(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】膜-電極複合体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20231113BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/96 M
(21)【出願番号】P 2020029610
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 一也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦仁
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/056615(WO,A1)
【文献】特開平08-167416(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0106552(KR,A)
【文献】特開2000-188123(JP,A)
【文献】特開2018-101541(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062356(WO,A1)
【文献】特許第7158487(JP,B2)
【文献】特開2016-157653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面と第2の表面を持つイオン交換膜の少なくとも1つの表面に、炭素シート電極の少なくとも一部が接着した積層体であり、
前記炭素シート電極は、炭素繊維を構成要素として含む2片以上の炭素シートから形成され
、
前記炭素シート電極と前記イオン交換膜との接着面において、該イオン交換膜への該炭素シート電極の埋め込み深度が5μm以下である
ことを特徴とする、膜-電極複合体。
【請求項2】
前記第1の表面及び前記第2の表面に、前記炭素シート電極が接着した積層体である、請求項1に記載の膜-電極複合体。
【請求項3】
前記炭素シート電極において、前記イオン交換膜と対向している表面の30%以上が前記イオン交換膜に接着している、請求項1又は2に記載の膜-電極複合体。
【請求項4】
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙が10mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の膜-電極複合体。
【請求項5】
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙割合が5%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の膜-電極複合体。
【請求項6】
前記2片以上の炭素シートが、40g/m
2以上の異なる目付けを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の膜-電極複合体。
【請求項7】
前記炭素シート電極の端縁に開口する電解液流通溝が形成されている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の膜-電極複合体。
【請求項8】
前記イオン交換膜の分解温度以下の温度条件で、前記イオン交換膜と前記炭素シート電極とを熱圧着させることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の膜-電極複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の膜-電極複合体と、電解液循環機構とを備え、
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シートのうち目付けの小さい方が、電解液の流れる方向の上流側となるように配置されていることを特徴とする、装置。
【請求項10】
請求項
7に記載の膜-電極複合体と、電解液流通機構とを備え、
少なくとも1つの前記電解液流通溝の延在方向が、電解液の流れる方向に沿って設けられていることを特徴とする、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜-電極複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への対策として、太陽光、風力等の再生可能エネルギーを利用した発電の導入が進められている。これらの発電は、出力が天候によって大きく影響を受けるため、系統電源の電圧や周波数を不安定にする問題がある。従って、大規模な発電の導入に当たり、大容量蓄電池と組み合わせることによって、出力の平滑化や負荷の平準化を図る必要がある。
【0003】
上記大容量蓄電池としては、鉛蓄電池、ナトリウム-硫黄電池、金属-ハロゲン電池、レドックスフロー電池等が挙げられる。これらの中で、レドックスフロー電池は、信頼性、経済性の観点において他の電池より優れており、最も実用化の可能性の高い電池の一つである。
【0004】
図1は、レドックスフロー電池の一般的な構造の模式図を示している。この図に示すように、レドックスフロー電池100は、電解槽101と、電解液を貯蔵するタンク102、103と、電解液をタンク-電解槽間で循環させるポンプ104、105とを備える。また、電解槽101は、イオン交換膜111によって隔てられた正極112aと負極112bとからなる電極112を有し、電源106に接続されている。
【0005】
上記レドックスフロー電池100においては、ポンプ104、105により電解液をタンク102、103と電解槽101との間を循環させつつ、電解槽101の電極112上で電気化学的なエネルギー変換を行わせることにより充放電を行う。
【0006】
