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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】速硬コンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20231113BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20231113BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/08 B
C04B24/26 G
C04B24/26 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020033066
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134128
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明也
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-132558(JP,A)
【文献】特開2019-142732(JP,A)
【文献】特開2019-112276(JP,A)
【文献】特開昭62-000561(JP,A)
【文献】特開2015-067491(JP,A)
【文献】特開2018-076190(JP,A)
【文献】特開2008-087978(JP,A)
【文献】特開平06-199555(JP,A)
【文献】米国特許第05340385(US,A)
【文献】米国特許第04337094(US,A)
【文献】特開2020-158371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメント,硝酸カルシウム及び/または亜硝酸カルシウムを含む硬化促進剤,セメント混和用ポリマー,細骨材と粗骨材からなる骨材及び水を含み,
前記早強ポルトランドセメントの単位量が300~550 kg/m3であり,
前記硬化促進剤中の硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムの合計の単位量が4~8 kg/m3であり,前記セメント混和用ポリマーの単位量が固形分換算で30~63kg/m3であり,
前記骨材の単位量が1600~2000 kg/m3前記細骨材の単位量が667~760 kg/m 3 であり,
かつ,早強ポルトランドセメント100質量部に対して,水の配合量が18~35質量部であることを特徴とする速硬コンクリート。
【請求項2】
5℃環境下での材齢24時間の圧縮強度が10N/mm2以上であることを特徴とする請求項1に記載の速硬コンクリート。
【請求項3】
5℃環境下で7日間養生後,2%硫酸溶液に182日間浸漬後のコンクリート供試体の質量減少率が5.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の速硬コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は速硬コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
護岸補修工事,特に寒冷地における海岸の補修工事では,コンクリート打設後,コンクリートが所定の強度を得るためには常温環境下より長い養生期間が必要であり,施工が遅れ,工期が間に合わない可能性がある。
【0003】
そのような環境下において,強度発現を早めるために,太平洋セメント社製「スーパージェットセメント」(商品名)や住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)などの超速硬セメントを使用した超速硬コンクリートを使用することが提案されている(特許文献1)。しかしながら,超速硬コンクリートは,耐久性の観点からは,普通コンクリートに比べて,やや劣る傾向があり,海岸工事に適用した場合,海水の影響によってコンクリートが膨張(硫酸塩によるエトリンガイト膨張)することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-273700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明における課題は,低温環境下においても早期材齢で脱型可能で,且つ,硫酸塩に対する抵抗性が高い速硬コンクリートを提供するものである。
【0006】
本発明者は,上記課題について検討を重ねた結果,早強ポルトランドセメント,セメント混和用ポリマー及び硬化促進剤の配合量を調整することで,低温環境下においても翌日脱型可能で,且つ,硫酸塩に対する抵抗性が高いコンクリートが得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1]早強ポルトランドセメント,硝酸カルシウム及び/または亜硝酸カルシウムを含む硬化促進剤,セメント混和用ポリマー,骨材及び水を含み,前記硬化促進剤中の硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムの合計の単位量が4~8 kg/m3であり,前記セメント混和用ポリマーの単位量が固形分換算で30~63kg/m3であり,かつ,早強ポルトランドセメント100質量部に対して,水の配合量が18~35質量部である速硬コンクリート。
