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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】超微粒超硬合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20231113BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20231113BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20231113BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20231113BHJP
【FI】
C22C29/08
B22F3/10 H
B23B27/14 B
C22C1/051 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020003496
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021110010
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302001240
【氏名又は名称】日本特殊合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真之
(72)【発明者】
【氏名】堤 友浩
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098393(JP,A)
【文献】特開2012-251242(JP,A)
【文献】特表2010-504426(JP,A)
【文献】特開2006-63416(JP,A)
【文献】特開2019-157182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
B22F 3/10
B23B 27/14
C22C 1/051
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相,チタン(Ti)酸化物,炭素(C),炭化クロム(Cr ),ならびにコバルト(Co),ニッケル(Ni)および鉄(Fe)の中から選択される少なくとも1種類を主成分とする結合相の原料粉末を混合する工程と,
上記混合粉末をプレスして所定形状の成形品を成形する工程と,
窒素ガスを0.1~10kPaの分圧に制御した加熱炉内において上記成形品を焼結する工程と,を備え,
上記硬質相を80.0wt%以上98.95wt%以下含み,
上記チタン(Ti)酸化物が焼結中に炭窒化されることによって生成されるチタン炭窒化物(Ti(C,N))を主成分とする炭窒化物相を0.5wt%以上2.0wt%以下含み,
上記結合相を0.50wt%以上10.0wt%以下含み,
焼結後の炭化タングステンの平均粒径が0.80μm以下であり,
上記炭化クロム(Cr)を,上記結合相の他に,上記結合相全体に対して0.10wt%以上20.0wt%以下含み,
硬質相と炭窒化物相と結合相と炭化クロムの合計が100wt%であり,
窒素含有量が0.10wt%以上0.25wt%以下であり,炭素含有量が5.30wt%以上5.43wt%以下である,超微粒超硬合金を製造する,
超微粒超硬合金の製造方法
【請求項2】
上記炭窒化物相を1.30wt%含む,
請求項1に記載の超微粒超硬合金の製造方法
【請求項3】
上記成形品が切断用または切削用工具である,請求項1に記載の超微粒超硬合金の製造方法
【請求項4】
上記成形品が耐摩耗用工具である,請求項1に記載の超微粒超硬合金の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は超微粒超硬合金に関する。この発明はまた,超微粒超硬合金製の切断用もしくは切削用工具,または耐摩耗用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は,鋼,鋳鋼,マンガン鋼,ステンレス鋼等の金属材料の切断用または切削用工具(たとえばマイクロドリル),スチールコード伸線用ダイス(引抜きダイス),プラグ,ノズル,成型金型等の耐摩耗用工具として広く利用されている。機械的に安定した硬質相を形成する炭化タングステン(以下「WC」と言う)粒子を主成分とする超硬合金が特に広範囲に利用されている。また,平均粒子径が1.0μm未満の微細なWC粒子を含む超硬合金(このような微細粒子を主成分とする超硬合金を,特に「超微粒超硬合金」と呼ぶ)は,平均粒子径が1.0μm以上の一般的な超硬合金と比較して硬度(硬さ)がはるかに高い。
