(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20231113BHJP
B43K 5/18 20060101ALI20231113BHJP
B43K 5/02 20060101ALI20231113BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/18 100
B43K5/02
B43K8/02 130
(21)【出願番号】P 2020020178
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019075957
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173890(JP,A)
【文献】特開2012-240403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B43K 5/18
B43K 5/02
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インキ組成物を収容した、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキカートリッジであって、
前記インキ組成物は、水と、着色剤と、下記式(1)の構造を有するアセチレングリコール系界面活性剤を含有し、
前記アセチレングリコール系界面活性剤はHLB値が13超17以下であり、
前記アセチレングリコール系界面活性剤の含有率が水性インキ組成物全質量を基準として0.01質量%以上1.0質量%以下であり、
ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対する接触角が40~100°であり、転落角が10~65°であり、かつ、ポリメチルペンテン樹脂に対する接触角が42~90°であり、転落角が10~45°である、筆記具用インキカートリッジ。
【化1】
式中、R1~R4は炭化水素基を示し、R5はエチレン基を示す。m、pは0以上の整数である。
【請求項2】
請求項1に記載のインキカートリッジと、ペン先と、前記インキカートリッジからペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備えてなる筆記具。
【請求項3】
多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前記インキカートリッジから前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を前記インキ供給機構として備える直液式筆記具である、請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
筆ペンである、請求項2または3に記載の筆記具。
【請求項5】
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備える筆記具に内蔵される水性インキ組成物であって、
水と、着色剤と、下記式(1)の構造を有する、HLB値が8以上13以下であるアセチレングリコール系界面活性剤およびHLB値が13超17以下であるアセチレングリコール系界面活性剤とを含有し、
前記HLB値が8以上13以下であるアセチレングリコール系界面活性剤の含有率が、水性インキ組成物全質量を基準として0.01~0.05質量%であり、
前記HLB値が13超17以下であるアセチレングリコール系界面活性剤の含有率が、水性インキ組成物全質量を基準として0.01~0.1質量%であり、
ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対する接触角が40~100°であり、転落角が10~65°であり、かつ、ポリメチルペンテン樹脂に対する接触角が42~90°であり、転落角が10~45°である、筆記具用水性インキ組成物。
【化1】
式中、R1~R4は炭化水素基を示し、R5はエチレン基を示す。m、pは0以上の整数である。
【請求項6】
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備え、前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けられた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなり、前記インキ貯蔵部に、請求項5に記載の水性インキ組成物が収容されてなる筆記具。
【請求項7】
請求項5に記載の水性インキ組成物を充填した、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなる筆記具用インキカートリッジ。
【請求項8】
請求項7に記載のインキカートリッジと、ペン先と、前記インキカートリッジからペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備えてなる筆記具。
【請求項9】
多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前記インキ貯蔵部から前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を前記インキ供給機構として備える直液式筆記具である、請求項6または8に記載の筆記具。
【請求項10】
筆ペンである、請求項9に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物に関するものである。さらに詳しくは、インキ移動性に優れる水性インキ組成物およびこれらを用いた直液式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインキを内蔵した筆記具が知られ、インキ貯蔵部の他、多くの部品が合成樹脂で構成されている。しかしながら、合成樹脂は水のような表面張力の高い液体では濡れにくいため、用いられるインキには、インキの表面張力を下げ、これらの構成品に対して濡れ性が高まるような添加剤が含まれている。(特許文献1参照)
【0003】
