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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1067 20160101AFI20231113BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20231113BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231113BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20231113BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20231113BHJP
【FI】
H01M8/1067
H01M8/02
H01M8/10 101
H01M8/1004
H01M8/1062
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019213493
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021086691
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】高椋 庄吾
(72)【発明者】
【氏名】上原 茂高
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-311047(JP,A)
【文献】特開2007-109482(JP,A)
【文献】特開2008-010173(JP,A)
【文献】特開2011-071062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスの化学反応により発電する燃料電池(10)であって、
電解質膜(1)と前記電解質膜(1)の両側に配置された1対の電極(2)とを備え、前記燃料ガスを化学反応させる膜電極接合体(3)と、
前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)を挟持する1対のセパレータ(4)と、を備え、
前記セパレータ(4)と前記膜電極接合体(3)との間に前記燃料ガスの流路(20)が設けられ、
前記電解質膜(1)は、前記流路(20)における前記燃料ガスの流れ方向において複数のエリア(E1~E3)に分割され、前記エリア(E1~E3)によって異なるガスの遮蔽率を有し、
前記電解質膜(1)は、高分子電解質を含む多孔質基材(111~114)を備え、
前記ガスの遮蔽率が大きいエリア(E1~E3)ほど、前記多孔質基材(111~114)の空孔率が小さい、
燃料電池(10)。
【請求項2】

前記燃料ガスの流れ方向は、前記1対の電極(2)のうち、カソード側に供給される空気の流れ方向であり、
前記空気の流れ方向の下流側のエリア(E1~E3)の前記ガスの遮蔽率は、上流側のエリア(E1~E3)よりも高い、
請求項1に記載の燃料電池(10)。
【請求項3】
前記電解質膜(1)は、高分子電解質を含む多孔質基材(111~114)を備え、
前記ガスの遮蔽率が大きいエリア(E1~E3)ほど、前記多孔質基材(111~114)が厚い、
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池(10)。
【請求項4】
燃料ガスの化学反応により発電する燃料電池(10)であって、
電解質膜(1)と前記電解質膜(1)の両側に配置された1対の電極(2)とを備え、前記燃料ガスを化学反応させる膜電極接合体(3)と、
前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)を挟持する1対のセパレータ(4)と、を備え、
前記セパレータ(4)と前記膜電極接合体(3)との間に前記燃料ガスの流路(20)が設けられ、
前記電解質膜(1)は、前記流路(20)における前記燃料ガスの流れ方向において複数のエリア(E1~E3)に分割され、前記エリア(E1~E3)によって異なるガスの遮蔽率を有し、
前記電解質膜(1)は、高分子電解質を含む多孔質基材(111~114)を備え、
前記ガスの遮蔽率が大きいエリア(E1~E3)ほど、前記多孔質基材(111~114)が厚い、
燃料電池(10)。
【請求項5】
前記電解質膜(1)の等価質量は、前記ガスの遮蔽率が大きいエリア(E1~E3)ほど高い、
