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特許7383425EGRバルブ故障診断方法及び排気再循環装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】EGRバルブ故障診断方法及び排気再循環装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/49 20160101AFI20231113BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231113BHJP
   F02M 26/53 20160101ALI20231113BHJP
【FI】
F02M26/49
F02D45/00 345
F02M26/53
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019156199
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021032206
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 成慶
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 寿子
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-027750(JP,A)
【文献】特開2015-014275(JP,A)
【文献】特開2010-236516(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0131658(US,A1)
【文献】特開平08-158955(JP,A)
【文献】特開2016-205256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/49
F02D 45/00
F02M 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された排気再循環装置のEGRバルブの故障診断方法であって、
前記車両が惰性走行状態となり、前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった後、前記EGRバルブを全開とし、しかる後、第2の遅延時間経過後に、直近に算出されたエアマス比から、予め算出されたエアマス比の初期値を減算して求められるエアマス比変動量が、所定の閾値である変動量閾値を下回っている場合に、前記EGRバルブの穴空きによる故障と診断し、
前記エアマス比は、吸気管における吸入空気の変化をモデル化した吸気モデルに基づいて算出された理論上の吸入空気量に対する、実測された吸入空気量の比として、所定の間隔で逐次算出され
前記第2の遅延時間は、前記EGRバルブの全開時点から前記EGRバルブが全閉とされるまでの時間であることを特徴とするEGRバルブ故障診断方法。
【請求項2】
前記EGRバルブの全開は、前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった時から第1遅延時間経過後に、直近のエアマス比が所定の閾値であるレシオ閾値を下回っている場合に行うことを特徴とする請求項1記載のEGRバルブ故障診断方法。
【請求項3】
車両に搭載された内燃機関の排気管と吸気管を連通する連通路に、電磁制御式のEGRバルブが設けられ、電子制御ユニットによる前記EGRバルブの動作制御によって前記連通路の連通状態を可変し、排気の一部を吸気側に還流可能に構成されてなる排気再循環装置であって、
前記電子制御ユニットは、
吸気管における吸入空気の変化をモデル化した吸気モデルに基づいて算出された理論上の吸入空気量に対する、実測された吸入空気量の比であるエアマス比を所定の間隔で逐次算出する一方、
前記車両が惰性走行状態となり、前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった後、前記EGRバルブを全開とし、しかる後、第2の遅延時間経過後に、直近に算出されたエアマス比から、予め算出されたエアマス比の初期値を減算して求められるエアマス比変動量が、所定の閾値である変動量閾値を下回っている場合に、前記EGRバルブの穴空きによる故障と診断するよう構成されてなり、
前記第2の遅延時間は、前記EGRバルブの全開時点から前記EGRバルブが全閉とされるまでの時間であることを特徴とする排気再循環装置。
【請求項4】
前記電子制御ユニットは、
前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった時から第1遅延時間経過後に、直近のエアマス比が所定の閾値であるレシオ閾値を下回っている場合に、前記EGRバルブの全開を実行するよう構成されてなることを特徴とする請求項3記載の排気再循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気再循環装置を構成するEGRバルブの故障診断に係り、特に、故障診断の精度、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を低減するために、排気の一部を燃料室に帰還させる排気再循環装置が用いられることは良く知られているとおりである(例えば、特許文献1等参照)。
排気に対する規制が年々厳しくなる近年、自動車両における排気再循環装置の重要度はますます高くなってきており、構成部品の故障等の不具合に対する確実で信頼性の高い方策が求められつつある。