特許文献1には、サイクロデキストリンを含む水性インキ組成物が記載されている。このインキは、ポリオレフィン樹脂へのインキの濡れ性を高め、インキ貯蔵部に収容されたインキの移動(インキ移動性)が円滑に行われるようにしたものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1のインキ組成物は、インキ貯蔵部に収容されたインキ組成物の移動性が未だ十分ではなく、インキ貯蔵部の向きに応じてインキの向きが変化した際にインキ組成物が円滑に移動せず、ペン先へのインキ供給が不十分になり、インキ吐出性が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリオレフィン樹脂からなるインキ貯蔵部を備える筆記具に収容した場合に、前記インキ貯蔵部を円滑に移動でき、筆記時に良好なインキ吐出性を奏して発色性に優れた筆跡を形成可能な筆記具用水性インキ組成物とそれを用いた筆記具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、
「1. ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部を備える筆記具に内蔵される水性インキ組成物であって、水と、着色剤と、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤とを少なくとも含み、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対する接触角が40~100°であり、転落角が10~65°であり、かつ、ポリメチルペンテン樹脂に対する接触角が42~90°であり、転落角が10~45°である、筆記具用水性インキ組成物。
2. ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備え、前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けられた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなり、前記インキ収容室に、請求項1に記載の水性インキ組成物が収容されてなる筆記具。
3.ペン先と、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前記インキ貯蔵部から前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備える直液式筆記具である、第2項に記載の筆記具。
4.筆ペンである、第2項または第3項に記載の筆記具。
5.第1項に記載の水性インキ組成物を充填した、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなる筆記具用インキカートリッジ。
6.第5項に記載のインキカートリッジと、ペン先と、前記インキカートリッジからペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備えてなる筆記具。
7.多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前記インキカートリッジから前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備える直液式筆記具である、第6項に記載の筆記具。
8.筆ペンである、第6項または第7項に記載の筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0008】
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部を備える筆記具に収容した場合に、保管時におけるペン先からのインキ漏れを抑制可能としながらも、前記インキ貯蔵部を円滑に移動でき、筆記時に良好なインキ吐出性を奏して発色性に優れた筆跡を形成可能な筆記具用水性インキ組成物と、それを収容した筆記具およびインキカートリッジが提供される。
さらに、前記インキ組成物は紙面浸透性にも優れるため、前記筆跡は優れた速乾性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の筆ペンの一実施例を示す説明図である。
【
図2】本発明の筆ペンの他の実施例を示す説明図である。
【
図3】本発明の筆ペン用インキカートリッジの一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、水と、着色剤と、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による筆記用水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤は、従来知られている顔料、染料から任意に選択することができ、好ましく用いることができる。顔料としては、アゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料などが挙げられる。
また、該顔料を溶媒に分散させ、顔料分散体としたものを用いることも可能である。本発明に用いられる顔料分散体としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)、SANDYESUPERCOLOURシリーズ(山陽色素株式会社製)、EMACOLシリーズ(山陽色素株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)MICROPIGMOシリーズ(オリヱント化学工業株式会社製)、WAシリーズ(大日精化工業株式会社製)などが挙げられる。
なお、前記顔料は、顔料表面が酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、および酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、二酸化ケイ素などの無機酸化物、および脂肪酸などで被覆処理されたものであってもよい。
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。
本発明の組成物は、上記の着色剤の中でも染料を用いることが好ましい。これは、顔料は沈降することによって、インキの吐出性や筆跡の発色性に影響がでやすいためである。
【0013】
本発明における着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.1~20質量%とすることが好ましく、1~10質量%とすることがより好ましい。着色剤の含有量を上記範囲内とした場合、良好な発色性を有する筆跡を形成することが可能となる。
【0014】
(界面活性剤)
本発明の水性インキ組成物には、界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤が必須である。本発明の組成物が前記界面活性剤を含むことによって、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部に対する組成物の濡れ性や滑り性が向上してインキ組成物が前記インキ貯蔵部を円滑に移動できるようになる。このため、インキ貯蔵部の向きに応じてインキの向きが変化した場合でも、インキ組成物がインキ貯蔵部内を速やかに移動し、ペン先からのインキ吐出性が良好となる。
