿入膜との間の前記第1圧電膜の材料と前記第3挿入膜と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じであり、
前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間の前記第1圧電膜の材料と前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じである、または、前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間には前記第1圧電膜は設けられておらず、前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間には前記第2圧電膜は設けられていない弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間の前記第1圧電膜の材料と前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じである、または、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間には前記第1圧電膜は設けられておらず、前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間には前記第2圧電膜は設けられていない請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第1挿入膜および前記第4挿入膜の主成分と前記第2挿入膜および前記第3挿入膜の主成分は同じである請求項
1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第2挿入膜の弾性定数の温度係数の符号は前記第1圧電膜の弾性定数の符号と反対であり、前記第4挿入膜の弾性定数の温度係数の符号は前記第2圧電膜の弾性定数の符号と反対である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1挿入膜、前記第2挿入膜、前記第3挿入膜および前記第4挿入膜の主成分は酸化シリコンであり、
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の主成分は窒化アルミニウムである請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1挿入膜と前記第1下部電極との間に前記第1圧電膜の一部が設けられ、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間に前記第1圧電膜の一部が設けられ、
前記第4挿入膜と前記第2下部電極との間に前記第2圧電膜の一部が設けられ、前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間に前記第2圧電膜の一部が設けられる請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項8】
請求項
7に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項9】
基板上に、第1下部電極および第2下部電極を形成する工程と、
前記第1下部電極上に第1圧電膜と、前記第2下部電極上に第2圧電膜と、を形成する工程と、
前記第1下部電極上に前記第1圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1下部電極と対向して第1共振領域を形成する第1上部電極と、前記第2下部電極上に前記第2圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第2下部電極と対向して第2共振領域を形成する第2上部電極と、を形成する工程と、
前記第1共振領域の一部である第1中央領域に設けられておらず、前記第1中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第1共振領域の外周に沿って前記第1中央領域を囲むように、前記第1下部電極と前記第1上部電極との間に挿入された第1挿入膜と、前記第1挿入膜との間に前記第1圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第1中央領域の少なくとも一部および前記第1挿入膜が設けられた領域における前記第1挿入膜と前記第1上部電極との間に挿入された第2挿入膜と、前記第2共振領域の一部である第2中央領域に設けられておらず、前記第2中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第2共振領域の外周に沿って前記第2中央領域を囲むように、前記第2下部電極と前記第2上部電極との間に挿入された第3挿入膜と、前記第3挿入膜との間に前記第2圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第2中央領域の少なくとも一部および前記第3挿入膜が設けられた領域における前記第3挿入膜と前記第2下部電極との間に挿入された第4挿入膜と、のうち前記第1挿入膜と前記第4挿入膜とを同時に形成する工程と、
前記第2挿入膜と前記第3挿入膜とを同時に形成する工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびその製造方法、圧電薄膜共振器、フィルタ並びにマルチプレクサに関し、例えば挿入膜を有する弾性波デバイスおよびその製造方法、圧電薄膜共振器、フィルタ並びにマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびマルチプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する積層構造を有している。圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域が共振領域である。共振領域の圧電膜内に、外周領域が中央領域より厚い挿入膜を設けることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の圧電薄膜共振器を有する弾性波デバイスにおいて、電気機械結合係数を異ならせたい場合がある。例えば、ラダー型フィルタの直列共振器と並列共振器とで電気機械結合係数を異ならせることで、所望のフィルタ特性を得ることができる。電気機械結合係数を小さくするため、圧電薄膜共振器にキャパシタを並列接続する。このため、弾性波デバイスが大型化する。また、製造工程が増加する。