【0003】
例えば、吸気管と排気管とを連通する連通路に設けられるEGRバルブは、排気の再循環量を調節する重要な構成品であるため、その故障の有無は早期に確実に検出される必要がある。
かかるEGRバルブには、例えば、経年変化等に起因して穴空きが生ずることがある。
【0004】
従来、このようなEGRバルブの穴空きを検出する手法としては、例えば、排気再循環制御処理において演算算出される目標吸入空気量と、センサーにより検出された実際の吸入空気量(実吸入空気量)を比較して、穴空きの有無を判定する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-205256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の方法の場合、NOx低減のため目標吸入空気量を低く設定した場合、上述の目標吸入空気量と実吸入空気量との間の偏差が十分確保できなくなるため、エミッションが車両に備えられたOBD(On-board diagnostics)と称される自己診断機能による規制値を越える前に穴空きを検出することができなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、車両の走行特性に極力影響を与えることなくEGRバルブの穴空きを確実に検出可能とする信頼性の高いEGRバルブ故障診断方法及び排気再循環装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るEGRバルブ故障診断方法は、
車両に搭載された排気再循環装置のEGRバルブの故障診断方法であって、
前記車両が惰性走行状態となり、前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった後、前記EGRバルブを全開とし、しかる後、第2の遅延時間経過後に、直近に算出されたエアマス比から、予め算出されたエアマス比の初期値を減算して求められるエアマス比変動量が、所定の閾値である変動量閾値を下回っている場合に、前記EGRバルブの穴空きによる故障と診断し、
前記エアマス比は、吸気管における吸入空気の変化をモデル化した吸気モデルに基づいて算出された理論上の吸入空気量に対する、実測された吸入空気量の比として、所定の間隔で逐次算出され
前記第2の遅延時間は、前記EGRバルブの全開時点から前記EGRバルブが全閉とされるまでの時間とされるよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る排気再循環装置は、
車両に搭載された内燃機関の排気管と吸気管を連通する連通路に、電磁制御式のEGRバルブが設けられ、電子制御ユニットによる前記EGRバルブの動作制御によって前記連通路の連通状態を可変し、排気の一部を吸気側に還流可能に構成されてなる排気再循環装置であって、
前記電子制御ユニットは、
吸気管における吸入空気の変化をモデル化した吸気モデルに基づいて算出された理論上の吸入空気量に対する、実測された吸入空気量の比であるエアマス比を所定の間隔で逐次算出する一方、
前記車両が惰性走行状態となり、前記EGRバルブのバルブ開度が全閉状態、又は、全閉状態相当の所定の開度範囲となった後、前記EGRバルブを全開とし、しかる後、第2の遅延時間経過後に、直近に算出されたエアマス比から、予め算出されたエアマス比の初期値を減算して求められるエアマス比変動量が、所定の閾値である変動量閾値を下回っている場合に、前記EGRバルブの穴空きによる故障と診断するよう構成されてなり、
前記第2の遅延時間は、前記EGRバルブの全開時点から前記EGRバルブが全閉とされるまでの時間とされるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両が惰性走行状態にある場合に故障診断が実行されるよう構成されており、故障が疑われる場合のみEGRバルブを全開状態とするため、従来と異なり車両の動作に殆ど影響を与えることがないばかりか、車両の動作の影響を受けることが少なく、従来に比してより信頼性の高い故障診断を得ることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における排気再循環装置の構成例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理の前半の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理の後半の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理において実行されるエアマス比算出処理の具体的手順を示すサブルーチンフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理の実行時における排気再循環装置の主要部の動作を模式的に説明する模式図であって、図5(A)はエンジン回転数の変化例を示す模式図、図5(B)は燃料噴射量の変化例を示す模式図、図5(C)はEGRバルブのバルブ開度の変化例を示す模式図、図5(D)はエアマス比の変化例を示す模式図、図5(E)はエアマス比変動量の変化例を示す模式図、図5(F)はテストフラグの変化例を示す模式図、図5(G)はエラーフラグの変化例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断方法が適用される排気再循環装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における排気再循環装置は、基本的に従来と同様の構成を有してなるものである。
