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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】試料採取デバイスおよび試料調製装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/12 20060101AFI20231113BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20231113BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
G01N1/12 B
G01N1/10 V
G01N33/48 S
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020527660
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025720
(87)【国際公開番号】W WO2020004590
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018124219
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(72)【発明者】
【氏名】大谷 真吾
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122372(WO,A1)
【文献】特開平09-203696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00,1/10,1/12,
A61B 5/15-5/157
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、
第1面と、
前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面と、
前記第1面、前記第2面および前記第3面に開口を有する毛細管と、
前記第1面に位置する凹部と、
前記凹部に配置された試薬と、
を有する、試料採取デバイス。
【請求項2】
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、
第1面と、
両端および前記両端の間の側面にそれぞれ位置する開口を有する毛細管であって、前記側面の開口が前記第1面に位置する毛細管と、
前記第1面に位置する凹部と、
前記凹部に配置された試薬と、
を有する、試料採取デバイス。
【請求項3】
前記採取部は、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面を有し、
前記毛細管の前記両端の開口は、前記第2面および前記第3面に位置する、請求項2に記載の試料採取デバイス。
【請求項4】
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、
第1面と、
前記第1面に設けられ、両端に開口が形成された溝形状の毛細管と、
前記第1面に位置する凹部と、
前記凹部に配置された試薬と、
を有する、試料採取デバイス。
【請求項5】
前記採取部は、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面を有し、
前記溝形状は、前記第2面および前記第3面に開口を有し、前記第1面に前記溝形状の開口を有する、請求項4に記載の試料採取デバイス。
【請求項6】
前記毛細管は、長手方向に垂直な断面においてU字形状を有する請求項1から5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項7】
前記第2面および前記第3面に位置する開口は、前記第1面に位置する開口を介して連通している請求項1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項8】
前記毛細管は、前記第1面の少なくとも一部において閉じている請求項1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項9】
前記第2面および前記第3面における開口において、前記第1面と平行な幅Wと、前記第1面に垂直な深さDは0.9≦W/D≦1.1を満たしている、請求項1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項10】
前記把持部は長手方向に伸びており、前記長手方向に垂直な断面において、多角形形状を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項11】
前記多角形形状は五角形である請求項10に記載の試料採取デバイス。
【請求項12】
前記毛細管の内壁は、長手方向に平行な凹部または凸部を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項13】
前記把持部は長手方向に伸びており、
前記毛細管は、前記把持部の長手方向と垂直な方向に長手方向を有する請求項1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