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、所望の電気機械結合係数とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた第1下部電極と、前記第1下部電極上に設けられた第1圧電膜と、前記第1圧電膜上に設けられ前記第1圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1下部電極と対向して第1共振領域を形成する第1上部電極と、前記第1共振領域の一部である第1中央領域に設けられておらず、前記第1中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第1共振領域の外周に沿って前記第1中央領域を囲むように、前記第1下部電極と前記第1上部電極との間に挿入された第1挿入膜と、前記第1挿入膜との間に前記第1圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第1中央領域の少なくとも一部および前記第1挿入膜が設けられた領域における前記第1挿入膜と前記第1上部電極との間に挿入された第2挿入膜と、を備える第1圧電薄膜共振器と、前記基板上に設けられた第2下部電極と、前記第2下部電極上に設けられた第2圧電膜と、前記第2圧電膜上に設けられ前記第2圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第2下部電極と対向して第2共振領域を形成する第2上部電極と、前記第2共振領域の一部である第2中央領域に設けられておらず、前記第2中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第2共振領域の外周に沿って前記第2中央領域を囲むように、前記第2下部電極と前記第2上部電極との間に挿入された第3挿入膜と、前記第3挿入膜との間に前記第2圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第2中央領域の少なくとも一部および前記第3挿入膜が設けられた領域における前記第3挿入膜と前記第2下部電極との間に挿入された第4挿入膜と、を備える第2圧電薄膜共振器と、を備え、前記第1挿入膜の膜厚と前記第4挿入膜の膜厚とは略等しく、前記第1挿入膜の材料と前記第4挿入膜の材料は略同じであり、前記第2挿入膜の膜厚と前記第3挿入膜の膜厚とは略等しく、前記第2挿入膜の材料と前記第3挿入膜の材料は略同じであり、前記第1挿入膜と前記第2挿入膜との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第3挿入膜と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第1挿入膜と前記第2挿入膜との間の前記第1圧電膜の材料と前記第3挿入膜と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じであり、前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間の前記第1圧電膜の材料と前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じである、または、前記第1下部電極と前記第1挿入膜との間には前記第1圧電膜は設けられておらず、前記第2下部電極と前記第4挿入膜との間には前記第2圧電膜は設けられていない弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間の前記第1圧電膜の膜厚と前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間の前記第2圧電膜の膜厚とは略等しく、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間の前記第1圧電膜の材料と前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間の前記第2圧電膜の材料とは略同じである、または、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間には前記第1圧電膜は設けられておらず、前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間には前記第2圧電膜は設けられていない構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第1挿入膜および前記第4挿入膜の主成分と前記第2挿入膜および前記第3挿入膜の主成分は同じである構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2挿入膜の弾性定数の温度係数の符号は前記第1圧電膜の弾性定数の符号と反対であり、前記第4挿入膜の弾性定数の温度係数の符号は前記第2圧電膜の弾性定数の符号と反対である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1挿入膜、前記第2挿入膜、前記第3挿入膜および前記第4挿入膜の主成分は酸化シリコンであり、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の主成分は窒化アルミニウムである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1挿入膜と前記第1下部電極との間に前記第1圧電膜の一部が設けられ、前記第2挿入膜と前記第1上部電極との間に前記第1圧電膜の一部が設けられ、前記第4挿入膜と前記第2下部電極との間に前記第2圧電膜の一部が設けられ、前記第3挿入膜と前記第2上部電極との間に前記第2圧電膜の一部が設けられる構成とすることができる。
【0013】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0014】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0015】