なお、図1に示された構成例は、排気再循環装置の主要な構成品のみを示した概略構成例である。
【0012】
まず、内燃機関としてのエンジン1の吸気口1aには、燃料の燃焼のために必要な空気を取り入れる吸気管2が、また、排気口1bには、排気のための排気管3が、それぞれ接続されている。
【0013】
そして、吸気管2の吸気口1a近傍の適宜な部位と、排気管3の排気口1b近傍の適宜な部位の間には、双方を連通する連通路としての排気再循環通路4が設けられている。
この排気再循環通路4には、排気再循環通路4の連通状態、換言すれば、排気の還流量を調整する電磁制御式のEGRバルブ5が設けられている。これにより、EGRバルブ5の開度に応じて排気を吸気側に還流可能となっている。
【0014】
また、排気管3において排気再循環通路4より下流側に設けられた可変タービン6と、吸気管2において排気再循環通路4より上流側に設けられたコンプレッサ7とを主たる構成要素としてなる公知・周知の構成を有する過給装置8が設けられている。
良く知られているように、コンプレッサ7は、可変タービン6の回転軸に連結されて、可変タービン6により回転せしめられて、圧縮された空気を吸入空気として吸気口1aへ送出可能となっている。
【0015】
さらに、吸気管2には、先に述べた排気再循環通路4と過給装置8の間の適宜な位置において、吸入空気の冷却を行うインタークーラ9が設けられている。
そして、このインタークーラ9と排気再循環通路4との間には、吸気圧を検出する吸気圧センサ11と、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ12が設けられている。
【0016】
また、吸気管2においてコンプレッサ7より上流側の適宜な位置には、エアフィルタ13が設けられており、その下流側の近傍には、吸入空気量を検出するエアマスセンサ14が設けられている。
【0017】
上述した可変タービン6やEGRバルブ5は、電子制御ユニット101により動作制御されるようになっている。
かかる電子制御ユニット101は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を備えると共に、入出力インターフェイス回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されてなるものである。
【0018】
この電子制御ユニット101には、先の吸気圧センサ11、吸気温度センサ12及びエアマスセンサ14の各検出信号と共に、図示されないセンサ等により検出された車両の動作制御に必要な各種の信号、例えば、大気圧、エンジン回転数、アクセル開度、エンジン冷却水温等が入力されるようになっている。
上述のように電子制御ユニット101に入力された各種の検出信号は、エンジン動作制御や、後述する本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理等に供されるようになっている。
【0019】
次に、電子制御ユニット101により実行される本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理について、図2乃至図5を参照しつつ説明する。
最初に、本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理について概括的に説明する。
本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理は、EGRバルブ5の穴空きの有無を吸入空気量の変化に基づいて検出して故障判定を行うものである。
【0020】
すなわち、本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理においては、まず、車両が惰性走行状態でEGRバルブ5が全閉された後、吸気モデルに基づいて算出された吸入空気量のモデル値(吸気モデル値)に対する、実吸入空気量の比であるエアマス比が所定の閾値を下回るか否かを判定する。エアマス比が閾値を下回る場合、故障(穴空き)の可能性が疑われるため、EGRバルブ5を全開状態とし、エアマス比変動量が変動量閾値を上回るか否かを判定し、エアマス比変動量が変動量閾値を下回る場合に、EGRバルブ5に穴空きが生じて故障であると判定するものである(詳細は後述)。
【0021】
以下、図2乃至図4に示されたフローチャート及び図5に示された模式図を参照しつつ、本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理について具体的に説明する。
最初に、本発明の実施の形態における電子制御ユニット101は、従来同様、エンジン1の回転制御や燃料噴射制御、さらに、排気再循環制御などの車両の走行制御として必要な種々の制御が実行可能に構成されたものであることを前提とする。
【0022】
かかる前提の下、電子制御ユニット101による処理が開始されると、最初に、燃料噴射量が基準噴射量を下回っているか否かが判定される(図2のステップS110)。
ステップS110において、燃料噴射量が基準噴射量を下回っていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS120の処理へ進むこととなる。
【0023】
一方、ステップS110において、燃料噴射量は基準噴射量を下回っていないと判定された場合(NOの場合)には、この故障診断処理を実行する状態にないとして、一旦、処理が終了され、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。メインルーチンにおいては、所要の他の処理が実行された後、再び、この一連の処理が開始されることとなる。
