(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及び二次電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 50/289 20210101AFI20231113BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20231113BHJP
H01M 50/471 20210101ALI20231113BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231113BHJP
H01M 50/486 20210101ALI20231113BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231113BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231113BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231113BHJP
H01M 50/211 20210101ALN20231113BHJP
H01M 50/213 20210101ALN20231113BHJP
【FI】
H01M50/289
H01M50/209
H01M50/471
H01M50/489
H01M50/486
H01M10/0585
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/36 D
H01M50/211
H01M50/213
(21)【出願番号】P 2020021651
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 薫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 明宏
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】井口 裕輝
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-61749(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179897(WO,A1)
【文献】特表2015-511389(JP,A)
【文献】特開2017-174664(JP,A)
【文献】特開2000-285966(JP,A)
【文献】特開2015-18663(JP,A)
【文献】特開2019-75199(JP,A)
【文献】特開2012-190734(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186501(WO,A1)
【文献】特開2014-216086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
H01M 50/40
H01M 10/0585
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 4/48
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの非水電解質二次電池と、前記非水電解質二次電池と共に配列され、前記非水電解質二次電池から前記配列方向に荷重を受ける弾性体と、を有する二次電池モジュールであって、
前記非水電解質二次電池は、正極、負極、及び前記正極及び前記負極との間に配置されるセパレータとを積層した電極体と、前記電極体を収容する筐体と、を備え、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、負極活物質としての黒鉛粒子を含む負極活物質層と、を備え、前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成され、前記第1層より圧縮弾性率の大きい第2層と、を有し、
前記セパレータは、前記第1層より圧縮弾性率が小さく、
前記弾性体は、前記セパレータより圧縮弾性率が小さく、
前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m
2/gであり、
前記第1層には、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが、0.01質量%~0.4質量%含まれる、二次電池モジュール。
【請求項2】
前記負極活物質層は、ケイ素酸化物(SiOx)を含み、前記ケイ素酸化物の含有量は、前記負極活物質層に対して1質量%~6質量%である、請求項1に記載の二次電池モジュール。
【請求項3】
前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子は、平均粒径の異なる2種類の黒鉛粒子を含み、一方の黒鉛粒子(A)の平均粒径は他方の黒鉛粒子(B)の平均粒径よりも大きく、前記一方の黒鉛粒子(A)の平均粒径に対する前記他方の黒鉛粒子(B)の平均粒径の比は0.3~0.5である、請求項1又は2に記載の二次電池モジュール。
【請求項4】
前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子は、粒子圧縮強度の異なる2種類の黒鉛粒子を含み、一方の黒鉛粒子(C)の粒子圧縮強度は他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度よりも大きく、前記一方の黒鉛粒子(C)の粒子圧縮強度に対する前記他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度の比は0.2~0.6であり、前記他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度は10MPa~35MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池モジュール。
【請求項5】
前記第2層の空隙率は前記第1層の空隙率より大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池モジュール。
【請求項6】
前記弾性体の圧縮弾性率が、120MPa以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池モジュール。
【請求項7】
正極、負極、及び前記正極及び前記負極との間に配置されるセパレータとを積層した電極体と、前記電極体から前記電極体の積層方向に荷重を受ける弾性体と、前記電極体及び前記弾性体を収容する筐体と、を有する非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、負極活物質としての黒鉛粒子を含む負極活物質層と、を備え、前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成され、前記第1層より圧縮弾性率の大きい第2層と、を有し、
前記セパレータは、前記第1層より圧縮弾性率が小さく、
前記弾性体は、前記セパレータより圧縮弾性率が小さく、
前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m
2/gであり、
