(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】部分抜蝕織物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/20 20210101AFI20231113BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20231113BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20231113BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20231113BHJP
D06M 23/16 20060101ALI20231113BHJP
D06Q 1/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
D03D15/20 200
D02G3/04
D03D15/283
D06M11/00 115
D06M23/16
D06Q1/02
(21)【出願番号】P 2019161183
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】篠田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 凌一
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-038332(JP,A)
【文献】特開2013-079464(JP,A)
【文献】特開2004-225192(JP,A)
【文献】実開昭57-021695(JP,U)
【文献】国際公開第2017/010024(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18、
D04D1/00-11/00、D06Q1/00-1/14
D02G3/04、
D06M10/00-11/84、16/00-16/00、19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸がポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、
前記経糸および緯糸の少なくとも一方は、第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとの、撚糸、又は第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとが混繊された合糸を含み、
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは前記第二のポリエステルマルチフィラメントよりもアルカリ溶解性が高く、前記第一のポリエステルマルチフィラメントが抜蝕加工されている部分と抜蝕加工されていない部分とを含
み、
前記第二のポリエステルマルチフィラメントと同等かより低いアルカリ溶解性を有する第三のポリエステルマルチフィラメントをさらに含み、前記撚糸又は合糸と前記第三のポリエステルマルチフィラメントが交互に配置されている部分抜蝕織物。
【請求項2】
前記抜蝕加工されている部分の面積の割合が全体の40%以上である請求項1に記載の部分抜蝕織物。
【請求項3】
経糸密度が100本/インチ以上200本/インチ以下であり、緯糸密度が70本/インチ以上150本/インチ以下である請求項1又は2に記載の部分抜蝕織物
。
【請求項4】
前記撚糸又は合糸が連続して2本以上5本以下配置されている請求項
1に記載の部分抜蝕織物。
【請求項5】
前記撚糸は、撚り数が300回/m以上1000回/m以下である請求項1~
4のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
【請求項6】
下記式で示される通気度差ΔBが150%以上である請求項1~
5のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
ΔB=(抜蝕加工されている部分の通気度)÷(抜蝕加工されていない部分の通気度)×100
【請求項7】
前記抜蝕加工されていない部分の紫外線保護係数UPF格付けと抜蝕加工されている部分の紫外線保護係数UPF格付けが、ともに50以上である請求項1~
6のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
【請求項8】
前記第一のポリエステルマルチフィラメントの総繊度が33dtex以上220dtex以下であり、フィラメント数が24本以上144本以下である請求項1~
7のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物
。
【請求項9】
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、炭素数4以上8以下の脂肪族ジカルボン酸が16モル%以上25モル%以下で共重合されたポリエステルマルチフィラメントである請求項1~
8のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
