IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7383511半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器
<>
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図1
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図2
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図3
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図4
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図5
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図6
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図7
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図8
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図9
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図10
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図11
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図12
  • -半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20231113BHJP
【FI】
H03M3/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020022145
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021129188
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】深澤 光弥
(72)【発明者】
【氏名】松井 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 俊
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118493(JP,A)
【文献】特開2018-182610(JP,A)
【文献】特表2009-531931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/00-9/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ回路で構成される第1アナログ積分器を有する第1ループフィルタと、前記第1ループフィルタの出力信号を量子化する第1量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される第1変調器と、
前記第1変調器の後段に接続され、第2量子化器を含む第2変調器と、
前記第1変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第1調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第2調整フィルタと、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第3調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第4調整フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第1量子化器の出力信号を、前記第1調整フィルタを介して観測することで前記第1変調器の伝達関数を探索する第1適応フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第2量子化器の出力信号を、前記第2調整フィルタを介して観測することで前記第2変調器の伝達関数を探索する第2適応フィルタと、
前記第1適応フィルタの探索結果と前記第2適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を備え、
前記第1量子化器の出力側は、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタに接続され、
前記第2量子化器の出力側は、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタに接続され、
前記第1調整フィルタの後段に接続され、前記第1調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第1割合に低減させる第1間引きブロックと、
前記第2調整フィルタの後段に接続され、前記第2調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第2割合に低減させる第2間引きブロックと、
前記第3調整フィルタの後段に接続され、前記第3調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第3割合に低減させる第3間引きブロックと、
前記第4調整フィルタの後段に接続され、前記第4調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第4割合に低減させる第4間引きブロックと、
をさらに備え、
前記第1適応フィルタは、前記第1割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記第2適応フィルタは、前記第2割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記ノイズキャンセル回路は、
前記第1量子化器の出力信号が前記第3調整フィルタ及び前記第3間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第2適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第1ノイズキャンセルフィルタと、
前記第2量子化器の出力信号が前記第4調整フィルタ及び前記第4間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第1適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第2ノイズキャンセルフィルタと、
前記第1ノイズキャンセルフィルタの出力信号と前記第2ノイズキャンセルフィルタの出力信号との差分を算出する第1ディジタル加減算器と、
を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記第1調整フィルタ及び前記第2調整フィルタは、低周波成分を通過させるローパスフィルタである、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1適応フィルタは、
前記プローブ信号に応じて、複数の係数探索用プローブ信号を生成する第1シフトレジスタと、
前記第1シフトレジスタによって生成された前記複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する第1探索部と、
を有し、
前記第2適応フィルタは、
前記プローブ信号に応じて、複数の係数探索用プローブ信号を生成する第2シフトレジスタと、
前記第2シフトレジスタによって生成された前記複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する第2探索部と、
を有する、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記プローブ信号は、1ビットの擬似ランダム信号である、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1ノイズキャンセルフィルタは、前記第3割合に対応させて、フィルタ処理を行い、
前記第2ノイズキャンセルフィルタは、前記第4割合に対応させて、フィルタ処理を行う、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1適応フィルタは、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第1変換部を有し、
前記第2適応フィルタは、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第2変換部をする、
請求項に記載の半導体装置。
【請求項7】
対象物へ送信波を送信し、複数のアンテナで受信した前記対象物からの反射波を、前記送信波を用いてダウンコンバートすることで、複数のビート信号を生成する高周波ユニットと、
