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特許7383626カルシウム欠乏に起因する状態の治療に使用するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】カルシウム欠乏に起因する状態の治療に使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20231113BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20231113BHJP
   A61K 33/10 20060101ALI20231113BHJP
   A61P 3/14 20060101ALI20231113BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20231113BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20231113BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231113BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231113BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20231113BHJP
   A23L 33/155 20160101ALI20231113BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20231113BHJP
【FI】
A61K31/575
A61K31/19
A61K31/201
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/593
A61K33/06
A61K33/10
A61P3/14
A61P19/08
A61P19/10
A61P43/00 121
A23L33/10
A23L33/12
A23L33/155
A23L33/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020549788
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 SE2019050246
(87)【国際公開番号】W WO2019182501
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】1850304-5
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】520352492
【氏名又は名称】エピクワイティー ファーマ アーべー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェンドリクス,ラース
(72)【発明者】
【氏名】ワレニウス,ヴィル
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-107408(JP,A)
【文献】特表2011-507946(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01270007(EP,A2)
【文献】特開平04-210927(JP,A)
【文献】特開昭63-008339(JP,A)
【文献】Biochem.J.,1966年,Vol.100,pp.652-660
【文献】Am.J.Clin.Nutr.,1996年,Vol.63,pp.574-578
【文献】Nature Communications,2018年01月04日,Vol.9,Article No.55,doi:10.1038/s41467-017-02490-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A23L 33/00-33/29
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆汁酸であるグリココール酸(GCA)又はその塩酪酸、又はその塩、オレイン酸、又はそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を含む、カルシウム吸収欠乏に関係する疾患の治療及び/又は予防における使用のための組成物。
【請求項2】
前記疾患が、哺乳動物における骨粗鬆症吸収不良状態、又は骨障害である、請求項1記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記疾患が骨粗鬆症であり、前記カルシウム吸収欠乏が骨ミネラル密度(BMD)の損失である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記哺乳動物が、骨ミネラル密度(BMD)が損失している、ルーワイ胃バイパス術(RYGB)又はスリーブ状胃切除術(SG)のヒト患者である、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物がビタミンDをさらに含み、好ましくは前記ビタミンDがビタミンD3から主としてなる、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記組成物がカルシウムをさらに含み、好ましくは前記カルシウムが、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、若しくはリン酸カルシウム、又はそれらの混合物として存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記組成物中のカルシウム及びビタミンDの量が、1日当たりの推奨摂取量(RDI)以下として存在する、請求項又はに記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記組成物が、ビヒクル、賦形剤、滑沢剤、香味剤、甘味剤、結合剤、及び崩壊剤のうち少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記組成物が、経口送達用、非経口送達用、静脈内注入用、又は注射用に製剤化される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記組成物が、液体形態である、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記組成物が、固体形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記組成物が、咀嚼錠、発泡錠、散剤、丸剤、錠剤、又はカプセル剤として製剤化される、請求項10又は11に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記組成物が栄養補助食品又は健康補助食品である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を含む組成物に関する。本組成物はまた、カルシウム及びビタミンDも含んでもよく、医薬品としての使用、特に腸のカルシウム取り込み欠乏に関係する障害の治療及び/又は予防のためのものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
