(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】インプリント方法、インプリント装置、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231113BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020092542
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐司
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-43338(JP,A)
【文献】特開2019-212690(JP,A)
【文献】特開2019-21749(JP,A)
【文献】特開2020-38962(JP,A)
【文献】特開2015-144193(JP,A)
【文献】特開2009-212449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドを用いて基板のショット領域上にインプリント材のパターンを形成するインプリント方法であって、
前記ショット領域のうち互いに隣り合う第1部分領域および第2部分領域に対して互いに異なる配置パターンで前記インプリント材の液滴が配置されるように、前記ショット領域上に前記インプリント材を供給する供給工程と、
前記モールドと前記ショット領域上の前記インプリント材との接触開始後において、前記モールドと前記ショット領域とのアライメントを行うアライメント工程と、
前記アライメント工程の終了前において、前記ショット領域上の前記インプリント材に光を照射して前記インプリント材の粘弾性を高める予備硬化工程と、
前記アライメント工程の終了後において、前記ショット領域上の前記インプリント材を硬化させる本硬化工程と、
を含み、
前記予備硬化工程では、前記ショット領域のうち前記第1部分領域と前記第2部分領域との境界部の照射光量が前記境界部とは異なる部分の照射光量より小さくなるように、前記インプリント材に前記光を照射する、ことを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
前記ショット領域は、前記光の照射光量を個別に調整可能な複数の単位照射領域に区分けされ、
前記予備硬化工程では、前記複数の単位照射領域のうち前記境界部が位置する第1単位照射領域の照射光量が、前記境界部が位置しない第2単位照射領域の照射光量より小さくなるように、各単位照射領域における照射光量を調整する、ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項3】
前記予備硬化工程では、前記ショット領域のうち前記境界部の照射光量が前記境界部とは異なる部分の照射光量の半分以下になるように、前記インプリント材に光を照射する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント方法。
【請求項4】
前記境界部は、前記ショット領域のうち前記第1部分領域と前記第2部分領域との境界に対して所定の幅を付与した部分である、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項5】
前記第1部分領域では、第1配置パターンでの前記インプリント材の液滴の配置が単位面積ごとに繰り返され、前記第2部分領域では、前記第1配置パターンとは異なる第2配置パターンでの前記インプリント材の液滴の配置が単位面積ごとに繰り返される、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項6】
前記供給工程では、前記ショット領域上に前記インプリント材の液滴を格子状に配置し、
前記第1部分領域と前記第2部分領域とでは、前記配置パターンとして、前記インプリント材の液滴が配置される格子の向き、形状および寸法の少なくとも1つが異なる、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項7】
前記ショット領域の一部分で前記インプリント材と前記モールドとを接触させた後に、前記モールドと前記インプリント材との接触領域を前記一部分から放射方向に徐々に拡大させる接触工程を更に含み、
前記第1部分領域では、前記放射方向のうちの1つの方向である第1方向における液滴の間隔が前記第1方向と垂直な方向における液滴の間隔より狭くなるように設定された第1配置パターンに従って前記インプリント材の液滴が配置され、
前記第2部分領域では、前記放射方向のうちの1つの方向であり且つ前記第1方向とは異なる第2方向における液滴の間隔が前記第2方向と垂直な方向における液滴の間隔より狭くなるように設定された第2配置パターンに従って前記インプリント材の液滴が配置されている、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項8】
前記第1部分領域および前記第2部分領域の各々は、前記インプリント材の液滴が100個以上配置される領域である、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項9】
前記第1部分領域および前記第2部分領域の各々は、前記ショット領域の面積の1/100以上の面積を有する、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項10】
前記第1部分領域および前記第2部分領域の各々は、前記ショット領域の面積の1/10以上の面積を有する、ことを特徴とする請求項9に記載のインプリント方法。
【請求項11】
前記予備硬化工程では、前記インプリント材を第1目標硬度に硬化させ、
前記本硬化工程では、前記インプリント材を前記第1目標硬度より高い第2目標硬度に硬化させる、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項12】
前記アライメント工程では、前記モールドに設けられたマークと前記基板に設けられたマークとの相対位置の検出結果に基づいて、前記モールドと前記基板とのアライメントを行う、ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項13】
モールドを用いて基板のショット領域上にインプリント材のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記ショット領域のうち互いに隣り合う第1部分領域および第2部分領域に対して互いに異なる配置パターンで前記インプリント材の液滴が配置されるように、前記ショット領域上に前記インプリント材を供給する供給部と、
