(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】結節性硬化症複合体の処置におけるカンナビジオールの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20231113BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20231113BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231113BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/436
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019571439
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2018051733
(87)【国際公開番号】W WO2018234811
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-18
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】319016758
【氏名又は名称】ジーダブリュー・リサーチ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ウィアレイ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ハインド
(72)【発明者】
【氏名】ロイストン・グレイ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ベイズロット
(72)【発明者】
【氏名】イネス・デ・シルバ・セラ
(72)【発明者】
【氏名】クレア・ウィリアムズ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ティ
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】中西 聡
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/59399号(WO,A1)
【文献】特表2013-500991号公報(JP,A)
【文献】Oncotarget,2014年,Vol.5,No.15,p.5852~5872
【文献】American Journal of Kidney Diseases,2012年,Vol.59,No.2,p.276~283
【文献】Journal of Clinical Neuroscience,2020年,Vol.77,p.85~88
【文献】Clinical Pharmacology and Therapeutics,2015年,Vol.9,No.6,p.575~586
【文献】Trends in Pharmacological Sciences,2013年,Vol.34,No.5,p.273~282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAPlus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結節性硬化症複合体(TSC)の疾患修飾処置における使用のための、カンナビジオール(CBD)を含む組成物であって、
CBDが、少なくとも95%(w/w)のCBDを含む大麻の高度に精製された抽出物として、または合成化合物として存在し、
疾患修飾処置が
良性腫瘍の低減である、組成物。
【請求項2】
TSCと関連する腫瘍のサイズを低減する、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
CBDが、TSCと関連する腫瘍の形成を阻害するのに適当な用量で提供される、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
CBDが、TSCの処置に使用される1種又は複数の併用薬物と組み合わせて使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
TSCの処置に使用される1種又は複数の併用薬物が、mTOR阻害剤である、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
mTOR阻害剤が、ラパマイシン又はエバロリムスである、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
抽出物が0.15%未満のTHCを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
抽出物が最大1%までのCBDVを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
CBDの用量が5mg/kg/日より高い、請求項1から
8のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結節性硬化症複合体(TSC)と関連する腫瘍の処置のためのカンナビジオール(CBD)の使用に関する。特に、CBDは、TSCのゼブラフィッシュモデルにおけるマーカー細胞、pS6の数及びサイズを減少させることができた。これは、CBDを用いる処置がTSC患者において発生する良性腫瘍の低減又は予防をもたらし得る疾患修飾効果を示唆している。