図1に示したレドックスフロー電池100においては、イオン交換膜111と電極112とが離れた構成となっているが、電極の単位面積当たりの電流密度を増加させるために、
図2Aに示すように、イオン交換膜11と電極12とを接合して膜-電極複合体10を構成し、この膜-電極複合体10をセパレータ13を介して集電板14によって挟み込むことにより、
図2Bに示すセル20を形成し、このセル20を複数設けて電池(セルスタック)を構成することが多い。
【0007】
図2Bに示したセル20において、電極12としては、導電性、電気化学的安定性及び電解液の流通性を担保する必要があることから、一般に炭素の繊維状構造体が用いられる。
例えば、特許文献1には、電極を炭素の繊維状構造体により形成し、繊維状構造体の少なくとも一部が隔膜に埋没している膜-電極接合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レドックスフロー電池では、一般に、活物質が多孔質炭素電極の中を通過し、電極外に排出されるまでの過程において、例えば、酸化還元等の電気化学反応が進行することで、電池としての充放電が行われる。その際、ポンプの脈動や膜の膨張収縮による膜-電極複合体への機械的な変形が繰り返し加わることになる。
特許文献1では、膜-電極複合体が電池動作中の膜の変形によって電極が膜から剥離し、電池性能が低下する旨の記述がある。よって膜-電極複合体が機械的な変形に晒されても電極が剥離せず、接着状態を維持する事は膜-電極複合体の長寿命化に必要であると考えられる。
【0010】
また、電極については、電解液の入口側と出口側で、電解液の粘度や未反応活物質の濃度が異なるため、電極上の位置により電極に必要とされる空隙率や表面積、表面活性といった特性が異なる。
特許文献1に記載の膜-電極接合体では、単一な多孔質炭素電極が用いられているため、電解液の入口側と出口側とで電極の電気化学反応が均一とならず、不要な電気化学反応が生じて電極の寿命が短くなる虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、機械的な変形に対し屈曲性を向上させた膜-電極複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決することができる膜-電極複合体について鋭意検討を重ねた結果、電極を複数の炭素シートから形成することで電極膜複合体に屈曲性が付与され、機械的に湾曲しても電極が膜から剥離しなくなること、さらに種々の異なる特性を有する炭素シートを組み合わせて電極とすることで、電極における電気化学反応の均一化が可能となり、反応過電圧分布が均一化され、不要な電気化学反応が抑制されることで電極の長寿命化も可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
第1の表面と第2の表面を持つイオン交換膜の少なくとも1つの表面に、炭素シート電極の少なくとも一部が接着した積層体であり、
前記炭素シート電極は、炭素繊維を構成要素として含む2片以上の炭素シートから形成され、
前記炭素シート電極と前記イオン交換膜との接着面において、該イオン交換膜への該炭素シート電極の埋め込み深度が5μm以下である
ことを特徴とする、膜-電極複合体。
[2]
前記第1の表面及び前記第2の表面に、前記炭素シート電極が接着した積層体である、[1]に記載の膜-電極複合体。
[3]
前記炭素シート電極において、前記イオン交換膜と対向している表面の30%以上が前記イオン交換膜に接着している、[1]又は[2]に記載の膜-電極複合体。
[4]
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙が10mm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の膜-電極複合体。
[5]
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙割合が5%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の膜-電極複合体。
[6]
前記2片以上の炭素シートが、40g/m2以上の異なる目付けを有する、[1]~[5]のいずれかに記載の膜-電極複合体。
[7]
前記炭素シート電極の端縁に開口する電解液流通溝が形成されている、[1]~[6]のいずれかに記載の膜-電極複合体。
[8]
前記イオン交換膜の分解温度以下の温度条件で、前記イオン交換膜と前記炭素シート電極とを熱圧着させることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の膜-電極複合体の製造方法。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載の膜-電極複合体と、電解液循環機構とを備え、
前記2片以上の炭素シートの中で、互いに隣接する2片の炭素シートのうち目付けの小さい方が、電解液の流れる方向の上流側となるように配置されていることを特徴とする、装置。
[10]
[7]に記載の膜-電極複合体と、電解液流通機構とを備え、
少なくとも1つの前記電解液流通溝の延在方向が、電解液の流れる方向に沿って設けられていることを特徴とする、装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機械的な変形に対し屈曲性を向上させた膜-電極複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】レドックスフロー電池の一般的な構造の模式図である。
【
図3A】本実施形態による膜-電極複合体の一例を示す図である。
【
図3B】
図3Aの膜-電極複合体を、
図3Aの線I-Iに沿う面により切断したときの断面図である。
【
図4】本実施形態による膜-電極複合体の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