【0024】
本発明の実施の形態におけるEGRバルブ故障診断処理は、先に概説したように車両が惰性走行状態にある場合を実行条件としている。そのため、ステップS110においては、車両が惰性走行状態にあるか否かを判定するための判定要素の一つとして、燃料噴射量が判定されるものとなっている。そのため、基準噴射量は、車両が惰性走行状態にあると判定するに適する燃料噴射量に設定される。かかる基準噴射量は、車両の仕様等によって車両毎にその適切な値は異なるものであるので、車両の仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて定めるのが好適である。
【0025】
また、本発明の実施の形態においては、電子制御ユニット101によるEGRバルブ故障処理が開始された際、先のステップS110の処理の実行と共に、エアマス比算出処理が同時並列的に実行されるものとなっている(図2のステップS300)。
図4には、エアマス比算出処理の手順を示すフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ、エアマス比算出処理の具体的手順について説明する。
このエアマス比算出処理は、以下に説明するように繰り返し実行されるサブルーチン処理となっている。
【0026】
以下、具体的に説明すれば、電子制御ユニット101による処理が開始されると、最初に、時間経過フラグがセットされているか否かが判定される(図4のステップS310)。
時間経過フラグは、後述する第1遅延時間の計測時に、第1遅延時間が経過したと判定された際にセットされるもので(図2のステップS150及びステップS160)、エアマス比初期値を算出するタイミングであることを示す指標である。
【0027】
ステップ310において、時間経過フラグがセットされていると判定された場合(YESの場合)、エアマス比が算出されて初期値とされる(図4のステップS320)。
ここで、エアマス比は、本発明の実施の形態において、エアマス比=実吸入空気量/吸入空気モデル量と定義されるものである。
【0028】
この定義式において、実吸入空気量は、エアマスセンサ14によって実測された実際の吸入空気量である。また、吸入空気モデル量は、吸気管2における吸入空気の変化をモデル化した吸気モデルに基づいて算出された理論上の吸入空気量である。吸気モデル自体は、本発明特有のものではなく既存のものである。
【0029】
このような物理モデルに基づいて、所望する物理量の理論上の値、いわゆるモデル値を算出する手法は、吸入空気量のみならず、車両の動作制御に用いられる他の物理量においても採用されていることは良く知られているとおりである。
【0030】
本発明の実施の形態における吸気モデルによる吸入空気モデル量の算出においては、少なくとも実際のエンジン回転数、燃料噴射制御処理において算出された目標燃料噴射量などが用いられると共に、算出された吸入空気モデル量の補正に、吸気圧センサ11の検出値及び吸気温度センサ12の検出値が用いられるものとなっている。
【0031】
上述のようにして算出されたエアマス比は初期値として、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶される。
次いで、時間経過フラグがリセットされ(図4のステップS330)、先のステップS310へ戻り、一連の処理が繰り返されることとなる。
【0032】
一方、ステップS310において、時間経過フラグがセットされていないと判定された場合(NOの場合)には、エアマス比が算出される(図4のステップS340)。
次いで、算出されたエアマス比に対してフィルタ処理が施される(図4のステップS350)。
【0033】
フィルタ処理は、本発明特有のものではなく、従来から知られている手法に基づくものである。エアマス比の算出には、先に述べたようにエアマスセンサ14により検出された値が用いられるが、その検出値には不規則な値が含まれることもある。フィルタ処理は、このような不規則な検出値などを除外し、適正な値のエアマス比が算出されるようにする等の観点から行われる。
【0034】
次いで、エアマス比更新が行われる(図4のステップS360)。
すなわち、上述のようにして得られたエアマス比は、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶、保持され、前回に算出されたエアマス比が最新の値に更新されることとなる。
この後、先のステップS310に戻り、一連の処理が再度繰り返されることとなる。エアマス比は、このようにして所定間隔で逐次算出され更新されるようになっている。
【0035】
ここで、再び、図2の説明に戻ることとする。
ステップS120においては、エンジン回転数が所定回転範囲にあるか、又は、EGRバルブ5の全閉要求が発生しているか、少なくとも一方の条件が成立しているか否かが判定される。
ここで、所定回転範囲は、車両が、いわゆる惰性走行状態にあるとすることのできる、上限のエンジン回転数と、下限のエンジン回転数とで規定される判定値である。
【0036】
具体的な値は、個々の車両の仕様等によって異なるものであるので、それらを考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて選定するのが好適である。
また、EGRバルブ5の全閉要求は、いわゆる惰性走行の開始の際に発生するため、本発明の実施の形態においては、上述のエンジン回転数による惰性走行の開始の有無を判定する条件の一つとしている。
【0037】
図5(A)には、エンジン回転数(NE)の変化例が二点鎖線の特性線により示されており、この例の場合、時刻t1以降、エンジン回転数(NE)が惰性走行状態とされる回転数の範囲に低下している。