【0015】
さらに筆記具が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前前記インキ貯蔵部から前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備える直液式筆記具である場合、前記界面活性剤によってインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するインキ誘導芯に対してインキ組成物の濡れ性が良好となるため、インキ吐出性をより良好とすることが可能となる。また、理由は定かではないが、本発明のインキ組成物を用いた筆記具は、インキ吐出性が良好でありながらも保管時におけるペン先からのインキ漏れが抑制された筆記具となる。
なお、前記滑り性とは固体表面における液体の流れ易さを意味し、本発明においてはインキ貯蔵部表面上でのインキ組成物の流れ易さを意味している。
【0016】
さらに前記アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤は、インキ組成物の紙面浸透性を向上させることができる。このため、本発明のインキ組成物を用いた筆記具は、速乾性に優れた筆跡を形成することができる。
このほか、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤は、消泡性が優れるため、これを用いた本発明のインキ組成物は泡が消失しやすく、インキカートリッジ内のインキ組成物の視認性が良好になるという特徴を有する。
【0017】
(アセチレングリコール系界面活性剤)
本発明におけるアセチレングリコール系界面活性剤は、下記一般式(1)の構造を有する。
【化1】
ここで、R
1~R
4は炭化水素基を示し、R
5はエチレン基を示す。
m、pは0以上の整数である。
【0018】
本発明に用いられるアセチレングリコール系界面活性剤は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびポリメチルペンテン樹脂に対する濡れ性や滑り性、およびインキ組成物への溶解安定性を考慮すると、(化1)におけるm+pが、0≦m+p≦30であることが好ましく、0≦m+p≦20であることがより好ましい。また、アセチレングリコール系界面活性剤のHLB値は、4~18の値を有することが好ましく、8~17の値を有することがより好ましく、12~16の値を有することが特に好ましい。
ここで、本実施形態において用いられる界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記一般式(2)によって算出される値をいう。グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲内の値を示し、数値が大きい程、化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)・・・(2)
【0019】
具体的なアセチレングリコール系界面活性剤としては、オルフィンD-10A、オルフィンD-10PG、オルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンE1030W、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-003、オルフィンPD-004、オルフィンPD-201、オルフィンPD-301、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300、サーフィノール82、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノール2502、ダイノール604、ダイノール607、以上日信化学工業株式会社製、アセチレノールE13T、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100、アセチレノール85、以上川研ファインケミカル株式会社製、を挙げることが可能であり、1種または2種以上を好ましく用いることができる。上記の界面活性剤の中では、濡れ性、滑り性の向上効果、および消泡効果を考慮するとオルフィンE1010またはオルフィンPD-002Wが特に好ましい。
【0020】
(アセチレンアルコール系界面活性剤)
本発明におけるアセチレンアルコール系界面活性剤は、下記一般式(2)の構造を有する。
【化2】
ここで、R
6、R
7は炭化水素基を示す。
【0021】
アセチレンアルコール系界面活性剤は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂およびポリメチルペンテン樹脂に対する濡れ性や滑り性、およびインキ組成物への溶解安定性を考慮すると、HLB値が、4~10の値を有することが好ましく、5~9の値を有することがより好ましく、6~8の値を有することが特に好ましい。
前記HLB値は、前記グリフィン法により求められる数値である。
アセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、サーフィノール61、オルフィンB、(以上日信化学工業株式会社製)、が挙げられ、1種または2種以上を好ましく用いることができる。
【0022】
本発明の水性インキ組成物における、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.005~1.5質量%とすることが好ましく、0.01~1.0質量%とすることがより好ましく、0.05~0.75質量%とすることが特に好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤の含有量を上記数値範囲内とすると、インキ貯蔵部におけるインキ組成物の移動性がより向上し、筆記の際にペン先からのインキ吐出性がさらに良好となるとともに、保管時にペン先からのインキ漏れを抑制することが容易となる。
さらに、含有量が上記数値範囲内においては、筆跡の速乾性、耐滲み性および耐裏移り性に優れたインキ組成物とすることも可能となる。
なお、アセチレングリコール系界面活性剤とアセチレンアルコール系界面活性剤とは併用しても良い。
前記界面活性剤を併用する場合は、その含有量を、前記数値範囲内とすることが好ましい。
【0023】
(消泡剤)
インキ組成物には、消泡剤を含有させることができる。