世界的な肥満症の蔓延は、2003年に15億人を超す人々を襲っていると推計されたが、その発生は世界中で増加し続けている。肥満症の罹患率の増加は、肥満症の併存疾患(例えば、2型糖尿病、高脂血症、高血圧症、虚血性心疾患、卒中、喘息、背中及び下肢の関節変性の問題、数種のがん、うつ病など)の罹患率の増加に結びついている。西欧では年間約32万人が肥満症により死亡していると推定される。このため、肥満症を原因とする平均余命の喪失は深刻である。正常体重の人と比較して、病的肥満の25歳男性の寿命の喪失は、平均でおよそ12年である。
【0003】
肥満外科手術は、この数十年に、病的肥満の唯一の長期有効治療として浮上してきた。系統的にレビューすると、病的肥満の患者において、肥満外科手術を受けた後に、有効な体重減少が達成されている。糖尿病、高脂血症、高血圧症、及び閉塞性睡眠時無呼吸の既往のある患者の実質的大多数が、手術後に改善を示し、完全に回復した場合もあった。スウェーデンで最も一般的な肥満外科手術の形態は、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(RYGB)である。新たに出てきた肥満外科手術法はスリーブ状胃切除術(SG)である。
【0004】
通常、腹腔鏡下の肥満外科手術をすると、術後の回復は早い。普通、最初の6~12カ月の間に急速な体重減少が起こり、手術後約2年で横ばい状態となる。胃バイパス術後の生活とは、食事の量が減り、回数が増えることによる、食物摂取のパターンの変化を意味する。
【0005】
胃及び十二指腸を通る食物の通路の前腸を空置し、未消化の食物を空腸へ迅速に後腸送達すること、即ち食物脚(alimentary limb)を設けることを伴う胃腸管のルート変更のため、微量栄養素の取り込みが弱められる。バイパスされた胃は、塩酸及び内因子(IF)の分泌量が少なくなり、例えば鉄及びビタミンB12の取り込みに悪影響を及ぼす。したがって、生涯にわたるビタミンB12、並びに総合ビタミン剤及び微量ミネラルの補給が、RYGB後の全ての患者に推奨される。鉄の補給は、閉経期前の女性、及び他の鉄欠乏の患者に推奨される。
【0006】
活性なビタミンDの誘導によるカルシウム取り込みは、通常、近位小腸、即ち十二指腸及び空腸の前半において起こる。したがって、生涯にわたるビタミンD及びカルシウムの補給が、RYGBを受けた患者に推奨される。RYGB後には小腸のルート変更のため、十二指腸はバイパスされて栄養素の通路ではなくなっている。ビタミンD受容体の活性化補助因子である熱ショックタンパク質(Hsp)90β、及び最も重要であり、ビタミンDの誘導によるカルシウム輸送タンパク質であるTRPV6は、RYGBの後、食物脚(alimentary limb)の粘膜において下方制御されることが最近示された(Elias et al.)。これに伴い、垂直遮断胃形成術(VBG)を受けた患者とは異なり、RYGBでは処置に依存して骨ミネラル密度(BMD)が低下したことも示された。このため、RYGB後に、これらの患者におけるBMDのさらなる低下及びさらなる骨粗鬆症性骨折のリスクを回避するために、カルシウム及びビタミンDの補給は重要であると思われる。
【0007】
最近導入されたSG(スリーブ状胃切除術)の手術は、体重減少と代謝の改善の両方に有効であるが、胃を切除すると、胃酸の総産出量が劇的に減少し、管腔の内容物が遠位小腸に移動する時間が短くなる。機能的には、この状態は胃バイパスの効果を部分的に模倣しており、このため粘膜がビタミンDに対して反応する能力を低下させ、ひいては、カルシウム吸収を減少させる。実際、SG処置は骨ミネラルの代謝回転が変化する徴候と関連しており、これは長期的には骨の脱ミネラル化のリスクを示唆するものである(Crawford et al.)。
【0008】
SG後には、RYBP後と同様に、患者はビタミンD及びカルシウムの補給を処方される。しかしながら、そのような補給がBMDの損失を予防することができるかどうかは立証されていない。実際のところ、そうではない場合があることを示すデータが存在する。例えば、カルシウム及びビタミンDの補給を受けたRYGB患者の大部分が、二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を発症し、PTHレベルが増加し、カルシウムレベルが減少したのであるが、これは、補給しているにもかかわらず、腸内でのカルシウム吸収が依然として欠乏している場合があることを示すものである(Hewit S et al.)。補給をした患者には、手術の18カ月後に、C末端テロペプチド(CTX)レベルの顕著な増加があったことも分かっており、これは、骨代謝回転が増加したことを示している。ビタミンDレベルが最適化されていた場合でさえも、腸管でのカルシウム吸収(分画カルシウム吸収)がRYGB後に著しく損なわれ、およそ80%減少することを示す最近のデータもある(Schafer A L et al.)。したがって、現在のレジメンによるカルシウム及びビタミンDの補給は実効的ではない。
【0009】
さらに、骨ミネラル密度(BMD)の全般的低下がある、及び/又はカルシウム取り込みの全般的減少がある、及び/又は骨の病的状態、例えばカルシウム欠乏に起因する骨粗鬆症がある別の患者群も存在し、この患者群はビタミンDの誘導によるカルシウム取り込みの増加によって利益を得ることが可能である。ビタミンD及びカルシウムの補給とは別に、明白な骨ミネラル化疾患は、現在、主に全身的なホルモンPTH補給により、又は薬理学的骨吸収抑制薬(ビスホンホネート(bisphonphonate)類、エストロゲン類似体、吸収機序を標的とする抗体など)により、治療されている。腸管でのカルシウム吸収能力の回復を狙う治療レジメンはほとんどないか、又は機能しないことが分かる場合が多い。
【0010】
骨の状態を治療するための、コショウソウ(Lepidium Sativum)、カルシウム、ビタミンD及び抗酸化剤を含む活性成分のナノ製剤を含む組成物を開示している米国特許第8,563,053号。別の例は、胆汁酸レベルを調節することによって代謝障害を治療するための方法及び組成物を開示している国際公開第2013/049595号である。
【0011】
上記のことを考慮すると、当技術分野において、上記の問題、特に、胃の手術を受けた患者、例えばRYGB及びSGの患者における、ビタミンDの誘導によるカルシウム取り込みの減少及び骨ミネラル密度(BMD)の低下に対する解決策を見出す必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の概要