前記モールドと前記ショット領域とのアライメントの終了前において、前記ショット領域上の前記インプリント材に光を照射して前記インプリント材の粘弾性を高める予備硬化を行う光照射部と、
を備え、
前記光照射部は、前記予備硬化において、前記ショット領域のうち前記第1部分領域と前記第2部分領域との境界部の照射光量が前記境界部とは異なる部分の照射光量より小さくなるように、前記インプリント材に前記光を照射する、ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインプリント方法を用いて基板上にパターンを形成する形成工程と、
前記形成工程でパターンが形成された前記基板を加工する加工工程と、を含み、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント方法、インプリント装置、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどを製造するためのリソグラフィ装置として、モールド(型)を用いて基板上のインプリント材を成形するインプリント装置が知られている。インプリント装置では、基板上に液状のインプリント材を供給し、モールドと基板上のインプリント材とを接触させた後、その状態でインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材からモールドを剥離する。これにより、基板上にインプリント材のパターンを形成することができる。
【0003】
インプリント技術では、インプリント材を硬化させる前に、モールドと基板上のインプリント材とを接触させた状態でモールドと基板とのアライメントが行われる。当該アライメントでは、インプリント装置が設置されている床からの振動等の外乱により、モールドと基板とのアライメント精度が低下しうる。特許文献1には、モールドとインプリント材とを接触させた状態でのモールドと基板とのアライメントにおいて、インプリント材に光を照射してインプリント材の粘性を増加させる予備硬化を行うことでアライメント精度を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インプリント装置では、モールドと基板(ショット領域)上のインプリント材とを接触させたときにモールドと基板との間に気泡が残存していると、基板上に形成されたインプリント材のパターンに欠損が生じる。そのため、基板のショット領域を複数の部分領域に区分けし、各部分領域について、気泡の残存が低減されるようにインプリント材の液滴の配置パターンの最適化が行われうる。しかしながら、複数の部分領域における境界部においては配置パターンの最適化が不十分になる。そのため、当該境界部で予備硬化を行ってインプリント材の粘弾性を高めてしまうと、モールドの凹凸パターンへのインプリント材の充填性が低下して気泡が残存しやすくなりうる。
【0006】
そこで、本発明は、モールドと基板とのアライメント精度を向上させつつ、モールドと基板との間における気泡の残存を低減するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント方法は、モールドを用いて基板のショット領域上にインプリント材のパターンを形成するインプリント方法であって、前記ショット領域のうち互いに隣り合う第1部分領域および第2部分領域に対して互いに異なる配置パターンで前記インプリント材の液滴が配置されるように、前記ショット領域上に前記インプリント材を供給する供給工程と、前記モールドと前記ショット領域上の前記インプリント材との接触開始後において、前記モールドと前記ショット領域とのアライメントを行うアライメント工程と、前記アライメント工程の終了前において、前記ショット領域上の前記インプリント材に光を照射して前記インプリント材の粘弾性を高める予備硬化工程と、前記アライメント工程の終了後において、前記ショット領域上の前記インプリント材を硬化させる本硬化工程と、を含み、前記予備硬化工程では、前記ショット領域のうち前記第1部分領域と前記第2部分領域との境界部の照射光量が前記境界部とは異なる部分の照射光量より小さくなるように、前記インプリント材に前記光を照射する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、モールドと基板とのアライメント精度を向上させつつ、モールドと基板との間における気泡の残存を低減するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】インプリント装置の例示的な動作フローを示す図
【
図3】インプリント材とモールドとの接触領域の拡大を説明するための図
【
図4】インプリント材の液滴配置の評価指標を説明するための図
【
図5】ショット領域におけるインプリント材の配置パターンおよび照度分布を示す図
【
図6】ショット領域における複数の単位照射領域を示す図
【
図7】ショット領域におけるインプリント材の配置パターンおよび照度分布を示す図
【
図8】照射積算量を照度の調整によって調整する例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。インプリント装置は、基板上に供給されたインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。例えば、インプリント装置は、基板上に液状のインプリント材を供給し、凹凸のパターンが形成されたモールド(型)を基板上のインプリント材に接触させた状態で当該インプリント材を硬化させる。そして、モールドと基板との間隔を広げて、硬化したインプリント材からモールドを剥離(離型)することで、基板上のインプリント材にモールドのパターンを転写することができる。このような一連の処理は「インプリント処理」と呼ばれ、基板における1又は複数のショット領域の各々について行われる。
【0013】
インプリント処理は、例えば、供給工程(配置工程)と、接触工程と、硬化工程と、分離工程とを含みうる。供給工程では、基板のショット領域上にインプリント材が液滴(ドロップ)状態で配置される。供給工程の後に実行されうる接触工程では、基板のショット領域の一部分の上のインプリント材とモールドのパターン領域とを接触させた後に、インプリント材とパターン領域との接触領域がショット領域の全域まで拡大される。接触工程の後に実行されうる硬化工程では、インプリント材が硬化される。硬化工程の後に実行されうる分離工程では、インプリント材の硬化物とモールドMとが分離(剥離、離型)される。これにより、基板のショット領域上には、インプリント材の硬化物からなるパターンが形成される。