【0002】
好ましくは、使用されるCBDは、CBDが総抽出物の98%(w/w)超で存在するとともに抽出物の他の成分が特徴付けられるように、大麻の高度に精製された抽出物の形態である。特に、カンナビノイドテトラヒドロカンナビノール(THC)は、0.15%(w/w)以下のレベルに実質的に除去されており、CBDのプロピル類似体、カンナビジバリン(CBDV)は、最大1%までの量で存在する。代替として、CBDは、合成的に生成されたCBDであってよい。
【0003】
使用において、CBDは、TSCの処置に使用される1種又は複数の他の薬物と同時に与えられる。こうした薬物としては、ラパマイシン及び/又はエバロリムスを挙げることができる。代替として、CBDは、TSCの処置に使用される1種若しくは複数の薬物と別々に、逐次に若しくは同時に投与するために配合することができる、又は組合せは、単一剤形で提供することができる。CBDが別々に、逐次に又は同時に投与するために配合される場合、それは、キットとして又は示されている方式で1種又は複数の成分を投与するための指示と一緒に提供することができる。それは、唯一の薬物療法として、即ち単独治療として使用することもできる。
【背景技術】
【0004】
結節性硬化症複合体(TSC)は、多器官系、最も著しくは脳、皮膚、腎臓、心臓及び眼において過誤腫の形成によって特徴付けられる常染色体優性神経皮膚障害である(Leung 2007)。過誤腫は、乱れた組織塊中で成長する部位で通常見出される成熟した細胞及び組織の過成長で構成される良性腫瘍である。結節とも称される良性腫瘍は、年齢とともに石灰化するとともに硬化性になる、脳におけるジャガイモ様小結節を描写している(Leung 2007)。
【0005】
この疾患は、タンパク質ハマルチンをコードするTSC1又はツベリン遺伝子をコードするTSC2のいずれかにおける突然変異によって引き起こされる(Curatolo 2015)。ハマルチン及びツベリンは、それのGTPase活性化タンパク質(GAP)ドメインにより、GDPに結合されるRhebを保持する複合体を形成する。これらのタンパク質のいずれかにおける突然変異が存在する場合、この複合体の阻害機能が欠損され、mTORの構成的リン酸化を可能にする(Laplante及びSabatini 2012; Dibbleら 2012)。
【0006】
この障害の症状は、どの系及びどの器官が関与するかに依存して変動する。TSCの自然経過は、非常に軽度からかなり重度を範囲とする症状を有する個体によって変動する。腫瘍は、ほぼいずれの器官においても成長することができるが、それらは、最も一般的には脳、腎臓、心臓、肺及び皮膚に発生する。
【0007】
存在する場合、神経性合併症は、死亡率及び罹患率の最も一般的な原因であり、生活の質に影響する可能性が最もある。発作及びてんかんは、神経性合併症の最も一般的な形態であり、患者の75~90%に発生する(Leung 2007)。患者の63パーセントは、生後1年内に発作発病を経験する(Wang及びFallah 2014)。
【0008】
TSC患者における発作の最も一般的な型は、幼児痙攣、複雑部分発作及び全身性強直性間代性発作である(Leung 2007)。難治性てんかんは、患者の55~62.5%に発症する(Wang及びFallah 2014)。
【0009】
以下の脳病変の3つの型がTSCに見られる:皮質結節;これは、この疾患の名称の由来であり、一般に脳の表面上に形成するが、脳の深部にも出現することがある;上衣下小結節(SEN);これは、心室の壁、脳の流体充填空洞に形成される;及び上衣下巨細胞星細胞腫(SEGA);これは、SENから発症し、それらが脳内での流体の流れをブロックするように成長して、流体及び圧力の増大を引き起こし、頭痛及び霧視に至る。
【0010】
心臓横紋筋腫と呼ばれる腫瘍は、しばしば、TSCを有する幼児及び若年小児の心臓に見出される。腫瘍が大きいか又は複数の腫瘍があるならば、それらは、循環をブロックし、死亡を引き起こすことがある。
【0011】
母斑症と呼ばれる良性腫瘍は、時にはTSCを有する個体の眼に見出され、網膜上の白斑として出現する。一般に、それらは、視覚喪失又は他の視覚問題を引き起こさないが、それらは、疾患を診断するのを援助するために使用することができる。追加の腫瘍及び嚢胞は、肝臓、肺及び膵臓を含めて、身体の他の部域に見出されることがある。骨嚢、直腸ポリープ、歯茎線維腫及び歯窩も発生し得る。
【0012】
TSCを有する患者は、一般的に、てんかんを制御するための抗発作薬物療法で処置され;加えて、腫瘍は、mTOR阻害剤で処置される。
【0013】
唯一の薬物であるmTOR阻害剤(エバロリムス)は、この疾患が同定された165年にTSCの処置のためにFDA承認されており、それは、具体的に、処置が必要とされるとともに外科手術が適切と考えられないTSCと関連する上衣下巨細胞星状細胞腫の処置に適応される。エバロリムスの治療用量は4.5mg/m2である。
【0014】
エバロリムスは、高リスク副作用プロファイルを有し、TSCを有する全ての患者における使用に適当でないことがあり得る。処方情報に述べられている通り、「疾患関連症状における改善等の臨床的利益が実証されていない」(Novartis 2015)。
【0015】
エバロリムスの副作用プロファイルとしては、非感染性肺臓炎;免疫抑制;感染症のリスクの増加;血管浮腫;口腔潰瘍化;腎不全;創傷治癒の欠損;血清クレアチニン、尿タンパク質、血糖及び脂質の上昇;ヘモグロビン、好中球及び血小板の減少が挙げられる。