本発明は、基板上に、第1下部電極および第2下部電極を形成する工程と、前記第1下部電極上に第1圧電膜と、前記第2下部電極上に第2圧電膜と、を形成する工程と、前記第1下部電極上に前記第1圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第1下部電極と対向して第1共振領域を形成する第1上部電極と、前記第2下部電極上に前記第2圧電膜の少なくとも一部を挟み前記第2下部電極と対向して第2共振領域を形成する第2上部電極と、を形成する工程と、前記第1共振領域の一部である第1中央領域に設けられておらず、前記第1中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第1共振領域の外周に沿って前記第1中央領域を囲むように、前記第1下部電極と前記第1上部電極との間に挿入された第1挿入膜と、前記第1挿入膜との間に前記第1圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第1中央領域の少なくとも一部および前記第1挿入膜が設けられた領域における前記第1挿入膜と前記第1上部電極との間に挿入された第2挿入膜と、前記第2共振領域の一部である第2中央領域に設けられておらず、前記第2中央領域を囲む少なくとも一部の領域において前記第2共振領域の外周に沿って前記第2中央領域を囲むように、前記第2下部電極と前記第2上部電極との間に挿入された第3挿入膜と、前記第3挿入膜との間に前記第2圧電膜の少なくとも一部が設けられるように、前記第2中央領域の少なくとも一部および前記第3挿入膜が設けられた領域における前記第3挿入膜と前記第2下部電極との間に挿入された第4挿入膜と、のうち前記第1挿入膜と前記第4挿入膜とを同時に形成する工程と、前記第2挿入膜と前記第3挿入膜とを同時に形成する工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望の電気機械結合係数とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1における挿入膜の平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図6】
図6(a)は、実験1における回折角度2θに対する回折強度を示す図、
図6(b)は、Rrmsに対するロッキングカーブのFWHMを示す図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(d)は、実験2において作製したサンプルAからDを示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ実施例1の変形例4および5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)は、基板10、下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16bを主に示す。
図2(a)および
図2(b)は、実施例1における挿入膜の平面図である。
図2(a)は挿入膜28aおよび28bを主に示し、
図2(b)は挿入膜26aおよび26bを主に示す。
【0020】
図1(a)から
図2(b)に示すように、基板10上に圧電薄膜共振器11aおよび11bが設けられている。圧電薄膜共振器11a(第1圧電薄膜共振器)は、空隙30a(第1空隙)、下部電極12a(第1下部電極)、圧電膜14a(第1圧電膜)、上部電極16a(第1上部電極)、挿入膜26a(第1挿入膜)および挿入膜28a(第2挿入膜)を主に備える。圧電薄膜共振器11b(第2圧電薄膜共振器)は、空隙30b(第2空隙)、下部電極12b(第2下部電極)、圧電膜14b(第2圧電膜)、上部電極16b(第2上部電極)、挿入膜26b(第4挿入膜)および挿入膜28b(第3挿入膜)を主に備える。
【0021】
基板10上に、空隙30aを挟み下部電極12aが設けられ、空隙30bを挟み下部電極12bが設けられている。基板10は例えばシリコン基板である。空隙30aおよび30bは、圧電膜14aおよび14bに励振された弾性波を反射する音響反射層として機能する。下部電極12aおよび12bは例えば基板10側からクロム(Cr)膜およびルテニウム(Ru)膜である。
【0022】
下部電極12aおよび12b上に、C軸配向性を有する窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14aおよび14bがそれぞれ設けられている。圧電膜14aおよび14bは、基板10側から下部圧電膜13a、中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cを各々有する。
【0023】
圧電膜14aおよび14b上に上部電極16aおよび16bがそれぞれ設けられている。上部電極16aおよび16bは例えば圧電膜14aおよび14b側からルテニウム膜およびクロム膜である。
【0024】
圧電薄膜共振器11aにおいて、共振領域50a(第1共振領域)は、圧電膜14aの少なくとも一部を挟み下部電極12aと上部電極16aとが対向する領域で定義される。圧電薄膜共振器11bにおいて、共振領域50b(第2共振領域)は、圧電膜14bの少なくとも一部を挟み下部電極12bと上部電極16bとが対向する領域で定義される。共振領域50aおよび50bは、楕円形状を有し、圧電膜14aおよび14b内に厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。
【0025】
下部圧電膜13aと中間圧電膜13bとの間に挿入膜26aおよび26bが設けられている。中間圧電膜13bと上部圧電膜13cとの間に挿入膜28aおよび28bが設けられている。
【0026】
圧電薄膜共振器11aにおいて、挿入膜26aは、共振領域50aの一部である中央領域54a(第1中央領域)には設けられておらず、中央領域54aを囲む外周領域52a(第1外周領域)に設けられている。中央領域54aは共振領域50aの中心(幾何学的な中心でなくてもよい)を含む領域であり、外周領域52aは共振領域50aの外周を含み外周に沿った領域である。挿入膜28aは共振領域50aの中央領域54aおよび外周領域52aの全体に設けられている。挿入膜26aおよび28aは例えば酸化シリコンを主成分とする。
【0027】
圧電薄膜共振器11bにおいて、挿入膜28bは、共振領域50bの一部である中央領域54b(第2中央領域)には設けられておらず、中央領域54bを囲む外周領域52b(第2外周領域)に設けられている。中央領域54bは共振領域50bの中心(幾何学的な中心でなくてもよい)を含む領域であり、外周領域52bは共振領域50bの外周を含み外周に沿った領域である。挿入膜26bは共振領域50bの中央領域54bおよび外周領域52bの全体に設けられている。挿入膜26bおよび28bは例えば酸化シリコンを主成分とする。
【0028】
挿入膜26aおよび28bを共振領域50aおよび50bの外周領域52aおよび52bの少なくとも一部に設けることで、横方向に伝搬する弾性波の共振領域50aおよび50bの外への漏洩を抑制できる。これにより、Q値等の共振特性を向上できる。挿入膜26aおよび28bのヤング率を圧電膜14aおよび14bのヤング率より小さくすることで、共振特性をより向上できる。