【請求項14】
前記第1面は、前記把持部の長手方向と垂直である、請求項13に記載の試料採取デバイス。
【請求項15】
前記第1面は、前記把持部の長手方向と非垂直である、請求項13に記載の試料採取デバイス。
【請求項16】
前記採取部は、前記把持部の長手方向と垂直であり、前記第1面と隣接する第4面をさらに備え、
前記凹部を前記第1面ではなく前記第4面に位置させた、請求項15に記載の試料採取デバイス。
【請求項17】
請求項1、3から16のいずれか一項に記載の試料採取デバイスと、
開口および底部を有し、前記開口から前記試料採取デバイスの一部を挿入することによって、前記採取部を収納することが可能なチャンバーと、前記底部と外部とを接続する貫通穴とを有する試薬容器と、
前記貫通穴に挿入可能であり、長手方向に位置する第1端面および第2端面と、前記第1端面および前記第2端面との間に位置する側面とを有するストッパーであって、前記第2端面に開口を有し、長手方向に沿って伸びる第1排出穴と、前記側面に開口を有し、前記第1排出穴に接続された第2排出穴とを有するストッパーと、
を備え、
前記ストッパーは、前記第1面が前記チャンバーの底に位置する保持位置と、前記側面の開口が前記チャンバー内において露出する排出位置との間で移動可能である、試料調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、試料採取デバイスおよび試料調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中の特性成分の分析などをおこなうため、微少量の液体を採取する試料採取デバイスが用いられる。特許文献1は、このような試料採取デバイスの一例を示している。特許文献1に開示された試料採取デバイスは、毛細管力を利用して液体を採取する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2007-527537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の試料採取デバイスでは、保持した液体試料を放出することが困難な場合があった。本開示は、採取した液体試料の放出が容易である試料採取デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示ある態様による試料採取デバイスは、把持部と、前記把持部に接続された採取部とを備え、前記採取部は、第1面と、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面と、前記第1面、前記第2面および前記第3面に開口を有する毛細管を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、採取した液体試料の放出が容易である試料詐取デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は試料採取デバイスの一実施形態斜視図である。
図2図2は、試料採取デバイスを先端からみた正面図である。
図3図3は、試料採取デバイスの先端部を拡大して示す側面図である。
図4図4は、試料採取デバイスの先端部を拡大して示す側面図である。
図5図5は試料調製装置の分解斜視図である。
図6図6は、試料調製装置の試薬容器の長手方向に平行な断面図である。
図7図7は、試料調製装置のストッパーの長手方向に平行な断面図である。
図8図8は、試薬容器にストッパーが挿入された状態の断面図である。
図9図9は、試薬容器にストッパーが挿入された状態の断面図である。
図10A図10Aは、試料調製装置を用い、液体試料として血液を採取し、血液中のHbA1cを測定する前の処理を行う手順を示す模式図である。
図10B図10Bは、試料調製装置を用い、液体試料として血液を採取し、血液中のHbA1cを測定する前の処理を行う手順を示す模式図である。
図10C図10Cは、試料調製装置を用い、液体試料として血液を採取し、血液中のHbA1cを測定する前の処理を行う手順を示す模式図である。
図10D図10Dは、試料調製装置を用い、液体試料として血液を採取し、血液中のHbA1cを測定する前の処理を行う手順を示す模式図である。
図11A図11Aは、使用中の試料調製装置の断面図である。
図11B図11Bは、使用中の試料調製装置の断面図である。
図11C図11Cは、使用中の試料調製装置の断面図である。
図12図12は、試料採取デバイスの他の形態を示す斜視図である。
図13図13は、図12に示す試料採取デバイスの側面図である。
図14図14は、図12に示す試料採取デバイスの先端部を拡大して示す側面図である。
図15図15は、図12に示す試料採取デバイスの正面図である。
図16図16は、試料採取デバイスの他の形態を示す斜視図である。
図17図17は、図16に示す試料採取デバイスの側面図である。
図18図18は、図16に示す試料採取デバイスの先端部を拡大して示す側面図である。
図19図19は、図16に示す試料採取デバイスの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
