(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】筆ペン用水性インキ組成物およびそれを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20231113BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20231113BHJP
B43K 8/03 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02 130
B43K8/03
(21)【出願番号】P 2020020179
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119839(JP,A)
【文献】特開2017-119842(JP,A)
【文献】特開2002-019368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B43K 8/02
B43K 8/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備える筆ペンであって、
前記インキ貯蔵部は押圧変形および復元可能なインキカートリッジであり、
前記インキカートリッジに着色材とアセチレン結合を有する界面活性剤と消泡剤と水とを含む水性インキ組成物を収容してなる、筆ペン。
【請求項2】
前記インキ供給機構は連続気孔を有する多孔体からなる、請求項1に記載の筆ペン。
【請求項3】
前記インキ組成物における消泡剤の含有量が、インキ組成物全質量に対して0.005~0.3質量%である、請求項1または2に記載の筆ペン。
【請求項4】
インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備える筆ペンであって、
前記インキ貯蔵部は内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部と前記ペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなり、
前記インキ供給機構は、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯であり、
前記インキ貯蔵部に着色材とアセチレン結合を有する界面活性剤と消泡剤と水とを含む水性インキ組成物を収容してなる、筆ペン。
【請求項5】
前記インキ組成物における消泡剤の含有量が、インキ組成物全質量に対して0.005~0.3質量%である、請求項4に記載の筆ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆ペン用水性インキ組成物と、それを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具においては、かすれや途切れのない鮮明な筆跡を形成可能とするため、ペン先からのインキ吐出性を良好とする検討が行われている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
特許文献1には、アミノ酸類を含む水性インキとそれを収容した筆ペンが記載されている。前記インキはアミノ酸類によってインキ吐出性が高められたインキであり、このインキを用いた筆ペンは良好なインキ吐出が奏されて鮮明な筆跡を形成可能とされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のインキは紙面浸透性が十分でなく、乾燥性に優れる筆跡を形成し難いことがあった。特に筆ペンの場合、多量のインキが紙面に塗布されることから、筆跡の乾燥性を良好とすることは一層困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鮮明であるとともに乾燥性に優れる筆跡を形成可能とする筆ペン用水性インキ組成物とそれを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、
「1. 着色材とアセチレン結合を有する界面活性剤と消泡剤と水とを含む、筆ペン用水性インキ組成物。
2.前記消泡剤の含有量が、水性インキ組成物全質量に対して0.005~0.3質量%である、第1項に記載の水性インキ組成物。
3.インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構とを備え、前記インキ貯蔵部に、第1項または第2項に記載の水性インキ組成物が内蔵されてなる、筆ペン。
4. 前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部と前記ペン先とが前記インキ供給機構を介して接合されてなる、第3項に記載の筆ペン。
5.インキカートリッジを備えてなる、第3項に記載の筆ペン。
6.多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を前記インキ供給機構として備える、第3項~第5項のいずれか1項に記載の筆ペン。
7.第1項または第2項に記載のインキ組成物が内蔵されてなる、筆ペン用インキカートリッジ。」とする。
【発明の効果】
【0008】
鮮明であるとともに乾燥性に優れる筆跡を形成可能とする筆ペン用水性インキ組成物と、それを内蔵した、筆ペンおよび筆ペン用インキカートリッジが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の筆ペンの一実施例を示す説明図である。
【
図2】本発明の筆ペンの他の実施例を示す説明図である。
【
