(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】バナジウム化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/00 20060101AFI20231113BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C01G31/00
C04B35/495
(21)【出願番号】P 2019189432
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105648248(CN,A)
【文献】国際公開第2020/095518(WO,A1)
【文献】特開2019-210198(JP,A)
【文献】B. V. Slobodin, et al.,Inorganic Materials,2010年,Vol. 46, No. 2,pp. 196-200
【文献】CHATTOPADHYAY, Bidisa et al.,Magnetic ordering induced ferroelectricity in α-Cu2V2O7 studied through non-magnetic Zn doping,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2017年,Vol.121,pp.094103-1~094103-7
【文献】LIU, Huilian et al.,Properties of Cu and V co-doped ZnO nanoparticles annealed in different atmospheres,Superlattices and Microstructures,2012年,Vol.52,pp.1171-1177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/00
C04B 35/495
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の第1工程~第3工程を含む、下記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の製造方法。
(Cu
2-xZn
x)V
2O
7 (1)
(式中、xは、0<x<2である。)
第1工程:
有機カルボン及び鉱酸の銅塩から選ばれるCu源、
有機カルボン酸の亜鉛塩及び亜鉛のハロゲン化物から選ばれるZn源
、並びにバナジン酸、バナジン酸のナトリウム塩、バナジン酸のカリウム塩、バナジン酸のアンモニウム塩及びカルボン酸のバナジウム塩から選ばれるV源を水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程。
第2工程:前記原料混合液から水溶媒を除去して、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
第3工程:前記反応前駆体を焼成する工程。
【請求項2】
第1工程が、V源を水溶媒に溶解した溶液(A液)と、Cu源とZn源とを溶解した(B液)とを調製し、A液とB液を混合して原料混合液を得る請求項1に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項3】
V源が、バナジン酸アンモニウムである請求項1又は2に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項4】
V源が、カルボン酸のバナジウム塩である請求項1又は2に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項5】
A液がカルボン酸のバナジウム塩を水溶媒に溶解した溶液である請求項2に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項6】
A液が、五酸化バナジウム、還元剤及びカルボン酸を混合し、加熱処理して得られるカルボン酸のバナジウム塩を含む請求項2に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項7】
還元剤が、還元糖である請求項6に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【請求項8】
第3工程の後に、粉砕工程を設ける請求項1~7のいずれか1項に記載のバナジウム化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウム化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は、温度が上昇すると熱膨張によって長さや体積が増大する。これに対して、温度が上昇すると長さや体積が小さくなる負の熱膨張を示す材料(以下「負熱膨張材」ということがある。)も知られている。負の熱膨張を示す材料は、他の材料とともに用いることによって、温度変化による材料の熱膨張を抑制できることが知られている。
【0003】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO4)2)、ZnxCd1-x(CN)2、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0004】
リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、0~400℃の温度範囲で-3.4~-3.0ppm/℃であり、負熱膨張性が大きいことが知られている。このリン酸タングステン酸ジルコニウムと、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということがある。)とを併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(特許文献1~2等参照)。また、正熱膨張材である樹脂等の高分子化合物と負熱膨張材とを併用することも提案されている(特許文献3等参照)。
【0005】