【請求項10】
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸が2モル%以上5モル%以下で共重合されているポリエステルマルチフィラメントである、請求項1~
9のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
【請求項11】
前記抜蝕加工は、アルカリ溶液を用いる処理である請求項1~1
0のいずれか一項に記載の部分抜蝕織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル織物を抜蝕することにより、柄による意匠性を付与し、通気性を向上させた部分抜蝕織物に関するものである。本部分抜蝕織物は、生地製造時の工程通過性に優れ、吸水速乾性や摩耗等の機能にも優れ、洗濯収縮やアイロンによるシワ取り等も可能なイージーケア性にも優れる。
【背景技術】
【0002】
これまで、繊維を溶解する技術を用いた織物は、衣料やカーテン等といった用途で好まれて使用されてきた。溶解技術の手法の一例として、易溶解性繊維を生地全体から除去する手法や、プリントやインクジェット手法を用いて生地の一部分を除去する手法(抜蝕加工)が挙げられる。
従来、易溶解性繊維を除去する手法としては、綿やレーヨン等の酸による除去が一般的であるが、近年、スポーツ用衣料展開を目的としたアルカリ溶解性の異なるポリエステル系繊維を除去する手法も広く知られてきている。
【0003】
一般的に、アルカリ溶解性が異なるポリエステル系繊維を除去する際、易溶解性のポリエステル系繊維と耐アルカリ性に比較的優れるポリアミド系繊維等を交織・交編した織編物をアルカリで処理して、易溶解性ポリエステル系繊維を除去することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリエステル繊維と綿繊維やレーヨン繊維等に代表されるセルロース繊維やナイロン6等で代表されるポリアミド繊維を交編し、酸処理することで、セルロース繊維やナイロン繊維を抜蝕加工で除去している編地が開示されている。
また、特許文献2には、プリント手法はインクジェット方式であるが、アルカリ溶解性の高いポリエステル系繊維とアルカリ溶解性の低いポリアミド繊維とポリウレタン繊維を交編し、アルカリ処理することで、ポリエステル系繊維を除去して強度不足を解消した編地が開示されている。
さらに、特許文献3には、易アルカリ溶解性のポリエステル繊維を経方向と緯方向に一定の比率で配列し、易アルカリ溶解性のポリエステル繊維が経と緯で交差する点が、アルカリ処理後に除去され、貫通した孔を形成する手法を使用し、最終的に得られる布帛がポリエステル繊維100%で構成されている織物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-039854号公報
【文献】特開2008-274499号公報
【文献】特開2011-089231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では抜蝕加工後の織編物には、抜蝕加工を施していない易溶解性ポリエステル系繊維とポリアミド系繊維やセルロース繊維等が残る。そのため、ポリエステル系100%で構成される抜蝕加工後の織編物と比較すると、染色時に生地全体を単一の色で染色するには分散染料と反応染料や酸性染料を使用しなければならず、水使用量やエネルギーロスが大きい点、綿等のセルロース繊維は速乾性能が劣る点、ポリアミド系繊維の白色黄変懸念、ポリエステル系繊維とポリアミド系繊維の融点差が大きく、モールド加工時の成型のしにくさの点等の課題が残されている。
【0007】
特許文献3では、生地全体から易アルカリ溶解性のポリエステル繊維を除去しているため、製織時の設計に基づく組織でしか易アルカリ溶解性のポリエステル繊維を除去するしかなく、スクリーンプリントやロータリープリントで代表される抜蝕加工の柄の自由度が少なく意匠性が制限される課題がある。また、孔周辺の織物組織は外的圧力に弱く、糸が除去された後、易アルカリ溶解性ポリエステルが存在していた空間に隣り合った糸がズレてしまう「目寄れ」という欠点が発生しやすく、織物組織を維持しにくいという課題が残っている。
【0008】
本発明の目的は、ポリエステル100%での抜蝕加工を可能にし、抜蝕加工後の織物組織の維持性能、通気性能および紫外線保護性能に優れた部分抜蝕織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.経糸および緯糸がポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、
前記経糸および緯糸の少なくとも一方は、第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとの撚糸、又は第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとが混繊された合糸を含み、
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは前記第二のポリエステルマルチフィラメントよりもアルカリ溶解性が高く、前記第一のポリエステルマルチフィラメントが抜蝕加工されている部分と抜蝕加工されていない部分とを含む含み、