筆記具はインキが吐出される過程で発生した泡の影響により、、筆跡の鮮明性が損なわれることがある。
特に、筆ペンは泡の影響を受けやすい。例えば、筆ペンはペン先の柔軟性が高く、筆記時にペン先を紙面に押し当ててペン先が変形したときにペン先と紙面との間に空気を含みやすいため、ペン先で泡が立ちやすく、泡によって筆記時に筆跡ムラが生じたり、筆跡に泡が付着することで筆跡の鮮明性が損なわれることが多い。さらに、インキ貯蔵部が押圧変形および復元可能なインキカートリッジであり、前記インキカートリッジを押圧変形させることでインキをインキカートリッジから導出することが可能な筆ペンの場合、ペン先を紙面に押し当てたときに加えて、インキカートリッジを押圧変形してペン先にインキを導出したときにインキに空気が混入して泡立ちが生じやすい。しかしながら、インキ組成物は消泡剤によって泡立ちが抑えられるため、筆ペンであっても泡による筆記性の低下を抑制することができる。
【0024】
インキ組成物に適用できる消泡剤としては、シリコーン系、シリカ系、アルキット系、ポリエーテル系、オイル系、金属石鹸系、アマイドワックス系等を挙げることができる。中でも、シリコーン系消泡剤は破泡効果および抑泡効果に優れるため、好ましく用いることができる。消泡剤は複数種を併用しても良い。
【0025】
消泡剤の含有量は、消泡剤の消泡効果とインキ組成物の経時安定性を考慮して、インキ組成物全質量に対し0.005~0.3質量%であることが好ましく、0.01~0.1質量%であることがより好ましい。
【0026】
(金属イオン封鎖剤)
インキ組成物は、金属イオン封鎖剤を含有することができる。
金属イオン封鎖剤は、インキ組成物に金属イオンが混入した際、組成物の成分と金属イオンとが結合して水不溶性の析出物が生成し、筆記性が低下することを抑制できる。
【0027】
筆ペンは、ペン先がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンまたはアラビアガム等の水溶性物質で糊付けされて一般に供される。中でも、アラビアガムは水溶性のカルシウム塩を含んでおり、水中で前記カルシウム塩からカルシウムイオンが電離するため、ペン先がアラビアガムで糊付けされた筆ペンは、水性インキ組成物が、多価金属イオンと結合して水不溶性の物質を形成する物質、例えば、アシッドレッド87等の酸性染料を含有する場合、ペン先にインキ組成物が導出されたときにペン先で水不溶性のカルシウム塩からなる析出物が生成し、ペン先や筆跡の美観を損ねることがある。
しかしながら、インキ組成物に金属イオン封鎖剤を含有させると、カルシウムイオンがマスキングされて析出物の生成が抑制されるため、ペン先がアラビアガムで糊付けされた筆ペンであっても析出物によってペン先や筆跡の美観が損なわれることが抑えられる。
【0028】
インキ組成物に用いることができる金属イオン封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、L-アスパラギン酸(ASDA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸(HIDA)等や、それらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の塩などを例示できる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。その中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩は、金属封鎖能に優れるため好ましく用いられる。
【0029】
金属イオン封鎖剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1~2質量%であることが好ましく、0.2~1質量%であることがより好ましい。
含有量が前記範囲内であると、インキ組成物の良好な経時安定性を維持しながら、優れたキレート効果が奏されやすい。
【0030】
本発明の組成物には上記着色剤や界面活性剤のほか、少なくとも水が含まれるが、その含有量はインキ組成物全量に対して50~95質量%とすることが好ましく、70~90質量%とすることがより好ましい。
【0031】
(その他)
本発明のインキ組成物は、インキ組成物の接触角や転落角が前記数値範囲を超えない限りで、必要に応じて上記以外の物質を添加することも可能である。具体的には、防腐剤、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、およびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂などの定着剤、pH調整剤、剪断減粘性付与剤、粘度調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの防錆剤、尿素、アニオン、カチオン系、ノニオン系、両性等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からなる顔料分散剤、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、2-ピロリドンなどの水溶性有機溶剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、およびピロリン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0032】
(インキ組成物)
本発明のインキ組成物は、インキ貯蔵部に対する濡れ性や滑り性を考慮して、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂に対する接触角や転落角を所定の数値範囲内とすることが重要である。ここで接触角とは、静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で液面と固体面とのなす角であって、液体の固体に対する濡れやすさの指標となる数値であり、転落角とは、表面に液体を着滴させた固体を地面に対して傾けた際に液体が固体表面上を滑り始めたときの、固体の地面に対する角度であって、固体表面における液体の滑りやすさの指標となる数値である。
【0033】
本発明のインキ組成物における具体的な接触角および転落角は、前記ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対し、接触角を40~100°とし、転落角を10~65°とすること、かつ、ポリメチルペンテン樹脂に対する接触角を42~90°とし、転落角を10~45°とすることが挙げられる。接触角を上記数値範囲内としたインキ組成物は濡れ性が良好であり、また、転落角を前記数値範囲内としたインキ組成物は滑り性が良好となるため、このようなインキ組成物を後述する筆記具に収容すると、インキ組成物がインキ貯蔵部を円滑に移動することが可能となり、ペン先からのインキ吐出性が良好となる。