前記複数のビート信号が入力されるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタからの前記複数のビート信号を処理するベースバンドユニットと、
を有するミリ波レーダを備えた半導体装置を用いたシステムであって、
前記ベースバンドユニットは、前記ローパスフィルタからの前記複数のビート信号をそれぞれディジタル信号に変換する複数の半導体装置を備え、
前記複数の半導体装置のそれぞれは、
アナログ回路で構成される第1アナログ積分器を有する第1ループフィルタと、前記第1ループフィルタの出力信号を量子化する第1量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号として前記ビート信号が入力される第1変調器と、
前記第1変調器の後段に接続され、第2量子化器を含む第2変調器と、
前記第1変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第1調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第2調整フィルタと、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第3調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第4調整フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第1量子化器の出力信号を、前記第1調整フィルタを介して観測することで前記第1変調器の伝達関数を探索する第1適応フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第2量子化器の出力信号を、前記第2調整フィルタを介して観測することで前記第2変調器の伝達関数を探索する第2適応フィルタと、
前記第1適応フィルタの探索結果と前記第2適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を備え、
前記第1量子化器の出力側は、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタに接続され、
前記第2量子化器の出力側は、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタに接続され、
前記複数の半導体装置のそれぞれは、さらに、
前記第1調整フィルタの後段に接続され、前記第1調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第1割合に低減させる第1間引きブロックと、
前記第2調整フィルタの後段に接続され、前記第2調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第2割合に低減させる第2間引きブロックと、
前記第3調整フィルタの後段に接続され、前記第3調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第3割合に低減させる第3間引きブロックと、
前記第4調整フィルタの後段に接続され、前記第4調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第4割合に低減させる第4間引きブロックと、
を備え、
前記第1適応フィルタは、前記第1割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記第2適応フィルタは、前記第2割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記ノイズキャンセル回路は、
前記第1量子化器の出力信号が前記第3調整フィルタ及び前記第3間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第2適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第1ノイズキャンセルフィルタと、
前記第2量子化器の出力信号が前記第4調整フィルタ及び前記第4間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第1適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第2ノイズキャンセルフィルタと、
前記第1ノイズキャンセルフィルタの出力信号と前記第2ノイズキャンセルフィルタの出力信号との差分を算出する第1ディジタル加減算器と、
を有する、半導体装置を用いたシステム。
【請求項8】
前記第1調整フィルタ及び前記第2調整フィルタは、低周波成分を通過させるローパスフィルタである、
請求項に記載の半導体装置を用いたシステム。
【請求項9】
前記第1適応フィルタは、
前記プローブ信号に応じて、複数の係数探索用プローブ信号を生成する第1シフトレジスタと、
前記第1シフトレジスタによって生成された前記複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する第1探索部と、
を有し、
前記第2適応フィルタは、
前記プローブ信号に応じて、複数の係数探索用プローブ信号を生成する第2シフトレジスタと、
前記第2シフトレジスタによって生成された前記複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する第2探索部と、
を有する、
請求項に記載の半導体装置を用いたシステム。
【請求項10】
前記プローブ信号は、1ビットの擬似ランダム信号である、
請求項に記載の半導体装置を用いたシステム。
【請求項11】
前記第1ノイズキャンセルフィルタは、前記第3割合に対応させて、フィルタ処理を行い、
前記第2ノイズキャンセルフィルタは、前記第4割合に対応させて、フィルタ処理を行う、
請求項に記載の半導体装置を用いたシステム。
【請求項12】
前記第1適応フィルタは、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第1変換部を有し、
前記第2適応フィルタは、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第2変換部をする、
請求項11に記載の半導体装置を用いたシステム。
【請求項13】
アナログ回路で構成される第1アナログ積分器を有する第1ループフィルタと、前記第1ループフィルタの出力信号を量子化する第1量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される第1変調器と、
前記第1変調器の後段に接続され、第2量子化器を含む第2変調器と、
前記第1変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第1調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第2調整フィルタと、
前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第3調整フィルタと、
前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第4調整フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第1量子化器の出力信号を、前記第1調整フィルタを介して観測することで前記第1変調器の伝達関数を探索する第1適応フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第2量子化器の出力信号を、前記第2調整フィルタを介して観測することで前記第2変調器の伝達関数を探索する第2適応フィルタと、
前記第1適応フィルタの探索結果と前記第2適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を備え、
前記第1量子化器の出力側は、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタに接続され、
前記第2量子化器の出力側は、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタに接続され、
前記第1調整フィルタの後段に接続され、前記第1調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第1割合に低減させる第1間引きブロックと、
前記第2調整フィルタの後段に接続され、前記第2調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第2割合に低減させる第2間引きブロックと、
前記第3調整フィルタの後段に接続され、前記第3調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第3割合に低減させる第3間引きブロックと、
前記第4調整フィルタの後段に接続され、前記第4調整フィルタによって前記周波数特性を調整された前記出力信号のデータレートを、所定の第4割合に低減させる第4間引きブロックと、