前記第1層には、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが、0.01質量%~0.4質量%含まれる、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池及び二次電池モジュールの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、典型的に、正極活物質層を備えた正極と、負極活物質層を備えた負極とがセパレータを介して積層された電極体と、電解液とを備える。かかる非水電解質二次電池は、例えば、電解液中の電荷担体(例えばリチウムイオン)が両電極間を行き来することで充放電を行う電池である。非水電解質二次電池を充電する際には正極活物質層を構成する正極活物質内から電荷担体が放出され、負極活物質層を構成する負極活物質内に電荷担体が吸蔵される。放電時には逆に負極活物質内から電荷担体が放出され、正極活物質内へ電荷担体が吸蔵される。このように、非水電解質二次電池の充放電に伴い活物質内への電荷担体が吸蔵および放出されると、電極体が膨張及び収縮する。
【0003】
非水電解質二次電池の充放電に伴う電極体の膨張及び収縮が起こることで、電極体内に保持されていた電解液が電極体外に押し出されてしまうと、ハイレート充放電における電池抵抗が増加するという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、負極の圧縮弾性率をセパレータの圧縮弾性率より高くした二次電池が提案されている。そして、特許文献1には、負極の圧縮弾性率をセパレータの圧縮弾性率より高くすることで、電極体内の電解液の保持性が向上し、特にハイレートで繰り返し充放電する際の電池抵抗の増加が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6587105号公報
【文献】国際公開第2019/187537号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非水電解質二次電池は、充放電を繰り返し行うと、非水電解質二次電池の容量が低下していく傾向にあるため、この充放電サイクルにおける容量低下を抑制することは、非水電解質二次電池の長寿命化を図る上で重要な課題である。
【0007】
そこで、本開示は、ハイレート充放電における抵抗増加及び充放電サイクルにおける容量低下を抑制する非水電解質二次電池及び二次電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様である二次電池モジュールは、少なくとも1つの非水電解質二次電池と、前記非水電解質二次電池と共に配列され、前記非水電解質二次電池から前記配列方向に荷重を受ける弾性体と、を有する二次電池モジュールであって、前記非水電解質二次電池は、正極、負極、及び前記正極及び前記負極との間に配置されるセパレータとを積層した電極体と、前記電極体を収容する筐体と、を備え、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、負極活物質としての黒鉛粒子を含む負極活物質層と、を備え、前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成され、前記第1層より圧縮弾性率の大きい第2層と、を有し、前記セパレータは、前記第1層より圧縮弾性率が小さく、前記弾性体は、前記セパレータより圧縮弾性率が小さく、前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m2/gであり、前記第1層には、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが、0.01質量%~0.4質量%含まれることを特徴とする。
【0009】
また、本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極、負極、及び前記正極及び前記負極との間に配置されるセパレータとを積層した電極体と、前記電極体から前記電極体の積層方向に荷重を受ける弾性体と、前記電極体及び前記弾性体を収容する筐体と、を有する非水電解質二次電池であって、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、負極活物質としての黒鉛粒子を含む負極活物質層と、を備え、前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成された第1層と、前記第1層上に形成され、前記第1層より圧縮弾性率の大きい第2層と、を有し、前記セパレータは、前記第1層より圧縮弾性率が小さく、前記弾性体は、前記セパレータより圧縮弾性率が小さく、前記第1層に含まれる前記黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m2/gであり、前記第1層には、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが、0.01質量%~0.4質量%含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、ハイレート充放電における抵抗増加及び充放電サイクルにおける容量低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る二次電池モジュールの斜視図である。
【
図2】実施形態に係る二次電池モジュールの分解斜視図である。
【
図3】非水電解質二次電池が膨張する様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】弾性体が筐体内に配置された状態を示す模式断面図である。
【
図8】電極体と筐体に挟まれた状態にある弾性体の一部模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0013】
図1は、実施形態に係る二次電池モジュールの斜視図である。
図2は、実施形態に係る二次電池モジュールの分解斜視図である。二次電池モジュール1は、一例として、積層体2と、一対の拘束部材6と、冷却板8と、を備える。積層体2は、複数の非水電解質二次電池10と、複数の絶縁スペーサ12と、複数の弾性体40と、一対のエンドプレート4と、を有する。
【0014】
各非水電解質二次電池10は、例えば、リチウムイオン二次電池等の充放電可能な二次電池である。本実施形態の非水電解質二次電池10は、いわゆる角形電池であり、電極体38(
図3参照)、電解液、偏平な直方体形状の筐体13を備える。筐体13は、外装缶14および封口板16で構成される。外装缶14は、一面に略長方形状の開口を有し、この開口を介して外装缶14に、電極体38や電解液等が収容される。なお、外装缶14は、シュリンクチューブ等の図示しない絶縁フィルムで被覆されることが望ましい。外装缶14の開口には、開口を塞いで外装缶14を封止する封口板16が設けられている。封口板16は、筐体13の第1面13aを構成する。封口板16と外装缶14とは、例えば、レーザー、摩擦撹拌接合、ろう接等で接合される。
【0015】
筐体13は、例えば円筒形ケースであってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。
【0016】
電極体38は、複数のシート状の正極38aと複数のシート状の負極38bとがセパレータ38dを介して交互に積層された構造を有する(