図3】本発明の筆ペン用インキカートリッジの一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明による筆ペン用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、水と、着色剤と、アセチレン結合を有する界面活性剤とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による筆ペン用水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤は、従来知られている顔料、染料から任意に選択することができ、好ましく用いることができる。顔料としては、アゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料などが挙げられる。
また、該顔料を溶媒に分散させ、顔料分散体としたものを用いることも可能である。本発明に用いられる顔料分散体としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)、SANDYESUPERCOLOURシリーズ(山陽色素株式会社製)、EMACOLシリーズ(山陽色素株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)MICROPIGMOシリーズ(オリヱント化学工業株式会社製)、WAシリーズ(大日精化工業株式会社製)などが挙げられる。
なお、前記顔料は、顔料表面が酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、および酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、二酸化ケイ素などの無機酸化物、および脂肪酸などで被覆処理されたものであってもよい。
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。
本発明の組成物は、上記の着色剤の中でも染料を用いることが好ましい。これは、顔料は沈降することによって、インキの吐出性や筆跡の発色性に影響がでやすいためである。
【0013】
本発明における着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.1~20質量%とすることが好ましく、0.2~10質量%とすることがより好ましい。着色剤の含有量を上記範囲内とした場合、良好な発色性を有する筆跡を形成することが容易となる。
【0014】
(アセチレン結合を有する界面活性剤)
水性インキ組成物には、界面活性剤として、アセチレン結合を有する界面活性剤が必須である。前記界面活性剤は、インキ組成物を筆ペンのインキ貯蔵部、インキ供給機構、およびペン先からなる各機構で円滑に移動できるようにすることでインキ吐出性を向上させるとともに、インキ組成物の紙面浸透性を向上させるものである。これにより、インキ組成物は、かすれが抑制された鮮明な筆跡を形成することができるとともに乾燥性に優れる筆跡を形成できる。
筆ペンはペン先に潤沢なインキを含むことができることから、筆ペンで筆記すると紙面に多量のインキが塗布されやすい反面、その筆跡は乾燥性が劣る傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物は、インキ吐出性が良好でありながら紙面浸透性に優れるため、多量のインキ組成物が塗布された場合でも筆跡の乾燥性が良好となる。
また、理由は定かではないが、インキ組成物を用いた筆ペンは、インキ吐出性が良好でありながらも保管時におけるペン先からのインキ漏れが抑制されやすい。
【0015】
インキ組成物に適用できるアセチレン結合を有する界面活性剤は、下記一般式(1)の構造を有する。
【化1】
ここで、R
1~R
4は炭化水素基を示し、R
5はエチレン基を示す。
m、pは0以上の整数である。
【0016】
本発明に用いられるアセチレン結合を有する界面活性剤は、インキ吐出性および紙面浸透性を良好にすることを考慮すると、(化1)におけるm+pが、0≦m+p≦30であることが好ましく、0≦m+p≦20であることがより好ましい。また、アセチレン結合を有する界面活性剤のHLB値は、4~18の値を有することが好ましく、8~17の値を有することがより好ましく、12~16の値を有することが特に好ましい。
ここで、本実施形態において用いられる界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記一般式(2)によって算出される値をいう。グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲内の値を示し、数値が大きい程、化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)・・・(2)
【0017】
具体的なアセチレン結合を有する界面活性剤としては、オルフィンD-10A、オルフィンD-10PG、オルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンE1030W、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-003、オルフィンPD-004、オルフィンPD-201、オルフィンPD-301、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300、サーフィノール82、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノール2502、ダイノール604、ダイノール607、以上日信化学工業株式会社製、アセチレノールE13T、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100、アセチレノール85、以上川研ファインケミカル株式会社製、を挙げることが可能であり、1種または2種以上を好ましく用いることができる。上記の界面活性剤の中では、インキ吐出性およびインキ組成物の紙面浸透性を良好とすること、および消泡効果を考慮するとオルフィンE1010またはサーフィノール485が好ましい。