【0014】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウェハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。
【0015】
本明細書および添付図面では、基板の表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系において方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転、Z軸周りの回転をそれぞれθX、θY、θZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御または駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸、Z軸の座標に基づいて特定されうる情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸、θZ軸の値で特定されうる情報である。位置決めは、位置および/または姿勢を制御することを意味する。アライメント(位置合わせ)は、基板のショット領域とモールドのパターン領域とのアライメント誤差(重ね合わせ誤差)が低減されるように基板およびモールドの少なくとも一方の位置および/または姿勢の制御を含みうる。また、アライメントは、基板のショット領域およびモールドのパターン領域の少なくとも一方の形状を補正あるいは変更するための制御を含みうる。
【0016】
[インプリント装置の構成]
図1は、本実施形態のインプリント装置100の構成を示す概略図である。インプリント装置100は、定盤1、フレーム2、ダンパ3、相対駆動機構20、調整機構28、光照射部IRR、アライメントスコープ15、ディスペンサ25、パージガス供給部26、および、制御部11を備えうる。相対駆動機構20は、基板Sのショット領域とモールドMのパターン領域PRとの相対位置を変更する。相対駆動機構20による相対位置の調整は、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに対するモールドMの接触、および、硬化したインプリント材IM(硬化物のパターン)からのモールドMの分離のための駆動を含む。また、相対駆動機構20による相対位置の調整は、基板S(のショット領域SR)とモールドM(のパターン領域PR)とのアライメントを含む。相対駆動機構20は、基板S(のショット領域SR)を位置決めする基板位置決め機構21と、モールドM(のパターン領域PR)を位置決めする型位置決め機構7とを含みうる。
【0017】
基板位置決め機構21は、基板Sを保持する基板保持部5と、基板保持部5を駆動することによって基板Sを駆動する基板駆動機構4とを含みうる。基板保持部5および基板駆動機構4は、定盤1によって支持されうる。基板駆動機構4は、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸、θZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。インプリント装置100は、基板Sまたは基板保持部5の位置を計測する計測器(例えば、干渉計またはエンコーダ)を備えることができ、該計測器の出力に基づいて基板保持部5の位置がフィードバック制御されうる。型位置決め機構7は、モールドMを保持する型保持部(不図示)と、該型保持部を駆動することによってモールドMを駆動する型駆動機構(不図示)とを含みうる。型位置決め機構7は、モールドMを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸、θY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。
【0018】
インプリント装置100は、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMとパターン領域PRとが部分的に接触した後、インプリント材IMとパターン領域PRとの接触領域が拡大するようにモールドMの形状を調整する調整機構28を更に備えうる。調整機構28は、モールドMの裏面(パターン領域PRとは反対側の面)の側に形成される空間SPの圧力を調整することによって、モールドMの形状(Z軸に平行な面における形状)を調整しうる。モールドMは、調整機構28によって、基板Sに向かって凸形状に膨らんだり、平坦形状になったりしうる。
【0019】
定盤1の上には、ダンパ3を介してフレーム2が設けられうる。ダンパ3は、定盤1からフレーム2への振動の伝達を低減する。型位置決め機構7は、フレーム2によって支持されうる。光照射部IRRは、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに光を照射(換言すると、インプリント材IMを露光)するように構成される。型位置決め機構7は、光を透過する一方で空間SPを規定する窓Wを有し、光照射部IRRは、窓Wを通してインプリント材IMに光を照射するように構成されうる。
【0020】
光照射部IRRは、例えば、光源12と、シャッタ14と、ミラー13a、13b、13cと、空間光変調器16とを含みうる。空間光変調器16は、制御部11からの指令に従って、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに照射される光の照射光量分布を制御しうる。空間光変調器16は、例えば、デジタル・ミラー・デバイスで構成されうる。デジタル・ミラー・デバイスは、個別に制御可能な複数のミラーを含み、該複数のミラーのそれぞれの角度によって、インプリント材IMに照射される光の照射光量分布を制御することができる。空間光変調器16の代わりに、例えば、液晶空間光変調器が使用されてもよい。なお、本実施形態では、光の照射光量分布として、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに照射される光の照度分布を制御する例について説明する。
【0021】
