(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20231113BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20231113BHJP
C08K 5/08 20060101ALI20231113BHJP
G01S 17/00 20200101ALI20231113BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/3415
C08K5/08
G01S17/00
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2020048001
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】▲福▼間 智彦
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-144327(JP,A)
【文献】国際公開第2021/094248(WO,A1)
【文献】特開2013-218312(JP,A)
【文献】特開2011-237625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有するフタロシアニン系色素(C)を含み、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有し、色素(C)を0.001~0.2質量部含有する、
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物
であり、
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物の成形体の透過率は、厚さ2mmの場合、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、10%以下である、ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記色素(B)が、下記式で表される、請求項1に記載の
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1):
【化1】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
R
2及びR
3は、同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、OR
4基、SR
5基又はNR
6又はR
7基を示す。
X
1は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
4及びR
5基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
R
6及びR
7基は、同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。
R
6とR
7とは、これらが結合する窒素原子とともに、他の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して又は介することなく互いに結合して5~10員の飽和又は不飽和複素環を形成していてもよい。該5~10員の飽和又は不飽和複素環は、1個以上の置換基を有していてもよい。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【請求項3】
前記色素(B)が、下記式で表される、請求項1に記載の
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1-2):
【化2】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
X
1、X
2及びX
3は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
12及びR
13基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【請求項4】
前記フタロシアニン系化合物が、オキソバナジウム、銅、アルミニウム、コバルトおよび亜鉛から選択される中心金属を有するフタロシアニン系染料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して色素(D)を0.01~2.0質量部含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記極大吸収波長が700nm未満の色素(D)が、アントラキノン系色素を含む、請求項5に記載の
ライダー用波長選択透過
性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記アントラキノン系色素が、Solvent Yellow 163、Disperse Violet 28、Solvent Blue 97、Solvent Green 28、Solvent Green 3、Disperse Blue 60からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の
ライダー用波長選択透過
性ポリカーボネー
ト樹脂組成物。
【請求項8】
熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤を含有する群から選択される少なくとも1種を更に含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の
ライダー用波長選択透過
性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の
ライダー用波長選択透過
性ポリカーボネート樹脂組成物を含有する
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項10】
Lidarカバーである、請求項9に記載の
ライダー用波長選択透過性
ポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の
ライダー用波長選択性ポリカーボネート樹脂組成物を成形することを含む、
ライダー用波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、可視光を透過しないが、赤外線を透過する、波長選択的な透過性を有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いたリモートセンシング技術の一つに、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析する、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」、「ライダー」ともいう)が、知られている。この技法はレーダーに類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたものである。対象までの距離は、発光後反射光を受光するまでの時間から求まる。ライダーはレーダーよりも遥かに短い波長の電磁波、典型的には紫外線、可視光線、近赤外線を使用する。
【0003】