請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池(10)。
【請求項6】
燃料ガスの化学反応により発電する燃料電池(10)であって、
電解質膜(1)と前記電解質膜(1)の両側に配置された1対の電極(2)とを備え、前記燃料ガスを化学反応させる膜電極接合体(3)と、
前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)を挟持する1対のセパレータ(4)と、を備え、
前記セパレータ(4)と前記膜電極接合体(3)との間に前記燃料ガスの流路(20)が設けられ、
前記電解質膜(1)は、前記流路(20)における前記燃料ガスの流れ方向において複数のエリア(E1~E3)に分割され、前記エリア(E1~E3)によって異なるガスの遮蔽率を有し、
前記電解質膜(1)の等価質量は、前記ガスの遮蔽率が大きいエリア(E1~E3)ほど高い、
燃料電池(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、燃料ガスとして供給された水素ガスと空気中の酸素ガスとを化学反応させることで発電する。一般に、固体高分子型燃料電池は、上記化学反応を行う膜電極接合体が1対のセパレータにより挟持された構造を有する。
【0003】
膜電極接合体は、電解質膜と電解質膜の両側に1対の電極とを有する。膜電極接合体の抵抗を減らし、発電効率を高めるため、電解質膜の薄膜化が検討されているが、薄膜化によって電解質膜の強度が低下しやすい。そのため、補強層として多孔質膜を内部に有する電解質膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016-056430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜電極接合体とセパレータ間には、膜電極接合体の面全体を通過する流路が燃料ガスの供給路として設けられる。膜電極接合体の面内方向に均一に燃料ガスを供給するため、直線状、波線状、サーペンタイン状等の様々な流路のパターンが提案されている。
【0006】
流路内では、燃料ガスの濃度、熱及び圧力等の不均一な分布が存在する。例えば、燃料ガスの濃度は、流路の入口で最も高く、下流に向かうにつれて徐々に消費されて低下する。燃料ガスとして空気が供給されるカソードでは、空気中の酸素ガスが消費され、酸素ガスの濃度は流路の上流から下流に向かって低下する。
【0007】
この酸素ガスの消費にともない、カソード側の空気中の窒素ガスの濃度は流路の上流から下流に向かって上昇する。窒素ガス濃度が高い下流側では、カソードからアノードへ電解質膜を介して窒素ガスが漏れやすくなる。電解質膜の薄膜化は、窒素ガスの漏洩を容易にする可能性がある。
【0008】
本発明は、一方の電極から他方の電極への燃料ガスの漏洩を減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、燃料ガスの化学反応により発電する燃料電池(10)であって、電解質膜(1)と前記電解質膜(1)の両側に配置された1対の電極(2)とを備え、前記燃料ガスを化学反応させる膜電極接合体(3)と、前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)を挟持する1対のセパレータと、を備え、前記セパレータ(4)と前記膜電極接合体(3)との間に前記燃料ガスの流路(20)が設けられ、前記電解質膜(1)は、前記流路(20)における前記燃料ガスの流れ方向において複数のエリアに分割され、前記エリア(E1~E3)によって異なるガスの遮蔽率を有する、燃料電池(10)が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一方の電極から他方の電極への燃料ガスの漏洩を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の燃料電池の構成を模式的に示す分解斜視図である。
図2】セパレータの表面を示す平面図である。
図3】電解質膜のエリアの例を示す平面図である。
図4】電解質膜のエリアの他の例を示す平面図である。
図5】電解質膜の多孔質基材の例を示す断面図である。
図6】各エリアのガスの遮蔽率を示すグラフである。
図7】各エリアの窒素ガスの漏洩量を示すグラフである。
図8】電解質膜の多孔質基材の他の例を示す断面図である。
図9】電解質膜の多孔質基材の他の例を示す断面図である。