【0003】
超硬合金の物理的性質として,硬度の他に「抗折力」(Transverse-Rupture-Strength )(TRS)が知られている。抗折力は曲げ強さ(Bending Strength)とも呼ばれ,曲げ荷重によって試料が破断する時の最大応力によって示される。抗折力の単位には一般にパスカル(Pa)が用いられる。
【0004】
超硬合金の硬度は,WC粒子同士を結合するための結合相の量が少ないほど高い値を示す。また,結合相の量が同じであればWC粒子が細かいほど高い硬度となる。他方,抗折力については結合相の量に応じて変化することが知られ,また焼結処理にHIP(熱間静水圧加圧法,Hot Isostatic Pressing)を用いることによっても上昇することが知られている。
【0005】
特許文献1は,炭化タングステン(WC),チタン炭窒化物(Ti(C,N)),炭化クロム(Cr)およびコバルト(Co)を含む,硬度および抗折力のいずれについても優れた超硬合金を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-98393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は,高い硬度を有しつつ,さらに優れた抗折力を有する超微粒超硬合金を提供することを目的とする。
【0008】
この発明はまた,優れた抗折力を有しつつ,さらに高温条件下において硬度低下の少ない超微粒超硬合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による超微粒超硬合金は,炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相を80.0wt%以上99.4wt%以下含み,チタン(Ti)酸化物を焼結中に炭窒化させたチタン炭窒化物(Ti(C,N))を主成分とする炭窒化物相を0.10wt%以上10.0wt%以下含み,コバルト(Co),ニッケル(Ni)および鉄(Fe)の中から選択される少なくとも1種類を主成分とする結合相を0.5wt%以上20.0wt%以下含み,硬質相と炭窒化物相と結合相の合計が100wt%であり,焼結後の炭化タングステンの平均粒径が1.0μm以下であり,炭化クロム(Cr)を上記結合相全体に対して0.10wt%以上20.0wt%以下含み,窒素含有量が0.10wt%以上1.25wt%以下であり,炭素含有量が4.80wt%以上6.30wt%以下であることを特徴とする。不可避不純物,すなわち超硬製品において,原料中に存在したり,製造工程において不可避的に混入したりするもので,本来は不要なものであるが,微量であり,超硬製品の特性に影響を及ぼさないため,許容されている不純物が,超微粒超硬合金に含まれる場合があるのは言うまでもない。
【0010】
この発明による超微粒超硬合金は,炭化タングステン(WC)およびチタン炭窒化物(Ti(C,N))および炭化クロム(Cr)を含むことから,炭素(C)および窒素(N)を含有する。
【0011】
チタン炭窒化物(Ti(C,N))は,炭化タングステン(WC)の粒成長を抑制して,WC粒子を超微粒(平均直径が1.0μm以下)に維持するために用いられる。チタン炭窒化物(Ti(C,N))そのものは出発原料として用いられず,出発原料としてはチタン(Ti)の酸化物が用いられる。チタン酸化物を焼結中に炭窒化させることでチタン炭窒化物(Ti(C,N))が得られる。これによってより微粒のチタン炭窒化物を,超微粒超硬合金に含有させることができ,硬度低下につながる炭化タングステン(WC)の成長を効果的に抑制することができる。
【0012】
チタン酸化物を焼結中に炭窒化させてチタン炭窒化物(Ti(C,N))を得るために,炭素(C)および窒素(N)が必要とされる。炭素の原料粉末を配合することによって必要な炭素が供給される。窒素雰囲気において焼結処理をすることによって必要な窒素が供給される。
【0013】
配合される炭素量および供給される窒素量(窒素雰囲気における窒素分圧)を制御することによって,最終的に製造される超微粒超硬合金に含まれる炭素量(炭素含有量)および窒素量(窒素含有量)を調整することができる。0.10wt%以上1.25wt%以下の窒素,および4.80wt%以上6.30wt%以下の炭素を含むこの発明による超微粒超硬合金は,HRA92.3以上の硬度を備え,かつ3.5GPa以上の抗折力を備えるものになる。
【0014】