近年、自動車の自動運転技術が急速に発展しつつある。 条件付き自動運転であるレベル3及び、ドライバーによる運転を前提としないレベル4~5に対応するために、高速道路及び一般道路を安全に自律走行する機能が必要となる。そのため、センシングの冗長性を担保するために、カメラやミリ波レーダーに加えて、ライダーが注目されている。自動運転を支援するために、Lidarの精度をより高めることが必要であり、より優れた性能を有する波長選択フィルターを開発することが求められている。
【0004】
特許文献1は、アゾアントラキノン系混合物等を含むエポキシ樹脂硬化体が、波長380nmの範囲で平均透過率が0%であり、波長900nmでの光透過率が80%以上であるため、Lidarで使用するレーザー光波長が850~950nmの範囲にある場合好適に使用できることを開示する(特許文献1実施例1~2、[0050]、[
図1]参照)。更に、特許文献1は、アゾアントラキノン系混合物等を含むエポキシ樹脂硬化体が、波長380nmの範囲で平均透過率が0%であり、波長1550nmでの光透過率が80%以上であるため、Lidarで使用するレーザー光波長が1500~1600nmの範囲にある場合好適に使用できることを開示する(特許文献1実施例1~3、[0050]、[
図1]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、エポキシ樹脂の硬化体を開示するが、エポキシ樹脂の硬化体は安価に大量に提供するために、必ずしも適さない。今後のLidarの発展を考慮すると、より安価に大量に製造することができる組成物及びその成形物を提供することが必要である。
【0007】
本発明者らは、透明性に優れ、機械強度に優れる、ポリカーボネートの成形物に着目したが、ポリカーボネートは成形温度が高いので、ポリカーボネート樹脂組成物を高温で成形する間に、透過率が低下及び/又は増加し得ること、即ち、透過率(光学特性)が変化し得ることに気づいた。光学特性の変化は、誤作動を生じるおそれがある。従って、本発明の目的は、高温で成形加工しても光学特性に実質的な変化を生じない、波長選択透過性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つ色素(B)および700nm以上1000nm未満に極大吸収波長がある色素(C)を含むポリカーボネート樹脂組成物は、当該ポリカーボネート樹脂組成物における1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において透過率を10%以下に制御することができることを見出した。更に、そのようなポリカーボネート樹脂組成物及び成形品は、Lidar用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本明細書は、下記の態様を含む。
1.芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有するフタロシアニン系色素(C)を含み、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有し、色素(C)を0.001~0.2質量部含有する、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
2.前記色素(B)が、下記式で表される、上記1に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1):
【化1】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
R
2及びR
3は、同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、OR
4基、SR
5基又はNR
6又はR
7基を示す。
X
1は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
4及びR
5基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
R
6及びR
7基は、同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。
R
6とR
7とは、これらが結合する窒素原子とともに、他の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して又は介することなく互いに結合して5~10員の飽和又は不飽和複素環を形成していてもよい。該5~10員の飽和又は不飽和複素環は、1個以上の置換基を有していてもよい。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
3.前記色素(B)が、下記式で表される、上記1に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
式(1-2):
【化2】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
X
1、X
2及びX
3は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
12及びR
13基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
4.前記フタロシアニン系化合物が、オキソバナジウム、銅、アルミニウム、コバルトおよび亜鉛から選択される中心金属を有するフタロシアニン系染料である、上記1~3のいずれか1に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
5.さらに、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して色素(D)を0.01~2.0質量部含有する、上記1~4のいずれか1に記載の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物。
6.前記極大吸収波長が700nm未満の色素(D)が、アントラキノン系色素を含む、上記5に記載の波長選択透過性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
7.前記アントラキノン系色素が、Solvent Yellow 163、Disperse Violet 28、Solvent Blue 97、Solvent Green 28、Solvent Green 3、Disperse Blue 60からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記6に記載の波長選択透過性芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
8.熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤及び衝撃性改良剤を含有する群から選択される少なくとも1種を更に含有する、上記1~7のいずれか1に記載の波長選択透過性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
9.上記1~8のいずれか1に記載の波長選択透過性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含有する波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品。