基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに対する光の照射、即ち、インプリント材IMの露光は、後述する予備硬化(予備露光)および本硬化(本露光)で行われうる。光照射部IRRは、互いに発光波長および/または発光強度が異なる複数の光源を有してもよい。例えば、予備硬化には、それに対応する少なくも1つの光源が使用され、本硬化には、それに対応する少なくとも1つの光源が使用されうる。この場合において、複数の光源に対して共通の空間光変調器が設けられてもよいし、複数の光源にそれぞれ対応するように複数の空間光変調器が設けられてもよい。
【0022】
アライメントスコープ15は、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント誤差を検出するために用いられる。アライメントスコープ15を用いて、ショット領域SRに設けられたマークと、パターン領域PRに設けられたマークとの相対位置を検出することができる。複数のマーク対の各々について相対位置を検出することによって、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント誤差を検出することができる。各マーク対は、ショット領域SRに設けられたマークと、パターン領域PRに設けられたマークとで構成される。インプリント装置100では、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント方法として、ダイバイダイアライメント方式が用いられうる。
【0023】
ディスペンサ25(供給部)は、基板Sのショット領域の上にインプリント材IMを配置(供給)する。ディスペンサ25は、基板Sの複数のショット領域SR上に対してインプリント材IMを配置するように構成あるいは制御されてもよい。インプリントIMは、基板位置決め機構21によって基板Sが走査あるいは駆動されながらディスペンサ25からインプリント材IMが吐出されることによって基板S上に配置されうる。
【0024】
パージガス供給部26は、インプリント材IMの充填性を向上させ、かつ、酸素によるインプリント材IMの硬化の阻害を抑制するために、パージガスを基板S上に供給しうる。パージガスとしては、インプリント材IMの硬化を阻害しないガス、例えば、ヘリウムガス、窒素ガスおよび凝縮性ガス(例えば、ペンタフルオロプロパン(PFP))の少なくとも1つを含むガスが使用されうる。基板S上に供給されたパージガスは、基板Sの移動によって、モールドMのパターン領域PRの下に移送されうる。
【0025】
制御部11は、相対駆動機構20、調整機構28、光照射部IRR、アライメントスコープ15、ディスペンサ25およびパージガス供給部26を制御するように構成されうる。制御部11は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。
【0026】
[インプリント装置の動作フロー]
図2には、インプリント装置100の動作フロー(インプリント処理の流れ)が例示的に示されている。
図2に示される動作フローは、制御部11によって制御されうる。
【0027】
工程S201では、制御部11は、基板Sのショット領域SRに対するインプリント材IMの配置を決定する配置決定処理を実行する。この配置決定処理は、例えば、基板Sのショット領域SR上に配置されるインプリント材IMの各液滴(ドロップ)の位置を示すマップ(配置パターン、配置情報)を生成する処理を含みうる。
【0028】
工程S202では、制御部11は、後述する予備硬化(予備露光)において照射する光の照度分布を決定する照度分布決定処理を実行する。照度分布決定処理では、基板Sのショット領域SRに対するインプリント材IMの配置情報から充填不良が発生しやすい位置情報を生成する処理を含む。さらに、予備硬化において光を照射する領域を示すマップ(照度分布)を生成する処理を含む。照度分布は、ショット領域SRのうち、充填不良が発生しやすい第1部分に照射される光の照度(または照射光量)が、第1部分とは異なる第2部分に照射される光の照度(または照射光量)より小さくなるように決定される。一例として、照度分布は、当該第2部分に光が照射されないように決定されうる。
【0029】
工程S203では、供給工程(配置工程)が実行される。供給工程では、制御部11は、基板Sの処理対象のショット領域SRに対して、工程S201で決定したインプリント材IMの配置パターンに従ってインプリント材IMが配置されるようにディスペンサ25および基板駆動機構4を制御する。ここで、この例では、1回の工程S203において、直後にパターンが形成される1つのショット領域SRに対してインプリント材IMが配置される。しかし、他の例において、工程S203では、複数のショット領域SRに対して連続的にインプリント材IMが配置されるように変更されてもよい。
【0030】
工程S204では、接触工程が実行される。接触工程では、基板Sのショット領域SRの一部分の上のインプリント材IMとモールドMのパターン領域PRとを接触させた後、インプリント材IMとパターン領域PRとの接触領域がショット領域SRの全域まで拡大される。一例において、接触工程では、制御部11は、メサ部として構成されたパターン領域PRが基板Sに向かって凸形状になるように調整機構28を制御する。そして、この状態で、制御部11は、基板Sのショット領域の一部分(例えば、中央部)の上のインプリント材IMとモールドMのパターン領域PRの一部分(例えば、中央部)とが接触するように型駆動機構および/または基板駆動機構4を制御する。次いで、制御部11は、インプリント材IMとパターン領域PRとの接触領域がショット領域SRの全域まで徐々に拡大されるように、型駆動機構および/または基板駆動機構4、ならびに、調整機構28を制御する。ここで、接触領域を拡大させるための動作は、型駆動機構および/または基板駆動機構4によって基板SとモールドMのパターン領域PRとの距離を小さくしつつ、調整機構28によってパターン領域PRを平坦に戻す動作を含みうる。インプリント材IMとパターン領域PRとが接触した状態で、パターン領域PRの凹部にインプリント材が充填される。
【0031】