【0016】
最も一般的な有害反応(発生率≧30%)としては、口内炎、感染症、発疹、疲労、下痢、浮腫、腹痛、吐き気、発熱、無力症、咳、頭痛、及び食欲の減少が挙げられる(Novartis 2015)。
【0017】
結節の成長は、TSCの症候の顕著な特徴である。TSCを有する患者における結節サイズの低減に寄与することができるmTOR阻害に加えて、低酸素症誘発因子-1(HIF1α)及び血管内皮成長因子(VEGF)の過剰発現は、これらの結節の原因であると思われる。これらの成長因子は、血管形成経路に関与し、TSC1及びTSC2の突然変異並びにTSCの動物モデルにおける結節の成長の程度と相関する。これらの作用がCBDによる又は別のシグナル伝達経路によるmTORのモジュレーションの下流にあるのかは不明である。ラパマイシン又はmTORの関連阻害剤は、直接的な腫瘍細胞死滅によって及びVEGF産生の欠損を介してTSC病変の発症を阻害することによっての両方で、TSCにおける治療的利益を有することができる。
【0018】
化合物カンナビジオール(CBD)は、近年、いくつかの処置耐性小児科てんかん臨床試験において使用されてきており、ここで、発作頻度における著しい低減が報告された(Devinskyら、2014)。更にCBDは、焦点発病発作を有するTSC患者における難治性てんかんの処置に有益であることが示されてきた(Geffreyら、2014)。
【0019】
てんかんを処置するための、CBDを含めた大麻及びカンナビノイドの潜在性が再燃する一方で、現在まで、TSCと関連する腫瘍を処置する又は実際に疾患修飾効果を提供するという化合物の能力は示されてこなかった。
【0020】
本出願人は、CBDが、ゼブラフィッシュモデルにおけるインビトロTSC細胞株及びインビボの両方においてTSC腫瘍細胞を低減することができることを見出した。更に、CBDは、腫瘍細胞株においてmTOR阻害剤、ラパマイシンとの相乗方式で作用することが示された。
【0021】
そのため、CBDは、TSCと関連する良性腫瘍を処置することが示された。これらの良性腫瘍の形成を低減又は予防するというこうした能力は、疾患修飾効果をもたらす。この効果は、良性腫瘍のサイズの低減又は形成の予防により起こり、それによって、脳において成長する良性腫瘍によって引き起こされる発作等のTSCと関連する併存症状を予防する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様によると、結節性硬化症複合体(TSC)と関連する腫瘍の処置における使用のためのカンナビジオール(CBD)が提供される。
【0024】
好ましくは、TSCと関連する腫瘍は、良性腫瘍である。より好ましくは、TSCと関連する腫瘍のサイズを低減する。代替として、CBDは、TSCと関連する腫瘍の形成を阻害するのに適当な用量で提供される。
【0025】
好ましくは、CBDは、TSCの処置に使用される1種又は複数の併用薬物と組み合わせて使用される。より好ましくは、TSCの処置に使用される1種又は複数の併用薬物は、mTOR阻害剤である。更により好ましくは、mTOR阻害剤は、ラパマイシン又はエバロリムスである。
【0026】
好ましくは、CBDは、少なくとも95%(w/w)のCBDを含む大麻の高度に精製された抽出物として存在する。好ましくは、抽出物は、0.15%未満のTHCを含む。より好ましくは、抽出物は、最大1%までのCBDVを更に含む。
【0027】
代替として、CBDは、合成化合物として存在する。
【0028】
好ましくは、CBDと組み合わせて使用されるTSCの処置に使用される1種又は複数の併用薬物の用量を低減する。
【0029】
好ましくは、CBDの用量は、5mg/kg/日より高い。
【0030】
本発明の第2の態様によると、結節性硬化症複合体(TSC)を有する患者を処置する方法であって、カンナビジオール(CBD)を、TSCと関連する腫瘍を予防又は低減するのに治療的に有効な量でそれを必要とする患者に投与する工程を含む、方法が提供される。
【0031】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照して後文に更に記載されており、ここで:
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞(A)及びAML細胞株(B)における創傷治癒に対するCBDの効果を示す図である;
【
図2】Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞(A)及びAML(B)細胞株における遊走及び侵襲に対するCBDの効果を示す図である;
【
図3】Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞(A)及びAML(B)細胞株における腫瘍形成に対するCBDの効果を示す図である;
【
図4】TSCのゼブラフィッシュモデルにおけるpS6陽性細胞の数に対するCBDの効果を示す図である;
【
図5】TSCのゼブラフィッシュモデルにおけるpS6細胞のサイズに対するCBDの効果を示す図である;
【
図6】PANC1(A)及びMIAPACA(B)細胞株における成長の阻害に対するCBDの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本発明を記載するために使用される用語の一部の定義は、下記のTable 1(表1)に詳述されている:
【0034】
本出願に記載されているカンナビノイドは、それらの標準的略語と一緒に下記に列挙されている。
【0035】
【0036】
上記の表は網羅的でなく、参照のために本出願において同定されているカンナビノイドを単に詳述している。今までのところ、60種を超えた異なるカンナビノイドが同定されており、これらのカンナビノイドは、以下の通りの異なる群に分けることができる:植物性カンナビノイド;エンドカンナビノイド及び合成カンナビノイド(これは、新規なカンナビノイド又は合成的に生成された植物性カンナビノイド若しくはエンドカンナビノイドであり得る)。
【0037】
「植物性カンナビノイド」は、天然に由来するカンナビノイドであり、大麻植物中に見出すことができる。植物性カンナビノイドは、高度に精製された抽出物を生成するための植物から単離することができる又は合成的に再生成できる。
【0038】
「高度に精製されたカンナビノイド」は、高度に精製されたカンナビノイドが95%(w/w)以上純粋であるように、大麻植物から抽出されるとともに他のカンナビノイド及びカンナビノイドと共抽出される非カンナビノイド成分が除去されている程度に精製されているカンナビノイドとして定義されている。
【0039】
「合成カンナビノイド」は、カンナビノイド又はカンナビノイド様構造を有するとともに植物によるよりはむしろ化学的手段を使用して製造される化合物である。
【0040】
植物性カンナビノイドは、カンナビノイドを抽出するために使用される方法に依存して、中性形態(脱炭酸形態)又はカルボン酸形態のいずれかとして得ることができる。例えば、カルボン酸形態を加熱することは、カルボン酸形態のほとんどが中性形態に脱炭酸する原因になることが知られている。
【0041】
詳細な記載
以下の実施例は、TSCにおける腫瘍を処置する能力におけるCBDの効力についての証拠を提供する。実施例1は、以下の2種の異なるTSC細胞株においてCBDを試験する:(i)血管筋脂肪腫621-101細胞株(TSC2の機能喪失が知られている結節性硬化症複合体患者から誘導された)、並びに(ii)Tsc2-/-及びTsc2+/+マウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞株。
【0042】
実施例2は、ゼブラフィッシュにおけるTSCモデルを記載している(Kimら、2011)。ゼブラフィッシュにおけるCNS発症は、他の脊椎動物におけるのと同じパターンをたどり、ニューロン及びグリア細胞の両方が同定されている。
【0043】
最後に、実施例3は、腫瘍細胞株におけるmTOR阻害剤、エバロリムスとのCBDの相乗作用を実証する。
【実施例1】
【0044】
2つの結節性硬化症複合体細胞株における腫瘍の低減におけるカンナビジオールの効力
材料及び方法
細胞株及び維持
(i)TSC2の機能喪失が知られている結節性硬化症複合体患者(621-101細胞株)から誘導された血管筋脂肪腫(AML)細胞。レスキュー対照細胞株を作成するため、これらの621-101細胞は、Zeocin(商標)耐性を有するTSC2発現プラスミドで安定してトランスフェクトした(pcDNA3.1zeo-hTSC2)。Zeocin(商標)は、LifeTechnologies社(カタログ番号: R25001)から購入し、2週のZeocin(商標)選択にわたって安定な細胞株を独自に作成するために(Prof. Lisa Henskeによる)、及び次いで、組織培養(100μg/mlで)において細胞の維持を続けるために使用した。
【0045】
(ii)Tsc2-/-p53-/-及びTsc2+/+p53-/-マウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞株(ここでは、それぞれ、Tsc2-/-及びTsc2+/+と称される)。
【0046】
細胞培養
Tsc2-/-及びTsc2+/+細胞株を、加湿インキュベーター(37℃で5%のCO2)において、10%(v/v)FBS及び1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンが補充されたDMEM中で培養及び維持した。AML-/-細胞株を、加湿インキュベーター(37℃で5%のCO2)において15%(v/v)FBS及び1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシンが補充されたDMEM中で培養及び維持した。低酸素症のため、細胞を、示されている時点について1%のO2に設定されたバインダーCB150低酸素チャンバーに入れた
【0047】
薬物処置
この実施例において、純粋なCBDを使用した。ラパマイシンはMerkMillipore社から得た。
【0048】
CBDのストック濃度を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中20mMに作製した。CBDを、示されている通り、5μM又は10μMのいずれかの最終濃度まで培養培地に添加した。細胞培養培地中のDMSOの最終濃度は、0.05%(v/v)の最大レベルであった。
【0049】
創傷治癒アッセイ
細胞を60mmプレートに播種し、100%集密度に達するまで放置した。細胞を次いで1%(v/v)FBSのDMEM中にて24時間同期化し、ピペット先端で創傷した。死細胞をPBS洗浄で除去し、次いで引き続いて、DMEM(10%(v/v)FBS)で置き換えた。細胞をサイトカイン刺激前に(示されている場合)ラパマイシン、c-MET又はSTAT3阻害剤のいずれかで30分間予備処置した。Olympusカメラを備えた倒立AMGEVOS顕微鏡を使用して、処置前及び処置の12~18時間後に写真を撮った。