をさらに備え、
前記第1適応フィルタは、前記第1割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記第2適応フィルタは、前記第2割合に対応させて、前記伝達関数を探索し、
前記ノイズキャンセル回路は、
前記第1量子化器の出力信号が前記第3調整フィルタ及び前記第3間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第2適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第1ノイズキャンセルフィルタと、
前記第2量子化器の出力信号が前記第4調整フィルタ及び前記第4間引きブロックを介して入力されるディジタルフィルタであり、前記第1適応フィルタの探索結果に基づくタップ係数を備える第2ノイズキャンセルフィルタと、
前記第1ノイズキャンセルフィルタの出力信号と前記第2ノイズキャンセルフィルタの出力信号との差分を算出する第1ディジタル加減算器と、
を有する、アナログ・ディジタル変換器。
【請求項14】
前記第1調整フィルタ及び前記第2調整フィルタは、低周波成分を通過させるローパスフィルタである、
請求項13に記載のアナログ・ディジタル変換器。
【請求項15】
前記第1ノイズキャンセルフィルタは、前記第3割合に対応させて、フィルタ処理を行い、
前記第2ノイズキャンセルフィルタは、前記第4割合に対応させて、フィルタ処理を行う、
請求項13に記載のアナログ・ディジタル変換器。
【請求項16】
前記第1適応フィルタは、前記第1調整フィルタ及び前記第3調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第1変換部を有し、
前記第2適応フィルタは、前記第2調整フィルタ及び前記第4調整フィルタが調整する周波数特性に基づいて、前記タップ係数を変換する第2変換部をする、
請求項15に記載のアナログ・ディジタル変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載用途のミリ波レーダシステム等では、高分解能、広信号帯域及びロバストなアナログ・ディジタル変換器が必要とされる。このような要求を満たすアナログ・ディジタル変換器として、MASH型(カスケード型)のシグマデルタ(ΣΔ)アナログ・ディジタル変換器(デルタシグマ(ΔΣ)ADCとも呼ばれる)が知られている。
【0003】
特許文献1には、MASH型のΣΔアナログ・ディジタル変換器が記載されている。特許文献1のΣΔアナログ・ディジタル変換器は、第1及び第2の変調器と、プローブ信号生成回路と、第1及び第2の適応フィルタと、ノイズキャンセル回路とを有している。
【0004】
特許文献1のΣΔアナログ・ディジタル変換器において、第1の変調器は、アナログ回路で構成される第1のアナログ積分器と、第1のアナログ積分器の出力信号を量子化する第1の量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される。また、第2の変調器は、第1の変調器の後段に結合され、第2の量子化器を含む。そして、第1の適応フィルタは、プローブ信号に応じた第1の量子化器の出力信号を観測することで第1の変調器の伝達関数を探索し、第2の適応フィルタは、プローブ信号に応じた第2の量子化器の出力信号を観測することで第2の変調器の伝達関数を探索する。ノイズキャンセル回路は、第1及び第2の適応フィルタの探索結果を用いて第1の量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-182610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、伝達関数の探索技術によって、アナログ伝達関数の周波数特性に、ディジタルフィルタの周波数特性を合わせることができる。これにより、第1及び第2の変調器を構成するアナログ積分器に対して要求される特性を緩和することができる。よって、第1及び第2の変調器に要する消費電力を抑制することができる。
【0007】
しかしながら、第1及び第2の変調器を構成するアナログ積分器のRC素子のばらつき、アンプ利得不足及び帯域不足等の不完全性が大きくなると、第1の変調器の伝達関数H1D(f)及び第2の変調器の伝達関数H2D(f)を正確に表現するためのディジタルフィルタ係数規模が大幅に増加してしまう。そのため、アナログ積分器の消費電力削減以上に、ディジタル部の消費電力が増加してしまうと共に、ΣΔアナログ・ディジタル変換器を構成する回路の面積も大きく増加してしまう。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態によれば、半導体装置は、アナログ回路で構成される第1アナログ積分器を有する第1ループフィルタと、前記第1ループフィルタの出力信号を量子化する第1量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される第1変調器と、前記第1変調器の後段に接続され、第2量子化器を含む第2変調器と、前記第1変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、前記第1量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第1調整フィルタと、前記第2量子化器の出力信号の周波数特性を調整する第2調整フィルタと、前記プローブ信号に応じた前記第1量子化器の出力信号を、前記第1調整フィルタを介して観測することで前記第1変調器の伝達関数を探索する第1適応フィルタと、前記プローブ信号に応じた前記第2量子化器の出力信号を、前記第2調整フィルタを介して観測することで前記第2変調器の伝達関数を探索する第2適応フィルタと、前記第1適応フィルタの探索結果と前記第2適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
前記一実施の形態によれば、低消費電力化及び小面積化を実現する半導体装置、半導体装置を用いたシステム及びアナログ・ディジタル変換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1に係るADCを例示したブロック図である。
図2】比較例1に係るADCにおいて、初段変調器を例示したブロック図である。
図3】比較例1に係るADCにおいて、次段変調器を例示したブロック図である。
図4】比較例2に係るADCを例示したブロック図である。
図5】比較例2に係るADCにおいて、初段変調器を例示したブロック図である。
図6】実施形態1に係るADCを例示したブロック図である。
図7】実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタが有る場合及び無い場合の初段変調器の出力における量子化誤差の伝達特性を例示したグラフであり、横軸は、周波数を示し、縦軸は、伝達特性を示す。
図8】実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタが有る場合及び無い場合の次段変調器の出力における量子化誤差の伝達特性を例示したグラフであり、横軸は、周波数を示し、縦軸は、伝達特性を示す。
図9】実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタが有る場合及び無い場合の伝達特性H1Dの係数列を例示したグラフであり、横軸は、係数の番号を示し、縦軸は、係数値を示す。
図10】実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタが有る場合及び無い場合の伝達特性H2Dの係数列を例示したグラフであり、横軸は、係数の番号を示し、縦軸は、係数値を示す。
図11】実施形態2に係るADCを例示したブロック図である。
図12】実施形態3に係るADCを例示したブロック図である。
図13】実施形態4に係るADCを用いたシステムの主要部を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0013】
実施形態1~4に係るアナログ・ディジタル変換器(以下、ADCと呼ぶ。)を説明する。まず、実施形態1~4のADCを説明する前に、比較例1及び2に係るADCとその課題を説明する。これにより、実施形態1~4のADCをより明確にする。
【0014】
(比較例1)
比較例1に係るADCを説明する。比較例1のADCは、例えば、ミリ波レーザ受信部に用いられるADCである。図1は、比較例1に係るADCを例示したブロック図である。図2は、比較例1に係るADCにおいて、初段変調器を例示したブロック図である。図3は、比較例1に係るADCにおいて、次段変調器を例示したブロック図である。
【0015】
図1図3に示すように、比較例に係るADC101は、初段変調器SDM101、次段変調器SDM102、ノイズキャンセル回路CCN101を備えている。ADC101は、MASH型ΣΔADCである。ADC101は、アナログ信号となる外部入力信号VINが入力され、ディジタル信号となる外部出力信号DOUTを出力する。
【0016】
