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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20231113BHJP
【FI】
H03H9/19 F
H03H9/19 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020054188
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021158421
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加賀 重隆
(72)【発明者】
【氏名】窪田 正積
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098592(JP,A)
【文献】特開2018-117198(JP,A)
【文献】特開2007-214941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージと、該パッケージに内蔵されていて平板かつ平面形状が矩形のATカットの水晶片と、該水晶片の主面の一方の面に設けられ厚さが一様な第1励振電極と、前記主面の他方の面に設けられ外周付近が傾斜部となっていて該傾斜部以外は一様な厚みの主厚部となっている第2励振電極と、を備え、前記主厚部の厚みが前記第1励振電極の厚みより厚い水晶振動子において、
前記水晶片は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で50MHzの水晶片であり、
前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を4.1%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.6~6.2としてあり、
前記傾斜部の幅を、前記水晶片で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてあり、
前記第1励振電極及び第2励振電極各々は、前記水晶片の長辺方向を長軸、前記水晶片の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%としてあること
を特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
パッケージと、該パッケージに内蔵されていて平板かつ平面形状が矩形のATカットの水晶片と、該水晶片の主面の一方の面に設けられ厚さが一様な第1励振電極と、前記主面の他方の面に設けられ外周付近が傾斜部となっていて該傾斜部以外は一様な厚みの主厚部となっている第2励振電極と、を備え、前記主厚部の厚みが前記第1励振電極の厚みより厚い水晶振動子において、
前記水晶片は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で50MHzの水晶片であり、
前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を4.8%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.9~6.7としてあり、
前記傾斜部の幅を、前記水晶片で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてあり、
前記第1励振電極及び第2励振電極各々は、前記水晶片の長辺方向を長軸、前記水晶片の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%としてあること
を特徴とする水晶振動子。
【請求項3】
パッケージと、該パッケージに内蔵されていて平板かつ平面形状が矩形のATカットの水晶片と、該水晶片の主面の一方の面に設けられ厚さが一様な第1励振電極と、前記主面の他方の面に設けられ外周付近が傾斜部となっていて該傾斜部以外は一様な厚みの主厚部となっている第2励振電極と、を備え、前記主厚部の厚みが前記第1励振電極の厚みより厚い水晶振動子において、
前記水晶片は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で50MHzの水晶片であり、
前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を5.5%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、6.0~7.1としてあり、
前記傾斜部の幅を、前記水晶片で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてあり、
前記第1励振電極及び第2励振電極各々は、前記水晶片の長辺方向を長軸、前記水晶片の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%としてあること