好ましくは,超微粒超硬合金に含まれる窒素の含有量が0.10wt%以上0.35wt%以下であり,超微粒超硬合金に含まれる炭素の含有量が5.30wt%以上5.60wt%以下である。この場合,抗折力が4.0GPa以上になり,抗折力により優れた超微粒超硬合金が提供される。
【0015】
さらに好ましくは,超微粒超硬合金に含まれる窒素の含有量が0.10wt%以上0.25wt%以下である。より抗折力の大きな,一例として4.5GPa以上の抗折力を備える超微粒超硬合金を提供することができる。
【0016】
超微粒超硬合金の抗折力は超微粒超硬合金に含まれる炭素量によっても変動する。好ましくは,超微粒超硬合金の炭素含有量が5.30wt%以上5.43wt%以下である。比較的高い抗折力を超微粒超硬合金に発揮させることができる。
【0017】
超微粒超硬合金の抗折力は,上述した炭窒化物相の含有量によっても変動する。好ましくは,超微粒超硬合金は,炭窒化物相を0.5wt%以上2.0wt%以下含む。特に,超微粒超硬合金に炭窒化物相を1.30wt%程度含有させることで,抗折力を最大にすることができる。
【0018】
炭化タングステン(WC)の粒径も超微粒超硬合金の抗折力に影響をする。炭化タングステンの平均粒径を0.80μm以下とすることによって,4.0GPaを超える抗折力を超微粒超硬合金に発揮させることができる。
【0019】
好ましくは,超微粒超硬合金は,上記結合相を10.0wt%以下含む。400℃,600℃,800℃といった高温雰囲気下においても高い硬度を維持することができる。
【0020】
この発明は,上述した超微粒超硬合金から構成される切断用または切削用工具(たとえばマイクロドリル)および耐摩耗用工具(たとえばダイス,プラグ,ノズル)も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】超硬工具の製造工程の一例を示すフローチャートである。
図2】超微粒超硬合金の窒素含有量と抗折力との関係を示すグラフである。
図3】超微粒超硬合金の炭素含有量と抗折力との関係を示すグラフである。
図4】超微粒超硬合金に含まれる炭化タングステンの平均粒径と抗折力との関係を示すグラフである。
図5】超微粒超硬合金のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施例による超微粒超硬合金は,炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相(以下,「WC相」または「硬質相」という)と,酸化チタン(TiO)を焼結時に炭窒化することによって生成されるチタン炭窒化物(Ti(C,N))を主成分とする炭窒化物相(以下,「炭窒化物相」または「Ti(C,N)相」という)と,コバルト(Co),ニッケル(Ni)もしくは鉄(Fe),またはこれらの合金を主成分とする結合相とを含む,いわゆる炭化タングステン基超硬合金である。後述するように,硬質相(WC相)を形成する炭化タングステンの粒径が1.0μm以下であり,微粒であるので,特に炭化タングステン基超微粒超硬合金と呼ぶことができる。
【0023】
(1)硬質相(WC相)の含有量
超微粒超硬合金全体に対して80.0~99.4wt%のWC相が含まれている。WC相が80.0wt%未満になると相対的に結合相の割合が増え,WC相の粒成長(WC相の粒成長については後述する)の制御が困難になることがある(焼結後のWC平均粒径が1.0μmを超える可能性が生じる)。80.0wt%以上のWC相を含ませることによって,WC相の粒成長が効果的に抑制され,焼結後のWC平均粒径を1.0μm以下とする(いわゆる超微粒とする)ことができる。また,WC相が99.4wt%を超えると,相対的に結合相の割合が減ることになり,超微粒超硬合金の抗折力が低下する。WC相を99.4wt%以下とすることによって超微粒超硬合金の抗折力を確保することができる。超微粒超硬合金全体に対するWC相の割合はWC原料粉末の配合量によって調整することができる。
【0024】
(2)炭窒化物相(Ti(C,N)相)の含有量
炭窒素化物相(Ti(C,N)相)は,上述したWC相の粒成長を抑制し,WC相を超微粒に維持するために用いられる。WC相の粒成長とは,焼結時に結合相に溶解したWC相が他のWC相に析出することによって直径の大きな粒子に成長する現象である。Ti(C,N)相を添加することによってWC相の周囲にTi(C,N)が点在し,これによってWC相の析出が減少することでWC相の粒成長が抑制される。Ti(C,N)相は,WC相の粒成長を効果的に抑制するのに適する量,すなわち超微粒超硬合金中全体に対して0.10wt%以上であって,かつTi(C,N)の凝集が生じないまたは生じにくい量,すなわち10.0wt%以下に調整される。超微粒超硬合金全体に対するTi(C,N)相の割合も,以下に説明する原料粉末(酸化チタン(TiO))の配合量によって調整することができる。