本発明の目的は、上記の問題を解決すること、並びに少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、及び少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を含む組成物を提供することである。本組成物はまた、カルシウム及びビタミンDも含有することもできる。本組成物は、医薬品としての使用が意図される。
【0013】
驚くべきことに、本発明に関して、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を含む組成物は、個々の2つの成分である胆汁酸と脂肪酸とをそれぞれ単独で用いる場合と比較して、ビタミンD-受容体活性化補助因子であるHsp90βの発現を相乗的に誘導し、次いでカルシウム吸収を増加させることが分かった。したがって、全部で4つの成分、要するに、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、カルシウム、及びビタミンDを含む組成物が提供される。
【0014】
以前に、骨量減少はカルシウム吸収の損傷に起因し、その損傷は、熱ショックタンパク質90βが媒介するビタミンDに依存性のカルシウム吸収機序が活性低下することで起こり得ると記述されている(Elias et al.)。したがって、本発明の知見は、肥満外科手術を受けた患者に、及び一般に、カルシウム吸収の増加により助けられ得る状態に罹患している任意の患者に有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様における、カルシウム吸収欠乏の治療及び/又は予防。
【0016】
カルシウム吸収欠乏は、例えばルーワイ胃バイパス術(RYGB)後に起こり得る。これを補償し、血漿中カルシウムレベルを上げて正常レベルに維持するために、RYGB後によく見られる1つの代償機序として、副甲状腺ホルモン(PTH)産生の増加がある(Hewitt et al.)。甲状腺の手術は、副甲状腺の機能及びその副甲状腺ホルモン(PTH)の産生に悪影響を及ぼすことによってカルシウム吸収の欠乏を引き起こし得る別の外科的処置である。これら2つの処置、即ちRYGBと甲状腺の手術とを併用すると、血漿カルシウムレベルが著しく低下し、低カルシウム血症の症状が起こり得るということが、文献で報告されている。その機序は、腸管でのカルシウム吸収の低下をPTH産生の増加によって補償することができなくなるということのようである。RYGBと甲状腺手術との併用では、場合により、低カルシウム血症の治療が極めて困難であることが判明している(Goldenberg et al.)。本明細書で定義される組成物を投与することにより、カルシウムのレベルは増加し得る。これは、カルシウム吸収の低下が、血漿中カルシウムレベルの低下、又は骨ミネラル化の減少を引き起こしている患者において、特に重要である。
【0017】
本発明の別の態様において、哺乳動物における、カルシウム欠乏に起因する骨粗鬆症、カルシウム欠乏に起因する吸収不良状態、又はカルシウム欠乏に起因する骨障害の治療及び/又は予防において。さらに、本組成物は、哺乳動物において、カルシウム欠乏に起因する骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防することにより、骨粗鬆症を治療及び/又は予防するために使用することができる。本組成物はまた、ルーワイ胃バイパス術(RYGB)の患者又はスリーブ状胃切除術(SG)の患者において、骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防することにより骨粗鬆症を治療するために使用することもできる。
【0018】
本発明の別の態様は、前記少なくとも1種の胆汁酸が、一次胆汁酸及び二次胆汁酸並びにそれらの塩から選ばれる、本明細書で定義される組成物である。胆汁酸は、胆汁酸がタウロコール酸でもその誘導体でもないという条件で選択される。
【0019】
本発明の別の態様は、前記少なくとも1種の脂肪酸が飽和又は不飽和である組成物であり、一例は、前記少なくとも1種の脂肪酸が、短鎖脂肪酸(SCFA)、中鎖脂肪酸(MCFA)、長鎖脂肪酸(LCFA)又は極長鎖脂肪酸(VLCFA)である。特に、短脂肪酸は酪酸であり、又は中鎖脂肪酸はオレイン酸である。
【0020】
本発明の一態様における、ビタミンD3から主としてなるビタミンDを含む、使用するための組成物。
【0021】
本発明の別の態様は、前記カルシウムが、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、若しくはリン酸カルシウム、又はそれらの混合物として存在する組成物である。
【0022】
本発明の一態様において、組成物中のカルシウム及びビタミンDの量は、1日当たりの推奨摂取量(RDI)以下として存在する。組成物は、ビヒクル、賦形剤、滑沢剤、香味剤、甘味剤、崩壊剤、結合剤及び崩壊剤のうち少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0023】
本明細書で定義される組成物は、経口送達用、非経口送達用、静脈内注入用、又は注射用に製剤化される。組成物は液体形態又は固体形態であってもよく、組成物は、咀嚼錠、発泡錠、散剤、丸剤、錠剤又はカプセル剤として製剤化されてもよい。
【0024】
本発明の一態様において、組成物は、栄養補助食品又は健康補助食品である。
【0025】
本発明の一態様において、使用するための組成物は、酪酸又はその塩である脂肪酸を含み、前記胆汁酸はグリココール酸又はその塩であり、ビタミンDはビタミンD3である。
【0026】
図面の簡単な説明
本発明は、添付の図面と併せて考慮される以下の詳細な説明から、より深く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ビタミン-D受容体の活性化補助因子である熱ショックタンパク質(Hsp)90βの発現は、Caco-2細胞培養液中に、胆汁酸GCAと脂肪酸のブチレートとを一緒に48時間添加しておくことによって相乗的に誘導されるが、GCA単独又はブチレート単独では誘導されないことを開示している。GCAは1×10-4Mの濃度で、ブチレートは5×10-4Mの濃度で添加した。***P<0.001;GCA+ブチレートvs対照、対応のないt検定。
図2】ウエスタンブロットを開示し、ビタミン-Dが、培養したCaco-2細胞中でクローディン-2タンパク質の発現を用量依存的に増加させる効果を有し、それにより、「受動」カルシウム吸収を容易にすることを開示している。ビタミン-Dの活性化補助因子Hsp90βを特異的阻害剤ゲルダナマイシンで抑制すると、明らかにビタミン-Dの活性の阻害によりクローディン-2の発現も抑制され、それにより、Hsp90βが「受動」カルシウム吸収にも重要であることを示している。