初段変調器SDM101は、ループフィルタLF1、量子化器QT1、ディジタル・アナログ変換回路DAC12を有している。ループフィルタLF1は、例えば、アナログ加減算器AS11、アナログ積分器ユニットINTU1、ディジタル・アナログ変換回路DAC11を含む。このように、ループフィルタLF1は、アナログ回路で構成されるアナログ積分器ユニットINTU1を含む。
【0017】
ループフィルタLF1において、ディジタル・アナログ変換回路DAC11は、量子化器QT1が出力したディジタル信号をアナログ信号に変換してアナログ加減算器AS11に出力する。アナログ加減算器AS11は、外部入力信号VINと、ディジタル・アナログ変換回路DAC11の出力との差分信号をアナログ積分器ユニットINTU1に出力する。ディジタル・アナログ変換回路DAC11及びDAC12は、ともに、量子化器QT1の出力信号をアナログ信号に変換する。
【0018】
量子化器QT1は、ループフィルタLF1の出力信号を量子化する。ここで、量子化器QT1では、量子化器QT1で加算されるような形で量子化誤差Qが生じる。当該量子化誤差Qは、ディジタル・アナログ変換回路DAC12の出力信号とループフィルタLF1の出力信号との差分信号によって抽出することができる。
【0019】
2段目の次段変調器SDM102は、ループフィルタLF2及び量子化器QT2を有している。ループフィルタLF2は、例えば、アナログ加減算器AS21、アナログ積分器ユニットINTU2及びディジタル・アナログ変換回路DAC21を含む。このように、ループフィルタLF2は、アナログ回路で構成されるアナログ積分器ユニットINTU2を含む。
【0020】
ループフィルタLF2において、ディジタル・アナログ変換回路DAC21は、量子化器QT2が出力したディジタル信号をアナログ信号に変換してアナログ加減算器AS21に出力する。アナログ加減算器AS21は、初段変調器SDM101における量子化誤差Qの抽出信号と、ディジタル・アナログ変換回路DAC21の出力信号との差分信号をアナログ積分器ユニットINTU2に出力する。
【0021】
量子化器QT2は、ループフィルタLF2の出力信号を量子化する。量子化器QT2でも、量子化器QT1の場合と同様に量子化誤差Qが生じる。
【0022】
ノイズキャンセル回路CCN101は、ノイズキャンセルフィルタNCF1、ノイズキャンセルフィルタNCF2及びディジタル加減算器DAS31を有している。ノイズキャンセルフィルタNCF1は、量子化器QT1の出力信号DSOが入力されるディジタルフィルタであり、ノイズキャンセルフィルタNCF2は、量子化器QT2の出力信号DSOが入力されるディジタルフィルタである。
【0023】
ディジタルフィルタは、例えば、複数のタップ係数によって所望のフィルタ特性を実現するFIR(Finite Impulse Response)フィルタや、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタ等である。ディジタル加減算器DAS31は、ノイズキャンセルフィルタNCF1の出力信号S11と、ノイズキャンセルフィルタNCF2の出力信号S12との差分(ここでは「S11-S12」)を算出し、算出した差分として、外部出力信号DOUTを出力する。
【0024】
ここで、図1に示すように、伝達関数H1A(f)を、「量子化誤差Qの印加点から初段変調器SDM101(量子化器QT1)の出力信号DSOまでの伝達関数」と定義する。図1の例では、伝達関数H1A(f)は、初段変調器SDM101の雑音伝達関数(Noise Transfer Function)NTFと一致する。また、伝達関数H2A(f)を、「量子化誤差Qの印加点から次段変調器SDM102(量子化器QT2)の出力信号DSOまでの伝達関数」と定義する。図1の例では、伝達関数H2A(f)は、次段変調器SDM102の信号伝達関数(Signal Transfer Function)STFと一致する。
【0025】
変調器SDM101の出力信号DSOは、「VIN・L1A+Q・H1A」となる。ここで、L1Aは、例えば、初段変調器SDM101の信号伝達関数STFである。次段変調器SDM102の出力信号DSOは、「Q・H2A+Q・L2A」となる。ここで、L2Aは、次段変調器SDM102の雑音伝達関数NTFである。ノイズキャンセルフィルタNCF1の伝達関数H2D(f)は、予め、伝達関数H2A(f)に設定され、ノイズキャンセルフィルタNCF2の伝達関数H1D(f)は、予め伝達関数H1A(f)に設定される。
【0026】
したがって、ノイズキャンセルフィルタNCF1の出力信号S11は、「VIN・L1A・H2A+Q・H1A・H2A」となり、ノイズキャンセルフィルタNCF2の出力信号S12は、「Q・H2A・H1A+Q・L2A・H1A」となる。
【0027】
その結果、外部出力信号DOUTにおいて、外部入力信号VINは、「STF・H2A(f)」の次数分(すなわち、アナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2のトータル積分次数分)だけ遅延して出力される。また、量子化誤差Qは、キャンセルされる。さらに、量子化誤差Qは、「NTF・H1A(f)」の次数分(トータル積分次数分)のノイズシェーピングによって低減される。
【0028】
例えば、ミリ波レーダシステム等では、高周波成分の入力ノイズが生じる場合がある。MASH(Multi-stAge noise-SHaping)型ΣΔADCは、非MASH型(単一ループ型)シグマデルタADCと比べて、外部入力信号VIN中に高周波成分が含まれていても安定に動作できる。すなわち、一般的に、ΣΔADCを高分解能化するには、積分器の次数を増やす必要がある。例えば、図1のMASH型ΣΔADCで4次を実現する場合には、アナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2のそれぞれを2次の積分器で構成すればよい。一方、非MASH型では、単一ループ内に4次の積分器が必要となり、その結果、外部入力信号VINに高周波成分が含まれるとループ動作が不安定になり易い。
【0029】
例えば、4次のMASH型ΣΔADCを用いた場合には、量子化誤差Qは、4次分のノイズシェーピングによって十分に無視できるレベルまで低減される。したがって、MASH型ΣΔADCでは、量子化誤差Qをキャンセルできる限り、高分解能化等が図れる。ただし、量子化誤差Qのキャンセルが不十分な場合には、残留する量子化誤差Qにより、分解能が低下してしまう。実際のアナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2では、ある理想状態を基準として各種特性ばらつきが生じ得る。特性ばらつきの要因として、連続時間型の積分器の場合では、RC(抵抗・コンデンサ)素子の製造ばらつき、オペアンプの利得不足、帯域不足等が挙げられる。
【0030】
これにより、図1の初段変調器SDM101の出力信号DSOにおける「H1A(f)・Q」は、実際には、「H1A_R(f)・Q」となる。伝達関数H1A_R(f)は、理想的な伝達関数H1A(f)に対する実際の伝達関数である。同様に、図1の次段変調器SDM102の出力信号DSOにおける「H2A(f)・Q」は、実際には、「H2A_R(f)・Q」となる。伝達関数H2A_R(f)は、理想的な伝達関数H2A(f)に対する実際の伝達関数である。一方、ノイズキャンセルフィルタNCF1,NCF2の伝達関数H2D(f)、H1D(f)は、予め設定された理想的な伝達関数H2A(f)、H1A(f)である。その結果、外部出力信号DOUTにおける量子化誤差Qのキャンセルが不十分となる場合がある。
【0031】
(比較例2)
次に、比較例2に係るADCを説明する。図4は、比較例2に係るADCを例示したブロック図である。図5は、比較例2に係るADCにおいて、初段変調器を例示したブロック図である。図4及び図5に示すように、比較例2に係るADC102は、初段調整器SDM1、次段調整器SDM2、ノイズキャンセル回路CCN102及びキャリブレーション回路を備える。つまり、前述の比較例1に係るADC101の構成に加えて、キャリブレーション回路を備える。キャリブレーション回路は、プローブ信号生成回路XGと、複数(ここでは2個)の適応フィルタAF1及びAF2を有している。適応フィルタAF1は、シフトレジスタSR1及び探索部TS1を含む。適応フィルタAF2は、シフトレジスタSR2及び探索部TS2を含む。
【0032】
初段変調器SDM1は、ループフィルタLF1、量子化器QT1、ディジタル・アナログ変換回路DAC12を有している。ループフィルタLF1は、例えば、アナログ加減算器AS11、アナログ積分器ユニットINTU1、DAC11を含む。本比較例の初段変調器SDM1は、図1の初段変調器SDM101と異なり、量子化器QT1の入力に挿入されるアナログ加減算器AS12と、その入力に結合されるディジタル・アナログ変換回路DAC13とを備える。
【0033】
一方、次段変調器SDM2の構成は、図1の次段変調器SDM102と同様であり、ループフィルタLF2、量子化器QT2を有している。ループフィルタLF2は、例えば、アナログ加減算器AS21、アナログ積分器ユニットINTU2、ディジタル・アナログ変換回路DAC21を含む。