図10】電解質膜の多孔質基材の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の燃料電池の一実施形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は、本発明の一例(代表例)であり、これに限定されない。
【0013】
本実施形態の燃料電池は、車両等の移動体に搭載され、燃料ガスを化学反応させることにより発電して当該移動体に駆動電力を供給するが、本発明はこれに限定されず、例えば、定置式発電システム等の燃料電池に本発明を適用することもできる。
【0014】
(燃料電池)
図1は、本実施形態の燃料電池10の構成を模式的に示す。
図1に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)3と、MEA3の両側に1対のセパレータ4と、MEA3の外周縁を囲むサブガスケット5と、を備える。
【0015】
MEA3は、電解質膜1及び1対の電極2を備えて、燃料ガスを化学反応させる。1対の電極2は電解質膜1の両側に配置される。
【0016】
(電解質膜)
電解質膜1は、イオン伝導性の高分子電解質の膜である。電解質膜1としては、例えばナフィオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー;スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリイミド等の芳香族系ポリマー;ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸等の脂肪族系ポリマー等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の電解質膜1は、多孔質基材111に高分子電解質を含ませた複合膜である。多孔質基材111により電解質膜1の機械的強度を向上させ、燃料電池10の耐久性を向上させることができるとともに、電解質膜1を薄膜化することができる。薄膜化により、カソードからアノードへの逆拡散水量が増えるので、電解質膜1の抵抗及びプロトン伝導性の湿度依存性を減らして発電効率を向上させることができる。
【0018】
多孔質基材111としては、高分子電解質を担持できるのであれば特に限定されず、多孔質、織布状、不織布状、フィブリル状等の膜を用いることができる。多孔質基材111の材料としても特に限定されないが、イオン伝導性を高める観点から、上述したような高分子電解質を用いることができる。なかでも、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂は、強度及び形状安定性に優れる。
【0019】
多孔質基材111は、例えば押出成形、圧延等の公知の方法により上記高分子電解質を成膜することにより得られる。また、エレクトロスプレー法により不織布状の膜を形成することによっても、多孔質基材111は得られる。なかでも、押出成形後に延伸することが、多孔質基材111の空孔率の調整が容易な点で好ましい。
【0020】
多孔質基材111の空孔率は、通常35~90%である。高分子電解質を十分に含浸する観点からは、上記空孔率は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。十分な強度を得る観点からは、上記空孔率は、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
空孔率は、例えば透過型又は走査型の電子顕微鏡により断面を観察したときの一定領域内を空孔が占める面積率(%)として求めることができる。
【0021】
(電極)
1対の電極2のうち、一方の電極2はアノードであり、燃料極とも呼ばれる。他方の電極2はカソードであり、空気極とも呼ばれる。燃料ガスとして、アノードには水素ガスが供給され、カソードには酸素ガスを含む空気が供給される。図1中、黒色の矢印は空気を表し、白色の矢印は水素ガスを表す。
【0022】
アノードでは、水素ガス(H)から電子(e)とプロトン(H)を生成する反応が生じる。電子は、図示しない外部回路を経由してカソードへ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。プロトンは電解質膜1を経由してカソードへ移動する。
【0023】
カソードでは、外部回路から移動してきた電子により、酸素ガス(O)から酸素イオン(O )が生成される。酸素イオンは、電解質膜1から移動してきたプロトン(2H)と結合して、水(HO)になる。