すなわち、時刻t1においては、惰性走行を開始させるためアクセル(図示せず)が開放され、それに伴い、燃料噴射が停止され(図5(B)の二点鎖線参照)、同時に、EGRバルブ5が全閉状態とされる(図5(C)の二点鎖線参照)。
なお、図5(A)~図(G)において、横軸はいずれも時間(T)を示している。
また、図5(A)において縦軸はエンジン回転数(NE)を、図5(B)において縦軸は燃料噴射量(Q)を、図5(C)において縦軸はEGRバルブ開度(EV)を、図5(D)において縦軸はエアマス比(RA)を、図5(E)において縦軸はエアマス比変動量(TR)を、図5(F)において縦軸はテストフラグ(TF)を、図5(G)において縦軸はエラーフラグ(EF)を、それぞれ示している。
【0038】
しかして、ステップS120において、 いずれの条件も成立してないと判定された場合(NOの場合)には、EGRバルブ5の故障診断が実行できる状態ではないとして、一連の処理は終了されることとなる。
【0039】
一方、ステップS120において、少なくとも一方の条件が成立していると判定された場合(YESの場合)、EGRバルブ開度が所定開度範囲にあるか否かが判定される(図2のステップS130)。
【0040】
ここで、所定開度範囲は、車両が、いわゆる惰性走行状態にあるとすることのできるEGRバルブ5の開度であり、上限のバルブ開度と、下限のバルブ開度とで規定される判定値である。かかる所定開度範囲は、実際には全閉状態に相当するが、100%完全な全閉状態を維持することが困難なことに鑑みて、全閉状態と近似できる範囲を上述のように所定開度範囲と定めている。
なお、所定開度範囲の具体的な値は、個々の車両の仕様等によって異なるものであるので、それらを考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて選定するのが好適である。
【0041】
ステップS130において、EGRバルブ開度が所定開度範囲にないと判定された場合(NOの場合)、EGRバルブ故障障診断が実行できる状態ではないとして、一連の処理は終了されることとなる。
一方、ステップS130において、EGRバルブ開度が所定開度範囲にあると判定された場合(YESの場合)、第1遅延時間の計測が開始される(図2のステップS140)。
【0042】
そして、第1遅延時間が経過したと判定されると(図2のステップS150)、時間経過フラグがセットされる(図2のステップS160)。
時間経過フラグは、先に説明したようにエアマス比算出ルーチンにおいてエアマス比の初期値算出に用いられる。
次いで、エアマス比が所定の閾値(以下、説明の便宜上「レシオ閾値」と称する)を上回っているか否かが判定される(図2のステップS170)。
この判定において、エアマス比は、エアマス比算出ルーチンにおいて算出され、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶されている最新の値が用いられる。
【0043】
EGRバルブ5が正常である場合、EGRバルブ5が全閉状態とされてから少なくとも第1遅延時間経過した時点において、エアマス比は、通常、図5(D)において実線の特性線で示されたようにレシオ閾値を十分に越える。なお、図5(D)において、レシオ閾値は一点鎖線の直線で示されている。また、図5(D)において、二点鎖線は、エアマス比1を示している。
【0044】
ところが、EGRバルブ5に穴空きが生じているような場合、又は、いわゆるエアマスドリフトが発生している場合、エアマス比は、図5(D)の時刻t1~時刻t2間において、符号bが付された太点線の特性線で示されたようにレシオ閾値を下回ってしまう。
エアマスドリフト時のエアマス比の変化は、EGRバルブ5の穴空きによるものではなく、通常、EGRバルブ5は正常な状態にあると推察されるが、EGRバルブ5の全閉後におけるエアマス比の変化は、EGRバルブ5に穴空きが生じているような場合も、エアマスドリフトが発生している場合も、いずれもほぼ同一の変化となってしまう。そのため、第1遅延時間経過後のエアマス比がレシオ閾値を下回っただけでは、EGRバルブ5の故障が疑われるものの、エアマスドリフトを原因とするものである可能性もあり、即座に故障判定を下すことはできない。
【0045】
なお、エアマスドリフトは、スロットルバルブ(図示せず)の開閉が急激に行われた場合やEGRバルブ5が急激に閉じられた場合等に、吸入空気量が一時的に変動する現象である。
【0046】
本発明の実施の形態においては、上述の点を考慮し、第1遅延時間が経過した時点においてエアマス比がレシオ閾値を下回っている場合、EGRバルブ5の故障が疑われる段階であるとして、以下に説明するような判定処理によって最終的にEGRバルブ5が故障であるか否かの判定を行うようにしている。
【0047】
すなわち、ステップS170において、エアマス比がレシオ閾値を上回っていると判定された場合(YESの場合)、正常と判定され(図3のステップS230)、一連の処理が終了されることとなる。
一方、ステップS170において、エアマス比がレシオ閾値を上回っていないと判定された場合(NOの場合)、すなわち、エアマス比がレシオ閾値を下回っている場合、EGRバルブ5が全開とされ(図2のステップS180)、第2遅延時間の計測が開始される(図3のステップS190)。
なお、この第2遅延時間や先の第1遅延時間は、特定の値に限定されるものではなく、車両の仕様等によって適切な値がそれぞれ異なるものであるので、それぞれ車両の仕様等を考慮し、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて選定するのが好適である。