図3参照)。正極38a、負極38b、セパレータ38dは、第1方向Xに沿って積層している。すなわち、第1方向Xが、電極体38の積層方向となる。そして、この積層方向において両端に位置する電極は、筐体13の後述する長側面と向かい合う。なお、図示する第1方向X、第2方向Y及び第3方向Zは互いに直交する方向である。
【0017】
電極体38は、帯状の正極と帯状の負極とがセパレータを介して積層されたものを巻回した円筒巻回型の電極体、円筒巻回型の電極体を偏平状に成形した偏平巻回型の電極体であってもよい。なお、偏平巻回型の電極体の場合には、直方体形状の外装缶を適用できるが、円筒巻回型の電極体の場合には、円筒形の外装缶を適用する。
【0018】
封口板16、つまり筐体13の第1面13aには、長手方向の一端よりに電極体38の正極38aと電気的に接続される出力端子18が設けられ、他端よりに電極体38の負極38bと電気的に接続される出力端子18が設けられる。以下では、正極38aに接続される出力端子18を正極端子18aと称し、負極38bに接続される出力端子18を負極端子18bと称する。また、一対の出力端子18の極性を区別する必要がない場合には、正極端子18aと負極端子18bとをまとめて出力端子18と称する。
【0019】
外装缶14は、封口板16と対向する底面を有する。また、外装缶14は、開口および底面をつなぐ4つの側面を有する。4つの側面のうち2つは、開口の対向する2つの長辺に接続される一対の長側面である。各長側面は、外装缶14が有する面のうち面積の最も大きい面、すなわち主表面である。また、各長側面は、第1方向Xと交わる(例えば直行する)方向に広がる側面である。2つの長側面を除いた残り2つの側面は、外装缶14の開口および底面の短辺と接続される一対の短側面である。外装缶14の底面、長側面および短側面は、それぞれ筐体13の底面、長側面および短側面に対応する。
【0020】
本実施形態の説明では、便宜上、筐体13の第1面13aを非水電解質二次電池10の上面とする。また、筐体13の底面を非水電解質二次電池10の底面とし、筐体13の長側面を非水電解質二次電池10の長側面とし、筐体13の短側面を非水電解質二次電池10の短側面とする。また、二次電池モジュール1において、非水電解質二次電池10の上面側の面を二次電池モジュール1の上面とし、非水電解質二次電池10の底面側の面を二次電池モジュール1の底面とし、非水電解質二次電池10の短側面側の面を二次電池モジュール1の側面とする。また、二次電池モジュール1の上面側を鉛直方向上方とし、二次電池モジュール1の底面側を鉛直方向下方とする。
【0021】
複数の非水電解質二次電池10は、隣り合う非水電解質二次電池10の長側面同士が対向するようにして、所定の間隔で並設される。また、本実施形態では、各非水電解質二次電池10の出力端子18は、互いに同じ方向を向くように配置されているが、異なる方向を向くように配置されてもよい。
【0022】
隣接する2つの非水電解質二次電池10は、一方の非水電解質二次電池10の正極端子18aと他方の非水電解質二次電池10の負極端子18bとが隣り合うように配列(積層)される。正極端子18aと負極端子18bとは、バスバー(図示せず)を介して直列接続される。なお、隣接する複数個の非水電解質二次電池10における同極性の出力端子18同士をバスバーで並列接続して、非水電解質二次電池ブロックを形成し、非水電解質二次電池ブロック同士を直列接続してもよい。
【0023】
絶縁スペーサ12は、隣接する2つの非水電解質二次電池10の間に配置されて、当該2つの非水電解質二次電池10間を電気的に絶縁する。絶縁スペーサ12は、例えば絶縁性を有する樹脂で構成される。絶縁スペーサ12を構成する樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。複数の非水電解質二次電池10と複数の絶縁スペーサ12とは、交互に積層される。また、絶縁スペーサ12は、非水電解質二次電池10とエンドプレート4との間にも配置される。
【0024】
絶縁スペーサ12は、平面部20と、壁部22と、を有する。平面部20は、隣接する2つの非水電解質二次電池10の対向する長側面間に介在する。これにより、隣り合う非水電解質二次電池10の外装缶14同士の絶縁が確保される。
【0025】
壁部22は、平面部20の外縁部から非水電解質二次電池10が並ぶ方向に延び、非水電解質二次電池10の上面の一部、側面、および底面の一部を覆う。これにより、例えば、隣り合う非水電解質二次電池10間、或いは非水電解質二次電池10とエンドプレート4との間の側面距離を確保することができる。壁部22は、非水電解質二次電池10の底面が露出する切り欠き24を有する。また、絶縁スペーサ12は、第2方向Yにおける両端部に、上方を向く付勢受け部26を有する。
【0026】
弾性体40は、複数の非水電解質二次電池10と共に、第1方向Xに沿って配列される。すなわち、第1方向Xは、前述したように電極体38の積層方向でもあるが、非水電解質二次電池10と弾性体40の配列方向でもある。弾性体40は、シート状であり、例えば、各非水電解質二次電池10の長側面と各絶縁スペーサ12の平面部20との間に介在する。隣り合う2つの非水電解質二次電池10の間に配置される弾性体40は、1枚のシートでも複数のシートが積層した積層体でもよい。弾性体40は、平面部20の表面に接着等により固定されてもよい。或いは、平面部20に凹部が設けられ、この凹部に弾性体40が嵌め込まれてもよい。あるいは、弾性体40と絶縁スペーサ12とは一体成形されてもよい。或いは、弾性体40が平面部20を兼ねてもよい。弾性体40の構造および作用については、後で詳述する。
【0027】
並設された複数の非水電解質二次電池10、複数の絶縁スペーサ12、複数の弾性体40は、一対のエンドプレート4で第1方向Xに挟まれる。エンドプレート4は、例えば、金属板や樹脂板からなる。エンドプレート4には、エンドプレート4を第1方向Xに貫通し、ねじ28が螺合するねじ穴4aが設けられる。
【0028】
一対の拘束部材6は、第1方向Xを長手方向とする長尺状の部材である。一対の拘束部材6は、第2方向Yにおいて互いに向かい合うように配列される。一対の拘束部材6の間には、積層体2が介在する。各拘束部材6は、本体部30と、支持部32と、複数の付勢部34と、一対の固定部36とを備える。
【0029】
本体部30は、第1方向Xに延在する矩形状の部分である。本体部30は、各非水電解質二次電池10の側面に対して平行に延在する。支持部32は、第1方向Xに延在するとともに、本体部30の下端から第2方向Yに突出する。支持部32は、第1方向Xに連続する板状体であり、積層体2を支持する。
【0030】
複数の付勢部34は、本体部30の上端に接続され、第2方向Yに突出する。支持部32と付勢部34とは、第3方向Zにおいて対向する。複数の付勢部34は、所定の間隔をあけて第1方向Xに配列される。各付勢部34は、例えば板ばね状であり、各非水電解質二次電池10を支持部32に向けて付勢する。
【0031】
一対の固定部36は、第1方向Xにおける本体部30の両端部から第2方向Yに突出する板状体である。一対の固定部36は、第1方向Xにおいて対向する。各固定部36には、ねじ28が挿通される貫通孔36aが設けられる。一対の固定部36により、拘束部材6は積層体2に固定される。
【0032】