【0029】
挿入膜28aおよび26bを外周領域52aおよび52bに加え中央領域54aの少なくとも一部および中央領域54bの少なくとも一部に設けることで、周波数温度係数を小さくできる。挿入膜28aおよび26bの弾性定数の温度係数の符号を圧電膜14aおよび14bの弾性定数の温度係数の符号と正負を反対とすることで、周波数温度係数をより小さくできる。
【0030】
挿入膜26aおよび28bは、それぞれ中央領域54aおよび54bを囲む少なくとも一部の領域において共振領域50aおよび50bの外周に沿って中央領域54aおよび54bを囲むように設けられていればよい。挿入膜28aおよび26bは、それぞれ中央領域54aおよび54bの少なくとも一部および挿入膜26aおよび28bが設けられた領域に設けられていればよい。挿入膜26a、26b、28aおよび28bは共振領域50aおよび50bの外に設けられていてもよいし、共振領域50aおよび50bの外に設けられていなくてもよい。
【0031】
共振領域50aおよび50bから上部電極16aおよび16bが引き出される領域では共振領域50aおよび50bの外周は下部電極12aおよび12bの外周により規定される。共振領域50aおよび50bから下部電極12aおよび12bが引き出される領域では共振領域50aおよび50bの外周は上部電極16aおよび16bの外周により規定される。
【0032】
共振領域50aおよび50bの外周が上部電極16aおよび16bの外周により規定される領域では、上部圧電膜13cの端面は上部電極16aおよび16bの外周に略一致し、中間圧電膜13bおよび下部圧電膜13aの端面は上部電極16aおよび16bの外周より外側に位置する。下部圧電膜13a、中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cの端面の位置は適宜設定できる。
【0033】
上部電極16aおよび16b上に保護膜24が設けられている。保護膜24は例えば酸化シリコン膜である。下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16b上に金属層20が設けられている。金属層20は、下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16bと電気的に接続されている。金属層20は、配線および/または電極として機能する。空隙30aおよび30bは、平面視において共振領域50aおよび50bと重なり、共振領域50aおよび50bと同じ大きさまたは共振領域50aおよび50bより大きい。
【0034】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16bとしては、ルテニウムおよびクロム以外にもアルミニウム(Al)、チタン、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0035】
圧電膜14aおよび14bは、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14aおよび14bは、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14aおよび14bの圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14aおよび14bは、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0036】
挿入膜26a、26b、28aおよび28bとしては酸化シリコンを主成分とし、弗素等の不純物を含んでもよい。保護膜24は、酸化シリコン膜以外に窒化シリコン膜または酸化アルミニウム膜等の絶縁膜を用いることができる。金属層20は例えば銅層、金層またはアルミニウム層である。
【0037】
[実施例1の製造方法]
図3(a)から
図5(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10nmから100nmである。犠牲層38は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO
2)等である。犠牲層38を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより所望の平面形状の犠牲層38aおよび38bが形成される。犠牲層38aおよび38bの形状は、それぞれ空隙30aおよび30bの平面形状に相当する形状である。
【0038】
犠牲層38a、38bおよび基板10上に下部電極12を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。下部電極12を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより所望形状の下部電極12aおよび12bが形成される。下部電極12aおよび12bは、リフトオフ法により形成してもよい。
【0039】
図3(b)に示すように、下部電極12a、12bおよび基板10上に下部圧電膜13aを、例えばスパッタリング法または真空蒸着法を用い成膜する。
図3(c)に示すように、下部圧電膜13a上に挿入膜26を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
図3(d)に示すように、挿入膜26をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより、挿入膜26aおよび26bが形成される。挿入膜26aおよび26bは、リフトオフ法を用い形成してもよい。
【0040】
図4(a)に示すように、下部圧電膜13a、挿入膜26aおよび26b上に中間圧電膜13bを、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。
図4(b)に示すように、中間圧電膜13b上に挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。
図4(c)に示すように、挿入膜28をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより、挿入膜28aおよび28bが形成される。挿入膜28aおよび28bは、リフトオフ法を用い形成してもよい。
【0041】