【0034】
インキ貯蔵部に対するインキ組成物の濡れ性および滑り性を良好とすることをさらに考慮すれば、前記接触角のより好ましい数値範囲は、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対しては45~90°とすることであり、ポリメチルペンテン樹脂に対しては42~85°であり、特に好ましい接触角は、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対しては50~85°であり、ポリメチルペンテン樹脂に対しては42~80°である。
また、前記転落角の好ましい数値範囲はポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対しては15~55°とすることであり、ポリメチルペンテン樹脂に対しては15~40°であり、より好ましい数値範囲はポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂に対しては20~50°であり、ポリメチルペンテン樹脂に対しては25~35°である。
本発明における組成物の接触角および転落角の測定は、接触角計(CA-A型、協和界面科学株式会社製)用いて行う。
なお、接触角の測定操作については、前記接触角計の取扱説明書に記載の液摘法測定操作に基づいて行い、転落角の測定操作については、前記取扱説明書記載の転落法測定操作に基づいて行う。
【0035】
本発明のインキ組成物の表面張力は25~60mN/mとすることが好ましく、30~60mN/mとすることがより好ましく、40~50mN/mとすることが特に好ましい。
このような表面張力を有するインキ組成物を前記ペン芯を備える筆記具に用いた場合、ペン芯に対するインキ組成物の濡れ性が良好となるため、ペン先からのインキ吐出性をより良好とすることが可能になるだけでなく、筆記した際に筆跡の滲みや裏抜けが抑制された良好な筆跡を形成することが可能である。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0036】
本発明のインキ組成物の粘度は、50rpmにおいて1~10mPa・sとすることが好ましい。より好ましい数値範囲は1~5mPa・sであり、1~2mPa・sとすることが特に好ましい。インキ組成物の粘度を上記数値範囲内とすると、インキカートリッジにおけるインキ組成物の移動がより円滑になり、ペン先からのインキ吐出性がより良好となって発色性に優れた筆跡を形成しやすくなる。なお、組成物の粘度の測定は、20℃において、EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、東機産業株式会社製)を用いて行うことができる。
【0037】
本発明の組成物は、インキ組成物の安定性を考慮して、そのpH値は6~11とすることが好ましく、8~10とすることがより好ましい。
【0038】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0039】
(筆記具)
前記インキ組成物は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなるインキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構を備える筆記具に収容される。前記筆記具は(1)前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けられた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなる構造、または(2)着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備えてなる構造を有するものである。
前記(1)におけるより具体的な構造としては、一例として、有底筒体よりなる軸筒の前部にペン先とインキ供給機構が装着され、前記インキ供給機構の後方の軸筒内にインキ収容室が形成されてなる構造が挙げられる。
また、前記(2)におけるより具体的な構造としては、一例として、ペン先とインキ供給機構を装着した前軸筒とインキカートリッジからなる後軸筒とを離合可能に接続してなる構造、およびペン先とインキ供給機構を装着した前軸筒とインキカートリッジとを離合可能に接続後、インキカートリッジを後軸筒で被覆してなる構造が挙げられる。
前記構造を備える筆記具としては、筆ペン、マーキングペン、ボールペンおよび万年筆等を挙げることができる。
【0040】
インキ貯蔵部は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリメチルペンテン樹脂からなる。
前記樹脂は、インキ組成物による濡れ性、滑り性が優れるため、インキ貯蔵部におけるインキ移動性を良好とすることができる。
【0041】
インキ貯蔵部は、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
インキ貯蔵部がインキを直に充填する構成のものである場合、インキ貯蔵部内におけるインキの移動性は、インキ貯蔵部の構成部品に対するインキの濡れ性や滑りやすさが重要となるが、本発明のインキ組成物は、前記構成部品に対する濡れ性や滑りやすさが良好なため、前記構成のインキ貯蔵部を備える筆記具に好ましく用いることができる
また、筆記具がインキ組成物を直に充填する構成のものであり、さらに着色剤に顔料を用いている場合は、顔料を再分散させるために、インキ収容体にはインキを攪拌する攪拌ボールなどの攪拌体を内蔵することが好ましい。前記攪拌体の形状としては、球状体、棒状体などが挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、硝子などを挙げることができる。
また、筆記具がインキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
【0042】
前記インキ供給機構を介してペン先と接合されてなるインキ貯蔵部としては、前記インキ収容室にインキ組成物を収容可能な構造を有していれば、構造に制限はない。
【0043】
また、インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。これらのカートリッジは、筆記具接続前にあらかじめインキを充填されたものであっても良く、インキ未充填の状態で筆記具に接続した後、ペン先からインキを吸入してインキを充填する操作を要するもの、いわゆるコンバーターと呼ばれるものであっても良い。