を特徴とする水晶振動子。
【請求項4】
前記水晶片は、長辺寸法が3~4mm、短辺寸法が1.4~2mmから選ばれる大きさであり、前記パッケージは外形の長辺寸法が6±0.2mm及び短辺寸法が3.5±0.2mmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励振電極の周囲に傾斜部が形成されたATカットの水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
厚み滑り振動する水晶振動子では、外周付近の厚さを薄くしたいわゆるコンベックス形状の水晶片を用いることによって、振動エネルギーを水晶片に閉じ込めて、不要振動を抑圧することができる。しかし、水晶片をコンベックス形状に形成するためには、加工の手間及びコストがかかるという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1では、水晶片は平板状のままで、両主面に形成される励振電極それぞれの縁に励振電極の厚さが漸減する傾斜部を形成することで、コンベックス形状の効果を生じさせて、水晶片の加工の手間及びコストを削減する旨が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-217675
【文献】特開2018-98592
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献2には、特許文献1に開示された水晶振動子の構造、すなわち、水晶片の両両面に設ける励振電極それぞれが、縁に傾斜部を有したものであると、周波数調整のために励振電極をトリミングする際に傾斜部が消失して、振動エネルギーの損失が大きくなる場合があることが、記載されている(特許文献2の例えば図4、段落26等)。そして、その改善を図るため、水晶片の一方の主面に形成する第1励振電極は全体が一様な厚さのものとし、他方の主面に形成する第2励振電極は一定の厚さで形成される主厚部及び主厚部の周囲に形成され主厚部に接する部分から外に向かい厚さが徐々に薄くなる傾斜部を有するものとし、かつ、主厚部は第1励振電極の厚さよりも厚くする構造が記載されている。
【0006】
この特許文献2に開示された水晶振動子は、第1励振電極側を周波数調整することによって、周波数調整をしても振動損失の悪化の程度を軽減できるものであった。
しかしながら、特許文献2は、具体的な周波数及び大きさのATカット水晶振動子に関する適正構造の言及は、必ずしも満足のゆくものではなかった。
この出願は上記の点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的は、一様な厚みの第1励振電極と、外周付近に傾斜部を持つ第2励振電極と、を有したATカット水晶振動子において、個別の周波数において好ましい具体的な構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明のATカットの水晶振動子によれば、パッケージと、該パッケージに内蔵されていて平板かつ平面形状が矩形のATカットの水晶片と、該水晶片の主面の一方の面に設けられ厚さが一様な第1励振電極と、前記主面の他方の面に設けられ外周付近が傾斜部となっていて該傾斜部以外は一様な厚みの主圧部となっている第2励振電極と、を備え、前記主厚部の厚みが前記第1励振電極の厚みより厚い水晶振動子において、
前記水晶片は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で50MHzの水晶片であり、
前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を4.1%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.6~6.2としてあるか、
又は、前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を4.8%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.9~6.7としてあるか、
又は、前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を5.5%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、6.0~7.1としてあり、
前記傾斜部の幅を、前記水晶片で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてあり、
前記第1励振電極及び第2励振電極各々は、前記水晶片の長辺方向を長軸、前記水晶片の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%としてあること
を特徴とする。
【0008】