【0034】
プローブ信号生成回路XGは、プローブ信号XPRNを生成する。プローブ信号XPRNは、例えば、擬似ランダム信号であり、望ましくは、1ビット(2値)の擬似ランダム信号である。プローブ信号XPRNは、初段変調器SDM1に入力される。例えば、プローブ信号XPRNは、DAC13を介してアナログ信号に変換されたのち、量子化器QT1の入力信号にアナログ加減算器AS12を介して注入される。また、プローブ信号XPRNは、ディジタル信号として、適応フィルタAF1及びAF2にも入力される。
【0035】
適応フィルタAF1は、プローブ信号XPRNに応じた初段変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号DSOを観測することで、初段変調器SDM1の実際の伝達関数を探索する。具体的には、シフトレジスタSR1は、注入されたプローブ信号XPRNに応じて、多数の係数探索用のプローブ信号z-k・XPRNを生成する。ここで、シフトレジスタSR1は、kを、0~K(K>100)まで変化させる。これにより、探索部TS1は、シフトレジスタSR1によって生成された複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する。具体的には、探索部TS1は、各係数を用いて、ノイズキャンセルフィルタNCF2の伝達関数H1D(f)が、アナログ特性の不完全性を含む初段変調器SDM1の雑音伝達関数NTFを示すH1A_R(f)と等しくなるような伝達関数係数を探索する。
【0036】
例えば、適応フィルタAF1は、プローブ信号XPRNに応じた初段変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号DSOと、適応フィルタAF1の出力信号との誤差を算出し、その算出結果となる誤差信号を生成する。適応フィルタAF1は、プローブ信号XPRNと当該誤差信号とに基づき、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いて適応フィルタAF1自身のフィルタ係数(タップ係数)を探索する。
【0037】
この際に、出力信号DSOは、プローブ信号XPRNの注入箇所と量子化誤差Qの印加点が実質的に等しいことから、前述した量子化誤差Qに対する実際の伝達関数H1A_R(f)を用いて、「H1A_R(f)・XPRN」の成分を含む。適応フィルタAF1の出力信号は、「H1D(f)・XPRN」である。出力信号DSOには、図1で述べたように、厳密には、量子化誤差Qの成分や、外部入力信号VINの成分も含まれている。ただし、量子化誤差Qや外部入力信号VINの成分は、適応フィルタAF1への入力信号という観点では無視することができる。適応フィルタAF1は、この出力信号DSOと適応フィルタAF1の出力信号との誤差を最小にするタップ係数を探索する。その結果、適応フィルタAF1の伝達関数H1D(f)は、伝達関数H1A_R(f)に収束する。
【0038】
同様に、適応フィルタAF2は、プローブ信号XPRNに応じた次段変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号DSOを観測することで、次段変調器SDM2の実際の伝達関数を探索する。具体的には、シフトレジスタSR2は、注入されたプローブ信号XPRNに応じて、多数の係数探索用のプローブ信号z-k・XPRNを生成する。ここで、シフトレジスタSR2は、kを、0~K(K>100)まで変化させる。これにより、探索部TS2は、シフトレジスタSR2によって生成された複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する。具体的には、探索部TS2は、各係数を用いて、ノイズキャンセルフィルタNCF1の伝達関数H2D(f)が、アナログ特性の不完全性を含む初段変調器SDM2の雑音伝達関数NTFを示すH2A_R(f)と等しくなるような伝達関数係数を探索する。
【0039】
例えば、適用フィルタAF2は、プローブ信号XPRNに応じた初段変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号DSOと、適応フィルタAF2の出力信号との誤差を算出し、その算出結果となる誤差信号を生成する。適応フィルタAF2は、プローブ信号XPRNと当該誤差信号とに基づき、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いて適応フィルタAF2自身のフィルタ係数(タップ係数)を探索する。
【0040】
この際に、出力信号DSOは、プローブ信号XPRNの注入箇所と量子化誤差Qの印加点が実質的に等しいことから、前述した量子化誤差Qに対する実際の伝達関数H2A_R(f)を用いて、「H2A_R(f)・XPRN」の成分を含む。適用フィルタAF2出力信号Sは、「H2D(f)・XPRN」である。出力信号DSOには、図1で述べたように、厳密には、量子化誤差Qの成分や、量子化誤差Qの成分も含まれている。ただし、量子化誤差Qや量子化誤差Qの成分は、適応フィルタAF2への入力信号という観点では無視することができる。適応フィルタAF2は、この出力信号DSOと適用フィルタAF2の出力信号との誤差を最小にするタップ係数を探索する。その結果、適応フィルタAF2の伝達関数H2D(f)は、伝達関数H2A_R(f)に収束する。
【0041】
ディジタル加減算器DAS31は、図1の場合と同様である。ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2の構成も、図1のノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2と同様である。ただし、図1の場合と異なり、ノイズキャンセルフィルタNCF1は、適応フィルタAF2の探索結果に基づくタップ係数(すなわち伝達関数H2A_R(f))を備え、ノイズキャンセルフィルタNCF2は、適応フィルタAF1の探索結果に基づくタップ係数(すなわち伝達関数H1A_R(f))を備える。
【0042】
これにより、外部出力信号DOUTにおいて、量子化誤差Qをキャンセルすることが可能になる。また、プローブ信号XPRNも、量子化誤差Qと同じ経路で伝送されるため、外部出力信号DOUTにおいてキャンセルされる。その結果、外部出力信号DOUTには、図1で説明したように、外部入力信号VINの成分と、ノイズシェーピングされた量子化誤差Qの成分とが含まれることになる。なお、プローブ信号XPRNは、例えば、±0.1といった1ビット(2値)のディジタル信号に定められ、ディジタル・アナログ変換回路DAC13は、基準電圧をVrefとして、当該プローブ信号XPRNを、「±0.1×Vref(V)」等の電圧信号に変換する。また、プローブ信号XPRNの注入は、外部入力信号SIのA/D変換処理と並行して(すなわちバックグラウンドで)行うことも可能である。
【0043】
このように、比較例2において、注入した1ビットのランダムなプローブ信号XPRNをプローブとして、適応フィルタAF1は、ノイズキャンセルフィルタNCF2の伝達関数H1D(f)が、アナログ特性の不完全性を含む初段変調器SDM1の雑音伝達関数NTFを示すH1A_R(f)と等しくなるように伝達関数係数を探索する。また、適応フィルタAF2は、ノイズキャンセルフィルタNCF1の伝達関数H2D(f)が、同じくアナログ特性の不完全性を含む次段変調器SDM2の信号伝達関数STFを示すH2A_R(f)と等しくなるように伝達関数係数を探索する。具体的には、探索部ST1及びTS2において、フィルタH1D(f)とH2D(f)の伝達関数係数を探索する。
【0044】
初段変調器SDM1及び次段変調器SDM2内のアナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2の特性変動に強く依存して、H1A_R(f)/H2A_R(f)は変動するが、この伝達関数探索技術によって、アナログ伝達関数の周波数特性にディジタルフィルタの周波数特性を良く合わせることが可能となる。その結果、アナログ積分器への特性要求緩和(不完全性の許容)が実質的に可能となり、消費電力の削減につながる。
【0045】
しかしながら、比較例2においては、アナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2の不完全性(例えば、RC素子ばらつき、アンプ利得及び帯域不足)が大きくなると、キャリブレーションに必要な論理規模が増大する。具体的には、H1D(f)/H2D(f)を正確に表現するためのディジタルフィルタ係数規模が大幅に増加してしまう。
【0046】
つまり、図4中に示すように、探索対象となるフィルタ係数kが100個以上(k>100)必要となり、シフトレジスタSR1及びSR2で多数の各係数用プローブ信号Z-k・XPRNを生成し、それらすべてを探索処理する必要性が生じる。そのため、アナログ部の消費電力削減以上にディジタル部の消費電力が増加してしまう。それと共に、面積も大きく増加してしまう。また、MASH CT(Continuous-Time)ΔΣADCとして広帯域化(高速化)を実現しようとする際にも、ディジタル部の消費電力増加が支配的となり、高速性と低電力性の両立が困難となる。