【0025】
WC相の粒成長抑制剤として機能するTi(C,N)相は,原料粉末である酸化チタン(TiO)を焼結中に炭窒化させることによって生成され,これによって最終製品としての超微粒超硬合金は微細なTi(C,N)を含有するものになる。Ti(C,N)は少ない含有量でWC相の粒成長を効果的に抑制することができる。Ti(C,N)は平均粒径が5~100nmの範囲にあるのが好ましい。
【0026】
TiOを炭窒化させてTi(C,N)を得るためには炭素(C)および窒素(N)を必要とする。後述するように,炭素(C)はその原料粉末を配合することによって供給される。窒素(N)については,窒素雰囲気下で焼結処理をすることによって供給される。
【0027】
(3)結合相の含有量
結合相は,硬くかつ超微粒のWC粒子同士を結合するために用いられる。
【0028】
結合相には,コバルト(Co),ニッケル(Ni)または鉄(Fe)を用いることができ,これらを混合した合金を用いることもできる。結合相はこれらの金属元素を主成分(結合相全体に対して50.0wt%以上含む)とする金属である。
【0029】
結合相が0.50wt%未満になると超微粒超硬合金の抗折力が低下し,20.0wt%を超えると超微粒超硬合金の硬度が低下する。これらの観点から,超微粒超硬合金の結合相含有量は0.50~20.0wt%とされる。結合相によってWC粒子同士をしっかりと結合させることで,超微粒超硬合金からのWC粒子の脱落が防止され,超微粒超硬合金の強度を確保することができる。超微粒超硬合金全体に対する結合相の割合も原料粉末の配合量によって調整することができる。
【0030】
(4)炭化クロム(Cr)の含有量
炭化クロムは,WC相の粒成長抑制および炭窒化物相の成長抑制のために用いられる。また炭化クロムは,結合相の硬度および耐酸化性の向上にも寄与することが知られている。結合相全体に対して0.10wt%以上20.0wt%以下の含有量とすることで,炭化クロムを結合相に十分に溶解させることができる。
【0031】
(5)炭素含有量および窒素含有量
最終製品としての超微粒超硬合金は炭素および窒素を含む。すなわちこの発明の実施例による超微粒超硬合金は,炭化タングステン(WC)および炭化クロム(Cr)を含むことから必然的に炭素(C)を含有する。また,この発明の実施例による超微粒超硬合金はWC相の効果的な粒成長抑制のためにTi(C,N)を含有するものであり,Ti(C,N)は上述のように窒素雰囲気下でTiOを炭窒化させることで得られるので,最終製品としての超微粒超硬合金は窒素(N)も含有する。
【0032】
発明者は,最終製品としての超微粒超硬合金に含まれる炭素量および窒素量に着目し,炭素量および窒素量の含有量を調整することによって,最終製品としての超微粒超硬合金の機械的特性,特に抗折力が有意に変化することを見出した。超微粒超硬合金に含まれる炭素量は,上述のように,炭素の原料粉末の配合量を調整することによって制御することができ,窒素量は焼結処理において供給する窒素ガスの分圧を調整することによって制御することができる。また,超微粒超硬合金の抗折力は,上述したように,超微粒超硬合金を占める結合相の含有量によっても変動する。以下,炭素量および窒素量を変化させたとき,および結合相の含有量を変化させたときの超微粒超硬合金の特性について詳細に説明する。
【0033】
はじめに,超微粒超硬合金を利用した超硬工具の製造工程を概略的に説明しておく。図1は超硬工具の製造工程の一例を示すフローチャートである。ここでは,結合相としてコバルト(Co)を主成分とする金属を用いる例を説明する。
【0034】
炭化タングステン(WC)11,酸化チタン(TiO)12,コバルト(Co)13,炭化クロム(Cr)14および炭素(C)15の原料粉末を所定量ずつ円筒形容器に入れ,さらに超硬合金製の多数の小径のボールも円筒形容器に入れ,円筒形容器を回転させる。容器内において原料粉末が粉砕されかつ混合される(ステップ21)(ボールミル)。粉砕効果を高め,かつ粉末の酸化を防止するために,アセトン,アルコール,ヘキサンなどの有機溶媒も円筒形容器に入れられ,これによって円筒形容器内において原料粉末はスラリー(泥状)となる。
【0035】
粉砕混合されたスラリー状の原料粉末は,次にスプレードライヤー法,ミキサー乾燥法等によって乾燥され,これによって原料粉末から有機溶剤が取り除かれる(ステップ22)。
【0036】