前記第二のポリエステルマルチフィラメントと同等かより低いアルカリ溶解性を有する第三のポリエステルマルチフィラメントをさらに含み、前記撚糸又は合糸と前記第三のポリエステルマルチフィラメントが交互に配置されている部分抜蝕織物。
2.前記抜蝕加工されている部分の面積の割合が全体の40%以上である前記1.に記載の部分抜蝕織物。
3.経糸密度が100本/インチ以上200本/インチ以下であり、緯糸密度が70本/インチ以上150本/インチ以下である前記1.又は2.に記載の部分抜蝕織物。
4.前記撚糸又は合糸が連続して2本以上5本以下配置されている前記1.に記載の部分抜蝕織物。
5.前記撚糸は、撚り数が300回/m以上1000回/m以下である前記1.~4.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
6.下記式で表される通気度差ΔBが150%以上である前記1.~5.のいずれかに記載の部分抜蝕織物
ΔB=(抜蝕加工されている部分の通気度)÷(抜蝕加工されていない部分の通気度)×100
7.前記抜蝕加工されていない部分の紫外線保護係数UPF格付けと抜蝕加工されている部分の紫外線保護係数UPF格付けが、ともに50以上である前記1.~6.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
8.前記第一のポリエステルマルチフィラメントの総繊度が33dtex以上220dtex以下であり、フィラメント数が24本以上144本以下である前記1.~7.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
9.前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、炭素数4以上8以下の脂肪族ジカルボン酸が16モル%以上25モル%以下で共重合されたポリエステルマルチフィラメントである前記1.~8.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
10.前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸が2モル%以上5モル%以下で共重合されているポリエステルマルチフィラメントである、前記1.~9.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
11.前記抜蝕加工は、アルカリ溶液を用いる処理である前記1.~10.のいずれかに記載の部分抜蝕織物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリエステル100%での抜蝕加工を可能にし、抜蝕加工後の織物組織の維持性能、通気性能および紫外線保護性能に優れた部分抜蝕織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の織物は、ポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、
第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとの撚糸、又は第一のポリエステルマルチフィラメントと第二のポリエステルマルチフィラメントとが、混繊された合糸(以下、合撚糸Yという)を含み、
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは前記第二のポリエステルマルチフィラメントよりもアルカリ溶解性が高く、前記第一のポリエステルマルチフィラメントが抜蝕加工されている部分と抜蝕加工されていない部分とを含む部分抜蝕織物である。
【0013】
本発明の織物は、経糸および緯糸がポリエステルマルチフィラメントからなる織物であり、ポリエステル100%の織物である。そのため、抜蝕加工後の染色が容易であり、意匠性に優れた衣料の提供が可能となる。織物の形態(組織)としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、繻子織などいずれでもよい。
本発明の織物は、経糸および緯糸の少なくとも一方が合撚糸Yを含むことで、第一のポリエステルマルチフィラメントが部分的に抜蝕加工により除去されていても、織物組織の滑脱防止効果を奏する。特に、経糸または緯糸のいずれか一方に合撚糸Yを含むことが好ましく、密度のより高い経糸または緯糸への適用がより好ましい。
本発明の織物は、第一のポリエステルマルチフィラメントが部分的に抜蝕加工により除去されていることで、通気度が向上し、衣服内の蒸れ感を抑制する効果を奏する。
【0014】
本発明の織物では、プリント加工又はインクジェット加工による抜蝕加工を行い、前記プリント加工又はインクジェット加工されている部分の面積の割合が全体の40%以上であることが好ましい。プリント加工又はインクジェット加工されている面積の割合とは、得られた織物に対して、抜蝕加工剤を塗布し、第一のポリエステルフィラメントを抜蝕している面積の割合である。
第一のポリエステルマルチフィラメントが、プリント加工又はインクジェット加工によって部分的に加工されていることで、織物組織の滑脱防止効果及び任意のプリント柄での意匠性を付与する効果を奏しやすい。