【0018】
アセチレン結合を有する界面活性剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1~1.5質量%とすることが好ましく、0.3~1.0質量%とすることがより好ましく、0.5~0.9質量%とすることが特に好ましい。
含有量を上記数値範囲内とすると、組成物の紙面浸透性やインキ吐出性を良好としやすく、乾燥性に優れ、かすれが抑制された鮮明な筆跡を形成しやすい。
さらに、含有量が上記数値範囲内においては、耐滲み性および耐裏移り性が良好となりやすい。
なお、アセチレン結合を有する界面活性剤は、複数種を併用しても良い。
前記界面活性剤を併用する場合は、その含有量を、前記数値範囲内とすることが好ましい。
【0019】
水の含有量はインキ組成物全量に対して50~95質量%とすることが好ましく、70~90質量%とすることがより好ましい。
【0020】
(消泡剤)
インキ組成物は、消泡剤を含有する。
筆ペンは泡の影響を受けやすい。例えば、筆ペンはペン先の柔軟性が高く、筆記時にペン先を紙面に押し当ててペン先が変形したときにペン先と紙面との間に空気を含みやすいため、ペン先で泡が立ちやすく、泡によって筆記時に筆跡ムラが生じたり、筆跡に泡が付着することで筆跡の鮮明性が損なわれることが多い。さらに、インキ貯蔵部が押圧変形および復元可能なインキカートリッジであり、前記インキカートリッジを押圧変形させることでインキをインキカートリッジから導出することが可能な筆ペンの場合、ペン先を紙面に押し当てた時に加えて、インキカートリッジを押圧変形してペン先にインキを導出した時にインキに空気が混入して泡立ちが生じやすい。しかしながら、インキ組成物は消泡剤によって泡立ちが抑えられるため、筆ペンであっても泡による筆記性の低下を抑制することができる。
【0021】
インキ組成物に適用できる消泡剤としては、シリコーン系、シリカ系、アルキット系、ポリエーテル系、オイル系、金属石鹸系、アマイドワックス系等を挙げることができる。中でも、シリコーン系消泡剤は破泡効果および抑泡効果に優れるため、好ましく用いることができる。消泡剤は複数種を併用しても良い。
【0022】
消泡剤の含有量は、消泡剤の消泡効果とインキ組成物の経時安定性を考慮して、インキ組成物全質量に対し0.005~0.3質量%であることが好ましく、0.01~0.1質量%であることがより好ましい。
【0023】
(金属イオン封鎖剤)
インキ組成物は、金属イオン封鎖剤を含有することができる。
金属イオン封鎖剤は、インキ組成物に金属イオンが混入した際、組成物の成分と金属イオンとが結合して水不溶性の析出物が生成し、筆記性が低下することを抑制できる。
【0024】
筆ペンは、ペン先がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンまたはアラビアガム等の水溶性物質で糊付けされて一般に供される。中でも、アラビアガムは水溶性のカルシウム塩を含んでおり、水中で前記カルシウム塩からカルシウムイオンが電離するため、ペン先がアラビアガムで糊付けされた筆ペンは、水性インキ組成物が、多価金属イオンと結合して水不溶性の物質を形成する物質、例えば、アシッドレッド87等の酸性染料を含有する場合、ペン先にインキ組成物が導出されたときにペン先で水不溶性のカルシウム塩からなる析出物が生成し、ペン先や筆跡の美観を損ねることがある。
しかしながら、インキ組成物に金属イオン封鎖剤を含有させると、カルシウムイオンがマスキングされて析出物の生成が抑制されるため、ペン先がアラビアガムで糊付けされた筆ペンであっても析出物によってペン先や筆跡の美観が損なわれることが抑えられる。
【0025】
インキ組成物に用いることができる金属イオン封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、L-アスパラギン酸(ASDA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸(HIDA)等や、それらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の塩などを例示できる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。その中でも、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩は、金属封鎖能に優れるため好ましく用いられる。
【0026】
金属イオン封鎖剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1%~2質量%であることが好ましく、0.2~1質量%であることがより好ましい。
含有量が前記範囲内であると、インキ組成物の良好な経時安定性を維持しながら、優れたキレート効果が奏されやすい。
【0027】
(その他)