微少かつ一定量の試料を採取する方法として毛細管が利用される場合がある。毛細管を利用することによって、ポンプなど駆動機構を用いることなく液体の採取が可能である。しかし、毛細管で採取した試料は、一般的に、毛細管力により保持されるため、採取した液体を移送させるために、毛細管力よりも大きな力を液体に働かせることが必要であり、採取した液体試料の放出が容易ではない場合がある。本願発明者はこのような課題に鑑み新規な構造を備えた試料採取デバイスを想到した。本開示の試料採取デバイスおよび試料調製装置の概要は以下の通りである。
[項目1]
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、第1面と、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面と、前記第1面、前記第2面および前記第3面に開口を有する毛細管を有する、試料採取デバイス。
[項目2]
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、両端および前記両端の間の側面にそれぞれ位置する開口を有する毛細管を有する、試料採取デバイス。
[項目3]
前記採取部は、第1面と、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面とを有し、
前記毛細管の前記両端の開口は、前記第2面および前記第3面に位置し、前記毛細管の側面の開口は、前記第1面に位置する、項目2に記載の試料採取デバイス。
[項目4]
把持部と、
前記把持部に接続された採取部と
を備え、
前記採取部は、第1面と、前記第1面に設けられ、両端に開口が形成された溝形状の毛細管を有する、試料採取デバイス。
[項目5]
前記採取部は、前記第1面を挟んで前記第1面にそれぞれ隣接した第2面および第3面を有し、
前記溝形状は、前記第2面および前記第3面に開口を有し、前記第1面に前記溝形状の開口を有する、項目4に記載の試料採取デバイス。
[項目6]
前記毛細管は、長手方向に垂直な断面においてU字形状を有する項目1から5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目7]
前記第2面および前記第3面に位置する開口は、前記第1面に位置する開口を介して連通している項目1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目8]
前記毛細管は、前記第1面の少なくとも一部において閉じている項目1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目9]
前記第2面および前記第3面における開口において、前記第1面と平行な幅Wと、前記第1面に垂直な深さDは0.9≦W/D≦1.1を満たしている、項目1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目10]
前記把持部は長手方向に伸びており、前記長手方向に垂直な断面において、多角形形状を有する項目1から9のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目11]
前記多角形形状は五角形である項目10に記載の試料採取デバイス。
[項目12]
前記毛細管の内壁は、長手方向に平行な凹部または凸部を有する、項目1から11のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目13]
前記把持部は長手方向に伸びており、
前記毛細管は、前記把持部の長手方向と垂直な方向に長手方向を有する項目1、3および5のいずれか一項に記載の試料採取デバイス。
[項目14]
前記第1面は、前記把持部の長手方向と垂直である、項目13に記載の試料採取デバイス。
[項目15]
前記採取部は、
前記第1面に位置する凹部と、
前記凹部に配置された試薬と、
をさらに有する項目14に記載の試料採取デバイス。
[項目16]
前記第1面は、前記把持部の長手方向と非垂直である、項目13に記載の試料採取デバイス。
[項目17]
前記採取部は、
前記把持部の長手方向と垂直であり、前記第1面と隣接する第4面と、
前記第4面に位置する凹部と、
前記凹部に配置された試薬と、
をさらに備える項目16に記載の試料採取デバイス。
[項目18]
項目1から17のいずれか一項に記載の試料採取デバイスと、
開口および底部を有し、前記開口から前記試料採取デバイスの一部を挿入することによって、前記採取部を収納することが可能なチャンバーと、前記底部と外部とを接続する貫通穴とを有する試薬容器と、
前記貫通穴に挿入可能であり、長手方向に位置する第1端面および第2端面と、前記第1端面および前記第2端面との間に位置する側面とを有するストッパーであって、前記第2端面に開口を有し、長手方向に沿って伸びる第1排出穴と、前記側面に開口を有し、前記第1排出穴に接続された第2排出穴とを有するストッパーと、を備え、
前記ストッパーは、前記第1面が前記チャンバーの底に位置する保持位置と、前記側面の開口が前記チャンバー内において露出する排出位置との間で移動可能である、試料調製装置。