〈膜-電極複合体〉
本実施形態の膜-電極複合体は、第1の表面と第2の表面を持つイオン交換膜の少なくとも1つの表面に、炭素シート電極の少なくとも一部が接着した積層体であり、前記炭素シート電極は、炭素繊維を構成要素として含む2片以上の炭素シートから形成されることを特徴とする。
【0018】
図3A及び3Bは、本実施形態による膜-電極複合体の一例である。
図3A及び3Bに示した膜-電極複合体1は、第1の表面と第2の表面を持つイオン交換膜2と、炭素シート電極3とを備える。炭素シート電極3は、炭素繊維を構成要素として含む2片の炭素シート31及び32から形成されている。
なお、
図3Aは、膜-電極複合体をイオン交換膜2の法線方向から見たときの図であり、
図3Bは、
図3Aの膜-電極複合体を、
図3Aの線I-Iに沿う面により切断したときの断面図である。
【0019】
本実施形態の膜-電極複合体は、イオン交換膜の第1の表面と第2の表面のうち、少なくとも1つの表面に炭素シート電極の少なくとも一部が接着されている積層体である。炭素シート電極がイオン交換膜の第1の表面又は第2の表面のいずれかに接着されていればよいが、イオン交換膜の第1の表面及び第2の表面の両方に接着されていることがより好ましい。
ここで、イオン交換膜と炭素シート電極とが「接着」している状態とは、イオン交換膜を把持した際に、炭素シート電極が自重により脱落しない状態を指す。
【0020】
本実施形態の膜-電極複合体は、イオン交換膜と炭素シート電極の少なくとも一部とが接着していることにより、膜-電極複合体を用いてレドックスフロー電池のセル等を組み上げる際に、炭素シート電極とイオン交換膜との位置合わせが良好になり、セルからの電解液の液漏れの抑制に繋がる。
また、レドックスフロー電池等の装置の長期耐久性が良好となる観点から、炭素シート電極において、イオン交換膜と対向している表面の30%以上がイオン交換膜と接着していることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
【0021】
また、本実施形態の膜-電極複合体は、炭素シート電極とイオン交換膜との接着がエネルギー効率を向上させるという観点から、炭素シート電極(炭素シートを構成する炭素繊維)のイオン交換膜への埋め込み深度が7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることが更に好ましく、3μm以下であることがより更に好ましく、2μm以下であることがいっそう好ましい。
炭素シート電極の埋め込み深度は、膜-電極複合体の炭素シート電極とイオン交換膜とが接着している任意の箇所において、膜厚方向に対して平行に切断した複合体断面の倍率2000倍にした走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)像から評価することができる。
【0022】
《イオン交換膜》
本実施形態の膜-電極複合体に用いられるイオン交換膜は、目的とするイオンを透過させる構造を持つ膜であることが好ましく、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体やイオン交換基を有する炭化水素膜等が挙げられる。
イオン交換基としては、特に限定されないが、例えば、-COOH基、-SO3H基、-PO3H2基、又はこれらの塩等が挙げられる。塩としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン類塩等が挙げられる。
また、樹脂としては、例えば、パーフルオロカーボン重合体、炭化水素膜等が挙げられ、長期耐久性が良好である観点から、パーフルオロカーボン重合体が好ましい。
【0023】
(当量質量EW)
本実施形態に用いられるイオン交換膜の当量質量EWは、活物質イオンの透過の抑制が電流効率を向上させるという観点から、600g/eq以上であることが好ましく、より好ましくは700g/eq以上であり、更に好ましくは800g/eq以上であり、いっそう好ましくは900g/eq以上である。また、イオン交換膜の当量質量EWは、プロトン伝導性の向上が抵抗を低減させるという観点から、2000g/eq以下であることが好ましく、より好ましくは1700g/eq以下であり、更に好ましくは1500g/eq以下であり、いっそう好ましくは1200g/eq以下である。
なお、当量質量EWは、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥質量(g)を意味する。イオン交換膜の当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、イオン交換膜の原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
【0024】
(膜厚)
本実施形態に用いられるイオン交換膜の膜厚は、電池として用いたときの活物質の遮蔽性が良好である観点から10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、イオン交換膜の膜厚は、抵抗を低減することにより電池性能が良好となる観点から、180μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に用いるイオン交換膜の膜厚均一性は、膜-電極複合体全面の性能の均一化のために、イオン交換膜の厚みムラの低減が膜-電極複合体の電極と集電板との全面的な接触性を向上させる観点から、平均膜厚の±20%以内であることが好ましく、±15%以内であることがより好ましく、±10%以内であることが更に好ましい。
なお、イオン交換膜の膜厚均一性は、イオン交換膜を23℃、相対湿度65%の恒温室で12時間以上静置した後、接触式の膜厚計(例えば株式会社東洋精機製作所製)を用いて、任意の6箇所の膜厚を測定することで評価することができる。