10.Lidarカバーである、上記9に記載の波長選択透過性樹脂成形品。
11.上記1~8のいずれか1に記載の樹脂組成物を成形することを含む、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有するフタロシアニン系色素(C)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有し、色素(C)を0.001~0.2質量部含有する。ポリカーボネート樹脂組成物は、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、その成形体の透過率を10%以下に制御することができる。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有し、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができる。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の実施形態において、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長があるフタロシアニン系色素(C)を含み、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有し、色素(C)を0.001~0.2質量部含有する、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0012】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を含み、「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」は、芳香族化合物に基づくポリカーボネート樹脂であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を例示できる。代表例は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂を含む。
【0013】
前記ジヒドロキシジアリール化合物として、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類を例示できる。これらは単独で又は組み合わせて使用できる。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等を組み合わせて使用することができる。
【0014】
さらに、前記ジヒドロキシジアリール化合物と、例えば以下に示す3価以上の芳香族化合物とを組み合わせて使用してもよい。
【0015】
前記3価以上のフェノール化合物として、例えば、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-[4,4-(4,4´-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン等を例示できる。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、12000~30000であることがより好ましい。なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、市販品を使用することができる。
【0017】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有する。
【0018】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物とは、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有し、フタロシアニン構造を有する化合物であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。
【0019】
そのようなフタロシアニン系化合物として、下記式(1)で示される化合物を例示することができ、下記式(1)で示される化合物が好ましい。
式(1):
【化3】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
R
2及びR
3は、同一でも異なってもよく、ハロゲン原子、OR
4基、SR
5基又はNR
6又はR
7基を示す。
X
1は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
4及びR
5基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
R
6及びR
7基は、同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。
R
6とR
7とは、これらが結合する窒素原子とともに、他の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して又は介することなく互いに結合して5~10員の飽和又は不飽和複素環を形成していてもよい。該5~10員の飽和又は不飽和複素環は、1個以上の置換基を有していてもよい。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【0020】
より具体的には、式(1)で表されるフタロシアニン系化合物として、下記式(1a)~(1d)で表されるフタロシアニン系化合物を例示できる。式(1a)~(1d)中、R1~R3、X1及びMは、式(1)にて、既述の通りである。
【0021】
【0022】
上述の式(1)で表されるフタロシアニン系化合物は、下記一般式(1-2)で表されるフタロシアニン系化合物であることが好ましい。
式(1-2):
【化5】
[式中、R
1は、同一でも異なってもよく、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。
X
1、X
2及びX
3は、同一でも異なってもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。
R
12及びR
13基は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。
Mは、2個の1価金属原子、2価金属原子、3価又は4価金属化合物を示す。]
【0023】
本明細書において、各基は、次の通りである。
「ハロゲン原子」として、例えば、フッ素、塩素、臭素及び沃素を例示できる。
【0024】
「アルキル基」として、例えば、炭素数1~12の直鎖又は炭素数3~12の分岐鎖 状或いは炭素数3~12の環状アルキル基を例示できる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基(以下、t-Buともいう)、n-ペンチル基、2-メチルブチル 基、1-メチルブチル基、neo-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、シクロヘキシル基、n-へプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、2,4-ジメチルペンチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、2,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、t-オクチル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、4-エチルオクチル基、4-エチル-4,5-ジメチルヘキシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、1,3,5,7-テトラメチルオクチル基、4-ブチルオクチル基等を挙げることができる。好ましくは、炭素数1~8の直鎖又は炭素数3~8の分岐鎖状或いは炭素数3~8の環状アルキル基であり、特に好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基である。