【0047】
(実施形態1)
次に、実施形態1に係るADCを説明する。図6は、実施形態1に係るADCを例示したブロック図である。図6に示すように、本実施形態に係るADC1は、初段変調器SDM1、次段変調器SDM2、ノイズキャンセル回路CCN1、プローブ信号生成回路XG、複数(ここでは2個)の適応フィルタAF1及びAF2、調整フィルタCF1及びCF2を備える。
【0048】
本実施形態のADC1は、比較例2のADC102に比べて、周波数特性調整用の調整フィルタCF1及びCF2をさらに備えている。ADC1は、MASH型ΣΔADCである。ADC1は、アナログ信号となる外部入力信号VINが入力され、ディジタル信号となる外部出力信号DOUTを出力する。例えば、ADC1は、半導体装置として、半導体基板に形成されてもよい。
【0049】
初段変調器SDM1は、比較例2の初段変調器SDM1と同様の構成である。初段変調器SDM1は、アナログ回路で構成されるアナログ積分器ユニットINTU1を有するループフィルタLF1と、ループフィルタLF1の出力信号を量子化する量子化器QT1とを含む。初段変調器SDM1は、アナログ信号となる外部入力信号が入力される。初段変調器SDM1の量子化器QT1において生じる量子化誤差Qは、ループフィルタLF1の出力及び量子化器QT1の入力から取り出される。
【0050】
次段変調器SDM2は、比較例2の次段変調器SDM202と同様の構成である。次段変調器SDM2は、初段変調器SDM1の後段に接続されている。次段変調器SDM2は、複数のアナログ積分器ユニットを含むループフィルタLF2と量子化器QT2とを含む。次段変調器SDM2には、量子化誤差Qが入力される。
【0051】
調整フィルタCF1は、初段変調器SDM1における量子化器QT1の出力に接続されている。調整フィルタCF1には、量子化器QT1から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF1は、量子化器QT1の出力信号DSOの周波数特性を調整する。例えば、調整フィルタCF1は、低周波成分を通過させるローパスフィルタである。なお、調整フィルタCF1は、ローパスフィルタに限らず、他の周波数成分を調整してもよい。調整フィルタCF1は、ノイズキャンセルフィルタNCF1及び適応フィルタAF1の探索部TS1に接続されている。調整フィルタCF1は、調整した出力信号DSOFをノイズキャンセルフィルタNCF1及び適応フィルタAF1の探索部TS1に出力する。
【0052】
調整フィルタCF2は、次段変調器SDM2における量子化器QT2の出力に接続されている。調整フィルタCF2には、量子化器QT2から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF2は、量子化器QT2の出力信号DSOの周波数特性を調整する。例えば、調整フィルタCF2は、低周波成分を通過させるローパスフィルタである。なお、調整フィルタCF2は、ローパスフィルタに限らず、他の周波数成分を調整してもよい。調整フィルタCF2は、ノイズキャンセルフィルタNCF2及び適応フィルタAF2の探索部TS2に接続されている。調整フィルタCF2は、調整した出力信号DSOFをノイズキャンセルフィルタNCF2及び適応フィルタAF2の探索部TS2に出力する。
【0053】
プローブ信号生成回路XGは、プローブ信号XPRNを生成する。プローブ信号生成回路XGは、初段調整器SDM1に接続されている。プローブ信号生成回路XGは、生成したプローブ信号XPRNを初段変調器SDM1に注入する。例えば、図5に示すように、プローブ信号XPRNは、初段変調器SDM1のDAC13を介してアナログ信号に変換されたのち、量子化器QT1の入力信号にアナログ加減算器AS12を介して注入される。また、プローブ信号生成回路XGは、適応フィルタAF1及びAF2に接続されている。プローブ信号生成回路XGは、生成したプローブ信号XPRNを適応フィルタAF1及びAF2に注入する。プローブ信号XPRNは、例えば、比較例2と同様に、擬似ランダム信号であり、望ましくは、1ビット(2値)の擬似ランダム信号である。
【0054】
適応フィルタAF1は、調整フィルタCF1の出力に接続されている。適応フィルタAF1は、プローブ信号XPRNに応じた量子化器QT1の出力信号DSOを、調整フィルタCF1を介して出力信号DSOFを観測することで、初段変調器SDM1の伝達関数を探索する。適応フィルタAF1は、シフトレジスタSR1及び探索部TS1を有している。シフトレジスタSR1は、注入されたプローブ信号XPRNに応じて、多数の係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを生成する。これにより、探索部TS1は、シフトレジスタSR1によって生成された複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する。具体的には、探索部TS1は、各係数を用いて、ノイズキャンセルフィルタNCF2の伝達関数H1D(f)が、アナログ特性の不完全性を含む初段変調器SDM1の雑音伝達関数NTFを示すH1A_R(f)と等しくなるような伝達関数係数を探索する。
【0055】
適応フィルタAF2は、調整フィルタCF2の出力に接続されている。適応フィルタAF2は、プローブ信号XPRNに応じた量子化器QT2の出力信号DSOを、調整フィルタCF2を介して出力信号DSOFを観測することで、次段変調器SDM2の伝達関数を探索する。適応フィルタAF2は、シフトレジスタSR2及び探索部TS2を有している。シフトレジスタSR2は、注入されたプローブ信号XPRNに応じて、多数の係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを生成する。これにより、探索部TS2は、シフトレジスタSR2によって生成された複数の係数探索用プローブ信号を用いて、探索対象となるタップ係数を探索する。具体的には、探索部TS2は、各係数を用いて、ノイズキャンセルフィルタNCF1の伝達関数H2D(f)が、アナログ特性の不完全性を含む初段変調器SDM2の雑音伝達関数NTFを示すH2A_R(f)と等しくなるような伝達関数係数を探索する。
【0056】
ノイズキャンセル回路CCN1は、ADC1の量子化誤差をキャンセルする。ノイズキャンセル回路CCN1は、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2、ディジタル加減算器DAS31を有する。例えば、ノイズキャンセル回路CCN1は、適応フィルタAF1の探索結果と適応フィルタAF2の探索結果とを用いて量子化器QT1で生じる量子化誤差Qをキャンセルする。
【0057】
ノイズキャンセルフィルタNCF1は、量子化器QT1の出力信号DSOが調整フィルタCF1を介して入力されるディジタルフィルタである。ノイズキャンセルフィルタNCF1は、適応フィルタAF2の探索結果に基づくタップ係数を備えている。ノイズキャンセルフィルタNCF2は、量子化器QT2の出力信号DSOが調整フィルタCF2を介して入力されるディジタルフィルタである。ノイズキャンセルフィルタNCF2は、適応フィルタAF1の探索結果に基づくタップ係数を備えている。
【0058】
ディジタル加減算器DAS31は、ノイズキャンセルフィルタNCF1の出力信号S11とノイズキャンセルフィルタNCF2の出力信号S12との差分を算出する。ディジタル加減算器DAS31は、算出した差分を外部出力信号DOUTとして出力する。
【0059】
このように、本実施形態のADCは、比較例2のADC102の構成に対して、調整フィルタCF1及びQT2を初段調整器SDM1及び次段調整器SDM2の出力に加えている。
【0060】
例えば、初段調整器SDM1及び次段調整器SDM2において、アナログ積分器ユニットINTU1及びINTU2におけるRC素子のバラツキ、アンプ利得不足及び帯域不足等の不完全性が大きくなると、高周波数領域での特性が過剰増幅(ピーキング)してしまう場合がある。
【0061】
図7は、実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタCF1及びCF2が有る場合並びに無い場合の初段変調器SDM1の出力における量子化誤差Qの伝達特性を例示したグラフであり、横軸は、周波数を示し、縦軸は、伝達特性を示す。図8は、実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタCF1及びCF2が有る場合並びに無い場合の次段変調器SDM2の出力における量子化誤差Qの伝達特性を例示したグラフであり、横軸は、周波数を示し、縦軸は、伝達特性を示す。調整フィルタCF1及びCF2が無い場合は、比較例2のADC102に相当する。
【0062】
図9は、実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタCF1及びCF2が有る場合並びに無い場合の伝達特性H1Dの係数列を例示したグラフであり、横軸は、係数の番号を示し、縦軸は、係数値を示す。図10は、実施形態1に係るADCにおいて、調整フィルタCF1及びCF2が有る場合並びに無い場合の伝達特性H2Dの係数列を例示したグラフであり、横軸は、係数の番号を示し、縦軸は、係数値を示す。調整フィルタCF1及びCF2が無い場合は、比較例2のADC102に相当する。