【0050】
遊走及び侵襲アッセイ
6.5mmの直径インサート、8.0μmの孔サイズ、及びポリカーボネート膜を有するトランスウェル透過性支持体を使用して、遊走アッセイを行った。細胞をコンフルエントまで、標準的培地(10%(v/v)FBS)を有する75cm2フラスコにおいて成長させた。トリプシン-EDTAを使用して、細胞を次いで収集した。血球計算器を使用して、細胞をカウントした。1%(v/v)FBSを含有するDMEM中に、合計1×106個の細胞を再懸濁した。これらの細胞をトランスウェルの上部チャンバーに次いで播種し;下部チャンバーに、接着性基質として600mLの標準的培養培地(10%(v/v)FBS)及び5mg/mLのフィブロネクチンを充填した。細胞を37℃、5%のCO2で24時間の間インキュベートした。メタノール及びアセトン(1:1)を用いて20分間20℃で細胞を固定することによって、付着性細胞の百分率を次いで決定した。細胞を次いでエタノール中のクリスタルバイオレット(5mg/mL)で10分間染色し、その後、水の流れが透明になるまでdH2Oを用いてストリンジェントな洗浄を続けた。クリスタルバイオレット染色細胞を1%(w/v)SDSで溶出し、吸光度をGenova MK3 Lifescience上にて550nmで読み取った。
【0051】
侵襲アッセイのため、同様のプロトコールを使用したが;しかしながら、トランスウェルのトップチャンバーに、300mLのBDマトリゲル基底膜マトリックス(1mg/mL)を充填した。マトリゲルを37℃で4時間の間インキュベートして、それがゲル化するのを可能にした。細胞を次いで播種し、遊走アッセイについて記載されている通りに3日間インキュベートした。前の通りに、固定染色及び1%(w/v)SDSを用いるクリスタルバイオレットの溶出によって、浸潤細胞の数を決定した。
【0052】
腫瘍球状体成長アッセイ
二層軟質寒天アッセイを6ウェルプレートにおいて実施した。全ての細胞株を、0.6%(v/v)寒天層上で(3 *105)にて0.35%(v/v)寒天中の完全DMEM培地において平板培養した。寒天を次いで完全DMEM培地で覆い、球状体を14日間37℃で5%のCO2において成長させた。培地を週2回交換し、新たな薬物を培地に添加した。Olympusカメラを備えた倒立AMGEVOS顕微鏡を使用して、写真を撮った。ImageJソフトウェアを使用して、腫瘍球状体の体積を測定した。
【0053】
溶解及びウェスタンブロット
細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、次いで、試料緩衝液(62.5mMのトリスHCL、50mMのDTT、2%のSDS(w/v)、10%のグリセロール(w/v)、0.1%のブロモフェノールブルー(w/v)pH7.6)中に直接溶解し、5×20秒のサイクル間フルパワー(30振幅ミクロン)で超音波処理した。試料を95℃で10分間沸騰させた。溶解物をSDS-PAGEによって分離し、タンパク質を二フッ化ポリビニリデン膜に移した。
【0054】
0.1%(v/v)ツイーンを含有するトリス緩衝生理食塩水中に溶解させた5%(w/v)乾燥粉乳中で、膜をブロックし、次いで、一次抗体及びセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体でプローブ付けした。増強化学発光溶液及びHyperfilmを使用して、タンパク質を可視化した。リボソームタンパク質S6(rpS6)、ホスホ-rpS6(Ser235/236)に対する抗体をCell Signaling Technology社から購入した。抗-HIF-1αをBD形質導入実験室から得た。
【0055】
統計的分析
実験を少なくとも3回実施した(別段に示されていない限り)。適用可能な場合、結果は平均±標準偏差(SD)として表されている。スチューデントt検定及び一元配置ANOVAをボンフェローニ事後検定とともに使用し、有意性をp≦0.05で報告した。図に示されているデータは、**p<0.01、***p<0.001を表す。
【0056】
結果
創傷治癒アッセイ
創傷閉鎖は、細胞遊走並びに創傷の最先縁の増殖の両方の兆候であり、これの減少は、それが潜在的な腫瘍成長の低減を示すので、この状況において有益と考えられる。
【0057】
図1(A)は、CBDが10μM及び20μMで、Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞株において創傷閉鎖をブロックするのにラパマイシンと同じくらい有効であったことを実証している。Tsc2-/-MEFは、創傷を閉鎖するのにTsc2+/+対照細胞よりも高い能力を有する。
【0058】
図1(B)は、第2の細胞株における創傷閉鎖アッセイについてのデータを実証している。CBDは、5μM、10μM及び20μMのCBDで創傷閉鎖を低減することに有効であった。20μMのCBDは、創傷閉鎖を60%低減することにおいてラパマイシンと同じくらい有意であった。
【0059】
CBD及びラパマイシンが組合せで与えられている場合、それらの組み合わせ効果は、化合物CBD又はラパマイシンのいずれかのそれと同様であった。
【0060】
細胞遊走及び侵襲アッセイ