有機溶剤が取り除かれた粉砕混合された原料粉末は,金型成形,ゴム型成形,押出し成形などによってプレスされ(押し固められ),所定形状に成形される(ステップ23)。
【0037】
成形品は,窒素ガスが所定分圧で制御された加熱炉内において焼結される(ステップ24)。W-Co-C(タングステン-コバルト-炭素)の三元共晶温度を超える温度で成形品を焼結することによって,炭化タングステン(WC)11を硬質相とし,かつコバルト(Co)13を結合相とする超微粒超硬合金となる。
【0038】
上述したように粉砕混合された原料粉末には炭素(C)15が配合され,かつ加熱炉は窒素雰囲気であるので,原料粉末の一つである酸化チタン(TiO)12が加熱炉内において炭窒化され,上述したようにチタン炭窒化物(Ti(C,N))が生成される。
【0039】
超微粒超硬合金にはごく微小のポア(気泡)が含まれることがある。このポアを除去するためにHIP(Hot Isostatic Pressing)(熱間静水圧加圧法)が行われる(ステップ25)。たとえば20~100MPaのガス圧のアルゴンガスが加えられ,これによってポアが除去される。
【0040】
最後に,形状加工,被覆加工等が行われることで,超微粒超硬合金を利用した超硬工具(切断用工具,切削用工具,耐摩耗用工具など)が製造される(ステップ26)。
【0041】
表1は,チタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量,炭素(C)の配合量,および焼結処理(ステップ24)において加熱炉に加えられる窒素分圧を適宜変化させることによって作製された32種類(No.1~32)のサンプルについての炭素含有量,窒素含有量,硬度および抗折力(TRS)の分析結果を示している。炭化タングステン(WC)の平均粒径(0.4μm),炭化クロム(Cr)の含有量(0.24wt%),およびコバルト(Co)の含有量(10wt%)は32種類のサンプルにおいて統一させている。
【0042】
【表1】
【0043】
各サンプルの炭素含有量は非分散型赤外線吸収法によって測定した。また,各サンプルの窒素含有量は熱伝導法によって測定した。抗折力は3点曲げ試験により測定し,硬度はロックウェル硬度計(Aスケール)を用いて測定した。表1に示す32種類のサンプルは,いずれも既存の超微粒超硬合金と同等以上の硬度および抗折力を有している(HRA92.3以上,抗折力3.5GPa以上)。
【0044】
表2は,結合相であるコバルト(Co)の含有量を適宜変化させることによって作製された別サンプル(No.33~36)についての硬度および抗折力(TRS)の測定結果を示している。表1を参照してNo.13のサンプルの抗折力が高い。表2に示すサンプルNo.33~36は,No.13のサンプルを基準にして,すなわち10wt%コバルト(Co)を基準にして,コバルト(Co)の含有量を増減させたものである。コバルト(Co)の含有量の増減に伴って炭化タングステン,チタン炭窒化物および炭化クロムの含有量も調整している。
【0045】
【表2】
【0046】
はじめに表2を参照して,結合相であるコバルト(Co)の含有量を増減させると,超微粒超硬合金の硬度および抗折力に変化が生じている。表2において,硬度の変化に比べて抗折力の変化は小さいことが分かる。すなわち,以下に詳細に説明するように超微粒超硬合金に含有させる炭素量および窒素量を適切に制御することによって,結合相(Co)の含有量に細かい配慮を払わずとも,超微粒超硬合金の抗折力を維持し,従来の超微粒超硬合金よりも硬度を高めることができる。
【0047】
まず,超微粒超硬合金に従来と同等の硬度および抗折力を発揮させる場合に含ませるべき窒素量について検討する。
【0048】
窒素は,超微粒超硬合金を構成する複数の組成物のうち,チタン炭窒化物(Ti(C,N))に含まれる。したがって超微粒超硬合金に含まれる窒素量は,超微微粒超硬合金に含まれるTi(C,N)の量におおよそ比例すると考えることができる。上述したように,Ti(C,N)は,WC相の粒成長を効果的に抑制しかつTi(C,N)の凝集を生じさせないようにするために0.10wt%以上10.0wt%以下に調整される。
【0049】
表1を参照して真空焼結したサンプル(サンプルNo.1~4)においても0.1wt%程度の窒素が含まれている。また,たとえばサンプルNo.29はTi(C,N)が1.30wt%のときに窒素含有量が0.25wt%であるから,Ti(C,N)が10.0wt%であれば窒素含有量は1.25wt%程度になると推測することができる。すなわち,超微粒超硬合金が0.10wt%以上10.0wt%以下のチタン炭窒化物(Ti(C,N))を含む場合,その超微粒超硬合金は0.10wt%以上1.25wt%以下の窒素を含有する。