工程S205では、アライメント工程が開始される。アライメント工程は、接触工程(S204)の開始後(即ち、モールドMと基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMとの接触開始後)に開始される。アライメント工程は、例えば、接触工程(S204)の終了後に開始されてもよいし、接触工程(S204)の少なくとも一部と並行して行われるように該接触工程の途中で開始されてもよい。アライメント工程では、モールドMに設けられたマークと基板Sに設けられたマークとの相対位置がアライメントスコープ15によって検出され、その検出結果に基づいてモールドMと基板Sとのアライメントが行われる。制御部11は、アライメント工程として、パターンを形成すべきショット領域SRとパターン領域PRとのアライメント誤差をアライメントスコープ15を使って検出しながら該アライメント誤差が小さくなるように相対駆動機構20を制御する動作を開始する。
【0032】
工程S206では、予備硬化(予備露光)工程が実行される。制御部11は、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに対して予備硬化を行うように光照射部IRRを制御する。予備硬化工程は、アライメント工程の少なくとも一部と並行して行われるように、アライメント工程の終了前までに行われうる。予備硬化とは、基板SとモールドMとのアライメントにおいて、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMに光を照射して該インプリント材IMの粘弾性を高めることにより、該インプリント材IMを第1目標硬度に硬化させる処理である。第1目標硬度は、後述する本硬化(本露光)工程でインプリント材IMを硬化する第2目標硬度よりも低い値であり、供給工程で供給されたときよりインプリント材IMの粘弾性が増加しているが流動性をまだ有している(即ち流動可能な)硬度に設定されうる。
【0033】
予備硬化工程は、基板Sのショット領域SR上のインプリント材IMとパターン領域PRの全域とが接触してパターン領域PRが平坦にされた状態で(即ち、接触工程の終了後に)実行されてもよい。また、予備硬化工程は、インプリント材IMとパターン領域PRとの接触開始後、基板SとモールドMとのアライメント工程の終了前に実行されてもよい。この予備硬化により、インプリント材IMの粘弾性が高まり、インプリント材IMを介した基板SとモールドMとの結合度が増加するため、モールドMとインプリント材IMが接触した状態における基板SとモールドMとの間の相対的な振動が低減される。したがって、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント精度が向上しうる。ここで、予備硬化は、モールドMのパターン領域PRの凹部、あるいは、基板Sとパターン領域PRとの間の空間に対するインプリント材IMの充填がショット領域SRの全域にわたって十分に行われる条件(例えば、照度分布)で実行される。このような予備硬化の条件については後述する。予備硬化は、複数回に分割して実行されてもよい。
【0034】
工程S207では、アライメント工程が終了される。制御部11は、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメントが終了したかどうかを判断し、終了したと判断したらアライメント工程を終了して工程S208に進む。ここで、制御部11は、例えば、アライメントスコープ15を使って検出されるアライメント誤差が許容値内に収まったことに応じてアライメントが終了したと判断しうる。あるいは、制御部11は、ショット領域SRとパターン領域PRとのアライメントを開始してからの経過時間が所定時間に達したときにアライメントが終了したと判断してもよい。この場合、十分に高いアライメント精度が得られるように、該所定時間が設定されうる。
【0035】
工程S208では、本硬化(本露光)工程が実行される。本硬化工程は、パターン領域PRの凹部に十分にインプリント材が充填された後に実行される。制御部11は、硬化用のエネルギーを基板Sとパターン領域PRとの間のインプリント材IMに照射して該インプリント材の本硬化を行うように光照射部IRRを制御する。本硬化とは、基板SとモールドMとのアライメントの終了後において、基板SとモールドMとの間のインプリント材IMに光を照射して該インプリント材を第2目標硬度に硬化させる処理である。第2目標硬度は、予備硬化(予備露光)工程でインプリント材IMを硬化する第1目標硬度よりも高い値であり、インプリント材IMの流動性がなくなり、インプリント材に転写された凹凸パターンの形状が後述の分離工程の後でも維持可能な硬度に設定されうる。この本硬化工程により、インプリント材IMが硬化して、インプリント材IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0036】
工程S209では、分離工程が実行される。分離工程では、制御部11は、インプリント材IMの硬化物とモールドMのパターン領域PRとが分離されるように、型駆動機構および/または基板駆動機構4を制御する。次いで、工程S210では、制御部11は、パターンを形成すべき全てのショット領域SRに対するパターンの形成が終了したかどうかを判断し、まだ終了していない場合には、未処理のショット領域に対してパターンを形成するために、工程S203に戻る。
【0037】
[配置パターンの生成]
基板S上のインプリント材IMとモールドMとの接触領域を拡大させる過程において、基板S、モールドMおよびインプリント材IMによって囲まれた空間にガスが閉じ込められると、モールドMの凹部へのインプリント材IMの充填が妨げられる。モールドMの凹部へのインプリント材IMの充填が不完全な状態でインプリント材IMを硬化させると、インプリント材IMの硬化物によって形成されるパターンに不良(例えば欠損)が発生しうる。したがって、上記空間に閉じ込められたガスがインプリント材IMに溶解し又は凝縮することによって消失し、モールドMの凹部にインプリント材IMが充填されるまで、インプリント材IMの硬化の開始を待つ必要がある。このようなプロセスは、スループットを低下させうる。ガスの閉じ込めは、ガスが排出される経路がインプリント材IMによって塞がれることによって起こりうる。そのため、基板S上にインプリント材の液滴をどのように配置するのかが重要である。
【0038】
図3を参照しながら接触工程におけるインプリント材IMとモールドM(のパターン領域PR)との接触領域の拡大について説明する。なお、
図3においては、インプリント材IMは、便宜的に、液滴状態ではなく、膜状態であるものとして示されている。