【0026】
《炭素シート電極》
本実施形態に用いられる炭素シート電極は、炭素繊維を構成要素として含む2片以上の炭素シートから形成される。
2片以上の炭素シートの中で互いに隣接する2片の炭素シートは同一のものであっても、異なるものであっても構わない。
【0027】
本実施形態に用いられる炭素シート電極は、イオン交換膜の第1の表面と第2の表面のうち、少なくとも1つの表面に接着されていればよいが、イオン交換膜の第1の表面及び第2の表面の両方(両面)に接着されていることがより好ましい。このように本実施形態の炭素シート電極がイオン交換膜の両面に接着され、正極及び負極として使用されると、膜-電極複合体における電気化学反応の均一化がより一層進み、電極の長寿化の促進に繋がる。
【0028】
本実施形態の炭素シート電極は、2片以上の炭素シートから形成されることにより、電極上の各位置で必要とされる電極の特性に合わせてそれぞれ異なる特性を有する炭素シートを配置し、組み合わせることができるため、電極における電気化学反応を均一なものとすることができる。上述の特許文献1の膜-電極接合体で用いられているような単一の多孔質炭素電極では、その中で密度差をつけることは容易ではなく、部分的に表面特性を変更するとなると更に困難である。本実施形態の炭素シート電極では、電気化学反応を均一化することができるため、膜-電極複合体における反応過電圧分布が均一となり、不要な電気化学反応が抑制され、電極の寿命を延ばすことができる。
異なる特性を有する炭素シートとしては、より具体的には、レドックスフロー電池等の電解液循環機構を有する装置の圧損の低減がエネルギー効率を向上させるという観点から、異なる空隙率を持つものや異なる目付けを持つものが用いられることが好ましい。また、電極における反応抵抗の低減がエネルギー効率を向上させるという観点から、異なる表面活性を持つ炭素シートが用いられることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の炭素シート電極は、2片以上の炭素シートから形成されているため、互いに隣接する2片の炭素シートの境界を屈曲線として(
図3A、
図4の屈曲線4を参照)、炭素シート電極、ひいては膜-電極複合体を屈曲することができる。これにより、膜-電極複合体を組み込む電池セルや装置の形状に応じた様々な形状の膜-電極複合体を作製することができる。
【0030】
また、本実施形態の炭素シート電極は、炭素シート電極の端縁に開口する電解液流通溝が形成されていることが好ましい。炭素シート電極が電解液流通溝を有する場合、電解液が電解液流通溝を通ることにより電解液の拡散が均一化されるため、炭素シート電極における電気化学反応を均一化することができ、上述のように電極の長寿命化を実現できる。
更に、レドックスフロー電池等の電解液循環機構を有する装置に用いる際に、少なくとも1つの電解液流通溝の延在方向が電解液の流れる方向に沿うようにして膜-電極複合体を設置し、電解液流通溝の少なくとも1つの開口部が電解液の入口側に開口している状態に配置にすると、炭素シート電極を構成する炭素繊維間に電解液がより効率よく均一に拡散するため、好ましい。
【0031】
電解液流通溝は、炭素シート電極を構成する炭素繊維間に効率よく電解液を拡散させる観点から、電解液の流れ方向上流側に少なくとも1つの開口部が開口している状態に膜-電極複合体を配置できればよいため、炭素シート電極の端縁に開口する開口部を電解液流通溝の一端のみに有していても、両端に有していてもよい。
電解液流通溝の形状は、特に限定されず、直線状であっても曲線状であってもよい。電解液送液時の圧力損失を低減する観点からは、直線状であることが好ましい。電解液流通溝が複数ある場合、各電解液流通溝の形状は同じであっても異なっていてもよい。
電解液流通溝の延在方向(長手方向)は、特に限定されないが、電解液送液時の圧力損失を低減する観点から、電解液流通溝が開口する炭素シート電極の端縁に垂直であることが好ましい。また、電解液流通溝が複数ある場合、各電解液流通溝の延在方向は同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
図4に、電解液流通溝を有する炭素シート電極を備えた本実施形態の膜-電極複合体の一例を示す。
図4の膜-電極複合体1では、いずれも、炭素シート電極3の端縁に開口する開口部を一端のみに有する5本の電解液流通溝が、その延在方向が全て平行になるように設けられ、隣接する2本の電解液流通溝は、互いに反対の方向に開口している。
図4では、電解液流通溝は幅2.5mm×長さ22.5mmであり、深さはいずれも炭素シート電極3の厚みと同じ(該厚みの100%)となっている。
【0033】
(空隙)
本実施形態の炭素シート電極において、2片以上の炭素シートの中で互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙は、特に制限されないが、セル抵抗が低減し、エネルギー効率が良好となる観点から、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることが更に好ましく、1mm以下であることがいっそう好ましい。
なお、炭素シート間の空隙は、炭素シートが接着される平面の法線方向から見て、互いに向かい合う炭素シートの直線状の端に挟まれた帯状の空隙、言換えると、2片の炭素シートそれぞれの対向面の間隔が一定である空隙を含む。また、炭素シート間の空隙は、当該法線方向から見て炭素シートの曲線状の端で囲まれ炭素シート(電極)が存在しない空間、言換えると、2片の炭素シートそれぞれの対向面の間隔が変動する空間も含む。対向面の間隔が変動する空間は、例えば、一方の対向面が平面であり且つ他方の対向面が曲面に囲まれた空間である。また、対向面の間隔が変動する空隙は、一部において間隔がなく両方の対向面の一部が平面で、他の部分が当該平面に対して凹む曲面を有し、平面同士で接着させながら曲面同士の間に生じる空間も含む。当該法線方向から見て前述の帯状の空隙であれば、直線同士の幅を炭素シート間の空隙とし、当該法線方向から見て前述の炭素シート(電極)が存在しない空間の場合は、曲線内の最も離れた距離を炭素シート間の空隙とする。