細胞遊走及び侵襲アッセイをTsc2-/-細胞において実施し、対照細胞としてTsc2+/+を使用した。Tsc2-/-細胞における遊走細胞の数に非有意な増加があり、CBDは、これらの細胞の有意な低減を引き起こさなかった一方で、それは、
図2(A)において実証されている通りに、細胞遊走を対照レベルに低減した。
【0061】
5μM及び10μMの濃度で、CBDは、Tsc2-/-MEFにおいて細胞侵襲をブロックすることに顕著な効果を有し、
図2(B)に示されている通りに、5μMのCBDは、侵襲をTsc2+/+対照細胞のレベルに戻し、10μMのCBDは、より頑強な効果を有していた。
【0062】
AML 621-101細胞において、CBDは5μM及び10μMの両方で、細胞遊走及び侵襲の両方を有意にブロックするのに十分だった。実際に、10μMのCBDは、ラパマイシンよりも有意に大きい程度に細胞遊走を低減した。
【0063】
腫瘍形成アッセイ
腫瘍形成アッセイをTsc2-/-MEFにおける軟質寒天中で実施した。腫瘍球状体直径を阻害する有意性を、5μMでなく10μMのCBDで、及びラパマイシンで観察した。同様の観察がAML 621-101細胞に見出され、ここで、10μMも腫瘍球状体形成をブロックするのに十分であった。
図3はこれらのデータを詳述している。
【0064】
ウェスタンブロット分析
CBDがmTORC1シグナル伝達を欠損するかどうかを決定するため、ウェスタンブロッティングを実施した(mTORC1シグナル伝達の読み取りとしてrpS6リン酸化を使用する)。CBDは5μMで、Tsc2-/-MEFにおける処置の6時間後にrpS6リン酸化を阻害した。
【0065】
低酸素症下で、HIF-1αタンパク質は安定化され、血管新生応答を確実にし、腫瘍形成、代謝的変換及び悪性腫瘍に必要である。興味深いことに、CBDは10μMで、Tsc2-/-MEF及びAML 621-101の両方においてHIF-1αタンパク質の低酸素症誘発発現をブロックするのに十分であった。
【0066】
結論
CBDは、TSCの2つの細胞モデルにおいて腫瘍形成、細胞遊走及び細胞侵襲をブロックすることができる。CBDは処置の6時間後にmTORC1シグナル伝達もブロックし、HIF-1αの強力なリプレッサーであり、このことは、CBDが血管新生抑制剤としての潜在性を有し得ることを示している。
【実施例2】
【0067】
結節性硬化症複合体のゼブラフィッシュモデルにおける腫瘍の低減に対するカンナビジオールの効力
材料及び方法
ゼブラフィッシュ畜産
tsc2遺伝子欠失を有するTSCのゼブラフィッシュモデルを使用した。このモデルは、以前に公表及び検証されている(Kimら、2011)。遺伝子欠失動物を野生型tsc2+/+動物と交配させることによって、ヘテロ接合体(tsc2+/-)ゼブラフィッシュも得て、この実施例において試験した。
【0068】
画像化
pS6及びTUNEL染色の両方のため、Zeiss AxioImager顕微鏡を使用して、非連続切片を画像化した。曝露時間を画像獲得中は一定に保ち、一次抗体又は酵素溶液が省かれたスライドの観察によって決定した。AxioVisionソフトウェアを使用して写真を20倍対物で撮り、Fiji ImageJを使用して着色した。細胞の全てのカウント及び測定を元の黒白写真において行った。
【0069】
免疫組織化学的検査
TUNEL染色(1:10; Roche、Sigma、UK)のため、10μmの切片をカットし、顕微鏡スライド上に集め、使用されるまで-80℃で貯蔵した。切片を2時間の間、室温で、2%のBSA、10%のウマ血清及び0.05%のTX-100の緩衝液中にてインキュベートした。最終の濯ぎ工程後、切片をTUNEL溶液にて、暗所で、1時間の間、37℃でインキュベートした。
【0070】
酵素溶液を省くことによって陰性対照を行い、5mg/mLのDNAseを用いて10分間37℃で、切片を以前のインキュベーションをすることによって陽性対照を行った。
【0071】
TUNELアッセイのため、標識化細胞の低い存在により、定性的観察を1遺伝子型当たり及び1群当たり1種の動物だけに行った。
【0072】
統計的分析
統計的分析は、カイ二乗検定を除いて、GraphPad Prism 5を使用して行われるSPSS(IBM SPSS Statistics 22)で行った。コルモゴロフ-スミルノフ検定及びモークリー検定を使用して、それぞれ正規性及び真球度の検定を行った。反復測定二元配置ANOVA検定を使用して、自発運動アッセイデータ及び細胞数を分析し、他方で、三元配置ANOVA検定を使用して、細胞サイズを分析した。遺伝子型と処置との間のタッチ応答(TR)をカイ二乗検定によって分析した。検定の後にテューキー又はボンフェローニ事後検定が続いた。
【0073】
データは、別段に明記されていない限り平均±SEMとして表されており、p≦.05の場合に有意な値と考えられた。全てのグラフをGraphPad Prism 5で作成した。
【0074】
材料
この実施例において、純粋なCBDを使用した。Danieau溶液をゼブラフィッシュのための胚培地として使用した。
【0075】
結果
細胞数:
CBDは、
図4に示されている通りに、pS6陽性細胞の数を減少させることができた。異なる遺伝子型及び処置におけるmTOR経路活性化を探索するため、pS6(Ser235/236)抗体を使用して、免疫組織化学的検査を行った。
【0076】
初期の顕微鏡観察で、tsc2+/+及びtsc2+/-ゼブラフィッシュ切片と比較して、tsc2-/-脳組織において、より強い免疫反応性を検出した。DMSO切片もDanieau群と比較した場合に反応性の増加を示したが、CBDインキュベート動物からの切片は、pS6陽性細胞の数の顕著な減少を示した。