【0024】
電極2は、触媒層21を備える。本実施形態の電極2は、燃料ガスの拡散性向上のため、さらにガス拡散層22を備える。
【0025】
触媒層21は、触媒によって水素ガス及び酸素ガスの反応を促進する。触媒層21は、触媒と、触媒を担持する担体及びこれらを被覆するアイオノマーを含む。
触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)等の金属、これら金属の混合物、合金等が挙げられる。なかでも、触媒活性、一酸化炭素に対する耐被毒性、耐熱性等の観点から、白金、白金を含む混合物、合金等が好ましい。
【0026】
担体としてはメソポーラスカーボン、Ptブラック等の細孔を有する導電性の多孔性金属化合物が挙げられる。分散性が良好で表面積が大きく、触媒の担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ない観点からは、メソポーラスカーボンが好ましい。
アイオノマーとしては、電解質膜1と同様のイオン伝導性の高分子電解質を使用することができる。
【0027】
ガス拡散層22は、燃料電池10に供給された燃料ガスを触媒層21の全面に均一に拡散させることができる。
ガス拡散層22は、MEA3の最表層としてガス拡散層用シートを配置することで形成できる。ガス拡散層用シートとしては、例えば導電性、ガス透過性及びガス拡散性を有するカーボン繊維等の多孔性繊維シートの他、発泡金属、エキスパンドメタル等の金属製のシート材等が挙げられる。
【0028】
サブガスケット5は、MEA3の外周縁を囲むフィルム又はプレートであり、MEA3の支持体として機能する。サブガスケット5の材料としては、導電性が低い樹脂を用いることができる。樹脂材料としては特に限定されず、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)、ガラス入りポリプロピレン(PP-G)、ポリスチレン(PS)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0029】
(セパレータ)
セパレータ4はバイポーラプレートとも呼ばれる。セパレータ4の材料としては、例えばカーボン、ステンレス鋼等の導電性材料が用いられる。
【0030】
図2は、セパレータ4の表面を示す。
図2に示すように、セパレータ4の4隅には4つの貫通孔P1~P4が設けられる。貫通孔P1は空気の供給口であり、貫通孔P2は空気の排出口である。貫通孔P3は水素ガスの供給口であり、貫通孔P4は水素ガスの排出口である。
【0031】
本実施形態のセパレータ4は凹部4aが設けられた表面を有する。具体的には、本実施形態のセパレータ4はその表面に複数のリブ4bを備え、各リブ4bの間に凹部4aが設けられる。なお、セパレータ4の表面に凹部4aを設けることができるのであれば、セパレータ4の表面に溝が設けられていてもよいし、リブ4bと溝の両方が設けられていてもよい。
【0032】
セパレータ4の凹部4aが設けられた面がMEA3と対面したとき、セパレータ4とMEA3との間に流路20が設けられる。流路20は、電解質膜1の面全体に設けられる。流路20は、燃料ガスの供給路であるだけでなく、発電時に電解質膜1において生成された水の排出路でもある。
【0033】
カソード側のセパレータ4の凹部4aは、貫通孔P1から貫通孔P2へ連通する空気の流路20を形成する。アノード側のセパレータ4の凹部4aは、貫通孔P3から貫通孔P4へ連通する水素ガスの流路20を形成する。流路20は、電解質膜1以上の面積を有する。
【0034】
(電解質膜のガス遮蔽率)
本実施形態の電解質膜1は、カソード側の流路20の空気の流れ方向において、複数のエリアに分割される。流れ方向の下流側のエリアの多孔質基材111のガスの遮蔽率は、上流側のエリアよりも高い。
【0035】
図3は、電解質膜1のエリアの例を示す。
図3に示すように、電解質膜1は3つに分割され、貫通孔P1から貫通孔P2へ向かう空気の流れ方向の最上流のエリアE1、エリアE1より下流側であってエリアE3より上流側のエリアE2及び最下流のエリアE3を有する。
【0036】
流れ方向の上流から下流まで複数のエリアに分割されるのであれば、電解質膜1のエリアの分割例はこれに限定されない。例えば、分割数は3に限られず、2でも4以上であってもよい。また、流路20のパターンによって流れ方向が異なるため、電解質膜1のエリアはパターンに応じて分割されればよい。
【0037】