【0034】
(空隙割合)
また、本実施形態の炭素シート電極において、2片以上の炭素シートの中で互いに隣接する2片の炭素シート間の空隙の割合は、特に制限されないが、セル抵抗の低減がエネルギー効率を向上させるという観点から、7%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましく、1%以下であることがいっそう好ましい。
この割合は、空隙の方向に垂直な炭素シート電極の一辺の長さに対する上述の炭素シート間の空隙の割合を示している。
【0035】
(目付けの差)
本実施形態の炭素シート電極において、膜-電極複合体の屈曲性を得るという観点からは、2片以上の炭素シートの中で互いに隣接する2片の炭素シートの目付けは同じであっても構わない。電極の劣化を抑制するという観点では、互いに隣接する2片の炭素シート間の目付けの差は、10g/cm2以上であることが好ましく、20g/cm2以上であることがより好ましく、30g/cm2以上であることが更に好ましい。
【0036】
-炭素シート-
本実施形態の炭素シート電極を構成する、炭素繊維を構成要素として含む炭素シートとしては、炭素繊維ペーパーを挙げることができる。
以下、炭素シート電極として炭素繊維ペーパーを用いる場合の要件を具体的に説明する。
【0037】
--炭素繊維ペーパー--
(炭素繊維の繊維径)
炭素シート電極を構成する炭素シートが炭素繊維ペーパーである場合、炭素繊維ペーパーを構成する炭素繊維の繊維径は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。これにより、繊維をペーパーに加工する際のハンドリング性を高めることができる。また、炭素繊維の繊維径は、20μm以下であることが好ましく、12μm以下であることが更に好ましい。これにより、電極として用いる際にその単位質量当たりの表面積を大きくすることができる。
【0038】
[平均繊維径の測定方法]
炭素ペーパーを構成する炭素繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡像を画像解析することによって求める。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素フォームを観察する。得られた観察像から、炭素繊維の太さを無作為に20か所測定する。断面形状が円形であると仮定して、この平均太さを平均繊維径とする。
【0039】
(炭素繊維の平均長さ)
また、炭素繊維ペーパーにおける炭素繊維の平均長さは、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、15mm以上であることが更に好ましい。これにより、繊維間の接触密度の増大によって、機械的強度を高めることができる。また、炭素繊維の平均長さは、50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることが更に好ましい。これにより、抄紙工程における開繊を容易にすることができる。
【0040】
(かさ密度)
また、炭素繊維ペーパーのかさ密度は、0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.15g/cm3以上であることがより好ましく、0.2g/cm3以上であることが更に好ましい。これにより、電極として用いる際にその表面積を大きくすることができる。また、炭素繊維ペーパーのかさ密度は、0.6g/cm3以下であることが好ましく、0.5g/cm3以下であることがより好ましく、0.4g/cm3以下であることが更に好ましい。これにより、空隙率を増大させ、電極として用いる際に電解液の流通を容易にすることができる。
【0041】
(目付け)
炭素繊維ペーパーの目付けは、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましい。これにより、充放電時の電気化学反応場が増加し、充放電反応を効率化できる。また、炭素繊維ペーパーの目付けは、150g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより好ましい。これにより、電解液送液時の圧力損失を効果的に低減することができる。
【0042】
(厚み)
炭素繊維ペーパーの厚みは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることが更に好ましい。これにより、十分な電極表面積が確保でき、電気化学反応に伴う抵抗を低減できる。また、炭素繊維ペーパーの厚みは、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが更に好ましい。これにより、電極内の電子の移動に伴う抵抗を低減できるとともに、セルを小型化することができる。
【0043】
〈膜-電極複合体の製造方法〉
膜-電極複合体は、例えば、イオン交換膜と前記炭素シート電極とを熱圧着させるホットプレス法や、イオン交換膜と同種の高分子の溶液によって貼り合わせる方法等により製造することができる。この中でも、ホットプレス法は、加工性の点から好ましい。
ホットプレス法による方法は、まずイオン交換膜と炭素シート電極とを積層し、目的とする厚さのスペーサーと共にホットプレス機の圧板間に置く。次に、圧板を所定の温度まで加熱した後、プレスする。所定の時間保持した後、圧板を開放し、膜-電極複合体を取り出し、室温まで冷却することで、膜-電極複合体を得ることができる。
【0044】