また、該加工されている面積の割合が40%以上であることで、通気度が向上する効果を奏しやすい。なお、加工されている面積の割合の上限は、織物組織を維持しやすい点から、80%以下が好ましい。
【0015】
本発明の織物は、経糸密度が100本/インチ以上200本/インチ以下であり、緯糸密度が70本/インチ以下であり、150本/インチ以下であることが好ましい。
経糸密度が100本/インチ以上であると、高密度な経糸密度のため、隣り合った糸同士の間に糸の隙間がなく、通気度が低い織物が得られる。200本/インチ以下であると、製織工程上密度が高すぎて織り難いことがない。
また、緯糸密度が70本/インチ以上であると、高密度な緯糸密度のため、隣り合った糸同士の間に糸の隙間がなく、通気度が低い織物が得られる。150本/インチ以下であると、製織工程上密度が高すぎて織り難いことがない。
これらの観点から、前記経糸密度は120本/インチ以上190本/インチ以下であり、緯糸密度が90本/インチ以上130本/インチであることがより好ましい。
【0016】
本発明の織物は、さらに第三のポリエステルマルチフィラメントを含み、前記合撚糸Yと第三のポリエステルマルチフィラメントが交互に配置されていることが好ましい。
さらに第三のポリエステルマルチフィラメントを含むことで、抜蝕されない糸が織り込まれるため、プリント柄による意匠性のバリエーションが広がる。また前記合撚糸Yと第三のポリエステルマルチフィラメントが交互に配置されていることで織物組織の安定化につながる効果を奏しやすい。
【0017】
本発明の織物は、前記合撚糸Yが連続して2本以上5本以下配置されていることが好ましい。
前記合撚糸Yが連続して2本以上配置されていると、十分な通気度向上が見込まれる効果を奏しやすく、5本以下配置されていると織物組織の安定化につながる。
【0018】
本発明の織物は、前記合撚糸Yが撚糸であって、撚り数が300回/m以上1000回/m以下であることが好ましい。
前記合撚糸Yが撚糸であることで、抜蝕加工後も解れにくい効果を奏しやすい。撚り数が300回/m以上であると一本の糸として取り扱いやすくなるという効果を奏しやすく、1000回/m以下であると抜蝕性を阻害し難くなる。
これらの観点から、前記撚り数は150回/m以上500回/m以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明の織物は、下記式で示される通気度差ΔBが150%以上であることが好ましい。
ΔB=(抜蝕加工されている部分の通気度)÷(抜蝕加工されていない部分の通気度)×100
上記式で示される通気度差ΔBが150%以上であると、通気度差が大きいため、衣服内の蒸れ感を軽減しやすい。この観点から、通気度差ΔBは100%以上であることがより好ましい。本明細書において、通気度とは、JIS L 1096に準拠してA法(フラジール形試験機を用いて測定される方法)により測定された値をいうものとする。
【0020】
本発明の織物は、前記抜蝕加工されていない部分の紫外線保護係数UPF格付けと抜蝕加工された部分の紫外線保護係数UPF格付け'が、ともに50以上(50+)であることがより好ましい。
前記抜蝕加工されていない部分の紫外線保護係数UPF格付けと抜蝕加工された部分の紫外線保護係数UPF格付け'が、ともに50以上であると、抜蝕前後で紫外線保護係数が変わらないため、抜蝕後に通気性向上効果を奏しやすい。
この観点から、前記抜蝕加工されていない部分の紫外線保護係数UPF格付けと抜蝕加工された部分の紫外線保護係数UPF格付け'が、ともに50以上(50+)であることがより好ましい。本明細書において、紫外線保護係数UPF格付けとは、AS/NZS4399:1996に規定されている方法により測定された値をいうものとする。
【0021】
本発明の織物は、前記第一のポリエステルマルチフィラメントの総繊度が33dtex以上220dtex以下であり、フィラメント数が24本以上144本以下であることが好ましい。
前記第一のポリエステルマルチフィラメントの総繊度が33dtex以上であると、製織に必要な糸強度が十分であり、220dtex以下であると、生地の風合いが損なわれにくい。これらの観点から、前記第一のポリエステルマルチフィラメントの総繊度は56dtex以上167dtex以下であることがより好ましい。
また、前記フィラメント数が24本以上であると、一本一本のフィラメントが細くなるため、抜蝕しやすさが向上する。144本以下であると、製糸時や製織時の毛羽発生がしにくい。これらの観点から、前記第一のポリエステルマルチフィラメントのフィラメント数は36本以上72本以下であることがより好ましい。
【0022】
〔第一のマルチフィラメント〕
本発明の織物において、前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、アルカリに易溶解なポリエステルマルチフィラメントであることが好ましく、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、炭素数4以上8以下の脂肪族ジカルボン酸が16モル%以上25モル%以下で共重合されたポリエステルマルチフィラメントであることが好ましい。