図3は、モールドMのパターン領域PRの凸形状に変形されパターン領域PRの一部分(ここでは中央部)がショット領域SR上のインプリント材IMに接触した状態が模式的に示されている。インプリント材IMとパターン領域PRとの接触領域は、符号31で示されている。接触工程の進行に伴って、接触領域31が拡大する。接触領域31は、インプリント材IMとパターン領域PRとの接触が開始した一部分(中央部)から放射方向Drに拡大する。放射方向Drは、接触領域31が拡大する方向と一致しうる。
【0039】
次に、基板Sのショット領域上に配置されるインプリント材IMの液滴の位置を示す配置情報の生成方法について説明する。配置情報は、インプリント材IMの液滴配置を評価し、その評価結果に基づいてインプリント材IMの液滴配置を最適化することによって生成されうる。
図4は、インプリント材IMの液滴配置についての評価指標の一例を説明するため図である。
図4には、ショット領域SRにおける局所領域が示されており、グレーの円は、インプリント材IMの液滴を示している。いくつかの液滴は、相互に区別するために、液滴d1、d2、d3、d4として示されている。また、
図4において、放射方向Drは-X方向である。
【0040】
放射方向Dr(-X方向)に直交する方向(Y方向)に平行でインプリント材IMの複数の液滴が存在する線上におけるインプリント材IMの線密度が小さいほど、接触領域の拡大においてガスが排出されやすくなる。したがって、この線密度は、インプリント材IMの液滴配置についての評価指標となりうる。また、放射方向Drに平行な方向(-X方向)における液滴d1と液滴d2との距離104が小さければ小さいほど、接触領域の拡大において液滴d1と液滴d2とが結合しやすく、ガスの排出経路を放射方向Drに限定しやすい。よって、放射方向Drに平行な方向における液滴d1と液滴d2との距離104が小さいほど、充填時間が短くなりうる。したがって、この距離104も、インプリント材IMの液滴配置についての評価指標となりうる。さらに、放射方向Drにおける液滴d2と液滴d3との位置ずれ105は、接触領域の拡大において液滴d2と液滴d3とが結合する際の形成されるボイド(ガスがトラップされた空孔(気泡))の大きさに影響を与える。位置ずれ105が、放射方向Drにおける液滴の配列ピッチの1/2程度である場合に、ボイドが最も小さくなり、充填時間が短くなりうる。したがって、この位置ずれ105も、インプリント材IMの液滴配置についての評価指標となりうる。上記3つの評価指標に基づいて、インプリント材IMの液滴配置の最適化がなされうる。なお、インプリント材IMの液滴配置の最適化は、上記3つの評価指標に限られず、それらの評価指標に加えて又は代わりに、他の評価指標に基づいて行われてもよい。
【0041】
上述したようなインプリント材IMの液滴配置の最適化は、基板Sのショット領域SRを分割した複数の部分領域の各々について行われうる。各部分領域は、例えば、ショット領域SRの面積の1/100以上(他の例では1/50以上、1/10以上、または1/8以上)の面積を有するように設定されてもよい。また、各部分領域は、例えば、インプリント材IMの液滴が100個以上配置(他の例では500個以上配置、または50個以上配置)されるように設定されてもよい。そして、各部分領域におけるインプリント材IMの液滴配置は、放射方向Drへのガスの排出を妨げる抵抗値が、放射方向Drに直交する方向へのガスの排出を妨げる抵抗値よりも小さくなるように最適化(決定)されうる。ここで、ショット領域SRにおける複数の部分領域の数や配置、大きさなどは、実験やシミュレーション等により適宜決定されうる。
【0042】
図5(a)~(b)は、ショット領域SRにおけるインプリント材IMの液滴の配置パターンを例示している。
図5(a)~(b)に示す例では、ショット領域SRは、Y方向に並んだ3つの部分領域に分割されており、該3つの部分領域は、1つの部分領域Aと2つの部分領域Bとで構成されている。2つの部分領域Bは、Y方向において部分領域Aに隣り合い、且つ部分領域Aを挟み込む領域である。ここで、1つの部分領域Aおよび2つの部分領域Bのそれぞれを前述の局所領域として考えると、各部分領域では、放射方向Drのうち1つの方向が代表方向として設定され、該代表方向に基づいてインプリント材IMの液滴配置が個別に最適化される。つまり、互いに隣り合う部分領域Aおよび部分領域Bにおいて、インプリント材IMの液滴の配置パターンが互いに異なることとなる。一例として、各部分領域にインプリント材IMの液滴を格子状(例えば、矩形格子状、千鳥格子状)に配置する場合、部分領域Aと部分領域Bとでは、配置パターンとして、各液滴が配置される格子の向き、形状および寸法の少なくとも1つが異なりうる。
【0043】
例えば、部分領域Aでは、放射方向Drのうち部分領域Aに主要(支配的)な1つの方向であるX方向(第1方向)が代表方向として設定される。そして、代表方向(X方向)における液滴の間隔が代表方向と垂直な方向(Y方向)における液滴の間隔より狭くなるようにインプリント材IMの液滴配置を最適化する。これにより、部分領域Aにおけるインプリント材IMの配置パターン(第1配置パターン)が決定される。部分領域Aでは、供給工程において、第1配置パターンでのインプリント材IMの液滴の配置が単位面積ごとに繰り返される。単位面積は、各部分領域より小さい面積であり、同じ配置パターンでのインプリント材IMの液滴の配置を行うことのできる最小面積として規定されうる。
【0044】
一方、部分領域Bでは、放射方向Drのうち部分領域Bで主要(支配的)な1つの方向であるY方向(第2方向)が代表方向として設定される。そして、代表方向(Y方向)における液滴の間隔が代表方向と垂直な方向(X方向)における液滴の間隔より狭くなるようにインプリント材IMの液滴配置を最適化する。これにより、部分領域BにおけるインプリントIMの配置パターン(第2配置パターン)が決定される。部分領域Bでは、供給工程において、第2配置パターンでのインプリント材IMの液滴の配置が単位面積ごとに繰り返される。
【0045】
このように部分領域Aおよび部分領域Bでは、それぞれ個別にインプリント材IMの液滴配置の最適化が行われる。しかしながら、部分領域Aと部分領域Bとの境界部BDでは最適化が不十分になる(及ばない)。そのため、当該境界部BDで予備硬化を行ってインプリント材IMの粘弾性を高めてしまうと、モールドMのパターン(凹部)へのインプリント材IMの充填性が低下しうる。つまり、所定の充填時間ではモールドMのパターン(凹部)へのインプリント材IMの充填が終了せず、ボイド(気泡)が残ったまま硬化工程に進むこととなりうる。このように、部分領域Aと部分領域Bとの境界部BDでは、各部分領域の内部(例えば中央部)と比べてボイドが発生しやすく、結果として、インプリント材IMの硬化物からなるパターンに充填不良による欠損が生じうる。