ホットプレス法での加熱温度は、炭素シート電極の埋め込み深度の制御がイオン交換膜の劣化を抑制するという観点から、イオン交換膜の分解温度以下であることが好ましい。
また、スペーサーの厚みは、使用する炭素シートとイオン交換膜との合計厚みに対して、30~90%であることが好ましく、50~80%であることがより好ましい。
プレス時の保持時間は、0.5~30分であることが好ましく、2~10分であることがより好ましい。これにより、炭素シート電極間の短絡を引き起こすことなく、イオン交換膜と炭素シート電極とを強固に接着させることができる。
【0045】
〈装置〉
本実施形態の膜-電極複合体は、例えば、レドックスフロー電池、固体高分子膜水分解装置、直接メタノール燃料電池、燃料電池等の装置に好適に用いることができる。中でも、本実施形態の膜-電極複合体では電極上の各位置で必要とされる電極の特性に合わせてそれぞれ異なる特性を有する炭素シートを配置し、組み合わせることができることから、レドックスフロー電池等の電解液循環機構を有する装置に適している。
なお、電解液循環機構とは、電解液を循環させて電極に電解液を供給するものであれば特に制限されず、例えば、電解液タンク、送液ポンプ、及び配管等から構成されるものを指す。
【0046】
レドックスフロー電池等の電解液循環機構を有する装置では、電解液の入口側(電解液の流れる方向の上流側)と出口側(電解液の流れる方向の下流側)とで電解液の粘度や未反応活物質の濃度が異なり、電解液の入口側の方が出口側よりも電解液の粘度や未反応活物質の濃度が高く、反応性が大きくなっている。そのため、目付けの異なる炭素シートから形成される炭素シート電極を備える膜-電極複合体を用い、互いに隣接する2片の炭素シートのうち目付けの小さい方の炭素シートが電解液の入口側に配置され、目付けの大きい方の炭素シートが電解液の出口側に配置されるようにして、膜-電極複合体を設置することが好ましい。例えば、
図3Aに示す膜-電極複合体において、電解液の流れの上流側に位置する炭素シート31を、電解液の流れの下流側に位置する炭素シート32よりも目付けの小さいものとすることが好ましい。目付けの異なる炭素シートをこのように配置することにより、炭素シート電極における電気化学反応を均一化することができ、反応過電圧分布が均一化され、不要な電気化学反応が抑制されるため、電極の長寿命化が可能となる。
【0047】
また、レドックスフロー電池等の電解液循環機構を有する装置では、
図4に示すように、電解液流通溝が形成された炭素シート電極を備える膜-電極複合体を用い、少なくとも1つの電解液流通溝の延在方向が電解液の流れる方向に沿うようにして膜-電極複合体を設置し、電解液流通溝の少なくとも1つの開口部が電解液の入口側(電解液の流れの上流側)となるようにすることが好ましい。炭素シート電極をこのように配置することにより、電解液の拡散が均一化されるため、炭素シート電極における電気化学反応を均一化することができ、上述のように電極の長寿命化が可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0049】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法について、以下に説明する。
【0050】
〈埋め込み深度〉
実施例及び比較例で作製した膜-電極複合体について、炭素シート電極とイオン交換膜との界面の埋め込み深度(μm)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2,000倍の倍率で撮像したSEM画像から求めた。膜-電極複合体を膜厚方向に対して平行に切断し、膜厚方向の画像を任意で3点撮像した。撮像したSEM画像から、イオン交換膜側が変形して炭素シート電極が埋め込まれていた場合に、界面からの埋め込み深さを測定し、その平均値を埋め込み深度とした。また、3点の画像とも埋め込みが見られない場合は、埋め込み深度0μmとし、炭素シート電極の表面のみで接着していると判断した。
【0051】
〈接着面積比率〉
実施例及び比較例で作製した膜-電極複合体について、接着した炭素シート電極を下面にして、イオン交換膜の部分のみを手で持って持ち上げた。その際に、接着した面の全ての複合体で、炭素シート電極の自重でイオン交換膜と炭素シート電極との界面が剥離している様子が無ければ「全面接着(100%)」と判断し、接着した面の複合体が1つでも剥離して炭素シート電極が落下したら「接着なし」と判断した。また、イオン交換膜がたわんで端部の一部に剥離が見られた場合には一部接着と判断し、接着している面積の合計から接着面積比率(%)を計算した。
【0052】
〈屈曲性〉
実施例及び比較例で作製した膜-電極複合体について、屈曲性をMIT耐折疲労試験機 D型(東洋精機製作所)によって評価した。
具体的には、実施例1~7及び比較例1~3で作製した膜―電極複合体については、炭素シート電極の上端(電解液の流れる方向上流側の端)から8~12mmほど下の電極部分をR=0.38のクランプで把持し、炭素シート電極の下端(電解液の流れる方向下流側の端)から30mmほど下部に位置するイオン交換膜部分をプランジャ側の平板クランプで把持したのち、荷重0.25kgf、試験速度90cpmで膜―電極複合体を屈曲させた。屈曲角度が90°となった時点で試験を停止したのち、イオン交換膜からの炭素シート電極の剥がれの有無を目視確認した。部分的にも電極の剥がれが無いものを屈曲性「〇(良好)」、部分的にも電極の剥がれが認められたものは屈曲性「×(不良)」とした。
実施例8及び比較例4で作製した膜―電極複合体については、R=0.38のクランプによる把持位置及びプランジャ側の平板クランプによる把持位置を、それぞれ、
図4における炭素シート33の左端から4~8mmほど右の電極部分、
図4における炭素シート34の右端から10mmほど右に位置するイオン交換膜部分とした以外は、上記実施例1~7及び比較例1~3におけるのと同じ方法及び評価基準で評価した。