図4は、電解質膜1のエリアの他の例を示す。図4に示すエリアE1~E6は、例えば空気が貫通孔P1から斜め方向に沿って蛇行して貫通孔P2に到るパターンの流路20に使用できる。
【0038】
図5は、図3中のII-II線における断面図である。
図5に示すように、電解質膜1中の多孔質基材111は、エリアE1のパーツa1、エリアE2のパーツa2及びエリアE3のパーツa3から構成される。各パーツa1~a3のガスの遮蔽率は、最下流側のエリアE3のパーツa3が最も高く、次にエリアE2のパーツa2が高く、最上流側のエリアE1のパーツa1が最も低い。
【0039】
カソード側の流路20を流れる空気中の酸素ガスは、上流側から化学反応して消費される。酸素ガス濃度は下流側に向かうほど低下し、相対的に流路20を流れる空気中の窒素ガス濃度は下流側に向かうにつれて上昇する。つまり、窒素ガス濃度は、エリアE1で最も低く、エリアE2ではエリアE1より高く、エリアE3で最も高くなる。
【0040】
このように下流側に向かうほど上昇する窒素ガス濃度に応じて、多孔質基材111のガスの遮蔽率も高くなる。窒素ガス濃度が高いエリアほど窒素ガスの遮蔽率が高いため、カソードからアノードへの窒素ガスの漏れを効果的に抑えることができる。カソード側からアノード側へ電解質膜1を介して漏洩する窒素ガスにより、アノード側の水素ガス濃度が低下し、水素利用率が低下することを抑えることができる。
【0041】
なお、ガスの遮蔽率は、燃料ガスが多孔質基材111によって遮蔽された割合として求めることができる。例えば、ガスの遮蔽率は、多孔質基材111の燃料ガスが供給される一方の表面側のガス濃度(V1)と他方の表面側のガス濃度(V2)との差を求め、この差を一方の表面側のガス濃度(V1)で割ったときの100分率{(V1-V2)/V1×100}(%)で表すことができる。このガス遮蔽率の数値が大きいほど、ガスが遮蔽されやすいことを表す。
【0042】
図6は、各エリアE1~E3のガスの遮蔽率L(%)を示す。図7は、カソードからアノードへの窒素ガスの漏洩量M(vol%)を示す。
図6に示すように、一般的な多孔質基材はエリアE1~E3によらず一定のガスの遮蔽率L0を有する。図7に示すように、ガスの遮蔽率L0の場合の窒素ガスの漏洩量M0は下流側に向かうにつれて増加する。
【0043】
一方、本実施形態の多孔質基材111のガスの遮蔽率L1は、図6に示すように、下流側のエリアほど高くなる。そのため、図7に示すように、ガスの遮蔽率L1の場合の窒素ガスの漏洩量M1は、一定のガスの遮蔽率L0の場合の漏洩量M0と比較して、下流側のエリアE2及びE3において抑制されている。
【0044】
ガスの遮蔽率が異なる各パーツa1~a3は、1つの膜として形成されてもよいし、別々の膜として形成され、接着剤により接着されていてもよい。接着剤としては特に限定されず、樹脂の接着に使用される公知の接着剤を使用できる。
【0045】
接着剤としては、自己修復性ポリマーを使用することもできる。自己修復性ポリマーとしては、公知の材料を使用できる。公知の材料としては、例えば特開2018-39876号、国際公開第2017/159346号参照、文献「Synthesis of Self-Healing Polymers by Scandium-Catalyzed Copolymerization of Ethylene and Anisylpropylenes」(Haobing Wang 外5名、J. Am. Chem. Soc.、American Chemical Society、2019年、141、p.3249-3257参照)等に記載された材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
各パーツa1~a3のガスの遮蔽率は、多孔質基材111の空孔率を変えることにより調整することができる。空孔率が小さいほどガスの遮蔽率も高まる。
例えば、PTFE樹脂を押出成形後に延伸して得られる多孔質基材111の場合、延伸倍率を小さくすれば空孔率も小さくなる。各パーツa1~a3が1つのPTFE膜である場合は、PTFE膜をテンターで横方向(TD)に延伸するときの延伸倍率を縦方向(MD)において段階的に増加させればよい。PTFE樹脂を不織布状に押出して得られる多孔質基材111の場合、樹脂を押し出す密度を大きくするか、何層にも重ねて押出すこと等により空孔率は小さくなる。
【0047】
また、各パーツa1~a3のガスの遮蔽率は、多孔質基材111の厚さを変えることにより調整することもできる。多孔質基材111が厚いほどガスの遮蔽率も高まる。