冷却板8は、複数の非水電解質二次電池10を冷却するための機構である。積層体2は、一対の拘束部材6で拘束された状態で冷却板8の主表面上に載置され、支持部32の貫通孔32aと冷却板8の貫通孔8aとにねじ等の締結部材(図示せず)が挿通されることで、冷却板8に固定される。
【0033】
図3は、非水電解質二次電池が膨張する様子を模式的に示す断面図である。なお、
図3では、非水電解質二次電池10の個数を間引いて図示している。また、非水電解質二次電池10の内部構造の図示を簡略化し、絶縁スペーサ12の図示を省略している。
図3に示すように、各非水電解質二次電池10の内部には電極体38(正極38a、負極38b、セパレータ38d)が収容される。非水電解質二次電池10は、充放電に伴う電極体38の膨張及び収縮によって、外装缶14が膨張及び収縮する。各非水電解質二次電池10の外装缶14が膨張すると、積層体2には、第1方向Xの外側へ向かう荷重G1が発生する。すなわち、非水電解質二次電池10と共に配列される弾性体40は、非水電解質二次電池10から第1方向X(非水電解質二次電池10と弾性体40の配列方向)に荷重を受ける。一方、積層体2には、拘束部材6によって荷重G1に対応する荷重G2が掛けられる。
【0034】
ここで、負極38b、セパレータ38d及び弾性体40の圧縮弾性率について説明する。
【0035】
図4は、負極の模式断面図である。
図4に示すように、負極38bは、負極集電体50と、負極集電体50上に配置され、負極活物質粒子を含んでなる負極活物質層52と、を備える。負極活物質層52は、負極集電体50上に形成される第1層52aと、第1層52a上に形成される第2層52bとを有する。第2層52bの圧縮弾性率は、第1層52aの圧縮弾性率より大きい。すなわち、負極活物質層52において、表面側の圧縮弾性率が大きく、負極集電体側の圧縮弾性率が小さい。そして、セパレータ38dの圧縮弾性率は、第1層52aの圧縮弾性率より小さい。また、弾性体40の圧縮弾性率は、セパレータ38dの圧縮弾性率より小さい。すなわち、圧縮弾性率は、表面側の第2層52b>負極集電体側の第1層52a>セパレータ38d>弾性体40の順である。したがって、上記の中では、表面側の第2層52bが最も変形し難く、弾性体40が最も変形しやすい。本実施形態では、上記のように、各部材の圧縮弾性率を規定することで、ハイレート充放電における抵抗増加を抑制することができる。このメカニズムは十分に明らかになっていないが、以下のことが考えられる。
【0036】
一般的に、非水電解質二次電池10の充放電により、電極体38が膨張及び収縮することにより、電極体38内の電解液が電極体38外へ押し出される。しかし、本実施形態では、負極活物質層52の表面側の第2層52bは、圧縮弾性率が高いため、非水電解質二次電池10の充放電に伴う、第2層52bの膨張収縮は抑えられる。また、第2層52bの膨張収縮が、第2層52bより圧縮弾性率の低い第1層52a(すなわち、第2層52bより変形しやすい第1層52a)によって吸収される。さらに、負極活物質層52の集電体側の第1層52aの膨張収縮は、第1層52aより圧縮弾性率の低いセパレータ38d(すなわち、第1層52aより変形しやすいセパレータ38d)によって吸収される。このような作用により、非水電解質二次電池10の充放電時に負極活物質層52から電解液が押し出されることが抑制される。また、負極活物質層52の膨張収縮によりセパレータ38dに係る応力は、セパレータ38dより圧縮弾性率の低い弾性体40により吸収されるため、セパレータ38dの潰れが抑制され、電極体38内での電解液の保持性が向上する。これらのことから、ハイレート充放電における抵抗増加が抑制される。
【0037】
圧縮弾性率は、サンプルに対して厚み方向に所定の荷重を印加したときのサンプルの厚み方向の変形量を圧縮面積で除して、サンプル厚みを乗ずることで算出される。即ち、以下の式:圧縮弾性率(MPa)=荷重(N)/圧縮面積(mm2)×(サンプルの変形量(mm)/サンプル厚み(mm))から算出される。負極活物質層52の圧縮弾性率を測定する場合は、負極集電体50の圧縮弾性率を測定し、負極集電体50上に第1層52aを形成したサンプル1の圧縮弾性率を測定し、負極集電体50上の第1層52a上に第2層52bを形成したサンプル2の圧縮弾性率を測定する。そして、負極集電体50とサンプル1の圧縮弾性率に基づいて、第1層52aの圧縮弾性率が算出され、サンプル1とサンプル2の圧縮弾性率に基づいて、第2層52bの圧縮弾性率が算出される。また、作製した負極38bから第1層52a及び第2層52bの圧縮弾性率を求める場合には、負極38bの圧縮弾性率を測定し、負極から第2層52bを削り取ったサンプル1の圧縮弾性率を測定し、次いで負極集電体50の圧縮弾性率を測定し、測定したこれらの圧縮弾性率に基づいて求めることができる。
【0038】
図5は、弾性体が筐体内に配置された状態を示す模式断面図である。弾性体40は前述したように非水電解質二次電池10と共に配列される場合、すなわち、筐体13の外に配置される場合に限定されず、筐体13の内部に配置されてもよい。
図5に示す弾性体40は、電極体38の積層方向(第1方向X)において、電極体38の両端に配置される。また、弾性体40は、筐体13の内壁と電極体38との間に挟まれている。
【0039】
非水電解質二次電池10の充放電等によって、電極体38が膨張すると、電極体38には、第1方向Xの外側へ向かう荷重が発生する。すなわち、筐体13内に配置された弾性体40は、電極体38から第1方向X(電極体の積層方向)に荷重をうける。そして、圧縮弾性率が、第1層52a>第2層52b>セパレータ38d>弾性体40の関係を満たしていれば、前述と同様の作用効果が得られる。
【0040】
筐体13内の弾性体40は、電極体38から電極体38の積層方向に荷重を受けることができれば、どこに配置されていてもよい。例えば、電極体38が
図6に示す円筒巻回型の電極体38であれば、弾性体40は、円筒巻回型の電極体38の巻き芯部39に配置されてもよい。なお、円筒巻回型の電極体38の積層方向は、電極体38の径方向(R)である。そして、電極体38の膨張収縮に伴い、電極体38には電極体38の積層方向(電極体38の径方向(R))に荷重が発生し、巻き芯部39内の弾性体40は電極体38の積層方向の荷重を受ける。また、図での説明は省略するが、筐体13内に複数の電極体38が配列されている場合には、隣り合う電極体38の間に弾性体40を配置してもよい。扁平巻回型場合においても同様に電極体の中心部に弾性体を配置してもよい。
【0041】