なお、この発明を実施するに当たり、前記水晶片は、水晶のX軸方向の寸法をL1、水晶のZ′軸方向の寸法をW1、厚みをtと表したとき、L1/t≧86、W1/t≧49.5を満たす水晶片とすることが好ましい。例えば、長辺寸法L1が3.226±0.1mm、短辺寸法W1が1.576±0.1mmの水晶片は、L1/t=101、W1/t=49.5であり、本発明で使用可能な水晶片の一例である。
また、前記水晶片の発振周波数が基本波で50MHzとは、50MHz±5MHzの周波数帯、より好ましくは50MHz±3MHzの周波数帯も含む。このような周波数帯についても、本発明の設計思想は適用できる。
また、上記の閉じ込め係数とは、n(We/βz・tq)√Δで決まる値である。ここで、nは水晶振動子の振動次数(例えば基本波であれば1)、Weは励振電極の水晶結晶軸のZ′方向の寸法、βzは水晶結晶軸のZ′方向の異方性係数1.538、tqは水晶片の厚みある。また、Δは、励振電極の質量/水晶の質量の比で決まる値であり、具体的には、(2ρe・te/ρq・tq)で求まる値である。ここで、ρqは水晶の密度、tqは水晶の厚み、ρeは励振電極の密度、teは励振電極の厚みである。
【0009】
また、別の発明のATカットの水晶振動子によれば、パッケージと、該パッケージに内蔵されていて平板かつ平面形状が矩形のATカットの水晶片と、該水晶片の主面の一方の面に設けられ厚さが一様な第1励振電極と、前記主面の他方の面に設けられ外周付近が傾斜部となっていて該傾斜部以外は一様な厚みの主圧部となっている第2励振電極と、を備え、前記主厚部の厚みが前記第1励振電極の厚みより厚い水晶振動子において、
前記水晶片は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で38MHzの水晶片であり、
前記第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を4.6%とし、前記第1励振電極及び第2励振電極による、前記水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.4~6.0としてあり、
前記傾斜部の幅を、前記水晶片で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてあり、
前記第1励振電極及び第2励振電極各々は、前記水晶片の長辺方向を長軸、前記水晶片の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%としてあること
を特徴とする。
【0010】
なお、この発明を実施するに当たり、前記水晶片は、水晶のX軸方向の寸法をL1、水晶のZ′軸方向の寸法をW1、厚みをtと表したとき、L1/t≧75、W1/t≧45を満たす水晶片とすることが好ましい。例えば、長辺寸法L1が4±0.1mm、短辺寸法W1が1.848±0.1mmの水晶片は、L1/t=97、W1/t=45であり、本発明で使用可能な水晶片の一例である。
また、前記水晶片の発振周波数が基本波で38MHzとは、例えば、38MHz、38.88MHzなどの良く使用される周波数を含む、例えば、38MHz±3MHzの周波数帯のことである。
また、上記の閉じ込め係数とは、n(We/βz・tq)√Δで決まる値である。ここで、nは水晶振動子の振動次数(例えば基本波であれば1)、Weは励振電極の水晶結晶軸のZ′方向の寸法、βzは水晶結晶軸のZ′方向の異方性係数1.538、tqは水晶片の厚みある。また、Δは、励振電極の質量/水晶の質量の比で決まる値であり、具体的には、(2ρe・te/ρq・tq)で求まる値である。ここで、ρqは水晶の密度、tqは水晶の厚み、ρeは励振電極の密度、teは励振電極の厚みである。
【0011】
なお、上記の各発明において、長軸長さ/短軸長さ=1.265±10%とした理由は、ATカット水晶片の異方性係数比(X軸方向:1.945、Z′軸方向:1.538の比=1.945/1.538≒1.265)と、その許容度±10%とに基づく。なお、異方性係数については、例えば文献「弾性波デバイス技術(株オーム社2014年版)、pp。183-185」等に記載されているので、説明は省略する。
また、上記の各発明を実施するに当たり、パッケージとしては、外形寸法でいって長辺が6mm、短辺が3.5mmのセラミック製のパッケージ、いわゆる6035サイズのセラミックパッケージが好ましい。ただし、長辺、短辺いずれもパッケージの一般的な公差である±0.2mmは許容される。
また、第1励振電極及び第2励振電極の質量/水晶の質量の比を示した上記値は、それぞれの値に対し±0.1%は、本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水晶振動子によれば、周波数が50MHz付近で、かつ、一様な厚みの第1励振電極と、外周付近に傾斜部を持つ第2励振電極とを有した水晶振動子において、不要振動を抑えることができると共に周波数調整の際の振動エネルギーの損失を防ぐことができる。