【0077】
群間の明らかな差異をよりよく理解するため、pS6陽性細胞を各遺伝子型及び処置についてカウントした。遺伝子型の有意な主効果が見出され、tsc2-/-ゼブラフィッシュ切片は、脳において、tsc2+/+及びtsc2+/-(+173.3%)よりも多くのpS6陽性細胞を示した(
図4A)。
【0078】
処置の有意な主効果も見出され、CBDが、Danieau群(-63.2%)及びDMSO群(-77.1%)と比較して、陽性細胞の平均数を低減することを示した。追加として、DMSOインキュベートスライドは、Danieauと比較して、陽性細胞の平均数(+61.2%)の有意な増加を有した(
図4B)。
【0079】
遺伝子型と処置との間の有意な相互作用も見出され、CBDは、tsc2+/+においてもtsc2+/-Danieauインキュベートゼブラフィッシュにおいても、pS6陽性細胞の平均数に対する有意な効果がないが、それは、tsc2-/-ゼブラフィッシュに対する有意な効果を有する(Danieau群については-55.4%及びDMSO群については-58.9%)ことを明らかにした(
図4C)。
【0080】
細胞サイズ
CBDは、
図5に示されている通りに、pS6陽性細胞の面積を減少させる。
【0081】
遺伝子型の有意な主効果が見出され、tsc2-/-ゼブラフィッシュが、tsc2+/+及びtsc2+/-(+29%)ゼブラフィッシュよりも有意に大きいpS6陽性脳細胞を有することを示した(
図5A)。
【0082】
追加として、処置の有意な主効果も存在し、CBDインキュベートゼブラフィッシュが、Danieau群又はDMSO群(-20.1%)に存在するものよりも小さいpS6陽性細胞を有することを明らかにした(
図5B)。
【0083】
最終的に、遺伝子型と処置との間の相互作用が見出された。Danieauインキュベートゼブラフィッシュは、突然変異の激しさに従って漸進的に大きくなるpS6陽性細胞を有するが、DMSOインキュベート動物は、Danieau群と比較して、tsc2+/-でもtsc2-/-細胞でもなくtsc2+/+(+18.1%)においてpS6陽性細胞サイズを増加していた。
【0084】
CBDに関して、インキュベーションは、tsc2+/+ゼブラフィッシュにおける細胞サイズに影響しなかったが、それは、tsc2+/-及びtsc2-/-ゼブラフィッシュにおけるpS6陽性細胞のサイズを有意に減少させた(それぞれ、Danieau群と比較して-27.6%及び-23%、並びにDMSO群と比較して-18.1%及び-20.8%)(
図5C)。
【0085】
結論
mTOR活性のための一般的に使用されるマーカーである、pS6に対する免疫組織化学的検査を行うことによって、mTOR経路に対するCBD処置の影響を判定した。mTORが活性である場合、pS6は、インビトロ及びインビボモデルにおいて、並びにヒト組織において増加することが示された(Rouxら、2007)。
【0086】
tsc2-/-突然変異を有するゼブラフィッシュは、脳において、tsc2+/+群及びtsc2+/-群と比較して、より多くのpS6陽性細胞を呈する。pS6陽性細胞の数は、tsc2+/+動物とtsc2+/-動物との間で有意に異なってはいなかった。
【0087】
予想外にも、DMSOは、脳においてpS6陽性細胞の数を増加させることが見出された。しかしながら、CBDがこの同じビヒクル中に溶解されても、我々は、他の2つの遺伝子型と比較して、tsc2-/-ゼブラフィッシュ脳におけるpS6陽性細胞の数における顕著な低減を見た。
【0088】
pS6陽性細胞の測定は、tsc2-/-細胞が、tsc2+/+及びtsc2+/-陽性細胞と比較して、より大きい面積を有するが、これらの2つの群は互いに統計的に異なっていないことを明らかにした。
【0089】
pS6陽性細胞面積を処置によって分析したところ、サイズに対する、DMSOではなくCBDの有意な主効果が見られ、CBD処置幼生が、Danieau処置群及びDMSO処置群と比較して、より小さい細胞を有することを明らかにした。
【0090】
追加として、tsc2+/+細胞のサイズはCBDによって影響されなかったが、我々が陽性細胞の数について以前に見てきた通り、今回、CBDはtsc2+/-細胞のサイズも低減し、サイズに対するCBDの効果が突然変異依存性であることを示唆した。
【0091】
結論として、CBDは、TSCのゼブラフィッシュモデルにおいてプラス効果を生み出し、pS6細胞の細胞サイズ及び細胞数の両方を低減した。これは、CBDを用いる処置が、実質的に全てのTSC患者に発生する良性腫瘍を低減することができる疾患修飾効果を示唆している。
【実施例3】
【0092】
腫瘍細胞株におけるmTOR阻害剤との組合せにおけるカンナビジオールの効力
材料及び方法
細胞株
PANC-1は、ヒト膵臓癌腫、上皮様細胞株であり; PANC-1細胞は、腫瘍原性研究のための非内分泌性膵臓がんのインビトロモデルとして使用される。この細胞は、グルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼG6PDのためのB型表現型を有し、ヘレグリン/ヒト表皮成長因子受容体2(HER2/neu)オンコジーンを過剰発現する。
【0093】
MIAPACAは、ホモサピエンス膵臓癌腫である。これは低三倍体ヒト細胞株である。
【0094】
材料