【0025】
なお、本明細書において、「n-」はnormal、「s-」はsecondary(sec-)、「t-」 はtertiary(tert-)を意味する。
【0026】
「アリール基」として、例えば、単環、多環(例えば、2環又は3環)のアリール基 を例示できる。具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等を例示できる。単環又は2環のアリール基が好ましく、フェニル基、ナフ チル基が特に好ましい。
【0027】
「ヘテロアリール基」として、例えば、単環、多環(例えば、2環又は3環)のヘテ ロアリール基を例示できる。具体的には、ピリジル基、ピリミジン基、インドリル基、キ ノリン基、ベンズイミダゾール基、フラニル基、チエニル基、ベンゾフラン基、1,3, 4-チアジアゾール基等を例示できる。特に単環又は2環のヘテロアリール基が好ましい 。
【0028】
上記置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基の、アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上の置換基 (アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上に置換しうる基)として、例えば、 アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、 アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、環状アミノ基、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、ウレイド基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。該置換基(アルキル鎖 、アリール環又はヘテロアリール環上に置換しうる基、以下、置換基と称する)は、アルキル鎖、アリール環又はヘテロアリール環上に、1~5個有していてもよい。
【0029】
例えば、上記置換基を有していてもよいアルキル基が、「置換基を有するアルキル基」である場合、置換基を有するアルキル基として、例えば、具体的には、2-クロロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、ベンジル基、フェネチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルエチル基、4-ヒドロキシブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、2-イソプロポキシエチル基、ブタン酸エチル基等を例示することができる。
【0030】
上記置換基を有していてもよいアリール基が、「置換基を有するアリール基」である場 合、置換基を有するアリール基として、例えば、具体的には、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、N,N-ジメチルアミノフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、4-ビフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-メチルチオフェニル基、4-(トリフルオロメチル)フェニル基、4-フェノキシフェニル基、4-アセチルフェニル基、4-メトキシカルボニルフェニル基等を例示することができる。
【0031】
上記置換基を有していてもよいヘテロアリール基が、「置換基を有するヘテロアリール 基」である場合、置換基を有するヘテロアリール基として、例えば、具体的には、2-メチルピリジル基、2-クロロピリジル基、6-フルオロベンゾチアゾール基、6-クロロベンゾチアゾール基、6-メチルベンゾチアゾール基、6-メトキシベンゾチアゾール基、5-メチル-1,3,4-チアジアゾール基、5-メチルチオ-1,3,4-チアジアゾール基、5-トリフルオロメチル-1,3,4-チアジアゾール基等を例示することができる。
【0032】
Mで示される2価の金属として、例えば、周期律表第3族~第15族に属する金属原 子を例示できる。例えば、具体的には、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Pb、Rh、Pd 、Pt、Mn、Sn、Pb等を例示できる。
【0033】
Mで示される3価若しくは4価の金属化合物として、例えば、周期律表第3族~第1 5族に属する金属の、ハロゲン化物、水酸化物及び酸化物等を例示できる。具体的には、AlCl、AlOH、InCl、FeCl、MnOH、SiCl2、SnCl2、GeCl2、Si(OH)2、Si(OCH3)2、Si(OPh)2、Si(OSiCH3) 2、Sn(OH)2、Ge(OH)2、VO、TiO等を挙げることができる。なお、上記Phは、フェニル基を示す。
【0034】
前記フタロシアニン系化合物が、オキソバナジウム、銅、アルミニウム、コバルトおよび亜鉛から選択される中心金属を有するフタロシアニン系染料であることが好ましい。
【0035】
色素(B)は、下記式(1-3a)~(1-3c)で表される少なくともいずれかのフタロシアニン系化合物を含むことが好ましい。
【0036】
【0037】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれることが好ましく、0.002~0.18質量部含まれることがより好ましく、0.004~0.16質量部含まれることがさらにより好ましく、0.005~0.15質量部含まれることが特に好ましく、0.01~0.1質量部含まれることがさらに特に好ましい。
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれる場合、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品は、より長波長の波長の光をカット出来るので、より優れる。
【0038】
1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)は、市販品を用いることができる。例えば、山田化学工業製FDN-010(商品名)等を例示することができ、それを使用することができる。
【0039】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、700nm以上1000nm未満に極大吸収波長があるフタロシアニン系色素(C)を含み、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(C)を0.001~0.2質量部含む。