【0044】
また、インキカートリッジの構造としては、長手方向に対して直交する直交断面が円形状を有する有底筒状体であって、長手方向に40~160mmの長さと、2~15mmの直径とを内寸として有する構造が挙げられる。前記有底筒状体としては、長手方向に45~150mmの長さと、2.5~12mmの直径とを内寸として有するものがより好ましい。前記インキカートリッジは、押圧変形及び復元可能であっても良い。
なお、筒状体とは中空の細長い棒状体を指すが、本発明に用いられるインキカートリッジは、内寸が上記数値範囲内であれば、筒状体の外面や内面がテーパー状に傾斜していても良く、また、段差を有していても良く、その他の構造に制限はない。
【0045】
ペン先としては、チップ構造を備えるものであって、チップのうち、マーキングペンチップとしては、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等が適用でき、ボールペンチップとしては、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、前記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等が適用できる。尚、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等が適用でき、直径0.15mm~2.0mmの範囲のものが好適に用いられる。
【0046】
また、万年筆形態のチップ(ペン体)としては、ステンレス板、金合金板等の金属板を先細テーパー状に裁断し、屈曲又は湾曲したものや、ペン先形状に樹脂成形したもの等が適用できる。尚、前記ペン体には中心にスリットを設けたり、先端に玉部を設けることもできる。
【0047】
さらに、ペン先としては、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた、毛筆等の繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着乃至樹脂加工体、または軟質性樹脂乃至エラストマーの押出成形加工体からなる筆ペン形態のチップを用いることができる。前記チップは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンまたはアラビアガム等の水溶性物質で糊付けされたものであっても良い。
【0048】
ペン先として筆ペン形態のチップを用いた筆記具、即ち筆ペンは、ペン先に潤沢なインキを含むことができる。このような筆記具で筆記すると、紙面に多量のインキが塗布されて鮮明な筆跡が形成する反面、その筆跡は乾燥性が劣る傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物は紙面浸透性にも優れるため、多量のインキ組成物が塗布された場合でも筆跡の乾燥性は良好である。このため、本発明のインキ組成物は、筆ペンに好ましく用いることができる。
【0049】
筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(2)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、前記インキ誘導溝を通じてペン先へインキ組成物を供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構(4)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(5)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構、および(6)インキ組成物を含侵可能な、連続気孔を有する多孔体を介してペン先へインキ組成物を供給する機構などを挙げることができる。
【0050】
(3)のインキ供給機構を備える筆記具は、本発明のインキ組成物によって、筆記時のペン先からのインキ吐出性、および保管時のペン先からのインキ漏出抑制性も良好となるので、前記機構は、筆記具のインキ供給機構として好ましい形態である。
【0051】
前記インキ供給機構の材質としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂等が挙げられ、いずれを用いることもできる。前記の中では、ペン先へのインキ供給をより良好とする事を考慮すると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂またはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂が好適であり、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびポリメチルペンテン樹脂が特に好ましい。
前記樹脂からなるインキ供給機構を備える筆記具は、ペン先からのインキ吐出性がより良好となり、鮮明かつ乾燥性に優れる筆跡を形成することが容易となる。
【0052】
以下に本発明の水性インキ組成物、それを用いた筆記具の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用水性インキ組成物を得た。得られた水性インキ組成物の接触角、転落角を接触角計(商品名:CA-A、協和界面科学株式会社製)を用いて測定したところ、接触角は、ポリエチレンに対して58°であり、ポリメチルペンテンに対しては68°であり、転落角は、ポリエチレンに対しては39°であり、ポリメチルペンテンに対しては23°であった。
また、EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、東機産業株式会社製)を用いてインキ組成物の粘度を測定したところ、20℃(回転速度50rpm)における粘度は1.2mPa・sであった。
さらに、pHメーター(商品名:pHメーターD-51、株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃にて水性インキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は9.6であった。
また、得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、垂直平板法、商品名:表面張力計DY-300、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、39.3mN/mであった。