図4(d)に示すように、中間圧電膜13b、および挿入膜28aおよび28b上に上部圧電膜13cを、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。下部圧電膜13a、中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cにより圧電膜14aおよび14bが形成される。圧電膜14内に挿入膜26a、26b、28aおよび28bが挿入される。圧電膜14上に上部電極16を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。
【0042】
図5(a)に示すように、上部電極16をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより、上部電極16aおよび16bが形成される。上部電極16aおよび16bは、リフトオフ法を用い形成してもよい。上部電極16aおよび16bをマスクに上部圧電膜13c、中間圧電膜13bおよび下部圧電膜13aをエッチング法を用い除去する。中間圧電膜13bおよび下部圧電膜13aは挿入膜28aおよび28bをマスクに除去される。
【0043】
図5(b)に示すように、下部電極12a、12b、圧電膜14a、14b、挿入膜26a、26b、28a、28b、上部電極16aおよび16bを覆うように保護膜24を形成する。保護膜24をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。
【0044】
図5(c)に示すように、下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16b上に金属層20を、例えばめっき法、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。
【0045】
その後、犠牲層38をエッチング液を用い除去する。下部電極12aおよび12bと基板10との間にそれぞれドーム状の膨らみを有する空隙30aおよび30bが形成される。これにより、
図1(a)および
図1(b)の圧電薄膜共振器11aおよび11bが製造される。
【0046】
[実験1]
圧電薄膜共振器11aおよび11bの電気機械結合係数は圧電膜14aおよび14bの結晶性(例えば配向性)に依存する。圧電膜14aおよび14bの結晶性が悪いと電気機械結合係数は低くなり、結晶性が良いと電気機械結合係数は高くなる。そこで、下地膜の表面の表面粗さに対する圧電膜14の結晶性を評価した。
【0047】
サンプルは以下のように作製した。シリコン基板上にスパッタリング法を用い厚さが200nmのルテニウム膜を形成した。ルテニウム膜の表面を逆スパッタリングすることでルテニウム膜の表面の粗さをサンプル毎に異ならせた。ルテニウム膜の表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用い測定した。表面粗さとして、二乗平均平方根高さRrmsを測定した。ルテニウム膜上にスパッタリング法を用い圧電膜として厚さが約1000nmの窒化アルミニウム膜を成膜した。作製した窒化アルミニウム膜をX線回折(XRD:X‐Ray Diffraction)法を用い評価した。
【0048】
図6(a)は、実験1における回折角度2θに対する回折強度を示す図、
図6(b)は、Rrmsに対するロッキングカーブのFWHMを示す図である。
図6(a)に示すように、Rrmsが1.9nmのサンプルは2.5nmのサンプルに比べ、(002)面のピークの回折強度が大きく、かつ半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)が小さい。ロッキングカーブのFWHMは結晶性の指標であり、FWHMが大きいと結晶性が悪く、FWHMが小さいと結晶性が良い。
【0049】
図6(b)に示すように、4つのサンプルのRrmsに対するFWHMをドットで示す。ドットの近似直線を破線で示す。ルテニウム膜の表面のRrmsが大きくなるとFWHMが大きくなる(すなわち結晶性が悪くなる)。
【0050】
実験1より、圧電膜を成膜する下地膜の表面の表面粗さが大きくなると圧電膜の結晶性が悪くなることがわかる。
【0051】
[実験2]
図7(a)から
図7(d)は、実験2において作製したサンプルAからDを示す断面図である。
図7(a)に示すように、サンプルAでは、基板10であるシリコン基板上にスパッタリング法を用い厚さが約1000nmの窒化アルミニウム膜を圧電膜14として成膜した。
【0052】
図7(b)に示すように、サンプルBでは基板10上にスパッタリング法を用い厚さが約500nmの窒化アルミニウム膜を下部圧電膜13aとして成膜した。下部圧電膜13a上にCVD法を用い厚さが約100nmの酸化シリコン膜を挿入膜26として成膜した。挿入膜26上にスパッタリング法を用い厚さが約500nmの窒化アルミニウム膜を上部圧電膜13cとして成膜した。
【0053】
図7(c)に示すように、サンプルCでは、基板10であるシリコン基板上にスパッタリング法を用い厚さが約200nmのルテニウム膜を下部電極12として成膜した。下部電極12上にスパッタリング法を用い厚さが約1000nmの窒化アルミニウム膜を圧電膜14として成膜した。
【0054】
図7(d)に示すように、サンプルDでは、基板10上にスパッタリング法を用い厚さが約200nmのルテニウム膜を下部電極12として成膜した。下部電極12上にスパッタリング法を用い厚さが約500nmの窒化アルミニウム膜を下部圧電膜13aとして成膜した。下部圧電膜13a上にCVD法を用い厚さが約100nmの酸化シリコン膜を挿入膜26として成膜した。挿入膜26上にスパッタリング法を用い厚さが約500nmの窒化アルミニウム膜を上部圧電膜13cとして成膜した。
【0055】
サンプルAからDの圧電膜14および上部圧電膜13cの(002)面のピークのロッキングカーブのFWHMを測定した。測定したFWHMを以下に示す。
サンプルA:1.80°
サンプルB:2.02°
サンプルC:2.89°
サンプルD:3.33°
【0056】
サンプルAとBとの比較、およびサンプルCとDとの比較のように、圧電膜14内に挿入膜26を挿入すると、挿入膜26上の上部圧電膜13cの結晶性が劣化する。これは、下部圧電膜13a上に成膜した挿入膜26の表面の表面粗さが大きくなるためと考えられる。例えば窒化アルミニウム膜上に酸化シリコン膜を成膜すると、酸化アルミニウム膜は欠陥の多いアモルファスとなるため、酸化シリコン膜の表面の表面粗さは大きくなる。酸化シリコン膜以外でも圧電膜14に挿入膜を挿入すると挿入膜の表面粗さは大きくなる。
【0057】
図8は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。結晶性の良い圧電膜25aは