【0046】
そこで、本実施形態の予備硬化では、基板Sのショット領域SRのうち第1部分領域と第2部分領域との境界部BDの照射光量が当該境界部BDとは異なる部分の照射光量より小さくなるように、ショット領域SR上のインプリント材IMに光を照射する。一例として、予備硬化では、ショット領域SRのうち当該境界部BDの照射光量が当該境界部BDとは異なる部分の照射光量の半分以下(他の例では1/4以下)になるようにインプリント材IMに光を照射する。本実施形態において、第1部分領域は、1つの部分領域Aであり、第2部分領域は、2つの部分領域Bの各々でありうる。また、境界部BDは、第1部分領域(部分領域A)と第2部分領域(部分領域B)との境界を含みうる。
【0047】
次に、予備硬化におけるショット領域SRの照度分布を生成する処理について説明する。
図6は、基板Sのショット領域SRにおいて、光照射部IRR(空間光変調器16)により照射光量(照度)を個別に調整可能な複数の単位照射領域50を示している。
図6に示す例では、ショット領域SRが、28×35個の単位照射領域50に区分けされており、各単位照射領域50における照射光量が光照射部IRR(空間光変調器16)によって個別に調整されうる。本実施形態では、単位照射領域50ごとに光の照射(ON)と非照射(OFF)との切り替えを制御することにより照度分布が生成される。この場合、複数の単位照射領域50のうち、充填不良が発生しやすい部分(境界部BD)を含む単位照射領域50を非照射(OFF)として、その他の単位照射領域50を照射(ON)とすることにより照度分布が生成される。
【0048】
図5(c)は、
図5(a)~(b)に示すインプリント材IMの液滴の配置パターンを用いる場合に予備硬化で適用される光の照度分布を示している。具体的には、
図5(c)は、
図6に示される複数の単位照射領域50(照射領域の区分)に対して
図5(b)に示される境界部BDの位置情報を重ね合わせた図である。
図5(c)に示される光の照度分布は、複数の単位照射領域50のうち、境界部BDを含まない単位照射領域51が照射(ON)となり、境界部BDを含む単位照射領域52が非照射(OFF)となるように設定(生成)される。
【0049】
[他の実施例]
次に、本実施形態における他の実施例について説明する。
図7(a)は、本実施例においてショット領域SRに適用されるインプリント材IMの液滴の配置パターンを示しており、
図7(b)は、本実施例においてショット領域SRに適用される光の照度分布を示している。本実施例のショット領域SRは、互いに隣り合う部分領域A(第1部分領域)と部分領域B(第2部分領域)とに分割されている。部分領域Aは、中央部分A
1と、X方向において中央部分A
1を挟み込む側部分A
2、A
3とで構成される。中央部分A
1は、接触工程におけるモールドMとインプリント材IMとの接触開始箇所(最初に接触する箇所)を含み、例えば矩形形状に構成されている。側部分A
2、A
3は、中央部分A
1のX方向側に連続しており、ショット領域SRの外側(X方向)に向かうにつれてY方向に広がるように構成されている。部分領域Aにおける各部分A
1~A
3は、同じ配置パターンを有している。また、部分領域Bは、互いに異なる配置パターンを有する部分領域B
1~B
4で構成されている。部分領域B
2は部分領域B
1のY軸ミラー反転であり、部分領域B
3は部分領域B
2のX軸ミラー反転であり、部分領域B
4は部分領域B
1のX軸ミラー反転である。
【0050】
本実施例においては、
図7(b)に示されるように、予備硬化で適用される光の照度分布が設定(生成)されうる。具体的には、複数の単位照射領域50のうち、部分領域Aと部分領域B(B
1~B
4)との境界部BDを含まない単位照射領域51が照射(ON)となり、該境界部BDを含む単位照射領域52が非照射(OFF)となるように、光の照度分布が設定される。境界部BDは、部分領域Aと部分領域Bとの境界に対して(例えば該境界を中心として)所定の幅Wを付与した部分である。幅Wは、例えば、実験やシミュレーション等によりボイドが発生しやすいと算出された範囲に設定されうる。具体的には、幅Wは、インプリント材IMが予備硬化で光が照射された領域の近接領域においてもインプリント材IMの連鎖反応により、あるいは照射された光のフレアにより粘弾性が高まりうることを考慮して設定(決定)されうる。また、幅Wは、インプリント処理後に充填不良による欠損の位置を特定し、その位置を含めるようにして決定されうる。幅Wは、一様でなく部分的に広くする、あるいは狭くしてもよい。
【0051】
ここで、部分領域B1と部分領域B2、および/または部分領域B3と部分領域B4のように配列パターンが連続するように配置される場合には、それらの境界での充填性が各部分領域Bの内部と同様に良好であることがある。このような部分領域B同士の境界では、予備硬化での光を非照射(OFF)に設定してもよいが、配列パターンが連続しておりボイドが生成されにくいため照射(ON)に設定してもよい。
【0052】
上述したように、本実施形態では、予備硬化において、基板Sのショット領域SRのうち第1部分領域と第2部分領域との境界部BDの照射光量が当該境界部BDとは異なる部分の照射光量より小さくなるように、インプリント材IMへの光の照射を制御する。これにより、境界部BDにおいては、予備硬化が行われないため、インプリント材IMの粘弾性の増加(即ち、インプリント材IMの充填性の低下)によるボイドの発生を低減し、インプリント材IMの硬化物のパターンに生じる欠損を低減することができる。一方、境界部BD以外の部分においては、予備硬化が行われるため、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント精度を向上させることができる。
【0053】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、以下で特に言及されない限りインプリント装置100の構成および処理は第1実施形態と同様である。第1実施形態では、単位照射領域50ごとに光の照射(ON)と非照射(OFF)とを切り替えるように照度分布を生成した。一方、単位照射領域50ごとに中間照度(0以外の複数の照度)を照射できるように光照射部IRR(空間光変調器16)が構成されている場合には、各単位照射領域50の照度を個別に設定してもよい。この場合であっても、境界部BDの照射光量(照度)が当該境界部BDとは異なる部分の照射光量(照度)より小さくなるように、照度分布が設定(生成)される。なお、中間照度とは、各単位照射領域の最大照度と最小照度との間の範囲内における照度であり、当該範囲内において任意に変更可能である。