図3】カルシウム取り込みに対するビタミンD3の存在の影響を開示している。
図4】カルシウム取り込み(勾配なし)に対する、胆汁酸、脂肪酸、ビタミンD3の影響を開示している。
図5】カルシウム取り込み(勾配あり)に対する、胆汁酸、脂肪酸、ビタミンD3の影響を開示している。
図6】カルシウム取り込みに対する、胆汁酸、脂肪酸、ビタミンD3の影響を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の詳細な説明
本発明の原理及び機能を全般的に理解できるように、例示的なある特定の実施形態を以下に記載する。記載される例示的な実施形態は非制限的であり、本発明の範囲は特許請求の範囲によって規定されることを当業者は理解されよう。
【0029】
上に述べたとおり、本発明は、
a)少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、
b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、
c)カルシウム、及び
d)ビタミンD
を含む組成物に関する。
【0030】
本組成物は、医薬品としての使用が意図される。
【0031】
驚くべきことに、本発明に従って観測すると、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、ビタミンD、及びカルシウムを含む組成物は、ビタミンD-受容体活性化補助因子であるHsp90βの発現を相乗的に誘導することが分かった。
【0032】
ビタミンD-受容体活性化補助因子の発現を誘導することにより、ビタミンDの誘導によるカルシウム輸送を実質的に増加させることができる。即ち、RYGB患者及びSG患者など、カルシウム欠乏に罹患している患者において正常化することができる。
【0033】
Hsp90βは、カルシウムの経細胞能動輸送に関与するタンパク質であるタンパク質TRPV6に対して周知の刺激作用を有する。しかしながら、カルシウムの能動輸送は目的の組成物に感受性をもつことができない。その代わり、本発明によれば、Hsp90βは、受動(傍細胞)カルシウム通過においてビタミンD依存の増加を活性化する。これは本発明の重要な特徴である。ビタミンDとは別に、カルシウムそれ自体もまた傍細胞輸送に必要な経上皮濃度勾配を得るために、組成物中に含まれなければならない。
【0034】
上記の、ビタミンD-受容体活性化補助因子であるHsp90βの誘導を考慮すると、本発明の組成物は、カルシウム吸収の増加により助けられ得る状態に罹患している任意の患者の治療に使用することができる。そのような病的状態、例えば、吸収不良が原因でのカルシウム欠乏に起因する場合がある骨粗鬆症においては、骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防する必要がある。哺乳動物には、そのような状態になりやすい個体がある。例えば、本発明の組成物は、カルシウム欠乏に起因する骨粗鬆症に罹患している高齢者などの患者の治療に好適である。
【0035】
本発明の組成物は、一実施形態では、ルーワイ胃バイパス術(RYGB)の患者又はスリーブ状胃切除術(SG)の患者において、骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防することにより、骨粗鬆症を治療及び/又は予防することに好適である。
【0036】
本発明による組成物は、少なくとも1種の「胆汁酸」又はその塩、少なくとも1種の「脂肪酸」又はその塩、並びにカルシウム及びビタミンDを含む。
【0037】
「胆汁酸」という語句は、本明細書で使用する場合、生物における天然のものと、合成胆汁酸であるものとの両方を含む。天然の胆汁酸は、肝臓で合成される一次胆汁酸、及び腸内での細菌作用の結果として生じる二次胆汁酸の両方とすることができる。天然の胆汁酸はまた、抱合胆汁酸であってもよく、それは、胆汁酸がカルボン酸基上でグリシン部分又はタウリン部分と抱合していることを意味し、一次胆汁酸及び二次胆汁酸の両方について当てはまり得る。
【0038】
一次胆汁酸には、コール酸(CA)及びケノデオキシコール酸(CDCA)が属し、対応するそれらの抱合形態は、それぞれ、グリココール酸(GCA)及びタウロコール酸(TCA)、並びにグリコケノコール酸(GCDCA)及びタウロケノデオキシコール酸(TCDCA)である。特に、本発明の目的の一次胆汁酸は、コール酸(CA)及びケノデオキシコール酸(CDCA)、並びに対応するそれらの抱合形態であり、それぞれ、グリココール酸(GCA)及びグリコケノコール酸(GCDCA)である。
【0039】
二次胆汁酸には、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)及びヒオデオキシコール酸(HDCA)が属し、対応するそれらの抱合形態は、それぞれ、グリチョデオキシコール酸(glychodeoxycholic acid:GDCA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)、グリチョリトコール酸(glycholithocholic acid :GLCA)、トゥロリトコール酸(turolithocholic acid:TLCA)、グリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、グリコヒオデオキシコール酸(GHDCA)及びタウロヒオデオキシコール酸(THDCA)である。特に、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)及びヒオデオキシコール酸(HDCA)、並びに対応するそれらの抱合形態(それぞれ、グリチョデオキシコール酸(glychodeoxycholic acid:GDCA)、グリチョリトコール酸(glycholithocholic acid:GLCA)、グリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)、及びグリコヒオデオキシコール酸(GHDCA))は、本発明において重要である。
【0040】
抱合胆汁酸は非抱合胆汁酸より酸性度が高く、それ故、「胆汁酸塩」と呼ばれることが多い。種々の胆汁酸は、様々な生物における「胆汁」の主成分であるが、例えば種々の動物における特定の種々の胆汁酸の存在量は、広範囲にわたって様々であり得る。合成胆汁酸は、例えばオベチコール酸(OCA)(6アルファ-エチル-ケノデオキシコール酸)である。
【0041】
本明細書で使用する胆汁酸への言及はいずれも、胆汁酸又はその塩への言及を含む。「胆汁酸」という用語はまた、「複数種の胆汁酸」、「胆汁酸塩」、「複数種の胆汁酸塩」及び「胆汁酸/塩」と互換的に使用してもよい。当然ながら、組成物は少なくとも1種の胆汁酸を含み、例えば2種以上の胆汁酸を含むことが可能である。使用される少なくとも1種の胆汁酸は、一次胆汁酸及び二次胆汁酸並びにそれらの塩から選ばれることが可能である。