本発明のインキ組成物は、必要に応じて上記以外の物質を添加することも可能である。具体的には、防腐剤、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、およびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂などの定着剤、pH調整剤、剪断減粘性付与剤、粘度調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの防錆剤、尿素、アニオン、カチオン系、ノニオン系、両性等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からなる顔料分散剤、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、2-ピロリドンなどの水溶性有機溶剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、およびピロリン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0028】
本発明のインキ組成物の表面張力は、25~45mN/mとすることが好ましく、25~40mN/mとすることがより好ましい。
このような表面張力を有するインキ組成物は、インキ吐出性を良好としてかすれが抑制された鮮明な筆跡を形成すること、および乾燥性に優れる筆跡を形成することが容易となるだけでなく、筆記した際に筆跡の滲みや裏抜けが抑制された良好な筆跡を形成することが可能である。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0029】
本発明のインキ組成物の粘度は1~10mPa・sとすることが好ましい。より好ましい数値範囲は1~5mPa・sであり、3~5mPa・sとすることが特に好ましい。インキ組成物の粘度を上記数値範囲内とすると、インキ吐出性を良好とし、かすれが抑制された鮮明な筆跡が形成しやすくなるとともに、紙面浸透性を高めて筆跡の乾燥性を良好としやすい。なお、組成物の粘度の測定は、20℃において、EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、50rpm、東機産業株式会社製)を用いて行う。
【0030】
本発明の組成物は、インキ組成物の安定性を考慮して、そのpH値は6~11とすることが好ましく、8~10とすることがより好ましい。
【0031】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0032】
(筆ペン)
前記インキ組成物は、インキ貯蔵部と、ペン先と、前記インキ貯蔵部からペン先へとインキを供給するためのインキ供給機構を備える筆ペンに収容される。前記筆ペンとしては、(1)前記インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とが前記インキ供給機構を介して接合された構造、(2)着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備えてなる構造を例示できる。
前記(1)におけるより具体的な構造としては、一例として、有底筒体よりなる軸筒の前部にペン先とインキ供給機構が装着され、前記インキ供給機構の後方の軸筒内にインキ貯蔵部が形成されてなる構造が挙げられる。
また、前記(2)におけるより具体的な構造としては、一例として、ペン先とインキ供給機構を装着した前軸筒とインキカートリッジからなる後軸筒とが離合可能に接続されてなる構造、およびペン先とインキ供給機構を装着した前軸筒とインキカートリッジとが離合可能に接続され、前記インキカートリッジが後軸筒で被覆されてなる構造が挙げられる。
【0033】
インキ貯蔵部としては、構成材料として用いることができる物質に限りはなく、金属、ガラス、ゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂,ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂等の合成樹脂を用いることができる。中でも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0034】
インキ貯蔵部は、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
また、筆ペンがインキ組成物を直に充填する構成のものであり、さらに着色剤に顔料を用いている場合は、顔料を再分散させるために、インキ収容体にはインキを攪拌する攪拌ボールなどの攪拌体を内蔵することが好ましい。前記攪拌体の形状としては、球状体、棒状体などが挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、硝子などを挙げることができる。
また、筆ペンがインキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
【0035】
前記インキ供給機構を介してペン先と接合されてなるインキ貯蔵部としては、前記インキ収容室にインキ組成物を収容可能な構造を有していれば、構造に制限はない。
【0036】
また、インキカートリッジとしては、筆ペン本体に接続することで筆ペンを構成する軸筒を兼ねたものや、筆ペン本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。これらのカートリッジは、筆ペン接続前にあらかじめインキを充填されたものであっても良い。
【0037】
また、インキカートリッジの構造としては特に限りはなく、例えば、長手方向に対して直交する直交断面が円形状を有する有底筒体が挙げられる。前記有底筒体としては、長手方向に40~160mmの長さと、2~15mmの直径とを内寸として有するものが好ましく、長手方向に45~150mmの長さと、2.5~12mmの直径とを内寸として有するものがより好ましい。なお、筒体とは中空の細長い棒状体を指す。前記インキカートリッジは、押圧変形及び復元可能な構造を有していても良い。
本発明に用いられるインキカートリッジは、前記筒体の外面や内面がテーパー状に傾斜していても良く、段差を有していても良く、また、その他の構造に制限はない。