図1(b)の圧電膜13aから13cと同じハッチングで図示し、結晶性の悪い圧電膜25bはクロスで図示した。
図8に示すように、実験1の結果から、下部圧電膜13aは結晶性の良い圧電膜25aである。中間圧電膜13bのうち挿入膜26aおよび26b上は結晶性の悪い圧電膜25bであり、その他の中間圧電膜13bは結晶性の良い圧電膜25aである。上部圧電膜13cのうち挿入膜26a、26b、28aおよび28b上は結晶性の悪い圧電膜25bであり、その他の上部圧電膜13cは結晶性の良い圧電膜25aである。
【0058】
圧電薄膜共振器11aでは中央領域54aの中間圧電膜13bは結晶性の良い圧電膜25aであるのに対し、圧電薄膜共振器11bでは中央領域54bの中間圧電膜13bは結晶性の悪い圧電膜25bである。圧電薄膜共振器11aおよび11bともに、下部圧電膜13aは結晶性の良い圧電膜25aであり、中間圧電膜13bの外周領域52aおよび52b並びに上部圧電膜13cは結晶性の悪い圧電膜25bである。
【0059】
共振領域50aおよび50bに対する外周領域52aおよび52bの面積比は非常に小さい。例えば、外周領域52aおよび52bの幅は共振領域50aおよび50bの幅の1/10以下であり、1/50以下の場合もある。このため、圧電薄膜共振器11aおよび11bの電気機械結合係数は主に中央領域54aおよび54bの圧電膜14aおよび14bの結晶性で決まる。圧電薄膜共振器11bの共振領域50b(主に中央領域54b)内の圧電膜14bのうち結晶性の悪い圧電膜25bの割合は、圧電薄膜共振器11aの共振領域50a(主に中央領域54a)内の圧電膜14aのうち結晶性の悪い圧電膜25bの割合より大きい。このため、圧電薄膜共振器11bの電気機械結合係数は圧電薄膜共振器11aの電気機械結合係数より小さくなる。
【0060】
一方、圧電薄膜共振器11aおよび11bは、各々挿入膜26aおよび28bを備える。これにより、横方向に伝搬する弾性波の共振領域50aおよび50b外への漏洩を抑制し、Q値等の共振特性を向上させることができる。圧電薄膜共振器11aおよび11bは、各々挿入膜28aおよび26bを備える。これにより、周波数温度係数を小さくできる。以上のように、共振特性が良好で温度変化の小さく、かつ電気機械結合係数の異なる圧電薄膜共振器11aおよび11bを製造工程を増加させることなく同一基板上に形成することができる。また、電気機械結合係数を小さくするため、圧電薄膜共振器11bにキャパシタを並列接続しなくてもよい。これにより、弾性波デバイスを小型化できる。
【0061】
下部圧電膜13a、中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cの厚さを適宜設定することで、圧電薄膜共振器11aおよび11bの電気機械結合係数を適宜設定できる。例えば中間圧電膜13bの厚さを下部圧電膜13aおよび上部圧電膜13cの厚さより大きくすることで、圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数の差を大きくできる。下部圧電膜13aの厚さを中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cの厚さより大きくすることで、圧電薄膜共振器11aおよび11bの電気機械結合係数を大きくできる。上部圧電膜13cの厚さを下部圧電膜13aおよび中間圧電膜13bの厚さより大きくすることで、圧電薄膜共振器11aおよび11bの電気機械結合係数を小さくできる。
【0062】
下部圧電膜13a、中間圧電膜13bおよび上部圧電膜13cの厚さは例えば各々100nmから400nmであり、挿入膜26a、26b、28aおよび28bの厚さは例えば各々30nmから100nmである。
【0063】
[実施例1の変形例1]
図9(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(a)に示すように、実施例1の変形例1では、上部圧電膜13cが設けられておらず、挿入膜28aおよび28bが上部電極16aおよび16bに接している。圧電薄膜共振器11aでは、共振領域50a(特に中央領域54a)内はほとんど結晶性の良い圧電膜25aである。このため、実施例1の圧電薄膜共振器11aに比べ電気機械結合係数を大きくできる。
【0064】
圧電薄膜共振器11bでは、共振領域50b内の結晶性の悪い圧電膜25bの体積の割合が大きくなる。このため、電気機械結合係数を小さくできる。中間圧電膜13bの厚さを下部圧電膜13aの厚さより大きくすることで圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数の差を大きくできる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0065】
[実施例1の変形例2]
図9(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(b)に示すように、実施例1の変形例2では、下部圧電膜13aが設けられておらず、挿入膜26aおよび26bが下部電極12aおよび12bに接している。圧電薄膜共振器11aでは、共振領域50a内の結晶性の良い圧電膜25aの体積の割合が大きくなる。このため、電気機械結合係数を大きくできる。
【0066】
圧電薄膜共振器11bでは、共振領域50b(特に中央領域54b)内はほとんど結晶性の悪い圧電膜25bである。このため、電気機械結合係数を小さくできる。挿入膜26bと下部電極12bとの密着性が悪い場合には、挿入膜26bと下部電極12bとの間に密着層を設けることもできる。中間圧電膜13bの厚さを上部圧電膜13cの厚さより大きくすることで圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数の差を大きくできる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0067】
[実施例1の変形例3]
図9(c)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(c)に示すように、実施例1の変形例3では、下部圧電膜13aおよび上部圧電膜13cが設けられておらず、挿入膜26aおよび26bが下部電極12aおよび12bに接し、挿入膜28aおよび28bが上部電極16aおよび16bに接している。圧電薄膜共振器11aでは、共振領域50a(特に中央領域54a)内のほとんどは結晶性の良い圧電膜25aである。このため、電気機械結合係数を大きくできる。
【0068】