[2]5℃環境下での材齢24時間の圧縮強度が10N/mm2以上である[1]の速硬コンクリート。
[3]5℃環境下で7日間養生後,2%硫酸溶液に182日間浸漬後のコンクリート供試体の質量減少率が5.0%以下である[1]又は[2]の速硬コンクリート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,護岸補修工事,特に寒冷地における補修工事においても,翌日脱型可能であり,海洋環境下でも耐久性の高い速硬コンクリートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下,本発明を詳細に説明する。
本発明の速硬コンクリートは,早強ポルトランドセメント,硝酸カルシウム及び/または亜硝酸カルシウムを含む硬化促進剤,セメント混和用ポリマー,骨材及び水を必須成分として含有するものである。なお,本明細書において,「単位量(kg/m3)」とは,1m3のコンクリートを製造するときに用いられる使用材料の配合量を意味する。また,本明細書において,「コンクリート」には「モルタル」も含まれる。
【0010】
[セメント]
本発明に用いるセメントとしては,早強ポルトランドセメントである。早強ポルトランドセメントは汎用的なポルトランドセメントの一種で,入手が容易であり,普通ポルトランドセメントに比べて,強度発現性に優れる。早強ポルトランドセメントの単位量は,300~550 kg/m3が好ましく,さらに350~500 kg/m3が好ましい。
【0011】
[硬化促進剤]
本発明において使用される硬化促進剤としては,硝酸カルシウム及び/又は亜硝酸カルシウムを含む。硝酸カルシウムと亜硝酸カルシウムは,セメントの硬化を促進させ,初期強度を増進させる促進剤として有効である。硝酸カルシウム及び/又は亜硝酸カルシウムを含む促進剤は,コンクリートミキサ(あるいはアジテータ車のドラム)への添加,あるいは混練の容易さから,中和塩水溶液の形態で添加することが好ましい。硬化促進剤の成分としては,硝酸カルシウムと亜硝酸カルシウムの他に,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,硫酸アルカリ等,一種または二種以上を併用してもよい。硬化促進剤中の硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムの合計の単位量は,強度発現性,硫酸塩に対する抵抗性の観点から,4~8 kg/m3であり,好ましくは,5~7kg/m3である。
【0012】
[セメント混和用ポリマー]
本発明において使用されるセメント混和用ポリマーとしては,ゴムラテックス,樹脂エマルション,再乳化形粉末樹脂等が挙げられ,特にJIS A 6203(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)に規定されているものが好ましい。ゴムラテックスとしては,天然ゴムラテックス,スチレンブタジエンゴム,メタクリル酸メチルブタジエンゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム等,樹脂エマルションとしては,ポリアクリル酸エステル,エチレン酢酸ビニル,スチレンアクリル酸エステル,ポリプロピオン酸ビニル,ポリプロピオン酸ビニル,ポリプロピレン,ポリプロ酢酸ビニル等,再乳化形粉末樹脂としては,スチレンブタジエンゴム,エチレン酢酸ビニル,エチレン酢酸ビニルビニルバーサテート,酢酸ビニルビニルバーサテート,スチレンアクリル酸エステル,ポリアクリル酸エステル,酢酸ビニルビニルバーサテートアクリル酸エステル等を用いられることができるが,これらに限定されるものではない。特に,曲げ強度,接着強度,耐久性向上の点からスチレンブタジエンラテックスが好ましい。セメント混和用ポリマーの単位量は,固形分換算で30~63kg/m3である。63kg/m3を超えると強度発現性が低下し、一方30kg/m3未満の場合は硫酸塩に対する抵抗性が低下する。好ましくは,36~54 kg/m3である。
【0013】
[骨材]
本発明において使用される骨材としては,通常のコンクリートの製造に使用される細骨材及び粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材及び粗骨材として,例えば川砂,海砂,山砂,砕砂,人工細骨材,スラグ細骨材,再生細骨材,珪砂,川砂利,陸砂利,砕石,人工粗骨材,スラグ粗骨材,再生粗骨材等が挙げられる。骨材の単位量は,1500~2200 kg/m3が好ましく,さらに1600~2000kg/m3が好ましい。
【0014】
[水]