【0038】
ペン先としては、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた、毛筆等の繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着乃至樹脂加工体、または軟質性樹脂乃至エラストマーの押出成形加工体からなる筆ペン形態のチップを用いることができる。前記チップは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプンまたはアラビアガム等の水溶性物質で糊付けされたものであっても良い。
【0039】
インキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(2)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、前記インキ誘導溝を通じてペン先へインキ組成物を供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構(4)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(5)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構および(6)インキ組成物を含侵可能な、連続気孔を有する多孔体を介してペン先へインキ組成物を供給する機構などを挙げることができる。
【0040】
インキ供給機構が、前記、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に前前記インキ貯蔵部から前記ペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯である場合、前記インキ供給機構はインキ貯蔵部からペン先へのインキ供給性を安定的に良好としやすいため、前記界面活性剤によってインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するインキ誘導芯に対してインキ組成物の濡れ性が良好となるため、インキ吐出性をより向上させることができる。このため、(3)のインキ供給機構は、筆ペンのインキ供給機構として好ましい形態である。
【0041】
前記インキ供給機構の材質としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂等が挙げられ、いずれを用いることもできる。
前記樹脂からなるインキ供給機構を備える筆ペンは、ペン先からのインキ吐出性がより良好となり、鮮明かつ乾燥性に優れる筆跡を形成することが容易となる。
【0042】
以下に本発明の水性インキ組成物、それを用いた筆ペンの実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆ペン用水性インキ組成物を得た。EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、東機産業株式会社製)を用いてインキ組成物の粘度を測定したところ、20℃(回転速度50rpm)における粘度は3.15mPa・sであった。
さらに、pHメーター(商品名:pHメーターD-51、株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃にて水性インキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は9.19であった。
また、得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、垂直平板法、商品名:表面張力計DY-300、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、30.1mN/mであった。
・着色剤 フードブラック2 0.4質量%
・アセチレン結合を有する界面活性剤 0.8質量%
(商品名:オルフィンE1010、HLB値:13.3、日信化学工業株式会社製)
・消泡剤 0.05質量%
(シリコーン系消泡剤、商品名:アンチフォーム013A、東レ・ダウコーニング株式会社製)
・トリエタノールアミン 1質量%
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.4質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・ジエチレングリコール 5質量%
・グリセリン 8質量%
・尿素 5質量%
・ポリビニルピロリドン 2質量%
・イオン交換水 77.5質量%
【0044】
(実施例2~9、比較例1~2)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1に示したとおりに変更して、実施例2~9、比較例1~2のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・着色剤 フードブラック2
・界面活性剤(1)アセチレン結合を有する界面活性剤(商品名:オルフィンE1010、HLB値13.3、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(2)シリコーン系界面活性剤(商品名:TSF-4440、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン株式会社製)
・界面活性剤(3)リン酸エステル系界面活性剤(商品名:プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製)