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の試料採取デバイスおよび試料調製装置の実施形態を説明する。以下の説明では、液体試料として血液を採取し、血液中の糖と結合したヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと記載する)の量を測定するための試料採取デバイスおよび試料調製装置を例に挙げて、本開示の実施形態を説明する。しかし、本開示の試料採取デバイスおよび試料調製装置は血液の採取に限らず、他の液体試料の採取に用いることが可能である。
【0010】
血液中のHbA1cを測定する場合、例えば、手指の指先に針を刺し、微少量の出血を生じさせ、試料採取デバイスで血液を採取する。HbA1cは血液の赤血球中のヘモグロビンに含まれるため、採取した血液から赤血球の細胞膜を溶解し、ヘモグロビンを分解することによって、HbA1cに由来するフルクトシルバリルヒスチジンを生成させる。このフルクトシルバリルヒスチジンを定量することによって血液中のHbA1cの量を推定する。
【0011】
上述したフルクトシルバリルヒスチジンを生成するまでの測定を行う前の前処理は、血液の採取後、速やかに行うことが好ましい。このため、HbA1cの測定のための試料採取デバイスは、試料調製装置と一体的に使用されることが一般的である。以下の実施形態では、まず試料採取デバイスを説明し、続いて試料調製装置を説明する。
【0012】
(試料採取デバイス)
図1は本実施形態の試料採取デバイス101を示す斜視図であり、図2は、先端からみた正面図である。
【0013】
試料採取デバイス101は、把持部10および採取部20を備える。試料採取デバイス101は、微少量の液体を採取するデバイスであり、採取する液体の量は、例えば、数十マイクロリットル以下であり、典型的には、1~10μl以下である。このため、試料採取デバイス101は手指で把持し得る大きさを有する。
【0014】
把持部10は、試料採取デバイス101を把持するための領域であり、例えば、指先でつまみ易い(挟み易い)形状および大きさを有する。具体的には、把持部10は、例えば、長手方向Aに1~5cm程度の長さを有し、長手方向に垂直な断面の幅が1~2cm程度である柱形状を有する。長手方向に垂直な断面は円形状、楕円形状等であってもよいし、多角形形状であってもよい。多角形形状を有する場合、指でつまんだ時に、例えば、指先と当接する面が平らであるため、安定して試料採取デバイス101を把持しやすい。例えば、把持部10が、長手方向に垂直な断面において五角形形状を有する場合、指先が接する平面の大きさを十分に確保し、かつ、多くの側面を配置できる。このため、例えば、親指、人差し指および中指で把持部10を挟んだ場合、あるいは、親指と人差し指で把持部を挟み、中指の側部を把持部10に添える場合に、これらの指に当接し得る側面を複数選択し得る。よって、どの向きから把持部10をつまんだ場合でも安定的に試料採取デバイス101を支持し得る。把持部10の断面が多角形形状である場合、各辺の頂点近傍が丸く構成され、各辺の境界が明瞭になっていなくてもよい。
【0015】
また、把持部10の断面が多角形形状である場合、把持部10は多角形に対応した複数の側面を含む。この複数の面のうち、例えば、特定の面に色彩を施したり、特定の面にマーカーとなる意匠を色彩や凹凸によって形成してもよい。これにより、使用者が特定の面を認識すること可能となり、把持部10を支持した際に後述する先端部に設けた毛細管30の向きや位置を認識することが容易になる。
【0016】
採取部20は把持部10の長手方向Aの一端に接続されており、基部21と先端部22とを含む。先端部22に液体を採取する毛細管(毛細管空間)30が設けられている。基部21は、把持部10を手指で支持した場合に、先端部22が手指で見づらくなるのを抑制するために、先端部22を把持部10から離間させる。基部21は例えば、円筒形形状を有している。本実施形態では、基部21の側面の円周方向に沿って溝21gが設けられており、溝21gにOリング40が配置されている。基部21は、把持部10の形状によっては設けられていなくてもよい。例えば、把持部10の採取部20と接続される側が細く伸びており、手指を支持しないように構成されている場合には、把持部10に先端部22が直接接続されていてもよい。
【0017】
図3および図4は、先端部を拡大して示す側面図である。先端部22は、上述したように毛細管30を有する。毛細管30は両端に位置する開口30b、30cと、側面に位置する開口30aとを有するように先端部22に配置されている。具体的には、毛細管30は溝形状を有しており、先端部22は、第1面22aを有し、第1面22aに溝の開口である開口30aが位置するように毛細管30が第1面22aに設けられている。本実施形態では第1面22aは把持部10の長手方向に対して垂直である。ここで「垂直」とは、80~100°の角度をなしていることをいう。
【0018】
より具体的には、先端部22は、第1面22aに隣接し、第1面22aを挟んで位置する第2面22bおよび第3面22cを有し、第2面22bおよび第3面22cに毛細管30の開口30bおよび開口30cが設けられている。
【0019】