【0053】
〈レドックスフロー電池評価(液漏れ、電流効率、電圧効率、及び電力効率)〉
実施例及び比較例で作製したレドックスフロー電池の電解液タンクに、バナジウムイオン濃度1.5M、バナジウムイオン価数3.5価、硫酸イオン濃度4.5Mのバナジウム硫酸溶液を4L加え、流速200ml/minにて循環し、液漏れを評価した。
充放電試験は、菊水電子社製バイポーラー電源を用いて定電流法にて行った。電圧範囲は1.00-1.55V、電流密度は80mA/cm2とした。10サイクル時点の充電容量Qc及び放電容量Qd、充電及び放電時における平均電圧Vc及びVdから、次式によって電流効率CE、電圧効率VE、電力効率EEをそれぞれ求めた。また、同様にして、100サイクル時点の電圧効率VEを求めた。
CE:Qd/Qc(%)
VE:Vd/Vc(%)
EE:CE×VE(%)
【0054】
〈電極劣化比率〉
実施例及び比較例で作製したレドックスフロー電池について、電極劣化率を次式によって求めた。
電極劣化率(%)=100サイクル時点の電圧効率(%)/10サイクル時点の電圧効率(%)×100
【0055】
<イオン交換膜の膜厚>
イオン交換膜の膜厚(μm)及びは、23℃、相対湿度65%の恒温室で12時間以上静置した後、使用するイオン交換膜の任意の6箇所を接触式の膜厚計(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定した。
【0056】
実施例及び比較例で用いた原材料について、以下に説明する。
【0057】
〈炭素シート電極〉
表1に示す炭素シート材料を用いて炭素シート電極を形成した。
【0058】
【0059】
〈イオン交換膜〉
・Nafion212(Aldrich製、平均膜厚:50μm、膜厚均一性:平均膜厚±20%)を縦90mm×横45mmに切り出してして使用した。
【0060】
(実施例1)
〈膜-電極複合体の作製〉
図3Aに示す膜-電極複合体を作製した。具体的には、まず、炭素シート材料Aから、縦12.5mm×横20.0mmのシートを4枚切り出した。
図3Aの炭素シート31及び32として切り出した炭素シート材料A各1枚を用い、それぞれイオン交換膜の両面に配置して、膜-電極複合体における正極及び負極となるようにした。その際、炭素シート31及び32の位置が、正極側と負極側とでそれぞれ一致するように配置した。これらを厚み0.5mmのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置き、圧板を120℃まで加熱して、2MPaの圧力でプレスした。この状態で5分間保持した後、圧板を開放して室温まで冷却した。こうして実施例1による膜-電極複合体を作製した。
得られた膜-電極複合体の評価結果を表2に示す。
なお、炭素シート間の空隙の割合(%)は、炭素シート31及び32の境界に垂直な炭素シート電極の一辺の長さ(25.0mm)に対する空隙の割合として求めた。
〈レドックスフロー電池の作製〉
上記で得られた膜-電極複合体とセル構成部材(バイトンゴム製ガスケット、塩化ビニル製フレーム、黒鉛製セパレータ、及びステンレス製エンドプレート)とを所定の順番に従って組み合わせ、ステンレス製ボルトを用いて所定のトルクにて締結し、レドックスフロー電池のセルを組み立てた。その際、
図3Aに示すように、上述の炭素シート31が電解液入口側(電解液の流れる方向の上流側)に、炭素シート32が電解液出口側(電解液の流れる方向の下流側)に配置されるようにセルを組んだ。なお、ガスケットは電極の圧縮率が67%になるように膜厚を調節した。得られたセルを、電解液タンク及び送液ポンプから構成される電解液循環機構に接続した。こうして実施例1によるレドックスフロー電池を作製した。
得られたレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0061】
(実施例2)
実施例1と同様に、実施例2による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、
図3Aの炭素シート31として炭素シート材料Aを、炭素シート32として炭素シート材料Bを用いた。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0062】
(実施例3)
実施例1と同様に、実施例3による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、
図3Aの炭素シート31として炭素シート材料Bを、炭素シート32として炭素シート材料Aを用いた。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0063】
(実施例4)
実施例2と同様に、実施例4による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、炭素シート材料A及びBから切り出すシートのサイズをそれぞれ縦12.0mm×横20.0mmとし、シート間に幅1mmのスペース(空隙)を設けた。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0064】
(実施例5)
実施例2と同様に、実施例5による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、炭素シート材料A及びBから切り出すシートのサイズをそれぞれ縦11.75mm×横20.0mmとし、シート間に幅1.5mmのスペース(空隙)を設けた。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0065】
(実施例6)