【0042】
生理的状態にある間、食事性脂肪は、上部消化管腔内で脂肪酸とモノグリセロールとに分解され、次いで粘膜により吸収される。肥満外科手術後、及び管腔での脂質分解の能力が低い他の状態にある間では、濃度遊離脂肪酸は上部消化管内で非生理的に低い。
【0043】
したがって、本発明による組成物は、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を含むことになり、前記少なくとも1種の脂肪酸は飽和又は不飽和である。不飽和脂肪酸は、シス配置又はトランス配置を有していてもよい。前記少なくとも1種の脂肪酸は、例えば、短鎖脂肪酸(SCFA、脂肪族末端に6個未満の炭素)、例えばブチレート、中鎖脂肪酸(MCFA、脂肪族末端に6~12個の炭素原子、直鎖又は分岐鎖)、例えば飽和のカプリル酸(8個の炭素原子)及びラウリン酸(12個の炭素)、長鎖脂肪酸(LCFA;13~21個の炭素)、例えば不飽和のパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、並びに飽和のパルミチン酸及びステアリン酸、又は極長鎖脂肪酸(VLCFA、21個を超える炭素原子)である。当然ながら、組成物は、少なくとも1種の脂肪酸を含み、例えば、2種以上の脂肪酸を含むことが可能である。組成物中に使用される少なくとも1種の脂肪酸又はその塩は、入手可能で当技術分野の当業者に公知の、いずれのものでもよい。
【0044】
本明細書に記載される組成物は、ビタミンDを含む。ビタミンDは、あるビタミンの群であり、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、アルファカルシドール、カルシトリオールを含む。本明細書に記載される組成物は、ビタミンD3として存在するビタミンD、又は少なくともビタミンD3から主としてなるビタミンDを含む。本発明の別の態様において、カルシウムは、塩として、Ca2+-塩として、例えば、クエン酸カルシウム塩、炭酸カルシウム塩、又は任意のリン酸カルシウム塩として存在する。
【0045】
本発明の一態様において、組成物が提供され、組成物中のカルシウム及びビタミンDの量は、おおよそ1日当たりの推奨摂取量(RDI)として存在する。カルシウムの1日当たりの推奨摂取量は、成人の場合1000mg/日(ミリグラム/日)であり、人によって、例えば、高齢者及び若年者で1300~2500mg/日までのレベルが推奨され、ビタミンDの1日当たりの推奨摂取量は600IU/日であり、成人の場合15(μg)に相当し、高齢者には800IU/日(20、μg)までのレベルが推奨される。本発明の組成物は、1日当たりの推奨摂取量のビタミンDを含んでもよく、又はその周辺量を含んでもよく、組成物の目的に依存して、即ち組成物が1日に何回投与されるかに依存して、1250μg/日に相当する50,000IU/日までを含んでもよい。
【0046】
カルシウムの量は、組成物中に、100~2500mgの範囲で、例えば200~2000の範囲で、例えば300~1500mgの範囲で、例えば400~1000mgの範囲で、例えば400~800mg又は400~600mgで存在してもよい。カルシウムの量は、組成物中に、約300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500mgの量で存在してもよい。ビタミンD、例えばビタミンD3の量は、5~1250μgの量で、例えば、10~1000、又は20~800の範囲で、例えば、100、200、300、400、500、600、700、800μgなどで、及びもっと低い範囲の約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20、30、40、50、60、70、80、90μgで存在してもよい。組成物中のビタミンD及びカルシウムの量は、所望の最適応当(例えば、治療応答又は予防応答)をもたらすように調整されてもよい。
【0047】
組成物中の前記少なくとも1種の胆汁酸の量は、約1×10-7~1×10-3Mの腸内濃度をもたらす範囲で存在し、それは約0.001mg/kg~約100mg/kgに相当し、例えば0.1mg/kg~約50mg/kg、例えば2~40mg/kg、例えば4~30mg/kg、例えば6~20mg/kg、例えば8~15mg/kg、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、17、18mg/kgである。ビタミンD及びカルシウムに関しては、組成物は、単回用量又は複数回用量で所望の最適応当をもたらすように、前記少なくとも1種の胆汁酸を基準にして調整されてもよい。
【0048】
組成物中の前記少なくとも1種の脂肪酸の量は、0.5g~約20g/日の範囲における十分な量で存在し、例えば1~18、例えば3~15g、例えば5~12g、7~10である。示されたこれらの範囲は、必須脂肪酸の所要量に合わせたものである。組成物は、単回用量又は複数回用量で所望の最適応当をもたらすように、脂肪酸の量に関して調整されてもよい。幾つかの態様では、胆汁酸塩及び脂肪酸の選択において、例えば溶解性、毒性の可能性及び有害な副作用、経口組成物における味の良さ、並びにその経口組成物が食品添加物又は医薬品と考えられるかどうかに関しての経口組成物の状態が考慮されなければならない。
【0049】
本発明の一態様における、
a.少なくとも1種の胆汁酸又はその塩を、約1×10-7~1×10-3Mの腸内濃度をもたらす量、
b.少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を、0.5g~約20gの量、
c.カルシウムを、100~2500mgの量、及び
d.ビタミンDを、800~2500mgの量
含む組成物。
【0050】
組成物の例は、
a)一次胆汁酸であるコール酸(CA)及びケノデオキシコール酸(CDCA)、並びにそれぞれ、対応するそれらの抱合形態である、グリココール酸(GCA)及びグリコケノコール酸(GCDCA)、又は対応するそれらの二次胆汁酸である、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)及びヒオデオキシコール酸(HDCA)、並びにそれぞれ、対応するそれらの抱合形態である、グリチョデオキシコール酸(glychodeoxycholic acid:GDCA)、グリチョリトコール酸(glycholithocholic acid:GLCA)、グリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)及びグリコヒオデオキシコール酸(GHDCA)から選択される、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩を、約1×10-7~1×10-3Mの腸内濃度をもたらす量、