【0063】
図7及び図8に示すように、調整フィルタCF1及びCF2が無い場合には、高周波数領域での特性が過剰増幅(ピーキング)している。例えば、周波数が200MHz以上において、H1D特性及びH2D特性が急激に増幅する。このような過剰増幅が発生する状態においては、図9及び図10に示すように、H1D(f)/H2D(f)を正確に表現するためのディジタルフィルタ係数が発振に近い振る舞いをする。これにより、深い次数まで無視できない大きさの係数値を持つようになる。そのため、ディジタルフィルタとして必要な係数の規模が大幅に増加してしまう。例えば、係数k>100となる。
【0064】
この結果、探索部TS1及びTS2やノイズキャンセルフィルタNCF1及び2の論理規模が増加してしまい、アナログ部以上にディジタル部の面積、消費電力が大きくなってしまう。
【0065】
これに対して、図7及び図8に示すように、調整フィルタCF1及びCF2が有る場合には、例えば、調整フィルタCF1及びCF2の特性を、ローパスフィルタとすることで、伝達関数の周波数特性の変動、特に、高周波数成分の増大を抑制することができる。
【0066】
そして、図9及び図10に示すように、高周波数成分を抑制することにより、H1D(f)/H2D(f)を表現するために必要なディジタルフィルタ係数は大きい次数で0に近づく。このため、大きい次数のディジタルフィルタ係数を省略できる。よって、係数規模を著しく削減できる。例えば、係数k<30にすることができる。したがって、ディジタル部の面積の増加を抑制するとともに、消費電力を削減することができる。
【0067】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係るADCを説明する。本実施形態のADCは、調整フィルタCF1及びCF2の出力側に、間引きブロックを設けている。図11は、実施形態2に係るADCを例示したブロック図である。
【0068】
図11に示すように、本実施形態のADC2は、初段変調器SDM1、次段変調器SDM2、ノイズキャンセル回路CCN1、プローブ信号生成回路XG、複数の適応フィルタAF1及びAF2、調整フィルタCF1及びCF2に加えて、複数の間引きブロックMB1を備えている。複数の間引きブロックMB1は、調整フィルタCF1及び調整フィルタCF2の各後段に接続されている。間引きブロックMB1は、調整フィルタCF1及びCF2によって周波数特性が調整された出力信号DSOF及びDSOFのデータレートを所定の割合に低減させる。所定の割合は、例えば、1/Mである。
【0069】
この際に、適応フィルタAF1及びAF2は、所定の割合に対応させて、伝達関数を探索する。具体的には、探索部TS1及びTS2が係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを1/Mで間引いたデータレートで受け取るように、シフトレジスタSR1及びSR2において生成された係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを、1/Mで間引く。
【0070】
このような構成とすることにより、例えば、初段変調器SDM1及び次段変調器SDM2、調整フィルタCF1及びCF2、並びに、シフトレジスタSR1及びSR2が40MHzで動作する場合に、M=4とすると、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2並びに探索部TS1及びTS2は、10MHzで動作する。
【0071】
本実施形態によれば、調整フィルタCF1及びCF2の出力、並びに、シフトレジスタSR1及びSR2の出力に対して、1/Mのデータの間引き処理を実施することで、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2、並びに、探索部TS1及びTS2の動作レートを1/Mに低減することができる。これにより、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2、並びに、探索部TS1及びTS2の占有する面積及び消費電力を低減することができる。なお、データの間引きによって生じる高周波成分の折り返しによる影響は、調整フィルタCF1及びCF2を、例えば、ローパスフィルタ等にすることで低減することができる。これ以外の構成、動作及び効果は、実施形態1の記載に含まれている。
【0072】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係るADCを説明する。本実施形態のADCにおいて、調整フィルタは、ノイズキャンセルフィルタ用と、探索部用とに分かれている。図12は、実施形態3に係るADCを例示したブロック図である。
【0073】
図12に示すように、本実施形態のADC3は、初段変調器SDM1、次段変調器SDM2、ノイズキャンセル回路CCN1、プローブ信号生成回路XG、複数の適応フィルタAF1及びAF2、複数の調整フィルタCF1、CF2、CF3及びCF4、並びに、複数の間引きブロックMB1、MB2、MB3及びMB4を備えている。初段変調器SDM1における量子化器QT1の出力側は、調整フィルタCF1及びCF3に接続されている。次段変調器SDM2における量子化器QT2の出力側は、調整フィルタCF2及びCF4に接続されている。
【0074】
調整フィルタCF1は、初段変調器SDM1における量子化器QT1の出力に接続されている。調整フィルタCF1には、量子化器QT1から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF1は、量子化器QT1の出力信号DSOの周波数特性を調整する。調整フィルタCF1は、間引きブロックMB1に接続されている。調整フィルタCF1は、調整した出力信号を間引きブロックMB1に出力する。
【0075】
間引きブロックMB1は、調整フィルタCF1の後段に接続されている。間引きブロックMB1は、調整フィルタCF1によって周波数特性が調整された出力信号のデータレートを所定の割合に低減させる。所定の割合は、例えば、1/Nである。間引きブロックMB1は、間引いた出力信号を適応フィルタAF1の探索部TS1に出力する。
【0076】
この際に、適応フィルタAF1は、所定の割合(1/N)に対応させて、伝達関数を探索する。具体的には、探索部TS1が係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを1/Nで間引いたデータレートで受け取るために、シフトレジスタSR1において生成されたプローブ信号z-j・XPRNを、1/Nで間引く。
【0077】
調整フィルタCF2は、次段変調器SDM2における量子化器QT2の出力に接続されている。調整フィルタCF2には、量子化器QT2から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF2は、量子化器QT2の出力信号DSOの周波数特性を調整する。調整フィルタCF2は、間引きブロックMB2に接続されている。調整フィルタCF2は、調整した出力信号を間引きブロックMB2に出力する。
【0078】
間引きブロックMB2は、調整フィルタCF2の後段に接続されている。間引きブロックMB2は、調整フィルタCF2によって周波数特性が調整された出力信号のデータレートを所定の割合に低減させる。所定の割合は、例えば、1/Nである。間引きブロックMB2は、間引いた出力信号を適応フィルタAF2の探索部TS2に出力する。
【0079】
この際に、適応フィルタAF2は、所定の割合(1/N)に対応させて、伝達関数を探索する。具体的には、探索部TS2が係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを1/Nで間引いたデータレートで受け取るために、シフトレジスタSR2において生成された係数探索用のプローブ信号z-j・XPRNを、1/Nで間引く。
【0080】
調整フィルタCF3は、初段変調器SDM1における量子化器QT1の出力に接続されている。調整フィルタCF3には、量子化器QT1から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF3は、量子化器QT1の出力信号DSOの周波数特性を調整する。調整フィルタCF3は、間引きブロックMB3に接続されている。調整フィルタCF3は、調整した出力信号を間引きブロックMB3に出力する。
【0081】
間引きブロックMB3は、調整フィルタCF3の後段に接続されている。間引きブロックMB3は、調整フィルタCF3によって周波数特性が調整された出力信号のデータレートを所定の割合に低減させる。所定の割合は、例えば、1/Nである。間引きブロックMB3は、間引いた出力信号をノイズキャンセルフィルタNCF1に出力する。
【0082】
調整フィルタCF4は、次段変調器SDM2における量子化器QT2の出力に接続されている。調整フィルタCF4には、量子化器QT2から出力された出力信号DSOが入力されている。調整フィルタCF4は、量子化器QT2の出力信号DSOの周波数特性を調整する。調整フィルタCF4は、間引きブロックMB4に接続されている。調整フィルタCF4は、調整した出力信号を間引きブロックMB4に出力する。