圧電薄膜共振器11bでは、共振領域50b(特に中央領域54b)内はほとんど結晶性の悪い圧電膜25bである。このため、電気機械結合係数を小さくできる。実施例1の変形例3は、実施例1およびその変形例1,2に比べ圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数の差を大きくできる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0069】
挿入膜26aおよび28bは圧電膜14aおよび14bの中央付近に設けると最も横方向の弾性波の漏洩を抑制できる。このため、実施例1のように下部圧電膜13aおよび上部圧電膜13cを設けることで、Q値等の共振特性を実施例1の変形例1から3より向上できる。挿入膜28aおよび26bは共振領域50aおよび50bのほぼ全面に設けられている。このため、挿入膜28aと上部電極16aとの密着性、および挿入膜26bと下部電極12bとの密着性が悪いと挿入膜28aおよび26bが剥がれる可能性がある。このため、実施例1のように下部圧電膜13aおよび上部圧電膜13cを設けることで、挿入膜28aおよび26bの密着性を向上できる。
【0070】
[実施例1の変形例4]
図10(a)は、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
図10(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12aおよび12bは、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30aおよび30bが、基板10の窪みに形成されている。空隙30aおよび30bは共振領域50aおよび50bを含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30aおよび30bは、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0071】
[実施例1の変形例5]
図10(b)は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの断面図である。
図10(b)に示すように、共振領域50aおよび50bの下部電極12aおよび12b下にそれぞれ音響反射膜31aおよび31bが設けられている。音響反射膜31aおよび31bで、音響インピーダンスの高い膜31cと音響インピーダンスの低い膜31dとが交互に設けられている。膜31cおよび31dの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31cと膜31dの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31aおよび31bは、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31aおよび31bの音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31aおよび31bは、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0072】
実施例1およびその変形例1から4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50aおよび50bにおいて空隙30aおよび30bが基板10と下部電極12aおよび12bとの間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50aおよび50bにおいて下部電極12aおよび12b下に圧電膜14aおよび14bを伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31aおよび31bを備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。弾性波を反射する音響反射層は、空隙30aおよび30bまたは音響反射膜31aおよび31bを含めばよい。
【0073】
実施例1およびその変形例において、共振領域50aおよび50bの平面形状として楕円形状を例に説明したが、四角形状または五角形状等の多角形状でもよい。
【0074】
実施例1およびその変形例によれば、圧電薄膜共振器11aでは、挿入膜26a(第1挿入膜)は下部電極12aと上部電極16aとの間に挿入され、挿入膜28a(第2挿入膜)は挿入膜26aとの間に圧電膜14aの少なくとも一部の中間圧電膜13bが設けられるように、挿入膜26aと上部電極16aとの間に挿入されている。挿入膜26aは、中央領域54aに設けられておらず、中央領域54aを囲む少なくとも一部の領域において共振領域50aの外周に沿って中央領域54aを囲むように設けられている。挿入膜28aは中央領域54aの少なくとも一部および挿入膜26aが設けられた領域に設けられている。
【0075】
一方、圧電薄膜共振器11bでは、挿入膜28b(第3挿入膜)は下部電極12bと上部電極16bとの間に挿入され、挿入膜26b(第4挿入膜)は挿入膜28bとの間に圧電膜14bの少なくとも一部の中間圧電膜13bが設けられるように、挿入膜28bと下部電極12bとの間に挿入されている。挿入膜28bは、中央領域54bを囲む少なくとも一部の領域において共振領域50bの外周に沿って中央領域54bを囲むように設けられている。挿入膜26bは中央領域54bの少なくとも一部および挿入膜28bが設けられた領域に設けられている。
【0076】
挿入膜26aおよび28bにより圧電薄膜共振器11aおよび11bのQ値等の共振特性を向上できる。挿入膜28aおよび26bにより圧電薄膜共振器11aおよび11bの周波数温度特性を小さくできる。また、圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数を独立に所望の値とすることができる。また、電気機械結合係数を小さくするための並列キャパシタを用いなくてもよいため小型化が可能となる。
【0077】
図3(c)および
図3(d)のように、挿入膜26aおよび26bを同時に形成し、
図4(b)および
図4(c)のように、挿入膜28aおよび28bを同時に形成する。これにより、圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数を独立に所望の値とすることができ、かつ製造工程を簡略化できる。
【0078】
このように弾性波デバイスを製造すると、挿入膜26aの膜厚と挿入膜26bの膜厚とは略等しく、挿入膜26aの材料と挿入膜26bの材料は略同じとなる。挿入膜28aの膜厚と挿入膜28bの膜厚とは略等しく、挿入膜28aの材料と挿入膜28bの材料は略同じとなる。