また、非特許文献1には、Cu1.8Zn0.2V2O7が、200~700Kの温度範囲で-14.4ppm/Kの大きな線膨張係数を有することが開示されており、このCu1.8Zn0.2V2O7の製造方法として、CuO、ZnO及びV2O5を原料とした混合物を得た後、該混合物を焼成する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法では、焼成後のバナジウム化合物は、焼結体となって反応容器に付着した状態で得られるため、目的物を回収すること自体が困難であり、工業的に粉体を製造することが難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-35840号公報
【文献】特開2015-10006号公報
【文献】特開2018-2577号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Appl.Phys.Lett.113(2018)181902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、焼成時にバナジウム成分が坩堝等の反応容器に付着するのを抑制し、焼成後に容易に反応容器からバナジウム化合物を回収できる、負熱膨張材等として有用なバナジウム化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、Cu源、Zn源及びV源を溶解した原料混合液から溶媒を除去して得られるペースト状の前記バナジウム化合物の反応前駆体を用い、該反応前駆体を焼成することにより、坩堝等からの取り出しが容易なバナジウム化合物の焼成品が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の第1工程~第3工程を含む、下記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の製造方法である。
(Cu2-xZnx)V2O7 (1)
(式中、xは、0<x<2である。)
第1工程:Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程。
第2工程:前記原料混合液から水溶媒を除去して、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
第3工程:前記反応前駆体を焼成する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、焼成時にバナジウム成分が坩堝等の反応容器に付着するのを抑制し、焼成後に容易に反応容器からバナジウム化合物を回収できることから、工業的に有利な方法で負熱膨張材として有用なバナジウム化合物を粉体として製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた焼成品1のX線回折図である。
【
図2】実施例1で得られたバナジウム化合物1のSEM写真である。
【
図3】比較例1で得られた焼結体のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
本製造方法で得られるバナジウム化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
(Cu2-xZnx)V2O7 (1)
(式中、xは、0<x<2である。)
【0015】
一般式(1)の式中のxは0<x<2であり、特に負熱膨張特性が優れるという観点から、式中のxは0.05≦x≦1.5であることが好ましい。
【0016】
本発明の前記バナジウム化合物の製造方法は、下記の第1工程~第3工程を含むことを特徴とするものである。
第1工程:Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程。
第2工程:前記原料混合液から水溶媒を除去して、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
第3工程:前記反応前駆体を焼成する工程。
【0017】
第1工程は、Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解した原料混合液を調製する工程である。
前記水溶媒とは、水を50質量%超含む溶媒を指し、水のみからなるものでもよく、水と親水性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。親水性有機溶媒とは、任意の割合で水に溶解する有機溶媒のことである。
【0018】
第1工程に係るCu源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、酢酸銅、乳酸銅等の有機カルボン酸や鉱酸の銅塩が挙げられる。
【0019】
Zn源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、塩化亜鉛、乳酸亜鉛等の有機カルボン酸の亜鉛塩やハロゲン化物が挙げられる。
【0020】
V源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、バナジン酸及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルボン酸のバナジウム塩等が挙げられる。
カルボン酸のバナジウム塩としては、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基の数が3であるクエン酸等のカルボン酸が挙がられる。
これらのうち、バナジン酸アンモニウム、グルコン酸バナジウムが不純物の少ない目的物を得るという観点から好ましい。
【0021】
また、V源としてカルボン酸のバナジウム塩を用いる場合、水溶媒に五酸化バナジウム、還元剤及びカルボン酸を添加し、60~100℃で加熱処理してカルボン酸のバナジウム塩を生成させ、この反応液をそのまま原料混合液の調製に用いてもよい。
還元剤としては、還元糖が好ましく、還元糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等が挙げられ、このうち、ラクトース、スクロースが、優れた反応性を有するという観点から特に好ましい。