本実施形態では、開口30bは開口30aによって開口30cと接続されており、開口30bと開口30cとは連通している。言い換えれば、毛細管30は、第1面22aに接する部分の全てに開口30cが設けられている。しかし、毛細管30は、第1面22aの少なくとも一部において閉じていてもよい。これにより開口30aの大きさを異ならせ、毛細管30における毛細管力を調節することができ、毛細管30の液体試料の保持力を調節することが可能である。
【0020】
毛細管30は、把持部10の長手方向Aに対して垂直な方向に長手方向を有し、長手方向に伸びている。毛細管30は、長手方向に垂直な断面においてU字形状を有していることが好ましい。U字形状を有することによって、断面における直線部分と曲線部とで毛細管力が作用する方向や大きさおよび保持した液体試料の放出を調整することが可能となる。また、U字形状の底、つまり、第1面22aの開口30aから遠い側の内面が曲面で構成されることによって、液体試料が毛細管力によって引き込まれる際、気泡が噛みにくくなる。このため、より正確に液体試料の所定量を測り取ることが可能である。
【0021】
開口30bおよび開口30cは断面と同じ形状を有していることが好ましい。開口30b、30cの第1面22aと平行な幅Wと、第1面22aに垂直な深さDはほぼ等しいことが好ましい。具体的には、幅Wおよび深さDは、0.9≦W/D≦1.1の関係を満たしていることが好ましい。
【0022】
毛細管30は、採取する液体に応じた適切な毛細管力が働くサイズを有することが好ましい。例えば、液体試料が血液である場合、幅Wおよび深さDは、例えば、800μm~1mmの範囲の値であることが好ましい。また、毛細管30の長手方向の長さLは、2mm~4mmの範囲の値であることが好ましい。採取する液体試料の量の調節は、主として長手方向の長さLで調整することが可能である。
【0023】
毛細管30の内壁は、長手方向に平行に伸びる線状凹部および凸部の少なくとも一方を有してよい。凹部または凸部を有することによって、開口30bおよび開口30cから液体試料が流入しやすくなったり、凹凸によって内壁の表面積が増大することによって毛細管力による保持力が高めることが可能となり、液体試料の保持や放出の特性を調節することが可能となる。このような線状の凹凸は、例えば、金型を用いた射出成形によって、試料採取デバイス101を作製する場合における、樹脂が金型内を流動する際に生じる樹脂成形流動線であってもよい。
【0024】
試料採取デバイス101によって液体試料を採取した後、液体試料中の特定成分の測定のために、液体試料の前処理を行う必要がある場合には、前処理に用いる試薬を先端部22に配置してもよい。具体的には、第1面22aに凹部22dを設け、凹部22dに試薬23を配置してもよい。より具体的には、試料採取デバイス101は、ヘモグロビン分解酵素であるプロテアーゼを試薬23としてさらに備えていてもよい。凹部22dは毛細管30の開口30aに近接して配置してもよい。
【0025】
試料採取デバイス101によれば、毛細管30は3方向に開口を有する。このため、液体試料を採取する際に、3つの開口から液体試料を吸引することが可能であり、また、液体試料が毛細管30に流入する際に毛細管30を満たしていた空気が3方向の開口のいずれかから排出され得る。例えば、第1面22aに位置する開口30aから血液が吸引される場合、両端である開口30bおよび開口30cから毛細管30を満たしていた空気が排出される。このため、毛細管30に速やかに、かつ、気泡が噛むことなく毛細管30全体に血液でみたされる。このため、液体試料を一定量、正確に測り取ることが容易である。
【0026】
試料採取デバイス101から毛細管30を満たしている血液を放出(解放)する場合、3方が開口であることによって、開口から保持した液体試料を放出することが容易である。特に、第2面22bおよび第3面22cに、毛細管30の両端に位置する開口30bおよび開口30cを有しているので、例えば、把持部10を支持して、試料採取デバイス101を長手方向Aに揺動させた場合、毛細管30に支持された液体試料に慣性力が働き、開口30bおよび開口30cから放出されやすい。したがって、本実施形態の試料採取デバイス101によれば、採取した液体試料を容易にリリースすることが可能である。
【0027】
また、毛細管33は把持部10の長手方向Aに対して垂直に伸びているため、採取した試料液体を前処理液等の液体中に放出する場合、前処理液等の量が少ないことによって、前処理液の液面が低くても、毛細管30の全体を前処理液内に浸漬させることが可能である。よって、少ない前処理液等の溶液に採取した液体試料を放出させることが可能であり、前処理が必要な場合に、調製する溶液中における試料の濃度を高めることが可能である。
【0028】
さらに、毛細管33に近接して前処理に用いる試薬を配置することが可能であるため、試薬が前処理液にとけだすことによって、前処理液に放出された試料と試薬とを近接させ、迅速に反応させることが可能となる。
【0029】
(試料調製装置)
試料調製装置の実施形態を説明する。図5は試料調製装置201の分解斜視図である。試料調製装置201は、試料採取デバイス101と、試薬容器50とストッパー60と、カバー70とを備える。試料採取デバイス101は上述した構造を備えている。図6および図7は、試薬容器50およびストッパー60の長手方向に平行な断面図である。
【0030】