負極38bは、例えば、負極活物質粒子P1、後述するカーボンナノチューブ及び結着材等を含む第1の負極合材スラリーと、負極活物質粒子P2及び結着材等を含む第2の負極合材スラリーとを用いて作製される。具体的には、負極集電体50の表面に第1の負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させる。その後、第1の負極合材スラリーにより形成された第1塗膜の上に第2の負極合材スラリーを塗布し、第2塗膜を乾燥することにより、第1層52a及び第2層52bを有する負極活物質層52が負極集電体50上に形成された負極38bが得られる。第1層52a及び第2層52bの圧縮弾性率を調整する方法は、例えば、第1塗膜形成後及び第2塗膜作成後それぞれに圧延を施し、その圧延力を調製する方法が挙げられる。また、例えば、第1層52a及び第2層52bに使用する負極活物質の材質や物性を変えることによっても、圧縮弾性率を調整できる。なお、各層の圧力弾性率の調整は上記に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態では、負極集電体側の第1層52aを構成する負極活物質粒子P1は、黒鉛粒子を含む。そして、第1層52aに含まれる黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m2/gである。また、第1層52aには、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが0.01質量%~0.4質量%含まれる。ここで、グラフェンシートとは、グラファイト(黒鉛)の結晶を構成するsp2混成軌道の炭素原子が正六角形の頂点に位置する層のことを指す。グラフェンシートを1層有するカーボンナノチューブは、一般的に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と呼ばれ、グラフェンシートが1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。グラフェンシートを2層以上有するカーボンナノチューブは、一般的に多層カーボンナノチューブと呼ばれ、グラフェンシートが複数層、同心円状に積層して1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。
【0043】
上記のように、負極集電体側の第1層52aに含まれる黒鉛粒子のBET比表面積を1~2.5m2/gとし、また、第1層52aに、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブを0.01質量%~0.4質量%含ませることで、例えば、充放電により黒鉛粒子やカーボンナノチューブに形成される被膜の量が抑えられるため、被膜形成に起因する第1層52aの膨張が抑えられる。これにより、充放電サイクルに伴う第1層52aと負極集電体50との導電パスの切断が抑制され、充放電サイクルにおける容量低下が抑制される。一方、黒鉛粒子のBET比表面積が2.5m2/gを超えたり、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブの含有量が0.4質量%を超えたりすると、例えば、充放電により黒鉛粒子やカーボンナノチューブに形成される被膜の量が増えて、被膜形成に起因する第1層52aの膨張を十分に抑制することができない。その結果、第1層52aと負極集電体50との導電パスが切断されて、充放電サイクルにおける容量低下を十分に抑制することができない。黒鉛粒子のBET比表面積が1m2/g未満であったり、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブの含有量が0.01質量%未満であったりすると、第1層52aの導電性が低下し、非水電解質二次電池の容量低下に繋がる場合がある。
【0044】
第1層52aに含まれる黒鉛粒子のBET比表面積は1~2.5m2/gであればよいが、好ましくは1~2.2m2/gである。また、第1層52aに含まれるグラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブの含有量は、0.01質量%~0.4質量%であればよいが、好ましくは0.02~0.3質量%である。なお、第1層52aには、グラフェンシートを6層以上有するカーボンナノチューブを含んでいてもよいが、充放電サイクルにおける被膜形成による容量低下を抑制する点で、ほとんど含まないことが好ましく、第1層52aに対して0.01質量%以下であることが望ましいが、0.01質量%よりも小さい場合には、伝導性が低下し、非水電解質二次電池の容量低下に繋がる場合がある。また、第2層52bにもカーボンナノチューブ(単層や多層)が含まれていてもよい。
【0045】
第1層52aに含まれる黒鉛粒子は、平均粒径の異なる2種類の黒鉛粒子を含むことが好ましい。具体的には、一方の黒鉛粒子(A)の平均粒径は他方の黒鉛粒子(B)の平均粒径よりも大きく、一方の黒鉛粒子(A)の平均粒径に対する他方の黒鉛粒子(B)の平均粒径の比が0.3~0.5であることが好ましい。これにより、例えば、第1層52aの充填密度が高くなり、非水電解質二次電池の高容量化が図られる。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布において、体積積算値が50%となる体積平均粒径を意味する。
【0046】
また、第1層52aに含まれる黒鉛粒子は、粒子圧縮強度の異なる2種類の黒鉛粒子を含むことが好ましい。具体的には、一方の黒鉛粒子(C)の粒子圧縮強度は他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度よりも大きく、一方の黒鉛粒子(C)の粒子圧縮強度に対する他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度の比が0.2~0.6であり、他方の黒鉛粒子(D)の粒子圧縮強度は10MPa~35MPaであることが好ましい。これにより、例えば、第1層52aの充填密度が高くなり、非水電解質二次電池の高容量化が図られる。粒子圧縮強度は、例えば、島津製作所製微小圧縮試験機MCT-211にて測定することができる。具体的には、試料台に黒鉛粒子を置き、顕微鏡で粒子一粒の中心を狙い、20μmの径の圧子を負荷速度2.665mN/secで押し付け、破断した際の強度をN=10で測定し、その平均値を粒子圧縮強度とする。
【0047】
第1層52aに含まれる黒鉛粒子は、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。第1層52a中の黒鉛粒子の含有量は、例えば、85質量%以上が好ましく、90質量%以上が好ましい。また、第1層52aを構成する負極活物質粒子P1には、本開示の効果を損なわない範囲において、黒鉛粒子以外の負極活物質粒子が含まれていてもよい。
【0048】
第2層52bを構成する負極活物質粒子P2は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであればよく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素等の炭素材料、上記炭素材料の表面が非晶質炭素膜で覆われた表面修飾炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、Si、Sn等の金属元素を含む化合物などを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
非水電解質二次電池の高容量化を図る等の点で、負極活物質層52は、Siを含む化合物を含むことが好ましく、特にケイ素酸化物(SiOx)を含むことが好ましい。ケイ素酸化物(SiOx)は、第1層52aに含まれていてもよいし、第2層52bに含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。ケイ素酸化物(SiOx)の含有量は、非水電解質二次電池の高容量化を図る等の点で、負極活物質層52に対して1質量%~6質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0050】