また、本発明の水晶振動子によれば、周波数が38MHz付近で、かつ、一様な厚みの第1励振電極と、外周付近に傾斜部を持つ第2励振電極とを有した水晶振動子において、不要振動を抑えることができると共に周波数調整の際の振動エネルギーの損失を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(A)は実施形態の水晶振動子10を説明する平面図、図1(B)は実施形態の水晶振動子10を説明する断面図であって、図1(A)のI-I線に沿う断面図である。
図2図2(A)は実施形態の水晶振動子10の励振電極における傾斜部を説明する断面図、図2(B)は楕円電極を説明する平面図である。
図3】実施例1のシミュレーション結果を説明する図である。
図4】実施例2のシミュレーション結果を説明する図である。
図5】実施例3のシミュレーション結果を説明する図である。
図6】実施例4のシミュレーション結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれら発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の実施形態中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明が以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
1.水晶振動子の構造
先ず、図1(A)及び(B)を参照して実施形態の水晶振動子10の構造について説明する。
実施形態の水晶振動子10は、パッケージ11、ATカット水晶片13、第1励振電極15及び第2励振電極17を備えている。
パッケージ11は、この例の場合、セラミック製のパッケージであって、AT水晶片を実装する凹部11aを有したものである。凹部11aの周囲は土手部11bとなっている。このセラミック製パッケージ11では、蓋部材(図示を省略)を土手11b部に、シーム封止、ガラス封止、金錫封止等の任意好適な方法によって接合することによって、水晶片11を封止できる。なお、後述するシミュレーションで用いた水晶片13の大きさを考慮すると、パッケージ11の外形寸法は、長辺L0が約6mm、短辺W0が約3.5mmの、いわゆる6035サイズが良い。
AT水晶片13は、平板かつ平面形状が矩形のもので、周波数に応じた厚みを有したものである。なお、ATカット水晶片自体は公知のものなので、その説明を省略する。
このATカット水晶片11の一方の主面に、第1励振電極15を設けてあり。他方の主面に、第2励振電極17を設けてある。これら電極15,17は例えばクロム膜と金膜との積層膜で構成できる。
第1励振電極15は、厚さが一様となっている。第2励振電極17は、図1(B)に示したように、外周付近が、水晶片の中央側から縁に向かって厚さが減じている傾斜部17aとなっていて、傾斜部17a以外は一様な厚みの主圧部17bとなっている。第2励振電極17の主厚部17bの厚みは、第1励振電極15の厚みより厚くなっている。
そして、この実施形態の水晶振動子10は、水晶片13の周波数に応じて、以下のような構造となっている。
【0016】
(周波数50MHz帯の場合)
当該水晶片13は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で50MHzの水晶片となっている。
さらに、第1励振電極15及び第2励振電極17の質量/水晶片13の質量の比を4.1%とし、第1励振電極及び第2励振電極による、水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.6~6.2としてある。
又は、第1励振電極15及び第2励振電極17の質量/水晶の質量の比を4.8%とし、第1励振電極15及び第2励振電極17による、水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.9~6.7としてある。
又は、第1励振電極15及び第2励振電極17の質量/水晶の質量の比を5.5%とし、第1励振電極15及び第2励振電極17による、水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、6.0~7.1としてある。
さらに、傾斜部17の幅Wk(図2(A)参照)を、水晶片13で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてある。
さらに、第1励振電極15及び第2励振電極17各々は、水晶片13の長辺方向を長軸、水晶片13の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さLa/短軸長さWa=1.265±10%としてある。
ここで、長軸長さLa、短軸長さWaは、この例の場合は、傾斜部17の中間点同士を結んだ長さと定義している(図2(B)参照)。