・着色剤ウォーターブラック191-L 10質量%
(染料:オリヱント化学工業株式会社製)
・アセチレングリコール系界面活性剤 0.1質量%
(商品名:オルフィンE1010、HLB値:13.3、日信化学工業株式会社製)
・トリエタノールアミン 0.3質量%
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.3質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・イオン交換水 89.3質量%
【0054】
(実施例2~20、比較例1~10)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1~3に示したとおりに変更して、実施例2~20、比較例1~10のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・着色剤(1)ウォーターブラック191-L(染料水溶液、染料含有率15質量%、オリヱント化学工業株式会社製)
・着色剤(2)フロキシン(染料、保土谷化学工業株式会社製)
・着色剤(3)ブリリアントブルーFCF(染料、保土谷化学工業株式会社製)
・着色材(4)ウォーターイエロー6C(染料:アシッドイエロー42S、オリヱント化学工業株式会社)
・着色材(5)エオシン(染料;アシッドレッド87、ダイワ化成株式会社)
・界面活性剤(1)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンE1010、HLB値13.3、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(2)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンPD-002W、HLB値9~10、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(3)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:サーフィノール485、HLB値17、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(4)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンE1020、HLB値15~16、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(5)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンEXP.4300、HLB値10~13、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(6)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:アセチレノールE60、HLB値11~12、川研ファインケミカル株式会社製)
・界面活性剤(7)アセチレンアルコール系界面活性剤(商品名:オルフィンB、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(8)リン酸エステル系界面活性剤(商品名:プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製)
・界面活性剤(9)シリコーン系界面活性剤(商品名:TSF-4440、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン株式会社製)
・界面活性剤(10)ドデシルベンゼンスルホン酸塩(商品名:ネオペレックスNo.6Fパウダー、花王株式会社製)
・金属イオン封鎖剤 エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(商品名:キレスト3D、キレスト株式会社製)
・トリエタノールアミン
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン(商品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン株式会社製)
・エチレングリコール
・ジエチレングリコール
・グリセリン
・2-ピロリドン
・尿素
・ポリビニルピロリドン
・イオン交換水
【0055】
調製した水性インキ組成物について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表1~3に記載したとおりであった。
評価試験で用いる筆記具は、以下のものを用いた。
(A)着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備える筆記具
筆記具(A-1):万年筆(商品名:カクノ、株式会社パイロットコーポレーション製)
筆記具(A-2):筆ペン[アラビアガムで糊付けされた毛筆をペン先に備える筆記具(
図1参照)、商品名:新毛筆 中字、株式会社パイロットコーポレーション製]
筆ペン1は、押圧変形及び復元可能な、ポリエチレン樹脂製有底筒状体のインキカートリッジ2からなる後軸筒と、アラビアガムで糊付けされた、熱可塑性ポリエステルエラストマーの集束体からなるペン先4と連続気孔が形成された環状多孔体5とが装着された前軸筒3とが離合可能に接続されてなり、インキカートリッジ2の一端には中心孔6を備える中栓7が嵌着され、ペン先4は後端面に突起部9を備える固着層8が設けられてなり、ペン先4の後部側周に環状多孔体5が緩挿され、突起部9と中栓7の前端とが、固着層8と中栓7前端との間に誘導間隙10を形成しながら当接されてなる。
(B)インキ収容室が設けられた軸筒をインキ貯蔵部として備え、インキ供給機構を介してインキ貯蔵部とペン先とが接合された筆記具
筆記具(B-1):筆ペン(ポリウレタンで表面を被覆した、軟質性樹脂の押出し加工体をペン先に備える筆記具(
図2参照)、インキ貯蔵部:ポリプロピレン樹脂、商品名:筆ペン小筆軟筆、株式会社パイロットコーポレーション製)
なお、前記筆記具(B-1)は、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する、インキ供給機構を備える。