還元糖の添加量は、五酸化バナジウム中のVに対する還元糖中のCのモル比(C/V)で0.7~3.0とすることが好ましく、0.8~2.0とすることが、効率的に還元反応を行うという観点から、より好ましい。
カルボン酸の添加量は、五酸化バナジウムに対するモル比で0.1~4.0とすることが好ましく、0.2~3.0とすることが、効率的に透明なバナジウム溶解液を得るという観点から、より好ましい。
【0022】
第1工程に係る原料混合液の調製において、Cu源、Zn源及びV源の水溶媒への添加量は、原料混合液中のCu源、Zn源及びV源が前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の組成に合わせて適宜調製することが好ましい。
原料混合液におけるV源の濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることが、均一溶液の作製及び次工程における水分蒸発の効率の観点からより好ましい。
【0023】
水溶媒へのCu源、Zn源及びV源の添加順序は特に制限されるものではないが、V源を水溶媒に溶解した溶液(A液)と、Cu源とZn源とを水溶媒に溶解した(B液)とを調製し、これらA液とB液を混合して原料混合液を得ることが好ましい。A液とB液の混合方法は特に制限されるものではないが、B液をA液に添加することが、均一溶液を得るという観点から好ましい。
【0024】
A液におけるV源の濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることが、均一溶液の作製及び次工程における水分蒸発の効率の観点から、より好ましい。
なお、A液はV源の溶解性を高めるため、アルカリを添加したり、温度を上げたり、或いは両方の処置を行っても差し支えない。
【0025】
B液におけるCu源及びZn源のトータルの濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることが、均一溶液作製及び次工程における水分蒸発の効率化の観点から、より好ましい。
【0026】
第2工程は、第1工程で調製した原料混合液を攪拌しながら加熱することにより、ペースト状又は固体になるまで水溶媒を除去して反応前駆体を調製する工程である。
本工程においては、全ての水溶媒を除去して前記混合物を固体で得る必要はなく、少量の水溶媒を含んだペースト状であってもよい。なお、ペースト状とは粘性をかなり有する状態を指す。
【0027】
第2工程に係る加熱温度は、水溶媒が除去できる温度であれば特に制限はないが、沸騰状態を維持できる温度が好ましく、通常は90~120℃が好ましく、100~120℃がより好ましい。
このようにして、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の反応前駆体を得ることができる。
【0028】
第3工程は、第2工程で調製した反応前駆体を焼成して、本発明で目的とするバナジウム化合物を製造する工程である。
【0029】
本工程における焼成温度は、580~700℃とすることが好ましく、600~680℃とすることがより好ましい。この理由は、焼成温度が580℃より低くなると前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の生成が不十分となる傾向があり、また、700℃より高くなると酸化バナジウム成分の揮発により組成が変動する傾向があるからである。
【0030】
本工程における焼成時間は、特に制限されず、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物が生成するまで十分な時間反応を行う。前記バナジウム化合物の生成は、例えばX線回折分析で確認することができる。多くの場合、焼成時間が1時間以上、好ましくは2~20時間で、バナジウム化合物の反応前駆体のほぼ全てが前記バナジウム化合物となる。また、焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよい。
【0031】
本工程では、焼成は1回でもよいし、所望により複数回行ってもよい。例えば、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、粉砕物について更に焼成を行ってもよい。
【0032】
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕、解砕、分級等を行い、目的とするバナジウム化合物を得る。
【0033】
本発明においては、粒子径が20μmを超える粗粒子を実質的に含有しないバナジウム化合物とするため、第3工程の後に、粉砕処理を行う粉砕工程を設けることが好ましい。
【0034】
粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0035】
本発明のバナジウム化合物の製造方法により得られるバナジウム化合物の平均粒子径は、好ましくは0.05~5μm、特に好ましくは0.05~3μmであり、また、バナジウム化合物のBET比表面積は、0.1~50m2/g、特に好ましくは0.1~20m2/gである。バナジウム化合物の平均粒子径、BET比表面積が、上記範囲にあることにより、バナジウム化合物を樹脂やガラス等へのフィラー用として用いる際に、取扱いが容易になる点で好ましい。
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)において任意に抽出した粒子50個以上の平均値であり、粒子形状が球でない場合の粒子径は、各粒子の最大横断長さを粒子径としたものである。
【0036】
本製造方法で得られるバナジウム化合物は、特に負の熱膨張を示す負熱膨張材として有用であり、25~300℃の温度範囲における線膨張係数が-15×10-6/K~-1×10-6であることが好ましく、-15×10-6/K~-3×10-6/Kであることがより好ましい。
【0037】
本製造方法で得られるバナジウム化合物は、粉体又はペーストとして用いられる。得られたバナジウム化合物をペーストとして用いる場合には、粘性の低い液状樹脂とのペーストの状態で用いることができる。また、得られたバナジウム化合物を、粘性の低い液状樹脂に分散させ、更に必要により、バインダー、フラックス材及び分散剤等を含有させて、ペーストの状態で用いてもよい。