【0040】
極大吸収波長が700nm以上1000nm未満のフタロシアニン系色素(C)は、700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有し、フタロシアニン構造を有する色素であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。
【0041】
極大吸収波長が700nm以上1000nm未満のフタロシアニン系色素(C)として、市販品を使用することができる。市販品として、山田化学工業社製のFDN001、FDN002、FDN003、FDN004、FDN005、FDN006、FDN007、FDN008(いずれも商品名)等を例示することができる。
【0042】
極大吸収波長が700nm以上1000nm未満のフタロシアニン系色素(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれることが好ましく、0.002~0.18質量部含まれることがより好ましく、0.004~0.16質量部含まれることがさらにより好ましく、0.005~0.15質量部含まれることが特に好ましく、0.01~0.1質量部含まれることがさらに特に好ましい。
極大吸収波長が700nm以上1000nm未満のフタロシアニン系色素(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.2質量部含まれる場合、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品は、フタロシアニン系化合物を含む色素(B)でカット出来ない波長の光をカットする事が可能になるので、より優れる。
【0043】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)を含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して色素(D)を0.01~2.0質量部含有することが好ましい。
【0044】
極大吸収波長が700nm未満の色素(D)は、700nm未満の極大吸収波長を有し、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。
【0045】
色素(D)として、例えば、アントラキノン系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素、アゾ系色素、キノリン系色素などが挙げられる。樹脂組成物に、より容易に均一に分散することができるので、油溶性の染料が好ましい。染料は、顔料より小さな粒子からできているので、染料は樹脂組成物により均一に混合することができるので、成形体の曇り度(ヘイズ値)をより小さくできるので好ましい。染料は、Lidar用としてより好ましい。
【0046】
上記顔料系の色素としては、例えば、アゾ系(溶性アゾ系,不溶性アゾ系)色素、縮合系色素、スレン系顔料、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、イソインドリン系色素等の有機色素や、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、群青(ウルトラマリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、チタンブラック、合成鉄黒等の無機色素等があげられる。
【0047】
本発明の実施形態において、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)は、アントラキノン系色素を含むことが好ましい。
【0048】
(D)色素は、ペリノン系色素、ペリレン系色素、メチン系色素から選択される少なくとも1種を、更に含むことができる。
【0049】
本発明の実施形態の樹脂組成物には、(D)色素として、アントラキノン系色素の他に、別の色素を複数組み合わせて用いることができる。例えば、顔料と顔料の組み合わせ、顔料と染料の組み合わせ、染料と染料の組み合わせであってよいが、染料と染料を組み合わせて用いることが好ましい。アントラキノン系色素と他の色素とを組み合わせて用いることが、種々の波長の光を抑制または遮断することができ、かつ種々の波長領域において良好な光透過性を備えることができることから好ましい。
【0050】
本発明の実施形態の組成物を得られる限り、上述の色素は、特に制限されないが、具体的には以下のようなものを使用できる。
【0051】
前記アントラキノン系色素が、Solvent Yellow 163、Disperse Violet 28、Solvent Blue 97、Solvent Green 28、Solvent Green 3、Disperse Blue 60からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0052】
ペリノン系色素としては、Solvent Orange 60、Solvent Orange 78、Solvent Orange90、Solvent Violet 29、Solvent Red 135、Solvent Red162、Solvent Red 179等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0053】
ペリレン系色素としては、Solvent Green 3、Solvent Green 5、Solvent Orange 55、Vat Red15、Vat Orange7、F Orange240、F Red305、F Red339、F Yellow83、Solvent Red 179等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0054】
メチン系色素としては、Solvent Orange 80、Solvent Yellow 93、Disperse Yellow 201等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
またキノリン系色素としては、Solvent Yellow 33、Solvent Yellow 98、Solvent Yellow 157、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 201等のカラーインデックスで市販されている色素が挙げられる。
【0055】
本発明の実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)を0.01~2.0質量部含むことが好ましく、0.02~1.5質量部含むことがより好ましく、0.025~1.0質量部含むことが更に好ましい。
【0056】
さらに、本発明の実施形態に係る波長選択透過性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤等から選択され得る少なくとも1種が適宜配合されていてもよい。
【0057】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を持つフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長があるフタロシアニン系色素(C)を混合し、必要に応じて、極大吸収波長が700nm未満の色素(D)、各種添加剤等を混合する製造方法を例示することができる。本発明が目的とする波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0058】