本発明において使用される水としては,特に限定されるものではなく,水道水などを使用することができる。水の配合量は,早強ポルトランドセメントの100質量部に対して,18~35質量部である。35質量部を超えると強度発現性が低下し翌日脱型が困難となる。また、18質量部未満では速硬コンクリートのワーカビリティが低下して施工が困難となる。好ましくは,20~33質量部であり,より好ましくは,22~31質量部であり、さらに好ましくは,24~28質量部である。なお,水の配合量には,硬化促進剤及びセメント混和用ポリマー中の水も含まれるものとする。
【0015】
[その他混和材(剤)]
本発明の速硬コンクリートには,本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和材(剤)を添加してもよい。混和材(剤)としては,例えば,AE剤,減水剤,AE減水剤,高性能AE減水剤,消泡剤,防水材,防錆剤,収縮低減剤,増粘剤,保水剤,顔料,撥水剤,白華防止剤,繊維,膨張材等が挙げられる。
【0016】
[コンクリートの製造方法]
本発明による速硬コンクリートの製造方法は,特に限定されず,従来より公知の方法で製造することができる。例えば,コンクリートミキサに水,硬化促進剤,セメント混和用ポリマー,早強ポルトランドセメント及び骨材を投入し,一括練りで製造する方法である。コンクリートミキサとしては,オムニミキサ,パン型ミキサ,二軸ミキサ,傾動ミキサなどを用いることができる。
【0017】
このようにして得られた本発明の速硬コンクリートは,低温環境下での強度発現が良好である。具体的には,5℃環境下で24時間後の圧縮強度が10N/mm2以上を発現するコンクリートが得られる。好ましくは,13N/mm2以上であり,より好ましくは,15N/mm2以上である。
【0018】
加えて,本発明の速硬コンクリートは,耐硫酸塩に対する抵抗性に優れており,5℃の低温環境下においても優れた耐硫酸塩抵抗性を有する。具体的には,5℃の低温環境下でも,7日間養生後の供試体を2%硫酸溶液に182日間浸漬後の質量減少率が5.0%以下である速硬コンクリートが得られる。
【実施例
【0019】
次に,本発明を実施例にて,さらに詳細に説明するが,本発明が実施例により限定されるものではない。
【0020】
[使用材料]
実施例で使用した材料を以下に示す。
水(W): 上水道水
セメント(HC):早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製 密度3.14g/cm3
細骨材(S):山砂(静岡県掛川産 密度2.56 g/cm3
粗骨材(G):砕石(茨城県桜川産 密度2.64 g/cm3
硬化促進剤(AC):硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムを含む水溶液(固形分40%)
セメント混和用ポリマー(P):スチレンブタジエンゴムラテックス(固形分45%)
減水剤(Ad):マスターグレニウム8SV(BASF japan社製)
【0021】
[コンクリートの製造]
上記の材料を用いて,5℃環境下にて表1に示す配合の17水準の速硬コンクリートを製造した。使用材料を傾動コンクリートミキサに投入し,5分間練り混ぜて速硬コンクリートを得た。練り混ぜ後,コンクリートミキサからコンクリートを排出し,下記に示す性能評価試験用供試体のための所定の型枠に充填した。
【0022】
【表1】
※硬化促進剤(AC)及びセメント混和用ポリマー(P)は固形分量と水量を分けて記載した。硬化促進剤の固形分は硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムである。
【0023】
[性能評価試験]
製造した各水準の速硬コンクリートの圧縮強度及び硫酸塩に対する抵抗性を評価した。具体的な評価は下記の方法で行った。
(1)圧縮強度
JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に従って,5℃環境下で24時間気中養生した速硬コンクリートの圧縮強度を測定した。
(2)硫酸塩に対する抵抗性
5℃環境下で7日間気中養生した速硬コンクリート(供試体寸法:φ100×200mm)を2%硫酸溶液に182日間浸漬させ,浸漬後の質量を測定し,質量変化率を算出した。なお,養生後の試験は,20℃環境下にて実施した。
【0024】
[試験結果]
評価試験結果を表2に示す。早強ポルトランドセメントに対する水の割合,硬化促進剤及びセメント混和用ポリマーの添加量が所定の範囲に入る実施例(水準1~8)においては,5℃環境下における材齢24時間後の圧縮強度が10N/mm2以上で,且つ,2%硫酸溶液に182日間浸漬させ後の質量変化率が5.0%以下であり,早期材齢で脱型可能で,且つ,硫酸塩に対する抵抗性が高いコンクリートが得られることを確認した。
【0025】
一方,セメントに対する水の割合,硬化促進剤及びセメント混和用ポリマーの添加量のうち,少なくとも一つが規定の範囲を外れる配合(水準9~17)では,5℃環境下における材齢24時間後の圧縮強度が10N/mm2未満か,もしくは,2%硫酸溶液に182日間浸漬させた後の質量変化率が5.0%を超えるものであった。
【0026】
【表2】