b)短鎖脂肪酸(SCFA、脂肪族末端に6個未満の炭素)、例えばブチレート、中鎖脂肪酸(MCFA、脂肪族末端に6~12個の炭素原子、直鎖又は分岐鎖)、例えば飽和のカプリル酸(8個の炭素原子)及びラウリン酸(12個の炭素)、長鎖脂肪酸(LCFA;13~21個の炭素)、例えば不飽和のパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、並びに飽和のパルミチン酸及びステアリン酸、若しくは極長鎖脂肪酸(VLCFA、21個を超える炭素原子)又はそれらの塩から選択される少なくとも1種の脂肪酸を、0.5g~約20gの量、
c)カルシウムを、100~2500mgの量、及び
d)ビタミンD3などのビタミンDを、800~2500mgの量
含む。
【0051】
この組成物は、1日1回の投与が意図されている。1日2回、3回などの投与で組成物を提供するように、適切な調整がなされてもよい。上記で定義された組成物は、医薬品として使用するためのものである。
【0052】
本発明の一態様において、組成物は、経口送達用に製剤化される。組成物は、経口送達用に製剤化されることに限定はされず、非経口送達用、静脈内注入用、又は注射用に製剤化されることも可能である。経口送達用に製剤化される場合、組成物は、食品の摂取前(食前)、及び/又は食品の摂取後(食後)に送達されてもよい。例えば、組成物は、食前、食事中及び/又は食後に送達することができる。
【0053】
本発明の一態様において、組成物は、液体形態又は固体形態である。組成物が固体形態として製剤化される場合、咀嚼錠、発泡錠、散剤、丸剤、液剤、ゲル剤、錠剤又はカプセル剤として製剤化されてもよい。前述の固体形態を製剤化するために、他のよく知られている担体が、そのような固体形態の中に組み入れられてもよい。そのような担体は当業者に周知であり、例えば、生理学的に適合性の、溶媒、分散媒、コーティング剤、香味剤、抗菌剤及び抗真菌剤、並びに等張剤などが挙げられる。そのような担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組合せのうち1つ又は複数が挙げられる。等張剤、例えば糖類、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトールなど、又は塩化ナトリウムを使用するのが好ましいことが多い。
【0054】
本発明の別の態様において、哺乳動物、例えばヒト個体において、カルシウム欠乏に起因する骨粗鬆症、カルシウム欠乏に起因する吸収不良状態、若しくはカルシウム欠乏に起因する骨の病的状態、若しくはカルシウム欠乏に起因する骨ミネラル密度の損失を予防及び/又は治療する方法、或いはルーワイ胃バイパス術(RYGB)の個体又はスリーブ状胃切除術(SG)の個体において、骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防することにより、骨粗鬆症を治療する方法が提供され、それらの方法は、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、及び少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を含む組成物を、それを必要とする個体に投与することによって行われる。上記の組成物を投与することにより、ビタミンD-受容体活性化補助因子であるHsp90βの発現が誘導され、ビタミンDの誘導によるカルシウム取り込みが増加する。
【0055】
別の態様において、本発明は、胆汁酸又はその塩、及び脂肪酸又はその塩、並びに任意選択によりカルシウム及びビタミンDを含む組成物を含む健康補助食品又は栄養補助食品に関する。健康補助食品用又は栄養補助食品用の他の従来の成分もまた、当然ながら、そのような補助食品に添加してもよい。
【0056】
本発明の一態様において、健康補助食品は、他の微量栄養素、例えば、鉄、マグネシウム、亜鉛、銅及びビタミン類(例えば、ビタミンA、ビタミンD又はビタミンE)、並びに他の従来の成分を含む。そのような従来の成分は、当技術分野の当業者に公知であり、その例は、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、緩衝剤、賦形剤、補助剤、抗酸化剤、保存剤である。
【0057】
本発明の一態様において、組成物は、
a)少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、
b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、
c)カルシウム、
d)ビタミンD、及び任意選択により、
e)微量栄養素の群から選択されるさらに1種の成分、例えば、鉄、マグネシウム、ジンク(zink)、銅、及びビタミン類(例えばビタミンA、ビタミンD又はビタミンE)からなる群から選択される成分、及び任意選択により、
f)充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、緩衝剤、賦形剤、補助剤、抗酸化剤、保存剤から選択される1種又は複数種の成分
を含む。
【0058】
本発明の一実施形態では、組成物は、
a)グリココール酸(GCA)を、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩として、
b)オレイン酸又は酪酸を、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩として、
c)カルシウム、
d)ビタミンD、及び任意選択により、
e)微量栄養素の群から選択されるさらに1種の成分、例えば、鉄、マグネシウム、ジンク(zink)、銅、及びビタミン類(例えばビタミンA、ビタミンD又はビタミンE)からなる群から選択される成分、及び任意選択により、
f)充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、緩衝剤、賦形剤、補助剤、抗酸化剤、保存剤から選択される1種又は複数種の成分
を含む。
【0059】
特に、少なくとも1種の胆汁酸(a)はグリココール酸(GCA)であり、少なくとも1種の脂肪酸(b)は酪酸であり、成分c)からf)までを一緒に伴う。
【0060】
特に、少なくとも1種の胆汁酸(a)はグリココール酸(GCA)であり、少なくとも1種の脂肪酸(b)はオレイン酸であり、成分c)からf)までを一緒に伴う。
【0061】
組成物は、健康補助食品としての使用が意図されてもよい。健康補助食品又は栄養補助食品は、上記の組成物に加えて、ヒトの健康に有益な効果のある他のビタミン類及び微量栄養素を含有してもよい。
【0062】
本発明の組成物に関する上記の各態様は、特許請求の範囲にも開示されており、健康補助食品及び栄養補助食品の態様にも適用可能である。
【0063】
上記の実施形態に基づいて、当業者は本発明のさらなる特徴及び利点を理解することになる。したがって、本発明は、実施例又は図面に具体的に示され、記載されていることに限定されるものではない。