【0038】
本製造方法で得られるバナジウム化合物は、各種有機化合物又は無機化合物と併用して複合材料として用いることができる。有機化合物としては、特に限定されないが、ゴム、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS、ポリアクリレート、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。また、無機化合物としては、二酸化ケイ素、グラファイト、サファイア、各種のガラス材料、コンクリート材料、各種のセラミック材料などが挙げられる。
【0039】
上記複合材料は、本発明に係る負熱膨張材となるバナジウム化合物を含んでいるため、他の化合物との配合比率によって、負熱膨張率、零熱膨張率又は低熱膨張率を実現することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
{実施例1}
(第1工程)
バナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)5g、アンモニア水10ml、純水50mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱してA液を得た。次にグルコン酸銅(扶桑化学工業製)17.5gとグルコン酸亜鉛(扶桑化学工業製)2.2gを純水50mlに加えて攪拌して得たB液をA液に加えて均一溶液である原料混合液を得た。
(第2工程)
前記原料混合液を攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状のバナジウム化合物の反応前駆体を得た。
(第3工程)
前記ペースト状のバナジウム化合物の反応前駆体を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、Cu
1.8Zn
0.2V
2O
7の回析ピークが検出された。焼成品のX線回折図を
図1に示す。
次いで、焼成品をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、バナジウム化合物1を得た。バナジウム化合物1のSEM写真を
図2に示す。
【0042】
{実施例2}
(第1工程)
五酸化バナジウム(V2O5)4g、ラクトース2g、グルコン酸50%溶液40g、純水60mlをビーカーに入れ、攪拌しながら80℃で3時間加熱してA液を得た。次にグルコン酸銅(扶桑化学工業製)17.5gとグルコン酸亜鉛(扶桑化学工業製)2.2gを純水50mlに加えて攪拌して得たB液をA液に加えて均一溶液である原料混合液を得た。
(第2工程)
前記原料混合液を攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状のバナジウム化合物の反応前駆体を得た。
(第3工程)
前記ペースト状のバナジウム化合物の反応前駆体を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、実施例1と同様なCu1.8Zn0.2V2O7の回析ピークが検出された。
次いで、焼成品をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、バナジウム化合物2を得た。
【0043】
{比較例1}
五酸化バナジウム(V
2O
5)10gとシュウ酸二水和物30gをビーカーに入れ、純水200mlを加えて攪拌して溶解液1を得た。溶解液1に、グルコン酸亜鉛5.6gを純水100mlに加えて攪拌して得た溶解液2を加え、更に水酸化銅9.7g及び分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.1g加えて原料混合物を調製した。次いで直径5mmのジルコニアボールを媒体としたボールミルを用いて、12時間粉砕混合を行って原料混合スラリーを得た。レーザー回折・散乱法により求めた原料混合スラリー中の固形分のD
50は1μm以下であった。
得られた原料混合スラリー全量を、大気下、200℃で24時間乾燥を行って、バナジウム化合物(Cu
1.8Zn
0.2V
2O
7)の反応前駆体を得た。
次いで、反応前駆体を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成したところ、坩堝に強固に付着した焼結体となり、坩堝を反転させても目的物が強固に付着しており、容易に回収することができなかった。
焼結体をスパチュラで剥がしてX線回折分析したところ、単相のCu
1.8Zn
0.2V
2O
7であった(
図3参照)。
【0044】
<物性評価>
実施例で得られたバナジウム化合物について、平均粒子径、BET比表面積及び熱膨張係数を測定した。また、比較例で得られた焼結体(Cu1.8Zn0.2V2O7)について、熱膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
測定方法は以下の通りである。
【0045】
[平均粒子径]
走査型電子顕微鏡観察(SEM)において任意に抽出した粒子50個以上の平均値として求めた。なお、粒子形状が球でない場合の粒子径は、各粒子の最大横断長さを粒子径とした。
[BET比表面積]
マウンテック製比表面積測定装置Macsorbを用いてBET比表面積を測定した。
【0046】
[熱膨張係数の測定]
(成型体の作製)
試料0.15gを乳鉢で3分間粉砕し、φ6mmの金型に全量充填した。次いで、ハンドプレスを用いて1tの圧力で成型して粉末成型体を作製した。得られた粉末成型体を電気炉にて600℃で2時間焼成してセラミック成型体を作製した。
(熱膨張係数の測定)
作製したセラミック成形体について、熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)を用いて熱膨張係数を測定した。測定条件は、窒素雰囲気、荷重10g、温度範囲50℃~250℃とした。
【0047】
【0048】
実施例に示したように、本発明の製造方法によれば、焼成時にバナジウム成分が坩堝等の反応容器に付着するのを抑制することができ、焼成後に容易に反応容器からバナジウム化合物を回収できるため、バナジウム化合物を粉体として得ることが容易であることが確認できた。