なお、閉じ込め係数と、長軸長さLa/短軸長さWa=1.265±10%とについては、上記の「課題を解決するための手段の項」にて説明したものである。
【0017】
(周波数38MHz帯の場合)
当該水晶片13は、水晶のX軸方向を長辺とし、水晶のZ′方向を短辺とし、発振周波数が基本波で38MHzの水晶片である。
また、第1励振電極15及び第2励振電極17の質量/水晶片の質量の比を4.6%とし、第1励振電極15及び第2励振電極17による、水晶片の水晶Z′軸方向の閉じ込め係数を、4.4~6.0としてある。
さらに、傾斜部17の幅Wk(図2(A)参照)を、水晶片13で生じる屈曲モードの振動の波長λに対し1~2.5λの寸法としてある。
さらに、第1励振電極15及び第2励振電極17各々は、水晶片13の長辺方向を長軸、水晶片13の短辺方向を短軸とする楕円形状としてあり、かつ、長軸長さLa/短軸長さWa=1.265±10%としてある。
ここで、長軸長さLa、短軸長さWaは、傾斜部17の中間点同士を結んだ長さと定義している(図2(B)参照)。
なお、閉じ込め係数と、長軸長さLa/短軸長さWa=1.265±10%とについては、上記の「課題を解決するための手段の項」にて説明したものである。
【0018】
2.シミュレーション及びその結果
上記の実施形態の水晶振動子10について、以下に実施例1~実施例4として示す各種条件による有限要素法によるシミュレーションを行った。ここで、実施例1~実施例3は、周波数が50MHzの水晶片に関するもので、実施例4は周波数が38MHの水晶片に関するものである。
なお、これらのシミュレーションでは、図2(A)に示したように、傾斜部17aが、第1部分17aa、第2部分17ab及び第3部分17acの階段状の3つの部分からなる傾斜部を持つモデルを用いた。
【0019】
また、周波数が50MHzのモデルの場合、傾斜部17aの幅Wkを75μmとした。この75μmとは、50MHzの水晶片で生じる屈曲モードの不要信号の波長λの1.4倍に相当する寸法である。また、周波数が38MHzのモデルの場合、傾斜部17aの幅Wkを69μmとした。この69μmとは、38MHzの水晶片で生じる屈曲モードの不要信号の波長λの1倍に相当する寸法である。
【0020】
なお、シミュレーションで用いた水晶片の大きさであるが、周波数が50MHzの水晶片の場合、長辺寸法L1が3.226mm、短辺寸法W1が1.576mmであり、周波数が38MHzの水晶片の場合、長辺寸法L1が4mm、短辺寸法W1が1.848mmである。もちろん、水晶片の大きさはこれらの例に限られない。例えば、水晶片の長辺寸法L1、短辺寸法W1が上記より大きければ、厚みtに対するL1/t、W1/t、すなわち辺比が水晶振動子の特性に有利になるので、水晶片は上記より大きくても良い。
【0021】
また、実施例1~実施例4各々のモデルの第1部分17aaの幅Wka、第2部分17abの幅Wkb及び第3部分17acの幅Wkc(それぞれ図2(A)参照)は、それぞれ、傾斜部の幅Wkの3分の1の寸法とした。
第1部分17aaの厚さt1、第2部分17abの厚さt2及び第3部分17acの厚さt3(それぞれ図2(A)参照)は、それぞれ、主厚部17bの厚さtの4分の1とした。
また、50MHzのモデルのうちの実施例1のモデルは、第2励振電極17の主厚部17bの厚さを90nmとし、50MHzのモデルのうちの実施例2のモデルは、第2励振電極17の主厚み部17bの厚さを105nmとし、50MHzのモデルのうちの実施例3のモデルは、第2励振電極17の主厚部17bの厚さを120nmとした。
また、38MHzのモデルである実施例4のモデルは、第2励振電極17の主厚部17bの厚さを130nmとした。
そして、実施例1~実施例4のいずれのモデルも、第1励振電極15の厚さは、第2励振電極17の主厚部17bの厚さより30nm薄くした。第1励振電極の膜厚及び第2励振用電極の膜厚を上記の値としたのは、電極の質量/水晶片の質量の比を、本願でいう4.1%や、4.8%等にするためである。なお、第1励振電極の膜厚を第2励振用電極の膜厚より30nm薄くしたが、これは一例であり、薄くする程度はこれに限られない。第1励振電極が膜として成立する範囲までさらに薄くしても良い。ただし、周波数調整ができなくなる程度まで薄い場合は、本発明の範囲外である。
【0022】
上記の実施例1のシミュレーションモデルについて、表1に示したように励振電極の楕円形状の長軸及び短軸寸法を振ることで、閉じ込め係数が異なる8種類のモデルを構成し、それらモデルの第1励振電極15の膜厚を減じた場合、すなわち水晶振動子の周波数調整によって第1励振電極15がアルゴンイオンなどによって削られた場合の、当該水晶振動子での損失(1/Q)を、有限要素法によって算出した。
【0023】
また、上記の実施例2のシミュレーションモデルについて、表2に示したように励振電極の楕円形状の長軸および短軸寸法を振ることで、閉じ込め係数が異なる9種類のモデルを構成し、それらモデルの第1励振電極15の膜厚を減じた場合、すなわち水晶振動子の周波数調整によって第1励振電極15がアルゴンイオンなどによって削られた場合の、当該水晶振動子での損失(1/Q)を、有限要素法によって算出した。