ケイ素酸化物(SiOx)は、例えば、酸化ケイ素相中に微細なSi粒子が分散した構造を有する。好適なケイ素酸化物は、例えば、非晶質の酸化ケイ素のマトリックス中に微細なSi粒子が略均一に分散した海島構造を有し、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。Si粒子の含有率は、容量とサイクル特性の両立等の観点から、SiOxの総質量に対して35~75質量%が好ましい。
【0051】
第2層52bの空隙率は第1層52aの空隙率より大きいことが好ましい。これにより、負極活物質層52内への電解液の浸透性が高まり、例えば、ハイレート充放電における抵抗増加の抑制や充放電サイクルにおける容量低下の抑制に寄与する場合がある。ここで、第1層52a及び第2層52bの空隙率とは、各層の断面積に対する各層内の粒子間の空隙の面積の割合から求めた2次元値であり、例えば、以下の手順で求められる。
【0052】
(1)負極の一部を切り取り、イオンミリング装置(例えば、日立ハイテク社製、IM4000)で加工し、負極活物質層52の断面を露出させる。
(2)走査型電子顕微鏡を用いて、上記露出させた負極活物質層52の第1層52aの断面の反射電子像を撮影する。
(3)上記により得られた断面像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いて二値化処理を行い、断面像内の粒子断面を黒色とし、粒子間空隙及び粒子の内部空隙を白色として変換した二値化処理画像を得る。
(4)二値化処理画像から、測定範囲(50μm×50μm)における粒子間空隙の面積を算出する。上記測定範囲を、第1層52aの断面積(2500μm2=50μm×50μm)とし、算出した粒子間空隙の面積から、第1層52aの空隙率(粒子間空隙の面積×100/負極活物質層52の断面積)を算出する。負極活物質粒子P2の粒子内部空隙率及び第2層52bの空隙率も同様に測定する。
【0053】
第1層52a及び第2層52bの空隙率を調整する方法は、例えば、負極活物質層52の形成時の第1塗膜及び第2塗膜に掛ける圧延力を調製する方法が挙げられる。
【0054】
第2層52bの圧縮弾性率は、第2層52bの圧縮弾性率の1.2倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。上記範囲を満たすことで、例えば、ハイレート充放電における抵抗増加がより抑制される場合がある。
【0055】
負極活物質層52の厚みは、負極集電体50の片側で、例えば40μm~120μmであり、好ましくは50μm~90μmである。負極活物質層52の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により取得される負極38bの断面画像から計測される。
【0056】
負極集電体50には、負極38bの電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられ、例えば、銅等が挙げられる。
【0057】
正極38aは、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成される正極活物質層とを有する。正極集電体には、正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられ、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。正極活物質は、正極活物質粒子、導電材、及び結着材を含み、正極集電体の両面に設けられることが好ましい。正極38aは、例えば正極集電体上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極活物質層を正極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0058】
正極活物質は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物等が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。中でも、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有することが好ましい。好適な複合酸化物の一例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0059】
セパレータ38dは、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ38dの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ38dは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータ38dの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0060】
セパレータ38dの圧縮弾性率は、負極活物質層52の第1層52aの圧縮弾性率より小さければよいが、例えば、ハイレート充放電における抵抗増加を効果的に抑制する等の点で、第1層52aの圧縮弾性率の0.1倍~0.6倍であることが好ましく、0.15倍~0.5倍であることがより好ましい。セパレータ38dの圧縮弾性率は、例えば、材質の選択、空孔率や孔径等を制御することによって調整される。
【0061】
電解液は、例えば、有機溶媒(非水溶媒)中に支持塩を含有する非水電解液等である。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。支持塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0062】
弾性体40を構成する材料としては、例えば、天然ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の熱硬化性エラスマーや、ポリスチレン、オレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性エラストマー等が例示される。なお、これらの材料は、発泡されたものであってもよい。また、シリカキセロゲル等の多孔質材が担持された断熱材も例示される。
【0063】
弾性体40の圧縮弾性率は、セパレータ38dの圧縮弾性率より小さければよいが、例えば、ハイレート充放電における抵抗増加を効果的に抑制する等の点で、120MPa以下であることが好ましく、80MPa以下であることがより好ましい。
【0064】
弾性体40は、一面において均一な圧縮弾性率を示していてもよいが、以下で説明するように面内で変形し易さが異なる構造でもよい。
【0065】
図7は、弾性体の一例を示す模式斜視図である。
図7に示す弾性体40は、軟質部44と、硬質部42とを有する。硬質部42は、軟質部44より弾性体40の外縁部側に位置する。
図7に示す弾性体40では、第2方向Yにおける両端側に硬質部42が配置され、2つの硬質部42の間に軟質部44が配置された構造を有する。軟質部44は、第1方向Xから見て、筐体13の長側面の中心と重なるように配置され、電極体38の中心と重なるように配置されることが好ましい。また、硬質部42は、第1方向Xから見て、筐体13の長側面の外縁と重なるように配置され、電極体38の外縁と重なるように配置されることが好ましい。
【0066】