試薬容器50は、上面50aおよび底面50bを有する柱形状を備え、内部に試料採取デバイス101の少なくとも採取部20を収納するチャンバー51と貫通穴52とを有する。チャンバー51は、上面50aに開口51を有し、開口51cから試料採取デバイス101がチャンバー51内に挿入される。また、チャンバー51は底部51bを有する。本実施形態では、チャンバー51は、試料採取デバイス101の採取部20の先端部22が挿入される第1部分51e1と、基部21が挿入される第2部分51e2と、把持部10の一部が挿入される第3部分51fとを含む。貫通穴52は底面50bに設けられ、チャンバー51の底部51bと外部とを接続している。貫通穴52の側面には、円周方向に沿って溝が設けられており、Oリング41および42が溝内に配置されている。
【0031】
ストッパー60は第1端面60aおよび第2端面60bと、第1端面60aと第2端面60bとの間に位置する側面60cとを有する柱形状を備え、試薬容器50の貫通穴52に挿入可能である。
【0032】
第2端面60bには、柱形状の長手方向に沿って伸びる第1排出穴61が設けられている。また、側面60cに開口を有し、長手方向と垂直に伸びており、第1排出穴61に接続された第2排出穴62が設けられている。第2端面60b近傍の側面60cには凸部63が設けられている。
【0033】
ストッパー60は試薬容器50に挿入された状態で使用される。図8および図9は、試薬容器50の貫通穴52にストッパー60が挿入された状態の断面を示している。図8に示すように、ストッパー60は、第1端面60aがチャンバー51の底部51bに位置する保持位置と、ストッパー60がさらに貫通穴52に挿入され、第1端面60aが底部51bからせり上がり、側面60cに設けられた第2排出穴62の開口がチャンバー51内に位置する排出位置との間で移動可能である。ストッパー60が不用意に移動しないよう、ストッパー60を長手方向の軸周りに回転させ、特定の角度位置に位置合わせした場合にのみ、ストッパー60が長手方向に移動可能なように構成してもよい。
【0034】
以下において詳述するように、ストッパー60が保持位置にある状態でチャンバー51内に試料を溶解させる試薬溶液が保持される。また、ストッパー60が排出位置にある場合、チャンバー51内の試薬溶液が、第2排出穴62から第1排出穴61を通って、外部へ排出される。ストッパー60が移動可能に貫通穴52に挿入されていても、Oリング41および42が貫通穴52に配置されているため、貫通穴52とストッパー60との間の隙間はシールされており、チャンバー51に保持された液体は、貫通穴52から漏れることが抑制されている。
【0035】
カバー70は空間70eを有し、試薬容器50に挿入されたストッパー60を収納し、試薬容器50を支持する。
【0036】
次に、図10Aから図10Dおよび図11Aから図11Cを参照しながら試料調製装置201の使用方法を説明する。図10Aから図10Dは試料調製装置201を用い、液体試料として血液を採取し、血液中のHbA1cを測定する前の前処理を行う手順を示す模式図であり、図11Aから図11Cは、使用中の試料調製装置201の断面を示す。
【0037】
図11Aに示すように、試料採取デバイス101の凹部22dには、ヘモグロビン分解酵素であるプロテアーゼが試薬23として配置されている。また、試薬容器50の貫通穴52には、ストッパー60が保持位置に位置するように挿入されている。ストッパー60が空間70eに収納されるようにカバー70で試薬容器50は支持されている。
【0038】
試薬容器50のチャンバー51には、血液中の赤血球を溶解する溶血剤として界面活性剤を含む溶解液53が保持されている。
【0039】
まず図10Aに示すように、指先に針を刺し、微小量の出血を生じさせ、試料採取デバイス101の先端部22の開口30a、30b、30cのいずれかと血液とを接触させることによって、毛細管30に血液を吸引させる。次に図10Bに示すように、試料採取デバイス101の採取部20を試薬容器50のチャンバー51の開口に挿入し、図10Cに示すように、カバー70と試料採取デバイス101とを手指で挟んで、上下方向(長手方向)および左右方向に揺動させる。
【0040】
図11Bに示すように、試料採取デバイス101の採取部20がチャンバー51に挿入されることによって、先端部22の一部または全部が溶解液53に浸漬される。このとき、毛細管30の開口30b、30cの全体が溶解液53に浸漬していれば、毛細管30の保持された血液は、揺動によって効率的に溶解液53に溶解していく。図11Bから明らからなように、毛細管30は水平方向に伸びているため、溶解液53の量が少なく液面が低い場合でも、毛細管30の全体を溶解液53中に浸漬することが可能である。毛細管30の3方に開口30a、30b、30c(図2)が設けられているため、保持された血液は溶解液53と広い面積で接触しており、揺動によって血液に働く慣性力や、揺動により生じる溶解液53の揺動によって、毛細管30からその周囲の溶解液53へ放出される。また、このとき、凹部22dに保持された試薬23も溶解液53に溶解する。溶解液53に血液が溶解すると、溶解液53中の界面活性剤と赤血球とが反応し、赤血球からヘモグロビンが溶解液53中へ溶けだす。ヘモグロビンはさらに溶解液53中の試薬23と反応し、フルクトシルバリルヒスチジンが生成する。