例えば、多孔質基材111の厚さは、空孔率の場合と同様にPTFE樹脂を押出すときの厚さや密度、延伸倍率等によって調整できる。
【0048】
図8は、各エリアE1~E3において厚さが異なる多孔質基材112の例を示す。
図8に示すように、多孔質基材112はエリアE1のパーツb1、エリアE2のパーツb2及びエリアE3のパーツb3から構成される。各パーツb1~b3の空孔率は同じだが、最下流側のエリアE3に近いパーツほど厚く、ガスの遮蔽率も高い。
【0049】
上記ガスの遮蔽率は、多孔質基材111の空孔率と厚さの両方によって調整されてもよい。
図9及び図10は、空孔率及び厚さによってガスの遮蔽率を調整した例を示す。
【0050】
図9に示す多孔質基材113は、エリアE1のパーツc1、エリアE2のパーツc2及びエリアE3のパーツc3から構成される。最上流側のパーツc1は空孔率が低い第1層71のみから構成されるが、パーツc2は第1層71より空孔率が高い第2層72がさらに積層されてパーツc1の2倍の厚さを有する。最下流側のパーツc3は第1層71と第2層72に最も空孔率が高い第3層73がさらに積層され、パーツc1の3倍の厚さを有する。下流側のエリアほど厚さも空孔率も高くなるため、ガスの遮蔽率がより高く調整される。
【0051】
図10に示す多孔質基材114は、多孔質基材113のエリアE1のパーツc1の厚さが3倍になり、エリアE2のパーツc2の第2層72の厚さが2倍になっている。多孔質基材114は、多孔質基材113よりもエリアE2及びE3のガスの遮蔽率がより高く調整され、かつ強度も高い。
【0052】
多孔質基材113及び114は、例えば第1層71、第2層72及び第3層73を個別に形成して接着するか、各パーツc1~c3を個別に形成して接着することにより、得られる。
【0053】
なお、各エリアE1~E3内でガスの遮蔽率が勾配を有していてもよい。例えば、各エリアE1~E3内で上流側から下流側へ向かうほど徐々にガスの遮蔽率が増加してもよい。
【0054】
等価質量(EW:Equivalent Weight)が同じ電解質膜1においてガスの遮蔽率が異なると、電解質膜1の抵抗値が徐々に高くなる傾向がある。このような抵抗上昇を抑えるため、電解質膜1のEWは、ガスの遮蔽率が高いエリアほど高い構成としてもよい。EWが高ければ、ガスの遮蔽率が高くても燃料ガスの反応性が良好となり、発電性能の低下を抑えることができる。EWは、樹脂の単位質量あたりのイオン交換基数を表すイオン交換容量(IEC:ion exchange capacity)の逆数であり、通常、酸塩基滴定、硫黄原子の定量、及びFT-IR等により求めることができる。
【0055】
電解質膜1のEWは、例えば多孔質基材111~114のエリアごとにEWが異なる高分子電解質を含浸させることにより、異ならせることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態の燃料電池10によれば、流路20の空気の流れ方向において電解質膜1が複数のエリアに分割され、下流側のエリアのガスの遮蔽率が上流側のエリアよりも高い。空気の流れ方向下流に向かうにつれて窒素ガス濃度は上昇するが、電解質膜1のガスの遮蔽率も高くなるため、カソードからアノードへの窒素ガスの漏洩を抑えることができる。漏洩した窒素ガスによってアノード側の水素ガス濃度が低下し、水素利用率が低下することを抑えることができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0058】
上記実施形態では、カソードからアノードへの窒素ガスの漏洩を抑えるため、空気の流れ方向において電解質膜1が複数のエリアに分割される。しかし、電解質膜1が流路20における燃料ガスの流れ方向において複数のエリアに分割され、エリアによって異なるガスの遮蔽率を有するのであれば、これに限定されない。
【0059】
例えば、アノードからカソードへの水素ガスの漏洩を抑えるため、水素ガスの流れ方向において電解質膜1を複数のエリアに分割し、水素ガス濃度が高い上流側のエリアのガスの遮蔽率を下流側よりも高くすることができる。
【符号の説明】
【0060】
10・・・燃料電池、3・・・MEA、1・・・電解質膜、111~114・・・多孔質基材、E1~E3・・・エリア、2・・・電極、20・・・流路、4・・・セパレータ

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