前述したように、非水電解質二次電池10の膨張は、主に電極体38の膨張によって引き起こされる。そして、電極体38は、中心に近いほど大きく膨張する。すなわち、電極体38は、中心に近いほど第1方向Xに大きく変位し、中心から外縁に向かうほど小さく変位する。また、この電極体38の変位に伴って、非水電解質二次電池10は、筐体13の長側面の中心に近い部分ほど第1方向Xに大きく変位し、筐体13の長側面の中心から外縁に向かうほど小さく変位する。したがって、
図7に示す弾性体40を筐体13内に配置する場合には、弾性体40は、電極体38の大きい変位によって生じる大きい荷重を軟質部44で受け、電極体38の小さい変位によって生じる小さい荷重を硬質部42で受けることができる。また、
図7に示す弾性体40を筐体13外に配置する場合には、弾性体40は、非水電解質二次電池10の大きい変位によって生じる大きい荷重を軟質部44で受け、非水電解質二次電池10の小さい変位によって生じる小さい荷重を硬質部42で受けることができる。
【0067】
図7に示す弾性体40は、第1方向Xに凹む凹部46を有する。凹部46に隣接する凹部非形成部は、非水電解質二次電池10又は電極体38から荷重を受けた際、一部分が凹部46側に変位することができる。したがって、凹部46を設けることで、凹部非形成部を変形し易くすることができる。ここで、軟質部44を硬質部42より変形し易くするために、第1方向Xから見て、軟質部44の面積に占める凹部46の面積の割合を硬質部42の面積に占める凹部46の面積の割合よりも大きくすることが好ましい。なお、
図7に示す弾性体40では、軟質部44のみに凹部46を配置しているが、硬質部42に凹部46を配置してもよい。
【0068】
凹部46は、芯部46aと、複数の線部46bとを含む。芯部46aは、円形であり、第1方向Xからみて弾性体40の中心に配置される。複数の線部46bは、芯部46aから放射状に広がる。線部46bが放射状に広がることにより、芯部46aに近いほど線部46bの占める割合が高くなり、凹部非形成部が少なくなる。したがって、芯部46aに近い領域ほど凹部非形成部がより変形しやすくなる。
【0069】
また、図での説明は省略するが、弾性体40は、前述の凹部46に代えて又は凹部46と共に、第1方向Xに弾性体40を貫通する複数の貫通孔を有していてもよい。貫通孔を設けることで、貫通孔非形成部を変形し易くすることができる。したがって、軟質部44を硬質部42より変形し易くするために、第1方向Xから見て、軟質部44の面積に占める貫通孔の面積の割合を硬質部42の面積に対する貫通孔の面積の割合より大きくすることが好ましい。
【0070】
以下に弾性体の他の例を説明する。
【0071】
図8は、電極体と筐体に挟まれた状態にある弾性体の一部模式断面図である。弾性体40は、電極体38から電極体38の積層方向(第1方向X)に荷重を受ける。弾性体40は、所定の硬さを有する硬質部42が形成された基材42aと、硬質部42よりも柔らかい軟質部44を有する。硬質部42は、基材42aから電極体38に向けて突出する突出部であり、所定以上の荷重を受けて破断又は塑性変形する。軟質部44はシート状であり、硬質部42が形成された基材42aより、電極体38側に配置される。但し、軟質部44は、電極体38とは離間している。軟質部44は、第1方向Xから見て、硬質部42と重なる位置に貫通孔44aを有し、貫通孔44aに、硬質部42が挿通され、硬質部42の先端が軟質部44から突出する。
【0072】
弾性体40は、硬質部42の形状が変化することで、電極体38からの荷重を硬質部42により受ける第1状態から、当該荷重を軟質部44により受ける第2状態に移行する。つまり、弾性体40は、最初に、電極体38の膨張による電極体38の積層方向の荷重を硬質部42により受ける(第1状態)。その後、何らかの原因で、電極体38の膨張量が増え、硬質部42で受けられない荷重が硬質部42に掛かると、硬質部42が破断又は塑性変形して、電極体38が軟質部44に接触し、電極体38の積層方向の荷重を軟質部44により受ける(第2状態)。
【0073】
なお、凹凸形状からなる弾性体の場合、圧縮弾性率は、圧縮弾性率(MPa)=荷重(N)/弾性体の面方向の投影面積(mm2)×(弾性体の変形量(mm)/弾性体の凸部までの厚み(mm))により算出される。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、一般式LiNi0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、97:2:1の固形分質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合材スラリーを調製した。次に、この正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧延した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を得た。
【0076】
[第1の負極合材スラリーの調製]
1.5m2/gのBET比表面積を有する黒鉛粒子と、SiOと、単層カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、88:12:0.01:1:1.5の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、第1の負極合材スラリーを調製した。
【0077】
[第2の負極合材スラリーの調製]
2.9m2/gのBET比表面積を有する黒鉛粒子と、SBRのディスパージョンと、CMC-Naとを、100:1:1.5の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、第2の負極合材スラリーを調製した。
【0078】
[負極の作製]
第1の負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥し、圧延した後、当該塗膜の上に第2の負極合材スラリーを塗布して塗膜を乾燥、圧延し、負極集電体上に、第1の負極合材スラリー由来の第1層及び第2の負極合材スラリー由来の第2層有する負極活物質層を形成した。これを所定の電極サイズに切断して負極を得た。第1及び第2の負極合材スラリーの塗布量を同じとし、厚さ160μm(負極集電体を除く)の負極活物質層を形成した。負極作製時に、第1層及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、700MPa及び900MPaであった。
【0079】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に、LiPF6を1.4mol/Lの濃度となるように溶解させて電解液を調製した。
【0080】
[非水電解質二次電池の作製]
負極、圧縮弾性率が120MPaのセパレータ、正極の順で複数積層した電極体を作成した。そして、負極及び正極を正極端子および負極端子に接続し、これを、アルミニウムラミネートで構成される外装体内に収容し、上記電解液を注入後、外装体の開口部を封止することにより、非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
作製した非水電解質二次電池を一対の弾性体(60MPaの圧縮弾性率を有する発泡ウレタン)で挟み、さらに、これらを一対のエンドプレートで挟んで固定することにより、二次電池モジュールを作製した。
【0082】
<実施例2>