前記第一のポリエステルマルチフィラメントが、炭素数4以上8以下の脂肪族ジカルボン酸を16モル%以上共重合されていることで、繊維の非晶構造を乱すことによりポリエステル繊維のアルカリ溶解性を増大させる効果を奏しやすく、25モル%以下共重合されていることで、力学的、熱特性の著しい低下を抑える効果を奏しやすい。
炭素数4以上8以下の脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、すべリン酸が挙げられ、アジピン酸が好ましい。
【0023】
前記第一のポリエステルマルチフィラメントは、さらに、金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸が2モル%以上5モル%以下で共重合されているポリエステルマルチフィラメントであることが好ましい。
前記第一のポリエステルマルチフィラメントが、金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸を2モル%以上であれば、カチオン染料による十分な染色性が得られ易く、また分散染料による染色での低温度化が十分となり易く、5モル%以下であれば、紡糸時の糸切れや毛羽の発生が少なくなり易くなる。
金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、カリウムスルホテレフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。
【0024】
〔第二のポリエステルマルチフィラメント〕
本発明の織物において、前記第二のポリエステルマルチフィラメント、アルカリに難溶解なポリエステルマルチフィラメントであることが好ましく、例えば、一般の衣料に使用されるポリエステル繊維で、公知の繊維グレードのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、共重合型ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、またそれらの複合ポリエステルが挙げられ、中でも公知の繊維グレードのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)が汎用性、染色時の伸縮性の観点から、好ましい。また、繊維の断面や、含有する酸化チタンの含有量に関しては、特に制限されるものではない。
【0025】
〔第三のポリエステルマルチフィラメント〕
本発明の織物において、前記第三のポリエステルマルチフィラメントは、前記第二のポリエステルマルチフィラメントと同様、アルカリに難溶解なポリエステルマルチフィラメントであることが好ましく、第二のポリエステルマルチフィラメントと同様の樹脂が挙げられる。第二のポリエステルマルチフィラメントと第三のポリエステルマルチフィラメントは同一の樹脂であっても異なる樹脂であってもよい。
【0026】
次に、本発明における抜蝕加工の工程について具体的に説明する。
本発明では、前述したとおり、得られた織物に対し、抜蝕加工を行う。具体的には、プリント加工又はインクジェットプリント加工により、抜蝕加工剤を塗布(印捺)する。
【0027】
プリント加工の方式としては、平板状のスクリーン型を使用して模様に抜蝕加工剤を塗布するフラットスクリーンプリントが挙げられる。フラットスクリーンプリントは、生地の上にこのスクリーン型を置き、スクリーン型の上から抜蝕加工剤をスキージでかいて塗布する。機械としては、自動スクリーンプリンターを使用することができる。自動スクリーンプリンターでは、生地が供給装置から連続で供給され、接着剤が塗布されたエンドレスベルトの上面にローラーで加圧し、接着される。そしてエンドレスベルトが進行して印捺位置で停止するとスクリーン型が降下し、型枠内をスキージが動いて印捺し、印捺が終わるとスクリーン型が上昇し、ベルトが進行する。印捺が終わると、生地はベルトの末端でベルトからはがされて乾燥室へ導入される。スクリーン型は一つのみ使用してもよく、複数使用してもよい。
またインクジェットプリント加工では、微小な液滴(インク)をヘッドと呼ばれる細孔から生地へ直接飛ばしプリントする。従来のスクリーンプリントと比較して型が不要である為、ランニングコストが安く、生産性が高い。インクに抜蝕加工剤を充填し、コンピューターで作成したデザインをインクジェットプリンターでプリントを行う。印捺が終わると、生地は乾燥室へ導入される。
加工の方式としては、生産性の観点から、シングルパス方式のインクジェットプリントが好ましい。
【0028】
抜蝕加工剤としては、糊剤と、抜蝕作用を有する成分とを含むものを使用することができる。抜蝕作用を有する前記成分としては、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられ、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム(苛性カリ)、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの1種又は2種を用いることができる。アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物の使用量は抜蝕するポリエステルマルチフィラメントの質量に応じて調整すれはよいが、一般的には抜蝕加工剤に対して1質量%以上10質量%以下の範囲で用いることが好ましい。抜蝕加工剤には、必要に応じて抜蝕促進剤を含んでいても良い。抜蝕促進剤は、特に限定されるものではなく、市販されているものを使用することができる。例えば、明成化学工業株式会社製、OP-2を用いることができる。