・消泡剤(1)シリコーン系消泡剤(商品名:アンチフォーム013A、東レ・ダウコーニング株式会社製)
・消泡剤(2)シリコーン系消泡剤(商品名:センカアンチフォームKH、センカ株式会社製)
・消泡剤(3)鉱油、ポリエーテル、シリカおよび水を含む混合系消泡剤(商品名:SNデフォーマー777、サンノプコ株式会社製)
・消泡剤(4)ポリエーテル系消泡剤(商品名:ダッポーH409、サンノプコ株式会社製)
・トリエタノールアミン
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン(商品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン株式会社製)
・ジエチレングリコール
・グリセリン
・尿素
・ポリビニルピロリドン
・イオン交換水
【0045】
調製した水性インキ組成物について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表1に記載したとおりであった。
評価試験で用いる筆ペンは、以下のものを用いた。
筆ペン(A)着脱可能なインキカートリッジをインキ貯蔵部として備える筆ペン(
図1参照)
商品名:新毛筆 中字、株式会社パイロットコーポレーション製
筆ペン1は、押圧変形及び復元可能な、ポリエチレン樹脂製有底筒体のインキカートリッジ2からなる後軸筒と、熱可塑性ポリエステルエラストマーの集束体からなるペン先4と連続気孔が形成された環状多孔体5とが装着された前軸筒3とが離合可能に接続されてなり、インキカートリッジ2の一端には中心孔6を備える中栓7が嵌着され、ペン先4は後端面に突起部9を備える固着層8が設けられてなり、ペン先4の後部側周に環状多孔体5が緩挿され、突起部9と中栓7の前端とが、固着層8と中栓7前端との間に誘導間隙10を形成しながら当接されてなる。
筆ペン(B)インキ貯蔵部が内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ貯蔵部とペン先とがインキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン(
図2参照)
商品名:筆ペン小筆軟筆、株式会社パイロットコーポレーション製
筆ペン11は、ポリエチレン樹脂製有底筒体からなる軸筒12の前部に、ポリウレタンで表面を被覆した、軟質性樹脂の押出成形加工体からなるペン先14を備えるインキ供給機構13が装着され、インキ供給機構13の後方の軸筒内にインキ収容室15が形成されてなる。インキ供給機構13は、多数の円盤体16が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体16を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝17及び該溝より太幅の通気溝18が設けられ、軸心にインキ誘導芯19が配置され、インキ誘導芯19がペン先14と接続されてなる。
【0046】
また、前記筆ペン(A)に装着するインキカートリッジには、以下のものを用いた。
・筆ペン(A)に装着するインキカートリッジ(
図3参照)
(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:SN-50FDM-Bに用いられる有底筒体、内寸:長さ127.7mm、直径11.8mm)
インキカートリッジ2は、中栓7の後部に中心孔6より大径の第一の取り付け孔21および第一の取り付け孔20より大径の第二の取り付け孔21が同心状に配設され、孔22および孔23には内パイプ23および外パイプ24を嵌着されてなる。
【0047】
(筆跡鮮明性の評価)
前記インキ組成物を内蔵した筆ペンにて幅4mm、長さ20cmの筆跡を30本形成し、その際の筆跡の鮮明性を目視により観察した。なお、筆記試験紙としてJIS P3201Aに準拠した筆記用紙を用いた。評価基準は、〇および△を合格とし、×を不合格とした。
○:筆跡にかすれ、色むらおよび泡立ちが確認されない。
△:筆跡にかすれは確認されない。また、筆跡に色むらまたは泡立ちが確認されるが、実用上問題ない。
×:筆跡にかすれ、色むらまたは泡立ちが確認される。実用上懸念がある。
【0048】
(筆跡乾燥性の評価)
筆記から1秒後に筆跡を指で擦過した時のインキ組成物の周辺への広がりを目視により観察した。なお、試験紙には、JIS P3201Aに準拠した筆記用紙および香典袋(品番:ノ-210、株式会社マルアイ製)を用いた。
○:筆跡周辺にインキが広がった形跡は確認されない。
×:筆跡周辺におけるインキの広がりが確認される。
【0049】
(インキ漏出性の評価)
実施例1~9のインキ組成物を内蔵した筆ペン(B)について、ペン先からのインキの漏出の有無を目視で確認した。
その結果、前記筆ペンは、ペン先からのインキ漏出が確認されなかった。
なお、試験手順は以下の通りである。
1.インキ収容室にインキ組成物0.9mlを収容した後、ペン先にキャップを嵌め、0℃下に1時間以上放置する。
2.前記筆記具のキャップを外し、40℃下に1時間放置した際のペン先からのインキ組成物の漏出を目視で観察した。
【0050】
【表1】
表1の筆跡鮮明性の評価において、比較例1のインキを用いて形成した筆跡については、色むらまたは泡立ちが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 筆ペン
2 インキカートリッジ
3 前軸筒
4 ペン先
5 環状多孔体
6 中心孔
7 中栓
8 固着層
9 突起部
10 誘導間隙
11 筆ペン
12 軸筒
13 インキ供給機構
14 ペン先
15 インキ収容室
16 円盤体
17 インキ誘導溝
18 通気溝
19 インキ誘導芯
20 第一の取り付け孔
21 第二の取り付け孔
22 内パイプ
23 外パイプ