実施例2と同様に、実施例6による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、ホットプレス機において、圧板の加熱温度を140℃、プレス圧を2MPa、保持時間を5分間とした。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0066】
(実施例7)
実施例2と同様に、実施例7による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、ホットプレス機において、圧板の加熱温度を105℃、プレス圧を2MPa、保持時間を5分間とした。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0067】
(実施例8)
図4に示す膜-電極複合体を作製した。具体的には、まず、炭素シート材料Aから縦25.0mm×横10.0mmのシートを4枚切り出し、2枚ずつをそれぞれ
図4の炭素シート33及び34の材料として用い、
図4に示す形状に加工した。加工してできた炭素シート33及び34を、
図4に示す幅2.5mm×長さ22.5mmの5本の電解液流通溝が形成されるように組み合わせ、イオン交換膜の両面にそれぞれ配置して、膜-電極複合体における正極及び負極となるようにした。これらを厚み0.5mmのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置き、圧板を115℃まで加熱して、2MPaの圧力でプレスした。この状態で5分間保持した後、圧板を開放して室温まで冷却した。こうして実施例8による膜-電極複合体を作製した。
得られた膜-電極複合体の評価結果を表2に示す。
〈レドックスフロー電池の作製〉
上記で得られた膜-電極複合体を用いて、実施例1と同様に、実施例8によるレドックスフロー電池を作製した。セルを組む際、
図4に示すように、炭素シート電極の電解液流通溝の延在方向(長手方向)が電解液の流れる方向に沿うように(平行となるように)膜-電極複合体を配置した。
得られたレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0068】
(比較例1)
炭素シート材料Aから、縦25.0mm×横20.0mmのシートを2枚切り出し、それぞれ膜-電極複合体における正極及び負極となるように、イオン交換膜の両面に1枚ずつ配置した。その際、各シートの位置が、正極側と負極側とでそれぞれ一致するようにした。これらを厚み0.5mmのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置き、圧板を120℃まで加熱して、2MPaの圧力でプレスした。この状態で5分間保持した後、圧板を開放して室温まで冷却した。こうして比較例1による膜-電極複合体を作製した。
得られた膜-電極複合体の評価結果を表2に示す。
〈レドックスフロー電池の作製〉
上記で得られた膜-電極複合体を用いて、実施例1と同様に、比較例1によるレドックスフロー電池を作製した。
得られたレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0069】
(比較例2)
比較例1と同様に、比較例2による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、炭素シート材料Aの代わりに、炭素シート材料Bを用いた。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0070】
(比較例3)
比較例1と同様に、比較例3による膜-電極複合体及びレドックスフロー電池を作製した。ただし、炭素シートとイオン交換膜とは接着せずに、重ねただけの状態とした。
得られた膜-電極複合体及びレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
レドックスフロー電池の評価を行ったところ、液漏れが発生したため測定を中断し、電流効率CE、電圧効率VE、及び電力効率EEは算出しなかった。
【0071】
(比較例4)
炭素シート材料Aから、縦25.0mm×横20.0mmのシートを2枚切り出し、いずれも
図4の炭素シート電極3の形状(炭素シート33及び34を合わせた形状)と同じ形状となるように、即ち、幅2.5mm×長さ22.5mmの5本の電解液流通溝が形成されるように加工した。その後、イオン交換膜の両面に1枚ずつ配置した。その際、各シートの位置が、正極側と負極側とでそれぞれ一致するようにした。これらを厚み0.5mmのスペーサーとともにホットプレス機の圧板間に置き、圧板を115℃まで加熱して、2MPaの圧力でプレスした。この状態で5分間保持した後、圧板を開放して室温まで冷却した。こうして比較例4による膜-電極複合体を作製した。
得られた膜-電極複合体の評価結果を表2に示す。
〈レドックスフロー電池の作製〉
上記で得られた膜-電極複合体を用いて、実施例8と同様に、比較例4によるレドックスフロー電池を作製した。セルを組む際、実施例8と同様にして、炭素シート電極の電解液流通溝の延在方向(長手方向)が電解液の流れる方向に沿ように(平行となるように)膜-電極複合体を配置した。
得られたレドックスフロー電池の評価結果を表2に示す。
【0072】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、機械的な変形に対し屈曲性を向上させた膜-電極複合体を得ることができるため、電池産業や発電産業において有用である。
【符号の説明】
【0074】
1、10 膜-電極複合体
2、11、111 イオン交換膜
3 炭素シート電極
31 炭素シート31
32 炭素シート32
33 炭素シート33
34 炭素シート34
4 屈曲線
12、112 電極
13 セパレータ
14 集電板
20 セル
100 レドックスフロー電池
101 電解槽
102、103 タンク
104、105 ポンプ
106 電源
112a 正極
112b 負極