【0064】
本発明の別の態様によれば、カルシウム欠乏に起因する骨粗鬆症、カルシウム欠乏を引き起こす炎症状態及び吸収不良状態、カルシウム欠乏に起因する骨障害、若しくはカルシウム欠乏に起因する骨ミネラル密度(BMD)の損失を治療及び/又は予防するための医薬品、或いはルーワイ胃バイパス術(RYGB)の個体若しくはスリーブ状胃切除術(SG)の個体、又は他の類似の外科的手法により治療された個体において、骨ミネラル密度(BMD)の損失を予防することにより、骨粗鬆症を治療するための医薬品の製造における、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、1種又は複数種のビタミンD、及びカルシウム又はその塩の使用が提供される。本発明のこの態様の効果及び特徴は、上記の各態様の効果及び特徴と類似している。本明細書に記載される組成物は、上に開示されている疾患及び障害の治療における医薬品としての使用が意図される。
【0065】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1種の胆汁酸又はその塩、及び少なくとも1種の脂肪酸又は塩を含む組成物が提供され、前記少なくとも1種の胆汁酸は、上記の胆汁酸のうちの1種であり、前記少なくとも1種の脂肪酸は、上記の脂肪酸のうちの1種である。
【実施例
【0066】
実験
実験の目的は、例えばRYGB又はSGの手術を受けた患者において、近位小腸内でのビタミンDの誘導によるカルシウム取り込みを改善する方法を調査することである。前記事項は、特定の胆汁酸(又はヒト胆汁)及び脂肪酸を添加して、ビタミンD-受容体活性化補助因子であるHsp90βの発現を誘導することによって試験される。Hsp90βを誘導することにより、ビタミンDの誘導によるカルシウム輸送の発現を実質的に増加させることができる。即ちカルシウム取り込みの増加を必要とするいかなる患者においても、例えばRYGBの患者、及びおそらくSGの患者においても、それを正常化させることができる。
【0067】
Caco-2細胞株
Caco-2細胞株は、Sloan-Kettering institute for Cancer Researchが開発した非均質なヒト上皮大腸腺癌細胞の連続株である。この細胞は癌腫をもつ結腸又は大腸に由来するが、この細胞が特定の条件下で培養されると、分化し、極性化してその表現型を作り、小腸を覆う腸管上皮細胞に形態的及び機能的に類似する。
【0068】
通常そのような腸管上皮細胞の特性である、タイトジャンクション、微絨毛、並びに複数の酵素及び輸送体、即ち、ペプチダーゼ、エステラーゼ、P-糖タンパク質、アミノ酸、胆汁酸、カルボン酸の取り込み輸送体などを、Caco-2細胞が発現することが分かっている。顕微鏡的にはCaco-2細胞培養物は非均質であり、この見解は、世界中の様々な研究からの様々な有意性結果を示す細胞の特性によって裏付けられる。Caco-2細胞は、一般に、個別の細胞としてではなく、細胞培養液インサートフィルター上のコンフルエントな単層として使用される。この培養形態により、細胞は分化して極性化上皮細胞の単層を形成し、イオン及び低分子の通路に対する物理的及び生化学的なバリアとなる。Caco-2単層培養は、経口投与された薬物の吸収を調査するために、ヒト小腸粘膜のインビトロモデルで広く使用される。
【0069】
Caco-2細胞培養
継代数1又は約45(分離した回数)のCaco-2細胞(Sigma-Aldrich、Stockholm、スウェーデン)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Life Technologies)、1%非必須アミノ酸(NEAA)(Life Technologies)、100IU/mLペニシリンストレプトマイシン(Pen-Strep)(Life Technologies)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(Life Technologies Invitrogen AB、Lidingo、スウェーデン)中で培養した。細胞を37℃、5%COでインキュベートし、細胞培養フラスコ(BD Falcon(登録商標)、VWR Internationals、Stockholm、スウェーデン)の中で培養し、培地を毎週月曜、水曜、金曜に交換した。
【0070】
細胞を、およそ1週間培養した後に剥離し(0.25%トリプシン-EDTA、Life Technologies)半透性フィルターインサート(孔径3μm、BD Biosciences、Le Pont de Claix、仏国)を伴う6ウェルプレートに、200,000細胞/ウェルで播種した。コンフルエントになると、上部ウェルコンパートメント及び下部ウェルコンパートメントの両方において、培養液を、FBSを含まないものに交換し、下部コンパートメントにはまた、10μL/mLインスリン、0.55μg/mLトランスフェリン及び6.7ng/mLセレンの混合物(ITS、Life Technologies)も添加して、細胞極性及び構造的分化を樹立した(6~7)。細胞単層は、実験まで14日間培養した。
【0071】
次いで、細胞を、上部の「管腔の」コンパートメントの中で、脂肪酸、及びヒト胆汁酸若しくは胆汁の酸、又は両方の組合せを伴う10mMで、24時間又は48時間刺激し(処置細胞)、他は対照として残した(無処置細胞)。胆汁酸は胆汁の成分として存在する。
【0072】
ウエスタンブロット解析
タンパク質を回収するために、細胞を掻き取り、プロテインキナーゼ阻害剤緩衝液(10mMのリン酸カリウム緩衝液pH6.8、10mMの3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS:Boehringer Mannheim、Mannheim、独国)及びプロテアーゼ阻害剤カクテル錠Complete(Roche Diagnostics AB、Stockholm、スウェーデン)を含有するプロテインキナーゼ阻害溶液(1%Triton x-100、EDTA;エチレンジアミン四酢酸)に入れて溶解緩衝液にした。氷上で数回振盪させた後に、細胞片を遠心分離(10000×g、4℃で10分間)によって除去し、上清のタンパク質含量を、ブラッドフォード法を使用して分析した。
【0073】
試料をSDS緩衝液中に希釈し、70℃で10分間加熱してから、NuPage10%Bis-Trisゲルに載せ、MOPS緩衝液(Invitrogen AB、Lidingo、スウェーデン)を使用して電気泳動を行った。各ゲルの1レーンに染色済み分子量スタンダード(SeeBlue、NOVEX、San Diego、CA、米国)を装填した。電気泳動後、タンパク質をポリビニルジフルオリド膜(Amersham、Buckinghamshire、英国)に移し、これをHsp90β抗体(abcam;ab80159、Cambridge、英国)とともにインキュベートし、アルカリホスファターゼをコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Santa Cruz)及びCDP-Star(Tropix、Bedford、MA、米国)を基質として使用し、化学発光を用いて免疫反応性タンパク質を同定した。画像をChemidox XRS冷却CCDカメラでキャプチャーし、Quantity Oneソフトウェア(BioRad laboratories、Hercules、CA、米国)で分析した。