筆ペン11は、ポリプロピレン樹脂製有底筒状体からなる軸筒12の前部に、ポリウレタンで表面を被覆した、軟質性樹脂の押出成形加工体からなるペン先14を備えたインキ供給機構13が装着され、インキ供給機構13の後方の軸筒内にインキ収容室15が形成されてなる。インキ供給機構13は、多数の円盤体16が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体16を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝17及び該溝より太幅の通気溝18が設けられ、軸心にインキ誘導芯19が配置され、インキ誘導芯19がペン先14と接続されてなる。
【0056】
また、前記筆記具に装着するインキカートリッジには、以下のものを用いた。
・筆記具(A-1)に装着するインキカートリッジ
インキカートリッジ(1):ポリエチレン樹脂製インキカートリッジ(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:IRF-5S、に用いられる有底筒状容器、内寸:長さ57.3mm、直径、最小部2.5mm、最大部7.5mm)
インキカートリッジ(2):ポリメチルペンテン樹脂製コンバーター(有底筒状容器、株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:CON-70、内寸:長さ49mm、直径、最小部5mm、最大部6.4mm)
・筆記具(A-2)に装着するインキカートリッジ(
図3参照)
インキカートリッジ(3):ポリエチレン樹脂製インキカートリッジ(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:SN-50FDM-Bに用いられる有底筒状容器、内寸:長さ127.7mm、直径11.8mm)
インキカートリッジ2は、中栓7の後部に中心孔6より大径の第一の取り付け孔21および第一の取り付け孔21より大径の第二の取り付け孔22が同心状に配設されており、孔21および孔22には内パイプ23および外パイプ24を順次嵌着されてなる。
【0057】
・(インキカートリッジ(1)に対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1.インキカートリッジ(1)にインキ組成物を0.9ml注入し、インキカートリッジのインキ注入口に栓をした後、インキカートリッジ注入口を横向きにして50℃下72時間放置する。
2.インキカートリッジを室温に戻した後、インキカートリッジ注入口を上向きにしてインキを0.6ml抜き取り、インキ注入口に栓をし、24時間放置する。
3.インキカートリッジの向きを上下反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
・(インキカートリッジ(2)に対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1.インキカートリッジ(2)にインキ組成物を0.7ml注入し、ペン先を上に向けた状態の万年筆に前記インキカートリッジを装着する。
2.ペン先の地面に対する角度が60°になるように上記万年筆を反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
・(インキカートリッジ(3)に対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1.インキカートリッジ(3)にインキ組成物を2.0ml注入し、インキカートリッジのインキ注入口に栓をした後、インキカートリッジ注入口を上向きにして24時間放置する。
2.インキカートリッジの向きを上下反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
・(筆記具(B-1)に備わるポリプロピレン樹脂製インキ貯蔵部に対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1. インキ収容室にインキ組成物を0.7ml収容した筆記具(B-1)のペン先を上に向ける。
2.ペン先の地面に対する角度が60°になるように上記万年筆を反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
【0058】
(筆跡発色性の評価)
前記インキ移動性の評価で用いたインキカートリッジを装着した筆記具および前記評価で用いた筆記具(B-2)にて筆記を行い、その際の筆跡の発色性を目視により観察した。なお、筆記試験紙としてJIS P3201Aに準拠した筆記用紙を用いた。
○:かすれがなく、筆跡が良好である。
×:かすれがあり、筆跡の認識が困難で、実用上懸念がある。
【0059】
(インキ漏出性の評価)
以下の手順で評価を行った。
・筆記具(A-1)および筆記具(A-2)
1.インキ組成物0.9mlをカートリッジに注入する。
2.筆記具に前記カートリッジを装着し、キャップを嵌め、0℃下に1時間以上放置する。
3.前記筆記具のキャップを外し、40℃下に1時間放置した際のペン先からのインキ組成物の漏出を目視で観察した。
・筆記具(B-1)
1.インキ収容室にインキ組成物0.9mlを収容した後、ペン先にキャップを嵌め、0℃下に1時間以上放置する。
2.前記筆記具のキャップを外し、40℃下に1時間放置した際のペン先からのインキ組成物の漏出を目視で観察した。
○:ペン先からのインキ漏出は確認されなかった。
×:ペン先からインキが漏出した。
【0060】
(筆跡乾燥性の評価)
実施例16のインキ組成物を収容した筆記具(B-1)および筆記具(A-2)で筆記し、筆記から1秒後に筆跡を指で擦過した時のインキ組成物の周辺への広がりを目視により観察した。なお、試験紙は筆跡発色性の評価で使用した試験紙と同種の紙を用いた。
○:筆跡周辺にインキが広がった形跡は確認されない。
×:筆跡周辺におけるインキの広がりが確認される。
【0061】
(ペン先外観)
実施例19および20で作製したインキ組成物を筆記具(A-2)に内蔵し、ペン先にインキ組成物を導出させた。ペン先に析出物が付着していないことを確認した前記筆記具にキャップを装着してペン先を密閉し、前記筆記具を60℃環境下で1週間保管し、保管後のペン先の外観を目視で観察した。
その結果、実施例19のインキ組成物を内蔵した筆記具は、ペン先に析出物が確認されず、ペン先の外観が保管前と変わらなかった。
また、実施例20のインキ組成物を内蔵した筆記具は、ペン先に析出物が確認された。
【0062】
【0063】
【0064】
【符号の説明】
【0065】
1 筆ペン
2 インキカートリッジ
3 前軸筒
4 ペン先
5 環状多孔体
6 中心孔
7 中栓
8 固着層
9 突起部
10 誘導間隙
11 筆ペン
12 軸筒
13 インキ供給機構
14 ペン先
15 インキ収容室
16 円盤体
17 インキ誘導溝
18 通気溝
19 インキ誘導芯
20 第一の取り付け孔
21 第二の取り付け孔
22 内パイプ
23 外パイプ