【0079】
また、
図4(a)のように、圧電薄膜共振器11aと11bとの中間圧電膜13bを同時に形成する。これにより、圧電薄膜共振器11aと11bとの電気機械結合係数を独立に所望の値とすることができ、かつ製造工程を簡略化できる。
【0080】
このように弾性波デバイスを製造すると、挿入膜26aと28aとの間の中間圧電膜13bの膜厚と挿入膜26bと28bとの間の中間圧電膜13bの膜厚とは略等しく、挿入膜26aと28aとの間の中間圧電膜13bの材料と挿入膜26bと28bとの間の中間圧電膜13bの材料とは略同じとなる。なお、膜厚が略等しく材料が略同じとは、製造誤差程度の差を許容する。
【0081】
挿入膜26aおよび26bの主成分と挿入膜28aおよび28bの主成分は同じである。これにより、挿入膜26aと28bとを同じ目的の膜として用い、挿入膜28aと26bとを同じ目的の膜として用いることができる。
【0082】
挿入膜28aの弾性定数の温度係数の符号は圧電膜14aの弾性定数の符号と反対であり、挿入膜26bの弾性定数の温度係数の符号は圧電膜14bの弾性定数の符号と反対である。これにより、挿入膜28aおよび26bを温度補償膜として用いることができる。
【0083】
挿入膜28aおよび26bはそれぞれ共振領域50aおよび50bの面積の80%以上に設けられていることが好ましく、共振領域50aおよび50bの全てに設けられていることが好ましい。これにより、周波数温度係数をより小さくできる。
【0084】
挿入膜26aのヤング率は圧電膜14aのヤング率より小さく、挿入膜28bのヤング率は圧電膜14bのヤング率より小さい。これにより、挿入膜26aおよび28bは横方向に伝搬する弾性波の共振領域50aおよび50bからの漏洩をより抑制できる。よって、圧電薄膜共振器11aおよび11bの共振特性をより向上できる。
【0085】
挿入膜26aおよび28bの幅(共振領域50aおよび50bの外周の接線に直交する方向の幅)は共振領域50aおよび50bの幅(例えば楕円の短軸の長さ)に対し1/5以下が好ましく1/10以下がより好ましい。これにより、共振特性を向上できる。共振領域50aおよび50bの幅は、弾性波の波長の10倍以上が好ましい。
【0086】
挿入膜26a、26b、28aおよび28bの主成分は酸化シリコンであり、圧電膜14aおよび14bの主成分は窒化アルミニウムである。これにより、挿入膜28aおよび26bの弾性定数の温度係数の符号を圧電膜14aおよび14bの弾性定数の符号と反対にでき、かつ挿入膜26aおよび28bのヤング率を圧電膜14aおよび14bのヤング率より小さくできる。
【0087】
なお、主成分とは意図的また意図せず含まれる不純物を含むことを許容し、実施例1およびその変形例の効果を奏する程度に含むことである。例えば、圧電膜14aおよび14bは窒化およびアルミニウムを合計で50原子%または80原子%以上含み、挿入膜26a、26b、28aおよび28bは酸化およびシリコンを合計で50原子%以上または80原子%以上含む。
【0088】
実施例1のように、下部圧電膜13aが挿入膜26aおよび26bと下部電極12aおよび12bとの間に設けられ、上部圧電膜13cが挿入膜28aおよび28bと上部電極16aおよび16bとの間に設けられている。これにより、挿入膜26a、26b、28aおよび28bの剥がれを抑制できる。また、圧電薄膜共振器11aおよび11bの共振特性を向上できる。
【0089】
特許文献1のように、共振領域の圧電膜内に、外周領域が中央領域より厚い挿入膜を設けると、周波数温度係数を小さくしかつ共振特性を向上できる。しかし、製造工程の問題等により、挿入膜26と28との間に中間圧電膜13bを設ける場合がある。この場合、圧電薄膜共振器11aのように、下側の挿入膜26aを共振特性の向上のための挿入膜とする方法と、圧電薄膜共振器11bのように、上側の挿入膜28bを共振特性の向上のための挿入膜とする方法と、がある。
【0090】
圧電薄膜共振器11aのように、中央領域54aに設けられておらず、中央領域54aを囲む少なくとも一部の領域において共振領域50aの外周に沿って中央領域54aを囲む挿入膜26a(第1挿入膜)を下部圧電膜13aと中間圧電膜13bとの間に挿入する。中央領域54aの少なくとも一部および挿入膜26aが設けられた領域に設けられた挿入膜28a(第2挿入膜)を中間圧電膜13bと上部圧電膜13cとの間に挿入する。これにより、圧電薄膜共振器11bに比べ電気機械結合係数を大きくできる。
【実施例2】
【0091】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図11(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP3の少なくとも2つの共振器に実施例1およびその変形例の弾性波デバイスを用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0092】
1または複数の直列共振器S1からS4の少なくとも1つを圧電薄膜共振器11aとすることで、ラダー型フィルタの通過帯域の高周波側のスカート特性を急峻にできる。他の共振器を圧電薄膜共振器11bとすることで、通過帯域を広帯域化できる。1または複数の並列共振器P1からP3の少なくとも1つを圧電薄膜共振器11aとすることで、通過帯域の高周波側のスカート特性を急峻にできる。他の共振器を圧電薄膜共振器11bとすることで、通過帯域を広帯域化できる。
【0093】
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図11(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0094】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0095】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 基板
11a、11b 圧電薄膜共振器
12、12a、12b 下部電極
13a 下部圧電膜
13b 中間圧電膜
13c 上部圧電膜
14a、14b 圧電膜
16、16a、16b 上部電極
26、26a、26b、28、28a、28b 挿入膜
30a、30b 空隙
31a、31b 音響反射膜
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50a、50b 共振領域
52a、52b 外周領域
54a、54b 中央領域