【0050】
次に,超微粒超硬合金に従来と同等の硬度および抗折力を発揮させる場合に含ませるべき炭素量について検討する。
【0051】
炭素(C)については,超微粒超硬合金に含まれる炭化タングステン(WC),チタン炭窒化物(Ti(C,N))および炭化クロム(Cr)の3種類の組成物に含まれている。超微粒超硬合金に含有される炭素量は,上述した炭化タングステン(WC)11,酸化チタン(TiO)12,炭化クロム(Cr)14および炭素(C)15の原料粉末の添加量によって調整される。
【0052】
超微粒超硬合金に含まれるコバルト(Co)の含有量(0.50wt%~20wt%)が変動することによって,炭化タングステン(WC)の含有量が変動し,その結果として超微粒超硬合金に含まれる炭素量も変動する。表1を参照して,コバルト(Co)の含有量が10wt%であるとき,超微粒超硬合金に含まれる炭素量の最小値は5.21wt%(サンプルNo.29),最大値は5.60wt%(サンプルNo.4)であった。コバルト(Co)が0.50wt%であれば,超微粒超硬合金を占める炭化タングステン(WC)の含有量は相対的に増え,その結果として超微粒超硬合金に含まれる炭素量は6.30wt%程度に増えると考えられる。コバルト(Co)が20wt%であれば,超微粒超硬合金を占める炭化タングステン(WC)の含有量は相対的に減り,その結果として超微粒超硬合金に含まれる炭素量は4.80wt%程度になると考えられる。
【0053】
図2は,表1に示す32種類の超微粒超硬合金サンプルのうち,特に,1.30wt%のチタン炭窒化物(Ti(C,N))を含む超微粒超硬合金サンプル(No.1~8,13~16,21~24,29~32)それぞれについての抗折力(TRS)(縦軸)と窒素含有量(横軸)の関係を示すグラフである。チタン炭窒化物(Ti(C,N))が1.30wt%である超微粒超硬合金に着目するのは,No.1~32のサンプルのうち,最も高い抗折力を示したのがNo.6およびNo.13であり,これらのサンプルはいずれもチタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量が1.30wt%であったからである。
【0054】
図2のグラフには,白丸,灰色丸および黒丸の3種類の丸印が示されている。白丸は焼結処理(図1のステップ24)において真空焼結したもの(窒素分圧が0kPa)を(No.1~4),灰色丸は焼結処理において0.1~10kPaの窒素分圧の窒素ガスを焼結炉に充填させたものを(No.5~8,13~16,21~24),黒丸は焼結処理において10.1kPa以上の窒素分圧の窒素ガスを焼結炉に充填させたものを(No.29~32),それぞれ区別するものである。
【0055】
図2のグラフから,焼結時の窒素分圧を0.1~10kPa(灰色丸)に制御することによって,真空焼結するよりも(白丸),かつ10.1kPa以上の窒素分圧にするよりも(黒丸),超微粒超硬合金の抗折力が平均的に明らかに向上することが分かる。表1を参照して,32種類のサンプル中,抗折力のピーク値は4.7GPaであり(No.6およびNo.13),かなり高い数値を示し,このときの窒素分圧は0.1kPa~5.0kPaであった。
【0056】
また,0.1~10kPaの窒素分圧の雰囲気で作製された超微粒超硬合金の窒素含有量は0.10~0.35wt%であった(表1のNo.5~28を参照)。窒素量が0.10~0.35wt%の範囲であれば,比較的高い抗折力を超微粒超硬合金に発揮させることができる。
【0057】
さらに図2のグラフの灰色丸に着目すると,超微粒超硬合金の窒素含有量が多いと,抗折力が増大する傾向があることも分かる。上述したように,抗折力がピーク値(4.7GPa)を示した超微粒超硬合金の窒素含有量は0.16wt%(No.6)および0.21wt%(No.13)であることから,特には0.10~0.25wt%の範囲に,抗折力を増大させる窒素含有量の適正範囲が存在すると考えられる。
【0058】
図3は,窒素含有量に代えて炭素含有量を横軸に示すグラフであり,縦軸は図2と同様に抗折力を示している。図2のグラフと同様に,1.30wt%のチタン炭窒化物(Ti(C,N))含む超微粒超硬合金(No.1~8,13~16,21~24,29~32 )のサンプルのそれぞれについての抗折力(縦軸)と超微粒超硬合金に含まれる炭素量(横軸)との関係が,白丸(真空焼結),灰色丸(0.1~10kPaの窒素分圧),黒丸(10.1kPa以上の窒素分圧)によって区別されて示されている。
【0059】