【0029】
抜蝕加工剤に含まれる糊剤としては、ローカストビーンガム系、デンプン系、デキストリン系、クリスタルガム系、トラガントガム系、セルロース系、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダなどの、天然、加工、半合成、合成の糊剤を単独でまたは2種以上を用いることができる。糊剤の割合は、抜蝕加工剤を印捺し、熱処理を行うために適切な粘度を保持できる限り特に制限されないが、例えば抜蝕加工剤に対して1質量%以上30質量%以下含有されることが好ましい。
抜蝕加工剤には、さらに、染料など他の化合物を配合することもできる
【0030】
次に、抜蝕加工剤を印捺した織物を熱処理し、洗浄を行う。
【0031】
熱処理は、150℃以上200℃以下の過熱蒸気を与えることが好ましい。前記過熱蒸気の温度が150℃以上になると、抜蝕性が良好となり、200℃以下であれば、ポリエステルマルチフィラメントの風合いが硬くなることを低減できる。
熱処理の時間は、5分以上15分以下であることが好ましい。熱処理の時間が、5分以上であれば、抜蝕性が良好となり、15分以下であれば、非抜蝕部分の強度低下を少なくできる。
熱処理の方法としては、ベーキング法、スチーム法、HTスチーム法などが挙げられ、HTスチーム法がより好ましい。
【0032】
熱処理の後、印捺部の脆化したポリエステルマルチフィラメントの除去などの目的で洗浄を行う。洗浄方法としては特に限定されないが、アルカリ溶液を用いて処理することが好ましい。アルカリ溶液を用いて処理されていることで、アルカリ溶液入手が染色加工場にとって大きな負荷となりにくい効果を奏しやすい。アルカリ発生剤としては、特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、コスト等の観点から水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。アルカリ濃度は1%以上10%以下である事が好ましい。上記の範囲であれば、適度な抜蝕速度を得ることができ抜蝕率を容易に制御することができる。洗浄温度は60℃以上100℃以下が好ましく、洗浄時間は5分間以上150分間以下が好ましい。その後、水洗、脱水、乾燥を行う。
【0033】
上記加工方法によって、抜蝕加工剤を印捺した部分の第一のポリエステルマルチフィラメントが脱落した部分抜蝕織物を得ることができる。得られた部分抜蝕織物は必要に応じて、染色、仕上げなどの公知の処理を行う。
【0034】
また、アルカリ抜蝕加工に使用するアルカリ水溶液には、必要に応じて抜蝕促進剤、糊剤、界面活性剤等の添加剤を併用してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における評価項目の測定は、以下の方法に拠った。
(通気度)
JIS L 1096通気性A法(フラジール法)に規定されている方法で、フラジール形試験機を用いて、試験片を通過する空気量(cm3/cm2・sec)を求めた。
【0036】
(紫外線保護係数)
AS/NZS4399:1996に規定されている方法で、試験片のUPF格付けを測定した。ただし、バンドパスフィルターを積分球と検出器の間に設置した。
【0037】
(実施例1)
アルカリに易溶解なポリエステルマルチフィラメントとして、アジピン酸の共重合量が18モル%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が2.5モル%である改質ポリエステル(三菱ケミカル社製、56dtex36フィラメント)を準備し、第一のポリエステルマルチフィラメントとした。
アルカリに難溶なポリエステルマルチフィラメントとして、レギュラーポリエステル繊維(三菱ケミカル社製、56dtex36フィラメント、仮撚加工糸)を準備し、第二のポリエステルマルチフィラメントとした。
両者を、撚糸機を用いて300回/mのS方向で合撚し、合撚糸Lとした。
【0038】
経糸に合撚糸Lを用い、緯糸に、第三のポリエステルマルチフィラメントとして、ポリエステルマルチフィラメントA(三菱ケミカル社製、110dtex24フィラメント、撚り数1200回/m(S方向)とポリエステルマルチフィラメントB(三菱ケミカル社製、110dtex24フィラメント、1200回/m(Z方向)とを1本ずつ交互に配置して製織し生機を得た。生機の糸構成は、ポリエステル100%であった。
【0039】
得られた織物生機を、精練、ヒートセットして、プリント下生地を準備した。プリント下生地とは、次工程であるプリントのために準備する生地であり、プリントする際にプリント剤に影響を与えないように無加工でかつ染色しない状態で仕上げた生地を指す。
【0040】