【0024】
また、上記の実施例3のシミュレーションモデルについて、表3に示したように励振電極の楕円形状の長軸および短軸の寸法を振ることで、閉じ込め係数が異なる9種類のモデルを構成し、それらのモデルの第1励振電極15の膜厚を減じた場合、すなわち水晶振動子の周波数調整によって第1励振電極15がアルゴンイオンなどによって削られた場合の、当該水晶振動子での損失(1/Q)を、有限要素法によって算出した。
【0025】
また、上記の実施例4のシミュレーションモデル(38MH用のシミュレーションモデル)について、表4に示したように励振電極の楕円形状の長軸および短軸の寸法を振ることで、閉じ込め係数が異なる9種類のモデルを構成し、それらモデルの第1励振電極15の膜厚を減じた場合、すなわち水晶振動子の周波数調整によって第1励振電極15がアルゴンイオンなどによって削られた場合の、当該水晶振動子での損失(1/Q)を、有限要素法によって算出した。
【0026】
【表1】

以 上
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
図3は、表1に示した8種類の試料から7種類について、横軸に第1励振電極15の周波数調整で減った膜厚(nm)をとり、縦軸にその際の水晶振動子の損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。
図3、表1から、周波数が50MHzの場合で、励振電極の質量/水晶片の質量の比を4.1%とした場合、短軸長W2を1.111~1.506mmすなわち閉じ込め係数を4.6~6.2とすると、第1励振電極15の膜厚を周波数調整によって減じても、損失は小さく抑えられることが分かる。
【0031】
図4は、表2に示した9種類の試料から5種類について、横軸に第1励振電極15の周波数調整で減った膜厚(nm)をとり、縦軸にその際の水晶振動子の損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。
図4、表2から、周波数が50MHzの場合で、励振電極の質量/水晶片の質量の比を4.8%とした場合、短軸長W2を1.111~1.506mmすなわち閉じ込め係数を4.9~6.7とすると、第1励振電極15の膜厚を周波数調整によって減じても、損失は小さく抑えられることが分かる。
【0032】
図5は、表3に示した9種類の試料から6種類について、横軸に第1励振電極15の周波数調整で減った膜厚(nm)をとり、縦軸にその際の水晶振動子の損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。
図5、表3から、周波数が50MHzの場合で、励振電極の質量/水晶片の質量の比を5.5%とした場合、短軸長W2を1.269~1.467mmすなわち閉じ込め係数を6.0~7.1とすると、第1励振電極15の膜厚を周波数調整によって減じても、損失は小さく抑えられることが分かる。
【0033】
図6は、表4に示した9種類の試料から7種類について、横軸に第1励振電極15の周波数調整で減った膜厚(nm)をとり、縦軸にその際の水晶振動子の損失(1/Q)をとって、両者の関係を示した図である。
図6、表4から、周波数が38MHzの場合で、励振電極の質量/水晶片の質量の比を4.6%とした場合、短軸長W2を1.290~1.765mmすなわち閉じ込め係数を4.4~6とすると、第1励振電極15の膜厚を周波数調整によって減じても、損失は小さく抑えられることが分かる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の例に限られない。例えば、上記実施形態における傾斜部の段差は4段であるが、段差は4段に限らず、これよりも多くても少なくとも良い。また、上記の実施形態は様々に組み合わせて実施されても良い。
また、シミュレーションによる実施例として、周波数が50MHz帯で長辺寸法L1が3.226mm、短辺寸法W1が1.576mmの水晶片の例を挙げたが、パッケージ寸法がいわゆる6035サイズに収納できる対応として、長辺寸法L1が3~4mm、短辺寸法W1が1.4~2mmまでの範囲の水晶片においても同様の効果を確認している。また、シミュレーションによる実施例として、周波数が38MHz帯で長辺寸法L1が3.226mm、短辺寸法W1が1.576mmの水晶片の例を挙げたが、パッケージ寸法がいわゆる6035サイズに収納できる対応として、長辺寸法L1が3~4mm、短辺寸法W1が1.4~2mmまでの範囲の水晶片においても同様の効果を確認している。
【符号の説明】
【0035】
10:実施形態の水晶振動子 11:パッケージ
13:ATカット水晶片 15:第1励振電極
17:第2励振電極 17a:傾斜部
17aa:第1部分 17ab:第2部分
17ac:第3部分 17b:主圧部
図1
図2
図3
図4
図5
図6