前記のごとく得られる波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの形状及び大きさには特に限定がなく、一般的な樹脂ペレットが有する形状及び大きさであればよい。例えば、ペレットの形状としては、楕円柱状、円柱状等が挙げられる。ペレットの大きさとしては、長さが2~8mm程度であることが好適であり、楕円柱状の場合、断面楕円の長径が2~8mm程度、短径が1~4mm程度であることが好適であり、円柱状の場合、断面円の直径が1~6mm程度であることが好適である。なお、得られたペレット1つずつがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体を形成する全てのペレットがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体の平均値がこのような大きさであってもよく、特に限定はない。
【0059】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物の成形体の透過率は、厚さが2mmの場合、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更により好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0060】
本発明の実施形態の成形品は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができ、センサー用、フィルター用等に好適に使用することができる。
【0061】
本発明が目的とする成形品を得ることができる限り、成形品の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出成形法、圧縮成形法等により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0062】
本発明の実施形態の成形品は、例えば、LiDAR用センサーカバー等として好適である。
【0063】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
(A1)ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂
粘度平均分子量:18800、住化ポリカーボネート(株)製のSDポリカ 200-20(商品名)、「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標
【0066】
(B)1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素
(B1)フタロシアニン系色素
山田化学工業社製 FDN-010(商品名)
最大吸収波長=1014nm
【0067】
(C)700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有するフタロシアニン系色素
(C1)フタロシアニン系色素
山田化学工業社製 FDN-006(商品名)
最大吸収波長=927nm
(C2)フタロシアニン系色素
山田化学工業社製 FDN-004(商品名)
最大吸収波長=880nm
(C3)フタロシアニン系色素
山田化学工業社製 FDN-002(商品名)
最大吸収波長=807nm
【0068】
(D)極大吸収波長が700nm未満の色素
(D1)アントラキノン系色素(Solvent Blue 97)
バイエルAG製 Macrolex Blue RR(商品名)
最大吸収波長=640nm
【化7】
【0069】
(D2)アントラキノン系色素(Solvent Green 28)
バイエルAG製 Macrolex Green G(商品名)
最大吸収波長=690nm
【化8】
【0070】
実施例1~7及び比較例1~3のポリカーボネート樹脂組成物の製造
実施例1~7及び比較例1~3のポリカーボネート樹脂組成物を、下記表1及び2に記載した成分を記載した量で混合して、必要に応じて、例えば、300℃で溶融混練し、ペレットを得た。
【0071】
実施例1~7及び比較例1~3のポリカーボネート樹脂組成物の各々を、下記の評価方法で評価した。
(1)成形体の透過率
成形体について、600nmから1000nmの透過率を評価するため、ポリカーボネート樹脂組成物を日本製鋼製J100 E2Pでシリンダー温度300℃、金型温度80℃にて成形して、成形品(縦×横×厚さ:80×50×2mm)を得た。成形品の光学スペクトルを日立ハイテクフィールディングのUH4150にて透過スペクトルを評価した。
1050nmから350nmまで2nm毎に透過率を測定した。400、600、800及び1000nmの透過率を、表1~2に示した。
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1~7のポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、1000nm以上1200nm以下に極大吸収波長を有するフタロシアニン系化合物を含む色素(B)、及び700nm以上1000nm未満に極大吸収波長を有するフタロシアニン系色素(C)を含み、 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、色素(B)を0.001~0.2質量部含有し、色素(C)を0.001~0.2質量部含有する。
実施例1~7のポリカーボネート樹脂組成物は、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、その成形体の透過率を10%以下に制御することができる。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有し、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができる。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できる。
【0075】
比較例1~3のポリカーボネート樹脂組成物は、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、その成形体の透過率を10%以下に制御することができない。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有さず、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができない。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の実施形態の波長選択透過性ポリカーボネート樹脂組成物は、1000nm以下400nmに渡る範囲の波長領域において、その成形体の透過率を10%以下に制御することができる。よって、本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、適切に波長選択性を有し、光学特性に変化を実質的に生じない成形品を提供することができる。その成形品は、Lidar用途に好適に使用できる。