第1の負極合材スラリーの調製において、1.5m2/gのBET比表面積を有する黒鉛粒子と、SiOと、単層カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、88:12:0.4:1:1.5の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池モジュールを作製した。負極作製時に、第1層及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、700MPa及び900MPaであった。
【0083】
<実施例3>
第1の負極合材スラリーの調製において、60MPaの粒子圧縮強度を有する黒鉛粒子と15MPaの粒子圧縮強度を有する黒鉛粒子とを6:4の質量比で混合した混合黒鉛粒子と、SiOと、単層カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、88:12:0.01:1:1.5の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池モジュールを作製した。上記混合黒鉛のBET比表面積を測定したところ、2.5m2/gであった。また、負極作製時に、第1及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、600MPa及び900MPaであった。
【0084】
<実施例4>
第1の負極合材スラリーの調製において、8μmの平均粒径を有する黒鉛粒子と18μmの平均粒径を有する黒鉛粒子とを4:6の質量比で混合した混合黒鉛粒子と、SiOと、単層カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、88:12:0.4:1:1.5の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に二次電池モジュールを作製した。上記混合黒鉛のBET比表面積を測定したところ、2.5m2/gであった。また、負極作製時に、第1及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、650MPa及び900MPaであった。
【0085】
<実施例5>
第1の負極合材スラリーの調製において、単層カーボンナノチューブを、グラフェンシートを5層有する多層カーボンナノチューブに代え、当該多層カーボンナノチューブを0.2質量%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様に二次電池モジュールを作製した。負極作製時に、第1層及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、700MPa及び900MPaであった。
【0086】
<実施例6>
第1の負極合材スラリーの調製において、単層カーボンナノチューブを、グラフェンシートを5層有する多層カーボンナノチューブに代えたこと以外は、実施例2と同様に二次電池モジュールを作製した。負極作製時に、第1層及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、700MPa及び900MPaであった。
【0087】
<比較例1>
第1の負極合材スラリーの調製において、4.5m2/gのBET比表面積を有する黒鉛粒子と、SiOと、グラフェンシートを5層有する多層カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、88:12:1:1:1.5の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。負極作製時に、第1及び第2層の圧縮弾性率を測定したところ、550MPa及び900MPaであった。
【0088】
作製した非水電解質二次電池を一対のエンドプレートで挟んで固定することにより、二次電池モジュールを作製した。すなわち、非水電解質二次電池とエンドプレートとの間に弾性体を配置しなかった。
【0089】
<比較例2>
比較例1で作製した非水電解質二次電池を一対の弾性体(60MPaの圧縮弾性率を有する発泡ウレタン)で挟み、さらに、これらを一対のエンドプレートで挟んで固定することにより、二次電池モジュールを作製した。
【0090】
[初期抵抗(IV抵抗)の測定]
各実施例及び各比較例の二次電池モジュールについて、初期抵抗を以下の条件で測定した。SOC60%の充電状態に調整した二次電池モジュールを、25℃の温度条件下において、2Cのレートで10秒間の定電流放電を行って、電圧降下量(V)を算出した。そして、電圧降下量の値(V)を、対応する電流値(I)で除してIV抵抗(mΩ)を算出し、その平均値を初期抵抗とした。
【0091】
[ハイレート充放電試験]
次いで、各実施例及び各比較例の二次電池モジュールについて、25℃の温度条件下において充放電を10サイクル繰り返す充放電サイクル試験を行い、該サイクル試験後の抵抗増加率を測定した。上記充放電サイクル試験は、1.5Cの充電レートで4300秒定電流充電を行い、その後10秒間休止し、次いで1.5Cの放電レートで4300秒の定電流放電を行い、その後10秒間休止する充放電を1サイクルとした。そして、上記充放電サイクル試験後の各二次電池モジュールの抵抗(IV抵抗)を上記初期抵抗の測定と同様の方法で測定し、抵抗増加率を算出し、その増加率が200%となるまで、上記の試験を繰り返した。そして、以下の評価基準に基づいて、ハイレート充放電における抵抗上昇の抑制効果を評価した。
〇:抵抗増加率が200%を超えるに要したサイクル数が80サイクル以上
×:抵抗増加率が200%を超えるのに要したサイクル数が80サイクル未満
【0092】
[充放電サイクル特性における容量維持率の測定]
各実施例及び各比較例の二次電池モジュールについて、25℃の温度条件下で、0.33Cの定電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電した後、0.33Cの定電流で電圧が3.0Vになるまで定電流放電した。この充放電サイクルを1000サイクル行い、以下の式により、各二次電池モジュールの充放電サイクルにおける容量維持率を求めた。なお、容量維持率が高いほど、充放電サイクルにおける容量低下が抑制されていることを示している。
容量維持率=(1000サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0093】
表1に、各実施例及び各比較例の試験結果を示す。
【0094】
【0095】
圧縮弾性率が、表面側の第2層>負極集電体側の第1層>セパレータ>弾性体の関係を満たし、第1層に含まれる黒鉛粒子のBET比表面積が1~2.5m2/gであり、第1層には、グラフェンシートを1層~5層有するカーボンナノチューブが、0.01質量%~0.4質量%含まれる実施例1~6はいずれも、上記要件を満たさない比較例1~2と比べて、充放電サイクルにおける容量維持率の低下及びハイレート充放電における抵抗増加が抑制された結果となった。
【符号の説明】
【0096】
1 二次電池モジュール、2 積層体、4 エンドプレート、6 拘束部材、8 冷却板、10 非水電解質二次電池、12 絶縁スペーサ、13 筐体、14 外装缶、16 封口板、18 出力端子、38 電極体、38a 正極、38b 負極、38d セパレータ、39 巻き芯部、40 弾性体、42 硬質部、42a 基材、44 軟質部、44a貫通孔、46 凹部、46a 芯部、46b 線部、50 負極集電体、52 負極活物質層、52a 第1層、52b 第2層。