図3のグラフからも,焼結時の窒素分圧を0.1~10kPa(灰色丸)に制御することによって抗折力が向上することが分かる。窒素分圧を0.1~10kPaに制御することで作られた超微粒超硬合金の炭素含有量は5.31~5.54wt%であった(表1参照)。炭素含有量が5.30~5.60wt%の範囲にあれば比較的高い抗折力を超微粒超硬合金に発揮させることができる。
【0060】
図3のグラフの灰色丸に着目すると,超微粒超硬合金の炭素含有量が少ないと,抗折力が増大する傾向があることが確認される。抗折力がピーク値(4.7GPa)を示した超微粒超硬合金の炭素含有量は5.38wt%(No.6)および5.33wt%(No.13)であることから,特には5.30wt%~5.43wt%の範囲に,抗折力を増大させる炭素含有量の適正範囲が存在すると考えられる。
【0061】
図5に,4.7GPaの抗折力が測定されたサンプルNo.13の超微粒超硬合金のSEM(Scanning Electron Microscope)写真を示しておく。
【0062】
表1において超微粒超硬合金の硬度(HRA)に着目すると,HRA92を下回るサンプルはなく,超微粒超硬合金の窒素含有量および炭素含有量に関わらず,比較的高い硬度を維持することができている。摩耗量の少ない工具となる超微粒超硬合金を得ることができている。
【0063】
さらに,上述したように,抗折力のピーク値(4.7GPa)はチタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量が1.30wt%であるときに得られている。チタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量を1.70wt%としたサンプル(No.9,10,17,18,25,26)および2.00wt%としたサンプル(No.11,12,19,20,27,28)については,チタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量を1.30wt%としたサンプルよりもわずかに抗折力が劣ることも表1から確認される。チタン炭窒化物(Ti(C,N))の含有量は1.30wt%付近(0.5wt%以上2.0wt%以下)とすることが適当であることも,表1において確認することができる。
【0064】
図4は,表1に示す分析結果において抗折力のピーク値が得られたNo.13のサンプルを基準にして,炭化タングステン(WC)の平均粒径を種々に変化させて作製した8つの超微粒超硬合金サンプルについて,WC粒径と抗折力との関係を示すグラフである。このグラフには,8つのサンプルのそれぞれについて計測されたWC平均粒径(横軸)と抗折力(縦軸)との関係が8つの白丸によってプロットされている。炭化タングステン(WC)の平均粒径はインターセプト法を用いて測定した。また,WC平均粒径は,WC粒径の異なる原料粉末を選択することによって調整した。
【0065】
WC平均粒径が1.0μm程度であるサンプルと0.40μm程度であるサンプルとでは,抗折力に大きな差が生じている。比較的高い抗折力,特に4.0GPaを超え,4.5GPa程度の高い抗折力を超微粒超硬合金に発揮させるには,WC平均粒径は0.80μm以下とすることが適当である。
【0066】
表3は,表1において抗折力のピーク値が得られたNo.13の超微粒超硬合金のサンプル(コバルト含有量が10.0wt%のもの)について,400℃,600℃および800℃のそれぞれの高温雰囲気において測定したビッカース硬度(単位はHv)と,コバルト含有量を8.0wt%にして作製した別サンプル(サンプルNo.35)について,同様に400℃,600℃および800℃のそれぞれの高温雰囲気において測定したビッカース硬度とを示している。各温度におけるビッカース硬度は高温顕微硬度計を用いて測定したものである。参考までにWC(2.0μm)-10wt%Coの組成を持つ従来の超硬合金についてのビッカース硬度も表3には示されている。
【0067】
【表3】
【0068】
結合相であるコバルト(Co)の含有量が10.0wt%でも(サンプルNo.13),8.0wt%でも(サンプルNo.35),400℃~800℃の温度範囲において500Hv以上のビッカース硬度を超微粒超硬合金に発揮させることができている。もっとも,コバルト含有量が増えるほど高温雰囲気における超微粒超硬合金の硬度は低くなる傾向がある。超微粒超硬合金がたとえば高温に晒される切削用工具として用いられる場合には,コバルト含有量は10.0wt%程度を上限とするのが適当と考えられる。高温雰囲気における硬度に優れた超微粒超硬合金を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5