【0048】
図5(C)においては、EGRバルブ5のバルブ開度(EV)が全開に変化する場合の変化例が点線で示されている。
なお、図5において、時刻t2は第2遅延時間の計測開始の時点であり、時刻t2から時刻t3までが第2遅延時間に相当する。
また、時刻t2~t3間におけるエアマス比(RA)の変化例が図5(D)に示されている。すなわち、同図において符号aが付された細点線の特性線は、EGRバルブ5に穴空きが生じているような場合のエアマス比(RA)の変化例であり、同図において、符号bが付された太点線の特性線は、エアマスドリフトが発生している場合のエアマス比(RA)の変化例である。通常、エアマスドリフトが発生している場合、そのエアマス比は、EGRバルブ5に穴空きが生じているような場合よりも低めとなる傾向にある(図5(D)参照)。
【0049】
しかして、第2遅延時間が経過したと判定されると(図3のステップS200)、エアマス比変動量が算出される(図3のステップS210)。
ここで、エアマス比変動量は、エアマス比変動量=エアマス比-エアマス比初期値と定義されるものである。
【0050】
エアマス比変動量の算出に用いられるエアマス比は、先に説明したようにエアマス比算出ルーチン(図2のステップS300)において、所定の間隔で逐次算出されて電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶されている最新の値が用いられる。
また、エアマス比初期値は、エアマス比同様、エアマス比算出ルーチンにおいて算出され、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶されているものが用いられる。
【0051】
次いで、上述のようにして算出されたエアマス比変動量が所定の閾値(以後、説明の便宜上「変動量閾値」と称する)を上回っているか否かが判定される(図3のステップS220)。
ここで、変動量閾値は、車両の具体的な仕様等に応じて、その適切な値は異なるものであり、特定の値に限定されるものでない。したがって、車両の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて定めるのが好適である。
【0052】
しかして、ステップS220において、エアマス比変動量が変動量閾値を上回っていると判定された場合(YESの場合)には、EGRバルブ5は正常であると推定できるため、EGRバルブ正常との判定がなされて一連の処理が終了されることとなる(図3のステップS230)。
一方、エアマス比変動量が変動量閾値を上回っていないと判定された場合(NOの場合)には、EGRバルブ5に穴空きが生じていると推定できるため、EGRバルブ故障との判定がなされて一連の処理が終了されることとなる(図3のステップS240)。
【0053】
図5(E)には、エアマス比変動量(TR)の変化例が示されており、同図において一点鎖線は変動量閾値を示している。
図5(E)において、符号cが付された細点線はEGRバルブ5の穴空きがある場合のエアマス比変動量(TR)の変化例を、また、符号dが付された太点線はEGRバルブ5が正常な場合のエアマス比変動量(TR)の変化例を、それぞれ示している。
【0054】
なお、先に説明したように、EGRバルブ5の全閉後に、エアマスドリフトのためにエアマス比が一時的にレシオ閾値を下回っても、EGRバルブ5が全開された場合のエアマス比変動量は、図5(E)において符号dが付された太点線の特性線のように変動量閾値を上回ることとなる。
そのため、先に述べたようにエアマス比のみでは、エアマス比のレシオ閾値以下への低下がEGRバルブ5の穴空きによるものか、エアマスドリフトによるものか判別できないが、エアマス比変動量によって穴空きが発生しているか否かを判定することができる。
【0055】
また、図5(F)には、電子制御ユニット101内部で生成されるテストフラグ(TF)の変化例が示されている。このテストフラグ(TF)は、ステップS170においてエアマス比はレシオ閾値を上回っていると判定された場合、例えば、論理値Highにセットされる(図5(F)の二点鎖線参照)。一方、エアマス比はレシオ閾値を上回っていないと判定された場合、テストフラグ(TF)は、第2遅延時間経過時に論理値Highにセットされるものとなっている(図5(F)の点線参照)。
【0056】
さらに、図5(G)には、電子制御ユニット101内部で生成されるエラーフラグ(EF)の変化例が示されている。エラーフラグ(EF)は、故障判定(図3のステップS240)がなされた際に、例えば、論理値Highにセットされるものとなっている(図5(G)の点線参照)。
【0057】
なお、故障判定がなされた場合、通常、警告灯の点灯や鳴動素子の鳴動等の故障報知がなされるが、これは、車両の様々な故障、不具合等の発生時の報知等を行う警報報知処理によって別途実行されるようになっている。
すなわち、警報報知処理は、EGRバルブ故障診断処理や他の故障診断処理の故障判定の発生を検出し、それぞれに対応して必要な報知等を実行するものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
車両の走行特性に極力影響を与えることなく確実なEGRバルブの穴空き検出が所望される車両に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1…エンジン
4…排気再循環通路
5…EGRバルブ
101…電子制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5