【0074】
Ca2+の取り込み及び輸送
Caco-2細胞を、透過性支持体上で、Giuliano A. R., & Wood R.Jに従い多少の変更を加えて、11~14日間培養した。実験日に経上皮電気抵抗を測定し、400~900オーム×cmの値の標本のみをカウントした。試験物質は上部のコンパートメントに入っており、24~48時間後に結果を読み取った。液体シンチレーションを使用してCa2+流束を測定し、下部コンパートメントと上部コンパートメントとを比較した。
【0075】
実験1
この実験では、Caco-2細胞に、脂肪酸である酪酸(又はブチレートと呼ばれる)、胆汁酸であるグリココール酸(GCA)、又は酪酸とGCAとの組合せを加えて試験した。
【0076】
細胞をコンフルエントになるまで増殖させ、次いで、ビヒクル、酪酸、胆汁酸、又は胆汁酸と酪酸との組合せを加えて48時間インキュベートした。次いで細胞を回収し、細胞内の全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロットを使用して分析した。Hsp90βの発現は、制御されていない対照タンパク質GAPDHの発現を基準に正規化して示されている。抱合胆汁酸GCAに、脂肪酸である酪酸を添加して、及び添加せずに培養したCaco-2細胞中でのHsp90βの発現に対する効果が、図1に示されている。
【0077】
その結果により、GCAは、単独ではHsp90βに対して効果がなかったが、酪酸と併用した場合にのみ、ビヒクル処置した対照細胞と比較して、Hsp90βタンパク質の発現を顕著に極めて有意に増加させたことが示されている。
【0078】
実験2
クローディン-2は、遠位小腸におけるカルシウム吸収を、傍細胞経路によって増加させる(通常、「受動」カルシウム吸収と呼ばれる)、許容性のタイトジャンクション構成タンパク質である。図2は、ビタミン-Dには、Caco-2細胞においてクローディン-2タンパク質の発現を用量依存的に増加させ、それにより、「受動」カルシウム吸収を促進する効果があることを示す。ビタミン-D活性化補助因子であるHsp90βを特異的阻害剤ゲルダナマイシンで抑制すると、明らかにビタミン-D活性の阻害によってクローディン-2の発現も抑制され、これは、Hsp90βが「受動」カルシウム吸収についても重要であることを立証している。したがって、小腸内でのHsp90βの発現を促進すると、ヒト小腸における受動カルシウム吸収にも有益な効果があるはずである。Caco-2細胞を、実験1と同じ実験条件で培養した。ビタミンDを10μM(低用量)又は100μM(高用量)の濃度で添加した。ゲルダナマイシンを0.5μMの濃度で添加した。
【0079】
実験3
本実験では、Caco-2細胞を、上皮状のコンフルエントになるまで14日かけて培養し、増殖させた。その後の各実験は、Giuliano A. R.、& Wood R.Jに従って実施した。カルシウム輸送に対する10nMの1.25(OH)-ビタミンD3の効果を、最後の48時間で試験した。カルシウム(Ca2+)勾配をつけずに流束を試験し、カルシウムの濃度は細胞の層の各側で1.8mMとした。このようにして、ビタミンDの能動輸送を確認した。結果は図3に示されている。
【0080】
実験4
本実験では、Caco-2細胞を、上皮状のコンフルエントになるまで12日かけて培養し、増殖させた。次いで、0.1mMのGCAの存在下で、若しくは0.5mMのブチレートの存在下で、又はGCAとブチレートとを組み合わせて存在させて、細胞をさらに4日増殖させた。
【0081】
カルシウム輸送に対する10nMの1.25(OH)-ビタミンD3の効果を、最後の48時間で試験した。カルシウム(Ca2+)勾配をつけずに流束を試験し、カルシウムの濃度は細胞の層の各側で1.8mMとした。
【0082】
結果は図4に示されている(平均±SEMが示されている)。
【0083】
この実験は、Caco-2上皮層を通過する能動輸送を示す。輸送速度は1.25(OH)-ビタミンD3単独の場合と同じオーダーであり、カルシウム勾配がない場合には、胆汁酸を脂肪酸と組み合わせてもさらなる効果はないと結論づけることができる。
【0084】
実験5
本実験では、Caco-2細胞を、上皮状のコンフルエントになるまで12日かけて培養し、増殖させた。次いで、ビタミンD3を単独で、又は0.5mMのブチレートと組み合わせて、若しくは0.1mMのGCAと組み合わせて、若しくはGCA及びブチレートの両方と組み合わせて、若しくは0.1mMのTCA、若しくはTCA及びブチレートの両方と組み合わせて存在させて、細胞をさらに4日増殖させた。
【0085】
カルシウム輸送に対する10nMの1.25(OH)-ビタミンD3の効果を、最後の48時間で試験した。頂端側で40mM、及び基底外側で1.8mMのカルシウム(Ca2+)勾配をつけて流束を試験した。
【0086】
クラスカル・ウォリス検定により、ダンの多重比較検定と対照させて、効果を測定した。結果は図5に示されている(平均±95%-コンフィセンス(conficence)区間が示されている)。ここで、カルシウムの取り込みの増加はビタミンDとGCAとブチレートとの組合せで達成されると結論づけることができる。しかしながら、ビタミンD、TCA及びブチレートでは取り込みが実現できなかったと結論づけることもできる。
【0087】
実験6
本実験では、Caco-2細胞を、上皮状のコンフルエントになるまで12日かけて培養し、増殖させた。次いで、ビタミンD3を単独で、又は0.5mMのブチレートと組み合わせて、若しくは0.1mMのGCAと組み合わせて、若しくはGCA及びブチレートの両方と組み合わせて、若しくはGCA及びオレイン酸と組み合わせて存在させて、細胞をさらに4日増殖させた。
【0088】
カルシウム輸送に対する10nMの1.25(OH)-ビタミンD3の効果を、最後の48時間で試験した。頂端側で40mM、及び基底外側で1.8mMのカルシウム(Ca2+)勾配をつけて流束を試験した。
【0089】
クラスカル・ウォリス検定により、ダンの多重比較検定と対照させて、効果を測定した。結果は図6に示されている(平均±95%-コンフィセンス(conficence)区間)。ここで、カルシウムの取り込みの増加はビタミンDとGCAとブチレートとの組合せで達成され、取り込みの増加はビタミンD、GCA及びオレイン酸でも達成されたと結論づけることができる。
【0090】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6