【0083】
間引きブロックMB4は、調整フィルタCF4の後段に接続されている。間引きブロックMB4は、調整フィルタCF4によって周波数特性が調整された出力信号のデータレートを所定の割合に低減させる。所定の割合は、例えば、1/Nである。間引きブロックMB4は、間引いた出力信号をノイズキャンセルフィルタNCF2に出力する。
【0084】
適応フィルタ1は、変換部HK1を有している。変換部HK1は、調整フィルタCF1及び調整フィルタCF3が調整する周波数特性に基づいて、タップ係数を変換する。変換部HK1は、変換したタップ係数をノイズキャンセルフィルタNCF2に出力する。
【0085】
適応フィルタ2は、変換部HK2を有している。変換部HK2は、調整フィルタCF2及び調整フィルタCF4が調整する周波数特性に基づいて、タップ係数を変換する。変換部HK2は、変換したタップ係数をノイズキャンセルフィルタNCF1に出力する。
【0086】
ノイズキャンセルフィルタNCF1は、量子化器QT1の出力信号が調整フィルタCF3及び間引きブロックMB3を介して入力されるディジタルフィルタである。ノイズキャンセルフィルタNCF1は、適応フィルタAF2の探索結果に基づくタップ係数を備えている。ノイズキャンセルフィルタNCF1は、所定の割合(1/N)に対応させて、フィルタ処理を行う。
【0087】
ノイズキャンセルフィルタNCF2は、量子化器QT2の出力信号が調整フィルタCF4及び間引きブロックMB4を介して入力されるディジタルフィルタである。ノイズキャンセルフィルタNCF2は、適応フィルタAF1の探索結果に基づくタップ係数を備えている。ノイズキャンセルフィルタNCF2は、所定の割合(1/N)に対応させて、フィルタ処理を行う。
【0088】
ディジタル加減算器DAS31は、ノイズキャンセルフィルタNCF1の出力信号S11とノイズキャンセルフィルタNCF2の出力信号S12との差分を算出する。ディジタル加減算器DAS31は、算出した差分を外部出力信号DOUTとして出力する。
【0089】
前述の実施形態2のADC2において、調整フィルタCF1及びCF2は、多くの場合に、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2の低速動作化及び外部出力信号DOUTにおける所望の変換精度(ノイズ特性)が得られるように、できる限り急峻な高次のフィルタであることが望ましい。
【0090】
しかしながら、急峻な高次のフィルタを用いた場合に、適応フィルタAF1及びAF2の探索部TS1及びTS2においては、探索に必要な高周波数成分を除去し過ぎてしまい、むしろ探索精度を劣化させてしまう可能性がある。つまり、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2と探索部TS1及びTS2とで、前置フィルタとなる調整フィルタCF1及びCF2に要求する特性が異なる場合がある。
【0091】
本実施形態のADC3は、調整フィルタを、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2用と、探索部TS1及びTS2用とで分けている。このような構成とすることにより、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2、並びに、探索部TS1及びTS2に対して、個別のレート(N、N、N、N)で間引きを実施することができる。よって、各間引きブロックMB1~MB4を任意の速度で動作させることができる。
【0092】
なお、調整フィルタCF1~CF4を分離したことで生じるノイズキャンセルフィルタNCF1及びCF2と、探索部TS1及びTS2の伝達関数の差異を補完するために、係数を変換する変換部HK1及びHK2を追加する。このように、実施形態3のADC3の構成とすることにより、伝達関数の探索精度を確保しつつ、ノイズキャンセルフィルタNCF1及びNCF2の実装コスト(面積、消費電流)を低減することができる。
【0093】
(実施形態4)
次に、実施形態4に係るADCを用いたシステムを説明する。上述した実施形態1~3のADCは、例えば、ミリ波レーダシステムに適用することができる。なお、実施形態1~3のADCの適用例は、ミリ波レーダシステムに限らない。図13は、実施形態に係るADCを用いたシステムの主要部を例示したブロック図である。
【0094】
図13に示すように、本実施形態のミリ波レーダシステムは、ベースバンドユニットBBUと、高周波ユニットRFUと、ローパスフィルタLPFと、送信アンテナANTtと、n個(nは1以上の整数)の受信アンテナANTr[1]~ANTr[n]とを備える。高周波ユニットRFUは、高周波帯域での各種信号処理を行い、送信回路として、変調器MOD、発振器OSCおよびパワーアンプPAを備え、受信回路として、n個のミキサMIX[1]~MIX[n]およびn個のアンプIA[1]~IA[n]を備える。
【0095】
ベースバンドユニットBBUは、例えば、マイクロコントローラ等の1個の半導体チップで構成され、ベースバンドでの各種信号処理を行う。ベースバンドユニットBBUは、n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]~ADC[n]と、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Ramdom Access Memory)と、ディジタル・アナログ変換器DACUと、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリNVMとを備える。
【0096】
変調器MODおよび発振器OSCは、ベースバンドユニットBBUからの制御に基づき、周波数変調された送信波(FM-CW方式の送信波)や、または、周波数が異なる2個の送信波(2周波CW方式の送信波)等を生成する。当該送信波は、例えば、60GHz帯や76GHz帯といった周波数を備え、パワーアンプPAを介して送信アンテナANTtから送信される。
【0097】
一方、送信アンテナANTtから送信された送信波は、対象物で反射されたのち、n個の受信アンテナANTr[1]~ANTr[n]で受信される。n個のミキサMIX[1]~MIX[n]は、それぞれ、受信アンテナANTr[1]~ANTr[n]で受信された受信波(反射波)を、発振器OSCからの送信波を用いてダウンコンバートすることでn個のビート信号を出力する。このn個のビート信号は、ローパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)LPFを介してベースバンドユニットBBUのn個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]~ADC[n]にそれぞれ入力される。
【0098】
n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]~ADC[n]には、実施形態1~3のADCを用いることができる。実施形態1~3のADCは、MASH型及びΣΔ型の構成を備え、ローパスフィルタLPFからの複数のビート信号をそれぞれディジタル信号に変換する。ベースバンドユニットBBUは、アナログ・ディジタル変換器ADC[1]~ADC[n]からのディジタル信号をCPU等を用いて処理することで、対象物との距離や相対速度等を検出する。
【0099】
このようなミリ波レーダシステムは、自動車や医療装置等を代表に、様々な分野で用いられる。また、レーダとしての性能を向上させるため、n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]~ADC[n]は、高分解能(つまり、広ダイナミックレンジ)かつ広信号帯域であることが求められる。実施形態1~3のADCは、このような要求を満たすことができる。
【0100】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、実施形態1~4の各構成を組み合わせたものも、技術的思想の範囲である。
【符号の説明】
【0101】
1、2、3 ADC
101、102 ADC
AF1、AF2 適応フィルタ
AS11、AS12、AS21 アナログ加減算器
CF1、CF2、CF3、CF4 調整フィルタ
CCN101、CCN102、CCN1 ノイズキャンセル回路
DAC11、DAC12、DAC13、DAC21 ディジタル・アナログ変換回路
DAS31 ディジタル加減算器
HK1、HK2 変換部
INTU1、INTU2 アナログ積分器ユニット
LF1、LF2 ループフィルタ
MB1、MB2、MB3、MB4 間引きブロック
NCF1、NCF2 ノイズキャンセルフィルタ
QT1、QT2 量子化器
SDM101、SDM1 初段変調器
SDM102、SDM2 次段変調器
SR1、SR2 シフトレジスタ
TS1、TS2 探索部
XG プローブ信号生成回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13