【0041】
その後、図10に示すように、カバー70を取り外し、ストッパー60の第2端面60bを、測定装置の試料導入部300に押し付ける。図11Cに示すように、ストッパー60の第2端面60bが試料導入部300に押し付けられることによって、ストッパー60は試薬容器50の貫通穴52内に挿入され、第1端面60aが試料採取デバイス101の先端部22の第1面22aと当接し、試料採取デバイス101を押し上げる。ストッパー60の凸部63が試薬容器50の底面50bと当接すると、ストッパー60の第2排出穴62の開口がチャンバー51内に露出する。これにより、溶解液53が第2排出穴62および第1排出穴61を通って、測定装置の試料導入部300に導入される。
【0042】
測定装置は試料導入部300から導入された溶解液53をセンサに導き、電気化学的反応によってHbA1cの濃度および総ヘモグロビンの濃度を測定する。
【0043】
(試料採取デバイスの他の形態)
試料採取デバイスには種々の改変が可能である。
【0044】
図12は他の形態の試料採取デバイス102の斜視図であり、図13は試料採取デバイス102の側面図である。また、図14は、試料採取デバイス102の先端部を拡大して示す側面図であり、図15は、試料採取デバイス102の正面図である。
【0045】
試料採取デバイス102は、毛細管30が設けられた第1面が把持部10の長手方向Aと非垂直である点で試料採取デバイス101と異なっている。試料採取デバイス102の先端部22において、採取部20は、第1面22aに隣接する第4面22eを備えており、第4面22eに試薬を保持するための凹部22dが設けられている。第4面22eは例えば把持部10の長手方向Aに対して垂直である。毛細管30は第1面22aのうち第4面22eとの境界に近接していることが好ましい。
【0046】
第1面22aが長手方向Aと非垂直であることより、側面視において先端部22は、先端側が細い形状を有する。このため、使用者が例えば、指先の血液を採取する場合、毛細管30が位置する部分が認識しやすく、また、毛細管30が位置する部分をより正確に指先の血液に接触させやすい。このため、血液採取時の操作者の操作性および利便性を高めることが可能である。
【0047】
図16は他の形態の試料採取デバイス103の斜視図であり、図17は試料採取デバイス103の側面図である。また、図18は、試料採取デバイス103の先端部を拡大して示す側面図であり、図19は、試料採取デバイス103の正面図である。
【0048】
試料採取デバイス103は、異なる形状の把持部10を備えている点で、試料採取デバイス101と異なる。具体的には、試料採取デバイス103の把持部10は、長手方向に垂直な断面において、略矩形形状を有している。把持部10は一対の第1側面10a、10bと、一対の第2側面10c、10dとを含み、第1側面10a10bの面積は、第2側面10c、10dの面積より大きい。第1側面10aと第1側面10bとは互いに反対側に位置しており、同様に、第2側面10cと第2側面10cとは互いに反対側に位置している。第1側面10a、10bは毛細管30の長手方向と概ね垂直である。
【0049】
試料採取デバイス103を使用する場合、第1側面10a、10bが大きいため、特に、何らの指示がなくとも使用者は、第1側面10a、10bをつまむように、第1側面10a、10bに、例えば、親指と人差し指を配置する。この状態で使用者が手首を動かして試料採取デバイス103を揺動させた場合、試料採取デバイス103は、概ね毛細管30の長手方向にそって揺動される。この方向に揺動させた場合、慣性力によって、開口30b、30cから採取した液体試料が放出されやすい。したがって、試料採取デバイス103によれば、特別な指示がなくても、使用者は採取した液体試料が放出されやすい方向に試料採取デバイス103を揺動させることができる。よって短い揺動動作で試料の前処理を完了させることが可能となり、操作性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示の試料採取デバイスおよび試料調製装置は、血液など種々の液体試料を採取し、採取後に液体試料の調整を行うことが可能であり、血液の成分分析等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 把持部
10a、10b 第1側面
10c、10d 第2側面
20 採取部
21 基部
21g 溝
22 先端部
22a 第1面
22b 第2面
22c 第3面
22d 凹部
22e 第4面
23 試薬
30 毛細管
30a~30c 開口
33 毛細管
40、41 Oリング
50 試薬容器
50a 上面
50b 底面
51 チャンバー
51c 開口
51e1 第1部分
51e2 第2部分
51f 第3部分
52 貫通穴
53 溶解液
60 ストッパー
60a 第1端面
60b 第2端面
60c 側面
61 第1排出穴
62 第2排出穴
63 凸部
70 カバー
70e 空間
101~103 試料採取デバイス
201 試料調製装置
300 試料導入部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19