エバロリムス(RAD001、Afinitor、Novartis社)は、ラパマイシン類似体である。それは、経口用哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤であり、タンパク質キナーゼのPI3K関連ファミリーに属し、セリン2448(S2448)でリン酸化によって活性化される。
【0095】
この実施例において、純粋なCBDを使用した。
【0096】
細胞生存能アッセイ
細胞生存能を、MTT [3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイによって分析した。膵臓がん細胞を96ウェルプレートの各ウェル上に播種した。CBDを用いる処置の72時間後、PBS中のMTT溶液5mg/mlを各ウェルに添加した。プレートを次いで37℃で追加の4時間の間インキュベートして、MTTが代謝活性細胞と反応することによってホルマザン結晶を形成するのを可能にした。ホルマザン結晶を1Nイソプロパノール/HClの10%溶液中にて37℃で、振盪テーブル上にて20分間可溶化した。マイクロプレートリーダーを使用して、各ウェルにおける溶液の吸光度値を570nmで測定した。細胞生存能を、式:細胞生存能(%)=(処置ウェルの吸光度-ブランク対照ウェルの吸光度)/(陰性対照ウェルの吸光度-ブランク対照ウェルの吸光度)×100%によって決定した。全てのMTT実験は3連で行い、少なくとも3回反復した。
【0097】
薬物組合せアッセイ
膵臓細胞株Miapacaに対するRad001とCBDとの間の相乗性の研究のため、この細胞を96-マルチウェルプレート中に3,8 103細胞/ウェルの密度で播種した。37℃で24時間のインキュベーション後、細胞を異なる濃度のRad001及びCBDで処置した。異なる投与順序における2種の薬物間の異なるモル比を試験した(48時間のRad001及び72時間のCBD、又は72時間のRad001及び48時間のCBD、並びに72時間の同時投与)。
【0098】
増殖性応答を比色法3-(4,5ジ-メチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)試験によって推定した。代謝的に生存可能な細胞によるホルマザンへのMTT変換を分光光度計によって570nmの光学濃度によってモニタリングした。各データポイントは、3つの別個の実験の平均を表し、各実験は4つのウェルを含有する。薬物組合せ研究は、処置後の薬物濃度と対比した無影響の(生存する)細胞の画分のプロットとして作成された濃度効果曲線に基づいた。
【0099】
相乗性に対する各薬剤の相対的な寄与を探索するため、Rad001/クロロキンの等活性用量を試験した(IC50)。Calcusynコンピュータープログラム(Biosoft社、Ferguson、MO)によって薬物相互作用を定量化して、相乗作用の判定を行った。<1、1及び>1の組合せ指数(CI)値は、それぞれ、相乗作用、相加性及び拮抗作用を示す。
【0100】
用量低減指数(DRI)は、組合せにおける各薬物の用量が、各薬物単独での用量と比較して所与の効果レベルでどのくらい低減され得るのかの尺度を表す。
【0101】
増強因子(PF)
薬物の組合せの細胞毒性効果に対するCBD及びRad001の具体的な寄与を、CBD、Rad001いずれか単独でのIC50の、組合せにおけるCBD及びRad001のIC50に対する比として定義される、両細胞株における増強因子(PF)を算出することによって分析し;より高いPFは、より大きい細胞毒性を示す。
【0102】
結果
細胞生存能アッセイ
処置の開始から72時間でのヒトPanc-1上の異なる濃度(0.04~50μM)のCBDによって誘発される成長阻害を、MTTアッセイで評価した。
【0103】
Panc-1細胞において、CBDは、
図6Aに示されている通りに、50μMの濃度で41%成長阻害に達した。
【0104】
Miapaca細胞において、50%成長阻害は、
図6Bに示されている通りに、15μMの濃度でのCBDで達せられた。
【0105】
薬物組合せアッセイ
MTTアッセイを使用して、増殖MIAPACA細胞株に対するCBDとRAD001との間の薬理学的組合せの効果を研究した。得られたデータを、相乗性を測定する専用プログラム、CalcuSyn(Chou及びTalalay、Biosoft社、Oregon、USA)で処理した。
【0106】
Rad001及びCBDの組合せは、下記のTable 2(表2)に示されている通り、薬物を組合せて72時間の間投与した場合に強い相乗性を生み出した。
【0107】
【0108】
増強因子(PF)
薬物の組合せの細胞毒性効果に対するCBD及びRad001の具体的な寄与を、CBD又はRad001のいずれか単独でのIC50の、組合せにおけるCBD及びRad001のIC50に対する比として定義されている増強因子(PF)を算出することによって分析した。より高いPFは、より大きい細胞毒性を示す。
【0109】
CBDをRad001と組み合わせて試験した場合、CBDについてのPFは8であり、Rad001について、PFは4であり、CBDがmTOR阻害剤Rad001よりも高い程度の細胞毒性を寄与することを示唆した。
【0110】
結論
この実施例に示されたデータは、腫瘍細胞の生存能を減少させることにおいてmTOR阻害剤Rad001(エバロリムス)との相乗作用で働くというCBDの能力を実証している。こうした組合せは、mTOR阻害剤が、一般的に使用される薬物療法である場合、TSCの処置において有益であり得る。