スクリーン捺染機を用いて、第1の型枠に配置し、紗を通じて、プリント剤として抜蝕糊をプリント下生地に印捺した。プリント剤の配合は、ポリエステル繊維抜蝕促進剤(明成化学工業製、製品名「OP-2」)を20質量%、無水炭酸ナトリウムを5質量%、元糊(エーテル化澱粉:AVEBE社製商品名「ソルビトーゼC-5」、固形分10%)を50質量%、残りは水であるものを使用した。紗は800メッシュの密度のものを用いた。
【0041】
スクリーン捺染機でプリント剤を印捺した生地は、スクリーン捺染機に連結した乾燥機で加熱乾燥し、コンテナに振り落とした。
【0042】
コンテナから生地を引き出し、布道を整えたあと、HTスチーミング機にて湿熱処理し、液流染色機を用いて湯洗い、アルカリ洗いを行った。アルカリ洗いの目的は、印捺したプリント部に存在している第一のポリエステルマルチフィラメントの脱落を促進する為である。改液し、苛性ソーダ水を投入してアルカリ洗いを実施した。その後、酢酸で中和を行った。
【0043】
液流染色機の抜液、水充填を行い、最大温度130℃で分散染料を使用して染色を行った。その後、還元洗浄工程を経て、樹脂付け、乾燥、最終セットを行い、織物を得た。織物の仕上げ経密度は183本/インチ、仕上げ緯密度は127本/インチであった。仕上織物の糸構成はポリエステル100%であった。
【0044】
抜蝕柄を
図1に示す。黒色の部分が、プリント剤を塗布した部分(抜蝕部)である。抜蝕部の面積の割合は45%であった。
【0045】
通気度測定結果を表1に示す。抜蝕前後における通気度差ΔBは、209%であった。
【0046】
UPF格付け測定結果を表1に示す。抜蝕前後におけるUPF格付け性能に差は無く、いずれも50以上であった。
【0047】
(実施例2)
アルカリに易溶解なポリエステルマルチフィラメントとして、アジピン酸の共重合量が18モル%であり、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が2.5モル%である改質ポリエステル(三菱ケミカル社製、56dtex36フィラメント)を準備し、第一のポリエステルマルチフィラメントとした。
アルカリに難溶なポリエステルマルチフィラメントとして、実施例1と同様にレギュラーポリエステル繊維(三菱ケミカル社製、84dtex36フィラメント、仮撚加工糸)を準備し、第二のポリエステルマルチフィラメントとした。
両者を、エアー混繊した後、撚糸機を用いて800回/mのS方向で合撚し、合撚糸Mとした。
【0048】
経糸に合糸Mを配置し、緯糸に、第三のポリエステルマルチフィラメントとして、ポリエステルマルチフィラメントC(山越社製、167dtex48フィラメント、仮撚加工糸)を配置して製織した以外は実施例1と同様に織物を得た。
【0049】
得られた生機及び織物の糸構成は、ポリエステル100%であった。
織物の仕上げ経密度は127本/インチ、仕上げ緯密度は116本/インチであった。
【0050】
抜蝕柄を
図2に示す。黒色の部分が、プリント剤を塗布した部分である。抜蝕部の面積は48%であった。
【0051】
通気度測定結果を表1に示す。抜蝕前後における通気度向上率は、234%であった。
【0052】
UPF格付け測定結果を表1に示す。抜蝕前後におけるUPF格付け性能に差は無く、いずれも50以上(50+)であった。
【0053】
(実施例3)
アルカリに易溶解なポリエステルマルチフィラメントとして、アジピン酸の共重合量が18モル%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が2.5モル%である改質ポリエステル(三菱ケミカル社製、56T36f)を準備し、第一のポリエステルマルチフィラメントとした。
アルカリに難溶なポリエステルマルチフィラメントとして、レギュラーポリエステル繊維(33dtex36フィラメント、仮撚加工糸)を準備し、第二のポリエステルマルチフィラメントとした。
両者を、撚糸機を用いて300回/mのZ方向で合撚し、合撚糸Nとした。
【0054】
経糸にポリエステルマルチフィラメントD(三菱ケミカル社製、84dtex36フィラメント、仮撚加工糸)を撚糸機を用いて300回/mでZ方向に合撚した糸と合撚糸Nをそれぞれ16本:4本の割合で交互に配置し、緯糸にポリエステルマルチフィラメントDとポリエステルマルチフィラメントE(東レ社製、品番:84T36PYV2、84dtex36フィラメント)を撚糸機を用いて300回/mでそれぞれZ方向に合撚した糸を2本:1本の割合で交互に配置して製織し、抜蝕柄を変更した以外は、実施例1と同様に織物を得た。なお、ポリエステルマルチフィラメントD及びEは、第三のポリエステルマルチフィラメントとして使用したものである。
【0055】
得られた生機及び織物の糸構成は、ポリエステル100%であった。
【0056】
織物の仕上げ経密度は142本/インチ、仕上げ緯密度は99本/インチであった。
【0057】
抜蝕柄を
図2に示す。黒色の部分が、プリント剤を塗布した部分である。抜蝕部の面積は48%であった。
【0058】
通気度測定結果を表1に示す。抜蝕前後における通気度向上率は、177%であった。
【0059】
UPF格付け測定結果を表1に示す。抜蝕前後におけるUPF格付け性能に差は無く、いずれも50以上(50+)であった。
【0060】