【0054】
例えば
図7に示す例において、部分領域B
1と部分領域B
2との境界部、および/または部分領域B
3と部分領域B
4との境界部は、各部分領域Bの内部と比較して充填性が劣るが、部分領域Aと部分領域Bとの境界部BDより良好でありうる。この場合、照射(ON)を最大照度、非照射(OFF)を最小照度とすると、部分領域B同士の境界部を含む単位照射領域50の照度を中間照度に設定するとよい。また、別の例において、複数の単位照射領域50のうち、幅Wを有する境界部BDを含むが、部分領域Aと部分領域Bとの境界自体は含まない単位照射領域50(即ち、境界自体は通過せず幅Wのみが通過する領域)の照度を中間照度に設定してもよい。
【0055】
また、予備硬化における光の照射光量の空間的な積算量(例えば、ショット領域SRの全域における照射光量の合計値(空間的な積分値))である照射積算量が予め決定されていてもよい。このような照射積算量は、インプリント材IMの組成や、インプリント装置100の振動状態、ショット領域SRの面積など、の複数の要因(条件)によって決定されうる。このような場合において、予備硬化における照度を部分的に低下させることによって照射積算量が基準積算量より小さくなるので、充填性が良好な領域の照度を増加させてもよい。
【0056】
照射積算量は、例えば、照射面積、照度、照射時間の積で計算されうる。インプリント材IMによっては、更に、インプリント材IMに照射される光の波長などによって変化する反応速度など、他の成分が係数として考慮されてもよい。以下、照射積算量を調整する方法として、照度で調整する例と、照射時間を調整する例について説明する。
【0057】
まず、
図8を参照しながら照射積算量を照度の調整によって調整する例を説明する。この場合、照射積算量は、以下の式(1)に従って計算される。ここでは、一例として、照射面積を70とし、ショット領域SRを縦に10分割、横に7分割した複数の単位照射領域の例を説明する。
図8(a)では、各単位照射領域に与える照度を1とし、照射時間を1とした場合の説明図であり、この場合、式(1)に当てはめて計算すると、照射積算量は70となる。
照射積算量=照射面積(縦×横)×照度×照射時間 ・・・(1)
【0058】
ここで、一例として、
図8(b)に例示されるように、
図5に示される実施例と同様にショット領域SRをY方向に並んだ1つの部分領域Aと2つの部分領域Bとの3つの部分領域に分割した場合を想定する。この場合において、部分領域Aと部分領域Bの境界部BDを含む単位照射領域の照度を0に低下させるものとする。これにより、照射積算量は、70から56に変化する(即ち、14減少する)。そこで、
図8(c)に例示されるように、照射積算量の減少分14を複数の単位照射領域の全体に割り振ると、照射積算量を70にすることができる。あるいは、境界部BDを含む単位照射領域の照度を0にしたい場合には、
図8(d)に例示されるように、境界部BDを含まない単位照射領域に照射積算量の減少分14を割り振ってもよい。
【0059】
次に、照射積算量を照射時間の調整によって調整する例を説明する。この場合、照射時間は、例えば、以下の式(2)に従って調整されうる。照射積算量(最適値)は、基準積算量であり、上記の例では70である。照射積算量(現値)は、上記の例では56である。照射時間(現値)は、上記の例では1である。式(2)によれば、照射時間(調整後)は1.25となる。
照射時間(調整後)=(照射積算量(最適値)÷照射積算量(現値))×照射時間(現値) ・・・(2)
【0060】
上述したように、本実施形態では、単位照射領域ごとに中間照度を照射できるように光照射部IRR(空間光変調器16)が構成されている例について説明した。これによっても、第1実施形態と同様に、基板Sのショット領域SRとモールドMのパターン領域PRとのアライメント精度を向上させつつ、境界部BDにおいてボイドの発生を低減することができる。
【0061】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板上に供給(塗布)されたインプリント材に上記のインプリント装置を用いてパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンを形成された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0062】
インプリント装置を用いて成形した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0063】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0064】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図9(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウェハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0065】
図9(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図9(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを通して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0066】
図9(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0067】
図9(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図9(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0068】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0069】
M:モールド、S:基板、SR:ショット領域、IM:インプリント材、IRR:光照射部、16:空間光変調器、25:ディスペンサ(供給部)、100:インプリント装置